ホウ酸はガラス製造の原料の一つですが、ここではそういう関連で両者について述べる のでなく、最近急速に建材などに使用されているものを代表するものとして述べます。 |
ホウ酸は生き物にとって毒でもあれば栄養でもあるホウ酸は木材の防腐剤としては抜群の効力があるようで、その上木材を難燃化するので木材保存の分野で使用量が増えています。また、木材だけでなく近年では住宅用の各種断熱材にも使用されています。ホウ酸は自然界には普通に存在し、とくに温泉や海水にはかなり高濃度に入っています。そのものは有機化合物ではないので自然界で分解されません。だから古くなったホウ酸入りゴキブリダンゴは、砕いた上で誘引剤としてのタマネギなどを入れれば何度でも使えるのです(理屈としてはですが)。 また、ホウ酸は植物にとっても動物にとっても一定量までは必要な物質で、刺激も臭気もありません。しかし、それ以上の量が摂取されると中毒症状を引き起こします。以前使用されていたホウ酸入り軟膏は使用が禁止されています。 人間の場合数グラムが致死量です。 一定量以上摂取させてはじめて殺虫剤になるホウ酸がシロアリ対策で殺虫剤として機能するには一定の条件が必要です。それは一定期間に一定量以上をシロアリに摂取させなければならないことです。ところが一部の建材や断熱材では、ホウ酸が含有されているというだけで「シロアリ対策に有効」とか「食べられない」というように宣伝されています。ひどいものでは「シロアリが忌避する」などというとんでもないものもあります。 当社でも長い間ホウ酸を主成分とする薬剤をシロアリ対策に使用してきましたが、確実に処理した薬剤層が突破されたり、蟻道の数が増えたり、駆除前より太い蟻道ができたりする現象も見られました。それは摂取濃度が低いことによるもので、かえって活性を高めてしまうようです。 これはアメリカカンザイシロアリでも経験しました。確実に前年表面散布した新品の板に羽アリがもぐりこみ、1年後に木材の中から生きたままの落翅虫が採取できました。 逆にうまくシロアリの生息状況にかみ合った場合には、処理していない部分にまで効果が拡がったこともあります。だから、普通の殺虫剤(防蟻剤)と同様に処理すると痛い目に合うのでそれなりの工夫が必要です。薬剤の個体間の伝達性は、ないとはいいきれませんがほとんど期待できません。 もちろん直接シロアリに吹き付ければ確実に死亡します。 心配される環境汚染紙をリサイクルした断熱材やビーズ発泡の「防蟻」断熱材、防炎木材などとして、最近家屋に関する分野で急激にホウ酸の使用量が増えています。しかしこれらの廃棄についてのマニュアルはほとんどないといっても過言ではありません。 たしかに今のところ基準値を超えて環境から検出されるのは国内でわずかな場所しか報告されておらず、また、生体への蓄積や濃縮も認められていません。 しかし、最近の使用のされ方は、その量からしても使用される分野の広さからしても、今までとは大きく異なるものです。アンカやカイロなど限られた範囲でで細々と使用されていた石綿の使用が住環境でいっきに拡がったようなものです。 たとえば、「安全性が高い」といわれる紙のリサイクル断熱材が民家で競って多用されるようになれば、その量は膨大となり将来その廃棄場所から環境中に移行する心配もあります。しかもホウ酸は難燃剤ですから容易に燃やすこともできません。 難燃木材でも、文化財的建物以外の一般住宅で多用されるようになると、外国と比べて異様に建て替えの好きな日本にあっては、厄介な廃棄物が量産されることになります。 したがって、建築士・工務店においては、新しさや都合のよさで施主に薦めない、施主は安全だからと安易に飛びつかないことが必要です。 とくに必要もないのに、壁や天井裏の断熱材から土台・柱の難燃木材、それに基礎断熱の「防蟻」断熱材等々、上から下までホウ酸漬けの家が現実のものとなりつつある風潮はどう見ても正常ではありません。 ところが、こうした人為的で急激な使用増加がとくに問題視されない反面、天然のホウ酸排出にはどういうわけか厳しい規制がかけられるようで、有名温泉が危機に陥る可能性があります。 ※ 紙リサイクル断熱材やビース発泡断熱材そのものの問題点はここでは述べません。 |
ガラス繊維は、「耐蟻性が小」でもなければ「大」でもない以前、各種木材と並べてガラス繊維(グラスウールとして)の「耐蟻性」を「小」だと発表した研究者がいましたがそれは間違っています。グラスウールを木材や発泡系断熱材と同じようにかじることはありません。しかし、かじられないというわけでもありません。つまり、木材などと同じ基準で「耐蟻性」を語れないのです。どういうことかというと、断熱材のグラスウールにはよくシロアリ被害が見られます。それはウールの両側に貼り付けられたフイルムと紙の部分がよく食べられるからです。しかしグラスウールそのものの中に木材と同じようなトンネルや蟻道ができることはまずありません。 木材と接する部分に蟻土が詰め込まれて、グラスウールの一部が侵食される現象はヤマトシロアリでもあります。 イエシロアリでは、木材部分から吹き出た蟻土がグラスウールを支えに壁の中で発達し、グラスウール自体もシロアリが必要な分だけ巣に置き換わるようなこともあり、ガラス繊維を切り取っていることは確かです。 それでも発泡系断熱材のようにグラスウールの中に四方八方蟻道が延びるということはまずありません。 また、従来のグラスウール断熱材は壁の中にそれほど圧縮されて入っていません。したがってわずかな振動で表面のフイルムや紙の部分も動きやすく、蟻道も構築しにくいので、どちらかといえば壁材と接触して動きのない面が多く(あるいは最初に)被害を受けます。 したがってグラスウールやガラス繊維一般でいえば、「耐蟻性」は「小」でもなければ「大」でもないのです。つまり、ある程度までのシロアリの規模や活性ではほとんど被害にならない材質といえますが、一定の条件下ではかじりとられたり巣に置き換えられることもあるということです。これは金属類、貝類、人骨、硬質プラスティックなども同じで、かじられることがあるからといって物質そのものがシロアリに弱いとはいえないのです。 もちろん、発泡系断熱材のようにシロアリにとって適度な硬さで、かじる行為を材質自体が促進するようなガラス材料ができればそれは「耐蟻性小」といえます。 織り込まれたガラス繊維のシートの被害の可能性についていえば、これも織りの密度やシロアリの状態に左右されます。 ホームセンターなどでFRP用に売っている薄いガラス繊維は少し強力なイエシロアリ集団ならかじって通過します。 これに対してシロアリ対策用のものは織り込みが密で、特殊に薬剤が塗りつけてあったり、片面が厚くコーティングしてあったりするので、よほど強力な集団でなければ短期に貫通突破はできません。だから、設置方法を工夫して定期点検と組み合わせればシロアリ対策に利用できます。 基礎の断熱材としては問題が予想される最近「発泡系断熱材がシロアリに弱いから」と基礎断熱に圧縮したガラス繊維を利用する方法ができましたが、これの推進者たちは「シロアリはガラス繊維を食べない」と一面的に思っているようで今後の推移が危惧されます。圧縮されたガラス繊維はグラスウールよりもシロアリにとっては動きのない空間が得られますので、場合によっては通過される可能性が出てきます。 しかも基礎断熱として設置する場合、下端は地面に接触させるので、当初は撥水性があるとはいえやがては毛細管現象の作用(断熱材と基礎の接合部も含めて)で水を引き上げる可能性もあり、この点からも問題が出ます。 なおガラス繊維ではありませんが、発泡ガラスを基礎断熱材として使用するとシロアリがかじれないので対策として有効という見解もあります。 たしかにそれ自体はかじって通過できませんが、ヤマトシロアリが接合部を通過して2階まで到達した事例がすでに出ています。この場合、専門家でなく工務店(工務店・建築士はシロアリ対策では素人)が勝手に設置したことが致命的な問題です。 |