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【ネット】ネット上の「ニュース」とは何か 「量」と「質」の間で揺れる各社

2009年4月10日

  • 筆者 藤代裕之

写真拡大図1:トップニュースのジャンル比較

写真拡大表1:ニュースサイトのランキング(2009年3月2日17時)

 紙の新聞の行く末の厳しさが明らかになるにつれ、インターネット上でのニュースサイト競争が激しくなっている。新聞各社が、販売、広告に次ぐ、第三の収益の柱を目指してウェブに本格的に取り組み始めたこと、そしてネット上にこれまでになかった情報を扱う独自のコンテンツホルダーが生まれていることも要因だ。これまで各サイトの違いを比べる指標はアクセス数や年齢、性別といった属性しかなかったが、今回は、gooニュースが独自に調査したデータを用いて、コンテンツの側面から見た状況を分析した。その結果、各社の戦略の違いだけでなく「ニュース」という概念が変化していることも見て取れた。

 調査したのは、goo、ヤフー、ライブドア、MSN産経、アサヒ・コム(朝日新聞)、そしてミクシィの6サイト。08年10月12〜18日の1週間、午前7時から午後11時まで、各サイトを目視して1時間ごとにどのようなニュースが掲載されているかを調査した。

 そのうち、トップニュースのジャンルを比較したのが図1のグラフだ。

 トップは新聞の一面のようなもの。各サイトが最も読んでほしい記事をそろえる場所で、編集方針が如実に表れる。ジャンル名は各社のものに従っているので若干違いはあるものの、傾向としてはgooとヤフーは各ジャンルを均等に掲載するバランス型となっている。MSN産経は事件がトップで、売りにしているネット独自コンテンツ「法廷ライブ」を中心に事件ニュースに力を入れていることがわかる。ライブドアはスポーツ、芸能が多く、ミクシィはエンタメとコラムが二本柱。アサヒ・コムは社会が半分を占めている。

 同時に、写真枠のジャンルを見てみた。これも一面写真のようなイメージで考えてほしい。トップニュースよりもさらに各社の違いが鮮明になっている。

 gooとヤフーは写真でもバランス型だが、MSN産経とミクシィには際立った特徴がある。MSN産経は77%がエンタメジャンルで、ミクシィは61%がエンタメ、スポーツとコラムが各12%。ともにエンタメ重視だ。ライブドアは芸能、スポーツ、音楽が三本柱。一方、アサヒ・コムは文化が22%あった。ヤフーは18%が海外の写真だ。ちなみに、芸能やスポーツの写真は、主に芸能人の記者会見や女性スポーツ選手で、水着など露出度が高いものも多く使われていた。

 面白いのは配信社だ。トップニュースで使われている記事の配信元を調べたところ、ヤフーでは毎日新聞、産経新聞、時事通信社で半分以上を占める、gooは朝日新聞、読売新聞、時事で42%、この2サイトはピックアップする会社に違いはあるものの、新聞社の記事に依存しており、「従来型」と言える。

 一方、ライブドアは、ゲンダイネット、時事、日刊サイゾー、内外タイムス、J−CASTニュースと続く。ミクシィでは、オリコンとレコードチャイナに続いて、読売と毎日、ロイターとなる。ライブドアは、配信社が非常に多く、トップでも50社以上の記事を紹介している。中には、「GIGAZINE(ギガジン)」「独女通信」「トレビアンニュース」など、ネットをよく利用する人でなければ、あまり聞いたことがない配信社・コンテンツホルダーもある。

 記事を書いているのも、ブロガーのような個人の場合もあれば、数人の編集グループの場合もある。記事の質もまちまちで、新聞社や通信社のような従来「ニュース」と呼ばれていたメディアの常識から考えれば首をかしげるようなものもある。

 ただ、一部ポータルサイトでは、これらのコンテンツが新聞社や通信社の記事と同じ「ニュース」というコーナーに並んでいるのが現実だ。読者から見ればそこにはなんら違いはない。

 ネットは、気軽に誰もが安価に情報発信できるのが特徴で、さまざまな書き手がニュースメディアに参入している。そのことによって、発信される記事の質、内容も、多様になり、「ニュース」という概念も変化していることがわかる。新聞社や通信社にとっては、ポータルに記事を配信している新興サイトもライバルとなり得る。

◆「ニュース」をめぐる新聞社の戦略の成否

 ここまでは「出し手」の論理だったが、「読み手」の傾向についても触れておきたい。読み手の傾向が最も表れるのは、ニュースへのアクセス順位を示すランキングだ(表1)。こちらは今年3月2日の午後5時に、ヤフー、goo、ライブドアの3社を比較した。これはある一瞬のアクセス状況を切り取ったに過ぎないため、関心のある方は自分でランキングを確認してほしい。

 ネットの世界でも、テレビの視聴率同様「読者の求めるものに応えていると低俗なものになってしまう」という声が一般にはある。最大手のヤフーニュースを見ても、トップニュースをバランスよく出す工夫をしているが、1位と2位、4位が芸能ジャンルとなっており、配信社もスポーツ紙が目立つ。ライブドアも芸能とスポーツが上位を占める。「kizasiジャーナル」「ガジェット通信」「ナリナリドットコム」などはネットでの話題を扱う新興サイトだ。一方、gooニュースは5位に芸能が入っているものの、政治、経済が中心。スポーツ紙は1社で、2位に週刊誌系のダイヤモンド・オンラインが入っている。

 ニュースというコンテンツをどこに、どう出すかを考えるうえで、気になるデータがある。ネットレイティングスが今年2月に発表した新聞社ニュースサイトの利用者動向調査結果だ。それによると、アクセス数の1位は毎日jp(毎日新聞)、2位がイザ!だが、ユーザー1人当たりの平均ページビューが多いロイヤルティーの高いサイトは、ヤフーに記事を配信していないNIKKEI NET(日本経済新聞)、アサヒ・コムの順で、アクセス数とは必ずしも比例していないことが明らかになっている。

 アクセスに課金せず広告で収入を得るネットのビジネスモデルは、民放テレビの視聴率と同様にアクセス数が重要になる。その数を増やそうとするあまり、薄利多売型の「安かろう、悪かろう」に陥りつつあるサイトも見受けられる。新聞社系でも、センセーショナルな見出しが目立つようになり、社によってはアクセスが望めるからと芸能ジャンルを中心に記事を出稿するように求める向きもあるという。しかし、それが本当に正しい戦略なのかどうか議論が必要だ。ネットでの展開のしかたが、伝統あるメディアのブランドイメージを低下させていることもあり得るからだ。

 単にアクセスを求めるのでなく、どのポータルに記事を配信するか/しないか、どのサイトと連携するか、コンテンツホルダーには一層戦略的な判断が求められそうだ。(「ジャーナリズム」09年4月号掲載)

藤代裕之 ふじしろ・ひろゆき

NTTレゾナント・gooニュースデスク。北海道大学CoSTEP非常勤教員。 1973年徳島県生まれ。広島大学卒。立教大学21世紀社会デザイン 研究科修士課程修了。徳島新聞記者を経て、現職。

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