水に溶けるホウ酸

普通の紙に火をつけると、当然燃える。しかし、ある物質を染み込ませた紙に火をつけると、なかなか燃えず、焦げ目ができる程度。いったいなぜ？

このある物質を開発したのが、金沢工業大学の露本伊佐男助教授だ。その液体とは、「ファイアレスBリキッド」。液体の主成分はホウ酸塩。ホウ酸と言えば、ゴキブリやシロアリ駆除剤として使われていることで有名。そもそもホウ酸は、防火効果もあることで知られていたが、水に溶けにくいという弱点があるため、加工が困難とされていた。従来、木材にホウ酸溶液を浸透させ、防火加工をするのに3日以上かかっていた。

その原因は、従来のホウ酸溶液は、液中のホウ酸イオンがバラバラであったため、1つずつしか染み込むことが出来なかったからだ。しかし、特殊な製法により、ホウ酸イオンを重合させる事によって、一気に染み込ませることが可能になった。これにより、3日以上かかっていた木材の防火加工も1時間以内で処理できる。小さな木片や紙ならば、サッとつけ込むだけだ。従来のホウ酸は、水に4%程度しか溶けなかったが、露本助教授はホウ酸溶液を23%まで溶かしこむことに成功した。

火事にも強い、燃えない木

実際に実験してみると、普通の木材をガスバーナーに当てると次第に火が大きくなっていくのに対し、「ファイアレスB」を染み込ませた木材に火を当てると、木は黒くなる（炭化する）だけで、火は大きくならない。火を当てて5分後、普通の木材は穴が空きそうになり、火はさらに大きくなった。8分後、普通の木材は完全に貫通したが、「ファイアレスB」を染み込ませたも木材には、ほとんど変化が見られない。穴が空いた普通の木材の裏面の温度を、サーモビューアーで見ると、火がついた部分はもちろん、その周辺部分の温度も高くなっていた。一方、「ファイアレスB」で加工したものは、ほとんど温度変化がなかった。

なぜ、熱が遮断されるのか？その秘密は、白く光った泡にあった。木材は熱せられると有機成分が発砲し、ガラスの泡で木材が覆われる。そのガラスの泡により空気が遮断されるため、木材内部が効果的に保護されるのだ。従って、表面温度は上がらない。また、「ファイアレスB」により防火加工を行っても、シロアリなどの駆除効果は十分ある。

この画期的な開発を世に広めようとするのは、特許流通アドバイザーの近岡さんだ。開発の商品化を目指し、企業へ積極的に働きかけている。そして、名乗り出たのが株式会社トラストライフだ。今まで捨てられていた木屑や間伐材などを粉砕し、「ファイアレスB」につけて、加熱・加圧すると「不燃木材ボード」が完成した。「ファイアレスB」には、接着効果もあるため、有機接着剤は使用しない。従ってホルムアルデヒドなどの有機物質の心配もいらない。もちろん「不燃木材ボード」も燃えることがない。今後の展開について、露本助教授は、プラスチックは非常に燃えやすく、火災の原因にもなっていたが、プラスチックを難燃化することで、このような災害も最小限に食い止めることが出来ると考えている。一刻も早い実用化と、近岡アドバイザーも、不燃化させたいものへの幅広い応用展開を期待している。

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