ワシントンで14日始まった金融サミット(G20)は、15日に本会合があり、同日午後(日本時間16日朝)に議長役のブッシュ米大統領が声明を発表して閉幕する。かつて世界の金融制度を牛耳ってきたG5、G7という先進国クラブとは違い、G20は新興国の存在が際立つ。金融危機の傷が深い欧米中心では、金融秩序作りがままならなくなったからだ。先進国では比較的傷が浅かった日本だが、提案力となるとお寒い状態だ。
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「金融の国際機関は経済の現実を反映していない。誰もが分かっていたはずだ」。G20による夕食会を終えた14日夜。インドのアルワリヤ計画委員会副委員長(閣僚)は記者会見でこう訴えた。
インドは「国際金融システムにより広範囲な国を含めること」をG20で求める。先進国クラブのG7は「狭すぎ、小さすぎる」(チダムバラム財務相)という。
G20という枠組みはこれまでもあるにはあった。アジア金融危機から少したった99年から毎年、財務相と中央銀行総裁が集った。だが、日本銀行幹部によると「意見の発表会の域を出なかった」。
それが首脳級になり様変わりした。
新興国を引き込んだのは、マイナス成長に沈む欧州だ。例えば国際通貨基金(IMF)。北欧や東欧などが駆け込み、サイフが空になりかねない。だが、欧州だけで穴埋めはできない。ブラウン英首相は新興国が拠出金を増やすべきだと提唱。中国には電話し、サウジアラビアやカタールなど産油国には出向いた。バローゾ欧州委員長は「欧州の指導者たちは、自分たちが持つ代表権が過大だと認めている」と語る。カネと一緒に口を出されても仕方がない、というわけだ。
中国の存在感が際だつ。胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が乗り込み、「新興国の発言権向上」を訴える。手みやげも用意した。金融サミット直前の9日、2010年末までに4兆元(約57兆円)を投じる景気刺激策を公表した。中国政府の幹部は14日、北京で開いた記者会見で「世界経済安定への重大な貢献」と強調。米政府も「歓迎できる内容」(マコーミック財務次官)と評価する。
中国政府の政策ブレーンの一人、清華大学中国世界経済研究センター主任の李稲葵教授は言う。「中国はいま(金融サミットを通じて)経済大国としての振る舞い方を学ぼうとしている」
「今後、数回開くことになる会議の最初だ」。ブッシュ大統領は13日、G20の枠組みが継続される見通しを示した。もっとも、数が増えれば調整も難しくなる。日本政府関係者は「20カ国となると、まとめる労力が全く違う」。 口数の多い新興経済大国を交えて、金融危機後をにらんだ新たな秩序作りをめぐる陣取り合戦が始まった。(ワシントン=高野弦、琴寄辰男)
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「外交と経済は麻生太郎が最も使える」という麻生首相は、金融サミットに向けた動きを尻上がりに加速させた。早期の衆院解散を見送り、求心力が低下した麻生首相にとって、今回の金融サミットは巻き返しの場になる――そんな狙いからだった。
日本をたつ13日に公表した包括的提案。日本のお金でIMFの新興国向け融資枠を増やす案には、財政当局が数字で示すのに難色を示した。それでも「最大千億ドル(約10兆円)の融資を行う用意がある」と入れ込んだ。IMFに早期に危機を警戒する機能を持たせることや、金融商品への規制強化などを並べた。14日付のウォールストリート・ジャーナルのアジア版と欧州版には、提案内容を寄稿する手回しのよさだった。20カ国・地域の首脳のなかに埋没せず、自らの姿勢をはっきりと示す狙いだった。
ただ、その提案内容は、各国の議論の中間点を取っただけのようにも見える。「各国の主張が出そろった出発直前に発表した。単なるいいとこ取りだ」(国際金融筋)との見方もある。
対照的に、サルコジ仏大統領は早くから大風呂敷を広げた。キーワードは「新ブレトンウッズ」。戦後に作られた現在の国際金融秩序の刷新を意味する。「国内の人気取り」でもあるが、規制を強めて危機後に自国に有利な状況を作ろうとするしたたかさがのぞく。一方、ブッシュ米大統領は「自由市場の資本主義の重要性」を訴えて反論。国益の衝突の色合いも出た。
日本は今回の傷の浅さからも、かつて金融危機に見舞われた経験からも、議論をリードできる素地はあった。しかし、機会を生かしたようには見えない。
もともと提案していた日本開催もかなわなかった。首相は14日、記者団に「日本は開かれる場所としてふさわしい」と述べ、次回に意欲を示した。だが、この日の日ブラジル首脳会談にも同席したブラジルのアモリン外相は、ブラウン英首相との会談に同席後、記者団にこう明かした。
「G20の来年の議長国は英国なので、英国で開催されるのが普通だ」(ワシントン=矢部丈彦、松村愛)