特派員・記者からの多事争論

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[7] ~誰も知らない被災地~

投稿者
JNNバンコク支局 能島一人
投稿日
2009/2/20 10:35

「サイクロンが来て、以前より良くなった」。

去年5月に襲った巨大サイクロンによって、死者・行方不明者14万人という未曾有の被害を出したミャンマー。軍事政権によってメディアの入国が厳しく制限されている同国に2月、ようやく入国が認められ、被災地を訪れることができた。

冒頭の発言は、その被災地である小学校の教師が発した言葉だ。少数民族シャン族の村にあるその小さな学校は、サイクロンによって校舎が吹き飛んだ。強風とともに消えた校舎はヤシの葉と竹を編んだだけの粗末なものだったが、被災後、ヨーロッパのNGOが来て同じ場所にコンクリート製の頑丈な校舎を建てた。その地域では住民は被災前から雨水や池の水を飲んで暮らしていたが、NGOは校庭の一角に井戸まで掘って帰って行った。

 サイクロン、地震、津波、洪水などアジアでは自然災害の取材が多い。被災地の惨状はどれも目を覆うばかりだが、取材するうちにそのどこからが被災後に始まったもので、どこまでが被災前からあったものなのかわからなくなることがある。
 ニュースは「NEWS」であって「NEW」でないことはニュースになりにくい。我々メディアは天災が起きてはじめてその地域に目を向けるが、その窮状は本当に天災によって始まったものなのか。
 
世界には誰も目を向けない「被災地」が無数に存在するはずで、そのことを我々は常に
心に留めておく必要がある。

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