日露間の懸案の北方領土問題で麻生内閣の姿勢に不透明感が漂っている。麻生太郎首相や首相周辺から、日本が原則としている四島返還にこだわらないとの発言が出ているからだ。5月にプーチン・ロシア首相を迎える麻生首相は真意を自らの口で説明すべきである。
2月の日露首脳会談では、「独創的で型にはまらないアプローチ」により領土交渉を行うことが確認された。その際、麻生首相は記者団に「役人に任せていてはだめだ。政治家が解決する以外に方法はない」「向こうが2島、こっちが4島では全く進展しない」などと語った。
「独創的なアプローチ」の内容については言及しなかったが、日本の首相が四島返還にこだわらない考えを公言したのは初めてだった。
麻生首相は外相当時の06年に国会で「択捉島の約25%を(国後、歯舞、色丹の)3島にくっつけると(面積は)50-50の比率になる」と面積等分解決案に触れたのをはじめ、3島返還論や共同開発論にも言及したことがある。過去の発言と照らし合わせ、四島返還方針の変更を検討しているのかと受け取る向きもあった。
しかし、政府はその後の閣議で面積等分案を否定する答弁書を決定し、その中で「北方四島の我が国への帰属が確認されれば、実際の返還の時期、態様および条件は柔軟に対応する」との従来方針を強調した。
こうした経緯の中で、今度は政府代表を務める谷内正太郎前外務事務次官が毎日新聞のインタビューで、「個人的な考え」と断りながら「3.5島返還でもいいのではないか」と四島返還にこだわるべきではないとの考えを示した。
谷内氏は「(歯舞、色丹の)2島では全体の7%にすぎない。択捉島の面積がすごく大きく、面積を折半すると3島プラス択捉の20~25%ぐらいになる」とも述べた。麻生首相の面積等分案と軌を一にしている。
河村建夫官房長官はさっそく、谷内発言は政府の公式見解ではないと打ち消した。だが、谷内氏は政府代表の立場にあり、麻生首相が外相だった時の外務事務次官でもある。首相の意向を反映した発言と受けとっても不自然ではないだろう。
外交に駆け引きはつきものである。麻生首相や谷内氏の発言はロシアから柔軟姿勢を引き出すための交渉戦術なのかもしれない。そうだとしても、衆院選を控えたこの時期に北方領土問題の打開を急ぐのはリスクを伴う。国論が分かれる重要問題は民意を受けた政権が対処すべきである。首相がどうしても自身の手で解決への道筋をつけたいというなら国民に説明したうえで衆院選で問うのが筋である。
毎日新聞 2009年4月18日 0時02分