【Corpus Study】コーパスで学ぶ本物の英語
滝沢直宏:名古屋大学大学院教授
連載も3年目に入りました。4月になり、新しい読者も増えたと思うので、今回は連載の趣旨を再度、述べておきます。
まず、連載のタイトルに含まれている「コーパス」とは何かということですが、簡単に言えば「電子化された大量の言語資料」のことです。英語には、The British National Corpus や The Bank of English といった億単位の語数をもつ巨大なコーパスがすでに構築され、辞書の編集や語法・文法研究などに大いに役立てられています。言語研究用に構築されたこれらのコーパスには、膨大な語数の言語資料が含まれているだけではなく、各単語には品詞情報も付けられているのが普通です。(例えば、very は「副詞」、tall は「形容詞」といった具合です)この情報があるために、品詞に基づくコーパス検索も可能になります。
上に挙げたような言語研究用に構築されたコーパスとは別に、各新聞社が出している新聞記事のデータベースや、インターネット上の言語資料(Googleなどの検索エンジンで検索可能)もあり、こうした資料も広い意味ではコーパスと見なすことができます。
コーパスは規模が巨大で電子化されているので、活用する際にはコンピューターの力を借りる必要があります。コンピューターを使って、膨大な言語資料のいわば大海を検索し、それによって英語の使われ方の実態を詳細に調べるわけです。
コーパスはあくまで資料ですから、その用途があらかじめ決まっているわけではありません。私自身も様々な用途でコーパスを使っているのですが、そのうちのひとつは、語と語の自然な組み合わせ(専門用語ではコロケーションと呼びます)を知るためです。やや大げさに言うと、辞書を引かない日はあっても、コーパスを検索しない日はないと言えるくらいに、私にとってコーパスは必須の研究道具になっています。例えば、日課として読んでいる英字新聞で気になるコロケーションを見つけたら、それを出発点にして様々なコーパス検索を行います。
例を挙げましょう。3月中旬の日本は「季節はずれに暖かい」日もあり、ところによっては桜の花が例年より早く咲き始めたようです。この「季節はずれに暖かい」は unseasonably warm と表現できるのですが、もしこの表現に興味をもったとしたら、コーパスを使って次のような検索をしてみます。
(1) unseasonably が warm を修飾している例文を検索し、その使われ方を調べる。
(2) unseasonably は warm 以外にどんな形容詞を修飾するのかを調べる。
(3) warm を修飾する副詞は unseasonably 以外にどんな語があるのかを調べる。
(4) unseasonably と同様に、un- で始まって -ably で終わる副詞にはどんな語があるのかを調べる。
他にも様々な調査項目を自分で設定することができます。
自分が興味をもった表現を基にコーパス検索し、その結果を検討することで、使える英語の幅を拡げることができるわけです。
この連載では、理解するのは平易でも自分から使うのは難しいと思われる語を中心に選び、その語を出発点にしてコーパスが示す英語表現の世界の一端を紹介することにしたいと思います。