今の社会は「KY(空気が読めない)」という言葉に象徴されるように、異質なものを排除する傾向が強まっています。知的障害があるような人たちは、容易に隔離されかねない。審理の迅速化が求められる裁判員裁判で、障害のある被告の理解が不十分なまま、厳罰化が進むのではと危惧(きぐ)しています。
秘書給与流用事件で服役した際、障害者が生活苦から犯罪を重ね刑務所を「ついの住み家」にしている現状を知り、触法障害者の問題に取り組んでいます。
知的障害が犯罪の原因になることはありません。しかし、障害者が福祉の網からこぼれると、社会の中で追いつめられていきます。一度罪を犯せば、障害ゆえに理路整然としない犯行になり「モンスター」と見なされかねません。安易な報道もあおり立てます。さらに障害者は非日常的な状態に適応するのが苦手で、公判でパニックに陥ることもあります。
裁判員になる皆さんには、そうした障害者の特性を理解してほしい。同時に被告の成育歴に注意し、罪を犯した背景も理解してほしい。そうでないと、福祉で救える人を理解不可能な反社会的存在と見なし、厳罰を与えかねないからです。
米イリノイ州などでは、知的障害者の訴訟能力面でのハンディキャップを考慮し、一般刑事手続きは適用せず、少年審判のような手続きを取っています。将来的にはそういった改革も進める必要があります。【前谷宏】
毎日新聞 2009年4月17日 東京夕刊