サイバー犯罪研究所ファイル4 「今、上野からです。盗聴されているようで」
誰かが誰かを見つめてる~監視社会のトータル・フィアー~
監視社会はその昔、映画のなかだけのものであった。しかし、イギリスやアメリカでは、街角のいたるところに監視カメラがつけられている。いずれは日本も同じようなことになるのではと思っていたが、果たしてその通りとなってしまった。
今回はそのような現代の監視社会で起きたトラブルに関する相談事例を紹介する。
今年の2月のことであった。珍しく昼間に電話がなった。相談者は女性、A子さん。声からして何か大きな問題を抱えているような感じであった。
「今、上野からなのですが、どうやら携帯電話の通話を盗聴されているらしいのです。上野で電話をかけると、いつも雑音が入ったり声が聞き取れなくなったりするのです」
話は続く。
「実は、家の固定電話も盗聴されているようで、以前、電話会社の人に見てもらったのですが、どこも問題ないと言われました」
ここまでの話であれば、アドバイスは簡単である。
現在、日本で使用されているケータイはデジタル周波数を使用しており、ケータイの電波そのものを傍受しての盗聴はできない。ただ、ケータイの中に発信型盗聴機を仕組むことができれば盗聴できないこともない。
発信型盗聴機とは、テレビ番組の「盗聴機を発見する特集」などでご存じのように、電気のコンセントや延長コード、目覚まし時計などのなかに仕組まれているものである。
しかし、ケータイ内部に、この発信型盗聴機を仕組むのは不可能である。スペースがないし、もし仕組んだとしてもケータイの電波が強いため、盗聴機の電波はそう遠くまでは飛ばない。ケータイに雑音が入る可能性は、ビルとビルの谷間などの電波が弱い場所での通話が考えられる。
家の固定電話に関しては、盗聴されるおそれはある。彼女の話では、これまで付き合ってきた男性からストーカー行為を受けたことはないし、家族の中に盗聴されるほど重大な情報を抱えている者もいないとのこと。固定電話でも雑音は入ることがある。大雨や台風等で電話線や保安器に問題が出た場合である。台風銀座の宮崎に住んでいる私の自宅でも、たまにこのようなことは起きる。
A子さんは東京の上野から電話をかけているが、その電話を受けている私は遠い宮崎市に住んでいる。東京、上野のケータイ電波の状況は調べようがない。
相談者に技術的なことを話しても何の解決にもならない。相談屋の仕事は、相談者の悩みや不安を少しでも和らげ、トラブルを解決できる道筋を示すことである。何よりも相手の話を十分に聞くことが大切である。
さらに、A子さんの話を聞いた。
「私、大手企業の組合関係の仕事をしています。以前、組合が使っている会議室のテーブルの下に盗聴機が仕掛けられていたことがありました。随分前のことになりますが……」
過去にあったことが、現在の自分の状況にリンクし,同時期に行われていたような錯覚に陥ることがある。A子さんは組合の重要な情報を握っているような部署ではなく、一般事務の仕事をしているとのこと。
組合で起きた盗聴問題と、A子さんの固定電話やケータイの電波障害が重なったことで、「自分の身に何かが起こっているのではないか」という漠然とした不安を感じたのだろう。そこで、次のようなアドバイスをした。
1:固定電話の配線、および通話状況等を電話会社に調べてもらい、その結果をA子さんに報告してもらうようにすること。
2:利用しているケータイの会社に、上野近辺での電波の状況を調べてもらうとともに、A子さんのケータイに雑音が入る等の不具合がないかを調べてもらうこと。
3:A子さんは組合の重要な情報を握っている部署にいるわけではないので、組合でA子さんが心配に思うことがあれば、すぐに同僚や上司に話をすること。
4:それでも何も解決しない場合は、再度、私のところへ電話をかけること。
あれから3カ月たった。A子さんからはその後、相談の電話はかかってきていない。
人間関係が希薄な現代社会。
インターネットで多くの人とつながっているように思えても、しょせん、パソコンの前では1人である。会社の中でも同じだ。
「多くの同僚と顔を突き合わせて仕事をしているが、漠然とした不安感が襲ってくることがある」とA子さんは話していた。
誰かがどこかで私を見つめている……。
その存在がストーカーではないにしても、監視されているという漠然とした不安感は、1度消え去っても、またどこかで繰り返さし出てくるかもしれない。
あなたにはこのような経験はないだろうか。