メーデーに思う~超高齢職場を去る私から

技術やノウハウを次世代へ引き継げる仕組みを

大谷 憲史(2007-05-01 18:46)
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 あと5日で解雇である。

 平均年齢が60歳を超える職場で、約3カ月間働いた。従業員13人の、持ち帰り弁当と仕出し関係の小さな会社である。

 お昼までに届ける弁当を作るため、出勤時間は早い。私は主に経理や弁当配達関係を担当しているが、弁当の個数が多い日は早朝から調理場に入る。

 社長も70歳が近い。社長のことは5年ほど前から知っていて、私の母が亡くなった今年の2月に入社した。これまでにもこの会社で手伝いをすることはあったが、実際に従業員として会社に入るといろいろなことが見えてきた。

 以下にいくつかの問題点を挙げる。

(1)従業員の高齢化

 この会社は12年ほど前に設立された。その間従業員の出入りはあったが、いわゆる3K職場であるため、若い従業員が定着することなく現在に至っている。従業員の高齢化である。

 地方都市であるため、高齢者が働ける場所は限られており、職場が従業員のコミュニティーにもなっている。和気あいあいとして良い雰囲気ではあるが、高齢化に伴う弊害も多い。

(2)交通事故

 弁当配達には運転がつきものである。調理場で弁当を作った従業員が、そのまま弁当配達まで行っている。調理場で疲れた体を癒やす間もない。過去に何度か事故を起こしてはいるが、大事に至るような事故でなかったのが幸いである。高齢化に伴い運動機能も低下していくため、きついところである。

(3)おつり

 加齢に従って退化するのは運動機能ばかりではない。計算能力や記憶能力も衰えていく。夜9時の閉店後、社長がその日の売り上げを計算するが、レジと金額が一致したことがほとんどない。レジの打ち間違えも多い。その都度修正である。

(4)社長の仕事

 年を取るのは従業員だけではない。社長も同じである。いくら規模の小さな会社とはいえ、社長の仕事は多い。頭の中はいつもいっぱいである。昨日のことを覚えていないこともしばしば。社長とはいえ、社長業だけではなく、弁当も作るし配達もする。昔堅気の社長ではあるが、寄る年波には勝てない。業務上のことで従業員との意思の疎通が図れないこともときどきある。

 まさに超高齢社会の10年後の職場にいるような感じである。弁当業界は必ずしも斜陽産業ではないが、社長や従業員が高齢化する中で、会社自体がたそがれているのである。

 そのような会社に活力を入れるために私が入社したわけだが、逆に中小企業特有の問題が露呈してしまったのである。

(5)コンプライアンス

 法治国家・日本にあって、コンプライアンス(法令遵守)は大企業だけが行えば良いというものではない。会社で働くためには、当然使用者と労働者の間で労働契約を取り交わす。あとで問題が発生しないように、書類をもって契約を交わすのだが、中小企業にあっては、口約束だけで終わってしまうことがほとんどである。

 今回の私の場合も、「労働条件通告書がない」「就業規則がない」ことが分かってしまった。

 まあ実際、コンプライアンスに従い、労働に関するすべての法律に従って事業を行っていては、経営が成り立たない中小企業がほとんどだろう。

 しかし、発覚した以上は何とか正常化してほしいと願ったのだが、逆に私が解雇されることで一件落着となりそうである。

 それはそれで良いのだが、今後、経営者の高齢化や従業員の高齢化に伴い、うちの会社のような状況に陥る中小企業は増えていくだろう。

 何かしら対策はないのだろうか? 

 1つの方法として、将来の後継者を心配している中小企業の経営者と、これから起業を考えている若者とをマッチングさせるのはどうだろうか。

 経営者のこれまでのノウハウを、老いが来る前に若い起業家に伝授しサポートしていくのだ。それによって、後継者問題もある程度は解決されるのではないかと思う。資金面、税金面などの課題もあるが、経済活動の継続性を考えれば、今後大いに検討して欲しい方策である。

 「会社を辞める」、あるいは「会社を潰す」という選択肢は、簡単である。

 しかし、培ってきた技術やノウハウを、次の世代に受け継いでいけるような制度ができれば、社長を目指す若者も増え、新たなる経済活動につながっていくのではないだろうか。

 今日はメーデー。

 働く意義について、あらためて考えてみたい。



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