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10/29 作者急病のため

いやはや、どうにもこうにも、なんか右腕に原因不明の腫瘍ができてしまいまして、コイツが死ぬほど痛い。なんか今度手術して取るらしいんですけど、それまで右腕が使えないようなのです。オナニーもできない、いや左腕でしたけど。他人にされてるみたいで興奮した!

そんなことはどうでもいいとしまして、さすがに左手だけでキーボードを打っても死ぬほど遅いですし、何より右腕が痛すぎてどうしようもないので、完治するか痛みがなくなるまで、ちょっとどっかから持ってきた日記でもお楽しみください。

今日は、先に行われたNIKKI SONIC'06というイベントに出展した作品のほんの一部をコピペしてお茶を濁しておきます。っていうあ、コピペすら痛くて大変だ。

治ったらバリバリ更新するからよろしく!ということでどうぞ。----------------------------
ネットデリヘル詐欺と対決する(NIKKI SONIC'06出展作品)

いやー、今やネットの世界って何でもありですよね。

この間の話で恐縮なんですけど、先日、無性に漫画版のバトルロワイヤルが読みたくなってしまいましてね、もう何度も読んだんですけど、どうしても光子のエロいシーンが読みたくなっちゃいまして、颯爽とマンガ喫茶に赴いたわけなんですよ。

マンガ喫茶の個室、まあ個室といってもお爺ちゃんの仏壇みたいな木目のチンケな板で仕切られた空間なんですけど、なんていうか、そんなチンケな空間でも自分だけの宇宙というか、圧倒的な孤独というか孤立というか、とにかく集中せざるを得ない確かな空間が存在するんですよね。

これはしめたものだと思いましたよ。やはり光子のエロいシーンは集中して読まなければならない。町の喧騒や地球を温めていく排気ガスの臭い、テレビから流れるどうでもいい三文ドラマのセリフにメールの受信音、そんな煩わしい物すべてから隔絶された状態で集中して光子のエロいシーンを読む、それができるのはマンガ喫茶の個室ブースだけなのです。

さて、ドリンクも取ってきたしバトルロワイヤルも全巻持ってきた。リクライニングシートの角度も調節したし、さあ、集中して光子のエロいシーンを読むぞ、と意気込んだその瞬間でした。

「アハハハハハハハ」

「ウフフフフフフフ」

みたいな感じで、良く言えば楽しそうな談笑の声が、悪く言えば男女が乳繰り合ってそうな忌々しい声が、仕切り板1枚隔てた隣のブースから聞こえてきたのです。

これは只事ではない、一大事だ、人が光子のエロいシーンに集中しようとしているのにリアルで色々な汁が飛び交いそうな乳繰り合いが聞こえてくるとは何事だ。尋常じゃない気配を感じつつ、ブース内に貼られていた店内の案内図を確認してみましたところ、悪い予感が的中、隣のブースはペアシートというかアベックシートで、なんかハートマークに「ラブラブシート」とかとてもシラフじゃ書けないような文字が弾けるようなフォントで書いてありました。

とりあえず、隣がカップルシートということで、しかもライブオンステージで男女が乳繰り合ってる声が聞こえてくるものですから、もう光子どころの騒ぎではなく、なんとかして隣が覗けないものか、あわよくば混ざれないものか、と悶々としてしまったのでした。

で、色々と試行錯誤をした結果、やはり簡易的な仕切り板ですから板の継ぎ目のところに微妙に隙間があるんですよね。もう、それはそれは、普段だったら見落としてしまうような僅かな隙間なんですが、隣がアベックともなると話は別。隙間からこぼれる光が天からのご来光のように神々しく輝いておりました。

早速、その隙間に自分の眼を押し付けて覗きまして、決して覗き魔とかデバガメ的なものではなく、あまりにうるさいので「ったく、どこのどいつだ、親の顔が見てみたいぜ」的な社会正義で覗いてみたのです。決して、濡れ場が見たいとかあわよくば仲間に入れてもらえないかとか思ってない、思うはずがない。

でまあ、今や栄光のロードと化した数ミリの隙間から覗きましたところ、なんだか男女がちょっと密着してパソコンに向き合い、ワアワアキャアキャアと楽しそうに談笑してました。乳くらい揉んでるだろうと思っていたのですが、とんだ期待はずれです。

いやね、隣は曲がりなりにもカップルシートですよ。そりゃ恋愛仕様にできてますからパソコンなんか2台置いてあるんですけど、なぜかカップルは1台のパソコンの前で密着状態。1台のパソコンに2人で熱中とかね、ディーゼル発電機でパソコン動かしてる発展途上国じゃないんですから勘弁してくださいよ。

もう、女性が半裸でない時点で興味も半減なのですが、何をそんなに2人で熱中してるんかとさらに覗いてみましたところ、2人が熱中するその画面には「ろじっくぱらだいす」と書いてありました。「ろじっくぱらだいす」と言えば言わずと知れた超人気サイトで皆さんもご存知かと思いますが、その「ろじっくぱらだいす」をアベックがイチャイチャしながら熱烈に閲覧してるんですよ。

「あーん、ろじぱら超好き、超好き」

「俺も超好き」

とかなんとかクネクネいちゃつきながら閲覧しておりましてね、多分、そのうち2人の中の何かが燃え上がってしまい、カップルシートをいいことにその場でマグワイアのようにまぐわって変な棒を出したり入れたり、「ろじぱらの1UPキノコもいいけど俺のキノコもどうだい?」とか言っちゃったりして大ハッスル、なんUPしたんだか分からない状態になって彼女のビラビラが、と、これ以上書くと怒られそうなのでカットしますね。とにかく、僕はその光景に大変な衝撃を覚えたのです。

一方はカップルで「ろじっくぱらだいす」を肴にイチャイチャブチュブチュ、片やもう一方はバトルロワイヤルの光子のエロいシーンに大ハッスル。決して光子が悪いわけでもなく、見劣りするわけでもありませんが、これはあまりにもあんまりじゃないかと思うんです。

で、決して癒えることのない深い悲しみとか、満たされることのない深い欲求だとか、そういうものを感じつつ悶々としていると件のイチャイチャカップル、今度は二人羽織みたいな状態になってるじゃないですか。もういい加減にして欲しい。

あのですね、やるならやるでとっとと乳でも揉みはじめてくれれば幾分救いはあるんですけど、こういうどっちつかずが一番困る。こちらだって霞を食って生きてる仙人じゃないんですから、早いこと大胆になってもらわないと悶々として仕方がない。都合ってもんがあるんだ。

とまあ、隙間に張り付いて覗く、何かを思い直して光子のエロいシーンを読む、ってのを周期的に繰り返しまして、いよいよ隣のカップルには期待が持てない、というかよく見たら女が気の抜けたラムネみたいな顔しててブス過ぎる、こりゃあ濡れ場が始まっても抜けませんな、光子に期待しますかね、とバトルロワイヤルを読み進め始めたその時でした。

ブブブブブブブブブブ

機械的な振動音、具体的に言うとバイブレーションの音が個室ブース内に響き渡りました。ついに隣のアベックがバイブを使い始めやがったか!おいおい、いくらなんでもそれは早すぎじゃないか、もっと順序を踏むべきだ、と思いつつ、やぶさかではない気持ちで隣を覗きました。

しかしながら、当のカップルは特段動きがあるわけでもなく、相変わらず二人羽織みたいになってパソコンに向かっていました。まさか、と思い見てみると、なんてことはない、バイブレーションの主は僕の携帯電話でした。なんだかメールを受信したみたいで、死ぬ直前の爺さんみたいに小刻みに震えていたんですわ。

とりあえず、光子もアベックもさておき、どんなメールが来たのかと携帯電話を手に取ります。もしかしたらまかり間違って家出少女とかが「泊めて」とか送ってきているかもしれません。いつだって可能性を信じる、僕らは可能性の原石なんだ!と信じてやまない僕としましては、ほのかな期待を抱きつつ、携帯電話に届いたメールをチェックしてみたのです。

題名:ご近所の女の子紹介します!

見ると非常にご機嫌な題名が踊っていました。今やこんな題名のメールを見て「女の子紹介してもらえるんだ!」と喜ぶ人はいないですよね。ええ、明らかにSPAMメールの類で、その後ろには巨大な架空請求業者や詐欺業者が控えているはずです。

どっからどう考えてもこんな見え見えの詐欺メールに引っかかる人なんて20世紀から来た人くらいしかおらず、多くの人が内容を見るまでもなく削除してしまうことだろうと思うのですが、この時の僕はどうかしていた。

とにかく、隣の煮え切らないアベックに感化されてしまい、おまけに光子のエロいシーンが混ざってしまって満月を見た悟空みたいになっていた僕。普段ならひっかかるはずも、ましてやメール自体を開くはずもないのに、光の速さでメールをクリックしていました。

題名:ご近所の女の子紹介します!

本文:欲求不満じゃありませんか?
女の子に出会えないと不満をもらしていませんか?
だったら当社にお任せください!まずはメールください。
XXXX@XXXX.ne.jp


内容を読むと、まさかどこかで僕を監視してるんじゃないかと思うほどにグッドタイミング。悶々としてるところに「欲求不満じゃないですか?」なんて送ってこられたら誰だってコロリといきますよ。いかないほうがおかしい。

とにかく、善は急げって感じで一も二もなく返信いたしまして、よく覚えてないんですけど確か「おっぱいの大きい娘で頼む」みたいな、とても親には見せられない内容の返信をしたと思います。

すると、大体1分くらいでしたでしょうか。即座に返信がやってまいりまして、その内容が驚愕の一言。

題名:ネットデリヘル「ミート」

本文:ご返信ありがとうございます。当社はお客様と素人女性の出会いをプロデュースするデリバリーヘルスです。全国50ヶ所の都市を拠点に活動し登録女性数は2000人、18歳から40代まで幅広く在籍しております。お客様の居住地域をお教えいただければすぐに好みの女性を派遣いたします。営業時間は午前10時から午後3時までです。営業時間内に居住地域をお教えください。すぐに登録女性の写メールをお送りいたします。


このメールを見た瞬間、まあ分かっていたけどやはり詐欺業者か、そう思いましたね。もしかしたら無料で女性を紹介してくれる非常に良心的な業者かもしれない、そう思った自分を恥じました。欲望に身を任せ。鼻の下伸ばして物凄い勢いで返信メールを出した自分を恥ずかしいとすら思いました。

ではまず、この業者が詐欺だと思う点を述べていきましょう。始めに、店名が酷い。ネットデリヘルはまあいいとして、「ミート」って何ですか。たぶん肉体的なものを連想させて大人の恋愛を感じさせたかったのでしょうが、僕にはメガネかけた王子の付き人しか思い浮かびません。そりゃミキサー大帝も負けるわ。おっと、これはセンスが悪いだけで詐欺的でも何でもありませんでしたね。

まず、これがいかに詐欺であるか説明する前に、デリヘル、いわゆるデリバリーヘルスについて説明しないといけないので説明します。デリヘルとは宅配型の風俗営業を営む風俗店のことを指します。簡単に言うと、電話1本でセクシーな女の子が家とかにやってきてくれて、そこでエロティカルなサービスをやってくれるという夢のようなお話です。大体の料金は60分で1万円から2万円といったところでしょうか、その金額で女性がエロいことをしてくれるのです。

で、こういった性風俗店はそれこそ全国どこの都市でもそれなりに存在し、別に特段おかしいことはないのですが、このネットデリヘル「ミート」のおかしい部分は別にあります。そう、それは「全国50都市拠点」と謳っている部分です。これがもう特段におかしい。

考えてもみてください。北は北海道から南は九州沖縄まで全国どこの都市でもそれなりに活動するとなるとどれだけ大きな規模か。数多くある全国規模のコンビニ店だって全都道府県に店舗を構えているのはローソンしかありません。ファーストフードにしたって何だって、全国規模に拠点を構えるってのは大事なのです。それを聞いたことないような名前のデリヘル店がやれるとは思えない。

それにメリットがないですからね。コンビニやファーストフード、その他の店舗が全国展開していると、よかった、この街にもローソンがあるといった普遍性や安心感を演出できますが、良かったこの街にもミートがあった、これでデリヘル呼び放題、安心だね。とはなかなかいきません。というかあったら嫌すぎる。

まあ、こういったネット型の詐欺っていうのは、全国を相手にしないとなかなか収益が得られない、むしろ全国を相手にできるのがネット型詐欺の強みでしょうから、こういったムチャクチャな形になるのでしょうが、それ以前にもっと詐欺的な文言が別の部分にあります。

それが「営業時間は午前10時から午後3時までです」という部分。この時間設定、何だと思いますか。朝10時から営業ってのは詐欺やってる人が早起きが苦手とかでこの時間なのでしょうが、問題は閉店時間です。なんと午後3時までという途方もない営業時間。実質5時間しか営業していないという、下町の職人気質のせんべい屋みたいな状態になっています。

普通、デリヘルといったらやはり性とかそういうのに関するサービスですから、夜から深夜にかけてが稼ぎ時というかゴールデンタイムになるはずなのですが、その目の前で営業をやめてしまうという不可思議な現象が起きています。

では、この人が詐欺をする場合、どうやってお金を手に入れるか考えてみましょう。もちろん、全国規模の組織も、派遣する女の子も持ち合わせていません。普通のデリヘルは、お客が女の子に料金を支払い、その料金のいくらかが店の取り分、残りが女の子の取り分になるのですが、この詐欺師にはそのような形態は取れません。なにせ詐欺ですから、女の子を派遣できないのですから。では、どうやってお金を徴収するか。これはもう、先払い銀行振り込みしかないですよね。

つまり、女の子を派遣しますよー全国どこでも飛んで行きますよーっていってその辺から拾ったような女の子の画像をお客に送ります。ただし、保証金として料金前払い、銀行振り込みにて指定の口座に振り込んでください。確認でき次第女の子を派遣いたします。とやって女の子なんてそもそも存在しないんだから来やしない。こういうカラクリだと思うのです。で、銀行の振込みができる、もしくは確認できる午後3時までに営業時間を設定している、きっとそういうわけなのです。

とにかく、あまりにバレバレの詐欺ですが、もう隣はカップルだわ光子はエロいわで大変な騒ぎですので、暇つぶしに付き合ってみようと判断。このあまりにお粗末なネットデリヘル詐欺にお金を払うことなくどこまで肉薄できるか挑戦してみました。

まず始めに、いきなり引っかかるのも癪ですから、いくつか質問メールを返信して軽いジャブの応酬みたいな感じにしてみました。

「もう欲求不満でたまらんのですが、いくらくらいお金が必要ですか?」

とにかく猪突猛進、欲求不満で大変なことになってるぜとアピール、それと同時にヤツは僕からいくら騙し取るつもりなのか探りを入れてみます。暇なのか相変わらず鬼のように返信が早いのですが、その返信メールには

「当店の女の子はサービス満点ですのできっと満足されると思いますよ。利用料金は60分3万円と少し割高ですが、それ以上の満足は得られると思います」

ときたもんだ。なるほど、3万円も騙し取るつもりか。デリヘルの料金設定としては割高ですが、詐欺の料金設定としてはなかなかに絶妙。3万くらいなら極上の何かを期待して払ってしまいそうですし、騙された方も面倒で泣き寝入りを選んでしまいそうな絶妙の金額です。

「あのー、どういったシステムになってるんでしょうか?正直、ネットデリヘルって初めてだからわからなくて」

さらにジャブを繰り出してみると、本気で暇でしょうがなくてマインスイーパーでもやってんじゃねえのって感じで光の速さで返信が来たのですが、

「当店は女の子の安全を確保するため前金制を採用しております。居住地域をお知らせいただければ当該地域の女の子を紹介いたします。好みの女の子をお選びいただけましたら、3万円を当社銀行口座にお振込みください。確認でき次第派遣開始となります」

やはりというかなんというか、やはり詐欺業者らしく至極立派に前金を要求してきました。これで1000%詐欺確定です。「女の子の安全のため事前に払え」てのがよく分かりませんが、料金なんて女の子に渡せばいいだけですからね。本当に派遣されてくるならば。

「わかりました。僕の住んでる場所、田舎なんですけど大丈夫ですか?」

と、あと一歩で引っかかっちゃうよ、もう心は傾いてるぜ、何せ欲求不満だからな、って感じのジャブを繰り出しましたところ

「当店は全国50ヶ所に拠点を構えるデリバリーヘルスです。離島などを除きまして全国どこでも派遣可能です」

とまあ、事務的で杓子定規な詐欺的返答。っていうか離島の人が可哀想だ。こいつはあまり探っても面白い返答が期待できそうにないな、と思った僕は次なるステージに移るべく返信メールを送りました。

「わかりました。ではおねがいします。場所は●●県になります」

まあ、全国規模で登録女性が2000人いるとは言っても、ここはハンカチ王子が流行している大都会とは違い、未だにミサンガが大ブレイクしているような僻地ですから、いて2,3人ってところだろうな、などと思っていましたところ。

「●●県の登録女性は241人です。登録女性全ての画像はお送りできませんので、好みのタイプをお伝えください。こちらで選別して画像をお送りいたします」

と驚愕の返信が。あのね、どんな算数ですか。

いやいや、全国に登録女性が2000人いるんですよ。人口規模から考えてその半数は関東圏と考えるべきでしょう。残りの半数は関西圏で、順次大都市と言われる都市、具体的には浜崎あゆみのコンサートが行われるような大都市に大人数が登録されていると考えるべきです。結果、このへんなんて未だに道路を牛が走ってますしね、2,3人でも多いくらいですよ。なのに、241人ってどういうことですか。ミサンガですよ、ミサンガ。なんかよほどの好き者が集結してる街みたいじゃないか。

とにかく、明らかに算数がおかしいのですが、心を落ち着かせて返答しましょう。どうせこんな詐欺業者、女の子なんて派遣されてこずに金だけ取られるのですから、真面目に好みのタイプとか答える必要もないのです。けれども、本当にこの時の僕はどうかしていたのですが

「若くてオッパイの大きい子で頼む」

と、何も足さない、何も引かない、みたいな極めて正直な裸の心でモロに自分の好みを伝えていました。

「該当女性は28名在籍しております。順次プロフィールと画像をお送りいたします」

ほう、241名から28名まで減少したか。しかし、28名も若い巨乳っ娘がいるならアッパレではないか!とプロフィールが送られてくるのを心待ちにしておりました。 

No.1 はるかさん(20歳)
●●市在住
B88(E)W58H86
 

   画像

 

はるかで〜、よろしくね。サービスしちゃうから是非呼んでね♪チュッチュしちゃう!

まあ、こんな感じのメールが届くんですけど、これが一人一通のメールで届くのだからたまらない。ドコドコと28通連続でメールがきやがりまして、オマケに画像が添付されてるもんですからいちいち重い。新手のメールボムか何かかと思ったわ。「チュッチュしちゃう!」じゃねえよ、カス。

とにかく全28人の巨乳生娘の画像を頂戴したわけなんですが、どれもこれもどっかから適当にパクってきた画像らしく、皆けっこう美人でカワイイ。なんか、8番目の「さやか」さんにいたっては背景に北海道の大自然と「おいでませ富良野高原」みたいなことが書いてあり、ホントにこの辺の人かよって思うのですが気にしない。たぶん観光した先で撮ったのだろうと無理矢理納得しました。ついでに言うと、28番目の「ともか」さんに至っては、どう見てもツルペタで、巨乳という僕の要求を全く満たしてませんでした。

「みんなカワイイですね。どの人にするか迷います。オススメの女の子とかいますか?あと、28番目のさやかさんは巨乳じゃないような気がします」

と返信したところ、もう暇すぎて鼻くそほじりながらデフラグでもして、青い部分が増えていくのをボケーッと見てるんじゃねえかと思うほどに光の速さで返信が来まして

「そうですね、お客様の要望である巨乳で若い子というのは1番から27番まで全ての女の子が満たしていると思います。中でもオススメなのは8番のレイカさんです。サービスいいですよ」

あれ、28番は巨乳じゃねえよと指摘したら、いつの間にか1番から27番までとかになってる。なかったことにされてる。お前は冥王星かって言いたくなるのですが、そんなのは別にどうでもよくて、早速、詐欺師のオススメであるところ8番「レイカ」さんをチェック。送られてきたメールを掘り起こして鑑賞します。

見ると、確かにオススメされるだけあって美人、おまけに乳もでかくてエロスなムードがプンプン。コイツが相手なら異論はないですな!と思うのだけど、あいにくと僕のタイプではない。少しだけ思い留まる。

だって、考えてもみてくださいよ、この女性、美人なんだけどちょっとキッとしていて、すごいエロそう。全身クリトリスみたいな感じで、なんていうかタイプ的に「舐めなさい」とか言いそうなタイプなんですよ。絶対に「恥ずかしいから・・・電気・・・消して・・・」とは言わない。そんなの絶対に許せない。

「7番のナギサちゃんでお願いします」

オススメを聞いておきながら、そのオススメを一切無視。恥じらいのありそうな7番ナギサちゃんをオーダーしました。いやいや、どうせ詐欺で来るはずもないのに何を真剣に考えてるんですかって話なんですが、だってFカップなんだもん。

「ご注文、承りました。それでは営業時間内に指定の口座に3万円振り込んでください。確認でき次第、ナギサを派遣いたします。振込口座はU○J銀行尼○支店普通口座XXXXXX ハマ○キ モ○ヤです」

とまあ、全国組織の大規模デリヘルなのに、なんで口座が思いっきり個人名なんだ、と思うのですが、おそらく止むに止まれぬ事情があったのでしょう。その辺は目をつぶりましょう。

さて、ここまで色々やってきましたが、ここからが正念場です。僕が自分に与えた命題は、「金を振り込むことなくどこまでこの詐欺に肉薄できるのか」というものですから、金を振り込めと言われるとその時点で終了、終戦を迎えてしまうわけなのですが、なんとか続行できないかと頭を捻りました。

で、金を振り込まずに続行するには、これはもうこっちも騙すしかない。振り込んでないのに振り込んでいるかのように偽装する必要がある、なあに、向こうだってこっちを騙そうとしてるんだ、お互い様じゃないかと思い立ちまして、早速行動を開始しました。

「すいません、今ちょっとマンガ喫茶にいまして、近くに銀行もないものですから振り込みにいけないのですが、ネットバンクからの振込みでも大丈夫ですか?」

とメールを打ちました。すると、相変わらず光の速さで返信が来て

「はい、大丈夫ですよ。振込み明細は大切に保存しておいてください」

と返信が。

「でも、ネットバンクからなので明細って出ないんですよ。振込み後の画面をプリントアウトして持っておきましょうか?」

と返信しておきました。

暇人が「大丈夫ですよ」と光の速さで返信してきたので早速作業開始。どういう事かと言いますと、適当に振り込み完了画面を捏造して作成してしまいました。本物のジャ○ンネットバンクの口座を利用し、自分の口座に振り込み、で、表示された画面を保存して、HTMLを書き換えて振込先を詐欺業者にしておきました。お手軽です。

 


適当にでっちあげた振込み完了画面

 

「たった今、ジャ○ンネットバンクから3万円振り込みました。○○○○○○名義です!」

とメール。しかしながら、ずっとレスポンスが早かった彼なのに、いつまで経っても返信が来ない。おいおい、振り込んだのにだんまりかよ。(振り込んでない)

「すいません。こちらの口座で確認できません。申し訳ないですが、振込み明細をカメラ付き携帯で送ってもらえませんでしょうか?」

どうやら一生懸命口座に入金されるのを待っていたみたいで、入金されてこないと憤ってるようなのですが、当たり前ですよね、入金してないんですから。それでもまあ、入金完了画面は手元にありますので、これを撮影して送ってあげます。

「携帯カメラだと分かりにくいかな。よかったらファックスで送付してもいいですよ」

と親切に付け加えておきました。完全に偽造しましたから、ファックスで送っても大丈夫です。

「ちょっと画像が見えにくいですね・・・。ファックスは置いてませんので無理です。どうしましょうか」

おいおい、全国規模のデリヘルの事務所にファックスがないのか。テメーはファック野郎なのにファックスはないのか!ガハハハハと返信したかったのですが、ここはグッと我慢。ここからが正念場です。

「あのー、僕は確かに振り込みましたけど。こちらに振り込み完了画面が明細変わりにありますし・・・受け取ってないって言われても困るんですが。そういった類の詐欺ですか?」

この辺は「詐欺ですか」と核心に迫りましょう。急激に攻めるのがいいです。「カクシンニセマラナイデ」とか言われるかもしれませんが、とにかく攻めましょう。

「おかしいなあ。何度確認しても振り込まれてません」

「そう言われましても、こちらは振り込んだ証拠がありますよ。それに対してあなたは振り込まれていない証拠がない。それどころか実際に女の子が派遣されてくる保証もないし、あなたが真っ当なデリヘル業者である保証もありません。詐欺ですか?」

「しかし実際に振り込まれてないですので・・・」

「こちらは譲歩して、あなたが詐欺業者かもしれないのに先払いで3万円も振り込んでいるんですよ?」(振り込んでいません)

「ですから!振り込み確認がとれないんです!」

と相手が逆ギレしだしました。ここで一気に譲歩しましょう。飴と鞭です。

「もしかしたら、ネット銀行って振込みが反映されるのに時間がかかっちゃうことがあるらしいので、まだ処理されてないのかもしれませんね。感情的になって申し訳ありません。でも、振り込んだのは確かですので、明日にはそちらの口座に反映されているかもしれません、なんでしたら、派遣されてくる女の子に明細を渡してもいいですよ」

振り込んだ!確認できない!の押し問答を続けてるうちに3時を超えてしまいましたので体のいい理由ができました。一気に攻めた後に譲歩すれば、ネット銀行からの振込みだと時間がかかると物凄い時間がかかるという大嘘も通りやすくなるものです。

「そうですね。では、待ち合わせ場所を決めてください。どちらまで派遣すればよいでしょうか?」

おおおっとお、ついに詐欺業者を騙して先に進むことができた。どうかなーって思ってたけどやってみるもんだな、これでさらに肉薄できるぜと大歓喜ですよ。

「○○駅近くのマンガ喫茶○○にいますので、4時にそこの駐車場までお願いできますでしょうか」

「了解しました」

とまあ、ついに待ち合わせまでこぎつけました。どうせ来ないでしょうが、あとは4時になるのを待つだけです。ありえないことですが、万に一つの間違いで実際に来てしまったら困りますので、光子のエロいシーンもアベックも諦めてマンガ喫茶を4時前にチェックアウト、駐車場で体育座りして待っていたのですが、やはりというかなんというか、誰も来ませんでした。乳母車引いた老婆が通りかかったけど、まさかアレではあるまい。

5時まで待って誰も来なかったので、完全に詐欺と決定。もう一度マンガ喫茶にチェックインして彼にメールを送ります。

「おいハゲ、誰も来なかったじゃねーか、詐欺か」

「ですから、振込み確認が取れないと派遣するわけには」

「テメー、さっき納得して派遣するっていったじゃねえか」

「女の子の安全上、振り込み確認なしで派遣するわけにはいきません」

「女の子の安全と振り込み確認の因果関係がわからねーよ、ボケ。早くナギサを寄越せ、Fカップううううううううううううううううううナギサあああああああああああああ」

とか、自分でもウザいくらいにやってたら、もう面白半分でやっていたら詐欺業者の彼がブチギレてしまったらしく

「はいはい。残念でした。詐欺ですよ。だいたい、こんなデリヘルがあるわけないでしょ。3万円ご愁傷様でした。悔ちいでちゅかー」

ぐおおおおおおおおお、ムカつくうううう、何開き直ってやがるんだ!と思わずにはいられない詐欺カミングアウトの返信メールを送ってきやがりましたので、怒りの炎を燃やしていたのですが、よく考えたら僕は3万円振り込んですらいなかったので全然悔しくないことを思い出し、

「はいはい。残念でした。詐欺ですよ。だいたい、振り込むわけないでしょ。あんなもんいくらでも偽造できるって、3万円とりそこねまちたねー、ご愁傷様でしたー。悔ちいでちゅかー、あぶー」

と返しておきました。

そしたらよほど悔しかったのか、訳の分からない英語のメールがモリモリと100通くらい送られてきましたので、こっちも何か仕返しをしなきゃと、ネットで見つけたブスの画像を、ホロコーストの再来みたいなブスの画像を1通1枚の割合で50通くらい送っておき、ブス画像と英語メールの応酬という全面電脳戦争みたいな様相になってしまったのでした。

最終的には、彼の口座のある銀行に「この口座、ネットでの詐欺に使われてますよ」と通報し、おまけで彼の所轄警察署(口座から判明)に「この広告メールとこの口座の持ち主なんですが、たぶん無届け営業ですよ。無店舗型風俗店は風営法で届出が義務付けられてますよね。これは由々しき問題ですよね」と通報しておきました。

それから2週間くらいは彼から嫌がらせのメールが毎日のように来ていて、僕もそれに対抗して新入荷のブス画像を送っていたのですが、ある日を境に急に来なくなりました。心配です。ちょっと寂しい。

とにかく、なんでもありなネット世界。何でも買えるし、何でも出来ます。性の処理だってネットでお手軽。便利な反面、それを利用した詐欺もまた氾濫していますからお気をつけください。僕はもうネットはこりごりですので、主にマンガ版バトルロワイヤルの光子のエロいシーンで欲求不満を解消したいと思います。

ホント、光子はエロいわ。
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といったところで、今日はこれまで。手術怖い。


10/22 Numeri5周年

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10/17 ソルトレイクシティー

塩を舐めていたんです。来る日も来る日も。ただ塩を。

聖書に「あなたがたは、地の塩である」という言葉が登場するように、古来から「塩」は人間にとって大切なものとして扱われてきました。他にもたびたび登場する「塩」は常に大切なもの、神聖なものとして扱われています。塩に塩気がなくなった世界など何と味気ないものだろう、ずっとそうやって塩は重宝がられていたのです。

また、日本でも、清めの塩などに代表されるように、あらゆる祭祀の場面で塩が登場します。盛り塩なんかもそうでしょうし、古来よりどれだけ塩が大切で清いものだったか窺い知ることができます。

そんな神聖なる塩を一心不乱に食べていた僕は、汚らわしき怨念を身にまとった自分を清めようとしたわけでもなく、ましてや自分の中の悪魔を塩で追い出すというわけでもなく、ただ単純に食べるものがなかったからです。

いやですね、とにかくヤバくてですね、普段からヤバい、ヤバいと申してるわけなんですけど、概算的にその13倍ヤバい。よく、試験直前なんかに「私ヤバいよ〜全然勉強してない〜、もう今日の数学捨てた〜」とかいうブスがいますけど、お前は数学捨てるより早く処女捨てろって感じなんですが、実はそういうやつに限ってすげえ勉強してたりなんかして、始まった瞬間に机を掘削するんじゃないかって勢いでガリガリ書いちゃったりしてね、そういったね、軽々しく「ヤバい」って言葉を使う雑魚をなぎ倒して行きたい、それのどこがヤバいんじゃーと乳首を取り外してやりたい、それぐらいヤバかった。

何がヤバいって、金ですよ、金。あんまり金、金、言いたかないですけど、とにかく金がなかった。

これまでに数々の「金ない」系のお話をしてきたのですけど、そんな過去の金ないエピソードが富豪に思えるくらい金がなかった。とにかく金がなかった。具体的にどれだけなかったかと言うと、給料日まで25日あまりを残して所持金が1600円くらいに落ち込むという体たらく。おまけに公共料金とか家賃とか払ってなくてこれですからね。開いた口が塞がらないどころか死の臭いすら漂ってました。

ちゃんと給料貰ってるくせに1600円とか、お金たちがプリンセス天功ばりのイリュージョンを見せ付けてるとしか思えないんですけど、おまけに1600円しかないくせにゲーセンにある麻雀ゲームにはまってしまいましてね、その1600円すら綺麗に消えました。もう何がどうなってるやら分からず、たぶんこの格差社会が悪いんだ、社会が悪いと自分を慰めることしかできませんでした。

さて、そうなってくると問題は食い物の問題だ。なにせ給料日まで25日を1600円で生き抜かなければならない。しかも、その頼みの綱の1600円すら麻雀ゲームに使い切ってしまう四面楚歌。実質、0円で25日間を生き抜かなければならない。

最初の方こそは冷蔵庫を発掘して奥底に眠っていた食物だとか、部屋のアンタッチャブルゾーン(何があるのか分からないので触れてはいけない危険な領域)を捜索していつ買ったんだか分からないカップラーメンを発見、そいでもってスーパーの試食コーナーを大車輪などしていたのだけど、そうそう都合よく食物が見つかるわけないし、次第にスーパー側にマークされて試食もしにくくなる。

そうなってくるとね、もう塩を舐めるしかないんですよ。

部屋を探索してたら「食卓塩」がでてきまして、ハハハ、まさか塩なんて、塩で空腹が紛れるなんて、と思いながらぺロリと舐めてみると意外とイケる。というか普通に美味い。

最初はザッと手のひらの上に出してベロンベロン舐めてたんですけど、そのうち面倒になっちゃって直接ビンから舐め取ってました。で、塩を大量に摂取すると当然、喉が渇く、そこで水を飲んでガッツリ腹を膨らませるわけですよ。塩の後の水がこれまた美味い。塩を舐めれば舐めるほど喉が渇いて、イッヒッヒ、こうして水を飲むと・・・美味い!チャラララーンってなりそうなぐらいに美味い。ねるねるねるねくらい美味い。

まあ、数日もそんな生活を続けてると、大抵のことはどうでもいい世捨て人みたいになるんですが、今度は塩を舐めるのすら面倒になっちゃいましてね、最終的には水に塩を溶かして塩水にして摂取してました。

人間ってのはたくましいもので、そういった塩ライフでも慣れてきちゃうもんで、週末なんかは、「今日は金曜日、花金だし濃いめの塩水作っちゃうぞー」ってウキウキしてくるから不思議なものです。

いける、このままいけば給料日まで凌げてしまう!塩だけで凌げてしまう!

まあ、本気で塩のみってわけじゃなくて、本気で危ない時は禁断のクレジットを使ってローソンで買い物してたのですが、とにかく塩オンリーの限りなく生活費ゼロに近いエコライフを満喫していました。悠久の彼方の如き遠さに思えた給料日ももう目の前、イケルいけるぞおおおおお。

しかし、世間はそんな甘いものではありませんでした。世知辛い世の中なんて申しますが、僕らが生きている世界は甘くも世知辛くもない、ただ濃いめの塩のようにしょっぱい、涙の味のような現実が待ち構えているのです。

あれは先日の日曜日でした。

こういった金がないライフというのは日曜日が最も危険です。日曜日の、それも夕暮れ時が最も挫けやすい。

まず、日曜だというのに空腹なもんですから朝も早くから目が覚めてしまいます。で、どこにも行けないですからすげーつまんないローカル番組、具体的に言うと芸能人が海外に行って美食グルメみたいに振舞う番組を見たりします。それを夕方まで続けてフッと窓の外を見るとね、そこには雄大な夕日ですよ。全てを赤く染めたような暖かい夕日が広がっているのです。

ホント、日曜日の夕日ってのは犯罪的に寂しいもので、見てると何だか泣きたくなってくる。心の中に何かが入ってくる。そして、今の自分が情けなく思えてくる。

もう塩を舐める気力もなくて、水を飲むのももう嫌だ。オマケにクレジットカードで買い物しようとしたらカード停められてた。いよいよ八方塞り、四面楚歌、もうこれまでか、と部屋の隅で体育座りになって色々と悲観的になっていた。その時だった。

ピンポーン

来客を告げるインターホンが、空きっ腹に響かん勢いで鳴り響いた。

もうどんな来客が来ようとも出る気なんかなかった。どうせ出たところでガス屋かなんかで、僕の尻の毛まで引っこ抜かんとする魑魅魍魎ばかりなんだし、絶対に居留守使ってやる、こっちは腹がすいてそれどころじゃねえんだ、と一人で憤ってた。

ピンポーン ピンポーン

それでもインターホンは鳴り止まない。それどころかそのうちガンガンとドアまで叩きやがって只事じゃない雰囲気がムンムン。こりゃガス屋とか生易しいもんじゃないぞ、大家とかそういったレベルの、つまり立ち退きレベルの使者がやってきたに違いない。

これは大変ヤバイと思いつつ、これは尚のこと居留守使わないといけないなと思ったのだけど、それでもあまりに放置しすぎるとうるさくてかなわないので、空きっ腹を抱えつつ玄関まで赴きました。

あまりに空腹で気が立っていたのか見当違いなベクトルに怒りが増幅し、人が塩を舐めて過ごすほど飢えているのにチャイムを連打とか何事だ。もしこれでドアを開けて、肥え太った資本主義の豚とかだったら殴り倒してやる。絶対にやったる!女だったらアクシデントを装って乳を揉んでやる、と怒りの波動を身に纏い、「おっと失礼!」と乳を揉む仕草の素振りとかしてました。

ピンポーン

僕が玄関に到着しても、まだインターホンを鳴らしてやがったのですが、もうぶっきらぼうにドアを開けてやりましたよ。ドガーンと、ドアの向こうに赤子がいても構わないって勢いで開けてやりました。

「あ、どうもこんにちは」

そこには、一見して集金の人ではない、ましてや大家でもない、それどころかセールスでも女でもない意外な風貌の男が立っていました。

僕の人生や日常生活と全く接点がないんですけど、なんかダボダボの服を着た若者。髪だって金髪に染め上げてピアスとかジャラジャラつけてる風の、なんていうんだろう、大抵のことはジントニックで解決しそうなDJ風の若者がダルそうに立ってました。

これは納得。いやいや、なぜこのDJ風の若者がウチに来たかは知りませんけど、この風貌の若者ならチャイム連打も頷けます。コイツは非常識です。まったく今時の若者は何考えて生きてるんだ。非常識にも程がある。

「何か用?」

本当はけっこう不機嫌でして、それでも怒りに身を任せて振舞うなんてのは出来ませんから、自分の中で最大限に譲歩してそれでも少しぶっきらぼうに切り出してしまいました。

すると若者は、なんだか気だるそうに、お前は明日世界が終わるって聞いてもダルそうにガム噛んでるんだろうなって感じでクチャクチャやってました。

なんかつまんない用事とか、つまんない話とかだったら、ちぎっては投げちぎってはして、塩のみで生活するのがいかに大変か8時間ぐらい説教してやろうかと思いました。普段では考えられないことですが、そう思わざるを得ないほど短気になっていた。

さあ、答えてみろ、何しにウチをたずねてきたんだ。つまんないこと言いやがったら口に塩つっこむぞ!とメラメラと何かを燃やしていましたところ。

「あのー、実は、今日302号室に越してきましてー、これ、なんていうんですかね、おすそわけ?違うや、引越しの挨拶の品を持ってきましたー」

なんと!

こんな青年が引越しの挨拶だと!すまん、僕が間違っていた、腹が減ってイライラしてた!やっぱ見た目で人を判断するもんじゃねーよなー、彼は今時珍しく引越しの挨拶を欠かさない物凄い常識的な若者じゃないか。誰だ、非常識とか言ったのは。

都市部では各家庭の横の繋がりが希薄になり、隣にどんな人が住んでるのか分からない。隣りに死体があっても気付かない。大勢人がいるのにその中での孤独ってのはクローズアップされがちですが、なんの、まだまだ捨てたもんじゃないじゃない。

「え、あ、はい。ありがとうございます。良いお引越しで」

とか、あまりの事態に気が動転してしまい、訳の分からないことを口走りつつ引越し挨拶の品を受け取ったのでした。

「いやー今時珍しい、気持ちのいい若者だった。まさか引越しの挨拶とはね。ここに住むようになってから初めて挨拶されたよ。自分だって挨拶とかしてねーのに」

とか部屋に戻り、僕は彼から渡された挨拶の品をムフフと見つめるのでした。

いやいや、この包み紙、そしてこの重量感、これは間違いなく「食い物」ですよ。クッキーかハムか知りませんが、栄養を取るに十分な品物が入ってるに違いません。引越しの品だからソバっての十二分にありえます。

そんな予想より何より、あの素敵な若者が漏らした言葉が決定的です。彼は「おすそわけ」と言い間違えた。たぶんちょっと言い間違えてしまったイージーミスで、決して彼が非常識とかそういうのではないのでしょうけど、これは決定的ですよ。僕も日本語は良く分かりませんが、「おすそわけ」なんてのは大概の場合が食い物を対象に言うものです。

田舎から大量にカキを送ってきたからおすそわけ、ちょっとシチューを作りすぎちゃったからおすそわけ、たまーにエロビデオ買い過ぎたからおすそわけとか山本順平君がやってきますが、そんなのは例外です。

もし、彼が食い物以外の品を持ってきた場合、「おすそわけ」などと言い間違えるだろうか?答えは否!これは絶対に食い物に違いない。

うおおおー、生命の危機すら感じていた時にこのタイミングの良さ、塩ばっかり食っててそれすらも嫌になってきた時にこのタイミングの良さ。これは神が僕に生きろと言ってるに違いない。そして彼は神が寄越した使いのエンジェルだ。

将来、僕が巨万の富を築いた時は、自伝にこのエピソードを掲載し、彼の銅像も立てよう、ありがとう、本当にありがとう、感謝の気持ちで美味しく頂かせていただきます!

もう感謝の涙を流しつつ、勢い良く包み紙を破るように開けたその瞬間でした。

「ジョイ」

なんか台所洗剤の詰め合わせが。

なんか目に痛いくらいカラフルな洗剤の詰め合わせが威風堂々、一世風靡セピアといった気概で箱の中に数本鎮座しておりました。パワープラスとか何の躊躇もなく書いてあるし、緑茶成分入りとかどうでもいいことが満載でした。これ見た瞬間にマンガみたいに綺麗にズッコケた。ズコーってなった。

こんなもん食ったら泡吹くだろうが!あの小猿め!

貧すれば鈍す、貧しくなってくるとバカなことをしてしまうという意味の言葉なのだけど、間違いなくコレは大当たりで、塩を舐めるわ、挨拶の品を食い物と勘違いして大はしゃぎするわ、それが違うと判明すると怒りだして、わざわざ挨拶に来てくれた若者をないがしろにして「二度とくんな!」と玄関に塩を撒く始末。あの時の僕は間違いなく鈍だった。

わかっちゃいるのだけど、やっぱり諦めきれなくて、その日も塩食って水飲んで寝たのだけど、あの包みを開けてジョイだった時の落胆を思い出し、そっと枕を濡らしたのでした。死ぬほど貧困に陥ってる時に食い物と見せかけてジョイだなんて・・・なんだか傷口に塩を塗られたみたいだ、と嘆きながら。


10/11 郵便受けの怪

そこにはボロボロの郵便受けがあったのです。

僕が小学生だった頃、友達の松沢君の下駄箱に大量のバッタが入れられるという事件がありました。まあ、確実にイジメというか嫌がらせの類なのでしょうが、こういった事件が後を絶えないのですから、なんともやるせない気持ちになるものです。

松沢君は僕が言うのも何ですが、すごいバカでどうしようもなくて、たびたび授業の流れなんかを止めるものですから、よく思っている人も少なく、確かにクラスの連中に嫌われていました。

人間には与えられたスペースというものがあります。学校の机や下駄箱、ロッカー、本来ならば公共の物であるわけで決してその人の物ではないのですが、割り振られている間はその人の物として機能する。それどころか、その人の身代わりといって良いレベルまで価値が向上してしまうのです。

そういった、公共の物なんだけど、その人の代わりといっても過言ではない物、に対してイジメの標的が向けられます。これはもう、アンバランスさの隙間を突いたなんとも卑劣な攻撃手段でないかと思います。

例えば、松沢君のことが嫌いだとして松沢君本人を殴れるでしょうか。そこまでバイオレンスに行動するのならば逆に潔いと思ってしまいそうですが、多くの人はそんな行動に出ません。ならば、松沢君に嫌がらせしようと、彼のパンツでも脱がして目の前で燃やすでしょうか。それもしません。

多くの人は直接的な行動に出ません。犯人がばれないよう、自分の敵意がばれないよう、息を潜めて間接的な嫌がらせに出ます。そこで槍玉に挙げられるのが本来なら公共物であるパーソナルスペースです。

イジメの描写で、教室の机に心ない落書きがされているなんてのはかなりスタンダードで、もう季語の如く当たり前の描写としてまかり通っていますが正にその通り、イジメが発展していく過程で、机やロッカー、下駄箱なんか名代として槍玉に挙げられることはごくごく普通のことなのです。

その日も、僕と松沢君は再放送ドラマであるスチュワーデス物語の話に華を咲かせながら下駄箱へと赴くと、松沢君の動きが止まった。恐らくだけれども、彼は何かの禍々しさを感じていたのかもしれない。グッと息を呑んであまりにチープな下駄箱の蓋を開ける。

蓋を開けた瞬間、彼の下駄箱からは深い緑色のバッタが大量に、ワーっと飛び出した。中には茶色い羽を出して飛んでるのもいた。とにもかくにも、大量のバッタが、それこそ松沢君の姿が見えなくなるほどに飛び交っていた。

以前より、松沢君の机の上にゴミが置かれていたり、彼の椅子が教室の隅に追いやられていたりと、彼の所有物に対する攻撃に「なんか様子が変ね?」と不穏な空気を感じ取っていた僕、まさか、バッタなんてすごい嫌がらせをしてくるなんて・・・。

きっと松沢君は傷ついているだろう。そりゃあ僕だって下駄箱がバッタの王国みたいになっていたら嫌過ぎる。誰がこんな卑怯なことを、誰がこんな松沢君を傷つけることをやったんだ。許さない、僕は許さないよ!と悔しさに涙しそうになっていると

「すげー、おい、あの一番デカイの捕まえろ!」

と松沢君、バッタに大興奮。一番デカイしょうゆバッタを捕まえようと奮闘してました。

「やべー、俺の下駄箱が大自然だよ!足の臭いに誘われてきたのかな?」

と大喜びし、どっちがバッタなんだか分かんない勢いで飛び跳ねてバッタを追いかける松沢君はどう好意的に解釈してもバカで、それ以外の何者でもなくどうしようもなかった。一緒にバッタを捕まえるしかなかった。

松沢君の例は大いなる例外として扱うべきだけれども、やはり公共の中にあるパーソナルスペースへの攻撃というのは陰湿で残忍で許せない。下手したらダイレクトに殴られるより心が痛んでしまうんじゃないだろうか思うのです。

さて、僕は幸運にもそういった陰湿な攻撃を受けることなく、もしかしたら受けていたのかもしれませんが、あいにく自分では気付かないままこの歳まで過ごしてきたのですが、先日、ついにショッキングな事件に見舞われてしまったのです。

あれは、仕事で疲れて深夜に帰宅した時のことでした。僕はあまりにも疲れると帰り道に車を停車して寝てしまい力尽きてしまうという習性を持っていますので、確かその日は途中で4時間くらい寝てしまい、深夜3時くらいに帰宅した時のことでした。

駐車場に車を停め、さあて、家に帰ったら本格的に寝るぞ!と意気込んでアパートの階段を上がろうとしたその時でした。

ウチのアパートは、入り口のところが集合郵便受けみたいな状態になっており、ザラッと威風堂々と言わんばかりに各部屋の郵便受けが並んでいるのですが、それがどうも様子がおかしい。

いつもだったらパカッと蓋を開けて中に潜んでいる家賃の督促やら水道電気電話ネットの脅迫状、そんなものに心底怯えて膝をガクガク震わせるのですが、どうにもこうにも様子がおかしい。蓋を開けようにも開けられない。

なんかですね、そこにはボロボロの郵便受けがあったのです。

もう、これでもかてくらいに蓋がひしゃげてましてね、ボコボコに各部が曲がってるんですよ。朝には綺麗に銀色に輝く郵便受けを確認していましたから、間違いなく誰かが鉄の拳でガンガン殴りつけてやがるんですよ。

もう、蓋がひしゃげて中に食い込んでますから、とにかく開けるとかそういったレベルのお話ではなくて、無理にこじ開けて中の郵便物を見ようとしたのですけど皆目無理。一体なんでこんな・・・と深夜の郵便受け前で愕然とするしかありませんでした。

幼き少年の頃のあの日、松沢君がされていたみたいな嫌がらせが僕の郵便受けに。一体何が。一体誰が。一体なぜ。ここまでされるほどに僕は悪いことをしたのだろうか。涙が溢れてきて止まりませんでした。たかだか郵便受けが壊されただけじゃない、僕の心が壊されてしまったようだった。

とにかく、このままでは郵便を受け取ることができませんので、なんとか直そうとするんですけど、蓋がベコベコになっていて、内部に食い込んでいる状態。おまけに留め金みたいな部分が内壁にひっかかっていて微動だにしないんですよ。

考えてみてください。深夜三時ですよ、三時。もう、起きてるのなんて昼夜が逆転した引きこもりくらいしかいませんよ。そんな時間に涙ながらにヒックヒックいいながら郵便受けの蓋を直す僕。これを悲劇と言わずに何を悲劇というのか。

結局、ひしゃげて食い込んでいた蓋を掃除用のホウキを使ってテコの原理でさらに曲げて引き出すことに成功。それから手の力で湾曲部分を直し、なんとかベコベコになりながらも元通りにし、郵便受けとしての体裁を取り戻すことに成功しました。案の定、中には家賃の督促とか入っていましたが、それどころではありません。

一体誰が、僕は誰かに恨まれてるんだろうか、なんて陰湿な、と呟きつつ部屋に入り、乙女のようにそっと枕を涙で濡らしながら眠りについたのでした。

次の日。あまりに陰湿な攻撃を受けた僕は、とても仕事に精を出す気などなく、覇気がないままボヤーっと過ごして終業時間。ボンヤリと車を運転しながらアパートへと帰りました。すると、

そこにはまたベコベコに破壊された郵便受けが。

もちろん、昨日と同じく僕の部屋の郵便受けだけが破壊されています。昨日の時点ならまだしも「愉快犯の犯行だろう、たまたま僕のとこが被害にあっただけ」と自分を慰めることができたのですが、二日連続自分のところだけとなると、間違いなく僕をターゲットにしています。

これはもう戦争だ・・・!

またもや涙ながらに郵便受けを直しつつ、ついに決意します。絶対に犯人を捕まえてやる。この手で犯人を捕まえてやる。そして、郵便受けの敵をとってやるんだ。

早速、有給休暇を申請して会社を休んだ僕。朝っぱらから犯人を突き止めるべく張り込みを開始します。といっても、郵便受けの前で仁王立ちってわけにはいきませんので、アパートの近くにあるビルの屋上に待機。ここから我がアパートの郵便受けがよく見えますので、ここで犯人が現れるのを待ちます。

ついでに、ちょうど僕の家に、職場のリクリエーション備品だった双眼鏡がありましたから、その双眼鏡でガン見で張り込みをしていました。

4時間くらい経ったでしょうか、ジーッと双眼鏡を構えて見えないものを見ようとした感じで見張っていたのですが、ホント、これっぽっちも覗く気なんてなくて、僕はあくまでも犯人を挙げるために張り込んでいたのですが、たまたま見てしまった部屋の窓の若奥様と双眼鏡越しに目が合ってしまい、通報されかねない勢いだったので撤退しました。

しょうがないので、どうせ3日連続で現れるわけねえよ、とゲーセン行ったりエロ本を立ち読みしたりして有給休暇を満喫、郵便受けのことなんて忘れて「いやー、いい休暇だった」と満足してアパートに帰ると、そこにはまたも見事にボロボロの郵便受けが。しかも、日を追うごとに破壊度が上がってきてやがる。

もう破壊と修復を繰り返していて見るも無残な郵便受けになっちゃってるんですけど、とにかく誰が犯人か知りませんがヤツは本気だと判断。こういった卑劣な犯行を許してはいけないと、こちらも本気で戦うことを決意しました。

とりあえず、もう一日有給休暇を申請。よく考えたら遠くのビルから見張っていても埒が明かず、とても犯人をキャプチャードできるわけないので近場から見張ることを決意します。

ウチの郵便受けってのがアパート入り口の仕切り板みたいな場所に設置されてるんですけど、その隣がゴミ捨て場になってるんですよね。とりあえずそこに隠れて郵便受けを見張りつつ、破壊神が来たらゴミ捨て場から飛び出して徹底的にやり込める、あまりバイオレンスなことは嫌いですが、暴力も辞さない、犯人も郵便受けのようにボコボコにしてやる!と決意して、早朝からゴミの中に隠れて息を潜めました。

なんか、積み上げられたゴミ袋の中に隠れていたのですが、死ぬほど臭いわ変な汁が出てくるわで大変な騒ぎ。住民がゴミを出しにきて、ボコボコとゴミを投げつけられたりして心が折れそうになったのですが、僕だって本気です。本気で犯人を捕まえるために必死で我慢しました。

どうせね、こんな陰険なことするヤツなんてヒョロいモヤシっこに決まってます。メガネかけて絶対にブリーフはいてる。そいつを捕まえてボコボコにしてやる!汁から腐ったタマネギみたいな匂いがしてきました。

しばらく、といっても4時間くらいでしょうか、そろそろ有給まで使って何やってんだ僕は、と思い始めてきましたが、じっと息を潜めて待っていると、郵便受けに微妙な変化が。もともと僕の部屋の郵便受けだけ蓋の力が弱かったってのもあるんでしょうが、連日の破壊によってヘロヘロになった蓋が勝手に開いていくんですよ。

他の住人が自分の郵便受けを開けて閉める、その振動が伝わってでしょうか、微妙に蓋が開いていく。最終的には風に煽られてガバッとフルオープン状態ですよ。なんてこった、ウチの郵便受けはいつもこんなストリップ嬢みたいなおっぴろげ状態なのか。これじゃあ中の督促状とか丸見えじゃないか、恥ずかしい、とか思ってると、住人が登場ですよ。

まあ、もうお昼も過ぎてましたし、平日のこんな時間に部屋から出てくる住人なんてマトモじゃないんでしょうけど、見ると206号室に住んでる住人さん。その住人さんが階段を下りてきて颯爽とご出勤、どこに行くか知りませんけど軽い足取りで出てきたのです。

で、階段を下りて角を曲がる、そこが丁度郵便受けゾーンになってるんですけど、そこで事件は起きました。

な、な、なんと、あまりに切れ味鋭く角を曲がった住人さん、鋭すぎて先ほどフルオープンになっていた僕の部屋の郵便受けの蓋にガンッ!と顔をぶつけてやがるんですよ。たぶん、ウチの郵便受けの位置が一番右上だったのが良くなかったのでしょうけど、とにかく、モロに、首から上がなくなったんじゃないかて勢いでぶつけてやがるんですよ。

さあ、ここからが大変ですよ。

「またかよおおおおお!」

とか突如、阿修羅マン怒りの面に豹変して、開いていた蓋を、自分が頭をぶつけた蓋をバンと閉める、で、そこに亀田次男みたいなパンチですよ。何度も何度も、これはクリリンの分!って感じでパンチパンチ、みるみると蓋がひしゃげていって、連日連夜の状態に。

謎はすべて解けた!

つまり、蓋の力が弱まっていた郵便受けの蓋が開いてしまった、で、それくらいの時間に出かける206号室の彼が、死角となる位置で蓋に頭をぶつける。最初は偶然の産物だったのでしょうが、僕が蓋を直したことによってさらに力が弱まった蓋が開きやすくなってしまった。そして、連日の悲劇が繰り返されたのです。ってか、コイツは3日連続で同じ場所で頭をぶつけてるのか。

とにかく、ついに念願の犯人を突き止めたので、さあ、どうしてくれよう、と颯爽とゴミ袋の中から飛び出し、彼に掴みかかってちぎっては投げちぎっては投げ、これは郵便受けの分!とハードパンチをかまして顔面をベコベコにしてあげたかったのですが、やめておきました。暴力は暴力しか生まない、報復は報復を、テロはテロを生むだけ、そんな悲しいこと、二度と起こしてはならない、殴っている彼の心だって痛いんだ、なんて素晴らしい理念があったわけではなく、単純に彼がすげえ強そうなんだもん。ケミストリーの右側みたいなアウトローなんだもん。ご覧の通り、大抵の物事を拳で解決するような男ですよ。勝てそうにないのでやめておきました。

ビクビクしつつ、まるで嵐が通り過ぎるのを待つかのようにゴミの中で身を潜め、彼が去った後に、また泣きながら郵便受けを直して今度は勝手に開かないようにガムテープで止めておきました。

なんにせよ、こういった自分のパーソナルスペースを攻撃されるってのはあまり気分が良いものじゃない。それは直接殴られる以上にダメージが大きいし、たとえ犯人を見つけたとしてもどうすることもできないほど心が傷ついてしまう。

きっと、あの日あの時、バッタにはしゃいでいた松沢君はバカなんかなかったんだ。彼はきっと、それがイジメだってことも嫌がらせだってことも分かっていた。けれども、心が傷つきすぎてどうすることもできなかったんだ。ただ、無邪気にはしゃいでおどけて見せることで傷ついた心を誤魔化したんじゃないだろうか。

こういう心に来る攻撃はやめてくれよなー、と思いつつ、次の日も有給休暇を申請し、朝から夕方までかけて近所の空き地でバッタやらコオロギやらを捕まえ、206号室の郵便受けに放り込んでおきました。


9/29 出会い系サイトと対決する5

「いやー、アツアツですね、もうアツアツ!」

アンニュイな朝に、死ぬほど眠いこのまま世界が終わればいいと呟きながら寝ぼけ眼で通勤していましたところ、とんでもなく衝撃的なフレーズが僕を襲いました。

僕は主にマイカー通勤をしつつ、カーラジオなぞを聴いているのですが、そのラジオからとんでもないセリフが飛び出したのです。

番組は、男女2人組みのラジオDJがリスナーから頂いたメールの内容を読み上げ、時には面白おかしくコメントしたり、時には大幅に脱線したり、男性DJがハッスルしちゃって「ガリクソンのガソリン」とか朝っぱらか勘弁して欲しいことをのたまったりする、そんな微妙で和気藹々とした空気が好評を博している番組なのですが、そこに送られてきた一通のメールから事件は起こりました。

「この間、彼女と夜景をみにドライブにいってきました。○○山の山頂は夜の街がハート型に見える綺麗な夜景があって最高です!夜景を見る彼女が最高にかわいかったです」

とかなんとか、もうこのメール自体も勘弁して欲しくて、僕は別に朝っぱらから夜景まる得情報なんて欲しくありませんからね。もっとこう、今日一日を生き抜くための有益な情報、それこそ、洗剤が安いとかの情報が欲しいわけですよ。なのになに、ハート型の夜景ってなんだよ、ハートっていえばデブな敵キャラじゃないか。

まあ、この投稿自体も許しがたいですが、問題はそれを受けた男DJのコメントですよ。これがもう、戦後最悪ってほどに酷い。

「いやー、アツアツですね、もうアツアツ!」

他にもっと気の利いたこと言えないのか、安い洗剤売ってる店とか教えられないのかと思いますが、ここまではまだいい。対応コメントとしてはまだまだ許容範囲レベルだ。しかし、許せないのはこの後に続いたコメントだ。

「夜景ドライブだなんてホント、アツアツですねー。アツアツすぎて車がオーバーヒートするんじゃないかなあ」

しねえよ、バカ。

あのですね、あまり言いたかないですけど、どこの世界を探してもカップルのアツアツでオーバーヒートする車なんてありませんよ。そんなの速攻でリコールですよ、リコール。「高志〜、ご飯つぶついてるぞー」パクッペロ!「芳江はカワイイなあー」「テヘ」これで車がオーバーヒート、やってられません。

あいにくですね、日本製の乗用車の技術力ってのは相当なもんですから、たとえカーセックスしようともオーバーヒートはしません。アツアツカップルでオーバーヒート、ダメ、ゼッタイ。

そんな感じで朝っぱらから憤りながら通勤していたらですね、今度は携帯電話にSPAMメールですよ。

もう僕の携帯メールアドレスが電脳世界でどんな扱いになってるのかわからないんですけど、とにかくドコドコとSPAMが届くんですよね。とにかく怪しげなサイトの広告が来たらガッツリ登録するように心がけていますから、「登録したんだから5万円払え!」「払わないなら差し押さえするぞ!」なんて請求メールはもちろんのこと、「欲求不満の人妻がアナタを待っています」とか「頭も尻も軽い女の子満載!今すぐ登録!」みたいな垂涎の一品も。きっと僕のアドレスが詐欺サイト界で流通してるんでしょうね、第二の詐欺を狙ったメールがドコドコ来るんです。

普段ならそんなある意味必死なメール群を眺めて一笑に付し、払うわけねーだろとか、そんな法律存在しねーよとか、いちいちツッコミを入れて楽しんでるのですが、ちょっと前述のラジオDJのコメントが癇に障ったんでしょうね、とてもじゃないが大らかにスルーする気もツッコミ入れる気も起きなくなっちゃいましてね、ここはいっちょ詐欺業者相手に遊んでやるかと決意しちゃったわけなんです。

職場に到着しまして、早速デスクに座って、仕事?なにそれ?と言わんばかりに届いた詐欺メールどもを吟味します。どいつもこいつも香ばしい詐欺メールで、詐欺メール博物館みたいな状態になってますが、その中でも特にスパイシーな物をチョイスします。

「ロリっこ倶楽部です。あなたは既に有料会員に登録されています。電子消費者契約法に基づき利用料金88000円請求いたします。本日中にお支払い頂ける場合は緩和措置として50000円に減額可能ですので、至急、03-XXXX-XXXX担当広川まで連絡ください。以後の減額交渉には応じられません」

とまあ、このメールからただならぬスパイシーな、あえて言うならレインボーなオーラを感じ取ってしまった僕。こんなサイトにアクセスした覚えすらなく、間違いなく架空請求の類でしょうが、ロリっこ倶楽部という名前が気に入った。そのネーミングセンスにいたく感動した。ロリっこですよロリっこ、ロリっ子とか漢字にしないところがルネッサンス級にセンスがありすぎる。

まあ、そんなのは置いときまして、特にスパイシーなのが「電子消費者契約法」という文言と、「本日中なら5万円に減額可能」と謳っている部分にあります。

まず、「電子消費者契約法」ですが、なにやらこのような法律名を併記してお金を請求されてしまいますと払わなきゃいけないような気がしてきますが、実際に法律を紐解いてみますと、実はコレは民法95条の錯誤無効の但し書きにある部分を保護した特例的措置を定めた法律になるのですが、あまり詳しくやると法律チックになって大変なのでこのへんにして、単純に言うとインターネット上での契約における勘違いや操作ミスによる契約から消費者を守るという趣旨の法律です。

つまり、消費者を守るための法律ですから、「電子消費者契約法に基づいて請求します」ってのはありえないお話でチャンチャラおかしい荒唐無稽なお話なんですよね。

きっと、小難しい法律の名前が出てると、もしかしたら払わないといけないんじゃないかって思う人もいるかもしれないというブラフなんでしょうが、こういうせせこましいことを臆面もなくやってしまう業者、きっと小動物並みに頭が悪いに決まってます。

そして、「本日中なら5万円に減額可能」という部分。88000円が一気に50000円に減るというイリュージョンです。これはもう、単純にこの業者がお金に困ってるってことじゃないでしょうか。早く騙されて振り込んでくれないともうダメ!という危機的状況に瀕しているのではないでしょうか。

僕もこの世知辛い社会で生活を営んでいて、あと500円あればハンバーグが食べられる!という危機に直面してしまう事があります。もう空腹でどうしようもなくて思考回路はショート寸前。銀行の口座を見たら899円と920円しか入ってなくてATMで下ろせない、という絶体絶命のピンチになることがあります。

本当にお金がない時の人間ってのは愚かなもので、なんとかお金を手にしたいと、899円の口座の方から手数料を引いた600円くらいを920円の口座に振り込み、1500円くらいにして1000円を下ろすという愚行に手を染める事があります。自分の口座から自分の口座に振込みとか、頭が悪すぎて目を覆うばかりです。

そんな風に危機に瀕してるんじゃないかと予想される業者ですので、ちょっと弄ってみたらすごく面白い反応をしてくれるんじゃないかと予想、早速この業者をターゲットに絞って接触してみましょう。今回のテーマは「払いたいのに色々な事情があって払えない人」という子羊のような設定です。

早速、メールに記載されていた電話番号にアクセスします。

「もしもし」

「もしもし、○○データサービスですが」

いつもそうですが、早くも鬼のように怖い声のオッサンです。軍隊の上層部みたいな声してやがった。

「あのー、料金請求のメール貰っていて、今日なら減額も可能ってあったんですけど。担当の広川さんって人らしいです」

「ああ、広川ね。少々お待ちください」

あまりの恐ろしさに小便を漏らしそうになったのですが、なんとか広川さんを出して欲しいと伝えることに成功。怖い声とは対照的な、非常に平和的な保留音が鳴り響いていました。

「お電話変わりました。広川です」

満を持して登場した広川がまた凄くて、さっきの人より数倍声が怖い。よくワイドショーなんかでヤミ金の人とか中国人窃盗団なんかが真っ暗な部屋でインタビューに答えていて、音声が物凄く重低音な物に変えられていることがあるんですけど、素でそんなレベルの声してやがった。

とにかく恐ろしいので一刻も早く電話をたたっきりたいのですが、ジャブ程度に切り出してみます。

「あのー、ナントカ倶楽部ってサイトを使ったって請求が来てたんですけど、何倶楽部だったかな、ちょっと覚えてないんですけど」

本当は「ロリっこ倶楽部」だってメールに書いてあるんですけど、広川に「ロリっこ倶楽部」と言わせたい、この怖い声で「ロリっこ」と言わせたい。そんなイタズラ心が芽生えてしまったので仕方ありません。

「ロリっこ倶楽部ですかねー」

おおー、すげえ重低音で「ロリっこ」とか言ってやがる。ダメだ、この時点で死ぬほど笑える。

「え?すいません、何倶楽部ですか?」

もう一度聞いてみたくて、分かってるくせにパードゥンみたいな意味合いでにじり寄ります。

「ロリっこ倶楽部です」

アカン、こんな人殺してるような声でろりっこ倶楽部はないわ。死ぬほど笑える。

「そうそう、そのロリっこです。使った覚えはないんですけど、何か難しい法律で払わないといけないんですよね?」

「ええ、最近は架空請求なんか多いですけど、当社は電子消費者契約法に基づいて請求してますから、裁判やっても勝ちますよ」

とまあ、どの口が言いますかって感じで堂々たる主張。裁判やっても勝つが聞いて呆れる。

「そうなんですかー、じゃあ払ったほうが得策ですね・・・」

「そうですね、早めに払ってもらえると、こちらも法的手続きを採らなくて済むので助かります」

まあ、ここで電子消費者契約法の真実を語って矛盾点を突いていっても面白くないので、あえて業者側の主張に乗りましょう。イメージとしては、もう払う気マンマンの人です。

「今日中だったら安くなるんですよね?」

「ええ、本日中なら特別減額に応じますので88000円が50000円になります」

さあ、ここで大いなる矛盾点が大登場。

僕はここまで自分の名前も電話番号も、メールアドレスも名乗ってないんですよ。つまり、業者側は僕という人物を特定というか、識別できていないのです。

では、ありえないでしょうが真っ当に利用料金を請求している業者だったらどうでしょうか。そうですね、請求金額は人によってまちまちなはずです。沢山払ってない人とかもいるでしょうし、ちょっとの料金で済む人もいるはず、皆が一律に同じ料金を請求されているってのはありえないんですよ。

なのに、広川さんは何も言わなくても「88000円」というメールに記載された利用料金を持ち出してくる。これはもう、この料金で多くの人に無差別にSPAMメールだしてる架空請求業者ですって自白しているようなものです。

「88000円が50000円に!ムチャクチャお得ですね!コレは今日払ってしまうしかないですね」

しかしまあ、そんな矛盾点を突っつきまわしても面白くありませんので、ここはあえてスルー。別方面から攻めます。

「ただ、今日払いに行きたいんですけど・・・ちょっと都合が悪くて・・・払いにいけそうにないんですよね」

ここで「払う気はあるんだけど諸事情により払いにいけない」ということをにわかにアピールします。

「是非とも本日中にお支払い頂きたいのですが・・・都合つきませんかね?」

おそらくですが、悪質業者サイドには「相手が払う気になったらその日のうちに払わせろ」という不文律でもあるのでしょうか。たぶん、時間を置いて後日、とかになると周りに入れ知恵をされたりなんかして失敗するケースが多いんでしょう、とにかくその日のうちに払わせようとしてきます。

「ちょっと時間を作って振り込みに行くくらい出来ませんかね?」

「ええ、今仕事中なんですけど、とにかく銀行が遠いんですよ。車で1時間くらいかかります。そんなに長時間抜け出せないし弱ったな・・・」

最寄の銀行まで車で1時間って、どんな隔絶された山村だよって思うのですが、ここはあえてそう主張しましょう。

「抜け出せないですかねー。今日払っていただかないと減額できないんですが・・・」

「僕は払いに行きたいんですが・・・部長がですね、睨みをきかせてるんですよ。怖い部長で僕を目の敵にするし困ってるんですよ。どうにかなりませんかね?」

なぜか、ここで部長が怖いという話にスライド、相談を持ちかけます。

「怖い部長ですか・・・事情を話して抜けさせてもらうってのはできないんですかね?」

「ええ、もう頑固者ですから。事情なんて話したらさらに睨みがきつくなりますよ。この間なんて、新入社員の女の子が家賃を振り込みに行きたいって言っただけで泣くまで怒られてましたから」

「怖い部長ですね・・・」

「ええ、怖いんですよ。広川さんのところはどうですか?」

「まあ、ウチは普通です」

なに話題に乗ってきてるんだ、広川。

「じゃあこうしましょう。お腹が痛いとか言って早退したらどうですかね?体調不良ならいくらなんでも部長だって納得してくれますよ」

と、広川から提案。なかなか面倒見がいいじゃねーか。

「わかりました。やってみます。また電話しますね」

「はい、あ、その前に振込口座を教えますのでメモしてください。○○銀行○○支店・・・振込みの際はお客様の携帯電話を入力してください。振り込み終わったら電話してくださいね」

「わかりました」

まあ、実際には、怖い部長も遠い銀行ってのも存在しなくて、自由に抜けられるし銀行も目の前にある、それどころか口座のメモすら取ってないのですが、まあ、鼻くそほじりながらしばらく時間が経つのを待ちます。で、しばらくしたら再度電話。

「あ、広川さんですか?」

「はい広川です」

「先ほどの者ですけど・・・」

「あ、振り込み終わりました?」

「いえ、実は大変なことが起こりまして・・・部長にお腹痛いと言って早退することには成功したんですけど、そしたら本当にお腹痛くなっちゃって、今トイレから離れられないんですよ、どうしよう、振り込みにいけない・・・」

「はあ、それは困りましたね」

「どうしましょうか?」

「温かいものでお腹をモミモミすると良いって聞きますけどね」

コイツは怖い声しやがってからに何言ってやがんだ。地獄の怨霊みたいな声しやがってからに「お腹をモミモミ」はないだろ、モミモミは。笑い死にさせる気か。

「早く払いにいきたいんですけど、うっ、また下痢だ。とにかく払いたいんですけど・・・えっと、何倶楽部の料金でしたっけ?」

「ロリっこ倶楽部です」

もうダメ、死ぬ。笑い死ぬ。

「とにかくお腹をモミモミしてみますね。頑張って払いに行きます」

そろそろ本格的にどうでも良くなってきたのですが、とにかくまた鼻くそほじったりしながら時間が経過するのを待ちます。で、そろそろいい頃合になってきたところでまたもや電話。広川に繋いでもらいます。

「広川さんに教えてもらったモミモミでお腹治りました!すごい!」

「そうですか。では振り込みにいけますね」

「それなんですが・・・実は・・・車のカーナビが壊れてしまって・・・銀行の場所が分からないんです」

さすがにね、ここまでくると広川君もおちょくられていることに気付くらしく

「おい、いい加減にしておけよ、テメー。払うのか払わねーのあ、ハッキリしろや」

とドスがピリリと効いた脅し文句ですよ。返して、あの優しかった広川君を返して!お腹をモミモミとか言ってた広川君を返してよ!

「払うって言ってるじゃないですか。ただ禍々しい何かが 僕を邪魔するんです!」

「こっちはな、忙しいんだよ。とっとと払えや!」

「だからカーナビが!」

「カーナビなくても銀行くらい見つかるだろが!」

「ムリムリ!カーナビ無しじゃあムリ!」

「いい加減にしとかんと大変なことになるぞ!」

「カーナビが壊れたんだから仕方ないだろが!カーナビ!カーナビ!カーナビゲーション!N・A・V・I・G・A・T・アイオエヌ!」

「ワレ、ふざけとんのか?」

「ふざけてるわけねえだろ!お腹はモミモミしてるけど!」

「殺すぞコラアアアアアアアアアアア!」

うおーこえー、広川こえー。すげえ猛り狂ってるよ。

とにかく、これ以上は広川君が高血圧でぶっ倒れそうだったので自粛。電話を切ってまた鼻クソでもほじるのでした。

でまあ、これで終わりにしようと思ったのですが、どうしても伝え忘れていた事があったので、それをやり残してこの対決は終われないと判断、再度広川君に電話をかけて

「先ほどはすいません。どうかしてました。やっとカーナビが直ったので銀行に振り込みに行きます」

「そう」

「ただ、銀行に行こうと車を走らせていたら、農道の脇にカップルがいましてね、そのカップルがあまりにアツアツなもんですから、車がオーバーヒートしちゃったんですよ、どうしましょう・・・」

と切り出したら

「ンhcv絵rにえねぴvmdfr殺すhすdfhうぇ」

みたいに、聞き取れないくらい大変怒り狂っておられました。広川がオーバーヒートするかと思った。

大満足の対決を終え、仕事も終わったので家に帰ろうと車を走らせていましたところ、本気でコンビニも何もない山間部で激烈にウンコしたくなったので、お腹をモミモミして凌ぎました。


9/20 最狂親父列伝−キチガイに花束を−

ひどくご機嫌な日だってある。

人一倍感情の起伏が乏しく、不機嫌なことも上機嫌なこともあまりない僕なのだけど、それでもやはり上機嫌なことはある。なんだか無意味にハッピーで、無意味にココロオドル、そんな感情に身を任せることはそんなに悪いことじゃない。

近所のディスカウントショップに洗剤を買いに行った時のこと。僕はいつも特売品を買おうとして間違えて通常品を買ってしまうので、チラシを手に「アタック」「アタック」と連呼しながら店へと赴いた。特売品と通常品では68円も違うというのだから、大いなる死活問題だ。

ふと、店の軒先をみると、これまた「特売」と銘打って大きな鉢植えに入った一輪の花が飾ってあった。ずらりと並んだ赤い花たちは一種異様で、それだけで物言わぬスピリチュアルメッセージを感じるほどに僕の心を揺さぶった。

しばしボーっとその花たちを眺め、まだ「アタック」「アタック」などと呟いていると、かなり危ない人に見えたのかもしれない、何かがテンパってる人に見えたのかもしれない、そのせいか懇意にしている店員が何かをフォローするかのように話しかけてきた。

「あれね、特売品なんですよ。どうです?いつも贔屓にしてもらってるし、もうちょっと安くしておきますよ」

彼は「米を2合だけ売ってくれ」などという、まるでかぐや姫のような僕の無理難題にいつも付き合わされている店員で、満面の笑みでそう告げた。

特売品よりさらに安いご贔屓価格、この魅惑の響きに「アタック」などどこかに吹き飛んでしまった僕。洗濯物なぞシャンプーで洗えばいいわ!ガハハハ!と無意味に強気になってしまい、「じゃあ、あれください」と鉢植えに突き刺さった花を購入してしまった。花なんて煮ても焼いても食えないのに、とにかく買ってしまった。

たちの悪いアメリカンジョークみたいにどデカイビニール袋に入れられた鉢植えを持ち、家までの坂道を登りながら、その重さに少し後悔したのだけど、僕の心は晴れやかで幸せ、なんともご機嫌だった。

「この花は親父に贈ろう」

僕の親父は再婚で、実の母の死後、よく知らない別の女性と結婚した。僕的には新しいお母さんが出来て、そこで確執なんかがあったりなんかして「あなたのことはお母さんとは呼べない」「そんな、正夫ちゃん・・・」「うぜーんだよ!母親面しやがって!」「おい、正夫、お母さんになんて口をきくんだ」「うるせー、親父も親父だよ!もう・・・母さんのこと・・・わすれちまったのかよ・・・」「正夫・・・」「いいんです・・・私が悪いんです。私が。でもね、正夫ちゃん、お母さんね、諦めない。きっといつかお母さんって呼ばれるように頑張る」「うるせえんだよ!」とかだったら面白かったのでしょうけど、僕も普通に20歳超えてましたしね、別に確執も何もなくて、普通に知らない人がお母さんになって、よく分からないロリ系の妹ができてしまったという日常茶飯事な出来事だったのでした。ってか誰だよ、正夫って。

そんな、親父の再婚に対してつかず離れずという微妙な位置関係を築いてきた僕、言うなれば電車内で歴史的に泥酔した女性がいて、絡まれたら面倒だけどそのうちパンツとか見えるかもしれない、近づきもせず離れもせずにいようって感じの距離感だったのですが、微妙に分かりにくいですね、ごめんなさい。

とにかく、あまり触れてこなかった親父の再婚に対して、何かしたかった。いい加減、何かアクションを起こしたかった。そういえばもう少しで結婚記念日というか再婚記念日じゃないか。よし、ここは一発、記念日に花でも贈ってやろうじゃないか。そう思って購入したのだった。

なんというか、贈り物を買っただけでこんなにも幸せな気分になれるものなか。世にはびこる様々な贈り物習慣なんてクソでウンコでゲスな商売戦略に他ならないと思っていたのだけど、やってみると悪い気はしない。きっと「贈る」って行為は贈った相手が喜ぶからやるんじゃない、贈った自分が嬉しいからみんなやるんだ。

とにかく、親父の再婚記念日に花を、それもかなりゴージャスな花を贈るステータスな自分にいたく満足し、僕はルンルン気分で家路へと着いた。スキップも、鼻歌も、異様にむかつくその笑顔も今日なら許せる。

ルンルン気分で坂道を登り、猫の糞が散乱するゴミ捨て場の横を通り過ぎてアパートの階段を登る。鉢植えが少し重くて大変だけどなんとか登りきるとそこには郵便受けが並んでいて、颯爽と自分の部屋番号の郵便受けを開ける。本当に何の気もなしに、そうするのが当たり前のように、ガゴッと郵便受けを開いた。

そこには、愕然とする郵便物が紛れ込んでいた。もう、落胆し、膝がガクガクと崩れ落ちるほどの不幸の郵便物が紛れ込んでいた。

確かに、灰色の封筒に包まれた「電気止めるぞ!」という電力会社からの脅迫状も怖かった。ガス代を払えって言う手紙も、家賃がどうたらっていうノイズも、全てが怖かった。けれども、それ以上に不幸を呼び寄せる魔がその郵便受けには存在していた。

それが、NTTからの電報と一目で分かる青い封筒だった。

いつもそうだ。いつだってそうだ。アイツは僕が幸せの絶頂にいる時、それを嘲笑うかのように不幸の奈落に突き落としやがる。こうして親父の再婚記念日に花を贈ろうとルンルン気分の僕を突き落とす不幸の電報、中身を見るまでもなく、その差出人もまた親父だった。

ウチの親父は、まるでハンダ付けをし忘れた手作りラジオのように頭が狂っているので、その嫌がらせがいちいち鬱陶しい。電話に出た瞬間に自作の三文ドラマみたいなファンタジーストーリーを2時間くらい聞かせてきたりするので、そういう場合は思いっきり無視している。忙しいのにエルフの谷にフルートを取りに行く話とか聞いてられない。

電話や何かを無視していると、今度は電報攻撃が始まってしまい、「チョウシドウ チチ」とか「チチキトクスグカエレ チチ」だとか、許されるのならば撲殺も辞さないといった電報が舞い込むようになる。

僕はこの電報を受け取るたびにひどくブルーになるし、親殺しってどれくらいの懲役食らうかなとか、魔の乗り換えトリックを使って空白の1時間でアリバイを、などと良からぬことを考えてしまう。その電報が今僕の目の前に存在するのだ。

いつだって、ウチのキチガイ親父は僕の幸せってのを分かっていて、その幸せの絶頂にある時に、絶妙のタイミングで嫌がらせをしてくれる。貴様の再婚記念日を祝ってやろうと幸せ気分夢気分だったのに、その幸せすら一通の電報で潰してくれるとは。いつだってそうなんだ。親父はいつだって、僕の幸せを潰しにきやがるんだ。

そう、あの時もこんな風に幸せな時だった。中学生だった僕は、ちょっと好いてるクラスの女の子にモーションをかけ、たしかウチの猫が子猫を生んだ、うそ、すごい、みたい!みたいな流れでその子が我が家にやってくることになった。

中学生時代の青き少年にとって、自分の家に女の子、それも好いている子が来るってのは爺さんが死ぬより大きな事件で、とても大興奮だった。もう嬉しくて嬉しくて、この喜びを森の動物達にも伝えたい、そんな気分だった。

しかしながら、この魔の家に女の子を召還するにはいささか問題がある。まず、死ぬほど汚いという問題をクリアしなければならなかった。なぜだか知らないけど、当時ウチのクソ親父はカブトムシの飼育に熱中しており、その失敗作というか、死んでしまったカブトムシの死骸が玄関先に無数に転がっていた。玄関にあるのは黒光りするカブトムシの死骸か、黒光りする革靴か、そんな意味不明な状態だった。

あのですね、落ち着いて考えてみてください。うら若き女の子、それも多分、乳首はピンクですよ。そんな子が男の家に遊びに行ってですね、それがどうあれヤリマンでもない限り少しは緊張すると思うんですよ。

で、ドキドキしながら玄関のドアを、「おじゃましまーす」とか開けたら地獄ですよ、地獄、カブトムシ地獄。裏返ったカブトムシが死屍累々と積み重なってる。これはもう、引くとかそういうレベルのお話じゃなくて、トラウマですよ、トラウマ。

おまけに僕の部屋まで行くには、酒瓶が転がっていたり、飾ってある天狗のお面に母さんのパンティエがかぶせてあったりするスラムを通り抜けねばなりません。こんなところを好きな子を引き連れて通るくらいなら自害する道を選びます。

なんとか部屋に到達したとことで、僕の部屋にはカンフー映画とボクシングで興奮した親父があけた大穴が壁にポッカリとクレーターみたいに存在します。その穴からは隣の弟の部屋が見えてますからね。あと拾ってきたエロ本とかカオスな状態になってます。とてもじゃないが受け入れ態勢ができているとは言い難い。

とにかく、問題が山積していますが、これらを光の速さで片付けていきます。カブトムシの死骸を片付けて、酒瓶も片付ける。ついでにその存在意義が1ミリも見出せない天狗のお面とパンティエも捨てて、泣く泣くエロ本も捨てます。壁に開いた大穴はジャンボ鶴田のポスターで覆い隠し、なんとか受け入れ態勢を整えます。

そんなこんなで、なんとか環境面だけは最低限の体裁を整えたのですが、最も問題なのがウチの親父というたった一つの存在です。

彼はもう、僕が急に掃除やらなにやら始めたものですから、興味津々といった様子で僕の後ろを歩いてやがるんですよ。ハッキリ言ってウチの親父はキチガイですから、そこに初物の女の子なんて来ようものなら何されるか分かったものじゃありません。オッパイ丸出しでスラム街を歩くようなものです。女の子が来る、親父がいる、大暴れ、この状況だけはなんとか避けなければならないのです。

「そうだ、花を飾ろう!」

考えに考えました。どうやったら親父を制することができるのか。これはもう、下手に隠し立てしてバレたら大騒動ですので、正直に「女の子が遊びに来るから掃除していた」ということをカミングアウト。親父の理解を得る作戦にでます。

そして、掃除はしたものの、ウチには華やかさがない。あるものといったらテレビの上にある、母の日に弟が作ったチンポコみたいな造花だけです。これではいささか寂しいじゃないか、なあ親父、と同意を得るのです。

もう花を買いに行くしかない、このままではウチが味気ない魔窟だと笑われてしまう、花を飾るしか!けれどももう時間がない、彼女が来てしまう、ああ、間に合わない!親父が車でひとっ走り買いに行ってくれれば!と持ちかけるのです。

案の定、親父は何かに発奮したらしく、「我が家に潤いを!そして花を!精一杯の真心を!」とか訳の分からないことをのたまいながら花屋へと出かけていきました。こうなればこっちのもんです。

その間に彼女がやってきて、厳かに部屋へと案内。あとは鍵閉めちまってお楽しみ、もしかしたらエロいことくらいあるかもしれません。そんな期待を胸に、彼女の到来を今や遅し、というか早くしないと親父が帰ってくるから急いでくれと懇願する想いで待っていると

「こんにちはー」

と、絶対乳首ピンクだよ、と言わざるを得ない可憐な声で彼女がやってくるじゃないですか。急いで玄関に行くと、もう、眩しすぎて目が潰れると言わんばかりにカワイイ彼女が、ちょっと短めのスカートで立ってました。掃除し損ねたカブトムシのツノが転がってましたが、見なかったことにして鬼のような素早さで彼女を招き入れます。

半分ボケた爺さんが廊下に出てきたりとか、弟がパンツ姿で歩いていたので後で殺すことを決意したりとか、そういうのをスルーしてなんとか自分の部屋に招き入れ、ガチャリと堅牢な鍵を閉めます。

「よし、これで大丈夫」

ついに最大の難所である親父をスルーして彼女を部屋に招き入れることに成功。ついでに性交まであったりなんかしてムフフと幸せの絶頂にいました。

かねてから準備して部屋に待機させてあった子猫たちをカワイイーとかイチャイチャしつつ、お決まりの小学校の卒業文集を見るコース、あとはプロレスの話などを熱く語ったりなんかした気がします。もうまさに幸せの絶頂で、そろそろオッパイでも揉んだろうかと思い始めたその瞬間、悪魔が破滅の足音をたててやってきたのです。

「おーい、花買って来たぞ」

ドンドンと部屋のドアを叩く無骨な悪魔の声。よく考えたら買いに行かせたのでやってくることは分かりきっていたのですが、この幸せを手放したくない僕は無視を決め込みました。

「お父さん?なにか呼んでるよ」

「聞こえない」

とまあ、明らかに不自然に無視を決め込んでました。ドアを開けようものなら全てが終わる。

しかし、親父も引き下がらない、普通の親父なら何か理由があるんだろうと引き下がってくれても良さそうなのに、全くそんな気配なし。ガンガンとドアを叩きながら

「花を買ってきたんだ!開けるように言ってくれ!」

「一緒に子猫とか見よう!」

「ずるい!彼女ばっかり部屋に入れて!ワシも入れろ!贔屓だ贔屓だ!」

と、さすがキチガイ、と唸るしかないことをのたまってました。彼女もあまりの異様さに気がついたらしく、というか気付かない方がおかしいのですが

「ねえ、開けたら?なんか必死で怖いよ」

とか、ヤツの恐ろしさをしらないからそんなこと言えるんだっていうノンキなこと言ってやがりました。

「聞こえない、何も聞こえないよ」

と、僕も頑なに、それこそ出生の秘密を聞かされショックを受けたときの主人公みたいに否定してました。

「女ばっかり入れやがって!贔屓だ!」

と、小学生みたいなことを言ってる親父に、頑なに耳を閉ざす僕、あまりの怒号に子猫もビビッてます。

やっとこさドアの向こうが静かになり、諦めてくれたみたいだと安堵。彼女も「すごいお父さんだね」と少々引きつった感じで言ったその時、予想だにしなかった展開が。

バリバリバリ

部屋の壁に開いた穴にジャンボ鶴田のポスターを貼って誤魔化していたのですが、そのジャンボ鶴田を突き破って親父が突入してくるじゃないですか。浅間山荘かって勢いでムリムリと穴を通って突入。なんか、ベガの必殺技みたいになってた。

「きゃー」

あまりの展開に悲鳴を上げた彼女。しかも穴付近にいたもんですから、親父のヤツ、彼女に覆いかぶさるようになっちゃいましてね。そいでもって

「ほい、花」

と手に持ってるのは綺麗な菊の花ですよ。葬式か。

もうこの瞬間思いましたね。「ああ、この恋終わったな」と。

まあ、結局、部屋に居座った親父が、子猫のチンコで彼女にセクハラしたりと完全に終わった展開になり、おまけに鶴田のポスターは破られるわ、ご丁寧に隠していたエロ本まで携えてきて朗読するわで大変な騒ぎ。見事に終わった展開になったのでした。そう、幸せの絶頂にいた僕は、完全に奈落へと突き落とされたのでした。

郵便受けに舞い込んだ親父からの電報を眺め、そんな記憶が蘇った僕。まるで昨日のことのように「贔屓だ!贔屓だ!」とドアの前で叫ぶあの地獄の光景が思い出されます。

そして、今まさに幸せの絶頂にある僕が、この電報によって奈落に突き落とされるだろう。いつだって親父からの電報を見るとブルーな気分になる。買ってきた鉢を置き、僕はそっと電報に手を伸ばしました。

でもね、よくよく考えるとそうでもないんですよ。いつもは、パチンコに買ったから幸せ、とか買ったエロ本が当たりで幸せとかそういったものが親父の電報によってブルーな気分になるんですが、今日は何が原因で幸せだったのか思い出してみると・・・そう、親父の再婚記念日を祝おうとして幸せだったのです。

だったらね大丈夫ですよ。親父のことを思って幸せな気分になっている僕が、親父の電報を見て不幸せになるはずがない。彼を祝おうとしている僕だから、きっとどんな電報でも大丈夫、笑って許せるはず。そして、笑顔で祝えるはずさ、大丈夫、大丈夫!きっと大丈夫!と言い聞かせて電報を開けると

「リコンシタ チチ」

ええーーー!再婚記念日を祝おうとした矢先に離婚だってーー!ありえねー!

たちの悪いジョークかとも思ったのですが、弟に電話して聞いてみるとどうやらマブだったらしく、しばし唖然としました。

やってくれるぜ親父。やはりどんな幸せでもヤツは確実に壊しに来る。再婚記念日を祝おうと幸せ気分になっていたら離婚か。やるじゃねえか。

とりあえず、行き場も存在価値もなくなってしまったこの花は、僕がいつも贔屓にしている竹富食堂のオバちゃんにあげて、唐揚げ定食をタダで食べたのでした。

花は煮ても焼いても食えない。でも、誰が言ったか知らないけど、花という漢字は「ヒイキ」というカタカナで構成されている。きっと何の役にも立たないけど贔屓されるべき存在が花であるのだろうけど、僕にとって花とは、何も役に立たなくて「贔屓だ!贔屓だ!」とドアの前で連呼する親父の姿でしかなくなったのだ。

幸せはいつかきっと壊れる。それはいつか枯れる散り行く花のように儚いのだ。シャンプーで洗濯したTシャツから花のような香りがした。


9/13 ナルシストライセンス

やべー、なんか自分ってば、むちゃくちゃカッコイイ。男前過ぎてやばいんじゃないか。顔が整いすぎてる。速水もこみち。やばいやばい、カッコイイ。かっこよすぎる。

とまあ、何をのっけからトチ狂ったことを言ってるかとお思いでしょうが、まあまあ落ち着いて聞いてください。その振り上げた拳を治めて聞いてください。

言うまでもなく、僕はこれっぽっちも容姿的な部分で勝負できる要素がなく、まあ、時代が時代だったら長屋に篭って一生を終え、たまに街に出ても町人や商人に石とかを投げつけられ、武士なんかは見た瞬間に切り捨て御免する、そんな問答無用のブサイクフェイスなわけですが、そこで立ち止まってしまっても何も始まらないのです。

愛情を注がれずに育った子供は非行に走りやすいとはよく言ったもので、誰からも愛されることなく育った子供は愛を知りません。愛を知らないから誰かを愛すこともない。それは同時に他者への興味がないこちに繋がるのです。結果、他者のことを何とも思わない冷酷な人間ができあがるのです。

自分の容姿も同じ事で、誰からも「カッコイイ」「イカス」などと言われなければ、それは愛を知らないことと同じですから、どんどんと酷い容姿がさらに酷くなっていくのです。世にひねくれなんとも卑屈な顔に変貌していく、それは愛を受けていないからです。ブサイクがブサイクを生み出していく負のスパイラル。

じゃあ、なんとかブサイクレベルを現状で留めようと、「カッコイイ」「イカス」「抱いて」などの語句を浴びせかけられなければならいのですが、世の中ってのはそうそう甘いものではありません。そこに存在するのは圧倒的な強者と弱者、富める者と貧しき者の差異しかありえないのです。

つまり、誰も言ってくれないのだから仕方がない。自分で言うしかない、というわけで、たまに辛くて泣き出しそうになることがあるのですが、自分で自分を「カッコイイ」「もこみちみたい」「チンコも大きそう」などと、ちょっと欲を出してオーバーに言い、ナルシストなアロマに酔いしれているのです。

たしかに辛いです。どう考えても褒められる代物じゃないものを褒めちぎるわけですから、上司が子供を職場の野球大会に連れてきていて、その子供がどう見てもバカ、青い鼻水をボリショイサーカスみたいにブラブラさせて中空を見つめているのに「利発そうなお子様ですねー」などと心にもないことを言う時より辛い。

そういった場合は少しコツがありまして、確かに男としては褒められる顔面じゃないですが、これが女だったらどうか。いやいや、どう考えても女である方が歴史的惨劇になるのは目に見えてるのですが、どうせ女になんかなれっこないんですから何考えても自由。異性になることで自由度が飛躍的に増加する点を利用してナルシストに浸るのです。

僕が女だったら、クラスで一番カワイイとまではいかなくとも、こう、隠れたカワイイ娘みたいな位置にいるはず。普段はメガネであまり目立たないんだけど、メガネを取るとけっこうカワイイ。それに気付いているクラスのオタクな男の子がいて、心の中でヒッソリと僕のことを想ってくれている。

で、ある日、意を決してオタク山本君が告白してくれるのです。「スススス、好きです!」彼は顔を真っ赤にして視線を合わさないように俯いて告白してくれるのです。僕はちょっと意地悪してみたくなって「あら、麻子の方がカワイイし、私なんか」とかなんとか。まあ、麻子ってのがクラスで一番カワイイ子で季節ごとに彼氏が変わる様なヤリマン、まあ、胸とか強調してますから、その年頃の男の子はみんな麻子でオナニーしてますよ。その辺を引き合いに出して意地悪するんですけど、彼も麻子のアソコとか微妙に語呂の良い物を想像して致したことがあるから少し困り顔。

「麻子さんより、アナタの方がカワイイ!」と、このセリフを言わせるわけですよ。でも、僕はオタ山本君は全然タイプじゃなくて、「ごめんね、今はチアダンスに集中したいの」とか適当な理由をつけて断るんですけど、せっかく僕のことを好きでいてくれるオタは離しませんよ。

「シー、みんなには内緒だよ」とかフェラチオの一つでもしてやって、引き続き僕の虜にしておきます。最終的にはそうやって虜にした男達を使って麻子を陥れ、自分がクラスの女王に君臨するのですが、まあこれは別の話。とにかく、自分が女だったらそこそこカワイイはずだ、そう思うのがコツです。

とにかく、自分の容姿にダイレクトに愛を捧げないのならば、異性に置き換えるという荒業を駆使してでも愛を注ぐ、鏡を見ながらウットリとし、たまにはナルシストにならないとやってられないのです。

とにかくまあ、普段からたまに鏡を覗いたりして無理にでもウットリしているのですが、つい先日、保険証を探していたら古い書物が出てきましてね、それが「実践、黒魔術!」みたいなインチキどころの騒ぎじゃない書物で、これを購入した時の自分の気概が分からないのですが、それを読んで、鏡を使った呪いの方法を試していたんですけど、鏡が全部割れちゃいましてね、どうやっても鏡を見てナルシストになれなくなっちゃったんですよね。

おそらく、上司の名前を書いた紙を鏡に貼り付けてどうたらこうたらだったのですけど、力が入りすぎて鏡は割れるわ、上司はピンピンしてるわで大変な騒ぎだったのですが、ウチには洗面台もなければ風呂場にも鏡がありませんから、鏡を見ることができなくなった。朝起きて寝グセがバリバリ伝説でも気付かないってのは別にいいんですけど、ナルシストなアロマに酔いしれなくなったのはちょっと困るんですよね。

誰も愛してくれない可哀想な容姿を自分で愛でるしかないわけですから、とにかく困るんですけど、仕方ない、何か自分が写ってるものはないかと思案を巡らせてみたのです。

そしたらね、気付いたんですよ。僕はもっぱらの写真嫌いで、写真を撮られると魂が抜けると本気で信じている人ですから、僕のプロマイドなんてほとんど存在しないんですけど、免許証があるじゃないか、免許証なら僕の姿がしっかりと写ってるじゃないか、と気付いてしまったのです。

早速財布から免許証を取り出しまして、さあ、褒めてやるぞ!と意気込んで写真を見てみたら、前回の更新の時に寝坊して急いで更新に行ったんでしょうね、虚ろな目をした寝グセバリバリ伝説の男が写ってました。オマケに着ているシャツが今着てるのと一緒。もう何がどうなってんだか分かりません。

自分の中のナルシストを総動員してもコレを褒めることなどできず、どうしたもんかと途方に暮れていたら、もっと重要な事実に気がついてしまったのです。

「平成18年09月09日まで有効」

衝撃でしたよ、衝撃。まさか、平々凡々と暮らしている僕に有効期限切れの恐怖が迫ろうとは。そういや、前回の更新時も有効期限を過ぎてしまって非常に面倒な想いをしてしまったのを思い出しました。

とにかく、免許証を失効してしまってはナルシストどころの騒ぎではありませんので、なんとかインターネットなどを駆使して忘れていた免許更新の手順を確認。なんでも平日の1時くらいから免許センターでやってるらしいので、いざ更新へと赴くことに致しました。

どうにもこうにも、張り切りすぎてしまったみたいで、12時には免許センターに到着してしまったのですが、窓口で弁当食ってるババアに

「あの、免許の更新に来たんですけど・・・住所がですね・・・」

と、か細く告げると

「今、休憩中、受付、一時から、1番窓口」

と片言しか話せないフィリピーナみたいなにぶっきらぼうに言われました。

仕方ないので、病院の待合室みたいになってる椅子に腰掛けて、紀子様がって感じのニュースを見ていたのですが、ホント、老人が多いんですよね。

「いやあ、うっかり更新を忘れるところじゃった」

「私も、孫に言われて気付いたんですよ」

「ウチには更新のハガキがきとったけど、捨ててしもうたがな」

とか、更新を忘れるとかアルツハイマーじゃねえのって言いたくなるんですけどグッと我慢。とにかく、この人たちも免許更新に来てるんでしょうが、車の運転なんて必要ないんじゃねえの?といったレベルのご老人が集まっておりました。僕は良識派で知られてますので、車の運転より棺桶のサイズ測ってな!とは絶対に言いません。霊柩車は乗ってるだけでいいんだよ、運転品しなくても、とは絶対に言いません。

そんなこんなで、1時になり、先ほどのフィリピーナババアがまるで軍隊の号令のように

「1時になりました!更新の方は1番窓口まで!」

と大声を張り上げると、ワッと、いつの間にこんなに人が集まっていたんだろうというレベルで1番窓口に長蛇の列ができあがってました。

僕も急いで並んだのですが、タイミングが悪かったらしく、なんか暴走族仲間みたいなやつらが集団で更新にやってきていたらしく、その集団のど真ん中に並んでしまうという大失態。「カツジを殴った」みたいな話題で盛り上がる若者の中でポツンと一人佇んでいました。

やっとこさ、僕の順番が来て、今や有効期限が間近に迫っている免許証などを窓口に差し出すと

「あら、これ、住所変わってるわね」

そうなんです。僕は住所を変更してからまだ一度も免許更新をしていない。まだ古い住所のままで免許更新に乗り込んでしまったのです。

「これね、住所が違う場合、前の住所の場所に違反歴とか調べてもらわないといけないのよ。時間がかかるのよねー、こういう人は事前に申し出てもらわないと。言っておくけど、今日の更新に間に合うかどうかは保証しませんよ」

って、どの口が言いますかって感じなんですよ。僕はちゃんと1時間前に来て、窓口に申し出て、その際に「住所が」みたいなこともちゃんと言ってるのに、フィリピーナの如く冷たくあしらったのはアナタじゃないか。

とまあ、言いたい文句は山ほどありましたが、何故か懲罰的に窓口の横で立たされて皆の手続きを大人しく見守ってました。僕は良識派で知られてますので、窓口のババアに向かって「テメーがあと20歳若かったらレイプしてるとこだぞ」とは口が裂けても言いません。

随分と時間が経ち、全員の更新手続きが終了したところで、まるで放課後居残りさせられていた悪ガキが「山田、もう帰ってもいいぞ、もうするなよ」みたいに落陽の中、担任の先生に許してもらう時のようなニュアンスで更新手続きを取ってもらった僕。いよいよ、視力検査と免許用の写真撮影です。

視力検査で、僕の前に並んでいた、頭もお股も緩そうなヤリマンっぽい女子が

「これは?」

という検査官の言葉に対して

「Cです」

と自信満々に言ってましたが、気にしないことにしてそつなく視力検査をクリア。いよいよ写真撮影と相成ります。

ここはハッキリ言って重要なポイントです。何度も言うように家に鏡がない僕にとって免許証の写真はナルシストなアロマに酔いしれる重要なポイントです。ここでシッカリと、まあ男前とはいかなくても見れるレベルの写真を撮っておかねば話になりません。

なんとか自分の中の男前を総動員して臨んだのですが、撮影後にチラッと通路にあった鏡を見てみたら、寝グセがバリバリ伝説で、金正日みたいな髪型になっていたので腰が抜けるかと思いました。

さて、ここまではまだいいのですが、問題はこの後に控えている講習です。なんでも、講習受けないと免許証は渡せないぜという終戦直後の米軍みたいな横暴な制度らしいので、大人しく講習を受けなければならないようです。

おまけに、この講習会ってのは過去の違反歴と照らし合わせて、優良、一般、違反講習とランク分けされているようなのですが、過去にスピード違反と信号無視でキャプチャーされ、違反点数5、免停一歩手前の僕は文句なしに違反者講習まっしぐらのようでした。優良講習が、免許の出来上がりを待つ待ち時間みたいなものに対し、違反者講習は120分講習のフルコース。交通社会のクズどもが受ける講習ともいえます。

心の支えだった暴走族軍団が笑顔で優良講習の教室に入っていった時は我が目を疑ったのですが、この地獄とも思える120分講習を受けなければ免許は貰えない。グッと唇を噛み締めて違反者講習の教室に入りました。

そこはまあ、交通違反という禁を犯したクズどもの吹き溜まりですよ。入った瞬間にムッと負のオーラが満ち溢れ、交通違反とかそういったものも関係ない、もはや人間として何かが欠落しているとしか思えない連中が集っておりました。

だいたい、30人くらいいたでしょうか、その中の9割が机に突っ伏して居眠りしているというクズらしい側面を見せ付けていましたが、なんとか怯むことなく自分の席へと突き進みます。なんか12番とかいうプレートを渡されたので12番の席に座るんですけど、11番のヤツ、俗に言う隣の席のヤツが不穏な空気を醸し出しすぎていてたまらない。

彼は机に突っ伏して居眠りしてるんですけど、そのクズっぽいオーラがとにかくすごい。クズが集うこの教室の中にあって最も重力が高いであろう雰囲気がムンムンに伝わってきました。

とにかく、彼を刺激しないよう、彼を起こさないようにそっと隣に座り、机の上に置かれていた「交通事故の怖さ」みたいな冊子を熟読していました。そしたら、前の席の男女の声が聞こえてきやがるんですよ。

「終わったらさ、オムライス食べに行こう」

「えー、私がなんか作るよ」

「まじ?じゃあスーパーよって帰って俺んちくる?」

「うん!」

みたいな、明らかにセックス前提みたいな会話をしてやがるんですよ。前の席の男女が。

どうにもですね、理解しがたいのですが、この男女、カップルで免許の更新に来たみたいで、もうイチャイチャと、今にもハメ撮りしかねない勢いで絡み合ってるんですわ。

どうも、たまたまカップル同士の更新時期が一緒だったとかの偶然が重なり、それだったら一緒に更新しちゃおうよ、高志、うん、僕らラブラブだもんね、芳江、みたいな何とも反吐が出るやりとりがあったかどうか知りませんが、とにかく一緒に更新。おまけに雁首並べて違反者講習受けてるんだから世話ない。

どうせ、カップルで免許更新して、新しい免許眺めて「やだ、高志の免許、超男前」「芳江の免許だって・・・カワイイ」「もう、高志はカワイイ言い過ぎ」「だって本当なんだもん、かわいいよ」「そんなに言われたら慣れちゃうよ」「前の免許の写真もかわいかったんだけど、それに加えて色っぽくなったっていうか」「もうやだ、バカ」「マジだって!」「高志・・・」「芳江・・・」「うおー」「あああああああ」みたいなやり取りがあって、二段階右折みたいな体位でしたりなんかして、免許のツルツルな面とガサガサな面、どっちがいい?なんてマニアック免許プレイ。最後には新しい免許証を突っ込んだりするんでしょうが、とにかく興奮する!

とか悶々としていたら、ガラリとドアが開いて、どう見ても柔道強そうなオッサンが入ってきていよいよ違反者講習の開始です。

違反者講習自体は、特に滞りなく、まずは免許制度の説明、それに加えてなぜ僕らが違反者講習を受けているかの説明、まあ、いかにクズかってことを説明してくれた後に、交通事故の恐ろしさを伝えるビデオを見させられました。まあ、この辺の流れは別にどうでもよく、前の席のセックスシティカップルも神妙にビデオを見ていました。しかし、圧巻だったのが隣の席の11番ですよ。

講習開始前から居眠りをぶっこいていた11番。さすがに教官が入ってきていよいよ始まるって時は目を覚ましたのですが、その風貌は寿司屋の修行に来た若い衆みたいな感じ。便宜上、この風貌から彼のことをマサって呼びますけど、このマサがとにかく酷い。

ビデオが始まった瞬間に寝る。とにかく遠慮せずに寝る。

いやね、僕らは免許貰いに来てるって負い目があるわけですよ。向こう側は圧倒的に権力持ってますから、講習でふざけた態度だったから免許渡さないってのも普通に出来るんです。ですから、どんなワルだってそれこそ神妙な顔してですね借りてきた猫みたいに大人しくビデオ見てるんですよ。なのに、マサは爆睡。誰に遠慮することなく爆睡。さすが選り抜きのクズだ、期待を裏切らないぜ。

ビデオ自体は、飲酒運転で人をはね殺してしまったお父さんが家族ぐるみで不幸になってしまうという大切な内容だったのですが、娘役が異様にブスでビックリとかどうでも良くて、とにかくマサが爆睡。教官の人もジロリとこちらを見るので生きた心地がしない。ってかなんで僕がこんなにハラハラしてるんだ。

ビデオが終わると、教官の人がビデオテープを巻き戻しつつ、不機嫌そうに言います。

「11番の方、先ほどから突っ伏してますが、気分でも悪いのですか」

まあ、言わずと知れたマサのことなんですが、教室中のクズどもの視線が一斉にマサに注がれます。それでもマサは微動だにしない。

「大丈夫ですかねえ」

とか教官も分かってるくせに意地悪に言うものですから、なんか、僕が起こさないといけない雰囲気がムンムンに蔓延してくるんですよ。

で、僕も目立たないようにチョイチョイとマサを突いて起こしてあげるんですけど、マサはもう、全く悪びれる様子もなく、家で目覚めた時のように堂々と目覚めてました。そのうち「母ちゃんメシ」とか言い出しそうだった。

そこから、事故の増加率とかスライドを使って教官が授業してくれるんですけど、もう、次の瞬間にマサは眠りに落ちてましたからね。お前は眠り姫か。

「おや、11番の方、やっぱり具合が悪いですか?」

とか、またもや僕らの方に注目が注がれるものですから、またも嫌々僕がマサを起こすもう嫌だよ、こんなの。

そんなのが何回か続いて、もちろん僕も教官もですが、周りのみんなもウンザリといった機運が高まってきたその時。

ピロリロリーン

どこぞのバカが携帯電話を物凄い鳴らしてるじゃないですか。おいおい、どこのバカだよ、ただでさえマサのせいで雰囲気悪いのに、そういうのやめろよな。おまけに一向に鳴りやまねえし、早く止めろよ!とか怒ってると、思いっきりマサの枕元で携帯電話が鳴ってるじゃないですか。コイツは何者なんだ、怖い、大物過ぎてヤツが怖い。

耳元で携帯電話がけたたましく鳴っているにも関わらず微動だにしないマサ。

「あのー、携帯電話は遠慮してください」

みたいなことを教官が言って、またも僕がマサを起こさないといけない機運が高まってくるんですよ。

なんでね、僕がこんな名前も知らないヤツを何度も起こしてバツが悪い思いをしなきゃならないのか分からないんですけど、場の雰囲気がそう言ってるんだから仕方がない。とにかく、彼を起こします。

マサもやっとこさ起きて携帯電話をピッとかやり、教室内に静寂が戻るのですけど、一瞬の早業でまたもや寝ますからね。

もう教官も半ば諦め気味で、どうでもいいやって感じで講習を続けるんですけど、またもや

ピロリロリーン

おいおい、さっきのはマナーモードにしたとか電源を切ったとかじゃないのか。普通に着信を切っただけでまたかかってきてるんですよ。もちろん、いくら鳴っても起きませんよ。

もうどうしようもなくなって、何で僕がマサに困らされてるのか知りませんけど、起こしても埒があかないので、僕もダイレクトに彼の携帯の電源を切ってました。画面に「着信 アケミ」とか出てたけど知ったこっちゃない。ってか、かけてくんな、死ね、アケミ。とは良識派なので言いません。

とにかく、マサはほっといて講習を進めようという暗黙の了解が流れたのですが、ここで大いなる異変が。

「はい、ではこの場合、こちらの路地から出てきた車は違反になるでしょうか?12番の方」

とか、教官が事例を交えて質問してくるんですけど、圧倒的に僕を狙って当ててくるんですよ。

教官的に、11番の不真面目なマサが憎いんでしょうけど、ダイレクトに攻めることはしない、隣に座ってる僕を攻めて間接的にマサへの牽制としようって考えが見て取れるんですけど、名も知らないマサのために槍玉に挙げられた僕はたまったもんじゃありません。

「たぶん、違反じゃないと思います」

とか僕も立って答えるんですけど

「不正解ですね」

と冷たくあしらわれる。こういった攻めをされるだけで次第に僕とマサがグルで、居眠りしてるんだから答えられないんだよって空気が蔓延してくるから恐ろしい。前のカップルも「見てごらん、あれが交通社会の成れの果てだよ」みたいな目で見てくるから恐ろしい。

「運転中の携帯電話使用は違反となりますが、ここで質問。では、赤信号で停車中に携帯でメールを送った場合、違反になりますか。12番の方」

おお、この教官は鬼だ。この空気の中でなおも無関係な僕を辱めようというのか。全く手を抜かず妥協しない鬼や、アンタは鬼や。

僕ももう開き直っちゃいまして

「赤信号だけに、携帯電話の使用も赤信号!違反です!」

と訳の分からないことを答えたら

「不正解です。赤信号で停車中は運転中ではありませんから違反にはなりません」

とピシャリですよ。契約に遅刻した時のアメリカ人ビジネスマンみたいに冷たく言われた。もう死ね、マサ死ね、アケミも死ね。ついでに前のカップルも死ね。ついでに上司も死ね。

とまあ、こんな感じで、全く無関係のマサのために何度か辱められ、いよいよ最後の運転ナントカ自己診断。

何個か用意されている質問に「はい」「いいえ」で答えていって、自らの運転に対する傾向を自己診断するという、今日び女子学生でもやらないような占いっぽいやつです。

相変わらずマサは微動だにせず眠っていて、もうマサは神の領域に上り詰めたんだ、と呟きながら軽妙に設問に答えていきます。やっとこさ終わって、僕も大満足。色々あったけどあとは新しい免許貰って帰るだけだ!と笑顔で待っていましたところ

「では、12番の方、診断結果を教えてください」

と、最後まできて槍玉に挙げられてるじゃないですか。ここで逆らって免許もらえないとかマジ困るので、素直に

「「はい」が4個あったので判定Cでした」

とか答えると

「はい、判定Cの方は自分の運転技術を過信しすぎですね。自分なら大丈夫、自分ならスピードを出しても大丈夫、と過信するナルシストです。こういった人がよく事故を起こしますので、みなさん気をつけてください」

と、微妙に的を射たことを言われてしまいました。というか、マサが悪いのに無関係の僕を辱めすぎだろ。

とにかく、教官にすら「ナルシスト」というお墨付きを貰いましたので、さっそく自分で自分を褒めるべく、新免許証で酔いしれるぞーと思って手にした新免許証は、前回の免許証より酷く、岸壁の端っこのほうについた汚い海草みたいな顔してました。いくらなんでもこれじゃあ褒められない。

仕方ないので、帰りに100円ショップで鏡を買って帰ったのですが、すぐに「マサ」「教官」「前のカップル」「ついでに上司」の名前を書いた紙を貼ってしまったので、全面が紙になってしまい、ナルシストに酔いしれなくなったのでした。

それにしても今日の日記は良く書けた。


9/9 オナニー世界記録に挑戦24時間チャレンジ

世界一。

日本が誇る広く認められた世界一に何があるかご存知でしょうか。スポーツの世界に限定すると、

・王貞治、ホームランの本数。868本(ギネス非認定)
・川相昌弘、生涯の犠牲バントの本数。512本
・金本知憲、連続フルイニング出場数。1000試合(現在も更新中)
・夏の甲子園大会青森県予選で、深浦高校が記録した最大の失点122点
・中山雅史 、ハットトリック連続試合数。4回。
・伊藤みどり、女子フィギュア最高得点。満点である6.0を7個。
・小学生クラス対抗30人31脚、 愛媛県の石井東小学校。8秒80。

とまあ他にもあるだろうけど、調べていたら日本人がPentium4 670を7.132GHzで動かした世界記録とか訳の分からないものが出てきたので割愛。

ということで、あまり日本人が世界の舞台で活躍してるとは言えないのですが、何度も言うように僕らは常に世界を意識して戦わなければなりません。しかしながら、いまさら野球でホームラン打つってのも変な話ですし、30歳にしてオフサイドすら知らないのにJリーグで中山のハットトリック記録を破る、なんて言い出そうものなら檻のついた病院に入れられかねません。

ということで最も手近、それでいて大得意のオナニーで世界記録を樹立し、このそうそうたる日本人記録たちの中に名を連ねたいと思います。

そこで調べましたところ、何かネタみたいなページしか出てこず、苦労しながら和訳したのですが、どうやらオナニーの世界記録には2種類あるようでして、一つが24時間中の射精回数の記録、もう一つが一度のオナニーの持続時間記録のようです。前者が、Johnny Martin(ページによって名前が違う)の持つ24時間36回が世界記録。後者が良く知りませんが8時間30分が世界記録のようです。

1度のオナニーで8時間30分もし続けたらおそらく心臓が止まりますので、今回は24時間での回数にチャレンジしたいと思います。僕の自己記録が高校生時代に樹立した25回ですので、現在の世界ランキングとしては

1. Johnny Martin(USA) 36
2. Hans Blickstein(GER) 27
-  pato(JPN) 25

ということで、どうにもジョニーがネタっぽいのですが36回を破るべくチャレンジを開始したいと思います。

ルール
・開始時間は9/9 PM9:00。
・終了時間は9/10 PM9:00。
・1射精で1回とする。
・器具等は使わない。
・オナニーした場合はネタと感想を本サイトに記載。
・皆さんから広くオナネタを募集する。
・睡眠はアリ(朝勃ちを利用するため)

以上のように行いたいと思います。

オナネタ提供 
pato@numeri.jp 動画ファイルは受け取れません、動画の場合は申し訳ありませんがどこかにアップロードしてURLをお知らせください。

記録スペース

No. 時間 オナネタ 感想
1  9:05 中学の時の同級生、毛利さん。 あまりカワイイこじゃなかったけどダイナマイトなボディでした。演劇の練習で家にいったら下着が干してあったのでそれを思い出してしました。最初なので濃厚なのではなく比較的ライトに抜きました。
2  9:59 高校の時の同級生、ヤリマン松本さん やだーいや、というふざけあいの中でアクシデントで胸を揉んでしまった思い出でオナニー。オナニーの中では松本さんは胸をもまれたことで膝から崩れ落ちるくらい感じてしまい、そこから盛り上がった。まだまだ生命力のありそうなのが出た。
3  10:21 リスナーみのるさん提供のエロ画像 ギャルで髪を二つくくりにした好みドストライクな娘のエロ画像。生活観のある画像がなんともリアルで、その想像でいただきました。大変おいしゅうございました。勃起しないけど射精は出来る状態。
4  10:27 リスナーみのるさん提供のエロ画像 抜かずの二連発。あんまでなくなってきた
5  10:55 大塚愛(LOOK) LOOKの4大塚愛で5P。もう一回!とか言われたけど札束投げつけて帰ってきた。
6  11:18 近所のコンビニに新しく入ったバイトの子 ブスで、さらに無愛想でどうしようもないバイトの子なんだけど、今日、メントス買ったら、レジの上で転がって落ちそうになっちゃって彼女が焦って掴んだんだけど、その掴み方が肉棒を掴むみたいでエロかった。それで抜く。透明。
7  11:30 ピザッツ 巻頭カラーのおなにー奥さん。乳の描写がえろいのと、いくまえのゾクゾクって表現でフィニッシュ。
8  11:38 ピザッツ 中盤のエロクールでSEXCMを撮影するってやつで頂き。シチュエーションがありえないのがいい。絵は未熟だが、主人公の心理描写が良い。
9  11:41 ピザッツ 巻頭カラーのおなにー奥さんで再度。けっこういいね。ちょっと痛くなってきた。
10  11:59 ピザッツ 頭カラーのおなにー奥さん再登板。なかなか使える掘り出し物に大感激。マジ、もう痛い。右手とブツが痛い。
11  0:56 コミックジャンボ お姉さん天国第55話。お母さんがきゅっと締めてストーカーを虜にしてしまう。全体的に使えない作品多数。若干回復してきたようでやや白い。
12  2:28 同僚マミちゃん マミちゃんがミスをして、それを庇う代わりにコピー機の上でする。マミちゃんは結構大胆。透明。足が攣った。
13  2:57 快楽天 はだかの学校。カラーでよい。絵柄が良いので瞬殺やった。
14  4:07 シャイニング娘。 「もう夢中だな」ってシーンでフィニッシュ。シャイニングの破壊力たるやすさまじい。回復してきたようで、ほどよい白さ。
15  4:35 シャイニング娘。 触手でいってしまった。
16  5:20 シャイニング娘。 矢口の陥没乳首はやはりすごい。あと、すごい飛んだ。まだまだいける。
17  6:12 快楽天 「デンドロビウム」で盛り上げて「僕の家庭教師」でいく、ユリ先生がナイス。袋と尻の国境みたいな場所が痛くなってくる。
18  7:15 郵便局のお姉さん 結構美人。私を郵パックしてーとか言わせて、切手とかはりつけてやった。かなり時間がかかるようになってしまったが、結構濃密にやれた。局部と頭がかなり痛い。
19  7:51 Yahooチャット 女子高生オナニーの動画。画質の悪さが逆に興奮し、臨場感があって最高。最後のクックッってところでフィニッシュでした。
20  8:45 ドルフィン 全体的に抜ける作品がなく途方にくれる。無理に抜いたらフタナリ物で愕然とした。
21  10:11 めぐ 国境付近に激痛走る。めぐの力でなんとかフィニッシュ。非常に痛い。
22  11:20 めぐ あいかわらず激痛が酷い。
23  14:35 女流棋士 女流棋士と山の中で将棋をするという夢を見たので、その勢いで辱めをしました。と金とか叫んでた。
24  15:06 25歳リスナー 彼氏に剃られてしまった25歳さんで思い出しオナニー。途中、雑念が入ってしまい、また寝そうになるが持ちこたえる。
25  16:22 本当にあったHな話10月号 人妻新幹線。ほら、このままじゃダメよ、でもTバックをずらしたらヌルン。ほとんどでなくなりました。自己ベストタイ
26  17:50 中学の時の同級生、毛利さん
本当にあったHな話10月号
複合してみた。たまたまいった風俗に、暗黒面に堕ちた毛利さんがいて、昔の思い出を語りながらやることやったみたいなイマジネーションで敢行。自己ベスト更新!
27 19:33 本当にあったHな話2005−9月号  珠玉の名作ぞろいに感涙。走ってきてすぐやったので息切れが酷い。世界2位タイ。 
28 19:50  ドルフィン2005-11月号  どれでも抜ける。ザッピングしながらいく。26から時間があいたせいで回復はしているが、心臓の鼓動が収まらないのが不安。 
29 20:18  もっとすごい本当のH話4月号  親子3Pと臭い男が横浜のヘルスに行く話でフィニッシュ。  
30 20:53  メグ&大塚愛&根本さん  よりどりみどり。おしまい。世界の壁は厚かった。 

まってろよ、ジョニー!


8/31 8月31日のジャイアント馬場

僕の夏休みは、ジャイアント馬場だった。

毎日暑い日が続く中、仕事帰りにコンビニに立ち寄ったら、入り口横のコピー機のところで小学生どもが狂ったようにコピーを取っていた。ジャコジャコと小銭を投入してはドリルか何かを人数分コピーする、たぶん、「夏の友」か何かを「全然友じゃねえよ」と悪態つきながらコピーしていたのだと思う。

「そうか、そろそろ夏休みも終わりか・・・」

真っ黒に日焼けした子供達が街を元気に走り回り、友人の家やガリ勉君の家を走り回る。夏の間大暴れだった子供達も最終日だけはしおらしくなり、宿題写しに没頭する。それが夏の終わりを告げる風物詩なはずだった。

それがどうだ。コンビニで死んだ魚のような目をした小学生が、しかも日焼けなんて微塵もしてなくて真っ白、おまけに全員メガネの小学生どもが、無表情に、まるで機械作業のように淡々とコピーを取っていく。まるで葬儀参列者が棺桶を運ぶように熱量なく夏の宿題たちが出来上がっていく。こんなものが夏の終わりを告げる風物詩であっていいのだろうか。

僕が子供の頃なんて、それはそれは酷くて、毎年、7月中には宿題を終わらせようと決意するのだけど、光の速さで8月31日がやってくる。もちろん、宿題なんて1ミリも手をつけてない。

で、泣きながら親父や母さんに手伝ってくれって頼むのだけど、逆に烈火のごとく怒られてエンド。仕方なく半分ボケてる爺さんに手伝わせるのだけど、異様に達筆で使えないことに気がついて途方に暮れる。最終的には諦めの境地に達してしまい、半ば悟りを開いたような状態になって眠りにつく、9月なんて永遠に来なきゃいいのにと泣きながら。

とにかく、少年時代の僕にとって8月31日は、その夏の全てのツケを清算する地獄の日だった。そして、ある年の8月31日、さらなる地獄が僕の身を襲うのだった。

ちょうどその年、僕の地元の産業体育館に全日本プロレスの巡業が来ることになった。例年ならば秋の世界最強タッグ決定リーグ戦がきていたのだが、何故か、その年は早かったような気がする。そして、その問題の開催日時が、8月31日だったのだ。

行きたかった。死ぬほど行きたかった。友人にチケットあるからと誘われ、良かったら一緒に行こうよって誘われたこともあいまって、プロレス狂いだった少年の日の僕は猛烈に心奪われてしまった。

しかし、8月31日というのは頂けない。8月31日に最後の夏休みを謳歌できるのは、計画性のある偉い子のみに許された特権だ。夏の天気を1日たりともつけていなくて、7月の天気なんて覚えてねえよ、適当につけちまうかと企んでいる僕に楽しむ権利などない。ましてや、プロレスに行くなんて言語道断だ。

けれども、どうしてもプロレスに行きたくて、夏休みの宿題やってないくせに「この夏の総決算にプロレス!」と鼻息も荒く発奮してしまった僕を止めることなどできず、僕は全てを捨てて産業体育館へと走った。

具体的に言うと、「宿題はどうしたのよおおおおおお」とヒステリックに叫ぶ母親に、「全部出来なかったらどうなるかわかってんだろうな。手伝わんぞ」と脅しをかけてくる親父、ついでに「んあ」とボケてる爺さんを遠い彼方に置き去りにしてプロレスに走った。ちなみに、弟は完全に宿題を完成させ、おまけに2学期の予習までする念の入れようだった。こいつは頭おかしい。

とにかく、親に怒られてもいい、担任に怒られてもいい、もうどうでもいいんだ、と全てを捨て去って楽しんだプロレスは最高にエキサイティングでジョイフル、このまま今日世界が終わってしまってもいいと思うほどに楽しんだ。試合終了後、

「明日から学校だね。宿題も終わってるし今日は早く寝るぞー」

ってキチガイじみたセリフを吐いていた友人を無視し、僕はグッズ売り場へと走った。

この夏の思い出にグッズを買おう、何か今日の良き日が形として残る物を買おう、少ない小遣いを握り締めた僕は、体育館のロビーに設置されたグッズ売り場へと向かったのだ。

グッズ売り場は興奮冷めやらぬファンでごった返しており、誰もが我先にとお目当てのグッズ目指してひしめき合っていた。子供だから体の小さかった僕は、その人ごみをなんとかすり抜け、ギュウギュウに押しつぶされそうになりながらもグッズ売り場の最前列に躍り出た。

そこには、ジャイアント馬場さんがいた。

グッズは結構売れてしまっていて、残りもまばら、それでもおそらく若手レスラーなのだろうけど、全日本プロレスのジャージを着た人が声を荒げて販売している。その奥に悠然とジャイアント馬場さんが腰掛けていた。

馬場さんは、もうそこで死んでいるんじゃなかろうかというほどピクリとも動かず、まるで即身仏のように悠然と座っていた。若手が「お願いします!」とか話しかけていなかったら、精巧に作られた馬場人形と思って仕方ないくらい動かなかった。

間近で見る本物の馬場さんに感動してしまい、しばいボーっと魅入るようにしていると、頭の中まで筋肉なんじゃないかっていう若手が話しかけてきた。

「どれ買う?」

子供ながら、テメー、最前列にいるんだから早く買えよって言われているのがわかったので、空気を読んでなんとかグッズを買おうと長机の上を見回す。

しかしながら、主だったグッズはほとんど売れていてソールドアウト状態、ただ、端っこの方にポツンと何枚かのTシャツが売れ残っていた。

この夏の思いでにあのTシャツを買わねばならない・・・!

意味不明な義務感に襲われた僕は、脳みそ筋肉に「あれください」と指差して言うと、それが何のTシャツかも分からずに購入することになった。

「はい、ジャイアント馬場Tシャツね」

え・・・?

なんてことだろう、僕は別に馬場さんのファンでもなんでもなかったのに、どうやら凄い勢いで売れ残っていたのは馬場さんTシャツだけだったみたいで、あれよあれよという間に購入することになってしまった。おそらく、脳みそ筋肉の若手的にも、後ろに即身仏のように馬場さんが控えているのに、馬場さんのシャツだけ売れ残ってしまい、内心肝を冷やしていたに違いない。

手に取ったジャイアント馬場Tシャツは、売れ残るだけあってそれはそれは酷いデザイン。なんか、コミカルな馬場さんがアポーって感じで十六文キックをしてるのだけど、とにかく絵が酷い。そういう味のある絵を狙ってたのかもしれないのけど、とにかく酔っ払って書いたんじゃねえのってレベルのトンデモアニマルな逸品。

こんなものでも、僕のこの夏の思い出だから・・・。

Tシャツを抱えて帰ろうとすると、またもや脳みそ筋肉の若手が僕を呼び止めた。

「はい、馬場さんTシャツを購入した方には特別にサインがもらえますよー」

もう有無を言わさぬといった勢いでTシャツを強奪され、即身仏のように動かない馬場さんに手渡される。

先ほどまで微動だにしなかった馬場さんは、Tシャツを手渡されるとノソッと動き出し、売れ残っていたTシャツが売れたので満更でもないといった微妙な笑顔でサラサラとサインを書いた。いつものノソッとした動きと違い、異様な速さで書いていたような記憶がある。

ここで、おそらくいつもだったらサイン済みのTシャツを若手に渡し、若手が僕に渡してくれるのだろうけど、購入したのが子供と言うこともあってか、馬場さんはノソリと立ち上がって僕にTシャツを手渡してくれた。そして、開口一番

「宿題は終わったかい?」

いつもの馬場さん口調なので最初は何言ってるのか分からなかったのだけど、今日8月31日にちなんで馬場さんは確かにそう言った。ああ、嫌なこと思い出させやがる、せっかく忘れていたのに!と思う暇もなく

「はい!毎年7月中には終わらせる方針なんで」

とか嘘8000をのたまっていた。何が「終わらせる方針」だ。

それを受けて馬場さんはフォフォフォフォって感じで笑っていた。僕は何だか馬場さんに大嘘ぶっこいてしまった罪悪感と、その後に待ってるであろう両親の説教と担任の説教のことを考えると憂鬱で、ひどいデザインの馬場さんTシャツを手にトボトボと帰宅したのを今でも覚えている。

もちろんその年の宿題は散々たるもので、例年の宿題やってない度をその辺のコンビニにたむろする若者とすると、その年は亀田三兄弟レベルでやってないという体たらく。

確かに説教やら居残りやらは幼心に堪えたけど、それよりなにより、馬場さんに大嘘ぶっこいてしまったことが僕の心をキュウっと締め付けた。テレビで馬場さんを見る度に、あの日言った事は嘘なんです。本当は1ミリも宿題やってませんって言いたくて、胸が締め付けられる想いだった。

僕が大人になったら、夏休みの宿題なんて存在しないから、おそらく8月31日なんて暑い夏の一日に過ぎないだろう。もう取り返せないあの8月31日、どうして馬場さんにあんなことを言ってしまったんだろう。考えても考えても後悔しか残らなかった。

そして、あれか年月が経ち、見事に30歳となった今日の僕の8月31日。「僕が大人になったら、夏休みの宿題なんて存在しないから、おそらく8月31日なんて暑い夏の一日に過ぎないだろう」なんて考えたことが懐かしくなるくらい何かに追われている僕。そう、夏休みの宿題ではないけど、僕は確実に追われていた。

具体的に言うと、自費出版した「ぬめり2」の発送作業なのだけど、8月中には届くように!とか遅くても9月3日までには!とかどの口が言いますかって感じで宣言してしまったものだからさあ大変。なんとか間に合うように一日に500通くらい袋詰めにし、リアカー引いて郵便局にもっていってる。自業自得とは言え、とんでもない。

500通の本を贈るって言いますと、大体ダンボール10箱くらいになりまして、収集癖のある浮浪者みたいになりながら郵便局に行くのですが、毎日500通クラスの郵便物を持っていくものですから、郵便局で露骨に嫌な顔をされると言うオマケつき。

だいたい、いつもの流れとしては、無愛想なオバちゃんが大量の郵便物を見てウンザリという顔をする、で、無言で「料金別納」っていうハンコと「冊子小包」というハンコを手渡されて、500通からの小包に僕がベンベンとハンコを押していく。そんな気の遠くなる作業をしながら思うんですよ。馬場さん、僕、30歳になっても夏休みの宿題に追われているよ、夏の終わりに追われているよ、見てますかってね。

今はもう天国に行ってしまった馬場さんですけど、きっと見ててくれてるんだろうなって思いながらリアカー引いたりハンコ押したり、少年の日のあの頃から全く成長してませんよって誇らしさすら感じながら馬場さんを思い描いているのです。

そして、8月31日、本日。

宣言どおり郵送するには今日あたりがデッドエンドですから、大量に発送すべく、いつもより大目の本を梱包し、チマチマとサイン書いたりやら宛名を貼ったりして郵便局に運びました。

郵便局の駐車場から備え付けのリアカーにダンボールを移し、そこからゴロゴロと引いていきます。「馬場さん、見ててくれているか」と思いながら、何故かこの郵便局は、駐車場から入り口までがアップダウンの効いたマウンテンバイクコースみたいな状態になってますから、死にそうになりながらリアカーをゴロゴロ。戦争難民でもこんなに荷物はこばねえぞって感じで郵便局に入りました。と、ここまではいつも通り。問題はここから。ここらがいつもとは違っていた。

いつもならば、生理の上がったようなババアが郵便窓口にいて、こっちまでもがウンザリするようなウンザリ顔で仁王立ちしているのですが、何故か普通の綺麗系のお姉さんみたいな服を着た若い娘が立っているのです。

そのお姉さんは、本当に浮いていて、職員のように忙しそうに働いているんですけど、郵便局の制服を着ていない。それもそのはずで、なんか胸のところには「実習生」とかいう名札が貼ってありました。

で、このお姉さんがムチャクチャカワイイのな。

見た目的にもバッチグーで、ナウい感じなのだけど、なんか動きがカワイイ。なんかドジっこキャラみたいで、お客さんに渡すオツリを間違えたり、伝票を書きつつ力をこめすぎてビリッと破れたりしている。

僕は気を使って大量にお客さんが入る時は忙しいだろうから、と横で黙ってみてるのですが、そのドジッこぶりが妙にかわいい。萌えるってのはこういうのなんだな、と思いながら悶々としておりました。

で、やっとこさお客さんもいなくなったみたいで、ドジッ子お姉さんも落ち着いてきたようなので颯爽と窓口へ。

「すいません、冊子小包を送りたいんですが。大量に」

と、結構男前なんじゃないの?って感じのキリッとした顔で言いました。するとドジッ子は

「はい、わかりました!」

と満面のグッドスマイル。そうかそうか、俺に抱かれたいか、って感じなのですが、どうやらお姉さんは冊子小包の手順が分からないらしく、右往左往してました。

僕の方から自主的に「あの、そこのそのハンコとそのハンコを押すんだと思います、貸してください、いつも押してますから」と申し出てハンコをゲット。窓口から離れた場所でダンボールの積荷を解き、ベンベンとハンコを押していきます。もう慣れたもの。

なんとか気の遠くなるような作業を終え、窓口のドジッ子に「終わりましたー」と告げに行った時、事件は起こりました。

ドジッ子は、なんか前の客の郵パックの伝票か何かを手に持っていて、忙しそうに右往左往していたのですが、僕が話しかけると「すいません、少々お待ちください」と制しました。そして、きっと前の客の伝票に書き漏らしか何かあったのでしょうね、ボールペンを取り出して伝票に何かを書き足してるんですよ。

そうかそうか、そんなに僕に抱かれたいか、と思いながらその様子を眺めていたのですけど、よく考えると何か違和感がある。何か途方もない違和感がそこに存在する。何だろうって考えていると、その正体が分かりました。

いやね、彼女が持ってる伝票ってのが、客が出したものですから切り離された状態なんですよ。普通、宅配便とかの伝票って何枚か重なったものじゃないですか。それの一番上だかを彼女が持ってるんです。で、それに何かを書き足している。

普通ですね、伝票って、一番上に書いたら順次下の紙に写るようになってるじゃないですか。カーボン紙みたいな状態になってるじゃないですか。ってことは一番上の切り離された伝票にも、そういう写す機能がついてるはずじゃないですか。

「おまたせしました」

書き終えて、ぺラッと伝票をめくるドジッ子、そこでやっとこさ事実に気付きました。僕が

「あ・・・」

とか言うと、真っ白い机には「田中様」と写ってました。どう見ても彼女が書き足した「田中様」が机に写ってます。見事に写ってます。

それに気付いたドジッ子は

「あー、私ったらなんてことをー」

コイツは萌える、完全無欠なドジッ子だ!ってセリフを言いましてね、たぶん僕に抱かれたいんでしょうけど、とにかくコミカルに言うんですよ。

それだけならまだよかったんですけど、なんか彼女が「僕にツッコミを入れて欲しい」みたいな空気をプロデュースしてくるんですよ。多分、物凄いドジなところ見られて恥ずかしい、けれどもスルーされるともっと恥ずかしい、なにかつっこんで!スルーしないでって真理なんでしょうけど、そんなに言うなら肉棒を、いやいや、よく知らない人にツッコミとかできるわけないじゃないですか。

そりゃね、職場のマミちゃんやブッチャーがそういうドジをしたら、僕かて目潰しくらいしますよ。もしくはアイアンクローとかしますよ。でもね、目の前にいるのはあまり知らない実習生。しかもドジッ子ですよ。何も出来るわけない。何も言えるわけない。

けれども、何も言わないってのが最も極悪みたいな空気が二人の間に流れ、すごい気まずいムードがプンプン、そのプレッシャーに押し潰されそうになってしまい、居たたまれなくなたった僕は

「バ・・・」

と口を開いたのです。たぶん、いつもの調子で「バッカでー!」とかツッコミを入れようとしたのでしょうけど、よくよく考えたら知らない人に「バカ」はないだろ「バカ」は。いくらツッコミでも失礼に当たってしまう。「バカ」は言っちゃダメだ、でももう「バ」まで言っちゃった。どうしよう、どうしよう。と悶々としてしまったのです。

何か言葉を出さねばいけない。それも既に口にしてしまった「バ」から始まる言葉。それでいて違和感のない、適度なツッコミになる言葉。何かないか、追い込まれてる、僕、また追い込まれてる。8月31日にまた追い込まれてるよ、馬場さん!

と思った瞬間、とんでもないことを口走ってました。何故かこの日に追い込まれたということで馬場さんのことが脳裏に浮かんだのですが、それが既に口に出してる「バ」と「ジャイアント馬場」が混ざってしまい。

「バ・・・バイアントジャジャ」

とか口走ってました。自分の事ながら、なんだそれ。

このシチュエーションでジャイアント馬場なのも意味不明だし、ジャとバが入れ替わってる意味も分からない。これね、一歩間違えなくても病院に入るべき人ですよ。

よくわからない空気が流れ、二人とも赤面しながら発送処理を終えたのですが、その間中、事の発端となった「田中様」の文字だけが燦然と白いテーブルに輝いていました。

この歳にもなって、小学生の頃と同じように何かに追われている8月31日。それは懐かしくもあり、切なくもある、なんだかほろ苦い思い出なのでした。

ゆったりと時が流れ、無限と思えるほど長かった少年時代の夏休み。それはゆったりと長く、まるで馬場さんそのもののようだった。決してバイアントジャジャじゃない。

8月31日、みなさんはどう過ごしていますか。


8/22 お嬢様はおてんば

お嬢様ってのは、それはそれは気品があって優雅でエレガンスでユリの花のようで、そこにいるだけでその空間を彩るような絶対的な存在なんだ。

僕は生まれも育ちも貧しく、見まごう事なき貧民街出身で、もちろんアイスのフタなんてこれでもかってくらい、20代後半欲求不満のOLが飼ってるそれ専用の犬のごとく舐めまくる貧しさなのだけど、それでもやはりお嬢様ってのはたいしたものだと思う。

多分、どんな時でも「ごめんあそばせ」とか言うだろうし、チョビヒゲの執事なんかを連れてるだろう、でもってビーフストロガノフなんか食べちゃうだろうし、バスローブもネグリジェだって着るかもしれない。硬貨どころか紙幣も見たことなくて、全てお父様のカード、というか自分ではあまり買い物をしなくて、もちろん、恋敵とか永遠のライバルとはテニスかフェンシングで決着をつけるだろう。で、召使いに自分の陰毛とか剃らせてると思う。そうであって欲しい。

幼い頃からバッタを捕って暮らし、いかにデカいバッタを捕まえたかがステータスになる、カマキリなんか捕まえたらヒーローだった貧相なヒエラルキー社会で暮らしてきた僕にとって、その高貴な存在が信じられないし、そうである努力に感謝さえ覚える。とにかくお嬢様には感謝する。

そりゃね、誰だって飯食うときはアグラかいてご飯に味噌汁ぶっかけたほうが美味いですよ。ブホッとか機関銃みたいな屁を出して、風呂はいってる時にオシッコしたくなったらココでしちゃうか、みたいな方が楽ですよ。でもね、お嬢様はそれをしない。あえてそこはグッと我慢して、歯軋りする悔しさで耐え忍んで高貴な振る舞いをしてるのだと思う。

そう、お嬢様はお嬢様であることが最大の義務で、お嬢様が頑張ってくれているからこそ、僕ら下賎な民は自由に下品さを謳歌できるし、誰に気兼ねすることもなくお風呂でオシッコできる。考えても御覧なさい、みんながみんなお風呂でオシッコなんかした日にゃ、日本国が終わりますよ。お嬢様がいるからこそ日本人は一定の気品を保ってるように見えるし、なんとか僕ら下賎な民も存在することができるのです。

僕のような下々の者には身近に感じることができないお嬢様。それでもどこか遠くには確実に存在してくれていて僕らを照らしてくれる光り輝く存在。それが何故だか頼もしいし、僕まで誇らし気持ちにさせてくれるから不思議なものです。

けれどもね、そんな遠くて頼もしい、まるで太陽のような存在のお嬢様がですね、なんと僕の身近にいたんですよ。マジでビックリして腰が抜けるかと思ったんですけど、ホント、あまりに近くにいたんです。今日はそんなお話です。

最近、職場の個室にテレビを導入しましてね、そりゃプラズマだとかハイビジョンだとか仰々しいものではなく、単純にゴミ捨て場に捨ててあったのを拾って帰って繋いでみたら映っちゃった!みたいな物なんですけど、それのおかげで普段は見ないテレビを見つつ仕事なんてことをやってるんですよね。

そうするとね、来るんですよ。

何が来るかって職場の女の子なんですけど、なんか「ドラマ見させてください!」とか言って弁当箱持参で僕の部屋まで来やがるんですよ。

この女の子が、微妙にパンチパーマ風のチリチリした髪型で、ほのかに大仏に似ていて仏教の香りがする子で、おまけに本気で仏壇みたいな臭いがするもんですから、心の中でヒッソリとブッチャーって呼んでるんですけど、こいつがイチイチひどい。

なんか、辺見えみりが過去にタイムスリップするドラマが見たいらしく、高校球児が食べるみたいな銀の弁当箱開けてですね、僕の机に座ってゲハゲハとドラマ見とるんですよ。なぜか仕事中なのにキャミソールって言うんですか、肌着みたいなあられもない格好でブッチャーが佇む姿は地獄絵図そのものですよ。マジ、タイムスリップとかどうでもいい。

で、なにがそんなに面白いのか知らないんですけど、ドラマ見ながら大笑いして飯粒まで飛ばす始末。そんな下品さも迷惑ですが、存在するだけで仕事してないけど仕事にならないやらオナニーできないやらで大変な騒ぎなんですよね。

で、ちょうどその日も昼の1時を超えましてね、そろそろ昼ドラが始まる、またブッチャーがやってくると怯えてたんですけど、いつものようにドアがノックされると何か様子が違う。なんか多いなって思いながらドアを開けると、一人増えててブッチャーともう一人の女の子が訪ねてきてるんですよ。

「ほら、アンタも見たいんでしょ」

とかブッチャーに言わされてるみたいな感じなんですけど、そのついてきた子も

「よかったらお邪魔してもよろしいですか」

とか言うんですよ。その瞬間、思いましたね。この子はブッチャーと違って上品な子だと。

「辺見えみりみせろよー」とか出来の悪い早口言葉みたいなこと言って来たブッチャーとは言葉遣いから違いますし、その格好も極めて気品溢れる夏の装い。ブッチャーは半裸みたいな服装で腋毛ボウボウなんじゃねえのって感じなんですけど、彼女は暑いのに長袖のサニーレタスみたいなシャツ着てるんですよ。

で、ブッチャーはドカ弁食いながら乳幼児の頭部くらいなら入るんじゃないかって大口開けて笑ってるんですけど、彼女はおちょぼ口で野菜がいっぱい挟まったパンとか食ってるんですよ。

思いましたね、彼女はお嬢様なんじゃないかと。立ち居振る舞いからしてブッチャーはこちら側の人間でしょうが、明らかに彼女は向こう側。何か高貴な気品を感じるんです。

で、ドラマが終わったあとに話してみたんですけど、やはりいいとこのお嬢様みたいで、家にお手伝いさんがいるみたいなことや、スイスによく行くみたいな話をサラリと言うんですよ。その横でブッチャーは爪楊枝でシーハシーハーしてた。

なんでそんなお嬢様がウチみたいな下賎な魔窟に、とか思うんですけど、単純にお屋敷から通える距離だったということと、社会勉強って言うんですかね、お嬢様といえども社会と繋がる方がいいみたいなフィーリングで働いてるみたいなんですよ。どうもお給料とかとんと興味ないみたいで、いくら給料貰ってるのか把握してないみたいなニュアンスのことを言ってました。ブッチャーなんて4月頃に給料が500円下がったって大騒ぎしてた。500円だよ、500円、なんだか泣けてくるわ。

で、お嬢様が働きに出てるってことでお父様は大変心配らしく、このお父様も会社などを経営していて決して暇じゃないはずなのに、なんか定時の5時になると会社前に高級車乗り付けて迎えに来るみたいです。お父様が忙しい時はお手伝いさんだったか運転手が迎えに来るそうです。ブッチャーなんて大雨の日にママチャリで帰って側溝に落ちたらしいよ。

それでまあ、遠くて頼もしい存在であったお嬢様がなんで僕の仕事場で辺見えみりの昼ドラを見てるんだ!と衝撃を覚えちゃいましてね、興味深くてもう根掘り葉掘り、いかにお嬢様かみたいな話を延々としまくりました。ブッチャーは飯食ったら眠くなったらしくグゴーとか寝てました。

でまあ、お嬢様のセレブ話に全て、「すげー、それっていくらぐらいかかるのかな」みたいな返答しかしない僕も明らかに下賎なのですけど、なんだかんだであっという間に夕方に。ここにいる全ての人間が仕事というものをどこか遠くに置き忘れているんですけど、なんか定時の5時が近くなっちゃったんですよね。

そりゃね、僕は下賎と言えども気配りが出来る男ですから、彼女は定時にお迎えが来るかぐや姫だって先ほど聞きましたから、

「もうすぐ5時だけど、帰る支度とかしなくて大丈夫なの?」

とか、僕が女だったらおいおい、抱かれてもいいぞって思うくらいジェントルマンに切り出したんです。そしたら、

「今日は大丈夫です、ただちょっと不安で・・・」

とか彼女が言うではありませんか。何のことだか良くわからないんですけど、色々と聞いてみるとどうやら今日はお嬢様大冒険の日だった様子。

彼女は仕事を始めてから、送迎付きで通勤していたんですけど、何を思い立ったか今日は自分で車を運転してきたらしいんです。お気に入りの車に乗って、免許を取ってから始めての一人運転。ドキドキしながら通勤してきたらしいんです。だから、定時に帰らなくても大丈夫なんですけど、また帰りも運転するのが不安らしいんです。

「でもまあ、高級車って安い車より安全だよね、エアバッグとか」

一人で通勤大冒険!とか言われてもそれって結構普通のことですから、どう返答していいか分からず訳のわからない返答をしていると、ずっと寝ていたブッチャーがガバッと起き上がりましてね

「3人でご飯食べに行こう。香織の運転で!」

とか、とても下賎な民らしい、明らかに奢ってもらうの目当てですみたいな意味不明な提案をしやがるんですよ。でも、お嬢様も乗り気みたいで「いきましょう」みたいな自由を謳歌してること言いだしやがりまして、次第に3人でご飯を食べに行く流れに。

ちょっと待ってくださいよと。あのですね、いくら比類なきお嬢様を擁してるとは言っても、そこは彼女に奢らせるわけにはいきません、年齢的にも僕が奢るのが自然なんでしょうが、こう、その、机の影で財布を見てみたら3千円しか入ってませんでした。おいおい、いくらなんでもお嬢様に竹富食堂のから揚げ定食は食わせられない、お嬢様はカタツムリみたいなの食べるんじゃないのか、絶対に金足りねーと微妙にはにかむくらいしかありませんでした。

でまあ、なんでもお嬢様は皆の車がひしめき合う駐車場に停めるのが怖かったらしく、かなり離れた場所に駐車したみたいで車を取りに行くことになったようなので、僕とブッチャーはボケーッと門の前で佇んで待ってました。

「やべー、超楽しみだよ、高級車」

そう、僕とブッチャーの狙いはそこにありました。きっと、お嬢様は高級車に乗ってやってくるでしょう、それはそれは豪勢な高級車に乗ってみたい、その豪勢さを満喫したい、おそらく生涯に乗る車の中で最も高級な車が霊柩車であろう僕とブッチャーは心躍りました。

たぶん、高級車ってのは後部座席にミニバーみたいなのがついていて、そこにドンペリとか入ってるでしょうし、もちろんシートも全面革張り。座席の位置や角度なんか電動でウイーンと動いて、後部座席で女がフェラチオ始めようものなら、運転手に見られないようにカチッウイーンと仕切りがせり出してくるに違いありません。

「どんな車なんだろうね、外車かな」

そう言う僕とブッチャーの心の中では、高級車をビクビクしながら運転するお嬢様というビジョンが浮かび上がり、デカくでデラックスな車体に振り回される彼女の姿が結構いいかもしれない、などと思い始めていたのでした。

「ポルシェかフェラーリだと思う」

高級外車というとポルシェかフェラーリしか思いつかないブッチャーも可哀想なのですが、僕も同じようなことを考えてました。とにかく高級車に乗れるのが嬉しすぎる。

「ごめんなさい。お待たせしました」

遂にお嬢様が車に乗って登場したのですが、なんだか異様に様子がおかしい。というか、一見して何かが異常なことが分かる。というか明らかにおかしい。

「おまたせしました、さあ、乗ってください」

そう言う彼女は運転席に座って窓を開けて言ってるんですが、その位置が明らかに高い。その純白のボディに響き渡る重低音サウンド、そして車体後部には堂々たる荷台、ええ、どっからどう見ても軽トラです。

可憐なお嬢様と無骨な軽トラってのが頭の中で繋がらないんですけど、とにかく冷静に落ち着いて話を聞いてみると

「ウチにある車の中で一番運転しやすそうだったんですよ。それにこういう車ってカワイイじゃないですか」

とか言うんですよね。

「さあ、乗ってください」

とか言うんですけど、軽トラ、2人乗りですからね。コイツ、お嬢様はお嬢様だけど頭おかしいんじゃないだろうか。

とにかく、これって違反だったような気がするんですけど、助手席にブッチャーが乗って僕が荷台に乗るという異様な展開に。30歳にもなって軽トラの荷台に乗ろうとは夢にも思わなかったんですが、高級車のゆとりの後部座席を期待して「後部座席は俺な、お前は助手席座れよ」とかブッチャーに言っていた自分を殴りたい、5分前の自分を殴りたい、と思ったのでした。

で、いよいよ発進したのですが、なんか、ビクビクするお嬢様の慎重な運転を期待してたのに物凄い勢いで暴れ馬みたいな運転でした。カーブに加速して突入する軽トラなんて始めて乗りましたよ。

で、座席に座ってるブッチャーとお嬢様はいいんですけど、荷台の僕はゴロンゴロン。振り落とされそうだったので窓のところについてる鉄格子みたいなところに捕まってました。見ると、ブッチャーも怖いのか大仏みたいな顔しやがってからに助手席で念仏みたいなの唱えてました。さすがブッチャー。

お嬢様がこんな荒くれ運転、しかも軽トラだなんて、と思うのですが、きっと彼女は可憐で上品な自分に疲れていたのだと思います。下賎な民のために上品に振舞う。それに疲れてしまったのだと思います。

そして、軽トラというお嬢様の象徴とはかけ離れた馬を駆り、相貌名運転をし始めた。そうすることでお嬢様であるストレスを発散しているのだと思います。

お嬢様も大変なんだな、これくらい、僕ら下賎な民は我慢してあげないといけない、と思いつつ、あまりの怖さにオシッコがしたくなったのでこのまま荷台でしてしまおうか、と思う僕はやはり下賎なのでした。


8/15 キルワード

「なにやってんですか!ぶっ殺しますよ!」

僕もまあ、長いことというか30年生きてきて、この間めでたく三十路となったわけなんですが、電話口でこう「ぶっ殺す」などという過激な言葉を頂戴したことは何度かあるわけなんですよね。

良く分からない詐欺業者に「殺すぞ」ですとか「一族根絶やし!」などと戦国時代みたいなセリフで脅されたこともありますし、どっかのオフ会に行く時なんか「オフ会場でアナタを刺殺します」と大変丁寧な殺人予告まで賜り、ビクビクしながら腹に少年マガジン偲ばせてオフ会に行った記憶などあります。

どれもこれも、姿の見えない相手からの「ぶっ殺す」という言葉。それを言うまで追い詰められてしまった相手の心中を慮るのですが、まあ、ぶっちゃけ、そういうのってあまり効力がないんですよね。

姿が見えない、自分を明かさず発する言葉なんてのは、言葉だけが宙ぶらりんで中空に浮いているような状態で、ほとんど力なんて持ってない。例えるならば、エロ系の作品をほとんど描いたことない漫画家のエロマンガみたいなもので、喘ぎ声やビチュアといった擬音にほとんど力がこもってない、お前は何がしたいんだ、お前はこれで抜けるのか?と言いたくなるような、そういうものなのです。ごめん全然分かりにくかったですね。

そんな力ない「殺す」よりも、素性の分かってる相手の「殺す」って言葉のほうが全然怖くて、それが冒頭のセリフなのですが、気心知れた相手の「殺す」ほど怖いものはない。本当に殺されそうで、その禍々しきオーラに押し潰されそうになるのです。

ちょうどその日は、とある県外の会社へ出向かなければならない日で、ご自慢の愛車を走らせてルンルン気分で出張しておりました。出張先ではハードワークが予想されていたのですが、行ってみると相手先の会社の人が微妙にやる気がないみたいで、受付の女の子のスカートの切れ込みを眺めてるうちに任務終了と相成りまして、あまりのあっけなさに拍子抜けしつつ、ちょっとこの街の名物でも食べて帰ろうか、などと街を散策していたのです。

すると、携帯電話に着信が。

出てみると、同僚の前川君で、普段は温厚で人柄の良い今時珍しいほど誠実な青年なのですが、その彼が出るや否や途方もない勢いで憤っておったのです。

「なにやってんですか!ぶっ殺しますよ!」

ああ、あんなに優しかった彼が「ぶっ殺す」なんて言ってる。何が彼をここまで追い詰めたのか。きっと僕が悪いに違いない。遠き日、まだ優しかった頃の彼を思い出し、僕はビクビクと返答するのでした。

「どうしたのかな?なにかあったのかな?」

声が上ずりながらも必死で平静を装い、本当は前川君の迫力にブルっちゃってるんですけど、とにかくブルってない素振りで返答したのです。

「何がじゃないでしょ!○○の原稿!今日が締切りですよ!何やってんですかホントに殺しますよ!」

電話のやり取りで顔が見えないのはもちろんなのですが、おそらく修羅のような表情になってるのはアリアリと伺えます。そういえば、一ヶ月くらい前に、僕が会社の中庭でアリを捕まえるという訳の分からない仕事をしている時に前川君がやってきて、「ホント、お願いしますね、締切りだけは守ってください、印刷所の関係とか色々ありますんで」と原稿執筆を依頼、僕も安請け合いしちゃって「まかせろ!」と大船に乗ってしまったもんだからさあ大変。その4秒後にはデカイ芋虫を運ぶアリに興奮してしまい、すっかり忘れてしまっていたのでした。

「メンゴメンゴ!書こうと思ってたけど筆が進まなくて・・・」

と、僕も何とか忘れていたことを誤魔化そうと精一杯のブラフを仕掛けて一流作家みたいなこと言ってみるのですが、修羅となった前川君には通用しない。

「ホント、殺しますよ!?なんでもいいから早く書いてください。今日の五時まで待ちます。間に合わなかったら殺しますからね!」

あの優しかった前川君が何回も殺すって言ってる。その迫力たるや相当なもので、なんとか5時までに間に合わせないと命がないことがビンビン伝わってきます。

とにかく、5時までに書き上げてメールで送付することを約束し、本気で間に合わせないとマジで殺されそうな勢いなので心を入れ替えて頑張ることを決意して電話を切りました。

さて、約束はしたものの、ここは出張でやってきた遠き地、パソコンを持って移動しているわけではないのでどうやっても書けない。A4で10枚には及ぼうかという大量の文章を携帯電話でチマチマと打って送付するわけにもいかないし、どうしたものかと途方に暮れました。

しかしですね、最近は本当に便利になったものです。そこそこの街であればインターネットカフェが存在する。そこではパソコンがあって文章も書けるし、メールも送れる。もう、ネットカフェに入って原稿を書ききるしかない!そいでもって前川君に送って「どんなもんじゃ〜い!」とか言いたい。そう決意してネットカフェを探したのでした。

まあ、探してみるとやっぱりネットカフェって簡単に見つかるもので、少し小ぶりで小さな建物、けれども比較的オシャレな感じの店舗を見つけ、いざ飛び込みました。

本当は、多くのネットカフェがそうであるように簡易的に仕切られた個室で優雅に執筆に没頭、たまにエスプレッソなんか飲んだりしてセレブに振舞いたかったのですが、あいにく個室は全て満員御礼、ソールドアウト。仕方なく、コミュニティルームと呼ばれるオープンなスペースに入ることに。

どうも、このスペースも数台のパソコンがあるようなのですが、その間に仕切りは一切なし。ネットゲームか何かで大勢の仲間がワイワイと盛り上がれるようにオープンになってるようなのです。

まあ、本当は個室が良かったけどオープンでもいいか、と入店手続きを済ませ、フリードリンクのコーラを片手にコミュニティールームに向かいました。

コミュニティルームは8畳ほどの広さの部屋で、中央を向く形で8台のパソコンが並んでいました。その中の指定された1台のパソコンに座り、一息つきます。

いやあ、オープンな場所ってことでうるさいクソガキやら、勢い余ってパソコンの前でオナニーしちゃう人とかいたらどうしよう、原稿に集中できないと思ったのですが、人がいないようで良かった。これで集中できるぞ、と伸びをしつつ、部屋の隅に視線をやったその時でした。

いるんですよ。

最初は、ネットゲーム中に死んでしまい、その無念の想いからネットカフェ内を徘徊する霊か何かと思ったのですが、コミュニティールームの端っこのパソコンにギンギンに向かってるヌシみたいな人がいるんですよ。

このヌシが凄くて、僕もまあ人の風貌のことをとやかく言えませんが、ガリガリで青白い顔、長髪で無精ヒゲに四角いメガネ、と幼女誘拐犯を描いてみろって言われたらこの人を描いてしまいそうな力強い風貌なんですよ。

で、このヌシが、何か銃で人を撃ち殺すゲームをしてるみたいで、もうマウスが壊れるんじゃねえかって勢いで左クリックを連打し、「クソ!」「死ね!」「殺すぞ!」とか連呼してるんですよ。

前川君の「殺すぞ」に比べたらなんと力ない言葉かと思うんですけど、その光景は何故か怖い。でもまあ、目先のヌシよりも今は前川君の方が怖い、とにかく集中して原稿を書かねば、とパソコンに向かったのでした。

ガリガリと集中して書きつつ、5時までだからあと6時間ある。まだ時間的余裕は随分とあるぜ、と時間配分を計算しつつ書き進めます。しかしその傍らではヌシが

「このっ!」

「やるじゃねえか!」

「死ね!死ね!死ね!うひゃひゃー!」

とか、善良な市民なら通報しかねない危ない状態になってるんですよ。全然集中できない。それだけならまだ良くて、どうもヌシの中では何かがスパークしてしまったらしく

「いけ!アバンストラッシュー!」

とか必殺技まで繰り出してるんですよ。頭おかしいよこの人。お母さん、この人狂ってるよ。しかも、よりにもよってダイの大冒険かよ。

その異様な光景というか必殺技を見て、ダイの大冒険のことが異様に気になった僕は、早速マンガが置いてあるコーナーに走りダイの大冒険を読み進めることしかできませんでした。

まあ、まだ5時まで時間があるし、4巻くらいまでなら大丈夫と読み始めるとこれが没頭しちゃいましてね、個人的にはマァムが微妙にエロくていいんですが、4巻どころでは終わらない勢いで読んでしまったんですよ。もちろん、その横ではヌシが「死ねこの!」とかパソコンの画面に向かって言ってるんですが、マンガを読んでると心地よいサウンドにしか聞こえません。

いよいよ最後のバーンとの決戦といったところで、このマンガ、面白いんだけど死んだキャラが生き返りすぎだよと思ったところで事態の深刻さに気がつきました。相変わらずヌシは「死ね死ね!殺す!」とかマウスをカチカチやってるんですが、時計を見ると3時ちょっと過ぎではないですか。おまけに画面を見ると2行くらいしか書いてないんですよ。

これはまずい!と思った僕はダイの大冒険を投げ捨て、再度心を入れ替えて執筆に没頭することに。5時まであと1時間45分、その気になればいける!やれる!文章の神よ、僕に力を貸したまえ!と猛烈な勢いで書き始めました。

しかしまあ、ダイの大冒険に没頭していて気がつかなかったのですが、相変わらずヌシは同じように死ね死ね言いながらマウスを連打しているのですが、いつの間にか他の席も客が座っていて満員御礼状態になってました。

しかも、どうも僕とヌシを除く客は6人組のネットゲーム仲間みたいで、楽しそうにワイワイやりながら「そっちに回り込め!」とか「よし、打て!」とか意味わかんないですけど大声出しながら大盛り上がり大会なんですよ。

そんな雑音など一切シャットアウトして原稿に没頭するのですが、そんな僕の意思とは無関係にネットゲーム仲間達が大変なことになってくるから始末が悪い。

どうも会話を聞いていると大きなモンスターを6人がかりで倒してるみたいなのですが、その中で一番気の弱そうな青年がミステイクを犯してしまい、6人全員が全滅してしまったみたいなのです。

「バカヤロウ!お前のせいで死んだじゃねえか!」

「あー、もうちょっとだったのに」

みたいな、もうみんな20代後半か30くらいの年齢であろうのに凄い会話が飛び交ってるのですが、その中でも一番気の強そうな、どんな仕事をしても長続きしなさそうな青年がリミットブレイクして気の弱い青年に詰め寄ったのです。

「お前何度目だよ!マジで殺すぞ!」

ゲームでミスをしたからって殺されていては命がいくつあっても足りないのですが、とにかく急展開にハラハラドキドキ。こいつはダの大冒険より面白い!と成り行きを見守っておりました。

いつもミスをする気の弱い青年。それに詰め寄る気の強い青年。傍観している他のメンツもあからさまに不快感をあらわにしています。気の弱い青年は今にも泣きそう。もう、青年が1、2発くらいは殴られそうな雰囲気がするのですが、ここで奇跡が起こったのです。

「ゲームで怒るなんて大人気ない」

さっきまで死ね死ねとカチカチやってたヌシが怒れる青年を一喝。「死ね」とか「殺す」とか「アバンストラッシュ」とかゲームに向かって言ってたお前が言うかよって感じなのですが、とにかく全然関係ない騒動にヌシが割って入ったのです。

しかし気の強い青年は収まらない。そりゃヌシって言ったって僕が勝手にヌシって心の中で呼んでるだけですからね、別にこの場を収める力も何もないんですから、青年はさらに怒ります。

「何だお前?関係ないだろ。マジ殺すぞ」

みたいなことを言ってましたが、ヌシVS喧嘩の強そうな青年、という名勝負を期待したのですが、さすがにここで他のメンツが青年を取り押さえて事なきを得たのでした。けれども、僕はヌシがアバンストラッシュの構えをしていたことだけは見逃しませんでした。

ゲームの中やマンガの中には、軽い死が溢れています。それにつられて殺すと言う言葉が何とも軽く気軽に使われるようになったと感じます。そう、そこには命を取るぞという本来の意味ではなく使われているのです。きっと、ほとんどの「殺す」が命を取る覚悟もないのに使われているのです。

僕も歴史的にブスな女性に「3万でどう?」と言われてしまい、さすがに「殺すぞ」などと軽々しく言ってしまう事がありますが、本来、決して軽々しく誰かに投げつけてはいけない言葉なのです。脅す意味で発する軽々しい殺すに慣れてしまい、恐怖を感じなくなったらどうしますか。脅す方はもう、次は殺すしかなくなりますよね。

インターネットの世界のみならず、様々な場所を飛び交う無数の軽々しい「殺す」たち。その小さな悪意が何とも不気味だと感じながらパソコンの画面を見つめると、16:58という絶望的時間表記と4行しか書かれていない原稿がありました。もう、開き直って読み残ししていた大魔王バーンとの最終決戦読んでた。

せめて、前川君の「殺す」が軽いものであるように祈りながら。


8/9 デス

30歳になった

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ぬめぱと三十路レィディオ
8/9 PM22:57-
放送URL    年齢的にきついので寝ました
放送スレ  年齢的にきついので寝ました


8/1 気配

「やっぱりさ、女性器は外せないですよ」

それはすごい気配だった。誰もが驚いた。全米が震撼した。

クソ暑い会議室の中、経費削減だかなんだか知らないけど、クーラーの設定温度30℃ってなんだよ、それ暖房じゃねえか、と悪態もつきたくなるほど蒸し暑い会議中に事件は起こった。

ウチの職場は特に会議が多い職場で、酷い時になると週に8本くらい会議がありやがり、そのどれもが興味ない人の結婚式くらいに長い、長く感じでどうしようもない。退屈で退屈でどうしようもない無為な時間が流れる、それが会議だ。

会議は踊るってのはまさにその通りで、冷静に考えると別に大したことを話し合ってるわけじゃない。特に問題点が解決するわけでもない。話が堂々巡りすることだって多々あるし、それどころか次回の会議の日程を決めるための会議、なんていう一休さんのトンチみたいな大激論が酌み交わされることもある。ホント、会議だけはどうしようもない。

そんな気持ちになっていたのは僕だけじゃなかったようで、社内全体で会議を減らそうというムーブメントが巻き起こった。さすがに何時間も何時間もという会議を何本もやってられない、主に若手の間でこのムーブメントは巻き起こった。

そうなると、会議を減らすための会議、なんちゅう訳の分からない事になってまた会議が増えるのだけど、これも会議を減らすための辛抱、と根気強く会議大好き老害連中を説得した。

結果、社内LANを利用した独自の会議システムが提案され、大切な会議は今までどおり会議室で行われるものの、その他のくだらない会議はパソコンを使ってオンラインで行われることになったのだ。老害連中は文字だけでは伝わらない何かがある、と反対したが、それらを必死で押し切った形だ。

で、このオンライン会議システム。実際にテストで使ってみて分かったのだけど、これが掲示板とチャットのシステムを利用したような感じで非常に使いやすい。ある会議テーマに従って自分の意見を書き込み、それに伴って誰かが素早くレスポンスをつける。実際に顔をつき合わせていると顔の怖さや声の大きさで意見をごり押しさせられることもあるのだけど、オンラインなら文字だけだ。変な凄みに負けることはない。

こうして、年配の人たちはオンライン会議システムの導入に乗り気ではなかったものの、会議の多さにウンザリしていた若手から中堅にかけては大賛成した。しかし、オンラインならではの問題点もいくらか見受けられた。

1つは、意見が堂々巡りしすぎること。会議などでは時間的制約もいくらかはある。さすがに24時間不眠不休で議論が紛糾することはない。ある程度長引いたら妥当なところで決着をつけることができる。しかしながら、オンライン上ではその制約がない。誰かが誰かの意見にレスポンスをつけると、それに対して誰かがレスポンスを、またそれに対して、と実際の会議以上に議論のラビリンスに陥りやすい。

そしてもう一点。言葉が過ぎすぎてしまうという点も問題だった。会議で顔を突き合わしていると言えないようなことでも、それが画面上の活字であると言えてしまう。もちろん、言葉ではない文字である行き違いってのも当然あって、そんな意図はなくても悪意に受け止められることもある。誰だって文字だけの議論では歯止めが利かなくなってしまい、悪意が悪意を生み出してしまう事だって当然ある。

一つ目の問題については、議論が堂々巡りしないよう、なるべく他者の意見には触れず、自分の意見のみを書き込むようにガイドラインを制定しよう、ということで纏まった。実際、これで歯止めは効かないだろうけど、意見が堂々巡りすることを悪とはせず、実際の会議と違って時間的制約は少ないのだから、それで良しとする動きによる結果だった。

二つ目の問題点が難しかった。暴走する言葉の暴力をルールどうこうで制約するのは不可能。なにせ、そういった人は暴走しちゃってるんだからルールがあっても関係ない。これはもうどうしようもないので、本当に各個人の良識に任せ、そしてシステム的には禁止ワードで制約しようという考えでまとまった。問題になるなら最初から弾いちゃおうという考え。

こうして、オンライン会議システムの導入に関わった若手が中心に集められ、禁止ワードを決める会議が開かれることになった。もちろん、オンラインではなく実際に集まっての会議だ。また会議かよ。

「やはり、他者を貶めるような発言は禁止した方がいいのではないか」

「テスト使用でpatoさんが連呼していた「キチガイ」も禁止にした方がいい」

「いやあれはキチガイのように使いやすい!とかVeryの意味でですね、僕だって悪気があったわけじゃ」

「とにかくキチガイは禁止だな」

「それならばアホとかバカとかも当然禁止でしょう」

「まてまて、バカはいいけどアホは禁止にできないんじゃないか」

「たしかに。アホ○○○○○とかそれを含まれた発言できなくなる(業務上使う専門用語です)」

「まって!それだったらキチガイだって「君と君との心の行キチガイ」とか発言できなくなる!」

「もうpatoさん黙ってて」

とまあ、主に他者を侮辱する言葉について禁止ワードにするか否か激しく討論しておったのです。すると突然ですよ。

「やっぱりさ、女性器は外せないですよ」

物静かで気配のない、いつもいるんだかいないんだか分からないようなK君が言うんですよ。それはそれは物凄い気迫というか気配というか、女性器の名称だけは禁止ワード入りさせてもらう、ととんでもない禍々しきオーラを身に纏っておったのです。

いやね、何をそんな女性器に一生懸命になってるか知らんのですけど、仕事上の会議システムですよ、議論がヒートしてバカとかアホとかキチガイとか使う人はいるかもしれないですけど、さすがにマンコを連呼する人はいないと思うのが普通じゃないですか。というか、マンコはダメでチンコはいいのか。

「とにかく女性器は禁止ワードにさせていただきます」

なんでそんなに一生懸命なのか知らないですけど、とにかく頑なにマンコだけは禁止ワード入りさせたい様子。本当にその気配は物凄くて、普段は忍びの末裔かと思うほどに気配がなくて、ちょっと半透明かと思うほどなのに、マンコにまつわるこの気配のありようはどうだ。

まさか彼は自分で気配をコントロールできるというのか。普段はとにかく気配を消してここ一番で最高の気配を出す。なんと効果的なことか!と感嘆したのです。

僕は自分の気配をコントロールするのが苦手で、例えば、上司が誰かに面倒な仕事を押し付けてやろう、と企んでる気配がした時にですね、見つからないように必死で気配を押し殺すんですが、物凄い勢いで見つかっちゃうんですよね。

逆にこう、声とか出して存在を主張するんじゃなくて、気配だけで存在に気付いて欲しい時、自分の中で小宇宙を燃焼させるイメージで気配を出してみるんですが、一向に気付いてもらえない。

あれは1ヶ月くらい前のことだったでしょうか。

保険勧誘のクソババアがあまりにしつこく、このままでは末代まで祟られる気配が濃厚だったので、保険勧誘の総本山である保険会社まで出向いてですね、ちょっと手続きをしていたんです。

なぜか田舎の保険会社って1階が謎のスペースで2階が仕切りも何もないただっぴろいオフィスになってる気がするんですが、そのオフィスに通されて隅のほうに簡易的に作られた応接ルームみたいなところで書類を書いていたんです。

摺りガラス付きの仕切り板みたいなので囲まれたスペースで、周りからは姿が見えないんでしょうが、声とか何かは筒抜け状態、そこで書類を書いていたんですけど、担当のオバちゃんは何か用事があるらしくどっか行っちゃったんですよね。

昼間の保険会社って人がいないもんで、仕切り板の隙間から覗いてみると周りに誰もいない様子。随分向こうの方に偉そうな人が座ってたんですけど、とにかくこの周辺には誰もいなかったんです。

おいおい、随分無用心だな。僕が物盗りとかだったらどうするんだ。そうでなくてもここでオナニーとかおっぱじめるかもしれんぞ、と思いながら大人しく書類に記入していたんですけど、何やらドヤドヤと人が入ってきたんですよ。

どうも保険のオバちゃんが集団で帰ってきたみたいで、1匹でもやかましいのに集団でギャーギャーと、ちょっとした地方の祭みたいな勢いで騒いでるんですわ。

僕がいるスペースの近くに陣取って話してるみたいだけど、どうも仕切り板の向こうにいる僕の存在には気付いていない様子。なんだか好き勝手に喋り始めたんですよね。

「○○さんのところはそろそろ離婚するらしい」

「△△さんのところは子供がグレて大変らしい」

「××さんとこはいつ行っても変な臭いがする」

たぶん客の悪口を言ってるんでしょうけど、それが妙にリアルで生々しい。まずい、こんなこと聞きたくない、頼む、僕の存在に気付いてくれ、僕の気配に気付いてくれ、と、うおーって感じで気配を出してみるのですが、オバちゃん達は止まらない。もう、ノンストップオバちゃんですよ。

なんかワザとらしく音出すとか、声出すとかで気付いてもらうのは簡単なんですけど、それだといかにも聞いてましたよって感じじゃないですか、できればそれは避けて気配で気付いてい欲しい。もう必死だったんですけど全然気付いてくれない。

そのうち旦那との夜の営みとか主人のアレ、メンスがどうこうみたいなオバちゃんたちの女の部分を感じる非常にデンジャラスな会話になってきたからさあ大変。ゲハゲハと大変盛り上がってる様子なんですけど、できればそういうのは勘弁願いたい。もう気付いてくれ、と気配を燃焼させるのだけどやっぱりだめ。

「この間、痴漢に遭った」

とかそのうちの一人、下山さんっていう人が言い出したので、ちょっと気になって、そんな美熟女が保険のオバちゃんやってんのか!と仕切り板の隙間から見てみたら、サイババみたいなのが「もう最悪よー」とか言ってるし、気配どころか怒りすら燃やす始末。

「あら下山さん、太極拳やってるでしょ、痴漢倒しちゃえばよかったのよ!」

とか別のババアが言い出して、なんだよ太極拳って、と僕も心中穏やかではない。

終いには全員で下山さんに太極拳を教えてもらおう、みたいな流れになっちゃって、サイババ下山さんを筆頭に5人くらいのオバハンが太極拳やってんの。その異様な光景がいちいち仕切り板の隙間から見えるから始末が悪い。

ホエーッて感じで、出来の悪い洋物アニメみたいにオバハン連中が舞ってて、僕もその光景を見ながら「こ・・この動きはトキ・・・!」とか言えたら随分楽だったのでしょうけど、必死に笑いを堪え、気配を燃焼させることしかできませんでした。

結局、気配だけでは気付いてもらえず、担当のオバハンが帰ってきて始めて僕の存在が認知されたのですが、気付いたオバさん連中は、何気なく鼻くそほじってたら物凄くデカいのが取れた時みたいな顔して驚いておられました。もう気まずいったらありゃしない。

結局ね、K君のように普段は気配を押し殺してあらゆる物をかわす、でここ一番って時に気配を最大限に燃焼させて自分の存在を知らしめる、それこそが最も賢い生き方だと思うわけなんです。

「では、マンコは禁止ワードと言うことで」

もう気配を出しすぎてリミットブレイクしちゃってるK君は、いつのまにか女性器とか濁らせた言い方ではなくマンコとか言っちゃって、確かにキチガイなんですけど、その気配には有無を言わせない説得力があるんです。

じゃあチンコはどうすんだよ、マンコだって色々な言い方があるじゃないか、そもそもいい歳した大人たちが会議でマンコとか言ってるのは相当にシュールだ、などの数々の疑問が沸き起こるんですけど、そんなの物ともしない説得力が彼の気配にはあるんですよね。

ああ、文字だけのオンライン会議システムじゃ伝わらないことって、こういう気配なのか。そりゃあ文字だけでは熱い気配も伝わらない。そこに人の心がない中で会議を続けなきゃいけないわけか。そう考えるとオンライン会議システムも良し悪しだなあ、などと考えを改める僕がいたのでした。

「なんにせよ、マンコは禁止で」

それにしてもK君、マンコに執着するのはもう分かった。禁止ワードにしたいのも分かった。君の気迫も、その存在感のありすぎる気配も分かった。その気になれば僕がアスキーアートでマンコマークを書いて発言しよう。でもな、女子社員がお茶を持って入ってきたのにマンコ連呼はいただけない。彼女、顔を真っ赤にしてるじゃないか。ホワイトボードにデカデカと書かれた「マンコ」にショックを受けてるじゃないか。

マンコマンコと、まるで自分の娘の名前かと思うほどに連呼するK君と、その横で真っ赤になってうつむいている女子社員を見つつ、彼のように熱い気配も大切だけど、もっと大切なのは気配りだよなあ、と思うのでした。

ウチの職場のオンライン会議システムは、チンコは発言できるけどマンコは発言できません。


7/25 書きかけ日記-裸のままで-

いやーメンゴメンゴ。ちょっと色々と忙しくてさ。

何か仕事場に行ったら自分の机がなくってさ、いよいよ陰湿な虐めが始まったのか!とプルプル震えていたら何てことはない、過去に過労死と疑わしき死者を数人出した最も忙しい部署に移動になっていてさ、頭も尻も軽いことで有名な総務部のマミちゃんには「patoさんの後ろに死神が見えるんです、私、見えるんです」とか、どう反応していいのか分からないこと言われるしで超大変。

今までとは別世界の忙しい職場で仕事をしていまして、エアライフルでも買って新しい上司を狙撃したい気分なんですが、1ヶ月の期間限定部署移動、その後はクビになるか元の楽園に戻れるかになるんですけど、それまで我慢したいと思ってます。

ということで日記書いてる暇なんてないとは言えないけど気力がわかないので、今日はモソッと過去ログサルベージ。と思ったのですが、それもあまりどうかと思うので、今日は書きかけ日記ライブラリから適当に書きかけの日記でもアップしておきます。

勢いあまって書いたはいいけど、途中で嫌になったか何か圧力がかかったかで続きを書かれることがなくなったお蔵入り日記たち。それを完全に未完成の形で出したいと思います。すごいクソな状態で終わってますが、続きは各自の夢の中で補完してください。いまちょっとカッコイイこと言った。

日記の続きは君達の心の中にある!

それではどうぞ。
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7/25 裸のままで

どうにもこうにも、裸ってやつは景気が良すぎてたまらない。

旧約聖書によると、アダムとイブがエデンの園にいる時、二人は裸だった。神に禁じられた禁断の木の実を食べることにより裸でいるのが恥ずかしくなった。イチヂクの葉で陰部を隠した彼らはエデンの園を追われることになったのだ。

よくよく考えなくても、僕らはもともと裸だし、世界に山とある多種多様な人種においても、生まれた瞬間から服を纏っている人種は存在し得ない。そう、僕らは裸でいるほうが自然なんだ。

それよりなにより、とにかく裸は景気がいい。景気がいいと言うと伝わりにくいかもしれないけど、途方もない威勢の良さというか、インパクトと言うか、言い知れぬパワーを感じてしまう。

例えば、都電に乗っていてふと思い立った名も知らぬ駅で降りたとしよう。駅が違えばそこは別世界だ。駅前の寂れた商店街をフラリと歩くアナタ。八百屋の軒先に並べられたキャベツが安くて少し心が揺れ動く。すると、喧騒に紛れてどこからともなく祭囃子が聞こえてきた。

祭り好きのアナタは心が躍る。祭りとは日常に現れる非日常だ。平凡な日常に身を置く安心と安らぎ、それと同時にどこか物足りないものを感じているアナタにとって、祭りはカンフル剤だ。退屈な日常に飛び込んだ予想外に些末な興奮。アナタは祭囃子に向かって走り出した。

音がする方向に走っていくと、小気味良い祭囃子に混じって「セイヤ!セイヤ!」と威勢の良い声が聞こえてくる。祭り神輿だ!心なしか歩幅が広くなり速度も速くなる、アナタの心臓は高鳴り少年のような瞳でタバコ屋の角を曲がる。そして、アナタの目の前には、少年の日、祭りの小遣いとしてもらった500円玉を握り締めながら見た神輿の風景が広がっている。

この場合にですね、アナタが見た神輿、それを担いでいる人がタキシードとか着ていたらどうですか。モコモコのエスキモーみたいな服を着て「セイヤ!セイヤ!」いってたらどうですか。それはそれで面白いでしょうが、テンションもだだ下がりってもんですよ。

やはり、祭り神輿といえばハッピ姿とかでしょうし、それがフンドシ姿とかだったらさらに威勢の良さが上がります。つまり、裸に近ければ近いほど担いでる方も観てる方もテンションが上がる。本気の一糸纏わぬ裸だったら神輿がバラバラになるんじゃなかろうか。裸というステータスにはそれほどのポテンシャルがあるのです。

また、裸の持つパワーも凄い。まず、どんな雰囲気も吹き飛ばしてしまうという絶大なる力、巨大無比なる力を持っている。僕が大変お世話になった恩師が亡くなったとして、とりあえず喪服を着て駆けつける。神妙な面持ちで会場に駆けつけ、恩師に言われた言葉などを思い出して少し涙がホロリ。会場のドアを開けて、参列者が全員裸に数珠だったらどうしますか。葬儀会社の人も、遺影すらも全部裸だったらどうしますか。どんなに重苦しい雰囲気だろうと、笑わずにはいられない。笑いつつ、自分もそっとネクタイを緩めるに違いない。

そして、なんといっても裸が持つ景気の良さの最たるものとして挙げられるのがインパクトだ。どんなに影が薄くて根暗で、同窓会に行ったとしても「あんなやついたっけ?」「しらね」みたいに言われるアナタも裸になって町に繰り出せば大丈夫。たちまち主役だ。そのまま同窓会に行こうものなら、中学時代の影の薄さなんて吹き飛ぶくらいの強烈なインパクトを与えられるはずだ。教室でウンコを漏らした忌々しい思い出も吹き飛ぶに違いないし、下手したら夕方のローカルニュースくらいになら取り上げられるかもしれない。それだけのインパクトだ。

このように、裸の持つ力は物凄い。どんなブランド物にだって発揮できないポテンシャル、パワー、インパクトを持っているんだ。言うなれば裸自体が人間と言う名のブランドファッション。どんなに高いスーツを着ていたって裸の持つ景気の良さには勝てない。

これは全然余談になるのだけど、今をときめくソフトオンデマンドというメーカーが「全裸シリーズ」なるご機嫌なエロビデオを出しているんだけど、これがいちいち凄い。全裸雪山、全裸バレエ、全裸ゴルフとか本当に女性が全裸で淡々とこなしていて、何の意味も何の生産性も見出せない物凄い作品なのだけど、エロとか抜くとか以前にそのパワーが凄い。とにかく景気がいい。上手く言葉で表せないけど、僕らは人間なんだ、君らも人間だ、そりゃそうだ、と感じずにはいられない、エロビデオの枠を超えた人間ドキュメンタリー。こういうのを見るにつけ裸というステータスが持つ破壊力を感じずにはいられない。

さて、そんな「裸」の破壊力なのだけれども、やはりその力が強大であればあるほど万能ではない。これにも一つだけ問題がある。言うまでもなく諸刃の剣であるということなのだけど、これがなかなかに深刻だ。

どんなに威勢の良さを演出できる景気の良さがあるとしても、雰囲気を吹き飛ばす強大なパワーがあるとしても、誰もが注目するインパクトがあろうとしても、実践できないのだから何の意味もない。

裸の持つ素晴らしさに気付いたとして、繁華街や公共施設、祭事の場所に出向こうものなら、逮捕されるのは確定事項として、それどころか頭の中がジンバブエとか思われるかもしれない。こんなに素晴らしい裸なのに実践できない、実践できない理論に何の価値があるか。これはもう日本の法が狂ってるとしか思えないのですけど、法治国家に身を置く僕らは守るしかない。これがどんなに歯痒くやるせないことか。

ええ、悩みましたよ。悩みぬきました。こんなにも素敵な「裸」というヒューマンブランド。なのに日本の法律はそれを許さない。実践できず、自室で鏡に向かって裸になって片足上げてルンルンが関の山。分かりやすく例えると、メジャーリーグクラスの実力を持つ選手が商店街対抗の野球大会に借り出されて、相手チームの酒屋のオヤジから卑怯だと熱烈ブーイングを受けてしまい、仕方なくハンディで両足に鉄アレイつけてプレイさせられるようなものです。実力はあるのに発揮できない。全然分かりやすくないけどそんな気分です。

さすがにお縄を頂戴するのは、机上の空論でしかない裸ステータス。このままその破壊力を試すことなく消え去っていく理論なのだろうか、そう思った時、ある天才的閃きが僕の中を駆け抜けていったのです。

理論止まりならば、理論の世界で使えばいいじゃないか。

つまり、実際に裸になる必要も、お縄を頂戴してカツ丼を食べる必要も、同僚にワイドショーで「いつかやると思ってましたよ」と言われる必要もないのです。ただ理論の世界だけで裸をちらつかせる。交渉の席で裸をほのめかす。それだけでも十分に裸の持つパワーを検証できるのです。

ということで、実際に裸がどれほどのパワーを持っているのかうざったい業者相手に検証を行ってみました。こういう場合、対戦相手は実験台にしても気に病まない悪徳詐欺出会い系サイト業者や架空請求業者相手にやるのが普通なのですが、今回はちょっと趣向を変えまして、消費者金融業者を相手にやってみました。

実は以前に、完全にお蔵入りしたネタなのですけど、テレビで宣伝している様々な消費者金融があるじゃないですか、グラビアアイドルが出てきたりチワワが猛威を奮っていたり、「抜きすぎ!」とかちょっとドキッとするセリフを言うCMやってる業者、早い話がサラ金なんですけど、その思いつく限りの業者全部から1万円だけ借りましてね、思いっきり返済を滞納してみたんです。で、どこの業者の取立てが一番キッツイのか調査したっていう、「裸シリーズ」のエロビデオより意味分からないネタをやったことがあるんです。結局全部返済して調査を終えたのですけど、その時の契約を辿ってですね、また金を借りてくれないかっていう勧誘電話が物凄くかかってくるんですよね。

良く分からないですけど、ノルマの関係なのか月末近くなると各社から鬼のように電話がかかってきましてね、金利を下げたから金を借りないかだとか融資額を上げたので借りてくれないかなど甘い言葉で囁くわけですよ。これがまあ、すごいウザったい。

普段なら、1000万円貸してくれるなら借りますよ、だとか1万円も必要ないので300円だけ貸してください、タバコ買うんで、などと軽くかわすのですが、中には引き下がらない勧誘員もいるんですよね。そんなこと言わずに50万円くらい、何か使う予定ありませんか?みたいに割りとリアルな金額で借りるようにしつこくしつこく迫ってくるんです。

よくよく考えると、自分にとって金が必要でどうしようもなくなって借りるなら分かるのですが、まるで押し付けられるように借りさせられ、なおかつ法外な利息まで取られるってのは納得いかなくて、昔常連だったエロビデオショップで「いいからコレ見てみろって、最高だから」と店長に無理やりスカトロ物のエロビデオを借りさせられた、本気で苦い思い出がフラッシュバックして少なからずムッとする部分があるのです。再生したらチョコボールのキャラみたいな女が「ダメ!出ちゃう!」ブリブリブリブリとかやってたから2秒で停止ボタンを押したからね。

というわけで、こういった消費者金融の人々に恨みはありませんが、執拗に必要ない金を借りさせようとするのは割りとうざったいので、裸の持つパワーで見事に断ってみたいと思います。具体的に言うと、金は借りる気マンマンなのだけど、すぐに裸になりたがる人、みたいなポンコツ一歩手前を演じてみたいと思います。

プルルルルルルルルル

携帯電話に着信。あまりに勧誘がしつこいので電話番号を登録しちゃってるものですから、着信表示には燦然と消費者金融の名前が光り輝いています。しかも、うまいことに最も勧誘がしつこい会社です。

「もしもし」

「もしもしー、○○の○○支店の○○と申しますが」

物凄い甘い、菩薩のような声で男性が喋っています。勧誘する時はいつもこんな甘い声の人なのですが、この業者、前述の実験で延滞した時は凄い嫌味っぽい超えした人がダルそうな、すごい不快感を顕にした感じ悪い雰囲気ムンムンで督促してきました。やっぱお金が絡む話ですから、目的が変われば豹変するものです。ホント、お金って怖いですね。

「以前にも何度かご案内させていただいてるのですが、何かお力になれることはありますでしょうか?」

どんな文言だったか忘れちゃいましたけど、直接的に金借りろって言うわけでなく、あくまで間接的にアプローチしてきます。女学生が好きな男の子に、お前も飲む?とか言われて缶ジュースを差し出されちゃって、ドキドキしながらチョロっと飲んで、どうしよう山下君と間接キッスしちゃった、やだ、私、顔赤くないかな、あーん、ドキドキするよぅみたいな間接さ、そんなのどうでもいい。

でまあ、普段の忙しい時なら「あー、特にないです」と突っぱねるか、暇な時は「油田が買いたくて」とか油田の話を切々とするところなのですが、今日はあくまで裸で攻めてみます。

「あー、そういえば、ちょっとお金が必要になるんですよね、まあ、まだ予定なんですけど」

「ほう」

それを聞いてか、電話の向こうの彼の声がパーッと明るくなりました。これはイケル、貸せる、そう思ったのでしょう。

「失礼ですが、どんなご予定でしょうか?」

だいたい金貸しって以前に調査して分かったんですけど、金を貸す時に使用目的を尋ねてきます。使用用途の事後調査なんかしないくせに質問することに何の意味があるのか知りませんが、とにかく聞いてきます。ここはバシッと、裸のインパクトで攻撃しましょう。

「えっとですね、ちょっと旅行に行こうかと思ってるんですよ」

「ほう、旅行ですか」

「ええ、ちょっと北海道の方に行こうかと思いましてね。裸で」

「なるほど。それでしたら、いくらかまとまった金額をご用意できますが」

え、今、僕、裸で北海道行くっていったよ?凄いこと言ったよ。なのになんでスルーされてるの?なんで裸の部分に触れてくれないの?何で普通に金の話してるん?北海道っていったら飛行機で行くんだよ?裸で搭乗ゲートを闊歩、時計台とかいっちゃうんだよ?ラーメンも食べるよ?

「あーそうですかー、じゃあどうしよっかな、お金もちょっと足りないし・・・裸だし・・・」

本当は「裸ですってー!思いとどまってください!裸で北海道とか無理っすよ!」とか腰と入れ歯が抜けるくらい驚かれると思ったのですが、一流サッカー選手並みのスルーを見せ付けられてしまう体たらく。内心動揺、けれども必死で平静を装い会話を続けます。ついでに、今自分が裸であることもさりげなくアピール、抜かりはありません。

「どれくらいだったら貸してもらえますかねー?僕、裸ですけど」

「そうですね、以前に取引された実績もありますし、50万円までなら融資枠をご用意できますが」

ちょっと無理矢理に裸であることをねじ込みました。借りられる額と裸であることに何の因果関係も見出せませんがとにかく言いました。しかしながら、普通にスルーされて素で50万円とか言われちゃってます。

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はい、ここまでで終わり。

ちなみに、新しい部署は昼休憩に上司を交えてバトミントンをする、というNHKのドラマみたいな訳分からない習慣があるのですが、このあいだやってみたら思いっきりラケットがすっぽ抜けて、上司の喉仏に突き刺さってしまいました。

そろそろクビかなあ。クビになったら裸で街を練り歩こう。


7/18 ウンコカレー

ウンコかカレーかっていったら、やはり断然カレーだ。

世の中は全てが比較の産物で、多くの比較で成り立っている。ある物とある物の差異、圧倒的な優越、劣等。確固たる価値観なんて存在せず、全てが他者と比較した相対的な何かでしかない。

あの人はカッコイイ人なんてのはかっこ悪い人と比較してのことだし、あの人はバカな人、ってのは頭の良い人と比較していかにバカかってことだ。

全てが比較の中で生きている僕らだけど、それでも絶対に比較しちゃいけないものってあると思う。それはさすがに比較するもんじゃないだろーって言わずにはいられない、それがウンコとカレーだ。

この両者は、まず見た目が似ている。どちらも茶色いもので、ドロッとしてたりする。比較する気持ちも分からんでもないけど、よくよく考えなくても食物と排泄物だ。まかり間違っても比較するもんじゃない。

ちょっとした戯言なんかでよく聞くのが、「カレー味のウンコとウンコ味のカレーどっちがいい?」とかいう、お前、頭狂ってるんじゃないのかっていう質問なのだけど、これがよくよく考えるとおかしい。カレー味といえどもウンコはウンコだし、ウンコ味のカレーなんてスカトロ趣味で女王様のウンコ食ってるオッサンくらい知らない。ホント、バカらしい。でもまあ、僕はこの質問を投げつけられたらさんざ迷うだろうけど、間違いなく女神のオッパイ揉む、揉みしだく。それくらいカレーが好き。

ホント、比較するのもバカらしいくらいかけ離れている両者なのだけど、人っていうのは罪深いもので、しばしこの圧倒的違いを途方もなく無茶な言い訳に利用したりする。

小学校の時、身体検査という儀式が厳かに行われる時、男子全員がパンツ姿になって保健室に集結するのだけど、普段ありえないパンツ姿という非日常性から多くのドラマが誕生することになる。

その中でも比較的衝撃的だったのは竹原君で、彼はウンコでも漏らしたのか真っ白いブリーフの後ろ部分をまっ茶色に染め上げていた。職人が染めた京染めの和服みたいに見事にまっ茶色だった。

ウンコなんて小学生にとってダイナマイトワードそのもので、周りの連中は囃し立てた。やれウンコ、それウンコ、ウンコ竹原、ウンコ原思いつく限りの揶揄する言葉が保険室内を駆け巡った。その時、当の竹原君が口にした一言。

「違うよ!朝、カレー食ってきたからそれがついただけ!ウンコじゃないよ!」

どっからどう見ても、いや臭っても、その香りはウンコそのもので苦しい。おまけに朝っぱらからカレーというパワフルな食生活も説得力が薄いし、どこの世界に朝からブリーフ姿でカレーを食う人がいるだろうか、と誰もが疑問に思った。それよりなにより、その茶色い染みはどう見ても内部から染み出しており、その布地の向こうにはとんでもないブツがモコッとしてるのが伺えた。間違いない、それはウンコだ。

どう考えてもウンコをカレーと思わせるのは無茶なのだけど、ブリーフにウンコがついてればウンコマンもしくはベンキマン、カレーがついてれば悪くてもカレクック止まりだ、本人にとっては重大な問題だったのだろう。彼は最後までプンプン臭うそれをカレーだと言い張った。

ウンコとカレー、この両者はかけ離れてはいるものの、こうやって用いられることが多い。これはウンコじゃない、カレーだ。ちゃんちゃらおかしくてまかり通るはずがないのだけど、追い詰められた人間はしばし禁断の果実に手を出してしまう。

しかしながら、やはりカレーの方が圧倒的に上位で貴族階級。ウンコじゃない、カレーだと言われることはあっても逆はあまりありません。そりゃウンコって言ったらウンコですから、やっぱウンコよりもカレーである方が救われる場面があまりに多いですから、これもまあ仕方がないことなんです。

しかしながら、僕は見事にこの逆、つまりこれはカレーじゃないんです、ウンコなんです、と指摘した悲しき場面がありまして、狂ってるとしか思えないんですけど、今日はちょっとその話をしてみたいと思います。どっかで話したような気がするけど、とにかく話してみます。

僕が大学生の頃でした。大学では「製図」という訳の分からない授業があり、週に4時間だったか製図室に篭ってひたすら製図を書くという拷問みたいな授業がありました。

僕は物凄い手先が不器用で、こういった作業が大の苦手。なんか、寸分違わない精度で線を描き、よく分からない部品か何かの設計図を書くことが苦痛でしかありませんでした。

線を描けば定規を使ってるのに曲がる。やべーと消しゴムで消して描き直す。またやべーと描き直す。そのうちその部分が有閑マダムの生殖器みたいに真っ黒になってきちゃって、作業している手がその部分を擦るものだから黒い部分がどんどん広がっていく。結果、設計図と言うよりは何らかの地獄絵図みたいな黒いモヤがかかった絵が出来上がるわけですが、もうそれでも教授に提出するしかないほど下手だったのです。

普通は製図室で作業するのですが、あまり下手だった僕は教授の部屋でマンツーマン指導、という特別待遇だったのですが、この先生が鬼のようにいちいち怖い。学部内でも最も怖いと噂される先生だったのです。なんかヤクザみたいな教授で、目がすげえ怖かった。おまけにホモって噂もあったので、部屋で二人っきりになるのも怖かった。

「もっと丁寧に書かなきゃイカンだろうが」

「ひい!」

大学生にもなってビビリまくっている僕の手は緊張と恐怖で震え、結果、さらに線が曲がってしまうという悪循環。それでもなんとか努力して最低限レベルの製図をこなせるようになったのです。

そして、この「製図」の授業ラストの課題の時がやってきました。確か、玉型弁というテクニカルな部品の製図をするというもので、玉型の名前が表すとおり、直線だけでなく曲線がテクニカルに配置された難易度A級の製図でした。

やっとこさ最低レベル描けるようになったといえども、人一倍時間をかけて描いても尚下手、という惨状だったのですが、なんとか描き終え、鬼の教授にも「よくがんばったな」と優しい言葉をかけてもらったのでした。

しかし、この製図はこれだけでは終わらなかった。ホント、今の製図の世界でこういうのやってるとこってないんですけど、なんか清書というか本番描きというか、インクとペン先を使ってモノホンの製図を描かなければならなかったのです。

まあ、今の段階の製図が、エンピツ描きですから、マンガの下書きだとするとそれにペン入れをして誰に見せても恥ずかしくない正規の設計図を作成せねばならなかったんですね。

トレーシングペーパーとよばれる半透明の紙を下書き製図に貼り付けまして、そこにうっすらと映る線をなぞってインクを入れていく。これがまた下書きとはレベルが違う難しさで、気を抜くとベロベロと線がグシャグシャになるし、ポトッとインクが落ちたりして大惨事になるんですよね。

で、失敗すると一からやり直しという地獄の展開。インク使ってますから、間違えたら訂正とかできなくて、紙自体を貼りなおして最初からやらないといけないんです。修正液とか使えばいいじゃんと思うんですけど、製図に対して神聖な何かを感じている教授は、「製図とは美しくなければいかん、汚れや修正液がついてるのなんて製図じゃねえ」と主張している人でしたから、僕らはそれに従うしかありませんでした。

どうしても不器用な僕は、どんなに一生懸命描いても成功しない。調子が良くて下手ながらも最後の方までペン入れができたとしても、最後の方でミスをして台無しになる。もう嫌になっちゃって、このまま大学辞めてやろうかと考えるまでに思いつめていたのですけど、なんとか頑張ってペン入れにチャレンジし続けたのです。

他の学生は製図の時間だけで描き上げ満面の笑みで提出して帰宅していく、ビバリーヒルズ青春白書みたいなキャンパスライフだったんですが、僕だけいつまでもいつまでも描きあがらず、ホモと噂される鬼のような教授の部屋で夜遅くまで作業するハメに。

「ワシ、もう帰るけど、間に合うのか?提出期限は明日だぞ」

「はい。家に帰って描いてきます」

「そうか、頑張ってこいよ」

僕のためだけに教授も夜遅くまで残って待っててくれて本当にありがたかったのですが、どうしても描け上げることができず、家に持ち帰って作業することに。

家でもね、コタツを製図台に見立てて作業していたんですけど、やっぱり上手に描けないんですよね。何度も失敗して、その度にトレーシングペーパーを破り捨てる。また新しいトレーシングペーパーを貼って描き直して失敗する。もうどれだけ失敗したのかも分からない状態になってイライラはマックスに。最終的には頭の中の何かが弾けたのか気が狂っちゃって、ペンを使って自分の腕にマンコマークとか無数に描いてました。耳なし芳一のマンコバージョンみたいになってた。

しかしですね、自分の中に何かが光臨したのか、もうこれ最後の一回にしよう、これで失敗したら諦めようという気持ちで望んだラストの一回、それを描いてる時、何だか清々しい、妙にコンセントレーションを高めたクオリティの高い状態になったのです。

自分でもこんなに集中できるのかと驚いたのですが、結果、見事に描き上げてしまいましてね、客観的に見ると線とかも汚くて下手なんですけど、自分の中では最高に光り輝いてみえる製図が完成したのです。本当に窓から差し込む朝日が反射して、完成品のトレーシングペーパーが光り輝いて見えた。

なんだってやればできるじゃないか。

ちょっと自分のことが誇らしい気持ちになりましてね、完成したばかりの製図を眺めつつ、そういえばずっと作業に没頭していたから異常に空腹じゃないか、とカレー味のカップヌードルを食べることにしたんです。

こうなってくると皆さんお分かりだと思いますが、自分の成し遂げた功績に満足し、満面の笑みで完成したばかりの製図を眺め、カップヌードルのカレー味を食っておったのですわ。沢山苦労した後のカップヌードルは五臓六腑に染み渡る美味であり、労働の喜びというか努力が報われた喜びというか、これほど美味いカップヌードルもないんじゃないかと思うほどに嬉しかったのです。で、食い終わって、これからちょっと仮眠して朝一に教授に提出してやろう、と製図を見た瞬間ですよ。

ポチッとね、真っ白いトレーシングペーパーの端のほうに茶色いシミがついてやがるんですよ。注意して見ないと分からないレベルなんですけど、確かにカップヌードルカレー味の汁が飛んで、完成したばかりの製図に怒涛の存在感を示してやがるんです。

な、なんだってー!って思いましたよ。そりゃね、製図に関して鬼のように怖い教授ですよ。修正液すら使うことを許さないのに、どう考えても茶色い染みなんて許すはずがない。許されるはずがない。せっかく完成したのに描き直しなのか、と落胆するのも頷ける話です。

けれどもね、思ったのですよ。人間って追い詰められると途端に都合の良い考えばかりが支配的になるものなんですけど、もしかしたら教授はこの染みに気がつかないかもしれない、もしかしたら、気付いたとしても見逃してくれるかもしれない。なにせ、これだけ努力した僕だ、教授の中での好感度も少なからず上がっているに違いない。いける!絶対いける!きっと気付かない。きっと気付いても見逃してくれる。

こうして仮眠を取った僕は、朝一で飛び起きると大学に赴き、カレー付きの完成品を提出したのでした。

教授は笑顔で「おー完成したかー、頑張ったなー、どれどれ見せてみ」とか言ってたのですが、僕の製図を手にした瞬間。表情が一変しました。

「おまえ、これ、飯食いながら描いたのか・・・?」

その声は明らかに怒っていることが丸分かりです。どうやら、彼にとって飯を食いながらの製図なんてのは冒涜以外の何者でもなく、とてもじゃないけど許せない雰囲気がムンムンと感じられました。

「違います!」

僕は声を大にして言いました。

「違うと言ってもここにほら、茶色いシミがついてるじゃないか、これはカレーだろ」

そこにカレーがついてるのは僕が一番良く知っているのですが、教授はご丁寧にルーペまで使って拡大して見せてくれました。

やばい、教授は飯を食いながらの製図にご立腹だ。正確には完成した後についたのだけど、とにかく食物が製図についてることにご立腹だ。どうしたらいい、どうしたらいい。追い詰められた僕はこう言うしかありませんでした。

「それはカレーではありません。ウンコです」

飯を食いながら製図だなんてとんでもない。カップヌードルカレー味なんて食べていない。僕は死にそうな腹痛を抱えながら製図を描き上げた。その際、もう我慢できなくなってウンコをしながら描くしかなかったのだけど、不条理なものでウンコが飛んでそこについてしまった、みたいな線で主張してみたのです。

前述の通り、ウンコをカレーだと言い張る無茶な人はまま見かけます。しかしながら、カレーをウンコと主張した人はそうそういないのではないでしょうか。

「お腹が痛くても頑張って描きました」

もうこれでトドメ、その染みは僕の苦しみの結晶だ!わかってくれよ!と言わんばかりに主張したのですが、

「そうか、これはウンコか・・・」

教授はニッコリと微笑むと。

「なおのこと悪いわ!」

と、ブシャーと僕の目の前で製図をビリビリに破り捨てたのでした。僕はその光景を、「お代官様ー!」という心の叫びと共に見守ることしかできませんでした。必修なのに単位落とした。

カレーかウンコか、本質的には圧倒的な差異がありますが、実はあまり大した違いがあるわけではありません。製図にしても前述の竹原君のブリーフにしても、そこに茶色い染みがあったことに何ら変わりはないのです。

それでもそれが時にはカレーであると主張し、時にはウンコであると主張する。そこにはやはり比較する社会が存在するわけで、これがカレーだった方が比較的マシ、ウンコだったほうが比較的マシだからそう主張するわけなのだ。

高校生だったか中学生時代だったかに、部屋でウンコを漏らし、恥ずかしかったのでそれをそのまま放置していたらカチカチに固まってしまい、それが母親に発見され、すげえ怒られた時に、それはウンコじゃない!カレールーだ!と主張して怒った母親に本気でカレーに入れられかけた思い出も同時に思い出しつつ、仕事で急遽書くことになった製図作業をするのでした。

最近は何でもパソコンで出来るから楽だよね。あれだけ苦しんだ製図もパソコンで簡単に出来るし、驚くほど綺麗に完成する。もうちゃっちゃと描いてプリントアウトもし、完成したので、クライアントに提出する前に今からカレーうどんでも食おうかと思います。


7/10 ようこそヒルズへ

セックスを左クリックとするならば、オナニーは右クリックだ。

ウチの職場は比較的真面目な人が多く、あまり面白くない流れ作業のようなお堅い日々を過ごしているのですが、そういったお堅い雰囲気が重圧となるのか、気に病んでしまう人が多いんですよね。なんていうか、極稀に心を蝕まれてしまう人が多いんです。

まあ、本当に病んでしまって職場に来なくなるようなモノホンの方はシャレにならない部分が多々あるので触れませんけど、もっとこうライトに病んでしまうというか、エキセントリックなベクトルで病んでしまうというか、一言で言うと面白い方向にぶっ壊れてしまう人がいるんですよね。

そういった人はちょっと話をしたりすると分かるんですけど、昨日までムチャクチャ真面目だったりするのに、次の日の朝にはいきなりキチガイになってたりしますからね。オセロの駒のように通常からキチガイに早変わり。人間の心に潜む狂気というか、脆さというか、そういうのがふんだんに味わえる素敵な現象、そう言っても過言ではありません。

いきなり全社員に配信する社内メールで「サムシングエルスがどこにいったのか教えろ!」と何故かキレ気味に送ってきたTさんは、もう目つきが病んでいた。

会議の場で、全く関係ない場面で先月の議題について熱く語りだしたSさんは、皆が言葉を遮っても止めなかった。

定年間近のKさんは、ある日を境に中庭のアリを掘り起こすのが日課になった。雨の日も風の日も。まさに何かに憑かれていた。

Yさんは変な収集癖に火がついてしまい、ペットボトルにおしっこを集めていた。その数は50は超えていたと思う。

そういった、ある種の一線を越えてしまった人々は、暗黙の了解で突然の部屋替えがあり、あるフロアに集められることになる。仕事の効率も、課ごとの縄張りも一切考慮せず、まるで隔離するかのようにとあるフロアの一角にいっちゃった人々が配置されるのだ。結果、その周辺はそういった人々の部屋が軒を連ねる一大デンジャラスゾーンに。

僕はそのゾーンをひっそりと心の中でキチガイヒルズと呼んでるのだけど、これがまた一々面白い。なんというか、ヒルズ族の皆さんは大変興味深くて、話をしていると、まるで考えもしなかった事柄などを平気で大上段から放ってくる。それこそ、熱い気概がビンビンに伝わってくるのだ。こんな熱い人々、普通の職場にはいないぜ。

このヒルズは、新入社員の女の子なんかは、間違っても近づかないようにって感じで非公式で注意喚起されたりして、間違いなく我が職場のスラムなのだけど、とにかくここが居心地がよくてたまらない。

僕は暇を見つけてはキチガイヒルズに赴き、いたずらに時間を消費しては新しい人間の側面に触れている。

Yさんの部屋に遊びに行った時だった。上述のように、Yさんはある時期からトイレに行くのをやめた。飲み干したペットボトルにおしっこをため、誇らしげに棚の上に並べるようになった。それ以外は普通と変わらず、真面目で堅物なYさん、初老の紳士という言葉がピッタリな人だったけど、彼はその行為をやめようとはしなかった。

Yさんの部屋に入り、ズラッと並んだ尿入りのペットボトルが出迎えてくれる。コーヒーやコーラのペットボトルに入れられた尿は、一目で異常だと分かるけど、十六茶とかのペットボトルに入れられると危ない。何の違和感もなくて飲んでしまいそうになる。

「Yさん、この書類をお願いします」

「ああ、君は確か東北の生まれだっけ?」

話が繋がらない。でも、Yさんはいつだって笑顔だ。

「生まれは山陰ですよ」

「ああ、そうかそうか。G君と間違えたよ。彼と君はよく似てるから」

ちなみにG君と僕は微塵も似ていない。僕がピーコとするならば、G君がピーターくらい似ていない。

「ちょっと待ってくれ、いまプリントアウトするから」

何かの書類を見せようとするのか、Yさんは古めかしいパソコンの前に座る。そして、これまた古めかしいプリンタがギーコギーコとプリントアウトを開始し、ヘッダが動くたびにラックが揺れる。

ふと、隣の部屋から大きな声が聞こえる。壁が薄いから少しでも大声を出せば声は筒抜けだ。きっとSさんだろう。

「よし!3つ進む!」

間違いない。隣の部屋では勤務時間中にスゴロク的何かが行われていやがる。とてもじゃないが普通の神経では考えられないことが巻き起こっていやがる。さすがキチガイヒルズ、なんでもありだ。

「セックスを左クリックとするならば、オナニーは右クリックじゃないかな」

ふいにパソコン前のYさんが切り出す。あまりにも突拍子なさ過ぎて何を言ってるんだか分からない。

「はい?」

「いや、このマウスがね、左クリックがセックスで、右クリックがオナニーだと思うんだ」

「はあ・・・」

もはや何を言ってるんだか分からない。どう反応していいのか分からずに困った顔をしていると、またもや何の脈略もなくYさんが喋りだした。

「そういうことってあるだろう」

そういうYさんの顔は凄く寂しそうで、バリバリに仕事をしていた時に取った何らかの賞の賞状がその横で堂々と輝いていた。

「一回休み!」

隣の部屋からそんな声が漏れてくる中、困惑した僕はそのまま部屋を後にした。あまりに逸脱されてしまうと、正直怖かった。何も綺麗事を言わずに言ってしまうと、怖かった。

それからしばらくして、Yさんは一身上の都合で退職した。Yさんはあっという間にいなくなって、誰が片付けたのか知らないけどあの尿ペットボトルも綺麗さっぱりなくなっていた。

ヒルズ族の人が急にいなくなるのは珍しいことではないので、誰も何も気の留めず、特段アナウンスもなかったのだけど、僕はYさんの言葉だけが気になっていた。

「セックスは左クリックでオナニーが右クリック・・・」

考えても考えても分からなかったけど、パソコンを使ってみるとすぐに分かった。

左クリックは、フォルダを開けたり、リンク先に飛んだり、とにかく前進する時に使うボタンだ。いわば積極的なボタン。正当な行為に近い。それをセックスと置き換えると、まさに突いて突いて突きまくる、それがかなり感覚的に近い。たぶん、ダブルクリックは2回セックスすることなんだろう。

それに引き換え、右クリックは違う。まず右クリックだけでは大抵の場合先に進まない。ファイルを右クリックすると、このファイルをどうするか?いかにするかといった選択肢が出てきたりする。その選択肢を選ぶのすら右クリックではままならず、左クリックが必要だ。そう、右クリックではその場から一歩も動けない。前進する左クリックと比べたら随分と消極的だ。きっと、その消極性をオナニーに置き換えたのだろう。

突いて突いてつきまくる前進する左クリック、それがセックス。

その場でウロウロ、先に進まない右クリック、それがオナニー。

Yさんはきっとそう言いたかったのだろう。

そして、それがYさんを揶揄してのことだろうと感じ取ってしまった。バリバリに仕事をしている真っ当な人々がセックスで、左クリックならば、キチガイヒルズに収容されて、その場をウロウロ、先に進まないオナニー、右クリック。たぶんきっと、Yさんは自分で気がついてしまっていたんじゃないだろうか。自分が必要ない存在だということに。

そして、それでさらに気に病んでしまい、Yさんは消えてしまった。まるでオナニーを取り上げられた少年のように、ボタンが一つしかないマッキントッシュのマウスのように、右クリックが消えた。

どうしてあの日、あの時、僕はYさんに右クリックだって大切ですよって言ってあげられなかったんだろう。どうして、オナニーだって最高ですよって言ってあげられなかったんだろう。どちらも必要で、ないと困るじゃないか。そう、Yさんだっていないと困るじゃないか。

僕が仕事でどエラいミスをしてどうしようもなかった時、左クリックの連中は延焼を怖れて近づいてきやしなかった時、Yさんは助けてくれた。いつものあの笑顔で一緒に偉い人に謝ってくれた。あまり気にするなって言ってくれたその後ろには尿が充填されたペットボトルがあったけど、それでも僕は救われた。右クリックのYさんに救われたんだ。

セックスばかりのセックスシティーなんてウンコだし、オナニーがないと生きている意味がない。左クリックだけだって不便で仕方ない。効率よく進むには右クリックを活用しなければいけない。

そりゃあオナニーがなくなったって、右クリックがなくなったって、全ての人が困るわけじゃない。けれども確実に困る人はいる。どうしてもっと、必要ですって言えなかったんだろう。どうして怖いと思ってしまったんだろう。

一人オフィスで右クリックを連打する。デスクトップに表示されたアイコンを何度も右クリックするのだけど、やはり右クリックだけでは先に進めない。それがなんだか妙に悲しくて、Yさんのことを思い出して泣けてきた。

何度目かに右クリックした時、ある発見をしてしまった。デスクトップあのアイコンを右クリックし、表示されるメニュー、確かにそれらは右クリックだけでは反応しないのだけど、「ショートカットを作成する」だけ右クリックでも反応する。右クリックで選んでも、ひっそりとデスクトップにショートカットが作成されるのだ。

なんだ、右クリックだけでも十分先に進むじゃないか。

そりゃあ、左クリックに比べて効率も悪い、ショートカットができるくらいでなんだって思うけど、確かに前に進んでいる。オナニーだって、絶対に少しずつではあるんだけど前に進んでいるんだ。滞留じゃない、微小ながらの前進だ。

きっと、Yさんがずっと右クリックでいたことだって、それが滞留だったわけじゃない。少なくとも僕は救われたし、何よりあの人が好きだった。存在しなくていい存在なんてきっとないんだ。

デスクトップに狂ったように「女子高生ななの大冒険-ちょっとエッチに舐めちゃいました-.mpeg」のショートカットを量産しつつ、Yさんのありがたみを実感するのだった。

それから数日して、Yさんが出て行った空き部屋に引越しすることになった僕。やはりYさんの右クリックは僕というショートカットを生み出せたのだな、と少し尿臭い個室に入って右クリックという名のオナニーをするのだった。

ようこそ!キチガイヒルズへ!


7/8 バグ

いくらなんでもそりゃねーよ、と言いたくなることが多々ある。

エロマンガなんか読んでると良くあるのだけど、登場人物がありえないくらいにエロ過ぎることがある。いくらなんでもそりゃないんじゃないの?って叫びたくなるくらいに酷い、エロい、艶かしい。そりゃあエロがメインテーマのマンガでしょうから、エロを前面に押し出す気持ち分からんでもないんですけど、それはちょっとどうかなって思うことがあるんですよね。

まず、エロマンガに出てくる人はエロいことしか考えてないですからね。自習時間になると即座におセックスを始める高校生とか、患者さんのイチモツが強固になると即座に淫らになるナースとか、ご近所づきあいの延長でお隣さんとおセックスに及んでしまう若妻とか、見てる方は著しく興奮しますが、冷静に考えるとちょっとどうかなって思うんですよね。

ちょっとこの辺のニュアンスは伝わりにくいと思うのですが、それを承知で言わせてもらうと、もしもこれらのエロマンガの如く社会にエロが溢れているならば、もうちょっとこう僕らにも恩恵があってもいいんじゃないって思うんですよね。

つまり、会社でコピーをとっていたら、社内のアイドルユキちゃんが「私のアソコ、コピーしてください」とか頬を赤らめておもむろに脱ぎだすとか、得意先相手にプレゼンをしていたら、相手方のキャリアウーマン風女部長が、「契約が欲しいなら舐めなさい」と言い出すとか、パソコンが壊れたーと総務のマミちゃんに苦情を言いに行ったら、「私もめちゃくちゃに壊して!」と抱きつかれるとか、会社帰りにコンビニに行ったら、奴隷女が裸で買い物をさせられていて、主人と思わしき男性が「こいつは淫らなメス豚です、さ、さ、アナタもかわいがってやってください」とか言い出してコンビニ裏手でアヒィだとかアグウだとか、家に帰ると14人の血の繋がっていない妹がいて「今日は私の番よ」「ずるーい、ミカだってお兄ちゃんとしたいもおん」「おいおい、よせよお兄ちゃんのチンポは一本だぞ!」でズルズルビッチョンとか、まあ、書きだすと際限がないのでこの辺でやめておきますが、とにかく、エロマンガがアリとするならば僕の身の回りにも上記のようなダイナミックなエロがあってもいいんじゃないかって思うんです。

しかし、現実的には上記のようなダイナミックエロのカケラもありえない、エロの臭いすらしないですからね。つくづく現世ってのは厳しくできてるものだと思います。

どこかでも書きましたが、僕らエロマンガファイター、いやマンガ愛好家の全てがそうかもしれませんが、僕らはマンガという一つの作品に対して現実性と非現実性を同時に求める傾向にあります。

どういうことかと言いますと、例えばエロマンガで説明します。エロマンガにおいては、あまりにかけ離れた設定は敬遠されがちになります。上記のダイナミックエロからさらに逸脱し、例えば、僕のチンポが磁石になっちゃったよ!僕のがS極で美女のアソコがN極、何もしなくても引き寄せられるように!とか、触手がウネウネでてきて女子を貫くとか、そんな設定だった場合、一部の人は大変興奮するかもしれませんが多くの人はあまり興奮しません。それはそこにリアリティがないからです。

けれども、リアリティを持たせようと、現実的なエロスを、本当に本当の現実で、毎日オナニーに明け暮れる29歳男性、みたいな絵を延々と、これが現実だ!と言わんばかりに24ページくらい見せ付けられてもつまらない。それこそ興奮のカケラすら発生しないのです。

結局、僕らエロマンガマニアはワガマママな生き物で、現実性がないと醒めるし、かといってあまりに現実だと面白くないという自己矛盾を常に抱えている悲しい生き物なんです。そう、これら両方を満たしてくれる作品なんて決して存在しないのに、日夜それを追い求め、見つかることのない財宝を追い求める探検隊なのです。悲しいよね、僕達って。

結局、あまりに現実味を追い求めてはいけない、あまりに壮大な現実離れを追い求めてもいけない。何事もほどほどにってのが一番幸せに過ごす方法で、たかがマンガなのに人生に通じる何かを見つけてしまったりするんですよね。

それが分かっているのに、あまりに現実も非現実も追い求めてはいけないことは分かっているのに、どうしても許せないことがあるんですよね。分かっていつつもこればかりは許せない。そういう譲れない線って誰だってあると思います。

で、僕が本当に許せないのは、マンガに出てくる、ブンブン虫が飛んでる演出。そりゃ虫だって飛ぶのが仕事みたいなものですからそれ自体はいいんですけど、使われる場面がいかんともしがたいことがあるんですよね。

ほら、マンガではよく、すっげえブスとか、すっごいブサイクの表現として周りに虫が飛んでる描写があるじゃないですか。モローンとブスが出てきて、クサプーンって擬音と共にはハエみたいなのが飛んでる場面、皆さんも一度は見たことあると思います。

こんなね、周りに虫が飛んでる人、見たことない。

確かに、ブスおよびブサイクの表現手段として効果的だと思います。ブサイクに描いた顔を描く以上に、ああ、虫が飛ぶほどに酷いんだなって読者に伝わると思います。でもね、どんなブスであろうと、ブサイクであろうと、虫が飛ぶほどってのはありえない。Yahoo検索でGoogleを検索するくらいありえない。

どうしてもこの表現だけが許せないんですよね。リアリティもクソもあったもんじゃないし、こんなブサイクの表現で非日常を演出しても仕方ない。もうね、憎々しく思いながらそれらの表現を見ておったわけなんですよ。こんなのありえねえって腹を立てながら。しかしですね、そんな考えを改めざるを得ない出来事が先日あったんです。

僕の職場の個室には、開けてはならない禁断の箱があるんです。どうも2年位前の僕が何かを入れた箱らしいんですけど、どうやっても何を入れたのか思い出せない。おまけに「絶対に開けるな」とマジックで書いてあるという非常に謎めいた箱があるんです。

それこそ、パンドラの箱みたいなもので禍々しい物が入ってるであろうことは容易に想像できるのですが、つい先日、どうしても好奇心に勝てなくなっちゃいましてね、一体何が入ってるんだろう、と胸がパチパチする思いをしながら開けてみたんです。

そしたらアンタ、薄々は勘付いていたんですけど、箱を空けた瞬間にムワーッと殺傷能力がありそうな異臭がしましてね。それと同時に小さい虫が無数に飛び立ちやがったんですよ。

もう、うわーって声を上げることしかできなかたんですけど、見ると、箱の中には全く手をつけてない2年前の日付の唐揚げ弁当が入ってやがりましてね。当時の僕が何を思って唐揚げ弁当を箱の中に保存したのか全く分からないんですけど、炭化した唐揚げと、凄い小さい体積に縮みカラフルな色合いに変わったライスが威風堂々と鎮座しておられました。部屋が臭いと前々から思ってたんですけど、こいつが原因だったか。

でまあ、仕事をしつつ、小さな虫がブンブン周りを飛び回ってるんですけど、どう考えても意図的に僕の周りにいるとしか思えないんですよね。もっとこう、コーラの飲みかけだとかゴミとか虫が好きそうな
ものが散乱してるのに、何を思ってか僕の周りをブンブン飛んでやがる。

ハッと思い立って鏡を見てみると、うだつの上がらないサラリーマンみたになってるブサイクな僕に、その周りを飛び回るハエより少し小さな虫たち。これはマンガに出てくるブサイクの表現そのまんまじゃないか!と感動すら覚えてしまったのです。

まさか、あのブサイクの周りに虫が飛ぶという表現技法はリアリティそのものだったとは。一体、ブサイクの何を嗅ぎつけて飛び回るのか知らないけど、とにかく行き過ぎた非日常的演出ではなく、これはリアリティに沿った演出だったのだ。

目からウロコがバリバリ剥げ落ちる気持ちを感じつつ、虫が飛び回る自分の姿をウットリと見ていたのですが、そこにさらなる事件が。

コンコン

僕の仕事場のドアをノックする音が。なんだか来客みたいです。コイツはイカン、まさか虫をバンバン従えた状態で接客するわけにはいかない、と慌てて虫を追い払い、ドアを開けてみるのですが、そこには途方もないブスが立っていました。もうブス、超ブス、歴史的大虐殺みたいなブスが威風堂々とスーツ姿で立っていました。

ほら、たまに何をトチ狂ったのか犬に服着せて得意気な人っているじゃないですか。ああいうのって本当に不自然で、犬ってのはどうやっても服を着るようにできていないわけですから、本来してはいけないことを堂々とやってるわけなんですよね。で、この人は、本来は化粧してはいけないような人が堂々と塗りたくっとるんですわ。なんか元旦の出し物に無理矢理女装させられたタイ人キックボクサーみたいになってんの。

で、このブス、以前からストーカー並みのしつこさで僕にマンションを買わせようと企むマンション販売会社の人みたいなんですが、コイツがとにかくしつこい。僕にマンションを薦める時点で狂気の沙汰としか言いようがないんですけど、

「ローンの支払いも家賃並みの定額です。家賃は払ったらそれまでですけど、ローンの場合はマンションという資産が残りますよ」

とか、家賃の支払いすらままならない僕に向かって35年とか気の遠くなるようなローンを薦めてくるんです。35年っていったらワールドカップが8回は確実にきますからね。そんなの払えるか。

で、電話での勧誘があまりにしつこいものですから、そこまで言うなら一度来てくださいって言ったんですよね。そしたらとんでもないブスを寄越しやがった。もうこれだけで販売会社の誠意ってやつが感じられないっすよ。

すげえ美人を寄越して、契約していただけるなら・・・とパンストを脱ぎ始める販売員。35年ローンを組む代わりに35回突いてやる!アヒイ!とかエロマンガみたいなダイナミックエロな展開が期待できるならまだしも、夜は墓場で運動会、建築中のマンションみたいな顔した販売員ですからね。本当に売る気あるのかと問いたい。

で、なにやらパンフレットとか出してブスが説明しやがるんですけど、建築中のマンションみたいな顔しやがってからに、

「これだけ素晴らしい物件もないですよ!私が住みたいくらいです!」

とか、元気に言いやがるんです。もう許し難い。

僕は僕で、うわーブスだなあって感じでその様子を眺めてたんですけど、ほら、さっきまで僕にたかっていた虫たち、かわいい僕の愉快な仲間達がですね、彼女の周りをブンブンと飛び回ってるんですわ。

おお、ブスに虫がたかっておる、たかっておるわ、と僕もマンショントークそっちのけで大興奮。

で、あまりに虫が彼女の周りをランデブーしてるもんですから

「もちろん、いやっ、最近話題の、いやっ、耐震強度偽造、いやっ、なんてありません、んふっ、専門の業者に、いあっ、検査してもらってますからね、いやっ」

と虫が気になって大変喋りにくい様子。やっぱね、ブスやブサイクには虫がたかるよ。これ、マジで。

あまりにもその光景が面白くて、僕も、「いやー金利がもう少し安ければローンを組むこともやぶさかでもないんですけど」とか興味がないのに言いましたところ、売れると思ったのか彼女も大興奮。

「でしたら、公的な住宅補助を使ってですね!」

みたいなことを大変興奮して言い出したんです。しかし、その瞬間、悲劇が起こったのです。

なにやら、色々な制度を使うと大変お得、みたいなことを建築中のマンションみたいな顔しやがってからに鼻息も荒く説明してくれたんですけど、もちろん、その間中もブスの表現ヨロシクで虫がブンブンと彼女の周りを飛び回っていたんですけど、その瞬間ですよ。

ズボッ!

っとブスの鼻の中に虫が飛び込みやがりましてね。もう、その決定的瞬間を目撃してしまった僕は衝撃やら面白いやらで大変な騒ぎに。ブスもブスで、鼻に虫が入ったことは分かってるようなのですが、まさか客の前で片鼻押さえてフンッ!と出すわけにはいかず、むしろそれをしてくれたらマンションくらい購入していたかもしれませんが、どうするわけもいわず何ともいえないアンニュイな雰囲気をしていました。

結局、早くトイレにでも駆け込んで虫を出したかったのかしりませんけど、セールストークもそこそこに「何かありましたら連絡ください」と言い残して帰っていったブス。名刺を置いていったのですが、建築中のマンションみたいな顔しくさってからに「愛」という大変素晴らしい名前でした。

またもや僕の周りを虫がブンブン飛び回る中、ブサイクの周りに虫が飛び回るのは大変リアリティがあることなのだな、それどころかあまりにブスだと鼻の中に飛び込むんだぜ。少なくとも僕がマンションを購入することよりリアリティがある話だ、と考えを改めるのでした。

日常と非日常の狭間でもがきつつも、どんなダイナミックなエロより、マンションを購入することより、ブスの周りに虫が飛ぶことより、ミサイルが7発飛んできたってことの方がリアリティがあんだから、なんて世の中だ、そう思うのです。


7/5 氷山の一角

北極には巨大な魔物が住むという。人類の叡智は地球を凌駕し、この地球上で人類未踏の地はほとんど存在しなくなった。大きな山の頂も、険しいジャングルの奥もピラミッドの中すらも誰かの手によって暴かれてしまった。多くのロマンある地に人間が足を踏み入れ調査され、もはや、この地球上にロマンは存在しない。その点でだけは未踏の地だらけだった古代の人を少し羨ましく思う。

しかし、調査が行き届いてると言っても、その条件の過酷さからあまり調査が行き届いていない場所もある。それが南極と北極、そして深海などに代表される海域だ。これらは人類が到達したことこそあれど、未知の部分がいくらか多い。

南極、北極、海域、これらはしばしオカルト時な逸話の拠り所に用いられる。バミューダトライアングル、深海に住む恐竜の生き残り、南極でヒトラーが生きている、地球は空洞で南極に巨大な穴があってそこに通じている、FC版けっきょく南極大冒険で光る魚を取るとタケコプターみたいなのが一定時間使えて楽に進むことができるが、黄金に光る魚を取るとペンギンがパワーアップし、ロケット砲弾を撃てるようになる、などなど、これらは全てオカルトで、実在することは証明されていない。しかしながら、これらの領域にわずかに残されたロマンを人々が追い求めた結果がオカルト的逸話として残ってるのではないか。

そんなロマン溢れる南極と北極について考えてみると、氷山の謎にぶちあたる。どこか適当に検索して南極と北極の氷山画像を見てみると分かると思うが、この二つには明確な違いがある。

サルでも分かると思うが、南極の氷山は平らで、北極の氷山は尖っている。この原因として、南極には陸地があるが北極にはなく、地熱の関係で南極の氷山は一度溶けるため平らになるといったロマンもクソもない説を唱えるバカモノがいるが、そんなものはヘソで茶が沸くほど荒唐無稽な理論だ。

では、なぜ北極の氷山は尖って山々のようになっているのか。これは現代の科学では未知の生物、魔物の仕業であると断言できる。むしろ、そう理論付けることしかできない。

北極点から程近いノルウェー領スヴァールバル諸島には氷点下30度になろうという厳しい環境の中、約3000人の島民が生活している。彼らは厳しい生活の中において一様にある生物の存在を信じ、その生物を「Kamisha mekuna(現地語で偉大なる白き巨馬)」と呼んでいるという。

この巨大なる白き巨馬は神の使いと考えられ、厳しい環境で過ごす彼らの心の拠り所となっているのだ。そしてまた、同時に恐怖の対象でさえある。

島から見えるオーロラは、神の使いが現れる前触れと言われているし、夏になると訪れる白夜は神馬が神の使いから魔物に変わる時期と考えられ、全ての島民は家から一歩も出ないという。

その姿はまさに巨大な馬で、勇壮な馬体は輝くほど白く、頭頂部に鋭利な角を持つとされている。おそらく、中世ヨーロッパの絵画でたびたび散見される一角獣の原型となったものだろう。

島にはこんな言い伝えがある。はるか昔、天から落ちてきた巨大な神馬には巨大な角があった。神馬は天を翔け、その軌跡にはオーロラが残された。死の病と呼ばれる悪魔の使い(一説によると黒死病でないかといわれている)が猛威を振るい民を苦しめる中、神馬はその身と引き換えに病の伝染を食い止めた。その時、悪魔と同化した巨大な神馬はノルウェーにあるスカンジナビア半島となった。神馬は悪魔の病と一体化し、自身を半島に封じ込めることで人々を救ったのだ。現代でもこの半島は巨大な一角獣のように見える。

島民たちは恐れた。悪魔の病を封じ込めた神馬と言えども、その力は巨大であり完全に封殺することは出来なかったのだ。北極海を漂う死の病を神馬は最後の力を振り絞って封印した。そして、二度と暴れることがないよう、氷山の中に無数の分身を閉じ込めたのである。

こうして、氷山中には死の病と一体化した神馬の分身が無数に存在すると考えられ、鋭利に尖った氷山は一角獣の角であると考えられるようになった。角があるから北極圏の氷山は尖っており、南極のものは平らなのだ。

そして、夏になって白夜の時期がやってくると、夜でも街は仄明るくなる。特殊で特別な太陽の光は病と一体化した神馬の力を弱め、死の病を氷山から放出させると考えられている。つまり、長い間太陽が照ることによって氷山の力が弱まるのだ。だから、この島の島民は白夜になると一歩も家から出ようとしないのだ。白き夜には死の病がやってくる、と現地に伝えられている童話にも残されている。

こうして、古くからのスヴァールバル諸島島民は氷山に神と悪魔が同時に存在すると考え、その先端部分に神々の輝きと悪魔の囁きを感じ取る。時には崇めたてまつり、時には畏怖する。氷山と共に暮らす彼らは、大自然の恩恵を受けて生活しつつ、尖った氷山を眺めているのだ。彼らがことあるごとに口にするKamisha mekuna meha toha(神馬と共に立ち尽くす神であろうと悪魔であろうと受け入れるしかないのだ)という言葉と共に・・・。全部ウソです。

いやあ、のっけからこんなに長くに渡って適当なことを書いていると自分でも清々として逆に誇らしい気分になってくるのですが、実はこれ、お気づきかもしれませんが「氷山の一角」という言葉から悶々と考えてみたんですよね。

「氷山の一角」ってのは、表面に見えてるものは全体の一部分に過ぎないって意味合いの言葉で、これは上の妄想の中にもあるように北極圏の尖った氷山は海に浮いている状態で、浮力の関係で海面上に浮かんでるのはほんの一部分、海中には何倍も巨大な部分が潜んでいるってところからきているんですけど、幼少時代に親父からこの言葉を言われた時、勇ましく角の生えた氷の塊しか想像できなかったんですよね。

実は、なぜだか知らないけど「氷山の一角」って言葉は悪事や好ましくない出来事にしか使われず、悪い意味の言葉だったりするんです。「役人の天下りなど氷山の一角だ」「この不祥事は氷山の一角だ、背後にはもっと巨大な闇が」みたいな使われ方しかしない。募金をしている青年がいて、「なんて素敵な青年だ!」とか言ったら、横から無関係なオバちゃんが出てきて、「あんなの氷山の一角よ、本当は老人に席を譲ったりとか凄いんだから」とか使ったりしない。つまり、幼少時代に「氷山の一角」って投げつけられた僕はもちろん悪い意味なわけで、全身を焼き尽くす灼熱の説教中に容赦なく叩きつけられたこ言葉なわけなんです。

たしか、あの時は無性に暑い日だった。ウチにはクーラーなんてブルジョワジーな物は存在しなく、茹だるような暑さの中、悶々と過ごしていた。たしか、夕方近くでスチュワーデス物語の再放送をしていたように思う。

ウチにはガチで電化製品が少なくて、オンボロの洗濯機と冷蔵庫、死にかけた扇風機と茶色いテレビ、あとオヤジが騙されて買ってローンに苦しんだカラオケセットくらいしか存在しなかったと思う。

死ぬほどの暑さに苦しんでいると、母親が昼飯だったか夕飯だったか知らないけど熱々のウドンを運んできやがったんです。殺す気かとも思ったのだけど、「暑い時は暑いものがいいのよ、厚くて食欲ないときにウドンがいいっていうし」とか、みのもんたみたいなことを言いやがるので我慢して食べることにしたんです。

案の定、半分ボケて即身仏みたいになってた爺さんは、熱々うどんの攻撃力に耐えられるはずもなく、そののまま死ぬんじゃないかっていうのを通り越してボロッと魂が出てくるんじゃなかろうかというくらいにむせていたし、弟なんて気が狂ったのか麺を水につけて食べていた。

そうこうしていると、用事があったのか母親は悪魔のウドンだけを残して出かけてしまった。案の定、爺さんは未だむせていて死にそうだし弟は暑さに頭をやられて猫にウドンを食わせようと必死になっている始末。おまけにさらに気温が上がったんじゃないかと思うほどに暑い。こいつらの体温すら暑い、爺さんが死んで弟も狂い死にしたら少しは涼しくなるんじゃないか、と思いつめるほどに苦しんでいた。

すると、いよいよ本格的に脳の重要な部分がやられたのか、弟が突然

「ウレイヒョー!」

とか叫びだして台所へと駆けていった。

いよいよ狂ったか!と思ったものの、気が触れた弟が包丁片手に家族を惨殺!父母不在の家庭で何が!?祖父は即身仏のように座ったまま絶命!兄は全身50箇所めった刺し!とかになったら本気で嫌なので駆けていった弟の後を追うことに。

台所に到着すると、弟は冷蔵庫の前に棒立ち状態でした。まあ、暑さにやられた彼が何をしようがあまり驚かない自信があったのですが、ここからの彼の行動には尻子玉が抜けるほど驚いた。

なんかね、彼、冷蔵庫上部にあった冷凍庫の扉をおもむろに開けるとですね、その冷凍庫にズドンと頭部を突っ込みやがったんですよ。うちの冷蔵庫なんて貧乏ですから、親父が作った怪しげな漬物くらいしか入ってなかったんですけど、冷凍庫はさらに何もない状態。氷があるだけでしたから頭を突っ込むには最適だったんですよね。

「すごい!死ぬほど涼しい!」

弟の叫びは冷凍庫内に反響しました。こちらから見てると、身長が届かないため台所にあった丸椅子に上り、冷凍庫にガボッと頭を突っ込んでいて大変マヌケな姿なのですが、彼の首筋を伝って溢れてくる冷気が大変涼しそうです。

「おい、ちょっと変われよ」

こちらにも冷気が漏れてきて、大変涼しいであろう事が伺えます。もう我慢できなかった僕は変わるように促しました。

「やだ、俺が発見した方法だもん」

夏の暑さというのは、普段は従順な弟をここまで反抗的に変えてしまうものなのだろうか。まさか弟がこんな生意気なことを言うだなんて。

あまりに腹が立った僕は、弟を無理矢理どかし、自分が丸椅子の上に上がりました。そして、まるでナイアガラのように冷気が溢れてきている冷凍庫に頭を突っ込みます。

す、涼しい・・・!

別世界でした。人間の科学力はここまでの涼しさを再現できるのか、そう思いました。この冷凍庫内には神が住んでおる。若干、冷蔵庫特有の嫌な臭いがするものの、涼しさは天下一品。痛いくらいに涼しいです。ああ、許されるならばずっとこうしていたい。ずっとずっと、家全体が、いや町全体が冷凍庫になればいいのに。

「はやくかわれよ、俺が発見したんだぞ」

人が涼しさに浸っているというのに、弟は後ろから服の裾を引っ張ります。いつからこんなナマイキ盛りになっったのか知りませんが、先に発見したのは彼だという負い目もあります。それよりなにより、冷凍庫争奪戦で喧嘩すること自体が暑苦しいので、ここは渋々交代することにします。

「涼しい!涼しい!涼しい!」

兄より優位に立ったことからの興奮でしょうか。それとも冷凍庫内で声が反響してるためかいつもより弟のテンションが高いような気がします。テンションが高くてムカつくやら、暑くてムカつくやら、良く分からない感情が僕の中で湧き上がってきて、何を思ったのか、僕は弟のズボンをズリ下ろしてました。

丁度この時、僕ら兄弟の中では、相手のズボンをズリ下ろすという遊びが大ブレイクしており、TPOを選ばずにズリ下ろしまくっていたのですが、暑さで忘れていたこの遊びを今この場で出してしまったのです。おそらく、ちょっとした嫉妬心があったのだと思います。

しかも、怒りのあまり勢いが良すぎたのか、ペローンと弟のブリーフまでずり下ろしてしまい、カワイイお尻が丸見え状態に。普段なら、焦ってズボンを上げ「なにすんだよー」みたいになるのがこの遊びの醍醐味なのですが、弟は不動。微動だにしやがらない。1ミリだって動かずにお尻丸出しで冷凍庫に頭突っ込んで「涼しいー」といか言ってやがるんです。

もう頭にきちゃいましてね。冷凍庫涼法を先に発見された悔しさもあったでしょう、彼がナマイキ盛りだった怒りもあったでしょう、でも、それよりなのより、ブリーフまでズリ下げたのに微動だにしやがらない弟に対して頭にきちゃいましてね、もうどうにでもなれって感じで弟が乗っていた丸椅子を蹴ってやったんです。

ガゴーン

と蹴りましたよ。冷凍庫まで届かないために彼が乗っていた丸椅子。ちゃっちい椅子でしたから、思いっきり蹴ったらダルマ落としのようにスポーンと飛んでいきましたよ。

これで、弟も椅子から転落。少しばかり痛い思いはするだろうし、もう冷凍庫に頭を突っ込むことも出来ない、一石二鳥だぜククククとか思っていたら、なんと、弟のヤロウ、セミみたいに冷蔵庫にしがみついてまだ頭を突っ込んでるではないですか。

根性がなかった弟。彼は辛いことからいつだって逃げ出していた。サマーキャンプで腕立て伏せ100回を命じられた時、彼はキャンプ場から脱走した。それほどまでに彼は目の前の辛い現実から逃げ出す傾向があり、僕は兄としてそれが心配だった。世の中にはサマーキャンプの腕立てより辛いことなんて山ほどある。辛くて逃げたくて、泣き出してくなることなんて山ほどある。それに直面した時、きっと僕は弟を助けられないだろう。究極的には人間は一人だ。誰かを頼ることも、誰かに助けてもらうこともありえない。もしあるとするならば、それは破格に幸運な時だけだろう。誰かと利害関係が一致した時だけだろう。基本的に誰も力にはなってくれないし、誰も助けてはくれない。そうなった時、弟は荒波の中を一人で泳いでいけるだろうか。僕は兄としてそれが心配だった。すぐに辛いことから逃げ出してしまう彼が心配だった。けれど今はどうだ、彼は逃げ出さず、それでもしがみついて冷凍庫に頭を突っ込んでいる。お尻丸出しで、皮を被ったちんこをブラブラさせながら、それでも必死に冷蔵庫にしがみついている。この根性があるなら、きっと大丈夫だ、いつだってどこだって、彼はちゃんとやっていけるさ。兄として、彼の成長を喜ぶ反面、僕はもうあの弱々しい弟じゃないんだな、と少し寂しい気持ちになるのでした。なんて言ってる場合ではありません。

弟が必死に冷蔵庫にしがみつくものですから、あまり大きくなかった冷蔵庫がその重みに耐えられなくなり、グラグラとしています。このままでは冷蔵庫は倒れ、弟はグシャッとなることでしょう。

「おい、はやく離れろ、冷蔵庫が倒れる!」

僕は必死で冷蔵庫を支えます。

「やだ!」

お尻丸出しの弟は頑なに拒否します。何が彼をそこまで頑なにするのか。弟も強くなったものだ。その頑固さは誰に似たんだろうな・・・。フフ・・・。とか言ってる場合ではありません。

結局、グラグラする冷蔵庫に下半身丸出しでしがみつき頭を突っ込む弟と、必死になって冷蔵庫を支える僕という途方もなくシュールな絵図が出来上がっており、そこを帰宅してきた親父に見つかって御用となりました。そりゃ、家に帰った時に息子が尻丸出しで冷凍庫に頭突っ込んでぶら下がってたら誰だって驚くよ。

説教の方は、冷蔵庫で遊ぶとは何事かから始まり、弟が尻丸出しでセミのような状態になった経緯の説明。急に弟が暑い暑いとズボンを脱ぎだし、冷蔵庫にしがみついたという僕の主張も、弟の証言により却下されました。

「冷蔵庫で遊ぶな!」

「弟を虐めるな!」

「だいたい、お前は悪さが過ぎる。今回の事だって氷山の一角じゃないか!」

ガツーンときましたね。「氷山の一角」って言葉の意味が全然分からず、こんな難しい言葉を使うなんて親父って賢者?とも思ったのですが、それよりなにより、当時アニメに出ていた一角獣的なことを連想してしまった僕は、氷山の一角を何かカッコイイものと勘違いしてしまい、氷山で作った一角獣のオブジェ、ムチャクチャかっこいい、とたまにテレビに出てくる氷の像みたいなのを連想して一人で感動していました。

で、説教も終わり、説教中は主に氷で作った一角獣の像のことが気になって気になって仕方なくなり、説教が終わるとすぐに冷凍庫に走ったのです。

僕も氷で一角獣を作りたい。どれほどカッコイイのか見てみたい。

冷凍庫の中って、何か霜のようなものが壁に張り付いているじゃないですか。しばらくほっとくと大変増殖しているあの霜ですよ。あれをガリガリと剥ぎ取ってですね、それを固めて像を作ってやろうと思ったんです。

で、マイナスドライバーでガリガリガリ。親父もその光景を見て、「怒られて反省して霜取りの手伝いをしてるんだな」と満面のご機嫌な様子でした。

でまあ、もちろん、良く分からないですけどマイナスドライバーで霜を取っていたら、冷蔵庫内部の冷媒みたいなのを突き破ってしまったらしく、我が家の数少ない電化製品である冷蔵庫は天に召され、「お前はどうしてそうなんだ」という半泣きな親父の熱烈説教を受けるのでした。「いや、氷の像が作りたくて」というと、親父がポカーンと半即身仏の爺さんみたいになってました。

あれから十と数年、部屋にクーラーを手に入れた僕は幾ばくか豊かになりました。当たり前すぎて忘れがちだけど、暑い日にクーラーがあるというのは有難いことです。暑いのに涼しい、その技術力と経済力は賞賛に値する思います。恥ずかしながら、僕は昨年モンゴルの灼熱の砂漠において死にかけるまでその恩恵に気付けませんでした。

こんなものは氷山の一角で、僕らは当たり前に存在するものが当たり前すぎてその存在のありがたさに気付けなくなっているように思います。物でも人でもいい、きっと、あなたにとって大切な何かがあるはずです。それに感謝する気持ちを忘れず、また、あなたが誰かにとって恩恵となる存在になれたらいいのではないでしょうか。

クーラーに感謝する気持ちを忘れないよう、僕はクーラーを止め、幼きあの日のように冷凍庫に頭を突っ込んでやろうと冷蔵庫に向かいました。そして驚愕の事実に直面してしまったのです。

冷凍庫全部が霜で何も突っ込めない!

画像ではちょっと分かりにくいかも知れませんが、あまりに放置しすぎたため、冷凍庫全部が霜の塊。氷山みたいになってました。これじゃあ頭を突っ込めない。亀頭くらいなら突っ込めて別の意味で気持ちいいかもしれませんがやめておきました。

氷山のようになった冷凍庫の霜をみつつ、やはり氷山の中には魔物が住んでるぜ、と呟くしかありませんでした。Kamisha mekuna meha toha


6/26 10年選手

全くないと言ったら嘘になるけど、少しだけ感慨深い気持ちになった。

2006年、ワールドカップドイツ大会、日本−クロアチア戦を観よとテレビの前に陣取り、少しだけ物思いに耽ってみた。4年に一度やってくるワールドカップってのは、過去を回想するキッカケとしては最適で、4年前の日韓大会の時はこうだった、8年前のフランス大会の時はこうだった、と記憶を掘り起こしやすいのだ。ちょうど昔流行した曲みたいなものだ。

4年前の日韓大会の時、僕はこのNumeriを開設していてインターネットに明け暮れていた。8年前のフランス大会、Numeriこそは開設していなかったものの、エロ画像のダウンロードとか目を血走らせてインターネットに明け暮れていた。どう思い返してみてもインターネットばかりでガッカリするのだけれど、どういうわけかその前のアメリカ大会のことは思い出せない。

それもそのはずで、僕がインターネットを始めたのはたしか1996年くらい、そう、今からちょうど10年くらい前のことだったのだ。8年前のワールドカップまでは思い出せるが、12年前は思い出せない。その理由がインターネットをやっていたかどうかだとは、なんとも情けない。

奇しくも、自分がインターネット10年選手であることに気がついてしまった僕。まさか10年もパソコンの前に座ってるとは。それに伴ってこの10年、様々な出来事があったことを思い返していた。

世間一般における「10年選手」という言葉は、10年間使い込まれた古い物、けれども愛着があって味がある物という意味合いで使われることが多い。手放せない相棒、みたいなニュアンスで使う言葉でもある。それと同じで、僕にとってのインターネットも長い間使ったもので古めかしさすら感じるものの、味があって愛着がある。そんなものだ。思えば色々なことがあったものだ。

10年前の1996年。前年に発売されたWindows95フィーバーが落ち着き、世間ではインターネットに対する注目が高まっていた。当時、パソコン通信大手NIFTY-SERVE経由でインターネットに接続した僕は、初めて体感するインターネットの大海原に大興奮していた。光ファイバーもADSLも存在しない、アナログモデム18.8Kで大航海だ。

右も左も分からず、様々なサイトを閲覧。今より面白いサイトってのは格段に少なかった、そもそも個人サイトなんてほとんど存在せず、公的機関のサイトを中心に観て周っていた。っていうか海外のエロいサイトに夢中だった。

しばらくして、これまた当時話題だった新世紀エヴァンゲリオンというアニメのファンサイトに行き着く。そこにはファンが集うチャットルームやら掲示板があったのだけど、右も左も分からなかった僕はその掲示板とチャットで暴れまくった。ネットのマナーなんて知らず、よくわかんないけどとにかく大暴れした。しかも学校のパソコンから。

見事に掲示板荒らし、チャット荒らしと認定された僕は、ページ管理者から学校に通報が行き、晴れて停学になったのだけど、これはまた別の話。停学中に変に気を利かした母親がエロ本と月間ジャンプを買ってきたのも良い思いで、今思い返せば味があって愛着のある僕にとっての10年選手インターネット、それを代表する事件だ。

それからしばらくして、どうしても忘れられない事件が起きた。

停学事件からはしばらく大人しくしていて、またエロ画像の収集に精を出して、そいでもって別の精も出していたのだけど、ある時、たまたま見つけたチャットルームに出入りするようになった。いや、正確には出入りせず、チャットルームに入室しない状態で流れるログだけを読んでいた。

チャットルームには何人かの常連がいて、夜の11時、当時主流だったテレホーダイの時間ともなるとワラワラと集まっていた。僕もチャットに入って楽しく談笑したかったのだけど、トゥーシャイシャイボーイだった僕は血気盛んに突入することなどできず、入室しなくても閲覧できるログだけをジッと読み、まるで自分も仲間になったような錯覚に酔いしれていた。

そんな折、僕はある一人のチャットメンバーの女性に恋をした。いや、恋と呼ぶにはお粗末な、それこそネット上でしか知らない、しかもネット上ですら触れ合ったことがない、ただ僕が一歩的にログを読んでいるだけの間柄だったのだけど、とにかく一人の女性のことが気になり始めた。

彼女は「なな」という名前で、チャットログによると本名だと言っていた。お姉さん肌で、あまり細かいことを気にしない豪放な正確、それでいて気配りができる繊細な一面も持っていることがログから読み取れた。

この頃のインターネット世界の男女比率なんて今以上に狂っていて、山間部の工業高校みたいなことになっていた。当然、数少ない女にワラワラと男が群がり、骨肉の争いが水面下でバシバシと行われているのがアリアリと分かるのだけど、彼女は実に見事にそれらをあしらっていた。

気になる。どうしても気になる。彼女のことが気になる。どうしてこんなに気になるんだろう。

答えは簡単だった。やはり僕は彼女に恋をしていた。それに気付いたのと同時に、やはりログを眺めているだけでなく、実際にチャットに入室して彼女と会話を交わそう、たぶん相手にされないだろうけど、何か行動を起こそう。自分で思い出して切なくなるくらいに決死の決意だった。

そして、またテレホタイム、どこからともなく常連たちがチャットに集まりだした。もちろん彼女の姿もある。「入室者:なな」の表示が神々しく輝いているように見える。いつものようにそのログを眺めていたのだけど、今日の僕は違う。ここで絶好のタイミングを見計らって颯爽と入室し、軽妙なトークとエレガンスなユーモアで彼女の心を鷲掴みにするのさ。僕は今か今かと入室のタイミングを窺った。

なな:最近、退屈なんだよね。暇っていうか

彼女がそう発言した。このタイミングだ!このタイミングで颯爽と入室し、彼女の乾いた人生に潤いを与える、それこそが神が僕に与えたもうた指名だ。僕は入室ボタンを連打した。

しかしながら、入室ボタンを連打したものの、パソコンが古かったのかスペックが低かったのか、ハードディスクがガリガリいっていてなかなか入室画面が現れない。早く発言させろ!彼女にアプローチさせろ!僕の心だけは非常に騒がしく焦っていた。早く発言しなければならない、発言しなければならない。

やっとこさ入室処理が完了したらしく、ムリムリとチャット画面が表示され、ログにも「patoさんが入室しました」と表示された。

今だ!光の速さで発言しなければならない!

まだそんなにキーボードを打つのに慣れていなかった僕も、鬼のような速度で文字を入力した。打ち込んだ言葉は、軽やかで堅苦しくなく、それでいて彼女を含む常連さんに嫌悪感を抱かせない言葉にすることにした。

「よろしくー!」

このように軽やかに言っておけば、相手も固くならず、それでいてスムーズに打ち解けられると思った。この文字を急いで打ってEnterキーを押し、発言したのだけど、ここで戦後最大の悲劇が。

あまりに急いで打ち込んだ「よろしくー!」の文字。しかしながら、ネット回線が悪かったのか、パソコンが古かったのか知らないけど、打ちこんでいる時、まだパソコンはガリガリいっていて忙しく処理中だった。

処理中なのに急いで打ったものだから、「よろしくー!」の前半部分が受け付けられず、後半部分を打ち込んだ状態で発言をしてしまったのだ。

いやいや、これが何で不幸なの?とか思う人は落ち着いて考えて欲しい。もう一度冷静になって考えてみて欲しい。僕が打ち込もうとした「よろしくー!」という軽妙な挨拶、これをローマ字入力しているわけだから、打ち込んだ文字は「yoroshiku-!」になるわけだ。しかしながら、パソコンがビジー状態で前半部分、具体的には「yorosh」までが受け付けられてない状態に。結果、「iku-!」だけが受け付けられて発言できてしまい。

pato:いくー!

とだけ発言が。

いやね、何を興奮しとるんですかって話ですよ。初めて入室したチャット、恋する人がいるチャット、物凄い勢いで入室したチャット、そこで最初の発言が「いくー!」ですよ。まるでオナニーしながら入ってきたみたいじゃないですか。しかもいきかけだし。どこのエロキチガイですか、僕は。

中学生の時に、山下君の部屋に勝手に上がって部屋に隠れていたら、山下君が何故かオナニーしながら部屋に入ってきて、僕らは押入れの中から出るに出られない思いをし、それよりなにより、なんで彼は歩きながらオナニーなんだろう、と悩みぬいた「オナニー持ち込み事件」、それを髣髴とさせる事件ですよ、これは。

もちろん、チャットの方はいきなりオナニー戦士みたいなのが「いくー!」とか言いながら入ってきたものですから、沈黙、凍りついた文字たちだけがいつまでもいつまでも表示されていました。

あまりの恥ずかしさにいたたまれなくなった僕は、そっとブラウザを閉じ、「この恋終わったな」そう呟いたのでした。

とまあ、インターネット10年選手になった僕は、今思い出しても恥ずかしくて布団の中で意味不明に叫ばずにはいられないエピソードが蘇ったのだけど、そんな恥ずかしすぎる思い出すら、やはり10年という歳月を考えると味があるし趣き深い。愛着すら湧いてくる。

そんな感慨に耽りつつ日本−クロアチア戦を観ていると、いよいよ試合が始まるらしく両国の選手が入場してきた。

いつも思うのだけど、なんでサッカーは入場時にジャリガキの手を引っ張って入場してくるのか。サントスなんて食い詰めた誘拐犯にしか見えないじゃないか。

そんな少年達を見ながらふと思い立って、僕は小学生チャットルームを探してみた。僕はもうインターネット10年選手だけど、始めたのは大人と言える年代になってからのことだ。一体、子供達がインターネットを手に入れたらどう使っているんだろうか。それが気になり、サッカー観戦もそこそこに小学生が集うチャットルームを探したのだ。

何人か小学生が集って会話しているチャットルームを見つけたので颯爽と入場、小学生と対話しようと試みると、何歳だよみたいな会話になり、僕が正直に「29歳」と答えたら

ゆうき:オッサンが来るなよ、ここは小学生が来る場所だろ

しょう:帰れよ!ロリコン!

みたいな罵声を浴びせかけられてしまい、なんなんだ、最近の小学生は!?僕が小学生の頃なんてバッタ捕ってたぞ!何もしてないのでなんで攻撃的なんだ、と驚くと同時に、無性にムカついてしまい。

pato:このジャリガキどもがー!

pato:俺はインターネット10年選手だぞ!

pato:テメーら何年だよ?3年!?けっ、俺がネット始めた時、テメーら精子じゃねえか!精子!

pato:いくー!

とか大暴れしてました。小3相手に本気でキレる今年30になる男。ムチャクチャカッコ悪かったと思います。本気でかっこ悪かった。

結局、その中のリーダー格っぽい「YOSHI」という小学生がチャット荒らしとして僕を通報したらしく、そのうち管理者とかから怒られると思いますが、まあ、それはそれ、これはこれ。

インターネット10年選手となり、10年間で何も成長していない自分に呆れつつサッカー観戦を続けると、ゴールキーパー川口が絶体絶命の
PKを止めてました。

彼もまた、日本代表初選出がほぼ10年前の代表10年選手。やはり味があっていいじゃないかと納得し、サッカー観戦を続けるのでした。

ありがとうインターネット。20年選手を目指します。


6/15 トンボ

沢山のトンボが飛んでいた。中には交尾してるのもいた。

区画整理で生まれた新しい道路はこんな田舎町には不釣合いなほどに綺麗で大きくて、プンプンに匂うアスファルトの匂いと真っすぐに伸びる真新しい白線がなんとも印象的だった。

こんな誰も通らないような場所に立派な道路がついたことに、少年ながら泥臭い利権の匂いを感じずにはいられなかった僕だけれども、それでも新しい道路が大好きだったので、学校帰り、いつもより遠回りしてその道路を歩いてみた。

新しい道路は新しい景色を見せてくれるもので、普段見ない景色が流れていく。きっと、同じものを見ているのだろうけど、見る角度が変わればまた違った物に見えるのだ。

進んでいくと、小さな野原が見えた。小高い丘があり、背の高い植物が多い茂った野原。そこにはトンボが沢山飛んでいて、右へ左へ、せわしなく行き交っていた。その光景がなんとも印象的で、子供心に焼きついて離れない思い出の1ページになってしまった。

ちょうど学校で「トンボの一生」なる授業があり、幼虫から成虫を経て交尾、産卵、そこまでに至る生涯の短さに衝撃を覚えた後だったためか、トンボを見ながら感慨深い感傷的でおセンチな気分に浸ってしまったのだ。

このトンボたちの一生はそう長くはない。こうして飛びまわれるようになるまでに長い期間を要したというのに、あっけなくその一生を閉じてしまう。人間界においては一部の聖闘士が童貞という高いポテンシャルのまま死んでいくこともあるから、交尾を経て死ねるトンボはまだ幸せだ、などと思うのだけど、やはりその生涯は短すぎると言わざるを得ない。

こんなに元気に飛び交っている大量のトンボたち。彼らは本当に幸せなのだろうか。どうして何も疑問に思わないのだろうか。トンボ的にはそれで満足なのだろうか。いやいや、それは長さの問題ではない。無為に長い人生を過ごすくらいなら、花火のように短くても充実したものの方が良いのではないか。

僕はトンボで言えばまだ幼虫だろう。これから大人になって成虫になった時、満足に飛びまわれるだろうか。何の疑問も持たず、元気一杯に飛びまわれるだろうか。

真新しい道路にトンボが飛び交う野原、その境界に佇み人生について考える小学生な僕。傍目にはかなりシュールな光景だったのだろうけど、今でもトンボを見るたびに思い出すほど鮮明に焼きついている光景だ。

成虫になったらトンボのように何の疑問も持たずに飛び回る。そして、その生涯が短く終わろうとも精一杯生きる。きっと、大人になったらバリバリのビジネスマンになってバリバリに仕事しまくると思い描いていたのだろう。何の疑問も持たず、トンボのように飛びまくる。とにかく働いて働いて働きまくるやり手ビジネスマン。そうなるんだろうって幼心ながら漠然と思い描いていたのだろう、それが今やどうだ。

もう仕事なんてマトモにやったのはいつだったか思い出せないほどぬるま湯に浸った毎日。仕事場に行くは行くのだけど、ボケ老人のようにノホホンと過ごすウィークデイ。幼き日に思い描いたトンボとは程遠い、昆虫の死骸のような毎日だ。

その日も、まるで仕事をやる気がせず、死に行く前のトンボのようにボケーッとデスクに座っていたところ、6月だというのに無性に暑かった。あまりに暑いので今シーズン初のクーラーを投入しようと電源を入れたその刹那、悲劇は起こった。

ブフオオオオワアア

とてもクーラーとは思えない、何らかの悪魔の断末魔みたいな音を出して天へと召されたクーラー。ありがとう、今まで君がいたから暑い夏でも余裕で職場昼寝ができたよ。君の事は忘れない。

そんなこんなで、別に仕事しないので能率とか全く関係ないのですが、暑くて暑くてどうしようもないので窓を開けてボーっとすることに。今まで閉塞的な締め切った個室で仕事をしていたのですが、少し窓を開けるだけで開放感が違う。なにやら気持ちよすぎて、少しでも仕事しようかなって気持ちになってくるから不思議だ。

なんだなんだ、窓を開けるだけで開放的じゃないか。気分はラテンだな!と訳の分からないことを呟きつつ、引き続きボーっとしながら壊れたクーラーをどうするべきか、などと考えていたその時でした。

コンコン

僕の仕事場である個室にはあまり人が尋ねて来ず、僕が猥褻事件でも起こそうものなら同僚がワイドショーで「なんか孤立してましたよ、あの人ちょっと変わってるし、いつかやると思ってました」とかやけにハイトーンな音声で言うであろうほど疎外感があるのですが、珍しく来客があったのです。

もしや道に迷った美少女が、何故かびしょ濡れでブラを透け透けにさせてやってきたのでは、と期待に胸を弾ませてドアを開けましたところ見事にツルッパゲのオッサンが立っていました。

何でもこのオッサン、社内でも結構偉い人らしいのですが、いかんせん見たことないのでその偉さが分かりません。で、そのオッサンが思いっきり僕の個室に入ってきましてね、なにやら展開中のプロジェクトの説明を始めたりするんですわ。

やってきた瞬間に山ほどの書類を抱えていたので嫌な予感はしたのですが、このクソ暑いのにハゲのオッサンと個室で仕事の話とか勘弁願いたい。これが美女と水着でツイスターゲームとかなら最高なのですがハゲオッサン。最低すぎて言葉も出ません。

そこはまあ、僕も腐ってるとはいえいっぱしの社会人。ええ、成虫になったトンボでしょうから、「それは素敵なプロジェクトですね、面白そう」とか心にもないことを言いつつお茶を出したりなんかするんです。

そうするとハゲも嬉しそうに頭をテカテカさせてプロジェクトの説明を続けましてね、言ってることが難しすぎて半分も分からないんですけど、適当に相槌を打ちつつ、ボーっと窓の方を見てたんです。

そしたらアンタ、さっき開け放っておいた窓からトンボが入ってくるじゃないですか。トンボの季節っていつなのか知りませんけど、とにかくトンボが何の迷いもなく僕の個室に飛び込んできやがったんですよ。

しかもこのトンボ、ムチャクチャでかい。

もうギンヤンマとかオニヤンマとかそういったレベルのお話じゃない。メガヤンマ、ギガヤンマ、テラヤンマ、布袋寅泰、そういったレベルのデカさ。もう、話を聞きながらギョッとしちゃって、あやうくバンビーナとか叫びそうになったわ。

で、このデカトンボ、部屋の中をビュンビュン飛び回るのな。こっちはもう気が気じゃなくて、右へ左へ飛び回るトンボの一挙手一投足から目が離せない状態なのに、それに気付かず淡々とプロジェクトの説明を続けるハゲ、という危険な状態に。

もう僕の頭の中ではバンビーナの前奏が流れていて、トンボが書類タワーの上に止まって再度飛び立つ時に「レッツゴー!」とか頭の中で言ってたのだけど、ホントに頭の中のミュージックに合わせて縦横無尽に飛ぶのな。それがおかしくって笑いたいのだけど、オッサンが真面目な話をしてるので笑うに笑えないという極めてリスキーな状況。

しまいにはビーンと飛んできたトンボがピトっとオッサンの肩に止まるんですけど、熱弁しちゃってるオッサンはそれに気が付かない。すげー真面目な数値目標みたいな話を真剣にしてるの。肩にトンボ乗せて。

いくらオッサンが熱中しているといっても、肩に何らかの違和感を感じるらしく、話しながらフケでも落とすみたいに肩の方を払うのだけど、それでもトンボは負けていない。彼もまたオッサンの肩に何かを感じるらしく、同じ場所に何度も何度も止まる。

オッサンが払う、トンボとまる、オッサンが払うという無限ループに陥ってるのが餅つきみたいで死ぬほど笑えるのだけど、真面目な話をしているので笑うわけにはいかない。

落ち着け落ち着け、世紀末だって過ぎれば昨日さ、と必死で自らを諭し、笑いを堪え、グフってなりそうなのをなんとかお茶を飲んで誤魔化し、文字通りお茶を濁したのだけど、その瞬間に事件は怒った。

肩から払いのけられたトンボがブーンとオッサンの頭に止まりやがった!

側頭部とかなら良かったのだけど、見事にど真ん中、見事に頭の盗聴部分。一番テカってるところに止まりやがった。しかも、トンボのヤロウが真っすぐとこっちを見るように止まりやがったものだから、2本の羽と尻尾みたいな部分とでオバQの頭みたいになってた。

もうそれを見た瞬間、ブーッとお茶を噴出しちゃって毒霧みたいな状態に。思いっきりハゲにかかってしまい、大変なことになってた。

「なんだ!fへいじゅいrvjごvうぇぽf」(驚きすぎて声になってない)

「いや、すいません!急に口の力が抜けちゃって」(ハゲ頭にトンボが止まっていたとは言えない)

結局、顔を真っ赤にして怒っちゃったオッサンでしたが、どの道この道もこ道、プロジェクトに参加する気など毛頭なかったので、ハゲな人は怒って真っ赤になると頭のところまで赤くなるんだ!と妙なトリビアを手に入れただけなのでした。

子供の頃、思い描いたトンボのように、今の僕は何の疑問も持たずに飛び回れているだろうか。あの頃漠然と思い描いていたやり手ビジネスマンにはなれなかった。けれども道を歩きつつ、何の疑問も持たずに飛び回れているかもしれない。

そう思いつつ、またボーっとデスクに向かって道に迷った美少女が、パンツまで濡れちゃった!おやおや、本当に雨で濡れちゃったのかな、などというご機嫌な妄想をし、無為に勤務時間を過ごすのでした。

本当は、ハゲオッサンにかかったお茶を拭きつつ、ハゲ頭まで磨き上げたり、雑巾を頭の上に乗せて某一級建築士のようにして新たなドラマを展開させたかったのですが、さすがにそこまでやる度胸はなく、っていうかそこまでやったら間違いなくクビなので、消化不良のまま、この日記も尻切れトンボ、ということで。


6/12 FIFAワールドカップ2006

patoさん。いつも楽しく読んでます。W杯が開幕しました。ヌメリで記事書いて下さい。エロネタでも応援でも怒濤罵倒でもOK。pato節を楽しみにしてます。(うんこ百歳さん)

いよいよワールドカップ開幕しましたね!4年前みたいにワールドカップネタお願いします!ちなみにFカップナースです(ちあきさん)

サッカーについて更新してくれ(気さくにさん)

日記が長い、死ね(気さくにさん)


沢山のメールありがとうございます。最後のは良く分かりませんが、皆さんのサッカーに対する熱い熱気、確かに伝わってきました。

ここはいっちょサッカーに対する戦術論だとか、ワールドカップドイツ大会の展望、ジーコ采配の是非などを熱く語りたいところですが、あいにく僕はあまりサッカーに対して詳しくありません。そう、残念なことにサッカー、全然分からないんです。

まず、オフサイドわかんないですからね。全くもって訳わかんないのにピーピー笛吹かれた日にゃ見る気も失せるってもんですよ。

僕がサッカーに関することで分かることといえば、三都主と中澤が黒すぎるということと、中田の眉毛が途中で切れてて気になる、ということだけです。

そんな僕が偉そうにサッカーを語ろうものなら、生粋のサッカーファンによる熱き糾弾が始まるのは目に見えてますので、あえて語ったりはしません。

ただ一つ、言いたいことといえば、ちょうど「日記が長い、死ね」と言われてますので手短に言いますと、

アルゼンチン代表がんばれ!アルゼンチン代表がんばれ!

ということです。

アルゼンチン代表のゴールキーパーのニックネームはpatoですよ。


(画像は2003トヨタカップ)

Numeriはアルゼンチン代表を心から応援しています。


6/4 女の花園

枯渇する石油資源。海洋汚染に土壌汚染、大気汚染、ありとあらゆる自然空間は侵食され、大切な緑は伐採されていく。温暖化ガスが地球を覆いつくし、発展途上の国々はその発展と引き換えに徐々に地球を蝕んでいく。そんな昨今、みなさんは地球環境についてどうお考えですか。

僕はまあぶっちゃけると、地球環境なんかどうでもよくて、自分の部屋の環境すら清潔に保てないのに、地球なんてデカイもの考えてられるかってのが正直な話なのですが、ところがどっこい、そんな僕が大学で地球環境について講義するという訳の分からない話が舞い込んでまいりました。

まあ、ウチの職場は曲がりなりにも環境問題を扱っているそれなりの会社ということもあってでしょうか、年に一回、とあるお嬢様女子大で地球環境について講義する、というお役が回ってくるんですよね。

例年なら、ウチの上司がいって若い娘のエキスをふんだんに吸い込んで、顔をテカテカさせながら帰ってくるのですが、今年は同時期に出張が入ってしまい参加できないという衝撃の展開。

我が職場は色めき立ちましたよ。一体だれがあの魅惑のチケットを手に入れるか。女子大で講義するという今世紀最大級のプラチナチケットを手に入れるのか。たぶん、これを逃したら逮捕とかされない限り女子大に入る機会なんてないですからね。

そこはまあ、腹黒い僕ですよ。なんか話し合いで決めようとか、実際に講義をしてみて良かった人が行くようにしよう、そうだ、予選をしようみたいな真っ当な機運が高まる中、社内のプロジェクトやら会議の日程をことごとく講義のある日に振り分けるという恐るべし恐怖政治を敢行。なんとか、当日は僕ぐらいしか暇な人がいないという既成事実を作り上げてしまったのです。

さて、当日。とりあえず、秘密の花園である女子大に行くわけですから、何はなくとも下着だけは新品にしておく必要があります。実際に講義をして、女子大生とかが「先生、ここがわかりません!」「どこがだい?」「ここが・・・分かりません・・・」「えっ?」「私の胸の中が分からないんです。なんだか先生を見てるとドキドキしてきて・・・触ってみてください、ほら、こんなにドキドキしてる」「こまった子だ。あまり大人をからかうとおしおきだぞう」「あふん!」なんて展開が容易に想像できます。まかり間違っても竜虎みたいな柄がプリントされた古い下着はタブーです。

おまけに、女性ばかりのスペースに赴くのです。そのオーラを吸い込むだけでパンパンに勃起。空気入れすぎたタイヤみたいな状態になったら講義どころの話ではありません。女子大とはどういうものか知りませんが、女性ばかりで男の目を気にせず大胆な子女が多いと聞き及んでいます。開放的に胸を丸出しにして講義に臨む女学生がいないとも限りませんので、それらによって勃起して大変なことにならないよう、最大限の注意を払います。

いつもよりも気を使ったスーツに身を包み、いざ、秘密の花園、女子大へ。ぶっちゃけ講義の準備とかほとんどしていませんが、たぶんなんとかなるはずです。

女子大に到着すると、なにやら由緒正しそうな門がオロローンと口をあけて待ち構えており、なにやら結界のように行く手を阻む何かを感じずに入られませんでした。しかしながら、今日の僕は変質者とかそういった類の身分ではありません。れっきとした正当な講師として立ち入ることを許されているわけです。

堂々と結界を割って進み、キャピキャピの女子大生どもに紛れて敷地内へイン。聞かれてもないのに警備員さんみたいな人に「○○から来ました、今日は○○の講義に・・・」とか自らアッピールして許可証みたいなの貰いました。

それから授業開始時間まで事務棟の応接室みたいな場所に通されて待たされたのですが、今日はもしかしたらフェラチオくらいまでなら行くかもしれない・・・とか思い始めたら緊張してきて大変な騒ぎ。

そいでもって、よくよく考えたら急激に不安な気持ちにさいなまれてしまったのです。女性の園への興奮や、3P,4P,25Pとかに発展したらどうしよう!とか能天気なことばかり考えていましたが、僕はちゃんと講義できるのだろうか。もしかしたら誰も僕の講義を聴いてくれないのではないだろうか。昨今では小学校中学校が学級崩壊していると聞きます。まさか女子大までも学級崩壊しており、誰も僕の講義に聞く耳持たず、そのうち講義室の後ろの方でレズビアンな絡みとか始まってしまうのではないか。それはそれで最高だ。

「よろしくおねがいします」

とまあ、不安やら興奮やらが入り混じりつつ悶々と妄想していて最終的には大人しそうな女子大生がトートバックから黒光りするブツを取り出すところまでいていたのですが、そうこうしているとこの講義を企画した女性教授が応接室に入ってきて講義の開始を告げてくれたのです。

女性教授に案内されるがまま講義等のほうへと移動するのですが、園道中「ずいぶんお若いんですね」とか「主にどのような分野をされてるんですか?」とかババアが気を使って話しかけてくるんですけど、それすらもなんて答えたのか覚えてないほど緊張はクライマックス。それどころか、このババアすら俺の体を狙ってやがる!体は奪えても心までは奪えないんだからな!とか訳分からないことを考えるまでにテンパってました。

で、そのテンパり度がピークに達したのが講義室に到着してから。なんか想像していたよりすげー広い講義室で、ちょっといいところの映画館みたいに学生の席に角度が付いてるんですよ。で、一番低いところで僕が講義するみたい。どっからどう見ても300人くらいは入りそうな講義室で、そこ女性ばかりで満員御礼札止め状態。300人も女性ばかりでワイのワイのしてるんですよ。

こ、こんなにいるなんて聞いてないぞっと緊張もピークに達してしまいましてね。なんとか落ち着こうと、女性教授が僕の経歴だとかを学生さんに向かって紹介してくれるんですけど、その間ずっとオッパイのこと考えてました。

この講義室には300人は入るだろう。300人満員御礼でその全てが女性。どう考えても600個のオッパイが存在するわけだ。1つ1分揉んだとしても600分、10時間もかかる計算になってしまう。

一生懸命おっぱいについて考えるんですけど、それでも全然落ち着けない。さらにオッパイについて本気出して考えます。

まず、オッパイを半球体として考えるとどうだろうか。600個の半球体を合わせると300個の球体オッパイができあがる。ワコールの調べによると日本人女性のAカップ比率は59%。Cカップ以上の割合が21%であるので、平均値をBカップとすると、トップバストとアンダーバスとの差が12.5センチが標準となる。これは概算なのでその差をそのまま球体の半径と考えると、球の体積は4/3πr^3である。この球体が300個あるのでそれを300倍すると・・・この講義室の中にはオッパイだけで2.5㎥の体積がある。これは2500リットルと等しいので500mlペット5000本分がオッパイ。おそらく、これほどまでのオッパイと対峙することなどこの先の長い人生においてないだろう!

なんとかオッパイのことを考えていたら落ち着いてきたのでいよいよ講義開始。老婆教授も「あとはよろしくおねがいします」とかいって退室しちゃったからついに300のメスと僕だけが対峙する状態に。

で、講義を開始するはいいんですけど、なにやら教授がいなくなったということと、やってきた男性講師、つまり僕がへんちくりんだったことが効いたのでしょうか、300のメスがザワザワとざわついた状態に。とてもじゃないが講義なんて開始できないほど騒がしい状態になったんですよ。

「静かにしろ!いいから全員、ゆっくりと服を脱ぐんだ!」

と強権を発動できたら楽だったのでしょうけど、さすがにそういうわけにもいかないので淡々と講義を始めます。

自分が学生だった頃を思い返してみると、こういう場合ってのは講義内容に興味がもてないから騒いだりするんですよね。ここでいっぱつ先生が小粋なジョークなんかを言ってくれたらグイグイと講義に引き込まれていった経験を鑑みまして、僕も何か小粋なジョークでもぶちかまして300人の女性を興奮のるつぼに叩き込もうと画策したんです。

「えー、今日は地球環境問題について講義しに来たわけなんですが、正直に言いますと僕は環境問題の専門家ではありませんから詳しいことは話せません。しかし、環境問題は抜き差しならないところまできていると認識していただきたく、今日は様々な現象について解説していきたいと思います」

真面目に喋りつつ、小粋なジョークを挟みます。これで300人の女子大生のハートをガッチリキャッチ。

「環境はもはや抜き差しならない状況なのですが、浣腸は抜き差しするわけで・・・

シーン。

やっちまったああああ。物凄い外した。ピッチャーが球投げてレフトが受け取るくらい外した。環境と浣腸をかけるという決死のギャグだったのだけど、ちょっと恥ずかしくて声が小さくなってるし、おまけに意味が分からない。引き続き騒がしいままだったらまだ救いがあったんですけど、全員が不動で地蔵みたいになってたから始末が悪い。できることなら10分くらい時間を巻き戻したい。というか、死にたい。浣腸とか言ってる場合じゃないよ。

どうしよう、どうしよう、と焦るのですが、またもや600個のオッパイを球体と考えると・・・と悶々とオッパイのことを考えて落ち着きを取り戻した僕。静かになったのはこれ幸い、と講義を開始します。

まあ、講義内容はそれこそ普通で、淡々と、本を見ながらやればそのへんのパンチパーマなオバちゃんでもやれる内容なのですけど、さも偉そうに、さも難しそうに、それっぽい雰囲気をプンプンにだして講義を進めます。

まあ、講義中に携帯電話とかいじりまくってる娘とかいて、おそらく彼氏に「ああーん、はやくはめて」とか送ってるんでしょうけど、そういうのも気にせず淡々と進めます。そういった娘を一喝して「立ちなさい!」とか怒って、「手を壁につけてゆっくりとスカートを捲し上げなさい」とかやれたらどんなに気持ちいいかと思うんですけど、たぶん逮捕されるので無視して講義を進めます。

だいたい講義も終盤になったころでしょうか。なんとか無事に講義も終わりそうで、こりゃあ帰ったら当分オカズに困りませんな!と思い始めた頃、事件は起こりました。

 

 

 

 

こんな感じのグラフの重要性を偉そうに説いていた時です。あまりに重要なグラフですから、僕はこのグラフをホワイトボードに書き写し、熱血指導といった按配で説明していたんです。

「この、1970年の数値がいわゆるターニングポイントで」

とグラフ上のある点に「重要だぞ」という意味でマークを入れたのです。

あまりに熱血指導が行き過ぎた僕は、勢い止まらず、ここは本当に重要なんだ!という意味で、その箇所に二重丸を入れてしまったのです。

やばい、なんか卑猥。なんか猥褻。勢いあまって二重丸にしたらマンコマークみたいになってしまった。もうグラフ上の別の場所、2000年あたりのことを説明してるんですけど、僕の中では1970年のマンコマークのことで心がいっぱい。

「仕方ない、あれは事故だ。下手に繕うと逆に不自然だ、こうなったら1970年のマンコマークはスルーするしかない」

と言い聞かせ、淡々と2000年あたりのグラフの説明をしていました。しかしまあ、ぶっちゃけるとここまでの講義は上司が用意した講義用のカンニングペーパーみたいなノートに沿って進めていたのですけど、そのカンニングペーパーを見てみると

「もう一度1970年のデーターに戻ってその重要性を説明する」

とか信じられないことが書いてあるじゃないですか。アレか、上司は僕をハメる気か。

もうね、覚悟を決めましたよ。たぶんこういう運命だったんだと、こうなる定めだったんだと。よくよく考えると、300人もの女子大生の前でマンコマークを書く機会なんて、僕の長い人生において二度とないことですよ。やるしかない、そうやるしかないんだ。

「話は戻りますが、そうなってくると、やはりこの1970年の数値が重要になってくるんですね」

二重丸に付け加えて重要性を主張する場合、三重丸にするのでは芸がなさすぎる。よってその重要な部分を光り輝かせてマンコマーク完成。これ、セクハラで訴えられて法廷に立つことになっても文句言えませんよ。

結局、何かを感じ取った一部の女子大生がザワザワするうちに講義時間が終了。終わった後に、なんてことしてしまったんだと不安になり、一部の真面目な女学生が教授にマンコマークでセクハラされたと直訴、それが会社に伝わって大変なことになるんじゃないかと怖くなったのですが、なんとかここにある600個のオッパイを球として考えると・・・と考えることで落ち着きを取り戻したのでした。

自分の部屋の環境すら整えられない僕は、地球環境なんてどうでもいいのですけど、とりあえず乳球環境だけは死守したい。そして、苦情さえ来なければまた来年もここで講義をしたい。ホワイトボードに燦然と輝くマンコマークの前でそう誓うのでした。


5/28 ポンポン

この間、っていっても昨日なんですけど、小雨が降りしきる中、颯爽と愛車をドライビンさせていたんです。

僕は基本的に車の運転ってのが大好きで、なんていうか、このペガサス号を転がしている時は完全に自分一人になれるというか、物理的にはもちろんなんですけど、精神的にも一人になれるというか、車内が閉じられた全宇宙みたいな感覚になってきて大好きなんですよね。

例えば、車の運転中にいきなり「パイ毛!」とか叫んでも何のお咎めもありませんからね。街中や職場で叫ぼうものなら狂うたかと思われ黄色い救急車が来るでしょうが、車内ならオ、オッケーオッケー。そういった僕を縛る戒めというなの鎖を引き千切って自由になれる翼みたいなのがあるんですよ。僕の天翔るペガサス号には。

でまあ、当然、あいにくの空模様といえども運転していれば上機嫌というわけでして、アーオーアーオー叫びながらマイリトルラバーの能みたいなダンスを練習、そんなご機嫌ドライブをしていたんです。

その瞬間ですよ。

ボンボン!

とまるで狙撃されたみたいな音がしやがりましてね、その刹那に車がガタガタと振動。ぶっ壊れたおじいちゃんみたいな振動がして途端に制御不能になっちゃったんですよ。

マジで、「ボンボン」って鈍い音がしやがりまして、そういや昔、ボンボンってアイスクリームがあったんだよなあって思い出したんです。若人の方はご存知ないかもしれませんが、僕らの年代でボンボンっていったら神のアイスで、コンドームみたいなゴムの中にクリームアイスがパンパンに詰め込まれて球体になっているというイカレた代物だったんですよ。ゴムの中にアイスですよ、ゴムの中。

ゴムの中にアイスだけでも驚きなのに、そのボンボンアイスの神な部分ってのは別にあって、なんと、アイスを食べる口にあたる部分がどう好意的に解釈しても乳首にしかみえないんですよ。先っぽがぴょこっとなってて、今考えるとコンドームそのもののとんでもない猥褻なアイスなんですけど、そんなの知らなかった当時は普通に乳首にしか見えなかった。

まだ九九も完全に言い切れる自信がないほど少年だった僕にとって乳首とアイスってのが上手に繋がらなくて、理解不能で泣き出したい気持ちになったんだけど、やっぱり男の子ですよね、どんなに幼かろうがバカだろうがおっぱいは大好き。いっそのこと世界中の万物全てがボンボンのようにおっぱいを模ったものにすればいいのに、と思うほどに思いつめていってしまったんですよ。

僕は別にボンボンの味とかが好きではなくて、単純におっぱいっぽいから大好きだったんですけど、母親なんかは単純に味が好きなんだろうと勘違いしちゃいましてね、ちょっとお金に余裕があってオヤツを買ってくれる時なんか、迷わずノータイムでボンボンを買ってきてくれたんですよ。

そんなある日、いつものように母親がボンボンを僕の分と弟の分、二つ買ってきてくれたんですけど、なんか僕の中でどうしても抑えられない衝動という葛藤が湧き上がりましてね、とにかくやらずにはいられないというか、これをやらずに死ぬわけには行かないという非常に重い人生のテーマみたいなのを感じてしまい、光の速さで弟の手からボンボンを奪い取ったんです。

「なにすんだよ!」

弟もボンボン好きですから、そりゃあ怒りましたよ。僕だってね、何も弟のボンボンまでもを奪って食べるほど欲張りではありませんよ。ただね、どうしても試してみたかったんです。

僕の手には自分のボンボンと弟のボンボンが二つ、それをおもむろにTシャツの中に入れましたね、ちょうど胸部に当たる部分に配置して「おっぱい!」とかやったんです。

やってみたら驚くことに、本当におっぱいに見えるじゃないですか。胸部に座した2つのボンボンが見事におっぱいをプロデュース。乳首まで再現されちゃって僕もビックリ、怒ってた弟までも「おっぱいおっぱい」と大騒ぎですよ。

それよりなにより、ボンボンは曲がりなりにもアイスですから、僕の幼き乳首が極度に冷却されてその感覚にビックリしたんですけど、それ以上に初めて感じる乳首が気持ちいいという感覚に酔いしれていたんですよ。

そしたら、弟がどこで覚えてきたのか知らないんですけど、

「おっぱい揉ませろー」

みたいなオマセなこと言い出して、すごいエロい手つきで胸部のボンボンを揉みしだいてきやがるんですよ。最初こそは僕も「エッチスケッチワンタッチ」とか言って盛り上がってたんですけど、次第に弟の手つきがテクニシャンになってきましてね、まるで未亡人を嬲る時みたいなエロティックな手つきなんですよ。まったく、末恐ろしいガキですよ、こいつは。

そしたらなんか、弟に乳を揉まれているという行為が急に屈辱的に感じられてきましてね、あれ、なんだろ、よくわからないけど至極屈辱的!何か大切なものを奪われてる!とか感じて、生娘っぽく手を払いのけたんです。

しかし、そんな僕の乙女の純情を弟は許さなかった。嫌がってもらったほうがより興奮するんだぜ、じゃじゃ馬娘を嬲る、快感だねぇ、といわんばかりに口の端をニヤリと上げると、目の奥に潜む彼の中の獣の部分をギラリと光らせ、さらに老練に、それでいて力強く僕のボンボンを揉みしだいた。もう抗う術はなく、僕はジッと嵐が通り過ぎるのを待つしかなかったのだ。

がらんとした畳敷きの居間の中央で、無言でおっぱいに見立てたボンボンを揉みつ揉まれつする男兄弟。人売りが横行する中国奥地の農家だったら真っ先に売り飛ばされること間違いない兄弟でしょうが、それでも僕は揉まれた。それでも弟は揉みつづけた。

いよいよ良く分からない何かが絶頂に達しようとした時、それを察した弟の息遣いは荒く、そしてボンボンを揉む指のビートも増してきた。その瞬間だった。

ボンボン!

あまり強く揉みすぎたためか、その圧力に耐えられなかったボンボンはボン、ボンと連続で音を立てて破裂した。まさにボンボン。ボンボンという名前の由来はおっぱいに見立てて揉んでいたら破裂するからなんじゃ、と思うほどに見事に破裂した。

貧しい中、あまり買ってもらえることがなかったボンボンが台無しになったことに弟は大泣きした。母親も騒ぎを聞きつけてやってきて、食物を無駄にしたことにたいそう怒った。そして僕は、破裂し、中身が飛び出したアイスがTシャツの中に溢れ、ヌルヌルとしたつめたい感触、なんとも不思議な感触が乳首を覆っていることにいたく興奮した。

泣く弟、怒れる母、快楽に身を委ねる僕。ボンボンと聞くとそんなシュールな絵図が浮かんできて切ない気分になるのです。

あまりにも脱線部分が長すぎて自分でもビックリしたのだけど、問題なのは車の運転中にボンボンと異音がしたことです。アイスとかおっぱいのことを思い出している場合ではない。

とにかく、ハンドルが効かないところを必死で抑え、国道脇の路側帯みたいな場所に停車する僕。さっそく降りて見てみると、やはりというか何と言うか、全部運転席側のタイヤが見事にパンクしてました。

しかし、音はボンボン、と二回鳴ったはず。急に不安になって反対側のタイヤも見てみると、こちらも見事にパンク。前方タイヤ二つが同時にパンクとか考えれない。ニンジャがトゲトゲのヤツを撒いたとしか考えれない。

とにかく、これは由々しき自体です。パンクしたタイヤが一つなら、後部に積んであるスペアタイヤにチェンジして進行できるのですが、あいにくスペアは一つしかない。どうしても2つのパンクをカバーできないんですよ。

おまけに調子に乗ってドライビンしてたものですから、微妙に山の中。おまけに雨降ってますから昼間なのに微妙に暗いおちう悪条件。こんなところにカーショップとかタイヤショップとかあるわけがありませんから、どうしたもんかと絶望の淵に立っていたのです。

仕方がない、誰か通りがかった車に乗せてもらってヒッチハイク。タイヤだけかついで戻ってこようかしら、とかとんでもないことを考えて道路の先のほうを一瞥したその瞬間ですよ。

「○○自動車商会」

こんなクソ山の中なのに、50メートルぐらいの場所に自動車修理工場みたいなのがあるんですよ。ダブルパンクだけでもありえないのに、こんな山の中で修理工場の近くで狙ったようにパンクするとかありえない。

神は我に奇跡を与えたもうた。とかなんとか言いながら、ダブルパンクしてガクガクとポンコツっぽく動くペガサス号をなんとか運転し、奇跡のオアシス○○自動車商会へと向かったのです。

修理工場は個人経営みたいな小さな規模で、ガレージみたいな場所で誰かが軽トラックを修理している様子。さっそく話しかけてみます。

「すいませーん、ちょうどそこで前輪が二つともパンクしたんですけど」

パッと顔を上げたのは長髪で色黒、ツナギを着たイケメン。もうなんというか、男の僕ですら「コイツの乳首なら舐めれる!」と思うほどの美形。

「いきなりパンクしちゃって」

あまりのイケメンに動揺する気持ちを抑え、「僕は女が好きなんだぞ」と心の中で言い聞かせながら再度、パンクしたことを主張します。

「あー、ちょっとまっててください」

その言葉を受けて、イケメンはガレージの奥の方へと消えていきます。で、なんかこの修理工場の主みたいな人を伴って帰ってきたんですけど、このオッサンが見るからに頑固そうな親父。

「あのー、パンクしちゃったんですけど・・・」

と、またもや主張すると、頑固親父は何を怒ってるのか知らないですけど、ムスっとしながらベロベロになった前輪を見て一言。

「こりゃあパンクじゃねえな」

え!?走っていたらいきなりタイヤがベロベロになったのにパンクじゃない!?じゃあ、一体何なんだ。

「え?そうなんですか?」

何故か恐る恐る訊ねると、頑固親父は目をギラッと輝かせて一閃。

「こりゃあパンクじゃねえ!破裂だ!」

何がそんなに気に食わないんだか知らないですけど、ムチャクチャ怒ってるんですよ。

「見てみろ、このタイヤの端のところ、ワイヤーが出てきてるだろ。タイヤが磨り減りすぎるとワイヤーが出てくる。そうなるとパンクじゃなくて破裂するんだよ。オマエ、タイヤ交換してねえだろ!」

確かに僕は車を買ってからずっとタイヤ交換してないんですけど、どう考えても僕が悪いんですけど、なにもそんなに怒らなくてもいいじゃないですか。しかも、

「75の15か」

とかなんとか、確かそんな感じの数字を言いながら頑固親父が在庫のタイヤを探すんですけど、そのタイヤたちがことごとく埃をかぶっていて大変な状態。さすがにそれをつけるのはやめていただきたい、戸か思っていたら

「在庫がねえええええ」

とヤクの禁断症状みたいに頑固親父が怒り出すんですよ。アルミ缶みたいなの蹴っちゃってね、僕なんか小動物みたいにビクッとするしかなかった。なんでこんなとこでビビらされてるんだ。コイツは絶対にヤク食ってるぞ。

結局、どっかの業者に注文して届けてもらうから30分くらい待て、とのこと。あまりにも頑固親父が怖いのでガレージの外に出て待っていたのですが、

「誰がここ切れっていった!?」

とか頑固親父、ムチャクチャ怒ってるんです。なんか、最初に対応してくれたイケメンを怒り殺す勢いで説教してるんです。もう頑固親父ムチャクチャ荒っぽい。セックスする時に女の尻をバックからパンパン叩くくらい荒っぽい。

どうも話を聞いてると、イケメンは頑固親父の息子みたいで家族経営みたいなんですけど、ファミリー経営のようなほんわかさが全くない。修羅場というか鉄火場というか、命のとり合いみたいな雰囲気がムンムンしてるんですよ。

親父は親父で実の息子だから容赦しない、みたいな勢いで愛の鞭と呼ぶには酷すぎる勢いで蹴り上げてますし、イケメン息子は綺麗な顔を油まみれにして必死に働いてるし、で見てるだけで切ない気分になってくるんですよ。

頑固親父こえー。

できることなら脱兎の如く逃げたかったんですけど、タイヤが直らないと逃げるに逃げれない。それどころかタイヤが届かないと修理すら始まらない。あまりにも怖くて隅っこの方でブルブルと震えるくらいしかできませんでした。

それだけならまだ良かったのですけど、ウンコ座りしながらバイオレンス親子の様子を見ていたら本当にウンコしたくなっちゃいましてね、コイツはシャレにならん、漏らしてしまう、といったレベルの腹痛が僕を襲ったんですよ。

あのね、自動車修理工場に来てウンコ漏らすとか、下手したら僕自身が修理されかねない由々しき事態ですよ。なんとしてもそれだけは避けたい。もう必死になってトイレを探しましたよ。

頑固親父かイケメンにトイレの場所を聞けば早かったんでしょうけど、なんか親父がスパナみたいなのでイケメンに殴りかからん勢いのシュラバラバンバだったので聞けるはずもなく、一人でゴソゴソと探しました。

そしたら、ガレージの横の部分に申し訳程度の簡易的なトイレがついてましてね、すげー古くて、夜だったら間違いなく便器から尻を舐める妖怪が出てきそうなオロローンとした雰囲気がムンムンとしてきましてね、普段なら入りたくないトイレに違いないんですけど、背に腹は、いや尻に腹は変えられんみたいな勢いでトイレにと突入したんです。

入った瞬間にモワンとアンモニア臭がしてくる、見紛う事なきボットン便所、壁なんかも死ぬほど汚くて出来ることなら触れたくないんですけど、トイレが狭すぎてどうしても構えると体の一部が壁に触れてしまうんですよ。まあ、仕方ないので身をよじるようにして構えてとりあえず排出しましたよ。

一般的な方はご存知ないかもしれないですが、ウンコにも様々な形態があります。固すぎて岩みたいになってるの、柔らかすぎて茶色い色の水みたいになってるの、そしてフェイントの如くガスのみのもの。これらが複雑に入り乱れて様々なウンコを演出しているのです。

で、この日のウンコは、ちょうど固体に混じってガスが出るタイプだったんですけど、これが結構始末が悪い。固体の排出音がガスによって加速されてとんでもない音がするんですよ。

ボンボン!

とか、おおよそウンコとは思えないとんでもない排出音がして、それを聞いて僕はボンボンというアイスを思い出して弟に乳をもまれて屈辱と快楽が入り混じった複雑な感情を思い出すのですけど、また長くなるので割愛。

なんとか排出し終わって「さあ、拭くか」とあたりを見回すと、全く紙がない。どう好意的に解釈しても、尻を拭く紙が存在しない。おかしいおかしい、と見回すんですけど、全く紙が発見できない。あった形跡すら発見できない。それどころか、違ったとんでもないものを発見してしまう始末。

なんかですね、コロンコロンと2個の可能性の原石が誇らしげに便器後部の床に鎮座しておられるんですよ。

ギャー、ウンコが外れてる!

汚い壁に触れないように身をよじって構えたせいか、排出物がものの見事に便器を外してるんですよ。苦し紛れに打ったシュートより大幅に外れてる。

これがバレたら頑固親父に殺される、と思いましてね、なんとか紙でブツを便器に移動させよう、と思うのですけどやはり紙がない。尻も拭けない、ブツは床に転がってやがる、ととんでもない状態に。

このままにしてトイレから出るのも気が引けるし、外に出て紙がないとカミングアウトするのも親父が怖くて出来ない。なんとかしないパンク修理に来た僕が人間的に何かがパンクしてしまう。それって結構パンクな生き方かも!とか動揺するあまり変なことばかり考えてました。

結局、トイレの窓から天狗が持ってそうな葉っぱが茂った植物が見えたのでなんとか手を伸ばして奪取。可能性の原石を処理して事なきを得たのです。

トイレから出ると、ちょうどタイヤが届いて交換が終わったらしく、あの死ぬほど荒っぽい親父とイケメン息子が何かを話している様子。また怒られてんのかと聞き耳を立ててみると、

「タイヤ交換、うまくなったじゃねえか」

みたいなニュアンスのことをあの頑固親父が言ってるんです。で、それを受けてイケメン息子もまんざらではない様子。

なんだかさっきまでの修羅場が嘘みたいな雰囲気で、僕も笑顔でタイヤ2本の料金11000円を払いつつ思ったのです。ああ、この親父さんはイケメン息子を厳しい愛で育てているんだ、きっと一人前の整備士に育てたいんだ、と。

誰かを甘やかし、優しく育てることは簡単です。怒らない、叱らない、殴らない、そんなのは誰だってできます。でも、それじゃあダメなんですよね。どんな人間だって甘やかされれば少なからず甘えるし、優しくされれば幾ばくかはつけあがる。そうなると、絶対に育たないんですよ。

結局、怒らずに優しく人を育てようとする人なんて、自分が嫌われるのが怖いだけで、何も相手のことを考えてないんです。本気で親身になって育てたいと思うなら、鬼と思われようが、殺したいと思われようが、本気になって厳しく接する気概が必要なのです。で、ちゃんとできた時はキッチリ褒めてあげる。そのメリハリってなかなかできないんですよね。

思えば、僕の親は鬼だった。恩師は鬼神だった。職場の上司は鬼すぎた。そりゃあ当時は厳しすぎて腹がたつこともあったけど、僕の中を通り過ぎていった鬼たちは本気で僕を育てようとしてくれてたんだな。嫌われてもいいから厳しく怒ってくれる、そんな人は貴重だな。

などと、こんな場所で何訳の分からないおセンチな気持ちになってんだよと思いつつ、色々なものに感謝したのでした。

よかったな、イケメンの息子さんよ。アンタの親父さんはアンタに対して本気だぜ。今は厳しすぎてムカつくかもしれないけど、自分を本気で叱ってくれる人ってのは貴重だと思うぜ、と思いつつ車に乗り、息子さんの姿を探すのですが、いつの間にかいない。

ありゃ、息子さんはどこだ。イケメンはどこだ、と探していると、グワーッと外車って言うんですか、左ハンドルのムチャクチャ高級そうな車がガレージから出て行くんです。

見ると、イケメン息子がハンドルを握っていて、修理が終わった高級外車を届けに行くのかな、とも思ったのですがいつの間に着替えたのか、街のクラブに行くみたいなチャラチャラした服装に。どう考えても街に繰り出して甘いマスクと高級外車で女を転がすとしか思えない勢いで出かけていくんです。いやね、まだまだ仕事が終わるような時間じゃないですよ。

なんか、僕の予測になるんですけど、高級外車を買ってあげるからお父さんの工場を一日4時間でもいいから手伝いなさい、みたいやりとりがあったとしか思えない雰囲気がムンムン。

ムチャクチャ甘やかされてるじゃないか、よほど修理工場ってのは儲かるのか、いい車に乗って自由に飛び跳ねてるじゃないか、けっこういいとこのボンボンじゃないか、イケメンでボンボンおまけに高級車とか勝ち目ねーよ、あらゆる面で勝ち目ねーよ、と意味不明に憤慨するのでした。

でまあ、ボンボンと聞くとボンボンというアイスを思い出して弟に乳をもまれて屈辱と快楽が入り混じった複雑な感情を思い出すのですけど、あの事件の直後、ただアイスが破裂しただけとは思えない勢いで親父に怒られ、頭の形が変わるくらい殴られて1年くらいオヤツなしという兵糧攻めにあったのですが、それも愛ゆえの厳しさだったのだと理解し、またドライブを続けるのでした。今度ウンコを的から外したら、素手で鷲掴みにしてボンボンと街行くイケメンに投げつけてやる。


5/21 ミエナイチカラ

この間、職場の会議で上司の口から「これは総力戦だから、我が部署全員に何らかの役割を担ってもらう。みんなで頑張ろう!」といううざったい通達を時代錯誤も甚だしい精神論と共に告げられたのですが、さすがの僕も少しばかり感化され、「俺も頑張るぞ!与えられた仕事をこなしきる!」と柄にもなく燃えてしまったのです。

しかしながら、偉い人の口から粛々と分担が読み上げられる中、僕だけ何の役割も振り分けられないというイリュージョン。さすがに何かの間違いだろうと、あとで分担一覧表を確認したのですが、僕の名前だけありませんでした。ありませんでした。ありませんでした。

「これは3人用のビデオだから」ととんでもない言葉をスネオに浴びせられたノビタのような気分になりつつ枕を涙で濡らしたのですが、それにつけても言葉の力ってのは偉大だと痛感したのです。

普段なら僕も、上司の頭はカツラだろうか、最近結婚した同僚がみるみるやつれていきやがる、猛烈キャリアウーマンで女を捨ててるっぽい彼女でもおセックスとかするんだろうか!想像できない!興奮する!とロクでもないことばかり考えて会議の時間を漠然と過ごしているのですが、少なからず上司の言葉に感銘を受けたというか、心を動かされた部分があったんですよ。

言葉ってのは最も簡単かもしれない他所とのコミュニケーション手段ですから、その力ってのは相当なもので、なんでもない言葉が誰かの心に突き刺さったり傷つけたり動かしたり、時には安らぐ気持ちにさせてくれたり飛び跳ねるくらい喜びを与えてくれたりするのです。それだけに気をつけなければいけない部分が多々あるのです。

誰かの心に甚大な影響を及ぼす強大な力を持ちつつも、その効果がわかりにくいというのも言葉の力が持つ特徴だと思います。破滅の言葉を発した瞬間に天空の城が崩れ落ちるとかなら言葉の持つ強大な力も分かりやすいのですが、実際にはそういうわけにもいきません。やはり、その威力のわりにはわかりにくいと言わざるを得ない。

なんでもない言葉が誰かを傷つけるかもしれないし、なんでもない言葉のために一生涯恨まれるかもしれない。それを肝に銘じて一つ一つの言葉を発していく必要があるのです。

世の中には「一言多い」という空気が読めない可哀想な人が多々いるのですが、結局はそういう人ってのは言葉の力を分かってないだけなんですよね。

ウチの職場には、社内でも非常に頭が可哀想なことで有名で、なんかの雑誌にカッコイイという意味で「イカしてる!」みたいな表現が書いてあったのを全部「イカレてる!」と読み間違え、「この秋はこのファッションがイカレてる!」と本気で誤読していた総務のマミちゃんという屈強な女性がいるのですが、彼女がいちいち一言多い。

なんか、僕とマミちゃんで仕事をサボって雑談をしていたのですが、ちょっと仕事上の書類を誤魔化して楽しようって感じの話題になったんですよ。マミちゃんは、さすが頭の弱い子らしく、面倒くさい書類は隣のデスクにこっそり置いちゃいます!とか頭の中にクリトリス詰まってるみたいなこといってたんで、僕もそれはどうかと思いつつも同調したんです。

「ああ、いいねそれ、俺も今度やってみよう」

みたいな感じで盛り上がったんですよ。ただまあ、そういうのじゃ良くないぞって感じで頭の弱いマミちゃんを軽く諭してやろうかと思いまして、

「でもさあ、そういうの楽で憧れるけど、そんなことばっかやってたら同僚とかに嫌われちゃうよなー」

って感じで、あんまそういうことばかしてるとダメだぞ!って意味合いを込めて軽く言ってみたんです。そしたらアンタ。

「大丈夫ですよ、patoさん、もうすでに随分と嫌われてますよ」

とかマミちゃんが言うじゃないですか!フェラチオする時みたいな口して言うじゃないですか!

そんなね、僕だって薄々その辺は気がついてますけど、いくらなんでもそんなのダイレクトに言う必要ないじゃないですか。本当にこの子はいつもこんな調子で一言多くて、言わなきゃいいこと言うんですよ。その強大な力を持った言葉でどれだけ僕が傷つくか分かっちゃいない。ホント、チャンスさえあったらレイプするぞ。

とにかく、このマミちゃん見ていても分かるように言葉の力ってのは強烈ですから、なるべく変な事言わないように、誰かの心の琴線にひっかるようなこと言わないように、職場ではものすごい気を使って無口で無難なことしか発言しないように心がけてるんですよね。まあ、それでも嫌われるんだけど。

でまあ、本来はけっこうおしゃべりな部類に入る僕ですから、そうやって気を使って言葉を封印するのは非常にストレスが溜まるんです。もうストレス性発作で仕事が手につかず、職場で日がなソリティアやりまくるくらい追い詰められているんです。

言葉の重さ、その破壊力、それを恐れて慎重に発言すってのは、この複雑に入り組んだ現代社会をそつなく生きるのに必要なことですが、そればかりじゃあ味気ないし苦しい。もっとこうね、プライベートでは言葉をものすごく軽く扱ってみたい。鉄の塊だと思ったら黒く塗った発泡スチロールだった、くらい軽々しく扱ってみたい。というわけで、

「色々なお店でNumeri読者さんから貰ったメールの文面を意味もなく喋ってみよう大会!」

普段、言葉の破壊力に恐れをなしている僕は、まるで核保有国のようにその扱いに臆病になってるので、プライベートでは全く意味不明に軽々しく言葉を発してみたい、と言う観点から、様々なお店で意味不明発言をしてみたいと思います。

まず、行くお店を決めます。そして、当サイト左側にある僕と読者さんを繋ぐ夢の架け橋メールフォームから頂いたメールを適当にメールボックスからチョイス。ランダムに選んだメールの最初の一文を絶対にその店で発言するという地獄のルール。言葉を軽々しく操り、主に僕のストレスが発散されるという仕様になっています。

ということで、まずは近所のコンビニから。ここは非常に若い生娘や今にも死にそうな老婆がレジを守護している店ですが、そこで意味不明に発言してみます。コンビニで発言する機会ってあまりないんですけど、お弁当を買って「温めますか?」と聞かれたときに、メールに書かれた文面を発言します。

ということで、発言内容を決めるべく、読者様に頂いたメールからランダムに選びましたところ、

「patoさんこんにちは」

がチョイスされました。まあ、ウチに来るメールですのでこういった挨拶から入るメールが多いのは至極普通ですが、初っ端からキツイ内容。なんといっても自分のハンドルネームが入ってますからね。ちなみにこのメールは、妹に恋してしまってるみたいな感じのちょっとどうかと思う内容でしたが、最初の一文のみを発言するというルールですので、コレに決定。ホント、後半部分の「妹が好きなんです」とか「妹のスパッツが」とかいうわりと濃い目の内容でなくて良かったと胸を撫で下ろします。

ということで、さっそくコンビニに徒歩で赴きます。で、別に腹減ってないんですけど、なんかゴージャスそうな揚げ物の弁当とコーラを持ってレジへ。レジは今にも死にそうな老婆が担当しています。

さっそく品物を差し出し、なんかピッピッとやってもらうと、ついに老婆が核心に迫る発言を、

「お弁当は温めますか?」

きた!いけ!やれ!言ってしまえ!

「patoさんこんにちは」

その刹那、レジ周りの時間が止まった。

「はい?」

「patoさんこんにちは」

なんて快感。言葉を軽々しく扱うってのはこんなにも気持ちがいいものなのか!と、快感に酔いしれていたところ、老婆は凄い困惑した感じで温めずに弁当を袋に入れてくれました。

かなり調子がいいのでもう一発。今度は、ガス代の集金が来ることになってたのでガスの集金の人に意味不明な言葉を投げかけることにします。この人はいつもガス代を滞納気味な僕に対して少なからず嫌な感情を持っているようなのですが、そんなこと関係ありません。とにかく意味不明なことを言ってみましょう。

そんなこんなで、発言ワードを選ぶべくメールボックスから選んだメールは。

「はじめまして、約2年位前から見てます」

普通にNumeriに来たメールという観点で見ると、2年くらい前から見ていただいていて、今回始めてメールを下さった、というありがたい内容。しかしながら、これをガス代集金のオッサンに言ったらどうなるか。


「ガス代の集金に来ました2480円になります」

いつものごとく、ゴスペラーズの右端にいそうなオッサンが集金に来ます。そこで意味不明発言ですよ。

「はじめまして、約2年位前から見てます」

たしかに、ガスのオッサンとは2年くらいの付き合いですが、2年前から見てるのに「はじめまして」とはこれいかに。ちょっと頭のおかしい29歳みたいです。

もちろん、ガス代集金のオッサンと僕の時が止まり、異様に重苦しくシュールな絵図が我が家の玄関で展開されていたのですが、

「2480円です」

「はじめまして、約2年位前から見てます」

「2480円です」

「はじめまして、約2年位前から見てます」

というできの悪いコントみたいなやり取りに。僕なんかぶっ壊れたポンコツロボットみたいになってた。結局、僕が3000円差し出すと、

「はじめましてじゃないんだけどね」

と至極もっともなことを言いながらオツリをくれました。

なんて快感。言葉を軽々しく扱うってのはこんなにも気持ちがいいものなのか!というか、あのどうして良いのか分からない気まずい雰囲気が最高にクセになる。

ということで、ラスト。最後は、吉野家に行って豚丼の並みと卵と味噌汁を頼むついでに意味不明発言をしてみます。

またもや吉野家で気まずい雰囲気が味わえるぞ、豚丼まで味わえて気まずい雰囲気まで味わえるとは最高ですな!と言葉を選ぶべくメールボックスからチョイスすると、

「精液が濃すぎて困ってるんです」

なんだこのメールは!というか、この一文だけをメールで送ってくる読者が頭おかしい。狂ってる狂ってやがる。どこの世界にメールにこんな文章書く文化があるってんだ。こんなカミングアウト送ってこられてもどうしようもないし、こういったゲームを楽しんでる時にこのメールを引いてくる僕もおかしい。全てが狂ってやがる。

といいつつも、ルールはルールなのでさっそく吉野家へ。店内に入り、適当にカウンター席に座る。いや、適当じゃなかった。これから成すことを考えると、なるべく知らない人には聞かれたくないので、店内にいたどの客よりも最も距離が取れる位置に着席。店員が到来するのを待ちます。

角刈りの、ガリガリ君とか好んで食べてそうな威勢の良い店員がお茶を持ってやってきます。むしろこいつの方が精液が濃そうなのですが、ルールはルールなので意を決して

「えっと、並みと卵と味噌汁ください。あと、精液が濃すぎて困ってるんです」

僕はね、恨むよ。恨む。人を恨むことってあまりないんですけど、この精液メールをくれた人を本当に恨む。

注文の後に「精液が濃すぎて困ってるんです」って付け加えることによって、大騒ぎになったり店内中が阿鼻叫喚、挙句の果てには店員に羽交い絞めにされて店の奥に連れ込まれて説教されるとかならまだ良かった。そちらのほうが幾分救いがあった。

なんか普通に

「アイヨー!並み卵味噌汁!」

とか普通にスルーされてたからね。あれだけ勇気振り絞って言ったのに、まるで精液なんてなかったことのように、精液なんて濃くなかったんだと錯覚させられるほどにスルーされてたからね。もうそのあとの豚丼のまずいことまずいこと。半分くらい残して帰っちゃったからね。

まあ、最後の精液だけは完全にスルーされ全くの無力だったのですが、強大な言葉を心安く振り回すことによって幾分かストレスが発散されました。これからも言葉を注意深く扱い、特に職場では誰かを不快にすることなく心安らかに生きていこうと決意したのですが、マミちゃんが冒頭の会議の件で

「ねえ、なんでpatoさんだけなにも担当してないんですか?みんな何かの担当になってるのに、ねえ、なんで?」

と、ズベ公のクセに余計な一言で聞いてくるものですから、あまりにイライラして

「精液が濃いから」

と答えておきました。その破壊力やすさまじく、それ以来、マミちゃんは口をきかないどころか目も合わせてくれなくなりました。やはり言葉って強力な兵器だね。


5/13 ディスカバリー

僕らの日常生活は多くの発見の中で成り立っている。

ざっと周りを見渡してみると、便利な生活用品の全ては発見の産物だ。テレビにしてもそう、パソコンにしてもそう、電話だってなんだって、誰かが発見したから今そこにある。

そんなテクニカルな電化製品だけじゃなく、洗濯ばさみや、洗濯機に入れるネット、なんかコロコロするやつや、果ては六角形の鉛筆まで、生活の知恵レベルの商品だって誰かの発見が息づいている。

何も高輝度青色発光ダイオードのような特許レベル、叡智レベルの発明だけが発見というわけではなく、そこに何かの知恵があるならば、それはもう発見なのだ。トイレの電球の設置具合が悪く、いつも用を足している最中に電気が消えてしまい、殺し屋か霊的な何かが襲ってきたと思って大パニック。的は外すわ、パンツを上げるかトイレから逃げるかで困惑するわで叫ぶしかないわで色々な意味で哀れな僕が、根本的解決方法として電球をガムテープで止めるという方法を思いついたのも立派な発見だ。

いつもの道とは違う近道を見つけるのだって立派な発見だし、山岡君が最初にチョキしか出さないって気づくのも大きな発見。別に立派な、人類全てに役に立つ発見でなくても、個人レベルでの発見だって大いに有意義なはずなのだ。その一つ一つを大切にし、自分の中で満足に浸る。ちょっと得しちゃったよね、僕って偉いと満足する。平凡な僕らはきっとそれでいいのだと思う。

最近の僕において最も衝撃的といえる発見は、やはりエロ本に尽きる。本当に最近の僕は親が見たら泣くぞって程にエロ本にご執心で、25歳当時の僕のエロ本好き度をコンビニ前でたむろしている若造レベルとするならば、29歳現在の好きレベルは試合前の亀田三兄弟レベルだ。エロ本に飢えてやがる。それほどにエロ本が好きすぎる。何がここまで僕をエロ本に駆り立てるのか知らないけど、とにかくエロ本が好きすぎてたまらない。

人間は、特に好きなことに対しては努力を怠らない。努力を怠らないと言うことは、言い換えると様々な発見があることに他ならないのだ。そう、努力とは小さな発見の積み重ねに他ならない。

やはり、この大好きなエロ本においても、僕は小さな発見を怠らない。どの雑誌が良い出来で、どの雑誌がダメなんて入門レベル。それが発展すると作家レベルまで突き詰めることになる。これらは全て発見であるし、努力に他ならない。

そしてエロ本自身に限界を感じて次のステージに移ると、エロ本自体から離れ、エロ本を取り巻く環境に目が行くようになる。読むシチュエーション、買うシチュエーション、その後の処理。あえて恥ずかしいことをしたらどうなってしまうんだろう。エロ本自身とは関係ないところにカタルシスを求めてしまうのだ。

何度もここに書いているように、職場でエロ本を読むと興奮する。清純なアルバイト女学生から買うと興奮する。禁断のエロ本が職場の引き出しに入ってると思うだけで気を失うほどにドキドキする。これらは興奮を求め、求めつくし、探求した結果に行き着いた発見であって、決してお遊びレベルの児戯ではない。いたって本気。いたって真面目。人生を賭してでも歩むべき極めるものには「道」がつくっていうけど、剣道、柔道、空手道などに並んでエロ本道だってあっていいはずだと思うほどに追い詰められているのだ。

発見をし満足する。しかしそれだけでは満足せず、また新たな発見を模索する。その苦悩の末に行き着いた発見は価値あるものだと心の底から思う。きっと、どんな場面でもコレがあるから人類はここまで発展してきたのだと思う。そう、例えエロ本であっても、それは人類進歩の礎なのだ。

さて、そんな人類の進歩と調和みたいなレベルで発展していく僕のエロ本ライフなのだけど、つい先日、新たな発見があったことをお伝えしたい。

最近では職場近くのコンビニで出勤時間にエロ本を買うという、いわゆるいつ同僚に見られるかわからないチキンレースみたいなエロ本ライフにも飽きてしまい、もっぱらエロ本を買うことなく普通に食料などや飲み物を買っているのだけど、そうなると何も職場近くのコンビニで買う必要ないじゃないかという発見をしてしまい、出勤経路の途中にあるコンビニに立ち寄るようになった。

いつもの職場近くのコンビニと違い、ここはオニギリの残存率が非常に高い。職場近くのコンビニはオンタイムを逃すと赤飯おにぎりしかないという散々たる状況なのだけど、ここはオンタイム以外でも一番人気のわかめご飯オニギリがあるなど、多分にアドバンテージが高い。

チキンレース的な要素を考慮しなければ職場近くのコンビニに行く義理もないわけで、当然ながらいつでもオニギリ満載のこの途中コンビニに立ち寄ることが多くなるのだけど、このコンビニがまた非常に狂おしいことを発見してしまったのだ。

僕の出勤時間はキチガイで、そんなに早く行かなくてもいいのに深夜ともいえる早朝4時とかに出勤することが多いのだけど、出勤の折、そのコンビニに立ち寄ると大体同じ店員さんが死んだ目をしてレジに鎮座していて、なんだか僕の胸を締め付けるんですよ。

深夜−早朝枠という最もハードであろう時間帯なのに、いつも母親くらいの年齢のヨボヨボの女の人が入っていて、髪なんか白髪交じり、浅黒い肌が年齢の深さを物語っていて、頬なんてこけてて大変な状態。

ひゃっほー!このコンビニは深夜でもオニギリが抱負だぜー!と意気揚々とレジに差し出しても、そのお母さんみたいなヨボヨボの店員さんがオニギリを差し出してくれるだけで泣ける。体の弱かった母が「応援行けなくてごめんね」と運動会の時に無理して作ったいびつなオニギリを差し出してくれたことを思い出して泣ける。オツリの小銭を貰いつつ、母親に「理科の参考書を買う」と嘘8000なこといってキン消しのガチャガチャに夢中になったことを思い出して泣けてくる。

ホント、こんな母親みたいな年齢の、それもヨボヨボのお母さんが深夜のコンビニで働かないといけないなんて、日本経済はどこか狂ってやがる!と憤りつつ、その店員さんを母さんに見立てて心安らいでいたんです。

ある時、春先なのに肌寒い、深夜となるとなおの事寒い日のこと。いつものように件のコンビニに早朝4時くらいに行くと

「4月なのに寒いわねー」

と、おっかさんに話しかけられた。

「ええ、寒いですね」

僕も店員さんに話しかけられるってのが嫌いで、服を選んでる時にハウスマヌカンっていうの?オシャレな店員が来て「お似合いですよー、コレなんか若い人に売れてますし」とか言われようものなら散弾銃で撃ち殺したくなるのだけど、おっかさんとなれば話は別。物凄い爽やかに切り返しつつ、いつもの如くオニギリやら飲み物やらを買っていたのです。

「アンタ、いつも冷たい飲み物ばかりじゃない」

朝っぱらからコーラばかり買っている僕に向けて差し出されたのは温かい缶コーヒー。100円玉で買える温もり。おっかさんは皺くちゃの顔をさらに皺だらけにして缶コーヒーをくれた。

「ありがとう、おっかさん」

声には出さなかったけど、僕は心の中でそう呟いた。凶悪な事件が溢れ、人間関係が希薄なことがクローズアップされがちな現代。しかしながら、こんな温かい触れ合いがあるだなんて、なかなかどうして捨てたものじゃないじゃないか。

それからというもの、なんか僕とおっかさんはコンビニ店員と客という垣根を越えちゃいましてね、なんだか親子のように言葉を交わす間柄になっちゃったんですよ。

ある時は、あまりにヘベレケな僕の格好を見て「ネクタイ曲がってるじゃない、しっかりしないと」とネクタイを直してくれたり、「野菜を食べな、野菜を」と、唐揚げてんこ盛りの弁当を買わせてくれなかったり、雑誌コーナーでウロウロしてると、「ヤンマガは明日発売だよ(田舎なので1日遅れることがある)」と忠告してくれたりと、なんだか本当の親子みたいになったんです。

僕はまあ、母親を亡くしてることもありまして、本当にこのおっかさんを母として慕い、おっかさんが休みで入っていない時なんかは「体調崩したんじゃ・・・?」と本気で心配したりして、実の母親以上に気にかけていたのですが、そこでふと思ってしまったんですよ。

ここでエロ本を買ったらどうなってしまうんだろう。

人は誰しも合理化という枠に収まりきらない思想を持っているものです。合理的でないと思いつつもあえてやってしまうとか、それだけはやっちゃいけないと分かっていつつ、あえてやってしまうとか、僕らは機械じゃないですから、時に数式やセオリーでは計り知れないバカな事をやってしまうんです。

で、母親として慕っているおっかさんからエロ本を買ってしまったらどうなるんだろう、って好奇の気持ちが慕う気持ちより勝ってしまいましてね、もう誰にも止められないぜって勢いでいつものコンビニに赴いてしまったのです。

いつものように入店すると、おっかさんが一人でパンコーナーで品出ししているのを確認。いつもならここでおっかさんに近づきつつ軽口を交わして食料などを購入するのですが、ここは思春期で反抗期の中学生の如くおっかさんをガン無視。一目散に雑誌コーナーへと向かいます。

でまあ、既にエロ本自体に大興奮するステージは通り過ぎてますので、もはや何でもいいといった趣でエロ本をチョイス。あえていうならインパクトあるエグイ表紙の物を選んでみました。「人妻」「鬼畜」「緊縛プレイ」みたいなご機嫌ワードが踊るエロ本です。

それを手に持ち、颯爽とレジへ。その動きを察知してか、品出しをしていたおっかさんも笑顔でレジへと向かいます。視線で僕に話しかけてくるみたいな、まだ何が起こっているのか理解できず、ただ嬉しそうに「あら、息子がきたわ、もうそんな時間かねえ」みたいな慈愛と喜びに満ちた表情でした。

レジで対峙する僕とおっかさん。一度は擬似親子と言って良い位までに親交を交わした二人。おっかさんは「タダシ、今日も仕事頑張るのよ」みたいな満面の笑み。その瞬間ですよ。

ババン!と叩きつけるようにレジに置かれたエロ本。着物が着崩れた女の人が悲しそうな目でこちらを見つめるダイナマイトな表紙。それを見た瞬間のおっかさんは表情を固めた。

「うそ・・・そんな・・・」

まるで裏切られたと言わんばかりの悲しい表情で僕を見つめる。まさか、あんな仲良くなった息子が私からエロ本を買うなんて。そりゃ、確かに深夜だと多くの男性がエロ本を買いに来るわ。でも、まさか、この子に限って、この子に限って・・・。

もう、その瞬間、僕の脳内は大洪水のエクスタシーですよ。脳内麻薬がドバドバ分泌され、ああ、今僕はおっかさんの期待を裏切ってエロ本を買っている。そう、エロ本を買っているんだ。信頼してくれてる人を裏切ってエロ本を購入する、なんて快感なんだ。

新たな興奮するエロ本の買い方を大発見し、これだけのために長い年月を積み重ね築き上げてきたものが崩壊するカタストロフィー。ワナワナと震えつつ、それでもどうしていいのか分からないおっかさんの表情。全てが極上のエッセンスで大興奮のうちにイッたのです。精神的にイッたのです。

結局、僕は客なので、どんなにショックを受けてもおっかさんはレジ処理をするしかなく、ピッとバーコードを読み込ませるのですが、その刹那、家族との夕食の席でテレビドラマがラブシーンを放映し始めた時のような、「カンチ、セックスしよ」と放送しだした時のような、2Gくらいの重苦しい空気がレジ周りを包みます。

最終的にはおっかさんがエロ本のみを袋に入れて渡してくれたのですが、その光景が中学生時分に勝手に部屋の掃除をした母親の手によって1ミリの狂いもなく隠していたエロ本が机の上に並べられていた時とマッチし、なんともいえない興奮を僕に与えてくれたのです。

いつも他愛もない世間話をする僕とおっかさんなのに、この間の会話は一切なし。モウ、その余所余所しさにも大興奮。あんなに親しく会話を交わしたのに今や他人!もうこれだけでご飯3杯はいける。

結局、人の信頼だとか交友関係だとかをぶち壊して購入するエロ本は最上の興奮を与えてくれる、という新たな発見を見出した僕は、今日も孤独なエロ本道を突き進んでいくのでした。やはり発見は人生において最高のエッセンスなんだ。

このカタストロフィエロ本の発見に味を占めた僕は、また信頼してくれてる人をエロ本で裏切って興奮しようと、職場で僕に最高の信頼を寄せて「マジpatoさんはすげーっすよ、尊敬するっス」とか言ってる頭の弱い後輩に、ワザとエロ本を読んでるところを目撃されましたところ、またもや沈痛な時間が流れ、妙に後味の悪い会話を交わし、確かに大興奮したのですが、その後輩が瞬く間に噂を広めてしまい、「あの人はエロ本狂い」というワリと正解な噂話でヒソヒソ話をされるようになった僕は、ただでさえ立場なかったのにさらに立場なくなり、発見というよりは発狂しそうな日々を悶々と過ごしているのです。


5/12 ぬめぱとGWレィディオ

ぬめぱとGWレィディオ-近所のスーパーのレジのおばさんが角刈りで我慢できないスペシャル-

放送開始 5/12PM10:11〜
放送URL 終了しました
放送スレ 終了しました

放送内容 
・GWの思い出
・社会にパンチ
・中学生時代のエロい思い出


5/6 フレンジャー

いやー恐ろしい。とにかく恐ろしい。ハッキリ言って脅威だ。

僕が小学生だった時、クラスナンバーワンの威力を誇るとんでもないブスな娘っ子がいて、何故だか知らないけど「むじな」っていう愛嬌もクソももないニックネームで呼ばれていたのだけど、ある年のバレンタインデー、誰が「むじな」からチョコを貰うかで騒然としたことがあった。小学生くらいのガキってのは残酷なもので、本当に人間的にどうしようもないのだけど、「むじな」からチョコを貰った瞬間、その男子の学校生活は終焉を迎えるといった機運が否応なしに高まっていく中、果たして誰が貰うのか、隣の席の彼か、ハンサムボーイの彼か、スポーツ万能の彼か、と一同が固唾を呑んで見守った。すると、ドロローンという効果音と共に教室に入ってきた「むじな」は、あろうことかビニール袋いっぱいに、どう少なく見積もってもクラスの男子全員に行き渡るであろう物量のチョコを持参してきやがって、後に「むじなタイフーン」と呼ばれるほどの猛威を振るったのだけど、そんな幼い頃のトラウマがひよっこレベルに感じられるほどに恐ろしい。

なにが恐ろしいかって言うと、言わずと知れた大塚愛なんですけど、もう彼女の魅力がとんでもない所まできてる。魅力がありすぎて恐ろしい。脅威すら感じるほどだ。

賢明な方なら、僕が大塚愛を文字通り愛して止まないのはご存知だとは思いますが、もう、皆さんが想像しているレベルの7倍は愛してしまってますからね。彼女が「一緒にお昼ごはん食べようよ」とか言おうものなら、親の葬式くらいなら平気で欠席しますからね、それくらい愛してしまってる。

昨年のことなんですけど、KDDIが提供するAUにて大塚愛モデルの携帯電話が売られたことがありました。W31Tという機種だったのですけど、彼女の歌の着メロが最初から入っているというご機嫌な仕様、もちろんCMにも登場してパンフレットやポスターにもババーンと大塚愛が。

もうね、著しく発奮してしまった僕は速攻でDoCoMoの携帯を解約しましてね。AUショップに猛ダッシュして件の機種を購入しましたよ。電話番号が変わろうがメールアドレスが変わろうが関係ない。携帯の中に入っていた山盛りのエロ動画が消えようが関係ない。全てをかなぐり捨てる勢いで購入しましたよ。

冒頭で「大塚愛の魅力が恐ろしい」って言ってるのはこの部分にありましてね、もはや彼女がCMしたら何でも買ってしまいそうな自分が恐ろしいんですよ。

今でこそ携帯電話や変な洗剤みたいな物のCMしかしてない彼女ですが、そのうち車のCMとか始めた日にゃ、どんな無理してでも購入してしまうかもしれない。車ならまだいいんですけど、マイホームなどのCMだったらどうするか。「大塚愛、MISAWAホームに決めました」とか「愛の家は蔵のある家」とかCMされたらどうするか。どんな無茶なローンを組んででもマイホームを購入してしまうかもしれない。もうそれくらいのところまで追い詰められてるんですよ。

そんな大塚愛がまたも新型携帯W41TのCMをやってるわけですが、「私の携帯は2000曲」とか、この殺伐とする救いのない現世に舞い降りた天使みたいな笑顔で言ってるのですが、当然ながらこの機種も欲しくなるじゃないですか。家とか車のCMじゃなくて良かったと安堵しつつ、どうしても欲しくなるじゃないですか。もうね、休日を利用してAUショップへと赴きましたよ。

AUショップってのは楽しいものでして、なんといっても、若くて綺麗なお姉さんがショップを預かってることが多いじゃないですか。小さなショップなら一人で預かってることも多いですし、大きなショップでも何人かのお姉さんが甲斐甲斐しく働いているではないですか。やはり客商売、それも携帯電話関係ってのはそういった綺麗なお姉さんが多いんですよね。

僕は、働くお姉さんってのが大好きで、とにかく携帯ショップで働くお姉さんを眺めるだけで至福の喜びを感じるのだけど、そのためか、お姉さんと二人っきりの貴重な時間を過ごすべく、町外れの小さな小さなAUショップを狙っていくんですよね。

都会じゃどうだか知りませんけど、田舎の町外れの方なんてプレハブみたいな小さなショップっが主流ですから必然的にお姉さんが一人でショップを守ってることが多いんですよね。そんなところに機種変更の相談にでもいってごらんなさい。結構長い時間二人っきりで、「料金プランは・・・」とかまるで結婚プランを立ててるかのようにめくるめくる時間が過ごせますから。そのうち二人は盛り上がっちゃって、「こちらの新機種もオススメですが、こちらのほうはどうですか」「あれ、どの機種ですか」「私です・・・」お姉さんは濡れた瞳でそう言った。「はじめて会った時から私・・・」「おやおや困った人だ」あとはもう、ショップ内でお姉さんと情熱的にパケット通信、そんな展開が1ミリでも期待できるから小さなショップを狙っていくべきなんですよね。

町外れの川の近くにある小さな小さなAUショップ。絶対的にオレンジに彩られた店舗に「My割り」とかいう勇ましいノボリが風にはためく概観。通常ならば綺麗な店内に携帯電話が並び、カワイイ娘が一人で切り盛りしてるような、そんな素敵な展開を予想させる店舗です。

よし、ここなら大丈夫。

ここのお姉さんはカワイイだろうか、ちょっとエロだったらどうしよう!なんて期待を胸にいざ店内へと踏み込んだその瞬間ですよ。

ドアを開けた僕の目に飛び込んできたのは部品を取られ、骨だけの状態みたいになったパソコンの本体ですよ。で、その横にはデロリと剥き出しのハードディスクみたいなのが転がってるの。

はて、ここはAUショップのはず。

間違えたかと思って一度店の外に出てノボリを確認したのですけど、やっぱり「My割り」とかふざけたノボリが星条旗の如く風にはためいているんですよ。おかしい、おかしい。

普通に考えると、日本全国どこのAUショップでも、店内に入ればAUの携帯電話が並んでいて、色々な機種や料金プランのパンフレットが並んでいるはずなんですけど、何をどうやったら骨組みだけのパソコンが鎮座している状態になるのか分からない。

どうかんがえても玄人仕様の自作パソコンン(しかも組み立て中)とAUが繋がらないんですけど、落ち着いて店内を見回してみるとさらに凄い。

なんかですね、マニアな人が使うみたいな無線機とか、盗撮用途としか考えられない小さなカメラ、あとは埃をかぶったペンティアムの箱とかが乱雑に陳列されてるんですよ。

AUはいつから秋葉原の裏路地にあるマニアの店みたいになったんだ、とか思いながら更に店内を見回すと、やはりAUショップだったらしく物凄い片隅にAUのコーナーがありました。

どうにもこうにも、前は普通のマニアなパソコンショップだったか盗撮盗聴ショップだったみたいなのですが、あまりに売れないためかAUショップにも手を出しちゃいましたみたいな雰囲気がムンムンに伝わるオマケっぷりで、明らかに浮いてる状態で申し訳程度にAUコーナーがありました。

で、そこの片隅には店員と思わしきサモハンみたいなオッサンが座っていて、何やら熱心に書類を書いている様子。というか、綺麗なお姉さんとかどこいったんだ。しかも、客が来てるのにガン無視で書類作成とかどうなってるんだ。

「すいません、ちょっと携帯のことで・・・」

と僕が話しかけると、サモハンは

「ああ、すいません、ちょっと今手が離せないもので、おーい、柳田君!」

すると店の奥からですね、ドライバーを手に持った、見るからにパソコンを組み立ててそうな青年がノッソリと店の奥から出てくるんですよ。見た感じ、全盛期の渕正信みたいな青年が、「今日はどうしましたかな」と凄い得意気に話しかけてくるんです。

おいおい、なんだこのAUショップは。僕が期待していたお姉さんがヒトカケラも存在しないじゃないか。それどころか、サモハンに渕ととんでもない布陣。一体どうなってるんだとワナワナとするのですが、とにかく話しかけます。

「あのー、なにか今使ってる携帯が壊れてるみたいで、落としちゃったんですけど、それから充電できなくなっちゃったんですよ」

さすがに、大塚愛がCMしてるからその機種が欲しい、なんて口が裂けても言えず、本当に携帯が壊れてたのでそれを口実に機種変更を迫ります。

この辺の微妙なニュアンスを分かって頂きたいのですが、僕は「大塚愛が」「CMしてるから」「その機種に変更したい」と真っすぐ行くのは苦手です。そうできる積極性があるのならもう少しマシな人生を歩んでいるかもしれませんがあくまで受動的に、壊れたので仕方なく機種変更したら、たまたま大塚愛がCMしてる機種だったというのを狙っていきます。そんな感じで切り出したところ、

「僕はですねー、携帯の方の係じゃないんですよ。普段は自作パソコンの販売の方をしてまして、ちょっと詳しくないんですが見てみますよ」

と、そんなこと僕に伝えられてもどうリアクションしていいのか分からないこと言い出しやがるんですよ。で、一通り僕の壊れた携帯をあれこれ検査し、彼が一言。

「充電のところの端子が壊れてますね。修理に出せば1万円くらい。修理に出しておきましょう」

とかなんとか言いやがるんですよ。そんなことされても困る。こっちゃあ大塚愛の新機種が欲しくて来てるのに、修理とか何たわけたこといってるんだ。

「修理かあ・・・どうしようかなあ・・・」

しかし、ハッキリと「機種変更したい」とは言えず、微妙に乗り気でないことをアピールする僕。しかし、彼は止まらない。

「まあ、コレくらいの修理ならすぐですよ。修理に出してる間、こちらで代替の機種も貸し出しますしね。あ、ちょうど同じ機種が貸し出し用でありますよ、それをお貸ししますね」

と、代替機種の準備まで始める始末。さすがの僕もコレには焦りまして、

「いえ、あの、ちょっと、機種変更とかどうですかね?」

と自分から切り出しました。しかしながら、彼は

「機種変更ですか?うーん」

と乗り気でない様子。機種変更に乗り気でない携帯ショップの店員なんて初めて見た。

「いやー1万円も払って修理するなら、新しい機種に変えたほうがスッキリするかと」

大塚愛の新機種が欲しいとは言えない僕。なんとか不本意ながらも機種変更しようという形で切り出します。

「機種変更ですか?ちょっと調べますけど、今の機種はお使いになられてからどれくらいですかね?」

「10ヶ月くらいです」

「あー、それならあまり割引きされないですから2万円以上はかかってしまいますね・・・やはり修理の方がいいですよ、今準備しますから」

と、一蹴。何が何でも機種変更はさせないと言う熱い気概がビンビンに伝わってきます。何が彼をそうさせるのか。

「いや、ちょっとくらいかかってもいいですよ。機種変更させてください!」

とまあ、恥も外見もかなぐり捨ててですね、なんとか機種変更を直訴。すると、彼も渋々了承したといった感じで

「じゃあ、あちらにある機種から選んでください」

やった!ついに機種変更をする権利を手に入れたぞ!と喜ぶのですが、ここで一気に大塚愛がCMする機種に猫まっしぐらでは元も子もありません。吟味していたら”たまたま”大塚愛の機種になった、という雰囲気が必要なのです。

興味がない別の機種を見ながら、「これってどうなんですかね」とかたずねると

「あー、これはSONYのやつですね、若干古いですから値段もそこそこ、オススメですよ」

とかなんとか、アンタ、確か自作パソコンの方の係で携帯には詳しくないって言ってたじゃないか、なのにやけに詳しいな、と思いつつも様々な機種を吟味ですよ。まあ、興味ないのでほとんど話を聞いていなかったのですが、なんとかお目当ての大塚愛機種が陳列されているところまできました。

「あ、これ、なんかデザインがいいですねー」

白々しくお目当ての機種を手の取る僕。しかし、ことごとく邪魔をしてきた彼は許さない。

「あー、その機種はちょっとオススメできないというか・・・」

とやけに煮え切らない様子。

「え?ダメなんですか?」

「まずですねー、出たばかりの機種なので値段が高いですね」

「はあ」

「あと、これは4.0Gのハードディスクを搭載した機種なんですけど、携帯電話にハードディスクなんて笑っちゃうでしょ」

大塚愛機種に何の恨みがあるんだってくらいの罵りっぷりなんですよね。というか、笑っちゃうでしょ、とかとても携帯ショップのセールストークとは思えない。

「私は自作パソコンの係なんですけどー、ハードディスクってのは腰くらいの高さから落としても大丈夫っていう基準があるんですよね。ただ、携帯になると普通のハードディスクより衝撃を受ける可能性が高いわけで、その辺の耐衝撃性がこの機種でどうなってるのか私には分かりません」

とかなんとか、やけに専門的な話になってきて訳わかんないんですけど、とにかく僕にとっては耐衝撃性とかどうでもいいわけで、それどころかハードディスクが何ギガだろうが、壊れやすかろうが全然関係ないんですよね。とにかく、大塚愛がCMしているこの機種が欲しいだけですから。しかしながら、本当の気持ちを切り出すことが出来ず、

「いや、まあ、壊れやすいかもしれないけど、それでもハードディスク搭載は魅力ですね」

とか、またも無難なことを言ってました。

そしたらアンタ、突如、彼が激高し始めましてね。

「あのですね、アナタ、前の機種も落として壊したんでしょ。それなのに今度はハードディスク搭載の機種買おうってなんですか。ふざけてるんですか。こんなの買ったらすぐ壊れますよ!」

とか、なんでそこまでしてこの機種を買わせたくないのか分からないのですけど、彼はプルプルしながら怒ってるんですよ。僕もまさか携帯ショップに機種変更しに行って説教食らうと思っていなかったものですから

「はあ、すいません」

とか普通に謝ってました。僕、そんなに悪いことしてないのに。

「大切にするから、僕この機種使いたいです」

とかなんとか、子供が動物を飼ってもらう時の「大切にするから」「ちゃんと面倒見るから」的な、何でこんなこと言わなきゃいけないんだってことまで宣言したのですが、

「ですから、こちらのソニーの機種の方が安いしオススメです。壊れにくいし。それか、前の機種を修理した方が・・・」

とか、またもとんでもないことを言い出しやがり、振り出しに戻りそうな気配が垣間見えたものですから、もう限界と判断。さすがにこれ以上は隠し切れないので

「いや、実は、大塚愛がCMしてるから欲しいんです、これ・・・」

と物凄く小さい声でカミングアウトしてました。まさか携帯ショップで自分の嗜好をカミングアウトする羽目になるとは思わなかったよ。

「いやー、私もね、昔は長山洋子の大ファンでさ、色々と買い漁ったものですよ!」

と妙に打ち解けてしまい、店内にあった大塚愛パンフレットやらポスターやらをオマケでつけてくれました。

その後、目の前で機種変更作業を見せてもらったのですが、なんかどっかに電話をかけて、送られてくる電波で旧機種の抹消作業と新機種の登録作業が自動で行われる様子を見て大感動。この辺の作業は普通は目の前で見せてくれないですから、何か特別な機械とかに繋いで機種変更作業していると思っていた僕は大興奮ですよ。

おまけに聞いてもいないのに、電波だけで抹消作業が出来るってのはセキュリティ面で不安ってよく言われるんですけど、AUの場合はセキュリティがしっかりしてますからね。AUの携帯って電話かけるときプップップッって音が長くするでしょ?あれってかなり高度なセキュリティ認証してるんですよ。だから電波で登録関係が処理できても大丈夫なんです。とか凄く詳しく色々と説明されてまいった。

なんとか機種変更作業も完了し、晴れて大塚愛機種を購入することに成功。さっそく大塚愛の壁紙をダウンロードして待ち受け画面にし、満面の笑みで店を後にしたのですが

ゴロゴロゴロッ

と、買って30分もしないのに手を滑らせてアスファルトの上に落としてました。

ハードディスクは壊れなかったのですが、画面が壊れたらしく、待ち受けの大塚愛が見るも無残な状態になってました。なんかベロベロに歪んで怪物みたいになってた。それはまるで、幼き頃に猛威を振るった「むじな」のようで、時空を超えてむじなタイフーンがやってきたぜ、大塚愛も「むじな」も恐ろしい、と肩を震わせるのでした。3万円も出した携帯を30分で壊して、死にたくなった。


5/2 過去ログサルベージ

超!多!忙!

と言うほど多忙でもなく、むしろ暇だったりするのですが、なんとなく文章を書く気がしないというか、自分の中の何かがノッてこないというか、本の編集作業だけでお腹いっぱいとか、そういう何かがあって日記を書く気が全くしません。

まあ、長いことサイトをやってればこういうことも多々あるわけで、決して面倒だとか、MOTHER3やってるとか、FF12をやってるとかではありません。そんなわけがない。ありえるはずがない。ただ、ちょっとクリエイター気取って「気分が乗らないから書けない」って言ってみたいだけなのです。

そんなこんなで、大型連休時や盆正月などの長期休暇時の強い味方、過去ログサルベージをモロッとやってしまいます。

サーバーの容量がないからといいつつ、本当は恥ずかしいから削除してしまった、今や読むことのできない過去ログをモリッとサルベージ。主に僕だけが恥ずかしい思いをするとんでもない企画です。

ということで、まずはNumeri初期、開設から11ヶ月くらいの頃に書いた日記。僕がネカマに燃えていた高校時代のお話です。今読むと死ぬほど稚拙で恥ずかしいですけど、読んでやってください。それではどうぞ。

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2003/9/28 嘘みたいな I Love You

僕はネカマのマニア。いわゆるネカマニアだ。ネカマをこよなく愛し、雄大なる心でネカマを許容している。ネカマこそ素晴らしき文化であると思っているのだ。

ネカマとは、簡単に言ってしまえばネットで演じるオカマの事である。相手の顔が見えないネット社会に置いて、自分の性別を偽る事は簡単すぎる。そんな特性を利用し、ネット上で女を装い、数多くの男を翻弄する。それがネカマだ。

僕は、過去に何度となくネカマに辛酸を味あわされてきたものである。ネカマと真剣にメール交換をしたり、ネカマに会いに行ったりと。途中で自分的にも「これってネカマかな?」などと疑ったりもするのだが、悲しいかな、決定的な証拠を掴むまでは騙され続けるものである。おかしいおかしいと思いつつも騙され続けるのだ。悲しい男の性。

ネカマに騙されるたびに僕は涙し、ハンカチを噛み締めて悔しがったりもするのだが、そんな気分もすぐに吹っ飛んでしまう。時が経てば、なんて見事な騙しっぷりなんだとネットワークの向こうにいるネカマを賞賛したりもするのだ。

所詮、男と女の関係なんて、騙し騙されのラブゲームなのである。根本である性別すらも騙されていたとしても、それは仕方のない事。金銭問題などが絡んでこない限り僕は怒らない。それどころか、天晴れと思ってしまう。

ネカマはネット社会が生んだ独特の文化である。他者との繋がり合い、つまり電話や手紙などコミュニケーションツールでは性別を偽るのはなかなか困難だ。しかし、ネットでは性別なんて簡単に偽れてしまう。ものすごく。簡単なのだ。

簡単とは言っても、それは女性になりきるのが簡単だと言う話で、他者を騙すにはそれなりの難しさがある。騙す前にきちっと設定を確認し、入念な下調べを行う。それぐらいの用意周到さがないと、なかなか人は騙せないものだ。

真のネカマは、それでいて優しい。性別を偽って男を騙してどうこうしようというわけではない。金を取ろうとするわけでもなく、待ち合わせ場所に呼び出して笑い物にしようというわけでもない。ただ単純に自分とは違うキャラになりきって人とコミュニケーションをとるだけなのだ。

そういう意味では、ネットでコミュニケーションをとっている人間の多くが自分を偽ったキャラを持っているといった現状がある限り、誰もネカマを責める事はできない。ハンドルネームを有してテキストサイトをやるという行為は、仮の名前で人々とコミュニケーションを取る事であると思うし、ネカマをやるという事は仮の性別で人とコミュニケーションを取る事で、そこに大きな違いはない。誤解なきように言っておくが、これは上記のような「優しいネカマ」だけの話である。

そういった意味では、ネカマは非モテに夢を与えてくれる有難い存在である。元々男なので、男心は承知しているし、男が喜ぶポイントも的確に心得ている。ある意味、男の描く理想系のような女性がネット上に存在し、自分の相手をしてくれるのだ。本物の女性にあまり相手にされない僕らにとって、これほど有難い物は他にはなかった。

優しいネカマとの素敵なメール交換が始まる。楽しくて楽しくて、メールチェックをしながら心が躍る。まだ見ぬ理想の相手に思いを馳せながら、ルンルン気分で必死に返事を書く。その姿は幸せそのものなのだ。現実なんてどうでも。メールの相手がムサイオッサンであろうと構わない。ネット上でのキャラが理想の女性であるならば僕らは満足なんだ。 

断言してしまおう、優しいネカマは僕達に夢を与えてくれる天使なんだと。

ただ、ネカマをやるのも簡単ではない。上でも述べたような「設定を確実に下調べして」という方法論もさることながら、その心構えが難しいのだ。やるからには絶対に後に退いてはいけない。やりとおさねばいけないのだ。途中で正体をばらし、相手を絶望のどん底に突き落とすような真似はしてはいけない。やるからには最後まで、その信念がない限りネカマをやるべきではない。半端な気持では「優しいネカマ」はできないのだ。

以前に僕も、優しいネカマを目指してクラスメートを騙した事がある。とても辛く、心苦しい思い出だ。

僕の通っていた高校には、コンピュータールームというものがあり、6台ほどのマックがネットワークに接続された状態で、誰でも使えるような状態にしてあった。そこはパソコンオタクやら二次元の美少女を愛するお兄様達の溜まり場になっていた。まあ、傍目にはオタク部みたいなものだった。

そこでは、毎夜チャット大会が催されていた。当時話題だった「サクラ大戦」とかいうキャラに萌え、こよなく愛するオタッキーどもが集うチャットに、お兄様たちは足繁く通っていたのだ。6人のオタクどもが、6人とも同じチャットルームに入り、サクラ大戦について熱く語る。時折画面を見ながらグフフと笑う。本当に異様な光景だった。

それを見ていた僕は、何が彼らをそこまで夢中にさせるのかと気になった。毎日毎日飽きもせず彼らを通わせる、そのチャットが気になて気になって仕方がなかった。だから、僕もそのチャットに秘密裏に参加する事にしたのだ。

彼らの使用した後のパソコンから、ブックマークを参照し、件のチャットルームのアドレスを確認する。彼らはいつも6人で6台しかないパソコンを占有していたので、僕は別室からアクセスをした。

そこには、彼ら6人しかいなかった。「サクラ大戦ラブラブチャット」と銘打たれたその部屋には、紛れもない、彼ら6人しかいなかったのだ。そう、彼らは同じ部屋からチャットルームにアクセスし、自分達だけで文章を用いて会話をしていたのだ。そんなもん、口で言ったほうが早そうなのだが、なぜかチャットで話していた。なんとも理解に苦しむ行動だ。

その様子を別室のパソコンから見ていた僕は、腹立たしく思った。外部から誰も人間が来ないようなチャットで、身内だけで話をして何をしてるんだと。パソコンルームのパソコンを占拠し、毎日やってるのはこれか!?などと怒りに震えたものである。

しかし、落ち着いて彼らの打ったログを見ていると、そこには切なさが漂っていた。オフラインでも顔を付き合わせる6人。むさいオタクどもでチャット大会。見るのも辛いぐらい哀れになってきた。なんとかして彼らにも外部の人と、身内以外の人と話をさせてあげたい。グローバルコミュニケーションの楽しさを教えてあげたい。そう思う僕の心からは、怒りは消え慈愛だけが溢れていた。

そうか、ならば僕が外部の人間になってあげればいいのではないか。厳密に言えば、僕は彼らとは顔見知りであるから、外部の人間ではない。でも、自分を偽ってチャットに参加すれば表面上は外部の人間である。それで彼らが喜ぶなら・・・。


そう思った僕は、名前を入力し、「入室」ボタンを押していた。名前は「サクラ大戦」から取り「さくら」とした。 
その刹那。オタクチャットのログが爆発した。

「こんにちわ!!!さくらさん!!!」

「はじめまして!!!」

「さくらさん!!さくらさん!!」

オタクどもは興奮が隠せない様子で、狂ったように「さくら」に対してメッセージを送ってきた。少し物怖じしながらもメッセージを送る。

「さくら:こんにちは」

その一言だけで、6人は大歓喜。

「さくらちゃんは何処に住んでるの?」

「ねえねえ、女の子なのにゲームとかするの?」

なんてことだろうか。僕はキャラこそは偽ろうと思っていたのだが、性別まで偽る気はなかった。なのに彼らは「さくら」という名前から、勝手に女性を想像してしまったのだ。仕方ないので話を合わせていく。

「うん、大阪に住んでるよ」

「ゲームはよくやるよ。好きだから。弟が買ってくるんだ」

などと、どんどんと自分を偽っていく。そして6人は興奮のるつぼだった。

「じゃあさ、どのキャラが好き?」

不意にオタクの一人が質問してくる。まいった。チャットに入ったはいいものの、ここは「サクラ大戦ラブラブチャット」だ。サクラ大戦というゲームについて語り合う部屋。けれども僕はそのゲームがどんなものかも知らない。まずい、まずい。サクラ大戦を知らない女の子が、こんなところに入ってくるはずもない。明らかに不自然すぎる。

「あ、ごめん。お母さんが呼んでる。ちょっと落ちるね」

その日、僕のチャットは数分で終わってしまった。不本意ながらも初めてのネカマ。その状況設定と下調べの大切さを身を持って痛感した。

僕は帰りがけに本屋に立ち寄ると「サクラ大戦」の攻略本を購入し、入念にキャラからゲームのシステム。ストーリーの流れまでを確認した。明日こそはもっと彼らに喜びを振舞えるだろうと。

次の日。

また6人で話し合うチャットルームに「さくら」が降臨する。昨日とは違い「サクラ大戦」に関する知識はばっちりだ。時折コアな話題を振ってくるバカがいるので攻略本片手にチャットだ。何時間も何時間もサクラ大戦について語り合った。僕はビタイチそのゲームをしたことないのに。

そんな奇妙なチャットが何日も何週間も続いた。僕ら7人はすでに打ち解けあい、色々な話をするようになっていた。もうゲームの話なんてのはしなくなってて、日常に関する話題がほとんどだった。

僕は大阪の女子高を調べたり、適度な住宅地を調べて住所を偽ったり。大阪の交通手段についても調べていた。完璧に「さくら」という女の子を演じ続ける必要があったのだ。皆は「さくらちゃんに会いに大阪に行きたいよ」などと漏らしたものである。なぜだかこの一言は僕の心を急激に締め付けた。

壁一枚を隔てて、オタク6人と「さくら」は急速に仲良くなっていく。もうチャットだけではなく個々にメール交換をする仲にまでなっていた。A君とは恋愛相談、B君とは進路に関する相談。C君とは成績に関する悩み相談などなどと「さくら」になりきってメールをしていた。そして、ある時、僕は気がついてしまった。

オタク6人が「さくら」を巡ってお互いに牽制しあってるということに。メールの言葉の端から不信感が感じ取れる。A君はB君が出し抜いて「さくら」を口説いているのではと心配してるし、C君は一人で大阪まで来るとか言っている。D君は昔からAが嫌いだったと言っているし、E君は他の5人と違って僕はカッコイイとか言っている。


なんか「さくら」を巡って6人がドンドンと仲違いしていく。それが手に取るようにわかった。そして、僕の心は痛んだ。仲良し6人衆の仲を引き裂くつもりなんかなかった。架空の「さくら」に恋をさせるつもりなんかなかった。なのに事態はドンドンと悪い方向に向かって行く。もう止められなかった。 
人を騙すという行為は、とても愚かな事でやってはならないことだと気がついた。やるならば、何も相手が苦しまず損をせず、ただ楽しんでもらえるだけ、というほどに完璧にやる必要があるのだ。それができないならするべきではない。そう気がついた。

僕は自分の中から「さくら」を消去し、チャットに行く事も、彼らのメールに返事をすることもやめた。そう、最後まで僕は「さくら」を演じ切れず逃げ出したのだ。これはネカマとして最低の行為。やってはならないこと。ネカマ初心者故に仕方ないとは言え、優しいネカマを目指すものがやってはいけないことなのだ。

「さくら」が全てを捨て、逃げ出したとしてもオタクどもは止まらなかった。事態は悲劇へと転がり落ちるかのように暗転していった。

「オマエ、一人だけ大阪に行くとか行ってだろ!それが嫌でさくらちゃんは逃げたんだよ!」

「オマエこそ!抜け駆けして口説いてただろうが」

「大体な!俺はオマエが嫌いだったんだよ!」

激しい罵り合いがパソコンルームで繰り広げられる。もう殴り合いになりそうなほどに彼らは言い争っている。さすがに彼らも、喧嘩をする時だけはチャットではなく、リアルで言い争うようだ。

「さくらちゃんは、ホントは俺の事が好きだったんだよ」

「俺にだけ好きだって言ってくれたんだよ!」

「いいや、彼女は間違いなく俺に気があった」

そんなこと「さくら」は微塵も言ってないのだが、彼らの中では盛り上がってしまっている。もうヒートアップしてしまっている。その光景を一部始終見ていた僕は、もう心が締め付けられ、我慢出来なくなっていた。自分のしでかした行為によって、6人が争っている。その事実が僕を苦しめた。もう・・・もう全てを洗いざらい話すしかない。

「喧嘩は止めろ。お前らの恋した「さくら」は俺だ。全部別室から俺がやってたことだ。だからもう喧嘩は止めろ」

我慢できず、自分が「さくら」であったことをカミングアウトする。自分の正体をばらすなど絶対に絶対にやってはいけないこと。なのに僕はやってしまった。もうネカマ失格だ。

それを聞いたオタク6人衆は、怒るでもなく、僕に罵声を浴びせかけるでもなく、ただ寂しそうな表情をしていた。僕はこの彼らの落胆の表情を一生忘れない。

性別だけでなく、キャラを偽るというのはネット上では誰もがやってること。どこかの調査ではネット上では80%以上の人が現実と違う自分を演出していると自覚しているらしい。それ自体は悪い事ではない。ネットが生んだ独自の分化とも言えるものだと思う。

けれども、その偽りによって、他人を翻弄したりするのはいけないのではないだろうか。本人に騙す気がなくても、偽りのキャラを演じているだけで、多くの人が勘違いをしてしまい、結果としてガッカリとさせてしまう場合もある。それだけに注意深く他人と接する必要があるのだ。

また、受ける側も相手が偽りのキャラであると自覚した上で、心酔してしまわないようにキッチリ心構えをする。それが大切なのだと思う。

虚構であることは、自分とは違った自分を演じる事は、楽しい事ではあるけれども決して現実を越える事などできやしない。お互いに割り切った形で虚構を楽しむのがあるべきネットの楽しみ方なのかもしれない。

そして、ネカマは優しさを持つべきだ。やるならば相当の覚悟を持って、相手を弄ぶ事のないよう、ばれる事のないようにするべきである。全てのネカマが僕の提唱する「優しいネカマ」であるならば、きっとそれは男性にとってエンジェルのような存在になるはずである。きっと、きっと。

若かりし頃に僕が演じた「さくら」はそれができなかったため、多くの悲劇を生んだ。そして数多くの後味悪い思い出をプレゼントされた。できることならば「さくら」も優しいネカマでありたかったのだが、未熟だった僕には無理だった。


だから、今、僕は優しいネカマを目指すべく奮闘している。あの頃の苦い経験を踏まえ、精一杯ネカマっている。 
そう、現在僕は自分は女子大生という設定で同僚とメール交換をしている。もう2年にもなるだろうか。毎日、楽しげな同僚からのメールが架空の女子大生宛てに届く。絶対に相手を弄ぶことないよう、ばれることないようにコツコツと続けてきたのだ。そんな僕は、優しいネカマに少し近づいているのかもしれない。できることなら末永くメール交換を続けたいものだ。

願わくば、世界中の全てのネカマが優しいネカマになりますように。
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死ぬほど恥ずかしい。抹殺したい過去ログです。今もう一回書けばもうちょっと面白くはなるんでしょうけど、さすがにこれは酷い。

あまりに恥ずかしいので、今度は自分じゃなくて他人が書いた代打日記をサルベージ。ウチのサイトは主に更新が面倒な時に他の人に日記を書いてもらってたのですが、これがまた通常とは違う狂った代打日記。

普通なら親交のあるサイト管理人さんなんかに書いてもらい、仲良くもないのに仲良いフリしたりするんですけど、僕は全く関係ない人に書かせますからね。今までにウチの親父や弟、妹に代打日記を書かせたことがあるのですが、今回は前の職場の同僚に書かせた代打日記をサルベージ。

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2003/06/28 代打日記 同僚渡辺君 

こんにちは。pato君の同僚の渡辺です。 本当は渡辺ではないんですけど、渡辺です。こういう場所で文章を書くのは初めてなので少し緊張しています。 何から書けばいいのだろうか・・・。

同僚の僕が書くということで、大方の皆さんはpato君の職場での振る舞いなどを聞きたいのだろうと思いますので、それについてちょっと書いてみます。

職場でのpato君は、ここの日記にあるような人です。A子さんに洒落になってないセクハラしまくるしサボってばかりだしパソコンを見て一人でニヤニヤ笑ってるし、気持ち悪いことこの上ないです。一緒に働きたくない男ナンバーワンですね。とにかく狂っているの一言です。

以前、職場にあるコピー機の調子がおかしくなったことがあるのですが、その時の原因はpato君が局部のコピーを取ろうとして裸でコピー機に乗ったことなんです。あれでコピー機の蓋が壊れました。局部のコピーをとって何に使うつもりだったのか一般人にはわかりません。

さらに、そのコピー機を修理しに来たコピー機会社の人が、色気ムンムンの女性でした。異常に興奮したpato君は、そのお姉さんに向ってセクハラ発言のオンパレード。「お姉さんのオッパイをコピーしてみてください」と真顔で言ってました。お姉さんは般若のような表情になっていました。

他にも、一日に一食もご飯を食べなかったり、帰宅したと思った1時間後にまた出社してきたり、いつ寝てるの?と疑いたくなるほど帰宅しなかったりと謎の多い人物です。我が職場ではpato君を最重要危険人物として常に警戒しています。

職場のパソコンの共有マシン名を全部モーニング娘のメンバーの名前に変えたり、デスクの引き出しにパンツが10枚入っていたり、エロビデオを応接室のビデオで見たり、嫌がる後輩に無理矢理自分の靴の臭いを嗅がせたりと問題が絶えません。

そんなキチガイな彼ですが、みなさんと同様に僕は彼が大好きです。

それに彼は僕の師匠でもあるのです。偶然にもエロビデオコーナーで彼に会ったことがあるのですが、その際に彼は「そんなやわなエロビ借りてるんじゃねぇよ。お前ら一般ユーザー層がレベル上げていかないと業界が発展しないんだよ、もっと見る目を養え」と意味不明なことを連呼し、最高のエロビを探してくれました。あの時から僕は心の中で師匠と呼んでいるのです。

関係ないですが、私達の仕事は奇抜な発想と独特のアイデアが重視される分野です。pato君はいつも常人では考え付かないような奇抜な発想で我々を驚かせてくれます。本当はとても尊敬できる人です。

それに彼を見てると退屈しません。いつも楽しませてくれる。

なにかと問題も多く、発言もきわどい時がある彼です。皆さんも不快に感じる時もあるでしょう。けれども根はいい人なのでどうか仲良くしてやってください。

それでは、支離滅裂になりましたが失礼いたします。ヌメラーの皆様ありがとうございました。そしてこれからもよろしく。

追伸:pato君、このまえ貸した2000円を早く返してください

                           渡辺

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他人の日記なのに無償に恥ずかしいですが、そんなこんなで過去ログサルベージおしまい。ちなみに、同僚の代打日記は約3年前なのですがいまだに2000円返してません。今思い出した。

早くMOTHER3クリアーしてしまいます。


4/24 オートバックス

週末になると愛車を洗車する人とか、オートバックスみたいなカー用品店に行って愛車の周辺機器を購入する人とか、ダッシュボードの上にジュリアナ東京みたいなフサフサのヤツ置いてる人とか、全部キチガイだ。

そうやって愛車のドレスアップに余念がないのは結構なんですけど、なんていうか、ちょっとやりすぎというか、そこまでしなくてもよかろうというか、いっそのこと車に住んだらいいじゃない、って言いたくなるような人がいるじゃないですか。情熱的に車を愛してしまってる人がいるじゃないですか。ああいうの見るとね、ちょっとどうかなって思うことがあるんですよ。

この間、金に困ってプレイステーション2の本体を中古屋に売りに行ったんですけど、ガキに混じって決死の覚悟で売りに行ったのにオタク店員に足元みられちゃって9000円という信じられない低価格で買い取られてしまったんですけど、その時に近道をしようといつもは通らない裏道を通ったんですよね。

そしたらアンタ、裏通りの交差点のところにですね、「洗車ランド」とかいうトチ狂った、いまどきデパートの屋上の遊技場でもつけないような名称の広場がありましてね、満車に近い状態で車が停まってて、みんな狂ったように車を磨いてやがるんですよ。

車を磨かなければ明日世界が終わる、と政府から通達があったのかしら、と思うほどに一心不乱に磨いてましてね、その光景は一種異様というか摩訶不思議というか、たちの悪い集団催眠にでもかかってるんじゃねえかと思うほどでしたよ。

中でも休日のダンディーパパみたいな人が凄くて、ファミリー仕様の1BOXカーみたいなのだったのですけど、カーシャンプーだかカーワックスだか知りませんけどあらゆる薬品をズラーっと並べて駆使してましてね、自分のナニすらそんなに擦ったことないだろ、ってほどにクレイジーに磨いてたんですよ。あれは愛車を自分のムスコに見立てて磨いてたね。それくらいの擦りっぷりだった。

もう磨きすぎて塗装が剥げるんじゃないかって思うほどに磨いていらしたんですけど、それ以上に禿げてるのがパパの頭髪で、色々な意味でハラハラしながらその様子を見守っていたんです。

で、その横には終始退屈そうにしている息子と思しき少年が体育座りしていて、ものすごいつまらなさそうな、ものすごい感情を殺したような死んだ魚みたいな目つきで父親の洗車の様子を見ていました。

そりゃね、休みの日に親父に連れられて行く場所が「洗車ランド」だったら子供もグレますよ。絶対にグレますよ。ディズニーランドならまだしも、洗車ランドですからね。もう中学くらいになった少年が、このハゲ親父とか言いながら金属バットで車を破壊している絵図が鮮明に浮かんだもの。

もうね、親父さん、愛車をムスコに見立てて愛情込めてオナニーのごとく擦るのはいいんですけど、それ以前に本当の息子のほうに愛情込めて構ってあげたらどうですか、って言いたくなりましたからね。

とまあ、微妙に上手いんだか不味いんだか分からないことを言ったところで本題に入るのですが、僕には上記のように車に愛情を注ぐっていう行為が良く分からんってお話がしたかったのですよね。

車なんて走ればいいと思ってますし、洗う必要も着飾る必要もないって思ってますからね。歯は磨かないと虫歯になりますけど、車は磨かなくても虫車にはならないですからね。色々と着飾らなくても普通に走りますからね。

そんな事情もあってか、前に乗っていた車はそれはそれは酷い状況でしてね、車を綺麗にしておくって概念がないものですから、外観なんて洗ったことなくて泥だらけ、車内もゴミだらけでエロ本とか転がってましたからね。後部座席が全部ゴミで埋まってて強制2シーター、車内から腐臭がするなんてザラでした。

この死臭がする、後部座席に死体が転がっていても何ら驚かない絶望的な車が天に召されてから、新しい車を買ったぜ、カーナビもついてるぜって話を前にもしたと思うんですけど、とんと無頓着なもんだからどんな車を買うとか色とか完全に興味なし。カーディーラに行って一番手前に置いてあった車を「これください」って言って買ったからね。八百屋でトマト買うノリで買いましたからね。カーディーラーの人驚いてた。

まだ気が遠くなるくらいのローンが残ってるんですけど、とにかく豪放に車を購入。どうせこの車もすぐに汚くなってゴミの山と化すんだろなって思ったんですけど、ところがどっこい、そうはいかなかったんですよ。

車を買ってピカピカの新車が納車されて来たりなんかすると心境が変化するもので、ちょっとだけ「この車を大切にしてみよう」なんて気持ちが生まれてくるもので、ちょ、ちょっとだけ綺麗に着飾ってみたりしようかな、バカ!た、大切にする気なんて、な、ないんだからねっ!とツンデレ風に思う気持ちが芽生えてきたんです。

本当、この時の僕はどうかしてたのですが、週末ごとに洗車をしようとか、オートバックスに行って死臭が漂わないように良い匂いがするヤツ置こうかしら、あわよくばダッシュボードの上にフサフサのを置こうかしら、なんて間違いなく考えてしまったのです。

新車に乗ることによって、車を大切にする人や週末ごとに洗車に精を出す人の気持ちが少しだけ分かり、へへ、俺も大切にしようかなと思い始めたその瞬間ですよ。

綺麗にする洗車グッズや良い匂いのするヤツ、あわよくばフサフサまで購入しようとオートバックスに向けて車を走らせたその瞬間ですよ。

メリメリメリメリ

車を走らせつつ、洗車グッズはボンネットでハンバーグ焼いても大丈夫なヤツが良い、匂いのするヤツは清潔そうな23歳OLが本屋で文庫本を選んでる時に
漂ってくる匂いみたいなのがいい、フサフサはやっぱやめようかしら、とか考えたその時ですよ。

運転席の右側、フロントガラスとドアの境目みたいな場所にそれを支える柱があるんですけど、そこからメリメリと異様な音がしてきやがるんです。前方を見ていた視線を何事かと少し右にやると

この部分が、

こうなってた。

柱を覆っていた樹脂みたいなのがベローンと剥げてきてですね、金属の地肌がモロ見えですよ。なんか隠してあったコードとか見えてるし、どう好意的に解釈してもとてもじゃないが未来型コンパクトカーの粋な収納空間とは思えない状態になってるんですよ。

押し込んだら直るかな、と思って運転しつつ押し込んでみたんですけど、すぐにベローンとなっちゃって、おまけに徐々に酷くなってきて視界を塞いでくる始末。

もうね、僕が力の加減を知らない乱暴者でこの樹脂を剥ぎ取ったとかなら自分が悪いって理解できるんですけど、何もしてないのにこの仕打ちは酷い。買ったばかりなのにこの仕打ちは酷い。

どうせ初期不良みたいなものでしょうから、どうなってんだーってディーラーに殴り込めば無料で修理してくれたんでしょうけど、なんかどうでもよくなっちゃいましてね、もう綺麗にする気も良い匂いにする気も着飾る気もナッシング。すっかりやる気を失って意気消沈してしまったんです。

俄然やる気になっていたのに冷や水を浴びせる理不尽な仕打ち。例えるならばオナニーしようと興奮し、いざやるぞって思ったら勝手に出てしまったような状態。昼飯食おうと光子さんに言ったら、お爺ちゃん、お昼はさっき食べたでしょと言われた状態。よくわからんどころか全然違うと思うけどけど、それくらい意気消沈する出来事ですよ、これは。

この出来事以来、すっかり車を綺麗にするって気持ちは消え失せ、相変わらず汚いゴミ車。買ってから1年も経ってない新車だよって言っても誰も信じてくれない状態になりました。そろそろ腐臭もしてきて危なっかしいのですが、とにかくそれでいいって思って過ごしてきたんです。

しかし先日のことでした。

仕事の関係で、結構なお偉いさんを市民会館まで送迎しないといけない用事ができてしまいましてね、自分の車で送迎するもんだから車を綺麗にしなきゃって焦ってしまったんですよ。さすがにゴミだらけの車で送迎は出来ないですから。

けれども、掃除を始めてみると思いの他面倒くさく、特に後部座席のゴミが大変なことになってるのですが、死ぬほど面倒くさいなって思っていたら天才的な閃きが稲妻のごとく僕の頭脳に落ちたんです。

「助手席だけでいいじゃん」

もう天才かと思った。車なんて運転席と助手席だけあればいいんですよ。送迎するお偉いさんを助手席に乗せて颯爽と送迎。後ろはゴミの山で全然構わないんですよ。人の車に乗って後ろをマジマジ見る人なんて変態しかいないですしね。うん、このまま助手席のゴミを後部座席に移動するだけでいいじゃないか。

おまけに前日に雨が降ったので車の外観は比較的綺麗。もう何もする必要ないじゃないか、と大喜びで颯爽と送迎に行きましたよ。

僕に与えられたミッションは駅から市民会館までの送迎だったのですが、もう颯爽とね、駅のロータリーに横付けして迎えに行きましたよ。そしたらアンタ、

「○○社の○○です。お迎えに上がりました」

「ありがとう。よろしく」

「どうもどうも」

なんかね、偉いのが二人いやがるんですよ。二人が静岡名物を手に満面の笑みで駅前に仁王立ち。おいおい、2匹いるとか聞いてないぞ。細胞分裂しやがったか。どっちもバーコードだし、と唖然ですよ。

偉い人が1人から2人に増えたくらいで何も問題ないじゃんって思う人はウンコです。偉い人が2人に増えたと言うことは、僕を入れて3人が車に乗らないといけないのです。当然僕は運転なので運転席。残りの人が助手席と後部座席に。そう、必ずどちらかがあのゴミが巣食う後部座席に陣取らないといけないのです。

「すいません、ちょっと散らかってまして」

家に人を招き入れる時など、日本人特有の謙遜の文化でそういう人がいるけど、たいていの場合はどこが散らかってるか分からないほど完璧に綺麗なものです。しかし僕の場合は、そう言って後部座席のドアを開けたんですけど、本当に散らかってますからね。ゴミだらけ。ドア開けたら爽健美茶の空きペットボトルが転がってきましたからね。

急いでゴミどもを逆サイドにプレスし、メキメキとか音を立てて何とか一人分の座席を確保。騙し騙し、というか全く騙せてませんけど、そのままお偉いさんを乗せて市民会館に向かいましたよ。

カーブのたびにゴミが崩れてきて後部座席は地獄絵図。

「はは、なかなか、あれ、ですな」

と引きつるお偉いさんに対して

「すいません、すいません」

としか言えませんでした。

とにかく、重力が2倍になったかのような重苦しい沈黙に耐えられなかったので早く市民会館に到着しないものかと車を走らせたのですが、

ガリ・・・ガリ・・・ガリ・・・

と沈黙に紛れて車の下部から変な音がしてくるんですよ。

「何か変な音がするぞ」

助手席のお偉いさんが焦って言います。ゴミの山に驚いて、運転席見あたら樹脂がベローンとなってて焦ってるのに、なおかつ異音がするもんだから大変不安な様子。

「何かしますね」

もう一人のお偉いさんがゴミの山から言います。膝の上にきのこの山の空き箱が転がってきてエライことになってる。

僕としては別にどうでもいいのですが、二人が合唱するものですから車を停めて見てみると、

車の前の部分から

ベローンと部品が出てました。

なにこの仕打ち。

もはや何の部品なのかも分からない。とにかく、何らかの部品が脱落してきてた。(半分繋がってましたが、あまりにうるさいので強引に外した後の画像です)

もう、運転席側の所の樹脂といい、この部品といい、何もしてないのにここまで壊れるとは何事だ。まだ買って1年も経ってないんだぞ、と嘆きつつ、

「冗談じゃない。こんな危ない車でいけるか」

とご立腹したお偉いさんはタクシーを拾って行ってしまいましたとさ。もちろん、その後事の顛末を知った上司に怒られた。鼻毛でてるくせに怒られた。

きっと、買ってすぐの樹脂ベローンは前の車を大切にしなかった天罰だったのだろう。そして今日の謎の部品脱落は新車をも大切にしなかった天罰だったのだろう。ごめん、僕は反省した。今度からは偉いさんを乗せても恥ずかしくないくらい綺麗にする。洗車ランドで洗車もする。オートバックスに行ってフサフサも買う。いい匂いもさせる。と決意したのでした。

まあ、三日と持たず、近所の中学生だろうけど停めてたら自転車で擦ったような傷つけられてて心が折れた。もう、車、汚くていいよ。綺麗にするヤツの気が知れない。

走っていたら、樹脂がペラペラ。脱落部分がまだ何か擦れてるらしくゴリゴリ。カーブ曲がると後ろのゴミがゴソゴソ。そんな車に乗りつつ、今日も僕は元気です。もう、変な音ばっかする。


4/17 パワーショベル

いよいよパワーショベルがやってくる日がきた。

ウチの親父は工事業に携わっている零細自営業で、銀行の気分一つでいつ潰れてもおかしくない小さな小さな会社だった。今でこそ自宅以外の場所に会社建物があって、そこに重機やら資材が置いてあるのだけど、僕が少年だった時代はそんな余裕もなく、自宅の庭に資材やら何やらが置かれていた。

大きなパイプが置かれた庭。訳のわからない機械が置かれた庭。鉄骨が積み上げられた庭。それが僕と弟の遊び場だったし、それらを利用して新たな遊びを紡ぎだしたりしていた。中でもお気に入りだったのは子供なら入れるくらいの大きいパイプに弟を入れ、それをゴロゴロ転がしてヘロヘロになるまで許さない遊びだった。これをやると弟が死にそうに顔色悪くなるから面白かった。

まあ、そんなこんなで、資材と重機が置かれた庭は僕らの格好の遊び場だったのだけど、そうなると当然、子供があんな場所で遊ぶのは危ない、というPTA的な話になり、「庭では遊ばないこと」という通達が母より出されるのだった。

もちろん、そんな通達など守るわけもなく、ただ「そこに山があるからだ」という理由で危険な冬山登山をやめない登山家のように、僕らは「そこに庭があるからだ」と庭で遊ぶのをやめなかった。

ちょうどその日も、母の目を盗んで庭に出た僕ら兄弟。二人とも鼻水垂らしてどう見てもアホ兄弟なのだけど、早速僕らは置かれた資材で遊ぶことにした。

まず、いつものごとく最高で至高の遊戯であるところの「弟をパイプに詰め込んで遊ぶ」を楽しもうと、「おい、パイプを探せ!」と弟に命じたところ、彼はひどく憂鬱な顔をした。

しかし、探せど探せど、適切な太さのパイプが見当たらない。どうにもこうにも、親父が太いパイプを持っていってしまったようで、いつも使ってる弟が入る太さのパイプが見当たらないのだ。

俺達のパイプを仕事に持っていくとは何事だ。とひどく見当違いな憤りを感じつつ、何か代用になるものはないかと模索。すると、いつものヤツと比べて一回りくらい小さいであろうパイプが見つかった。

「よし、コレに入れ」

弟に命じると、彼は気弱な顔をさらに気弱にさせてパイプの中に入ろうとした。しかしながら、いつもより小さいためかなかなか入らない。

「お兄ちゃん、これ無理だ、引っかかって入れない」

弟の懇願も、修羅と化している僕は許さなかった。根性が足りないから入れないんだ、とかなんとか、某ヨットスクールの人よりムチャクチャを言いながら弟を押し込んだ。

「痛い痛い、これ痛い」

明らかに無理な体勢で、ガチャガチャのカプセルに入っているキン消しより無理のある体勢でパイプ内に収まった弟。痛い痛いと懇願するが、どうせいつものように三味線ひいているに決まってる。頑として聞き入れず、僕はいつものように弟入りのパイプを転がし始めた。

驚いたことに、いつもより小さいパイプは素晴らしい。コンパクトなためか、面白いように転がる。同じ距離を転がしても小さいパイプの方が回転数が多くなるためか、パイプ内の弟も「やばい!吐きそう!いつもの3倍回ってる」と、どこかの目出度い兄弟みたいなことを言っていた。

いよいよフィニッシュだ。

庭の端のほうには親父がゴミを燃やしたカスを積み上げた小さな山があったのだけど、その山の上から弟入りのパイプを転がすのが最高だった。

いつものように転がす。

うわああああああああ。

弟の情けない悲鳴が庭中にこだまし、どうせ大した高さのない山だったので少し転がって自然に止まるはずだった。いつもはそうなるはずだった。

しかし、いつもより小さいパイプを使ったためか、全く軌道が安定しなかった。いつもなら山頂から真っすぐ転がっていくはずなのに、小さいパイプは超高校級の名ピッチャーが放るカーブのように美しい軌道を描いて曲がっていった。そして、その先には鉄骨などの資材が置かれた場所が。

ぎゃ

積み上げられた鉄骨の角で、パイプから出ていた頭を強打した弟は、情けない悲鳴を上げた。見ると、噴水のようにピューピューと眉間から血を吹き出している。僕の記憶が確かなら、弟は僕と遊んでいて3回くらい眉間から血を噴出させている。

相変わらずすぐ血を出すやつだ、とか言ってる場合ではなく、早く手当てをしてあげねばならない。無理やりにでも血を止めてあげないと、悪事がバレて両親の手によって今度は僕が血を出すことになる。透明な心の血すら出すことになってしまう。

早々と証拠隠滅、いや、彼の手当てをしてあげようと、パイプから出そうとするのだが、何かが引っかかっていて全くパイプから出ない。肝心の弟も激痛のためか目が回ったためか動かない。物凄い引っ張るのだけどピクリとも動かない。

もうね、怖くなっちゃってね。どうしていいのか分からず、もう知るかって感じでそのままパイプ入りで流血している弟を放置して山下君の家に遊びにいっちゃってさ、何事もなかったように帰宅したら頭に包帯巻いた弟を交えて死ぬほど説教されたよ。

なんでも、親父が帰ってきたら弟が血の海の中で泣いていて、おまけにパイプ入り、いくら頑張ってもパイプから出ないからパイプカッターみたいなので切断して救出したらしい。

具体的に言うと晩御飯食えないとかそんなレベルでなくて、お腹空いたと言う事すら許されない勢いで説教されたというか、関係ない人が見たら、「彼、このあと自殺するの?」と言われてもおかしくないレベルで説教されたというか、とにかく酷かった。

それから、やはり子供の遊び場に資材や機材があるのは良くない、という話になり、庭には資材置き場みたいな小屋が建てられることになった。

その次の日くらいから、親父と社員さん総出で作業が始まる。それこそ庭に置かれていた資材などを使って、簡単ながら資材置き場が作られていく。そこはやはり曲がりなりにも工事業に携わっている親父と社員さん、トタン板で覆われているといっても屋根つきで扉も備えた立派な資材置き場が完成されていた。

「これは俺の城だ」

完成した時、親父が感無量といった様子でそう言ったのを今でも覚えている。きっと、自分で会社を立ち上げ、初めて会社として形のあるものができたのだろう。今まで、庭に放置していた資材を収めるための掘っ立て小屋といえども、彼の中では初めての城だったのだろう。それだけに感慨深い何かがあったようだ。きっと、この小屋が親父のとって会社そのものだったのだろう。

それ以来、資材置き小屋の扉は南京錠で堅く閉ざされ、僕ら子供ではどうしようもないことになってしまったので資材で遊ぶことはなくなった。ただただ、庭で木に登ったり穴を掘ったり、時には水を出して水路を作って遊ぶくらいのことしか出来なくなったのだ。

それからしばらくして、親父の商売が順調だったのかパワーショベルを買うという話が持ち上がった。資材置き場という城を建てるわ、パワーショベルを買うわ、親父の勢いは留まる所を知らない。

なんでも、親父の商売上、どうしてもパワーショベルは必要なのだけど、これまでは買う余裕もなく、同業の別会社からレンタルして使っていたらしい。当然、その会社が「今日は貸せない」と言ったらそれまでで、非常に融通が利かない。おまけにレンタル料も結構なものだったらしい。

そいつは良くない、今は我が社が羽ばたく時だ、そう思ったかどうかは知らないけど、親父は無理してパワーショベルを買った。ローンだかリースだか知らないけど、とにかく買った。もう、パワーショベルが届く日なんて、親父のヤツ朝から風呂はいったり、母ちゃんが死ぬほど厚化粧だったりで大変な騒ぎだった。

燦然と庭に置かれたキンピカのパワーショベル。親父はそれを眺めながらまた感無量と言った表情で、掘っ立て小屋を建てた時のように形ある会社の痕跡にひどく感動しているようだった。

それから数日して、最初こそは引っ張りだこといった様子で仕事に駆り出されたパワーショベルだったのだけど、いつしか庭に放置されるようになった。連日パワーショベルを使う状態ってのが異常なだけで、たぶん大喜びした親父が使いもしないのに現場に持ち込んでいたのだろうけど、それも落ち着いたのか、普通に置かれていた。

いつものように庭で遊んでいた僕らアホ兄弟は、当然のことながらパワーショベルに興味津々だった。資材が資材小屋に幽閉され、僕らの遊び道具でなくなってから久しい。やっとこさ、新しい遊び道具が来たものだ、と感無量な親父の気も知らず、パワーショベルに登ったりして遊び始めたのだ。

すると、途方もない事実に気が付く。

「おい、鍵がついてるぞ」

うちの親父はパッパラパーなので、車だろうが何だろうが鍵をつけたまま放置する癖がある。最初は大事にパワーショベルの鍵を保管していたのだが、飽きてきた今となっては鍵付きで放置、その事実に胸が躍った。

「動かしてみようぜ」

「お兄ちゃん、やめときなよ、また怒られるよ」

「うるさい。早く乗れ」

弟の制止も聞かず、僕はキーを目一杯に回した。

ブルウウウウウウン

車のそれとは違う、重機特有の鈍いエンジン音が庭中に響き渡り、絶妙な振動が僕ら兄弟を包んだ。もう僕の興奮はうなぎのぼり。

さて、これを動かさないと話が始まらない。手元にはなにやらレバーが4本ついている。親父が操作しているところを見て覚えていたのだけど、このレバーを前に倒したり引いたりして動かすみたいだ。とにかく適当にレバーを倒してみる。

すると、物凄い音と共にパワーショベルが前進した。他のレバーを弄ってみると、アームの部分が上下したり、アームの角度が変わったり、クルクル回転したり、と大変に楽しい。

「すっげえ、お兄ちゃんすげえよ」

「だろー、こいつはエキサイティングだぜ」

興奮したアホ兄弟はもう止まらなかった。

「おい、お前、あそこに乗れよ、すげえ楽しいぞ」

もっと弟を楽しませてやろうと思った僕は、ショベル部分に乗るように提案した。パワーショベルが土を掻き出す肝となる部分。アームの先についている袋みたいな場所に乗るように指示した。

「すごい!すごい!怖いけど楽しい」

アームの先に乗った弟はまるで遊園地に来たかのように興奮した。僕も調子に乗り、クルクルと回転させる。

「目が回る!目が回る!」

と彼の声が絶叫に近くなってくると大変楽しい。両親によって奪われたパイプ転がし遊びを思い出すような楽しさだった。

「よーし、次は上下に動かすぞ!」

と、おそらくこれだろう、というレバーを動かした瞬間だった。どう考えても予想してなかった方向にパワーショベルが歩みだすのだ。

「あれ、おかしい、なんだこれ」

おそらく、操作するレバーを間違えたのだろうけど、予想外の動きに大パニック。手当たり次第にレバーを操作する。それに伴い弟を乗せたアーム部分がコミカルに動き、振り回された弟はポーンとどっかに跳んでいった。

とんでもない勢いでビワの木があった茂みに飛んでいった弟は、生きてるか死んでるか知らないけど、とにかくパワーショベルを何とかしなければならない。この制御不能となった、暴走気味のエヴァみたいになったマシンを何とかせねばならない。

必死にレバーをガシガシっとやるのだけど、レバーが動かなくなったりしてウンともスンとも言わなくなったりして大パニック。勝手に進んでいくパワーショベルに泣きそうになった。

見ると、目の前には親父の城とも言える資材置き場小屋が。このままでは激突してしまう。最後の手段として、エンジンを止めようとキーを逆に回したのだけど、そういう設定なのかキーが微動だにしない。

「もうアカン」

と思った僕はパワーショベルから飛び降りて事なきを得たのですが、無人のパワーショベルはそのまま直進。メキメキグキグキバキバキと凄い音を出して資材小屋を破壊し、半分くらい食い込んだところで停止したのでした。焦げた臭いと共に。

親父の城ともいえる資材小屋を、親父の念願であったパワーショベルで破壊、そして弟は吹っ飛んだままどこいったのか知らない。変な油みたいな液体が小屋から流れてきてるし、異様に変な匂いがする。もうどうしていいか分かんなくなっちゃいましてね、もう知るかって感じでそのまま全てを放置して山下君の家に遊びにいっちゃったんですよ。

何事もなかったように家に帰ると、頭に包帯を巻いた弟がいて、説教とかそんなレベルのお話ではなく、殺されるといったステージのキッツイ仕打ちが待っていたのですが、まあ、ご愛嬌。外れた親父のパンチが安い板でできてた壁に穴を開けたという事実から状況を察してください。

ウチの親父は工事業に携わっている零細自営業で、銀行の気分一つでいつ潰れてもおかしくない小さな小さな会社だった。しかし、最初に会社を潰したのは間違いなく僕だった。物理的に潰したった。

あれから十と数年。今では本当の城とも言える立派な会社建物が家から離れた場所に立っている。一度はテンプラの不始末でボヤを出し(2004 6/1 Voyage参照)、会社建物を危機に晒した親父なのだけど、何もないところから会社を興し、ここまでにした努力は賞賛に値するし、尊敬できる。

それだけに、あの日、何もなかったあの当時、親父の城であった資材置き場を自民党の如くぶっ潰した自分の行為を恥じるし、申し訳ないと思っている。そのことを急に思い出して親父に謝ろうと電話をしたら、

「またボヤをだした。建物が焼け落ちた」

と言っておられました。焼け落ちたならそれはもうボヤじゃない。

あの日僕が潰さなくても、そのうち親父が潰していたんだろうと理解し、何でも今回の火事騒ぎでは会社で飯食っていた弟が巻き込まれたようですから、また頭に包帯を巻いた弟の姿を思い起こし、あの日の弟入りパイプのように空き缶をコロコロ転がすのでした。

ちなみに、火事を出した親父は全てを放り出して近くの飲み屋に逃げたらしい。


4/10 60坪の戦場

また戦場に舞い戻ってきちまった。やはり血には抗えないもんだな。

前回、ベトナムを思い出すほど酷い惨状にあった俺達エロビデオ兵士。具体的に言うと、カウンタでバーコードが読み込めず、「レイプ!レイプ!レイプ!が読み込めません」と懲役物のエロDVDのタイトルを声に出して読まれてしまった。しかも女子店員にだ。

女子供、一般市民は戦争に関係ねえっていうけど、あれはトトロとか借りている一般家庭にまで恐怖を植えつけただろう。多くの犠牲と悲劇を生んだ、思い出すだけで悲惨な事件だった。

あれ以来、俺は戦場を去った。自分が死ぬのは構わない。もともと捨ててる命だ。だがな、一般人にまで犠牲を出して戦いを続けることなど俺には出来やしない。そう思って一線を退いたんだ。

けれどもな、一度染まっちまった血ってのはなかなか元にゃ戻らねぇ。俺の中を脈々と流れるエロビソルジャーの血が、ピンク色の血が、平穏な日常を許しちゃくれないのさ。

俺はまた戦場に舞い戻った。自分の中に流れる血に逆らうことなく、また戦場へと舞い戻ったのだ。

また一般市民が犠牲になってもいいのかだって?また、女子供を恐怖に晒すのかって?なあに心配するな。俺にだって考えがあった。そう、今までの俺は間違っていたんだ。

一般的なビデオ屋を戦場に選び、その中にある小さなエロビデオコーナーで戦うから一般にも犠牲が出るんだ。俺達の戦場はそこではない。もっと戦う男だけが集まる戦場。血で血を洗う、エロビデオでエロビデオを洗う、本物のソルジャーだけが集まる戦場があるんだ。

エロビデオ専門店。

県道に面した少し大きめの専門店。「アダルトグッズもあるよ」なんてチャチな看板があるが、そんなもの関係ねえ。ここになら本物のソルジャーたちが、俺と同じように戦いに飢えた男達が凌ぎを削っているに違いないんだ。

こして、俺は、広さ四畳半ほどの小さなエロビデオコーナーという戦場から、60坪はあろうかと言う専門店に戦場を移した。そこにエロがあるならどこでだって戦ってみせる。ああ、立派にな!

くくく、さすが専門店だ。品揃えも豊富、ほとんどがセルビデオで、レンタルビデオとは若干毛色が異なるのだけど、そんなものはさしたる問題じゃない。ここにどれだけの猛者がいるのか、俺が求めている強者がいるのか、それだけが問題だ。

店内をざっと見渡すと、いるわいるわ、エロに飢えたソルジャーたちが、ギラギラした目をさらにギラギラさせてエロDVDを選んでいやがる。他のナヨナヨした男とは違う、牙を持った男達、それも信じられないくらい研ぎ澄まされてやがる。よし、さっそく往年のテクニックを見せ付け、派手な挨拶とするかな。

いやいや、焦ってはいけない。ここは広い戦場なのだ。これまでの狭い戦場とは訳が違う。これまでの戦法は通用しないといっても過言ではないだろう。

まず、ここは広いといっても玄人好みに対応できるよう、多くの商品が陳列されている。結果、通路が狭くなってしまう。この狭い通路では死のカーテン(注1)は使えない。

(注1 死のカーテン−エロビデオを選んでいる人の前に立ちふさがり、相手が選ぶのを妨害する行為。エロビソルジャーとしてはローキック並みに基本

おまけにここは販売系のエロビデオショップだ。レンタル系と違ってスリップストリーム(注2)も使えやしない。

(注2 スリップストリーム 目当てのエロビデオがレンタル中の場合、棚に返却しに来る店員の後ろにひっついて歩き、いち早く手に入れる戦法。新作などの場合、レンタル期間が短いので多大な威力を発揮する。しかし、店員にマークされる諸刃の剣)

なんてことだ、今まで培ってきた戦法が微塵も使えやしない。俺は新米兵士並みにココでのしきたりもセオリーも、なにもわかっちゃいねえ。

甘くない、甘くないよな。何も知らない兵士など、戦場では赤子同然。いくらレンタル系で上り詰め、勲章に手をかけたといっても、ここではヒヨコも同然だ。ギラついた戦士達はそんな俺にも容赦しない。甘えも妥協も命取りでしかないこの世界、そうでなくっちゃな。

先輩戦士達の洗礼は酷いものだった。俺が「敷金は体で払います」というタイトルのDVDに惹かれ、手に取ろうとしたその瞬間、横から出てきたヤツに一瞬の差で奪われた。ナヨナヨした弱そうな青年(リトルジョン)。しかし、ここではかなり名のある戦士なのだろう。得意げに微笑むその口が歴戦の戦いを物語っている。

次に、「巨乳だんじり祭り」という言う魅惑的なDVDが目に留まった。これだから戦場ってのは恐ろしい。こんな逸材がゴロゴロしてやがる。さっそく手にとって購入を・・・

その瞬間だった。

「ちょっと来てくれんか」

有無を言わさず、店の奥へと引っ張って連れて行かれた。彼は戦場に似つかわしくない老人。それでもまだ現役のご様子で、俺を引っ張る力強さは相当なもんだった。

なぜに奥へ奥へと連れて行かれてるのか理解できないままに、ここでの流儀に従うべきと付いていくと、店の奥のアダルトグッズコーナーに連行されていた。

エロDVDの森を抜けたその先は、オナホールや電動フグの販売コーナーになっていた。まさに起伏に富んだ戦場。ビデオ屋では考えられない物が売ってやがる。

老兵(ジーン伍長)は、そのコーナーの中から「堤さやかのアソコを立体再現!」というファンキーなオナホールを手にとってかざすと、

「これは電動なんかいな?」

と。老いてますますお盛んか・・・。どうやら、俺はあまりの風貌に店員と間違えられてようで、このオナホールは電動なのか尋ねられているようだ。

そんなもの知ったこっちゃないのだけど、手にとってマジマジと見てみると、「電動」とも「電池付属」とも書いてなかったので、おそらく手動なのだろう。

「手動ですね」

「電動がいいんじゃが・・・」

おそらく年齢的にも手動はキツイのだろう。老兵は電動のオナホールを欲した。その姿は我々の先輩そのもので、この年齢でこの性欲とは恐れ入る、見習わなければならないと思うほどだった。

「これなんか電動ですよ。微妙な振動、ローリングってありますし」

「お、ありがとう」

店員になりきり、親切に電動のオナホールを探してあげる。その横ではダッチワイフがポカーンと口をあけて優しげに見守っていた。激しい戦いを忘れるひと時。戦場で触れ合ったヒトカケラの優しさ。心が洗われるような気持ちになる。

さあ、戻って「巨乳だんじり祭り」を、とさっきいた戦場に舞い戻る。すると、見事に取られているではないか。忽然と、まるで煙のように姿を消す「巨乳だんじり祭り」。これだから戦場ってのは恐ろしい。

見ると、別のソルジャー、陰気な感じで職場で嫌味ばかり言ってそうなソルジャー(サンダース)が「巨乳だんじり祭り」を手にしている。なるほどなるほど。そういうことか。

おそらくこれはチームプレイだろう。戦場において、個々の強さなど何の戦力にもならない。問題は団体としてどれだけ統率が取れているか。それが勝敗を決するファクターになりうる。

老兵に呼ばれ、店員と間違えられる。先輩兵士のタフネスに感動しつつ、電動オナホールを探す。その隙に別のソルジャーがお目当てのDVDを奪取する。なんて統率の取れたチームプレイだ。親切心に付け込んだ途方もない戦略だ。

く、なんて厳しい世界だ。やはりこの戦場では甘えも妥協も、ましてや親切なんて命取りでしかない。思い出させてくれてありがとよ。俺が甘えていたようだ。俺はもう、鬼になる。戦場に舞い降りた一匹の修羅になる。覚悟しろよ、好敵手たち!望んでいたライバルに遭えた俺は、嬉しそうに笑った。

その瞬間だった。

「えー!ヤバイんですけどー!あやしー」

「んなことねえよ!大丈夫だって!」

戦場には似つかわしくないチャラチャラした会話が一陣の風のように戦場を吹きぬけた。見ると、入り口付近に今風のファッションで決めたアベックが、今にもハメ撮りしかねない勢いでイチャついている。

戦場に戦慄が走った。

恐ろしいことに、エロ専門店ということで少なからず油断している部分があった。これが一般的なレンタルショップのエロビデオコーナーなら、間違ってアベックや女性が入ってきてしまうことも多々あるのだが、専門店となると、さすがにそれはないと楽観視している部分があった。

しかし、よくよく考えると、ここはレンタルショップと違って女性用の性具だって売っている。コスプレ衣装なんかも売っている。穴の開いた、下着本来の役割を忘れたセクシーランジェリーも売られている。物凄い低い可能性ながらも、女性やアベックが入店してくることがあるのだ。

「やばい、なんでアベックがいるんだよ、どうしよう」(リトルジョン心の声)

「おいおい、聞いてないよ。なんでレジの前にいるんだよ」(サンダース心の声)

「わしなど電動オナホールなんじゃぞ、この歳で。どんな顔してアベックの前で買うというんじゃ。孫へのプレゼントとでも言うのか」(ジーン伍長心の声)

狼狽する歴戦の猛者たち。彼らはそう、ずっと専門店を主戦場としていたためか、こういったシチュエーションに免疫がない。先ほどまでの雄姿が嘘のように狼狽し始めたのだ。

アベックはレジ前のコスプレコーナーでイチャイチャとナース服などを見ている。このままでは俺達はレジじまで到達できないだろう。不安と混沌、そして焦る気持ちが戦士の中で渦巻く。

「うろたえるな!」(俺の心の声)

しかし、レンタルショップでこんなシチュエーションを山のように体験してきた俺は落ち着いていた。一喝すると狼狽する3名を視線で制し、現状を打破すべく、一歩前に踏み出した。

「ここは俺に任せろ」(俺の心の声)

「そんな、アンタ、この店に来たばかりじゃないか。新米のアンタにそんな危険な仕事を任せるわけにはいかない!」(リトルジョン心の声)

「それに、俺達はあれだけアンタの邪魔をしたじゃないか。巨乳だんじり祭りを奪ったのも俺だ。なのにどうして・・・」(サンダース心の声)

「わしなど電動オナホールなんじゃぞ、この歳で。どんな顔してアベックの前で買うというんじゃ。孫へのプレゼントとでも言うのか」(ジーン伍長心の声)

心配する彼らを他所に、勇者はニヤリと笑った。

「なあに、こんなシチュエーションはレンタルショップで慣れている。こういう場合の対処方法を教えてやる。お前らはオナホールコーナーに隠れて見ていろ。オナホールコーナーなら絶対にアベックは来ない!」(俺の心の声)

「隊長ーーーーー!」(リトルジョン・サンダースの心の声)

「これで俺も、お前らの仲間になれるかな。皆で協力し、好きなエロDVDを気兼ねなく選べるそんなユートピア。アベックにも負けないユートピア。俺達に作れるかな」(俺の心の声)

「電動オナホールも買いたい!」(ジーン伍長心の声)

「いくぜ!」(俺の心の声)

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

颯爽と塹壕を飛び出した俺は、アベックのいるコスプレコーナーへ。

こういったアベックへの対処は決まっている。会話から察するに、女の方はあまりエロに乗り気ではない。乗り気だとしても、こういった怪しげな店に入るのに抵抗を感じているはずだ。それは、おそらく、他のエロ客が怖いとか、気持ち悪いとか、そういうのに違いないのだ。ならばその気持ち悪さを前面に出だしてやればよい。

アベックの横をすり抜け、ナース服などには目もくれず、ワゴン売りされていたブルマを手に取る。もう穴が開くんじゃなかろうか、目からビームが出てブルマを焼き払うんじゃなかろうか、といった勢いでシゲシゲと見る。時折笑うことも忘れない。

「隊長!そこまでして俺達を守ろうと・・・!」(リトルジョン・サンダースの心の声)

「電動オナホールも買いたい!」(ジーン伍長心の声)

店の奥から3人が不安と悲しみが入り混じった眼差しで見つめる。

「短い間だったけど、お前らと戦えて楽しかったぜ、アバヨ!」(俺の心の声)

怪しげな客が食い入るようにブルマを見ていることにアベックが気づいた。そして、予想通り女性が口にする。心の声じゃなくて実際に口に出して言う。

「やだ、あの人・・・気持ち悪い・・・」

「普通だよ、あんなの」

「やだ、気持ち悪い

「大丈夫だって」

気持ち悪いって。もう帰ろうよ」

「しゃあねえなあ」

俺の長い29年間の人生は戦いの歴史だった。エロビデオコーナーで中国人窃盗団みたいな万引き集団とも戦った。中学時代の恩師とも戦った。けれども、そんな長い歴史の中でも、1分間という短い時間の間に3回も「気持ち悪い」と言われた経験はない。

ゴフッ

エロビ戦士pato、ブルマを手にしたままその場で戦死。

「隊長ーーー!」(リトルジョン、サンダース、ジーン伍長心の声)

「来るな!お前達には未来がある。戦いの未来が。それならば、負けた戦士に情けはかけるな。ほら、次の相手が待ってるぞ、早くエロDVDを選ぶんだ・・・来世も・・・好敵手として・・・いや、仲間として会えるといいな・・・ガクッ」(俺の心の声)

「隊長ーーー!」(リトルジョン、サンダース心の声)

「電動オナホール買いたい」(ジーン伍長心の声)

こうして、広さ60坪の戦場で繰り広げられた俺の戦いは終わりを告げた。どうしてそこまでして戦い続けるのか聞かれる事がある。しかし、いくら戦ってもその答えは見えない。そこにエロDVDがあるからとしか答えられないのだ。

今日も日本全国に点在する戦場で、戦士達の戦いが繰り広げられている。誰もが争いなんて好んでいない。心の奥底ではユートピアを夢見つつ、それでも戦っていることを忘れないで欲しい。そして、ブルマを握り締めて散った戦士がいたことを、たまにでいいので思い出して欲しい。

戦い敗れた戦士は、負けても晴れ晴れといった表情だった。それは今回は一般人を巻き添えにしなかったからだ。非戦闘員を巻き添えにする戦争だけはあってはならないのだ。

満面の笑みで戦士が好物のタコの刺身を買いにスーパーによって帰ったところ、店員が気を利かせて中身が見えない紙袋に入れたもんだから、鮮魚コーナーでビリビリ袋が破れて、中からブルマや「巨乳ねぶた祭り(だんじりの姉妹作品)」がモロンと飛び出し、主婦やジャリガキが阿鼻叫喚。

結局、非戦闘員を巻き添えにした隊長は、また引退を決意するのだった。


4/3 ドーナツ化現象

夜の帳が下りた繁華街は怪しく、それでいてどこか魅力的だ。

軒を連ねる飲み屋や風俗店、外国人パブの淫靡な看板は人を狂わせるに十分だ。毎夜、この怪しげな光の下で男女の思惑が交錯し、時に悲しみ、時に喜び、終わることなきドラマが繰り広げられているのだろう。

そんな重厚な夜の街を、ジャージ姿で闊歩する僕。周りを見ると皆、スーツやらドレスやら、夜の街にふさわしく着飾っている。どうにもこうにも理解の許容値を超えるのだけど、風俗店の呼び込みなのかナース姿の女性すらいるほどだ。どう好意的に解釈して夜の街にふさわしくない出で立ちで闊歩していた。

別にゴミ漁りをしていたとか、露出高めの夜の女性を鑑賞しにきたとか、そういうわけではなくて、普段は来ないこの夜の繁華街に来たのはそれなりの訳があった。

いつものごとく家に帰って寝たりオナニーしたり、お湯を入れて入浴しようとすると栓が緩んでるみたいで服を脱いでいる間に湯が忽然と姿を消すイリュージョン湯船と格闘したりしていたのだけど、そうこうしていると急激にドーナツを食べたい衝動に駆られてしまった。

ドーナツが食べたい。あの丸い甘菓子が食べたい。

それはもう理屈でもなんでもなかった。慟哭に近い衝動に駆られ、とにかくドーナツを欲した。おっぱいとドーナツだったらどっちがいい?と聞かれても勢い余ってドーナツを選択してしまうでなかろうか、というほどに追い詰められていた。

何事も我慢とは良くないもので、例えばココで、もう夜も遅いから我慢しよう、ということになった場合、ドーナツを食べたいという思いだけが地縛霊の如く残されることになる。この叶えられなかった思いは明日になってから解消すれば良いと思いがちだが、少なくとも僕にとって特殊な食物であるドーナツ、明日の朝まで食べたいという欲求が維持されているはずがない。

そうなると、ドーナツをわざわざ買いに行くことはなく、永遠に「昨日の夜、ドーナツが食べたかったのに食べられなかった」というセンチメンタルな思いを抱えて生きていくことになる。この厳しい現代社会、そんな報われない思いを抱えて生きていくことは大きな十字架を背負って生きているようなものだ。

そうならないためにも、絶対に思い立った瞬間にそれを叶えなくてはならないのだ。さすれば、「夜中にドーナツが食べたくなっても食べられる自分」というポテンシャルに大いに満足するだろうし、明日からの活力にもなるだろう。とにかく、今はドーナツを食べることだけを考えるべきだ。

早速、インターネットを駆使して今この時間に営業しているであろうドーナツ屋を調べ上げる。さすが、田舎町だけあって、夜遅くまで営業しているドーナツ屋は少ない。よく考えると当たり前で、他のファーストフードや食事なら夜中に食べたくなるのも分かるのだが、さすがにドーナツが食べたくなるってのはあまりない。需要がないのだから、当然、資本主義の原理に則って営業時間も短くなるのだ。

「ドーナツ 夜遅く」

とかとても見つかりそうにない検索ワードで検索しまくり、ついでに
「ドーナツ 夜遅く おいしい」

と、ワガママな条件までつけて検索する始末。しまいには

「ドーナツ 夜遅く おいしい 店員が巨乳」

とか訳が分からない状態になっていたのだけど、なんとか夜遅くまで営業しているドーナツ屋を見つけることに成功。それが、この夜の繁華街に近くに位置するドーナツ屋だった。

おそらく、スナックとかキャバクラで働く女の子にドーナツのお土産とかプレゼントするオッサンが多いんじゃないだろうか、繁華街に位置する花屋が深夜まで営業しているのと同じ理屈で燦然と営業していた。

酔っ払いが楽しそうに闊歩し、アベックが今にもイマラチオしそうな勢いでイチャイチャ歩く。店の軒先ではフィリピーナが「マタキテヨー」と大声を上げる。そんな喧騒に包まれた繁華街のメインストリートを、ただドーナツのためだけにジャージ姿で闊歩する僕。何かが大幅に間違えている気がするのだけど、今はコレでいいのだと言い聞かせてドーナツ屋を目指す。

あの、丸くて甘い菓子。おまけに真ん中に穴が開いていてちょっと卑猥。あのドーナツを食べたい。今食べたい。

と心の中で念じつつも、実はドーナツなんてどうでもよかった。ドーナツ自体はさしてどうでもよかった。ただ、ドーナツが食べたいと思ったらすぐに行動に移せ、さらに手に入れてしまうであろう自分が誇らしかったのだ。

コレがその辺のコワッパだったらそうもいくまい。夜中に外出しようものならお父さんに怒られるからな。しかし、俺はフリーダム。いくらでも、外出できるし少し遠い繁華街にも車で来れてしまう。何者も俺の行く手を阻むことなど出来ぬわ、ガハハハハハ、と闊歩しておりました。

すると、

「ノーパン焼肉」

魅惑的な、平凡パンチみたいなフォントで書かれたケバケバしい看板が僕の行く手を阻むのです。パンツをはかない、いわゆるノーパンツでの意味合いのノーパンと、重厚でジューシーな焼肉が頭の中で繋がらない。もうドーナツのことなんかどうでもいいといった趣で、看板の前に立ち尽くしてしまったのです。

普通に考えるならば、店の女の子がノーパンで肉とか運んできてくれる焼肉屋のはずだ。いにしえのノーパン喫茶、ノーパンしゃぶしゃぶに代表されるいかがわしい飲食店、それであるはずだ。

しかしながら、焼肉とはこれいかに。なにも焼肉でなくてもいいではないか。だいたい、ノーパンの女の子を鑑賞するのが主目的で、誰も肉のことなんてどうでもいいはずなのに、特選牛とか謳ってるのがおかしい。それよりなにより、肉を焼いて店内に煙が立ち込めたら肝心要のノーパンが鑑賞できないではないか。それ以前に、ホルスタインみたいな女がノーパンで肉運んできたらもっと驚く。

とまあ、ない頭を必死で回転させましてね、とにかくノーパン焼肉について本気出して考えていたんです。

風俗店が軒を連ねる繁華街、そこにジャージ姿の小汚い20代後半の男性が一人で立ち尽くし、風俗店の看板を食い入るように見ている。これはカモがネギ背負って調味料まで持参している状態です。自ずと怪しげな呼び込み店員がワラワラと近づいてくるのです。

「お兄さん、何かお店探してるの?」

「いい娘いるよ、いい娘」

「おっぱい、おっぱい、おっぱいのイナバウワー」

3人の風俗店呼び込み店員と思わしきスーツ姿の男性が話しかけてきます。個人的には3人目の「おっぱいのイナバウワー」が気になって仕方なく、フラフラとついていきそうになるのですが、そこは断腸の思いでグッと堪えます。なにより、財布には2000円しか入ってないですからね。

「いやー、僕も気になるところなんですけど、あいにく2000円しか持ってないんですよ」

と丁寧に断ると、2千円しか持ってないヤツなど存在価値がない、早く死ね、と言わんばかりの冷徹な、まるで愛とか優しさに触れずに育った殺人鬼のような冷たい目で睨まれ、呼び込みメンズはスゴスゴと自分の持ち場へと帰っていきました。

そう、ノーパン焼肉の衝撃に我を失いかけていたのだけど、そういえば元々はドーナツを買いにきたのだった。危うく本来の目的を忘れるところだった、と魅惑的な看板と決別しましてね、気を取り直してドーナツ屋へ歩み始めたのです。

「お兄ちゃん、いい娘いるよ?遊びどう?」

余程カモなのか、余程好き者に見られるのか、歩いているとまたもや呼び止められるではないですか。しかも、今度は何らかの達人と思わしきババア。どこで売ってるのと問いたくなるような服装に、引っ越せ引っ越せと布団を叩きそうなご尊顔、そのババアがまるで通せんぼをするように僕のいく手を阻むのです。

おちおちドーナツも買いにいけないこんな世の中じゃ、ポイズン。とか言ってる場合ではなく、なんとか達人ババアの手から逃げないといけないのですけど、

「警察がうるさいからな、ちょっとこっち来てや」

と暗がりの方へ連れて行かれるではないですか。「警察がうるさい」という魅惑のダイナマイトワードに惹かれた僕は、暗がりの向こうに何があるのか気になってしまいましてね、とにかくババアの言われるままに裏路地の方へと連行されていったのです。

本当は「いや、ドーナツ買いに行かないと・・・」「ドーナツなら若い娘にもついてるがな、こっちのほうがおいしいで」という訳の分からない、将軍様と一休の問答より酷いトンチ合戦みたいなやり取りを経て、無理やり連行されたのですが、とにかく、ババアが「ちょっと待っててや」と言いながらどこかに電話しているので、何が待ち構えてるのか見届けようと暗がりで待ったのです。

煌びやかな繁華街から裏路地に連れて行かれ、よく見えなかったのですが、次第に目が慣れてくるとちょっと離れた場所に同じように、別のババアと僕のようにうだつの上がらない青年が立っている。

見ていると、同じように別のババアもどこかに電話していて、青年はソワソワと落ち着きのない様子。しばらく見ていると、ブーツ姿の今風のギャルというか、セックスが主原料みたいな、全身クリトリスみたいな女性がやってくるではないですか。

で、その性兵器みたいな女性がババアと二つ三つ言葉を交わし、青年も何かを了承。青年と女性が腕を組んでさらなる暗がりへと消えていくではないですか。で、ババアは何かホクホク顔で明るいメインストリートの方へ帰っていく。

思いましたね。これは売春を斡旋するババアじゃないか。組織的にババアが男を捕まえ、女の子を紹介する。男は女の子に金銭を支払っていいことをする。ババアには紹介料が入るし女の子も効率良く客を捕まえることができる。なんともまあ、恐ろしい社会の暗部を見たような気がするのですが、夜の繁華街では比較的ありうることなのかもしれません。

ということは、今僕をキャプチュードして裏路地に連れ込んできた引っ越せババアも僕に女の子をあてがってくれるのだろうか。さっきの青年にしてくれたように、僕にも全身クリトリスのような、杉本彩に麻薬を打ちまくったみたいなエロス溢れる女性を紹介してくれるのだろうか。おいおい、こりゃあドーナツどころじゃないぜ。っていうか、ドーナツ、なにそれ?ってなもんですよ。

とまあ、2000円しか持ってないのを忘れて一人で悶々としておりましたところ、引っ越せババアは何件かの場所に電話をかけては切るの繰り返し。良く分からんのですが、そういった女の子を斡旋する場所に電話をかけてるような口ぶりです。

「なんか好みとかある?」

とか聞かれたのですが、全くその時の僕はどうかしてたのですが、「おっぱいの大きい子で」とか即答してました。その前のババアの説明では、女の子とそういうことをいたすには2万円くらいかかると聞かされていたのですが、2千円しかない状態で好みのタイプを答えるのが間違っている。

何件か電話をかけた後、いよいよ女の子が到着してくるのかといった機運が高まり、僕もそろそろ逃げる算段を整えなくてはと思う反面、どんな女性が来るのか見届けてやろうと思いましてね、ワクワクとドキドキの入り混じった、布袋の兄貴が出てきてスーリールーとか言いそうな一触即発の時間を過ごしていたのです。しかしながら

「じゃあ、いこっか」

と引っ越せババアの意外な一言。あれれ、ここで女性を紹介とかしてくれるんじゃないの?女性を見届けてから逃げようと思ったのに。ああ、そうか、ババアは警察がナンチャラうるさいからとか言ってたしな。きっとココじゃ目立ちすぎるんだろう。裏路地と言っても繁華街からちょっと入った場所だしね。きっと、もっと目立たない場所で紹介してくれるに違いない。それを見届けてから逃げればいいじゃないか。とババアについていったんです。

そしたらアンタ、こんなのあったんだと言いたくなるような朽ち果てた民家みたいな場所に連れて行かれましてね、どうにもこうにも旅館みたいなんですけど、そこの入り口でババアが言うわけですよ。

「60分2万円だけど1万5千円でいいから」

いよいよ女の子が来るのか。60分か。よし、オマケしてもらっても払えないから女の子を見たら脱兎の如く逃げるぞ、と決意したその瞬間ですよ。ババアが猪突猛進といった勢いで旅館に入っていくではないですか。おいおい、ババア、ボケちゃったのか。

「あれ?女の子は?」

と僕が素っ頓狂な声で尋ねると、ババアは自信満々で言い放ちましたよ。

「私が相手だ」

と、まるで軍事司令部の非道な命令のような冷酷な言い方でしてね、一瞬、何のことか全然分からなかったんですけど、どうにもこうにも、このババアが僕のお相手のようです。母親より歳が離れてるじゃないか。さすがにそれはない。

確かに要求どおり巨乳っぽいけどさ、さすがにそれはないよ、と悔しいやらおぞましいやら大変なことになりまして、とんでもない速さで逃げ出しました。逃げながら「コワイヨーコワイヨー」と、ちょっと半泣きになってた。

涙ながらにドーナツ屋に到着し、ドーナツを買って食べたのですが、とても甘くて美味しかったのですが、ババアの言っていた「ドーナツなら若い娘にもついてるがな、こっちのほうがおいしいで」という言葉がリフレインし、ババアのドーナツを想像してちょっとオエッと来たのでした。

欲望とお金、様々な性が渦巻く夜の繁華街。人々はまるでドーナツのようにポッカリと開いた心の穴を埋めにこのマッドシティに集います。それだけに、その穴につけこんだおそろしい誘惑もあるのです。

若い子を斡旋してくれるババアかと思ったらババアが若い子のつもりだったという途方もない笑えない事態もありえます。みなさんも、夜の繁華街を歩く時はそれなりに気をつけましょう。ホント、60歳は軽く越えてるであろうのに「私が相手」とか、1万5千円も取るつもりとか、いったいドーナツてるんだ。



4/1 ぬめり2予約販売

「ぬめり2」予約に沢山の申し込みありがとうございます。まさかサイトが落ちるとは思わなかった。予約者の方への返信メールは月曜日には送付したいと思います。

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通信販売申し込みの手順 
1.フォームメールにて氏名・住所・メールアドレス・購入希望冊数を記入して送信する。
2.折り返しメールにて振込口座などの入金方法の連絡があります。
3.入金したら完了です。必ずお申し込み時と同じ氏名で入金してください。確認が取れません。控えなどは大切に保管しておいてください。

販売価格
1冊 1000円  送料 290円 合計 1290円 
2冊 1000円×2 送料 340円 合計 2340円 
3冊 1000円×3 送料 340円 合計 3340円
4冊 1000円×4 送料 340円 合計 4340円 
5冊 1000円×5 送料 340円 合計 5340円
6冊以上 送料無料 希望冊数×1000円

注意事項
・送金はこちらの口座(郵便貯金口座)の振込みのみになります。 
・送付方法は冊子小包郵便のみになります。
・注文生産という性質上、入金から到着まで相当の時間がかかることが予想されます。
・ページ数の都合などで予告した内容から若干の内容変更がある場合があります。
・以上の注意事項に同意した上でお申し込みください。
・先行券をお持ちの方は、備考欄にその旨と、券表面のものを書いてください。

予想以上の注文数で大変なことになりました。注文を締め切ります。予約券を持ってる方は住所氏名(カナ)と希望冊数、券に書いてあるやつをpato@numeri.jpまでメールしてください。

■ 個人情報の利用目的 
当通信販売にご登録された個人情報は、ご希望とされる商品を発送するために利用致します。いかなる場合でも第三者に譲渡、開示することはありません。 
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登録された個人情報は、本来の目的(本の送付)が終了したことを確認した後、速やかに削除いたします。


3/31 ぬめぱと変態レィディオ-ぬめり2発売前夜祭スペシャル-

ぬめぱと変態レィディオ-ぬめり2発売前夜祭スペシャル-
放送開始 3/31 PM21:03
放送終了 3/31 PM23:15
放送URL (放送開始前に告知します)
放送スレ (放送開始前に告知します)

放送内容 
・本当にあったないしょ話
・ぬめり2について
・ぬめり1オークション

聞き方
WinampかWindowsMediaPlayerを準備し、開く>URL>で告知されたURLをズドンと。


3/28 ミリバールカフェ

最近ブームなんですかね。こんな田舎町にもボコボコ新規のネットカフェがオープンしています。職場の近くにも新たにネットカフェがオープンしやがりまして、無類のネットカフェ好き、無類の仕事嫌いの僕としましては、嬉しいやら恐ろしいやら、多少複雑な気分であります。

まず、僕がどれだけネットカフェ好きで、どれだけ仕事嫌いなのか説明しないと話が始まりませんので説明させてもらいますけれども、おそらく皆さんが考えている7倍くらいは好きで嫌い、と考えてくだされば結構です。

仕事嫌いは今に始まったことではございませんので、ネットカフェ好きについて説明させてもらいますけど、例えば、極寒のアラスカ、30年に一度の巨大ブリザードに襲われた僕は、仲間との通信も途絶え、食料もなにもない、まさに絶体絶命の状態にあったとします。いよいよもうダメか、思えば儚い人生だった、雪の上に横たわりいよいよ最期の時来たりと覚悟した時、目の前に女神が現れたとします。幻覚が見えるようになったか、いよいよもうダメだ、と思った時、女神は慈愛に満ちた表情でこう言いました。「アナタを助けてあげましょう。5分間だけネットカフェを利用する権利と、温かいブランデー、どちらか選びなさい」と言ったとします。そうなった場合、僕は、さんざ迷うだろうけど間違いなく女神のおっぱい揉む。揉みしだく。「本当にあったブログないしょ話」という雑誌でNumeriの日記が漫画化されているのですけど、漫画内の僕のセリフのほとんどが「おっぱい揉みたい」だけだったという文字通り内緒にしたい話に基づいて女神を陵辱しまくる。それくらいネットカフェが好き。

でまあ、そんな魅惑のネットカフェが職場近くにできたとなると大変な騒ぎで、普段なら「近くにないから」「行くの面倒くさい」といった理由で仕事後か休日に利用するのがメインとなるわけなのですが、職場から徒歩圏内に建立されたとなるとさあ大変。ちょっと仕事で嫌なことがあったりすると途端にランナウェイしてネットカフェに篭ってしまうのです。

「patoさん、○○の書類まだですか?」

とか催促されただけでネットカフェに走る。まるで世捨て人のようですけど、職場近くにネットカフェがあるってのはそれだけ危険をはらんでいるわけなんです。

オープン以来、何度となく、それこそ嫌なことがあると仕事をサボってネットカフェに行っていたのですが、そうなると、たちまち常連になってしまうではないですか。オープンしたてで客が少ないってのもあるんですけど、数日行っただけで常連風になってしまって、店長と思わしき人と会話を交わすまでに上り詰めてしまったのですよ。

「いつもありがとうございます」

「あ、はい!」(いきなり話しかけられて戸惑っている)

「ネットゲームをされるのでしょうか?」

「は、はい。ネットゲームもしますし、漫画も読みます」(まさかふたりエッチを読みに来たとは言えない)

「ありがとうございます。ホント、最近オープンしたばかりで右も左も分からないものですから。何か不具合があったら言って下さいね」

ちょっと店長がホモっぽくてカマっぽくて怖いのですけど、全国チェーンでない極めてマイナーなネットカフェらしく、いささかの不安を抱いて経営しているようです。そりゃそうですよね、何の指針もなくオープンさせたら不安にもなるってものです。

「いえ、大丈夫ですよ。パソコンのスペックも良いし、今のところは不自由ありません」

「大丈夫ですか?パッチとかあたってます?一週間に一度はあてるようにしてるんですが」

「あ、はい、大丈夫です」

あまり専門的な話になると、もはや店長が何言ってんだか分からないのですが、とにかく店長の不安を解消すべく返答しておきました。

それにしても店長に話しかけられるとはね、よほど僕がネットカフェ狂いの剛の者に見えたのか、まあ、なんにせよ気分悪いものじゃない、今日も仕事サボって楽しむぞー、と指定された個室に赴いたのです。

コーラを飲み、漫画を読み、ネットゲームに興じる。そうやって心の底からネットカフェライフを楽しんだのですが、いかんせん、時間が長すぎて持て余してしまう。お得だという理由だけで8時間パックというキチガイ沙汰を演じてしまったため、どうにもこうにも4時間ぐらい時間を持て余してしまいましてね、何をして良いのか分からない状態になってしまったのですよ。

そこで、もはやサイト管理人の鑑と言う他ないのですが、4時間もあるのなら日記の4,5本は書けてしまう!と妙な使命感に燃えてしまい、ガリガリとネットカフェでNumeri用の日記を書き始めてしまったのです。

変な話ですよね。日記なら家でも職場でも、パソコンさえあれば書けるのに、わざわざ金払って入ったネットカフェで書いてしまう。どう考えても不経済なんですけど、なんだろう、そういうのを超越した、僕は日記を書かねばならない、みたいな神の天啓を受け取ってしまったのです。

個室ブースで鬼のように日記を書く姿は正に鬼、日記の鬼。親が死にそうになっていてもその横で日記を書いてるんじゃなかろうかという勢いで書きまくってました。何も事情を知らない人に、「あの人は病気の子供と約束をしてるんだよ。日記を書いたら手術を受けるって約束してるんだよ」と嘘を言っても信じてもらえそうな、それほどに鬼気迫る勢いで日記を書いていたのです。

この日、僕が書いた日記が、少年時代に自転車屋のオッサンと交流した、ちょっぴりセンチで切ない内容の日記で、まあ、みんな泣くんじゃないの?といった、それこそ月曜10時代くらいにドラマ化されてもおかしくない美談を書いていたのですけど、書きながら自分でも泣けてきちゃいましてね、なんて僕は純粋なんだ、と自分に感動しながら出来上がり作品をフォームメールにて自分宛に送信したのです。

前にも書いたのですけど、僕は家以外の場所で日記を書いた場合、その文面を一度自分宛にメールにして送信します。それを我が家で受け取って更新作業をするんですよね。

でまあ、日記も書けたしちょうど8時間パックも終わる時間になった。なんて有意義な時間だったんだろう、ものすごい泣ける作品も書けたしな!と大満足してネットカフェを後にしたのです。

一度職場に寄って帰宅準備。5分と滞在しないうちに帰宅しまして、何のために仕事場に来たのかサッパリ分からないんですけど、溜まりに溜まってバベルの塔みたいになってる書類の山は見ないことにして満面の笑みで帰宅したのです。

家に帰って洗濯して、破れたパンツを縫ってからですね、いよいよ更新するかとパソコンを立ち上げ、自転車屋のオッサンとの交流を描いたお涙頂戴の日記を更新しようとしたのです。

まあ、普段からほとんど推敲とかしないんですけど、一応、書き上げた日記をザーッと読みましてね、自画自賛で申し訳なく、どんなオナニーだよと言いたくなるのですけど、やはり泣ける日記だ、と感涙に咽びながら読んでおったわけなんですよ。

”少年時代のあの日、自転車屋のオッサンはヒーローだった。”

のくだりから始まる日記。昭和時代のノスタルジックな感覚を思い出させてくれる思い出話。ええ話ややなあ、と思いながら読んでいたのですけど、途中から何か様子がおかしい。

”僕はパンクした自転車と400mだけを握りmめて自転車屋へと向かった”

なんか、mとか訳わかんない文字が出てくるんですよ。ここは「僕はパンクした自転車と400円だけを握り締めて自転車屋へと向かった」っていう、貧しい僕と優しいオッサンとの温かい触れ合いを描いた場面であるはずなのに、mが全て台無しにしてやがるんです。400ミリバールを握りミリバールめて自転車屋に行くとか、意味がわからんにも程がある。

どういうトリックなのか知らないですけど、どうにもこうにも先に読み進めていくとどんどんおかしなことになっていきまして、漢字全部がmとかjとか訳分からん記号文字に置き換わってるんですよ。それが後半になるにつれて大変なことになり、最後のほうのクライマックス、最も泣ける場面では、

”母から聞いた話では、おじさんは癌だったということだった”

というオロロンと泣き出してしまいそうなシットリとした場面では、

”mからjいたbでは、おじさんはgだったということだった”

という、戦時中の日本軍の暗号みたいになってんですよ。泣けるどころか笑える。

しかも、そこからはいよいよダメになったのか、全部の文章が文字化けして、「猯酳跛照樣讓你發」とかやけに画数の多い漢字の羅列で中国語みたいになってました。

ギリシャ神話に登場する日記の神、ニッキーが宿ったかの勢いで書いた渾身の泣ける日記が文字化けで笑えることになり、どういったイリュージョンだと大笑いして書き直す気力すらありませんでした。というか、mを必死で直すのだけは何かが決定的に情けないので死んでも避けたい。

原因が全く分からないのですが、他にも書き上げた日記が「おっぱいをmみたい」とか件のネットカフェから送った日記のみ大変なことになっていたので、おそらくネットカフェのパソコンか回線に問題があるのではないかと思います。全然ダメじゃないか。

でもまあ、日記を書かなきゃいいんだよな、と大して気にすることもなく、相変わらず仕事をサボってネットカフェに行っているのですが、またもや店長に

「何か不具合とかありませんでしょうか?」

と気さくにフランクな感じで話しかけられたのですが、「これは言ってやらねばならん!」とクレーマー魂に火がついてしまいましてね、何か無性にテンパった状態で、

「ミリバールになるんですよ!」

とちょっと怒りながら言ってました。キチガイか。

店長さんも「あ、この人、モノホンのキチガイなんだ」的な顔をして困っておられましたので、何とか誤解どころか6階くらいになった事態を解こうと、

「漢字がミリバールになるんです!」

と懇切丁寧に説明しておきました。キチガイか。

絶対に僕の言いたいことは伝わってないんですけど、店長もこれ以上関わったら店に火をつけられるかもしれん、と思ったのか、

「申し訳ありません、対処しておきます」

と先ほどまでのフランクな眼差しが嘘のような、冷徹で業務的な視線で言われました。

でもまあ、そもそも、金を払って入ったネットカフェで日記を書くという行為がおかしいのです。そんなね、ネットカフェに来た時くらい普段やってる行為から開放され、ネットゲームやエロマンガ熟読とか、そういうのに没頭すればいいのです。それらすらも普段やってるとか考えないようにして、日記執筆以外の事を思いっきりやればいいのです。その面においてこのネットカフェには不具合はない。

不具合のない最高のネットカフェ。職場に近くて最高。店長だっていつも気にして僕ら顧客が満足できるように気配りしている。なんて素敵なネットカフェなんだ、最高だね。これからも仕事をサボって通いまくるぞ!と漫画を選んでいたら、少女マンガコーナーから上司が物凄い数の少女マンガを両脇に抱えて出てきました。

「あ、こんにちは」

「お、おおう」

お互い仕事をサボってるという負い目からか、離婚した後の夫婦のような物凄い気まずい会話を交わしました。

さすが職場近くのネットカフェ。物凄い不具合じゃないか。自転車屋さんの日記より泣けてきた。


3/24 ぬめり2告知

さてさて、主に僕の中だけで話題沸騰中の自費出版本「ぬめり2」ですが、一週間後の予約開始に備えて、いくつか質問が届いていますのでモロッとそれに答える形で再度告知したいと思います。

まず始めになんですが、気になる本の内容について、「おもしろいですか?」とか「どれくらいのクオリティですか?」などと、至極失礼な質問が届いていますが、こればっかりは答えようがなく、まあ、普段の日記レベルでつまらないんじゃないの、買うヤツの気が知れない、としか答えることが出来ません。1冊1000円なのですが、僕だったら1000円も出して買わないよ。

しかしまあ、答えられない理由は別にあって、実は、書き下ろし作品の半分くらいは現在のところ絶賛執筆中です。途中で投げて、もう全部過去ログのコピペでいいや、とならないとも限りません。現に今もこうやって執筆してるので、普段ベースの日記を書く余裕がなく、告知更新でお茶を濁しているわけです。

次に気になる予約方法ですが、日付が4月1日になった瞬間にサイト上に予約フォームが現れます。フォームには氏名と住所、よくわかんないけど「裏表紙にジャイアンの絵を描いてください」といった要望を書く欄があります。手違いがない限り大体の要求には答えますので夢がモリモリ書いてください。

そして、予定数に達した瞬間に予約フォームが消えます。送付できた方はまあ大丈夫だと思ってください。そしてヌメリナイト参加者の方は別枠で、時間と関係なく申し込みできるように致しますので、トチ狂って1年以上待ったぞ!という方はモリモリ申し込んでやってください。

申し込みが確定しますと、そこから手作業でコピペを駆使して返信メールが届きます。これがなかなか苦行で、ネットゲームをやりながらやっても相当の時間がかかります。すぐ返信が来なかったからといって、怒らないでいてくれると大変嬉しいです。

返信メールには振込口座と小粋なジョークなどが書いてありますので、ゆったりとでいいので暇な時に金を振り込んでやってください。今回は郵政民営化を応援するという意味合いをこめて郵便局の口座しか使いません。その辺の準備をしておいていただけると大変スムーズです。

まるで詐欺師の如く資金が集まったところで印刷会社に注文を出し、印刷代金を振り込みます。そこから数日かかって印刷が出来上がり、我が家に寝場所がなくなる勢いで届きますが、そこから皆さんに手作業で発送いたします。また毎日近所の郵便局員に嫌な顔される日々がやってきますが、皆さんは悠々とお待ちください。以上です。

ちなみに、どんな早漏なんだよとツッコミたくなるのですが、既に「予約します 住所は栃木県・・・」とモロ本名、ガチ住所で送ってきている剛の者が数十名様おられますが、いきなりガチ住所を送られてきても困るものがありますので、そういうのはやめてください。ちなみにそんなフライング組の3割が栃木県だったのですが、栃木の人はウッカリさんが多いのですか。

海外でも大丈夫?といった質問がきてますが、海外でも大丈夫です。ただし、前回は海外も国内も同じ送料でやるというアホなことしていて、本代金より高い送料に卒倒しそうになったので、送料を実費で頂くことになります。海外の方は申し込み時にオススメ送付方法も明記してくださると嬉しいです。

前作の「ぬめり」の再販売はないのか、といった質問も多く寄せられていますが、残念ながらデータがありませんので、現存するもののみとなっております。ウチの流しの下に60冊くらい余ってますので、こちらは当選していれば夏に開催されるコミックマーケットにて「ぬめり2」と共に販売いたします。

「俺の分はいらねえ、本の代金は払うから、その分の本をモンゴルの少女に届けてくれや」とダイナマイトな意見が来ていますが、いってきます。

ということで、製作順調な「ぬめり2」。今日は表紙データーを弄くって印刷バージョンに編集する作業をしていたのですが、なんと、そこで衝撃の事実が発覚。

表紙データ、なくした。

いやいや、表紙の絵を描いてくださってるイラストレーターさんに表紙データをもらったのが一年以上前ですからね。そりゃデーターもなくなる。もう手元にはサイトに上げてるこの小さい画像しかない。コレを引き伸ばして表紙にしたらドットが荒くて大惨事になりますよ。大雑把なモザイクを施してるエロビデオみたいな、全画面肌色のステンドグラスみたいな状態になりますよ。

もう表紙なんていらなくて、わら半紙に印刷したのをホッチキスで止めようとも思ったのですが、それが1000円なんて暴動が起きかねませんから、ちゃんと表紙は準備します。

ということで取り急ぎ、ニューバージョンの表紙を僕が書いておきました。これがぬめり2の表紙です。なかなか叙情的な表紙になったと大満足です。

ぬめり2はこの表紙が目印になりますので、みなさんもご自宅に届いたら魔除けにでも使ってください。

ということで、告知でした。

<追記>バックアップMOの中に表紙データーが入ってましたので、実際の本は従来どおりの素晴らしい表紙で発売されます。よろしくおねがいします!


3/20 ちょっとチャット

通信手段の発達には目を見張るものがありまして、最近じゃあ何でもインターネットが当たり前。旅行の申し込みから各種料金の支払い、下手したら買い物まで全てインターネットで賄えてしまいます。

そうなると、言葉を発する機会ってのがあまりなくなってしまいまして、よく考えたら今日は一言も喋ってない、ですとか、それどころか一歩も家から出てないじゃないか、下手したら声を発して喋った量より書いた文章のほうが多いじゃないか、とゾッとすることもしばしばあります。

本当に便利になりすぎて逆に不便と言うか、多少分かりにくいかもしれませんが、なまじ便利なだけに困ったことに遭遇する場面もいくつかあります。

その際たる例が携帯電話でしょうか。携帯電話が普及していない太古の昔であるならば、今は外出中だから連絡が取れない、所在がつかめないから連絡できない、などと嫌な電話から逃げることができたのでき、連絡するほうも仕方ないと半ば諦めることができたのですが、携帯電話を所持していればどこにいようともダイレクト捕まってしまう。嫌な電話だからと出ないでいたり電源を切っていたりすると、なんで連絡が取れなかったんだ!と怒られる始末です。

かの小泉純一郎首相も、「仕事が増えるから携帯電話は持たない」と豪語しているように、便利であるはずの携帯電話が面倒くさい事態を引き起こす原因になるという矛盾のラビリンスに陥っているのです。

現在の生活環境もそうです、なまじ便利に整備されているものだから却って面倒くさい。家から出ずにインターネットショッピングだ!と購入しようとしたらクレジットカード番号を要求されて、本当にこのサイトは安全なのか、詐欺じゃないのか、カード番号を盗まれないのか吟味。そして買おうとしている商品がどんなものなのか分からなくて不安なのでネットで検索して調べる。いざ購入しようと思ったらカード停められてて買えず、どういうことだとカード会社にメールで問い合わせ。返事を待って、先月分の料金を振り込まないと使用できないと言われて焦って振り込む、とまあ、一見するとインターネットショッピングは便利なものっぽいのですけど、やってみると結構面倒くさいんですよね。

面倒、面倒じゃない以前に、やはり便利すぎるのは問題があります。一言も言葉を発せずに、すべてパソコンの前で賄えるってのはどう考えても人間的に問題があります。僕ら人間は他者との係わり合いの中で生き、その中で色々なコミュニケーション能力を発達させてきた経緯があるはずです。それら生身の触れ合いをすっとばして、パソコンのみ、携帯電話のみで触れ合おうってんですから、恐ろしいことこの上ない。

パソコンや携帯電話のやり取りなんて、あんなものコミュニケーションでもなんでもありません。ネットコミュニケーション、なんて大々的に言われてますが、しょせんは記号のやり取り。モールス信号で通信してるのとなんら変わりないのです。

ネットの向こうで相手がどんな顔してるかなんて分かりゃしないし、そもそもどんな人なのかわかりゃしない。その向こうで人が泣くほど苦しんでいたって分かりゃしない。だから平然と人を傷つけることができるんです。だから異様に攻撃的になるんです。記号じゃ感情や痛みなんて伝えられない、生身で触れ合っていても伝わりにくいものなのに。

この先、どんなに通信手段が発達し、例えばテレビ電話みたいなのが一般的に普及したとしても、やはりそれは通信の域を出ないと思います。目の前で飢えた子供がいたら助けなきゃと思うけど、ブラウン管の向こうなら、どんなにリアルな映像だろうと所詮は画面の向こう。リアリティが無いんです。

どんなに優秀な通信手段であろうとも、ネットを介在するコミュニケーションはそれ以下でもそれ以上でもありません。それに心酔し、ずっとパソコンの前にいたり携帯電話を弄っていたりして一言も言葉を発しないなんて危険極まりない。本質ではない部分に踊らされているに過ぎないのです。

それに、面倒じゃないですか。生身の触れ合いだって面倒なことが山のように存在するのに、ネットでのやり取りだと更にそれが倍増する。相手の感情が分からないし、微妙なニュアンスは伝わらないし、「本当に怒ってないかな」「気にしてないかな」「どう思ってるんだろう」と気にする部分が山とある。

例えば、生身のやり取りで、突如女性の乳を鷲掴みし、相手の女の子が「怒ってないよ」とか言っていても、やはり表情やニュアンスで怒ってるじゃねえかって分かるのです。これがネット上で「乳を見せてくれんか」と言って、相手が「変態!」と言って、僕が「メンゴ、メンゴ」と謝り、「うん、分かってくれたらいいの、怒ってないよ」と言おうとも、ネットの向こうで彼女は激怒し、プーさんのヌイグルミを引き裂いているかもしれないのです。シャオ!と指先で切り裂いているかもしれないのです。しかし、それは全然に伝わらない。そういう部分を考えてコミュニケーションするのが面倒なのです。

特に最近、携帯の進歩やネットの普及など、こういったネット上でのコミュニケーションがクローズアップされているように思います。一昔前なら寂しくて死んじゃうようなロンリーな人でも、いくらかネット上に救いを見出している部分があると思います。しかし、一見すると便利なものには必ず危険な落とし穴と面倒臭さがあると心に留めておかねばなりません。でないと、かならず大きなしっぺ返しを食らうことになるのです。

こんな話をしてみましょう。

先日のことでした。休日であまりに暇だった僕は、いつものごとく一言も言葉を発することなく、目覚めてそぐにスライドするかのようにパソコンの前に座りました。

特にこれと言った目的もなく、気の赴くままにネットサーフィンしていたのですが、すると、別にそういうのを狙っていたとかイーグルのように狙いを定めてたとかそういうのではなく、ツルッとマウスが滑ってエロいページに飛んでしまったのです。

最近流行の、女の子があられもない裸体を露出しているブログっていうんですか、今日は新しい下着買っちゃった、ちょっと冒険しすぎかな、みたいな沸いてるとしか思えない文章に添えてエロスな画像が、ブラジャーの機能を果たしていない乳首丸見えのブラをつけた画像が置いてある、みたいなページに飛んでしまったのです。

最近は便利な世の中になったものです。これ、一昔前なら露出狂ですよ。変態の称号を賜り、徹底的に社会から迫害されてもおかしくない行為なのに、最近じゃ普通、あまりに当たり前に多くのページが存在するものですから、20代の女性の8割はこういうエロいブログやってんじゃないかと興奮するほどです。

しかも、けっこうキューティクルな女性がやってる例が多く、ちょっと前なら世界遺産登録間近みたいなブサイクな女ばっかりだったのに、ええ世の中になったもんやのう、と興奮するやらパンパンになるやら大変な騒ぎでした。

こういうエロいブログってのは、エロい画像自体に趣があるのはもちろんなんですけど、もっと注目すべきはコメント欄だったりするんです。もう、コメント欄は下心どころか下過ぎて心が地面に埋まってるみたいなサムライどもが香ばしいコメントを血沸き肉踊る感じで書き込んでますからね。みんな、あわよくば、みたいな感じがスケルトンで大量に書き込まれてるんですよ。

「お金ないよ〜、だから今日はパンだけたべてまーす」みたいなアッパーパーな女の子の日記に対して、「マサシ」ってやつがコメントで「4万までなら池袋で手渡しできます」みたいな剛速球をぶん投げていた時は大笑いしたんですけど、そういうのを読んでるうちにですね、何だか僕も無性にムラムラしてきたんですよ。ちょうど寝起きということも相まってか、こちらが頼もしくなるくらい大変なことになったのです。

何か、何かエロスな物はないのか。

男性の方ならご存知でしょうけど、こうなった時の男ってのは非常に頼もしい。あらゆる可能性を吟味し、あらゆるチャンスに賭けることができる、チャレンジ精神の塊みたいな、スカウターがあったら一発でボンッとなるような力量を身に纏います。普段なら考えられないようなことも平然とやってのける、そんなマリオがスター取った時の様な状態になるのです。

普段、僕はネットで手に入れるオナニーネタ、いわゆるオナニーシードには否定的です。最近ではエロ動画のダウンロードやらエロ画像の閲覧など、なんでもネットでできるようになって「もうAVも借りる必要なくなったし、エロ本も買ってないよ」という声をチラホラと聞きますが、そこにこそ落とし穴があると僕は考えます。

エロ動画のダウンロードとか、ウィルスが心配だとか、詐欺に遭うんじゃなどと面倒なこともあるのですが、それよりなにより、僕は古来からの趣というか、風流なオナニーシード入手を大切にしたい。

ドキドキしながら初めてエロビデオを借りた青き日。クラス中でたらいまわしにされ、僕のところに来た時にはテープが切れていた裏ビデオ。破裂する心臓を抑えながら港で拾ったベロベロにふやけたエロ本。そういったね、ネットで手軽にワンタッチ、では得られない風流さがあるんですよ。エロビデオやエロ本にはね。

そういうのをすっ飛ばして手軽にダウンロードってのは言語道断だと思うし、卑怯だと思う。やっぱり、エロい動画を見るなら誰にも知られずコッソリダウンロードじゃなく、ビデオ屋のカウンタで恥ずかしい思いするとか、エロビデオコーナーでライバルと凌ぎを削るとか、そういう洗礼のような儀式が必要だと思う。そういうのをすっとばしてエロだけって、いつか絶対に手痛いしっぺ返しがくるよ。

昔はなあ、ビデオ屋のエロビデオコーナーは華やかじゃった。一風変わった禍々しきオーラを身に纏ったサムライどもでひしめき合い、「ミニモニファックだぴょん」なんて皆で取り合いじゃったわい。それが今は、若いもんはみんな動画ダウンロードにいってしまってのう、すっかり閑古鳥じゃよ。あの頃は良かった・・・。とpato老人は語る。

そんなことはどうでもいいとして、とにかく、僕は趣のないネットでのオナニーシード入手には否定的なんです。頑なに避けてる部分があって、絶対に手をださないんですけど、あまりにムラムラしてたこの時の僕は違っていた。全てはエロいブログやってる小娘が悪いんですけど、とにかく、今すぐにエロい何かに触れたくて仕方なかった。

満月を見た悟空みいなった僕を止める術などなく、ただ自らの禁であるネットでのオナニーシードを求めてネットサーフィン。検索エンジンで「エロ」とだけ入力するマサシなみの直球。そんなことをしてるうちにですね、良く分からないんですけどライブチャットっていう場所に辿りついてしまったのです。

なんだか、これが物凄くて、女の子のパソコンにカメラがついていて、その映像を見ながら女の子とチャットする、みたいな代物のようなんですけど、チャット部屋で待機している女の子を見てみると、結構そこそこカワイイ感じの、野球で言うならヤクルトスワローズクラスの戦力の女の子が揃ってるんですよ。

も、もしや、この女の子達がエロいことをライブでしてくれるのかしら。と思うと気が気じゃなくてですね、興奮でプルプルと震える指で好みの女性の部屋をクリックしてみたんです。

クリックだけでは入室したことにならないらしく、なんか待機中の女性の映像が興奮の生ライブで見えるんですけど、まるで僕を誘っているかのようにですね、股ぐらからパンティエがモロンと見えてるんですよ。

おいおい、と。別に惹かれたとかそういうんじゃなくてですね、パンツ見えてるよって注意してやろうと思いましてね、迷うことなくノータイムで入室ボタンを押しましたよ。したら、

「登録してください」

みたいな死の宣告みたいなページに飛んじゃいましてね、どうも登録しないと見れないくさいんですよ。それどころか、世の中にそんな美味い話があるわけなく、女性とチャットするのは有料らしくてクレジットカードの登録が必要ときたもんだ。見るとですね、1分200円くらいの途方もない料金がかかるんですよ。

あのね、1分200円ってなんですか。5分チャットしたら1000円ですよ。近所の富谷食堂で唐揚げ定食食ってコーラまで飲めますよ。そんなもん誰が払うかって思ったんですけど、どうも登録するだけで5分間は無料サービスでチャットできるらしく、迷うことなく登録しましたよ。エロとかそういうんじゃなくて、注意したかったんですよ。マジ、注意したかった。注意したかった。注意したかった。

注意したかったんですよ。

そしたらまあ、入室した瞬間に、映像の中の彼女がパンツ出しながらカタカタキーボードを打ちましてね、「こんにちはー(o^-^o)」みたいな、偏差値30みたいな挨拶をしてきやがりましてね、僕は毅然と言ってやりましたよ。

Rumi:こんにちはー(o^-^o)
pato:パンツでてるよ

もうね、夜回り先生みたいな正義なんですけど、毅然と言ってやりましたわい。そしたらあんた映像の中の彼女はさらに大胆に、それでいて淫靡に股を開きましてね。

Rumi:えー、ワザとだよ♪

とかね、もうね、日本の性もここまで落ちぶれたかってもんですよ。本当に嘆かわしい。ワザとパンツを見せるなんて、こういうのは結婚する相手以外にやってはいけないことですよ。

Rumi:えー、ワザとだよ♪
pato:ワザとなのか

みたいな、やり取りをしていたんですけど、突如僕の中の何かがスパークしてしまったらしく、

Rumi:えー、ワザとだよ♪
pato:ワザとなのか
pato:おっぱい見せてくれんか

ですからね。話の脈略がないにも程がある。イメージとしてはさっき昼飯食ったのに光子さん昼飯はまだかいのうって言う爺様のイメージで言ってました。

まあ、見れたら儲けもの、パンツ出してるくらいだからいけるかもしれない、ダメだったら冗談っぽくスルーしようという様々な思惑が入り乱れた発言だったのですけど、

Rumi:おっぱい?いいよ。ちょっとまってて

凄い勇気を出して発言した割には凄いあっさりと快諾。映像の彼女がモソモソと上に着ていたセーターみたいなのを脱ぎ始めたのです。

まさか、こんなライブでおっぱいが拝めてしまうのか!?だって僕、目覚めてから4歩くらいしか歩いてないし一言も喋ってないよ。それなのにおっぱいなんて拝めていいのか!?いやはや、便利な世の中になったもんだぜ、家のパソコンで女の子とチャットできるだけではなく、おっぱいまで生ライブで拝めてしまうとは。通信手段の発達もココまで来たか!!!と大興奮して映像を凝視していたのです。すると、

ブツン

ポイントがなくなりました。追加ポイントを購入しますか?

なんか映像が切れて無情なる表示が出てました。どうも、登録時に貰った無料ポイントがなくなってしまったようです。あと3秒、あと3秒もっていればおっぱいまでいけたのに!と憤怒することしきりですよ。

しかし、予想に反してライブチャットってのはいけるな、このライブによる臨場感など、今までになかったものだ。新しい興奮を覚えてしまったようだ。いっそのこと追加購入しておっぱいを拝んでやろうか、とも思ったのですが、そんなことをすると料金がかさんで途方もないことになるのは目に見えてましたので、泣く泣くチャットのページを閉じました。

ギリギリおっぱいが拝めず、なんか見る前以上の悶々とした情熱を抱え、どうしたものかと考えたのですが、そこで僕はある天才的閃きを、いうなれば天啓のようなものを閃いてしまったのです。

別のサイトにいけばいいじゃないか。

そう、どうも色々と見てみたらですね、こういったライブチャットってのは今空前のブームらしく、様々なサイトが乱立状態にあるんですよ。で、どこのサイトも顧客の確保が重要らしく、とにかく登録させようと、サービスポイントをつけてるサイトが山のようにあるんですよ。

色々なライブチャットサイトをサービスポイントだけで渡り歩く。

そう決めてですね、あっちのサイトで登録しては数分だけの映像を楽しむ、みたいなことをしていたんですけど、いかんせん、時間が短いためか無料ポイントじゃあ満足いくエロスに辿りつけない。

やはりチャットですから、入室してしばらくは雑談し、次第に「おっぱい見せてくれんか」的な内容にスライドしていくのが理想なのですが、雑談してるうちにサービスポイントが尽きてしまう。かといって入室してすぐに「おっぱい見せてくれんか」ではテロリストみたいなもんですから好ましくない。どうしたもんかと悩んでいましたところ、とんでもないクリーチャーを発見してしまったのです。

いやね、こういったライブチャットのトップページって、お話できる女の子の画像がバーッと一覧になってるんですけど、女の子の仕事ですからなんとか客を自分の蟻地獄に呼び込もうと最高にカワイイ写真を表示させてることがほとんどなんですよ。

もう、ジュテームみたいなポーズとってたりとか、目が飛び出るんじゃないかってくらいの上目遣いとか、死人みたいに真っ白に飛ばした写真とか、自信のスマイルとか、そういう奇跡の一枚、みたいな最高に良く撮れてる画像を表示させてるんです。

うわー、みんなかわいく撮れてるなあ、と思いつつ眺めていましたところ、そんな中にあって堂々と、おまえ、これ証明写真をスキャンさせただけだろ、という免許証の写真みたいな無表情にボーっと突っ立ってるだけのを表示させている女性を発見。こいつは何者だーってなもんですよ。華やかな写真群の中で、彼女の写真だけが遺影みたいに一際目立ってた。

おまけに、証明写真であろうともかわいかったり美しかったりしたらいいんですけど、どっからどうみても酷い。なんかトリックアートみたいな顔した女が鎮座しておられるんですよ。逆さに見たら魔女になりそうな顔ですよ。

この華やかな画像群の中に埋もれたやる気のなさはなんだ。もう気になっちゃってですね、とにかく一も二もなく入室しましたよ。そしたらアンタ、待機中の彼女の画像がライブオンエアされるんですけど、なんかホットドッグみたいなの食ってやがるんですよ。何の性的アピールか知りませんけど、それはちょっといただけないんじゃないか。ボロボロこぼれてるじゃないか。

とにかく、こいつは捨て置けねえぜ、と思った僕は急いでチャット開始。すると、「patoさんが入室しました」みたいな表示が彼女のほうにも表示されたんでしょうね、普段よほど入室がないのか映像の彼女が死ぬほど狼狽しましてね、ガタガタガタッってな感じでホットドッグ投げ捨ててました。

とりあえず、ジャブ程度の挨拶で

pato:こんにちはー

みたいに入力したのですけど、彼女はそんなの見ていない。なにをトチ狂ったのか、何も言ってないのに服を脱ぎ始めやがるんです。これはテロですよ、テロ。

挨拶しただけなのにいきなり脱ぐとか狂ってる、とか思うのですけど、彼女は止まらない。なんかマイクを使って音声で

「なんでも言ってくださいね。要求にこたえます」

とか言いながら尻をこっちに向けてフリフリしだすんですよ。映像では画面いっぱいに青のTバックが揺れ動いてですね、出来の悪い催眠術みたいになってるんですよ。いやいやいや、おまえちょっとおかしい。

お食事中の方には大変申し訳ないんですけど、尻を向けたのはいいんですけど、その尻がまた汚いのな。下手したらウチの親父の尻より汚いかもしれないってレベルで、そんなのが画面内を所狭しと蠢いてんの。

もう僕はポカーンとしちゃって、マグマのほうも萎えてしまってたんですけど、なんか彼女の中では勝手に何かがスパークしたらしく。「わかりました。脱ぐので許してください」みたいなノストラダムスの四行詩より訳わかんないこと言い出してTバックまで脱いじゃいましてね、もうとんでもないのが丸見え状態ですよ。何も言ってないのに。

あまりの展開に気が動転してしまった僕は、なんて打っていいのか分からず

pato:寒そうだ

とか訳のわからないことをチャットに打ち込んでいたのですけど、彼女は止まらない。出汁を取った後の昆布みたいな顔しやがってからにですね、ジョイトイ並にM字開脚のポーズになって陰部を触りはじめましてね、もう4年に一度来るお祭りの時の暴走族みたいなテンションで声を張り上げているんですよ。

かと思ったら、いきなり「私のお友達を紹介します」とか言い出して、傍らから日本刀みたいなバイブの登場ですよ。バイブが友達とか、翼君でもいわねえ、絶対にいわねえ。

「そ、そいつをどうする気だーー!貴様ーー!」

と僕が叫んだところで無料ポイントが切れて映像がブラックアウト。貴重な無料ポイントで昆布のとんでもない姿を見てしまった後悔とか、気持ち悪い何かとか、そういうのが悶々と渦巻いていたのですけど、それ以上にあのキチガイが何をしでかすのか気になってしまいましてね、続きを見届けねばならん、と訳のわからない義務感に襲われてックレジットカード番号を入力してポイントを購入してました。死ぬほど高けえ。カード入力、死ぬほど面倒くさい。

ポイント購入して彼女の部屋に戻ってみると、彼女は日本刀を構えた状態で待っていたみたいで、きっとアンタなら戻ってくると信じていたよ、と言わんばかりのオーラで日本刀を素振りしてました。

で、そこからショータイムの開催。どうも彼女の中では勝手にシナリオが出来上がってるらしく、こっちはポカーンとしてるのに「許してください」とか訳わかんないこと言いながら日本刀を出したり入れたり。延々と数十分間、その行為を繰り返してました。

凄い世界があるもんだと思って見ていたのですが、その日本刀みたいなバイブを入れたり出したりし、髪を振り乱して身悶えるブスを見ていましたら、なんだか海底で揺らめく海草のように見えたのですけど、こんなに抜けないエロ映像を見たのはやまだかつてない、と思いつつも、次は何をしでかすのか気が気じゃない状態で見守っていました。

最終的には、オペに使う道具みたいなのが登場し。ブスも「それだけは堪忍してー」と僕なんかは使用用途が全く分からないのに彼女の中では大興奮。そこで購入したポイントが尽きたので、もう飽きたし見るのをやめました。

いやはや、すごいキチガイがいるもんだぜ、と思いつつも、確か無料でオナニーするためにライブチャットの無料ポイントを駆け巡っていたはずなのに、キチガイを観察して5000円分のポイントも購入して使い切ってしまうという愚行、さらにオナニーすらしてないというか、汚い尻で意気消沈とか、全く何をしてるんだ、とため息をつくばかりでした。

便利になた現在の通信を取り巻く状況。しかしそこには大きな落とし穴が存在します。手軽にエロいものを自宅のPCで手に入れられるようになった、女の子と映像つきでチャットできるようになった、けれども、とんでもないキチガイ観察に5000円払ってしまう危険だってあるのです。5000円あったらエロ本なら15冊は買えますし、エロビデオの旧作なら50本を1週間レンタルできます。

便利すぎる社会の落とし穴。買い物にしてもコミュニケーションにしても、今一度振り返って、あえて不便であろうとも遠回りで趣のある
旧来のものに目を向けてはいかがでしょうか。

ちなみに、外に出てエロビデオを借りたりエロ本を買ったりしましたが、結局この日は、「そ、そいつをどうする気だーー!貴様ーー!」の一言、しかも独り言しか発しませんでした。便利だろうが便利じゃなかろうが、言葉を発しない自分に驚きつつ、鳴らない携帯電話を握り締めて眠ります。


3/17 スーパー告知タイム

ポーションってあるじゃないですか。なんか、今話題のファイナルファンタジーシリーズの小道具として活躍する品物で、飲むと体力やら勃起力が回復するってアレですよ。

何をトチ狂ったのか、そのポーションを実際に作って発売しちゃった企業があるみたいで、飲んだ人の感想を聞くと「すごい栄養ドリンク」「あまり美味しくない」「でも、何かは回復しそう」という良く分からないものばかり、ゲーム内のアイテムを実際に作っちゃう豪気さに感嘆するやら興奮するやら大変な騒ぎです。

僕もさっそく購入してやろうと企んだのですが、なんでも一本200円もするって言うじゃないですか。あんな手のひらサイズの小さなビンに収まったドリンクが200円ですよ、200円。タバコ代もなくて吸殻をチマチマ探している僕にとっては訳のわからないインフレーションです。

でまあ、いつもの如く、本物のポーションは購入できないので、なるべく本物に近づくよう、新パッケージになって味わい深くなった爽健美茶でポーションを作ってやろうとしたのですが、いかんせん、本物のを知らないのでどうやっていいのか分からない。

しまいには何でもかんでも薬品を混ぜ始めちゃいましてね、ドリンクのポーションというよりはゲーム内で出てくるポーションに近い状態に。おまけに過激な薬品を使いすぎたせいか、異臭騒ぎまで起こる始末。

こんなもん飲んでも回復するどころか死に至る、みたいな感じでオチをつけようと思っていたのですが、普通に製作過程の有毒ガスで死にそうになるという笑えない結末。そのうち何らかの罪に問われてもおかしくないと思いつつ、ポーションネタがボツになったので今日はザラッと告知事項などを。

1.ぬめり2先行発売決定

途中でファイルが消えて心が折れてしまって製作放棄、いっそのこと全部コピペで出してやろうか、もう開き直って小学生の時の文集を載せるよ、と息まいていました自費出版本「ぬめり2」ですが、なんとか製作の目処がつきました。

2年前に発売し、良く分からない売れ行きを誇った自費出版本「ぬめり」ですが、「とても面白くない」「尻拭く紙にもなりゃしない」「なんでこんなの買ったんだろう、集団ヒステリーだったのよ」みたいな絶賛の声にお応えして、ついに第2弾の発売が決定しました!

前作の「ぬめり」は思い出編と題して思い出話を中心に収録。「ほとんど過去ログじゃねえか」という声も聞こえなかったフリして売りに売りました、そして今回は「チャレンジ編」と題して、対決シリーズなどを完璧に網羅。気になる内容ですが、

▼対決シリーズ 
援助交際女子高生と対決する 
−援助交際女子高生と対決する2 
−援助交際マダムと対決する 
援助交際詐欺と対決する 
悪徳SPAMメールと対決する 
イタズラメールと対決する  
債権回収業者と対決する 
−債権回収業者と対決する2 
サラ金業者と対決する 
出会い系サイトと対決する 
出会い系サイトと対決する2 
出会い系サイトと対決する3 
出会い系サイトと対決する4 
出会い系サイトのキチガイ女と対決する 
宗教勧誘と対決する 
ボッタクリ風俗店と対決する 
−ボッタクリ風俗店と対決する2 
−ネットデリヘルと対決する 
−テレホンセールスと対決する 
裏モノJAPANと対決する 
−パチンコ攻略法会社と対決する  
−絵画販売業者と対決する 
−懸賞商法と対決する 
−ヤクザと対決する 
−オレオレ詐欺と対決する 

▼ひとりDEシリーズ 
ひとりDEデート 
ひとりDEクリスマス 
ひとりDEオフ会 
−ひとりDE USJ 
−ひとりDE ディズニーシー 
−ひとりDE 凱旋帰郷 

というものになっております。「−」が書き下ろし作品、既存の作品も大幅に加筆修正をしてあります。まあ、ページ数の関係でカットになったりなかったことになったりする可能性も否めませんが、たぶんこうなる予定です。

気になる販売価格ですが、なんと、ぬめりの本はお釣りとか面倒なので1000円と伝統的に決まっていますので今回も1000円。B5サイズで横書きなんていうとんでもなくダイナミックな作りになっています。

そして気になる販売方法ですが、これがいささか問題がありまして、なんとか皆さんのご理解を賜りたいのですが、なんと、いま財布を開けてみたところ、財布の中に2000円しか入ってませんでした。口座には400円とかATMでは引き出せない3桁の金しか入ってません。つまりのところ、印刷する金がない。

将来的にも印刷代金を捻出できる希望が持てませんので、こうなったらもう、怪しげなサラ金に金を借りることも辞さない構えだったのですが、首を吊ってしまう未来が垣間見えてしまったので、すんでのところで踏み止まりました。

ということで、今回の先行発売はあくまで印刷代を稼ぐという名目で行います。つまり、完全受注生産という、イタリア職人のカーショップみたいなマネに手を出します。つまり、以下のような流れになります。

1.4月1日0時より、当サイト上でメールフォームより注文を受け付けます。その際には住所氏名など、皆さんの命綱ともいえる個人情報を頂戴します。(注文が予定印刷代金に達し次第、締め切ります。また、ヌメリナイトで先行予約してくださった方に優先的に販売いたします。数量的にはヌメリナイト先行予約分で印刷代をまかなえる予定であることをご了承ください)

2.こちらから返信メールで入金方法などの説明を行います。それにご納得して本の代金を振り込んでください。

3.まるで競馬に打ち込むダメオッサンの如く、売り上げを全て印刷代金に注ぎ込みます。印刷会社の都合にもよりますが、いくらか日数がかかるかもしれません。

4.完成した本を一つ一つ手作業で、真心こめて発送いたします。ちなみに、前回の通販時には徹夜作業で一日に60人分を処理するので精一杯でした。結構時間かかります。

5.お手元に届きます。家族に知られたくない方は、品物を「アダルトグッズ」などの注意書きで送付することも可能です。備考欄でその旨を記入ください。

という流れになります。印刷待ち、手作業による発送、などかなり時間がかかることが予想されますので、気の短い方、老い先短い方などは今回の先行発売は避けてください。

別にどうってことない、尻拭く紙にもなりゃしない本なのですけど、話の種に、いつ届くかドキドキしたい、厄除けのお守りに、など変わった趣向がある方は是非是非ご購入ください。

4月1日0時から、エイプリルフールでもなんでもないのでお待ちしております。

2、本当にあったブログないしょ話

このサイトがいつからブログになったのか良く分からんのですが、3月後半だったか発売予定の雑誌にNumeriのテキストが漫画化されて載るようです。

オファーがあった際に「どうぞー、なんでもいいのでもっていっちゃってください」とだけ返事したので、どのテキストが漫画化されてるのか定かではないのですが、表紙を見る限りおそらく「出会い系サイトと対決する」か「債権回収業者と対決する」あたりが漫画化されてるのではないかと思います。

そんなことはどうでも良くて、ちゃんと僕を速水もこみちっぽく描いてくれたのかばかりが気になるのですが、ご縁があった方は是非、読んでみてください。

そんなこんなで告知終了。失敗作の爽健美茶ポーションを眺め、そういえば大変話題のファイナルファンタジー12が昨日発売だったと思い出し、早速買ってプレイしようと思ったのですが、よく考えたら金に困ってPS2本体を9000円という思いっきり足元見られた値段で売りさばいたのを思い出してしまいました。あのオタク店員、なにが「状態わるいんでえー」だ、このヤロウ。29歳にもなってゲーム屋に売りに行くの恥ずかしいんだぞ。

自作のポーションで服毒自殺したい気持ちに駆られながらも、なんとか「ぬめり2」発売までは生き残りたいと思う所存です。


3/14 サポートセンター

すごいのな、本当に切らないのな。

いやいや、突拍子もなく言われても、読んでる人にとっては「何が?」って感じなのでしょうけど、僕に言わせると、それくらい行間から読み取って欲しいってなもんですよ。いちいち説明するのが面倒というか、そこまで言わないと分かってくれないアナタたちに失望するというか、とにかく、一行書いたらその間にある30行を読み取るくらいのパワフルさを求めてるわけっすよ。

今日はいつになく高飛車なオープニングなんですけど、冒頭の「切らない」の話。何が切らないって、サポートセンターの電話ですよ。ああいったお客様商売な電話においてですね、先方より先に電話を切るってのは失礼にあたるらしく、どんなに頑張っても先に電話を切らないのな。パソコン会社のサポートセンターはそれくらい礼儀とかに徹底してやがるの。

随分前に、モバイル用途で使っていたノートPCの液晶が落下の衝撃で完膚なきまでに割れた時にですね、サポートセンターに電話したんですよ。もう目の前にはバキバキに画面が割れたパソコンがあるというのに何とか無料修理にしてもらおうと、「何もしてないのに画面が出ない」とか「よく見たら液晶がちょっと割れてる」とか電話してですね、何もしてないのにココまで割れるなんてサイキックな力無しでは考えられないんですけど、とにかく、僕には自分でも気づいていない超能力があって追い詰められるとそれが暴走。その日も「早く更新しろ、死ね!」みたいなメールを数百通受け取ってチカラが暴走。液晶が割れた、みたいな線であーだこーだとやり取りしてたわけなんですよ。

「本当に、落とされたりとかしてないんですね?」

「いや、その、あの、まあ・・・超能力・・・」

「落下ではない。朝起きたら割れていたと言うんですね」

「いや、もしかしたら、落としたかも」

「落としました?」

「・・・はい」

「実費での修理になりますね」

とまあ、小学生レベルの嘘などすぐに見破られるもので、完膚なきまでに論破されて涙を見たのですけど、その際にですね、以下のようなやり取りがあったのですよ。

「はい、わかりました。実費で修理します」

「はい、それではお待ちしております」

「それでは、失礼します」

「はい、失礼いたします」

「・・・」

「・・・」

「もしもし?」

「はい、もしもし」

「・・・」

「・・・」

「もしもし?」

「はい」

僕はサポートセンターのお姉ちゃんの甘ったるいボイスを最後まで聞きたくて相手が切るまで待っていたのですけど、向こうも頑として切らない。結果、良く分からない微妙な空気が流れ始め、なんとも気まずい状態に。なんかさ、「おまえ先に切れよ」「やだ、純平から先にきって!」「えー、花子が切れよ」「やだもん、もっとお話したいもおん」「俺も・・・」「えへへ、私も」「なあ、テレホンセックスしてみないか」「うっふん」みたいな、夜毎電話を交わす悩めるカップルみたいな雰囲気ですよ。

いよいよ、エロい話でもしてやろうかと思いましてね、それでも彼女は切らずにいられるのかとか試してみたかったのですけど、真剣に働くサポートセンターのお姉さんにそんなことしちゃいけないと思いまして、何とかすんでのところで踏み止まって電話を切ったんです。

こういうしっかりとした会社のサポートセンターとは、そこまで徹底してるものなのか、と至極感動した思い出があるわけなんですよ。それまで僕が電話かけたサポートセンターなんて架空請求業者とかいかがわしい債権回収業者ばかりですからね。「この主張は法的におかしいんじゃないか?」「うっせえ!死ね」ガチャ、みたいに電話を叩ききられることばかり。その丁寧な対応にいたく感動したのです。

そんな折、またもや先日、パソコンが、今度はデスクトップのパソコンが荼毘に付されてしまったんですよ。このお話は以前にしたと思うんですけど、普通に使っていたらマウスポインタの動きがどんどんスローになりましてね、そのままプッツウウンとか切れてお陀仏、天に召されて帰らぬ人となりました。

まあ、海外のジャーナルサイトなんかを気兼ねなく閲覧していたら訳のわからないウィルスだかスパイだかに感染したみたいで、ブラウザを開くと勝手にエロサイトやら商売サイトに繋がるという訳の分からない状態になってましたので、壊れてくれて清々したんですけど、さすがにスパイウェアみたいなのに感染して勝手に飛ばされた先がセキュリティソフトの通販サイトで「あなたのPC、大丈夫?」みたいなのが英文で書いてあると、このページに飛ばされてる時点で大丈夫じゃねえ、と答えるしかないんですけど、とにかく壊れてよかった。

でまあ、そこからは独り言のオンパレードですよ。どうも30歳間近になると途端に独り言が増えるみたいで、自分でも哀愁やら望郷の想いやら、そういった切ないものを感じずにはいられないんですけど、やはり気がつくと無意識下で独り言を言ってるんです。

「やはり、俺には隠された超能力が、サイキックパワーがあるに違いない。隠された・・・チカラ・・・?さっきも仕事の書類整理で極度のストレスを感じていた。きっと、そのストレスで普段は封印している力が暴走し、パソコンのハードディスクの回転を徐々に遅くして止めてしまったに違いない。チカラの暴走、恐ろしいものだ。以前ほど暴走しなくなってディスプレイが割れることはなかったけど、一台のPCを死に至らしめるとは恐ろしい。もしこのまま僕の手でチカラがコントロールできなくなったとしたら・・・暴走して上司の頭が破裂したとしたらどうしよう。きっと、どっかの軍事研究所に拉致されて暗殺兵器として研究されるに違いない。世界の要人の暗殺は僕のチカラによっ秘密裏に、それでいて確実に行われる。最初は特別な力がある自分の強さに優越感を感じていたのだけど、次第に「誰かが死ぬ」という事実が怖くなる。葛藤しつつ、軍隊幹部の命令のままに次々と暗殺していく僕。そこにテレパシーで話しかけてくる謎の超能力美女が、「はじめまして、同じチカラを持ってる人に始めた会ったよ」「だれだい?」「私はキャサリン、お願いだからチカラの悪用はやめて!もう誰も殺さないで!」「僕ももうやめたい。でもこの研究所から出られないんだ」「私に任せて」キャサリンのチカラなのか、軍隊の連中が次々と死んでいく。キャサリンこそチカラの悪用で人を殺してるじゃないかと思いつつ、なんとか軍事司令部から脱出。テレパシーでやりとりしつつキャサリンと落ち合うと、そこには金髪の美女が。「はじめまして、まさかこんなカッコイイ人だなんて、速水もこみち下と思ったわ」「君こそ、綺麗だ・・・」「私、なんだか胸がジンジンしちゃう」「どうしたんだい、顔が真っ赤だ」そこにテレパシーですよ(だ・い・す・き)「おいおい目の前にいるのにテレパシーで告白かい、キャサリン。「だって恥ずかしいんだもおん」こうして僕とキャサリンはサイキックパワーを駆使したおセックスに励み、「これが49番目の体位だ!」「そんな!空中でなんて!ジュテーーム」となったるわけだな」

という独り言を、ぶっ壊れて真っ暗な画面に向かってブツブツと言っておったわけなんですよ。どっちがぶっ壊れてるんだか分かったもんじゃない。その光景はまさに鉄格子が備えられた病院。時代が時代だったら小学生に「黄色い救急車が来る」と揶揄されるほどです。

でまあ、独り言を言いつつ、ふっと自分を客観視してみましたところ、こんなことをしている場合じゃない、ってのに気がつきましてね、つまるところ我に返ったわけなんですが、急いで保証書やらなんやを探したわけなんですよ。

そしたらアンタ、保証書には「購入日より1年間」という堂々たる表示があるじゃないですか。急いで購入日の記録とその日の日付を確認したところ、ものの見事に壊れる前日に保障期間が終わっていたことが判明。とりあえず、保証書片手にワナワナと震えるくらいしかないのですが、なんとかなるかもしれないと一縷の望みを胸に、該当メーカーのサポートセンターに電話したのです。

「はい、もしもし、○○○○○○センター、担当山中です」

「あのー、突然壊れて動かなくなったんですけど」

「故障修理ですね。確認のため、もう一度電源を入れてもらえますか」

「はい。あ、やっぱダメですね、うんともすんともいいません」

「でしたら、パソコン本体をこちらに送っていただいて修理という形になるのですが」

「おねがいします。あ、でも昨日で保証期間が終わってるんですよ」

「そうですか。では、有料修理になりますね。HDの交換などの際は事前に料金をお知らせして修理になります」

「でも、保証が切れたのは昨日なんです」

「はい、でも壊れたのはいつでしょうか」

「今日です」

「保証期間外ですね」

「ですよね」

「ですね」

「じゃあ、そちらにパソコンを送ります」

「はい、ではまた改めて修理費をお知らせいたします」

「おねがいします」

まったくどうにもならず、少しくらいオマケしてくれねーかなーと思っていたのですが、その夢が脆くも崩れ去りました。これが詐欺を生業にしている悪徳業者なら僕も食い下がらず徹底抗戦するのですが、きちんと人のために働いているサポートセンターの人に食い下がるなんて人として出来るはずもなく、修理費をどうやって捻出しようかと悩みながらそっとキーボードの上に携帯電話を置いたのでした。

ここでまた独り言が炸裂ですよ。

「いやーカワイイ声のお姉さんと話して少し落ち着いた。ターセルさまさまやわ。けれどもまあ、おそらく、さっきのサポートセンターのお姉さんとの会話も僕のサイキックパワーを狙っている国家の連中に盗聴されているだろう。そしてパソコンを受け取りに来た宅配業者を装って僕に接触を図る。あわよくばそのまま拉致しようという魂胆だ。しかし、サイキックパワーによって悪人の禍々しきオーラを読み取れる僕はすぐに異変に気がつき、テレポーテーションを駆使して逃げる。追っ手の連中はこのパソコンに入っている新エネルギーの発見に関する僕のデータも狙っている。「パソコンを渡したまえ!」「ふん、国家の犬になるくらいなら俺は反逆者でいい」どうやら新エネルギーと僕のチカラを恐れる石油メジャーの会長が組織の黒幕のようで、黒服を駆使して僕を追い詰める。そして、もう一人の、組織の手によって訓練され、徹底的に洗脳された超能力使いが現れ、ついに最終対決。「ふふふ、お兄さん、筋はいいけどチカラは僕の方が上だよ」「な、なんだってーー!俺のチカラが効かない、うわああああ」徹底的にピンチに立たされる僕。そこで頭の中に響くテレパシーで声が(ピンチのようね、助けてあげるわ)その声と共に敵の超能力者が急に苦しみ始め、頭が破裂してザクロみたいになって絶命。一体誰が・・・助けてくれたんだ・・・「私よ」「その声は・・・サポートセンターのお姉さん!一体どうして!」「初めて電話で声を聞いたとき、恋に落ちちゃった。まさか同じチカラの持ち主だったなんて、声だけじゃなくて顔も速水もこみちみたいでカッコイイのね」「君こそ、声も美しいが容姿も美しい」こうして僕とサポートセンターのお姉さんは、サイキックパワーを駆使したおセックスに励み、「これが50番目の体位だ!」「そんな!大車輪みたい!!ジュテーーム」となったるわけだな」

と独り言大炸裂。妄想世界の住人になって満足気にふっと携帯電話をみましたところ、なんと、携帯電話画面には「通話中」というにわかには信じがたい表示が。

どうもですね、電話を切ったと勘違いしたらしく、電話を閉じるでもなく開いたままでキーボードの上に置いたのがまずかったらしく、通話中のまま放置されるという結果に。

しかもですね、対応の良いサポートセンターの人は相手が切るまで切らないという確固たる不文律がありますから、電話を切らずに向こうも放置。結果、僕のスパイシーな独り言があますことなくお姉さんに伝わってしまうという大失態。まさか、こんな大失態になるとは。

落ち着いて上記の独り言の部分を、切れてない電話でお姉さんが聞いてると想像して読んでごらんなさい。それはそれは、横浜ベイブリッジを指差してレインボーブリッジだ!と豪語したときより恥ずかしい気持ちになれるから。

あまりの恥ずかしさにこのまま逃げ出して人里離れた山村に移り住み、そこで野生のイノシシでも食べて暮らしていこうかとも思ったのですが、なんとか取り繕わなければならんという意味不明な義務感にさいなまれ、ワナワナと震える手で携帯電話を取りましたよ。

「もしもし?」

「あ、はい、もしもし」

「聞いてました?」

「いえ、何も聞こえませんでしたよ」

と言ってる声が間違いなくプルプルしてて、間違いなく聞いてるんでしょうけど、なんとか取り繕うと、とにかく最低限、独り言であったことを否定しようと変なプライドが働いたらしく、

「いやー、自作の小説を朗読してまして」

とか訳のわからない言い訳をしてました。なんだその小説。

「では失礼いたします」

「はい」

今度はしっかりと通話が切れたことを確認。あまりの恥ずかしさに悶々とし、もうぶっ壊れてるしいいか、とパソコンを破壊したい衝動に駆られたのですが、なんとか、これも僕を辱める国家の陰謀に違いない、恐るべし国家!と延々と30分くらい独り言を言うことで落ち着きました。

礼儀作法の世界では、電話をかけてきたほうが先に切る、という約束があるようで、それに忠実に従って訳のわからないキチガイの独り言もジッと聞いてるとは、サポートセンターの人は偉いなあ、と思いつつ、あまりにも痒いのでボリボリかきつつパソコンを修理に出しました。どこが痒いのかは行間を30行くらい読み取ってください。


お知らせ
自費出版本「ぬめり2」が4/1から発売されます、いくつか笑えない事情がありますので、数日後のアナウンスをお待ちください。


3/6 僕の口

お前の口は一体何のためについてるんだ?

子供の頃、親父に怒られるといつもそう言われた。もちろん、ゲンコツなど暴力行為による肉体的破壊も脅威だったのだけど、往年のテクニシャン系レスラーを思わせるような言葉でのネチッコイ責めも十分に脅威だった。

何かについて怒られる時、やはり子供心にも「責任を逃れたい」といったよこしまな気持ちが働く。そこで色々と策を弄して言い訳したり責任転嫁したりするのだけど、そこはやはり子供のやること、どうしてもボロが出てしまって取り繕えない。親父はそんなボロを見逃さずハゲタカのように捕らえては徹底的に論破した。

結果、こちらとしてはどうしても打つ手がなくなり黙り込んでしまうことになる。すると冒頭のセリフを容赦なく浴びせられるわけだ。

お前の口は一体何のためについてるんだ?

ほらほら、テメー、もっと言い訳してみろよ、もっと責任転嫁してみろよ。俺はな、お前が悪いことしたから怒ってるんじゃない、お前のその姿勢に怒りを持ってるんだ。すぐ言い訳する、すぐ責任転嫁する、その卑怯な姿勢をな。ミスは悪いことではない、問題はそのミスをどう償うかだ。と言わんばかりの無言の圧力ですよ。

こういった逃げ場を塞ぐ説教というのは精神的にくるものがありまして、それならばいつもの如くゲンコツ一閃、景気良く殴られて華々しく散るほうがスッキリするのですが、どうにもこうにも本気で親父の怒りに触れた時はこのスタイルの説教が多かった気がする。

ゲンコツを食らったりとかグーで殴られたりしたのはあまり覚えてないのですが、こうやってネチネチと怒られた記憶だけはなかなか忘れられないというか、例えるならば、25歳OL冴子は色々な男と散々遊び尽くした。まるで波乗りのように夜から夜へ、男から男へ華麗にライディングする夜の蝶。そりゃあ忘れられない男だっていたわ。でもね不思議と若くてイケメンの、激しいセックスをする男はあまり覚えていないの。脂ぎったオッサンで、見るからに臭ってきそうなバーコードハゲ、彼の老獪なテクニックが、ネチッっこいドロドロとした責めが忘れられないの、ああ!!そんなところまで舐めるの!?やめて!!おかしくなっちゃう!みたいな感じですよ。よくわからんけど。

結局ね、こっちはもう打つ手なし、完全に白旗あげちゃってるから黙り込んでるわけなのですが、そこに「お前の口は何のためについてるんだ?」とか仁王の如き表情で言われるわけですからね。言うなれば下痢してるのに浣腸されるようなもんですよ。

結果、この親父の老練なネチっこい責めのせいもあってか、僕は今でも本当に困ってしまうと押し黙ってしまうというスキルを手に入れてしまい、上司に怒られつつ「黙ってちゃわからんじゃないか、君ィ」などと更に怒られることになっているのです。

本当に困ったときに押し黙ってしまう癖ってのはなかなか良くなくて、見方によっては潔いだとか武士のようだとか大和魂だわとかアッパーパーなお姉ちゃんが言うかもしれませんが、実際にはそうではありません。黙ってるってことは白旗ですので、そこに逆転のチャンスがあろうとも何も始まらないのです。諦めたらそこで試合終了、押し黙ったらそこで試合終了なんです。

で、黙ってしまう僕は、過去、幾多の「黙らずに喋っていれば責任転嫁できたであろう」ケースにおいても、敗残兵のごとく悔し涙を流したのです。

あの日、幼き日、親父は「お前の口は何のためについてるんだ?」といった言葉で僕に何を伝えたかったのだろうか。結局、窮地で押し黙ってしまうダメな大人を作り出してしまったのじゃなかろうか。親父の教育は間違っていたんじゃないだろうか。そう思うとまた押し黙ってしまうのですが、先日、そんな思いを払拭する事件がありました。

休日の昼下がり、僕がいつもの如くスーパーに買い物に行った時の話です。いつもは近所のスーパーに行き、本気で容赦なしに角刈りのオバサンが担当するレジに行ってヤキモキするのですが、この日は現金を48円しか持っていなかったという事情もあってか、クレジットカードの使える少し大きめのスーパーに行ったのです。現金がないからクレジットカードで食料品を買う、カード破産まっしぐらです。

このスーパーは車で行かないと苦しいくらい遠くにあるのですが、大変便利な立地でございまして、最近、田舎の街で多く見られるようになった商業施設集合体とでも言いましょうか、多くの店舗が同一の敷地内に立ち並ぶ一大アミューズメントパークを形成しているのです。都会派の人にはピンとこないかもしれないけど、田舎では多いよね。

ここはかなり大きな複合施設で、中にはホームセンターから各種の外食屋、お子様が喜びそうなおもちゃ屋にレンタルビデオショップ、紳士服に本屋や美容室、パソコンショップまでありやがりまして、ついでにサラ金まで。おまけに、わけわからない企業のショールームやらモデルハウスまであって何がしたいんだか全然分からないんですけど、とにかく広大な敷地に様々な店舗が軒を連ねているんですよね。で、その中核を成す施設に件のスーパーがあるわけなんです。

ホント、あまりに色々な店舗が多すぎて、ここでブラブラショッピングしていれば、あら、この色のスーツいいわね、そろそろパソコン買い換えようかしら、変なのに感染したみたいで勝手にエロサイト開くのよね、と一日潰せそうな勢いなのですが、あいにくと48円しか持っていない僕にはそのような権利はございません。そんなブラブラショッピング、略してブラを出来るのは富める貴族だけなのです。僕はただ今日食う食料を、明日食う食料を手に入れるため、生きるためにクレジットカードを握り締めて一目散にスーパーです。

でもな、例えブラが貴族の行いでも、高そうなスーツを、これ、買っちゃおうかなって豪快にやる権利がなくても心は錦。スーパーでだってそういった貴族の心は忘れないんですよ。

このシャケ、いい色してるな、着色料だろうか。いやいや、こちらの鶏肉も負けてはいませんぞ。モモ肉ですぞ。美味しそう。とスーパーの中で貴族のようにショッピングですよ。

貴族のように優雅に振るいつつ、いつものようにコーラを買ってカップラーメンを買って、ついでに自宅でプリンが作れる魔法の粉を買いましてね、よしよし、これでしばらく食いつなげるぞ、と内心ほくそ笑んでおったのです。

そんでもって生肉コーナーを優雅に、それでいてエロス溢れる気品を振りまいてヒラヒラと歩いておりましたところ、生肉コーナーの隣にはなんか新鮮な食材を取り扱ったコーナーがあったのですよ。で、豆腐などが豆腐!と言わんばかりの表情で立ち並んでおったのです。

へえ、豆腐ね。たまには豆腐でも食ってみっか、と物色していましたところ、事態は急転。なんと、その横にある納豆を見つけてしまったのです。

自慢じゃないですけど、僕は納豆がビタイチ食えない。それどころか匂いだけでクル。匂いだけでパニクルー。若気の至りで過去に何度か納豆を食おうとチャレンジしたことがあったのですけど、その度にゲロを吐くという徹底ぶり。下手したら、感じのいい後輩OL、例えるならば根本美緒さんのように爽やかさが溢れ、それでいて知性があってそれが嫌味でない、いうなれば非常に好みのタイプな後輩OLにですね、懇切丁寧にプロジェクトの概要を説明し、根本さんは感動して言うんですよ。「なるほど!こんな切り口もあったんですね、さすが先輩ですう」とかなんとか、おまけに感極まって「抱いて」とか言い出すんじゃねえかとハラハラしながら説明を続けてですね、「こういうことだよ、わかったかい?」と死ぬほどの優しさで言うんですよ。そしたら後輩根本さんは「よくわかりました、納得ですう」と、そしたら殴るね。ガンガン殴る。納豆食うじゃねえよ、とガンガンやる。「納豆食う」と「納得」を引っ掛けた古典的手法を用いる自分もガンガン殴る。

でまあ、うわー、こんなの人間の食い物じゃねえ。何がオカメ納豆だよ。とか独りでブツブツ言いながらですね、久しぶりにしげしげと納豆を眺めておったんですわ。

そしたらですよ、不意に、まるでキューピットにハートを射抜かれたかのようにですね、全く何の前触れもなく、ギュルルルルルルルと腹が痛むじゃないですか。もう今すぐにも出るレベルの、腹痛の深刻度をランク付けするならば、間違いなくP4からP5レベルに位置するであろう腹痛が急激にきたんですよ。

レベル  
P1 ちょっとお腹痛いかも、でも我慢できるレベル
P2 あれれ、やばいかな?トイレに行っておこう
P3 ヤバイね、いち早くトイレに行かなければ
P4 もう出る、世界中全てが敵
P5 半分出た、もうどうでもいい

もう、ふざけんな、と。僕はね、これまでの29年間でどれだけこの腹痛に、ウンコに悩まされたかと。大切な発表会の日とか、勝負を賭けるテストの日、入試や面接の時に限ってギュルギュルきて実力の半分も出せないなんてザラですからね。この腹痛がなかったら今頃僕は外務省にでも入って世界を飛び回ってるはず、そうに違いないですからね。憎い、この腹痛が憎い。

クソッ!腹痛のヤロウは平穏なショッピングすら許さないのか。とにかく、いち早くこの異物を排出してしまわねばならない。なんとか体に憑いた悪魔を振り払わなければ買い物も満足に出来やしない。だいたい、人間の肛門ってのはウンコを出す役割と同時にウンコを留めておく役割もあるはずだ。入国管理局のごとくウンコを塞き止める役割だってあるはずなのに、僕の肛門はフリーパスじゃないか。不法入国者通りまくり。僕の肛門は一体何のためについてるんだ、クソッ!

ウンコでクソッとか上手いこと言った、とか自画自賛してる場合ではありませんよ。とにかくトイレを探さねば。納豆コーナーでウンコ漏らした日にゃ、新たな納豆トラウマがトラウマランキング上位にランクインするのは確実。なんとしてでも避けないといけませんよ、これは。

とまあ、とにかくトイレを探すのですが、こういった大型スーパーって万引き対策か欲求不満な主婦対策だか知りませんけど、店内にトイレがないんですよね。大体が店の外とか、支払いの終わってない商品を持ち込めない場所にトイレがあるんですよ。どんなトラップかって話ですよ、コレ。

ここで僕は二者択一の非常に難しい選択を迫られることになります。商品を持ったまま外にあるトイレに駆け込めば「見てたわよ、返しなさい」と万引きGメンのバアアに腕を掴まれることは必須。となると、商品を元あった場所に返してトイレに駆け込むか、レジで購入してトイレに駆け込むか、この二つしかないのです。

購入しまくったコーラやカップラーメンを元あった場所に戻すのはかなりのタイムロスが予想される。コーラはまだしも、カップラーメンを種類ごとに分けて返してたら途中で漏らすのは確実だろう。それだったらレジまでいって購入した方が早かろう。なあに、クレジットカードによる支払いだ、お釣りのやり取りとかなくて素早いに決まってる。なんてたってキャッシュレスだからな。

よし、決めた。ここは今一度僕の肛門、いや肛門様には頑張ってもらって、せめてレジを通過する間だけ敵軍を食い止めてもらおう。そうすれば今抱えてる問題の大半がクリアーになるじゃないか。

もうね、こういう窮地における人間ってのは何故か意味不明に強がる傾向にありましてね、周りに腹痛を悟られてはいかんと最大限に涼しい顔をしてレジに向かいましたよ。

ざっと見ると20個ほどレジの約半分が稼働中。そして綺麗に3人ずつレジ待ちの人が並んでいる。全部稼動させれば待ち時間なんてほとんどないのに、ったく、と思いながら並んでる人々のカゴの中身を瞬時に判断。一番待ち時間が少ないであろう列に並びました。

買い物カゴを持って無我の境地。そろそろ悟りを開くんじゃなかろうかという物静かさで並んでいたのですが、ここで大きなビックウェーブが到来。最初の腹痛が黒船ペリー来襲とするのならば、今回のは敗戦を決定付けた原爆レベルの破壊力、ノーモアヒロシマ!とか祈りながら並んでいました。

そして、なんとか核レベルの腹痛にも耐え、もう肛門がプスプスいってるのですがいよいよ僕の順番。何回もパーマかけるの面倒だしもったいないから強めにかけたわ、みたいな頭したオバちゃん店員がピッピッとバーコードを読み取らせていきます。

しかし、悪い時に悪い事ってのは重なるもんで、なんか出前一丁のバーコードだけが読み取れないんですよ。オバちゃんも「あら、あら」とかやってるんですけど、何度やってもプププとか音がしてピッという小気味良い音が聞こえてこない。

もういい、その出前一丁はいらん。捨ててくれ!とでも言いたいのですが、何も言えずただただ祈るだけの僕。やっとこさ読み取れて「1242円になります」とか言われ、颯爽とクレジットカードを出しましたよ。支払いはこれで、見たいな感じでキラーンとクレジットカードを。スーパーでカードを使うなんて皇族くらいのもんだと思ってたんですけど、やってみるとなかなか良いもんだな、これで腹痛がなかったら最高の気分なんだが。とか悶々と考えつつ、早く処理を終わらせてくれ、ノーモアヒロシマ!とか心の中で叫んでいましたところ

「あら、ダメだわ、これ」

なんと!クレジットカードで決済できない!

限度額まで言ったのかカード停められたのか知りませんけど、とにかくカードが使えない。おかしい3時間前に有料エロサイトの料金を払った時にはいけたのに!なにが起こってるんだ!一体僕の身の回りで何が起こってるんだ!

と思うまでもなく、カードが使えない事実にビックリしてそのままブリブリブリといきそうだったのですが、なんとか土俵際で踏みとどまります。

もちろん、カードで決済できないなら現金で払えるはずもなく、「すいません、これやめます」とかいってトボトボと全部の商品を返しに行きました。走っていきたかったのですけど、振動とかはマジでやばいので静かに静かに、隠密な人みたいにゆっくりと歩きながら返しました。最初から返す方を選んでいれば良かったと思いつつ。

使えないクレジットカードって何のためのカードだよ、とブツブツともはや病的になりながら呟きつつ、全商品を返却して一目散にトイレへ。するとな、もう当たり前の如く、まるでそうあるのが当然と言った、もう何度も経験したことなんだけど、全大便コーナーが見事に満室。ソールドアウト。うお!一個空いてる!と喜び勇んでドアを開けたら掃除道具入れだしよ。もう泣きたくなったよ。

マズい、このまま待っていてはいつ中の人が出てくるかすら分からない。前にもそのまま待ってたらずっと出てこなくて大変なことになった経験がある。待つのは得策ではない。考えろ、考えろ、現状を打破する方法を考えるんだ。

そうだ、普段のスーパーなら苦しい状況であるのだけど、ここは大型の複合施設じゃないか。恐れることはない、このスーパー以外にも店舗は山のようにあるじゃないか。そこでトイレを借りればよい。頭の中で電球が点いたのを感じましたね。

よし、スーパーのトイレは諦める、可能性を求めて外に出ようじゃないか。

一時は絶望、それこそ掃除道具入れの中ですることさえも辞さない構えだったのですが、希望という光を手に入れた僕は、「まだまだ負けるわけにはいかんよ」と呟きながらスーパーを離れ、まずは隣にあるパソコンショップへ。

「すいません、トイレ貸してください」

もう恥じも外見も捨てた。普通なら極めてナチュラルに、それこそHDDの話とかしてからトイレの話に移行するのですが単刀直入に店員に直訴ですよ。

「あ、トイレでしたら、うちは隣のスーパーさんのトイレを借りることになってるんですよ」

なんとも恐ろしい、死の宣告ともとれる返答。そこのトイレはさっき行ったら満員だったんだ。なんだよ、この店は「パソコンなら何でも揃います!」とか看板の訳分からんキャラが言ってるのにトイレすらないのか。

死にそうになりながら、もう手で肛門に栓をしたい気分に駆られながらさらに隣の店舗にいきましたところ、そこが超絶にオシャレな美容室ですよ。なんかガラスの玉とか敷き詰めてあるスーパーオシャレ美容室。エクステンションとかエクスタシーみたいなエロい言葉が踊ってる美容室ですよ。

ダメだ、いくらなんでもこんな女人だらけの場所にジャージ姿で切り込んでいってトイレ貸してくださいとか言えない、言えるわけがない。絶対にダメだ。ああああああ、外に出たのは失敗だった!とか思ったその瞬間ですよ。

僕の目の前に飛び込んできたのは希望の光。見紛う事なき希望の光。この窮地に置かれた僕を絶対的に救ってくれるノアの箱舟。その看板が目に飛び込んできたのです。

あそこなら確実にトイレがあるだろう。間違いなくあるだろう。ないとは考えられない。絶対にあるはずだ。少し距離が遠くて辿りつくまで耐えられるか不安だけど、確実でない他の店舗を目指すより、確実な、約束された地を目指そうじゃないか。

近くの不安定要素より遠くの安定要素。僕は決死の思いでその希望の店舗へと歩き始めました。一歩また一歩と、ちょっとした拍子で大爆発するであろう爆弾を抱え、静かに静かに、それでいて確実に歩を進めたのでした。

その希望の光というのが、「TOTOショールーム」。まさに便器を作ってるメーカーのショールームですよ。ここが大型複合商業施設であることが生きた。まさか便器メーカーのショールームがあるとはな。普段は全く気にもしないショールームだけど、今は天竺のように輝いてみえる。

あそこだ、あのショールームにさえ辿りつけば、この忌々しい悪魔を産み落とせる。さすれば僕は自由だ。もはや誰も止めることなど叶わない自由なる翼。天空を翔るイーグルのように。ノーモアヒロシマ!

ぶっ壊れたお爺ちゃんみたいな歩きになりつつ、なんとか駐車場を横断してTOTOショールームに到着。その頃には、「たくさん便器があって迷っちゃうよ〜」「patoさま、早くお決めになってください」と何故か秘書まで出てくる訳の分からない妄想をしていたのですが、到着するとそんな妄想を吹き飛ばす最悪の事態が。

「本日、社員研修のため休業します」

ぶるあああああああああああ。なんだ!社員研修とか。そんなの聞いてないぞ。と叫んでみるものの、もはや無力に等しい、蚊の泣くようなか細い声。ショールームの扉は堅固に閉ざされ、明かりの消えた室内には何個かのファッショナブルな便器が誇らしげに鎮座しておりました。

まるでトランペットに憧れる少年のようにガラスにべったり張り付き、豪華絢爛に並ぶ便器群に向かって、「お前、その便器は一体何のためについてるんだ?」と問いかけたのですが、当然ながら反応はありませんでした。

もうダメだ、目の前にこんなに便器が並んでるのにできないなんて、こんな屈辱初めてだ。もうトイレを借りるとか悠長なことは言ってられない、今まさに出てしまう。

もうどうしようもなくなったので、ショールームの裏手に回り、幸いなことにそこはショールーム専用の駐車場になってましたので、臨時休業中とあって人影はなし、もちろん、建物の死角になっていて目立たないという好条件。仕方ないんだ、仕方ないんだと自分を言い聞かせながら致してしまいました。

しかしまあ、僕にも最小限の良心が残っていたようで、そりゃあね、いきなり駐車場にクソとかかまされた日にはテロに近いものがあるじゃないですか、発見した人の精神的被害が心配じゃないですか。だからね、なるべくブツは残さないよう、瞬時の判断でゴミ箱から大きなビニール袋を持ってきてましてね、その袋にするような近未来スタイルで脱糞をしたわけなんですよ。袋を噴火口に構えてイナバウアーみたいな状態で脱糞したった。

相変わらず危機的状態から脱すると最高にクールだ。なんでウンコごときで悩んでいたんだろうな、と思いたくなるほどに気分爽快。さあ、もう悪魔は浄化された、コレで俺は自由だ!とか青く澄んだ大空を眺めていましたところ、

「すげー、あのオッサン、すごい体制でウンコしてたぞ」

と頭の悪そうなクソガキが駐車場の片隅にいるじゃないですか。なんだこいつら、なんでこんな場所にいるんだ。それにしても、いくら焦っていたとはいえ僕が気付かないほど気配を消していたとは、やるな小僧。とか言ってる場合ではありません。もうクソガキどもが調子に乗っちゃって

「うんこー、うんこー、ウンコマンー!」

とか祭囃子のように囃し立ててくるではないですか。で、僕は恥ずかしいやら困ったやらで押し黙ってしまいましてね。手にはウンコがたっぷり入ったビニール袋を持ちつつ、あの日、親父に怒られた時のように口を閉ざしてしまったのです。やばい、目撃されて死ぬほど困った。通報とかされたらやばいんじゃないか。ただただ押し黙ってしまったのです。

あの日、親父は僕に何を伝えたかったのだろう。「お前の口は一体何のためについてるんだ?」、あの言葉がリフレインします。押し黙っていたって始まらない。カッコ悪くたっていい、間違っててもいい、困った時ほど口を開いてアクションを起こさないとダメなんじゃないか。黙るだけならサルだってできる。そう、僕は人間なんだから、困った時ほど沈黙せず、口を開くべきだ。そう、今こそその時だ!

幼き頃のトラウマから解き放たれた僕は、もう迷うことなど無いといった清々しい表情で子供達を睨みつけ、硬い封印で閉ざされた口を開いたのでした。

「がおー!ウンコマンだぞーーー!」

ジャージ姿の汚いオッサンが右手にウンコがパンパンに詰まった袋を持ち、しかもそれが半透明の袋だからちょっとシースルー、で「がおー」とかいってるんですから、今度はこの子供達のトラウマになるってものです。

「ぎゃーー!キチガイがでたーー!」

みたいなニュアンスの言葉を発して子供達は脱兎の如く逃げましたよ。

父さん、僕、やったよ。やっぱり父さんの教えは間違ってなかったんだね。困った時ほど口を開かなければいけない。押し黙っていてはいけない。父さんの教えを守って、僕は子供達を蹴散らすことができたよ。僕の口は、ノグソの恥ずかしさを誤魔化すためにできてるんだ!

少し違和感の残る肛門を引っさげ、ウンコの詰まったビニール袋を持って意気揚々と帰宅。おかしい、食料を買うために行ったはずなのに、帰ってきたらビニール袋に詰まった食材を手にしてるはずだったのに、なんでウンコが詰まったビニール袋持って帰宅してるんだ。これじゃあ食べるものがないじゃないか。死ぬほど腹減った、と古い煎餅を出してきて食ったのでした。

お前の口は一体何のためについてるんだ?

僕の口は飯を食べるためについてるんだった。


2/28 ホラーK

実はね、出るんですよ。ウチの会社。

日も傾きかかった夕暮れの頃、同僚にこう言われた。ウチの職場は仕事の特性上、数ヶ月に一度の周期で泊まりこみでの作業に当たらなくてはならないことがある。過酷な作業だわ残業手当はつかないわで散々な業務であるため、皆が皆この泊まり作業を敬遠しがち。泊まり勤務になったやつがあまりの嫌さに逃げ出してそのまま退職したという伝説を持つほどだ。

しかし、誰もやらないってわけにはいかないので、会議の席で「次回の泊まりこみ作業者を決める抽選」が行われるのだけど、いい年したオッサンが輪になって懸命にクジ引きをしている姿、決して涙なしでは語れない。

「ちょっとまってよ!アミダは不公平だ」

初老の部長が声を荒げる。

「どうして不公平なんですか!?平等でしょ!」

血気盛んな中堅社員が反論する。

「そう言うがね君ィ、私は生まれてこの方アミダで勝ったことがないんだよ。公平を期すためにもジャンケンにすべきだ!」

一見すると真っ当な意見に聞こえるけどよくよく考えたらアンタの都合じゃないか。というか、いい年した大人が会議の席で真剣に発言する内容ではない。

「ジャンケンで決める?負けた人がやるんですか?それじゃあまるで泊まり業務が罰ゲームじゃないですか。あれは業務上どうしても必要な作業です。嫌々やっている様な印象を受ける選出方法は避けるべき」

普段は物静かな同僚が突如しゃべり出す。ごもっともな意見だが、みんな嫌々だからこんなに会議で揉めるのだろう。今更何を言ってるんだ。だったら貴方がすればいいじゃないか。

こうして、抽選方法を巡って会議は空転し、すったもんだ、散々揉めた後にクジ引きに落ち着く。そこら辺にあったボールペンを即席のクジに見立て、数本を部長がゴソゴソとやって握る。なんでも1本だけキャップがついてるボールペンが当たりの様だ。そう、あくまでも当たりが泊まりであり、当たりくじを引いて初めて泊まり勤務の権利を得るのだ。

もちろん、僕だって泊まり勤務だけは死ぬほど避けたく、あれは業務も大変だけど寒くて凍死しそうだとか食事も食えない、なにより夜の会社が死ぬほど不気味で怖い、トイレも行けない、といった悪しき噂を聞くので何としても避けたい。

こういったクジ引きで当たりを引かない様にするのは簡単で、徹底して引かないことか一番最初に引くことだ。1本だけの当たりを巡ってクジを引くということは確率は一定ではない。最初に引くのがもちろん確率が低くて望ましい。一人、また一人と引いていく中で誰かが当たりを引いてくれることが望ましいのだが、ハズレクジが減っていき、必然的に当たりの可能性が高まっていく。それだけはなんとしても避けたいのだ。

中途半端な順番でクジを引くのが最も愚かなことで、それだったら徹底してクジを引かなければいい。もう、最後の一本まで引かなければいい。実は、そこまでで当たりクジが引かれる可能性はかなり高い。確率で勝負するまでもなく途中で誰かが当たりを引いてくれるに違いないのだ。中途半端な位置で確率勝負するなど、だからお前らは搾取され続ける庶民なんだ。僕の様な選ばれし者はそんな運試しみたいな勝負はしない、ただジッと相手の自滅を待つのだ。

よくよく考えると、確率的にはどこで引いても同じなんですけど、難しい確率の話をすると鬼が笑うと言いますので割愛しまして、あくまで確率的に分の良い気がする1番クジか最後クジを引いてやろうと虎視眈々と狙います。まず、一番クジを引こうと思ったのですが、最初に部長が自分の手から1本抜き取り「よし、ハズレ!」とガッツポーズを見せた。ハズレでカッツポーズとは正直なお人だ。

こうなったら最後クジに賭けるしかない。なあに引くまでに誰かが当たりを射止めてくれるさ。と、なるべくクジを持っている部長が近づいてこないようコソコソとしていたのだけど、次々と皆がハズレクジを引いて「よし!」とガッツポーズをしやがる。ちょっと大胆な万引き犯くらいあったボールペンの束があれよあれよという間に2本だけに。残るは「泊まりの日、4才の娘の誕生日なんだ」と語っていた僕と梶田さんの二人になってしまった。

さっきまで普通に聞き流していた娘の誕生日発言。しかし、残り二本となった今や、祖父の遺言より重い言葉に感じる。彼が当たりを引けば彼の家庭は灰色一色。僕なんか泊まり勤務せずに家に帰ったところでオナニーするのが関の山。どう考えても僕が当たりを引いた方がいいのだけど、やはり泊まり勤務だけはしたくない。

緊張の一瞬。僕の葛藤、誕生日を迎える娘の思い、梶田さんの娘を思う気持ちを、様々な物が混沌と渦巻く中、梶田さんが運命のクジを引く。

結果はハズレ。ボールペンの先にキャップはついていなかった。梶田さんは晴れて娘の誕生日を家族で祝う権利を手に入れ、そこには確率だ愚民だと悟った様なことをのたまっていたアホが約一名残っただけだった。そう、いまや地獄の泊まり勤務が確定した悲しき勇者が。

皆、晴れ晴れとした笑顔で、「いやー、いいクジ引きでしたな」などとのたまう始末。何がいいクジ引きだ、何が娘の誕生日だ。

そんなこんなで、バッチリ泊まり勤務にあたることになったのですが、僕が落胆しつつ「泊まり中にどうやってオナニーするか?」的な深刻なことを考えていましたところ、憐れみなのか何なのか件の梶田さんが声をかけてきたのです。

「いやあ、大変ですね、頑張ってくださいよ」

その晴れ晴れとした笑顔はまさに勝者の印。クジ引きという選別をくぐり抜けた選ばれし者の笑顔。たかだかボールペンの先にキャップがついてるかいないかなのに、随分と差がついたものです。できるなら1時間前に戻りたい。クジ引きは負けそうだから不公平だ、アミダにしよう、と主張したい。

「気を付けてくださいね」

さらに満面の笑みで、まるで誕生日を迎える自身の娘が憑依したかのような無邪気な笑顔で続ける梶田さん。

「え、なにを気を付けるんですか?」

まさか過労死するとか凍死するとか、噂に聞いてるけど本当に気を付けないといけないレベルなのか、命を賭けて仕事をしないといけないとは、などと落胆していると、梶田さんが急に深刻な顔して言うんですよ。

「実はね、出るんですよ。ウチの会社」

出るとは一体何が出るのか、痴女でもでてエロスなことしてくれるのか、と思うのですが、どうも妖怪とかモノノケといった類、幽霊とか「あなたの知らない世界」的なものが出るらしいのです。

ハッキリ言って、どんな過酷な労働だろうが、凍死するほどの寒さだろうが目じゃない。幽霊が出るなんてこれほど嫌な話があるだろうか。

大体ですね、幽霊なんて非科学的な物はその実体や存在が立証された例はなく、僕の様な合理的視点の人間には極めてちゃんちゃらおかしく、精神部分に依存する逃避的思考とナンチャラカンチャラで、と書こうと思ったのですが正直に言います。幽霊が怖い。

あのね、自慢じゃないけど僕は死ぬほどの恐がりですよ。ホラー映画の呪怨ってあるじゃないですか。あれもう無理ね。最初の家が出てきたところで無理。霊的なものがまだ出てきてないのに無理。停止ボタンを押しちゃう。怖いゲームも無理で、「かまいたちの夜」なんてシルエットが怖くて布団かぶってブルブル震えてましたからね。あと、幽霊とおセックスするって設定のエロビデオがあったのですけど、出てるのは普通にカワイイAV女優であんあん言ってるんですけど、こいつが霊だと思うと本気で抜けなかったですからね。ビデオ巻末の新作紹介で抜いたくらい。

それだけの恐がりである僕に、これから会社での泊まりこみ勤務を控えている僕に、「出るんですよ」と言うとは、梶田のクサレは何を考えてるんだ。ついでに誕生日を迎える娘も何考えてるんだ。梶田さんは娘が誕生日だし、暇な自分が泊まり勤務を、と一瞬でも考えた自分の愚かさが憎い。恐がりの僕に平然と「出る」とか言ってのける梶田が怖い。ほんま、幽霊より何より一番怖いのは人間、ってのはほんとだわ。いや、幽霊の方が怖い。

しかしまあ、ここで「幽霊怖い」とか勤務を断ろうものなら一生涯「軟弱者」「とんだチキン」「そういえばたまにイカ臭い」などと影で揶揄されることになりますから、ここは極力平静を装って普通どおりに対応するしかありません。

「へ、へえ、出るんですか。前に忘れ物取りに夜中に侵入したときは出ませんでしたよ」

どうにも内心で動揺してるのを梶田オブデビルに見透かされた様で、彼は得意満面の顔で詳細を話し出したのです。我が職場に伝わる伝説の「泊まり勤務のK」の話を。

もう十何年も前の話。この職場にはその当時から数ヶ月に一度泊まり勤務という風習があり、不幸なことに気の弱い新人君が勤務に当たることになったそうです。彼は仕事があまりできず、その暗い性格も手伝って当時の上司に大変嫌われていたそうです。上司は何と彼が自主的に退職するよう、今では裁判沙汰になりかねないくらいのパワーハラスメントを行ったそうです。泊まり勤務もそんな嫌がらせの一環で彼に半ば無理矢理押しつけられた様で、彼は嫌で嫌で仕方なかったようです。その気持ち、大変分かります。

ついに上司のイビリに耐えられなくなった彼は泊まり勤務中に逃げ出し、そのまま自殺したそうです。虐め抜いた上司へ恨みを抱きつつ、勤務に当たる部屋で、パソコンの前で首を吊っていたそうです。

それからですよ。泊まり勤務の時に限って彼の霊が職場を徘徊するようになったそうです。まるで無念を晴らすかのように、まだ職場で永遠の泊まり勤務を続けているかのように、彼の霊が彷徨っているようです。

泊まり勤務中、作業をしている時に彼の霊が現れると、不可解な物音、廊下を歩く足音がし、そして作業をしているパソコンに「K」が入力されるようです。勝手に連打で入力されキーボードをぶっこ抜いても止まらず、これがKの霊と言われるゆえんなのですが、なんでも彼を虐め抜いた上司のイニシャルがK.Kだったらしく、霊となってもそれが伝えたく、相当な怨念を抱いているのだろう、とサターン梶田が言ってました。

おいおい、霊として出てきたのにキーボードの「K」を押すだけとは、なんてチンケな霊だ、お前はバンプか、と冷静に冷徹に言いたくなるのですが、そんな余裕は皆無で恐怖マックス。だって霊の悪口言ったら出てきそうやん。

「そ、そんな非科学的な話ね、あれですよ、ナンセンスです。ま、まあ、出てきたら退治してやりますよ、ラリアットっすよ、がはははは」

と、内心おしっこチビりそうになりつつ、ガクガクする膝を抑えて言ってやりましたよ。言ったりましたよ。

そんな激闘を経て、現在は真っ暗な深夜の職場で泊まり勤務をしつつ、この文章を書いてる訳なのですが、今頃梶田オブデビルのヤロウは娘の誕生日を祝ってるのか、いや、こんな深夜だから娘は寝てるか。今頃は「ねえ、アナタ、久しぶりに」「勘弁してくれよ疲れてるんだ」「なによ!美香には誕生日プレゼントあげれるのに私にはないの?」「そんな、あ、馬乗りに!どこでそんな技を!」「あーあー、いーわー」「美香が起きる」「あああああああ」と大変な事になっているかも知れません、想像したら興奮してきた。

しかしまあ、泊まり業務は噂に違わず大変というか、熾烈を極める業務なのですが、決して怖いから気を紛らわせるために今この文章を書いてるというわけではありません。本当は怖くもないし、仕事も忙しいのですけど、何か宇宙的な「書かねばならない」という命令を受けて書いているのです。言うなれば義務、本能、大宇宙の意志、ピタゴラスの定理、バンプオブチキン、幽霊怖い、もう帰りたい。

それにしても、決して幽霊が怖いというわけではありませんが、気を紛らわせるために震える手で書かせて貰いますと、こういった幽霊的な話でウチの親父が言っていたことを思い出しました。

「恨みを持つ心が恐ろしい幽霊を呼び込む」

ウチの親父は豪胆なバカで、元産婦人科でツタがビッシリと取り囲んでいる様な不気味な洋館を買い取って取り壊し、そこに会社建物を建てた人なのですが、親父曰く、さすが元産婦人科と唸るほどモノが出るそうです。

親父はよく会社のソファーで酒飲んでそのまま寝てしまうんですけど、なんか濡れ髪の女の人が子供を抱えて出てくるそうです。まあ、僕なんかその時点でガラスでもぶち破って逃げるんですけど、親父は平気。

「おう、また来たのか」

とその霊に話しかけるとか何とか。アンタは宜保愛子か。

「焼酎でも飲むか?」

と焼酎を薦めるとそのままスーッと消えていくとか何とか。おまけに連日出るもんだから出ないと淋しいとか言い出す始末。本当にこの親父だけは狂ってるんじゃなかろうかと思う。ちなみに、抱えている赤ちゃんが少しずつ成長しているそうです。いつかは焼酎飲ませる、って豪語してた。なんか、あまりに飲まないから焼酎を口に含んで毒霧みたいに噴霧したら消えたらしい。ムタか。

まあ、うちの親父は狂ってるから仕方ないんですけど、正常な僕なんかはその話を聞いただけで恐怖100倍、未だに会社建物に近づきたくないんですけど、そんな僕を見越して親父は言ったのです。

「恨みを持つ心が恐ろしい幽霊を呼び込むんだ。誰かを恨む心、誰かを憎む心、妬む心、そういった暗い気持ちが恐ろしい霊と共鳴して呼び込むんだ。そんな気持ちがない人間は霊を恐がりはしないよ、良い穏健派の霊しか来ないんだから。つまり、霊を怖がる人間、それはすなわち自分の心が霊と共鳴するほど醜い感情で埋め尽くされていると自覚している人間だ」

まあ、キチガイが言うことなんですけど、それでも「なるほど」と思いましたね。恨みなどのネガティブな感情が霊と共鳴して恐ろしい霊を呼び寄せる。ネガティブな感情さえなければ怖い霊は出ない、出ても良い霊だ。ということのようです。親父はネガティブな感情を持ってない自信があるから怖くないのですね。

「ワシのような善良な市民のところには良い霊しかこない。これが良い例だ、いまうまいこといっちゃったな。お前、俺を妬むなよ、怖いのが来るぞ」

とか、焼酎飲みながら言ってました。

ということで親父の教えを守れば大丈夫、ネガティブな感情さえ持たなければ怖い霊は来ないと言い聞かせて、「梶田さんとか恨んでない」「おつりをくれなかったマクドナルドの店員を恨んでない」「抜けなかったAV女優とか恨んでない」「世界のみんなありがとう」とものすごいポジティブなことを何度も何度も繰り返しつつ、この文章を書いてます。

なのにですよ、なのにですよ、なんか知らないけどさっきから廊下をヒタヒタと歩く不穏な物音がするのですが。もちろん、こんな時間に職場内を歩く人なんていません。なのに、さっきからガタガタ音がして近づいてくるのですが。

まさか「K」の霊が来やがったか。噂によるとここからキーボードの「K」が連打されて、恐怖のうちに僕が仕事放棄してガラスを破って逃走と相成るのですが、き、きっと大丈夫です。たぶんまだ感謝の気持ちとか色々と足りないのです。僕の中に存在する微量のネガティブ感情が「Kの霊」を呼び込んでいるのかもしれません。ということで、もうちょっと感謝の気持ちを口にするだけではアレなので書いておきます。

こんな恐怖の勤務をさせてくれて職場のみんなありがとう。

みんな、いつもNumeriを読んでくれてありがとう

チンコが痒くてインキンありがとう

この感謝の気持ちで、きっとKの霊も消えてくれるはず。と思ったらヒィィィィィァ、さらに足音が近づいてきて部屋の前で止まりました。もうこの文章とか書いてる余裕すらヒイイイイイイイイイイイア、ノックしてるうううううううううう。ぎゃあああああああああああああ









足音とノックの主は梶田さんでした。

何か悪い気がしたからと缶コーヒーの差し入れを持って来てくれたみたいです。「君のおかげで誕生日が祝えたよ。娘もやっと寝付いてね」とか言ってましたが、こんな深夜に寝付く娘なんて夜遊び予備軍、非行予備軍です。きっと、娘はとうの昔に寝ていて、奥さんと一戦交えた後なのでしょう。顔がテカテカしてた。

いやー、それにしても、梶田さんは「がんばれよー」と言い残して帰宅していったわけですが、やはり「Kの霊」などチャンチャラおかしい話です。だいたい、わざわざ霊となって出てきてキーボードの「K」しか押さないってどんな霊ですか。妖怪小豆洗いでももうちょっとホラーに振る舞うぞ。

けれどもまあ、やはり親父の言うとおりネガティブな感情を捨てて感謝の気持ちを綴ったために強い憎しみの感情を持つKの霊は出てこなかったのかも知れません。やはり人を恨んで良いことはありません。それは様々な悪しき霊を呼び寄せることになるのですからね、感謝の気持ちが大切ですよ。これに気付けただけでも過酷で怖い泊まり勤務をした甲斐があるってものです。ほんと、ありがとう。

ちなみに、さきほど「知らないみたいだから」と梶田さんに教えてもらったのですが、どうやら泊まり勤務を決める部長のクジは毎回裏があるようです。なんでも、あまりに部長が泊まり勤務をしたくないためか、あのボールペンクジには最初から当たりが入ってないそうです。そう、最初から全部のボールペンにキャップがついていないハズレクジ。

それを用意して、自分が最初に引けば大丈夫、絶対に当たらないと言うわけです。で、最後に引いた人が自動的に当たりになるように仕組まれてるって事です。おかしいと思ったんだ、普通はクジを持ってる人間が最初に引かないだろ。どう考えても最後に余ったのを自分のクジにするのが普通。なのに率先して自分が引きやがった。やってくれるぜ、あのエロやタヌキ。

とりあえず、イカサマ部長のそのせせこましさが大変腹立たしいので、部長死ね、7回死ね、と恨んでおきます。チャンスがあったら寝首をかいてやる。死ね7kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk

ぎゃああああああああああああああああああ


2/21 エロ本大佐

「patoさんってけっこう真面目そうですよね」

総務なんかに書類を持っていくと女子社員なんかによく言われる。どうにも信じがたいことだが、黙っているとけっこう真面目そうに見られるようだ。そんなことどうでもいいからストッキング破らせろや、この淫売が!と常日頃から心の中で思っているとは夢にも思わないらしい。

「わたし、真面目な人けっこうタイプだわあ」

などと、社内一エロいと噂の、飲み会で酔った勢いでチンポをチュッパチャップスしたと噂の、総務オブジョイトイの名を欲しいままにしているエロ女子社員山岸さんに言われるとドキドキする。許されるならこのまま総務でオナニーしたい。持ってきた書類で拭きたい、そんな欲求に駆られるってものだ。

表面上の見た目だけで受ける印象ってのはあてにならないもので、どこからどうみても僕が真面目であるはずがない。仕事なんていつやったのか忘れたくらい給料泥棒だし、出勤から帰宅まで職場で寝てたことも、こち亀を熟読していたこともあった。そんな僕がちょっとメガネをかけて無口でいるだけで真面目そうに見られるのだから、表面から受ける印象なんてあてにならないものだ。

最近、いつも行くコンビニで「エロ本大佐」なる不名誉なニックネームを頂戴していることを知った。どうにもこうにも、あまりにエロ本ばかり買ってるのがアルバイト店員の間で知れ渡ってしまったようだ。もし僕が印象どおり真面目そうならば、こんなニックネームで呼ばれたりはしない。

なぜに「大佐」などというそこそこ高い地位、しかも軍部の地位を賜ることになったのか思いを馳せてみると、どうにもこうにもあの事件が影響しているらしいことは想像に容易かった。

ある晴れた日、いつもの如く早朝の爽やかな時間、まだ歯磨き粉のCMとかに出れそうな女学生が往来する時間帯に、何も物怖じすることなく勇気百倍でエロ本を購入した時のことだった。

最近のコンビニの、それもエロ本売り場はとにかく規制が厳しい。中身を見れないよう徹底的にビニールでシールドがしてありやがるのだ。どういった類の嫌がらせかと憤慨すること山の如しだが、まさか29歳にもなってビニールを破ってまで内容を見るわけにはいかない。結果、どうしても表紙から受ける印象だけでエロ本を購入するジャケ買いが横行することになる。

エロ本のジャケ買いは危険極まりない。表紙に騙されて内容がチンカスだったなんてかわいいほう、自分の思ってるジャンルと違っていて抜けなかった、具体的には人妻系かと胸を弾ませて買ったらフタナリ系だった、なんてものは笑い話のレベル。ジャケ買いにはもっと深刻で笑えない、命すら取られかねない惨劇が待ち構えているのだ。

そう、それが同じエロ本を何度も買ってしまうという悲劇なのだ。近所のボケた爺さんが同じ週刊誌だったかゲートボールマガジンだったかを何度も買ってくる、という冗談めいた逸話を笑い話として聞いていたが、それと同じ現象が自分の身にも降りかかったのだ。

表紙から受ける印象だけでエロ本を買うジャケ買い。やはり、良い表紙には何度となく惹かれてしまう。まさか、「金に困った人妻が何でもしますと懇願」なんてあるわけない!「痛みを伴う痴漢改革、政治秘書は肉弾戦」なんてあるわけない!と表紙に踊る文句に騙されて買ってしまうわけだ。しかしながら、エロ本ってのは中身こそが大事であって、表紙で抜く人はあまりいない。あくまで付属品である表紙のことはあまり覚えてないのもこの悲劇の一因となっているだろう。

結果として、僕のエロ本ライブラリーには3冊くらい同じエロ本が鎮座している。これは良いエロ本だろう、と何度も同じエロ本を買ってしまうのだ。エロ本の刊行周期ってのは週刊誌などのそれと違ってハッキリしない部分がある、さらに似たような雑誌名のものが多い、そのため、本当に何度も何度も同じエロ本を買ってしまうのだ。

しかも悲しいことに読んでいてすぐに同じエロ本だと気がつかない。うおーと大興奮、大車輪で読んでいて、中ごろまで読んだあたりで異変に気がつく。この異様におっぱいがデカいキャラはどこかでみたことがあるぞ。急いでライブラリーを引っ掻き回すと、同じ表紙のエロ本が2冊出てくる。全く同じ表紙のエロ本3冊を前にがっくりとうなだれる29歳。それはどんな戦地の孤児よりも泣ける絵図だ。

あのような悲劇を繰り返してはならない。過ちを繰り返してはならない。必死の思いでエロ本コーナーに仁王立ちする僕。表紙に心惹かれたエロ本を三冊並べ、必死で吟味する。いや、これは吟味と言うよりは記憶の引き出し作業に他ならなかった。

このチョイスした3冊はどれも甲乙つけがたい出来だ。どれも僕の脳髄の主にピンク色の部分を適度に刺激してくれる。おそらく、内容を見て不満に思うことはないはずだ。

しかしながら、問題は、過去にこのエロ本を買ったことがあるかという点だ。どれも最高に刺激的な表紙だ、それだけに過去にも心惹かれて同じエロ本を買っている可能性は多分に高い。

1冊目はいつも買っている月刊誌エロ本の最新号だ。定期購読しているエロ本だ、もし過去に買っているならすぐに分かりそうなものだが、残念ながら過去、幾多の失敗をこのエロ本で繰り返している。同じものを月に3冊買った経験がある。過信は禁物だ。

2冊目は今まで見たこともない雑誌名。発売日もつい最近と新しい。コレはかなり有力で、未見のエロ本である可能性がかなり高い。しかしながら、どうしても表紙脇に描かれているネグリジェ姿のキャラが引っかかる。どうもこのキャラをどこかで見たような気がする。これはかなり危険だ。

3冊目は普段は手にしないような劇画調のディープなエロ本。表紙に鎮座する女性がゴルゴみたいなタッチで描かれている。表紙からして藤子不二雄の怖いほうの絵を描く人みたいなタッチだ。普段は見向きもしないジャンルのエロ本を買えば確実にかぶることはないだろう。しかし、過去にもそうやって普段のジャンルを避けて購入した可能性も否めない。また同じように購入してしまったら、ジャンル違いなだけにダメージは計り知れない。

三冊を前に考えに考え抜く僕。思い出せ、思い出せ、この表紙のエロ本を買った事があるのか、どうなんだ、過去の自分。そろそろ考え出して30分くらいが経過し、店員も異変に気が付きだした。しかしそんなことお構いなしに悩みぬく。

べローンと中を見て確認すれば一発なのだが、青少年保護のためか何なのか知らないが開けないように強固に閉じられたビニールがそれを阻む。憎い、このビニールが殺したいくらいに憎い。こんなしょうもない案を考えやがったやつを吹き矢で暗殺したい。

ここで僕はある根本的な解決法を思いついた。表面から受ける印象だけでエロ本をジャッジメントするから良くないんだと。世の中には中身が最高にイケてるのに表紙がクソなエロ本は山ほどある。そういった中身で勝負なエロ本をチョイスしなければならないんだ。

表紙だけ見て琴線に触れるエロ本をチョイスするから同じのを何度も買ってしまうんだ。だったら、表紙なんて関係なしに内容を想像するとか、本から溢れる禍々しきオーラとかを感じ取って購入すればいいんだ。そうすれば同じのがかぶることはない。

選考対象だった3冊を投げ捨てましてね、正確には真面目なんできちっとあった場所に戻したんですけど、エロ本コーナーの下段の奥のほうから掘り起こしてエロ本をチョイスしましたよ。

表紙がボーイッシュな感じの女の子で、とてもじゃないが素面で読めないような雑誌名なんですけど、普段の僕なら絶対に心惹かれないだろう表紙です。あまりボーイッシュとか趣味じゃないですからね。しかしながら、手に取った重量以上に重さを感じる圧倒的な存在感。コイツは絶対に凄いはずだぜとレジに持っていったのです。

見た目の印象でエロ本選びはもうやめた。これからは感じるオーラでエロ本を選ぶ。これでもう、重複して涙することなんてなくなるはずだ。今日は僕の卒業式。これまでのエロ本ライフを捨て、新しいエロ本ライフを手に入れるんだ。

レジが女性店員であろうと、レジ付近に女学生がキャピキャピと並んでいようが関係なし。ただ任務を遂行する軍人のような猛々しさでエロ本片手にレジに並んだのです。

バサッと無造作に置かれたディープなエロ本に動揺を隠せない店員。バーコードを読み取ろうと裏返しにしたら包茎手術の広告ですからね。なんおためらいもなく「包茎のままだとちょっと怖いかも!」とか書いてあるんですよ。何度やってもこの瞬間の女性店員の動揺は最高だね。

「390円になります」

とか、か細い、絶対に乳首がピンクであろうと断定できるカワイイ声で言う女性店員。この瞬間に僕の興奮はマックス。悠然と財布を出してお金を支払いますよ。

けれどもね、財布を開けてビックリ。23円しか財布に入ってないんですよ。23円ですよ、23円。そ、そんなはずはない!と財布の札コーナーを覗くと、変な割引券とかしか入ってないんです。500円玉かと思ったコインは近くのラッキー会館のスロットのコインだしよ、なんでこんなものが財布に入ってるんだと憤慨するやら動揺するやら、もう死にたいやら大変な騒ぎですよ。

これがね、肉まんを買うとかだったら理解できますよ。それで金が足りないなら、ガハハと笑い飛ばして出直して来れば良い。けれどもエロ本ですよ。しかも1時間近い時間悩みぬいて、最後には下の方の返品間近なエロ本をチョイスしたんですよ。もう注目度はうなぎのぼりでいまさら23円しかないとは言い出せない。

「えっと、あの。その・・・」

これが数円足りないとかなら勘違いで済むんですけど、23円ですからね。所持金23円でエロ本買いに行くとか頭が腐ってるとしか思えない。恥ずかしすぎてどうしても切り出せない。

そうこうしてると、あまりに金を出さない僕に店員(乳首ピンク)は怪訝な目つき。この凍てつくような冷たい目つきだけで俺はイケる!とか言ってる場合じゃない。おまけに不穏な空気を感じ取ったのか、レジ付近の女子高生(たぶんヤリマン)がヒソヒソと語りだす始末。

しかし、このまま無言で突っ立っていたらそのうち警察とか呼ばれかねないので、なんとか金がないことを伝えようと口を開いたのですが、かつてないほどに気が動転していて

「お金がないであります!」

と何故か軍隊口調に。軍部に報告するみたいにピシャリと言ってた。しかも照れ隠しからかちょっと敬礼してた。いくらなんでも動揺しすぎ。僕はね、この瞬間の店員さん(乳首ピンク)のポカーンとした表情、一生忘れない。

さらに、救いようのないことに、ポカーンとした僕と店員さんの間に流れる不穏な空気、その重圧に耐えられず、何か喋らなくてはとさらに気が動転してしまい。

「お金を下ろしてくるであります!」

またもや軍隊口調で。あれだ、僕は狂ってるのか。それ以前に、金を下ろしてまでこのエロ本が欲しい人みたいで救いようがないじゃないか。

「あ、はい、あちらにATMがありますから」

と、店内に鎮座するATMを指差され、このまま逃げてやろうかと思ったのに逃げられない四面楚歌。この状況に更に気が動転して

「かたじけない」

とか今度は武士みたいになって金を下ろしにいく始末。そんな苦闘を経てエロ本を購入しましたよ。金下ろしてる間、ずっとエロ本裏の包茎手術の広告が晒されている状態だったよ。

結果、そのあまりに異常なエロ本チョイスやら、金が足りなかったという事実、おまけに意味不明な軍隊口調が伝説として語り継がれ、今ではすっかりバイト仲間の間で「エロ本大佐」と揶揄されているわけです。なんで大佐なのかは知らない。この間、焼きそば買いにいったら「エロ本大佐がきたよ」とジャリガキ店員が言ってたから間違いない。

ちなみに、そのような激闘を経て手に入れたエロ本ですが、ボーイッシュな子が表紙だったエロ本は本当に男だったみたいで、ホモとかゲイとかの人が読むようなとんでもなくディープなエロ本でした。微妙に中性的な男の子がマッチョにやられる話ばかりなのな。こんなディープな、専門色の強いエロ本をコンビニに置くな。

さすがにそのような趣味ありませんので、あまりの抜けなさにガックリうなだれ、ライブラリーに収めようとしたのですが、そうすると同じ本がもう一冊ありました。さすがの大佐もこれには挫折を味わったよ。

人間もエロ本も同じです。表紙ばかりに惑わされていると大変なしっぺ返しを食らうことがあるのです。「真面目そう」と言われる僕が「エロ本大佐」、これには総務の誰しもがビックリするに違いない。

見えている表紙だけでなく、人の本質を覆い隠すシールを破りさってその中身で判断しないといけない、自分を振り返りつつ、そのような心構えで他人に接したいな、と思うのです。

でも、見た目的に近くのコンビニ店員は絶対に乳首ピンクだと思うし、総務の山岸さんは主食がチンポレベルでエロい、そう思うのであります。


2/16 10000字日記

今日は日記を書くぞ心に決めて、朝っぱらから職場でパソコンに向かってガリガリガリ。タバコを咥え、僕はハードボイルドすぎる、あまりにハードボイルドすぎるとウットリし、このままでは殺しの依頼でも受け付けかねないほど渋い、渋すぎる、とナルシストなアロマに酔いしれていたらデスクの横に鏡があって心底ブルー。なんだこりゃ。変なのがパソコンに向かっておるわ。それでまあ、そんな感じで仕事をしておったのです。この間、会社の経費で買って絶えず24時間×365日つけっぱなしだった富士通のパソコンが静かに息を引き取って使用不可になるという悲劇があったのですけど、ビックリなことにハードディスクが荼毘に付されるときの挙動ってのはすごく切なくて、どんどん動作がスローになっていくの。マウスポインタの動きがカーリングの投げる人みたいになっていくんですよ。晩年のジャイアント馬場師匠みたいになってくる。で、そのままプツウウンと電源が切れてゴートゥーヘル。素敵なことに保証期間は前日に終わっているという大惨事。そういった1年で爆発する種類の爆弾が最初から仕込まれていたとしか思えない。でまあ、パソコンがないと仕事にならないので、以前、落として液晶が完膚なきまでに破壊されたポンコツのNECノートパソコンを持ち出し、廃棄場所で静かに余生を過ごしていたボロボロのディスプレイを拾ってきて無理やり接続。なんとか死んでいたはずのノートパソコンが蘇ったのはいいのですが、数ヶ月ぶりに電源を入れたら「おっぱいが4つあればいい、それで多くの紛争が解決する」的な書きかけの訳の分からない日記が出てきて心底凹んだ。コレを書いたやつはキチガイじゃないのか。そんなこんなで、操作してるのはノートパソコンなのに画面はクソボロい茶色い色したディスプレイという異様なスタイルで仕事しておりましたところ、そこに突如上司がやってきやがりまして、傍若無人なる快刀乱麻の大活躍ですよ。なんでもノートパソコンの電源ケーブルを忘れて大変困ってると暴れておられた。確かお前、同型のノートパソコン持ってたよな、寄こせ、ときたもんだ。上司はタイ人キックボクサーみたいなので逆らうわけにも行かず、無言で電源ケーブルを差し出すしかない僕。この世は儚いラビリンス。いつの世も弱きものは搾取されるしかない。抗おうとも、泣こうとも、喚こうとも、懇願しようとも、それは全て無力でしかない。力なき正義は無力だ。そう、それはまるで年貢を搾取される農民のように、税という名の搾取を続けられる現代のサムライたちのように。満足気に電源ケーブルを奪っていった上司の横で、僕はいつかきっと偉くなって新人から電源ケーブルを奪ってやると硬く心に近い、さらにカワイイ女子社員だったらストッキングを破りたい、仕事上のミスを隠匿する見返りでホテルへ。「一度きりでお願いします、彼氏もいるんで・・」「いいではないか」と周るベッドの上で!と固く決意、そんなことをしていたら、パソコンの右下には「バッテリー90%」という無情なる表示が。昔、「バツ&テリー」というマンガがあったのだけど、駅前商店街の書店で重田君が「バツ&テリー」の単行本を万引きした。その店は月曜日発売の少年ジャンプを土曜日に売る早漏な店で、僕も仁王の如く早売りのジャンプを立ち読みしていた。彼は店主に見つかり、その場で土下座などをしていたようだった。ハゲな店主の「バツ&テリーを万引きとは何事だ!」と怒る姿は少々ピントはずれだった。だったらドラゴンボールなら万引きしていいのか、てんで性悪キューピットならいいのか、はたまた偉大なる遊人先生の校内写生ならいいのか、あれから14年経った今でもこの謎は解けていない。一通り土下座してしっぽり絞られた重田君は、僕が自転車に乗って家に帰ろうとしていると待ち伏せをしていて、今ならストーカー沙汰も辞さない覚悟なんだけどナイフを出してこう脅した。「今日のこと誰にも言うなよ」凄い怖かった。それを言うまで別にどうでもよかったのに、急に彼が「バツ&テリー」を万引きしたことと本屋で土下座したこと、ついでに本屋のオッサンのエプロンがピンクだったことを風説の流布したい気分がムラムラしてきて、ねえ、学校で「バツ&テリー」と呼んでもいい?と小悪魔のように、魔性の女のように言ったら、重田君は近くのスーパーでミカンを一袋買ってくれた。口止め料のつもりなのかもしれない。まだミカンの季節じゃなくて、300円以上もするミカンを買ってくれたのだけど、そんなに金出すなら最初から「バツ&テリー」の単行本を買えばよかったのにと思うのだけど、きっと彼は「バツ&テリー」なんてどうでもよくて、スリルが欲しかったのだと思う。布袋の兄貴だ。それか、彼もまた大きな暴力で何かを搾取するのに憧れていたのかもしれない。万引きと言う暴力で本屋から「バツ&テリー」を搾取する。重田君は最初から気付いていたのかもしれない。所詮、この世は奪う側と奪われる側しかないということを。彼は「バツ&テリー」が欲しかったんじゃない。力が欲しかったのだ。ただ純粋に力だけを欲したのだ。問答無用に全てを奪い去る圧倒的な力、暴力、破壊、カタルシス、ただ強者でいたかっただけなのだ。奪う側でいたかったのだ。なんてことをミカンを食いながら考えていたのを思い出した。話はそれたけどバッテリーだ。バッテリーの残量がない。そのうちバッテリーが尽きるとパソコンは文字通りただの箱と化してしまう。仕事ができないのは困るけど、それ以上に日記が書けなくなる。それは困る。書こうと思ったときに書かないと家賃の支払いと一緒でそのうち訳のわからないことになってしまう。なんだよ、10万6千円滞納って。ナメてんのか。大体、ウチのアパートは頭のおかしいやつが住みすぎだ。キチガイ版トキワ荘といっても過言ではない。林家パー子みたいな服装したオバハンが朝っぱらからウチのゴミ漁ってたりするし、ゴミ捨て場に誰が置いたか知らないけど水入りのペットボトルが無数に置いてある。ああ、ノラ猫がゴミを漁らないようにしてるんだな、とか思うのだけど、水入りペットボトルを嫌う猫の習性を利用したものではなくて、なんと城壁のようにペットボトルが積まれているから驚きだ。1ミリの隙間もなくビッシリと。物理的に侵入を阻止してるに過ぎない。それだったら金網とか張ったほうがいいんじゃなかろうか。おまけにサーフィンスーツを着たままアパート前の自販機でコーラを買うイケメンやら、半裸で部屋を飛び出してきて泣きながら闇に消えていく座敷童子みたいな女を多数目撃する。1階の部屋の表札に「アラー」と何のためらいもなく書かれていた時はどうしようかと思った。神々が住んでいるのかとすら思った。百歩譲って外国人でも住んでるのかと思ったら普通にバーコードのオッサンが住んでいた時はどうしていいのやら理解に苦しんだ。駐車場でカーセックス、略してカースをする不届き者も見逃せない。お前、ココの住人なんだから部屋に入ってやればいいじゃないか。なんでカースするんだよ。見せ付けたいのか。見られたほうが興奮するのか。ええんか、ええんか。オッパイは見れたけど乳首は黒かった。ホント、このアパートはキチガイしか住んでいない。そんなことはどうでもよくて、バッテリーの残量が切れるまでに日記を書ききってしまわねばならない。確か、カタログによると、この機種は2時間はバッテリーが持つらしい。いや、1時間だったかな。3時間だったかも。カタログなくしたから分からない。探してみたら凄いブスがフェラチオしているポラロイド写真がデスクの引き出しから出てきた。なんでこんなものがデスクにあるんだ。そうだ、同僚の山本君がくれたんだった。なんか出会い系サイトで知り合った寂しい人妻とホテルに行って、エロい写真を撮影したらしい。この変態が!と罵りながら写真を撮ると人妻はたいそう喜んだそうだ。「あひい」とか言ってたらしい。メス豚め!と罵るとヨダレを垂らして喜んだそうだ。「あふう」とか言ってたらしい。で、彼は気を使ってあまりに撮り過ぎた写真をおすそ分けしてくれた。彼は律儀な人で、ハワイに行った時もマカデミアナントカをしっかりおすそ分けしてくれた。まさか人妻とのエロ写真まで分けてくれるとは、どんな共有財産的思考だ。頭の中に水死体でも詰まってるんじゃなかろうか。それにしてもこの写真は生々しい。この写真中央に鎮座している廃寺に祀られている仏像みたいなブツが山本君のウエポンだと思うと生々しい、禍々しい。禍々しきオーラを感じずにはいられない。それをバクッとしている人妻の馬みたいな顔を見ると人体の神秘を感じずにはいられない。だいたい、女の人は偉いと思う。なんであんな汚いチンポをチュッパチャップスできるんだ。清純そうな「ゴキブリ怖い」とか言ってる女の子が平然とチンポをチュッパチャップスするのが理解できない。汚い!とかいってゴキブリから逃げるのにだよ?なのに、もっと汚いチンポをベロベロだよ?おいひい、とか言うんだよ?僕なんてゴキブリ鷲掴みにできるけどチュッパチャップスは無理だわ。まず無理。無条件に尊敬できる。なんで涼しい顔して平然とできるん?なんでできるん?ホタル、なんですぐ死んじゃうん?そんなことはどうでも良くて、この写真処理だ。会社の掲示板に貼るわけにもいかないし捨てるのも呪われそうで怖い。いやいや、そもそもバッテリの持続時間の話だった。もうカタログはいい。みつからん。探してたらそのうち古いジャンプが出てきて大変になるのは目に見えてる。今、公式ページで確認したら持続時間は2時間だった。そんなことを書いてるうちに残量は80%と表示された。明らかに2時間持つレベルの減り方ではない。尋常じゃない。この調子では1時間も危うい。もういつものように社会をピリリと風刺し、韻を踏んだ俺達の渋谷スタイルな日記を書いてる場合ではない。改行とかしてる場合ではない。とにかく書かねばならない。バッテリーが切れるまで書いて書いて書きまくるしかない。ちっとも話が進んでない気がするけど、それはたぶん気のせい。なあにあれは枯れた柳の幹じゃ。そんな魔王はどうでもよくて、問題はパソコンですよ。そもそもこのパソコンが壊れなければこんな事態にはならなかった。もっと六本木ヒルズと獣の数字666の関係を解明する的な高尚な日記になるはずだった。何で壊れるんだ、このパソコン。たぶんメイドインジャパンだろうに壊れすぎだ。メイドインジャパンで思いだしたんだけど、この間、大阪は日本橋にあるメイド喫茶に行った時の事、なんか最近はメイドブームとからしく、メイド喫茶の前で民衆が列を成しておって、みんな通りがかるたびに「お、メイド喫茶じゃん」みたいなノリで列に加わってた。僕も例外なく並んで、メイドがアーンとしてくれたり尿瓶とか持ってきてくれるのを想像して列に並んだのだけど、普通なのな。メイドが出てきて注文を聞いて食い物が出てくるだけ。あわよくばメイドによるチュッパチャップスも期待していただけに失望は計り知れない。しかしまあ、客層は戦国武将と見紛うほどの歴戦の猛者たち。なんか、サイボーグみたいなでっかいヘッドホンしたオッサンとかいるのよ。でかいなんてもんじゃなくて、本気でちょっとした兵器くらいなら入ってそうなヘッドホンしたオッサンがパスタ食ってんの。その横ではその道のプロみたいな男女混合のグループがいて、「うはwwwwメイドさんクオリティタカスwww」とか言ってるの。色々な意味合いでビックリした。その横ではどう見てもモバイルじゃないパソコンでネットしてる荒くれ者とか、異様にキーの高い声でナントカメイデンとか熱弁してる益荒男がいるの。あと、間違って入店してしまって目を丸くしてる老夫婦とかいるの。僕はもうブルっちゃってね、僕以上に興味本位で入ったっぽい隣の席のピアスしたホスト風の兄ちゃんがビビってた。普通とは違う結界みたいなのを感じ取っていた。それでまあ、何故か僕が頼んだ肉料理がこないんですよ。もう絶賛放置プレイでこない。ほっといたら年単位でこないんじゃないかというくらいに来ない。マジで、あとからきたサイボーグオッサンなんて食い終わってたからね。さすがに温厚な僕もですね、これはどうなってるんだ、と主人がメイドを叱り付けるように言ったんですよ。そしたらメイドさんもフナみたいな顔しやがってからに「もうしわけございません、てへっ」みたいなドジっ娘キャラですよ。いいから片乳の一つでも出せと。それが最大限の礼儀だろうが。大体、尿瓶を持ってこないメイドのどこがメイドなんだと。激しい怒りと共に会員カードをもらって帰ってきたよ。ポイントが貯まるといいことあるらしい。たぶん尿瓶だ。そんなことを書いてたら70%になった。トイレに行きたいけど行く時間も惜しい。できることなら尿瓶が欲しい。あまりにも欲しいのでネットで検索してみたら、最近の尿瓶ってのはとにかくオシャレだな。なんかサバイバルグッズみたいなデザインに変わってる。このへんのワインレッドタイプなんて安価でオシャレだし本気で欲しくなってくる。ちなみにこのサイトの「中身をみる」ボタンはその使用用途が全く理解できない。押さなくても中身が見えておる。ウチは爺さんが寝たきりで、いつも食卓に爺さん用の尿瓶が鎮座していたのだけど、今思うとなんで食卓だったのか理解できないよね。普通に汚い。当時の尿瓶はオシャレでもなんでもなくて透明のヤツで、あまりに年代物だとほんのりと色付いたりしてるのな。で、爺さんの尿瓶の中身を捨てに行くのが僕の役目で、溜まってたら捨てに行くっていう重要な任務を任されていたのだけど、ぶっちゃけると子供心にすごい嫌だったの。介護だからうんたら、そういうのは良くない、とかいくらでも綺麗事言うことできるんですけど、本当に嫌で嫌でしょうがなかったんですよ。やっぱ子供って糞尿に関することはちょっとタブーじゃないですか。お爺ちゃんが好きだとかそういうのを超越して、本当に嫌でしょうがなかった。でね、本当は便所まで持っていかないといけなかったんですけど、便所が余りに遠いので面倒になっちゃって途中にある窓から捨ててたんですよ。僕は節度を守って三回に一回くらい窓から捨ててたんですけど、たまに捨てに行くことがあった弟なんか僕の真似して毎回窓から捨ててたんですよ。爺さんの尿をバッシャンバッシャン捨ててたの。そしたらさあ、白い壁がご自慢の隣の家の一部分だけ異様に黄色くなってさ、もちろん問題の尿を捨ててる部分に間違いないんですけど、隣のゴリラみたいなおじさんは「ノラ犬の仕業かな」とか言ってたんですよ。明らかに人の尿だし、犬猫にまかなえる量でも高さでもなかったんですけど、そう言い聞かせるように笑ってた。それでいいんだーって思って相変わらず窓からバシャバシャ爺さんの尿を捨ててたんですけど、そしたらアンタ、ある日いつものように窓からバシャーッて尿を捨ててたら、隣のオッサンが二階からパパラッチみたいな双眼鏡で覗いてるんですよ。覗き魔みたいに仁王立ちしてものすごい目撃されてるんですよ。僕はあまり視力が良い方じゃないんですけど、オッサンが身に纏ってる怒りの波動というか殺意のオーラが明確に読み取れた。あまりの恐怖におしっこ漏らすかと思った。手に持ってた尿瓶をそっとあてがいたいとすら思った。まいったまいった。死ぬほどまいった。もうその数秒後には怒りのアフガンと化した隣のゴリラオッサンが乗り込んできましてね、修羅と化した両親と共にダイナミックに怒られたわけなんですよ。で、デッキブラシみたいなの持って壁を掃除させられたんです。尿って落ちないのな。泣きそうになりながらゴシゴシやってたら、何をトチ狂ったのか弟が尿瓶持って窓開けましてね、いつものようにバシャーッと。尿ってけっこう苦いのよね。臭いのはあたりまえだけど、それ以上に味わいが苦い。そんな文字通りほろ苦い思い出があるのだけど、やはり尿瓶は欲しい。とかやってたら一気に残量が50%だ。もっとこまめに残量を52%とかやって欲しいのに、かなりアバウトにゴソッと一気に10%減るからビックリする。パソコンって機械だ何だって随分クールに割り切ってる部分があるんだけど、結局は道具に過ぎないのよね。今の時点では人間が操作しないと何も始まらない。それだったらさ、もっと人間に優しい設計にするべきだと思うよ、そう切に思う。ドッコンと一気に10%減らすなんてヤクザみたいな脅迫じゃないか。断固として許さないよ。いきなり驚かすといったら、皆さんすぐにスピード違反の反則金の請求を思い出すでしょう。あのスピード違反で捕まった時の反則金。あれね、払わないと突然請求が来るんですよ。9月くらいに20キロオーバーでお縄を頂戴しましてね、遅刻しそうで急いでいたところをガッシリとキャプチュードですよ。逃げようかともイキがって考えたのですが、それでは稲垣メンバーなのでやめておきました。さんざんっぱら怒られましてね、「スピード狂いが!」と口汚く罵られたりはしませんでしたけど、それに類することは言われました。で、いち早く反則金を払って反省しよう、としおらしく思ってたのですが、ケロッと忘れましてね。払わないままいたずらに時間だけが過ぎていったのですよ。そしたらあんた、突如として家にハガキが届いてですね、2月16日までに払いなさい!みたいなことが書いてあったのですよ。今日じゃないですか。季節外れのバレンタインプレゼントじゃないですか。払わないと刑事訴訟手続きにより検察庁または家庭裁判所に送致するとかワザワザ赤色にフォント弄りして書いてあるんですよ。そんないきなり言われても困るじゃないですか。フォント弄られても困るじゃないですか。そもそも1万5千円も持ってないですからね。この間、パチスロ攻略会社に莫大な入会金払いましたからね。金なんてありませんよ。全部詐欺にもってかれた。おもいっきりとっちめてやる。全部取り返してやる。そんなこんなで、ば、罰金なんか払わないぞっ、と固く決意したのですが、ちょっと検察庁とか放置してたら前科一犯になりかねないので不安になってきました。仕方ないので今から県警本部に電話してきいてみます。大丈夫でした。遅くなってもいいよーって物凄くフランクに言われました。キリンが売り切れだったからアサヒビールでもいいですか?って聞いたときの上司みたいに軽く言われた。そんなにフランクに言うくらいならわざわざ赤い字で脅すな、ったく、フォントまで弄りやがって、生きた心地がしなかったぜ。ほら、電話とかしてたら一気に30%じゃないか。50から一気に30になりやがった。だんだん大さっばになってきやがる。イタリア人か。大雑把なイタリア人か。だいたい、イタリア人は大雑把過ぎる。もう、おっぱいとかも物凄く乱暴に揉むに違いないよ。ロクなもんじゃない。おっぱいってのは凄い貴重な人類共通の財産で優しく健やかに育むように揉まなければならないのは周知の事実。なんで「おっぱい」って言うか真剣に考えてごらんよ。普通に粗暴な人とか不良とか胸のことを「ぱい」って呼んでも良さそうなのに、みんなちゃんと「おっぱい」って言う。これは「御ぱい」という丁寧な言い方なわけで、「御中元」とか「御礼」とかに類するものなんですよ。「おぱい」だと舌足らずで頭が可哀想に思われるという配慮から平安初期に「おっぱい」と改められるわけね。このことからも「おっぱい」に対する尊敬の気持ち、敬う気持ち、大切に育んでいく気持ちが窺えるわけですよ。みんなおっぱいが好きなんだよね。なのにイタリア人ときたら、もう取れるのかって勢いで揉みやがる。それがワイルドな魅力だと勘違いしてやがる。トリノオリンピックなんてやってる場合じゃねえよ。俺達のおっぱいを返せ。あの日、クラスの女子と悪ふざけしてて、両思いになれるおまじないの消しゴムとかいう、頭おかしい新興宗教としか思えないことをやってやがる女子の消しゴムをパクったら「返せー!」「へへーん」みたいな状態に、そこでハプニングですよ。ちょっと胸に触れてしまって「あ・・・」みたいになってお互いに気恥ずかしいセンチメンタルジャーニーに。そんでもってお互いに頬を赤らめて、「だ、大事な消しゴムなんだから」「ごめん」みたいなボーイズビーみたいな展開。それから僕はその子のことを好きになってしまったのだけど、ほどなくしてその子はクラスのヤリチンマイスターの名を欲しいままにしているイケメンと付き合いだして、すごい悲しくて悔しくて切ない失恋だったのだけど、なんとオナニースキルを手に入れたばかりでその破壊力に酔いしれていた僕はなんでもありだった。あの日の胸の感触を思い出してするどころか、あの子とイケメンのまぐわいを想像してやる始末。失恋どころか圧倒的な敗北。僕の終戦の時だったね。あの日の切ない思いを返せ。イタリア人は反省しろ。20%。トリノオリンピックで思い出したけど、夏のオリンピックに比べてあまり面白くないのな。まずルールが分からない競技が多すぎる。スピードスケート団体追い抜きとか意味が分からない。そもそもスピードスケートを団体でやる意味が見出せない。リレーとかじゃなくてモソモソ全員でやってるんだぜ。それよりなにより選手がみんな厚着なのがいただけない。バカにしてるのかってくらいに厚着。モンゴルでTシャツを10枚重ね着してたバカより厚着。その点、夏のオリンピックはいいよー、すごくいいよ。なんといっても大体が薄着だからね。陸上競技の北欧の方の選手なんてほとんど半裸に近いからね。乳首とか楽勝で見える。開放的すぎる。冬のオリンピック、絶対に乳首みえない、ダメ、ゼッタイ。なんのためにやってんだか存在意義を疑う。僕の記憶が確かならばオリンピックのマークは5つの乳首が元だったはず。その精神はもう見る影もなく失われてしまっている。賄賂とかスポンサーとか金儲け主義に成り下がり、迷走するオリンピック、もう一度原点に立ち返ってみて欲しい。乳首に立ち返って欲しい。そんな腐れた拝金主義のオリンピックより、もう少しで開催される野球のワールドカップですよ。あ、ちょっとまって「バッテリー残量が残りわずかです。作業中のファイルを保存してください」って警告が出た。いよいよいやばい。早く言いたいことを書いてしまわないと電源が切れてしまう。何の話だったっけ、そうそう、野球のワールドカップの話。っていうか、コレを最後まで読むやついるのか。ワールドカップは僕も非常に楽しみでございまして、大の野球好きですからワクワクしながら待ってますよ。サッカーのワールドカップもありますけど、サッカーはオフサイドが未だに分からないのであまり関心がないです。で、野球のワールドカップの方ですけど色々と問題点が指摘されてて、おまけにヤンキースの松井などの有力選手の辞退など意気消沈するニュースは多いんですけど、問題はその部分じゃないですよね。たしかに松井の不参加は残念ですが、野球ってのは総合力です。特にピッチャーとキャッチャー、バッテリーの実力のほうが重要なんです。バッテリーで思い出したんですけど、昔「バツ&テリー」っていうマンガがあって、重田君が万引きをして土下座を、って話がループしてる。もうダメ、切れそうなのでダメです。いい加減にバッテリーが切れるので諦めて書きたかったことを伝えます。どうも病気になってしまったみたいで、もう気が狂いそうなほどキツイ症状、どれくらいキツイかって言うと10000字日記を書くくらいやってないとウキーってなるひどい症状。病名を知った時は目の前が真っ暗になった。具体的くだけて言うとインキンらしい。インキンだよ、インキン。痒くて痒くてどうしようもなくて気が狂いそう。ボリボリやってたら信じられないくらい血が出てきた。ボリボリやるのはよろしくないってのは自分でも分かってるのだけど、気がつくとボリボリやってやがる。意志が弱すぎる。掻いてるうちに盛り上がってオナニーまでする体たらく。だから掻き毟らないようにいっぱい日記を書きました。この世は奪う側と奪われる側しかないってすごい前に書いた気がするけど、そもそも書いたかどうか忘れたけどそれは大きな間違いだ。所詮、この世はインキンかインキンじゃないか、二種類の人間しかいない、それだけだ。それはつまり、いんきn


2/14 ラブコメバレンタイン

猫も杓子もバレンタイン、バレンタイン言いやがって、脳みそがとろけてるんじゃないか!ゴディバだかゴルバチョフだかしらねーけどな!と、朝っぱらからバレンタインに対する怒りを怒りを顕にしておりました。

幼少時代より、バレンタインは暗黒の思い出が多い悪しき行事で、何で2月の寒い時期に寂しい思いをしなければならないのか、と一人で憤慨したものです。

弟が山のように貰ってる横で収穫なしだったり、何かを期待して放課後遅くまで教室に残ったのに収穫なしだったり、今年はいけるんじゃないか?といった機運が自分の中で高まってきたのに収穫なしだったり、同僚全員がバリバリ義理チョコとはいえ貰ってるのに僕だけなかったり、バレンタインおにぎり事件とよばれる切ない事件が起こったりと、決して笑顔で「バレンタイン」と言えるような思い出がかなり少ないのです。

そういった事情を鑑みてか、僕も今朝からパソコンに向かって「バレンタイン死ね」的な徹底的にバレンタインを貶める日記を書き、最終的には「なまこバレンタイン」という訳の分からない日記が書きあがったわけなのですが、その刹那、事件は起こったのです。

なんと、詳細は伏せますが女子高生にチョコレートを貰ってしまうという一大珍事が。もうこれは予想だにしてなかった大事件です。だってアンタ、女子高生ですよ、女子高生。女子高生って言ったらちょっと性に興味とかあって、好奇心で自分で弄ってみてあまりの気持ちよさに畳んであるバスタオルに顔をうずめてモジモジするような、そんな高貴で儚い生き物なんですよ。絶対乳首ピンクだわ。

そんな女子高生からチョコをもらうというハプニング、これはもう肉体を頂いたようなもんですからね。オッパイを揉んだようなもんですからね。乳首を弄ったようなもんですよ。

いやー、やっぱバレンタインっていいもんだわ。ホント、なまこバレンタインとか言ってる場合じゃない。こんなバレンタインを貶めた日記なんて消去してやる!だれだ、こんなクソ日記書いたのは!ってなもんですよ。

大体ね、バレンタインという国民的行事を貶めるなんて大幅に間違ってる。国・民・的・行・事!イェアー!とか言って全員でバレンタインを楽しむべき。そうあるべきに違いないんですよ。なんというか、愛とか他者を思いやる気持ちとか、そういったのものがマネーゲームの中に埋もれていく中、こういう時代だからこそバレンタインは貴重、そう思うんです。

そりゃね、世の中には信じられないことにチョコを一個も貰えない、あるいはお母さん以外から貰えないなんていう負け組な人もいるかもしれないですけど、そういう人も今一度立ち止まって考えてみて欲しい。

恨みは恨みしか生み出さない。

バレンタインを忌み嫌っても、恨んでみても、バレンタイン死ねと言ってみも、そこから何も生まれない。そういった負の感情がさらなる負を呼び込む悪循環スパイラル。もっとこうポジティブに受け取って歩き出さないといけない。バレンタインを恨むんじゃない、自分の不甲斐なさを恨むんだ。

まあ、女子高生から乳首ともとれるチョコを頂いた勝ち組の僕から言わせてもらうと、「バレンタイン死ね」「バレンタイン中止」「なまこバレンタイン」とか言ってるやつらはバカだ。そんな醜態を晒してるからお母さんからしかチョコを貰えないんですよ。もっとこう、バレンタインを楽しむ姿勢があれば大丈夫。その雄姿はきっと誰かの心に響いてチョコもらえるはずです。僕のように。

そんなこんなで、一気にバレンタイン賛成派になった僕ですが、ネットを徘徊してみると、まだまだ「バレンタイン死ね」などと宣言している人々が多い多い。本当に嘆かわしいことですが、そんな中にも一筋の光明がありました。

一語100%

こちらのサイトで、様々な方が渾身のラブコメストリーを持ち寄ってバレンタインを楽しんでおられるのです。

いくつか読んでみると分かりますが、みなさん読んでる方が恥ずかしくなるような、痒くなってくるような王道的なラブストーリーの数々。本屋で本を取ろうとしたら同時に手を出してしまって「あっ・・」「え・・・っ」トクン。みたいな完全無欠のラブコメですよ。

バレンタインの時期にこういったラブコメを書いて楽しむ。これはもうバレンタインを忌み嫌うより随分と建設的です。ということで、僕も諸手を挙げてこの企画に賛成し、自分でも王道的なラブコメを書いてみました。

ちょっとありきたりすぎてアレかな?と思ったのですが、なんとか胸キュンする出来にはなってると思います。みなさんも是非ホロ苦い自分の恋愛ストーリーなど思い出し、バレンタインを楽しんでみてください。それではどうぞ。

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ラブコメ

「いじわるしないでよう、高志ぃ」

僕の趣味は芳江をイジメることだ。同い年の幼馴染で、隣の家に住む芳江。お互いに高校生になって最近胸が膨らんできてドキッとすることもあるけど、僕の中ではまだまだ子供の頃の姿のまま、いつもイジメて遊ぶ相手でしかないんだ。

「もうダメ、許して・・・お願い!」

この日も、いつものように芳江は何の用事もないのに家にやってきて、一緒にテレビを見たりジュースを飲んだり他愛のない学校の話などをして過ごしていた。すると、突然芳江がモジモジし始めたのだ。

ははーん、さては芳江のヤツ、トイレに行きたいんだな。付き合いの長い僕にはすぐ分かった。芳江はトイレに行きたくなると目が泳ぎだすんだ。

落ち着きのない芳江を尻目に、僕はそっと芳江のキーホルダーを手に取り、トイレにこもった。これで芳江はトイレに行けないし、鍵がないから自分の家に帰ることもできない。これは困るぞ、とほくそ笑んだ。

しばらくして、ドタドタと廊下を走る音がし、ドンドンとドアを叩く音が。もちろん芳江だ。

「高志?高志が入ってるの?おねがい、早く出てきて」

声が切羽詰ってる。今にも泣きそうだ。ドア越しに芳江の困った表情を想像しゾクゾクと震えが走ったのを感じた。

「もういい!家に帰るから!あー!鍵がない!」

もちろんだ、家の鍵はここにある。こんなことがないようにあらかじめ盗っておいたのだから。

「もうダメ、許して・・・お願い!」

芳江の声がか弱くなっていく。そろそろ限界だろうか。あの日、まだ日が暮れるまで遊んでいたあの頃、いつも芳江は泣いていた。かくれんぼで僕が見つからず、夜中まで探していた時も大泣きしたっけ。

「もうダメって、なにがダメなの?」

意地悪に聞いてみる。きっとオシッコが漏れそうだなんて口が裂けてもいえないだろう。言えずに困ってる芳江を見るのが最高に楽しいんだ。

「なにって・・・その・・・ああああああ!もうダメ!ダメ!」

ブリブリブリブリブリブリブリブリ!

驚いた。てっきり小だ小だと思っていたっら、大のほうだったなんて。この音は間違いなく大だろう。ドア越しにムアッと不快な匂いが伝ってくる。

「ひっくひっく・・・高志のバカぁ」

コイツ、人の家でウンコを漏らしやがった。なんてヤツだ。

驚いてドアを開けると、そこには一面のクソ中でしゃがみ、泣いている芳江の姿があった。

「おまえ、ウンコならウンコって言えよ・・・てっきりオシッコだとおもったからさ」

「だって・・・だって・・・」

漏らすくらいなら言ってしまえばいい。こんな惨劇が起こるくらいなら、僕だって意地悪しなかったはずだ。

「高志、今日は何の日だかわかってるの・・・?」

「今日?ああ、今日は2月14日!バレンタインデーか」

「そうだよう、高志のためにチョコ作ってきたんだよ。チョコ食べる前にウンコの話とかしたくないじゃん、だから・・・ひっく」

芳江の傍らにはウンコまみれの大きなハート型のチョコレートが。

「芳江・・・」

その瞬間、僕は気付いてしまった。子供の頃からずっと、僕は芳江のことが好きだった。好きで好きでどうしようもなくて、その気持ちを隠すために、自分の中で否定するために意地悪をしていた。そんな僕でも芳江はずっと思っていてくれたのだ。

「なあ芳江、俺、お前のこと好きみたいだわ。今気付いたんだけど、ずっとずっと前から好きみたいだわ。ごめんな、意地悪ばかりして」

告白を受けてか、脱糞した恥ずかしさか分からないけれど、芳江は顔を真っ赤にし静かに喋り始めた。

「私も高志のことが好き。ずっと好きだったんだからっ」

手渡されたウンコまみれのチョコレート。僕らは二人でウンコまみれの廊下を掃除しながらそっとキスをした。

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さて、ラブコメも書きましたし完全にバレンタインを満喫することができました。あまりに王道すぎて書いててちょっとむず痒い気分でした。一瞬、BOYS BEかと思った。

そんなこんなで、晴れやかな気持ちで家に帰宅し、女子高生から頂いたチョコを開封して食ってみることにしました。

なんと、頂いたチョコはパッケージこそしっかりしてるのですが内容はパチンコ屋のあまり玉で貰うようなチープなチョコ。どう好意的に解釈しても何かが余った際に生じたチョコにしか見えません。

どう見ても義理チョコです。義理チョコ以下です。すごいおざなりなチョコです。これなら貰わない方がいいんじゃなかろうか、といったレベルのチョコです。きっとくれた女子高生は罰ゲームとかチキンレースの類でくれたに違いない。

バレンタイン死ね。ホワイトデーになまこ投げつけてやる。


2/10 ラジオのお知らせ

1ヶ月間コーラで生活するというわけの分からないことをしている人が、1ヶ月達成記念にネットラジオをするようです。頭おかしい。

コーラジオ/1ヶ月コーラで生活した人のラジオ
放送日時 2月11日午後8時から
放送場所 こちら

お誘い合わせの上、コーラを準備して聞いたりするといいかもしれません。あと、そちらのサイトの人はバレンタインチョコが欲しいそうです。


2/8 デス30

もう僕も29歳となり、そろそろ30の呼び声も聞こえてくる中年世代なわけで、そろそろ加齢臭の頃合かな?と秘かに期待しているわけなのですが、その反面、こんな30歳で良いのだろうか、と漠然と不安になる時があります。

僕が少年時代だった頃の30歳といったら完全無欠のオッサン・オバハンで、どっからどう見ても大人でした。普通に社会生活に溶け込み、いわゆる大人が作る世界と言うか、大人世代と言うか、そういった確固たるものを確立しているように見えました。早い話、30歳くらいの人が社会を動かしてると漠然と感じていた。

それがどうですか。いざ30間近になってみると社会を動かすどころか社会にすら溶け込めていない。早い話がクズですよ、クズ。少年のあの日、瞳に写った30歳に近づけるわけでもなく、ただただ漠然といたずらに歳をとってしまった自分に呆れるばかりです。

そんなダメな30間近の僕としましても、やはり大人ぶりたい一面というのがございまして、若者を見ては「最近の若い者は」と嘆く素敵な一面を覗かせています。この「最近の若い者は」と嘆く行為は古来より大人ぶった大人の特権として許されてきた部分があるのですが、この言葉を本気で口にするようになって一つだけ気づいたことがあります。

「最近の若い者は」と口にして嘆くオッサンほど若い者が羨ましい。ああ、認める。悔しいが認める。若さ故の無軌道が羨ましいし、その可能性が憎い。羨ましいが故に若い者がかわいいし、殺したいほどの憎くもある。なんとなく森光子が若いジャニーズを囲う気分が分からんでもない気持ちになってくる。コレを認めてしまうと年齢というどうしようもない部分で負けを認めたことになってしまって口惜しいのだけど、そうなのだから仕方がない。

もし、今僕が10歳若返って19歳とかピッチピチの青年だったら、そりゃもう無軌道だよ。すごい無茶して無軌道にオッパイ揉みまくる。ブスのでもなんでもいいからオッパイ揉みまくって、あげくに男でもデブでDカップくらいはありそうなら揉む。揉みしだく。それくらい無茶をするね。

けれどもね、もうそういうわけにはいかないじゃないですか。29歳ともなるとそれなりに責任も出てくるし何よりも社会的体裁がある。「19歳少年が路上で無差別にわいせつ行為!狂った果実!」よりも「29歳会社員、路上で無差別猥褻テロ!通り魔的に児童の胸部を揉みしだく」の方がダメっぽさが10ランクくらい上じゃないですか。けっこう救いようがないじゃないですか。それだけに救いようがある若者が羨ましいし、憎くもある。

先日のことでした。

僕は最近、近所にできたネットカフェにご執心で、暇さえあれば行ってエロコミックやらコボちゃんを熟読しているのですが、やはりネットカフェって今時のトレンドスポットらしく、若者が大挙して押し寄せる。すると自然と若者と接する機会が多くなるのですよね。

僕がヌシのごとく常駐しているスペースが、コミュニティスペースと呼ばれる個室ではないオープンスペースで、日夜ネットゲームに興じる人生オーラスみたいな人々に紛れて楽しんでるわけなのですが、このスペース、ガラス一枚隔ててすぐに受付というかフロントがあるんですよね。

当然ながら受付での客とのやり取りなんて筒抜けで、「本日のご利用時間は?」「24時間で。12時間パックをダブルで」という武者のようなやり取りとか聞けるのですが、客がいない時の「店長ムカつく」みたいな店員同士の陰口までシースルーで100%把握できてしまうんですよね。

で、しょっちゅう店員と客との受付でのやり取りや、その後の悪口大会なんかに聞き耳を立てているのですが、そこでも最近の若者はすげーなー、と驚く気持ちや羨む気持ちが生じてしまって仕方がないのです。

深夜も過ぎた頃、ひと時の静寂がネットカフェ内に蔓延するこの時間に、騒がしい二人組の女性客がやってきました。

「マジでー」

「赤だってー、マジでー」

とよく分からん会話をしながら受付にイン。片方は比較的キューティクルな女性で車エビだかエビちゃんだかみたいなファッションに身を包んでいました。特筆すべきはもう一方の女性、コイツがもう、見るからにナウマンゾウみたいで、なんで女性ってのはそこそこカワイイのとアレなのが強力タッグを組む傾向にあるんだ、と驚愕しながら見ておりました。

「当店は初めてでしょうか?」

「あ、はいー。はじめてですー」

「当店は会員制になっておりまして、入会していただく必要があります。本日は何か身分を証明できるものありますでしょうか?」

このネットカフェは最近できたものですから当然ながらほとんどの客が未入会。上記のようなやり取りが何度となく行われていたのですが、ここからがすごかった。

「あ、はい、あります。運転免許証でいいですよね?」

エビちゃんみたいな方は無難に免許証を出して会員証をゲット。しかしながら、ナウマンゾウのほうはそうはいかない。

「あれ、ない、ない。免許証忘れてきちゃった」

とかなんとか、パオーンと言わんばかりの勢いでカバンを漁って探すのですが見つからない。

「身分証がないと入会できませんので本日はご利用できないのですが・・・」

神妙に言う店員さん。ナウマンゾウもみるみる弱っていきます。

「いや、ちょっと待ってください。あるはずです・・・」

もうカバンの中をひっくり返して探してるんですよ。そんなに利用したいのか。

「あった!」

やっとこさ見つけたらしいナウマンゾウの身分証が、なんとパスポート。確かに最強の身分証ですが、ネットカフェでそれはない。どこに出国するんですかってなもんですよ。というか、なんでパスポートを持ち歩いてるんだ。

結局、ナウマンゾウはパスポートは現住所の記載がどうたらこうたらで入会を断られ、エビちゃんと一緒に失意のまま店を後にしたのですが、その後姿は戦争時に薬殺された動物園のゾウみたいにションボリとしてました。

身分証を求められてパスポートを平然と出しちゃうその若さが凄い。凄すぎて羨ましく感じてしまう。僕ならたとえ何かの間違いで持っていようとも恥ずかしくて出せないと思う。その若さ故の無軌道さが羨ましくて仕方がない。

そのネットカフェ受付ではこんなこともありました。またもや夜も深まった時間帯に亀田三兄弟からボクシングを奪い取った成れの果てみたいな坊主頭の若者が2名と、キャバクラ嬢みたいな女性が2名セットでご来店。みるからに乱交とか楽しんでそうな4人組でした。

またもや初めての来店だったらしく、身分証の提示を求める店員。これに対してキャバ嬢2名と亀田の片割れは身分証を提示。しかしながらもう片方の坊主頭が身分証がない。どうも身分証どころか、完全に手ぶらで財布すら持ってない様子。そんなフリーダムな状態でネットカフェに来ることが間違っている。金くらいもってこい。

「え?マジ?身分証いるの?うそやーん」

店員がここで嘘ついてもどうしようもないのですが、明らかに横暴な態度。その若さが羨ましい。

「どうすんのー、コウ君利用できないの?」

「マジ、大丈夫だって!」

と訳のわからない励まし合い。何を思ったのか亀田のヤロウ、唯一の所持品だった携帯電話を取り出してこう言ったのです。

「身分証はないけどー、携帯電話でどうっすか?」

なにが「どうっすか?」なのかわからない。その若さが羨ましい。本当に羨ましいのか疑問だが、たぶん羨ましい。

もしかして、携帯電話を見せて身分証の代わりするつもりなのか。どこをどうやったら携帯電話が身分証の代わりになるのか分からないのですが、周りのキャバ嬢も

「そうだよー、携帯あるし大丈夫だよー」

とのたまう始末。このフェラチオが!

亀田グループの中で携帯電話は身分証になるという意味不明な機運が高まってくる中、店員は頑として認めない。

「ですから、携帯電話だけではちょっと・・・未成年かどうかもわからないですし・・・条例で深夜に未成年を入れてはいけないことになってるんですよ」

順序だて、理論的に説明する店員さん。しかし亀田は引き下がらない。

「未成年じゃないですって!なんだったらこの携帯電話で母ちゃんに電話して聞いてみていいって!」

グイグイと携帯電話を店員に押し付ける始末。

「コウちゃんはハタチだよー!私とタメだもん!」

必死に主張するキャバ嬢。黙ってろ、このフェラチオが!

結局、あまりに言語が通じないのに根負けしたのか、なんと、携帯電話が身分証としてまかり通ってしまい、亀田は見事に入会を果たして入店。パスポートを出して断られたナウマンゾウが可哀想だ。かわいそうなゾウだ。パスポートの方が携帯電話よりいくらか身分証じゃないか。

大喜びで入店の喜びを噛み締める亀田とキャバ嬢。それを見ながら、やはり若さ故の無軌道は羨ましいと感じたのです。若いが故に無茶ができる、時にはその無茶が何かをゴリ押しし自分に有利働く事がある。僕のようなオッサンになると携帯電話で押し通すことなんてできず、そのままトボトボと帰宅するのが関の山だ。本当に若さとは羨ましい。

若さとはそれ自体が大きな財産です。失敗することも、何も知らないことも経験が浅いのだから当たり前。それを逆に武器にして少々の無茶をしてもいい、若さにはそれが許されるのです。

だから若い人に言いたい。僕のようなクズな29歳にならないためにも、是非とも何も恐れずにチャレンジして欲しい。その結果、失敗しようが人に迷惑かけようが、反省する必要はあるけど若さで片付けてしまえばいい。それができるだけの財産があるのだから。

その後、ネットカフェ内を徘徊していたら、個室ブース内からどう解釈しても艶っぽい声が漏れてきてました。何事かと個室ブースの方に行き、ブースを仕切っている板が低いので通りすがりにチラッと覗いてみたら、亀田とキャバ嬢が熱烈に絡み合ってました。何回も通って確認しましたが、どう見ても亀田がキャバ嬢の乳を揉んでました。

ネットカフェでそんな無茶をする亀田の若さが羨ましい。いや、若さとかどうでもよくて、乳を揉んでるのが羨ましい。僕も揉みたい。通り魔的に乳揉みたい。ナウマンゾウのでもいいから揉みたい。

そう思っていたらチンポビンラディンになってしまい、まだまだ俺も若いじゃねえか、と思いました。なんでもいいからこれからは無茶に乳を揉んで生きたい。30歳になっても揉んでいきたい。揉みたい。


2/2 飛脚

「今から家に行くからな!絶対にいろよ!わかったな!」

こんな怒号が電話口から鳴り響く。疑いようがないレベルでの恫喝。脅迫電話。気の弱い人なら首吊っちゃうんじゃないかという勢いで唐突に言われた。当時、まだ大学生だった僕はこの電話に恐れおののき、身震いして布団に包まることしかできなかった。

少年時代からこの種の電話を受けることは多く、家にはこの種の借金取りやらの電話が頻繁にかかってきていた。おまけに、親父の仕事仲間や友人てのが職種柄なのか血気盛んで粗暴な人が多く、普通の会話レベルの電話が恫喝に近いものだった。

やっとこさ電話に出ると言うことを覚えた僕、電話が鳴り、まるで電話に出るのが嬉しいといわんばかりの勢いでよちよち歩きで受話器を取ると

「おい!親父はおるか!早く死ねって伝えてくれや!」

とドスの効いた、人の5,6人は平然と殺ってそうな声で言われる。純真無垢な僕などは、殺人鬼が電話かけてきたのかと思い

「ひっ!」

と悲鳴にもならないような声を電話口で上げることしかできなかった。すると電話口の男は

「ぐわっはっはっは!冗談やないか。早くお父さんに変わってくれや」

などと言う。これが本当に親父の友人なのだから驚きだ。きっと、電話に出て子供が出たから茶目っ気でジョークでも言ったのだろうが、そのジョークが怖いのだから全く笑えない。たまたまタンクが空だったからよかったものの、充填されていたら間違いなく漏らしていていたと思う。

これが品の良い上流階級の家庭などでは、親父の友人すらも上品で、電話での第一声も小気味のよいアメリカンジョークになってるはずだ。

「ヘイ、ジョン、隣の家に大きな塀ができたんだってね!おお!そいつは日照権の問題だ!冗談はさておき、お父さんに変わってくれるかな?友人のケビンだ!」

と知性とユーモアに富んだジョークをかましてくれるはずだ。それなのに、ウチの親父の友人ときたら「死ね」だの「殺す」だの粗暴なジョークばかり、いたいけない少年だった僕をビビらせるに足るほど乱暴なジョークの数々だった。酷い時は「俺、俺、天狗だけど、今夜、お前をさらいに行くからな」と俺俺詐欺の先駆けのようなセリフで僕をビビらせてくれるものだった。それを聞いた僕は「天狗怖い」と鼻を隠し(何故か天狗は鼻を持っていくものだと信じていた)布団に包まって震えることしかできなかった。

親父も親父の友人たちもどうしようもないクソで、僕はすっかり電話に出ると言う行為にブルってしまうトラウマを抱えてしまったのだけど、やはり母の愛は偉大だった。いつだって、そうやって僕を恐れさせる親父の友人達の電話に一喝。

「子供が恐れますのでもう電話かけてこないでください」

毅然とした態度で接したのだ。これには悪ふざけの親父友人もションボリ。そしてもちろん親父にも一喝。

「あなたの友人はユーモアのセンスがカケラもない」

それを聞いた親父はいつもバツが悪そうに笑っていたが、僕にとっては笑い事じゃなかった。すっかり電話がトラウマになってしまったのだから。

そして月日が流れ、大学生となった僕。すっかり少年時代の記憶も薄れかかってきたところに、冒頭のセリフの電話がかかってきたのだ。

「今から家に行くからな!絶対にいろよ!わかったな!」

平和な日常を乱す突然の脅迫電話。本人すら忘れかけていたトラウマが呼び起こされる。もう、僕はブルってしまってブルってしまって、怖くて怖くて仕方がない状態に陥ってしまった。

恐ろしいことに、あの日のように下賎な電話を一喝してくれた母も、遠い実家にいて助けてもらえらない、というか、大学生にもなって母に助けてもらっていたらそれはそれで問題だ。マザコンか。

さて、忘れていた恐怖を、忘れていたトラウマを存分に掘り起こしてくれた電話の主、ヤクザだろうか、悪徳業者だろうか、もしくは近所のゴミ御殿に住むキチガイ親父なのかしら、と皆さんも色々と勘ぐるかもしれません。そりゃあね、荒っぽい口調で「家に行くからな!絶対にいろよ!」と怒鳴る電話です、しかも電話主には会ったことがない。面識がなくてこんな脅迫とも取れる電話をかけてくる、それだけで真っ当でない人からかかってきてるのだろうと思うのが普通なはずです。

しかしですね、この電話主、誰もが想像する詐欺とか脅迫とはかけ離れているであろう真っ当な業者からの電話なんですよ。普通に健全な業者としてテレビでCMなどもしているある業者がこの粗暴な電話の主なのです。

宅配業者と言うんでしょうか、運送業者というんでしょうか、家に荷物を届けてくれる会社がありますよね。それの飛脚がどうとかいう会社、ハッキリ言うと佐○急便なのですが、そこのドライバーが電話の主なんですよね。

僕の記憶が確かならば、こういった宅配ドライバーの方というのは「荷物も届けて幸せも届ける」だとか「荷物を受け取ったお客様の笑顔が何よりの喜びです」みたいな信条だと思うんですよね。本気でそう思ってるかどうかは別として、CMなどを見る限り建前上のスタンスはそうであるはずです。

そんなドライバーであるはずなのに「今から家に行くからな!絶対にいろよ!わかったな!」ですからね。マジでヤクザか何かかと思うほどの勢いで電話をかけてこられました。

配達される荷物には、お届け先の住所氏名に合わせて電話番号も記載されているのですけど、おそらく僕に届け物か何かがあって、それを配達したい。しかし、配達しにいって留守だと無駄足になるし、といった思いから電話をかけてきて出かけないように忠告したんだろうと思うのですけど、いくらなんでももうちょっと言葉を選ぶとか丁寧で穏やかに話をするとかあるんじゃなかろうか。

そりゃね、確かに彼らの仕事は荷物を配達することですよ。その給料体系が「荷物を一件届けて○○円」と歩合に近いものであることも大体分かってます。そりゃあ沢山荷物を届けて給料をいっぱい貰おうと思ったら無駄足を踏まないように対策を講じるのは当たり前のことです。やはり効率優先であると思いますからね。

それで配達前に届け先に電話、不在にしないように家にいろよと要求するところまでは一万歩譲って許容するとしましょう。若い娘さんとかならそれだけで不気味に感じるかもしれませんが、許容しましょう。けれどもね、やっぱ言葉の使い方ってあると思うんですよ。いくらなんでも「今から家に行くからな!絶対にいろよ!わかったな!」はない。例えどんなに世紀末の世になって暴力が支配し、オアシスから湧き出る水を巡って略奪と虐殺が繰り返される暗黒の世界になろうとも、この言葉遣いはない。社内でも非常に頭が可哀想なことで有名で、なんかの雑誌にカッコイイという意味で「イカしてる!」みたいな表現が書いてあったのを全部「イカレてる!」と読み間違え、「この秋はこのファッションがイカレてる!」と本気で誤読していた総務のマミちゃんですらこの電話対応はない。

「今から家に行くからな!絶対にいろよ!わかったな!」

「あ、は、はい」

「佐○急便だ。届ける荷物がある。今から行くからな」

「え?え?」

「ぜってー出かけんなよ!マジ出かけんなよ!」

「あ、はい」

もう僕なんて困惑しちゃって、まだ大学生で、田舎から出てきたばかり純真無垢で中性的美少年だった僕はドギマギしながら答えることしかできませんでした。っていうかビビッてた。

もう言葉遣いが乱暴すぎて、おまけに愛想もなさ過ぎて、これから麻薬の取引でも行われるかのような殺伐さがあるんですけど、普通ならなんて非常識な業者がいるんだ!と怒るくらいはあるかもしれないんですが、親父や親父の友人の手によって幼少時代から恐怖を与えられ続けていた僕は、忘れていたトラウマが見事にフラッシュバックしてしまったのでした。

怖い、電話が怖い。あの乱暴な電話が怖い。荷物を受け取りつつ僕は殺されるんじゃないだろうか、助けて、助けてお母さん。と幼きあの日のように、偉大だった母の優しさを切望しながら、少しイカ臭い布団に包まれてガタガタと震えていました。

きっと、粗暴な電話をしてきた佐○急便のヤツは社内でも有名なワルに違いありません。あんな乱暴な言葉遣いを面識のない顧客にするのですからそうとしか考えられません。荷物が重すぎて気に食わないからとりあえず受取人を殴る、荷物で殴る、とかそんなバイオレンスなことが平然と行われているかもしれません。

もしかしたら僕は殴られちゃったりするのか、それとも金品を要求されるのか、もしかしたら犯されちゃったりするのか。粗暴な人には意外にもホモセクシャルな人が多いと友人の石山君が言ってました。あんな粗暴な電話をしてくる人です、十分にホモセクシャルである可能性も考慮しなくてはなりません。

もうダメだ。怖すぎる嫌過ぎる。なんで荷物が届くだけでこんなビビらされなきゃならないんだ。もう一人暮らしなんて嫌だ、助けてお母さん。幼き日、親父の友人達の粗暴な電話から守ってくれたように助けてお母さん。

と思ったのですが、よく考えたら僕はもう大学生。いつまでたっても「お母さん助けて」はいただけないものがあります。実家を離れ、一人で暮らし始めたのは自分の決断、いい加減に母の庇護の元から離れ、自分で全てを解決していかねばならないのです。

「よし、やったろうじゃないか」

かぶっていた布団を跳ね除け、青年は立ち上がりました。自立し、何かを決意した青年の顔は精悍そのもの。もう、ここには電話にブルっていたチキンハートでマザコンな男の姿などありません。あるのは戦うことを決意した戦士の姿のみ。

粗暴な配達業者がなんだ、ホモセクシャルな配達業者がなんだ、そんなもの、返り討ちにしてやるわ。俺はやるよ、母さん。

これから荷物を持ってくるであろう業者の男は粗暴な男。粗暴な男とは言い換えるとマイペースな男の事を指します。マイペースであるがゆえ、他者と自分との関係を適切に把握できず、結果、粗暴な振る舞いになってしまう。彼のペースに乗せられれば粗暴な振る舞いから暴行など好きなようにやられる危険があります。彼のペースを乱すことから始めなくてはならない。

結果、僕が導き出した答えは「裸で荷物を受け取る」というものでした。荷物を届けにいったら家主が素っ裸で出てきた。これにはどんな豪胆な輩でもギョっとするはずです。驚きの感情が彼のペースを乱し、粗暴な振る舞いもその後のあくどい行為も牽制ができる。つまり、裸になるだけで心理的に優位な位置に立てるのです。

おまけにこの裸作戦、業者の人がホモセクシャルであった場合も完全カバー。聞いてもないのにホモセクシャル情報を語ってくる石山君情報によりますと、ホモにも色々な形や価値観が存在するのだけど、粗暴なホモは圧倒的に嫌がるノーマルな男の子を好むそうです。本当は女の子が好きなのに、嫌々ホモセクシャルに体を捧げるとか、巨大タレント事務所の社長がその力にものをいわせて「やっちゃいなよ!」と若きタレントの芽を頂くとか、そういうのが大変お好みらしい。つまり、最初から裸で誘ってるような男はホモ界での好きものと判断され、全く興味ないに違いないのです。

よし、この作戦は完璧だ。いつでもきやがれ、佐○急便。と僕は素早く服を脱ぎ、裸で玄関に仁王立ち。今や遅しと業者の襲来を待ったのでした。素っ裸で冷たい玄関に立つ僕。その姿がイカしてる!イカレてる!

ピンポーン。

チャイムの音が鳴りました。もう人前に裸で出ると言う快感が妙な高揚感を生み出し、微妙に癖になりそうなのですがドキドキしながら答えます。

「はい、なんでしょうか」

「あー、佐○急便だけど。荷物持ってきたから受け取ってもらえる?」

みたいな事をドア越しに言ってました。コイツは本当にお客様商売か。

「あ、はい、ご苦労様ですー」

とドアを開ける。業者の人の目に飛び込んできたのは完全無欠に一糸纏わぬ姿の僕。もうなんというか、小汚いオッサンだったのですけど、目頭を切開して目を大きくする整形手術を受けた人みたいに目を大きくして驚いてました。

「あ、あ、はい、その、ここにハンコをもらえますでしょうか?」

伝票みたいなものを手に、何故か急に丁寧口調に変わる業者のオッサン。きっと何か恐ろしき禍々しいものを感じ取ったに違いない。

「ハンコねーどこやったかなあー」

ウチの玄関は台所と一体系になってたのですが、何故かハンコを探すと言いつつ流し台の下の棚の所をゴソゴソと探す僕。プリプリ尻を振ってオッサンを誘惑することも忘れない。

「あ、いや、ハンコないならサインでいいですからお願いします」

あの電話が嘘のように恐縮しているオッサン配達員。近寄っていって異常に荒い息遣いでハァハァいいながら伝票にサインしておきました。

「これ、荷物です。ありがとうございました」

荷物を渡して脱兎の如く逃げるオッサン配達員。

母さん、やったよ、僕やったよ。自分の力で粗暴な配達員を追い払うことができた。ホモセクシャル配達員から貞操を守ることができた。ずっと母さんに守られていたけど、はじめて自分の力でやれたよ。とドラえもん第6巻でドラえもん抜きでジャイアンと喧嘩したのび太のような涙なしでは語れない達成感に包まれました。

床が冷たい玄関兼台所、裸で荷物を持って立ち尽くす僕。これまで母に守ってもらえていた感謝と、自分ひとりでトラウマを克服した嬉しさで涙、ついでに裸で玄関ドア開けたから寒いな、と縮こまりつつ、届いた荷物の伝票を見てみると、母親からでした。

急いでダンボールをあけてみると、中には1枚の手紙があり

「あなたのことだから、必要なものも買わない生活なのでしょう。これだけあれば生きていけると思うので、お母さんが買っておきました。使ってください」

とダンボール箱パンパンにパンツが入ってました。

ああ、母はもしかしてこの状況を見越していたのだろうか。と思いました。なんで最低限生活できる物品が40枚にも及ぶパンツなのか理解できませんが、母には何か感じ取るものがあったのかもしれません。、僕が今まさに裸でいることを。

自立できたと思っていても、自分ひとりで立っていると思っていても、やはり母の庇護からは守られている、ずっと遠巻きに、それでいて暖かく見守ってくれている、それが母の愛だと感じたのでした。やはり母親ってのは偉大だな。

ちなみに、母親が買ってくる服飾のセンスとは物凄いもので、平然と虎が咆哮してる絵柄のパンツとか、馬が天高く駆けている絵柄のパンツとかだから侮れない。とてもカタギがはかないだろう絵柄。こんなパンツ、どこで売ってるんだ。それにしても、フンドシみたいなどこで売ってるのか分からないブツまで入っていたのですが、こんなもんどうTPOをわきまえてはいたらいいのか見当もつかない。試しにはいてみたら見るも無残に飛脚みたいになったのでした。

息子に飛脚フンドシを買って送る母のセンスがイカしてる!イカレてる!


1/26 孤児院

どうしても孤児院出身ということにしておきたかった。

本当に孤児院出身の人が聞いたら立腹も甚だしいと思うけれども、どうしても自分のことを孤児院生まれと詐称したい時期があった。今でもそうなのだけど、うら若き高校生くらいの頃だっただろうか、その頃が一番酷かったように思う。当時の僕は自分の中で心に傷を持った悲しき青年が異性にモテると熱烈に勘違いしてる部分があって、そういった自分をプロデュースするのに躍起になっていた。

僕は暇さえあればどうしようもないことを妄想する癖があって困る。妄想する暇があるならマリオカートでもやってるほうがいくらか有意義だと思うのだけど、どうしても妄想が止まらない。オナニーか妄想か、妄想かオナニーか、たまにエロ本、こんな29歳になるなんて、幼稚園時代の僕が見たら自ら命を絶つかもしれない。一体どこで間違ってしまったのだろう。

現在、僕は普通の家庭に生まれて貧乏ながら普通に育てられ、普通に学校にいって普通に就職して普通に仕事をしてるわけなのだけども、こんな普通じゃ物足りない、と日々妄想の中で自分のドラマティックな人生を組み立てて楽しんでいる。

妄想の中での僕は孤児院出身だ。これだけは外せない。孤児院で育った僕は愛を知らない。愛されることも愛することも知らないのだ。孤児院の先生は、あの感情のない目で見られるとゾッとした、などと後に証言する。僕の幼少時代を語る上で重要なエピソードが一つある。孤児院で飼っていたウサギが何者かの手によって虐殺された時、多くの子供たちが泣いた。しかし、僕だけは動じる様子もなく、ウサギの死骸を手にとってムシャムシャと食べ始めたのだ。「いつも食べてる肉と同じじゃん」と言った僕に対して、孤児院「慈愛の館」の園長は「この子は重要な何かが欠落している」と感じたそうだ。

中学生になった僕は孤児院を出ることになる。ある資産家に養子として引き取られ、豪邸に住み何不自由なく生活する権利を手に入れたのだ。養父も養母も優しかった。この当時、僕の人格を決定付ける重大な事件が起こる。資産家の養子であることに地元の不良グループに目をつけられた僕はカツアゲに遭う。しかしながら、テコンドーの使い手であった僕は不良グループをちぎっては投げちぎっては投げ。逆に返り討ちにしてしまう。暴力、破壊、一方的な殺人ショー、破壊衝動にスイッチが入ってしまった僕は、不良グループを半殺しにしてしまい警察に連行される。少年院送りかと思われたが、養父が金の力で揉み消してしまう。

地元の有名進学高に入学した僕は、一見すると穏やかな普通の高校生を演じつつ、心の中では着々と悪魔を育てつつあった。恐ろしいことに、僕には罪悪感と言う意識や、他人をいたわる気持ちが全くなかった。言うなれば、人の痛みを知らない人間に育っていた。後に僕をカウンセリングしたカウンセラーによると、愛情と同様に痛みを与えられずに育ったことが主な原因らしい。自分が痛がらないのだから他人の痛みが分からない。愛されたことがないからどう愛していいのか分からないのだ。一見すると普通の速水もこみちみたいな高校生だが、その中身は凍てつくほど冷めた心を持った男だった。

大学に入り、ある一流企業に就職する。僕に与えられた仕事は企業の裏を守る門番だった。表沙汰にはできない数々の事件を秘密裏に処理する、いわば企業の裏の顔だった。社長の愛人問題の解決、総会屋への根回し、政治家への賄賂、重要人物を自殺に見せかけて殺す、借金取りのような仕事も平気でやった。普通の人なら良心の呵責から1年と持たないポストだったが、なんと僕は7年も勤め上げたのだった。

このままいけば裏社会で幅を効かせる裏社会のドンも夢ではないと思い始めた7年目の冬。僕はある一家に出会う。退職した社員に追い込みをかけた時だった。この社員は中枢のポストにありながら突如退職した。会社が手がけていたインサイダー取引の証拠を握ったまま突如として退職したのだ。僕に下された命令は、その元社員の抹殺およびインサイダー取引の証拠を回収することだった。この案件にあたる相棒として謎のお色気美女ジェニファーとペアを組むことになった。なんでも社長直属の部下らしく、彼女でなければインサイダー取引の証拠を見分けられないそうだ。

早速、銃を忍ばせてジェニファーと共に元社員の住むマンションに向かう。そこには、元社員の暖かい家庭があった。「お父さん、今度の日曜日は遊園地にいけるの?」「ああ、お父さん、もうずっと休みだから、いつだって花江と遊べるんだぞ、いつだって・・・」「あなた・・・」「パパー、どうして泣いてるのー?」いつもなら僕にとってこんなの屁でもなかった。泣きすがる子供の前でライバル社の重役を射殺したこともあった。平和な家庭を壊すことなど、家庭の味も痛みも知らない僕にとって造作もないことだった。ただ引き金を引けば動かなくなった肉ができるだけ、それだけのはずだった。

「ゆ・・・遊園地・・・」

周る観覧車、上下するメリーゴーランドの馬たち。楽しそうな子供たちの顔。断片が浮かんでは消え、頭が割れそうになる。

「Hey pato。どうしたの?」

ジェニファーが僕を気遣う。

「なんでもない、大丈夫だ」

「なんでもないって・・・。速水もこみちみたいな顔が真っ青よ」

「大丈夫だ!なんでもないって言ってるだろ!」

柄にもなく声を張り上げてしまった。

「さあ、早く仕事を済ませましょう。ボスの命令は証拠の回収と一家の殺害よ。無駄に遺族ができると後々面倒だってね」

「まってくれジェニファー、ここは俺に任せてくれないか?」

ジェニファーの返事も聞かず、僕は単独で一家に押し入った。ヤツは組織が消しに来ることを半ば分かっていたようでその表情からは諦めが見て取れた。ただ、ヤツはこう言った。

「どうか、どうか、妻と娘だけは助けてくれませんか・・・?私はもう覚悟してます、私だってインサイダー取引に加担していたのですから。ただ、妻や娘に罪はない」

僕の銃口がブレた。

「どうして・・・。どうして・・・。お前らは自分を犠牲にしてまで人を助けようとする?それがお前らの言う愛なのか?」

「愛かどうかは知りません。ただ、自分が痛いより、妻や娘が痛い方が私にとっては痛い。あなたにもきっと分かる時が来ますよ」

「パパー、この速水もこみちみたいな人だれー?またお仕事?遊園地にいけなくなっちゃうの?」

また頭の中が割れるように響いた。そしてまたあの断片的な景色が。

「ゆ、ゆうえんち・・・。お母さん・・・」

「花江、静江、奥の部屋にいってなさい!」

喧騒が鳴り響く頭の中、なんとか意識を繋ぎとめ、僕は言葉をひねりだした。

「早く・・・インサイダー取引の証拠を出せ・・・そして、早く荷物をまとめてここを離れるんだ!」

彼は1枚のCD-Rを差し出すと、小さなカバンを持って家を飛び出した。もちろん、彼の妻も大きな荷物を持ち、娘も宝物なのだろう、飼っていたハムスターをカバンに移して手をひかれていった。

「まさかアナタが組織の命令に背くなんてね。私は証拠の回収を命じられただけだから構わないけど、殺害まで指示されたあなたはどうなるかしらね」

ジェニファーは小悪魔のように笑い、僕の手からCD-R奪い取った。

「ヤツは何も喋りはしない。殺す必要はない」

「その判断をするのは組織のボス、グレートチュパカブラよ。どうやらあなたと組んで仕事をするのは今日が最初で最後のようね。なにせあなたは明日から、いいえ今からグレートチュパカブラに終われる身だもん。もちろん、生き延びれるわけがない。もちろんあの一家もね」

「あの一家だけは殺させない!この俺が守る!」

「あら?それがアナタの愛かしら、おかしいわね、フフフ」

ジェニファーと別れ、自分のマンションへと帰る僕。ドアの前に立ってすぐに異変に気がついた。毎日出かける時にドアノブの上に髪の毛を置いているのだが、髪の毛が床に落ちている。誰かが部屋に入った証拠だ。銃を構え、音を立てずにそっと室内に入る。物陰から2つの影が、銃声が鳴り響く。僕の銃撃が早かったのか、二人の男は床に倒れこむ。おそらく即死だろう。見ると、その二人は以前の仕事で組んだことがあるダニエルとマックだった。

「もう組織の手が・・・あの家族が危ない・・・!」

銃を握り、速水もこみちみたいな顔の僕は走り出した。

幸い、彼の携帯番号は事前に調べてあったので連絡を取るのは簡単だった。港の倉庫で一家と合流し、今後の対策を練った。

「組織は、グレートチュパカブラはあなたたち一家の命を狙っている。もちろん、命令に背いた俺の命もな」

「私はどうなってもいい、妻と娘の命、そしてあなたの命だけでも助ける方法はないんですか。私の命で済むならそれでいいんです」

「俺の命のことまで考えてくれるのか・・・アンタ、優しいな・・・」

「私、組織のボスのところに、グレートチュパカブラのところにいってきます。私の命で助かるなら・・・」

「まちな!アンタが行くことはない。アンタは妻や子供のために生きるんだ。俺が、俺がグレートチュパカブラを殺る!」

「とにかく今日はもう遅いです。幸いこの倉庫なら組織に見つかることもない。夜が明けてから考えましょう」

彼は震える妻と娘を抱きかかえるようにして積荷にもたれかかり眠っていた。

「パパ、遊園地は?あの速水もこみちみたいな顔したお兄ちゃんも一緒にいくの?」

状況が把握できていない娘が言う。

「ああ、全てが終わったら皆で行こう。あの速水もこみちみたいな顔したお兄ちゃんも一緒にな」

彼は娘をなだめ、なんとか眠りにつかせた。追っ手が来ないか窓から周囲を警戒していた僕も、いつしか眠りについていた。


朝日がまぶしい。窓からこぼれてくる眩い朝日が浮遊する埃を鮮明に映し出す。ふと視線を移すと、いるはずの場所にヤツの姿がない。妻と娘を残し、忽然と姿を消したのだ。

「あいつ!一人で決着をつけようとグレートチュパカブラのところに!」

残された妻と娘に、絶対にここを動くなと言い聞かせ、僕は速水もこみちみたいな顔をしてグレートチュパカブラのいる組織本部へと走った。裏の仕事の報告で何度も足を運んだことがある組織本部。けれども一度たりともグレートチュパカブラに会ったことはなく、その顔すら知らなかった。それほど僕とグレートチュパカブラとの地位の差は歴然だった。

「以前の俺だったらグレートチュパカブラに逆らうなんて考えられなかった。それが今は赤の他人の家族を、ヤツを救うため逆らっている。どうしちゃったんだろうな、俺は。この爆発しそうな気持ち、なんなんだこれは、イライラする」

組織本部に侵入するのは簡単だった。裏社会でならした身のこなし、瞬く間にモヒカンの構成員達をなぎ倒し、遂にグレートチュパカブラの部屋までたどり着いた。

「そこまでだ!グレートチュパカブラ!」

勢いよくドアを開けると、そこには誰の姿もなかった。ただ一つ、写真の場所で待っていると書き添えられたメモと写真が机の上に置いてあるだけだった。

「この写真・・・どこだ・・・?」

写真はどこかの遊園地のような風景だったが、僕にはその場所がどこなのか分からなかった。けろどもその写真を見た瞬間、また頭に割れるよな痛みが走った。

「俺は・・・・この場所を知っている・・・?」

走った。記憶の断片の中にある場所に向かって、僕は速水もこみちみたいな顔をして走った。僕はこの写真の場所を知っている、そして、無意識に忘れようとしていた記憶も知っている。僕はこの場所にいかなければならない。

辿りついた場所は、今にも潰れそうな遊園地だった。営業も終わったようで、周囲に人影は全くない。何の躊躇もなく柵を乗り越えると周囲を警戒しながら速水もこみちみたいな顔をして園内を歩いた。

真っ暗な園内。昼間は楽しそうな場所だろうに、日が落ちるとすっかり不気味だ。

「この景色、俺は知っている」

全ての風景がどこかで見たような景色だった。

「・・・あの日、母さんは、戻ってくることはなかった・・・観覧車の列に並んで・・・」

その瞬間だった。

パーーーン

静かな園内に銃声が鳴り響いた。

急いで銃声のほうへと向かうと、そこには横たわる人影ともう一つの人影があった。

「オッサン!」

急いで倒れているほうの人影に駆け寄る。速水もこみちみたいな顔して。

倒れていたのは、あの彼だった。胸を撃ち抜かれ、まだ息があるものの致命傷であることは一瞬で分かった。

「pato、ヤツがグレートチュパカブラだ。私にはダメだったよ。妻も娘も守れなかった。もちろん君も。すまない・・・。妻と娘に伝えてくれ、遊園地にいけなくて・・・」

「喋るな!伝えたいことは自分で伝えるんだ!絶対に死なせはしない!早く医者に!」

「フフフ、ダメよ。その男はインサイダー取引の証人、家族ごと消してしまうの。もちろん、組織に逆らったあなた、patoもね」

暗闇に浮かび上がるグレートチュパカブラの姿。その姿は、ジェニファーだった。そう、一緒に彼を殺しに行った時の相棒、ジェニファーだったのだ。

「ジェニファー!貴様がグレートチュパカブラだったのか!そんな、まさか・・・」

「組織としては、こんなチンケなインサイダー取引はどうでもよかったの。これはアナタに対するテストだったの。組織の幹部へと昇格するあなたの資質を見るテスト。それに私がじきじきに出向いたのよ。アナタが組織を裏切らないか、あなたは過去のトラウマに勝てるのか、それを見極めるためにね」

「過去のトラウマ・・・?」

「アナタはこの遊園地に捨てられていた。観覧車の列に並び、ここで待っていなさいと言ったまま母親は消え、戻ることはなかった。ずっとずっと、アナタは手を握り戻らぬ母の帰りを待った。ずっとね」

「どうしてお前がそれを!」

「組織の力をなめないことね。そしてアナタは孤児院に送られ、痛みも愛も知らない冷酷な男に育った。それは組織にとってうってつけだった、どんな仕事でも冷酷に遂行してくれるからね。でも、それは弱点でもある。遊園地が、暖かい家族が、小さな子供が、アナタのトラウマを引き起こし、痛みや愛を思い出してしまったら・・・それは組織への重大な背任行為に繋がるわ」

「き、貴様に俺の何が分かる!」

僕は速水もこみち銃を構えグレートチュパカブラを狙った。

「どうやら試験は不合格。あなたは思い出してしまった。守りたかった彼を殺されて痛い?彼ら家族を愛していたの?憎い?私を殺したい?どういう感情なの?」

速水もこみちは銃を構える。しかし撃てなかった。もはやもう僕は昔の僕ではなくなっていたのだ。何のためらいもなく引き金を引けた頃とは違う。この引き金が引き起こす多くの悲しみや痛みを想像してしまうのだ。

「どうした?撃てないの?撃てないなら今から私がアナタを撃つわ」

その瞬間だった。

パーン

また、静かな園内に銃声が鳴り響いた。しかし、僕は撃っていない。撃たれてもいない。しかし、グレートチュパカブラは心臓を撃ち抜かれ、静かにその場に倒れこんだ。

「君は彼女を撃っちゃいけない、そんな気がしたんだ」

そこには虫の息だった彼が、妻や娘そして僕の命まで守ろうとした彼が最後の力を振り絞り引き金を引いたのだ。

「ありがとう、pato君。これで安心して逝けるよ。娘と妻をよろしく頼む」

そう言うと彼はガクッと崩れ落ち、速水もこみちみたいな顔をした僕の手の中で永遠の眠りについた。

吐血するグレートチュパカブラ。僕は彼女も介抱しようと駆け寄ったのだが、彼女は「ありがとう」と言い残すとそのまま逝ってしまった。うっすらと涙を浮かべながら。

銃声を聞きつけ、多数のパトカーが近づいてくる。コレで終わりだ。何もかも終わりだ。たった一人残された園内で僕は立ち尽くした。

数日後。

組織の力で今回の事件のほとんどが隠匿され、僕も無罪放免で釈放された。警察官の話によると、グレートチュパカブラは身元を証明するもののも何も持ってなく、1枚の色褪せた写真を持っているだけだったそうだ。

彼女の最後の「ありがとう」はなんだったのだろう。あの涙の意味はなんだったのだろう。そう考えると不思議なことだらけだった。あの組織が、僕一人のためにここまで大掛かりなテストをするだろうか。それもボスであるグレートチュパカブラが出てきてまで。

警察署を出ると、あの妻と娘が僕のことを待っていた。どうやら警察に保護され、さっきまで事情聴取が続いていたらしい。奥さんは深々と頭を下げていた。娘のほうは、僕を見つけると駆け寄ってきてこう言った。

「ねえ、速水もこみちみたいな顔のお兄ちゃん、パパと遊園地に行く約束は?花江はずっと待ってるんだよ!」

「パパはお仕事が忙しいみたいだよ、速水もこみちみたいな顔したお兄ちゃんと二人で行こうか?」

「でもね、花江が連れてきたハムスターのモリゾーが動かなくなっちゃったの。冷たくなって動かなくなっちゃったの。心配だから花江いけないかも・・・」

「ああ、モリゾーはね、きっとお父さんのお手伝いにいったんだよ。だから土に埋めてあげよう。そうすればきっとモリゾーも幸せだから。それから遊園地に行こう」

「うん!」

速水もこみちみたいな顔をした僕は、花江の手をとり遊園地に向かう。あの時、母を待って観覧車の列に並んでいた時、僕はこうやって誰の手を握って待っていたのだろうか。警察官に見せられたグレートチュパカブラの唯一の所持品だった色褪せた写真。そこには姉弟だろうか、観覧車の前で楽しそうに笑う二人の子供が写っていた。男の子の方は速水もこみちみたいな笑顔で楽しそうに笑いながら。


とまあ、妄想が長くなりすぎて何の話をしていたのかサッパリ忘れたのですが、そうそう、孤児院でしたね、孤児院。

つまり、常にこういった妄想をしている僕にとって孤児院は物語のスタートとなる重要な場所なのです。そして、この妄想を本気でカッコイイと思っている僕にとって外してはならない重要な設定、それが孤児院なのです。

特にその勘違いっぷりがすごくて手がつけられなかった高校生当時は酷いもので、愛を知らずに育ったとかそんな設定に本気で心酔していた。だから酷いもので、普通の家庭に生まれて普通の家庭に育ったのに、友人には「孤児院育ちだ」とか本気で言ってた。特に女子に言ってた。モテなかった。

しかも、それを言うたびに近所に住むクラスメイトから「うそつけ、昨日、お前の親父パンツいっちょで釣竿もって歩いてたぞ、変質者かと思った」とか暴露される始末。「あれは育ての親だから」と否定すると、「顔、そっくりじゃねえか」と逃げ場のない追及を受ける始末。

結局ね、思うんですよ、確かに人それぞれ、カッコイイと思う基準は違います。たまたま僕は狂おしいことに「孤児院育ち」がカッコイイと思ってしまい、アホなことを言い出したのですが、それは大きく失礼な話ですし、なによりここまで育ててくれた親に対する冒涜に他ならないのです。

今日も普通に生きれることに感謝し、お父さん、あんたちょっと狂ってるけど育ててくれてありがとう、と心の中で思いながら、僕は退屈な日常という幸せを生き抜いているのです。

「ありがとう、親父、もう孤児院出身がいいなんて言わないよ」

そう感謝しつつ過ごしていると、タイミングが悪いことに携帯電話に親父からの着信が。出てみると、

「大変だ!メデューサが現れた!石にされるうううううううう、たすけてくれええええええええ!ブツッ」

と、こちらが何か言う前に熱演されて切れてしまいました。ウチの親父は僕をなんとか実家に帰省させようと、こういう手を使ってきます。この前は猫娘が出たって言ってました。

えー、先ほどはちょっと感謝しましたが、やはり僕は孤児院出身がいいです。だいたい、あんな顔した親父と速水もこみちみたいな顔した僕が親子なわけない。全然似てないもの。


1/20 喧嘩ラーメン

最近は食べ物の事ばかり考える日々を過ごし、僕の妄想の中を寿司や焼肉、オムライスやハンバーグ、カレーライスなどが駆け抜けては消え駆け抜けては消えしていきます。それはまるで食いしん坊な小僧の描くユートピアのように、少年グループのデブ的位置のキャラの頭の中のように、妄想のエンゲル係数が日増しに高くなっているのです。

もう、あまりにその妄想の度が過ぎてしまい、小股の切れ上がった粋でセクシャルな女性の太ももを見たとしても、モモ肉としか認識できなくなってしまいました。これ以上症状が進行し、おっぱいを胸肉としか見られなくなった時、僕の人間的価値はゼロに等しくなるのではないかと考えます。おっぱいの聖域だけは、この砦だけは、この最後の果実だけは死んでも守り通したい。

妄想の初めの頃は、豪華な食事や好物などを思い浮かべます。言うなれば、それだけで大満足できるような主力級の一軍が登場します。寿司やら焼肉やら、給料日じゃないと食べられないような食事が駆け抜けていくのです。

それが一段落すると、今度は極めて普通の食事が登場します。ハンバーグやらカレーライスやら、あと良く食べてるコンビニ弁当などが戦死した戦友のように星空に浮かんでは消えていきます。

さらに症状が進むと、今度は魚類が登場します。大衆魚の王者ともいえるアジが食べたくて仕方なくなる。アジさえあれば他に何もいらない。漁港で育ったくせに魚嫌いだった僕でも、アジだけは食べたくて仕方がない。アジの開きとか悶絶する。

次の段階に進むと、今度はラーメンが食べたくなり、そして最後には白米が食べたくなります。欲求が募り、それが叶わないとなると徐々にランクが下がっていくのですが、僕の中での食い物ランクは「高級料理→通常料理→アジ→ラーメン→白米」といった序列を形成しているようです。

諸事情によって満足に食生活を営めない状態に陥ると、最終的には「白米でいいから食べたい」という状態に陥るのですが、やはり人間とは強欲な生き物。それからしばらくすると「でも、白米だけじゃ・・・ラーメンもつけてラーメンライスにしたい」「やっぱりアジが食べたい」と階段を駆け上がるように序列を上がっていくことになります。そう、欲求曲線が的確にV字型を示すのです。

今、この文章を書いている僕は、丁度欲求レベルが底値になり、少し持ち直したところで「ラーメンライスが食べたい」と所望する段階なのですが、しばらくしたらまたランクアップし「アジが食べたい」と言い出すに決まっています。

ラーメンとライス、いわゆるラーメンライスの欲求に駆られた時、必ず思い出す一つのエピソードがあります。

ウチの職場には大のラーメンフリーク、超ラーメン好きという同僚がいるのですが、こいつが頭悪いことに全国各地のラーメンを食べ歩いてやがる。メンマみたいな顔しやがって「ラーメンが僕の恋人」とか真顔で言いやがるやつで、冬のボーナスをはたいて全国一周ラーメンのたびに出たほどの剛の者。頭悪いよね、全国一周とか。

で、その彼がひとたびラーメンを語りだすと、本当に殺してやろうかと思うくらい長くてウザい。「札幌のラーメンは・・・」「博多のラーメンは・・・」とか土地ネタならまだいいのですが「要は愛撫するように麺をすすることだよ」などとトチ狂ったことを言い出す始末。

あまりにラーメンへの愛を語られすぎて、うざったいお前の愛がと言いそうになるのですが、そこはグッと我慢、で、なんとか死ぬほど長いお話を終わらせようと、ちょっと変わった質問をしてみたのです。

「美味いラーメンの話は分かったんだけどさ、不味いラーメンのことが知りたいよ。今まで食べたラーメンで一番不味かった店のこと教えてよ」

こう切り出したのです。

すると、先ほどまでマシンガンのように喋っていた彼の口が止まり、唸るようにしばらく考え始めたのです。

ラーメンのために全国を渡り歩いたツワモノです。僕なんかより多くのラーメン屋を渡り歩いてきたはず。きっと、死ぬほど不味いラーメン屋のエピソードなどを知ってるはず。そう期待してワクワクと返答を待ちました。思えば、彼と会話していてこんないココロオドルのは初めてです。

「うーん、基本的に情報収集してから行くからなあ、マズイ店にはあまりいかないから、うーん」

ラーメングルメは情報収集が基礎中の基礎、常日頃から彼が言ってるとおり、あまりマズイ店の情報はない様子。

「うーん、そうだ!あった!あったよ!○○町の○○軒!あそこは凄いマズイ!」

なんと、意外にも物凄い職場近くのラーメン屋の名前が飛び出してくるではないですか。全国を回った猛者の口から「一番まずいのは近所のラーメン屋」と言われると、お前は何のために全国回ってんだ、と言いたくなるのですが、彼が認定する日本一マズイラーメン屋が近所にあるとなると、僕も俄然興味津々。身を乗り出して会話を聞きます。

「ほう、どうマズイの?ラーメンからドブの匂いがするとか?謎の昆虫みたいなのがスープに浮いてるとか?」

積極的に質問するのですが

「うーん、まあ、こればっかりは行ってみないとわからないかなあ」

と彼の回答は要領を得ない。

「え?なんで?いつも味の説明してくれるじゃん、天使の涙のような済んだスープとか言ってくれるじゃん。どんな味か説明してよ」

と僕も詰め寄るのですが

「いや、ラーメンの味は普通なんだけどね、ただ・・・」

と、超能力を持った謎の転校生みたいに何か重大なことを隠している様子。

この時の会話はこれで終わったのですが、それからはもう、あの近くにある○○軒のラーメンはどれだけマズイんだろう、日本中を旅した彼が言う日本一のマズさとは、これはもう青酸カリでも入ってるんじゃなかろうか、しかしラーメンは普通だと言う、悶々と考えてしまい、気が気じゃない状態に陥ってしまったのです。

「こうなったら行ってみるしかないな」

確か、夏の暑い日で、気分的にラーメンではなかったのですが、そのマズさの真実を見極めるため、僕は○○軒に行くことを決意したのです。いったいココにはどんなマズさが待ち構えているのか、全国級の猛者をも驚愕させる究極のマズさとは。武者震いなのか恐怖なのかよく分からない震えと共に、○○軒に向かったのです。

到着すると、さすがマズイと噂される店だけはある。その作りは豪胆そのもの。まず、駐車場は夕飯どきなのに当然の如くガラガラで、どっかの子供が遊んでいたのかポケモンみたいな絵がデカデカとチョークで描かれている。この店の立地は国道に面しているのだけど、なぜ店の入り口は国道の反対側。土地の使い方がおかしい。普通は道路に面した場所を駐車場にするか、入り口をもってくるかなのだが、入り口も駐車場も全く国道に面していない。

車を降りて恐る恐る入店すると、カウンターでは新聞を読んでるオッサンが「いらっしゃい」ですからね。なんか剛竜馬みたいなオッサンがカウンターに鎮座。僕も結構前の職場のウンコ上司に連れられてマズいラーメン屋に行ったのですが、マズくて客がいないラーメン屋の主人は98%の確率でカウンター席に座って読売新聞を読んでます。

「だりいなあ」

と言葉に出さないまでも、そういわんばかりの勢いで厨房に移動する剛竜馬。それと同時に店の奥から奥さんらしき人がお冷を持って出てきます。

「ご注文は?」

ここまでは店主にやる気の欠片すら感じられないものの普通の展開。とても日本一マズイラーメンを出す店には見えない。しかし、こんな夕食時に客が一人もいないのはやはりおかしい。きっと何かあるのだろう。

「ラーメンとライス小で」

それを聞いて店主がラーメンを作り出す。しばらくすると、至って普通なラーメンとライスが運ばれてきた。

見た目は普通、マズいラーメンと言うからにはゴキブリくらいは、それどころか日本一マズいラーメンなのだからヘラクレスオオカブトくらい入ってるんじゃなかろうかと麺とかかき混ぜて確認するのだけどそのような異物は混入していない様子。見た目は本当に普通のラーメン。

こりゃあ味が相当に凄いのだろうか、ええい、どうにでもなれ!と目をつぶって食べました。すると、あろうことか結構美味いのです。上司に連れられて数々の激マズラーメンを食した僕にとって、このラーメンはマズいの部類に入らない。それどころか美味いの部類に入る。何だアイツ、全国旅して舌が肥えまくってるんじゃないか。全然マズくない、それどころか美味いじゃないか。

そう思った瞬間でした。

ガシャーーーーン!

「テメエ!洗い物しとけっていっただろうが!」

「このやろーーー!」

「やめてーーーー!」

店の奥から飛び交う怒号。何かが割れる音。どうも剛竜馬が店の奥で奥さんを叱り付けているみたいなんです。皿とかガッシャンガッシャン割れてるし、奥さんの悲鳴が鬼気迫るものがある。

ヤバイ、死ぬほど気まずい。もはやラーメンどころじゃない。ライスなんてどうでもいい。

「テメーがチンタラしてるからだろうが!殴られねえと分からねえのか!」

ガシャーーーン

「アンタが借金ばっかりしてくるからでしょうが!」

「なにおおおお」

ガシャーン

どうやら奥さんも反撃しだした様子。店の奥なので音声しか聞こえないのですが、それが逆に生々しい。

どうも金があるない、借金がどうのと争ってる様子なのですが、そんなに皿を割ってるから金がなくなるんじゃ、と気が気じゃなくなって、店の奥まで行って止めた方がいいのだろうか、警察でも呼んだ方がいいのだろうか、と悶々としてラーメンが死ぬほどマズい。気まずい。

なるほど、ヤツが言ってたマズいラーメンとはこのことか。まさかマズいってのは味でもなんでもなくて気まずいだったとはね、おじさん、一本取られちゃったよ。なんて言ってる場合ではありません。

「まだ言うか、この売女め!」

「もうやめてえええ」

ガシャーーン

「この!」

ガシャーーン ガシャーーン ガシャーーン

まさにクライマックス。まさにドメスティックバイオレンス。おいおい、人が死ぬんじゃねえか、とか思っていると、急に店の奥がシーンとなりましてね、まさか本当に・・・とか思ってると剛竜馬が店の奥から出てきて、チーンとかレジ開けて札を鷲掴みにして店の外に出て行きました。渡る世間みたいな割烹着を着たまま。先ほどまで修羅場だった店内、そして静寂、そこに対比してレジのチーンという音だけが妙に間抜けでシュールでした。

まさか、剛竜馬のヤツ、奥さんを殺してしまって金を持って逃亡したんじゃ、と席を立とうとすると、店の奥から髪が乱れ、涙を流した奥さんがヨロヨロと。

良かった、奥さんは生きていた。きっと怒り狂った剛竜馬は店の金持ってパチンコでも行ったんだろうな、と安心したのですが、さすがに気まずくてラーメンを食べる気にもなりません。これ以上見てられない。

仕方ないので金を払って帰ろうとすると、健気にも奥さんはレジへ。そこでラーメンライス代690円を払ったのですが、奥さんは一言。

「すいませんね、あの人いつもなんです・・・」

と重過ぎる一言。そんなこと言われても僕にはどうしようもなく、ただただ狼狽して

「あ、はい、大丈夫です」

とかわけわからんこと答えてました。何が大丈夫なんだ、何が。

その後、同僚の彼に聞いたのですが、あの店は食事、睡眠にならぶ生活習慣の如く夫婦喧嘩が絶えないらしく、客がいる前でも平気でドメスティックバイオレンス。何度か警察を呼ばれたこともあるようです。でも、不思議と奥さんは逃げないし、ラーメン屋は存続しているという、この辺じゃあちょっと有名な七不思議の一つのようです。ホント、死ぬほどマズいラーメンだった。あんな気まずいラーメンは食べたことなかい。

「また来てくださいね、餃子もおいしいですから・・・」

帰り際、そう言った奥さんの言葉を思い出すと、微妙に切なく、そして後味が悪い。気分になります。味は普通なのに、気まずいという面でマズくて、後味という味まで悪いとは、恐るべきラーメン屋だぜ。

と、諸事情で満足に飯が食えず、食への欲求が募ってラーメンとライスが食べたいという段階になるとどうしてもこの○○軒を思い出してしまいます。あれほどマズいラーメンライスは過去に経験がない。

けれども、今の僕は、今の飢えている僕はあんな日本一マズいラーメンライスであろうとも食べたい。気まずかろうと後味が悪かろうと、どうしても食べたくなるのです。それくらい飢えているのです。今日はそれだけを伝えたかった。あと、アジも食べたい。


1/13 隣の魔王は怖く見える

隣の芝生は青い、なんて言葉がございます。

他にも「隣の花は赤い」という言葉もありまして、どちらも「人の持ってるものは良く見える」という意味合いなのですが、これがまた実に人間の心理を上手に表した素敵な言葉だと思うのです。

人間が他者を羨む気持ちとは相当なもので、それ自体が向上心だとかの原動力になる大切な感情なのですが、時にはそれが暴走し、取り返しのつかない重大な事態を引き起こすことがあります。それを諌めるため「そういうもんだよ、気に病むな」と救いの手を差し伸べるクリティカルな言葉なのです。

しかしまあ、この人口減少社会、少子化問題などに悩まされているとはいえ、決して人口密度が低いとは言えない日本社会において「隣の芝生」と言われてもいまいちピンとこないものがあります。都市部の住宅事情なんて最悪ですから、庭付き一戸建てなんて夢のまた夢、芝生が青かろうが関係なく、芝生が存在しないことの方が多いのです。ってか、例え隣の芝生が青くても「人工芝だろう」「着色してるんだろう」と裏を読むのが現代社会です。とてもじゃないが青いからと羨むことはそうそうありません。

そういった事情を加味して現代の住宅事情に照らし合わせると、隣のマンションの耐震強度は高く見える、ですとか、隣の家に施されたリフォーム詐欺工事はまだ良心的にみえる、ですとか、そういった按配になるかと思います。ちょっと脱線気味でしたが、とにかく、他者の物が良く見えて仕方がない、それはもういつの世も否定することができない真っ当な心理だと思います。

何度もお話しているように、僕の職場は完全なる個室制で、一部の事務系の方を除いてほとんどの同僚が個室で優雅に仕事をしているのです。当然ながら、その個室は千差万別で、かなり個人の趣味が入り乱れたものになりがちです。当然、各個室たちはそれぞれの芝生と化し、同僚間で様々にその青さを競うことがあります。

ある同僚などは、完全に仕事モードといった感覚で、ものすごく洗練されたデスクに未来風なインテリアの数々。パソコンだって何台も置いてあって、品の良いネットカフェみたいな構成。ある年配の方などは、ノスタルジックな部分に訴えかける古めかしい構成。古き良き昭和の時代といった貫禄すら感じる構成、それぞれの特色を活かし、ちょっと度が過ぎるんじゃないかと思うほど骨肉の競争が繰り広げられているのです。

それに引き換え、僕の個室はどうなってるのかといいますと、それはそれは酷いものがありまして、もうゴミと書類とコーラのペットボトルとエロ本が散乱。散乱じゃなくて産卵で勝手に繁殖してるんじゃないかと疑いたくなるカオス溢れる状態になっているのです。ちょうど、狼に育てられた少年に部屋を与えたらこうなんじゃないかと言いたくなるほどの酷さ。黒人がやる落書きみたいなジャカジャカさがありますからね。

当然ながら、他の同僚の個室が羨ましくて羨ましくて、チャンスさえあれば居直り強盗のヨロシクで乗っ取ってやろうとか思うのが当然かもしれません。それこそ、こんな荒んだ個室で仕事をしているのですから、隣の芝生は青く見えて羨ましく思うのは当然、そう思うのですが、これがまた不思議と羨ましくなんかない。それどころか、あんな素敵な部屋で仕事をするヤツなんてクソ、仕事ができないから部屋に入れ込んでやがる、と心の中で罵倒する始末だ。

思うに、隣の芝生が青く見える、それは自分の芝生だってそこそこイケてるじゃん?と思う気持ちと、芝生では負けたくない、と思う気落ちがあって初めて生じるものなんじゃなかろうか。自分の庭に死体が埋まっている人は隣の芝生が青くたってあまり羨ましくないし、それより自分の庭が掘り返されるんじゃないかと気になってしょうがない。そもそも庭に無頓着でノラ猫の交尾場所と化してるような人は羨む気持ちの欠片すら存在しない。自分の芝生がやや青くそれがご自慢だからこそ隣の芝生が青く見え悔しいんじゃないだろうか。

だから、僕は最初から個室という面では諦めきっているので同僚の個室を見ても羨ましくも何ともない。もっと端的に言うとゲーム差がありすぎて巻き返せる気がしない。9月くらいに定位置に収まる広島カープの気分だ。

そんな心境でゴミの中に埋もれていた先日、ちょっとした用事があって同僚の個室を訪れた。確か、賃上げ要求みたいな血気盛んな書類に署名をするために回覧板の要領で書類を回していたのだけど、順番的に普段付き合いのない同僚の部屋に持って行くことになったのだ。

ドアをノックし、同僚に招き入れられると我が目を疑う光景が広がっていた。これは自分の個室かと目を疑うほどのゴミの山。パッと見たところ、コンビニの袋のカスから弁当の容器、空きペットボトル、どう考えても仕事に直結しないムシキングのカードみたいなものまで産卵してやがる。僕が言えた義理じゃないけど、コイツはちゃんと仕事してるのか。

どう見ても僕の個室とドッコイドッコイ、もしかしたらまだ自分の方がマシかも、と思わせるような個室なのですが、同僚の彼がある行動に出た瞬間、その考えは瞬時に消え去ってしまったのです。

「ああ、また署名?いい加減うんざりだよね」

そう言って物凄い爽やかな笑顔をする彼はとてもゴミ個室の主とは思えない。で、なにやら小洒落たティーカップに高級そうな紅茶を入れてくれる彼。その紅茶のカップも散乱している書類の上に置かれているのですが、その書類すら極上のコースターに見えてしまうほどの気品の高さ。もう、無性に気高い部屋みたいな印象を受けてしまうのです。

なんだなんだ、たかが紅茶でゴミ屋敷が気品高き貴族の部屋に変わるのか?不思議に思いつつ耳を澄ましてみると、なんだか格式高いクラシックの調べが聞こえてくるではありませんか。大きすぎるでもなく小さすぎるでもない、絶妙な音量で優雅なクラシックが流れてくるのです。

もうね、衝撃でしたよ。後頭部を鈍器で殴られたような衝撃が走りましたよ。ゴミ屋敷がクラシック音楽とアフタヌーンティーだけで優雅な空間に早変わりとは。鈍器で殴られた衝撃どころか、そのまま失神してさらに首を絞められて、バラバラにされて山間部に遺棄された、しかし容疑者には死亡推定時刻の時間帯にアリバイがあって、13時04分上野発の特急に乗れないと犯行は不可能、そこで魔の時刻表トリックがあって、シベリア超特急の晴男さん並の名推理&名演技、実はほとんどの乗客が犯人だったくらいの衝撃でしたよ。

とにかく、自分と同程度のクズだった同級生の下山君が自衛官として立派にやってるという小粋なニュースを聞いた時のような、そんな気分に駆られました。同じゴミ屋敷個室なのに、同じクズなのに、クラシックがあるというだけでこんなにも格式高い雰囲気になるだなんて。

僕の中で同僚の部屋が一気に青光りし始めた瞬間でした。マジでヤツの芝生は青すぎる、羨ましいほどに青すぎる。他の素敵な部屋はゲーム差がありすぎてどうでもいいのだけど、この部屋は同じクズじゃないか、なのにこんなに格式が違いやがる。急に手の届く範囲に出現した同僚の部屋は僕の芝生魂に火をつけました。

こうなったら、僕も部屋にクラシックをかけるしかない。

思い立った僕は書類を渡すと、出された紅茶に手もつけずに我が個室へと舞い戻りました。あいにくCDプレイヤーなどという文明の利器はないのだけど、僕にはパソコンがある。このパソコンにスピーカーを繋いでクラシックをかければ一気に格調高い部屋にジョブチェンジ。ヤツだってギャフンと言うはずだ。

しかしながら、ここで大きな問題が発生。あいにく、僕はクラシックの曲を全く持ってないはず。デスクの中や車の中にあったCDに思いを巡らせてみるのですが、どう考えても大塚愛のCDしか存在しない。それでも必死に車内を捜索していたらWindowsのインストールディスクだとか家計簿マムのディスクとかが出てきました。こんなん格式高くない。というか、なんで家計簿ソフトがあるんだ。

どうしよう、このままでは僕の部屋はゴミのままだ。憎きアイツに負けてしまう。何かに追い詰められるかのようにCDを探す僕。すると、途方もなく格式高いクラシックのCDが出てきたのです。諦め半分で探してたのに、まさか本当にクラシックのCDが出てくるとは。

そのCDには何故か手書きの注意書きで「名歌手18人による魔王熱唱」と書かれていました。うちの閲覧者さんにお会いした際に頂いたCDなのですが、どう考えても頭に水死体が詰まってるとしか思えないCDを頂いてしまったのです。

以前に僕は、魔王というクラシックの素敵な曲の思い出について日記に書き綴り、「お父さん、お父さん」の部分と「タエヌ」の部分が最高にキャッチーでロックだぜと表現したのですが、それが悪い方向に作用してしまったみたいで、こんなCDを僕にプレゼントしてしまうという奇行に走らせてしまったのです。「魔王」のCDならともかく、「名歌手18人による魔王熱唱」ですからね、頭が可哀想と言う他ない。

とにかく、魔王だってクラシックです。これで格式高い部屋を手に入れることができる!と部屋に戻ってCDをセット。絶妙の音量で聞き始めたのです。

最初にCDを見た瞬間、18人での魔王熱唱?何か合唱でもしてるのかな?それはさぞかし迫力あるぞ、と思ったのですがどうやらそれは大いなる見当違い。なんと、18曲全部魔王ばっかり入ってやがるのです。歌手を変えて18回魔王をリピートしてけつかる。いい加減にして欲しい。

しかしまあ、リピートかける必要なく18回も聞けてお得だね、とひどく前向きでポジティブな思考を曝け出し、なんとか優雅になったはずの我が部屋で仕事をしていたのですが、どうしても優雅じゃない。同じクラシックなのに魔王には優雅さの欠片がない。それどころか、どうしても「お父さんお父さん」の部分で笑ってしまって仕事にならず、しばらくすると「タエヌ」の部分は聞かないように耳を塞ぐようになってました。聞いてしまったら笑って仕事にならない。

1曲単体でも非常に笑えるのですが、常にリピートされてるとさらに笑える度は倍増。おまけに原作バージョンでは飽き足らず日本語バージョンまで混ぜて聞くようになったからさあ大変。書類に書く字がプルプル震えて大変なことになってました。全然格式高くない。

おかしい、おかしい、こんなはずじゃない。本当はもっと格式高くて葉巻を吸うような空間になるはずなのに、ゴミの山がガウディに見えてもおかしくないはずなのに、今は魔王が何か言ってるように見えて仕方ない。しかもそんな自分に自分で「なあに、あれはゴミのざわめきじゃ」とかフォローしてるのがおかしい。面白いという意味のおかしいじゃなくて、狂ってるという意味でおかしい。頭おかしい。

やはり魔王じゃダメなのか、魔王じゃ格式はあがらないどころか面白いのか、クソ、ヤツの部屋が眩しすぎるぜ、青すぎるぜ、と曲の切れ目に心なしかスピーカーの音量を上げたその時でした。

コンコン、「こんにちはー」

と僕の個室に来客ですよ。

「今ですね、ちょっと聞き取り調査していまして」

詳細を書くと色々と問題があるのですが、なんでも本部の偉い人の査察みたいなのがあったらしく、末端の構成員の中から僕が聞き取り調査の対象として選ばれたみたいで、なんか抜き打ちで予告なしに調査員さんが来たんですよね。もちろん、この調査員さんもけっこう偉い人なのですが、瞬時にヤバイって思いましたね。

こんなゴミのような個室で仕事してるなんて実態がお偉い人に知られたらクビとまではいかなくても相当にリスキーであるのは明白です。現にお偉いさんも

「えーっと・・・いつもこの部屋で仕事を?」

と部屋の乱雑さがけっこう気にかかってる様子。やべーなーと思ってたその瞬間ですよ。

ジャジャジャジャジャジャッジャッジャーン!

この特徴的でアグレッシブな前奏は、ま、まさか・・・!?

ええ、曲と曲の間で切れていた魔王が再び演奏を始めやがったのです。おまけにちょっと音量大きめ。しかも間が悪いことに日本語バージョン。

「ではですね、職場環境についてお聞きしますが、現在の環境には満足していますか?」

前奏なんてお構いなしに聞き取り調査を始める調査員。話をしている場所からPCは遠いので今更演奏を止めに行くのも不自然だ。

「ええ、大変満足しています」(お父さん、そこに見えないの 魔王がいる 怖いよ)

「そうですか。では上司からパワーハラスメント的なことを受けた経験はありますか?」

「ないですね、みんな優しい方ばかりです」(お父さんお父さん、聞こえないの 魔王が何か言うよ)

「昇進に関して、あの昇進は不公平だ、もっと公平にして欲しいと思うことはありませんか?」

「ないですね。皆さん有能な方が昇進されてると思います」(お父さんお父さん、それそこに 魔王の娘が)

「なるほど、年配の方の昇進にも納得してると」(坊や坊や、ああそれは、枯れた柳の幹じゃ)

「はい」(かわいいやいいこじゃのう坊や、じたばたしてもさらってくぞ!)

「ありがとうございました。他に質問したいことがあったら後日メールします」

「はい、わかりました」(子はすでーにーいーきー タエヌ)

とまあ、調査員の人と僕の会話の無言時間(調査員の人がメモを取ったり僕が返答を考えたりしていた)に絶妙に魔王の歌詞が入ってきやがるもんだから、けっこう真面目で重要な調査なのに途中で何度もブホッって笑いそうになった。微妙に内容にマッチしてるんだかしてないんだか分かんないのが殺傷力が高かった。

手の届きそうな青い芝生に憧れて個室にクラシックを流したまでは間違ってなかったのですが、それが魔王だったのがそもそもの敗因。格調高い個室に憧れただけだったのに、何も凄い個室じゃなくて、ゴミながらも格調が高い、手の届きそうなものに憧れていただけなのに、手の届く青い芝生に憧れていただけなのに、とんでもない大失態を演じてしまいました。

詳しい内容は知りませんが、おそらく「部屋が汚い」「仕事中に音楽聴いて遊んでる」「半笑いしながら返答、不真面目」とか調査員から上司に報告がいったのでしょう、上司が僕の個室に怒鳴り込んできて大変しっぽり起こられました。

青い芝生に憧れる向上心は、最初から諦めてる人よりも素敵なことです。しかしその方向性を間違えると芝生を青くするどころか怒られて自分の顔が青くなります。気をつけましょう。

「こんなゴミだらけの部屋で仕事するな!」

怒りのアフガンと化している上司に怒られながらも、僕は心の中で魔王を歌い、「お父さんお父さん、魔王が何か言うよ」と一人で格調高い気分に浸っていましたとさ。隣の部屋の魔王上司は怖く見えるね。

参考リンク
http://www.ongakushitsu.net/NENPYO/04/SCHUBERT/TUNES/erlkonig.html


1/11 まんだらけ

それは好奇心であったかもしれないし、ひとかけらの冒険心であったかもしれない。常に新しい地を開拓していくフロンティア精神は全ての人間が持ち合わせているかもしれないけど、やはり実際にそれを行動に移すその勇気は賞賛に値する。

「18歳未満立ち入り禁止」と書かれたのれんをくぐり、ビデオ屋のエロビデオコーナーでエロDVDを穴が開く勢いで吟味していると極稀にではあるが女性が入ってくることがある。軽やかな布地ののれんであるのに重苦しそうにくぐって突入してくる女性の目は好奇心に満ち溢れ、それと同時に恐怖心に満ち溢れている。

女性かて田園調布で育ったお嬢様でもあるまいしエロビデオコーナーという存在がどういうものか理解しているはずだ。決して若い女性が単独で立ち入ってはいけない場所だと、場違いだと理解しているはずだ。しかしながら、彼女は異世界を自らの眼で見てみたいと熱望したのだ。その欲望が体を衝き動かし、ビデオ屋店内で最も重力が高いであろう場所に導いたのだ。

そのか弱き女性の目に映ったものは間違いなく異世界だっただろう。目の前には小汚い背の高い男が床に座らんばかりの勢いで棚の下の方のエロビデオを凝視している。なんでそんな下の方なの?そこってすごい古いビデオとか置いてあるんじゃないの?それよりなにより、エロビデオコーナーに女性が入ってきたら恥ずかしくて焦ったりするんじゃないの?どうしてそんな不動なの?わからない、わからないわ!異世界の扉をノックした彼女は目を丸くし、初めてテレビを見た原住民みたいな表情になるのです。間違いなく多くの衝撃的な体験をするはずです。

僕らの生活はどんなに好奇心旺盛であろうともいつのまにか無意識に壁を作ってしまいがちです。どんなに視野が広いという自負があろうとも、自分は何でも興味を持ってやっているという自負があろうとも、無意識下では壁を作りまくり、その迷路のようになった壁と壁の間を歩いているに過ぎないのです。

エロビデオコーナーなど、18歳未満出なければ誰でも入れるコーナーです。しかしながら世の女性は無意識下で「あのコーナーには入らない、入ってはいけない」といった壁を形成し、自分の世界を狭い狭い通路にしてしまっているのです。その壁を打ち壊してみれば今までに経験したことのない新しい何かがきっと得られるはずなのです。良し悪しは別にして。

僕かて、物怖じせず何でも首を突っ込んでいる性質ですが、それでもやはり無意識に壁を作りがちです。例えば少女マンガなどもそうですが、無類のマンガ好きでも少女マンガだけは読もうとしない。なんで少女マンガの雑誌類ってあんな人を殺せそうな分厚さなんだと読もうともしません。出てくるキャラが全て美形過ぎて読む気がしない。ここでも少女マンガなんて、という壁が形成されているわけです。

しかしながら、何かを思い立ってその壁を壊してみる。すると、思いのほか大きな収穫が得られるのです。何で意固地になって拒んでいたのだろう、と少し前の自分を愚かだと思うほど新しい発見が必ずあるのです。少女マンガだって、何かの拍子に手にとって読んでみると結構面白い。「ライフ」というマンガを読んでみたのですが、なかなかどうして面白い。また、ちょっとエロい表現のマンガなどになると、その辺のエロマンガより少女マンガのほうがエロ描写がエグイ。女子プロゴルファー横峰さくらの半生を描いた少女マンガなどは、さくらのお父さんすら超美形のダンディズムに描かれていて笑える、など衝撃的な刺激がてんこ盛りでした。

巨大迷路の攻略法は、左側の壁に手をついてずっと進んでいくものだとキン肉マンでも言ってました。そうすれば全ての道を網羅することになりますから自然と出口に辿り付く事ができる。けれども、もっと簡単な攻略法は迷路を形成している壁を乗り越える、もしくは壁をぶち壊すことなのです。さすれば手っ取り早く出口にたどり着けるどころか固定概念にとらわれない新しい何かをきっと手に入れられるはずです。

先日のことでした。とある繁華街をテカテカ光る看板を眺めながらくだらねえと呟いて冷めた目をして歩いていた時でした。目の前に飛び込んできたのは衝撃の「まんだらけ」という文字。決して健全とは言えない繁華街で「ナース女学院」とかいかがわしい店舗が軒を連ねている場所なのですが、さすが「まんだらけ」はなかろう、マンで、それがいっぱいだなんて!破廉恥すぎる!マンコマーク!とウブな僕は頬を赤く染めるのでした。

落ち着いて考えてみると、これはそういった生殖器的な意味合いではなく、おそらく「漫画」から取った「まんだらけ」の意味合いなのでしょう、きちんと看板にも「漫画、アニメ、同人誌」といったことが書かれていました。早い話、ここはそういったアニメ関係や同人誌関係の物を扱っている店、早い話がオタクな方々を相手にした店舗のようでした。

僕かてマンガやアニメは好きな方ですが、あまりオタク的要素はありません。ですから、こういった店舗は決して入ることがない心の中の壁でありまして、普段ならそのまま素通りするのですが、新境地を見てやろう、心の中の壁を壊してやろう、と入店することを決意したのです。

しかし、いきなり特攻するのは愚かなことです。中に何があるのか、どんな客層の人々が来店しているのか、そういった情報を手に入れずに突入するのは決して勇敢とはいえません。ただただ無謀なだけです。情報収集をするため物陰に隠れ、じっと入店していく客の様子を眺めていました。

するとまあ、入っていくわいくわ、何かの濃度が絶対的に高そうな人々が次々と店内に入っていくのです。変な紙袋にポスターぶっさした人々や、どう好意的にみてもモバイルじゃないノートパソコンをカチャカチャやりながらはいっていく人々など、決して相容れない異教徒のモスクを見ているような気分でした。

そこに一人の青年が現れました。青年は若く、高校生かそれくらいの年代に見えます。おそらくクラスでは「ハカセ」などと呼ばれていそうな弱々しいいでたち。その青年の入店の様子が圧巻だった。

彼は見た目こそはそこらへんにいる標準的なオタクの人なのですが、入店前からめがねに手を書け、何やらブツブツ言っている。この時点で普通ならヤバいのですが、この店舗の前ならこれくらいは当たり前。そこからがすごかった。

「まんだらけ」の入り口は自動ドアになっていて、その中央に「押す」というボタンがあったのです。つまり、人が通っても勝手にあかないようにボタンを押さないと開かないようになっているのですが、その青年、突如そのボタンを正拳突きですよ。思いっきりパンチですよ。

いやいや、どういった類の暴力ですか。軽く押せば良いボタンを壊さんばかりの勢いで大パンチですよ。で、その開いたドアをテキサスのならず者のようにふてぶてしく入っていきました。オタク青年がテキサスの暴れ馬に大変身ですよ。一体彼に何があったのか。

こりゃあ、まんだらけを舐めていたのかもしれない。さっきから入っていく人々が凄すぎる。濃すぎる。半端な覚悟で入っていったら命すら取られかねない。とりあえず何があっても驚かないよう、僕は心臓を叩いた上でそっと「押す」ボタンに手を触れて店内に入店するのでした。

店内に入るとクソ長いエスカレーターがあって、その脇には二次元美少女などでふんだんに彩られたポスターがいっぱい。早くも異次元に続くエスカレーターのような気がしなくもないですが、そっとエスカレーターに足をかけ怯える子羊のように異次元に向かって進みました。

店内に入るとアニメの音楽っぽいのがやや大きめの音量で流れており、ちょっと店内の照明は暗め。ちょうど蛍光灯が切れかかった佐藤君の家みたいな明るさでした。で、店内にはズラーッと本棚とガラスケースが並んでいました。微妙に客が多くて店内はギュウギュウ詰め。

早速、ガラスケースの方を覗きにいくと、そこはアニメグッズやらアニメのセル画などが売ってあるコーナーでした。セル画に7万とか訳のわからない値段がついてた。確かに綺麗だけど高価すぎるよ。

訳のわからない値段に眩暈を覚えつつも本棚の方に行くと、今度は女性が狂ったように本を買い漁っているコーナーですよ。テレビとかでバーゲンの様子をやってることがあるんですけど、ちょうどあれのように我先にと本を手に取っては戻し、手に取っては戻し、ですよ。なんか他の子を押しのけたりとか奪い合いになったりとか、とにかくすごかった。

なんでそんなに必死なんだと僕もその女性達に混じって本を手にとって読んでみたんですけど、皆目理解できない。外国の本、それも良く分からない専門書を読んでいるような気分でした。

オタクパワー恐るべし。とか思いながら次のコーナーに行くと、今度はコスプレコーナーのおでましですよ。アニメキャラのコスプレ衣装とかを売ってるコーナーなんですが、そこでも女性が狂ったように衣装を手にとって吟味しているんです。

こう言っちゃ何ですが、身も蓋もないのは熟知しているのですが、衣装を着る前から何らかの夜は墓場で運動会なキャラのコスプレですかな?と聞きたくなるような女性が必死にセクシーでボディーコンシャスな衣装を吟味してるの。それで誰を悩殺する気だ、とか、それはないだろうとか突っ込む以前に、そもそもサイズがあってないっぽいところがすごい。14号くらいの人が7号の服を選んでおる感じ。

コイツはすげーな、とか物陰で見てたら、先ほどのコスプレを選んでいた人が僕の隣にやってきて何やら友人と話をしている様子。聞き耳を立ててみましょうかね、と聞いてみると

「うーん、迷うちゃうなー」

「買いだよ!買われちゃったら後悔するよ!」

「でもまー、一晩真剣に悩んでみるわ」

と、彼氏に浮気されて悩んでファーストフード店で相談する婦女子のように真剣に話し合ってるんですわ。悩む前にサイズが明らかに違うのにな。一晩じゃどうにもならんだろ。

そんなこなんで色々な部分に驚愕していると、今度はセーラームーンのコスプレしたオッサンが登場ですよ。オッサンが!セーラームーン!ですよ!

僕はセーラーマーズの方が好み、とかそういったのを超越してですね、オッサン、セーラームーの衣装を完璧に身に着けてるのに腕毛モジャモジャなのな。このインパクトをどう伝えていいのか分からないんだけど、そのセーラームーンオッサンは胸に「ゲスト」という名札をつけてたからおそらく一般の人なのだろう、さすがにこれは驚いてパンツがちょっとずり下がったわ。

すげーなー「まんだらけ」ってのは、女の子は同人誌のためなら親兄弟でも殺しかねない勢いで買ってるし、コスプレ衣装はサイズ関係なし、おまけにオッサンがセーラームーンのコスプレだぜ。

もうこれ以上は、例え黒ミサが行われだしても驚かないつもりだったのですが、そこからがさらに圧巻だった。突如、武士みたいなコスプレをして顔を真っ黒に塗った人が現れてきて元ネタが何なのかさっぱり分からないコスプレだったのですけど、その人が威風堂々とステージに上りだすのです。

ちょうどコスプレコーナーの横辺りがステージになっていて店内を見渡せるようになっていたのですけど、そこに恰幅の良い武士みたいなコスプレイヤーが登るのな。

で、どういった儀式なのか分かりませんけど、いきなりカラオケセットが出てきて武士がカラオケはじめるんですよ。それと同時に店内に流れていた音楽が止まり、武士のカラオケ音声がBGMにチェンジ。店内中に彼の歌声が流れ出すのです。

最初は何の歌か分からなかったのですが、1曲終わって拍手もなく、武士はさらに2曲目をチョイスして唄いだしたのですけど、「2曲目も唄うのかよ」という僕の心の中のツッコミも空しく、彼が歌った曲は「キャッツアイ」

「みーつめるキャツアイ♪」

とか物凄い裏声で歌うのな。超音波兵器みたいな高い声で歌うのな。それが店内中に響き渡るのはまだ良いのですけど、どうもその「みーつめるキャツアイ♪」の後の部分が難しくて分からないみたいで、

「みーつめるキャツアイ♪フニャムニャフフン♪」

とか唄ってんの。

で、どう見ても異様な光景なんですけど誰も気にしてステージを見るような素振りはなく、まるで普通のこと、山で山鳥が鳴くのは普通のこと、と言わんばかりに女性などは狂ったように同人誌を漁り続けているのです。

ふと見ると、武士コスプレのカラオケを凝視しているのは僕とオッサンセーラームーンのみ。オッサンセーラームーンはノリノリでゴーゴーダンスみたいなのを踊っていました。

もうなんというか、全体的に凄い、僕の知らない世界だったと驚愕していると、そこに外国人客が登場ですよ。外国かぶれの日本人女性みたいなのに連れられてきたヨーロッパ系と思わしき白人男性。日本の文化が誤解されてしまう!と危惧したのも遅く、外国人男性はステージ上の武士を見て「Why?」とだけ呟いてました。

そんなこんなで、明らかに異次元な世界に驚愕し、好奇心から初めてエロビデオコーナーに入った25歳OLのような気分を存分に味わえたのですが、やはり自分の中で無意識に作ってしまっている壁を破壊することは大切です。何事も経験という言葉があるように、どんなことでも経験してみればきっと新しい発見があり、それが自分の糧となるのです。そう、きっと。

僕も最初こそは「まんだらけ」店内で行われているオタクな人々の異様な黒ミサにショックを受けたのですが、その後、その下の階で売っていたエロ系の同人誌が結構エロくて抜けそう、という新しい知見を得ることができました。こういった爆乳な女子の痴態を描いた同人誌があってこそ、そういった生殖器的作品があってこそ真の「まんだらけ」なんだろうな、と大満足し、自動ドアを正拳付きで開けて店舗を後にするのでした。今度はコスプレ衣装買ってステージでカラオケをしたいと思いつつ。


1/4 デフラグ

その行動自体には何のおかしさもなく、それでいて唐突で突然に彼はエロ本を破り始めたのです。まるでそうすることが当たり前であるかのように極めてナチュラルに彼はエロ本を破り始めたのです。

彼などとまるで他人であるかのように書いておりますが、この職場で突如エロ本を破り始めたのは他でもない僕であって、まるで何か憎しみをぶつけるかのように、愛するものを自らの手で破壊しなければ気が済まない悲しき男であるかのように、僕は一心不乱にエロ本を破ったのです。

前々から危ういと思っていた29歳男が突如としてエロ本を破り始める。それを見ていた同僚の心中や察するに余りあるのですが、そんなことはお構いなし、「コイツらはこうしてやらねばならぬのだ!こうしてやらねば分からないのだ!」とほとばしる情熱をエロ本にぶつけたのでした。

この世の中は多くの要素から成り立っています。言うなれば数多くの断片が複雑に絡み合い、一つの断片を作り出している。そしてさらにその断片が断片を形成し、また断片を。こうして成り立っていると言っても過言ではありません。しかし、人はその小さな断片を見ようともしないのです。

27歳OL芳江。クリスマスイブ。カーテンから洩れる太陽の光に目を覚ますと課長の姿はなかった。「そうね、今日はイブだもんね・・・」。課長は妻とは上手くいってない、そのうち離婚するって言ってるけどいつもその話になると微妙に話をはぐらかす。

世間が楽しく浮かれるクリスマスイブ。テレビをつけてもその話題ばかり。うんざりした芳江は夜の街に繰り出した。西口をでてすぐに広がるイルミネーションに心奪われた。幸せそうなカップルを見ていると羨ましいという気持ちよりも喜ばしい気持ちになった。ただ、幸せそうな家族連れだけは直視できなかった。

「ママ、サンタさんは来るかな?」「きっとくるよ。五郎がいい子にしてたらね」「おいおい、もしかしたら今年は来ないんじゃないか」「もうパパったら」そう会話しながら両親に手を繋がれ、ブランコのようになってはしゃぐ子供。芳江はその家庭に課長と、まだ見ぬ課長の家庭を投影してしまった。

クリスマスソングが鳴り響く雑踏を一人で歩く芳江。「来るんじゃなかったな」と帰路につき、コンビニでチキンと小さなショートケーキ、シャンパンを購入して明かりの消えたマンションに帰るのだった。

こういった場合、全体的としての現象として「一人で過ごす寂しいクリスマスイブ」が挙げられます。それ自体はとても寂しく、さらに課長と不倫、27歳OLでそろそろタイムリミットといった付随的背景が物悲しさを誘います。

多くの方が往々にして、こういった「一人で過ごす寂しいクリスマスイブ」として全体を捉えて嘆いたり悲しんだり、時にはカップルを呪って一人でクリスマスの街に飛び出して大暴れしたりします。そう、言うなれば大きな視野でしか物事を見ていない。

一般的には物事を大きな視野で見ることは良いこととされていますが、しかしながらここで小さな要素に目を向けてみるとどうでしょうか。イルミネーションが綺麗だった、チキンが美味かった、ケーキが美味かった、コンビニ店員がイケメンだった、チラシ配りにお得なクーポン券を貰った、などなど、上記の芳江の場合にだって多くの喜ばしい断片が存在するのです。

もちろん、悪い断片も存在します。朝起きると課長がいなかった、幸せそうな家庭に胸が痛くなった、一人で寂しかったなどなど。ネガティブな断片が確かに存在するのです。

クリスマスイブという日に良い断片と悪い断片が共存している。しかしながら、多くの方は悪い断片ばかり印象に残ってしまい、そちらのほうに引っ張られて全体を悪い印象に捉えがちなのです。

そうならないためにはどうしたらいいか。これはもう悪い断片は綺麗さっぱり忘れてしまい、良い断片だけを鮮明に思い出す。そしてそれだけを繋げて良い印象を紡ぎだすしかないのです。仕事で失敗しても、その中で楽しかったことや面白かったこと、頑張ったことなどだけを思い出して勝手に頭の中で繋いでおけばいいのです。それができるのが個々人の頭のの中なのですから。

僕はこういった記憶の中の最適化作業をやってやろうと、職場にて突如としてエロ本を破り始めたのです。決して狂ったわけでも、愛すべきエロ本を自らの手で破壊して悦に入ろうというわけでもありません。ただ、断片を紡ぎたいだけだった。

長いことエロ本などを読んでおりますと、そのエロ本の悪いところばかりが目に付くようになります。展開がマンネリ過ぎる、絵が抜けなさすぎる、その体位は無理がある、その擬音は無理がある、などなど。グチュピュンクッキュンとか訳のわからない擬音には目を覆うばかりです。

我々エロ本フリークはリアリティと非日常性を同時に求めるという矛盾のラビリンスに陥りがちなのですが、断片化そして最適化作業はエロ本の悪い部分と我々が求める矛盾を同時に解決してくれるのです。

まずはじめにマンネリな展開です。僕が好んで購読しているマンガ系のエロ本の場合、大抵の場合が同じストーリーを辿ります。人妻が出てきて、主人にかまってもらえなくて欲求不満。ひょんなことから男性と知り合って居酒屋で愚痴る。私酔っちゃったみたい。奥さん!うはぁ!グチュピュンクッキュン。が王道のパターンでしょうか。人妻の場合はこのパターンで、女教師ならこのパターン、ナースならこのパターン、と細部は少し違えど大体のストーリーはほとんど固定されているのです。

人間とは罪深き生き物で、最初は興奮していてもあまりに同じ刺激が続くとすぐに飽きてしまいます。もっと刺激を、もっと刺激を、とエスカレートしていく状況は人類に進化に通じるものがあるため否定できませんが、級数的に増え続ける欲求はいつか破綻をきたし、全てを壊滅させる原因に他ならないのです。

そこで断片化の登場です。マンネリな展開のエロ本ならば全部破いてページごとに分割してしまえばいいのです。これでマンネリに彩られたストーリーが無に帰ります。その際に、抜けない絵のページ、嫌いな作家のページ、そりゃねえだろ、といったページを排除。グシャグシャにしてゴミ箱に捨てます。すると、残されたページは展開に無理もなく、抜ける絵であり、興奮するページと精鋭が残されることになります。おまけにマンネリストーリーは存在しません。

これらの断片化と選別を数冊のエロ本で行い、なんとか1冊分のページを確保。次にそれらを適当にシャッフルして綴る作業を行うのです。するとどうでしょう、なんと、驚くことにそこには自分だけの最高のエロ本が。ストーリー展開も全く予想できず、おまけに抜けるシーンが数多く収録。嫌いなページが一切存在しない至高のエロ本が完成するのです。そう、これは先にも述べた都合のいい記憶だけを繋げる記憶の断片化と最適化に通ずる行為なのです。

完成したエロ本を見てみましょう。まず、お気に入りの表紙があります。毒々しい色使いの表紙には「強烈肉弾不倫!」などと小気味よい文句が踊っていますが、これらの情報は全くあてになりません。先の読めない展開に早くも胸がドキドキ。泌尿器もドキドキ。

ページをめくるとイキナリですよ。ドバア!とかぶっかけられて大変な状況。普通はナチュラルな背景の説明などから入るのですが、そんな妥協は一切なし。いきなりクライマックスシーンから見せ付ける無骨な展開を見せます。

怒涛の展開に泌尿器がジンジンするのですが、それでもページをめくると、今度は何事もなかったかのように「私はナースなりたて、この仕事ってストレス溜まるのよね」と何事もなかったかのようにストーリーが展開し始めるのです。1ページ丸々使ったコマのドバアから普通に自己紹介ですよ。その落差に唖然とするギャップが
たまらない。この際主人公の女の子の顔や絵のタッチが全然違うところには目をつぶり勝手に脳内補完してしまいましょう。

先の読めない展開にワクワクしてると、迫力ある劇画調タッチの濡れ場が登場し、「そんなに腰を振ると抜けちまうぞ」「ああ!勝手に動くの!動くの!」ヌルポン!みたいなとんでもない場面に早変わり。前のページとこのページの間に何が起こったのか、考えるだけで気を失いそうです。すごい虐待されてる他所様の子供を見ているようなハラハラ感がビッシビシと伝わってきます。

もうこの時点で色々な意味でヤバイのですが、それでもマニアの業とは深いもの。これ以上読んだら興奮しすぎてダメになると分かっていながらもページをめくる手が止まらない。見たいけど見たくないような。水泳の着替えのときに男子のひょうきんキャラがフルチンになっちゃってキャーっとなりつつも指に間から覗いている女子のような心境でページをめくりました。

すると、今度は「結婚5年目、主人とセックスレスになってもう2年」みたいな、お決まりの展開。しかしながら、絵はいい感じだし、なんと言ってもここまでの流れがハチャメチャなので定番の展開も新鮮すぎてたまらない。「だからね、こうしてたまに宅配の若い男の子を誘惑しちゃうの」みたいなクソ展開でもドキドキしてページをめくる。

すると、上手いこと話がリンクしてしまって、別のマンガに登場する我慢できずに野菜を駆使してしまう若妻のシーンが登場。こういった偶然のリンクもこの最適化の醍醐味。

さらにページをめくると、いきなり女子高生が登場。かわいい制服を着て「痴漢に発奮して通勤電車内でムラムラ」みたいな状態。この瞬間に若妻でセックスレスで欲求不満、それでいて女子高生という、どう理解していいのか分からない状態。だがこれがいい。

次のページをめくると、何やらご主人様と奴隷みたいな関係の二人が出てきて、「おい、お前、今からあのきたねえオヤジとやってこい」「わかりました、ご主人様」みたいな驚愕の展開。人妻&欲求不満&セックスレス&女子高生&奴隷というこの世の贅の限りを尽くしたような、マリオがスター取ったみたいな状態に震撼した。全米が震撼した。

もうやばいよ、と思いつつも、お膳立ては全て整った状態。これも断片化のおかげ、じゃなきゃこんな衝撃のシチュエーションは揃わない。さあ、どんなフィニッシュを見せてくれるんだ。これがどんな濡れ場に繋がるんだ、と小刻みに手を震わし、ページをめくりました。

そしたらアンタ、そこで読者投稿のページですよ。シチュエーションを盛り上げて、さんざん煽っておいていきなり読者のおハガキ広場みたいなコーナーですよ。「先月、狙ってたキャバ嬢をついにゲット!札束ちらつかせたら一発でした!○○先生のマンガのような展開に大興奮ですよ!」とか、梅宮親子のイザコザよりどうでもいい、心の底からどうでもいいおハガキが目白押しですよ。編集部の人も「今度は札束でグラビアアイドルをゲットかな!?」とかコロコロコミックでもつけないようなコメントをつけてる始末。なにが「ゲットかな!?」だ。ポケモンか。死ね、七回死ね。なんでこんなページが紛れ込んでんだ。

シチュエーションで物凄い煽られてページをめくるとクソみたいな読者の広場。この落差がまたゾクゾクする。普通なら肉肉しい挿入ページが来てドバアかドプウなのに、その期待すら裏切る地獄の業火のような衝撃の展開。どんなに頭が狂ってる作家でもエロを匂わす→読者の広場なんて展開は描けません。そしてその衝撃に僕は昇天してしまうしかないのです。

これがもう断片化の醍醐味ですよ。クソつまらない、飽き飽きのエロ本を断片化して良い部分だけを繋げる。そうすることで新しい衝撃が生み出されてしまう。1冊のエロ本を1冊として、1つのエロストーリーを1つとして捉えていたら絶対に得られない衝撃です。

クリスマスは一人で寂しかった。正月は最悪だった。年明けの瞬間は加藤鷹の物真似をしていた。イベント事が目白押しのこの時期、そうやって自らの境遇を嘆く人が多く見られます。

しかし、それはあまりに大きく捉えすぎです。もっと細分化された断片ではきっと嬉しいことや楽しいことがあるはずです。嫌な断片を消去し良い断片を脳内で繋げる。そすればきっと思いもよらない楽しいことを発見できるはずです。そして、なにより自分の精神がすこぶるハッピーです。お嘆きの皆さんは今一度立ち止まって断片化と最適化の作業をしてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、断片化して最適化した自分だけのエロ本は、あまりの衝撃に満月を見たら大猿になりそうなくらい欲求不満な時しか見ないと決めて封印していたのですが、当然のことながら普通に職場の僕の個室を訪ねてきた同僚などに発見されており、「あの人、頭おかしいんじゃなかろうか」などと噂される、あまりにベタベタで泣ける展開があったのですが、これもまた消去されるべき断片に他ならないのです。


12/31 年越し

もう冬休みなのか、近所のコンビニの前には夜毎ジャリガキどもが集い、その様はまるで灯りに集う蛾のような様相。男女混合の不順異性交遊の気配ムンムンのガキの集団を見ていると、こんな深夜に外で遊んじゃうようなろくでなしブルースどもだ、きっとあの女の子はおセックスとか経験しているに違いない、そんな若年でおセックスなんか覚えちゃったら色気ほとばしる30代後半の頃にはどうなってしまってるんだろうか、生殖器で虫とか捕まえられるんじゃなかろうか、などと思いつつ今日もエロ本を買って読んでます。すっかり年末ですね。

そんなこんなで、もう4回目になりますが毎年恒例の年越しラジオの告知をば。なんかもう、最近はラジオばっかりしていて、深夜のラジオ放送に狂ったようにハガキを出していた中学生時代を思い出してしまいます。

「お正月だよ!ぬめぱと年越しレィディオ2005-2006」

放送開始 18:00
放送終了  CDTVスペシャル!年越しプレミアライブ2005−2006で大塚愛の出番が終わるまで
放送URL (終了しました)
放送スレ (終了しました)
放送内容 大塚愛

ちなみに、コンビニ前にたむろするジャリガキが、店の中に入ってきてピノを買うとかジャンプを読むとか大騒ぎしていたので、僕は大人のコンビニ利用法を見せ付けてやろうと、レジで貰ったレシートを颯爽と「不要なレシート入れ」に捨てたのでした。ここで流れるようなフォームでレシートを捨てられない大人はダメです。

カッコ良く決まってしまい、さぞガキどもも「大人ってカッコイイー」って顔していて、店員もジュンと股間を濡らしているのかと思ったのですが、どうもレシートと一緒に貰ったお釣りまでも勢いで「不要なレシート入れ」に投げ入れてしまったらしく、僕は半泣きになりながら山のようなレシートの中からお釣りを探すのでした。ガキどもは「だっせー、あんな大人にはなりたくないぜ」って顔してました。

そんな思いをラジオで喋ります。

大晦日のひと時、暇すぎて死にそう、一人ぼっちで寂しい、旦那が浮気をしているかもしれないが決定的な証拠が掴めず、興信所に調査依頼をしようか迷っている若奥様など、こぞって聞いてくれたら嬉しいです。

それではみなさん、良いお年を!


12/27 2000万ヒット御礼

なんだかよく分からないですけど、いつの間にか当サイトのカウンタが2000万に達していました。ありがとうございます。こんなものリロードすればいくらでも増えるんですけど、ひとえにアクセスしてくださっている皆様のおかげです。

2000万といえば途方もない数でございまして、あーもすーもないんですが、単純に考えると1万の2000倍です。それだけの数の女性とおセックスすると考えると、軽く日本全土の適齢期の女性は網羅するわけで、毎晩毎晩が酒池肉林。最後のほうはおセックスに飽きるという前人未到の領域に達すること請け合い。横でマークパンサーが「キツクーキツクー」と言っていてもおかしくないハードさがあります。

ということで、突如、感謝企画といたしまして

「2000万ヒット感謝企画 読者さんの言うことを聞いてみよう!」

と題しまして、今から読者さんの指令のメールに沿って色々とやってみようと思います。日記を書け、でもいいですし、題目を指定してくださっても良いです。その他のことでもいいです。ただし、どう考えてもやれないことなどは軽くスルーするという体術を披露させていただきます。

おそらく全部をやることはできないと思いますが、できる限りやってみます。ドシドシメールお待ちしております。全然来なかったら寝ます。

更新はこの下に追加する形で逐次していきます。

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官能小説を書いてくれ。抜けるヤツ。近親相姦、菊の花、シュークリーム、ストッキング破り、をキーワードで頼む(シャニーさん)

「官能小説:性の放課後ABC」

「私だってエッチくらいしたことあるもおん」

放課後の教室、全校生徒が帰宅した夕陽の中の教室で昌江は呟いた。僕はその言葉に少なからず動揺し、性への好奇、昌江への恋心、彼女の言葉に対する驚き、そしてまだ早いという意味不明な葛藤が入り混じり、なんとも言えない表情をしていた。

「エッチしたことあるの・・・?」

かなり裏返った声で言っていた。

「うん、お父さんと・・・嫌だったんだけど・・・」

あの紳士っぽいお父さんが、昌江を毒牙に・・・。実の親子じゃないか。そんな、そんなことが許されていいのか。

激しい怒りと共に僕の股間は怒張した。お父さんの逞しい肉棒が昌江のアソコに・・・思いが爆発し、僕は昌江に襲い掛かった。

「ダメ!」

そんな言葉も届かなかった。

「昌江!昌江!」

嫌がる昌江を抑え付け、黒いストッキングをビリビリと破った。

「もう濡れてる・・・」

「ばかぁ」

観念したのか、昌江は目を瞑り、すっと唇を差し出した。僕はその華奢で可憐な唇を、まるで清らかなものを汚すかのように貪った。スイカを食べるように荒く激しくキスをした。

ぶちゅ、ぶちゅるるるる、ぷはあ

「健太郎のも口でしてあげるね」

僕のブリーフを脱がすと、その頼りない肉棒をそっと口に含む昌江。それと同時に電撃が全身を駆け巡り、足をピーンと突っ張ったまま動けなくなってしまった。

「もういってしまう!」

お父さんと比べて僕のは大きいのだろうか、お父さんより早かったら恥ずかしいんではなかろうか。そんな思いが駆け巡る中、僕はその快楽に身を任せ、体内に詰まっていた欲望を昌江の口に放出した。

ドパァ

ムンとした匂いが教室中に立ち込める。遠くでカラスが鳴いていた。僕のあそこは出したばかりとは思えないほど元気になっていた。

「健太郎なら・・・いいよ・・・」

彼女はそう言うと、股を開脚したまま床に寝そべった。破れたストッキングがなんとも卑猥で、昌江の大切な部分を隠したり見せたり、その貝の具のような生殖器を僕はずっと眺めていた。

「実は初めてなんだ・・・どうしていいのか分からなくて・・・」

正直にカミングアウトした。

「いいの、健太郎の好きにしていいの」

その言葉に心底安心した。

しかし、気が動転してしまい、何をしていいのか分からなかった僕は、手近な座席に置いてあった菊の花を茎ごと昌江の陰部に突き刺した。

この菊の花は、昨日事故で死んだ鈴木の席に一輪だけ置かれていたものだったのだけど、まさかこんな形で役に立つとは。ありがとう、鈴木。

「菊の花!いいの!きくうううううううううううう」

ちゅくちゅく

菊の花の茎に興奮したのか、昌江は一人で喘ぎはじめた。茎をシフトレバーのように揺すっては未確認の生物のような鳴き声を教室中に響かせた。

「もっと!もっと!菊の花をもっと!もっとおおおおおお」

しかし、そんなこと言っても鈴木の菊の花はもうない。もっとクラスメイトに死んでもらわないと彼女の欲求を満たせない。気が動転した僕は教室を飛び出し、学校前の駄菓子屋でシュークリーム食って帰った。

夕焼けで空が真っ赤だった。

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フォント弄りで文章を書いてみてください。お願いします。
してくれなきゃちんぽくたんでオナニーします。(19歳大学生さん)

ずいぶん前の話なんですけど、京都にいったときに北大路のビブレっていう場所にいったんです。

ビブレですよ、ビブレ。

そこではなんかビンゴ大会みたいなのやっていたんですけど、なんだかだれでも参加できる様子。僕も早速カードを貰って参加することにしました。

会場には100人くらい人がいて、前方のステージでお姉さんがボールをゴロゴロやっていて抽選していました。で、会場の後ろでその様子を見ていたのですけど、、、

なんだかお姉さんがカワイイんです!

まさかビンゴの景品がお姉さんと一夜を共にするとかだったらどうしようとワクワクしていたのですが、普通に考えてそんなことありえませんよね。でもドキドキしながら抽選を持っていたのです。

そのうち会場のあちこちからリーチの声が聞こえてきて、僕も興奮のるつぼだったのですけど、なんだか自分のカードを見てみるとビンゴしてるんです。

「び、ビンゴ」

内緒の借金の話を親にする時みたいなか細い声で言いながら手を挙げました。

「あらー、ビンゴでましたね、どうぞ、前のステージまで来てください」

思いもよらぬことを言われて戸惑ったのですが、あのかわいいお姉さんを近くで見ることができる、と恥ずかしながらもステージに上りました。で、かなりカワイイお姉さんを間近で見たのですけど、すげえ化粧が濃い

間近で見ると修復に失敗したクレオパトラの絵みたいなお姉さんでした。夢破れた僕は、ビンゴの賞品を貰ったのですけど、なんとその賞品がでかい椅子。真ん中にサッカーとか英語で書いてありました。

「今日はどちらからこられたんですかー?」

間を繋ぐようにクレオパトラが訪ねてくるんですけど、なんか京都なのに「広島から来た」とか言ったらお姉さんも会場の人もひいてしまうと訳の分からない心配をしてしまい

「近所から来ました」

とか、何の得にもならない嘘をついてました。よせばいいのにクレオパトラが詳細に

「へえ、近所!具体的にはどちらから?」

とか、アバズレの癖に聞いてきやがるものだから、そんなビブレの近所の地名など分かるはずもなく、

「えっと、あの、の近くです!」

とか、暇さえあれば写るんデスのパッケージを電池が露出するまでバラす人みたいな頭のおかしいことを口走ってしまい、会場の100人近い人の失笑をかっていました。

ビンゴで貰った椅子というかチェアーですが、あまりに重かったので捨てました。

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初めまして。次のキーワードを使って文章を書いて下さい。
・もしかしてダチョウクラブ?
・そこはダメだよ・・・。
・あ、叶姉妹だ!
・そこで私は脱いだ
・やればできるは魔法の合い言葉
・文字化け
以上です。
題名は「ひょっとしたらワサビ」で御願します。(匿名さん)

「ひょっとしたらワサビ」

じいちゃんが残してくれた遺品を片付けていたら、小汚いわら半紙が出てきた。初七日も終わり、家族みんなが葬式疲れを癒してる中、大のおじいちゃんっ子だった僕は、なんだか実感が沸かず、一人でゴソゴソやっていた。そこに出てきたのが古めかしいわら半紙だ。

あー、爺ちゃん、こういうわけの分からない古本だとか骨董品を買い集めるの好きだったなー、とわら半紙を拾い上げて読んでみると、そこには何のためらいもなく「宝の地図」と書かれていた。

宝の地図には、文久42年にキリシタン弾圧を恐れた宣教師が金銀財宝をある場所に埋めたと記されていた。地図はところどころ破れているが、どうやら栃木の山奥のあたりを指しているようだった。そして、その横には、宝のありかを示す暗号が書かれていた。

・もしかしてダチョウクラブ?
・そこはダメだよ・・・。
・あ、叶姉妹だ!
・そこで私は脱いだ
・やればできるは魔法の合い言葉
・文字化け

なにを示す暗号なのか分からない。それにしてもこの文章を文久42年の人々が書いたのだろうか。

とにかく、僕はおじいちゃんの遺志を継いでこの宝を見つけなければと思った。じっちゃんの名に賭けて!

博史の戦いが今始まる!

「ひょっとしたらワサビ-第一部完-」pato先生の次回作にご期待ください。

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マイ芸能人ランキングの更新希望(気さくにさん)
左のマイ芸能人ランキングを100位まで伸ばしてください。伸ばしてくれないと年が越せません。(バルサさん)

やってましたが、重くなるので元に戻しました。

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携帯で見やすくしてよ(初めてなのさん)

勝手に転載されとるのでこちらでどうぞhttp://fhp.jp/pato/

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patoさんは「ろじっくぱらだいす」のトップ絵募集に応募したそうですが、よろしかったらどんな絵を応募したのか教えてください。(気さくにさん)

はい。確かに応募いたしました。僕なりに、何度も書き直して会心の作を送った自負があったのですが、残念ながら選から漏れてしまったようで、ろじっくぱらだいすさんに掲載されることはありませんでした。

少し僕も、ろじっくぱらだいすさんのサイトカラーに合わないトップ絵かな?とも思ったのですが、ちょっと自分の画力に酔っていたというか、誰かに力作を見せたかった、それよりこれを世間に発表したかったという想いが抑えられなかったこともあり、勢いあまって応募してしまいました。

萌える絵をコンセプトに描いてみたのですが、若干着色に失敗した部分もあるのですが、どこに飾っても恥ずかしくないトップ絵であったと思います。自分的には、CGを描く機会は数多くあるのですが、この作品を機会に写実派から印象派に変わったような、個人的なルネッサンスを感じた印象深い作品であり、少なからず僕の芸術家人生の中で分岐点となりうるターニングポイント的な作品であったと思います。

絵画などの多くは、作者が生存中は正当な評価が得られず、死後に評価されることが多いと聞きます。きっとこの作品も僕の死後に大きく評価され、様々なサイトで飾られるような、そんなトップ絵の代表格になるのではないかと思っています。

今ちょっとフォルダの奥底を探していたら、その思い出深いトップ絵が出てきましたので、いい機会なのでここに飾っておきます。

相当サイズがでかいのでこちらからどうぞ

僕はまだ諦めていません。そのうち飾られるはず。

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さて、宴もたけなわとなってまいりましたが、仕事に行かなければならない時間になってしまいました(現在AM4時)。ということで仕事に行ってきますので、続きは帰宅してきてから。職場からは更新もできないしメールも受け取れないのです。

今来てる要望の一部

・オナニー耐久(やっても伝えようがない)
・顔写真アップロード
・吉野家で暴れる(逮捕されます)

などがあります。本当に酷い。文章を書く系のお題の少なさに少し侘しさを感じますが、夜から引き続き頑張ります。

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ラップぽい歌詞を書いてください。お願いします。(ログさん)

お見舞い word by p.a.t.o

ダチがバイクで事故ってよ(YO!YO!)
脚の骨折って 入院 入院 (New In!)

メロン持って見舞い行ったら
ヤツはドロンと脱走中(鎖をひきちぎれ!)

YO!YO!悪そうなヤツはだいたい友達(体調が)
YO!YO!悪そうなヤツはだいたい友達(体調が)

OH!世界!爽快!愛生会、招き猫の目も光る(http://www.aiseikai.or.jp/)
おれたちゃ間違いなく精神科
クソったれな社会にパンチしようぜ(CTスキャン)

ダチが肝臓いためてよ
黄色い顔して入院 新たに New In(New In!)

小松菜持って見舞いに行ったら
ヤツはオナニー コマッタナ!(火を起こす原始人みたい!)

YO!YO!悪そうなヤツはだいたい友達(体調が)
YO!YO!悪そうなヤツはだいたい友達(頭も)

OH!世界!爽快!愛生会、welcone(http://www.aiseikai.or.jp/)
おれたちゃ間違いなく精神科
クソったれな社会にパンチしようぜ(ナースセンター)

OH!世界!爽快!愛生会、目が痛い(http://www.aiseikai.or.jp/)
おれたちゃ間違いなく精神科
クソったれな社会にパンチしようぜ(ナースセンター)

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日記を[全部関西弁][w多用]で書いてください。(気さくにさん)

人生を一発大逆転したろ、思って毎週ロト6を買ってますねんwまあ当たらへんけどwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
職場近くのコンビニの横に宝くじ売り場があるんやけど、ロト6の抽選日になってる木曜日はめちゃくちゃ混んでるねんのなwwwwwww

昼休みなんて薄汚いオッサンたちが列を成してて、見てて可哀想になるくらいモゾモゾしながら好きな数字を6個選んでんねん。正江の誕生日は14日だから14にしよう、とかマークシート塗りつぶしてんのwもう見てらんないwまあ、ワイもその列に混じってモゾモゾと並んでるねんけどなwwwwwwwバロスwwwwwwwwww

この間も寒い中並んでモゾモゾとマークシートを書いてたんですけど、ワイはロト6に夢を賭けるロトの勇者じゃーって勢いで書いましたねん。したら、そこにくたびれたオッサンがやってきましてな、何をトチ狂ったのかマークシートを鷲掴みで数十枚持って書いてますねん。ワロスwwwwwwwwwwおっちゃん取りすぎやwwwwwwwwwww

マークシート1枚で5口分、全部で1000円分買えるんやけど、そのおっちゃん10万円分買いそうな勢いで書いてるんですわwwwwwwwww

おっちゃーん、買いすぎやでーw

て言おうかと思いましてん。でもな、買う量は人の自由ですやろ、人がいくら買おうがいくら失おうが、ハッキリ言って対岸の火事ですやん?難波とか超都会でっせ。阪神最高でっせw

おっちゃんな、一生懸命マークシート塗りつぶしてな、券買うのに必死やねんや。言うたら一生券命や。上手いこというたやろ、ウケるわwwwww

でもな、おっちゃん、何を血迷ったんか選んだ数字と共にご丁寧に「取り消し」の欄も塗りつぶしてんねんやwwwありえへんやろーwせっかく書いて取り消してどうすんねんwwwそら海遊館のジンベイザメも死ぬわwww意味ないやんか。ウケるわwタコ焼き食いたいわwww.numeri.jp

オッサン、取り消し塗ったら意味ないどすえ

っていよいよ言ったろうかと思ったねんけどな、言わないほうが面白いやん?梅田やん?心斎橋やん?ソ連やん?だから黙って数字選ぶフリして成り行きを見守ってたんでゴワス。

結局な、受け取った売り場のオバちゃんもビビルわってくらいワークシート書き上げはって、30枚くらいあったんやけど、3万でっせ?もうかりまっか?ぼちぼちでんなwそんな金あったらミナミで飲むわwww自分、おもろいなーwwwww

せっかく頑張って書いたのに、取り消しを丁寧に塗ってるもんだから、全部パーでんねん。アホちゃいまっせ、パーでっせwwwwwww

売り場のオバちゃんもご丁寧に全部機会に通すんやけど、取り消しなもんだから販売金額がずっと0円でっしゃろ、そらウケるわ。ブホッってなったわwwwwwwwwwww

「あら、0円だわ」

「あれおかしいな」

おっさんすげー汗かいてんねんな。笑けるわwwwwww

毎週木曜日のロト6売り場はロトの勇者が集うルイーダの酒場でっせ、みんなももっと買ってみようや。やっぱ世の中金やでwwwwwワロスwwwwwww

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Numeri公式ソングの配信開始。確か10曲くらいあったはず。お願いします。(蟻酸さん)

容量の関係もあるので、とりあえず1曲だけ。恋はズンドコを歌詞と共にどうぞ

恋はズンドコ〜ドス恋LOVE〜  
word by pato/music by リーダー

濃い恋よ来いなんて いつも嘆いたりするけど
故意に恋に恋してる 受身な自分 ダメだよね

欲しいなら自分から動きださなきゃ ぶつからなきゃ
恋のテッポウ 恋のツッパリ ぶちかまし
いつだって真剣 ガチンコよ(Yo!チンコ!)

フンドシ締めて さあいこう
恋の土俵に待ったなし 待ったなし 待ったなし

はー!もっこす ドス恋 女は度胸
はー!もっこす ドス恋 男は根性
恋はズンドコ ドンドコ どこまでいくの
巡り巡ってドス恋LOVE (Ya!)

恋はいつだってActionとReaction
だけどCautionいつだってRation
夜明けのStationアナタとPassion
もうとまらない 絶え間ぬLOVE Motion
Do・Su・Ko・I LOVE

カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモン
カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモン
カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモン
カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモンベイベー

(Yo!チンコ!)(Yo!チンコ!)(Yo!チンコ!)

カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモン
カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモン
カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモン
カモンカモンカモンカモンカモンカモンカモンベイベー

ワタシの恋模様 ごった煮ちゃんこ鍋

はー!もっこす ドス恋 女は度胸
はー!もっこす ドス恋 男は根性
恋はズンドコ ドンドコ どこまでいくの
巡り巡ってドス恋LOVE (Ya!)

http://www.numeri.jp/koizun.mp3

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ポタさんいつも楽しく見ています。
指令です。
コンビニでとりあえず生卵を買ってチンしてもらってください。それかから揚げ君を買って「もう一度あげてください」といってみてください。ポタさんならできるはずです。(気さくにさん)


うん、ポタさんならきっとやってくれると思うよ。ポタさんなら。-------------------------------------------------

上戸彩とサントスが力を合わせて宇宙怪獣と戦わざるを得なくなるストーリーを教えてください。でないと近所の子供にNumeri宣伝します。(タロウさん)

「アヤあああああああああああああああ!」

そう言い残すとサントスはブラックホールへと飲み込まれてしまった。宇宙船の中、一人残されてしまった私、上戸彩。トップアイドルよ。

最初は単純なCMの撮影だった。宇宙空間で遊泳をしながら、「もしも私が宇宙飛行士だったら」とか言ってサントスと「元気ハツラツ」とやるつもりだった。

初めに、ロケットが故障したのが失敗の始まりだった。そこで流れ着いたのが地球型の惑星だった。そこでは恐竜が暗躍し、まず撮影スタッフがプテラノドンみたいなのに連れて行かれた。ジャーマネもTレックスみたいなのに食われた。

サントスはロケットに詳しいという意外な才能を発揮し、なんとかその星を脱出。スタッフもジャーマネも食われてしまい、もし私が本を出すことになったら誰がゴーストライターをしてくれるの?と心配になってきた。ジャーマネが書いてくれると思ったのに。

でもやっぱりアマチュアはダメね。NASAのプロの人とは違う。サントスのバカが修理したロケットは宇宙空間に出てすぐ壊れた。チョーブルー。

サントスのヤツ、いっちょ前に責任を感じちゃって、黒い顔を真っ青にしながら「ボクシュウリシテクルヨ」と宇宙服を着て外に。なんかガムテープみたいなので修理してたけど、まあサントスならそんなものよね。

けれども、やっぱサントスね、サントスはサントスでヨントスにはなれない。うっかり手を滑らせて宇宙船から離れちゃって、そのままブラックホールに飲み込まれちゃった。

「アヤあああああああああああああああ!」

とか超言われても彩、困る。

彩はこんな広い宇宙空間で一人。どうしよう。彩、困った。

そしたらガオーって大きい宇宙怪獣が出てきて彩、超ピンチ。もうだめ、食べられちゃう、彩の人生もここで終わり!って思ったの。そしたら、

「アヤアアアアアアアアアアアアアアアア!」

とか、ブラックホールに飲み込まれたはずのサントスが!なんで?なんで三都主って漢字なの?

「僕は色黒だからブラックホールも大丈夫だった」

と笑うサントスの歯は真っ白だった。宇宙空間でも真っ白だった。彩も戦う!

こうして彩とサントスは力をあわせて宇宙怪獣を倒したの。元気ハツラツ。
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初メッセージ☆
乙女のようなポエムを一丁!(ふきさん)


[Star*Shine]
バルコニーの窓から見える綺麗な星空
星と星とを繋いで作る 私だけの星座 アナタ座
どうしてそんなに笑顔なの?
どうしてそんない優しいの?

夜空に浮かぶあなたは私だけを見ていて
たまに流れ星の素敵な贈り物
Star*Shine Star*Shine star-jewelry
お願いもう少しだけ アナタ座を見つめていさせて

ひとりぼっちの夜に 空を見上げると
私だけのアナタ座 今日も綺麗に輝いてるよ
遠い星に浮かべるアナタ 遠さが少し悲しいな

夜空に浮かぶあなたは私だけを見ていて
たまに流れ星の素敵な贈り物
Star*Shine Star*Shine star-jewelry
お願いもう少しだけ アナタ座を見つめていさせて
--------------------------------------
芸人クリームシチューのようにNumeriというタイトルを期間限定でいいので改名してください。(おかもとさん)

元に戻しました
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短くてもいいのでラジオしてください(気さくにさん)
クリスマスは女子供禁止でしたのでラジオ聴きたいです(気さくにさん)
ラジオ頼む(山田さん)
名前変えてラジオしてください(腐臭さん)

「酢酸ドキドキ☆レィディオ-深夜のミッドナイトシャッフル-」
放送者 酢酸
放送URL (終了しました)
放送スレ (終了しました)

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ということで謝恩企画は終了!2時間後には仕事行くので寝ます!それでは!今後も酢酸ロマンティックをよろしくお願いいたします!


12/24 ヌメリークリスマス!

今日、フラフラとスロット屋に行って「南国育ち」という台を打っていたのですが、横に座った女性がラモスみたいで、正真正銘の南国育ちじゃねえか、と腰が抜けるかと思いました。

しかも、そのラモスには彼氏がついていて、どうみても麻薬とかさばいてそうな青年が、「いっぱい出たなあ、クリスマスプレゼントだね」とロマンティックなことを甘ったるく言ってました。僕が散弾銃を持っていたのなら間違いなくぶっ放してた。弾が尽きるまでぶっ放してた。

そんなこんなで毎年恒例のクリスマスイブにお送りする「ぬめぱとクリスマスレィディオ2005」です。

「ぬめぱとクリスマスレィディオ2005-泥酔の向こう側-」

放送日時 12/24 22:19〜12/25 02:36
放送URL (終了しました)
放送用雑談スレ (終了しました)
メール送付先 サイト左側下部にあるNumeri-FORMからどうぞ
放送テーマ
恋愛相談室
自分へのクリスマスプレゼント
クリトリス相談室
おもいっきり生電話
サラリーマン川柳
モノマネバトル1000連発
にんとくタンまとめサイト

よく知らない方のために注意しておきますが、いままでに放送テーマに沿った放送をしたことは一度もありません。あまり気にしないでください。

放送を聴くにはどうしたらいいですか、といった質問をよくいただきますが、WinAmpなどのアプリケーションを準備し(WindowsMediaPlayerでも可)、放送開始前に告知されるURLをそこにぶっこめば聴けるはずです。聴いても何も得るものはありません。

ということで聖夜にお送りする「ぬめぱとクリスマスレィディオ」も今年で3回目です。自分へのクリスマスプレゼント、酒、クリスマスケーキなどなどを準備してお聴きください。今年は吐きません。

ちなみにスロット屋のラモスカップルですが、金が尽きたみたいで貸す貸さないですごいケンカをはじめてました。その光景があまりに面白すぎて、これ自体が僕への1日早いクリスマスプレゼントでした。


12/22 イケメンブルース

イケメンは死ねとすら思った。7回死ねと思った。

生まれついた顔の造作だけで周囲からちやほやされ、合コンにいけばモテモテ。あーセックスしてえ、と呟けばデリバリーのピザのごとく粋な女が配達されてくる。イケメンはそんな特権階級だと思っていた。

僕ら非イケメン、いわゆるキモメンからすると、どんな難解な資格をとっても彼らには勝てない、そう思っていた。僕らはコンビニでお釣りをもらう時に女性店員が手を添えて渡してこようものなら「こいつ、俺に惚れた?」と思うほどウブでドリーマーなわけだが、イケメンはお釣りを渡される時に悪くてキス、標準でセックスくらいのことが女性店員からなされると本気で信じていた。

イケメンに生まれるのと非イケメンに生まれるのとでは、プロ野球で言えば開幕から50ゲームくらい離されている状況、Jリーグで言えば開幕した瞬間にJ2落ちしていた状況くらいの違いがあり、どうあっても埋めることができない差異が確実に存在すると信じ込んでいた。

例えばもし、僕が、今流行の「地元じゃ負け知らず」とか井の中の蛙的なことを平然と唄ってのけるグループ、山下君と亀頭君だっけか、彼らみたいにイケメンだったとしたら、それはそれはバラ色の人生で、たぶんパソコンの前に座って文章なんて書いていない。1万歩譲って書いてたとしても、その辺で拾った女にフェラさせながら書いているに違いない。それくらいに大きな違いがある。

けれども、現実は悲惨なもので、常に思いは届かない。戦争が起こってイケメン狩りが中国軍の手によって行われ、必然的に僕よりイケメンがいなくなる、もしくはイケメンだけに感染するウィルスがマッドサイエンティストによって開発され、僕よりイケメンがもがき苦しんで死んでいく。そうすれば必然的に僕が最高峰のイケメンになるじゃないか!とも本気で思ったのだが、そうするとこの世に誰もいなくなりかねないので、できればそこそこ僕よりイケメンくらいは生き残らせてやって欲しいと神様に嘆願しよう、といつも来るべきXデーの到来に対する準備を忘れない。

僕ら非イケメンは、夢を持てと励まされ、夢を持つなと笑われ、毎日夢の中から目が覚めるかのように、オナニーに励まされ、エロ本を買って笑われ、毎日エロい夢から目が覚めるのだけど、まるで時給780円のバイトに勤しむかのように熱心にオナニーに励んでいる。雨の日も風の日も雪の日も、まるで大宇宙からの命令に従うかのようにオナニーに励み、まさに精を出すの言葉がピッタリ。イケメンにはそんな苦労ないと思ってたし、オナニー?なにそれ?と言われるのが関の山だと思っていた。こっちはやりすぎてヒリヒリするくらいなのに。

何不自由なく生まれ、オナニーに一生懸命になることはない。何も苦労することないイケメン。僕は彼ら特権階級のことをそう思っていたのだけど、ところがどっこい真実は違っていた。今でも忘れない、あの事件がきっかけで考えを改めることになったのだ。

見るもの全てがピンク色で、世の中の万物全てが性的でエロティカルなものに見えていた高校生時代。僕らは滾る血潮の全てをオナニーにぶつけていた。さすがにオナニーしすぎでバカになるんじゃと心配したことも、雅子様でおオナニーを致してしまって激しい自責の念に襲われたのもこの時期だった。

高校生ぐらいの自分というのは、様々な面で自分および周囲の人間をカテゴライズしてしまう時期で、僕らのクラスもガリ勉グループ、イケメングループ、非モテお笑いグループ、オタクグループ、不良グループなどと男子の間で自然と階級社会が出来上がっていた。

休憩時間などはこの階級制度が顕著で、ガリ勉グループは休憩時間も勉強に勤しみ、オタグループはさくら大戦などの話題に花を咲かせる、イケメングループがファッションの研究やらをしてる横で、非モテお笑いグループが「フェラってどんななんだろう」とゲハゲハと笑う。そんな平和な光景が当然の如く広がっていた。

特に非モテお笑いグループとイケメングループの対立は激しく、まるで東西冷戦を思い出させるような殺伐とした雰囲気がクラス内に蔓延していた。オタグループやガリ勉グループは我関せずといった感じだったが、この2つのグループは激しく互いを意識していた。不良グループにいたっては怖くて関わりたくなかった。

当然、非モテお笑いグループに属していた僕はイケメングループのことを良く思っていなかったのだけど、そのイケメングループの中に一人だけ目を見張る人物がいた。

彼はイケメングループの中でも一際イケメンで、ジャニーズなどでも通用するんじゃなかろうかというほどに美男子。僕も同性でありながら「こいつの乳首くらいなら舐めてもいい」と思うほど整った顔立ちをしていた。

そんな彼とある日学校帰りに一緒になったのだが、帰りの道中で話をする中で僕はある種の衝撃を受けることになった。

クラス内では冷戦状態にある2つのグループに属する僕ら、会話の内容もどこかぎこちなくチグハグな感じがするのだけど、次第に打ち解け、いつしか僕らはグループのイザコザとは別次元で熱く夢を語りあうようになっていた。

「俺はさ、1日に25回くらいオナニーしてみたい、いつかやってみせる」

僕が熱く夢を語ると、イケメンの彼は激しく笑った。

「すげーオナニー25回なんてありえない、マジ笑える!」

熱い瞳で真剣に夢を語る人間を笑うなど、普段の僕なら激怒もの。しかも相手がイケメンであるならば、それこそ、その辺の側溝に叩き落してやるところなのだが、腹を割って話し合ったからか、そんな気持ちは微塵も感じなくなっていた。

「こんなに笑ったの久しぶりだよ!お前面白いな!」

僕は笑わすつもりで言葉を発していなく、あくまでも真剣で大真面目に語ってるのだが、彼はよほど人種違いの僕の話が新鮮だったのだろう。綺麗な顔を歪めて大笑いしていた。笑うとさらに爽やかでかっこよかった。

「あーすげえ笑った」

今思うと、イケメンが非イケメンのオナニー談義を大笑いして聞く、という完全に見下された絵図で、訴訟も検討する段階にあるのだけど、不思議と不快感はなかった。なぜなら、その後に彼もまた自らの夢を語ってくれたからだ。

偉い大人たちが夢を持てと子供に言う、その半面で夢を笑う風潮がある矛盾の世の中、夢と現実の境界みたいな薄ぼんやりとした世界。ちょうど進路のこととかリアルに感じ始めた僕らにとって、夢を語るという行為は少し気恥ずかしくて、なんだか犯してはいけない罪を犯してるとすら感じていた。そんな中で、僕の「1日にオナニーを25回してみたい!」という夢に対して彼もまた夢を語ってくれたのだ。

「俺は、クラスの女全員とやる、やってみせる」

衝撃だった。

後頭部を鈍器のような物で殴られたような、そんな鈍い衝撃が僕の頭の中を駆け巡った。こんな田舎町の片隅に、このような野心を持った男がいたのかと、こんな男が野に埋もれておったのかと。それ以上に、オナニー大好き童貞の僕にとって、クラスメイトが既にセックス的なことに手を染めてるという事実が、気恥ずかしいやら歯がゆいやら、なぜかくすぐったいやらで、色々な感情が入り混じってブサイクな顔をさらにブサイクにしていたと思う。

クラスの女全てを手に入れる。これはヨーロッパで言うところの全土統一に近いものがある。そう、全てを手に入れし選ばれし者。男なら誰しもが思うことだろうし、僕だって恥ずかしながらクラス中の女が僕にメロメロという妄想をしたことがある。彼はそのイケメンに絶対的な自信を持ち、僕ら非イケメンでは妄想どまりでしかない野望を平然と口にしたのだ。

「もう既に何人かは達成済み。○○と○○と○○はやった。あ、○○も」

うちのクラスはちょっと女子が少なく、15人ほどがいたのだが、その中でもカワイイさで上位4名には入る女子の名前が達成済みとして挙がった。秘かに好いていた女子の名前が挙がったときはどうしようかと思ったけど、別に僕の力じゃどうしようもなかったのでグッと涙をこらえ、彼の壮大な夢の話に聞き入っていた。

「近いうちに5人目も達成できるはず。夏休みは一気に進める予定だしね」

そういう彼の顔は野球選手に憧れる少年のように光り輝いていた。ドブ川の水面に反射した光が眩しく、その光の中で彼の整った笑顔がさらに輝いて見えた。

それからしばらくして、夏休みも終わり、またもや学校帰りの道すがらで彼と一緒になった。

「どう、オナニー25回達成できた?」

「いや、どうしても20近くなると自己嫌悪に陥ってしまう」

「ダメだなあ、俺なんて10人目まで達成したぜ!」

恐ろしいことに、既に彼はクラスの女子の2/3までを手中に収めていたのだ。

全然関係ない余談になるが、僕が新しい携帯を買った時、機種の表面に2/3と刻印されていて、ずっと何のことだろうと悶々としていたことがある。2/3の出来の携帯だから安いのだろうか、2/3しか音声やメールが伝わってこないのでは、と本気で悩んだのだが、どうやら「WIN」という文字を縦に読んでいたらしい。本当に関係ない話で書いてて自分でビックリした。

話を戻すと、彼は着々と夢の達成に向けて歩んでいた。僕も彼に負けないように自らの夢を達成しようと頑張ったが、どうしても20回の壁が破れなかった。不甲斐ない自分への怒り、焦り、不安、そして涙。そんなものは全くなくて、授業中に後ろの席からクラスを見渡し、この女子の2/3は彼の毒牙にかかってるわけか、と想像すると悲しくなるやら興奮するやらで大変なことだった。

それからさらにしばらくして、彼は別のクラスの不良に呼び出されてボロボロに殴られリンチされたらしいという噂を聞いた。なんでもその不良の彼女に手を出してしまったらしく、それで報復を受けたのだ。おそらく、その彼女ってのがうちのクラスにいて、目的達成のために手を出したのだろう。なんかシップ薬みたいなのを綺麗な顔に貼っていて痛々しかった。

そんな痛い目にあっても彼の挑戦は終わらなかった。目的達成に向けてクラスの女子を口説きまわる。手に入れた後の女子が奮起して修羅場みたいなのが展開しても気にしない、とにかく彼は頑張っていた。

そして、いよいよ彼の夢が達成される日がやってきた。

その日は、普段はグループが違うのでクラスでも話さない僕らだったが、あまりの興奮からか、彼は僕の席にやってきて饒舌に話し始めた。

「おい、いよいよラスト一人になったぞ!週末に達成するために今日からモーションをかける。長かった戦いも今日で終わりだ!」

彼の目は輝いていた。

「すごいな!で、最後の一人は誰だよ?」

「んーと、吉田」

衝撃だった。

こういっちゃ何だけど、吉田はクラスナンバーワンのブスで、ブスオブブス、人外魔境と呼ぶにふさわしい容姿の持ち主だった。おやおや、夜は墓場で運動会ですかな、と言わずにはいられない、そんな娘だった。その彼女が最後に残っている、最終兵器の如く残っている。それでも彼はその歩みを止めようとはしなかった。

クラスの中で修羅場を演じ、不良に殴られ、ファイナルウエポン吉田にまでモーションをかける。何が彼をそこまで駆り立てるのか知らなかったが、全ては彼自身が決めた「クラスの女子全員とやる」のためだった。一歩一歩、吉田に向かって歩いていく彼の姿は死地に向かう兵士のようだった。そう、死ぬと分かっていながらも笑顔で出兵していくしかなかった兵士のように。

僕ら非イケメンたちは、容姿が不自由というハンディキャップを背負い、何かに従うかのようにオナニーに明け暮れている。それと同じように、イケメンはイケメンでイケメンという業を背負っているのだ。そう、彼の背中からは「イケメンとして生まれたからには全ての女を抱かねばならない」そんなオーラがビシビシと感じられたのだ。僕らがオナニーに明け暮れるかのように、彼もまたセックスに明け暮れているのだ。

そして、どんな人外魔境であっても抱かねばならない。それがイケメンとしてのプライドなのだ。イケメンとして生まれたからにはどんな女でも抱く、自分の好みで抱く女を選んでるうちは本当のイケメンじゃないよ、彼の背中からはそんな声が聞こえてくるかのようだった。

イケメンはイケメンで大変なんだな、必死でスカッドミサイルみたいな顔した吉田を口説く彼を見て、僕はそう考えを改めたのだった。

結局、彼のチャレンジは、数日後にブス吉田が発した言葉である「んー彼、あんまりタイプじゃないし」という言葉と、今にも自殺しそうなイケメンの青い顔によって、吉田がまさかのストッパーぶりを発揮したことが判明してしまい、失敗に終わったのだけど、ブスほど選り好みしやがる、それもかなりの高い基準をしてやがるという新たな教訓を得た。

失敗に終わった彼のチャレンジだったけど、それに勇気付けられた僕は、その後に25回を達成することになり、自分への大きな自信へと繋がることになった。

今日も職場でオナニーし、窓から見える青い空を眺めながら、彼は今もどこか遠い空の下で夢を抱き、人外魔境を抱いているのだろうか、と思いを馳せる。僕はオナニーしてるよ、君はどうだい?あの日夢を語り合ったドブ川の水面の光を思い出しながら、彼の輝いた笑顔を思い出すのだった。

イケメンは死んだらいい、ただ、彼のようなイケメンの使命を理解している本当のイケメンは生きていてもいいかなと思うのだった。あと、美女にも同じ使命があるので忘れないでください。使命を背負った美女の到来、それが今の僕の夢です。

12/19 クリスマスなんてね

業務上どうしても必要だと言われたので、いやいや甲種危険物取扱者という資格を上司命令で取らされることになったのですが、恐ろしいことに「この一冊だけ!甲種危険物合格!」という本をアマゾンで買った時点で大満足してしまい、1ミリも勉強しないというチキンレースみたいなことをしてしまいました。まさか「この一冊!」だけど、本当に1冊を買った時点で終わるとはね。

もちろん、試験自体は問題の内容を吟味し、正解を導き出すといった古代から続く試験の基本的スタイルからは大きく逸脱し、主に出題者の心理を読むのに終始しておりました。

5択の選択式試験だったので、「そろそろ4番が来るだろう」「ここは2番を2回連続させてくるはず」「まさか3連続で5番はないよな、それ以外だ」といった、休日たびに競馬新聞に赤ペンでチェックを入れるオッサンに近い状態になっておりました。最後のほうはあまりに1番が少なかったので何個か1番に書き換えていました。

2時間半の試験時間など必要なく、35分で退室するという戦国武将のような勇ましさを発揮したのですが、それでも人間ってのは面白いもので、もしかしたら合格してるかもしれない、という根拠不明の機運が徐々に高まってくるのです。

ロト6で1等が当たるなみの幸運がないと合格しないのは分かりきってるのですが、なぜか合格してると信じこむ僕。これだから人間ってヤツは面白い。

で、そんな僕の元に合否通知みたいなのが届いたのですが、ドキドキしながら糊付けされていたハガキをめくると

「不合格」

の勇ましい文字。相撲取りみたいな猛々しいフォントで書かれてました。なにもこんな力強いフォントで書かんでも、もっとミステリーっぽい弱々しいフォントで書いてくれよと思ったものでした。

さて、上司命令で取る必要に迫られた資格試験に見事失敗したわけで、明日は夜の会社窓ガラス壊して周りたいところなのですが、刑事事件に発展しそうなのでここはグッと堪えて、きたるべきハッピークリスマスに向けて心ワクワク胸ドキドキな気分になりたいと思います。

ということで、毎年恒例ですが

「ぬめぱとクリスマスレィディオ2005」

放送日時 12/24 22:19〜12/25 02:36

毎年恒例の、潰れるまで酒を飲みながらのネットラジオ放送を行います。今年は吐くのか、今年は泣くのか、ものすごい愚痴が飛び出すのか、こうご期待です。

街は夜毎のクリスマス、近所のコンビニの店員がサンタ衣装を着るという暴挙に出たのですが、そこに最近配備された新人バイトがいて、こいつが女でありながらマッチョっぽい体型で、古のあの人を思い出すのだけど、その彼女が担当するレジにネット料金の払い込み証を持っていったら、領収書を渡すために払い込み証の右側を破らないといけないんですけど、彼女が破ろうとしてるのに全然破れない、うんうん力を入れるマッチョサンタ女、で、あまりにパワフルなためか、払い込み証全体だビリビリビリビリと真っ二つに破れてしまって、破壊神橋本が蘇ったような錯覚を覚えました。とんだサンタがいたもんだぜ、と僕も笑いを堪えるのに必死でした、といった内容をラジオで喋ります。

カップルで聞くの厳禁。みなさんお酒を用意して聴きましょう。それではよいクリスマスを。

僕は今から夜の会社窓ガラス壊して周ってきます。


12/14 Wの悲劇

patoは激怒した。

職場の社内メール、事務員さんから来た重要書類の督促メールを見て火山の如き怒りに打ち震えた。

「先日お願いした○○○の書類ですが、締め切りはとっくに過ぎています。早く提出してください。部長がものすごく怒ってますw」

おいおい、待てよ待てよと。お前はどういうつもりなんだと。お前は何が伝えたくてこのメールを送ってきたんだと。激しい怒りに自らの腹の中が悶々としたドス黒い何かに包まれるのを感じました。

僕は普段は温厚を絵に書いたような、それこそ現代に生きる菩薩とか呼ばれてもおかしくないんじゃないかと本気で思ってるくらい波風を立てない人ですので、大抵のことなら怒ることなくスルーしてしまうのですが、さすがにこれはちょっといただけないと怒りに打ち震えるしかなかったのです。

提出すべき書類を提出してない、締め切りはとうに過ぎてるぞという督促の部分は仕方ないとしましょう。世界中どこの法廷で争ったとしても書類を提出していない僕が悪い。それを督促するのが彼女の仕事ですから、その部分は諸手を挙げて賛成するほかありません。

しかし、問題はその後に続く部分ですよ。「部長がものすごく怒ってますw」この部分。部長がすごく怒ってるから早く出せよ、と脅迫すれば僕も速やかに、そして厳かに提出するのは過去の事例から判明していますので、そうやって権力を傘に脅迫するのも納得します。しかしながら、どうしても最後の「w」だけが納得できない。貴様はその「w」に何を込めたかったんだと。

そりゃね、僕だって頭の固い団塊世代とかではありませんから、彼女がどういった意図で「w」をつけたのか分かりますよ。おそらく(笑)的な意味合いでつけたのだと思います。例えば、この文章に何もついていなかった場合を考えると

「部長がものすごく怒ってます」

マジで洒落にならないくらい部長が激怒していて、勢いよく斬首されかねない危険なスメルがプンプンしてきます。これでは脅迫に近い行為です。社内の雰囲気を殺伐としたものに変えること請け合い、これを受け取った僕には神妙で沈痛な面持ちで書類を提出する道しか残されていません。

「部長がものすごく怒ってます(笑)」

こうすると、非常にジョークめいた、肌の白い鬼畜米英が好んで使いそうな仕事上のジョークになりえます。おいおいマイケル、そりゃないぜ、といった合いの手がいつ聞こえてきてもおかしくない。何とも和やかで、僕も「こりゃいけねえ」と冗談めいて返すことが可能になります。

具体的に分かりやすく説明すると、カツオが何か悪さしてサザエに「カツオー!」と言われてるうちは笑えるのですが、波平が「バカモン!」と夕食の席で本気怒り始めたらマスオさんの飯もまずくなる、そういう雰囲気だと思います。全然分かりやすくない。

でまあ、彼女もなんとかジョークめいた督促にして、本当は早く提出してくれないと困るのだけど何とか軽やかな雰囲気で促してみよう、そう熟考した上で、(笑)の意味でWを文末につけたのだと思います。

しかしですね、こういった(笑)やらWやらはですね、文章のキツイイメージを柔和にするのと同時にですね、なんだか人を小バカにしたような、そんなイメージにも受け取れることもあるのです。

ここが文章の恐ろしいところで、記載された字面だけではどんな雰囲気とニュアンスで書いたのか伝わらない、物凄い誤解を相手方にされることも往々にしてあるのです。それだけに、誤解を招くような記述はなるべく避ける必要があるのです。

「部長が怒ってますw」だったから良かったものの、これが僕の琴線に触れる内容だったとしたら、例えば、「リストラ要員ですよねw」ですとか「最近、髪の毛が薄くなってますねw」「またエロ本買ったんですかw」だったらどうでしょう、もう僕の心はブロークンハートしてしまい、並々ならぬ恨みの思いを事務員さんにぶつけることになります。

大体、wとかでジョークめいた柔和なものにすること自体が間違ってます。こちとら命がけで書類提出を滞納しているのです。書類の滞納によって立場が悪くなることも、クビになるかもしれないことも承知の上で、それでも全てを賭して滞納しているのです。それを神妙に受け止め、命がけで督促するならまだしも、wをつけてジョークめいた督促にする。この行為自体が、僕に対する冒涜に他なりません。このwは僕の滞納に対する冒涜だ。

とまあ、このように、世の中には(笑)、(爆)、wなどなど、文末につける感情を表す記号に怒り狂う心の狭い人が確かに存在するのです。文章だけのコミュニケーションが発達し、それに伴って発生する感情の行き違いを何とか回避しようと使われ始めた感情表現であると思うのですが、それ自体が新たな誤解を生み出しているという矛盾。この現状を大変遺憾に受け止めております。

そういった現状を打破するため、僕は3年ほど前にある提案をこの日記上で行ったのですが、月日が経っても全く浸透した様子がないのです。全く嘆かわしい。ということで、あえてもう一度同じように提案したいと思います。文章コミュニケーションにお悩みの皆さんがこの方法を活用して魅惑のコミュニケーションライフを送れれば幸いに思います。

さて、それではまたもや事例を見ながらその方法を解説してみましょう。下の会話は友達関係にある男女の一般的な会話です。メッセンジャーかメールで会話しているとお考えください。補足説明としては、男性のほうは友人関係の女性を狙っていますが、女性のほうはその気ではない、という少し切ない設定があります。

男「一人で過ごすクリスマスは寂しいよ(泣)」

女「早く彼女作りなよー(笑)」

男「もうこうなったら誰でもいいw」

女「誰でもいいんだw」

男「おまえでもいい(爆)」

女「ごめん無理w」

非常に感情のやり取りがあり、あまり誤解されない会話であると思われます。もしこれが何も感情を表す記号がなかったとしたら、以下のようになります。

男「一人で過ごすクリスマスは寂しいよ」

女「早く彼女作りなよ」

男「もうこうなったら誰でもいい」

女「誰でもいいんだ」

男「おまえでもいい」

女「ごめん無理」

非常に殺伐とした、今にもストーカー殺人に発展しそうな恐怖すら感じます。「もうこうなったら誰でもいい」なんて犯行予告に近いものがあり、婦女を襲うことすら連想させられます。「ごめん無理」に至っては救いがなさ過ぎる、こんなの受け取った日には自殺してもおかしくありません。

このように、前者の記号は感情の誤解を防止したり、会話の内容を重苦しいものにしないという働きをしているのですが、前述したように、心の狭い人はこの記号があるだけで怒り狂ったりする危険があるのです。「ごめん無理w」なんて受け取る人によっては「お前のような包茎は嫌だぜ!」と被害妄想の塊のような見下された印象を受ける可能性もないとは言えないのです。

そこで再度提案したいのは、動物を使った感情表現です。動物というのは大変素晴らしいもので、普段は鬼のように恐ろしい近所の爺さんでも、猫を見た瞬間に「ミケや〜」と恵比寿の様な顔にする効果があります。これを利用しない手はありません。つまり、感情を表す記号を動物にすることで

男「一人で過ごすクリスマスは寂しいよ(シャケ)」

女「早く彼女作りなよー(マグロ)」

男「もうこうなったら誰でもいい(サーベルタイガー)」

女「誰でもいいんだ(チュパカブラ)」

男「おまえでもいい(ダチョウ)」

女「ごめん無理(タツノオトシゴ)」

男「やっぱりダメかあー(ヘラクレスオオカブト)」

女「私彼氏いるし!知ってるでしょ(ウーパールーパー)」

男「知ってるけどさあ(押尾学)」

女「ラブラブなんだから。イブも一緒に過ごすの(ニッポニアニッポン)」

男「そっかー、いいなあー(アゲハチョウ)」

女「だから早く彼女見つけなよ(アネハモトイッキュウケンチクシ)」

このように、非常に感情の起伏に富んだ、それでいて見た人も怒りださない素敵な会話が成立するのです。

ということで、冒頭の事務員さんからのメールも

「先日お願いした○○○の書類ですが、締め切りはとっくに過ぎています。早く提出してください。部長がものすごく怒ってますw」

ではなく、

先日お願いした○○○の書類ですが、締め切りはとっくに過ぎています(ミケネコ)。早く提出してください。部長がものすごく怒ってます(キリン)」

くらいだったら、意図するところも良く分かり、それでいて僕の琴線に触れない、非常にすばらしい督促になっていたのに、そこが残念でなりません。ということで、僕はこの事務員さんへの返信メールで

「申し訳ありません。忘れてました(シャケ)。すぐに作成して提出します(カジキマグロ)」

と返信し、さらには提出する重要書類の「プロジェクト計画書」の文末を

「・・・つまり、本プロジェクトは的確な効果が期待でき、さらには即効性の収益が期待できる。初期投資もさほど必要ないことから、早急にこの種の企画に着手する必要性を感じる(シャケ)」

と書いて提出しておきました。

皆さんも(笑)やらwやら、そんな感情表現は捨てて是非とも動物による表現を使いましょう。

ちなみに、提出書類は何が良くなかったのか思いっきり不採用になってました(オオアリクイ)。


12/08 一生懸命

深夜にNHKを見ていると、ロボコンなる大会の地方予選の様子を日替わりで放送している。僕は普段あまりテレビを見ない人間なのだけど、これが実に面白い。

このロボコンなるイベントは、どうやら理系の学生がロボットを製作してその機能を競う大会で、理系の甲子園とまで言われているらしい。頑張って製作したロボットで平均台やらハードルやらを越え、壁を登ってゴールにバトンを入れる。栄光のゴール、そして国技館で行われる全国大会を目指して理系の学生が頑張っているのだ。

確かちょうど東北地区予選と関東地区予選の様子を見ていたのだけど、ロボットに情熱を賭ける理系の学生らしく、出てくる人々が怒涛の如くオタっぽい。日本のオタクを海外で紹介する場合、この人の写真を使えば一発、といった力強い面々が次々と登場してくる。

最も手に汗握った対戦として僕が一押ししたいのは、確か東北地区予選だったと思うのだけど、どっかの学校とどっかの学校が対戦するカードだった。この競技はロボットを操縦して障害物をクリアする前半部分と自動で動くロボットにバトンタッチしてゴールを目指す後半部部に分けられるのだけど、スタート時点から手に汗握る展開。

なんと、スタートの号砲と同時に両方のロボットが微動だにしないのだ。もうウンともスンとも言わない。1ミリも動かない。ロボットを競わせる競技なのに肝心のロボット様が微動だにせずスタート地点に鎮座、臨界を突破していると言わざる得ないハラハラドキドキの展開。

「さあ、両校ともスタートに手間取ってる!」

と言い続けるしかない実況の人が可哀想になる展開なのだけど、それでも学生たちの表情は真剣そのもの、こちらも熱くなって手に汗握ってしまう。応援する部員とか関係者も真剣で、たとえ微動だにしないロボットであっても全員が真剣に思いを乗せていた。

結果、敗れてしまった学校の部員たちはガックリする。長い月日をロボット製作に費やしたことを思い出し、インタビューに答えながら徐々に感情が高まってしまい、そのうち泣き出してしまう。

「ぐ、ぐやじいです・・・スタート前にギヤが外れてしまって・・・うぐ・・・ひっく」

これがエロゲに感動しての涙だとちょっとどうかと思ってしまうが、ブラウン管に映し出されたオタの涙は間違いなく美しいものだった。暑苦しい汗だったらどうかと思うが、その涙は確かに美しかった。

負けて悔しい。泣くほど悔しい。

その想いから遠く離れてしまって長い年月が経ってしまったように感じてしまう。いつの間にか僕は負けても悔しくなくなっていたし、ましてやそれで涙を流すなんてことがなくなってしまったように思う。

これは別に感情が冷めてしまっただとか、血も涙もない氷の心の持ち主だとそういったことではなくて、単純に泣くほど一生懸命に物事に取り組んでないということだと思う。

負けて悔しくないやつはダメだ。泣くほど悔しいならきっと強くなる。

そんな言葉以前に僕らはいつの間にか勝負という場から逃げることばかり考えるようになってしまったと思う。自分を追い詰めて戦うこともなければ、負けて悔しい思いをするなら最初から戦わない、それがいつの間にか大人としての生き方に取って代わったようにすら感じる。

あまり本気でやってないからね、だから負けても悔しくないよ。

これはただの逃げのポーズで、一見するとクールでドライでカッコイイように思えるかもしれないが、実はこれが一番かっこ悪い。

無様なくらいに一生懸命やればいい。
負けて悔しがるくらい一生懸命やればいい。
泣くくらい一生懸命やればいい。

そんな基本的なことをブラウン管を通してオタ学生から再確認してしまった。彼の泣き顔はそれはそれは物凄かったけど、そこまで一生懸命になれる彼を羨ましいとすら思ってしまった。オタの涙は美しい。それには様々な想いが詰まってるのだから。

深夜にNHKを見て、動かないロボットを見て、オタの涙を見て己の生き様を省みる羽目になるとは夢にも思わなかったのだけど、とりあえず僕も一生懸命になれるものはないかと必死で自問自答してみた。泣くくらい一生懸命になれることはないかと。どう考えても仕事で一生懸命になれるはずもないし、今からプロ野球選手を目指すといっても鉄格子のついた病院に入れられるのがオチだ。

いろいろと考えた結果、どうも非常に不本意なのだけど一生懸命やれるのがサイト運営しかないことに気がついて途方にくれてしまった。このようなクソな文章を書き綴るサイトでも4年もやってきたのだから、これをもっと一生懸命やって悔し涙を流すほどにしたらいいのじゃなかとすら思えてきてしまった。

具体的に言うと、死ぬほど頑張って更新とかして、感想メールで「つまらないです」と忌憚のない意見が送られてきたら号泣する。モンゴルでオフ会をやって誰も来なかったら号泣する。ネットカフェで隣のカップルブースのアベックが「おい、このサイト見てみろって」「なにNumeri?ちょーきもーい」と会話してたら号泣する(実話)。そんな姿勢が大切なのかもしれない。

泣くほど悔しいこと、何も打ち込めることがない日々というのは実に味気ないもので、誰しもが打ち込める何かを持ってるはずだ。それが仕事だったりスポーツだったり趣味のボトルシップ製作だと渋いのだが、サイト運営というのはちょっとアレだが致し方ない。僕は泣いて悔しがるくらいサイト運営を頑張りたいと思う。

そういえば以前に、といってもつい最近の話だが、僕はサイト運営に関連して涙を流したことがあった。あの時の情熱を思い出し、「サイト運営?別に本気でやってないし」と逃げ道を作らない姿勢を心がければいいのではないだろうか。

サイト運営で涙したあの日、僕は「今日こそは日記をアップしなければならない」という熱き使命感に燃えていた。随分とNumeriの更新頻度が下がってしまい、このままではいけないという気持ちと葛藤しつつも、まあ、明日書けばいいか、今日は仏滅だし、とズルズルと引き伸ばしてしまう矛盾のラビリンス。そんな負の連鎖を断ち切るべく、僕はこの日に日記をアップロードすると堅く心に決めていた。

具体的に言うと仕事をサボって日記を書き、さらには家に帰ってすらも日記を書くというスタイル。書ききれなかったのならば睡眠時間を削ることも辞さない構えだった。

ちょうど、確か11月12日付の「魔の郵便受け」というタイトルの日記をアップした日のことだった。想いのほか早く文章を書き上げることができ、あとはネタ画像、主に詐欺的な裏ビデオ通販のチラシ画像をスキャナーで取り込めば作業は終了だった。

なんだ、やればできるじゃないか。今日アップする!と決めたらちゃんとその日にアップできるじゃないか、と少しだけ一生懸命になった自分に少なからず満足していた。

しかし、ここで問題が発生した。

裏ビデオ通販のチラシの取り込みは終わったのだけど、肝となるネット代40円の請求書を職場のデスクの上に忘れてきてしまったのだ。あのクソみたいな請求書はこの日記の核をなす重要な存在、出だしとオチに使っているのだ。これがないとなると構成自体を全て変えなければいけなくなってしまう。

これまでの自分なら、画像が用意できないなら明日でいいや、明日で、とズルズルと引き伸ばし、結果、「早く更新しないと構造計算書を偽造するぞ」と読者の方から意味不明な更新督促メールを賜ることになってしまうのだが、あいにく決意した僕は一味違う。

今日、絶対にこの日記をアップする。

時間は深夜の1時過ぎ。すでに日付が変わっていて「今日アップする」の意味がないのだが、朝を迎えてからアップでは自分的に負けな気がする。絶対に寝るまでにアップする。職場までは車で飛ばして1時間、往復を考えると2時間だ。

僕は迷うことなく車のハンドルを握り職場まで愛車を走らせた。40円未納の請求書を取りに帰るためだけに往復2時間の田舎道を爆走する。1日1往復の通勤ですら体と精神に来るものがあるのに、2往復となるとなかなかキツい。それでも僕は「今頑張ってる!」となんだか見当違いに誇らしい気持ちだった。

真夜中の職場に到着したのは良いものの、電気もつかず漆黒の闇の中にそびえ立っている大きな建物は非常に怖い。時間も丑三つ時、非業の死を遂げた社員の霊とか出てもおかしくない雰囲気。

一瞬怯むものの、それでも奮起する僕。僕はあの40円請求書を職場か奪還しなくてはならない。怖がってなんかいられない。今日中に日記をアップすると決めたのだ。わ、今の僕、すごい一生懸命頑張ってる。

自画自賛で自分に酔いしれたのはいいものの、ここで大問題が発覚。なんと、あまりに急いで職場に来てしまったものだから、職場の鍵を全て家に忘れてきてしまったのだ。忘れた請求書を取りに職場に戻ったら鍵を忘れる。本当にどうしようもないんですけど、まさかまた家に鍵を取りに帰るわけにもいきません。それこそもう1往復追加されてしまって地獄を見ることになる。

こいつは職場に侵入するしかないな。

急遽課せられた職場潜入ミッション。何が悲しくて自分の職場に侵入しなきゃならないのか理解不能なのですけど、今日中に日記をアップロードするためには致し方ないこと。僕は意を決して進入を開始しました。

冷酷に門を閉じ、外部からの侵入者を堅守している門があります。手始めにこれをクリアしないといけないのですが、これは簡単でした。端的に言うと、押したら開いた。ホント、こんなセキュリティで良いのかよ、と言いたくなるほど簡単。

次に建物に到着したら内部に侵入しなくてはなりません。こちらは門と違って堅固に入り口ドアが閉ざされています。しかし僕はいつも1階トイレの窓が開いていることを知っています。残業で遅くなりすぎると入り口ドアが開かなくて帰れなくなることがあるのですが、その場合に使うトイレ窓を今回も有効利用させていただきます。

さて、いよいよ最後にして最大の難関。自分の個室がやってきました。このドアさえ突破すればデスクの上に40円の請求書があり、それをネタに日記をアップすることができません。しかしながら、当然、部屋の鍵も持っておらず、自分の仕事用の個室であるのに入れないという矛盾に苦しみました。

暗闇の中で必死に考えたのですが、どうにもこうにも通気ダクトを利用するしかないという結論に至ったのです。

僕の前任者、つまり僕が来る前にこの部屋を使っていた人は、何に追い詰められていたのか知りませんが、通常の換気扇だけでは物足りなかったらしく、わざわざ業者に工事をさせてでかい通気ダクトみたいなもので個室と廊下を繋いでいたのです。本当になぞなトマソンと化した、今や機器なども外されてダクトだけが残っている状態なのですが、これを伝って部屋に入るしかなかったのです。僕、すごい一生懸命。

廊下の端っこに放置されていた丸椅子を通気ダクトの排出口の下に持って行き、そこにつけられていた網みたいなものを物音を立てないように取り外します。丁度良い按配で取っ手みたいなのがついていたのでそれを握り締めていざダクト内へ。

体がギリギリ入るか入らないかの状態なのですが、なんとか移動できる様子。這うようにして前進して行きます。もう中の埃とか物凄くて、職場に巣くうヌシとかが隠れ住んでいてもおかしくないのですが、携帯電話の明かりを照らしながらゆっくりと進んで行きます。

これ、途中で詰まったら引き返せないし動けない。すごい情けない格好で痛いが発見されて謎が謎を呼んでワイドショーとか来るんじゃなかろうか、と思いつつ埃まみれになりながら前進。それとは別に、いかがわしい本の隠し場所に最適かもしれない、と思いつつ進んでいました。

本当に映画なんかで悪者から逃げる主人公みたいな気分でダクト内を移動し、一人で「クソ!テロリストは何人いやがるんだ!」と己の気持ちを高めつつ移動。なんとか個室内に到着し、個室側の網を蹴破って部屋の中に着地したのでした。

やっと40円の請求書を奪還することができる。日記をアップすることができる。後は家に帰ってこれをスキャニングしてアップロードするだけだ。ああ、僕の最後の果実よ!とデスクの上にあった請求書画像を手にしたその瞬間でした。

バッバッバッ!

まるでサプライズパーティーのように、まるで僕に隠れて誕生日会の準備がされてたみたいに個室内の電気が勢い良くついたのです。

で、個室入り口には懐中電灯を持った警備員さんの姿が。不審な物音を聞きつけてやってきたみたい。

「アンタ、何してんの!」

「いや、ちょっと忘れ物を・・・」

「忘れ物って何よ!どう見ても泥棒じゃない!」

「いや、違うんです。僕はこの部屋の主で、鍵を忘れたから」

「忘れ物を取りに来て鍵を忘れるってアンタねえ!ドロボーじゃない!警察!警察!」

烈火の如く怒ってる警備員さんはたぶんツンデレ。そんなことはどうでも良くて、かなりピンチな状態。あいにく僕は身元を証明するものを何も持ってきておらず、このままではコソ泥の類として検挙されてしまう。

警備員室みたいな場所に連れて行かれたのですが、そこでなんとか事情を説明。真夜中なのに上司に電話してなんとか疑いだけは晴れたのです。というか、うちの職場に夜中でも警備員がいるって知らなかったよ。

40円の請求書を取りに来ましたなんて言うこともできず、2名の警備員さんにサイドバイサイドで、他の人が見たら「彼、自殺するんじゃないの?」と心配されてもおかしくない勢いで説教され、電話口で上司にも死ぬほど怒られ、と僕はあまりの惨状に涙したのでした。あまりに辛辣な警備員さんの言葉に本当に泣いた。

何事も泣くほど一生懸命になれなければダメです。僕は警備員さんや上司に怒られたから泣いていたわけではありません。見つかって説教され日記がアップできなくて悔しくて泣いていたのです。そう、あの時僕は確かに泣くほどサイト運営に一生懸命だったのです。一生懸命やったからこそ、泣く権利があるのです。

一生懸命やるのはかっこ悪い。ムキになると「何熱くなってんの?」と揶揄される。そんなニヒルでクールな風潮が蔓延しているこの世の中。何にも一生懸命になれない人は可哀想な人なのです。きっと、子供の頃はみんな悔しくて泣いた経験があるはずなのに。

仕事でもスポーツでも趣味でも恋でも、不本意だけどサイト運営でも良い。何か一生懸命になって泣く経験をどんなオッサンやオバサンになってもできるようになったら素敵じゃないか、そうロボコンに賭けるオタの涙を見て感じたのでした。僕も自分のできる範囲で頑張ってみる。

今にして思うと、警備員室で説教される僕は埃だらけクモの巣だらけでガックリうなだれてピクリとも動かない、冒頭のスタートから1ミリも動かないロボコンのロボットよりもポンコツだった。そんなポンコツでも頑張って組み上げたのだから、一生懸命頑張るべきだ。


12/2 モンゴル放浪記vol.7 最終回

前回までのあらすじ
自費出版した本を売りにモンゴルオフを開催したら、大変なことに参加人数が0人だった。しかたないので現地人に売ったり、借金して持ってきた金で現地人ドライバーを雇ったりして、ゴビ砂漠の奥地まで本を売りにいった。

途中、全く本が売れず、死ぬほどの大雨や強風、砂嵐に死にそうになる。減った本はウランバートルの古本屋に1冊と夜の砂漠の極寒に耐えかねて2冊の本を燃やしたのみ。残りの本は7冊。といったところで、砂漠の中の小さな集落で村の横綱と相撲をとることになったのでした。よく分からないと思うので詳しくは放浪記1-6を読むべし。過去日記にあります。

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「アサショーリュー!アサショーリュー!」

村の人々の満場の朝青龍コールの中、村の横綱と思わしき恰幅の良い青年と対峙する僕。冷静に考えてみると、日本では夏場所の真っ最中。自宅で「クーラーが効かずに熱い、暑いじゃなくて熱い」と文句の一つでも言いながらスイカでも食ってコーラを飲んで、暑苦しいデブを見て涼しい気分になろうと相撲中継を観ることはあるのかもしれませんが、まさか遠きモンゴルのゴビ砂漠のど真ん中で相撲を取るハメになろうとは。

組み合ってみて改めて分かるのですが、この村の横綱、絶望的に強い。先ほどは小学校低学年程度のガキだったので楽勝だったのですが、さすが横綱、足腰がしっかりしていて微動だにしない。というか、組み合った瞬間に戦闘モードになってるのか、ハフーハフーと野畑を荒らす野生のイノシシみたいに鼻息が荒い。

どう考えても勝てる要素が見当たらないのですが、僕も相撲の国ジャパンから来た刺客という自信があります。こんなゴビ砂漠僻地の村で負けるわけには行かないのです。っていうか、勝ったら感動した群集に本が売れるかもしれない。飛ぶように売れるかもしれない。

そんな想いとは裏腹に、まるで紙でできた人形みたいに軽々と投げられるわけなんですが、横綱がどうにもこうにも止まらない。投げては立たせて、また組ませて投げる、で、また投げる、とまあ、そういった振り付けのダンスみたいな状態になってるんですわ。見紛う事なき死の輪舞曲。

ああ、僕はこんな遠いモンゴルの地で訳の分からない小太りな男に投げられまくってる。もしかしたら本を売るのが目的じゃなくて、最初から投げられるのが目的だったのかもしれない、そう思うほどに投げられまくってました。最後の方は投げられると痛いから自分でジャンプして宙に舞ってた。

あまりの僕の弱さを目の当たりにした群集は、熱烈な「アサショーリュー」コールから徐々にトーンダウン。なんか、一方的な虐殺を見る観衆のような、残酷ショー特有の「うわー」的な薄ら寒い空気が蔓延してました。灼熱の砂漠なのにすごい寒い。

僕が20回くらい投げられた頃でしょうか、そろそろ止めないと車椅子で帰国することになってしまうと思い始めた頃、やっとこさ横綱も満足してくれたらしく

「オツカレサマ」

みたいなことを日本語で言ってくれ手を差し伸べてくれました。相撲が好きなだけあって、けっこう日本語を喋れるみたいです。輪になって集った群集は残酷ショーに満足したのか散り散りに帰っていきました。

こりゃあ、あまりに不甲斐なくて本が売れねえな、と思った僕は、建物の木陰で非常食の韓国製カップラーメンをそのままチキンラーメンみたいにして食ってるサムソンに「次の街へいこうぜ!」と促し、車に戻って出発の準備をするのでした。

「ホン ウレタノカ?」(多分こんなニュアンスのこと)

「売れるわけねえだろ!神風吹かすぞ!」

といった心温まる会話を交わしつつ、次の街に向けて出発の準備を整えていると、ダンダンダン!と車に篭城した犯人を引っ張り出さん勢いで窓ガラスを叩く輩がいるじゃないですか。

おお、まさか先ほどの一番に感動した村人が本を買いに来たのでは!とドアを開けると、そこには先ほど僕を完膚なきまでに投げまくって傷物にした横綱が満面のグッドスマイルでいるじゃないですか。

「サッキハ ゴメナサイ」

とか

「キヲツケテ タビシテキテネ」

とか、僕を気づかって結構流暢な日本語で言ってくるんですよ。さすが横綱だと思ったね。横綱ってのは心技体揃ってないとダメなんですけど、技と体は勿論のこと、彼には心も備わっている。対戦相手を、遠い異国から来た戦友を思いやる気持ちを持っている。なんだか感動してしまったよ、僕は。

「コレ ノンデ クダサイ」

横綱は餞別のつもりなのか、2本の缶ビールを差し出してくれました。こんな砂漠の奥地でも缶ビールを売ってる店があるのかと感心したのですが、さすがに冷蔵とかはされた形跡がなく、缶を触った時点でムワンという暖かい感触が伝わってきました。ホットビール。

遠い異国での横綱との触れ合い。そして、例え冷えていなくてもこの奥地では高級品であろう缶ビールを餞別にくれる気遣い。あれ、ちょっと僕も歳になっちゃったのかな、こんなのでウルウルきちゃって。サムソン、早く車を出してくれよ、別れるのが辛くなりそうだ。

「この本、あげるよ」

本当は売りに来たのですけど、そんなのはもうどうでもいい話で、この遠い地で出会った戦友に僕のぬめり本をプレゼントしようと差し出しました。これが僕にできる最大限のお返しだと思う。この本で日本語を勉強して日本にやってきて是非とも横綱になってくれ、という思いを込めて渡しました。なんたる感動的シーン。この旅で始めての感動のシーン。全モンゴルが泣く感動のシーン。

すると横綱は、

「イヤ イラナイ」

とキッパリと拒否。完全否定。断固拒否。いくら誘ってもアフターファイブの遊びに付き合わない新人類新入社員の如く完全に拒否。おいおい、いくらいらなくてもこの感動の場面では受け取っておいて後でコッソリ捨てるものだろ。コイツには心が備わってない。いらないもので気を使って受け取っておくという心が備わってない。技があって体が大きくてもダメなんだ、それじゃあ。

もういい、とっとと車を出してくれ、といった気分でサムソンに促しましたところ、意味不明にご機嫌なサムソンはバビューンと車を発進させまして、いよいよ次の街を目指して突き進みます。

最後はちょっとムッとしたけど、気づかいありがとうな、横綱。オマエ結構強かったぜ。お前がくれたこのヌルいというか温かい缶ビール、飲まずに大切に取っておくからな。日本に持って帰って皆に自慢するんだ。戦友にもらったビールなんだって。と感傷に浸りながら運転席の方を見ると

プシュ!イヤッホー!ゴキュゴキュ!

とか、もらった缶ビールをサムソンがご機嫌に飲んでました。なんかもう、サバイバル系の映画で謎の怪物によって最初に殺される人みたいに不自然なハイテンションで飲んでました。俺の思い出の品を勝手に飲むな、と怒りたいところですが、それよりなによりいい加減、飲酒運転はやめてください。

ここまで何日間も車による砂漠横断の旅をしてきたのですが、いくらなんでもずっと運転していたわけではありません。疲労だとか集中力とかを考慮すると2時間ぐらいごとに休憩を挟むのが最も適格らしく、本当は僕が運転を変わってあげたら良かったのでしょうが、国際免許を持ってなかったので無免許運転はまずい、となるべくサムソンの連続運転時間が2時間を超えないよう休憩を挟んでいたのです。まあ、そんな配慮どうこうじゃなくて、2時間くらい経過したら酒に酔ったサムソンが見るからに寝そうな状態、俗に言う舟を漕いだ状態になるため無理やり休憩していたのですけど、そんな休憩時の1コマ。

車を降りて、外で体を伸ばしながら死ぬほど見飽きた雄大な砂漠の風景を眺める。砂漠と言ってもこの辺は山に近い地域で、遠くの方には草木が茂ってるが見える。そんなスケールのでかい景色を見ながらタバコをプカーと吸っていると、サムソンが近寄ってきて「俺にもタバコくれ」というジェスチャー。コイツは初日から何本僕のタバコを奪ったら気が済むんだ。

そんなこんなで二人でタバコを吸っていたのですが、どうにもこうにも様子がおかしいのです。何か雨が近づいてきているような、雨と晴れの境界線が近づいてきているような、そんな音が不気味な感じで迫ってくるのですが、なんかその音がおかしい。

最初は、ザザザザザみたいな音が近づいてきて、数日前に体験した、限度を超えた激しい雨によって見える景色全てが河に変わるという悪夢の再来を予感したのですが、その音が近づくにつれて雨にしては暴力的。分かりやすく言うと普通の雨が農民的サウンドならば、今近づいてきているソレは武士的なサウンド。全然分かりやすくない。

「おい、サムソン、また雨が来るんじゃないか」

と口にしたその瞬間ですよ。

ダダダダダダダダダダダ

米軍の爆撃みたいな勢いで空から何か降ってくるんです。その音が間違いなく雨じゃない。それどころか、何者かに鈍器で殴られたような激痛が何度何度も襲い掛かってくるんですよ。

やばい、コレは死ぬと思った僕は急いで車に逃げ込みました。もちろんサムソンも車に逃げ込もうとしたのですが、あまりに慌てたのか滑って転んで半分尻が出てました。

なんとか二人で車に避難し、フロントガラスに打ち付ける謎の物体を眺めていたのですが、これがまた直径5センチはあるんじゃないかというヒョウですよ。こんなもんが凄い勢いで降ってくるんですから、マトモに直撃したら死にますよ。

灼熱の砂漠の暑さや、夜の拷問並みの暑さ、途方もない勢いの雨、そして生水を飲んで激しい下痢、これらにはもう慣れたと言えば慣れたのですが、さすがにヒョウだけは予測してなかった。ウヒョウ!とか言ってる場合ではないですよ、これは。


ヒョウってやつは雨や雪に比べて硬い物ですから地面に当たった瞬間にもう一度跳ねるんですよね。雨なら地面に吸収されたり、雪ならその場に積もったりするんでしょうけど、ヒョウは見事に跳ねる。ふと見た山の斜面が物凄くて、飛来したヒョウがスーパーボールみたいにピョンピョン跳ねながら斜面を駆け下りてくるんですわ。結果、30分くらい降っただけで山のふもとは1メートルくらいヒョウが積み重なる状態に。なんか色々と超越してるとしか思えない。

「たまにこんなのが降ることがある。前はもっと北の方で大きいヒョウが降ってヤギが100頭くらい死んだ」

みたいなことをサムソンが言ってました。

そんなこんなで、桁外れの大自然の驚異に驚きつつ、全く本が売れないまま長すぎるので次回へ続く。

と、いきたいところですが、前回のハリーポッターの日記が死ぬほど長かったらしく、読者様から「長すぎる」「長すぎて途中で断念しました」「死んでください」といったメールが多数寄せられてきましたので、ここは奮起してもうちょっと長く書いてみます。

ヒョウのせいでウヒョウとか言いながら30分くらい足止めされたのですが、なんとかヒョウも止み再出発。次ぎに目指す街はアルタイと呼ばれる若干の都会のようです。地図がある方は調べてもらうと助かるのですが、このアルタイという街、かなりの奥地でデッドライン。何のデッドラインかというと、これ以上行ったら国境まで行ってしまうというギリギリな状態。ここで引き返して首都ウランバートルに戻らないと日数的に帰れなくなるぞというギリギリの所でした。サムソンとは最初から日数で契約していたからね。

そんなこんなで、アルタイで本を売り切ってしまわないとヤバイわけで、もういざとなったら民家に押し入って売るしかないといった状況。なんとかしなきゃならないと堅く決意をしてアルタイを目指すのでした。

ちなみに、ここまでで2台持ってきたデジカメの片方の記憶容量がマックスになった状態。これ以上撮影ができないので2台目のデジカメに切り替えました。で、この2台目のデジカメなのですが、後述するトラブルによって撮影画像を日本に持ち帰ることができず、ここからは画像が全くないまま日記を記述することになります。

途中、何度か休憩を挟みつつ数時間かけてアルタイに到着。早速本を売ろうと奮起します。アルタイは結構な都会、といってもCoccoが出てきそうな焼け野が原でバラックな街には変わりないのですが、人通りは結構あるほう。その辺の人を捕まえては「本を買ってください」とモロに日本語でセールスしてました。

当然、そんなので売れるはずもなく、全ての人がウンコ踏んだ時みたいなしかめっ面して脱兎の如く逃げていくのです。なんか「くだらねえ」と呟いて醒めた面して歩いてそうな雰囲気なんですよ。エレカシか。

しかしながら、僕だって売らないわけにはいきません。売らなければ何しにこんなモンゴルの奥地まで来たのか意味が分かりません。ここは死んでも売り切るしかないのです。

そこで考えましたよ。分別ある大人がこんな得体の知れない本を買うだろうか、と。答えは否。買うわけありません。例えば日本で、怪しいザビエルみたいな外人が何の言語かも分からない本を「カッテクダサーイ」とか言ってたって誰も買わない。それどころか地回りのヤクザが出てきて皿を割られるのがオチです。

でもね、逆に子供なら売れるんじゃないか、そう思ったのです。僕の時代で言えばビックリマンシールに始まり、ガムラツイスト、ドキドキ学園、現代で言うとムシキングでしょうか。ホント、何であんな物に貴重な小遣いを賭して夢中になっていたのか分からないんですけど、子供ってけっこうそういうものなんです。その思いは万国共通で、意味分からない本でも興味を持って買ってくれるかもしれない。そう思ったのです。いや、こんなゴチャゴチャした説明いらない。早い話、大人には売れないから子供を騙して売ろうと思った。

それで今度は手当たり次第に子供に声かけですよ。僕のようなオッサンが純粋な子供たちに声をかける。日本だったら間違いなく通報されて逮捕、自白、起訴、実刑判決でしょうが、モンゴルではあまり警戒されない。

そんなこんなで子供たちに話しかけてはお菓子をあげ、誘拐犯みたいな状態になっていたのですが、コイツら、お菓子を奪うだけ奪って全く本を買わない。それどころかまたも相撲をとらされる始末。そんなことしてるとまた横綱が出てくるので勘弁してください。

子供に声をかけては逃げ、子供に声をかけて逃げ、間違いなく変質者に近いのですが、そうこうしているといつの間にか街の外れに出ていました。

売れ残った7冊の本を持ち、こんな奥地に来て本が売れるはずもない、そもそもモンゴルに来て売れるはずがない、という根本的な部分に初めてここで気が付いてしまい、自分の愚かさを呪ったり憎んだりちょっとはにかんだり、このまま本を捨てて帰って売れたことにしようと考えたのですが、そこに一人の少女が現れたのです。

少女は、工事現場の人が使うような荷車を小さな手で持ち、その上にでっかい壷みたいな容器を載せてガラガラと歩いていました。僕が話しかけると、異人さんに妙に怯えた様子でビクビクとしていたのですが、僕が百面相とかモノマネしたりして打ち解けようとすると安心した様子。ドラマ「略奪愛」の赤井英和と鈴木紗理奈マネというコアなモノマネが少女に通じたのかどうか知りませんが、というか通じていたら逆に怖いですが、少女は笑顔でニッコリと笑ってました。

もちろん言葉なんて全然通じませんので、地面に絵を書いて意思の疎通を図ったのですが、どうも少女は町外れの井戸まで水を汲みに行くみたいでした。この辺りは水道なんてもちろん整備されていませんから、各家庭で井戸まで水を汲みに行くわけなんですね。

で、モンゴルの奥地の子供たちってのは本当に家の手伝いをよくする子供たちでして、あちこちで土を練って家の壁塗ってたりとか、家畜の世話してたりとか、もちろん水汲みなんかも積極的にやってるんですよ。子供たちはすげー遊んでるしすげー働いてる。自分がこれくらいの年齢の頃なんて家の手伝いもせずに野原でバッタとか取ってましたからね。

「水汲みにいくんだー、偉いねー」

と言いながら飴玉をあげて手懐ける僕。どう好意的に解釈しても未成年を略取しようとしているオッサンにしか思えないのですが、そこはモンゴルですよ、たいていのことは飴玉で解決できます。

そんなこんなで言葉が通じないながらも飴玉を機になんとか打ち解けた僕と少女。「おうちはどこなの?」「お兄ちゃんは日本から来たんだぜ」だとかを地面に絵を描いて説明していたのです。で、最終的には「この本を売るためにはるばるやってきたんだよ」と説明しつつぬめり本を取り出します。

すると、先程まで物凄いスマイルだった彼女の表情が一変。ものすごいウンコを踏んだ時みたいなしかめっ面になるんですよ。なんでこうも拒絶されるのか。もしかしたらこの本の表紙にはモンゴル人が忌み嫌う何かがあるのかもしれない、そう思うほどにみんな表情を強張らせるんですよね。

こりゃうれねえなあ、もうこうなったらその辺のゴミ捨て場に捨てて売れちまったことにしてしまおう。と思ったその瞬間ですよ。はるばるこんな奥地まで来て良かったと思える衝撃の光景が。

なんかですね、そのしかめっ面が逆に心地良く思えるくらい極度のしかめっ面だった彼女なんですが、相変わらずしかめっ面でグッと手に持っていたお札を僕に手渡してくるんですよ。

まさか、買ってくれるのか・・・?

あまりにも僕が哀れに見えたのか、それとも紙飛行機でも作る紙を探していたのか、女神レベルで優しいのか、男を喜ばせるために生まれてきた天性の娼婦なのか知らないですけど、何故か買ってくれるという意思表示。っこまで連敗続きだったものですから、「いいの?ほんとにいいの?」と連呼してました。日本でこんなことを幼女にのたまってる29歳の無精髭のボサボサ頭がいると想像してください。貴方は間違いなく通報するはずですよ。地域の防犯は地域から。大人たちの手で子供を守らないといけないのです。

とりあえず、幼女から金を受け取り、「プリンタもつけちゃう」「デジカメもキャノンのつけちゃう」「金利手数料はジャパネット負担」と言わんばかりの勢いでぬめり本7冊全てを幼女に渡しました。で、幼女から受け取った金を守銭奴ヨロシクで数えてみると。

40トゥグルク(4円)。

7冊を4円で売るという、昨今のデフレ経済を象徴した奇跡の販売劇。1冊あたりに直すと0.57円ですからね。57銭ですからね。

ということで、1冊57銭で7冊を幼女に売りつけ、彼女にソレを持ってもらって記念撮影。一緒に水汲みを手伝ってあげました。

井戸まで行くと、なんかこの街の水は有料らしく、1リットル1トゥグルク(0.1円)程度かかる旨が張り紙してありました。金額しか読めなかったけど、憲兵みたいな見張りのオッサンもいるし間違いなく有料。

彼女が持っていた容器が40リットルと書いてありましたから40トゥグルク(4円)で購入するつもりだったみたいです。そこで始めた気が付いたのですが、もしかしたら彼女が本を買ってくれた40トゥグルクは水を買うお金だったんじゃないかと。どおりで僕が元気よく荷車を押して井戸に向かってるのに彼女は少し戸惑った様子だったはずだ。

水を買うはずだったお金で正体不明の異国の本を買って帰ったとなれば、彼女が家に帰って親から折檻を受けるのは至極当たり前。もうこりゃ仕方ないってんで僕が水を買ったのですが、日本人と見て見張りのオッサンがボッタクリの血を遺憾なく発揮し、150トゥグルク(15円)くらい取られました。

そんなこんなで微妙に商売をした気が、それどころか儲かった気が全くしないのですが、無事に本を全て捌くことができ、ホクホク顔で荷台に水の入ったタンクと幼女を乗せてガラガラと幼女の家まで帰るのでした。

ぬめり本(定価1000円)販売結果 in モンゴル
1冊目 ウランバートル 古本屋 2000トゥグルク(200円)
2冊目 ゴビ砂漠 焼失
3冊目 ゴビ砂漠 焼失
4冊目 アルタイ 幼女 5.7トゥグルク(57銭)
5冊目 アルタイ 幼女 5.7トゥグルク(57銭)
6冊目 アルタイ 幼女 5.7トゥグルク(57銭)
7冊目 アルタイ 幼女 5.7トゥグルク(57銭)
8冊目 アルタイ 幼女 5.7トゥグルク(57銭)
9冊目 アルタイ 幼女 5.7トゥグルク(57銭)
10冊目 アルタイ 幼女 5.7トゥグルク(57銭)
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合計 2040トゥグルク(204円)

街に戻るとサムソンが朝青龍みたいな顔した街の女性を肉屋の前で口説いてましたが、全部売れたことを告げると「やっと帰れる!」と大喜び。こうして長かった砂漠横断販売の旅は終わったのでした。約5日間かけて砂漠を横断してここまできて、また5日間かけてウランバートルまで帰らなければならない事実にウンザリしながら。

帰りの道中、ゲルと呼ばれる遊牧民の家に立ち寄った際に、謎のモンゴル人のカラオケを延々聞かされたりとか、立ち寄った湖でサムソンが溺れたりとか、暴れ馬に乗せられたりとか盛り沢山のハプニングがあったのですが、これらはモンゴル放浪記外伝として機会があればお伝えすることにして一先ずモンゴル放浪記は終了。次回はインド・ニューデリーで本を売りに放浪してきます。

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おまけ1 失われたメモリー

激烈な体験を経て、約10日間に渡るモンゴル放浪の旅が終わったわけですが、首都ウランバートルに帰ってきたのがかなりの深夜。ホテルはドアを堅く閉ざしているわ、死ぬほど寒いわ、暴走族みたいなのものまで出てくるわ、で大変な騒ぎ。

別にサムソンと感動の別れとか、涙ながらに堅い握手したとか、日本に帰っても連絡するからなとかなくて、スフバートル広場に到着したら

「俺は次のドライバーの契約があるからとっと降りろ、早く報酬よこせ」

みたいなアメリカ人並みの契約社会のシビアさを見せつけ、物凄い勢いでテールランプを光らせて帰っていきました。ありがとうサムソン。さよならサムソン。さて、どうするか。

こんな異国の治安の悪そうな場所に真夜中に残され、さらに死ぬほど寒いのにTシャツ一枚。ホテルを何個か巡ってみたのですが、戒厳令が出てると思うほどにクローズド。

モンゴルの首都ウランバートルにはマンホールの中で暮らすストリートチルドレンが数多くいるのですが、極めてその子供たちに近い感じで僕も廃屋の非常階段みたいな場所で眠りました。セメントの袋に包まって寝た。

凍え死ぬかとも思ったのですが、なんとか朝を迎えることができ、そのままホテルに直行。なんとか最初に来た時と同じホテルをキープしたのでした。

暖かい布団に包まって数時間寝た後、実に10日ぶりとなる入浴へ。湯船が一瞬で真っ黒になるという超常現象。シャンプーも6回くらいやらないと泡立たないという脅威の状態でした。そりゃ毎日泥と砂にまみれてればこうなる。

体が綺麗になったら、帰りの飛行機まで時間があるのでブラブラとウランバートルの街を徘徊していました。ホモたちのハッテン場となってるネカフェに行ったり、旧国立デパートに行ってお土産物を買ったりしました。

そんな感じで街をブラブラしていたら、博物館の横あたりに白い立派な建物が。何か宮殿風の作りになっている古っぽい建物の看板を見ると、「北朝鮮大使館」。日本語で書いてあったわけじゃないですけど、英語でそう書いてありました。

こいつはすげえ!北朝鮮大使館なんて見るの初めてだぜ!と国交がない国の民らしく物珍しげに周囲を徘徊しておりました。大使館は2階建てだったか3階建てだったのですけど、2階の窓が開いていて、その窓からは偉大なる将軍様の写真がズババーンって飾ってありました。

おおーすげー

とか思いながら周囲を徘徊していると、なんか知らんけどパトカーがやってきたんですよね。お、何か事件か事故か!?と思いながら興味本位でパトカーを眺めていると、目の前に停まるじゃないですか。こんな近くで事件が!と興奮してると、見事に僕が捕まって連れて行かれました。なんでやねん。

近くの交番みたいな場所、というか警察官の待機場所みたいなところに連れて行かれたのですけど、言葉がほとんど通じないので大変な騒ぎ。パスポートを出しながらつたない英語で「僕は日本人で、珍しいから大使館を見てただけ」と説明すると、何かを分かってくれたらしくすぐに帰してくれました。

大使館ってのは言うまでもなく重要施設ですから、そこを怪しげに徘徊してると警察に連れて行かれるというわけですな。あと、大使館をはじめ政府建物、軍事施設、空港などはテロなどを警戒してか写真撮影自体が禁止であるようです。その辺の警戒心は日本より格段に高いと思った。

晴れて自由の身になった僕は、大使館ってすげー、周りを徘徊してるだけで捕まるのかー、と感動し、今度は日本大使館に行ってみようと地図で場所を確認、走るようにして向かうのでした。

地図を見て驚いたのですけど、日本大使館は砂漠放浪前に行ったモンゴルオフの会場の隣、あの誰も来なくて枕を涙で濡らしたナムラーダイル公園のすぐ隣でした。

行ってみると日本大使館ってのが物凄くて、他国の大使館の何ランクも上。デカイわ綺麗だわ最新鋭の機器が揃ってそうだわで大変な騒ぎ。マジで、汚くて貧相な建物が並ぶウランバートルの街の中で場違いな感じで金ぴかの建物がそびえ建ってました。

これもみんな僕らの血税なのかしら?

と思いつつ、こんな場違いに立派な大使館をモンゴルの人が見たら日本はどんな国だと思うんだろう、と思いつつ日本大使館前を放浪という感じではなく普通に歩いてました。

するとまた警官登場ですよ。今度は歩いてるだけで警官登場ですよ。日本大使館前は警官の詰め所みたいな場所があるんですけど、そこから映画に出てくる悪徳ポリスみたいなのがノソノソ出てくるんですよ。

レイザーラモンみたいなサングラスかけたポリスは手招きで僕を呼び寄せると、何やら意味不明な言語を喋りつつ詰め所みたいな場所に連れて行きます。これでコイツがホモだったら間違いなく貫かれるな、と思いつつ、ビクビクしながら詰め所に入るのでした。

汚い椅子に座ると、レイザーラモンは僕が手に持っていたデジカメを指差し、「大使館を撮影したらダメだ」みたいなことを言ってくるんです。僕も「撮影してない」と言い張るのですが頑として聞き入れない。

ホントだって!と興奮しちゃったもんだから日本語で言いいつつデジカメのメモリーを警官に見せ、大使館など撮影してないことをアッピールしたのですが、出てくる画像が本を売った幼女だったり裸のサムソンだったりノグソしているサムソンだったり自分の黄色いノグソだったり、人格を疑わざるを得ない画像が次々と出てくるんですよ。もう終わった。

結局、レイザーラモンポリスを納得させることはできず、彼はなんか「デリート」だとか「オール」みたいなこと言いやがりまして、デジカメのメモリーを全部消せと言っている様子。これには本を買ってくれた優しき少女、ウンコするサムソンなど、旅の後半のメモリーが山ほど詰まってるのに。

「デリート」

「ホンマに?」

「ホンマに」

と何故モンゴル人警察官が「ホンマに」とか返答してるのか意味分からないのですが、全部消さないと買えれないご様子。大使館を撮影すらしてなくて、カメラを持って前を歩いていただけでこの仕打ち。仕方なく全てを消去してホテルへと帰ったのでした。こうして、旅の後半は全く画像がなく、切なくて泣きそうになったのでした。

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おまけ2 お土産プレゼント企画

ウランバートルの街ではあらゆる場所に物売りの人がいます。近づいてきて100ドル!100ドル!とか言いながら商品を見せてくる。間違いなく買う気にならない販売スタイルです。

売ってる商品も物凄くて、どっかから盗んできたとしか思えない懐中時計ですとか、シワクチャになった切手ですとか様々。中でも最もポピュラーだったのが絵画でした。

モンゴルの雄大な自然ですとか、砂漠の景色ですとか、なぜか特に馬の絵が多かったのですが、それらを新聞紙に挟んだ状態で見せてきて「300ドル!」とか言ってくる物売りが非常に多い。

全く買う気がしないのですが、絵は結構綺麗で部屋に飾ってもいいんじゃないの?と思うレベル。あいにく部屋に絵を飾る趣味とかないですからどうでもいいですけど。

しかしまあ、この絵をお土産にするってのは良いアイデアなんじゃないかと思い立ちまして、何枚か買って帰って読者プレゼントにしてしまおう!と実にグッドアイデアなことを思いついてしまったのです。

どうせ路上売りは鬼のようなボッタクリ価格。こんな奴らから買ったら土産どころかケツの毛まで毟られかねませんから、もっと信頼おける場所で買うのがベストです。

色々と考えた結果、旧国立デパートで買うのがベストと判断。ここは昔は国立のデパートだったのですが、現在は民間の会社が買い取って普通のデパートとして機能しているようです。で、その最上階に観光客向けのお土産を扱った売り場があるみたいで、そこにいって綺麗な絵画を読者プレゼントにしようと考えたのです。

モンゴルの民族衣装やミニチュアサイズのゲルの模型、あと革製品などが大量に売られているお土産コーナーの片隅に絵画販売コーナーがありました。

やはり綺麗な絵が多く、モンゴルの自然を余すことなく表現。お値段も6ドル前後と非常にリーズナブル。やはり路上販売で買わずに正解だった。

パステルカラーの自然描写が非常に多く、その中でモンゴルならではの動物が描かれているというのが主流だったのですが、1時間ぐらい苦悶して買う絵をチョイス。全く後悔しない絵を選ぶことができました。

ということで、コレを読者プレゼントにしたいと思いますので、ご希望の方はお名前とモンゴル放浪記の感想などを添えてpato@numeri.jp「モンゴル土産係」まで応募してください。当選者の方にはこちらから連絡しますので、間違っても最初の応募の段階で住所氏名などを記載しないでください。

ということで、お土産の絵画をどうぞ。

水彩画風の綺麗な絵画が多い中、この絵は非常に味がある。筆で書かれたようなタッチが妙に味があるし、人物の表情も良い。馬に乗ってるモンゴル風の人、コレは十分にモンゴル的でお土産になるんじゃなかろうか。ということでこのシリーズの絵画を買い漁ることにした。



なんじゃこりゃーーー!

全て雄大なモンゴルの自然を描いた絵画の中でこのシリーズだけ異彩を放っており、思わず手が伸びてしまいました。というかモンゴル関係ない。何の意図でこれがお土産屋に置いてあるのかわかりません。

それにしても、

女がブスすぎる!死ぬほどヌケない!

そんなこんなで、みなさん奮ってご応募ください。


11/28 ハリーポッターと炎のゴブレット

さてさて、前々々回前々回、そして前回と、映画レビュー界の常識を根底から覆す「ハリー&ポッター、見てもないのにレビュー」という、ある日家に帰ったらウチの寝たきり爺さんがガラス製の灰皿を振り回して大暴れしていた時並みの衝撃の内容をお送りいたしました。ホント、あれはびっくりした。

「ハリー&ポッターと賢者の石」では、ロス市警の刑事ハリーとポッターの凸凹コンビが伝説の「賢者の石」を巡ってカルト宗教団体と対決しました。

「ハリー&ポッターと秘密の部屋」では、ハリーとポッターが休暇先のアリゾナで殺人事件に巻き込まれ、秘密の部屋に隠された謎に迫りました。

そして、「ハリー&ポッターとアズカバンの囚人」では、刑務所転覆を企むテロ組織と対決。ハリーとポッターの血みどろの決闘が話題を掻っ攫いました。

映画のタイトルだけでその内容を予測し、的確にレビューするのは大変難しいことです。しかしながら、あまりに衝撃の内容だったのか、それとも僕のレビューが大変的確なのか、前回の「ハリー&ポッターとアズカバンの囚人」編のレビューを上げた直後、多くの読者様から反響メールが届いたのです。

「とても面白かったです」

「感動しました」

「続編もお願いします」

肯定的な感想メールを下さった方が約3名。

「つまらん、死ね」

「全然ちがうじゃねえか」

否定的な感想メールを下さった方が約12名。

「なんていうか、適当に書いてますよね」

痛いところを的確に見抜いた人が約1名。

「僕のハーマイオニーたんが初潮を迎えたよ!」

頭の狂ってらっしゃる方が約1名。

合計で17通もの反響メールを頂きました。あまりの多さに僕のメールボックスがパンクするかと思いました。

というわけで、肯定的な感想メールを下さった3名の方の要望に応えて、今回も先日から公開が始まった「ハリーポッターと炎のゴブレット」のレビューをしたいと思います。待ちに待ってた3名の方、ついにきましたよ。

そんなこんなで、もちろん、今作品もビタイチ見ていないのですが、はりきってシャカリキにレビューしてみたいと思います。それではどうぞ。

見てもないのに映画レビュー
「ハリー&ポッターと炎のゴブレット」


真っ暗闇の中、怪しげな音楽が流れる。遥か先の方に小さな光が見え、それにカメラが徐々に近づいていく。そして画面中央にはカッコイイ筆記体で英語が表れる。翻訳すると、「時は1970年代」「冷戦の時代」「ソ連科学技術アカデミー」と表示される。どうやら物語は米ソ冷戦時代のソ連から始まるらしい。

画面中央に白衣を着た科学者風の男が二人。何やら布をかけられた巨大な物体の前で談笑している。

「これさえあれば、これさえあれば、長年の悲願が」

「むう、炎のゴブレットですな」

「ああ、長い歳月を経てついに実現したのじゃよ」

「これで我がソ連も安泰と言うことですな、ハハハハハ」

「グワッハッハッハッハ」

ここで暗転。怪しげな鳥が舞うCGが映し出され、そのままドーンと「ハリーポッターと炎のゴブレット」とタイトルが映し出され、今作品から変更された主題歌、エミネムの「コーラを飲んで胸焼けがするナイト」が流れる。なかなかポップでダンサブル、それでいて切なくなるナンバーだ。

歌が終わると画面が切り替わり、2005年現在のロサンゼルスの街の喧騒を映し出す。人々が平和に暮らし、多数の人が往来を行き来する。活気溢れるロサンゼルスの街だ。

場面はロサンゼルスの高級ホテルのパーティールームに変わる。多数の人がドレスアップし楽しそうに談笑している中、前方に置かれた演台にタキシードを着た初老の紳士が駆け上がる。ロサンゼルス市長だ。

「今日はここロスの地ビールを飲む会に賛同して集まっていただき大変ありがとうございます。この地ビールを機にロスの町興しを発展させていきたい」

市長は一通り挨拶を済ませると、乾杯の音頭に移った。

「お手元のグラスに入っているのがロスの地ビールです。豊潤なロスの大地で育った麦芽をふんだんに使用しました。ロスだけに雑味をロスさせました、がっはっはっは」

たぶんアメリカ人特有の小粋なジョークなのだろうけど、奈津子さんの翻訳ミスなのか、あまり面白さが伝わってこなかった。

「それでは、乾杯!」

パーティールーム内の全員がグラスを掲げ、一斉に乾杯をした。そんな会場の片隅にハリーとポッターはいた。

ハリーはいつものようにダブルのスーツをパリッと決めているが、服飾に無頓着なポッターはタンスから引っ張り出してきたであろうツンツルテンのスーツを着てドギマギしていた。

「おい、落ち着けよポッター、キョロキョロするな」

「だってよ、こんな場所始めてだもんよ」

何故こんな場違いな場所にハリーとポッターがいるのかというと、数日前、連邦捜査局からロサンゼルス市長暗殺計画があるとの通達を受け、現場を仕切る刑事としてロス市警のハリーとポッターが市長の護衛についていたのだった。

ハリーはいつものようにドレスの美女を見つけては、グラスをかざし、「君の美しさにビールも泡吹いちゃってるよ」とクサいセリフで口説く。ポッターは並べられたオードブルを平らげそうな勢いでむしゃぶりついていた。

そこに先ほど壇上で挨拶をしたロス市長がやってきて二人に話しかける。

「君たちが護衛の?話は聞いてるよ。よろしく頼むよ」

グラスの中の地ビールをグイと飲み干し、気さくに話しかける市長。

「はい、がんばります!」

箸を止めて返答するポッター。ハリーも女性と話をするのを中断し、

「おっと市長、グラスが空いてますよ」

と抜け目なくゴマすりを開始する。その言葉を聴いて市長はこう切り出した。

「君ィ、これはグラスじゃないよ。ゴブレットって言うんだ。こうしてね、コップに脚がついたものはゴブレットって言うんだよ。ワイングラスより面長の脚付きコップ、それがゴブレットなのさ」

「そうなんですか、それは失礼しました」

神妙に謝るハリー。それ受けてポッターも

「ハリー、このウィンナー、死ぬほど美味いぜ!目が覚める美味さだ!」

と関係ない話を切り出す。この時のハリーの「あちゃー」と言う顔が妙に印象的だった。

「まあ聞きなさい」

それでもお構いなしに市長の話は続く。

「そもそもゴブレットはどうしてこういう形状になったか教えようじゃないか」

こうなてくると年寄りの話は長いからウンザリだ。長い日記サイトよりウンザリだ。しかし、ウインナーを頬張るポッターを尻目に、ハリーは笑顔で頷いて話を聞いた。

「水をコップに入れておくといつの間にか減ってるだろ?あれはまあ、中の水が少しづつ蒸発するからなんだが、昔の人は地面に吸い込まれると考えたわけだ」

饒舌な市長の話は止まらない。

「そして、祝杯やらからも分かるように、昔の人は杯やコップで幸せが掴めるものだと考えていたんだよ。乾杯ってのは杯を空にしてそこに幸せを入れようって意味だ。そして、入れた幸せが地面に逃げてしまわぬよう、このように脚をつけて地面との接触を避けた、それがゴブレットの始まりなのだよ。幸せが逃げないようにね・・・。」

「なるほど」

意味深に空のグラスを、いやゴブレットを傾ける市長。長々とした市長の話にうんざり顔のハリー、ご満悦の市長、次はフォアグラに手を出し始めるポッター。ここで場面が切り替わる。

ロサンゼルスの中心地に位置する大通りの交差点。なかなか変わらない信号にイライラしながら信号待ちをする青年。イライラが頂点に達した青年は角のタバコ屋でタバコを購入しながら、店の婆さんに話しかける。

「まいるよ、ここの信号は全然青にならない、日が暮れちまうぜ」

文句をいながら信号を見つめ、タバコの封を切る青年。そこに、急に日陰になったかのような巨大な影が青年は勿論、交差点全体を覆う。まるで、夜になったかのように真っ暗な影に包まれた。

青年はおかしいな、と思いつつも、信号が変わらないことにイライラしながらタバコに火をつける。すると、ふっと信号の電気が消えたのだ。赤を表示するでもなく、青に変わるでもなく、ふっと電気自体が消えた。そこで何らかの異変を感じ、空を見上げた青年、そこで大きな悲鳴を上げてその場に座り込んでしまう。

通り向かいにあるピザ屋の黒人店員は、店の前を掃除していたのだけど、急に落ち葉が舞い上がり、真っ暗になったものだから空を見上げて目を見開いて驚く。

信号が止まったためか、誰もが空を見上げて謎の影の正体を探っているためか、交差点ではガンガン黄色いタクシーが衝突。玉突き事故になって大変な騒ぎに。白人女性が「オーマイガ!」とか言ってる。

場面は戻り、地ビールの試飲会場。まだ市長の長い話に付き合っているハリーに、さらにはチーズケーキに手を出し始めたポッター。テーブルの上に置かれたゴブレットになみなみと注がれた地ビールの液面が、いつしか振動と共に波打ち始める。そしてドーンという衝撃と共に建物自体が傾いた。

テーブルがすべる様に動き出し、シャンデリアが落ちる。パニックになるパーティー参加者たち。ハリーは懐から拳銃を出して構えた。

「なんだ!?テロか!?ポッター、市長を守れ!」

動転している市長をポッターに預けると、ハリーは何が起こったのか見届けるため銃を構えたままホテルを飛び出した。

そこには衝撃の光景が待っていた。なんと、ホテルの外にはビルほどありそうな巨大なロボットが立っていたのだった。

「ジーザス!どういうことだ!」

ロボットは、ホテルにぶち当たって一瞬止まったものの、意に介さず歩みを進めていく。まるでどこか目的地があるかのように進んで行った。

ハリーの無線に連絡が入る。

「ガーガー、ロス市内に巨大ロボットが出現。ビルを破壊しながら北西の方向に進行中」

「どういうことだ!」

その辺に乗り捨ててあった車に乗り込むハリー。そして逃げ惑う車の列で渋滞するストリートを縫うように逆送し、ロボットの追跡を始めた。

刑事になって以来、ハリーは様々な事件に出会った。殺人事件にカルト教団、テロリストとも対峙した。しかし、まさかロスの街を巨大ロボットが襲うなんて想像だにしていなかった。しかし、現実は間違いなく目の前に存在する。そう、間違いなく巨大ロボットなのだ。今まさにビルが破壊されているのだ。

この巨大ロボがビルを破壊するシーンは圧巻で、なんでも最近流行のCGを一切使ってないとか。撮影費用にいくらかかったのか気になって仕方ありません。

「どこまでいこうっていうんだ!」

ビルをものともせず進んでいく巨大ロボット。道路は渋滞しているし道は踏み荒らされているしでなかなか追いつけないハリー。そこにまた無線が入ります。無線の主は課長で、ハリーに向けてのものでした。

「ハリー、現在地はどこだ。空軍の戦闘機が4機出動した。これから戦闘機が追跡する。巨大ロボの動力は原子力と想定されるため、爆発の危険があるため市街地では攻撃できない。ポッターと一緒に一旦署に戻るように。市長の護衛には代わりの者をいかせる」

署に戻ろうと車をUターンさせるハリー。署に戻ります。

混乱の中、署に戻ったハリー。ホテルに戻ったものの既にポッターと市長の姿はなく、仕方なく一人で戻ることになった。署内では全職員が総出でロボットの対応に当たり、その中心で課長が指揮を執っていた。

「巨大ロボの国籍は不明。現在は進路をわずかに変えて更に移動中」

目撃情報と空軍からの情報を基にロス市内の地図に巨大ロボの軌跡を黒人婦警が書き込んでいく。

「課長!あのロボットは一体何なんですか!」

「ワシにもわからん!ただ専門家の話ではあれだけのロボを動かしている動力は間違いなく原子力。市街地での攻撃は不可能と言うことだ。一刻も早く市民を避難させる必要がある」

「ポッターは、ポッターは戻ってないのですか?」

「ポッターなら市長と一緒にヘリで避難したそうだよ。一刻も早く我々も避難せねばならん」

忙しそうに走り回る署員。鳴り響く電話。そんな中で課長のデスクの電話が鳴った。電話を取った課長は神妙な面持ちで何度か頷くと静かに受話器を置いた。

「大変なことになった。我々も早く避難しよう」

まだ十分に避難できてない市民を差し置いて逃げ出す準備を始める課長。ハリーが詰め寄った。

「どういうことです!まだ市民の避難が十分ではない。我々が誘導しないと・・・」

しかし、全く聞き入れる様子なく、荷物をまとめて屋上に向かう課長。あまりの無責任さに腹が立ったハリーは屋上でヘリに乗り込もうとする課長に掴みかかった。

「逃げるなんてそれでも市民の命を預かる警察か!」

しかし、課長は意に介さず。

「もうそんな段階ではないんだよ、あれを見たまえ」

課長が指差した先には、破壊されて煙が上がる街並みの向こうに忌々しき巨大ロボが見えた。そして、その反対がに同じ程度の大きさだろうか、もう一体の巨大ロボの姿が見えた。

まさか、もう一体の巨大ロボが街を破壊に・・・!?いや違う、もう一体の方は同じような型であるが、そのボディには星条旗があしらわれている。我ら米国民の誇りである星条旗が。

「あれは、アメリカ産・・・?」

「ああ、そうだ。このような事態を想定し、ロサンゼルス市が秘密裏に製造しておいたものだ。テロ対策を公約に掲げた市長の政策でな」

「あんな巨大なロボを税金でか・・・?」

「ああそうだ、ここはロボット同士の戦いで危険だ。多少の犠牲はやむえん。さあ、お前も避難するんだ」

しかし、市民の命を守ることを選んだハリーはヘリに乗ることを拒否し、なんとか対策はないものかと捜査本部に戻った。

捜査本部内はほとんどの署員が避難しており人影もまばら。閑散としていた。ハリーは、最初に登場した巨大ロボが辿った足跡を記した地図と睨めっこし、そこに新しく現れたアメリカ側のロボの位置を書き込んだ。

「まさか、このままいけば、まさにロスの中心で2台のロボが鉢合わせになるじゃないか!」

突如現れた巨大ロボ、そして不自然なほどに用意周到に用意されていた米国側の巨大ロボ。その2体のロボは不気味なほど格好が似ている。おそらく、どちらのロボも動力は原子力・・・。そしてロスの中心で鉢合わせ・・・まさか!

その時、捜査本部内に置かれたテレビが米国側の巨大ロボを映し出した。果敢にもマスコミのヘリが接近して撮影しているのだろう。かなり近いのかコックピットに乗り込む人間の姿が見える。

「ポ、ポッター!?」

そこには小太りなハリーの相棒、ポッターの姿が。

どうして米国側の巨大ロボの操縦席にポッターが。ヤツは市長と一緒に避難してるはずじゃなかったのか。どうしてあんな場所にいるんだ。

「なんにせよ、あのロボを止めなければ大変なことになる」

ここからはまあ、色々と紆余曲折あるのですが、決して面倒になったとかそういうのではなく、ネタバレを防ぐために是非とも劇場にて皆さんの目で確認して欲しい。ネタバレを防ぎつつ端折って説明すると、ハリーが愛車のシボレーでロボを止めに行きますが見事返り討ちにあいます。シボレーがロボに破壊されるシーンは壮絶で、あまりに過酷だったのか、このシーンの撮影のためにADが7人死んだそうです。

そして、命からがら逃げ込んだ地下室で謎の科学者ミカエルに出会います。ミカエルは旧ソ連に精通している科学者で、最初に登場した巨大ロボが旧ソ連で作られたものであると知らされます。

「ソ連で作られたロボだって?」

「ああそうじゃ、冷戦時代にソ連が打ち出した炎のゴブレット計画のために作られたのじゃ」

その計画というのが、巨大ロボに搭載した原子力による爆発で、米国の東海岸に位置する都市、つまりロサンゼルスを破壊し、大きな穴を開ける計画だったのです。破壊するだけでは飽き足らず、ロスを巨大クレーターにし、米国民を失意のどん底に落とし込む計画だったようです。

「ロスを巨大なクレーターにする。つまり、コップのような状態にするんじゃよ。焼け野原、焦土と化したロスにコップ状の巨大な穴を開ける、それが炎のゴブレット計画じゃ」

しかし、この計画も冷戦時代の終結、ソ連の崩壊と共に頓挫し、実行に移されることはなかった。その後、巨大ロボの行方は分からず、人知れず廃棄されたことになっていた。

「ソ連が崩壊しなくとも、あの計画は実行に移されることはなかったじゃろう」

「どうしてだ?」

「もともと無理じゃったんだ。巨大ロボに搭載された原子力の規模ではクレーターにするだけの爆発が起こせなかったんじゃ。せいぜい街を焼き払うくらいじゃな。そこがどうしても最後までクリアできず頓挫したんじゃ」

「ちょっと待ってくれ、1台の巨大ロボでは爆発力が足りない・・・?じゃあ、2台だったら・・・。いかん、ロボを止めねば!」

またも走り出すハリー。しかしロボを止める術がない。

「止まれ、止まるんだ!ポッター!そのまま行くと二台のロボが爆発してしまう。止めるんだ!」

しかし、何者かの催眠状態に陥ってるポッターの耳には届かない。ただまっすぐロボを動かすのみ。向こう側には同様にこちらに近づいてくる巨大ロボが見えた。もう時間がない。

「目を覚ませ!目を覚ますんだポッタアアアアアア!」


場面は変わり、薄暗い秘密の隠れ家。そこでゴブレットを傾ける一人の男が。

「もう少しだ。もう少しで悲願が達成される。これで許してくれるか・・・ジョージよ・・・」

グイとゴブレットに注がれたビールを飲み干す。その傍らにはロス産の地ビールが。

「そこまでだぜ!」

そこに突如現れたハリー。

「そこまでだ!」

ポッターも。

「ど、どうして貴様がここに!今頃ロボの中で爆死しているはず!」

「ロボなら止めさせてもらったぜ!ポッターが直前で催眠から目覚めたもんでな。緊急停止ボタンを押させたよ。催眠状態でも腹は減るらしく、朦朧としながらパーティーでくすねたウィンナーを食ったそうだ。いってただろ、あまりの美味さに目が覚めるって。それで正気に戻ったのさ!」

「俺に催眠術をかけるなんてふてえやろうだぜ!」

得意気にポッターが言う。そしてハリーが続ける。

「ソ連時代の炎のゴブレット計画を知ったアンタは第三国を通じて巨大ロボを手に入れた。そして、爆発力が足りないと見るや、権力を活かして税金でもう一台のロボを作成し、戦わせ爆発させることを計画した。そうだろう。アンタの提案でロボを作成したんだからな、市長さんよ!」

そこにはあの市長の姿が。なんと黒幕はロス市長だったのです。

「アンタはベトナム戦争で息子のジョージを亡くしている。それで米国に恨みを持ち、こんな復讐を考えたのだろう!」

「ちがう。ちがうんだ。私はアメリカを憎んでなんかいない。ジョージの死も国のためだと理解している。ただ、ジョージが子供の頃に言っていたゴブレットを作ってやりたかったんだ。口癖のように言っていた、大きな幸せを入れるゴブレットを。そこで旧ソ連の炎のゴブレット計画を知り・・・」

ここで市長が若くて息子ジョージが子供で、ゴブレットに幸せをどうとか回想シーンが流れます。そして、ベトナム戦争の映像と、ジョージの戦死を知らせる手紙を受け取る市長の映像が。

「それでロス全土をゴブレットに・・・スケールがでかい話だねえ」

「市長さん、あんた間違ってるぜ!ゴブレットに入れる幸せはビールなんかと違う、大きさなんて関係ないのさ。小さな1杯のゴブレットにいくらでも入るんだ!それぞれの心の中にある小さなゴブレットにな!黒人も白人も関係ない!」

感動しました。

「ワシが間違っておったのか・・・ジョージ・・・」

ここで事件解決となるのですが、観念した老人すら容赦しないのがハリーの魅力、得意のカンフーで市長をボコボコにすると満足気な顔で現場を後にします。

同時に一斉に警官隊が雪崩れ込みます。その様子を見ながらポッターが一言。

「市長さん、アナタ言ったじゃないですか。ゴブレットは幸せが地面に逃げないようにグラスに脚をつけたものだって。ロスでロボを爆発させても・・・ゴブレットにはなりませんよ。だって脚がないんだから。幸せが地面に逃げちゃいますよ・・・」

がっくりとうなだれて逮捕される市長。

そしてウィンナーを食べながら去っていくポッター。

アパートの窓から月を眺めながら、ハリーはゴブレットに注いだ地ビールを飲み、涙するのでした。その涙の理由は今は誰も知らない。

ここでエンドロールが流れ、新しく採用となったエンディング曲であるジャネットジャクソンの「深爪した次の日のスロット」が流れる。物語にあった非常に切ない曲に席を立つ観客は皆無。場内からはすすり泣く声も。

そしてズババーンと次回作「ハリー&ポッターと不死鳥の騎士団」の予告が登場。なんでもロスの街に巨大UFOが襲来。ハリーとポッターが宇宙空間で大暴れするそうです。ここまで来るともはや刑事映画の域を超えています。

そんなこんなで、今回の「ハリー&ポッターと炎のゴブレット」大変考えさせられる非常に素晴らしい作品でした。

「ハリー&ポッターと炎のゴブレット」見てもないのにレビュー終わり。

いちおー信じられないことですが、分からない人のために書いておくと、現在絶賛公開中の「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」とは似ても似つかない内容です。ご注意ください。


11/22 メッセージ

いやー、まいったまいった。

昨日の日記をアップしたことにより、主に日本の貧困層に目を向けた「感動しました!」的な感想メールがドコドコと来るとか、足長おじさんが寄付してくれるとか養子にしてくれるとかひどく楽観的な妄想を抱いていたのですが、そういったものが皆無。なんか札の折り方に焦点を当てたメールが多数寄せられました。さすが皆さん、血も涙もない。

昨日の日記中で、僕は「1000円札を2枚に見せる折り方を研究している」と記述し、



こんな画像をアップしたのですが、それを受けてか、猛り狂う猛者というか少々頭が可哀想な人というか、そういった人々から多数の意見が寄せられました。

「僕は3倍に見せる折り方できますよ!」

「私は5倍!」

「お札で鶴が折れますよ」

最後のはひどく主旨から外れていますが、このままではそのうち「カラーコピーでお札を・・・」とか犯罪の匂いがプンプンすることを言い出す人が出かねない状況で、一人でヤキモキしておりました。

お札の折り方で有名なのは、人物像のところを女の子が授業中に書く手紙みたいにテクニカルに山折り谷折りすると、なんか笑ってる表情になるだとか、どうでもいいようなものが大量にあります。

他にもお札にまつわるエトセトラとして、旧5000円札の噂などが有名ではないでしょうか。裏面の湖面に映る富士山は富士山ではなくシナイ山だとか、5千円と表記された部分は菊が二つに分かれてて、その菊が重なるように折ると地球儀みたいな絵の日本列島がウンタラカンタラなどなど、謎めく噂もあれば、新1000円札の野口さんの髪型が凄いとか5000円札の樋口さんが怖いとか笑えるものまで。その存在自体がおぼろげな噂になりつつある2000円札まで様々です。

お札に関する噂だとか妙な話は絶えないのですが、これもまあ、お札の持つ意味不明な不気味さですとか、日常生活に根付いた身近さが根本にあるのではないでしょうか。お札ってのは、極度の財政危機に陥ってない限り手元に1枚はあるものです。おまけに模様が細かいですから眺めていると結構な暇潰しになります。こんな所に細かく「NIPPON GINKO」と書いてある!と感動することも往々にあります。

そんなこんなで、色々とお札に関するアレコレを調べていたのですが、その中でも特に凄いのがあったので紹介します。なんでも米ドル紙幣は9.11アメリカ同時多発テロを予言していた!というショッキングな内容なのですが、実際に問題の紙幣を入手して検証してみました。

話題になっているのが米20ドル紙幣なのですが、もちろん僕はメリケンの手先ではありませんから手元に米ドル紙幣があるはずもなく、郵便局で外貨両替をしてきました。年金の支給日か何かなのか、やけにお年寄りの方々が殺到していて30分くらい待たされました。隣のお婆さんなんて待ちすぎてプルプルしてた。為替レートが良く分からなかったのですが、20ドル手に入れるのに2437円かかったことを書き添えておきます。


さてさて、この20ドル紙幣、まずは裏面のゴージャスな建物の面を半分に折るそうです。

で、図のように折り曲げる。


反対側も同じように折り曲げる。

すると、この画像がペンタゴンに旅客機が突入した時の絵になるそうです。なんか煙が上がってるとこらしい。

無理がありすぎる!というか、不謹慎すぎる!

おまけに裏面は、WTCに2機の旅客機が突っ込んだ時の絵になるそうです。

無理がありすぎる!というか、不謹慎すぎる!

9.11テロの予言がなぜ20ドル紙幣かというと「9+11=20」だからとか、すごい思春期の乙女みたいな強引な思考が適用されているのですが、さすがにそれは無理がありすぎるというか不謹慎すぎる。

どうせブロードウェイあたりで20ドル札を眺めていたケビンあたりが考え付いたのでしょうが、これはさすがに無理がありすぎると言わざるを得ない。こういう話題はちょっと興味あるけど、さすがにこれはね。

おまけに、問題の20ドル紙幣、折り方を変えて、文字の部分に注目して下図のようにテクニカルに折ると、

「OSAMA」

と、9.11テロの首謀者の名前が出るとかのおまけつき。さすがにそれは無理がありすぎる。無理やり折ってるじゃないか。「o」なんて数字のゼロじゃないか。B'zがでてきて(以下略)。これはもう、ケミストリーをバラエティ番組で使うくらい無理がありすぎる。そんなんだったら、この部分にある「THE UNITED STATES OF AMERICA」に使われている文字ならなんでもできてしまうじゃないか。

そんなのでいいならですね、僕だって日本の紙幣を使っていくらでもできますよ。

新紙幣1000円札には日本の危機を回避するキーワードが隠されていた!

長引く不況。日本を取り巻く領土問題。拉致事件。少子化・高齢化社会。モラルハザードが引き起こす日常の危機。そして、多発する各種の詐欺。

日本の未来はマクロ的にもミクロ的にも何らかの脅威に晒されており、お先真っ暗と言わざるを得ない。こんなご時勢じゃ誰しもが希望を失うし、無気力な若者が増加するのも頷ける。

そんな真っ暗な未来を明るいものにし、誰しもが笑顔で生きられる方法を記したキーワードを発見した。昨年11月に発行された1000円札を入念に検証した我々はそこに未来を生き抜くヒントが隠されていることを発見し、驚愕するに至った。

主にこの部分に着目し、テクニカルに折りたたんだ結果、驚愕のキーワードが浮かび上がった!

TINPOKO

チンポコ。

なんと、頼もしくなるほどに堂々とした「チンポコ」の文字。Tの部分がちょっと苦しくてギリギリchopと言わざるを得ませんが、これは明らかにチンポコですよ。チンポコ。もっかい、チンポコ。

チンポコさえ出していればどんなに世相が暗かろうが大丈夫。デロリと出しておけばみんなハッピー。そんなメッセージが隠されていたのです。恐るべし、1000円札。

考えても見てください。もし日本が諸国に侵略されたとしても、国民がチンポコだしてるんですよ。そりゃあ、侵略する気も失せる。チンポコで性的パッションが刺激されて少子化問題もクリアでしょうし、たぶん景気も回復します。それよりなにより、皆が薄ら笑いでデロリとチンポコですよ、なんtなくハッピーな世の中じゃないですか。

なんで1000円札にこのメッセージがあるかっていうと、1000人くらいはチンポコ出してれば大丈夫、社会も明るいってことです。それを考えると、表面の野口さんのサイケデリックな髪型も、ポコッとしてるところがポコチン的と言わざるを得ない。これは偶然では片付けられませんよ。

1000円札に隠された未来を生き抜くヒントを目の当たりにし、我々調査団は明るい未来への道しるべを示されたような、清々しい気分になったのでした。

お金で遊ぶとバチがあたるってウチのお婆ちゃんが言ってました。


11/21 冷凍庫の中の希望

最後の希望は冷凍庫の奥底だった。

先日、給料日前にして所持金が79円という、NHKのニュースキャスターがニュースの挟間に差し入れる小粋なジョークくらい笑えない状況に陥った僕は、あまりの空腹に耐えかねて冷蔵庫を漁ったのでした。

もしかしたら、過去の僕が、まだ経済的に豊かだった数日前の僕が、それこそ唐揚げ弁当ではなく調子に乗って特唐揚げ弁当を頼んでしまうほど余裕に満ち溢れた僕が、何らかの高級食材を冷蔵庫に残してくれたかもしれない。過去の自分からの素敵な贈り物。それを信じて冷蔵庫を漁りまくったのです。

こういった時の、いわば窮地に置かれた人間の行動原理とは本当に面白おかしいもので、どう考えてもありえない、と思うようなことを信じて平然とやってのけてしまいます。

例えば、僕はメインバンクの預金残高が3桁になると、日に3回ほど残高照会を行います。確かに僕の今の預金残高は数百円レベル。それは覆しようのない真実。しかし。もしかしたらどこかの叶姉妹みたいな大富豪が間違って大金を振り込んでいるかもしれない。銀行員が処理を間違えて残高が1万倍くらいになってるかもしれない。そうなった場合、訂正される前に瞬時に金を下ろしてしまうことが大切。そう信じて日々残高照会を欠かさないのです。

まあ、何年もそんなことを繰り返してるのですが、もちろん世の中ってそんなに甘くないですね。間違って大金が振り込まれたことなんてなく、張り付いたように動かない3桁の残高が不動明王のようにそこに鎮座しているだけなのです。

ですから、過去の自分が高級食材をストックしているはずなんてない、世の中そんなに甘くない、と分かっていたのですが、それでも希望と期待を捨てることができず、ゴロゴロと冷蔵庫の家宅捜索したのでした。

出てくるのはまあ、何のために購入したのだか分からない焼肉のタレですとか、いつ買ったのだか分からないマヨネーズの残骸。あと、「元気なピーマン」とか訳の分からない煽り文句の付いたビニールの袋だけという散々たる結果。予想はしていましたがこれほど酷いものとは。単体で食べられるものが何一つない。

これは致しかたないと、最後の希望を持って開けた冷凍庫。そこにはもっと酷いものがあって、霜が降りてエスキモーと化した氷点下の世界しかなかった。何か冷凍された魚類でもあれば最高だったのですが、そんなもの微塵もなく、霜と氷と雪見だいふくの空箱しか存在しなかった。冷蔵庫ってのは食材を保存するものと記憶していたのだけど、あまりの逸脱ぶりに自分でもビックリする。

さすがにこれは餓死も視野に入れねばならない、と思ったその時、僕は途方もない事実に気が付いたのです。

先日、お金の残金がいよいよ危険なリスキー領域に突入し、所持金が1000円札1枚を残すのみとなったその時、なんとかこの1枚の1000円札が2枚に見えるようにならないかと、折鶴を折る要領で1枚を2枚に見せる折り方を研究していたのです。具体的に言うとこんな折り方。



なんと、これで1千円が2千円に。この要領でいけば年収が一気に2倍に跳ね上がってしまう、平成大不況を生き抜く効果的な財テクなのです。なにせ1000円が2000円になるんですからね。2000円札でやったら4000円ですよ。5千円札以上に至っては天文学的金額になるので怖くて計算できません。

株なんて目じゃない財テクを編み出してしまい、さすがの僕も少し怖くなったのですが、そうなると人間って際限なく欲を出すものです。今度は2倍じゃなくて3倍にチャレンジだ、と3000円に見える折り方を研究しだしたのです。

何度も折っては広げ、折っては広げを繰り返し、界王拳の如く3倍になる折り方を試行錯誤したのですが、何度も折ってると札がベロベロになってくるんですね。いよいよ耐え切れなくなった札がデロリと破れてしまいまして、見るも無残に野口さんが真っ二つ。とんでもない事態に陥ってしまったのです。

1000円しかない所持金を2倍にしよう、3倍にしよう、と夢見て色々とやったのですが、その1000円すら破れて使いものにならなくなる諸行無常の侘しさ。破れた札のフラクタルな陰影を眺め、夕陽の差し込む部屋で涙したものです。

さすがにこの2パーツに分かれた、別の意味で2倍となった1000円札をコンビニで「はい」と差し出すわけにはいかない。これでは最後の生命線すら絶たれてしまう。

そこで僕のCPUは鬼のように働きましたよ。確か、破れたお札は銀行で交換してくれるはず、と古の記憶を呼び覚まし、次の瞬間にはダッシュで銀行へと向かってました。

銀行に行くと、破れた札を差し出せばすぐに新しい札をくれると思ってたのですが、なにやら名前を書かされたり身分証明を求められたり、挙句の果てには手続きのために座って待てと言う要求。窮地に追い詰められてる僕が言うのもなんなんですけど、たかだか1000円で手続き多すぎ、待たせすぎ。こんなに面倒なら、3万円くらい持ってて余裕の時だったら交換なんてしませんよ。

そんなこんなで、椅子に座って待ちつつ、1000円が戻ってきたら2倍にするとかバカなことは考えず、弁当でも買って食おう。もしくは袋のラーメンを買えるだけ買って耐え忍ぼう。それが一番賢いやり方だ、と自問自答しながら待っていたのでした。すると、そこに途方もないクリーチャーが。

年の頃は20代中盤くらいでしょうか、ヒョロヒョロの体格に、どんな美白技術を施してもそこまで白くはならないだろ、と言いたくなるほどに白い肌、陰鬱な表情をした若者が袋を携えてフラフラと銀行内に入ってきたのです。

その若者は、入り口近くにあったATMを操作していたのですが、何やら思うように行かない様子。そのままフラフラと窓口にやってきて銀行のお姉さんと何か会話を交わしていたのです。

やばい、彼の一挙手一投足から目が離せない。そう思いましたよ。明らかに異様なオーラを醸し出すもやしっ子の彼。何かとんでもないことが巻き起こるのかもしれない。もう1000円なんてどうでもいい、この異常な事態を楽しまねばならないのだ。

もやしっ子は袋から何かを取り出すと、お姉さんに次々と渡し始めました。僕が座っている角度からでは何を渡しているのか見えにくかったのですが、なんとか体をよじって確認してみると、そこにはビタミンの錠剤を入れる箱だとか、何かのサプリメントを入れる瓶だとか、もしかしたらプロテインの瓶みたいなのもあったかもしれません。

ヒョロヒョロの彼が、そういったサプリメントだとかビタミン剤に頼り切っているのは分かるのですが、それらを銀行の窓口で出す意味が分からない。彼はもしかしたら頭の中ももやしっ子なのかもしれない。かわいそうな状態になっている子かもしれない、と事の成り行きを見守りました。

ここで僕の名前が呼ばれ、不死鳥のように1000円札が蘇ったのですが、もちろん僕は帰りません。死ぬほどお腹が空いてますが、銀行から出て弁当を買いに行くなんて野暮なことはしません。椅子に座ってじっともやしっ子の動きを観察していたのです。

次々とビタミン剤みたいな容器を窓口に並べるもやしっ子。明らかに異常な行動で通報されてもおかしくないのですが、何故か平然と、それどころか次々とそれらのビタミン剤の瓶を受け取って小脇に抱えていく銀行のお姉さん。本当に何も滞ることなく当たり前のように次々とビタミン剤の瓶を受け取っていくのです。

僕の記憶が定かだったならば、銀行とはお金を預ける場所だったはず。しかしながら、いつからビタミン剤を預ける場所になってしまったのだろうか。定期預ビタミン剤とかあって、利子が付いて100錠が101錠になっちゃったりするんだろうか、などと悶々と考えていたのでした。

しかし、その謎も次の瞬間に氷解します。なんか瓶を受け取った銀行のお姉ちゃんの所からザバー、ザバーと音がするのです。なるほど、あの瓶には小銭が入っていたんだ、と全てを理解しましたね。

力也は、その名前の力強さとは裏腹にヒョロヒョロで虚弱体質だった。仕事をしても長続きせず、極度のハードワークを終えて帰宅すると食欲もなく、ただビタミン剤やサプリメントを食するだけだった。

財布を買う金もなかった彼は、ポケットの中でジャラジャラする金をビタミン剤の空き瓶に入れ始める。今日は4円。明日は6円。

しかし、4つ目の仕事を首になって数日後、力也はいよいよ有り金が尽き果てた。高貴な紳士が間違って金を振り込んでないか残高照会を何度もする。高級食材が入ってないか冷蔵庫も漁った。しかし、いよいよ餓死も視野に入れねばならないとなった時、ビタミン剤に入れた小銭を思い出したのだ。数えてみると1円玉で1000円はある。これだけあれば何か食材が買える。

しかし、1000枚の1円玉をコンビニで出すのは恥ずかしすぎる。そうだ、銀行で札に変えてもらおう。そう考えたに違いありません。最初は恥ずかしすぎてATMで自分の口座に1円玉を入金、その後に引き出そうとしたのかもしれませんが、たぶん1000枚も入れたらATMが溢れてぶっ壊れると感じたのでしょうか、そのまま窓口に流れてきたに違いありません。

形は違えど、なんとか餓死を避けようとする男が一つの銀行で出会った。一方は破れた1000円札を、もう一方は小銭を1000円札に、二人に共通しているのは何とか餓死を避けて1000円を手に入れようとする気概、生への執着です。こんなヒョロヒョロのな彼だって、彼にとっては死ぬほど重い小銭を抱えて銀行に来てるんだ。

生き物全てに共通することですが、生への執着心とは物凄いものがあります。極稀なる例外を除けば、全ての生き物は生きることを前提に行動しているのです。これって当たり前すぎて分かりにくいのですが、実は凄いことなんですよ。

ぶっちゃけると、僕ももやしっ子も餓死しそうなら餓死してしまっていいのです。コロッと餓死してしまっていいのです。しかし、それを思い留まらせ、餓死しないために全ての手段を講じる、破れた札やビタミン剤の瓶を持って銀行に押し寄せる大いなる意志が僕らの中には存在するのです。

それはきっと、自分の子孫を、自分のDNAを後世に残そうとする働きなのかもしれません。そう、血を繋ぐために僕らは必死に今を生きてるんだ。僕のようなカスだって、今にも死にそうなヒョロヒョロのもやしっ子だって、遺伝子を残すために必死で生きてるんだ。

と、もやしっ子のビタミン剤貯金から命の鼓動の偉大さを学び、真新しい1000円札を手に銀行を後にした僕は、全ての問題を根本的に解決し、悠々と子孫を後世に残せるよう、宝くじ売り場に行って1口200円のロト6を5口買ったのでした。4億円目指して。すごいよな、生きようとする力って。

宝くじの結果?当たってたら今頃冷蔵庫を漁ったりしているはずがない。

なんとか食べられるものがないか霜と氷にまみれたエスキモーな冷凍庫の奥底を漁った結果、氷を作るコーナーの下のほうから冷凍されたイカの切り身みたいなものがカチンカチンになった状態でビニールに包まれて発見されました。

これは食い物かもしれない!とレンジでチンして回答した結果が、ドロドロの液状のものになり、なっていうかその、見紛う事なき僕の分身たちでした。

そういえば、1年くらい前、冷蔵庫を手に入れた時に、僕にもしものことがあった場合、コレを解凍して僕の子孫を作って欲しい、という切なる願いから精子を冷凍保存をしたのを忘れてました。15回分くらいは冷凍されてた。こんなもん食ったら栄養ありそうだけど気持ち悪い。

すごいよな、子孫を後世に残そうとする力って、死んでもいいように冷凍保存までさせちゃうんだから、と思いつつ、今日はスーパーの試食コーナー荒らしとしての才能をいかんなく発揮するのでした。是非とも、この才能も子孫に受け継いで欲しい。


11/16 マーカ・ブーチャ

11月16日がやってきた。

人生においてこれほど意味がある日があっただろうかと思うほど、僕はこの11月16日という日付に注目していた。11月16日、格闘技風に言うと11・16、この日に何が起こるんだろう、と数ヶ月前から期待でいっぱいだった。

そもそも、僕らのチンケな人生において意味のある日と言える日付が何日くらい存在するのだろうか。入学式、卒業式、成人の日、そんな誰かが用意した儀式の日付が重要だなんて口が裂けても言えない。生まれた日が重要だとも、死ぬであろう日付くらいは重要だろうと思いそうにもなるが、そもそも歴史的功績を残すわけでもなく、死後1年もしたら誰も覚えてないであろう自分の生まれた人と死んだ日が重要だなんて思えない。

そうやって考えると、重要な日なんてほとんどなくて、ましてや数ヶ月前から「この日が来たらどうなっちゃうんだろう!」と注目するほどの日付なんてそうそうあるはずがない。そんな中にあって、僕は11月16日という日付に並々ならぬ期待を抱いていた。

僕の職場には3ヶ月くらい書き込める日付入りのホワイトボードが存在する。1から31までの数字が枠の中に振ってあって、その横に空欄が存在する、言うなればスケジュール管理用の大きなホワイトボードがある。

これは物忘れが激しい僕のために特別に配備された備品で、ここに会議の予定だとか書類の提出期限、納期などを書き込むようになっている。社運と僕の人生を賭けたような重要な会議をド忘れし、家に帰って鼻くそほじりながらハンターハンターを読んでいた僕のために急遽用意された逸品だ。

10月30日 日曜日
10月31日 16時から企画会議
11月01日 ○○納期 期限厳守
11月02日 出張 ○○へ ちゃんとした服装
11月03日 ヒマ
11月04日 健康診断

ちょろっと例を書き記すとこんな感じになっていて、自分の予定を忘れないように思い思いにペンで書き込むようになっている。これのおかげで会議すっぽかしが減ったのだから人類の知恵とは余程に偉大なものだと痛感する。

あれは9月も中旬に差し掛かった日のことだった。何気なしにホワイトボードを眺めていると、その中に異様な書き込みが存在するのに気が付いてしまったのだ。

このホワイトボードは3か月分書き込める仕様になっており、9,10,11月分の予定が書き込まれているのだけど、明らかに11月中盤の予定がおかしい。普通なら会議とか納期とかお堅い予定が名を連ねているのだけど、ちょうどその部分には、

11月13日 日曜日
11月14日 全体会議10時から
11月15日 保険証とハンコを持ってくる
11月16日 レイザーラモン鈴木
11月17日 ○○納期&○○○納期 5時まで
11月18日 ○○締め切り 総務に提出

11月16日 レイザーラモン鈴木。

いやいや、おかしい。おかしすぎるじゃない。なんで仕事の予定がビッシリ書き込まれたホワイトボードにこんな一瞬で消えかねない芸人風の名前が書いてあるんですか。予定がレイザーラモンって何だ。そもそも何で鈴木なんだ。

この予定表は文字通り僕専用で、僕以外の人間が見ることも書き込むこともないわけで、そもそも僕の筆跡なわけで、間違いなく僕が書き込んだはずなんですけど、何を考えて僕がこのようなことを書いたのか皆目思い出せない。一体16日に何があるのか。

仕事以外の予定をここに書き込むはずがないのですから、間違いなく仕事関連の何かであるのでしょうけど、その内容が思い出せなさ過ぎる。

もしかしたら本当にレイザーラモンが職場にやってきて「残業フォー」とかやるんじゃなかろうか、と一瞬考えたのですけど、それだと鈴木の部分が解決しない。謎過ぎる、いったい11月16日に何が、と一人でワクワクしていたのです。

自分の予定を自分で書き記した予定表であるはずなのに、その予定に謎の部分が存在する。全く持って意味ないのですが、それでもこの「レイザーラモン鈴木」は僕の日常における一服の清涼剤となったのでした。

締め切りがきつくて泣きそうな時も、会議の準備が深夜に及んで盗んだバイクで逃げ出したくなった時も、夜の会社窓ガラス壊して回りたくなった時も、11月16日に何が起こるのか見届けるまで挫けてはならない、と自分を励まして頑張ることができたのです。

そしていよいよ問題の11月16日がやってきました。一体この日は何が起こるのか、どんなイベントが巻き起こるのか。朝からワクワクしながらデスクに向かっていたのですが、一向に何か置きそうな気配がない。いよいよ廊下ですれ違った同僚に「ボーナス15%カットフォー!」とかやろうとも思ったのですが、あいにく僕はそんな芸風でもない。

昼休憩が過ぎ、何も起きない状況にイライラしている時、一つのイベントが起きたのです。

僕の職場を訪ねてきた得意先の会社の人。少し小太りなその人がえびす顔で山ほどの書類を抱えてやってきたのです。一瞬、この人がハードゲイで鈴木って名前なのかな?あの予定はこの人が来ることを表してたのかな?とも思ったのですが、その人はゲイな雰囲気もしなければ鈴木と言う名前でもない。これはあの予定とは違うんだと感じました。

「先日お伺いした時に、ほんの触りの部分を話し合ったわけですが」

なにやら企画書みたいなのを取り出して淡々と説明する得意先の人。この人に2ヶ月前に会った?僕が?と謎めく思いを抱えながら説明を聞いていたのです。すると、途方もない事実に気が付いてしまったのです。

あ、この人、パパイヤ鈴木に似てる。思い出した!2ヶ月前に会った時、あまりにパパイヤ鈴木に似てるものだから心の中で勝手に鈴木って命名したんだった。

小太りな体格、あまりにファンキーな髪型、顔の感じまでパパイヤ鈴木の生き写しと言っても過言ではない彼は淡々とプロジェクトの説明をしていました。

コイツが2ヶ月前の僕の心の中で「鈴木」と命名されたとなると、やはり予定表の「レイザーラモン鈴木」の「鈴木」の部分はコイツが訪ねてくることを表しているに違いない。となるとレイザーラモンの部分にも何かあるはずだ。

彼のレイザーラモンな部分を探そうと、デスク越しに彼が不自然に腰でも振っていないかと確認するのだけど振っている様子はない。まさか本人に直接「ハードゲイですか?」と聞くわけにもいかない。何かあるはずだ、2ヶ月前の僕にレイザーラモン鈴木と書かせた何かがきっとあるはずだ。

その時、衝撃の事実に気が付いたのです。

企画の説明を懇切丁寧にしてくれてるパパイヤ似の彼。どうにもこうにもその語尾がおかしい。

「ですから、この点を考慮すると非常に優位性があると言うわけなんです。フォー。」

「そうですね、他者に比べて当社の方がコストの面でも優位だと言えます。フォー」

いやいや、おかしいじゃない。おかしすぎるじゃない。と思うのですが、なんか彼、語尾にフォーが付くんです。完全に「フォー」って言い切ってるわけじゃないんですけど、喋り終わる度に息継ぎみたいな感じで深く呼吸をされるんですけど、その呼吸音がモロにフォーなんです。分かりやすく説明すると、ウォーズマンの呼吸音が「コーホー」ではなく「フォー」だった感じ、全然分かりやすくない。

これで全ての謎が氷解しましたよ。じっちゃんの名に賭けて謎は解けましたよ。彼の呼吸音からレイザーラモンを連想し、外見があまりにパパイヤ鈴木に似てるから「レイザーラモン鈴木」と11月16日に書いた。そういうことだったのです。

そんな小粋なことをお堅い予定表に書くなんて、2ヶ月前の自分もなかなかニクイ演出するなあ、と感心しておったわけなんですが、

「で、本日は2ヶ月前にお約束した、そちらの企画書を頂きたいのですが」

という衝撃のセリフ。ハードゲイの衝撃の告白。いやいや、そんなの1ミリもできてませんがな。というか、アンタが来るのすら忘れてたのに、書いてるはずありませんがな。

という衝撃の展開になったのでした。まさか、「忘れてました、1ミリも書いてません」とカミングアウトするわけにもいかず、「いやー、まだちょっと細部を詰めてる段階で、次回にお渡しします」と誤魔化しておきました。

仕事の話も終わり、なんかかれと雑談しながら予定表の話に及び

「あ、いいですね、こういう予定表。ウチにも欲しいんですよね。この11月16日のレイザーラモン鈴木ってなんですか?」

とすっごい気さくな感じで聞かれたのですが、まさか「お前のことだよ」と言うわけにもいかず、「ああ、そういう企画がありまして」と物凄い苦しい言い訳をしたのでした。

物忘れをしないように導入された予定表だったのに、その書いた内容すら忘れて、おまけにその内容の謎解きに夢中になって大切な企画書のことを忘れ去る。一体何のための予定表なのか皆目分かりません。

そもそも覚えておかねばならない重要な日付などこの世にはほとんど存在しないのです。ホワイトボードの予定のように書いては消して書いては消しての繰り返し、僕らが生きた後には何も残らない。だったら最初から忘れてしまえばいいのです。

と、自分を励ましながら、レイザーラモン鈴木に要求された企画書を涙ながらに徹夜で作成するのでした。「残業フォー!」と一人オフィスで叫んで自分を励ましながら。

次は12月21日に「B'zのギターのほう」とだけ書かれた予定が存在します。全く何のことなのか分かりませんが、今から楽しみで仕方ありません。


11/12 魔の郵便受け

郵便受けとはパンドラの箱です。そこには開けてはならない禁断の魔が多数存在し、それを開けるという事は悪魔と契約し、どんな不幸でも甘んじて受け入れるという覚悟が必要なのです。

我が家の郵便受けを開けると、そこには家賃を払えという脅迫状、電気を止めるぞという脅迫状、契約を解除するぞというネット会社や電話会社の脅迫状、治安の悪い南米の国みたいな無秩序さが存在するのです。多数の不幸が大挙して押し寄せる、まさにパンドラの箱。死ぬほど怖い。

先日もナントカコミュニケーションズというところから、利用料を払わないと止めるぞという過激な文面の手紙が届いたのですが、


なんと、その滞納額が40円という驚愕のもの。40円ですよ、40円。どうやったらこんな請求額になるのか不思議でしょうがないのですが、こんな微々たる金額で止められそうになるのですから僕の経済状況は逼迫しているとしか言いようがありません。というか、日本の経済が狂ってる。ヒルズ族とかセレブとか敵対的買収とかハードゲイとか景気のいい話が飛び交う一方で、40円でネットを止められそうになる男がいる。アヘン戦争直後の中国の如き貧富の差です。

そんな事情もあってか、一日の仕事を終え、疲れた体を引きずりながら帰宅、すると目の前には郵便受けがあるわけなのですが、いったい今日はどんな脅迫が待ち構えているのか、と恐怖で自然と僕の右腕も震えるというものです。ユウビンウケコワイ、と何故か片言にもなるってものです。

その日も、仕事で疲れ、ミッドナイトシャッフル!とか訳の分からないことを呟きながら歩くほどに精神状態が荒んでいたのですが、そんな僕がアパート入り口の郵便受けコーナーに辿り着いたのです。すると、いつものように郵便受けは禍々しきオーラを放ち、不幸が大きな口をポッカリあけて今か今かと待ち構えてるように感じたのです。

普段の屈強な僕でしたら、家賃の督促やらの脅迫状でも電気を止めるぞという過激な脅迫状でもちぎっては投げちぎっては投げ、家賃なぞ3ヶ月滞納しても大丈夫、それ以上は勝手に鍵を変えられるが、まだいける!と荒ぶる戦国武将のような、猛将のような豪胆さを見せ付けるのですが、なにせ疲れて精神的に弱っている僕です、今、過激な文面の脅迫状が届いたら心が折れてしまう。僕の翼が折れてしまう。

しかし、怖いからと言って開けないわけには行きません。脅迫だって虐めだってそうですが、大切なのは立ち向かう勇気なのです。メソメソと泣いてたら誰かが助けてくれるなんて甘い幻想、立ち向かわなければ電気を止められたり鍵を変えられたり、やりたい放題にされてしまうのです。

頑張らねばならない。立ち向かわなければならない。僕は意を決して郵便受けを開けたのでした。すると、そこには驚愕の事実がぽっかりと口を開けて待ち構えていたのです。

裏ビデオ販売のチラシ。

いやいや、おかしいじゃない。おかしすぎるじゃない。時代錯誤もいいところじゃない。あのですね、今やインターネットやブロードバンドが隆盛の時代、エロいビデオを見たいと思ったらお気軽にダウンロードできる時代なんですよ。それこそパシッとやってバスッとやれば簡単にパソコンでエロビデオが見れちゃうわけ。

そんなご時勢にあって、誰もレンタルビデオ屋に行ってエロビデオを借りるわけもなく、巷のビデオショップのエロビデオコーナーは縮小傾向にあるわけなのですが、それに伴ってか、こういった不法な裏ビデオ販売も衰退傾向にあると聞きました。そりゃ、ネットで落とせるのに誰も家の外で入手しようなんて思うまい。

裏ビデオとは、簡単かつストレートに言ってしまうとモザイクの入っていないエロビデオのことです。僕らがビデオ屋で借りて大興奮するエロビデオはいわゆる表ビデオで、局部には必ずモザイクがかかっています。下手なドアップ系のチュッパチャップス系のビデオになると、それこそ大部分にモザイクをかけねばならず、画面全部がモザイクでなんのこっちゃわからない、サイコな映画作品を見ている気分になることも多々あります。

しかし、表があれば裏がある、モザイクがあればその向こう側が見てみたくなる、ぶっちゃけ、女の子のアソコを見たい、それはある種仕方のない人間の心理でありまして、ブルーフィルムから始まり、家庭用ビデオの発展と共にひっそりと売られていったのでありました。

しかし、こういった裏ビデオ販売、どの時代でもそうなのですが、下半身に直結した事柄は詐欺に繋がりやすいという基本原理が存在します。それは、性的な本能に訴えかければ男ならどうしても止まらずひっかりやすい、さらに被害にあっても恥ずかしくて訴えにくい、という魅惑の好条件が揃ってるわけで、今まさに問題となっている架空請求詐欺なんかもその一環に過ぎないのです。

つまり、こういった、特に各家庭にチラシを配布して裏ビデオを販売する業者は詐欺の可能性が高く、高い金を払って購入しても裏ビデオなんてナッシング。物凄いダビングを繰り返された画質の悪い普通のモザイクビデオが送られてくるのならまだ良心的なのですが、酷いのになると何も入ってない空テープやら、別の番組が録画されてるテープが来るなど、握り締めたチンポとティッシュが空しくなるような憂き目にあうのです。

かくいう僕も、今から8年くらい前でしょうか、大学生だった時分に随分とこの手の裏ビデオ宅配には騙され続けまして、ちょうど当時はこの手の詐欺の全盛だったこともありまして毎日のように上記のようなチラシがアパートの郵便受けに投函されていたのです。

そのチラシを見て真剣に買うべき裏ビデオを吟味。時には友人などにも深刻に相談し、やっぱ「放課後の体育倉庫でブルマ姿のロリ」は外せねーよな、などと真剣に吟味。ドキドキしながら注文。親からのなけなしの仕送りを食費を切り詰めて投入したにも関わらず、思いっきり空テープが送られてきて枕を涙で濡らす、そんなことを繰り返した大学生時代。たぶん8回くらい騙されたんじゃないかと思う。

考えてもみてください。ものすごい裏ビデオが来るのを今か今かと待ち構えているところに空テープが送られてくる衝撃。その後、仕送りを使っちゃったものだから食費がなくなってフリカケだけで過ごす毎日。ご飯にフリカケじゃないですよ、完全にフリカケだけを食す毎日。シャケ味が美味。ホント、涙なしでは語れない。

あの頃は本当に右も左も分からなかった。ただ裏ビデオが見たいだけで必死だった。裏ビデオさえあれば大学の期末テストも乗り切れるって漠然と思っていた。世の中の人が、そうやってよってたかって騙してくるなんて微塵も思わなかったし、なにより、エロビデオという神聖な領域で醜い骨肉の騙し合いが行われるなんて思ってもいなかった。だってそうじゃないですか。同じ男なら気持ちは分かるはずですよ。エロビデオに、特に裏ビデオに賭ける気持ちは分かるはずですよ。そこを狙って詐欺をするなんて、最も卑劣なる行為じゃないですか。

思えば、僕がこうやってサイトで幾多の詐欺行為と戦うことになった原点はこの裏ビデオ詐欺にあるかもしれない。こういった卑劣なる行為を憎む感情が芽生え、フリカケを食した日々が走馬灯のように思い出されます。

あれから8年が経過し、時代がビデオテープからDVDへ、そしてネットでの動画配信に移り変わると共に、それを取り巻く社会状況も大きく変化してきました。架空請求やオレオレ詐欺、リフォーム詐欺が隆盛を極め、誰かが誰かを騙すのが当然の世界。一昔前は詐欺なんてどこか遠くの他人事のように感じていた部分もあったのですが、それが今や本当に身近です。こんなに詐欺に触れることができる現代社会は病んでるとしか言いようがない。

そして、他ならぬ僕自身も僭越ながら大きく成長したかのように思います。8年前は何がなにやら分からず、お金を払えば裏ビデオが手に入るって漠然と考えていた。人が人を騙すなんて、ましてや自分が詐欺の被害にあうなんて考えてもいなかった。そう、ある意味ピュアだった。

しかし、あれから出会い系サイトやら架空請求やら多くの詐欺的業者と対決した僕。少なからず戦い方も分かってきたような気がするし、絶対に騙されないという自負もある。今の自分が8年前に存在していたのなら、泣きながらフリカケを喉に流し込む日々もなかっただろうにと悔やむこと山の如しだ。

もう一度、あの裏ビデオ販売と対決してみたい。8年前に騙され続けたあの日々を、梅味のフリカケは単品で食うには味が濃すぎると涙したあの日々を賭して勝負をしてみたい。今ならきっと負けない。そう思って日々を過ごしていたのですが、前述したように裏ビデオ宅配詐欺は衰退の一途。

こんなネットで手軽にエロ動画をダウンロードできる時代に誰もリスキーに裏ビデオ宅配に手を出すわけもなく、おまけに詐欺する側ももっと手軽な架空請求やオレオレ詐欺に手を出するのが自然の流れと、8年の間、全くこの手のチラシを見ることなく月日は流れて行ったのです。そう、リベンジの機会がないまま。

しかし、8年の歳月を超えてついに裏ビデオ宅配のチラシが我の前に現れた。もはや完全に絶滅したと思われた詐欺が僕の目の前に。時空を超えて 一体何度我々の前に立ちはだかってくるというのだ!裏ビデオ詐欺!と郵便受けの前で叫んでしまったほどです。

8年ぶりの再会に心ときめきいてしまった僕、早速ではありますが件のチラシの分析を始めます。

何気に時代に即してDVDに対応するようになっているのが笑えるんですが、実はこのチラシを見るだけでも多分に詐欺と判定できる部分があるのです。今思うと、8年前の自分はなんでこんなのに騙されちゃったんだろうと思うほどに見え見えの詐欺。こんなのに騙されてフリカケなんだから、性獣であり、なおかつそれなりに自由になるお金が幾分はある大学生という立場は恐ろしい。騙されやすすぎる。

とりあえず、おかしい部分をいくつか挙げてみましょう。

1. 60分スピード宅配

よくわからんイラストのお姉ちゃんも言っているように、電話をかけて注文すると60分以内に裏ビデオが宅配されるらしい。ピザ屋もビックリのきめ細かいサービスだ。しかし、地域に根ざしたサービスをしている比較的規模の大きい商売、それこそビザ屋とかならともかく、こんなアンダーグラウンドかつ小規模であろう商売が宅配サービスをしていて利益が出るわけない。交通費や人件費で完全に赤字になるはず。注文数が多い都会ならまだしも、こんな片田舎でこの宅配サービスは無理がある。

2. 販売作品が流出作品ではない

詳しく書くと死ぬほど長くなってしまうので割愛するけど、裏ビデオとして流通している作品は確かに存在する。しかし、それはある程度決まった作品か撮り下ろしの自主制作物に限定される。有名なAV女優物が裏ビデオとして流通したのならば、それはある程度の騒ぎになるのだが、このチラシには全く裏に流出した噂を聞かない一線級で活躍する女優が並べられている。そんなもの存在するわけないのに販売しているとはこれいかに。

3. 画像がおかしい

チラシに記載された代表的な紹介画像を肖像権に配慮して並べてみる。これを見て何か気付かないだろうか。そう、全てがグラビアから切り抜いてきたかの如き綺麗さを誇る写真なのだ。

もしこれらの作品の裏流出ビデオがあるのなら、わざわざグラビア写真をパクって来る必要はない。そのビデオのキャプチャ画像を多少マイルドな場面を選んで載せれば済むこと。そのような作品自体が存在しないからこのような紹介画像になってしまう。

4. セット販売

これは常套手段。最低でも1万円からの注文しか受け付けないという姿勢。本当に裏ビデオであるのなら1本からの注文を受けても十分にリピーターが見込まれる。しかし、最低でも5本、場合によっては10本を買わなければ注文ができない。完全な詐欺であるからリピーターは見込めず、1回の騙しあたりでなるべく多くの金額を取らねばいけないという配慮がここにある。騙して1本売れました2千円でした、では全然儲からない、そこでまとめ売りで一網打尽というわけ。

5. 記述の矛盾

  

「蔵出し」なのに「産地直送」で「とれたて」とはこれいかに。というか、裏ビデオの「産地直送」が何を意味するのか皆目わからない。「とれたて」にいたってはもっと意味が分からない。

6. 説明文がおかしい

これは小倉ありすの裏流出と称する作品の内容説明で「エッチなお汁」だとか「ベチョベチョ」だとか魅惑的な単語が踊り狂ってるのだけど、それ以上に注目すべきは、

あチン○ン。

この記述、伏字が何なのか気になりますが、おそらく「あチンチン」と言いたかったのではなかろうか。すると、それは何なのか多分に気になるところです。巧妙なレトリックが仕掛けられている可能性があります。

とまあ、一見してこのチラシがおかしすぎることが分かりまして、1000%詐欺であることは分かりきってるのですが、次に幾多の裏ビデオ詐欺に引っかかった僕がこの手の詐欺の手口を簡単に説明してみます。

まず、電話で注文をすると詳細に住所を聞かれます。そして、「今すぐバイクで配達に行くので待っておいてくれ」と言われます。その際に、「もしかしたら道順が分からなくて行けない場合もある、その際は後日郵送になる」と言われます。

しかし、待てど暮らせど宅配は来ません。痺れを切らして電話すると「配達のバイトが道に迷った、後日郵送で送る」だとか言われます。で、何日かすると代金引換とかで箱が送られてきます。そこで料金を払って荒ぶる神々のように乱暴に箱を開けるとそこには空テープ。砂嵐を見て泣きながらフリカケだけを食べることになるのです。

酷いのになるとそこからさらに金を毟ろうとしてきて、「当局の取締りが厳しいため、最初は空テープをカモフラージュとして送っている。1万円を同封してこの空テープを送り返してもらえば本物を送る」などの手紙が同封されている場合があります。

冷静に考えると何のカモフラージュなのか全然分からないのですが、猛り狂った獅子たちはさらにお金を同封して空テープを返送。そして何も音沙汰ナッシングで泣きながらフリカケを食べるのです。さらに金を毟って、おまけに騙しに使った空テープすらも回収する血も涙もない手法です。お前らの血は何色だと問いたい。

つまり、こういったやり取りにおいて「後日郵便配達」というのが重要になるわけです。この手の業者は宅配で直接手渡しは絶対にしません。何かしら理由をつけて後日代引きでの郵送にします。僕の過去の例では「配達の途中で道に迷った」から始まって、「配達途中で同業他社の妨害工作にあった」というのまで様々。なんだよ、妨害工作って。この街はそんなに裏ビデオ戦国時代に突入してるのか。とにかく、絶対に何かしら理由をつけて後日郵送にしたがります。

つまり、後日郵送で金払って受け取るから騙されても対抗手段がないわけで、直接宅配に来させてその場で確認、あチン○ンとかがモザイクなしで映ってるのを確認すればいいのです。それで安心。

ということで、常套手段である「配達のバイトが道に迷った」という言い訳が使えないよう鉄壁の守備をおく必要があるのです。具体的には、「駅の西口で待ってるから持ってきてくれ」「分かりやすい場所で待ち合わせしよう」「むしろこちらから取りに行く」「麻薬の取引のように波止場でやろう」などが思いつくのですが、これのどれかを強硬に主張してやろうと計画しました。

電話をかける前に、どうせ詐欺でこのチラシの裏ビデオが買えるわけないんですが、買えちゃった場合に駄作を掴んでしまったら死ぬほど後悔するだろうという状況を鑑みて、とりあえず真剣に欲しい作品をリストアップしておきました。

買えるはずがない、これは詐欺だ。と思いつつも「春菜まい」あたりをチョイスしていた僕がちょっぴり本気印でカワイイと思いましたし、やはり小倉ありすの「あチン○ン」だけは外せないよな、と真剣に悩んだものですから、まるで8年前にタイムスリップしたかのような錯覚に陥りました。

さて、これで準備は整いました。8年前の苦悩の日々、8年間の鬱積した想い、ついでにあまりにしつこい家賃の督促の恨みを晴らすべく、僕は闘いという名の海へ漕ぎ出すのです。かかってこいや!裏ビデオ業者!

業者側が「宅配できない、後日郵送で」と言い出そうものなら「なめんな!今から取りにいく!落ち武者の格好して取りに行く!」とブチギレる準備もできてますし、「早くあチンチン見せろよ!もうお前のでいいよ!あチンチン見せろ!脱げ!」と大爆発する準備もできています。復讐心のあまり冷静さを失うかもしれない自分を戒めるため、フーッと深く深呼吸をし、携帯電話を取り出してついにチラシの番号に電話をしたのでした。

ツーツーツーツー

しかし呼び出し音がならない。注文が殺到して話し中なのかな?とも思ったのですが、どうやら僕の携帯電話のほうが料金未納で止められている様子。

いやそんなまさかね、そんなはずないよ。こいつはAUのサービス自体が落ちているに違いない、と自分の非力さを認められず、AUの障害情報か何かの情報をネットで確認しようとパソコンを立ち上げてネットに繋ぐのですが、繋がらない。

で、携帯もネットも止められたー!ってなもんですよ。

電話の方はいくら未納なのか知りませんが、ネットの方は上述のようにガチで40円未納で止められた様子。ついでにいうと、その前には電気も止められてた。電気だけはなんとか復帰したけど、さすがにネット料金には手が回らなかった。というか、40円じゃあ止められないと余裕ぶっこいてた。

40円未納で生命線ともいえるネットとの接続を断ち切られる。こいつは裏ビデオ購入とかそんな次元の話じゃないぜ、もう一度体勢を整えて、主に経済面で整えて再度8年後にリベンジするしかないぜ、とフリカケだけを食べながら思うのでした。

ホント、郵便受けの督促状が怖すぎる。あチン○ンが縮こまるほど怖すぎる。


11/3 第2回オナッセイ大賞

もっとオナニーに対してオープンでいいじゃないか。

誰もが気軽にオナニーを語れる世界にしたい、丸の内のOLが給湯室で前日のオナニーやオススメオナニーを噂するような世界にしたい。学級崩壊に悩む新米先生が生徒たちの心を掴むために授業の最初に雑談でオナニーについて語る世界にしたい。そんな信念に基づいて行われたのが前回の「美しいオナッセイ大賞」だった。

オナニーの話がオープンにできるユートピアを創造するには、まずオナニーの地位を向上させるのが先決であると考えた。オナニーに対するイメージを思い浮かべた時、多くの人が「恥ずかしい行為」「できれば隠したい行為」などと強烈なマイナス傾向を見せるだろうけど、まずそれをプラスの意識に変えることが重要だ。

人のイメージとは簡単に変わりやすいもので、この間、たまたま観たテレビでやってたのだけど、それが非常に分かりやすいイメージ操作の図式になっていた。

どっかの外国では若者がエミネムのファッションを真似るもんで、それが治安低下、若者たちの非行化に繋がると困っていたらしい。これを何とかしようと立ち上がったのが街の老人で、老人たちが街のあちこちでエミネムファッションに身を包んだらしい。すると、若者たちは、「老人と同じファッションなんてだせぇ!シット!」みたいな事を言ってエミネムファッションをやめるようになったらしい。

これこそがイメージ操作の最たるもので、「エミネム、超クール!」なイメージを一瞬にして「老人ファッション」のイメージまで貶める究極のファインプレイ。僕はまさにこのイメージ操作をしたくて「美しいオナッセイ大賞」を催したのだった。

例えば、今、このオナニーが忌々しきマイナス的な禁断の行為として封殺されている世の中にあって、オナニーの話を耳にする機会とはどんな時だろうか。

せいぜい、クラスのエロキャラ坂田君が言う、「俺さー、昨日、谷亮子で3回も抜いちゃって、ゲヘヘ」のような面白くもなんともない耳が腐りそうな下賎な話くらいじゃないだろうか。昨晩の回数をカミングアウトされても困るものがあるが、そんな場合にしかオナニー話を聞かないものだからまたオナニーのイメージが低下し、恥ずかしく秘めたるものなる。そしてまた下賎な場合にしか話されなくなる。この負のスパイラル。

この負のスパイラルを抜け出すにはどうしたらいいか。それはもう、下賎なオナニー話を抜け出して美しいオナニーの話をするしかないわけで、耳障りの良いオナニー美談を語り継いでいくことでオナニーに対するイメージと価値観を良化させる、それしかないわけなんです。

電車男の大ヒットで秋葉系のオタクがのイメージが向上したのと同じく、オナニーもその美談でイメージを良化させる。それこそがオナニーオープン化の近道です。ということで、

第2回オナッセイ大賞 大募集

募集 
オナニーに関する美しい話を送ってください。実話である必要は全くありません。文量などに制限はございませんが、既にどこかで発表された作品はご遠慮ください。

あて先
「お名前(HN)」「ご自身のHP(あれば)」「作品タイトル」「作品」を忘れずに書いてpato@numeri.jpまで。メールのサブジェクトを「美しいオナッセイ係」としてください。

審査方法
集まった応募作の中から、作品の体を成しているものを選んで3名の一次審査員により審査します。審査後、各推薦作品をNumeri上にアップロードし、皆様の投票によって大賞を決定いたします。

締め切り 11/10まで

賞品
優勝者様のご希望になるべく沿う形で賞品を用意いたします。

前回大会は200近い猛者から作品が集まり、どれもこれも美しいオナニー話で審査しながらホロリと涙したりしたのですが、今回も前回を上回る素敵作品をお待ちしております。

美しいオナッセイと言われてもどんなの書いていいのか分からない、という方もおられると思いますので、前回大会決勝戦のノミネート作品を見てもらうのが早いと思います。

前回優勝作品  「闇夜で雪は
ノミネート作品 「無題」 「兄貴」「春のできごと」「オナニーを忘れて」  「オナニーの無い世界で」「無題」「涙の精子」 「ハメ次朗」「無題

投票結果 http://vote3.ziyu.net/html/onani.html

これでも分からないという困ったちゃんのために、こちらでも作品例を書いてみました。これが前回の僕のノミネート作品です。予選落ちしました。これを参考にしてみるのも手かもしれません。
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「トランペットに憧れて」

ニューヨーク摩天楼の喧騒は、ヘルナンデスにとってどこか懐かしく、それでいてどこか鬱陶しかった。彼はボンヤリと地下鉄に乗り、車窓を眺め、暗闇の中を時折通りすぎる誘導灯の明かりの数を漠然と数えていた。

窃盗、傷害、詐欺、幾度となく犯罪を働いたヘルナンデスは、悪い事なら人殺し以外何でもやったという自負があった。悪事とは、学も取り柄も後ろ盾もない自分が生きていくための必要手段であり、何も悪びれる事も恥じる事もないと思っていた


もう何度目だったか忘れたが、彼はまたつまらない窃盗で逮捕、起訴されて刑務所に収監された。収監される度に刑期も長くなり、今回は実に5年もの期間シカゴの
刑務所に収監されていた。

ヘルナンデスは出所するといつもニューヨークに舞い戻っていた。これまで全米各地の刑務所に入ったが、出所するとその足でニューヨークへ。生まれ育った街とはいえ何の当てがあるわけでもない、それなのにいつも舞い戻っていた。

やはりドブ臭いスラムといえども自分の生まれ故郷、そんな懐郷的感情が自然と足を向けさせていると感じた事もあったが、そんな甘ったるい感情があることを認めたくなかった。ニューヨークは大都会、それだけに犯罪がやりやすいから帰るのだと自分に言い聞かせていた。

きっちり3秒間隔で真っ暗な闇の中に目映い光が流れる。その光は地下鉄の窓ガラスを越えてヘルナンデスの黒い肌を照らす。車内に人影は少なく、遥か向こうの方の座席では酔っ払いが死んでるんだか寝てるんだか分からない体勢で横になっている。

「どうして自分はこんなのになってしまったのだろうか」

出所してから故郷のスラムに到着する間、彼はいつも漠然と考える。もっとマトモな人生があったのではないだろうか、自分は今からでもやりなおせるんじゃないだろうか、悪事を止めて真っ当に働いてみようか。思うに、刑務所からスラムまでの移動時間こそが堅気に戻るチャンスなのかもしれない。

そんな感傷的な気持ちが芽生えるのはスラムに到着するまでで、到着すると次はどんな悪事を働こうか考えてしまう。やはり、生きていくためには仕方のない事だから。

「やはり自分は誰かに必要とされたかったのだろうか」

分岐点は分かっていた。まるで列車の分岐点の如く枝分かれしたレールが2つ延びている。それが正解だったか分からないが、自分はその片方を選択した。そして、今のように悪事に染まった人生を過ごしているのだ。

幼い頃、ヘルナンデスは夢に燃えていた。夢は華やかな舞台でスポットライトを浴びるトランペット奏者だった。ヘルナンデスの父は清掃業者で日銭を稼いで食い扶持にしていたが、劇場の清掃についていった際、本番前にステージの上でトランペットの練習をする奏者が輝いて見えたのだ。

同級生の友人がスラムにたむろし、ドラッグ等に興じる間、ヘルナンデスは真面目にアルバイトをしていた。トランペット奏者になるため、その練習の為にトランペットを買うために。

配達のアルバイトをしている時、ふと商店のショーウィンドウが目に留まった。スラムの外れにあったその店のショーウィンドウには目映いばかりの楽器達が飾ってあったのだ。それらは黄金色に輝いており、ヘルナンデスの目には本当に金銀財宝のように映っていた。

「欲しい、トランペットが欲しい」

ヘルナンデスはガラスにべっとりと張りつきトランペットを眺めた。トランペットに張られた値札は、食うに精一杯のヘルナンデスには到底届きそうもないものだった。ただ何時間も何時間も、窓ガラスに張りつき穴が開くようにトランペットを眺めることしかできなかった。

「ヘイ、ボーイ、そんなところで何してるんだ!?」

店の奥から恰幅の良い、初老の白人男性が険しい顔でやってきた。その店の主人が怒っている事が手に取るように分かる、それほどに恐ろしい表情だった。

「お前のように汚い子供が店の前にいたら迷惑だ。売れる物も売れなくなっちまう、帰れ帰れ!」

ものすごい早口でまくし立てる主人。それでもトランペットを見ていたかったヘルナンデスは食い下がった。

「お願いです。触らせてくれとはいいません。店の中にも入りません。ここで見ているだけでいいんです。もう少しトランペットを見せてください!」

それでも主人は許さなかった。おそらく黒人を忌み嫌ってるであろう主人は掃除用
のモップを振りかざすと大声で怒鳴った。

「ガラスに触るな!ガラスが汚れる!貴様のようなニガーが触ると汚れるだろうが!


ガツン!ガツン!2度3度、頭に激痛が走った。それ以上に主人から投げつけられた
言葉が痛かった。自分は存在しては行けない人間なんだろうか。自分がいるだけで
汚れるのだろうか。僕はただトランペットが見ていたかっただけなのに・・・。僕は誰からも必要とされないのだろうか。

店の主人に抱えられ、投げつけられた先はゴミ捨て場だった。ツンと生ゴミ特有の匂いが鼻につく箱の中に投げ込まれた。

「二度とくるんじゃねえぞ!」

捨て台詞と共に唾を吐きつけられた。ストリートを往来する綺麗な格好をした白人達はその光景を見て笑い、ヘルナンデスはさらに心を傷つけられたのだ。

「あれからだよな、自分が社会から必要とされてないって感じたのは・・・」

窓の外を過ぎ行く誘導灯すら、こんなチンケな灯りですら地下鉄の運行上は必要と
されている。それを眺めながらヘルナンデスはため息をついた。

その事件以来、彼はトランペット奏者の夢を捨てた。悪事に身を染め、誰かを傷付ける、または傷つけられて生きてきた。恥ずかしくて誰にも夢の事は言わなかったが、自分の中では捨てきれなかったのだろう、自分のチンコを握ってオナニーする時だけ、まるでトランペットのピストンバルブを押さえるかの如き指使いでいたす、それだけが彼の夢の欠片だった。それ以外は夢を封殺し、誰に話す事もなかった。たった一人、例外を除いては。

7年前、場末のバーで知り合って成り行きで結婚したキャサリンという女性がいた。切れ長の目に厚い唇が最高にセクシーな良い女だった。彼女と結婚し、ヘルナンデスは真っ当に生きていこう、悪事から足を洗おうと決意したのだが、その結婚生活は長くは続かなかった。

彼女がヘルナンデスの子供を宿し、性交渉ができなくなった時の事だった。ヘルナンデスは妻に隠れ、爆発しそうな精嚢を癒すべく、オナニーに勤しんでいた。もちろん、いつもの如くトランペットの指使いで最高のオナニーを楽しんでいた。

「オーマイガ!」

いるはずのないキャサリンが部屋の入り口に立っていた。まるで世界の終わりを見たかのような顔で驚く彼女に必死で弁解を行った。

自分がかつてトランペット奏者に憧れていた事。その夢が捨てきれず、今でもオナニーはチンコはトランペットを扱うかのごとく触っている事、そして何より、誰よりもキャサリン、君の事を愛していると。

しかし、キャサリンにその想いは伝わらなかった。彼女はヒステリックに叫ぶと身振り手振り、大きなボディーランゲージで叫んだ。

「そんなオナニーをする男は変態よ!私は変態は嫌い、離婚よ、離婚!」

彼女は身重の身体を引きずり、荷物を抱えて出ていってしまったのだ。また、誰からも必要とされなかった。最愛の妻にすら必要とされなかった、そう思った。そして、キャサリンに自分の夢を否定されたかのように思え、あの日、ゴミ捨て場で経験した白人達の嘲笑の思い出と重ね合わせてしまったのだ。

「キャサリンは今ごろ何してるんだろうな、それより、お腹の子供はどうなったのだろうか」

キャサリンが出ていってすぐ、窃盗で逮捕、刑務所に入れられたヘルナンデスはその後の足取りを知らない。ただ分かっているのは、一度は必要とされていると錯覚した妻とお腹の子供にすら自分は必要とされたいなかったという事実だけだ。

「まもなく終点に到着します」

車内アナウンスが流れる。ヘルナンデスの生まれ故郷、忌まわしきあの町に地下鉄が到着したのだ。昔を思い出して感傷的になるのはここまで、さて到着したらどんな悪事を働こうか、やはり手っ取り早く強盗でもして金を作ろうか、ヘルナンデスは
何かを振りきるように立ちあがりドアの方へと向った。

列車が落書きだらけのホームに滑りこみドアが開く。パラパラと何人かの身なりの汚い人々が降りてくる。その中にヘルナンデスもいた。

「さあて、手っ取り早く豪邸でも襲うか。まうは手袋とマスクを買わなきゃな」

刑務所を出た時に手にしていた金は、ニューヨークまでの交通費でほとんど消えた。残った金で強盗用の商品を買おうと、まずは雑貨屋に行く事を決意した。階段を上がり地上に出ると、懐かしい町をすり抜けて商店を目指した。

何も変わっちゃいない。相変わらずチンケで汚い街、ここでは死体が転がってたって珍しくもない。半日は放置され、それから警察がくるくらいだ。悪臭と汚い落書きが充満するストリート、その脇の歩道を歩いて進んでいった。

雑貨屋に入り、手袋とマスクを購入。準備は万端だった。あとは強盗しやすそうな豪邸を探すのみ、物色するようにストリートを歩き始めた。

T字路に差し掛かったとき、ヘルナンデスの視線に衝撃的な光景が飛び込んできた。ストリートの遥か向こう突き当たり、街路灯は軒並み破壊されて真っ暗なストリートに煌々と明かりの灯ったショーウィンドウが浮かび上がっているのだ。

まるでデジャヴのような何かを感じたヘルナンデスは、その明かりの元へと駆け寄った。するとどういうことだろうか、あの日のように、眩い光を放つショーウィンドウに小さな黒人少年が張り付いているのだ。

うっとりと、憧れるような眼差しで、陳列されている商品を眺めているのだろう。今にもガラスをぶち破りそうなほど体を密着させていた。ヘルナンデスの位置からは陳列されている商品が何であったのか分からないが、それでも少年が中の商品に憧れているだろうことはすぐに分かった。

あの日、別の分岐路に進んでしまった自分。夢を捨て、誰かに迷惑をかけて生きていく道を選んでしまった自分、その姿を客観的に見ているようだった。

「ヘイ、ボーイ、そんなに引っ付くとガラスと同化しちまうぜ」

なぜだか知らないが、自然と話しかけていた。元々、子供はうるさくて嫌いなはずなのに、本当に自然に話しかけていた。たぶんきっと、幼い頃の自分の姿と重ね合わせてしまったのだろう。

「あれが欲しいんだ」

振り向いた少年は、まだあどけない面影を残す少年で、天然パーマと切れ長な目が印象的だった。そして、ショーウィンドウの奥に陳列された一つの商品を指差す。

「そうか、あれが欲しいのか。なかなか買えそうにないな・・・」

「欲しくてしょうがないんだ、あのオナペット」

ヘルナンデスが服役している6年間で、ニューヨークの文化はすっかり変わってしまったらしい。なんと、今では普通にオナニーのお供、オナペットとして女が商店に陳列されている時代なのだ。

少年ながらいい好みしてやがるぜ、と呟きたくなるほどの極上のセクシー美女が、セクシーなランジェリーをつけてショーウィンドウ内に立っていた。

「あれはね、アンドロイドなんだよ。精巧に作られたロボットさ。みんなあれを見ながらオナニーするんだよ」

なんでも、性交渉を行う人形、いわゆるダッチワイフとは違うらしい。ただ眺めてオナニーするためだけのロボット、オナペットが空前のブームらしいのだ。

「僕ね、将来はオナニー奏者になりたいんだ!大勢の観客の前でオナニーを披露する、そんな素敵なオナニー奏者に!」

どこかで聞いた話だと思った。それと同時に、この子の夢は叶わないだろうと思った。あのオナペットについてる値札は、とてもじゃないがこの町に住む住人には買えない額、きっとこの子も夢破れ、自分のようになるのだろう。

そうこうしていると、店の奥から主人が鬼の形相で出てくるのが見えた。

「さあ、いこう。ここにいると大変なことが起こる」

ヘルナンデスは少年を伴うと、そそくさと店を離れ、裏路地へと消えていった。

「ねえおじさん、おじさんはオナニーのやり方知ってる?」

あちらこちからの側溝から蒸気が噴出する裏路地、そこに置かれた小さなゴミ箱に腰をかけながら少年は唐突に質問した。

「オナニーのやり方?そんなの男の子なら誰だって知ってるだろう?」

「僕ね、パパがいないんだ。だからママにやり方教えてもらったの。でもね、なんかそのやり方は変だって言われるから・・・」

少年は悲しそうに俯いた。恐らく彼はエロい気持ちなど一切なく、純粋にオナニー奏者になりたくてオナペットを欲したのだろう。オナニー奏者になりたいのに自分のオナニーは人と違うかもしれない、正しいオナニーが知りたい。きっと、オナペットを購入すればそれが分かると思ったのだろう。

「いいぜ、じゃあ見てあげよう。ちょっとここでオナニーしてみてくれないか」

少しでも力になりたいと思った。そして、彼が一体どんな変なオナニーをするのか興味があった。自分らしくないと思いつつも、ヘルナンデスは少年に釘付けだった。

「うん、じゃあしてみるね」

少年はボロボロのズボンを手際良く脱ぐと、その小さな物体を頼もしく握り始めた。いよいよオナニーが始まり、少年の恍惚の声が裏路地に響いたのだが、それ以上にヘルナンデスは少年の指の動きに目を見張った。

「坊主・・・その握り方はどこで?」

少年の握りは、まるでトランペットを扱うかのごとく指使いだった。ナチュラルにクラシックの名曲を演奏するトランペット奏者の如き指使いでスムーズにチンコを刺激していく。まるで今にもチンコから名曲の調べが聞こえてくるようだった。

「さっきもいったじゃん、ママに習ったのさ」

驚いた、母親が息子にオナニー方法を教えるという事実にも驚いたが、それ以上に自分と同じ握りに驚いた。これを知っているのはこの世に自分ともう一人しかいないはず。

「坊主、お母さんの名前は?」

「キャサリンだよ」

なんてことだろう、まさか、まさか。いや、もう疑うまでもなかった。

「うちはね貧乏なんだ。ママは朝早くから夜遅くまで働いてるけど、全然お金が貯まらない。だから僕がオナニー奏者になってママに楽をさせたいんだ、それが僕の夢さ」

「夢か・・・」

「ママはいつも言ってるよ。夢は大切だって。なんかママね、昔に大切な人の夢を理解できずにバカにしちゃったんだって、それを悔やんでるっていつも言ってた。その人はもう会えないだろうけど、あの人のことを謝りたいっていつも言ってるんだ」

「キャサリンがそんなことを・・・?」

「でね、そう言うといつもいつも床の間に飾ってるあの高価な光るもの磨くんだ。いつあの人が帰ってきてもいいようにって。すごく無理してママがローンで買ったんだよ、ちょっと見たけど凄く綺麗に輝いて綺麗だったんだから」

「輝く綺麗な高価なもの・・・?なんだいそれは・・・?」

「えっと、名前なんだったかな・・・?えっと、えっと、たしか・・・そうだ!トランペットだ!金色に光って凄い綺麗なんだよ!」

ヘルナンデスは少年の目も気にせず、その場に泣き崩れてしまった。
自分は必要とされていた、自分の夢を理解してくれ、自分の帰りを待っている人がいた。それに、この少年だって自分を必要としているのだ。自分は一人じゃなかったのだ。誰だって一人じゃないのだ。そして誰だって夢を持って生きる権利があるのだ。

「ねえ、おじさん、どうしちゃったの?オナニー方法教えてよ、やっぱり僕のやり方変かな?」

大の大人が泣き崩れている姿を見て、少年は戸惑いながら気を使うように話しかける。ヘルナンデスは溢れ出す涙を拭うと

「OK、教えてあげよう。その前に、お母さんのところに案内してくれるかな?」

と切り出した。少年は嬉しそうに満面の笑みで笑うと「こっちだよ!」と裏路地のさらに奥へ案内し始めた。

「ああ、そうだ、それに何かいい仕事ないか探さなきゃな、君にあのオナペットを買ってあげられるように」

ヘルナンデスはそう言うと、さっきまで少年が腰掛けていたゴミ箱に購入したばかりの手袋とマスクを捨てると、少年の後を小走りについていった。

「おーい、でも、おじさんも君と同じオナニー方法しか教えられないぞ」

そう叫んだが、側溝から湧き出す蒸気の音にかき消され、少年に聞こえたのか聞こえなかったのか、とにかく二人はいつの間にか手を握り合い、スラムの奥へと消えていった。

ニューヨーク摩天楼の夜景は、そんな二人を見守るように優しく瞬いていた。

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以上のようなクソな感じでお願いいたします。「オナッセイ大賞は何回まで続くんですか?」という質問が来ていますが、もちろん、無記名で参加している僕が優勝するまで続けます。いや、前回は予選落ちだったので、決勝に残れるまで続けます。それこそ、自分で企画して自分が優勝して、この企画自体が僕のオナニーでした!と胸を張って言える時が来るまで続けます。多数の応募お待ちしております!


10/28 ボタン魔力

この間、どっかの掲示板に流れ着いた時に、都内在住の女子大生(自称あやや似)が自らのおっぱい画像をアップロードするとかしないとか、「わたしのおっぱい画像公開しちゃおうかな」みたいな宣言をしている南米のサンバみたいな現場に遭遇してしまいました。

掲示板は「はやくアップしろ」だとか「どうせ嘘に決まってる」だとか、猛る息子を握り締めた熱きサムライどもの罵声で賑わっていたのですが、そんな僕も「どうせおっぱいなんて見れるわけない」と少し冷ややかな対応でその様子を見守っていました。

そもそも、ネットで出会う旨い話には必ずその裏に罠という落とし穴がぽっかりと口をあけて待っているものです。例えば、ネットで出会ったすごいカワイイ女性に意気揚々と会いにいったら、死ぬほど高いイルカの絵を買わされそうになったり、血が穢れているとかいっちゃった目をした女に言われて熱烈に入信を勧められたり、物陰から出てきたギャングみたいな小僧にサラ金に手を出すまで金をむしられたり、かならず罠が待ち受けているものです。世の中って大体そうですが、ネットの世界は特にその傾向が顕著だと思います。

だいたい、普通にネットサーフィンをしていてそうそう簡単におっぱいが拝めてたまるものですが。おっぱいというものは尊く貴重で、かけがえのないものなんですよ。間違ってる間違ってる。

ネットでおっぱいを見るには、そういった専門のエロサイトに飛んでですね、下手したら勝手に入会させられて架空請求が来るかもしれないという危険をかいくぐり、ウィルスに感染するかもしれないという不安を拭い去り、よく入り口の分からない「ENTER」だとか「FREEXXX」だとかケバケバしく光る文字をすり抜けて初めて手にできるものなんですよ。そう、言うなれば銃弾をかいくぐった先にある楽園のようなものです。

そんな尊くて神々しいおっぱいが、気軽にアクセスした掲示板で簡単に見ることができるかもしれない。しかも素人のあやや似の女子大生。とどめとばかりにその後の書き込みでEカップと判明。Eカップって英検でいうと準2級に相当しますからね。それが気軽にアップされるかもしれないんですよ。鷲掴みにできるかもしれないんですよ。そんな旨い話があってたまるか、絶対に罠があるに決まってる。嘘に決まってる。

「ぜってー嘘だよ、こんなのありえない、こんな簡単におっぱい見れるはずがない」

一人職場のパソコンに向かってブツブツ言っている僕も怪しいものがあるのですが、完全にこのあやや似Eカップ女子大生の掲示を嘘と決め付け、完全に否定しながら事の成り行きを見守っておりました。

絶対あり得ない!嘘に決まってる!そう連呼しながらも僕は「おっぱい!おっぱい!」とその掲示に猛り狂った獅子の如くレスポンスをつけていたのですが、いくら書き込んでもさっぱりおっぱいがアップされる気配がないんです。

こいつはいよいよ罠だった気配が濃厚。やっぱりね、最初から信じていなかったよ、この世には神も仏もおっぱいもありゃしねえ、そんな気軽で安全におっぱいが見れてたまるかってんだ。あり得ないあり得ない。

そんなことを連呼しながら、まだアップされぬのか、まだなのか、ワシはもう辛抱たまらんぞと、今か今かとブラウザの更新ボタンを連打していました。それはそれは、マウスが壊れるんじゃないかという勢いで連打してました。さっきから言葉と行動が伴ってない。

ああ、僕はなんだかんだ言いながら、いま、ボタンを連打している。まだ見ぬ都内在住の女子大生(自称あやや似)Eカップのおっぱい画像がアップロードされることを信じて、胸をときめかせてボタンを連打している。こんなに心弾ませながらボタンを押した経験なんて、久しぶりじゃなかろうか。

そもそも、ボタンという物は押した時に心がときめかなければならないのです。それが電源スイッチであったにしろ、何かの起動スイッチであったにしろ、それを押すことによって何かが始まり、何かが変わる、何か凄いことが起こる。そして、その結果に心弾ませる。言うなればボタンとは心のワクワクの起動ボタンでなければならないのです。もっと言うとよい意味でのパンドラの箱でなければいけないのです。

科学技術が発達し、様々な分野でオートメーション化が進んだ現代社会。僕らは機械に対してどこか冷めている部分があるように思います。ボタンを押してものすごいグラフィックのゲームがプレイできて当たり前、便利な機械が動いて当たり前、パソコンが起動して当たり前。感動もドキドキもありゃしない。

僕らはもう、ボタンを押すことに何らワクワクしなければロマンも感じないのです。もう慣れ切ってしまっている。そんな冷め切った現代人が大半なのです。

そんな中にあって、僕は今、ボタンを押すことにワクワクしている。何かの間違いで女子大生が真実でおっぱい画像がアップされたらどうしよう、忘れていた何かを思い出すかのようにボタンを押している。それも連打だ。心をときめかせてボタンを連打している。こんな気持ち、どれくらいぶりだろうか。おっぱいを望んで更新ボタンを連打していたはずなのに、僕はいつしか遠きあの日に思いを馳せていたのです。

ボタン連打、いや連射に絶え間ないロマンを見出していた少年の頃のあの日、世間ではシュウォッチなる子供だましの玩具が発売され、

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とまあ、上のような日記を、オッパイをアップロードすると宣言する女子大生とボタンを押すという行為の持つ魅力に絡めて熱く語った日記を書いていたのです。

もちろん、この日記は未完成で、まだ途中なのですが、これがとんでもない事態を引き起こしやがったんです。

上記の途中日記をですね、僕は職場で仕事をちょっと中断、ぶっちゃけるとサボりながら書いていたのですが、書いているうちにおっぱい画像をアップロードすると掲示板で書いていた都内在住の女子大生(自称あやや似)Eカップのことを強烈に思い出してしまいましてね、僕の脳の中の主に女子大生を司る部分が刺激されれてしまったのです。

もうこのあやや似女子大生を見つけることはできないだろうけど、それなら変わりに女子大生のサイトでも見て発奮するか、と日記書きをサボって女子大生の運営する日記サイト探しまくっていたのです。ここ重要ですよ、仕事をサボって日記書き、さらにその日記書きをサボって女子大生のサイト覗きをしていたのです。まあ、人間のクズです。

最近はブログブームだか金玉袋ブームだか知りませんが、手軽にサイトを作れるらしく、ちょっと探せば鬼のように女子大生の日記サイトが出てくるんですよ。中には物凄い上目遣いの顔写真とか掲載されていたりして、いい世の中になったものだ、と一人で感慨にふけっていたのです。

その女子大生サイトの中の一つに、「今日は○○ちゃんとプリンアラモード食べちゃった」とか書いてあるサイトがあって、普段の僕だったら、「違うだろ!もっとオッパイ的なことを書けよ!読者はそれを望んでるんだよ!」と怒り狂うこと山の如しのですが、女子大生脳になってる僕は、「うんうん、プリンアラモードだね」と納得しながら読んでいたのです。

そしたらその下の方には「めぇるちょうだ〜い」みたいな感じでメールフォームが設置してあったのです。普段の僕でしたら、「なにが、めぇるちょうだ〜いだ!もっとチンポ頂戴的なこと書きやがれ!」と怒り狂うことヨットスクールの校長の如しなのですが、女子大生脳になってしまっている僕は、「うーん、メール送っちゃおうかな」とえびす顔ですよ。

しかしまあ、落ち着け落ち着けと、対人スキルの低い僕がメールを出してもこの女子大生をどうこうできるわけない。この娘にとって僕はプリンアラモード以下の存在だ、と必死で言い聞かせましてね、なんとかメールを送るのを思い留まったわけなんですよ。

そうこうしているうちに就業時間。仕事は終わりなので帰っていいぜ!開放される時間です。ぶっちゃけると1ミリも仕事していないのですが、就業時間となると帰らないわけにはいきません。

日記、途中までしか書けなかったなー、女子大生脳になんかなっちゃったから書けなかったんだ、と上記の部分までしか書けなかったことを悔やみ、家に帰ってから続きを書いてアップロードしようと決意したのです。

僕が職場で途中まで日記を書いて家に持ち帰る場合、どうやって書きかけのデーターを家に持って帰っているか説明します。

職場のパソコンはデスクトップですのでパソコンごと持ち帰るというのは荒業すぎます。フロッピーやCD-R、USBメモリなどのメディアに書きかけ日記のファイルを入れて持ち帰るという手段が一般的に感じますが、以前の職場でそういったリムーバルメディアから職場にサイトバレしたほろ苦いセピア色の思い出がありますので、できれば避けたい。

こういう時はですね、インターネットを使うんですよ。死ぬほど便利になったインターネット回線を使った情報伝達を行うんです。パッと考えると、書きかけ日記ファイルを今皆さんがご覧になってるnumeri.jpサーバーにアップロードしてしまうのが良さそうなのですが、職場のパソコンにはそういった類のソフトが入っていない、おまけにサーバーのパスワードを覚えてないので面倒くさい、という諸事情から却下になるんです。アップロードって結構面倒なんだよね。おっぱいの画像なら喜んでアップロードしますけど、書きかけ日記はさすがにね。

そこでまあ、もっと手軽に書きかけ日記を家に持ち帰る方法ってのがありまして、これが実にコロンブスの卵的な手法でして、僕も気がついたときは「その手があったか!」と自画自賛的に唸ったほどですよ。

で、その方法というのが、今皆さんがご覧になっているNumeriのトップページ左側に鎮座しているメールフォームを使う方法ですよ。このメールフォームを使って送信をすれば、我が家のパソコンでメールとしてその内容が受信できる。お手軽に職場から自宅に文章を持ち帰ることができる。ホント、気がついた時は伊藤家の食卓に出そうと思ったほどです。

早速、自分のサイトNumeriを開いて、左側にあるコメント欄に書きかけの日記をコピー&ペーストと、おっと、書きかけ日記のファイルを閉じたままだった、もう一回開いてコピー&ペースト。そして「送信」ボタンを押して完了。

日記中では、ボタンを押すドキドキ感とか切実に語ってるのですが、本当に気軽な感じで、「気さくに 送ろう」って感じで「送信」ボタンを押しましたよ。

画面には、デカイフォントで「送信しました」の文字。よし、キッチリ送れたみたいだ、安心。あとは家に帰ってこのメールを受信して続きを書いて・・・と帰り支度を始めていました。

・・・・はて?「送信しました」だあ?

おかしい、おかしい。確か、Numeriのフォームメールは送った後にこんなメッセージを表示しないようになってるはず。具体的に言うと、そんな親切なメッセージは表示されなくて、普通にもう一度トップページが表示されるだけのはず。おかしい、なんでこんな親切なメッセージが表示されてるんだ。

はい、もうお分かりですね。ブラウザのバックボタンで戻ってみたら、見事に先ほどのプリンアラモード食べた女子大生のサイトですよ。見紛う事なき女子大生のサイトですよ。どうも、Numeriも女子大生のサイトも同時に開いていたので、送るメールフォームを間違えたみたいです。

考えてもみてください。熊さんとか飾ってるピンク系のサイトの女子大生がですよ、プリンアラモードとか○○ちゃんとか日記上で思いっきり実名っぽいのを出してる女子大生がですよ、いきなりメールフォームから上記のような書きかけの日記を受け取ったどうしますか。

もう一度上に戻って読み返してみてください。そして想像してみてください。この長文が丸々といきなりメールフォームから送られてくるのです。オッパイとか連呼しててエロい!セクハラだ!と思う以前にキチガイですよ、キチガイ。モノホンのキチガイがメール送ってきやがった、と警察に駆け込むこと必須ですよ。今頃女子大生は悲鳴を上げてるに違いない。

メールフォームを使った文書移動、便利だぜ、旨い話だぜと思ったらこんな罠がありやがった。間違えた時に死ぬほど恥ずかしいという罠があった。やはりネット関連の旨い話には罠があるなとつくづく思ったのでした。

間違えて女子大生に送って恐怖のズンドコに叩き落したであろう日記の中で、最近はボタンを押すときにドキドキしない、と書いたのですが、僕は送信ボタンを押した後に、「警察に通報されたらどうしよう」と物凄くドキドキしたのでした。

ちなみに、冒頭のおっぱい画像アップロードの女子大生ですが、死ぬほどリロードしたら見事に相撲取りの胸部がアップロードされてました。やはりネットの旨い話には罠がありやがる。


10/26 モンゴル放浪記Vol.6

モンゴルに自費出版の本を売りに行きました。誰も来ませんでした。仕方ないので現地人ドライバーを雇って奥地まで売りに行きました。雨が凄くて泣きそうでした。渓谷は綺麗でした。そんなこんなでいよいよゴビ砂漠に突入。果たして本は売れるのか!詳しくは放浪記1-5を読むべし。
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砂漠の昼は死ぬほど暑いが、砂漠の夜は死ぬほど寒い。この温度差は筆舌に尽くしがたいものがあり、言うなれば温度差の魔拳。その圧倒的な破壊力にただただ泣くばかりだ。

これまではモンゴル北部のステップ気候的草原を旅していたわけで、辺りには緑があったりして、すると夜もそんなに寒くないんですよね。けれども、旅の進行に伴って徐々に南下、辺りが砂漠的になってくると周辺が砂ばかり。太陽が沈むとガクーンと温度が下がるんですよ。昼間はクソ暑いわ、夜はクソ寒いわ、で大騒ぎで。

一日の旅が終わり、夜になると現地人ドライバーサムソンからぶっきらぼうにテントセットを渡され、サムソンは車でどこか遠くに、ここではないどこかに行ってしまって朝まで帰ってこないわけなんですが、そうなると死ぬほど寒くて明かりも何もなくて、もちろん周囲は砂漠で砂しかない、ついでに意味不明な猛獣と思わしき生物の遠吠え付き、なんていう、刑務所より劣悪な住環境と言わざるを得ないのですが、他のは我慢できても寒いのだけはどうしても我慢できないんです。

賢明な閲覧者の皆さんなら覚えているかと思いますが、僕はこのモンゴルに来るにあたって、「この時期のモンゴルは死ぬほど暑いですよ!暑さ対策を」という読者さんの丸特情報を本気で真に受けてTシャツ10枚しか持ってこないという大暴挙に出たわけなんですが、そんな僕の装備品をせせら笑うかのように夜の砂漠は冷えるんですよ。

死体置き場みたいな貧相なテントは、その布地が爺さんが着る薄手のジャンパーみたいなものですから、全然寒さをシャットアウトしない。おまけに服はTシャツのみ。これは凍死しない方がおかしいシチュエーションですよ。寝たら死ぬぞ!とかそういう世界ですよ。

「うおー寒いーー!」

と誰も聞いてないのに一人で砂漠のど真ん中で叫んでる僕。少しでも寒さを防御しようと持ってきたTシャツを全部着てみた、つまり10枚重ね着してみたのですが、所詮は半袖Tシャツ、何も改善しない。それどころか急激に強風が吹きやがりまして、砂地に杭を打ってテントを固定していたものですから吹っ飛ばされそうになる始末。

Tシャツを10枚重ね着して微妙に動きにくくて鎧を着た人みたいになってる僕が泣きながらテントが飛ばないように押さえつけるという、ものすごいシュールな絵図が出来上がってました。

このままでは絶対に死ぬ。凍死、もしくは風に飛ばされて死ぬ。何か、何か暖を取れるものはないのか。ただ本を売りに来ただけなのに生死に関わる危機に直面し、こんなはずじゃなかったと思うのですが、そこでピーンと閃きましたよ。火をおこせばいいじゃないか!と。

人間の文明は火と共に発展してきました。遠い祖先が火を利用することを発見して以来、様々な形で我々の生活に関わってきたのです。高度な発展を遂げてその形が変わろうとも、全ての文明の基本は火の利用に他ならないのです。

危機に直面し、そんな文明の本質に気付いてしまった僕は、早速火を起こそうと躍起になります。幸い、タバコを吸うのでライターは持っている。あとは何かその辺の物を燃やして暖を取らねば・・・と暗闇を見渡すのですが、よくよく考えたらここは砂漠のど真ん中。砂と動物の死骸の骨しかない。どう考えても燃えませんよ、これは。

恐ろしいことに燃やすものが何もない。いっそのことテントでも燃やしてやろうかとも思ったのですが、それだと砂の上で寝ることになって死体なのか寝てるのか立ち位置が曖昧になるので避けたい。考えに考えた僕は今着ているTシャツを燃やすことにしたのです。10枚あるんだから2枚くらい燃やしてもどうってことない。

そんなこんなで、10枚着ているTシャツの2枚を脱いでライターで火をつけると、それはそれは勢い良く燃えましてね、強風なんてものともしない勢いで燃え上がったんですよ。燃えろよ燃えろ、とか砂漠のど真ん中で一人で歌ってたら悲しかったんですけど、とにかく焚き火に成功。

心と体が温まる。とかなんとか思いながら本気で火のありがたさを実感しつつTシャツ焚き火にあたっていたのですが、やっぱすぐに火の勢いが弱まっていくんですよね。おまけに装備が10枚から8枚に減ったことで微妙に肌寒い。

ここで童話とかだったらバカな主人公が、もっと火を!もっと火を!とどんどん衣服を燃やしていって最終的には一糸纏わぬ姿に。で、火も消えちゃって、朝にはお星様になっていたりするんでしょうが、あいにくと僕は違いますよ。

もうこれ以上衣服を燃やすわけにはいかない。周囲には燃やせるような木々もない。テントを燃やすのも言語道断。しかし、火は欲しい。このような状況から導き出された答えは・・・

ぬめり本を燃やす。

なんと、灯台下暗しとはまさにこのこと。ここに燃えやすい紙が大量にあるじゃないか。まさかこんなことにも気がつかなかったとは、こりゃあ一本取られましたな!と一冊のぬめり本を燃やしたのです。

そしたらアンタ、むちゃくちゃ燃えるっての。もうTシャツなんてクソとも思えるくらい燃えるのな。ブワーってきてボワーってなる感じ。もう、とにかく燃える。

満天の星空、冷たい空気、あたり一面の闇。そのなかで燃えるぬめり本の炎を見つめながら、大学生の時に友達だったスーパーオタッキー島田君の「萌えー!」ってセリフを思い出していました。島田君いまごろどうしてるかな。

で、一通り燃えた後に、自分はこの本を売りにモンゴルに来たのになんで燃やしてるんだろう、とひどく根本的なことに気がついてしまい、なんてバカなんだーと砂の上で頭を抱えて悶々としているうちに夜が明けたのでした。また砂漠の灼熱が始まる。

サバイバルツアー4日目

日の出と共にどこからともなくサムソンの車が帰ってきて、ホント、夜の間どこにいってるんだか不思議でしょうがないんですけど、原料が何だったのかよく分からない朝飯を食って移動スタート。

この旅もいよいよ4日目。そろそろ本が売れないとヤバイことになるのだけど、日本から持ってきた10冊のうち、減ったのは 路上の本屋のオッサンに1冊売って2冊燃やしたのみ。これじゃあ何をしにモンゴルに来たのか分からないってもんですよ。

それにしても、進んでも進んでも砂漠なわけですが、さすがに4日も旅をしてるといい加減、飽きてくるものです。最初こそはラクダなどに興奮して

「サムソン、すげー!野生のラクダだ、ラクダだ!」

と大興奮だったのですが、風景がずっと一緒だわ、砂しかないわで瞬く間に飽きちゃいましてね、暇つぶしにサムソンとシリトリでもして遊ぼうと思ったのですが、あいにくと言葉がほとんど通じないのでできない。

「サムソン、しりとりしようぜ。俺からな!じゃあ、未亡人!終わった!」

一人でこんなことして遊んでました。それを言葉が通じないながらもサムソンが察したのか、暇そうな僕を気遣って、「日本語では愛してるって言う時にどういうんだい?」みたいな事を聞いてきたんです。なんかアイラブユーとかインジャパンとか言ってたんでそうだと思う。

異国の言葉で異性を口説くってのは魅力的なもので、日本人から見て異国の言葉である英語で「I Love You」とか言えばアッパーパーな姉ちゃんイチコロ。そういうものだと思います。その応用でサムソンも日本の言葉で愛を囁いてモンゴルのお姉ちゃんを口説こうとしてるんですかね。このエロ!

仕方なく僕も、サムソンが日本の言葉でお姉ちゃんを口説けるよう、

「I Love Youは日本では、”アナルをペロリですわい”っていうんだぜ」

と嘘8000を教えておきました。それ受けてサムソンも、

「アナルヲ ペローリ デス Y」

みたいな感じで艶かしく反復してました。偶然にしても妙に艶っぽかった。モンゴルにあるのか知りませんが、洒落たBARとかで女を口説く時に是非とも言って欲しいものです。

そんな感じで暇を潰しつつ砂漠を走行していたら、前方が妙に視界が悪いと言うか、砂が巻き上がってるというか、砂漠初心者の僕が見ても分かる砂嵐みたいなものが迫ってるんですよ。

さすがにあんなものに直撃されたらひとたまりもない、と

「サムソン、なんか前方に砂嵐みたいなのがあるぞ」

と身振り手振りで注意を促すのですが、当のサムソンは満面のグッドスマイルで「OK, OK」というのみ。サムソンくらいの砂漠フリークになると砂嵐もへっちゃらなのかもしれません。

しかし、いくらサムソンがフリークでも窓を開けっ放しは危ないだろうと思い

「サムソン、危ないから窓閉めたほうがいい」

とか忠告するのですが、サムソンは「OK、OK」と満面のグッドスマイル。そういうもんなのか、案外砂嵐ってたいしたことないのかも、そのまま突入するし窓も閉めないし、結構普通なのかもね、と思いつつ車は砂嵐に突入ですよ。

ブボボボボボボボボ ビチチチチチチ

嵐に飛び込んだ瞬間、物凄い轟音が車内に飛び込んできましてね。一気に洗濯機の中みたいな状態ですよ。風やら砂やら車内にドバドバ入ってくるの。こりゃあ全然大丈夫じゃない。僕はまだサングラスをしていたので被害が少なかったのですが、あれだけグッドスマイルだったサムソンのほうを見ると

「目が!目が!」

みたいな感じで、砂で目をやられたみたいでハンドルから手を離して目潰しを食らった人みたいになってました。だから言ったのに。サムソンはバカじゃなかろうか。


そんなこんなで砂嵐を抜けてゴビ砂漠を横断していると、小さな集落が目の前に。なんか世帯数30くらいしかなさそうな村みたいな場所でした。どうも、砂漠の中でも水が出る場所があるらしく、そういった場所には何人かの人々が集まって住んでいるようです。

こういった小さな集落の子供ってのは、他所から人が来るというのが大変珍しいらしく、おまけに日本人である僕は外国人ですよ。車が到着した瞬間からワッとガキどもが集まってくるんですよね。すげえ人懐っこい。


こういった、興味なさ気な幼女も、日本から持ってきた飴玉とかあげたら簡単に手なずけることができます。

僕のような怪しげなオッサンが幼女に飴をあげて手なずける。まあ、日本だったら間違いなく通報されて逮捕、実刑判決でしょうが、ここはモンゴルです。

子供に飴をあげたりして村の人と触れ合いつつ、ぬめり本の強烈セールスを開始したのですが、これがまた、変な羽毛布団を売りつけるより難しいぞ、といったレベルで売れそうにない。しまいには本を売るのを諦めて子供たちとモンゴル相撲を楽しんでました。

村の中央の広場みたいな場所で、鼻水たらしたガキどもをちぎっては投げちぎっては投げ、このこわっぱどもがー!と言わんばかりの相撲テクで子供たちを投げてました。

すると、村中の人が総出に近いんじゃないかって勢いで広場に集まってきまして、相撲をしてる僕をマジで取り囲むように人垣ができてるんですよ。気分的には暴走族のリンチみたいな絵図ですよ。

で、その中から村の横綱みたいな若者がでてきましてね、羊の肉ばっかり食ってるのか物凄い肉付きがよくて強そうな現役が出てくるんですよ。

で、周りの人垣どもは「アサショーリュー!アサショーリュー!」と盛大な朝青龍コールですよ。こんな奥地の村でもモンゴルの英雄朝青龍は英雄らしく、まるで僕らが松井の活躍を楽しむかのように朝青龍に期待しているらしく、大人気なんですよ。

で、日本人みたいなのが子供相手に相撲をとってる。相撲の本場日本から来たんだ、いうなればメジャーリーガー、村の横綱と戦わせてみようぜって流れがビシビシ伝わってくるんですよ。

どう考えても体格的スペックが見合ってなく、真剣に勝負したら骨の2,3本はもっていかれそうなので避けたいところなのですが、雰囲気的に戦わなければいけない感じ。なにこの流れ。

こんなモンゴルの奥地の村に来て相撲をとるとか僕は何やってるんだ。本も売らずに何をやってるんだ、助けてくれ、サムソン!現地の言葉で、彼は虚弱体質とか相撲はできない体だとか説明してくれ!とサムソンのほうに何かを訴えかける眼差しを投げつけたところ。

「アナルヲ ペローリ デス Y」

と、強い日差しを避けるために軒先の日陰に入り、僕の教えた日本の愛の言葉を何度も反復して練習してました。

終わったー!サムソン使えねー!

どう考えても実力が違いすぎる村の横綱と組み合い(モンゴルの相撲は組み合った状態から始めるらしい)周りの絶望的な「アサショーリュー」コールの中、僕は日本を代表して戦うのでした。

長いので続く

 


10/22 Numeri4周年

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Numeri4周年記念企画
ぬめぱと変態レィディオ4周年記念スペシャル


10/22 PM10:14-

放送URL 
終了しまし
このURLをメディアプレイヤーなどに入れれば聞けると思いますが、分からない場合は放送スレにGO!

放送用スレ
終了しました

放送内容
4年間とか
パンツ
霊が出ました


10/20 ダディクール

汚さも情けなさすらも、全てが誇りだった。

小学生の頃だったか、クラスで親父をバカにするという他愛もない遊びが大ブレイクしたことがあった。当時、僕らのクラスで一世を風靡した2大遊びというのがあって、その一つが通称「キンタマ」と呼ばれる遊びで、もう一つが「親父をバカにする」というもの。この二つが僕らのクラスの遊びの二大巨頭として君臨し、不動なる地位を確立していた。

「キンタマ」の方は、多人数で校庭でやったりする、どちらかといえば肉体派の遊びだった。アメフト並みに肉弾戦を要する遊びで、あまりの面白さに骨折するヤツとか出てくるスリリングさが魅力だったのだけど本編とは関係ないのでこの話は別の機会に。

で、本題の遊びである「親父をバカにする」の方は、「キンタマ」とは対極にある頭脳派な遊びで、雨の日などで外に出れなくて「キンタマ」をやれない時に行われるインドアなものだった。

読んで字のごとく皆で親父をバカにするだけで面白くもなんともなさそうなのだけど、なかなかどうして、やってみるとこれが死ぬほど面白い。ちょうど、反抗期の走りというか、反体制、親や学校や社会に反抗することがカッコイイな、なんて思い始めている年代だったこともあり、僕らはこの禁断の遊びに酔いしれ、没頭していくのだった。

なんてことはない、友人数人と輪になって自分の親父の悪口を言う、それだけのことだった。けれども、「親の悪口を言ってはいけない」という世間体という名の不文律を逸脱することは何よりの快感で、幼い僕らはその快感と背徳感の挟間で身悶える感覚を知ってしまったのだった。

「ウチの親父なんてさ、普段は偉そうにしてるのに、小遣いが少なくて弟の貯金箱から小銭を盗んでるんだぜ」

友人が、彼の親父の決定的失態を暴露する。すると、輪の中からドッと笑いが巻き起こり、今度は別の友人が負けじと親父をバカにする。

「ウチの父さん、この間お母さんに怒られて泣いてた」

皆が競うようにして親父の情けない所だとか、カッコ悪いところ、馬鹿なところを暴露していく。別に勝ち負けとか競ってるわけじゃないけど、より親父を貶したエピソードが重宝され、勇者と崇められるほどだった。

そうなってくるともはや僕の独壇場で、なにせウチはどう考えても狂ってるとしか思えないクレイジーな親父を擁しているものですから、そこらのひよっこ親父では太刀打ちできないエピソードてんこ盛りですよ。

「ウチの親父は、テレビでやってたナマハゲのニュースに触発されちゃって、家にあったゴリラのお面をかぶって僕や弟を追い掛け回す。でもゴリラのお面って微妙に前が見えないから、回覧板持ってきた隣の家のオバさん追い掛け回してた。警察呼ばれそうになってた。死ねばいい」

ですとか、

「ウチの親父が歯痛で苦しんでいた時、死んでも歯医者に行きたくないとか言って何を狂ったのかペンチで痛い歯を抜いてた。あまりの激痛によほど頭にきたのか、上の歯が抜けた時は軒下に歯を投げるんだ!と半ば切れ気味にいいながら、仕事で使うパワーショベルで庭に10メートルくらい穴掘って歯を埋めていた。わけわからん。アホすぎる。」

とか、他の児童のお父さんエピソードがサラリーマン川柳のような悲しき悲哀を唄ったものだったのに対して、ウチの親父だけが真性というか神聖なマジモンのキチガイエピソードだったんです。

さすがにこれには、親父の悪口でいきがっちゃってる児童どもも「それはちょっとね・・」とさすがにドン引き気味。けれども僕自身はしてやったりと言わんばかりの表情で、自分の親父のキチガイぶり、そしてそれを暴露して悪口を言う自分に酔いしれていた。

しかしながら、そんな悪口に身を委ね、楽しいひと時を過ごしつつも、どこか心の中に引っかかるわだかまりと言うかモヤモヤした想いというか、そういった類の感情が少しずつ僕の中で大きくなり始めていた。

楽しいことをしている最中に、何か心に引っかかるものがあるってのは厄介なもので、例えて言うならば、信じられない日数延滞に延滞を重ねたAVを鑑賞している時のような、楽しいんだけど何か違う、何かが不安だ的な感情が、それこそ楽しさが大きければ大きいほど心の中で大きくなる。楽しいんだけどこれでいいのだろうか。早く返却した方がいいんじゃないか。いやいや、もう3日はいける。

当時の僕も、悪辣に親父の恥部というかキチガイ沙汰を暴露して罵り、級友と楽しい笑いを交わしたりしたのだけど、何かが決定的に違う、違いすぎる。なんだろうこのわだかまりは。幼かった僕はそのモヤモヤの正体に気付けずにいた。

ある日の下校時。僕は家が学校から死ぬほど遠かったので一人で下校していた。鼻水たらしてランドセル背負って、子供には長すぎる距離を、「この石を家まで蹴って帰れたら俺の勝ち」などと訳の分からない暇潰しをしながら帰っていた。

ふと見ると、いつも通っている道が工事中で通れなくなっている。なんだよ、遠回りしないと帰れないじゃないか、と思いつつ来た道を引き返そうと踵を返したその瞬間だった。

「すいませんでした」

聴きなれた声。いつも嫌というほど聴いた声。そう、他でもない親父の声が工事現場の立て看板の奥から聞こえてきたのだ。

恐る恐る工事現場を覗いてみると、そこにはやはり作業服を着た親父の姿があった。ウチの親父は小さいながら建設系の会社を経営している一国一城の主。何度か街中の工事現場で働く親父の姿を目撃したことはあったが、こんな声が聞こえるほどの間近で目撃したのは始めてだった。

親父は汚い泥だらけの作業服に身を包み、真っ黒な顔をして誰かに頭を下げている。相手はスーツにヘルメットというアンバランスな格好をした若造だ。親父はしきりにしきりに、その若造に頭を下げている。

親父が怒られてる。それも若造に怒られている。

当時は分からなかったけど、今思うと下請け業者として弱い部分があったのだろう。仕事を貰っている立場としては、相手が何も知らない背広組の若造でも頭を下げなければいけない場面もあるんじゃなかろうか。

今にして思えば普通に理解できるのだけど、その時、その光景は衝撃以外の何物でもなかった。普段は家で威張りくさってる親父が、俺が法律といわんばかりの確固たる治外法権を樹立している親父が、誰かに頭を下げるなんて考えれないほど強く、そして気が狂った親父が、あんな若造に頭を下げている。信じられない光景だった。

「本当にすいませんでした」

「困るよ、ちゃんとやってくれないと」

そんな会話を背中で聞きつつ、まるで見なかったことにするかのように遠回りをして家に帰った。ずっと蹴ってきた小石をその場に置き去りにして。

次の日の休憩時間。また数名の男子が輪になって集まり、親父をバカにするゲームが始まった。何名かが父親の他愛もない醜態を暴露し笑いが巻き起こる。正直、昨日の一件以来、心の中にあったわだかまりが大きくなっていた僕は乗り気でなかったのだけど、そこはやはり子供。周りに流されるかのように参加し、親父の失態を暴露した。

「ウチの親父さ、家ではすげー威張ってんだけど、外では弱くてさ。昨日、たまたま学校帰りに工事現場で親父を見たんだけど、汚ねえ格好して若造にペコペコ謝ってんの。すげー格好悪くて情けなかったよ、アハハハハハ」

違う、全然違う。何を言ってるんだ、僕は。こんなこと言いたいはずじゃなかった。言って良い事じゃなかった。言って良い訳がないんだ。違う、全然違う。周りに合わせて笑いつつも、心の中に何か重苦しいものがあった。

学校帰り、いつもと同じ一人の帰り道、いつもと同じように小石を蹴りながら下校していると、また昨日と同じ工事現場にさしかかった。いや、正確に言うと工事は終わっていて普通に通れるようになっていたし、親父の姿もそこにはなかった。汚く情けない姿で親父が工事していた場所を通りながら、今日の遊びで自分の言葉を後悔していた。そして、あの遊びをしながらずっと自分の心の中にあったモヤモヤの正体に気がついてしまった。

僕らは親父をバカにし、カッコ悪いだとか情けないだとか言って喜んでいたけれど、それは大間違いじゃないだろうか。確かにいつもの親父の奇行は迷惑だし、昨日の親父は情けなかった。それにいつも汚い作業着を着ていて、運動会にその姿で来られた時は死ぬほど恥ずかしかった。汚くて情けなくて狂っていて、それでいてカッコ悪いウチの親父。だけどそれが誇りなんだと。

僕は今、親父が作った道路の上に立っている。親父は若造に怒られながら、汚く泥だらけになりながら、こうやって道路を作っている。そうやって僕ら家族の生活を守ってるんじゃないか。誰だって若造に怒られたくない。誰だって泥だらけになんかなりたくない。でも、そうやって僕らを守ってるんじゃないか。情けなくなんかない。カッコ悪くなんかない。親父、ムチャクチャカッコイイよ。

僕らがバカにしていた皆のお父さん。それぞれに違いはあるかもしれないけど、皆、情けないながらも、カッコ悪いながらも家族を守ってるんです。ムチャクチャカッコイイじゃないか。それをバカにしていた僕らの方がバカだ。

心の中のモヤモヤが晴れた僕は小石を蹴るのを止め、小走りに家に向かう。その顔はたぶん晴れ晴れとしていて、こんなにカッコイイ親父をバカにしたことを謝ろう。でもいきなり謝るのは照れくさいから心の中で謝ろう。とにかくウチの親父はカッコイイ。世界のお父さんはみんなカッコイイ。そう唱えながら走ったのでした。

「ただいま!」

家に帰ると、仕事が早く終わったのか、家には親父がいるようで泥だらけの作業靴が玄関に置いてありました。僕らを守ってくれている親父はカッコイイ、そうルンルン気分で居間のドアを開けると、そこには、

裸で四つんばいの体勢の親父がいました。

どうも、親父は秘密裏に痔を患っていたらしく、薬を患部に塗ろうとしたが上手くいかない。で母さんに薬を塗ってもらおうと四つんばいの体勢でスタンバっていたみたいです。いやいや、全裸になる必要、あまりないじゃない。

「ホント、情けないわ!」

と、しかめっ面で親父の極めてデリケートな部分に薬を塗りたくる母に、

「ひやっ!冷たい!」

と、何故か恍惚の表情で言う親父。この光景は僕の人生の中で1,2を争うほど情けない親父の姿でした。バックの体勢から患部がモロに見える角度で見ていたものですから、ブラブラと揺れる親父のキンタマだけが妙に印象的でした。

親父、むちゃくちゃカッコ悪いよ。


10/19 好奇心焼肉

「好奇心は猫をも殺す」なんて言葉が御座います。言うまでもなく、好奇心旺盛に何でも首突っ込んでるといつか危機が訪れるぞ、という痛烈な戒めなわけですが、実はこれ、結構過激な言葉なんですよね。

猫を殺す、というと愛猫家などは感情剥き出しで怒り狂うかもしれませんが軽いものと受け取りがちです。田舎の国道を通ってますとそこかしこに轢かれた猫の死骸が転がってますが、さすがに人間の死体が転がってるなんてことはそうそうありません。一般的に考えて人間の死より猫の死のほうが軽く考えられるはずです。

そこで冒頭の「好奇心は猫をも殺す」ですよ。僕なんかは好奇心では猫が死ぬくらいで人間は死なないんだ、と軽く考えてしまうのですが、ところがどっこい、これが大きな誤りなのです。

別の諺で「猫に九生あり」なんて言葉がありまして、猫は9個の命があるだとか、しぶとくてなかなか死なないなどと考えられているのです。つまり、「好奇心は猫をも殺す」ってのは、それほどしぶとい猫ですら好奇心で死んでしまうということを表しており、9個の命の猫ですらお陀仏なのですから人間なんてイチコロですよ、と言ってるわけです。なんと過激な。

命を落としてしまってはかなわん、と好奇心を封じ込め、無味乾燥な日々を送ることも可能ですが、それではいささか人生というものが退屈すぎます。やはり好奇心とは何事も面白いものに変えてくれる絶妙のスパイスですから、アクティブに、好奇心を前面に出して太く短く生きたほうがいいじゃないか、そう思うのです。好奇心を押し殺して長生きしたってつまらない。

僕の通勤経路は片道1時間の極上の山道で、恐ろしいほどのワインディングロードを駆け抜けて毎朝通勤してるのですが、やはりというかなんというか、悲しいことに毎日1体は道路のシミと化した猫を目撃します。

こいつらはきっと好奇心で道路の向こうへと歩き出して不運にも轢かれてしまったんだ、平穏に長生きするより好奇心に身を任せて太く短く生きる道を選んだ勇者。志半ばで倒れた勇者。とその生き方に敬意を払って通勤しているのです。

少し前のことですが、そんな勇者が後を絶たない通勤経路に変化が生じました。もう掛け値なしの田舎の山道、ほとんど民家なんかも存在しない場所で、あったとしても悪魔崇拝とかがはびこってそうな小さな集落が関の山、そんな閑散とした通勤経路のど真ん中に何をトチ狂ったのかドデーンと焼肉屋がオープンしたのです。

いやいや、おかしいじゃないですか。何かが大幅に間違ってるじゃないですか。普通、店屋を作る場所っていえば商売ですから、人通りの多い街中などに作るのが普通です。町外れに作るとしても、死ぬほど交通量の多い国道沿いですとか、人が集まる観光地などに作るのが当たり前です。

しかし、そんなビジネス理論を一蹴するかのように、まるでせせら笑うかのように、何もない山道のど真ん中に焼肉屋はオープンですよ。好奇心に身を任せ、あたら若い命を散らしていく勇者という名の猫たちの他にここにも勇者がおった。この通勤経路を勇者ロードと名付けよう、と思うほどです。ホント、こんな車通りも民家もない場所に焼肉屋なんて、勇者としか言いようがない。

開店したのはいいものの、ここからザ・勇者・焼肉屋の迷走が始まります。毎日朝夕に店の前を通るのですが、1ヶ月経っても客が入ってるのを見たことがない。車しか交通手段のない山道にある焼肉屋です、駐車場を見れば客が入ってるかどうか一目瞭然なのですが、ただの一度も車が停まってる光景を目にしないのです。1ヶ月間で0ですよ、ゼロ、僕が店主だったらB'zがいきがってゼロがいいゼロになろうとか言い出そうものなら迷うことなく射殺する、そんな状況ですよ。

まあ、どう考えても、こんな山中で焼肉を食おうなんて気分になるはずもなく、コンビニならともかく焼肉屋を作った時点で結果は見えていたのですが、それでも勇者の挑戦は止まらない。1ヶ月後には何をトチ狂ったのかランチタイムサービスを始めてました。

いやいや、方向性がおかしいじゃない。客が到底来ないような山中に焼肉屋を作ってしまった、客が来ない、じゃあランチサービスを始めようって何かが決定的にズレてる。だってランチタイムにこの辺に人がいるなんて、ましてや昼飯に焼肉を食おうって考える人がそうそういるはずないもの。

で、このランチ作戦も空振りに終わったのか、今度は店の駐車場の道路に面した所に客を煽るのぼりが立てられました。そののぼりがまた凄くて「まいう〜!」と書かれたのぼりが16本、威風堂々と風になびいてそびえ立ってるんです。「まいう〜!」ですからね、「まいう〜!」。伝えたいことは分からんでもないけど、それはちょっとどうなんかなって思う次第ですよ。

そうなってくるとですね、僕も気になるじゃないですか。辺境の地に無謀にも立てられた焼肉屋。客が全く入ってなくてランチサービスとか「まいう〜!」とか迷走を続ける焼肉屋。もう気になって気になって仕方がないじゃないですか。内部がどうなってるのか好奇心が駆り立てられるじゃないですか。

そりゃね、行ったら酷い目にあうのは目に見えてますよ。何せ好奇心は猫すらも殺すんですから。でもね、やはり僕も好奇心に身を任せ、道路でシミになる猫のようになりたい。毎日、この焼肉屋の前を通り過ぎて悶々とするより、一度突入してしかとこの目で確かめてみたい。そう思うのが人情じゃないですか。ですからね、行きましたよ。仕事帰りにその店に行ってみましたよ。

仕事帰りですから、もう遅い時間になっていて辺りは真っ暗。もちろん、田舎道ですので民家も街灯もなくて恐ろしいまでの闇が広がっているわけなんですが、そんな中、問題の焼肉屋の明かりだけがポツリと瞬いていました。

日本昔話とかだったら間違いなく山姥とか出てくるシチュエーションで恐ろしいですが、勇気を振り絞って駐車場に突入。暗闇の中、不気味にはためく「まいう〜!」ののぼりがなんとも不気味だった。

もちろん、駐車場の中には客と思しき車は一台もなく、区切るように敷かれた白線だけが悲しそうに横たわっていました。こんなの無視してドボッと斜めに駐車しても何も問題ないくらいの閑散っぷり。

車を降り、いよいよ謎の焼肉屋の正体を暴くべく店舗へと向かうのですが、店の入り口のマットみたいな場所に何のためらいもなくバッタの死骸が7個くらい転がってました。7個ですよ、7個。バッタの死骸が7個。1個ならまだしも7個ですからね、尋常じゃありませんよ、これは。

そんなバッタの死骸に怯えつつ、「営業中」と物凄い勇ましいフォントで書かれた札が立てかけられたドアを開きます。すると、ピンポンパンポンみたいな来客を告げる小気味良いメロディが流れるのですが、店舗内はなんら反応なし。

いやいや、まさかね、まいったね、これは。客がいないのは当たり前だと思ってたけど、まさか店の人すらいないとはね。もう、完全に無人。一瞬、無人のセルフ焼肉屋かと思ったくらい見事に人がいなかった。

店内を見渡すと、誰も使ってないのかやけに綺麗なテーブルが8つ置かれ、その奥は厨房みたいになってました。その脇にはマンガが置かれた本棚があったのですが、「女帝」だとか「男樹」など、やけに濃いマンガしか置いてありませんでした。

「すいませーん」

僕の記憶が確かなら、こういった食事を提供する店舗というのは店に入るや否や「いらっしゃいませー」とか言われて席に案内され、同時にキンキンに冷えたお冷が出されたりしてメニューを見るはずなのですが、そういうのが全くない。奥の厨房に向かって何度も呼びかけるのですけど、人のいる気配すらしない。

もう商業主義を根底から覆されたような気分なのですが、さすがこんな場所に焼肉屋を建立するだけあって豪胆な店主のようですな!と勝手にテーブルに座って「男樹」を読んでました。

30分くらい待ったでしょうか。もうこの時点で一般の客なら頭にきて帰ってる、もしくは腹いせに「男樹」の2巻あたりを盗んで帰ってるのでしょうが、僕は待ち続けましたよ。そしたら、なんか僕が入ってきたドアがガラガラとか開きましてね、そこからポリバケツ持ったモモヒキ姿の葉加瀬太郎みたいなオッサンが入ってくるんですよ。

お、もしかしたら客かな、とか思ったんですけど、その葉加瀬太郎は僕と目が合うや否や、すげえビックリした顔して「お、いらっしゃい」とか言ってるんです。おいおい、あんた店主かよ。てっきり厨房サイドから出てくると思っていたのですが、まさか正面入り口からとはね。

店主はボッサボサの頭でヘロヘロのシャツにモモヒキ姿。衛生面とかそういった単語を遠くに置き忘れてきたような、おおよそ食品関係に従事してはいけない人のようないでたちだったんですけど、そんなのは無関係とばかりに厨房の方へ歩いていきます。

「ご注文は?」

とか言うもんですから、僕もメニューを見て無難そうな「焼肉セット」を注文したんですよね。そしたら葉加瀬太郎のヤツ厨房の中へ行ったんですけど、この店の構造、客の席から厨房が半分くらい覗けるようになってるんです。

で、「男樹」を読みつつ横目でチラチラと調理の様子を覗いていたんですけど、どうみてもスーパーで売ってる398円の肉パックみたいなのをビリビリ破ってるんですよ。

もっとこうさ、独自に入手した肉の塊をスライスして出したりするんじゃないの、普通の焼肉屋は。それがスーパーの肉ですからね。そんなんなら自分でスーパー行って家で焼いて食うわ。

そんなこんなで、出された焼肉セットは、飯と肉と漬物という、お金持ちの家の犬だったらもっといいもの食ってるぞって感じのセットで、肉なんか7キレくらいがヘトヘロと皿に乗せられているだけの状態でした。これで950円は逆に凄い。その度胸が凄い。

料理を終えた葉加瀬太郎はそのまま僕の隣のテーブルに座りまして、タバコをブンスカ吸いながら新聞を読んでおりまして、その横でモソモソと肉を食べる僕という、かなりシュールな絵図が展開されており、なんだか無性に気まずい気分に、もちろん肉もまずかったのですが、それ以上に無音の世界すぎて死ぬほど気まずかったんですよね。

静か過ぎて耳がキーンとなってくるんですけど、その静寂を突き破るかのように異変が起きました。またも入り口ドアに動きがあったらしく、今度は何者かがドアをガリガリと引っ掻いてる音がするんです。

もう何がきても驚かない、今僕が食ってる肉が先日亡くなったお爺さんの肉だって言われても僕は驚かない。それくらい豪胆になってたはずなんですけど、そのガリガリという音を聞いた葉加瀬太郎の反応に死ぬほど驚いた。

どうやら、音の主はこの辺に生息しているノラ猫だったらしく、いつも食材を盗まれたり荒らされたりしているのか、葉加瀬太郎のヤツが

「またノラのヤツがきやがった!」

とか烈火の如く激しく怒り狂ってるんです。そのあまりの怒りっぷりに驚いちゃって、肉が喉に詰まるかと思った。

で、葉加瀬太郎、新聞をテーブルに叩きつけて厨房の奥に消えると、何故だか知らないけどエアガンを装備して戻ってくるんですよ。エアガンて。

で、グルァ!と入り口ドアを開けてですね、猫に向かってエアガン乱射ですよ。まるでランボーの如く乱射。完全にノラ猫を殺る気で乱射してました。

ガガガガガガガガガガガ、と乱射されるエアガンの音に狂喜乱舞する葉加瀬太郎、死ぬほどまずい肉とまあ、どう考えても950円をどぶに捨てたとしか考えられないのですけど僕は早く食いきって家に帰りたい気持ちでいっぱいでした。

「ノラのヤツ逃げやがった!」

とエアガンを携えたまま暗闇の中へ消えていった葉加瀬太郎はそのまま戻らず、僕もどうしていいのか分からずに仕方なくテーブルの上に1000円札を置いて帰ったのでした。

「好奇心は猫をも殺す」というのはまさにその通りで、僕は好奇心で謎の焼肉屋に接近してしまったばっかりに、エアガンで本気で猫を殺そうとする葉加瀬太郎を目撃してしまうという、ものすごい後味の悪い肉の味も悪い思いをしたのでした。比喩でもなくて本当に猫が殺されそうになるとは。

葉加瀬太郎氏には商売をする気概が微塵も感じられず、ここで焼肉屋を開いたらどうなるだろう?という一種のマゾのような好奇心が働き、ここでの開店に踏み切ったのだと思うのですが、この接近遭遇から1ヵ月後、見事に店舗は「貸店舗」へと変わっていました。

好奇心、焼肉屋をも殺す

夜逃げしたのか、「まいう〜!」ののぼりだけが残され、悲しく風になびいていました。


10/12 モンゴル放浪記vol.5

前回までのあらすじ

自費出版の本、海外で売る、モンゴル行く、誰も来ない、モンゴル人に売
る、砂漠まで行く、レンタカーとドライバー雇う、サムソン、言葉通じな
い、車ぶっ壊れる、何とか直る、すごいお腹壊す、野グソ、サムソンも、
さあ、砂漠横断の旅二日目だ!ということで訳分からないと思うので詳し
くは放浪記1〜4をお読みください。
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さて、朝の行為も済んだことだし、ということでサムソンと二人で優雅に朝食をとることに。大平原のパノラマを眺めながら、ヤツがどこから入手してきたのか分からない得体の知れない岩みたいなパンを食す。物凄い腹が下っていて正直食欲がないのだけど、食わないといつ食えるか分かったもんじゃないのでとにかく詰め込む。

テントを片付け、荷物を車に積み込んでいざ出発。目指すは昨日到達できなかった砂漠入り口の町マンダルゴビ。さあ行くぞ!

と意気揚々と出発したのはいいのですが、サムソンが意味不明のヒップホップのカセットテープを爆音で流してご機嫌だわ、ウォッカをがぶ飲みして大トラだわで大騒ぎ。しかも、生水とかが祟ったのか僕のお腹も大騒ぎですよ。

もう目指すマンダルゴビまで数キロという地点まできてるのに、数分したらお腹がギュルギュルして非常事態。

「すまん、サムソン、ちょっとストップ、ウンコ」

と5分走っては車を停めて野グソしにいく始末。これまでの人生で数回しか野グソした経験なかったのに、マンダルゴビまでの数キロで20回くらい野グソした。

もう最後のほうなんて僕もサムソンも慣れちゃってて、最初はパノラマの中での野グソにちょっとドキドキだったけど、最後のほうはもう普通でしたからね。まるで万引きに手を染めていく女子高生のように、最後のほうは顔色一つ変えずに野グソしてた。まるでそれが当たり前であるかのように。

サムソンも、僕が「ストップ!ストップ!ウンコ!ウンコ!」と何回も車を停めるもんだから、すっかり言葉を覚えちゃって、停まるたびに「おーーー、ウンコ」とか鼻歌交じりに言ってた。いやいや、最初に覚えた日本語がウンコってなんですかそりゃ。

それにしても、モンゴル人の、というかサムソンの言語を吸収する力は恐ろしい。クーラーのない車内に暑い暑い言いまくってたら「アツイ」とか普通に覚えてたし、旅の終盤戦では「オオツカアイ」とかまで覚えていた。逆に僕がほとんどモンゴル語を覚えてないことを考えるとこれは物凄いことですよ。こりゃ言葉通じないと思って暇つぶしに「元寇なめんな!」とか「神風吹かすぞ!」とか意味不明に叫んでたけど注意しなきゃな。

そんなこんなで、度重なる下痢にすっかり脱水症状ヤロウと化した僕を引き連れてついに車はマンダルゴビという街に。ここで食料やら燃料を補給することになるのだけど、この街がまた凄い。

もうバラックというか、戦後の焼け野原というか、こう言っちゃ何ですけどCoccoが出てきそうなくらい物凄い焼け野原な貧相な町並みなんですよ。なにこれ?米軍に爆撃されたの?って素で思った。

そんな街にもガソリンスタンドはあるもので、何故かモンゴルのガソリンスタンドはどこも妙にセクシーな姉ちゃんがガソリンを入れてくれるんですけど、そしたら爆音を轟かせてバイクが入場ですよ。

しかもそのバイクにはどうみても子供みたいなのがまたがってるんですよ。おお、こんなモンゴルの奥地にまで暴走族の低年齢化の波が、と僕なんかは驚くんですけど、実はこれ、結構普通の光景らしい。どうもこの辺ではバイクってのは子供の乗り物らしく、ホントに日本ではムシキングとかに狂ってそうなガキがナナハン級のロシア製モンスターバイクを乗り回してるんですよ。明らかに足が届いてない。自転車に足が届かないとかそういったレベルのお話ではありませんよ、これは。

で、早速、持ってきた自費出版ぬめり本を売りつけてやろうとスタンドに入ってきたガキどもに話しかけるのですが、言葉が通じないので微妙にはにかまれるのみ。サムソンに現地語で話してもらったのですが、なんか熱烈にいらないって言われました。包み隠さず打ち明けると、無理矢理本を押し付けたのに投げ返された。そんなにいらんのか。

その他にも、食料を買いに行った先やら、街のメインストリート(牛が放し飼いにされてる)やらで適当に声をかけたのですが、全く売れそうな気配がないんです。っていうか、僕はこんな異国で何やってるんだ。

そんなこんなで、食料、水、燃料を補給でき、全く本が売れる気配すらなかったので早くも移動をすることを決意。どうやらこれから先も南下が続くのだけど、南に行くに従って砂漠的雰囲気になる様子。それは僕の金でサムソンが大量に買い占めたミネラルウォーターの量からも伺える。なんと、500mlペットボトル12本入りが6ケースだったからね。サムソンは水キチガイか。

というわけで、微妙な振動を伴う車は街を抜けてさらに南に進んでいくんですけど、みるみる景色が殺風景になっていくんですよね。ここまでは植物とかも生えてる草原で、野生のヤギがいたり馬が水浴びしてたりしてたんですけど、草木一本生えてない北斗の拳みたいな景色になってくるの。

見渡す限り土だけの景色。そんな中を爆走していくと、ポツリポツリとフロントガラスに当たる液滴が。あ、雨が降ってきやがった、と思ったらもう遅いですよ。次の瞬間にはズゴーーーーーっていうね、激しい雨ですよ。雨というよりはスコールって感じのような、バケツの水をひっくり返したような、たまにドラマの「待てよ!」「離してよ!」「おれ、お前のこと好きだ!」みたいなシーンで降ってる「おいおい、そりゃちょっと降らせすぎなんじゃないの」って言いたくなる雨よりも強烈な雨なんですよ。

どれくらい強烈かって言うとですね。あ、雨だ!激しい雨だ!と思った次
の瞬間には、

辺り一面が川っていうか河になるくらいの強烈な雨量です。ほんと、さっきまで草木すら生えてない大地だった場所が一瞬で河だよ、河。

もちろん、そんな場所を走れるはずもなく、ムリムリと走行していたらボコッとぬかるみにはまり込んで動かなくなるわけですよ。

「プッシュ!プッシュ!」

サムソンのヤロウが信じられない英単語を連呼してて、どう自分びいきに都合よく解釈しても車を降りて後ろから押せ、と言ってるしか思えないんですよ。彼は熱烈なアメリカ大統領ファンかもしれない、と現実逃避することもできたのですが、僕もこの豪雨の中で水没とかはマジ勘弁なので、仕方なく車を押すことに。

といっても、僕は替えの服をほとんど持ってきていないのでここで服を濡らしてしまうと大変な騒ぎ。ええ、脱ぎましたよ。スッポンポンっすよ。どうせ周りなんて地平線しかないんです、誰も見るわけないですし、むしろ見られたほうが興奮するってなもんですよ、それはちょっと違う。

とにかく、サムソンが「ワオ!」とか言っちゃうくらい豪快にストリップしましてね、真っ裸で豪雨の中にダイブですよ。

ブモモモモモ!

マジでこんな声が出ちゃうくらい滝のような雨でしてね、背骨とか折れそうなんですわ。しかも足場がすげえぬかるんで、歩こうとするけど歩けない。ズルってなってチンコが揺れるのみ。

それでもなんとか車の後部に回りこんで必死で押すんですけど車のヤロウ、微動だにしやがらない。僕はこんな遠いモンゴルの土地で何やってるんだ。素っ裸で雨の中車を押すとか、お父さんお母さん元気ですか。

しかもサムソンが鍛冶職人がプシュープシューってやるやつみたいに豪快にブオンブオンとアクセルを踏み込むもんですから、世界陸上の織田裕二並みに空回りしたタイヤが泥を跳ね上げましてね、それがモロにヒットですわ。ビショビショビショですわ。

そしたら、ダメだ!と思ったのか僕に触発されたのか、サムソンのバカまで素っ裸になって車から降りてきましてね、僕の横に並んで押し始めるんですわ。素っ裸で車を押す日本人とモンゴル人、ここに国境を越えた絆に全米が涙した!って感じでサムソンの助太刀は本当に有難いんですけど、いやいや、アクセル操作とハンドル操作は誰がやるのよ、アンタが勇んで降りてきたら誰も車操作できないじゃん、ってなもんですよ。彼は頭の中に水死体でも詰まってるんじゃないか。

格闘すること数十分、全裸の僕が押したかいあって遂に車はぬかるみを脱出。泥だらけでフルチンな僕のバンザーイが響き渡ると同時にピタリと雨が止んだのでした。なんだこれ。

もちろん、汚れてしまったからシャワー浴びてくるわ、なんていうセレブみたいな振る舞いが許されるはずもなく、晩飯に街で買った怪しげな中国産のカップラーメンを食って就寝となったのでした。もちろん、サムソンは車でどっかに行ってしまって僕はまたもテントで一人。またあんな豪雨がきたら確実にテントごと流されるぞ、と恐怖に震えながら、乾いてパサパサになった泥を剥いで眠るのでした。

サバイバルツアー3日目

目が覚めると、またどこからともなくサムソンが帰ってきてて野グソしていた。何度見ても野グソ姿ってのは万国共通で情けない。

さあ、三日目もいくぜ!ここまでの二日で本が全く売れてなくて恐ろしい結末が見えてきたけどまだまだ始まったばかり!今日も行きますぜー、と意気揚々と車に乗り込んだところ、ルームミラーに映った自分の姿を見て驚いたのでした。もう、まだ幸せだったころの田代まさしみたいに真っ黒な顔してるじゃないですか。泥かぶって風呂にも入らず過ごしてるもんですから、もう黒人と自己紹介しても通じるほど真っ黒。

うわー、すげえなー

とウットリと鏡を見る僕を尻目に車は発進していきます。見ると、サムソンはいたくご機嫌な様子。なにごとかとジェスチャーとイラストで問いただしてみると、なんでも今日行く場所はすごい楽しみな場所だ、という。

以前からサムソンが行きたくて仕方なかったヨーリン・アムという渓谷に行くらしい。そこは絶句するような岸壁が聳え立ち、夏の季節でも解けずに残っている氷が存在するらしい。なるほど、なんとも素敵な大自然が体感できる場所なのだな、とか思ったのだけど、おいおい、なんでサムソンが行く先を決めてるんだ。そんなの完全に私情じゃないか。自分が行きたいというだけでヨーリン・アムに行く。そこは渓谷があって氷があって自然があって・・・って、そんな場所で本が売れるか!

あのですね、これは本を売る旅なんすよ。本を売る旅。ただでさえここまで全く売れてないというのに、そんな渓谷に行ってどうするんだ。ちゃんと街に行こうぜ、人のいる街に、と切り出したかったのですが、あまりにはしゃぐサムソンにすっかり言い出せず、僕らは一路ヨーリン・アム渓谷を目指すことになったのでした。

たしか、現在の場所からヨーリン・アム渓谷まで数十キロあったんですけど、これまた数時間悪路をひた走って到着。モンゴル奥地にある渓谷ということで素晴らしく荒んだ誰もいない辺鄙な渓谷を想像してたのですが、なんか到着してみると意外や意外、結構観光客がいたりなんかして賑わっている観光地なのでした。なんか結構人がいた。

まず入り口に恐竜博物館みたいな場所がありまして、その周辺に5軒ほどのお土産物屋さんが。で、なぜか軍人の格好したオッサンが守護しているゲートがあって、そこで通行料を払って山っぽい場所に入っていくとヨーリン・アム渓谷になるって感じでした。ここまで死ぬほどの大自然だったことを考えると随分と人工的な観光地です。

ヨーリン・アム渓谷の入り口みたいな場所に到着すると、なんか各地からドライバーを雇った観光客が集結していて高速のパーキングエリアみたいな状態。

なんかサムソン、ものすごい親しいドライバー仲間を見つけたらしく、ホモなんじゃないの?って言いたくなるくらいベタベタとドライバー仲間と談笑していました。たぶん、その仲間が昔の同級生とかで、「おお!こんな場所で何してるんだよ!」「バカな日本人が砂漠で本売るの手伝ってるんだよ」「バカだな、そいつ」みたいな会話をしてるに違いありません。おまけに昔話に華が咲いて、「そうそう、あのときモンゴル相撲の授業でさー」「そうそう、担任のゲシュタポ先生が」とか会話しているに違いありません。

僕は僕で、一人ぼっちになっちゃったもんだから、その辺にあった小石を賽の河原みたいに積み上げて暇を潰してました。

そしたら仏心を出したのかサムソンが旧友との会話をやめて近寄ってきて

「さあ、ヨーリン・アム渓谷を見に行こう!」

みたいなことを言ってました。言葉が通じないので実際はどうだか知りませんが、たぶんそんなことだと思う。

で、ヨーリン・アム渓谷の奥地まではここに車を停めて徒歩で行くみたいなんですけど、どうやら馬に乗って行くプランもある様子。

「おい、馬に乗っていこうぜ!馬を借りてゴールまで競争だ!」

みたいなことをサムソンが言うんですよ。僕も別に断る理由もないですので、よーし、じゃあ競争だ!みたいなノリでレンタル代金をサムソンに渡して馬を借りてきてもらったのですが、

おお、なかなかカッコイイな!サムソン!

なかなか様になってるじゃないか!それに馬も速そうだ!

よーし、俺だって負けないぞ!ゴールまで競争だ!どこだ!俺の馬はどこだ!

バーン!

これ、ラクダじゃねえか!こんなもんで勝負になるか!

サムソンの罠なのか、馬が大人気で品切れだったのか知りませんけど、競争しようぜといいつつ自分は馬を確保して僕にラクダを渡すその根性。俺、嫌いじゃないぜ。

そんなこんなで、自分で歩いたほうが早いよ、といいたくなる遅さで歩く僕のラクダに、ハイヨー!と一瞬で視界から消えるサムソンの馬と、何も競争になっていない一方的なワンサイドゲームが展開されてました。俺のラクダ、途中でウンコしてたしな。移動途中にウンコ、まるで誰かみたいだ。

それにしても、乗るためにラクダのコブに捕まってたのですが、これがけっこうパンパンで気持ち良い。オナニーを凄い我慢した時の睾丸みたいにパンパンなんですよ。

   

そんな風に睾丸にしがみついて絶景を眺めつつ、渓谷の最深部では夏なのに溶けずに残っている雪を見学。本当はもっと残ってるらしいのですが、コレも地球温暖化の影響なのかほんの少量しか残っていませんでした。うん、だから何?って感じの雪しか残ってなかった。

恐ろしいことに本を全く売ってない、それどころかこの放浪記が全然先に進まない、そんなことに恐怖を感じつつ、あまりに長いので続く!次回はもうちょっと本の販売やら現地人との相撲対決やらに精を出してます!


020 モンゴルサイドストーリー2 21:37

モンゴル放浪記本編で書き漏らした小さいネタをこの機会に!

さてさて、話は思いっきり遡りまして、モンゴルへと向かう飛行機の中。本編のモンゴル放浪記vol.1では行きのモンゴル航空での出来事は

そんなこんなで飛行機が離陸するわけなんですけど、機内放送はモンゴル語と韓国語と英語でした。何言ってるのか全然分からない。機長が神妙に「この飛行機は今から墜落します」とか言ってても全然分からない。怖すぎる。

そんな恐怖に怯えること数時間。いよいよ飛行機は墜落することなくウランバートル空港に着陸。着陸の際、窓際だった僕はすっかり日の落ちたウランバートルの景色を見ていたのですけど、それがなんというか、腰が抜けるくらい灯りが少ないんです。確かウランバートルは100万都市くらいだったはずなんですけど、それにしては灯りが少なすぎる。

とだけ書かれている。しかし、事態はそんなに単純なことではなかった。よくよく考えても見て欲しい。日本人なんて一人も乗っていない飛行機に、機内放送もスチュワーデスも全く違う言語。これがどれだけ心細いか。

飛行時間が5時間くらいあったのだけど、その間ずっと孤独に打ち震え、ただただ既に遠い物となってしまった日本国に思いを馳せていた。おそらく、人生において最も孤独な5時間だったかもしれない。

モンゴルな匂いのする機内。

全てにおいて全く言葉の通じない状況、日本語表記も皆無。

日本人が皆無。

今ここで殺し合いのバトルロアイアルが起こったとするならば、間違いなく僕が日本代表だし、日の丸を背負って戦うことになるだろう。それだけ僕がこのモンゴル行きの飛行機に残された唯一の日本、そのものだった。

日本は俺だけ、日本は俺だけ。そう考えながらなんとか5時間の時間を潰す方法を考える。

持ってきた暇つぶしの神器であるiPodやらNINTENDO DSやらはカバンに入れて上の棚に入れてしまった。取り出すのも面倒くさい。これがあれば少しは日本と言うものが感じられたであろうに、僕はあえてそれをしなかった。いや、荷物を出そうと席を立ったらモンゴルマンスチュワーデスに意味不明の言語で怒られそうで怖かった。

仕方がない、ボーっとして時間を潰すか、と窓の外を眺めたり、隣のモンゴルマンを眺めたりしていると、ふと座席前のポケットにしまいこまれた冊子が目に留まった。

MONGOLICA

おお、モンゴル航空にもこんな粋なサービスが!そう思いましたよ。国内の飛行機会社、特にJALやANAなんかではこういった独自の冊子をサービスで置いてるってのは極めて普通で、退屈な移動時間の暇つぶしに最適で嬉しいのですが、まさかモンゴル航空でもこんなサービスがあるとは。

こいつはいい、さっそく暇を潰そうか、と手にとって読みましたよ。

しかしまあ、よく分からない言語で書かれているページが多く、暇つぶしどころかますます「ここは異国なんだなあ」と寂しくなる結末に。大体なんだ、このヒゲのジジイは。その下に書いてある見出しも僕には顔文字にしか見えない。言語が意味不明すぎ。

そんなこんなで、遠き祖国日本を懐かしみながら、難解な言語で書かれた冊子を読み進めました。すると、そこには、僕の望郷心をかきたてる衝撃のページが!

なんと、日本語で書かれたページ!

おお、モンゴル航空もなんと粋なサービスを!日本人なんてほとんど乗らないだろうに、そんな少数に向けて日本語のページを用意しているとは。なんと素晴らしい。なんときめ細かいサービス。

感動の涙を流しながら日本語の記事を読み進めると、どうやら記事はブギーンツァウと呼ばれる南部ゴビ砂漠付近にあるグランドキャニオンみたいな壮大な場所を紹介している様子。

恐竜の化石などが多数発見される場所だが、交通の便の悪さに観光客はほとんど訪れない。それ故に、今もなお手付かずの自然が残されていると記事では紹介されている。書いてある意味が分かるって素晴らしい。

なるほど、あまりに不便な場所にある故に、現在では発掘の人や一部の研究者しか訪れない場所か、ここはきっと観光客が遊び半分で行ったりとか、ましてや自費出版本を売ろうとしてるヤツが行ってはいけない場所なんだろうな。

ほら見てみろ、写真だって、人が全く手を加えていない壮大な自然を映し出してるではないか。そう人間がむやみに汚してはいけない場所、それが広大なモンゴルの大地には沢山あるんだよ。と哲学めいたことを考えながらこのページの写真を眺めていたのですが、何か様子がおかしい。

決して観光客が、ましてや遊び半分の奴らが訪れてはいけない場所の写真のはずなのに、写真中段にすごいものが写ってる。分かりやすく拡大すると。

が、ガチャピンとムックーーーー!

おまえら、この手付かずの大自然で何してるんだよ!その凄い砂漠で何してるんだよ!まさかこんなモンゴル行きの飛行機の中でガチャピンとムックを見るとは思わなかった。

っていうか、この冊子って、モンゴルの人やモンゴルを訪れる外国人が手にとって見るんだろ。それで、ああ、日本語で書いてある、日本のページだねって、日本を思い浮かべながら日本語読めないから写真だけ見るんだろ。そしたらガチャピンとムックですよ。モンゴル人とか驚いちゃってモンゴル相撲するしかないですよ、これは。

ということで、異国の飛行機の中で孤独さと寂しさに打ち震えていたのですが、予想外のガチャピンとムックの登場に、日本とかマジどうでもいいや、と諦めの境地を悟り、そうこうしているうちに飛行機はモンゴルに到着したのでした。


10/3 モンゴル放浪記vol.4

前回までのあらすじ
自費出版の「ぬめり本」を売るためにモンゴルに行った。誰も来なかった。ゴビ砂漠の奥地まで売りに行くことを決意。どう好意的に解釈しても騙される以外の結末が見えないブローカー陳の仲介により現地人ドライバー兼通訳兼案内人の男性と契約したpato。

しかし、契約したドライバーの息子が馬に蹴られたという理由で出発数時間前にキャンセル。代わりに来たドライバーがアシュラマンの家庭教師みたいでサムソンティーチャーと命名。しかしこいつがビタイチ日本語を話せない。出発数分でウォッカ飲みだすわ飲酒運転だわで大騒ぎ。果たして僕は無事に旅を続けることができるのか!意味がわからないと思うから詳しくは旅日記1と2および3を読んで内容等を熟知すべし。
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サバイバルツアー1日目
モンゴルの首都ウランバートルは舗装されたアスファルト道路だが、ちょっと市外に出るといきなり舗装道路がなくなる。ものの30分くらいだろうか、たったそれだけで文明が消え去り、恐ろしいまでの大自然が待ち受けている。

ジェスチャーと地図、そしてこれがないと意味が分からないということでハンディのGPS受信機を材料に行き先を検討。とりあえずゴビ砂漠に程近いウランバートル南に位置するマンダルゴビという町を目指すことに。なんか300キロくらい南にいくみたい。

ここからはもう道路なんて素敵なものは皆無なので、原始人が猪を追い回したような獣道を使って移動。見渡す限り地平線の中に伸びる獣道を移動していく。もちろん、地図とか道路とかあてにならないのでGPSに表示される緯度と経度だけが頼り。

日本での常識など全く通用しないであろう砂漠横断のサバイバルツアー。生きて帰れるかも分かったものじゃないし、何が起こるのかも分からない。スイッチを押せば電気が点く世界じゃないし、蛇口をひねれば水が出るじゃない。それだけに備えは万全にしておきたい。そんなこんなで、ゴビ砂漠横断行脚ツアーに持っていた心強い装備品を紹介。

お金、大量!まだまだブルジョアジーです。プロレタリアートなんて一掃してみせます。さすがに未開の地にいくとなっても金は必要。財布がパンパンになるほど入ってます。コレで安心。

そして、長い時間のドライビングで暇になるでしょうからiPod miniは外せない。日本の音楽に耳を傾け、遠い祖国を思い浮かべるのに必要な逸品です。


そして忘れちゃならない、NINTENDO DSです。これも暇つぶしには最適。ちなみにソフトは大人の頭の体操だったかなんとかと、なんとかコードっていう推理物でした。

そしてこれらの装備に加えてデジカメ。本を売った証明にガシガシ画像を取ります。容量不足と電池不足を解消するため、デジカメはソニー製とパナソニック製の二つを持っていました。

そして、最後、これがないと生きていけない。極めて必需品な一品。

大塚愛「さくらんぼ」のCD。これがあればモンゴルでも砂漠でもチンギスハーンでもなんでもこい。CD聞く設備なんてないけど、いつだって愛が一緒。もう10000人力とはこのことですよ。

ってばか!生きるか死ぬかのサバイバルツアーなのに、物凄い心細い装備じゃないか。もっと水とか食い物とか医療品とか持っていくものがあるだろ。ざっと見、金以外役に立ちそうにないじゃないか。とまあ、何かをナメてるとしか思えないラインナップだったのですが、まあ、何とかなるか、と鼻歌交じりに運転するサムソンを見つめて考えていたのでした。

それにしてもモンゴルの草原ってのは物凄くて、これがステップ気候の代表格みたいな景色が飽きるほど広がっているんです。もう360度地平線なんて当たり前ですし、ヤギの大群がメエメエ歩いてる姿に最初は興奮したんですけど、そのうち飽きてきちゃって半分くらい寝てました。

寝るっていってももちろん舗装されていない道路を爆走してるわけです。道路なんて水溜りの跡とかでボコボコですし、剥き出しになった岩とかに乗り上げてガンガン揺れるんですよ。すっごい家賃の安いボロアパートの隣の部屋で同棲カップルが情熱的に駅弁ファックしてるような、そんな耐え切れない揺れなんですよ。

もちろんそんな悪路ですから、本日の目的地であるマンダルゴビまでは軽く10時間、日没近くまでかかるという予想。300キロの道のりですが、1時間に30キロも進めれば上出来です。死ぬほど時間がかかるんですよね。

そんなこなんで、駅弁ファックの如き揺れをサムソンと体感しながら見渡す限り地平線の中に伸びる獣道を走っていましたところ

ドガン!ガガガガガガガ!

という物凄い音と共に車が走行不能に。どうもあまりの揺れに後輪のサスペンションが耐え切れなかったらしく、タイヤ上部にある無骨なスプリングみたいなのが思いっきりねじ切れてました。

出発して数時間でコレですからね。もうこんな状態ではドライビングは続けられない。おまけに周りは何もない大草原のみ。かといってJAFを呼んだところで来るわけないし呼ぶ手段もない、とまあないない尽くし。笑うしかない。

「jhぢくぁxxqm、お!」

大切な愛車が早くもぶっ壊れたことにいたくご立腹な現地人ドライバーサムソン。訳のわからない言語でとにかく怒っておられました。こっちが怒りたいぐらいだわ。

とにかく、このままでは仕方ないので後輪をジャッキアップ。タイヤを外して故障箇所の状況を観察します。するとまあ、やはり当たり前のようにスプリングみたいなのがボッコリ壊れてましてね、全く衝撃とかを吸収しそうにない状態。これでこの獣道を走るのは無理ってものです。

「おい、サムソン、こりゃ無理だぜ。どうするんだよ」

みたいなことを、言葉が通じないのでジェスチャーと英語交じりで伝えましたところ、何を思ったのかサムソン、いきなり懐からジャキーンとかバタフライナイフを取り出しましてね、それはそれは人を殺せそうなナイフ片手に地平線に向かって走り出したんですわ。

おお、早くも狂ったか。

そりゃね、言葉が通じないやつがいきなりナイフ取り出してあらぬ方向に走り出していったら狂うたかと思いますわ。車が壊れたショックで狂うた、刺されなくて良かった、くらい思いますわ。

ところがどっこい、サムソンは別に狂ったわけでもなんともなくて、はるか地平線の彼方くらいの場所で何かを拾って帰ってきたんです。どうやらこの窮地を脱するブツが落ちてるのを、どういう視力してるんだか知らないけど発見したらしく、それを拾いにいったみたいなのです。

カブトムシを捕まえた少年のように満面の笑みで帰ってくるサムソン、その傍らにはタイヤがしっかりと握られてました。どうも、この辺でパンクした車が遺棄していったタイヤらしく、見るからにボロボロ、もちろん空気だって入ってないのですが、それを使って窮地を脱することができるのか?と思いながら見ていましたところ

ベリベリベリっとね、先ほどのバタフライナイフを使って拾ってきたタイヤを裂き始めるんですよ。煮て食べるの?って聞きたくなるくらい綺麗に短冊状にタイヤを切り刻むの。

「疲れたから変われ、お前も切れ」

みたいな事を、ナイフの一番切れそうな部分をこっちに向けて要求してくるサムソン。もう断ったら殺されそうなので嫌々切るんですけど、これがまたタイヤって死ぬほど硬いのな。全然切れないの。きれてなーい!って言いそうなくらい切れないの。

もう握力がなくなるのを感じつつゴキゴキとタイヤを切り刻むこと1時間。やっとこさ真っ黒いイカソーメンみたいな短冊が50ほど完成しましてね。サムソンも「OK OK」とかご満悦な様子。

だいたいこのタイヤの破片を何に使うんだ、俺にはとんと使い道が見えない。おまけにこの旅も開始数時間にして先が見えない。いやいや、最初から見えていなかったのかも、と悶々と考えながら眺めていましたところ、サムソンのヤロウ、狂ったようにタイヤの破片をぶっ壊れたスプリングのところに詰め込みはじめるんですよ。

ははーん、なるほどね。結局そういうことなのか。今、この車はサスペンションのスプリングがねじ切れていて全くクッションが利かず、衝撃を吸収しきれない状態。だったらそのねじ切れたスプリングにゴムを詰め込めば衝撃を吸収するというわけですな。

そのサムソンの機転に感心しながら作業を見ていたわけですが、なんていうか、その詰め込んだゴムが思いっきりズレてるというか、今にも外れそうというか。ゴムが外れそう、って書くと途端にエロいんですが、とにかく外れそうで危なっかしいんですよ。わお、さらにエロくなった。

しかし、サムソンはそんなことお構いなしで、ジャッキアップした車を元の状態に戻して満面の笑み。「ノープロブレム、レッツゴー」みたいなこと言うてるんですわ。いやいや、物凄いプロブレムじゃないか。見るからにスプリングがずれてて、物理的に色々とおかしい。今にもガコッと外れそうじゃないか、と思うのですが、そんなことはモンゴルでは日常茶飯事のようです。あまり気にするべき問題じゃないらしい。

さすがモンゴルだぜ。ここの人々はこの草原のように、限りなく広がる地平線のように大らかな心を持っているんだ。そんなね、ちょっとスプリングがずれてるとか、それじゃあサスの意味がないとか小さいことはいちいち気にしないんっすよ。そう、ここではこんなこといちいち気にする僕が間違ってるんだ。少しのズレも許せない、セコイ人間になってたよ。

ということで、走れるならまあいいかと旅を続けることに。明らかに壊れた部分のサスペンション能力がおかしくて、ぶっ壊れたお爺ちゃんのように奇妙な振動がするんですが、ノープロブレム。どんどん先に進みます。

しかし、前述したように舗装されていない獣道では移動速度がかなり遅い。トラブルのせいもあってかとてもじゃないが目指すべきマンダルゴビには到達できない気配。朝っぱらから移動して日が落ちる夜11時くらいまでかかって300キロ移動できないんですからね。かなりの悪路であることが伺えます。

すっかり日も落ち、もちろん街灯なんてあるはずのない道ですので、仕方なくマンダルゴビの手前の人口50人くらいの小さな集落で1日目の旅を終えることに。飯はどうなるのかなって思ってたら、どう考えても民家としか思えない家にサムソンがズカズカと文字通り土足で入っていって、なんか羊の肉が骨ごと入ってたコテコテのスープを振舞ってもらいました。未だにこの民家とサムソンとの関係が謎なのですが、怖いので考えないことにしてました。

さてと、色々あったけど飯も食べたし無事に一日目が終わりましたな、明日も頑張ろうぜ、サムソン。それより今日は寝る場所はどうするのかな?まあ車内泊だよね、シート倒せば二人くらい眠れそうだし、といった眼差しでサムソンのヤロウを見つめていましたところ、サムソン、おもむろに車を走らせましてね、見渡す限り草原であろう場所(闇夜なので正確にわからない)に車を停めやがるんですよ。

で、訳の分からない言語と共に何やら包みみたいなのを渡されましてね、車から降りろ、みたいなこと言ってくるんです。

渡されたのが、組み立て式の貧弱な一人用テントでしてね、どうやら車の中では寝るな、ここでテント立てて寝やがれって主張のようなんですわ。いやいや、なんで車の中で寝ちゃダメなの。僕だけこんな草原で寝るなんて不安がいっぱいだよ、と思うのですが、それを主張するほどサムソンと意思疎通ができているわけではありませんので面倒なことになる前に素直に車を降り、テントを組み立てたのでした。

組み立ててみると、やはり一人用テントというだけあってものすごく小さい。一畳分くらいのスペースしかない。人間一人が横になればそれで精一杯という感じで、気分は寝床というよりは遺体を安置する場所のような感じ。

こんなとこで寝るのかよー、こえーよー不安だよー心細いよー、でもまあ、サムソンの車が横に停車してるわけだし何かあっても大丈夫か、とか思ったんですけど、サムソンの車は僕がテントの設営を終えたのを見届けるとブルルルルルンとどこかに走り出しましてね、なんだか別の場所で寝るみたいなんですよ。あまりの驚きに「おいおい」どころか「OIOI」って言ってましたわ。

ええ、見ず知らずの異国モンゴル、しかも見渡す限り完全な闇であたりに何もないパーフェクトな草原、絶望的に周りに人が住んでないであろう場所にテント立て、得体の知れない恐怖に怯えながら眠りについたのでした。

遠くのほうで野犬だか野生の狼だか知りませんが、正体不明の動物の遠吠えのような鳴き声、分かりやすく言うとX JAPANの人みたいな声が聞こえたのですが、こんなテント、動物の群れに襲われたらひとたまりもない、いざとなったらこのNINTENDO DSを振り回して戦うしかないぜ、とか考えていたらいつの間にか眠っていました。

なぜかテントの天井がメッシュで、雨が降ったらどうするんだと思いつつ、異常に綺麗な星空を眺めて眠ったのでした。明日は本を売れるといいな。

サバイバルツアー2日目

日の出の強烈な眩しさにより強制的に目が覚める。というか尋常じゃない腹痛と共に目が覚める。時計を見ると朝6時。太陽も半分くらい地平線から出ている。

なんだ、この腹痛は。今までに経験したことないレベルの腹痛。腸とかそのへんのウンコを司ってる部分が全部裏返しになりそうな腹痛。もしや、昨日の羊肉の夕食などに代表されるように、現地の食い物、現地の水を思いっきり摂取していたのが良くなかったのか。

と、とにかくウンコをしなくては・・・。体の中の悪魔を外に出さなくては。そういえば、こんな草原のど真ん中にトイレなどあるはずがない。くっ、僕のような皇族生まれに近い高貴な男が野グソなどという下賎なことをしなくてはならないのか・・。

苦しみながらテントから出ると、昨日は暗くて分かりませんでしたが、やはりここは見渡す限りの大平原。見える範囲では地平線しか存在しないという壮大な風景が。おまけに、あたり一面探してもサムソンの車は見えず、あいつはどこまでいったんだ、と不安に駆られましたが、今はそんなことよりウンコです。

いやね、しかしまあ、僕もこれまでの人生で、駄菓子屋の裏とか、田舎の畑とか、高速の路側帯とか、山下君の部屋とか、色々な場所で野グソしてきたけど、草原のど真ん中でする野グソはシャレにならないよ。マジで爽快。人生観変わる。小学校の時、ウンコマンとか言われるの嫌で頑なに学校でウンコしなかった自分とか、授業中にウンコ漏らした堀部君のこととか、そんなのが銀河の彼方レベルでどうでもよくなるくらい爽快。地平線に向かってウンコする、まさしく地球レベルだからね。

そんなこんなで、明らかに体の異常を知らせる原色レベルに黄色いウンコ(液体)を眺めつつ、まだサムソンが戻ってこないから寝よう、とテントに戻って二度寝をかましていたのですが、夢うつつの中で車がテントの横に停まった音がしたので外に出てみると、そこには衝撃的な光景が。

いやな、サムソンも野グソしてた。

そこは遮蔽物が全くない草原ですよ。生まれたての小鹿みたいになってウンコをするサムソン、その後ろには地平線から昇り来る太陽、まさにライジングサンですよ。もう、なんていうか、野グソしてる姿って万国共通で情けないな、と思いつつ、二日目の旅が始まるのでした。ちなみに僕もサムソンも尻を拭く紙がなかったので拭いてません。

異常に長いので続く。

次回はいよいよマンダルゴビ上陸。そしてゴビ砂漠へ。しかし、コーラ禁断症状が現れたpatoに、さらなるサムソンの魔の手が襲い掛かる。そして、渓谷で見たものとは!さらに、旅の最終地で出会った少女、その数奇な巡りあわせに全米が涙した!お楽しみに!


9/27 Ga-Noise!2

Ga-Noise!2というサイト管理人がDJするイベントに参加するために大阪に向けて高速を走らせていると、なんだか急に豆腐のことを思い出しました。

夜のハイウェイを爆走していると、見えるのは遠い町の夜景と後ろに流れていく街灯のみ。その白い光を見ていたら丸いはずの光が四角に見えてきて、なんだか漠然と豆腐のことを思い出したのです。

僕は今でこそ、味噌汁に豆腐が入っていなかったらちゃぶ台をひっくり返すほどの豆腐フリークを自負してるわけですが、幼少時代、それはそれは豆腐が大嫌いだったのです。

僕の中に燦然と輝く、三大食べるとゲロを吐く食物として、賢明な閲覧者の方ならご存知だとは思いますが、納豆、チーズケーキ、そして豆腐は不動の地位を確立していたのです。この三つだけは食えば確実にゲロが吐ける、という、演出などでどうしてもゲロが欲しい場面では大変便利な仕様になっていたのです。

だってよくよく考えても見てくださいよ。豆腐ですよ、豆腐。豆が腐ってるねんで。そんなもん食えるわけないじゃないですか。腐ったものを嬉々として食うなんて、どんな食糧難なんだよって話ですよ。

とまあ、あの四角い白い物体に思いを馳せ、考えるだけでゲロを吐きそうになる幼少時代を過ごしたわけなのですが、人間の生命力とは大変物凄いものですね。頑張ればいくらでも克服できるものです。そう、努力して克服できないことなどない。

相変わらず、29歳になった今でも納豆とチーズケーキはダメで、匂いを嗅いだだけでゲロを吐きそうになり、松井君が教室でゲロ吐いたときに貰いゲロしそうになった酸っぱい思い出がフラッシュバックするのですが、なんとか豆腐だけは克服したのです。もう、それは血の滲む努力を経て。

具体的に言うと、納豆やチーズケーキはともかく、豆腐は食えないと社会に出てから困る、というウチのキチガイ親父の意味不明な理論によって鍛えられたわけで、巨人の星ばりに鬼の猛特訓。豆腐を食わないと殴る蹴るされるとか、飯が豆腐ばかりだとか、聞くも涙、語るも涙の物語があったわけですよ。

強烈だったのが、前にもお話したことあるんですけど、ウチの母親は病弱で家のことなんて何もできない時期がありまして、学校に弁当を持ち寄らなければいけない際に、非常に寂しい思いをしたことが多々あったのですが、その時にね、何を思ったのか親父が弁当を入れてくれることがあったのですよ。

それでまあ、狂ってる親父が作る弁当ですから、弁当箱全部がキムチで埋め尽くされてるとか、半ば腐った魚が一匹丸ごと入ってるとか地獄を見たわけなんですが、それに伴って途方もない弁当が登場したんですよね。

当時、僕の弁当箱と親父の弁当箱が並行して使用されることが多く、日によっては親父の弁当箱を持たされたりしたんですが、それって非常に無骨で要塞みたいな弁当箱だったんですよね。僕のはファニーなヤツだったけど、親父のはオカズと飯の段が別々になってるプロフェッショナル仕様だった。

それでまあ、オカズの段をあけると、そこには豆腐てんこ盛りですよ。なにか怪しげな、黒魔術で生成されたみたいな豆腐料理が、これでもかと並んでましてね、「納豆やチーズケーキはともかく、豆腐は食えないと社会に出てから困る」という意味不明な親父理論がヒシヒシと伝わってきましたよ。

僕かて、こんな昼真っから豆腐なんぞを食べてゲロを吐いては午後からの授業に支障が出ますし、なにより学校で吐こうものなら「ゲロ貴族」だとか限りなく不名誉なニックネームを頂戴するに決まってます。親父には悪いですがここは笑顔で豆腐オカズをスルーし、帰り道などで速やかに捨てるに限ります。作ってくれた親父のことを思うと少々心が痛みますが弁当を豆腐だらけにする親父が悪い。

それでまあ、オカズは全滅なのでここはライスでもたらふく食べて飢えを凌ごう、とご飯の段をあけて驚きですよ。一瞬、ご飯の段に白い米が、いわゆる銀シャリが敷き詰められていると思ったのが実は錯覚で、その白いのが全部豆腐だったという衝撃。まさにセカンドインパクト。

オカズの段もご飯の段も全てが豆腐という、親父は僕を兵糧攻めにする気かと叫びたくなるよう弁当でした。何も食えない。

まあ、その甲斐もあってか、今ではいっぱしの大人として豆腐に舌鼓を打つことができ、親父に感謝すらしているのです。やはり好き嫌いというのは良くありません。それが健康のために良くないとか真っ当なことは言いませんが、単純に一つの食品を味わう機会を失うってのは寂しいじゃないですか。

そんなことを考えながらボケーっと高速を走っていたら妙にお腹が空いたのでサービスエリアに入ることに。いつもならクサレまずいラーメンでも食べるのですが、昔のことを思い出して妙にセンチメンタルジャーニーな感じになっているので豆腐を食べることに。なんか少し高い定食についてた豆腐を食べた。

そしたら隣の会話が聞こえてくるんですよ。

「ダメだよー好き嫌いしちゃー、もう」

「だってよー、どうしても食べれないんだもんよ」

とかなんとか、どう考えてもカップルと思わしき甘い会話が聞こえてくるんですよ。こっちは一人で豆腐すすってんのに、もう今にもハメ撮りしかねない勢いでカップルが飯食ってるんですわ。

どうも、カップルの男のほうが豆か何かを食べれないみたいで、食べなきゃダメだよーとか女に言われてるわけなんですが、僕の席から見える角度では男はなかなかの美男子でジャニーズ系。こりゃあ、豆は食べれなくても別のお豆は食いまくりですわーみたいな感じなんですよ。

「もうダメなんだからー、好き嫌いはダメだぞっ!」

とか、甘く切ないやり取りですよ。たぶん、これから、私のお豆を食べて、とか高速のインター降りてすぐにあるラブホとか行くんだろうなーとか苦々しく思いながら豆腐食っていましたところ、くるっと女がこっち見たんですよ。

そしたらアンタ、その女がムチャクチャブスじゃないですか。あんな甘い声を出すのことは許されない程のブスというか、一般的ブスの領域を超えたブスというか。早い話、普通のブスは見た瞬間に「お、ブスだね」くらいで終わるんですけど、そのブスは「こっちにブーンって飛んできて卵を産み付けられそう」って思うくらいのブスなんですよ。

もうビックリした。女子がお豆を急に刺激されたときくらいビックリした。だって、ジャニーズ系が卵産みそうなブス連れてるんですよ。もうこれにはお豆が食えないとか云々の好き嫌いじゃなく、お前はもっと根本的なところを好き嫌いしたほうがいい、とジャニーズにアドバイスしたくなったのですが、そんなこんなで飯食って大阪に到着しGa-Noise!となったのでした。恒例のセットリスト。

Ga-Noise!2 9/23 大阪club vijon
ジャンル アイドル 
01.LOVEマシーン/モーニング娘。 
02.恋のダンスサイト/モーニング娘。 
03.チュ!夏パ〜ティ/三人祭 
04.絶対解ける問題X=/松浦亜弥 
05.LOVE SHINE/BeForU 
06.PECORI NIGHT/Gorie with Jasmine & Joann 
07.恋愛レボリューション21/モーニング娘。 
08.Distance/押忍!番長 
09.恋のマイヤヒ/O-ZONE 
10.LOVE&JOY/木村由姫 
11.ここにいるぜぇ!/モーニング娘。 

ジャンル 大塚愛 
01.片思いダイヤル/大塚愛 
02.Cherish/大塚愛 
03.SMILY/大塚愛 
04.ポンポン/大塚愛 
05.Happydays/大塚愛 
06.pretty voice/大塚愛 
07.さくらんぼ/大塚愛 
08.さくらんぼ/大塚愛 
09.さくらんぼ/大塚愛 
10.さくらんぼ/大塚愛 
11.さくらんぼ/大塚愛 
12.さくらんぼ/大塚愛 
13.さくらんぼ/大塚愛 

そんなこんなで、相変わらず頭おかしい。おおよそクラブシーンでかける音楽じゃない、何かを勘違いしたような選曲でお送りしたクラブイベントでしたが、徹夜で飛び跳ねてはしゃぎまくった結果、帰り道は疲労マックス。なんか胃が気持ち悪くて体調最悪でした。で、サービスエリアで豆腐食べたらゲロ吐きました。また豆腐が怖くなった。

次回更新は一部でお待ちかね!モンゴル旅日記の続きです!


9/16 もののけ姫

この間、もののけ姫を見たんですよ。

職場の鬼のような事務員さん(40代後半、オバハン)に「手続きに使うから保険証持ってこい!」とか言われて、そういえば長い間保険証を使った記憶がない、綺麗さっぱりない、病院にかかった記憶もなければ、身分証明に使った記憶もない、と途方に暮れたんです。

一番新しい記憶を手繰ってみると、どうも数ヶ月前に、ポケットに溜まってたレシート類だとかを捨てていた時にですね、ボコボコとコンビニでコーラを買ったレシートしか出てこなくて戦慄すら覚えたんですけど、それに混じって奥底からシワクチャの保険証が出てきたんですよ。

まるで標準語を喋れない山間部のお婆さんの如くシワクチャな状態の保険証。ゴミレシートと同列の扱いかよ、と自分で突っ込んだのですが、それが彼を見た最後の記憶でした。その後、彼の消息は途絶え、誰もその姿を見た者はいないという衝撃のミステリー。消えた保険証ミステリー!アリバイを崩せ!空白の5分を埋める魔の乗り換えトリック!ってなもんですよ。意味分からんけど。

僕がまだうら若き大学生だった時、西山君っていうとんでもない同級生がいたんですよ。その彼は本気で「俺は将来はバンビーナになろうと思う」とか言ってのけるような意味不明なトチ狂った人だったんですけど、その彼がですね、とある伝説を作り上げたことがあったんです。

彼の伝説を語る上で外せないのが、一緒に所属していたゼミの飲み会で出来事が挙げられるのですが、宴も進み、酔っ払っていい感じに出来上がっちゃったゼミの教授に「お前らの夢を語れ!」とか至極面倒臭い、その後の説教的展開が容易に想像できる質問が僕ら若手に投げつけられたんですよ。

そりゃね、僕らももう大学生ですよ。いい年してるんですから「夢は何だ!」とか聞かれて真顔で夢を語れるような歳でもないですよ。それこそニヒルに「エンジニアになりたいです」とか「人の役に立つ仕事に就きたいです」とか、本当の裸の夢を隠して無難なこと言うくらいしかできなかったですよ。

そんな中にあって西山君の回答は豪胆なものがあって、酔っ払った教授の「お前らの夢を言ってみろ」という問いに対して、

「大学に行こうと思ったら、何故かすごいバネのジャンピングシューズをはいていてー、思いっきりジャンプしたら一瞬で実家に帰省してたんです。で、家に入ったら、何故か中学の時に同級生だった杉谷君がウチの母親と鍋焼きウドン食っててー、僕がすごい激怒したところで目が覚めました」

とかなんとか、どう考えても「お前、それ今朝見た夢だろ」とツッコミを入れずにはいられない、夢見る少女じゃいられない返答をしやがったんですよ。さすがに酔っ払ってタチ悪くなっちゃってる教授もこれには呆然、「なんで鍋焼きウドンだったんだろうな」と言う事しかできなかったという伝説的エピソードがあるのです。

で、その西山君。大学卒業を控えたある日に途方もない事件を起こしたんです。なんか、大学の事務のほうに提出する重要書類を紛失したとか何とかだったのですが、それが途方もない事態を巻き起こしたんですよね。

あまり詳しく述べるとアレなんですが、その書類というのが必修科目の単位認定に絶対必要なもので、僕らも「絶対に紛失しないように、卒業できなくなるよ」という幼稚園児みたいなことを念を押されながら受け取ったのですが、さすがに「卒業できない」とか言われるとブルっちゃうじゃないですか。

普段は僕だって大切な書類ほど紛失する、という摩訶不思議な現象を地でいってるのですが、やはり卒業できないのだけは苦しい。ということで、細心の注意で書類を扱い、期限前に提出したのですが、西山君だけは違った。

もう、その書類をもらった日に紛失してましたからね。もらった時にクシャクシャとぞんざいな扱いでカバンにしまう姿を見ていたものですから、かなり危ういとは思っていたのですが、まさか本当に失くすとは。

それからはまあ、「やばい!」と焦る彼の姿や、「どこいったんだろう」と探しまくる彼の姿、「卒業できないかもしれない」とやつれていく彼の姿をまさしく他人事ヨロシクで眺めていたのですが、重要書類を紛失するっていうのは本当に大変なことなんですよね。事務から「早く出せ」って突かれるわ、教授に「卒業できなくなるぞ」と脅されるわ、ゾーンディフェンス並みの圧力でしたからね。

結局、その圧力に負けたのか、あるいは心が折れてしまったのか、彼は「紛失しました」とカミングアウトすることをせず、何を思ったのか書類を偽造しはじめたのです。その思考回路が物凄い。しかし、どうにもこうにもゴージャスなハンコだけは偽造できなかったらしく、事務に提出したときに一発でバレてました。

で、その書類を偽造するという詐欺師顔負けの行動が教授会でいたく問題になったらしく、彼は半年ずれて卒業することになったのですが、やっぱね、重要書類を紛失するってそれだけリスキーなことだと思うんですよ。

世の中には重要書類を紛失したというだけで網走あたりの営業所に左遷を余儀なくされたサラリーマンもいるでしょう。重要書類の所在いかんで首をくくった人もいるでしょう。所詮は人間が作った紙切れに過ぎないのに、それが人の人生すらも左右してしまう、なんとも恐ろしいものです。

でまあ、僕としても保険証という重要書類の所在が分からず、かつての西山君の姿が脳裏に浮かび上がり、もしや、保険証がこのまま見つからなかったらクビ、もしくはリストラ要員として陰湿なイジメにあうんじゃ・・・などとブルってしまったわけなんです。

それでまあ、狂ったように家捜しですよ。あの保険証はどこに行ってしまったんだ!と全てをひっくり返す勢いで家捜し。何かジャンクな品々が詰め込まれてることで知られるタンスの引き出しをひっくり返して大捜索ですよ。

途中、すっごい古いジャンプが出てきて、あー、懐かしいー、まだこの頃はこち亀も面白かったんだよね・・・。とか読みふけってしまい、思い出に浸るノスタルジックな場面も見られてのですが、そんなことをしている場合ではありません。保険証を探さねば。

そんなこんなでガサガサと探していたら、今度は映画「もののけ姫」のDVDですよ。こんな物が出てきたら保険証どころの騒ぎじゃない。

「patoさん、今日こそは保険証持ってきたんでしょうね」

「ブハハハハハハ!黙れ小僧!」

もののけ姫のあのシーンに強烈インスパイアされ、事務員さんに詰め寄られたらこう答えてやろうかとも思ったのですが、おいおい待てよ、そもそもあのシーンってどんな感じだったっけ、こりゃもう一度見てみるしかねえな、と何故かDVDをセットして鑑賞を始めてしまったのです。もう保険証どころの騒ぎじゃない。

でまあ、この「もののけ姫」さすがに名作なのですが、内容自体は獣に育てられた女の子サンが村を追われたアシタカと惚れた腫れたを繰り広げる痛快ラブコメディなわけなんですが、ちょっとこれはタイトルと内容がマッチしてないな、と思うわけなんです。

この作品中のサンは、もののけに育てられたわけですから「もののけ」の部分は了解できるんですけど、どうしても「姫」という部分が理解できない。作品中であまり姫っぽい振る舞いが見られないんですよね。作品自体はけっこう好きなんですけど、どうしてもタイトルが納得いかない。

もうちょっとこうね、「もののけ姫」ってタイトルをつけるならば、もっとこう、もののけな姫を前面に出した内容にしなくてはならない。そう思ったのです。

「もののけ姫」

ブス、化け物、そう呼ばれて育ってきた嘉子の青春自体は暗く寂しいものだった。誰かに恋をするなんて考えられなかったし、自分の容姿を気にして引っ込み思案になっていた。

「私だって誰かと恋いしたい、お姫様のようなドレスを着て街を練り歩いてみたいわ」

それが嘉子の望みだったが、誰にも言えず、今日も誰かにバカにされながら生きていくのだった。

「やーい、ブスブス!このモノノケが!」

今日も知らない誰かに罵られ、石を投げられる。皆さんは容姿だけでここまで存在を否定される人間の気持ちを考えたことがあるだろうか。私だって好きでブスに生まれてきたわけじゃない、それなのになんで・・・。

いよいよ我慢できなくなった嘉子は自らの命を絶つことを選択してしまう。自室で月明かりを浴びながら、部屋中の鏡を叩き割り、生まれ変わったら綺麗になりたい・・お姫様のようになりたい・・・涙を流しながらカミソリを手首にあてるのでした。

その瞬間、嘉子は不思議な体験をすることになります。部屋中がまばゆいばかりの光に包まれ、そして、その光の中心に人影が。

「だ、だれ・・・?」

「お前の望み!叶えてやろう!」

次の瞬間、嘉子が目覚めるとそこは見たこともない研究所の一室でした。どうやら気を失っている間にここまで連れてこられたようです。

「気がついたかい?」

白衣を着た白髪の、それこそ博士という呼び方がふさわしい老人が、ポットにコーヒーを注ぎながら話しかけてきます。

「かわいそうに・・・随分辛い思いをしてきたんだってね・・・」

優しく話しかける博士。今まで石を投げつけられたことしかなかったのに・・・初めて触れる人の優しさに嘉子の目から涙がこぼれます。

「でもね、ブスだからって死ぬことなんてない。ブスには無限の可能性があるんだよ。・・・私についてこないか?君を望みどおりお姫様にしてあげるから」

なんのことだか分からなかった。けれども、お姫様という響きは素敵だったし、この人はブスである私を否定しようとしなかった。この人についていってみよう、どうせ一度は捨てた命、なんだってやってみよう。

コクリ、と一度だけ頷く嘉子。それを見た博士は一口だけコーヒーを飲むと、部屋の明かりを消し、スライドで説明を始めた。

「そもそも、ブスとは、インパクトのある顔のことである・・・一度見たら忘れられないインパクトある顔、それがブスとして・・・」

博士の説明は納得のいくものだった。彼の説はこうだった。そもそも、平安時代辺りの古き日本においては、美人とブスの概念が現在とは大きく異なっていた。現在ではブスとして扱われている顔が美人として定義され、時の権力者に重宝されたのだ。反面、今の美人はブスとして扱われていたのだ。

ブスにはブスの持つ特有の巨大なエネルギー、ブスパワー、ブスエナジーと呼ばれるものがある、それが博士の説だった。そのパワーが権力者に利用され、愚民の統治に利用されることもあったらしい。

「ブスな顔にはパワーがあるんじゃよ」

しかし、あまりに巨大で危険な、現代の原子力にも相当するブスパワーを恐れた人々は、そのパワーを封殺する方向に動き出す。ブスと美人の概念を入れ替え、ブスたちを社会的に抹殺する風土を作り出したのだ。

そして、その概念は現代にまで引き継がれ、今でもブスは社会的に抹殺され、その巨大なるブスパワーをほとんど発揮することなく一生を終えるのだった。そう、いわれのない迫害を受けながら。

「ワシは、そのブスパワーをブスから抽出する実験に成功したのじゃよ。これを利用してブスが美人として重宝がられる正常な状態に戻すことだってできる」

エネルギー問題が深刻になる中、博士は石油に変わる新エネルギーとしてブスパワーをその抽出方法と共に発表する。さすれば美人など途端に価値のない存在に成り下がり、ブスのみが許される存在になるのだ。

「見たところ、あんたのブス度は凄まじい。ワシが集めたブスの中でもピカイチじゃ。きっと無尽蔵のブスパワーが抽出できるじゃろうて」

嘉子は褒められてるんだか貶されてるんだか分からなかった。けれども、ブスとして何の存在価値も見出せなかった自分を必要としてくれている人がいる、そう思うとなんだか嬉しかった。

「アンタはブスが重宝される新世界の姫になるんじゃ!その巨大なブスパワーで、もののけ級のブスたちの姫、もののけ姫になるんじゃ!」

(ここで、米良さんの甲高い声の「もーのーのーけー」の歌が入る)

「私が・・・もののけ姫に・・・」

ひとまず、博士が古今東西、ありとあらゆるブスを集めた収容所に身を置く嘉子は、博士の研究が完成するのを待ちます。そこで知り合ったブス仲間たちと合コンの話など悲哀のこもった話をして日々を過ごしていくのでした。

博士の研究さえ完成すれば、私たちはもうブスとして迫害されなくなる。それどころかブスパワーも平和的に活用され、誰もが幸せに暮らせるユートピアが来る。嘉子たちはそう信じてただただ待つのでした。

しかし、博士の狙いは違っていました。マッドサイエンティストとして学界を追放された博士の狙いは復讐だったのです。そう、人類への復讐。

抽出したブスパワーを軍事兵器に活用したテポドンならぬブスドンと呼ばれる大量殺戮兵器、それを使って現国家の転覆を企て、革命を起こし、自分が独裁者として君臨するつもりだったのです。そう、太古の権力者がブスパワーを統治に利用したのと同じように、博士もまたブスパワーで世界制服を企んでいたのです。

ひょんなことから博士の恐るべき計画を知ってしまった嘉子は葛藤します。博士の計画さえ完成してしまえば、私はブスとして迫害されなくなるだろう。それどころか世間から重宝がられるだろう。もののけ姫として君臨できるだろう。しかし、博士の独裁社会で人々は平和に暮らせるのだろうか・・・。きっと戦乱の世が訪れるに違いない・・・。私はどうするべきなの・・・。

そしてそんな中、博士が試験的に完成させたブスドンが手始めにロサンゼルスの街に照準を合わせられたことを知ります。自分たちのブスパワーによって多くの命が失われるかもしれない、自然とブスたちの間に重苦しい沈黙がのしかかったのです。

「私は戦うよ、博士の好きにはさせない」

沈黙をやぶるかのようにブス仲間の花江が立ち上がります。

「ブスと美人が入れ替わるってのは魅力的だけど・・・多くの人が死ぬのは嫌」

同じくブス仲間の紀美子も立ち上がります。

「私、ずっとモデルになりたかったんだよね・・・こんなんだから諦めてたけど・・・でも、モデルなんかより大切なことがあると思う!任せといて!肉弾戦なら得意なんだから!」

B子だって立ち上がります。

「ブスだっていいじゃない、ブスの根性見せてやろうよ!」

良美も立ち上がり、4人のブス仲間が決起したのです。そして、嘉子は

「私はずっとお姫様になりたかった。博士にもののけ姫になれるって言われた時は嬉しかった。ブスで良かったなってすら思った。でもね、こんなやり方は間違ってると思う。そりゃあ、いつも私たちを迫害する世間なんて滅んじゃえって思ったこともあった。でも、そんなの間違ってる!私も戦う!」

ついに蜂起したもののけ姫嘉子と4人のブス仲間たちは魔王と化した博士に戦いを挑むのです。

ブスパワーを顔面から放出するという荒業で研究所の雑兵をなぎ倒していくブスたち。目指すは博士の研究室、そこにブスドン発射ボタンがあるはずです。しかし、途中で紀美子が敵兵の銃弾に倒れてしまいます。

「おねがい・・・私はブスのままでいいから・・・世界の平和を取り戻して・・・みんなの幸せを守って・・・おねがい・・・」

「きみこーーーー!」

泣きじゃくったブスはさらにブスになってブスパワーを増し、一丸となって博士の部屋へと向かいます。

博士の魔科学が作り出したモンスターに行く手を阻まれたブスたち。どうやら博士はブスたちが反旗を翻すことを読んでおり、事前に周囲の周りを固めていたのです。

花江、B子、良美が凶暴なモンスターを押さえつけ、嘉子の通り道をあけます。

「いきな!嘉子、ここはアタイらに任せて博士の所に行くんだ!ブスドンの発射だけは止めるんだよ!」

「化け物がなによ!私だって化け物なんだからね!」

「嘉子、ブスな私が言うのもなんだけど、今のアンタはブスじゃないよ、輝いてるよ!いきな!アタイらブスの力で世界を救おうぜ!」

「うん!」

モンスターと戦うモンスターなブス仲間を置いて走り出す嘉子。そしてついに、博士の部屋に到着するのです。

「どうして・・・どうして・・・私の計画の邪魔をするのだ」

怪しげな液体が煙を吹く博士の研究室。その中央で大量のブスパワーを浴びつづける博士。巨大なブスパワーによって筋肉モリモリになる反面、その副作用で醜い化け物へと変化していく博士。

「世間を呪っていたのだろう。自分をブスブスと迫害する世間を呪っていたのだろう。ならば、私の理想と同じはず、なのになぜ邪魔をするのだ」

「私はこんなやり方を望まない。私たちは確かにブスだわ。でも、ブスと醜いは同義じゃない。私たちは醜くない。博士みたいに醜くなったらおしまいよ」

「フハハハハハハ、貴様はもののけ姫になれる器だと思っていたが私の見当違いだったようだな!死ぬがいい!」

その刹那、博士に照射されていたブスエネルギーがさらに増大し、博士はこの世のものとは化け物に姿を変えた。

「ふはははは!ブスのまま醜く死ねい!」

その瞬間だった。

嘉子の体から溢れんばかりの眩いブスパワーが放出され、博士に襲い掛かった。

「な、なにぃ!これほどまでのブスパワーとは!」

溢れ出したブスパワーは博士の体に飲み込まれ、さらに大きく醜く姿を変えていく。

「ぐわああああああああああああああ」

巨大なブスパワーを支えきれなくなった博士の体は引きちぎれ、その後には醜い肉片だけが残されたのだった。

「私が・・・世界を救ったの・・・?」

全ブスパワーを放出しきり、その場に座り込んでいた嘉子にブス仲間が駆けつける。

「やったね、私たちが世界を救ったんだ」

「嘉子、あんたお姫様だよ。誰が何と言おうと、あんたはお姫様。世界を救ったもののけ姫だよ」

「私が・・・姫・・・」

数日後−。
渋谷ハチ公前の雑踏。多くの人が行き交う。
ここを歩く多くの人が、ブスたちが世界を救ったことを知らない。
嘉子はブス仲間たちと楽しく酒を酌み交わすべく、ハチ公前に立っていた。

「おい見てみろよ、あの女、すげえブスだぜ」

誰かが心無い一言を聞こえるように言う。以前の嘉子なら、それだけで申し訳ない気持ちになってしまい、顔が見えないように俯いてしまっていたのだが、今日の嘉子は違って、真っ直ぐと前を見据えていた。

自分がもののけ級のブスの姫であるという自信を持って、これからも生きていこうそう思ったのだった。

おわり

とまあ、すっごい長くなっちゃって、何の話してたのか忘れちゃったんですけど、ああ、そうそう、保険証の話でしたね。でまあ、こんな「もののけ姫」を真剣に考えたいたら、当然ながら保険証など見つかるはずもなく、次の日にはもののけと化した事務員さん(40代後半、オバハン)に烈火の如く怒られたのでした。

「ブハハハハハハハ!黙れ小僧!」

「小僧じゃありません!」

すごい頭がおかしい人に思われたに違いない。今度は事務員さんに今朝見た夢の話でも延々としてやって、ホームラン級のキチガイだと思わせて保険証の話を有耶無耶にしたいと思います。


モンゴル放浪記は少しお休み。だってここはモンゴル旅行記サイトじゃないもの。仕方ないよ、人間だもの。

9/12 台風タイフーン

「台風」ってなんで台の風なんでしょうか。

良く分からないですけど、あれだけ物凄い暴風を演出する台風です、もっと恐ろしげな漢字が使われてもいいと思うのです。もっと竜虎のような脅しの効いた名前だとか、死を連想させる名前、画数の多い漢字を使った名前とかがあっても良さそうなのですが、何故か「台風」。見た目もホノボノしてますし、画数が少なくてスカスカです。怖くもなんともない。もっとこう、龍風とか死風とか、読みは同じにしても画数の多い戴風とかにするべきだ。

台風の語源には諸説ありまして、タイフーンから来た説だとか、中国で台湾付近の風として使われてた「颱風」からきたとか、アラビア語の「tufan」から来た、ギリシャ語の風の神「typhon」からきたなど様々です。どれもこれも納得な説ですが、それでもさすがに「台風」はないだろうと思うわけなんです。これはあの暴風の恐ろしさを全く表してない。

まあ、そんな語源の話は置いておきまして、それにしても先日列島を襲った台風14号は物凄かったですね。暴風が吹き荒れ、まさに猛烈という言葉がふさわしいほどの暴風雨。崖は崩れ、川は溢れ、電気が止まり水道も止まる。本当に物凄いものでした。

僕など暴風雨で2日間仕事が休みになったばかりか、台風が過ぎ去った後も大変でして、土砂崩れやら洪水やらで道路が壊滅状態でしてね、職場まで通じる国道が全て通行止め状態。強制的に通勤できなくてしばらく有給を使ってました。

我がアパートのほうも、強風で窓ガラスにヒビが入るやら、隣家とベランダで繋がってる部分の「緊急の際は蹴破ってください」と書いてある仕切り板が風の力で破れちゃって、「おお、緊急の際だ」とか思うやらカーニバル状態の大騒ぎ。台風で窓ガラスが割れるとか言うと屋根から転げ落ちたどっかのクリスタルナイツな親父を思い出しますが、とにかく凄かった。

暴風雨の真っ只中、今まさに最も盛り上がってるだろう時にコンビニATMで金を下ろしてやろうと呑気に近所のセブンイレブンに行ったのですが、横殴りの雨に初めて「痛い」と感じました。雨に「痛い」ですからね、こんなのモンゴルで雹に見舞われて「ヒョウ!」と驚いた時以来です。

そんな苦しい思いをしていざコンビニに到着してみると、停電で大騒ぎ。非常灯がつくやら、アイスが溶けないように店員さんが必死になるやら、そんな中で微動だにせずヤンマガを立ち読みしている若者がいるやらでカオスな状態になってました。

情報によると、近くでは堤防が決壊して浸水の大騒ぎ、山間部では土砂崩れが起きて各所で避難勧告が出てるとのこと、大変だなあ。と思いながら金を下ろそうとATMに向かうと、もちろん、停電なので微動だにしてませんでした。

金を下ろさないと45円くらいしか持っていなかったものですから何も買えず。死ぬ思いで来たというのに何も買わず、またもや死ぬ思いで帰っていきました。

想像を絶する強風に、このままでは空でも飛べるんじゃないか、何かきっかけがキッカケがあれば大空に飛び立てるかもしれない!とバカなことを感じ、オナラとかしてフライトを試みたのですが、パンツまでグッショリ濡れて目も当てられないことになってました。ちょっと泣いた。

それにしても、「24時間営業」を掲げている店舗、特にコンビニはこういった災害時に重宝されがちですが、やってるほうは大変なんだなあとつくづく感じました。どんな災害時でもギリギリまで営業を止めるわけにはいきません。自分の家が心配でも、電気が来なくても営業するのです。それはもう、商売人の鑑と言っても過言ではありませんよ。

今頃、この周辺のコンビニはどこも大変なのだろう。そんなことに思いを馳せていると、急に僕が懇意にしている行きつけのコンビニのことが気になったのです。

職場の目の前にあるコンビニ、ここで僕は最近、とある事象にハマっておりまして、懇意に店に通っていたのですが、あそこが非常に危険が危ないんじゃないか、そう感じたのです。

まず、そのコンビニは裏手に立派な崖がそびえ立っているのですが、これがもう危ない。これだけあちこちでがけ崩れや土砂崩れが起きているのです。下手したら埋まってしまってるんじゃないか、そう感じたのです。

それに、僕の目測なのですが、そのコンビニ周辺、つまりまあ、ウチの職場の周辺は他より少し海抜が低い場所にあります。川なんかが溢れたらおらく一発で水浸し。土砂崩れはなくとも浸水は十二分にあり得ます。

本当にあの職場近くのコンビニは大丈夫なのだろうか。僕の心のオアシスは大丈夫なのだろうか。パンツまで濡らし、家の窓とかもぶち破られている大変な時に、僕は職場近くのコンビニの心配ばかりしていたのです。

実は最近、僕は早朝にエロ本を買うという行為に大変ハマっておりまして、件のコンビニはそんな早朝マラソンならぬ早朝エロ本を実現させてくれる最高の舞台が整っているのです。そのコンビニが危ない、僕はもう途方もない危機感に襲われたのです。

早朝エロ本という行為が良く分からない素人の方に親切に説明しますと、早朝エロ本とは、女の裸が見たいだとか、エロ本が欲しいとか、エロ本を見て興奮するとか、そんなものは超越した別次元に存在する高尚な遊戯です。

あくまでも「買う」という行為に興奮を求める。それが大人のエロ本作法なのです。グラビアを見て「乳がでけー」だとか、「肉嫁」を読んで興奮するだとか、そんなのは中学生までで卒業しなくてはいけません。あくまで、大人は「買う」行為自体に照準を合わせるのです。

エロというと、風俗店や深夜のエロ番組に象徴されるように夜が主たる活躍の舞台だと思われがちです。エロ本も例外ではなく、読むのはいつでも読むでしょうが、買うのは夜にコッソリ、という方が多いと思います。しかし、それにあえて逆行して爽やかな早朝に購入する背徳感。まるで神に背いているかのように感じる自分。その中で自分の中に潜む最後の良心に目覚め、こんなことをしていていいのだろうか、と自問自答しながらも、それでも購入する。それが最高なのです。

早朝に買うということは、必然的に通勤時にコンビニで買うことになるのだけど、利便性を考えてどうしても職場近くのコンビニで買うことになってしまいます。そこで考えてみて欲しいのですが、これから仕事をしようかという通勤ラッシュの時間に、サラリーマンに混じってエロ本を購入する、それも職場近くなので同僚に目撃される可能性大。まるでチキンレースのようなギリギリの緊張感に、自分は命すら賭けている事を実感するです。

深夜のコンビニでエロ本買ったって何も興奮しません。どうせ店員なんて無精髭の男で、ケミストリーの右側みたいになってるヤロウばかり、下手したらココロオドルとか歌ってる奴らみたいなもんです。こいつらだって普通にエロ本買いまくってますし、裏の待機所みたいな場所でオナニーしてますからね、売り物の本使ってオナニーしてますからね、そんなやつ相手に買ったって何も興奮しない。

それに引き換え早朝はいいですよー。早朝のコンビニバイトをチョイスするのって主婦か真面目な乙女が主流ですからね。バルコニーでフルート吹いてても何らおかしくない紅茶の似合う乙女、そんなのが早朝にコンビニでバイトしてるわけなんですよ。

そんな真面目な乙女の前に、「人妻を踊り喰い!」とかとんでもなくポップなフォントが表紙で踊っているエロ本を叩きつける。そいでもって乙女は、誰も早朝に買う人がいないんでしょう、まるで初めてお父さんのブツを見た時のように目を背ける。けれども仕事だから、と手にとってバーコードを読み込ませようとする。この時点で興奮度はウナギ昇り。

乙女がエロ本を手にとって裏返しにしてピッとやろうとしたら裏表紙は包茎手術の広告ですよ。「人には言えない悩み、悩みから脱皮しよう」とかドデーンと書いてあんの。ちょっとうまいことが書いてあんの。鼻までセーターで隠した人がグラビアなの。

もう純な乙女なんかは顔を真っ赤にしちゃってね。「390円です・・・」とか蚊の鳴くような細い声で言うの。もうその時点でこの一連の行為の性的欲求が95%は解消されていてエロ本に興味すらない。あくまで買うという行為に重点を置いてるわけなんですよ。

そして、残りの5%は職場での振舞いに注がれるわけです。バリバリと仕事をこなし、時には後輩を叱り付けたりすることもある。そんなビジネスマンな面を自分で自覚する度、今、俺はビジネスマンに見えるだろう、しかし!俺には秘密がある!とんでもない秘密がな!お前らはそれを知ったらビックリするぜ。と一人でハラハラしてるわけなんです。

誰も僕が出勤の直前、職場近くのコンビニでエロ本買ってるとは思うまい。おまけにそこの女店員を辱め、熟れた人参の如く真っ赤にさせてるとは思うまい。そしてそのエロ本は窓際にあるあのダンボールの中、あそこに鬼のような勢いで蓄積されてるとは思うまい。蔵書なみの量があるぜ。

そうなんです、出勤直前に購入するエロ本ですから、仕事を終えて帰宅する頃にはすっかり存在を忘れてるんですよね。でまあ、職場にモリモリとエロ本の類が積み重なっていくのですが、さすがに職場の本棚がエロ本ばかりってのはマズイじゃないですか、ヤバイじゃないですか。

結局、いくら僕でも豪胆にエロ本を並べるわけにはいかず、人目につかないようにそっとダンボールにしまいこんでいくわけなんですが、今やそのダンボールの存在すら、僕をゾクゾクさせる秘密になっていまして、ああ、こんなに真面目に仕事の話をしてるのに、あのダンボールを開けられたらどうなるんだろう、とか一人で大車輪ですよ。

そんなこんなで、爽やかな早朝にエロ本を買う行為、職場前でエロ本を買うというチキンレース、乙女を辱める行為、そして、あえて職場のダンボールに爆弾を抱える行為、これらをひっくるめて身悶えるほどの快楽に身を委ねているわけなんですが、その舞台となるコンビニが危ない!となると気が気じゃなかったのです。

やはり、職場近くというポイントは布袋の兄貴も言ってるようにスリルですから外せません。おまけにエロ本の品揃えも良く、出勤時にピュアな乙女が働いている、となるとあのコンビニしかないのです。そのコンビニが危ない、台風のヤツめ!と思った次第なのです。

しかし、ウチから職場までは車でかなりの時間がかかります。こんな暴風雨の中を運転していくなど自殺行為ですし、土砂崩れが起きまくってる山の中の国道を通っていくのはかなりリスキーです。

ああ、あのコンビニは大丈夫だろうか。僕の楽園は、僕のパラダイスは大丈夫だろうか。最後のユートピアを守って欲しい。熱烈な台風の中にあって、考えることはコンビニの、いや早朝エロ本のことばかり。

台風が過ぎ去ってもそれは続きました。空は満天の台風一過の快晴であるというのに、道路が寸断されていて通勤できませんから、職場近くに住む人々たちだけで会社が回っていました。僕は家でヤキモキ。仕事の心配とかさらさらなくて、ただただコンビニのことだけが心配。

数日後、やっとこさ道路が復旧し、なんとか通勤できるようになったので、もう我先に向かいましたよ。ええ、職場なんか後回し、まずは僕の楽園の無事を確認せねばなりません。

道中、いたる場所で土砂崩れを起こしてましてね、道路がなくなってるわ、あったはずのプレハブが跡形もなくなくなってるわ、民家が押し流されてるわと言葉を失うような光景が随所に見られましてね、僕もどんどん心配になってくるじゃないですか。

もう、気が気じゃない状態でコンビニに急ぎましたよ。そしたらアンタ、そこで途方もない光景を見たんです。いやいや、途方もない光景はこの後だった。ここではそう大したことない光景だった。

いやね、問題のコンビニ、もう頼もしいくらい立派に、無事にいつもの場所にそびえ立っているんですわ。もう無傷。超無傷。僕なんか「よかったー」とか膝から力が抜けちゃいましてね、火事場で「中に子供がいるんだ!」とか言いながら消防隊員に制止されていたら、炎の中から我が子を抱えたマッチョマンが出てきたような、そんな気分になったのです。

これでこれからも早朝エロ本を楽しむことができる、慈しむことができる。そう考えると嬉しくなっちゃって、早速エロ本買っちゃいましたよ。それも二冊も。「夫の知らない本当の私」とか書いてある本でバイト娘を陵辱してやりましたわい。

これでこれからも安泰、毎日が楽しみですなーとエロ本2冊片手に意気揚々と久々に職場に出勤しましたところ、職場の様子が変なんです。

なんか、浸水とまではいかなかったんですけど、暴風で窓ガラスがバッカンバッカン割れたらしく、そこから雨が入ってきて水浸しになったみたいなんですわ。

もう書類とか散乱しましてね、その書類が水に浸ってビシャビシャ。ハッキリ言って仕事にならない状態ですよ。もうみんな、朝っぱらから書類とか中庭で干してるの。海苔漁の人みたいに干してるの。

そりゃね、僕かて仕事に生きる企業戦士ですから、仕事場が大変な被害ってのは由々しき状態なわけですよ。でもね、そんな全然関係ない。今はもう、あのコンビニが無事だったこと、これからも早朝エロ本ができることで喜びイッパイ胸イッパイ。

「お、patoさん、通勤できるようになったんですね、もう大変ですよー」

そこに異常に爽やかな後輩の登場ですよ。見た目は体育会系のゴツイやつで、喧嘩とか本気で強そうなんですけど、超爽やかな後輩。イメージとしては綺麗なジャイアンを想像してもらえるといいと思うんですけど、こいつがまあ、職場での評判がすこぶるいい奴なんですわ。

僕のようなクズ、いわゆるヨゴレにも気さくに話しかけてくれて先輩、先輩、と慕ってくれますし、誰にでも非常にいい感じで接することができるんです。で、人が嫌がる仕事も率先してやりますし、気味が悪いくらいによく気がつく奴なんです。マジで綺麗なジャイアン。

その綺麗なジャイアンがですね、満面の笑みで書類をビニールシートに並べながら話しかけてくるんですよ。「patoさんがこれない間、ずっと後片付けですよー、大変ですよー」とか子供が生まれた時みたいな笑顔で、全然大変そうじゃない感じで言うんですよ。

僕もそこまで言われると自分の仕事場が気になるもので、

「うわー、大変だなあー、俺の仕事場も大変なことになってるんだろうなー、片付けるの大変だわー」

とか言いましたところ、綺麗なジャイアン後輩、凄いこと言うんです。

「patoさんの仕事場も窓ガラスが割れて雨が入り込んで大変なことになってましたよ。あ、でも、総務で鍵借りて僕が片付けておきましたから、大変だろうなって思って」

なんていう綺麗なジャイアンですか。なんていう良くできた後輩ですか。自分の領域の片付けだけでも大変だろうに、なぜか僕のようなヨゴレの仕事場まで片付けてくれるんですよ。もう、眩しすぎてコイツの姿が見えない。

「水浸しになったのはあっちのほうで乾かしてありますんで」

とビニールシートの隅のほうを指差す綺麗なジャイアン。

「ありがとう、本当に助かったよ」

丁寧にお礼を言って自分の書類を回収すべく、指差された方に向かう僕、そこで途方もない光景を目にするのです。

「人妻を踊り喰い!」

「セックス狂いの女!」

「バイアグラで大ハッスル!朝まで5回戦!」

ちょっ、おまっ・・!ちょっとこれは何のブラックジョークですか、とか言いたくなるような光景がそこに広がってるんですよ。

ポップなフォントでエロスな文句が踊る雑誌たちが狂ったように乾かしてある。もちろん、早朝エロ本の戦利品たち、ダンボールに敷き詰めていた僕の蔵書ですよ。

それがダンボールごと濡れちゃったみたいで、全部整列されて並べられてるんですよ。その数40。今でも忘れられん光景だわ、40冊が8×5で綺麗に整列してた。

いやいや、すごい親切心で「大切な本だろう」とか思ってやったかもしれませんけどね、男ならわかるだろうに。触れちゃあいけないアンタッチャブルだって分かるだろうに。それがなんだ、お前はベッドの下からエロ本見つけたら机の上に置いておく母ちゃんか。デリカシーがなさ過ぎる!

中庭に綺麗に整列され、もはや職場中の人間全ての目に留まることになった僕のカワイイエロ本たち。コイツは俺を失脚させるつもりじゃなかろうか、ものすごい陵辱された気分だ、と思いつつも、真っ赤な顔をして回収するのでした。

回収しながら、目から汗が流れて頬を伝うのを感じ、女体が、女の裸が踊り狂っている雑誌を丁寧に丁寧に、雨に濡れたページがボロッとならないように注意して回収しながら思いましたよ。

台風の語源は中国語だかタイフーンだか知りませんが、もしかしたら、太古の昔にもこういった台風にまつわるエロ本のエトセトラな事件が起きてしまい、「体婦雨」から台風になったのじゃないかと。

とりあえず、衆人環視の中、回収する行為自体が恥ずかしいので、今ここに局地的に台風が来て、エロ本を吹き飛ばして欲しい、そう思ったのでした。


9/2 モンゴル放浪記vol.3

前回までのあらすじ
世界中にぬめりを知らしめるため、その足がかりとして世界オフ会構想を練りだしたpato。その第一歩がワールドキャラバンvol.1モンゴルオフだった。自費出版した「ぬめり」本を手に、はるばるウランバートルへ。世界の片隅でNumeriを読んでくれてる人がいる、そんな人に会ってみたいし、この本を届けたい。そんな思いだった。

しかし、オフ会自体は参加人数0人という歴史的大敗。さすがの僕も、これを「ウランバートルの悲劇」と呼んでがっくりうなだれ、意味不明な人形の横で膝を抱えるしかなかった。しかし、落ち込んだりもするけれど、僕は元気です。早速、気を取り直して本を売ることを考えた僕。なんとかして持ってきたぬめり本を売り切らなくては・・・。言葉もほとんど通じない未経験の地、モンゴルで僕の奮闘は続くのだった。

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さて、オフ参加者0人という事実を真摯に受け止め、ホテルで不貞寝をした僕だったけど、いくらなんでも1冊も売らないうちに帰国じゃあ負け犬も同然。ここはなんとしても売り切らなければ。

そもそも、「Numeriを読んでるモンゴルの人は集まってね♪」じゃあ世界に広めるとか世界に羽ばたくとかなりゃしない。だって集まった人はNumeriのこと知ってるんだもの。場所がモンゴルってだけで、それこそ日本国内の辺鄙な場所でやるのと何ら変わりない。

そんなんじゃないだろう。僕が求めていたのはそんなんじゃないだろう。もっと、こう、なんか、異国の民が、「Oh! Numeri!」とかいうよな、それこそ日本語も通じないような異国人に売ってこそのワールドワイドじゃないか。

日本語も読めないような人に完全日本語の本を売ってどうするんだって話なんですが、とりあえず、現地人に売って売って売りまくることを決意。それも、首都のウランバートルだけじゃなく、完全なる奥地まで出向いて売ることを決意。僕は行動を開始しました。

まず、ウランバートル内で本を販売。それと同時に現地のブローカーみたいな人間を探してレンタカーと運転手を手配。で、そのまま車に乗って南部のゴビ砂漠を横断して小さな集落を巡る。このプランで行こうと策略を立てました。

まず、ウランバートル市内にある、旅行者向けのインフォメーションセンターみたいなのを訪れる。ここは若干の日本語と英語が通じるので楽。そこで日本語の通じるブローカーを紹介してもらい、その人に会って車とドライバーを手配してもらうことに。

で、ブローカーとは夜に会うことになってるのでその間に市内を放浪。なんとか本を売りつける機会を伺いつつ銀行を探す。ここウランバートルは、バブル期の日本のようで銀行がとにかく強い。全体的に貧民窟のような土塗りのボロボロの建物が主流の中、銀行建物だけ金ピカでご立派。立派な建物を見たら銀行と思え、過言でないほど極端にその傾向がある。

なぜか門の左右にライオンの像があって値段の高いソープランドみたいになっちゃってる銀行の門をくぐり、日本から持ってきたUSドルをモンゴル通貨トゥグルクに両替。借金して1500ドルほど持ってきたのだけど、それを全部両替、とんでもないお金の量に。だいたい1ドルが1000トゥグルクくらいだったから150万トゥグルクくらいに。もう札束になってた。

銀行を出て町を徘徊していると、待ち行く人々全員が盗っ人に見える、それほどの大金を手にしているわけだ。軽くその辺の飯屋で飯を食ってみると、だいたい1000トゥグルク(約100円)あれば満腹に飯を食うことができる。それを考えると150万トゥグルクは死ぬほどの大金だ。道行く人も、子供も、ほら、あの老婆だってこの金を狙っているかもしれない。

そんなこんなで、まるで懐を厳重にガードするかのような不自然な体勢で歩いていたところ、道端で古本を売るオッサンを発見。普通、道端で物を売るってのは敷物とか轢いてやるだろうに、まんま路上に本を並べて売っている信じがたい光景。もっとましな方法は考えられなかったのだろうか。

とにかく、コイツなら間違いなく買ってくれるだろうと、まずは路上売りに
接近して並んでいる本の品揃えを見る。

モンゴル語、ロシア語、英語、様々な言語の様々な分野の本が並んでいる。おそらく、誰かが家にあったいらない本などを売っているのだろう。性根の入った古本屋だ。まさにモンゴルのブックオフ。

そんな中にあって、日本の本もあったのだけど、モンゴル人に日本語なんてわからねえよ、適当に売っとけ!と悪いやつが売ったのだろう、とてもじゃないが酷い品揃え。

まず、日本麻酔学会だかの学会の要旨集が立ち並ぶ。それに続いて兵庫県版のタウンページ、挙句の果てに静岡版のタウンページですからね。誰がモンゴルで兵庫や静岡のお店探しするんだ。こんなもん、モンゴル人でなくても日本人でも買わないわ。

ここは一発、マトモな日本語の本ってヤツを見せてやらないといけないな、そう思い、これがマトモなのか定かではないのですがリュックから「ぬめり」本を出すのでした。

「ヘイ、ジャパンのクールな本を売ってやるぜ!」(つたない英語)

とまあ、本を売ってる小汚いオッサンに話しかけましたところ

「ホントかい!?そいつはご機嫌だぜ!」(英語)

みたいな事を返されました。何にせよ英語が通じるようで好都合。颯爽とぬめり本を手渡します。

「とてもグッドな本だな、紙も綺麗だ。これはどんな種類の本なんだい?」(英語)

パラパラとページをめくるオッサン。どんな本だとか聞かれても困るのですが、何とか答えます。

「日本で最も有名なウェブサイト管理人が書いた本さ!」(つたない英語)

とまあ、バレないだろうと思って嘘8000言っている僕がいたわけなんですが、オッサンはたいそう本が気に入った様子。中身なんて分からないんでしょうけど、綺麗な紙で新品の本ってのは紙不足(森林が少ないため紙は貴重)なモンゴルではお宝のようです。おまけに日本語の本も貴重らしい。

「4000トゥグルク(約400円)で買おうじゃないか!」(英語)

この本、すっごいアバウトに「お釣りがめんどくさい」という理由で決めた定価は1000円なのですが、オッサンからは4000トゥグルク(約400円)の提示。でもまあ、なかなか良い値がついたものです。ここでは1000トゥグルク(約100円)でたらふく飯が食えることを考えるといい値です。

「OK」(いうまでもなく英語)

と販売を快諾。オッサンもご満悦といった表情でぬめり本のページをめくります。で、最後のページをめくってピタリと手が止まるオッサン。

ぬめり本の最終ページには著者近影と称して僕の顔写真がドデーンと載っているのですが、それを見て僕の顔を見て、とマジマジと繰り返しているのです。それで、

「この写真はユーかい?」(英語)

みたいなことを聞かれたので、自信満々で得意気に

「YES!これは俺が書いた本だぜ!」(つたない英語)

と返しましたところ、オッサンはたいそう驚きまして、

「おおおーーーー!ユーが書いたのか!2000トゥグルク(約200円)で買うよ」(英語)

値段下がったー!僕が作者だと分かった途端に値段下がったー!ってなもんですよ。微妙にブロークンハートするじゃないか。

そんなこんなで、間違いなくその直後から他の古本と同じく店頭に並べられたのでしょうけど、ウランバートル市にて1冊売ることに成功。場所はスフバートル広場の北側角、変なビジョンがある近くです。毎日昼過ぎから店を出しているようですのでお立ち寄りの際には是非覗いてみてください。

とまあ、なんとか1冊売ることに成功。あとは現在手配中のドライバーとスクラムを組んでゴビ砂漠を放浪。小さな集落を転々として本を売り切るだけです。残った9冊のぬめり本、きっと売ってみせるぜ。

そんなこんなで、現地ブローカーに会う約束をしていた時間になったので指定されたオープンテラスみたいな場所へ。そこでペプシコーラを飲みつつ待っていると、

「コニチワ」

という片言の挨拶と共に、どう好意的に解釈しても「騙される」以外の結末が思いつかない怪しげな人物が立っているじゃないですか。小太りで中国系、間違いなく名前は「陳」みたいな人物が薄ら笑いを浮かべて立ってるんですよ。

こえー、ゼッタイ騙される、尻の毛まで抜かれる、と思いつつも久々に聞く日本語にいたく感動した僕は明日から始まるゴビ砂漠放浪の交渉を始めます。

「わたしの手配したドライバーとレンタカー、セットで10日間80万トゥグルク(約8万円)アルヨ」

みたいなことを言う闇ブローカー陳。普段なら80万という響きにブルってしまうのですが、よくよく考えたら今現在の僕はトゥグルクとはいえ150万もの大金を持つ選ばれし者。即決でOKの返事をします。すると、

「明日出発ということで急ぎアルヨ、運転手を連れてきてるアルヨ」

と言い出す陳。見るとオープンテラスの入り口のところにはにかんだ初老の紳士が立っているじゃないですか。

「彼が運転手ね、こう見えてもワイルドな運転アルヨ」

「ヨロシクオネガイシマス」

どうやら、陳にリクエストした通り、若干の日本語は通じるようで安心。年齢的に過酷なゴビ砂漠横断に耐えられるのか心配だったけど、そこはまあ、何度も経験があるという言葉を信じることに。やっぱ日本語が通じるって大きいよ。僕と運転手はペプシを飲みつつ固い握手を交わすのでした。

「もう彼のスケジュール抑えてるね、前金を10万トゥグルク(約1万円)払ってあげて欲しいアルヨ」

なるほど、確かにそうだ。彼のスケジュールを10日間抑えてしまってるのだから前金を払うのは当然。そう考えて僕は彼に10万トゥグルクを払い、さらに陳にも仲介手数料みたいなのを払ったのでした。

さあ、これで準備は整った。明日からは長く苦しいゴビ砂漠横断の旅。辛くて泣いちゃうこともあるかもしれないけど、僕は絶対に本を売り切ってみせる、ゼッタイに。

明日からは過酷な旅だ、しっかりと睡眠を取って体力を温存しなくてはな!僕はまだお子様だって起きているような時間にホテルのベッドに潜り込み、スースーと寝息をたてるのでした。

深夜1時。

突如けたたましく鳴る部屋の電話。初日は電話が繋がってなくて「ひっでえホテルだな!」とか思ったのに、なんで今日は繋がってるんだ!という素朴な疑問が浮かぶはずもなく、寝ぼけた頭で受話器を取ります。

「もしもし、陳です」

深夜の闇ブローカー陳からの電話。何事かと適当に相槌を打ちつつ寝ぼけた頭で聞いていると、陳のヤロウがとんでもないこと言いやがるんです。

「今日紹介したドライバーなんですが・・・息子さんが馬に蹴られて重傷アル。入院するから、明日からの旅に参加できなくなったアルヨ」

ちょっ・・・おまっ・・・!この21世紀の世に「馬に蹴られた」ですよ、「馬に蹴られた」、ありえない、ありえるはずがない。

「でも安心。急いで変わりの運転手を紹介するね、予定通りに出発アルヨ」

クサレ陳のヤロウがすごい大船に乗ったつもりでいろ、みたいなこと言ってくるんですけど、普段の僕ならここで怒りのアフガン。陳の日本語ボキャブラリーが増えるほど罵声を浴びせるのですが、なにせ寝起きです。代わりが来るならいっか、と非常に軽いノリで電話を切って眠りについたのでした。

翌朝。

約束どおり早朝に待ち合わせ場所のホテル前で孤児のように座って待っていると、そこに一台の車が。陳のクサレはいないようですが、どうやらこれが急遽用意されたドライバーのよう。

見てくれは最初のドライバーと違って非常に若い。僕と同じ歳かそれ以下くらい。浅黒の肌で、見た感じアシュラマンの家庭教師だったサムソンティーチャーにそっくり。一瞬で彼のことを心の中でサムソンと呼ぶことが決定。

「やあやあ、よろしく」

紳士的にサムソンに握手を求めると、

「nmfhiwwejfiorgji」(なんかモンゴル語)

なに言ってるのか全然分からない!

日本語のできるドライバーの代わりだから日本語ができると思った僕が甘かった。それでもさすがに英語くらいは、と、

「ナイストゥーミーチュー」

みたいなことを汗かきながら話したら

「nmfhiwwejfiorgji」(なんかモンゴル語)

これまた何言ってるのか分からない。おいおい、日本語も英語も通じないやつと旅するのか。こんなのよこしてどうするんだ。やりやがったな陳のクサレ外道め!おまけに最初のドライバーに払った前金タダ取りじゃねえか!

不安と怒りが渦巻く中、言葉の通じないサムソンと僕の二人旅が始まるのでした。


雑多なウランバートル市街を抜けると、すぐに都市的景色が消えて綺麗な草原が広がります。なんだか知りませんがサムソンもご機嫌な様子で鼻歌なんか歌っちゃってます。

途中、変な、エヴァのできそこないみたいな像が見えたのですが、それを見た瞬間、サムソンが急に車を停めて降りろと促してきます。

もしや陳は完全なる詐欺で、サムソンはホモ。僕は陳にはめられてサムソンに売られたかと一抹の不安がよぎりましたよ。そいでもって、ここで尻の穴を頼もしいほど反り返ったサムソンのエクスかリバーで掘り返され、僕は泣く泣く帰国、内股で帰国。そんな不安がよぎりましたよ。

しかしまあ、これは実は旅の神様とそんなものみたいで、旅する人はこの像の周りを三度回って旅の安全をお祈りするみたいです。

僕もサムソンもアホの子のようにグルグルと像の周りを回ります。すると、サムソンは車の中から何かビンを出してきて飲め、とジェスチャーで促します。

これで身を清めるわけだな!と渡されたビンを見ると、

ウォッカ

おいおい、ものすごいアルコール度数の高い酒じゃないか。こんなの飲んだら俺は間違いなく酔っ払ってゲロ吐くぞ、と思うのですが、郷に入っては郷に従え、モンゴルでそういう習慣があるなら飲むしかありません。

きっつい酒だなーと思いながらチビチビ飲んでいると、サムソンのヤロウ、ゴッキュンゴッキュン飲んでるじゃないですか。ちょっ・・・おまっ・・・車の運転・・・飲酒運転・・・と思った時は既に遅く、妙にハイテンションになったサムソンに抱えられるようにして車に押し込められ、いよいよゴビ砂漠放浪の旅が始まるのでした。

「レッツゴー!」

ウォッカがぶ飲みして上機嫌、ハンドル握りながら踊りだしそうなサムソンの叫びだけが車内に響き、僕はあまりの不安に早くもお腹が痛くなってきたのでした。っていうか、おまえ、英語できるんじゃないか。つづく

想像以上に過酷な旅、驚きの連続、愛、友情、そして裏切り、大緊迫の砂漠放浪編をお楽しみに!


8/26 スーパー告知タイム

つい先日、出張で地獄のマッドシティこと東京、いわゆるTOKIOに赴いたのですが、さすがに東京は大都会、立ち並ぶ高層ビル群をポカーンと眺めながら「東京、狂った街」とか呟いていたのですが、電車男みたいな出会いがあるかと思って秋葉原にいったんです。

もちろん、そんな出会いも、酔っ払いに絡まれた美女もいなくて、いるのは懐にバタフライナイフを忍ばせてそうな七三分けの若者が主流で、すごいメガネ率が高い群集が溢れてました。メイド喫茶なるものに行ってみたかったのですが発見できず、ウロウロしていたら訳分からないボディコン風姉ちゃんに「ちょっとそこで絵の展覧会やってるんだけど一緒に行かない?」と逆ナンパ、東京のオナゴは積極的じゃのうとヘラヘラついていったら危うく絵を売られそうになりました。東京は怖い街だぜ。

帰りの飛行機の中、僕が窓側の席に鎮座しておりましたところ、僕の隣に親子連れが座りました。お母さんのほうはセレブ風で、品の良さそうな熟女だったのですが、娘のほうがすごいパンクロック風、腕とかにタトゥー入りまくってるわ、ピアスとか顔についてるわで大変な騒ぎでした。その超アンバランスな親子の会話を盗み聞きしていみると

「ねえ、お母さん、完全自殺マニュアルって本があってさ・・・」

「やめて!好子!お母さんそういう自殺の話とか嫌いなの!」

飛行機の中で自殺マニュアルの本の話題を展開するアンバランス親子。微妙に理解不能ですがどうやら母親は自殺的お話が嫌いな様子、嬉々として語る娘を遮ります。しかし、パンクロックな好子はやめない。

「でさ、世の中には死ねない薬ってないんだって、どんな薬でも大量に飲めば死ねるんだって」

と本で得た知識を得意気に展開します。母にやめろと言われたのに止めない好子、さすがパンクロックだぜ、とか思っていたら、

「もう止めてえええええええええええぇぇぇぇ!!!!!」

と母親が本気で錯乱し始めましてね、周りの客や僕もビックリ、客室乗務員も駆けつけたりしたのですが、当の娘は平然と「どんな薬でも死ねるってすごいよね」と淡々と言ってました。さすがパンクロックだぜ。

しかしまあ、いくら嫌いだとはいえ、自殺の話ぐらいであんなに取り乱すお母さん、一体彼女に何があったのか、それとこのパンクな娘はもう少しお母さんとか気遣うつもりはないのか、と雲を見ながら考えたのでした。

そんなこんなで、全然関係ないですが、告知事項をざらっと。

・NIKKI SONIC 2005'

NIKKI SONIC '05

8/27-28にかけてテキストサイト管理人などが渾身の日記を出展する真夏の日記フェス!今年もやってきました。呼ばれないだろうと思ってたら何故か呼ばれたのでNumeriは27日の夜23時に登場します。暇だったら夏休み最後の週末をNIKKI SONICでお過ごしください。

・Ga-Noise!2

Ga-Noise! 2 05.09.23.Fri @ 大阪 club vijon

昨年、大阪を焼き払ったクラブイベントGa-Noise!が今年も同じ時期に大阪で開催!あの人やこの人などサイト管理人がDJをやっちゃいます。みんなで「もう一回!」を20回くらいしようぜ!

・オナッセイ大賞

去る7月に開催されたオナッセイ大賞。オナニーの地位向上を目的にオナニーにまつわる美しいエッセイを募集しました。集まった190あまりの作品から予備審査を経て10本の作品が本選へ。それらを皆さんに投票してもらいました。ちなみに僕の作品は予選落ちしました。

投票の結果、「闇夜で雪は」が圧倒的文章力と表現力を見せつけ、300票以上を獲得して優勝しました。作者はLot 105のウマクビさん。応募メールには優勝商品について何も書かれてませんでしたので、勝手に僕のヌード写真でも送りつけておきます。首を長くしてお待ちください。

オナッセイ大賞第2回大会は10月開催予定。今度は僕も予選通過を目指します。

オナッセイ大賞実行委員会では、事前審査員、オナニーイラストレーター、オナッセイ大賞を出版してくれる出版社社長、オナニー大好き女子高生(あやや似)などを募集しております。我こそはと思う方はフォームメールよりご応募ください。お待ちしております。

・Numeriワールドキャラバン2005 vol.2

Numeriを世界に知らしめるためのワールドキャラバン。世界を回ることを目的に第1回オフがモンゴル、ウランバートルで行われました。そのレポートを書ききらないうちに早くも第2回の開催が決定。その開催国は、

インド

Numeriワールドキャラバンvol.2
開催国 インド ニューデリー市
開催日時 ビザの関係でまだ未定

こちらは詳細が決まり次第おって報告いたします。

・pato、借金苦

各地でのオフ会に向かう交通費および滞在費、ぬめり本の制作費、減給処分、経費で落ちるはずの領収書が落ちなかった、家賃の滞納などなど数々の理由で現在のpatoは借金苦です。そろそろ家に怖い人がやってきて肝臓とか売らされるかもしれません。ですから、そのうちNumeriにもこそっと広告がついて借金の返済にあてるかもしれません。もし広告を発見した場合は、「patoも苦しいんだな」と笑ってやってください。

そんなこんなで、まだNIKKI SONICの出展作品を1ミリも書いてないので今日は告知でお茶を濁しました。

ちなみに、冒頭の飛行機のアンバランス親子の話ですが、降りる際に僕が親子の荷物を下ろしてあげたのですが、パンク娘がまだ自殺の話を止めず、カバンから薬品を取り出して

「ね、お母さん、死ねない薬はないの、だからこれでも大量に飲めば死ねるんだよ」

「いやああああああああぁあぁあぁあぁあ!やめて!」

と、またもや同じ展開に。どんな薬だと娘が手に持っていたビンを見てみたところ、正露丸の薬でした。なんだこの親子。

それにしても、正露丸でも大量に飲めば死ねるんかな?とか思いつつ、借金苦で苦しい時はやってみようとひそかに考えたのでした。


8/19 モンゴル放浪記Vol.2

世界に羽ばたくため、Numeriを世界に知らしめるため、ワールドオフの第一歩としてはるばるモンゴルまで自費出版の「ぬめり本」を売りに行ったお話の続きです。

前回までのあらすじ
飛行機に乗り遅れないように前日からホテルに泊まって準備していたのに見事に寝坊、とても海外に行くとは思えない貧乏臭い格好で韓国へ。7時間という拷問に近い乗り換え時間を経てモンゴル国、首都ウランバートルへ。そこでは「うまエキス」が出迎えてくれて微妙にアンニュイ、と言った所です。空港建物から飛び出して本格的にモンゴル入りしたところからお楽しみください。

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さあ、モンゴル。泣いても笑っても異国です、価値観も違うでしょう、生活様式も違うでしょう、何より言葉もお金の単位も違うのですから想像を絶する毎日が、それこそホットな毎日が繰り広げられるに違いません。そう、燦々と照りつける太陽が身を焦がすゴビ砂漠のようなホットでドライな日々が。意を決し、僕は空港の出口ドアを潜り抜けてモンゴルの空気を吸ったのでした。

びゅううううううううううううううう

寒いわ、ボケ!

なんじゃこりゃ、死ぬほど寒い。恐ろしいほど寒い。身に突き刺さるブリザードとはまさにこのこと、あまりの寒さに「マーマ」とかキグナス氷河のように呟きそうになるのですが、ここはグッと我慢。それでも唇が、詳細に書くと口唇がガチガチ震えるほど寒い。何かが決定的に話が違う。

出発直前、サイト上で「モンゴルでオフする、行って来るぜ!」と宣言したのですが、それを受けて親切なヌメラーさんが「モンゴルお徳情報」みたいなメールをくれたんですよね。

「モンゴルにはストリップショーをするナイトクラブがある」

「モンゴルにはアナルファックができる売春宿がある」

などとロクな情報が、むしろ、クソというか頭の中に何か沸いているとしか言いようのない情報だったですが、そんな中にあって僕の体を気遣う優しさがキラリと光るメールが何通かあったのです。

「真夏のモンゴルは暑いです、気をつけてください」

「この時期のモンゴルは直射日光がすごいです、日よけと暑さ対策は万全にしておいてください」

このような菩薩的なメールを受け、僕は真剣に「この時期のモンゴルは暑すぎて死ぬんだ、まるで南国だな。日本より北にあるのに南国とはこれいかに」と理解、南国に行くなら南国らしく薄着でいくしかないぜ!と妙に意気込んでしまったのです。

結果、僕の荷物の中には近所のジャスコで買った無地の半袖Tシャツが10枚鎮座するのみ。あとは替えのパンツくらいしか入ってませんでした。そう、本気でモンゴルは南国並みの暑さと理解し、ガチでTシャツしか持って行かなかったのです。長袖も何もなし。暑さ対策は万全だったけど寒さ対策がゼロなんですよ。

周りを見回すと、モンゴル人どもはみんなコートとか着ちゃってます。暖かそうなコートを着て、空港で家族を出迎えて満面の笑み。家族の団欒的暖かさもあれば、コートを着て肉体的にも暖かい最高の状態なんですよ。

僕はというと、クソ寒いのになぜか半袖Tシャツのみ、季節感のない、オールシーズンで半ズボンをはいている頭の悪い小学生みたい。おまけに異国の地の空港に降り立って一人。肉体的にも寒いし心も寒いんですよ。ヌメラーからの情報を真に受けてTシャツしか持ってこなかった自分が憎い、殺したいくらい憎い。でも、南国を本気で真に受けてアロハとか着ていかなくてよかった、などと思ったのでした。

そんなこんなで、頭の可哀想な小学生状態と化した僕は、寒さに耐え切れずタクシーに飛び乗ります。空港前に停めてあったタクシーに乗ったのですが、その辺を普通に走ってそうなオンボロの車がタクシーとして営業してました。料金メーターすらないのが妙に怖い。

全然言葉が通じないのですが、身振り手振りでなんとか「ホテル」という言葉は分かってくれたらしく、一路ウランバートル市内のホテルに向かってタクシーは走ります。夜の11時を超え、すっかりと日の落ちた暗黒の道路を40分ほど走ってウランバートルの中心地へいったのでした。

中心地に入ると何とか都市的に町が発展しており、ネオンの光やら街灯やらが煌びやかに光って、さすが首都、と納得する光景が広がっていたのですが、いかんせんネオンサインが読めなさ過ぎる。全く持って未知の文字で書かれても意味不明、やはりモンゴルは異国だなあ、などと思ったのでした。

そんなこんなでタクシーはウランバートル市でも比較的高級なランクに位置されるホテルに到着。一体いくらボラれるか心配だったタクシー代も3ドルほどでした。安すぎる。というか料金の基準がいまいち明確に分からない。

さすがに高級ホテルだけあってホテルのフロントでは僕のムチャクチャな英語でもなんとか通じて無事にチェックイン。高級ホテルのくせに、立て付けが悪くていきなりドアが開かないだとか、部屋の電話が通じてないだとか、ベッドメイキングがされてなくてシーツがベロベロだとか、クーラーがなくて巨大な中国産の扇風機があるのみだとか、シャワーから出てくる水が本当に水で冷水といって言いレベルだとか面食らいつつ就寝。なんとか遠い異国の地で眠りについたのでした。

翌朝。

いくら寝てもいくら寝てもカーテンの隙間から漏れてくる光は皆無で完全な闇夜。何度か目が覚めたのですが、その度に真っ暗な部屋の中を見て「なんだ、まだ夜か」と二度寝三度寝と繰り返したのでした。さすがにおかしいってんで何度目かに目が覚めたときに腕時計を見てみるとなんと時間は昼の11時。

そんな、昼の11時なのに確かに外は真っ暗だぞ。この時期のモンゴルは日が長く、夜の11時くらいまで太陽が沈まず外が明るいとは聞いていたが、もしかしたら朝は太陽が昇るのが遅いのか、などとあまりの驚きに飛び起きて窓の外を見たのです。

すると、なんてことはない、普通に太陽が出て昼間だったのですけど部屋に陽の光が入らないのも納得、なんと窓から5センチほど離れた所が思いっきりコンクリートで打ち固められていたのです。もうそりゃ容赦ないほど完璧にコンクリート。ここは監獄か。

そんなこんなで、相変わらずTシャツ姿でホテルから飛び出しいよいよモンゴルオフ当日。オフ会自体は夜の7時からなのでさすがに昼近くまで寝ていたとしてもまだまだ時間があります。暇つぶしがてらウランバートル市内を散策することに。昨晩は異様に寒かったのですけど、どうやらそれは夜だったからだようで、昼間は太陽が照っているとかなり灼熱。時折、雲が空を覆うと湿度も低く、Tシャツ姿で過ごしやすい感じでした。

スフバートル広場

   

異様に広い広場です。文字通り広場。町の中心に鎮座し、その正面には政府庁舎が威風堂々とそびえ立っております。ちなみに、この政府庁舎を写真に撮ってるところを関係者に見られると怒られたりする。

インターネットカフェ

実はモンゴルはインターネットカフェ発祥の地だという噂があったりなかったり。でもこの佇まいの怪しさはとても入る気になれない。こんなのが発祥の地であるものか。値段は1時間600トゥグリク(約60円)程度。看板のペンティアムのマークが泣けるほどに勇ましい。

そんなこんなで、オフまでの時間、町を散策しつつ色々な物を見てきたのだけど、そこで少し奇妙な現象を発見したのでした。


電話機をもった人がかなりの人数立っている。

町中の至る所にですね、それはもう「家から持ってきました」的な豪胆な電話機を持ってる人が数多く立ってるのですよ。それこそ子供から大人まで、老人までもが電話機持って街角に立ってるの。

最初は、モンゴルではそういった奇抜なファッションが流行してるのかと思いましたよ。モンゴルのトップモデルが「電話機を持つのが私のナウいオシャレスタイル」みたいなことをモンゴルのノンノ的なファッション雑誌で発言、それで一気に火がついちゃったのかもしれません。なんとまあ奇抜なファッションだぜ!

とか思ってたら、どうやらこれは携帯電話があまり普及してなく、おまけに公衆電話が皆無なモンゴル特有の光景のようです。つまり、比較的普及している家庭用の無線電話みたいなのを持ち出して街角に立ち、そこで公衆電話の代わりをして小銭を稼ぐ、そういうものみたいです。

ですから、電話をかけたくなったらこの人に金を払って電話をする、というう、なんとも落ち着いて会話できなさそうな状態になるわけです。こんなに間近で聞かれてたらテレホンセックスもできない。

そんなこんなでウランバートル市内を徘徊していたら、いよいよオフ会待ち合わせ時間の夜7時か近づいてきました。さすがにこの時期は夜11時くらいまで日が沈まず明るいというだけあって、7時近くでも昼間のように全然明るい。一体どんな猛者がモンゴルオフに現れるのか、期待に胸を膨らませて待ち合わせ場所であるナムラーダイル公園に向かいました。

ナムラーダイル公園

  

結構広い公園のようで、中には競技場があったり遊戯施設があったりと盛りだくさん。その割には人が全然いなくて、そこら辺の茂みの中でアベックが熱烈にまぐわってそうな隠微な雰囲気がするのですが、恐れることなく進みます。ちなみにここは日本大使館のすぐ近く。

すると、いきなり意味不明な人形がお出迎え。微妙に永沢君みたいで笑える。なんでモンゴルまで来て永沢君に出会わなきゃならないのだろうか。

その横には版権ギリギリの人形が。これだからモンゴルは恐ろしい。

こちらの遊戯施設も版権ギリギリ。これだからモンゴルは恐ろしい。

中には屋外に放置されたビリヤード台も。かなりの盛りだくさんっぷりです。この公園、一日中遊べるんじゃないのかな。

これはお化け屋敷っぽいのですが、もちろん営業してませんでした。というか、看板が別の意味で怖い。なんだ、この蹴りをだしてるオッサンは。

観覧車も回っております。剥き出しのゴンドラが安全対策皆無であることを物語っています。乗ろうかと思ったのですが、誰も乗っておらず、おまけに周囲に人は皆無、どこでチケット買うかも分からなかったので乗りませんでした。

公園内をフラフラしているといよいよ約束の7時に。一体どんなヌメラーが来てくれるのかとドキドキしつつ、ぬめり本を目立つように手に携えてさらに公園内を徘徊しましたよ。

もしかしたら、モンゴル転勤を命じられた日本のサラリーマンさんとか来てくれるかもしれません。

突然命じられたモンゴル支社への転勤。行きたくなかったが所詮は会社という組織の中に属する身、愛する彼女を置いて彼は遠きモンゴルの地に降り立った。

仕事は順調だった。モンゴルの生活習慣にも慣れた。けれども一つだけ気がかりなことがあった。それは、日本に残した彼女からのメールが日増しに少なくなることだった。

最初は、「私もお金貯めてモンゴルに遊びに行くからね!」「早く会いたいよ」といった内容のメールが毎日届いていた。なのに、それが今ではサッパリ。たまに来たとしても内容は冷ややかなものだった。

彼は日増しに彼女の心が離れていくのを感じ取りつつも、それでも彼女を諦めなかった。それだけ彼女のことを愛していたし、それ以上に彼女のことを自分の中の遠い祖国、愛する祖国、日本国との接点だと感じていた。

ここには日本を感じられるものが数少ない。街中には異国の文字が溢れ、日本語表記など「うま エキス」くらいしか存在しない。この地は日本が薄すぎる。そんな彼の望郷の思いを受け止められるのは愛する彼女しかいなかった。

彼女のメールに書かれている日本での日常生活の話、流行のテレビ番組の話、バイト先の嫌な先輩の愚痴話、全てが「日本」だった。そんな彼女を失うのが何より嫌だったし・・・怖かった。だから、彼は離れ行く彼女の心をなんとか繋ぎ止めようと必死だった。

「今度さ休み取れたら、俺、ちょっと日本に帰国するよ。そしたらさ、芳江が行きたがってたディズニーランド行こうぜ。モンゴルはそういった娯楽があまりないから俺も行きたいんだ」

それでも離れて行った芳江の心を捕まえることはできなかった。

「ごめん、高志・・・私・・・好きな人ができたの・・・ごめんね、高志・・・」

最愛の彼女を、日本との繋がりを失った高志は苦悩する。そして、そんな高志が見つけたのが日本の変態サイトだった。

Numeri・・・?

そこにはオナニーという単語が踊り、加齢臭のしそうな20代後半男性の日常生活が綴られていた。

「これは・・・俺の求めていた日本。日本じゃないか」

高志は遠き日本に思いを馳せ、今日も更新が少ないNumeriを閲覧するのだった。

とまあ、こんな人が勇み足気味にオフに参加してくれるかもしれません。そうでなくても、課長との不倫に身を焦がし、それが社内でバレそうになると保身に回った課長によって解雇され、不倫相手と職を同時に失った20代後半OLとかが自分探しの旅にモンゴルに来ていて、ついでにとオフに参加してくれるかもしれません。もしくは大学で日本語を専攻し、日本に興味津々のモンゴル人だとか参加してくれるかもしれません。

一体どんな猛者が参加してくるのか。果たして持ってきた「ぬめり本」10冊は足りるのか。足りなかったらどうしようか。せっかく来てもらって本が足りないとか申し訳なさ過ぎる。集まった人たちはモンゴルに詳しいだろうから美味しいモンゴル料理の店とか連れて行ってもらって二次会しちゃおう。ウオッカとか飲んじゃったりして!とまあ、そんな期待と不安が渦巻く中、いよいよモンゴルオフが始まったのでした。

NumeriワールドキャラバンVol.1
開催日7月19日 PM:7:00
開催場所 モンゴル国 ウランバートル市 ナムラーダイル公園
参加人数 0人

誰も、来なかった。

おいおい、すごいな。総スカンとは。これまでにも本を売りにいって誰も来なかったってのがNumeriキャラバンの茅ヶ崎であったんですけど、モンゴルはそれ以上。茅ヶ崎の場合、一般人とかいて「あの人もしかしてオフ参加者?」とか初恋の少女のようにドキドキしたんですけど、モンゴルは皆無。なにせ公園内に人っ子一人いないですからね。何もドキドキしねえ。

そんなこんなで、モンゴルオフは参加人数0人。30分ほど本持ってウロウロしましたが、人類にすら出会えませんでした。もう、公園の前の店でサングラス買ってホテル帰って不貞寝した。

ということで長すぎるので次回に続く。

次回は持ってきた10冊の「ぬめり本」を売り切るため、ついにpatoは言葉の通じない現地人相手に売り出した。そしてウランバートルを離れ放浪の旅に出たのだった。そう、死へと向かう地獄の砂漠横断の旅に。つづく。


8/13 ぬめぱとモンゴリアンレィディオ

http://終了しました

放送すれ 
終了しました

放送テーマ
モンゴルの話
吉宗
戦争の悲惨さ


8/12 モンゴル放浪記Vol.1

いやー、やっぱ日本は蒸し暑いですな!郵政民営化やら総選挙やらB'zやら、何かとゴタゴタしている日本に帰ってきましたよ。モタモタしているうちに29歳になっちゃって三十路にリーチ、加齢臭半歩手前みたいな状態になってますが、なんとか生きて日本に帰ってまいりました。

帰ってきたら家賃の滞納がエライことになってるわ、携帯電話の料金を滞納しすぎて契約自体が消滅してるわ、音信不通すぎて親父が職場に電報うってくるやら大暴れ。早くも国外脱出したくなったのですが、気を取り直してモンゴルオフの報告を書きたいと思います。

「ぬめり本」を世界に知らしめるためワールドワイドにオフをしよう!そう思いついて行ったオフですが、砂漠を放浪するやらモンゴルの警察に捕まるやら、ナイトクラブで大塚愛かけるやら、モンゴル相撲するやら大暴れ、その模様を全4回くらいに分けてお送りしたいと思います。そういうわけでどうぞ。

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モンゴルってのは思いのほか遠い。蒙古襲来やらチンギスハーンの活躍など、歴史を紐解いてみると身近な国のように感じるかもしれないが、交通網が発達した現代でも飛行機で5時間はかかる有様、それくらい遠い。

7月某日。出発前日。僕は福岡市内のホテルにいた。もちろんそれは他でもないモンゴルに旅立つためなのだけど、予想以上に遠いモンゴルは簡単な上陸を許さない。なにせ日本からダイレクトに行くのが難しい。

まず、福岡空港から飛行機で韓国インチョン空港に行く。そこから圧倒的な乗り換えの悪さでインチョン空港で7時間足止め。で、「モンゴル航空」とかいう聞くだけで不安になるような、落ちるんじゃねえの?と思うような名前の飛行機を使ってモンゴルの首都ウランバートルへ。

飛行機に乗ってる時間が韓国行き、ウランバートル行きを合わせて5時間、待ち時間が7時間で出発前の手続き関係で2時間かかるとしてどう考えても14時間ほどかかる計算。まさに近くて遠いモンゴルだ。

そうなると、我が家から朝に出発してモンゴルに行くってのは非常に難しく、どうしても前日に福岡入りしてホテルに宿泊する必要があるのです。我が家から出発したら朝2時起きとか、深夜徘徊するボケ老人みたいなことになってしまう。

韓国インチョン空港行きの飛行機が福岡空港を朝の10時に出る。海外に行ったことない村百姓の皆さんはご存知ないかと思いますが、海外行きの飛行機ってのは出発の2時間前には空港に到着してないと色々と危険が危ないんですよね。

出国手続などの諸手続きが煩雑ですから、やっぱ出発の2時間前には空港に仁王立ちしておきたいところ。つまり8時には福岡空港に到着しておく必要がある。

つまり、前日から福岡入りして翌日の飛行機に備える。そうするとですね、ゆっくりと睡眠を取って2時間前には余裕で空港に到着できますし、手続きも焦ることなくできる。出発まで空港のラウンジでテイクオフする飛行機を眺めながらモーニングコーヒー、なんてハイソサエティで優雅なことも余裕でできるんですよ。

ということで、ホテルに泊まったことだし、早速ベッドにインしてグッスリと睡眠を、それでもって7時くらいに起きて空港に向かう、とか考えてたんです。

けれどもね、なんかホテルのテレビの深夜放送でやってた「カジキマグロを釣る!」みたいな番組が容赦なく面白くて、ホンコンみたいな顔したオッサンが胸まである長靴みたいなの履いて苦悶に満ちた表情で2時間くらいカジキマグロとファイトしてんの。もう、それ観て興奮してたらすっかり寝るタイミングを逃しちゃっていつの間にか深夜の3時くらいになっちゃってんですよ。

これはね、非常に危険な分岐点ですよ。おきる予定の時間である7時まで約4時間。これは十分な睡眠を取るには短すぎる時間ですし、ちょっと仮眠するには長すぎる時間。非常にデンジャラス。

このまま徹夜で起きていればまず間違いなく飛行機に遅れませんが、そうなると体力的に危うい。けれども寝てしまうとグッスリ夢の世界に誘われてしまって寝坊する危険がある。4時間の猶予ってのは本当にグレーゾーンで寝るか起きてるか死ぬほど迷うんですよ。

とりあえず、間違いなく寝過ごす自信があった僕は徹夜で起きていることを決意。なんとか寝てしまわないように、エロい放送を見る用のカードを買ってきたりして凌いだんです。

いやービジネスホテルで鑑賞するエロビデオって本当に素敵ですよね。ちょうど放送では「やりすぎ家庭教師」っていう名作シリーズのエロビデオを放映していたんですが、「先生!」「だめよタダシ君」とか棒読みでやってて最高。生徒役がAV男優だから、どう見ても生徒に見えないところとか最高。とか悶々と見てたら、そのなんだ、あまりのつまらなさに寝入ってしまったらしく、意識がプツンと切れてしまった状態に。で、次に意識が戻った時には衝撃の事実が。

9:05

ギャース!飛行機は10時くらい出発!起きたのが9時5分!何を、どうやっても、間に合わない!時間に余裕を持って優雅に起きてコーヒーブレイクなんて正に夢のまた夢、それどころか夢の彼方。今や出発すら危うい状態に。

ここからの僕は凄かった。なんと、起きて2分でホテルの部屋を飛び出してチェックアウト、なんと5分後にはホテル前に待機していたタクシーに飛び乗ってた。で、

「福岡空港国際線ターミナルまで、死ぬほど急いで下さい」

それを受けた運転手さんは、

「急ぎってわけだな?任せな!」

と死ぬほどカッコイイセリフを吐いて裏道を駆使して空港へ。映画「TAXI」みたいな走りでドライビン。なんと、9時17分には到着してましたからね。早すぎるぜ、運転手さん。

そこからはもう、鬼のような勢いで手続きをしてですね、なんとか韓国インチョン空港行きの飛行機に乗れたわけなんです。もちろん、海外に行くってことで周りの乗客は色々とオシャレしてるわけなんですけど、その中で僕だけ思いっきりTシャツに短パンという睡眠時のラフな格好。頭だってネグセバリバリ伝説、目やにとかついてましたからね。こんな格好で海外に行くやつなんていない。出国審査の係官がものすごい怪訝な顔で見てたもの。

福岡空港から韓国インチョン空港までの飛行時間は55分間。ハッキリ言って東京に行くより近い。けれども、その機内は修羅場で正にシュラバラバンバ。国際線ということで妙なプライドがあるらしく、55分という飛行時間でも意地になって機内食を出すのな。

おまけに、気流が悪いらしくて飛行機は若干揺れが多め。そんな中で鬼の形相、意地になっちゃって機内食を出し続ける乗務員さんたち。これはもう機内食とかそういうのじゃなくて餌だよ、餌。オラ、食え!って感じで出されるんだから。

とにかくまあ、朝食すら食べられなかった僕にとっては、こんな餌のような機内食でもありがたい話。モサモサと食べているうちに飛行機は着陸し韓国へと到着したのでした。

さて、韓国に到着したのはいいものの、ここインチョン空港で7時間の足止め。乗り換えが悪いにも程があるんですけど、とにかく7時間待ち。空港から出ることもできるっぽいのですけど、そうなると諸手続きが色々と面倒なので出発ロビーで7時間軟禁されることに。

しっかし、すごいのな、出発ロビーには免税店が鬼のように軒を連ねていて豪華絢爛、カルティエだとかグッチだとか高級ブランド店が威風堂々と並んでるんですけど、そこで日本から来たであろう独身OLみたいなのが狂ったようにバッグとか買い漁ってるんですよ。何が嬉しくて空港に来てまでブランド物を買い漁るのか意味が分かりません。トチ狂ってるんじゃなかろうか。

僕は僕で、7時間の時間を潰すために映画「ターミナル」の人みたいにソファーで寝てみたり、あちこちに投げ捨てられているカートを集めてみたり、暑くて喉が渇いたので喫茶店みたいな場所に入って「コーク、プリーズ!」とコーラを頼んだら思いっきりホットコーヒーが出てきて涙を呑んだり。そうこうしているうちに7時間が経過してウランバートル行きのモンゴル航空が出発する時間に。

出発ゲートに行くと、モンゴリアンエアラインとか書かれた、今にも落ちそうなオンボロな飛行機が、逆に頼もしくなってくるくらい堂々と停まっていて、その飛行機に乗り込むんです。飛行機に乗ると、もう機内から意味不明にムアンとモンゴルっぽいお香の匂いみたいなのがしてきてビックリするんですけど、それよりなにより飛行機がボロすぎて恐ろしすぎる。

そんなこんなで飛行機が離陸するわけなんですけど、機内放送はモンゴル語と韓国語と英語でした。何言ってるのか全然分からない。機長が神妙に「この飛行機は今から墜落します」とか言ってても全然分からない。怖すぎる。

そんな恐怖に怯えること数時間。いよいよ飛行機は墜落することなくウランバートル空港に着陸。着陸の際、窓際だった僕はすっかり日の落ちたウランバートルの景色を見ていたのですけど、それがなんというか、腰が抜けるくらい灯りが少ないんです。確かウランバートルは100万都市くらいだったはずなんですけど、それにしては灯りが少なすぎる。

ここで少しおさらい。モンゴルは古くから定住地を持たない遊牧民が多く暮らす国でした。ゲルと呼ばれるテント的な住居に家畜と共に暮らし、牧草が少なくなると別の地に気さくに引っ越す、そんな生活様式です。しかしながら、最近では都市的生活に憧れる若者が増加。多くの人が首都ウランバートルに移り住み首都は急激に都市化しているそうです。モンゴル国の人口240万のうち、半数の120万あまりがウランバートルで定住生活をし、昔ながらの遊牧民は激減しているそうです。

そんなこんなで、ウランバートルはまあまあの大都会かなと思っていたのですが、上空から見る限りではかなり危険な状態。こりゃどうなるかな、と少しだけ不安になったのでした。

ウランバートル空港に到着すると、まずは入国審査。ネグロカサスみたいに褐色の肌をした審査官が僕のパスポートを見ながらジロリと睨んできます。「なにしにモンゴルに来たんだ」みたいなことを聞かれたら「本を売りに来た」と英語で答える準備をしていたんですけど、何も聞かれることなく入国審査をスルー。晴れてモンゴル国入国を果たしたのでした。

さて、ここからは心を引き締めてかからねばなりません。これまで福岡、韓国と移動してきたわけですが、言うなればかろうじて日本語が通じる地域でした。福岡は当然ですが、韓国だって日本語はかなりの確率で通じます。おまけに案内表示も、ハングルに並んで英語、日本語と表記がされています。やはり、日本とは繋がりの深い韓国、腐っても隣国ですから、そういうのは当然なんでしょうが、ここからは違います。

まさに近くて遠いモンゴルです。こんな僻地に来てまで日本語表記があるとは思えません。日本だってハングル表記の案内表示は多いんですが、モンゴル語表記なんて絶対にありません。それと同じことなのです。

さあ、韓国まではまだ日本語があったりしたけど、ここからは違うぞ。なにせモンゴルだ。日本語は皆無、かけらすら存在しないだろう。心を引き締めていかないとな!僕は唇をギュッと噛んで空港のゲートをくぐりました。すると、

うまエキス

僕の決意をグチャグチャにする日本語表記がモロンと。それも全く意味不明です。あまりに予想外の出来事に膝がガクガク震えるのを感じつつ、僕のモンゴル第一歩は始まったのでした。あまりに長すぎるので次回に続く。

次回はいよいよモンゴルオフの模様と共にウランバートルの風景を!

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