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毒物カレー事件:21日に最高裁判決…遺族の傷は深く

 98年7月に和歌山市で起きた毒物カレー事件で殺人罪などに問われ、1、2審で死刑判決を受けた林真須美被告(47)の最高裁判決が21日午後、言い渡される。4人の命が失われた事件が遺族や被害者に残した傷は今なお深い。さまざまな思いを抱えて審判の日を迎える人たちの元を訪ねた。【安藤龍朗、加藤明子、藤顕一郎】

 ◇娘は帰らない、真実も変わらない

 長女幸さん(当時16歳)を失った鳥居芳文さん(63)は「どんな判決であれ受け入れる以外にない。何も変わらない」。妻百合江さん(58)も「失ったものは失ったもの。幸は帰っては来ないですから」と話す。

 鳥居さんはこの10年余りを「生活を維持するため必死だった」と振り返る。いま夫婦は心掛けて普段通り過ごしているという。一方で百合江さんは「事件当日を正確に、今日のことのように鮮明に思い出す」と明かし、「もしも1、2審を覆すような判決だったら」と不安をぬぐえない。

 谷中千鶴子さん(72)は夫孝寿さん(当時64歳)を亡くした。悲しみが癒えることはなく、「今は静かに待ちたい」と声を振り絞った。事件後に知り合い、支え合ってきた百合江さんと裁判を傍聴するつもりだ。

 「カレー事件被害者の会」会長、浜井満夫さん(58)は「(裁判所が認定する)真実が変わることはない」と信じている。事件を巡る地元住民らのさまざまな意見・立場の違いに悩んだこともあるという浜井さん。「自分の中で区切りをつけたい」と、妻裕見子さん(54)と共に傍聴することにしている。

    ◇

 刑事として事件の捜査に当たった後、園部地区を担当する有功交番所長を7年間務め、今春退官した丸山勝警部補(60)。和歌山県警は和歌山東署で再任用した。献身的な姿に、遺族・被害者からの信頼は厚く、新所長に就任した太田達也警部補(56)と共に、被害者支援の一環として今回も傍聴席で付き添う。これまでの裁判で、動機に地域の人間関係が指摘されるなどして、被害者らに動揺が生じたことが気掛かりだ。「今はただ、皆の平穏な生活が守られるよう願っている」と話した。

 ◇「母を取り戻したい」…本紙取材に林被告の長男

 林被告の長男の会社員(21)が、判決を前に毎日新聞の取材に初めて応じ、「僕には目標がある。人生の課題としてお母さんを取り戻したい」と話した。

 事件後、3人の姉妹と過ごした児童養護施設でいじめも受け、両親を恨んだという。しかし「ごめんね」とつづる母の手紙に恨みは薄れ、無実を信じた。「お母さんが戻ったら、きょうだい4人で今までの文句をありったけ言ってやりたい」と語った。

 一方、林被告は今月13日、大阪拘置所で面会した記者に「子どもたちの存在が支えになった」と話し、「犯罪の証明がないから無罪です」と繰り返し訴えた。

 ◇毒物カレー事件

 1998年7月25日、和歌山市園部の自治会主催の夏祭りで、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒を発症し、うち4人が死亡した。殺人罪などで起訴された林真須美被告に対し、和歌山地裁は02年12月に求刑通り死刑を言い渡し、大阪高裁も控訴を棄却した。林被告の夫は保険金詐欺事件で服役し、05年に出所した。遺族らが損害賠償などを求めた民事訴訟では、地裁は林被告に約1億1850万円の支払いを命じたが、支払われていない。犯罪被害者等給付金支給法に基づく給付金は4遺族に支給された。被害者は申請していない。

毎日新聞 2009年4月18日 2時36分

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