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社説

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独禁法強化―早期実現へ与野党は動け

 未曽有の経済危機による苦境から、談合やカルテルに手を染める企業が増えないとも限らない。そこで罰則を重くして「カルテルは割に合わない」と企業に自覚させれば効果がある。だが今の独占禁止法の罰は軽すぎる。

 その罰則を強める改正案を政府が今国会に提出している。談合やカルテルの主犯企業への課徴金を5割増とし、3年の時効を5年に延ばす。また、ライバル会社を排除したり新規参入を妨害したりする「排除型私的独占」や、納入業者や下請けに不利な取引を迫る「優越的地位の乱用」などの違反にも課徴金を新たにかけるものだ。

 近年も、さまざまな形の独禁法違反容疑の事件が相次いでいる。

 たとえば、日本音楽著作権協会(JASRAC)は、放送局が番組で使う楽曲の使用料の徴収方法が新規参入を制限していると公正取引委員会に指摘された。NTT東日本は光ファイバーサービスで他社の参入を妨害したとされ、米インテルの日本法人は、パソコンメーカーに心臓部の半導体を売る際に他社を妨害したとされた。排除型私的独占を禁ずる規定の適用だ。

 コンビニチェーンの本部が加盟店の値引き販売を不当に制限すれば、優越的地位の乱用の疑いが生ずる。

 こうした種類の違反行為も課徴金の対象になるので、この改正によって抑止効果は強まるだろう。

 じつはほぼ同じ改正案が昨年の通常国会にも出されていた。だが、ねじれ国会の与野党対立で審議さえも行われず、廃案になった経緯がある。

 消費者のためになる改正だ。罰則強化には民主党もほぼ賛成しているのだから、今の国会で成立させるべきだ。消費者庁法案で与野党が見せた歩み寄りをここでも発揮してほしい。

 一方、改正の対象から外されたテーマもある。審判制度だ。課徴金を命じられた企業が不服を訴える場合、まず公取委の審判を受ける。この制度に対し、経済界は「公取委が検事と裁判官を兼ねており、江戸町奉行のような制度だ」と批判し、審理の場を初めから裁判所へ移すよう求めてきた。

 政府はカルテルと談合を裁判所へ移し、私的独占や不当廉売、合併問題などでは公取委の審判を残す意向だ。民主党は、審判制度を廃してすべて裁判所へ移すことを主張している。

 この対立が解けないため、改正案では、審判制度の見直しは1年先送りにすると付則に盛り込まれた。だが、すでに4年間も見直し問題を議論してきた。もう結論を出すべきだ。

 公取委は違反の摘発能力を高めることに力を注ぎ、審判は廃止した方がいい。それには裁判所が独禁法に通じた裁判官の育成を急ぐ必要がある。たとえば東京地裁に独禁法専門の部門を設けることを検討してはどうか。

性差医療―「男女は違う」を常識に

 言うまでもないことだが、男性と女性とでは、体格が違うだけでなく、身体の機能や生理も違う。

 働き盛りの男性が心臓発作で倒れたり痛風を患ったりする例は珍しくないのに、女性ではあまり聞かない。かかりやすい病気も異なるのだ。

 とすれば、着る服に男女の別があるように、いやそれ以上に、健康管理や病気の治療に当たって、男女の違いを考えるのは当然だろう。

 欧米ではすでにそれが当たり前になっている。日本の医療現場ではあまり考慮されてこなかったが、近年になってようやく、その差に注目した「性差医療」の考え方が広がり始めた。

 効果的に健康を守るため、男女の差に基づいた医療を定着させたい。

 女性は、閉経を境に健康状態が大きく変わる。心臓を守ってくれていた女性ホルモンが減り、糖尿病、高血圧、脂質異常症も増え、心臓病になりやすくなる。

 昨年から始まった特定健診、いわゆるメタボ健診の診断基準も、こうした男女の違いや年齢による変化をきめ細かに検討したとは言い難い。

 とりわけ異論が多いのが、男性85センチ、女性90センチとする腹囲の基準だ。厚生労働省の研究班は、女性は80センチが適切とする中間結果をまとめた。

 コレステロールの基準値も今は男女同じだ。しかし、女性は閉経後に上がるのが普通で、高くても一概に危険とはいえず、国際的には女性の基準は緩くなっている。

 基準が適切でないと、病気の兆候を見逃したり、逆に過剰な医療につながったりするおそれがある。科学的な根拠によって基準を見直すべきだ。

 一方、女性にとって最大の脅威は、各年代を通じて、がんである。そのことを考えれば、がん検診に力を入れなければならないことも明白だ。

 臨床現場では、女性医師が女性患者を総合的に診る専用外来が01年に鹿児島大学に登場した。それ以来、全国で300カ所以上になった。

 循環器をはじめ、さまざまな分野の専門家が集まって、日本性差医学・医療学会も昨年できた。少しずつ研究が進み、たとえば、同じ高血圧でも男女に違いがあって、薬の効き方が違うこともわかってきた。

 もっと研究が必要だ。そのためには人材を育てなければならない。

 堂本暁子・前千葉県知事の下で性差医療を進めてきたパイオニアのひとりで、循環器が専門の天野恵子・元千葉県衛生研究所長は「研究・教育の拠点を全国に数カ所つくる必要がある」としている。

 女性が男性と違うことに目を向けることはすなわち、男性にもより的確な医療を実現することになる。厚労省も本腰を入れて取り組むときだ。

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