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【農は国の本なり】

第3部・バラマキの果て〔4〕 放棄農地にまた税金

2009年3月24日

再生した畑で、野菜を収穫する食品会社の社員ら。奥の農作業小屋は、生い茂った雑木に埋もれていた=石川県七尾市能登島久木町で

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 「同業者の宴会は決まって和倉温泉。そりゃ派手だったよ」

 石川県・能登島の元建設業者は往時を懐かしく思い出す。受注はすべて談合。「何もない土地で、みんなが生きていくための知恵だった」。しかし、小泉改革での公共工事削減で行き詰まり、会社をたたんだ。

 農業関連の公共事業に沸いた当時、小さな島に10社近くも建設会社があり、農道整備や田畑の土地改良などを地元業者が分け合った。

 土地改良事業は税金以外に農家の「負担金」もあるが、ある業者は「受注業者が肩代わりする暗黙の談合ルールがあった」と証言。高齢化で先細る農家からも反対はなく「10年前までは業者同士の接待で、どこの旅館もぎっしりだった」と民宿経営者(53)は振り返る。

 同県七尾市の食品会社が農業参入し昨年6月、島西部の耕作放棄地12・6ヘクタールで、キャベツやニンジンなどの畑作を始めた。

 草木の伐採や整地などの費用700万円のうち、8割は国や県などの補助金。もともと公費で整備した農地に、再び税金が使われた。

 「農家がもうからない仕組みを作った農政のツケ。『二重投資』と言われれば、それまでだ」と能登島町土地改良区の理事長黒田拓量(72)。食品会社が利用する耕作放棄地の地主の大半は、高齢化で農業に見切りをつけた。

 整備した農地が後継者難で耕作放棄地となって荒廃し、公費で再整備する。「耕作放棄地対策」は、新たな農林水産省の予算獲得メニュー。失政が省益に生まれ変わる仕組みを放置すれば、納税者は土建農政のマッチポンプを見続けることになりかねない。

 市内で、ここ半年に倒産、廃業に追い込まれた建設会社は10社以上。公共工事全体の縮小と不況の直撃で、放棄地対策による工事も焼け石に水の状況だ。

 「車の通らない農道とか造って意味があるのかなあ、と思う。本心としては、意味のある公共工事を受注したい」と七尾市の建設会社社長。振興策のない農業予算のばらまきは、土建業のにぎわいもはかなく終わらせ、地域に深い痛手を残している。

    =文中敬称略

 【農水省の耕作放棄地対策】 雑草の除去、老朽化した用排水の補修、再生不可能な荒れ地を森林化する事業など。2009年度は前年より200億円上積みし920億円。農水省の主要な予算メニューになりつつある。耕作放棄地は埼玉県の面積にほぼ匹敵する全国約38万ヘクタール。

 

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