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社説:3人乗り自転車 公認するほど安全か

 自転車に6歳未満の幼児2人を乗せる3人乗り自転車について、警察庁は7月にも、各都道府県公安委員会規則の改正を促し、公認する方針を固めた。

 強度や制動・操作性能などに優れた自転車を使い、幼児にヘルメットを着用させるなど転倒時の安全を確保することが条件となる。メーカーは3人乗り自転車の製品化を進めており、三輪式など安定性を増したモデルが市販される見通しだ。

 だからといって、もともと不安定なのに、安全と過信するのは性急にすぎる。1人でも幼児を乗せるには、危険が伴う。ハンドル操作は困難になるし、幼児はじっとしているとは限らない。強風にあおられる心配もある。それなのに、安全優先のはずの警察庁が、3人乗りを適法にするというのだから驚く。

 一般的に自転車は2人乗りでも違反とされてきた。2万円以下の罰金などの罰則もある。幼児1人を乗せる場合に限って容認されていたが、社会構造や住環境の変化に伴って買い物や幼稚園への送迎などの必要が増えたせいか、主婦らが2人の幼児を乗せる姿も目立つようになった。

 警察庁は自転車の事故の増加を背景に、一昨年末には3人乗りの禁止を明確にし、違反者を取り締まる方針を打ち出した。ところが、若い母親らが猛反発したため、方針を撤回。自転車の安全性を高めることと引き換えに、容認に転じていた。少子化対策への影響なども考慮したのだろうが、異例の翻身である。

 厳正に取り締まることが、妥当とは思われない。だが、危険が払しょくされない以上、自転車の性能が向上しても、違法行為として引き続き注意を喚起すべきではないか。

 合法化すれば、さまざまな問題が生ずる。これまでは必要に迫られ、ためらいながら2人の幼児を乗せていた母親らが、安全になったと誤解し、慢心する可能性もある。3人乗りで自動車と衝突し、3人が死亡した場合なども想起しなければならない。従来は自転車側も違法として過失が相殺されたケースでも、合法化後は自動車の運転者が一方的に危険運転致死罪などに問われ、裁判員裁判で最高20年の懲役刑に処せられることも考えられる。そうした事態を社会として是認するのか、論議が尽くされたようには思われない。

 そもそも母親らが反発したのは、3人乗りの是非論そのものではあるまい。貧困な子育て支援策の中で、母親たちが悪戦苦闘している実態への関係者の理解不足を嘆き、憤ったのではないか。追求されるべきは、自転車の3人乗りなどせずに済む方策だろう。警察の対応は安全を第一にあくまでも慎重であるべきだ。

毎日新聞 2009年4月20日 東京朝刊

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