うなれ! 俺の右こぶしっ!
「あの男前がもう少し遅ければ……」
先日私が某私鉄に乗っていると、途中の駅から乗ってきた男子高校生2人組が、あろうことか電車のドアとドアのちょうど真ん中あたりの通路部分にどっかりと座って談笑し始めた。
おいおい。話には聞いたことがあるが本当にこんなやつらがいるのか。恐るべしゆとり教育世代。
それにここをどこだと思っているのだ。おしゃれ人気スポットの駅も通る大人気路線だぞ。ヤンキーなんて見たことない区域だぞ。
私は怒りと呆(あき)れで頭の中がいっぱいになり、
「おい。君たち。そこは座るところではない。立ちたまえ」
と心の中でつぶやいた。
私の心の叫びは若者たちには届かず、それどころか彼らは菓子パンとジュースをむさぼり始めた。
なんなんだお前らは。
私はどう彼らに注意すべきか頭の中でシミュレートを開始した。まずは、やさしく語りかけるべきだろう。しかし、それで素直に引き下がるあいつらではない。
彼らが反抗してくるようなら、強く出なければならない。場合によっては、やむを得ずコブシを振るう羽目になるかもしれない……。
そんなことを、彼らの方はなるべく見ずに考えていた。
彼らは、自分たちを注意しない周りの大人たちをあざ笑うかのように、自由気ままに振る舞っていた。
次の次の駅あたりでまだやめないようなら、なんか言ってやろうかな。腹話術風に。などと考えていると、止まった駅からカップルが乗り込んできた。
そのカップルの男性(男前)の方が彼らを見るなり、
「そんなとこに座ってると邪魔だよ」
と声を掛けた。
当然、高校生2人組は、「ああ? なんだこのおっさん」といった雰囲気で、その男前につかみかかる勢いだ。
私は「なんで俺がドキドキしてんだよ」などと考えていた。そのとき、その男前がなにやら彼らを怒鳴りつけた。
「あ? ガキどもが調子に乗ってんじゃねえぞこら」みたいな内容だった気がする。ケンカを売るなら人を見てからにしろ!というような内容。ドキドキしすぎて覚えていない。
それを聞いた2人組はなぜかすごすごと引き下がり、悪態をつきながら次の駅で電車を降りていった。
その瞬間イスに座っていたおばさん3人組が拍手喝さい。男前は照れていた。彼女は何か誇らしげだった。
私は、彼らを注意するシーンをシミュレーションしただけでバクバク鳴っていたわが心臓に、何か釈然としないものを感じつつ電車を降りた。
その夜、「やはり、男には強さも必要だな。ときには汚い言葉も吐けるような男にならないとな。そんな言葉を吐けるくらいの自信もつけないとな」などと考えながらビールを飲んだ。
うちの猫には、「あの男前がもう少し遅ければな。手柄を横取りされたよ」と話した。