きょうの社説 2009年4月20日

◎「ワスレナグサ」 郷土の持ち味選んでくれた
 日本とマレーシアの合作映画「ワスレナグサ」のロケ地に石川県を選んだヤスミン・ア ハマド監督が先ごろスタッフと一緒に撮影候補地を訪ね、「人と自然とが愛し合っていると感じた」との印象を語ったと本紙で報道された。

 郷土の優しさや豊かさを輝かせる、大変うれしい言葉だった。

 アハマド監督は東京国際映画祭アジア映画賞を受賞するなど、世界を舞台に活躍してい る。日本人の祖母を持ち、日本と関連する映画をつくりたいとの思いを強める中で、「能登の花ヨメ」製作に携わったスタッフを通して日本の原風景を残す石川の魅力を知ったという。

 今秋から撮影に入り、来夏には日本、マレーシアをはじめアジア各国での公開を目指し ている。日本人の祖母の生き別れた恋人を探すために来日したマレー系少女が、日本の青年と恋に落ち、生活習慣の違いに思い悩む…。といった味のあるストーリーだそうだ。映画化の企画はすでに2008年釜山国際映画祭で最優秀企画賞「プサンアワード」に選ばれている。物語を通して、郷土のが存分に描かれ、石川の存在が広く知られることを願う。

 折しも外国から人々を呼び込む国策に合わせて、県も二〇一四年の外国人宿泊客数を、 〇三年実績の十倍の年間五十万人にする構想を今年度から発足させているが、こうした映画のロケ地に選ばれたことは郷土が持つ優れた「ソフトパワー」として誘客の要にもしたい。

 緑の多い街やムラのたたずまいにとどまらず、祭りなどの伝統行事や、さらには伝統工 芸、美術、音楽、茶道、生け花等々の底を流れるのは大自然を敬い、それに抱かれるのを喜びとする心であろう。

 そうしたありようを、アハマド監督は「人と自然とが愛し合っている」と表現したのだ と理解したい。ソフトパワーなる言葉は、他国の人々や政府を、軍事力とは違う精神的な魅力で引き付けることを意味し、もともとは国際政治で使われ出したものだそうだが、文化や文明、学術研究、観光などの分野にもあてはまる。

◎過去最大の補正予算 点火した民の意欲生かせ
 政府が示した追加経済対策を受け、消費低迷に苦しむ業界で期待感が高まり、販促キャ ンペーンなどを展開する動きが広がってきたのは明るい兆しである。財政出動の規模は十五兆四千億円と過去最大となるが、それに見合う波及効果を引き出すには民間の奮起が欠かせない。産業界で点火した意欲を生かすためにも補正予算案は迅速に編成され、早期に成立することが望ましい。

 昨年度二次補正予算では、定額給付金の政策目的などが二転三転し、高速道路料金引き 下げでも一部でシステム改修が間に合わなかった。せっかくのアイデアも制度上に不備があったり、分かりにくければ十分に生かされなくなる。月内の補正予算案の国会提出へ向け、消費刺激策については使い勝手のよい仕組みが求められる。

 民主党は補正予算案に対する修正案提出を見送り、国会審議を通じて批判を強める構え だが、政府案には民主党の緊急経済対策との共通点も少なくない。いたずらに審議を引き延ばさず、歩み寄りの姿勢もみせてほしい。

 追加経済対策には、低燃費車や省エネ家電への買い替え補助、住宅購入時の贈与税減免 など幅広いメニューが盛り込まれた。産業界は一様に歓迎し、自動車業界では今月からの「エコカー減税」との相乗効果を狙い、一斉にキャンペーンを始めた。家電業界も独自のポイント還元制度を先行させるなどサービスでしのぎを削る。

 新車購入補助は四月十日にさかのぼって適用されるが、省エネ家電などは補正予算成立 後となる。買い控えを極力生じさせないためにも予算を早く成立させたい。

 このところ株価が持ち直し、生産の下げ止まりや消費者心理指標などにも回復の兆しが みられる一方で、日銀は景気判断を下方修正し、雇用不安も今後本格化する恐れがある。景気は依然、先行きが見通せない状況である。

 政府が追加経済対策で景気浮揚への強い姿勢を示したことで市場に漂う過度の悲観論を 和らげる効果はあった。これから問われるのは経済波及効果も過去最大規模にする制度設計の工夫である。