−原子力開発は誰のため? 何のため?−
要約:東海村の風下50km圏に住んでいた店主は、事故から半日後の深夜、政府声明を含めた情報をもとに独自の判断で避難を決行しました。結果的には、緊迫感に溢れた避難訓練に終わりました。ほんの一歩間違えれば、「逃げて良かった」になっていた模様です。(リンク集はこのページの後半部にあります) |
1.茨城県に赴任して:店主は、東海村から50km南西の湿地帯に住んでいます。1989年の赴任当初から「東海村の猛毒プルトニウムがもし漏れて、そのとき北風が吹いていたら一目散に大阪以西か北陸方面に逃げるよりないな」と思っていました。あれだけの被害を出したチェルノブイリ原発事故の時ですら、猛毒プルトニウムは出ていません。そのプルトニウムを東海村ではたくさん扱っている、という知識だけはあったのです。
2.遅かった事故のしらせ〜事態の拡大:事故当日、職場では何も知らされず、夕方4時過ぎから所用でJR常磐線に乗って上京中、車内で高校生が「原発が爆発して放射能が漏れ続けているらしい」と喋っていたのが私にとっての事故の一報でした。でも、それ以外は、車内も駅も町も、なにもなかったような風情です。 3.考えたこと:こういう時に頼りになるのは希望や楽観や人任せよりも「およそたしからしい事実による常識的判断」です。判断の材料は以下の通り。
で、逃げたわけです。みんなが逃げ出してパニックになってからでは遅いし、どうせ心配で寝られないのならその間、少しでも放射線源から離れた方が良い。バタバタと最小限の身支度をし、23時に自家用車で高速道路を一目散に西の方向に逃げました。高速は、何もなかったかのようにひっそりしていて、首都高速渋谷のあたりに故障車渋滞があった以外はすいていました。体調も良くなかったので無理せずゆっくり走行。静岡県内に入ったところで高速をおり、ひとまず様子を見ることにしました。このとき深夜2時半。TVが夜通し報道を続ける中、仮眠し、朝方「一応終息」の報を耳にしましたが、もう一泊して帰宅した次第。やれやれ取り越し苦労か。 5.後日談:ところが、10月10日放映の「NHKスペシャル」を見て、あらためて驚きました。「決死隊」による冷却水の除去によって臨界が終息したのも半ば偶然。コンピュータシミュレーションでは失敗する確率もあった。運が良かっただけのことです。しかも、6時15分に臨界状態が終息するまで、中性子はその勢いを減じることなく、20時間も放出し続けていた(註:この点、番組だけからは定かでないが、臨界状態の終息直前まで中性子の測定値はある一定の値を示していたのが、6時15分にガクンと落ちた、というグラフが放映された)のです。そしてそのうち半分近い時間は北風が吹いていました。
しゃにむに逃げたのは正解だった。正解だったと今思いながら、それは「良かった」という気持ちでは全然なく、どうにもやりきれない思いにとらわれています。
6.おわりに:東海村、山陽新幹線(コンクリート落下)と、日本は次々に、まったく不幸中の幸いで最悪の大惨事だけは免れたようにみえます。少なくともプルトニウムについては、欧米では、あまりに危険なのでやめよう、ということになっているようです。スウェーデンでは、チェルノブイリ事故の被害者になる6年も前から、エネルギー政策の舵取りに関する住民投票が行われ、長期的な目標について国民的合意がえられました。原発の撤去には至っていないものの、実際、木質系エネルギーの循環利用が急速に増大しています。グローバルな民間ベースでも、エクソンのような巨大石油資本が、再生可能エネルギーの研究開発に精力的に取り組んでいる時代です。その方が長い目でみて経済的だからでしょう。
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真相が知りたいリンク集
- 「早すぎた学校再開」−地元住民の投書(週刊金曜日291号,99/11/12) www.jca.ax.apc.org/kinyobi/tosyo/tosyo.html#1
投書の主である地元住民によると、「当日発令された『屋内退避』要請も10月1日には解除され、翌2日からすぐさま学校が始まった。JCOから目と鼻の先にある本米崎小学校・幼稚園も例外ではな」かった。教育委員会に、「せめてこの学校だけはしばらく休校を」と訴えたが「安全宣言が出ているから」と聞き入れられず、休めば欠席扱い。その後、放射性ヨウ素等の漏洩が発覚している。
要するに、JCOからたった500mのところで学んでいた学童・園児たちは、「安全回復」イメージを演出するための生け贄にされた といっても過言ではないでしょう。いったい誰のために、何のために捧げられた生け贄なのでしょうか。風評被害のなせるわざか…嗚呼。ちなみに、原子力産業の社員の子弟は登校していないとの週刊誌報道もあります。
- 放医研N氏のコメント http://www.hk.airnet.ne.jp/~jugoya/weekly_ee/ee049.HTML
事故当初、被曝した3名は、水戸の市立病院に運ばれ、そこでは手に負えずヘリで千葉市の放医研に運ばれ、その後東京都文京区の東大病院に移送されて現在に至っています。その放医研職員の匿名証言。
重傷の被曝者2名は、「体そのものが放射能化」してしまったという。よって医師の被曝を防ぐために治療がいかに困難をきわめたか、放医研で同様の患者を治療できるキャパは10名まで、そして体外被曝のみの検査で出された「安全宣言」は疑わしいことなど。戦慄の放射線被曝と医療体制の実態。
- 東大生技研 安井先生による分析 plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/
限られた情報から何が言えるか、リスク管理論の立場で冷静かつ緻密に議論しています。中性子線が20時間放出され続けていたかどうかは疑問視するものの、事故直後の一瞬に村内の別の施設である原子力研究所の中性子線測定器が異常値を検出したことを指摘し、事故直後にどれだけ多くの中性子が出たかをJCOは公表すべきだと論じる。過度の心配を煽ることや「風評」については批判的で、実際の被曝による健康リスク増よりもむしろ、住民の被る心理的重圧が、妊娠中絶や健康リスク増という形になって現れるのが怖い、と断言。社会的意思決定におけるパターナリズムへの懐疑を素通りした工学的発想が気になります。ただし、事故そのものは「もんじゅ」の1000倍ぐらい危険。普通の建物の中で原爆ができたに等しい、などと指摘し、事故当初よりマスコミを叱咤していました。
- 全労連機関誌第225号(99.10.27)に掲載されたドイツ紙『ツァイト』の記事抄訳
事故当時、東海村から全世界に向けてSOSのe-mailが発信され、英・独の専門家がこれに応えたそうです。以下その一問一答。
英独>消火・検査用ロボットを送り込みなさい。
日本>その種のオートマチック装置はないのです。
英独>…(ドイツでは数秒後にこの種のロボットが送り込まれるシステムなのだが)
英独>これらの濃縮ウランを薄めるか、あるいは別の容器へと導くべきリモコン装置はないのですか。
日本>ないのです。
日本>冷却水を流出させてはどうでしょうか?
英独>…(事態はそこまで深刻なのか)
- 原子力資料室による「臨界事故」関連コンテンツ pub.jca.apc.org/mirror/cnic/news/tokai_critical/
独自の測定結果などをもとに、中性子線が止まって10日以上経った10月13日現在も「放射能放出はまだ続いている」としています。中性子線は事故後20時間出続けていた、とする立場をとる。
- 「早よう逃げい!」と今回の事故の危険をいち早く喝破し、住民に避難を呼びかけた「宮崎学ページ」内の事故関連リンク集 www.zorro-me.com/miyazaki6/txt/to-readers/nuclear.html
いま、社会問題ならこの人。「自分が犠牲になっても地元のために生きようという気持ちがある人以外は、逃げなさい」と未明に書いておられました。世の中のキケンな仕組みや、自分の身は自分で守るしかないという哲学を教えられるページです。
- バイオマス火力発電 www.nedo.go.jp/nedo-info/green/tec/BIomass.html
アメリカ国立再生可能エネルギー研究所のR.L.Bain氏が1996年に発表したレポートの和訳。木材のような再生可能な資源の燃焼による発電について詳細に分析。木材は、伐採した後植林すれば何度でも使えるわけですから再生可能。経済性は有望、環境面でも(生物多様性を減少させない配慮は必要ですが)悪くない、としています。枯渇性資源を使わないこうした技術を、今後、重点的に開発していく必要があると店主は考えます。少なくとも打ち上げ失敗1回で85億円を失うH*ロケ*トよりは先決かもしれません。
- 原子力百科事典ATOMICA http://atomica.rist.or.jp/
原子力研究開発者側の「高度情報科学技術研究機構」の原子力PAデータベースセンター(東海村)運営の用語辞典。専門用語に関する正確な知識を得るのに役立ちます。
- Chernobyl's effects linger on uk.news.yahoo.com/000510/121/a6ghj.html
2000年5月10日付のこの記事(英・アイルランドYahooNews)によると、チェルノブイリ原発事故の影響は、北部ヨーロッパのいくつかの地域で、予想しなかった長期に及ぶとあります。Natureに載る英蘭の研究者の論文の要旨。Ref.同旨記事のノルウェー語版
- Enorm atom-erstaning i Japan no.news.yahoo.com/000511/3/14b1.html
東海村事故の損害を、2000年5月時点で総括したものらしい。ロンドン発とあるが、英国YahooNewsには見あたらない。ノルウェー語。
- 藤村 陽 先生(京大,気相化学反応動力学) kuchem.kyoto-u.ac.jp/bukka/member/fujimuraj.html New
ロクに宣伝もしていない拙頁をどうやって見つけられたのか、専門家がリンクに加えて下さっているのを発見。おかげでここを久しぶりに更新しました。当然ながら非常によく調べられたリンク集です。