競泳の世界選手権(7~8月、ローマ)代表選考会を兼ねた日本選手権は第2日の17日、浜松市の古橋広之進記念市総合水泳場で男女計8種目の決勝を行った。女子百メートル背泳ぎは寺川綾(ミズノ)が2月に同種目の短水路世界記録を出した酒井志穂(ブリヂストン)らを破り、7年ぶり2度目の優勝を果たした。二百メートル自由形は日本記録保持者の上田春佳(東京SC)が連覇。二百メートルバタフライは宮本悠衣(東京・藤村女高)が初優勝した。
男子百メートル背泳ぎは古賀淳也(スウィン埼玉)が日本勢で初めて53秒を切る52秒87で初制覇。四百メートル個人メドレーは高桑健(自衛隊)が4分12秒41、千五百メートル自由形は園中良次(きらら山口)が15分4秒91と、ともに日本新で初優勝した。二百メートルバタフライは北京五輪銅の松田丈志(レオパレス21)が4年ぶり3度目の優勝。二百メートル自由形は内田翔(群馬SS)が初めて制した。
北京五輪代表の伊藤、短水路世界記録保持者で18歳の酒井という強敵が顔を並べた女子百メートル背泳ぎ決勝。寺川は持ち前のスピードを生かして50メートルをトップで通過した。だが、ターン後に酒井が得意のバサロ(潜水泳法)で追い上げる。残り20メートルを切ってからはスタミナが持ち味の伊藤が酒井を抜いて肉薄した。
だが、寺川は己を信じた。「一瞬、泳ぎも乱れたが、残り15メートルをしっかり泳ぐことだけを考えて」冷静に逃げ切った。04年アテネ五輪代表の24歳は日本水泳連盟が定める世界選手権の派遣標準記録も突破。2位の同じ24歳の伊藤とともにローマへの切符をほぼ確実にした。
寺川は伸び悩んで米国を拠点としたこともある。昨年の日本選手権は敗れ、北京出場を逃した。昨年12月からは北島康介らを育てた平井伯昌コーチに師事した。だが、練習で好タイムを出しても「レースで、そんな良いタイムが出るはずがない」と不安がった。
そんな寺川に「ベテランは失敗経験ばかり頭によぎり、衰えていくという話を何度もした」と平井コーチ。決勝前の指示は「最後15メートルしっかり泳げ」。
「いつもは周りばかり見て焦っていたが今回は集中できた。自分のやってきたことを信じた」と寺川。世界選手権は03年以来の出場となるが、初五輪のアテネは二百メートルで8位に入った実力者だ。レース後は涙で何度も言葉に詰まったが、精神面の課題を一つ克服し、復活ののろしを上げた。【飯山太郎】
毎日新聞 2009年4月18日 東京朝刊