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日本の大学は多すぎる? 増える「ナゾの学部」

4月19日20時1分配信 産経新聞


 「最高学府」であるべき大学が危機に直面している。現在、国公私立の4年制大学は全国で約760校。希望すれば誰でも大学に入学できるという「大学全入時代」にもかかわらず、約半分の私立大が定員割れを起こしており、飽和状態に陥っている。学生数を確保しようと焦るあまり、各大学が“一芸入試”レベルのAO入試を導入したり、ユニーク学部を相継いで新設したりした結果、一定の学力レベルさえない学生も「大学生」になってしまった。「算数レベルの学力さえない…」「まともな日本語すら書けない…」。そんな大学の叫びが聞こえてくる一方、ずさんな学部・学科を増やし続けた揚げ句、大学自体の質さえ保てない状況だ。一体、大学はどうなってしまうのか。

■グローバル、デジタル…増えすぎた大学、

 「健康プロデュース」「グローバルスタディーズ」「デジタルコミュニケーション」「社会イノベーション」「未来創造」「ライフデザイン」「シティライフ」…。これらは、ここ数年間に新設された学部名だ。聞いただけでは、一体何を学ぶのか、分かるようで分からないものが多い。

 国公私立の4年制大学は平成20年度で765校(国立86校、公立90校、私立589校)。平成2年度が507校(国立96校、公立39校、私立372校)だったことを考えると、この約20年間で約1・5倍になったことになる。特に増加が著しいのは私立大学だ。学部数でみると、平成2年度は1310学部だったが、平成20年度には2374学部と1000学部近くも増加している。学部名だけをみても、平成20年度には445もの学部名がひしめいている。

 子供の数は減り続けているにもかかわらず、なぜ、これほどまでに大学、そして学部が増えたのか。最大の原因は、「大学の多様化」との理由で、平成15年度から設置基準が緩和されたことがある。これまでのように「大学設置・学校法人審議会」の認可を受けずとも、届けを提出するだけで新しい学部を設置できるようになった。毎年、新設される学部・学科は300前後にのぼるという。

 背景にあるのは、「大学全入時代」だ。平成19年度の大学・短大の入学者数は計約70万人。一方、総定員数は約66万人。単純にみても、大学・短大への進学を希望すれば、ほとんどの学生が大学に入れる計算になる。しかし、その実態は、平成20年春には、4年制の私立大学の47・1%が定員割れし、過去最悪を更新するなど厳しい状況となっている。

 ある大学関係者は「人気のある大学では定員数よりも多く入学させているケースがある。一方で人気のない大学や地方の大学には学生が集まらず、学校の運営さえ危ぶまれている」。

 人気大学に多くの学生が集まると、人気の低い大学は残った学生を奪い合うことになる。このため、各大学とも、ユニークなネーミングの学部を新たに設置しては、学生の確保に力を注ぐことになる。別の大学関係者は「学生の興味を引きそうな学部を作ることで、他の大学との違いをアピールしなくては生き残れない」と話す。

■ずさんな学部設置…詐欺のようなもの?

 「新しい学部設置は基本的に性善説なんですよ。まさか、大学が学部を新設するのに手を抜くことはないだろうと。しかし、実際にはそれが起きている。そして、学生が不利益を被っている。言葉は悪いが、学生は詐欺にあったようなもの…」。文部科学省の担当者はため息混じりに話す。

 文科省によると、平成15〜20年度に新設された学部のうち、380学部に調査したところ、およそ4分の1に当たる100学部で学生数の過不足やカリキュラム変更など、当初の計画通りには運営されていないことが明らかになった。学生にとっては、大学の門をくぐってみたら、当初の説明とは違う内容の授業を受けさせられたということになる。

 大阪国際大(大阪府枚方市)では、昨年4月に新設した「ビジネス学部」と「現代社会学部」の2学部で、科目の3分の1について、担当教員や受講できる学年が変更されており、当初の届け出内容を大幅に逸脱していた。また、東京福祉大短期大学部(群馬県伊勢崎市)は、同じ法人が経営する専門学校と一部の授業が重複するなど、明確な区別がないまま授業が運営されていた。

 さらに悪質なケースもある。福岡医療福祉大(福岡県太宰府市)では平成18年度以降、専任教員数が最大で32人も不足するなど、大学の設置基準すら満たしていなかった。文科省は、理事長らが認識しながら放置したと判断し、同大を運営する学校法人に対し平成22年度からの5年間、新たな学部の開設を認めないという処分を下している。

 こうしたずさんな学部設置の背景について、文科省は「学生数を確保したいという大学側の焦りから、計画の見積もりが甘くなったり、設置計画を順守しようとする気も薄くなるのではないか」と指摘する。

■ノートの取り方やリポートの書き方まで…

 大学生の質の低下も深刻だ。大学で基礎を一から教えないと、次のステップに進めない学生が増えている。文科省の平成18年度調査では、中学や高校レベルの補習授業を行っていた大学は全体の約3割にのぼった。

 帝塚山学院大学(大阪市)は、1年生の必修科目として「大学基礎講座」を設置。ノートの取り方やリポートの書き方、図書館の利用法といった大学生活で必要な基礎中の基礎を学ばせている。同大では「4年間の大学での授業を最大限に生かすために、1年生のうちに基礎をしっかりと学んでもらいたい」と説明する。

 また、日本橋学館大学(千葉県柏市)でも、1年生の必修科目として、授業の受け方や時間割の作り方などを学ぶゼミや、友人や教師との付き合い方を向上させる体験学習ゼミを設置している。

 「消える大学 残る大学」などの著書がある桜美林大学の諸星裕教授は「少子化による大学全入時代は、簡単に言えば、偏差値上の上位の大学から順に受験生を取っていくという構図になっている」と指摘する。

 つまり、上位校が定員数以上に、成績上位の学生を取った場合、中位校には、これまでよりも成績の低い学生が入学することになる。言い換えれば、これまで大学に入れなかった学生でも、大学生になれるということだ。結局、学生の質を落としているのも大学自身ということになる。

 もう一つの“戦犯”とされるのが、書類審査や面接などによる「AO(アドミッション・オフィス)入試」だ。文科省の調べでは、平成19年度にAO入試を実施した国公私立大学は454校で、学部数では1047学部にものぼっている。入学者数の割合でも、推薦入試を含めると42・6%と全体のほぼ半数を占めており、もはや、入試スタイルの主流になりつつある。

 本来は受験生の能力を総合的にみるという目的で導入されたものだったが、入学者を早く確保するため、高3の1学期に実施する大学も登場したり、学力検査を行ったりしていないケースもあり、「単なる一芸入試」との指摘もあるになっている。

 大手予備校「河合塾」の担当者は「クラスの半分が秋ごろまでにAO入試や推薦入試で進路が決まってしまうため、現場の先生は、子供たちの学習習慣を維持させることが難しくなっているようだ」。

■リーダーではなく、土台を育てること…

 大学が学生をダメにするのか、学生が大学をダメにしたのか。

 文科省は今年度から、大学が学部・学科を新設する場合、カリキュラムや職員数などを記した基本計画書▽設立趣旨▽教員名簿−などを、同省のホームページ上で公表することにした。「看板」と実際の中身が異ならないようにするためだ。

 また、届け出制度で設置された学部について、文科省は今年度からは調査した上で、基準を満たしていない大学について、学校名を公表することにした。

 AO入試についても、平成22年度入試からは出願期間を8月1日以降に限定。合否判定には、筆記試験やセンター試験の成績などで十分な学力が身についているかの確認を求めるという。高校段階の学力を測り、大学入試などに活用するための「高大接続テスト(仮称)」の導入の検討も始まっている。

 では、これからの大学に求められるものは何か。

 諸星教授は「3ケタの割り算ができない学生に経営学を教えても意味がない。大学全入時代では、そういうレベルの学生が入学してくることを、もはや止められない。大学は社会のリーダーではなく、社会の土台となる大人を育てていくことが求められている。そのためには、それぞれのミッション(役割や個性)をはっきりさせ、学生の力をどれだけ引き上げてあげるかが重要だ。つまり、4年間でどれだけの付加価値をつけて社会に送り出せるか、が問われている」。

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最終更新:4月19日20時1分

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