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社説:社会保障カード 不安解消が導入の前提

 年金手帳や医療・介護保険証の役割を1枚のカードにまとめる「社会保障カード(仮称)」は、自宅で年金記録が閲覧できるなど便利な機能を多く持っているが、その半面、個人情報侵害の不安などのリスクと背中合わせになっている。カードの利点は認めるが、国民が不安や懸念を持たないシステムを作ることが導入の大前提だ。

 厚生労働省の有識者検討会が社会保障カードの基本計画の報告書をまとめた。同省は今年度中に複数の市町村で実証実験を行い、問題点を洗い出し、11年度の導入を目指している。検討会は今年3月には報告書をまとめる予定だったが、委員の意見集約が遅れた。そこで「一定の結論を得たものではない」と、ただし書きを付けたうえで了承し、今後さらに検討を続けることになった。

 報告書がまとまったから終わりではない。基本計画は十分なものとは言えず、残された問題も多い。課題を残さず議論し、よりよい仕組みにしていく作業を続けるべきだ。それを怠り、カードを日常的に使う国民からそっぽを向かれたら、巨額の投資が無駄になる。

 カードの導入には賛否両論がある。プライバシー侵害や情報漏れの危険性があるからだ。そこで個人情報の一元的管理への不安を解消する手段として、年金、医療、介護の情報を集約化せず、カードで中継データベースにアクセスし、そこから年金など個別のデータベースに接続して情報を得る仕組みとした。これによって年金や保険証の番号を共通化し、国民一人一人に社会保障番号をつけて管理することは見送った。中継データベースへのアクセスは安全性が高いと言われる「公開鍵暗号」の技術を採用する。

 公的機関による個人情報管理システムが幅広く国民に理解を得られないのは、住民基本台帳ネットワークが普及しないことなどからも分かるように、公務員に対する国民の根深い不信感があるからだ。公務員に対する不信感をぬぐい去ることも重要なことだ。

 社会保障カード導入の前に、国民に説明すべき課題がある。導入のためのシステム構築などにかかる費用の試算を早急に明らかにし、費用対効果を判断する材料を示すべきだ。

 次に、政府は現在行っている電子政府・自治体を目指す「国民電子私書箱構想」の検討を急ぎ、国民に示すべきだ。この構想の重要な柱として社会保障カードが位置づけられており、報告書は「同カードのためだけの新たな投資は極力避けることが必要」と指摘している。無駄な二重投資を避けるためにも、政府は全体構想を早く示すべきだ。

毎日新聞 2009年4月19日 東京朝刊

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