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きょうの社説 2009年4月18日
◎国伝建に黒島 能登の文化財を磨く弾みに
国の重要伝統的建造物群保存地区に決まった輪島市門前町黒島地区は、能登半島地震の
被害を乗り越え、伝建選定を通じて震災復興に取り組む全国のモデルケースとなる。能登では初めての選定であり、これを弾みに半島の豊富な文化財にさらに磨きをかけ、地域づくりに積極的に生かしていきたい。北前船時代の面影を残し、黒瓦屋根や外壁の下見板張りなどの統一感ある黒島の家並み は、建築専門家の間では以前から高い評価がなされてきたが、文化財としての保存運動が具体化したのは、多くの家屋が損壊した被災後である。 黒島ではかつて船大工の流れをくむ職人が大勢いて伝統的な家並みが守られてきた。震 災後には「まちづくり協議会」が設立され、伝統工法による修復を住民に呼びかけた。早期の選定につながったのは、そうした地域の努力や熱意があったからである。 大きな被害を受けた船問屋の「角海家」(県文化財)は、輪島市が所有者から寄付を受 け、今後、修復して公開される。典型的な伝統家屋についても内部の公開が検討されている。伝建地区としての黒島の今後の取り組みは、木造家屋群の美しさを伝え、北前船や天領という能登の象徴的な歴史に光を当てることになる。 文化審議会の答申では、既に伝建地区に選定されている加賀市橋立で、北前船主屋敷「 忠谷家住宅」が重要文化財に決まった。県内で二つの「北前船の里」の文化財的価値が高まったことで、両地域を結びつけて生かす発想があっていい。 能登では中世山城の国史跡七尾城も能登半島地震で石垣が崩落したのを機に、城跡の全 容を解明する調査が始まる。被災は身近な財産に目を向けるきっかけを与えたわけだが、能登には価値の高い文化財が数多く存在するにもかかわらず、それらが十分に活用されてこなかった印象も受ける。 とりわけ羽咋市から七尾市にかけては、石動山、雨の宮古墳群、万行遺跡、能登国分寺 跡、妙成寺、気多大社など、国指定の史跡、建造物などが集中している。市町の枠を超え、これらを一体的に活用していく視点も大事である。
◎パキスタン支援 北の技術拡散に歯止めを
パキスタンの安定化策を話し合う支援国会合で、麻生太郎首相が最大百億ドル(約一千
億円)の支援を表明した。「パキスタンの安定なくしてアフガニスタンの安定はない」と述べた麻生首相の言葉に異論はないが、巨額の支援と引き換えに、北朝鮮のミサイルや核技術がパキスタンなどを通じてアラブ世界に流れ、テロリストに渡ることのないようクギを刺しておく必要がある。北朝鮮による「人工衛星打ち上げ」を名目とした長距離弾道ミサイル発射には、ミサイ ルを売り込む狙いがあるのは明らかだ。パキスタンはかつて北朝鮮にミサイル開発の支援を受け、カーン博士が構築した核の闇市場を通じて、核濃縮技術を伝えた経緯があり、北朝鮮との関係が深い。北朝鮮の技術拡散を防ぐためにパキスタンの積極的な協力が必要だ。 米国政府などによると、北朝鮮はこれまで核兵器と弾道ミサイルの開発を同時並行で進 め、一九八〇年代に、旧ソ連のスカッドBミサイルから「ノドン」の開発に成功した。これらの技術はパキスタンやイラン、シリア、リビアに売られ、巨額の外貨を稼ぎ出している。パキスタンが九八年に発射実験を行った中距離弾道ミサイルの「ガウリ」やイランの「シャハブ」は、いずれもノドンのコピーといわれる。 最悪のシナリオは、北朝鮮の核とミサイルの技術が、国際テロ組織「アルカイダ」やイ スラム原理主義勢力「タリバン」に渡ることだ。パキスタンとアフガニスタンの国境地帯は、それらテロ組織の活動拠点になっており、アフガニスタンに展開する米軍だけでは対処しきれない。 オバマ米大統領は「テロとの戦い」の主戦場をイラクからアフガニスタンに移そうとし ている。日本は、米国の意向をくんでパキスタンを財政的に支え、アフガン国境地帯へのパキスタン軍の展開を後押しすることになろうが、財政支援をして終わりではない。北朝鮮の暗躍を許さぬために感度の高いアンテナを立て、パキスタン政府とより密接な関係を築き、影響力を行使していく必要がある。
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