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困った会社見本市

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種もまかずにV字回復もないだろうと思う件について

2009 / 4 / 20

 投資に携わる者として、仕事柄、事業計画書を頻繁に読む。銀行から回ってきたり、他の投資会社から相談されたり、いろんなお話が持ち込まれるのだが、最近は「普通に事業を進めてきましたが、不況の折、売り上げが伸びず利益が出なくなりました。つきましては、特に画期的な事業プランがあるわけではありませんが、とりあえず資金を調達したいです」という覇気のない計画書ばかり目にする。まあ、しょうがないんですけど。

 ビジネスをやっていれば良いときも悪いときもあり、業種によって違えど、いまは不況に突入しているわけだから、いま現在、事業が好調だという会社なんてそうそうお目にかかれない。天下のトヨタだって大幅減益、パナソニックも下方修正という日本の経済状況で、「いや、ウチはめちゃ儲かってます」などというところは、粉飾してるかヤバい商売をやってるに違いない、多分。

 現実に、私が得意としているIT方面の技術系、サービス系の業界は、いま猛烈な勢いで企業が倒産している。景気が良いときはイケイケだったベンチャーキャピタル(VC)も、いったん投資マネーの蛇口が閉まると銀行よりたちの悪い資金回収を強行しようとしたり、肝心の親会社である大手証券会社や銀行が経営的にヤバいっていうんで当のVCごとグループ企業からリストラされかねない状況になったりしている。

 そういう大手金融系のVCと相乗りして投資したベンチャー企業がたくさんあるのだが、投資した時点での担当社員がどこかに飛ばされてしまい、ろくに引き継ぎを受けてない新担当がやってきて、経営状態や決算内容を見るなり青ざめて出資金を引き上げにかかり、株式の買い取り請求を突然出してくる、なんて類例は事欠かなくなってる。

 お前ら、「ベンチャー投資は我慢の連続。創業3年は赤字でも甘受するもの」とか言ってなかったか。だからこそ、自分のことを自分でエンジェルって自称してたはずだろ。何でエンジェルが誰よりも早く投資先を見限って目を血走らせて資金回収に走るのよ。おかしいだろ。そう思うわけです。

 ベンチャーの場合、そんな状況だけに、事業計画の中味が自ずと暗くなるのはよく分かる。しかし、実際には不況を経験した企業が大きく伸びるケースが結構あるのだ。実際、IT関連では2000年あたりのネットバブル前に一度不況を経験したベンチャーが上場して、いまなお業界の一角で頑張っているケースは非常に多い。

 そういうところは、不況に際して不採算事業の切り捨てだけじゃなく、次の技術や市場のトレンドを予想して、なけなしの資金を投じて歯を食いしばって「攻める部分」を磨いていたからこそ、不況を乗り切っていざ好況になったとき素晴らしい新興企業に成長しているわけだ。それこそ、トヨタだってパナソニックだって、一時はつぶれそうな危機を経験して、いま日本を代表する会社へと成長していった。

 種もまかずにV字回復もへったくれもない。成長したいんだか、どうしたいんだか分からない事業計画書を作っている経営者は、そのことをもう一度思い返してほしいと思うのだ。

(注:本コラムは日経ベンチャー2009年1月号からの転載です)

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プロフィール

山本 一郎 やまもと いちろう

イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。父親が抱えた負債を返済するため学生時代から株の個人投資を始め、ゲーム制作や投資事業などを手掛ける会社を起業。ブログなどで経済・時事問題に関する批評を展開し、インターネットでは「切込隊長」と呼ばれるカリスマ的存在。著書に『ニッポン経営者列伝 嗚呼、香ばしき人々』(扶桑社)、『けなす技術』(ソフトバンククリエイティブ)など。


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