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WR1175 国際競争力ランキング2002年版 −恒例のIMDによる今年度国際競争力ランキングが発表された。今年の総合ランキングでは、スイスは7位、日本は30位であった。因みにIMDとはネッスルやABBなど、スイスを始めとする欧大手企業がスポンサ−となっている欧州で最も有名なMBA養成所(本部ローザンヌ)で、日本人の卒業生も昨今増えつつある。筆者は本ランキングの作成責任者ガレリ教授とは旧知の間柄だが、彼の鋭い洞察力には何時も感心する次第で、彼など、日本経済建て直しの指南役には、最適の一人といえるだろう。

(2002/5/7)

在ジュネーヴ・NS Consulting:佐多直彦



恒例のIMD(International Institute for Management Development) による今年度国際競争力ランキングが発表された。因みにIMDとはネッスルやABBなど、スイスを始めとする欧大手企業がスポンサ−となっている欧州で最も有名なMBA養成所(本部ローザンヌ)で、日本人の卒業生も昨今増えつつある。また、この国際競争力ランキングは同校と並んで、かっては一緒にこれを作成していたのであるが、数年前から対抗版を独自に発表し始めたWEF(ダボス国際会議開催機関、本社ジュネーブ)のものがあるが、こちらのほうは発表は何時もIMDの数ヵ月後で、判定基準がかなり違う。

今年、まず注目されたのはスイスが総合10位から7位に上がったことで、他方日本は当然ながら26位から30位に転落した。主な総合ランクは下記の通り:

1. 米国     100
2. フィンランド 84.4
3. ルクセンブルグ84.2
4. オランダ   82.8
5. シンガポール 81.1
6. デンマーク  80.4
7. スイス    79.4
8. カナダ    79.0
9. 香港     77.8
10.アイルランド  76.2

以下、11スエーデン、12アイスランド、13墺、14豪、15独、16英、17ノルウエー、18ベルギー、19 ニュージーランド、20チリ、21エストニア、22仏、23スペイン、24台湾、25イスラエル、26マレーシア、27韓国、28ハンガリー、29チェコときて、やっと30に日本が顔を出している。これ以下で主要国は、31中国、32イタリ−、42インド、43ロシアというところ。

少なくともトップ10については、ルクセンブルグが金融オンリーという特殊事情を除けば、一応納得できるランキングである。なお、これは全部で49カ国について314の評価基準を元にしたもの。前年度との比較で注目されるのは、シンガポールがやはり金融依存が強いことから2位から5位に、香港が同じく6位から9位、アイルランドが7位から10位に転落していることや、独・仏・スペイン・イタリ−など欧州主要国が過度の社会保障と幾多の規制などが災いして低迷状態であることが注目される。日本に至ってはもはや論外といえよう。

スイスについて言えることは、改めてその健全さ。成長率は2000年の3パーセントから2001年の1.3に、2002年も見通しは良いとはいえぬにも関わらず、強烈なリストラが各方面に浸透し、経常収支で3位、失業率(低さ)で2位、外国投資で、その小さなサイズにも関わらず10位、証券取引収入で7位、また、インフラ部門でいうと社員の労働意欲度1位、工業部門でのコンタクトの豊富さ、医療インフラ、一人当り調査研究費負担度、教育システムなどでそれぞれ2位という数字も、メリットとして挙げられる。

他方、現状からして、スイスはまだまだ幾多の問題を抱えている。換言すればそれだけポジションを改良する余裕を持っている ともいえるわけで、その‘宿題’が何かということは、例えば、経済環境適応度29位、保護主義の度合いで31位、公共プロジェクト開放度36位、監査役信頼度25位(スイス航空を始めとする幾多の企業の大失態が反映)、熟練技術者の不足度23位(これを別の面から反映しているのが、移民受け入れに関する柔軟度32位)といった数字から歴然としている。また、国民全体のグローバル化対応度26位という数字も反省指標として受け入れるべきであろう。

このランキングの作成責任者ガレリ教授は、やや皮肉をこめて、「今年のスイスの数字はある意味でその消極性が幸いした、ともいえる。スイス航空やABBの破綻、ユダヤ金問題、そして今月から始まるEXPO02、すなわちちスイス万博に関する官・財・民対応度の悪さなど、昨今のスイスは深刻なイメージ低下を蒙ったし、いわゆるNEW ECONOMY対応度についても、上位のフィンランドやオランダにくらべると大幅な遅れを取っている。キーワードは企業透明度の改良、国民の積極性の改良などでもっと褌の緒を締めてかからぬと、今後がまだ心配である」と警告を発していた。

末筆ながら筆者は、ガレリ教授とは旧知の間柄だが、彼の鋭い洞察力には何時も感心する次第で、彼など、日本経済建て直しの指南役には、最適の一人といえるだろう。

(2002/5/3 原稿作成)


佐多直彦:プロフィール
     NS Consulting
     日瑞商工会発起メンバー、理事
     ジュネーブ日本人商工会 会長 (91 - 93)
     2000/1 発足のJCG(ジュネーブ日本クラブ)副会長 (2000/1- )
     GCN エグゼキュティヴアドヴァイザー(2000/1- )
<佐多直彦:最近の活動>
ダイヤモンド社より著書‘スイスはいま’発行、スイス に関して種々各紙(日経、日刊工業、毎日、朝日、読売、雑誌‘諸君’等)に寄稿 当地サンガレン経営大学、フリブルグ大学、IMD(在LAUSANNEの世界的に有名なMBA養成所), JETRO,日瑞商工会等主催の諸セミナーにて各種講演(独・英・仏語にて);
― KEY TO SUCCESSFUL CONQUEST OF THE JAPANESE MARKET
― INVESTMENT SITUATION OF JAPAN IN CENTRAL AND EAST EUROPEAN COUNTRIES
― ENTERING THE JAPANESE MARKET THROUGH SOGO SHOOSHA
― ‘MARUBENI’, A JAPANESE GENERAL TRADING COMPANY
― WHY IS JAPAN STILL AN OBJECT OF INTEREST?
― HOW TO ENTER THE JAPANESE MARKET
― スイスTV(阪神大震災の際の解説)、ラジオ(日本とスイスの類似点)に出演