またイチロー選手から元気をもらった。
張本勲さんが持つ3085安打の日本プロ野球記録に「あと2本」でシーズンに臨んだ大リーグ、シアトル・マリナーズのイチロー選手。自身の開幕戦となった15日(日本時間16日)のエンゼルス戦の2安打で記録に並び、翌日も3086本目の安打を放って28年ぶりに張本さんの記録を塗り替えた。
タイ記録の3085本目は満塁の走者を置いての本塁打。最高の舞台設定で自ら祝砲を打ち上げたイチロー選手の強運と勝負強さには改めて驚かされる。新記録は右前へのクリーンヒット。スタンドで観戦した張本さんの目の前での記録更新で、後輩の歴史的な一瞬を見届けた張本さんも満足したことだろう。
日米での合算で、正式な「記録」とはいいがたく、イチロー選手には一つの通過点だったろうが、そうとばかりいえない事情もあった。
日本野球が連覇を達成した3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。イチロー選手は最後の最後、韓国との決勝戦で決勝タイムリー安打を放ったものの、それまではイチロー選手らしからぬ不本意な打撃が続いた。そのストレスが影響したのか、4月の大リーグ開幕直前には出血性の胃かいようと診断され、初めての故障者リスト入り。マリナーズの開幕から8試合を欠場する事態となった。
誰よりも早く球場に入り、入念なトレーニングで体調を維持し続けてきたイチロー選手だが、10月には36歳になる。過去の名選手が直面した「年齢の壁」にイチロー選手も突き当たったのではないか、と「引退の危機」に言及する報道もあった。そんな周囲の不安をイチロー選手がバットで一掃してみせた。
イチロー選手は大リーグ1年目の01年にジョー・ジャクソンの新人最多安打記録を90年ぶりに更新し、04年にはジョージ・シスラーのシーズン最多安打を84年ぶりに塗り替えるなど次々と大リーグの過去の歴史に光を当ててきた。
3085本目を打った15日は62年前、黒人選手として初めて大リーグにデビューしたジャッキー・ロビンソンの記念日で、全球団の選手がロビンソンのつけていた背番号「42」でプレーした。日米で安打を積み上げてきたイチロー選手の節目の記録達成にはふさわしい日でもあった。
イチロー選手の次の目標は大リーグ通算2000安打(あと192本)、前人未到の9年連続200安打(あと197本)。世界経済の低迷が続く中、本場の野球ファンをうならせ、日本中を元気付け、勇気を与える活躍を今後も期待したい。
毎日新聞 2009年4月18日 東京朝刊