２００５年１０月１１日、ヤクルトスワローズの青木宣親選手が、神宮球場での横浜ベイスターズ戦で、イチロー選手（現シアトル・マリナーズ）に次ぐ日本プロ野球史上２人目のシーズン２００安打を達成した。青木選手の地元、宮崎県日向市はこの偉業達成に沸いた。

　その宮崎県が、今度は、北海道日本ハムファイターズ・田中幸雄選手の２０００本安打達成の瞬間を待っている。２０００本安打達成はこれまで、３４人しかいない。

　田中幸雄選手は、都城高等学校出身。

　２年生の春夏に連続して甲子園に出場。１９８５年のドラフト３位で日本ハムに入団した。同期には、ＰＬ学園の清原和博（現オリックス・バファローズ）、桑田真澄（現ピッツバーグ・パイレーツ）らがいる。

　１年目から１軍で活躍し、プロ入り２打席目で本塁打を放った。１９８８年、ベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得。９５年には、日本球界歴代遊撃手で初めての個人タイトル・打点王を獲得した。９９年は両リーグワーストの１３２三振を喫したが、同年７月８日にパリーグ記念の通算３５０００号を放った。

　２０００年にはシドニーオリンピック野球日本代表に選出され、チーム最年長選手として存在感を見せたが、０３年から加齢と打撃不振により、遊撃のレギュラーを奪われた。０５年は８月２７日の福岡ソフトバンクホークス戦で通算１０００打点となるサヨナラ安打を記録。

　２００６年は５８試合出場で、８６打数１５安打、打率.１７４に終わるなどルーキー以来最低の成績に終わり、２０００本安打達成も遠ざかってしまった。しかし、日本シリーズ第５戦に１−４で中日に勝利し、プロ生活２１年目にして初めてリーグ優勝と日本一を味わった。次は、自己の２０００本安打の達成である。

　そして、５月１５日、東北楽天ゴールデンイーグルス戦。ルーキーの田中将大投手からホームランを放ち、２０００本安打達成まで、あと２本となった。

　地元メディアは記者を派遣したり、毎日のスポーツニュースの中で田中幸雄選手の動向を流したりして、２０００本安打達成の瞬間を待っている。

　宮崎は、その温暖な気候を利用し、「スポーツランドみやざき」事業を展開している。当初は、読売巨人軍を中心とする日本球界のキャンプ地であったが、現在は、Ｊリーグをはじめ、Ｋリーグ（韓国サッカー）のチームも宮崎でキャンプを行っている。

　さらに、東国原英夫・宮崎県知事のトップセールスにより、北京オリンピックを目指す野球日本代表チーム「星野ジャパン」が１１月１２日～１９日、宮崎市サンマリンスタジアムでキャンプをすることが決まっている。

　スポーツキャンプ期間を「キャンプマンス」、その後に開催されるゴルフトーナメント期間を「ゴルフマンス」と名づけて、大会会場だけではなく、中心市街地においてもイベントを開催し、広く県民がスポーツに接する良い機会となっている。

　このようにプロ・アマチュアの選手を受け入れるキャンプ体制はしっかりしているのだが、地元の有望選手を育てる体制はまだまだである。中学・高校のスポーツ選手が、プロの一流選手の活躍を目にする機会も限られており、県外から有名なスポーツ団体を招いての競技力向上のための研修会が開催されている。

　野球に限って言えば、「茨城ゴールデンゴールズ」の日向キャンプをきっかけに、「宮崎ゴールデンゴールズ」や「梅田学園ベースボールクラブ」の誕生により、社会人野球がようやく間近で行われるようになってきた。

　宮崎県は、読売巨人軍のキャンプ地ではあるが、昔に比べると県民あげての巨人軍の応援の機運は少なくなってきた。数年前にやっとプロ野球の公式戦が開催されたぐらいで、シーズン中のキャンプ地・宮崎はさびしい限りである。

　その静寂を打ち破る、目前になってきた「ミスター・ファイターズ」田中幸雄選手の偉業達成。東国原知事は、田中幸雄選手に「県民栄誉賞」の授与を検討している。

　野球はチームで行うスポーツ。昔はチームそのものを応援していた。が、いつのころかチームではなく、チームの一員として自分ができる精一杯のプレーをしている選手を応援する人たちが増えてきた。

　現役時代の王・長嶋がそうであった。鉄人・衣笠もそうであった。彼らはプロと言うよりも職人と呼ぶにふさわしかった。最近では、中日ドラゴンズ、背番号３０の「サイレントＫ」こと石井裕也投手に感動した。

　左耳は全くきこえず、右耳も先天性感音性難聴のハンディを持っている。いつもは補聴器をつけているが、マウンドに上がると補聴器のスイッチを切る。静寂のマウンドで１人、投げる。その姿が見たいのだが、石井投手が出る試合はなかなか放映されないのが悲しい。

　自分の障害を乗り越えて夢をつかんだ石井裕也投手。２２年も日本ハムファイターズ一筋、途中で故障しても、レギュラーの座を奪われても自己の努力で復活し、夢の達成まであとわずかとなった田中幸雄選手。

　とかく有名選手やメジャーリーグなどが大きく報道される中にあって、自分の夢を達成するためにたゆまない努力を続ける彼らは、私たち野球ファンではなく、広く国民に勇気と希望を与える存在である。

　さて、その偉業達成はいつなのか、目が離せない。