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社説:温暖化防止目標 産業構造変える覚悟で

 日本にとって実現可能で、国際的に通用し、公平性も保たれる。もちろん、結果として地球の気候の安定が保たれる。そんな、困難な条件を満たす温室効果ガス削減の「ベストアンサー」は何か。

 2020年時点の「中期目標」について、政府の検討会が六つの選択肢をまとめた。京都議定書以降(ポスト京都)の枠組み作りに向け、早急に作ることが求められていた議論の土台である。

 にもかかわらず、ここからは日本のめざす方向性が見えてこない。政府は、早急に議論を煮詰め、国際交渉に備えるべきだ。

 日本が中期目標を考える上で必要なのは、まず、地球の将来についてビジョンを決めることだ。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の分析では、地球規模の被害を抑えるには、先進国全体で20年までに90年比で25~40%削減する必要がある。

 これは勧告ではないが、数値は無視できない。だとすれば、90年より排出が増える選択肢は論外だ。

 公平性の確保も重要課題だ。今回、検討されたのは、先進国間で「追加削減費用を同じにする」「国内総生産(GDP)当たりの対策費用を同じにする」という二つの指標だ。日本は他国に先駆けて省エネに取り組んできた。このため、他国と同じだけ削減するのに、より高いコストがかかる。削減費用の均等化は日本の削減量を低く抑えられる指標だ。

 しかし、この指標だけで他国を説得できるとは到底思えない。何を公平性の指標とするかには、各国の国益がかかっている。それらを分析した上で、戦略を持って国際交渉に臨まなければ、足をすくわれる。

 もうひとつ大事なのは、現在の産業構造を前提とした、「損得勘定」にとらわれないことではないか。

 今回、削減率に応じて、GDPや所得の押し下げ、失業率の増加なども分析されている。だが、その数値をはじき出した経済モデルは、現在の産業構造を元にしている。国が進めようとしている「グリーン・ニューディール」などで産業構造が変われば、経済への影響も変わる。

 日本に必要なのは、損を恐れて腰を引くことではなく、低炭素社会に向け、産業も個人の生活も変えていく覚悟であり、それを後押しするデータだろう。

 ポスト京都の枠組みには、米国に加え、中国やインドなど主要経済国の参加が不可欠だ。それを促すには、日本が野心的で魅力的な目標を掲げる必要がある。麻生太郎首相は6月末までに中期目標を決めるというが、悠長に構えてはいられない。6月に予定されている国際交渉の場では、日本の目標を示すべきだ。

毎日新聞 2009年4月19日 東京朝刊

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