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【社説】

社保カード 『導入ありき』はだめだ

2009年4月20日

 厚生労働省がまとめた「社会保障カード」の基本計画は二年後の導入を目指しており、拙速すぎる。十分な実証実験で問題点を洗い出すべきだ。政府の他のIT(情報技術)政策との関係も不明確だ。

 社保カードでは、一枚のICカードに、年金手帳、健康保険証、介護保険証の三つの役割を持たせる。これによってパソコンから年金の保険料納付記録、将来の給付額の見通しが分かり、社会保険庁で起きた年金記録不備問題の再発を防止できる。

 医療機関での被保険者資格や受診で要した医療費の確認などもでき、転職などを繰り返して制度・保険者を変わる人も加入手続き・給付漏れが起きにくくなる。

 年金、医療、介護制度の各データを一元管理する「社会保障番号」の導入はプライバシー漏洩(ろうえい)の恐れから国民の反対が強いことを踏まえて見送り、従来通り別々の管理に任せる−などとしている。

 問題は、この制度の導入を二〇一一年度に設定していることだ。

 厚労省は、二カ所ほどの自治体を公募で選び、夏から半年かけて社保カードの実証実験をしたうえ全国に導入する考えだが、実験は年金、医療、介護の中で「できるものを行う」とおざなりだ。

 新しいシステムだけに、プライバシーの保護、システムトラブル発生時や転職による医療保険者変更の場合などにうまく対応できるかどうかを十分に検討し、問題点を洗い出す必要がある。システム全体の問題点を浮かび上がらせるには年金、医療、介護のすべてについて同時に実験を行うべきだ。

 技術的な問題をすべて解決したうえで全国的な導入の是非を決めるべきで、「初めに導入ありき」では国民の理解は得られない。

 社保カードが、自分で年金記録を確認できるようにすることで年金制度の信頼回復を図る一環として急浮上した経緯を振り返れば、年金だけに限定してスタートさせて様子をみる方法もある。

 政府が構想する、希望する個人・企業へ行政サービスを提供する「国民電子私書箱」や既に実施されている「住民基本台帳ネット」との関係が不明確なことも問題だ。このため国による個人情報の管理への懸念が払拭(ふっしょく)できない。

 報告書は、政府全体で整合性をとることを求めているが、これこそ先に行い、そのうえで社保カードの位置付けを考えるべきだ。IT活用による利便性と、プライバシー保護との兼ね合いについて国民的議論を深める必要がある。

 

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