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「バガボンド」井上雅彦さん、熊本で展覧会

2009年4月18日

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写真展覧会と熊本への思いを語る井上雄彦さん=熊本市現代美術館、柏木和彦撮影写真宮本武蔵を筆で描く井上雄彦(C)FLOWER

 マンガ家井上雄彦(たけひこ)さんによる宮本武蔵をテーマにした「最後のマンガ展 重版 熊本版」(6月14日まで)が、熊本市現代美術館で開かれている。連載中のマンガ「バガボンド」は武蔵が主役。進行中の物語のはるか先を、佐々木小次郎との決闘もすっ飛ばして、筆で大胆に描いている。武蔵最期の地・熊本での展示を経て、一代の武芸者をどこへ向かわせようとしているのだろうか。(菅野みゆき)

 「重版」とは出版の世界で刷り増しをすること。今回は、東京・上野の森美術館で昨年開かれた「最後のマンガ展」の「重版」ともいえる構成だ。大きい作品だと、高さは3メートルにおよぶ。極めて細い線や、墨の濃淡だけの表現など、筆で思う存分腕をふるった作品が、強く、時に柔らかく迫ってくる。

 せりふは少なく、余白もたっぷり。大きな画面に小さな鳥が飛んでいるだけの絵や、何も描かれていないパネルもある。マンガの宿命である、二次元のわかりやすい説明からのびのびと解放されている。筋書きや誌面の大きさなどマンガ表現への日々の悩みへの解答にも見える。

 熊本は、武蔵が「五輪書」を書き、死を迎えた地。井上さんも学生時代を過ごした。熊本のために新たに書き下ろした展示作品もある。「ここは特別な場所。熊本だからこそ、僕だけの武蔵を見せることができる」

 「バガボンド」は、吉川英治の小説「宮本武蔵」を原作に98年、週刊モーニング(講談社)で連載が始まった。単行本は29巻まで出ており、売り上げはすでに5千万部に達している。海外でも22カ国で出版されている国際的なヒット作だ。

 連載での武蔵は、吉岡一門を切りまくった末に脚に深手を負い、歩くこともままならない。幼なじみのおつうとの心の通い合いも強調され、この先、剣を振るえるかどうかすら分からない。ライバルの小次郎は耳が聞こえない武芸者として登場している。

 「マンガは確実に終わりに近づいているのに、これからの展開をどうしたらよいのか迷っている。武蔵が巌流島に行かなければ、納得しない読者も多いでしょう。でも、2人は闘うのか、さらに武蔵が勝つのかすら決めていないのです」と井上さんは明かす。

 連載途中に、「硬いペン先では、意図しないなにかが生まれず、窮屈だ」という理由から、ペンを筆に持ち替えた。柔らかい筆先は人物像に奥行きを与え、その結果、物語の流れは「キャラクターに聞くしかない。そのキャラクターならではの行動にまかせている」。

 同展は来年も、大阪や仙台で、それぞれ「重版」することが決まっている。雑誌と美術館を行き来しながら、その振幅の中から、武蔵や小次郎の新しい物語が紡がれていくことになりそうだ。

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