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【軍曹が】携帯電話開発の現状【語る】@プログラマ板 後編

【軍曹が】携帯電話開発の現状【語る】@プログラマ板 後編

前編を読む

350 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 00:07

事態を打開する為に、緊急会議が開かれた。
テスト要員を一気に5倍に増やして、人海戦術によるデバッグが賢明だと
トップが判断した。トップって社長ではないのだが、俺の会社の上位の上位の・・・
に位置する本部長なので、とっても偉い。俺たちの身分から見たら、与党の政治家
並かもしれない。しかし俺たち兵士には選挙権すらないのだ。なぜなら、選挙の日は
必ずデスマ生活を送っているからだ。
そんな衆議院議員並みの政治力を持った本部長(以下、少将と呼ぶ)が決めた方針なので
誰も逆らえなかった。

すぐにも近隣の都市から派遣社員の吸い上げに入った。派遣会社も今までに無い大盛況
なので、経験の有無を問わずにフリーターまで含めて確保に走った。すぐにも現場は
雑兵で溢れ返った。開発現場では猫の手も借りたい状況なので、面接中もヘッドフォン
ステレオとサングラスを外さないスキンヘッド野郎ですら雇われた。



351 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 00:16

その人数に対してテスト仕様書を配布して理解してもらうのは、非常に労力を
要した。配布して説明しているそばから改版が行われるので、1日に何回も
長蛇の列になった。中には、並ぶのが面倒くさくて、ゴミ箱から「お下がり」を
拾ってきて、版数だけ上手に書き直して使っている者も少なくなかった。

俺たちでさえ最新の仕様書にあり付くのは難しく、常にメジャーで1つ以上古い
版数だった。前に他のチームの仕様書を盗難した前科があったので、その辺を
物色しているだけで嫌な目で見られるようになっていた。
奴等はまず言葉がなっていなかった。
「Hey!旦那、バグ報告書ってどう書いたらいいッスか?やっぱ、パソコン使って
書けなキャいけないッスか?…え?まじッスか?」

奴等がケータイの新機種で遊べる、という幻想から目覚めていく様はそれなりに
面白かった。徴兵制の無い日本では、こういった戦場でも体験しておく事が必要だ。



352 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 00:29

奴等は本気で、ケータイで出会い系サイトにタダでアクセスし放題、という職場
環境を期待していたようだった。上位会社も奴らのタコ部屋に設置するPCを非インター
ネット環境にしていたようで、その措置だけは珍しく賞賛に値した。
それでも、PHS繋いで自費でエロサイトにアクセスしまくっている者が数名いた。

バグ報告書にネタを書きまくる奴等がいたが、最初の1週間で粛清された。
テスト要員が本来の目的で稼働できるようになるまでに、およそ3週間がかかった。
上位会社が人脈を辿って体育会系の社員を要所要所に配置し、インパール作戦の
準備を手際よく進めてくれた。逃げたいヤツは早めに逃げておかないと、体育会
社員はプロジェクト完遂までタコ部屋の管理を命じられているので、非常に後悔する
事になる。

「まじッスか?」という言葉はその体制が敷かれて2日間で死語になった。
奴等が言葉を発する最初には必ず「押忍!発言させていただきます!」が付くように
なり、気を付けの姿勢を取るようになった。バグ報告書が床に散乱していると、
積極的に「自分がやるであります!」と片付けや整理をしてくれた。
体育会連中が初日に施した「研修」の内容が気になったが、業務が相変わらず祭り状態
なので俺たちは気にする余裕も無かった。

ただ俺たちも、寝不足続きで寝坊による遅刻をした日には、敷地内を何キロも走らされた。
上等兵は「軍曹殿、何か不思議な感覚が宿ってきますね」と活気付いた。俺も同感だった。
そんな思いはすぐに伝わり、俺たちは間もなく彼らの手先となっていった。



365 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 13:41

作業用のPCが古い。とにかく古い。
Windows98マシン(PentiumPro 200MHz)でHDDは4GBしかないのだ。
マシン自体はWindows95時代のもので、OSだけアップグレードしたものらしい。
メモリは32MBである。それでMS-Office2000がフルにインストールされている。
肥大化した各種仕様書を開くだけでも重いので、もし何か編集しようとすればたちまち
フリーズしてしまう。

そんなマシンでアプリの開発をしているのだが、専用の開発ツール(一応、統合環境という事に
なっているらしい)は新しいPC環境上で作られたらしく、俺たちに割り当てられたPC上では非常に
重い。デバッグ操作で動作エミュレーションができるのだが、その機能が何よりも重く、なんだ
かんだとICEを使っての評価になってしまう。
上位会社と付き合いの深いソフト会社では、FULL-ICEを与えられている者もいるのだが、そういう
者に限ってソフト開発の何たるかを知らずに、ひたすらICEを駆使した力技によるデバッグで
プログラムの作成を進めているのだ。信じられない事に、デバッグしながらソースを書き進めてい
るのだ。



366 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 13:41

俺たちは安価なJTAG-ICEのみで、それも5人に1台程度しか割り当てられていない。
言い忘れたが、FULL-ICEを使える階級の連中にはデバッグ用の評価ボード(ハード屋が信号測定を
できるようにスケールアップした実験用のボード)が1人1台割り当てられていて、何も不自由なく
例のデバッグ型コーディングを進めているのだ。そんな手法でも、手下の派遣社員たち…奴等には
派遣社員も技術者レベルが与えられている!!がソース→ドキュソメント変換作業を担っているの
で、上位に対しては非常に見通しの良いアウトプットができるのだ。

反面、俺たちはエミュレーションも実機評価も自分達では満足に出来ないので、最初に設計ドキュ
ソメントを精密に描いて、仲間内で綿密に検討してからコーディング、正確には既存のソースの
修正なのだが、を行っている。勤務時間中にドキュソメント作成は許されておらず、深夜にホテル
の部屋で眠い目をこすりながら自前のノートPCで打っている場合が多い。
上位からは仕様書の配布がいい加減なのに、俺たちの修正したプログラムに対するドキュソメント
要求のレベルは非常に高かった。書式も、技術雑誌のカラーページと比較して遜色の無いレベルで
見栄えを要求されたので、俺たちは雑誌の出版社への転職スキルが身に付くのではないかと、苦笑
いしたものだ。



367 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/07/31 13:56

使用しているPCのHDDがとにかく切迫しているので、HDDの増設できればPCの入れ替えを何度か上位
会社に要求したのだが、それらは開発費として支払った中から捻出するようにと言われた。JTAG-
ICEのレンタル費用すら半額はうちの会社の負担となっていて、それがそのまま俺たちのボーナスに
反映されているのだ。つまりもう俺たちのボーナスから削るものがなにも無くなってしまったので、
会社も何も用意してくれなくなった。
PC等の固定資産設備を申請するのは最上位会社ですら手続きが厳しく、申請時の機種を半年から1年
後に取得できる有様なのだ。当然、俺たちの声は伝言ゲームの中でフェードアウトしてしまう。
更に、どうやらハード部隊が大掛かりな設備申請を上位の政治力によって無理やり通してしまった
らしく、そのしわ寄せが俺たちにまで及んでいるのだ。

奴等は何を買ったのか?
最上位会社での数ヶ月に及ぶ協議の結果、ハードとソフトを協調してシミュレーションできる開発
環境が必要となったそうだ。しかし、それにはUNIXマシンとHDDレイドが必要になるらしく、その
予算が予想を越えるものだったのだ。まず、UNIXマシンは社内の不要マシンをチューンナップして
使う事になったそうで、その場合HDDに最新機種を使えず、旧型の低容量の物を数多く集めて構築
するらしいのだ。
わざわざメーカーと交渉して旧機種の在庫を最新機種をはるかに上回る価格で調達したのだ。
40GB分を調達するのに俺たち兵士の月給3人分以上がかかっているらしいのだ。
ハード部隊ではCPUを含めた機能の全てをASICに入れているわけだから、ハード&ソフトの協調
シミュレーションも理論上は可能である。ハード部隊とソフト部隊の根強い対立を打開しようと、
最上位会社で何ヶ月もかけて検討したシステムらしい。そこで俺たちのソフトを完全体にして動作
できるらしのだ。祭りを収束に向かわせる画期的なシステムだと、誰もが信じた。
シミュレーションの規模も大きいので、ハード部隊主催で派遣社員をかき集めたシミュレーション
チームが結成された。人海戦術&体力勝負の開発現場に改革が起こる事を期待した。



395 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/03 02:46

(前の続き)
その画期的なシミュレーション・システムが稼働して翌日の事だった。
「何?全系のシミュレーションをかけると実時間で20msまでしかテスト
 できないだと?」
上位の上位の会社の部長(全体の中では「少佐」に相当)が朝から叫んでいた。
20msしか再現できないとは、俺たちの部隊のデバッグしているアプリの起動
準備すら出来ていない段階であった。問題の本質はハードディスクの容量が
厳しいとの事であった。そう、シミュレーションで再現する時間の20msで
ディスクが一杯になってハングアップしてしまうのだ。
その20msの再現まででも丸々1日かかるらしい。ハード屋は20msを一晩で
処理できるのは画期的だと弁解していたが、期待していた俺たちもどうかしていた。

「すぐにもディスクを増設するのだ」少佐が唱えたが、
「無理です。設備の予算申請手続きに半年以上かかります!」と大尉が返した。
今回のシステムにしても、大尉が膨大なレポートを作成して予算の申請に1年前から
取り組んだ結果なのだ。ようやく申請が通る時期になって、より安価な新型機種への
変更が許されなかったという事務処理上のハードルについては、もはや誰も口にしな
かった。

俺たちは、ソフト開発部隊1個中隊のPCをリニューアルできる予算を投じたUNIXマシンを
半ば呆れ果てた顔で眺めていた。瞬きよりも短い時間をシミュレーションするのに
1日~2日もかかるとは。
Linuxマシンにして安価な高性能システムを構築するなんて言ったら、上層部を説得する
のに2~3年は優にかかる、と少佐殿はおっしゃった。

ハード部門のシミュレーション技術開発部の中尉が、それでも可能なテストについて
必死に説明していたが、少佐の一喝で黙ってしまった。



397 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/03 02:55

画期的なシミュレーション・システムは、半年後にハードディスクを増設して
から利用する事になり、暫くの間はその存在を忘れる事ができた。
ハード部門の中尉が「半年後にはSystem-Cを使ったハード・ソフト協調設計を
是非とも提案したいと思います」と言っていたが、誰も耳を傾けなかった。
ハード屋に読めるようにC言語を歪めるつもりなのだろう、と俺は解釈した。

俺たちはICEの増設を求めていたが、半年後にUNIXマシンのハードディスクを
100GB程度増設する計画の前に、ICEのレンタル費用が早くも削減されてしまった。
長引く開発の中で、ハード部門とソフト部門の勢力争いがろくな結果をもたらさ
ない。

結局、俺たちは低レベルなICEの奪い合いに明け暮れるのであった。
そして、昨年の長かった夏が過ぎ、秋を迎えた。依然、帰れる見通しは立たない。
上等兵達は半年以上も里に帰っていなかった。



463 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:03

たまには、上位の上位の会社の観察報告でもしようと思う。
そこは最上位から1つか2つ下の、かなり高位の会社である。
俺たちは滅多な事では彼らと直接連絡を取り合う事はないのだが、つまり、
彼らは殆どデバッグルームにも実験室にも顔を出す事は無いのだが、
俺達は用があって事務所の席(いつのまにか用意されていた)に行くと、
いつもある間接部門の様子を垣間見る事ができるのだ。

不思議な世界だ。同僚とのコミュニケーションがメール主体なのだ。それも
隣り合う同僚の間でも交わされる会話は、長くても
「メール出したので読んでもらえますか?」
「分かりました。何かあったら返信します」
だけで済んでしまうのだ。その口調も棒読みで極めて事務的な口調なのだ。
休む者は決して連絡をよこさないし、居なくても誰も気付かない。たまに
用があって欠勤に気付くと、事務的にスケジュールをシフトするだけなのだ。
欠勤者は翌日に黙って年休申請をイントラネット上で処理するだけである。



464 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:16

職場には一応先輩が居れば後輩も居るのだが、先輩は後輩に対して決して
コワモテな態度は取らず、必ず敬語なのだ。先輩と後輩の間に言葉の上位/下位が
存在しないのだ。紳士的で優しい先輩たちじゃないか、と初めは思ったが、実は、
先輩は決して、決して、決・・・・・して後輩の面倒を見る事はないのだ。

新人が先輩に何か質問すると、それが少しでも技術的な内容を含むと、
「〇×さんが知っているです」と棒読みの口調で伝えるだけなのだ。自分で
直接返答できる内容と言えば、事務処理の手順ぐらいなのだ。

新人の技術教育は形だけは充実して見えるのだが、その実体は関連会社への
〇投げであって、関連会社では最前線に立つべき軍曹クラスが業務時間を
強引に空けられて、その教育セミナーに講師として駆り出されるのだ。関連
会社の軍曹レベルは、それでも業務を決して減らしてもらえる事はなく、
無い時間を工面しながら教育カリキュラムを必至に実行している。
教育カリキュラムを作成するのは遠く離れた間接部門であって、教育を受ける
側の部署の管理職レベルとは全くコミュニケーションが無いのだ。

俺は、そこに自分の常駐机を置かれてから1年間くらいその部署を観察していた
のだが、先輩が後輩に何か指導している光景は一度も見たことが無かった。そして、
これは上司と部下の関係でも同じだった。紳士的で優しく見える上司や先輩は
部下や後輩を決して叱る事は無い。叱る事は無いが、何か問題が発生すると責任は
上から下へスルーして転嫁される。上は決して下をかばわない。

部下や後輩がデスマーチ状態になっても、上司や先輩は放置して帰ってしまうのだ。
だた、スケジュール要求のみをメールで通知するだけなのだ。入社3年くらいになると
要領を得てくるのだろうが、新人は途方に暮れて派遣社員に教えを請うのだ。
派遣社員は嫌々ながらも質問には答え、それでも彼等の方がよほど先輩らしく
指導をしていた。



465 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:30

部署としてはアプリ開発のかなり広範囲について最終責任を負う立場にある
らしく、ひとたび祭りが始まると新人を含めた若手社員達の顔が蒼ざめる。
いや、実は元から彼らの顔には全く表情というものが無いのだ。これは決して
誇張した表現ではなく、カフェテリアで昼食を取っている彼らの雰囲気は
お通夜そのものなのだ。それでも昼食時には数名が固まってカフェテリアへ
向かうのだから不思議である。

現役選手であるはずの軍曹~上等兵クラスの社員達は、どんなに祭りが盛り
上がっても決して事務所から出る事は無く、常にメールによる連絡か、受けた
電話の応対ぐらいである。現場を知る者は居ないのではないだろうか?
俺たちは現場に半分以上の時間入り浸るので、移動する時に頼まれ事を引き
受けたりするのだが、それは必ず口頭であった。何故なら、問題発生時に
責任の所在を示す証拠を残してはならないからである。

そう、彼らは完全な減点査定主義の元に管理されていて、賞与は管理職が
意味不明の計算をして秘密裏に分配比率を決めてしまうのだ。社員達は
ただ明細を貰ってため息をつくだけなのだ。それでも、俺たちの会社の
課長クラスよりは遥かに高い賞与を彼らは貰っていると言う。それも入社
3年の時点でだ。俺の会社では課長未満は賞与なしである。

彼らは、入社3年以内に、外注の成果を根こそぎ自分達の手柄として吸い上げて、
失敗を完全に外注に被せる為のノウハウをOJT(オンザジョブトレーニング)で
習得するのである。
社員同士は上下関係、左右関係全てにおいて信頼関係というものを全く持って
おらず、どんな簡単な業務でも他所に責任転嫁の足がかりを確保してからでないと
動けないのだ。おかげで、俺たちはメールアカウントを申請しても
「その内に対処します」とだけ言われ続けた。1年間に渡って。



466 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:44

日常化したデスマーチに俺の部下の上等兵が倒れてホテルで5日間寝込んだ
事があったのだが、3日目に俺が「食事を届ける為に夕方に一度外出させて
ください」と申し出たところ、
「許可を得る為の手続き業務に時間がかかるので、もう3日間待ってください」
という返答を受けたのだ。俺が上等兵の身を案じている姿が、彼らには奇妙に
映ったらしい。何故そのような余分な気を回すのかと、無表情な顔から棒読みの
口調で質問されたものだ。

何かがおかしいのだが、俺達にはその雰囲気に対して発言する権利を与えられて
いなかった。

俺はたまりかねて夕方の定時後に抜け出し、上等兵の様子を見に行った。
ホテルの部屋の中で、彼はすっかり病人の色をしていた。毎朝毎晩、俺は
上等兵の様子を確認しに寄っていたのだが、いつも彼は
「私は大丈夫です。ゴホッ、ゴフッ・・・、軍曹殿は気にせずに出勤してください」
と言って、俺が病院に連れて行くのを拒んだ。病院へ行く事になれば俺も欠勤
しなければならないと気遣ってくれているのだ。そう、彼は自分の会社ではその
まま欠勤処理されていたのだ。

職場を抜け出して食料と医薬品を調達してホテルに向かうと、上等兵は本当に
虫の息に見えた。バスルームには明らかに吐血したのを隠した跡があった。
「ぐ、軍曹殿。私の事は構わないで下さい。貴方の評価まで傷ついてしまう」
「何を言っているんだ!一緒に群馬に戻ろう」俺はやせ細った上等兵の肩を
抱きしめた。骨と皮じゃないか。
俺の中で何かが切れた。



467 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/15 23:55

抵抗する上等兵を上越新幹線に押し込め、俺たちはそのまま高崎へ向かった。
上等兵はそのまま緊急入院する事になった。結核に罹っていたのだ。
上等兵の姉が入院手続きを済ませ、俺に
「コボルがこんな酷いことになっていたなんて、一体あなた方はどういう扱い
をしてきたんですか!」と責め立てた。返す言葉が無かった。
病室に戻ると上等兵が
「軍曹殿、本当に申し訳ありません。私はもう大丈夫です。軍曹殿まで欠勤
処理されると思うと私の胸が痛みます。どうか、横須賀にお戻りください。
私の事は心配要りません」と、か弱い声で訴えてきた。
翌日、俺は涙を拭って会社に寄って事情を説明し、横須賀へ戻った。

職場放棄&無断欠勤の容疑を着せられ、俺は始末書を書かされた。
休んだ日は自分の会社と常駐先の両方に電話をかけた筈なのに、常駐先では
受けた人間の怠慢によりそのまま無断欠勤処理されていたのだ。勤務記録上
矛盾が起きてはならないので、結局俺の所属する会社でも改めて無断欠勤処理
をされた。

加えて、部下を過労で壊した罪も着せられて、部下の管理責任まで問われたのだ。
それから俺たちは常駐先でチームを解かれ、俺と他の上等兵2人はバラバラに
配置されて完全に派遣社員としてのルーチンワークに組み込まれてしまった。

単価も年齢からは考えられないほど安く叩かれた。



471 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/16 00:07

俺たちはそれぞれ体育会系社員達からも徹底的にマークされ、事ある毎に
腕立て伏せの刑を受けた。他にも、フッキンやスクワットなど、無理の
ありそうなものを選んで科せられた。

朝出勤すると、派遣社員が誰かしら腕立て伏せやフッキンをさせれらている
光景を見るのに、不思議にも目が慣れてしまっていた。そして、自分達の
処遇にも。

12月が来た。予想通り、賞与は無かった。
入院中の上等兵は健康を取り戻したが、そのまま退職してしまった。
俺たちがデスマで現場を離れられないと知ると、横須賀まで挨拶に来てくれた。
最後に飲み交わした。横須賀の海岸で俺たちは酔いつぶれて吐いた。
そして、夜景を見ながら目に涙を溜めて、尾崎豊の「I love you」を、声を
合わせて歌った。

上等兵に会ったのはそれが最後だった。生きてはいるだろうけど、それ以来
姿を見ていない。そんなものだ、人生とは。

年が暮れる前に、3人居た上等兵の内の2人が消えてしまった。新兵の補充は
聞かされておらず、今やそれ自体はどうでも良くなってしまっていた。居ても
互いにバラバラな派遣社員待遇なのだから。
自分の会社には何度も帰還要望を出したのだが、「代わりの仕事が無い」の
一点張りで、帰れなかった。噂によると、自社の俺の机は新人に譲られたらしい。



532 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 16:12

YRPに常駐してから部下が減る事はあっても本部から応援が補充されるような
事は無かった。年を明けると、上等兵が1人残っているだけだった。
群馬にある自社では、忘年会にも新年会にも俺たちは呼ばれなかった。
給与待遇は請負ではなく派遣作業者としてのレベルにまで削られて、毎月の
生活も外食に頼るとすぐに赤字になる厳しいものであった。
俺の部下としてただ1人残った上等兵は、こう問い掛けた。
「軍曹殿、我々は一体どうなってしまうんでしょうか?」
「本部からの連絡が途絶えた以上、目の前の作戦活動に力を注ぐのだ。
 俺からはそれしか言えない。」
こんな俺たちも、既に散らされて派遣社員の1人として扱われて、上位会社の
体育会系社員達に絞り上げられる毎日を過ごしていたのだ。体育会系社員達は
若手でも冬のボーナスを60万以上貰っていたらしい。噂で聞いただけなのだが、
胸が締め付けられる思いだった。

そういえば、この上等兵には妻子が居たはずだ。もう3ヶ月以上も会っていない
らしい。そう、俺たちは年末も正月も現場を離れる事が出来なかったのだ。風邪を
引いても、インフルエンザに罹ろうとも、体育会系社員達は精神論で乗り切れと
休ませてくれないのだ。もっとも、彼らの鍛え上げられた強靭な肉体は、風邪とも
インフルエンザとも無縁なようであったが。



533 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 16:21

前に書いたが、上位の上位会社から上は官僚化が進んでおり、従業員同士の
人間的交流というものが全く無い。特徴的なのは、無表情に引きつった顔と、
早口な棒読みセリフ、そして上司は部下に仕事を〇投げしてサポートもせず、
この関係は先輩と部下の関係にも一致していた。今の事業部体制になってから
管理職に対する密告が評価されるようになったらしく、それが原因だという
説もある。人間関係が良い悪いという次元の前に、人間関係そのものが無いのだ。
一方的な指示はたとえ机が隣でもメールで行われ、上司は退社直前に「〇×の
件、明日の朝イチに報告を待つ」と部下にメールを送る事が日常的に行われていた。
当然、彼らの職場でも忘年会や新年会は一切行われなかった。社員同士でも同僚の
不正を上司に密告するのが当たり前となり、昼食時に席を外す時にはPCの電源を
切っておかないとキーロガーを仕掛けられる惧れがあった。

ある日、上等兵が深刻そうな顔で俺に相談を持ちかけてきた。



534 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:05

「長い間お世話になりました。」
「どうしたんだ?」
「実は、来月から〇×株式会社(上位の上位会社)へ転職する事になったんです。」
俺は一瞬呆然となった。最後の部下まで失ってしまうのか。しかし、
「そ、そうか。故郷の奥さんやお子さんを考えれば、今の給料じゃ食わしてやれない
 もんナ。君の境遇を考えれば無理もない。それにしてもよく採用されたものだ。」
と激励の声をかけるのが精一杯だった。

 彼の所得は一気に倍増するらしかった。今年の年間所得は明らかに俺より上になるはずだ。



535 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:14

上等兵と同じ会社に所属する最後の夜、俺たちはホテルの部屋で酒を飲み交わした。
「こんなホテルに缶詰にされるのも、君は今夜限りだな。」
「軍曹殿を残して本当に申し訳ないと思っています。しかし、私にも家族がいますので…、」
「分かっている。気にするな。今まで十分に尽くしてくれたよ」
思えば、この上等兵と人間的な会話が出来たのはこれが最後だったような気がする。

上等兵は上位の上位会社へ転籍すると、家族寮と呼ばれるきれいなマンションに移った。
そして家族もそこに呼び寄せたのだった。やはり、家庭を持つには社会の階層というのも
大きなファクターになるのであろう。新居に引っ越して1週間後、俺は元上等兵に夕飯に
招待された。久々に温かい家庭の空気に触れた。奥さんはきれいだし、子供も無邪気で
かわいいし。彼が長らく群馬に残してきたものの大きさを見た思いだった。

こんなきれいなマンション生活で、家賃も会社が9割まで補助してくれて、所得も倍増
とは世の中は所詮階級社会なんだな、と身近にも感じてしまった。



537 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:46

 その後は仕事が忙しくて、元上等兵と会う機会はめっきりなくなってしまった。近くには
いるのだろうけど、仕事で関わる事は無かった。

 ある日、俺は仕様書の内容不備について確認しようと、別のフロアへ出向いた。要件を済
ませて帰ろうとすると、近くの席に元上等兵を見付けた。
 何と言うか、何かの強迫観念に駆られたような引きつった、やつれ果てた顔であった。顔
色も土色と言ったら良いのか、目も深く落ち窪んだその顔に生気は全く感じられなかった。
そして、声をかけると帰ってくる声は、裏声で早口で、そして棒読みの口調であった。辺り
を見渡すと、元上等兵は移転先の従業員の1人に溶け込んでいた。何か胸の詰まるような思い
だった。

 その後、元上等兵が離婚したという話を聞いたのは、今年の7月に入って久々に飲みに誘っ
た時であった。酔いが回って口数が増えてきてもその口調はあのままであった。傷口をさらけ
出しているにも関わらず、顔は無表情であった。
 一度家族の幸せな姿を見ていただけに、俺の胸も痛んだ。離婚に至るまでの過程を聞く内に、
俺も耐え切れなくなって、途中何度かトイレに立って、吐いた。



538 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 17:55

 職場の密告制度も激しさを増し、皆が皆を信用できない状況に陥っているらしかった。長引く
開発によって予算も底を尽き、外注単価を大幅に下げるだけでは間に合わず上位会社でも従業員の
ボーナスを削減するという大きな流れの結果であったようだ。
 ボーナスの全体金額が決まっているので、全員に均等に割ったら全員が苦しい思いをする。そこ
で、減点方式の査定に走ったらしい。上司は部下を、先輩は後輩を決して叱る事は無く、見えてい
る失敗も黙ってそのまま起こさせた。そして失敗の責任は全て末端の担当者に被せられ、その者は
ボーナスの査定で大幅な減点を受けるのだ。逆に、同僚の不正を上司に密告すると加点されるらし
く、部署によっては隣席の同僚が昼食に出かけている隙にPCへキーロガーを仕掛けるといった
巧妙な罠まで使われたらしい。
 そんな職場で、中途採用者は格好の餌食にされた。彼は周囲の人間の失敗責任をいくつも被せら
れ、ボーナスは大幅な減点査定だったらしい。もっとも、入ってすぐの夏のボーナスが減点食らっ
ていて尚65万というのは同情に値しないと俺は感じた。

 俺はこの夏もボーナス無しだった。所属会社に掛け合っても、
「開発期間の延長による損失は従業員の責任だ」
の一点張りで、俺の形式的な上司は何も責任を取っていないらしかった。



539 名前:YRP常駐from群馬 投稿日:04/08/21 18:06

 俺の群馬での机は、既に新人に乗っ取られていて、彼は俺が前に手がけていた
案件をPC内に整理された資料を元に引き継いで、先輩の指導の元に有力な新規案件
を手がけているらしかった。
 時折事務所に電話をかけると、その新人の先輩が旧案件について質問してくる
有様だった。

 会社はこの請負業務から手を引きたいようだったのだが、従業員が自ら辞めると
いうアクシデントでもない限りクライアントが手放さなかったのだ。しかも、追加
見積もりはことごとく拒絶されたのだ。その為、俺の所属会社も本件では赤字状態
に陥り、経験者まで数人失う損失を被ったのだ。その金額的責任の一部が俺の所得
にも反映された。

 そんな俺は、8月に入って職場を逃亡した。
 群馬に勝手に帰って、久しぶりに好きな登山に明け暮れた。
 自分を取り戻していけそうな気がした。

 そう、俺の中で何かがはじけたのだ。

 もう2つ3つ好きな山を登ったら、会社に手続きをしに行こうと思っている。
 携帯電話はうるさいので、1つ目の山の頂上から思い切り投げてしまった。
 携帯もこんな空気の良いところに投げ捨てられて本望であった事だろう。

 故郷の山の空気は、おいしい。ああ、生きていて良かったな、と思えた。


 長らく読んで頂いて、有難う。
 


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