「大谷、お前捕まったん?」

それから私は実名を使うようになった

大谷 憲史(2007-05-10 05:35)
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 少し前の話になるが、2003年1月下旬、あるニュースが流れた。

 「政府の道路関係4公団民営化推進委員会の委員を務め、2002年12月に最終報告案をまとめた作家の猪瀬直樹さんに脅迫メールを送りつけたとして、警視庁麻布署は1月31日までに茨城県取手市、アルバイト大谷憲史容疑者(50)を脅迫の疑いで逮捕した。(以下略)」

 すぐにメルトモや友人から連絡が入った。

 「え? おれ、何で捕まったの? 家にいるよ」

 すぐさまネットでニュースを確認したところ、まったくの同姓同名の犯行である。住まいや年齢が違っていたのが唯一の救いであった。当時、2ちゃんねるでも結構盛り上がっていたが、私はちょっと複雑な気持ちだった。

 そのころ、地元の公民館でパソコン講座を始めるようになり、地元新聞のネット版においても実名で紹介されるようになってきた。活動柄、ホームページで本名を名乗ることも多かった。

 それまではほとんど匿名だった。自分の気に入ったハンドル名でネットを利用していたが、同姓同名が起こした事件をきっかけに、実名でものを言うように心がけてきた。

 おかげでいろいろと批判を受けることもあるが、自分の発言に自信を持つと同時に責任も持つことを徹底してきた。

 インターネット上のトラブルに対する無料相談センター「サイバー犯罪研究所」を主宰している関係で、情報収集や情報誘導等をすることがある。そのときは匿名で複数のハンドルネームを使ってインターネットに潜る。「ダブルスタンダードだ!」という批判を受けることもあるが、活動柄、仕方がないことである。

 しかし、たまに「お前のハンドルネーム、分かっているよ」というメールが……。あっちこっちの電子掲示板を見て歩いていると、書いている文体で分かってしまうとのこと。

 なるほど。

 普段はおとなしいが、車のハンドルを握ったら人が変わったようになる人がいる。同じように、インターネットでは別人格になって過激に発言する人もいる。私は別人格の人間にはなれないということか。

 実名でものを言うようになってから、ものすごく人生が変わったと言うことはないが、逆に、自分の名前が気になりだした。

 日本にいる私と同じ「大谷憲史」は、今ごろ、どこで何をやっているのだろう……。

 週に1回程度、検索エンジンで自分の名前を入力し、ヒットするサイトの数が増えているか減っているかを確認することが日課となっている。なんかトホホな日課ではある。たまには、昔の恋人や別れた妻の名前も調べてみる。あ、もっとトホホだ。

 インターネットにおける実名主義には賛否両論分かれるところだが、日本人の習性として影でこそこそと発言するスタイルが、ネット上における匿名による発言と重なってしまう。日本人は昔に比べると自己主張ができるようになってきたと言われるが、果たしてそうだろうか。

 私は仕事で3年間、上海市で生活した。

 職場は日本人がほとんどだったので言葉に困ることはなかったが、日常生活ではそうはいかない。自分が何をしたいのか、何が欲しいのかをきちんとアピールしなければ相手には伝わらない。しかも、相手は中国人だ。

 買い物で現地の人と同じものを買ったのに、日本人だからということで高く買わされた。くやしかった。そこで、中国語を猛勉強し、買い物では現地の人に負けないぐらいに値切ることができるようになった。

 長期の休みで中国国内旅行に出掛けても、相手が日本人と分かると金欲しさに言葉巧みに迫ってくる。そして、「待ってました!」とばかりに、猛勉強した中国語をいかして中国人と交渉。

 おかげでこの3年間で、自己主張できる日本人になって帰国した。

 学校の先生が「これからの国際化時代、君たちはもっと自己主張していかなければなりません」とか話すことがあるが、住み慣れた環境の中ではちょっとやそっとでは自己主張できる人間にはなれない。自分が置かれた環境次第である。

 この上海での3年間の生活が、今の自分のベースにあるのではないかと考える。だから「実名主義」を掲げているこのオーマイニュースにも、何の違和感もなくすんなりと参加することができた。

 「沈黙は金なり」という時代はとっくに終わった。

 私はこれからも実名で発言していく。



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