公益法人には認められない多額の利益計上などが問題となっている財団法人「日本漢字能力検定協会」(京都市)は、改善報告書を文部科学省に提出したが、抜本的な出直しというには危機感が乏しいのではないか。文科省も親族企業への対応などは不十分との認識を示した。
協会は、大久保昇理事長が一九七五年に任意団体として設立、漢字検定をスタートさせた。九二年に財団法人の認可を得て以降、「公」のお墨付きと大久保理事長のアイデアで飛躍的な成長を遂げた。
一方で、公益法人としては不適切な運営へと進んだ。今年一月、協会の過剰な利益が発覚。さらに、理事長と長男の浩副理事長が関係する親族企業四社への多額の業務委託や、高額の土地建物購入なども分かった。これを受けて文科省が協会を立ち入り検査し、改善策の報告を求めていた。
協会が示した改善策は、正副理事長が全役職から退く。検定料を五百―百円引き下げる。問題の土地建物は売却する。親族企業四社のうち二社との取引解消。外部監査制度を導入する―などである。
失墜した信頼の回復へ向けて協会がどう再出発するのか。改善策には、その決意と具体的な実効策が求められる。とりわけ、公益性とかけ離れた独断専行を許してきた体制や、体質の大胆な改革によって透明性を高め、公益法人にふさわしい運営へ一新しなければならない。
しかし、報告書の内容や、理事長らの記者会見での発言からは、そうした強い気迫は伝わってこない。正副理事長の責任問題にしても、当初は理事に残るとしていたが、高まる批判を受けて急きょ全役職から退くことにした。認識不足といわれても仕方なかろう。「新体制をサポートしていく」とする理事長の発言にも、今後も影響力の保持を図る考えでは、との懸念を抱いてしまう。
改善策に挙げた親族企業との取引見直しでも、協会から四社に対する委託額の約九割を占める二社については継続する。過去の四社との取引も追認したという。先に協会の調査委員会が示した「重大な任務違背」とする指摘との隔たりは大きい。
協会の漢字普及に人々は大きな期待を寄せてきた。一連の不適切な運営は、受検者や社会への裏切りといえよう。監督官庁である文科省の責任も重い。協会の自浄努力と文科省の厳正な対応で、信頼される協会としての再出発を求めたい。
電車内で女子高生に痴漢をしたとして、強制わいせつの罪に問われた大学教授の上告審判決で、最高裁第三小法廷は一、二審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。痴漢事件で最高裁が逆転無罪判決を出したのは初めてだ。
事件はちょうど三年前、四月の朝に起きた。混雑する東京の小田急線の車内で、大学教授は女子高生の下着の中に手を入れるなどしたとして起訴された。一、二審判決は懲役一年十月の有罪判決を言い渡したが、最高裁は「被害に関する供述には疑いの余地がある」と判断した。「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の鉄則を貫いたわけだ。
満員電車での痴漢被害が後を絶たない。しかし、事件になっても目撃者や物証などの客観的な証拠が得られにくいため、被害者の供述が唯一の証拠となることが多い。容疑者が否認する場合、一、二審で判断が正反対になることも珍しくないという。今回の最高裁判決も裁判官五人のうち三人の多数意見によった。二人は女子高生の供述は信用性があるなどと反対意見を付けた。供述だけに頼る審理の難しさを如実に物語っている。
注目されるのは、最高裁として初めて痴漢事件に関する審理の在り方を示した点だ。「被害者の思い込みその他により犯人と特定された場合、有効な防御を行うことが容易ではないという特質が認められる」としたうえで「特に慎重な判断が求められる」と強調した。冤罪(えんざい)を防ぐために、もっともな指摘だろう。
ただ、今回の判決によって、被害者が申告をためらうようなことになってはいけない。痴漢は女性の人権を踏みにじる卑劣な犯罪行為だ。社会全体で痴漢を許さない環境づくりや意識醸成を図ることが求められる。
(2009年4月17日掲載)