Numeri

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 2003-3月

3/31 債権回収業者と対決する

3/30 債権回収業者と対決する

3/29 Catch me if you can

3/28 ゴールドメンバー

3/27 東京4

3/25 東京3

3/24 東京2

3/23 東京

3/21 ラブストーリーは突然に

3/20 海の男

3/19 熊本

3/17 携帯電話

3/16 ホワイトデー

3/15 プロジェクト山下

3/14 白い雲のように

3/13 鬼ごろし

3/11 オーエス

3/10 リゾート恋して

3/8 ぬめぱと変態レィディオReroaded

3/6 神の息吹

3/5 サイト更正法

3/4 前歯クライシス

3/3 最後のコトバ

3/2 思考のスイッチ

3/1 クリフハンガー


2003

2月の日記はこちら

1月の日記はこちら

2002

12月の日記はこちら

11月の日記はこちら

10月の日記はこちら

9月の日記はこちら

8月の日記はこちら

7月の日記はこちら

6月の日記はこちら

5月の日記はこちら

4月の日記はこちら

3月の日記はこちら

2月の日記はこちら

1月の日記はこちら

2001

12月の日記はこちら

10-11月の出来事はこちら

過去の出来事

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3/31 債権回収業者と対決する に格納されました

3/30 債権回収業者と対決する に格納されました


3/29 Catch me if you can

東京出張から帰って参りました。ありえないハードスケジュールで死にそうで日記を書く時間もないとか言いながら、サルベージ日記で手抜きをしていたわけですが、実は結構遊んでました。

サルベージ日記は過去ログからコピペしてくるだけなので5分ぐらいで更新作業が終わってしまうワケで、これがもう癖になりそうなほど楽チンなんですよ。日記の内容を考えなくて良い日々とはこんなにも素晴らしく晴々しいものなのかと感嘆しておりました。

でもまあ、そんな偽りのハーダーハーダーなスケジュールをぬってですね、キッチリと東京在住の彼女と逢引きなぞをしてたりしましてね、東京の街並みを歩きつつステディと愛の短歌を詠み上げたりとかしてたわけですよ。

それでまあ、デートといえば映画を観るではないですか。誰が何と言おうともデートのスタンダードは映画ではないですか。だからね、しっかりと映画デートしてきたの。バッチリ映画デートしてきた。

それも、お台場のシネマナントカとかいう小洒落た場所で映画を鑑賞してまいりましたよ。お台場ですよ、お台場。僕のようなおのぼりさんのいなかっぺがナントカブリッジとかビーナスナントカがあるトレンドスポットお台場ですよ。

それでまあ、シネマナントカとかいう欧米の貴族なんかがオペラを見るような場所で鑑賞してきたわけなんですが、あれはすごいね。なんというか、モダンすぎて僕には順応できないといった趣でした。ジンマシンとか出そうなくらい順応できてなかった。あの映画館はオシャレすぎ。

僕らが子供の頃なんかはですね、もっと小汚い、壁がひび割れたような場末の映画館で、水彩画みたいなオドロオドロしい劇画調の看板がズデデーンとあって、売店では瓶のコーラとかプラッシーとかいうワケの分からない体に悪そうなジュース売ってる、っていう正に映画館という場所で映画を観てたんですよ。寅さんだとか南極物語とか子猫物語をな。

それがどうだ、このお台場のシネマナントカとかいう映画館は。インテリジェンスなロビーがズデデーンとかあってな、電光掲示板で上映中の映画のインフォメーション。どでかいスクリーンには映画の予告編なんか上映しててな。そいでもってライトアップされたベンチやら、横文字だらけの看板やらあってさ、明らかに日本じゃねえのよ、このオシャレさは。

なんていうか、欧米をガチガチに意識した作りの映画館でさ。まさしくザ・オシャレ。外国=オシャレというステレオタイプな思想の下に設計されてるような映画館なわけだよ、これが。

僕は思ったね、敗戦とはこういうことかと。戦争に敗れ、自国の様々な文化が諸外国に侵食されていき、そこに住む人間の価値観すらも外国に感化されていく。こういった欧米風のスタイルをカッコイイと感じることが日本人として恥ずかしいんじゃないかな。

もう、僕なんかそのお台場のオシャレな映画館の前で泣いてたもの。進駐軍のジープに擦り寄って「ギブミーチョコレート」とか大きな白人さんに向かって言っていた少年時代を思い出して泣いていたもの。

とにかく、僕は、こんな欧米風の横文字だらけの映画館は認めない。あちこち英語で表記しやがって、それがオシャレってか。日本にだって日本の良さはあるんだよ。悔しかったら映画館のロビーを畳敷きにしてみやがれってんだ。洋風のものなんてゼッタイに認めないぞ。俺は日本人だ。

とまあ、欧米化国家日本に対する愚痴はコレまでにしまして、観てきた映画の話に移るのですが、観てきた映画は「Catch me if you can」。バリバリの洋画です。やっぱり欧米の映画とか最高にカッコイイよね。エンターテイメントの真髄だよね。もう最高、欧米文化最高!洋画ってだけで何でもカッコ良く見えちゃうよな、と言わんばかりに観てまいりました。

この映画は、なんかチンコ・デカプリオとかトム・ハンクスとが出演して話題の映画でございまして、実在した天才詐欺師のお話を忠実に再現した作りになっています。全般的には古き良きアメリカをふんだんに描いたアメリカ人のオナニーみたいな作品です。

でまあ、見所としては、やはりデカプリオが演じる天才詐欺師が巧妙な騙しのテクニックを駆使して、度胸満点の嘘で金を掴んでいく過程にあるわけなんですよ。小切手詐欺やら身分詐称をメインにそれはそれは巧みに人々を騙していくわけ。それで金も女も名誉も手に入れていくわけ。

それでまあ、こういった詐欺のテクニックを堪能しつつ、その華麗さに感嘆するも良し。いつ詐欺がばれるかとハラハラしながら観るも良し。ディカプリを追いかける刑事役のトム・ハンクスの執念を楽しむも良し。と非常に見所の多い作品なのです。

しかし、僕はもっと別の部分に注目してこの作品を観ていました。

それは、「嘘」という部分。

言うまでもなくこの映画は詐欺師が主人公なわけですから、「嘘」が満遍なくいたるところに存在するわけです。詐欺なんて嘘の真骨頂みたいな物ですからね。嘘のない詐欺なんて有り得ない。

でまあ、主人公のチンコ・デカ男は、もうそれこそアホの子のように嘘をついて人々を騙していくわけです。出会う人、出会う人、全てに嘘をついて生きていく。誰にも本当のことを一切言わない。

でも、彼が最初からそういう人間だったかと言うと、実はそうではないんです。彼は生まれ育った環境は比較的裕福で恵まれた家庭なのですが、父の事業が失敗し、両親が離婚。そして家出とお決まりの転落コースを歩んで詐欺師になるわけです。

そして、生きていくために嘘をつく。金を手に入れるために嘘をつく。自分独りで生きていくために嘘を武器に歩いていく。

嘘をついて人を欺くってのは確かに良くないことなんですけど、往々にして仕方ない嘘ってのはあるんじゃないかなって思うんですよ。この映画みたいに単純に金を儲けるだけの嘘ってのは良くないと思うけど、嘘をついても仕方がない場面って確かにあると思う。

例えば、人を傷つけないためにつく嘘とか。

本当のことを言ってしまうと相手が傷ついてしまう、そういった場合に相手を傷つけまいと言う嘘。相手のことを思いやって言う嘘。長期的なスパンで見ると、必ずしもその嘘が相手のために良い方向には作用しないかもしれないけど、そういう優しさからくる嘘って大切だと思う。そういう嘘って仕方ないんじゃないかな。

あと、それ自体は悲しいことなんだけど、周りの注意を惹くための嘘ってのも仕方ないと思う。何日か前の日記でサルベージした「ウソツキイワタ」の話もその典型なんだけど、他人の注意を自分に惹き付けるために何の得にもならない嘘をつくことがある。

未発売のゲームソフトを持ってるとか、有名人と知り合いだとか、チンコが70センチあるだとか、何の得にもならないし、すぐにバレるような嘘を平然とつく人間って確かにいるし、自分にもそういう経験がないとは言えない。

なんというか、特に少年時代に多いと思うんだけど、自分の現状に満足できないというか、恵まれない自分というのが明らかに認識できていて、その抑圧された自分の環境を突き破るかのように嘘をついてしまう。いや、なんかちがうな。ちょっと上手く言えないや。

自分は親父も母親もアル中だったし、喧嘩は絶えなかったし、家の中なんてとにかく荒んだ状態だったから、とにかく平和な温かい家庭ってのを夢見てた。あんまこういうことは言いたくないんだけど、自分は恵まれた環境じゃないんだってどこかで思ってた部分がある。

それに、ウソツキイワタだって親父が酒乱でエライ状態の家庭だったし、この映画のデカチンコも転落人生に身を落としてから嘘をつき始めている。やっぱこういう嘘ってのは当人の環境に密接に関係しているんじゃないかなって思うよ。

誰かを騙してやろうイヒヒヒという卑しい動機でもなく、騙したことで自分が物質的に得するわけでもない。ただ単純に嘘を通して人に注目して欲しいだけ。自分の言葉で他人に干渉を与えたいだけなのかもしれない。それに、自分の吐いた嘘に酔ってる部分ってのが確かにあるんだよね。

嘘の中の自分ってのは理想の自分で、自分の境遇とは別に恵まれた自分であることが多い。それで嘘を吐いている間だけは理想の自分に酔いしれることができる。言い換えると嘘の中に自分の夢が潜んでいるって感じかな。

だから、少年時代の僕もよく嘘をついたよ。何の得にもならないような嘘をガリガリと吐いてた。

2メートルあるバッタを見たとか、空き地の草むらで知らないオバサンが出産してたとか。何の得にもならない嘘を迫真の演技で友人に話してた。ゴボッと頭とか出てきてすげえんだぜ、赤ん坊は枯れ葉だらけになってた、とかスパークしながら話して注目を浴びてたよ。

そいでもって、今日は家族でホテルにディナーを食べに行くとか友人に話したりとかな。実際にはそんなことは露もなくて、家では両親が飲んだくれて、台所のテーブルの上に僕の分と弟の分の弁当屋で買ってきた唐揚げ弁当が置いてあるだけなんだけどな。ディナーに憧れてそういう嘘をついてたんじゃないかな。

自分にも経験あるから、そういう注目を浴びたい嘘とか夢見るための嘘って仕方ないって思えてしまう。自分がそういう嘘に騙された時はコノヤローとか思うけど、後で考えると仕方ないかなって思っちゃう。

でまあ、この映画の中のチンコデカオがつく嘘も、もちろん生きていくわけの金儲けなんだけど「注目されたい」「嘘の自分に憧れる」って部分が確かにあって、最終的には転落する前に持っていた「温かい家庭」に帰結する部分があるんだよね。

うーん、やっぱそういうものなのかなーって自分の経験と照らし合わせながら鑑賞してしまったよ。とにかく、完全に人を騙す目的の嘘は許せないけど、「注目を浴びたい」「夢見たい」って類の嘘にはおおらかになりたいなと感じさせてくれる映画でした。そうそう、「相手を傷つけたくない」って嘘も仕方ない。

でまあ、映画の話はこれぐらいにしまして、鑑賞後のお話。

「映画面白かったね」

とか彼女と談笑しながら映画館のロビーを歩いていたのですが、彼女が便所に行きたいとか言い出すんです。僕は彼女がトイレに行くとか言い出したら必ず「ウンコか?」と尋ねるようにしているのですが、彼女は必ず「違うよ」と言います。

多分、これは僕を傷つけないための仕方ない嘘です。毎回ウンコじゃないトイレとかありえない。本当はブリブリと拳大のウンコをしているのに、それを正直に告げると僕がショックを受けるとか思って嘘をついているに違いありません。まあ、彼女なりの優しさだよね。

でまあ、笑顔でトイレへと消えていく彼女を見送り、僕はモダンなロビーにて待つのですが、そうすると突然の尿意に襲われたのです。ウンコじゃないですよ、尿意です、尿意。

それでまあ、僕もそそくさとトイレへと走るのですが、そこで途方もない光景を見るのです。

いやね、映画館のトイレって、上映前とか上映後って必ず混むじゃないですか。だから、混んでも大丈夫なように沢山の便器が設置されているんですよ。だから映画館のトイレって非常に広い。

そいでもって、トイレのタイルってスベスベで、すごくツルツルしてるじゃないですか。この映画館のトイレもモダンなだけあって非常に良い素材を使っていたのですが、そのタイルの上をですね、子供がビュウビュウと滑っていたのですよ。

広い広いトイレの、滑りやすいタイルの上を、頭の悪そうな子供が右へ左へとスイスイと滑ってるの。

ほら、最近はなんだか流行してるじゃない。なんか、普通の靴のカカトの部分にローラーが付いててさ、普通の靴としても使えるし、ローラー部分を使って滑ることもできる。その靴を履いた子供がトイレをビュンビュン滑ってるの。

僕が便器に向かって今まさに小便をしようとしているのに、その後ろをクソガキがビュンビュン。もうね、集中して小便ができないっての。小便ってのは実は集中力を要する行為だからね。こんな子供が縦横無尽に滑っているような状態で成し遂げることなどできない。

それでまあ、僕は弱い物には非常に強いですから、特に子供に対しては鬼になりますから、他所の子供でも平気で怒るんですよ。見るとトイレの中には親と思しき人もいなかったから、ものすごい勢いで怒鳴りましたよ

「グルァ!トイレで遊んでるんじゃねえ!」

と。

でもな、最近の子供ってのは聞き分けないのな。明らかに大人を舐めてるのな。僕のような幼女強姦とかしそうな危なそうなオジサンが怒鳴ってるのに、全然怖がらないどころかスケーティングをやめようとしないの。明らかに舐めてる。

それでまあ、僕は小便をしながら子供に言い聞かせてやったわけですよ。

「オジサンが子供の頃な、フラフープが流行っててな。オジサンはトイレでフラフープして遊んでたんだよ。そしたら、便器の方から「便所で遊ぶでない」とか低ーい声が聞こえてきてな、ドロドロとウンコの塊みたいな妖怪が便器から這い出てきたんだよ。どうもこのトイレに住む妖怪は、トイレで遊ぶ子供が大好物みたいで、足首を捕まえて便器に引きずり込むらしいぞー、トイレで遊ぶと怖いんだぞー」

と物凄くオドロオドロしく言ってやったわけですわ。

そしたらクソガキのヤツ、泣きそうな顔して滑るのやめてトイレから出て行きやがるの。ガキってヤツはチョロイよなー、こんな話で怖がるんだから。

でまあ、妖怪云々ってのは明らかに嘘なんだけど、そういう嘘って仕方ないじゃない。子供を言い聞かせるための嘘って仕方ない部分があるじゃない。

こりゃ「相手を傷つけないため」「注目を浴びるため」「夢見るため」の三大仕方ない嘘に加えて「子供を言い聞かせるため」っていうのも仕方ない嘘リストに加えなきゃなーとか思いながらトイレから出ると、彼女はまだトイレから出てきてませんでした。やっぱりウンコです。

でまあ、ロビーで彼女がウンコから出てくるのを待ちながらロビーを見渡してみるんですけど、なんかさっきのクソガキがいるんですよ。さっきトイレでスケーティングしていたクソガキが。

しかもなんか、さっきの怖い話が効いたのか、半泣きになりながらロビーの隅っこのベンチに座ってた親父らしき人に報告してるの。

いやな、その親父ってのが明らかにカタギの人じゃないような外観してるんだけど。ムチャクチャ怖そうな、なんというかドーベルマンとか飼ってそうな雰囲気の重厚な貫禄を醸し出してるんですけど。セカンドバックとか持ってるんですけど。

おいおい、どうするんだよ・・・。あの子供が泣きながら、「あのおじちゃんにトイレで虐められた」とか報告した日にゃ、僕は多分、コンクリのブーツはいて東京湾に沈むことになるよ。間違いなく殺められるよ。

とにかく、あのガキの親父が立ち上がってこっちに向かってきたら一目散に逃げるしかないな。出来ればローラー付きの靴でも履いて滑りながら逃げたい。出来れば「Catch me if you can」とかクソ親父を小バカにしながら逃げたい。いやいや、それは危なすぎる。怒りに火を注いでしまうじゃないか。

などと悶々と考えながら、彼女がウンコから帰ってくるのを待っておりました。

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ちなみに、僕はもちろん戦後時代など生き抜いていませんから「ギブミーチョコレート」なんて言ってませんし、洋画は大嫌いで邦画が大好きです。これらは日記の表現のための仕方ない嘘と言うことで、「日記の表現のため」も仕方ない嘘リストに追加。

あ、あと、「日記書くのがしんどい時の忙しいという嘘」も仕方ないリストに加えさせてください。


3/28 ゴールドメンバー

先週始めの話になりますが、熊本出張に行ってまいりました。新幹線と特急列車を乗り継いで火の国熊本へ。

しかも今回の出張のメンバーは、我が職場から僕、上司、ヘルスズキ、B子という有り得ないメンバー。ある意味Numeri日記オールスターズ、ゴールドメンバーでございました(当人達はNumeriでネタにされてるとは露も知りません)。このゴールドメンバーの詳細をご存じない方のためにザラッと説明しますと

上司-patoさん直属の上司。不味いラーメン屋を見つける天才。インクジェットのプリンターは信頼しないという意味不明の信仰を頑なに守っている。髪型は七三分けだが、八二分けになっているときは怒っていると捉えてよい。齢50を越えながら隠れあややファン(Numeri辞典第3版より)

ヘルスズキ-鈴木君。三度の飯よりヘルス好き。鈴木君を可愛がってくれたおじいちゃんが病院で死の淵をさまよっていた時も、ヘルスで女の子にティンポをチュッパチャップスしてもらっていたという伝説の持ち主。B子とは恋仲だが、隠れてコソコソとヘルスに行っているらしい(Numeri辞典第3版より)

B子-女性でありながら、男よりマッチョな肉体美を誇るクロマニョン一歩手前の事務員さん。アゴがスタンハンセンのみたいになってる。毎週月曜日は意味不明にセクシャルな服装をしていることから、職場では魔の月曜日などとコソコソ言われている。毎日ヘルスズキに弁当を作るという家庭的な一面も。(Numeri辞典第3版より)

とまあこんなメンバーのなかに僕は放り込まれ、これから始まる熊本出張に一抹の不安を覚えながら電車へと乗ったのでした。

集合はJR広島駅新幹線ホーム。

異様に早起きをしてしまった僕は、バリッとスーツに身を包みホームの端にある喫煙所でタバコを吸っておりました。

すると、ホームのすげえ向こう側から歩いてくる体躯の良い女性が。何百メートルも先から、大勢の人の中に紛れて歩いてくるというのに、一目で分かる。そう、あれはB子に違いない。

「おはようございます、patoさん早いですねー」

と言うB子は、熊本出張でテンションが上がってるのか、心の中がスパークしてるのか知らないけど、いつもより5割り増しで化粧が濃い。アイシャドウなんか毒を持った蝶みたいになってる。見るに耐えない。

「あ、うん。ちょっと早起きしたから」

などと気のない返事をすると、

「またまたー、旅に出る興奮で眠れなかったんじゃないですか?子供みたいですね。かわいいー」

などと、テメエは旅に出る興奮で寝付けず、興奮をおさめようと近所の野良犬相手に狩猟をしてたんじゃねえのか?と言い返したくなるほど舞い上がったセリフを吐いておりました。

そこに、

「おはよー」

とか、かなり低血圧気味にテンション低めでヘルスズキが登場。B子のステディであるところのヘルスズキ登場。多分、昨晩もヘルスに行って精気を抜かれてきたのだと思う。それか、ヘルスで出てきた娘がハズレで、異常にガックリきてテンションが低めなのか。どちらにせよ、昨晩ヘルスに行ったのは間違いない。

「すっ、すっ、すっ、鈴木君、おはよー」

とB子は僕に対する時よりも少しトーンを上げて鈴木君に朝の挨拶。

「もうー、昨日電話したのに何で出なかったの?」

と甘えた声で言うB子。ハッキリ言うと、こんなB子見たくない。

「ああ、疲れて寝てたよ、昨日は」

と答えるヘルスズキ。ヘルスに行ってたのは間違いないんだけど、B子にバレると大変な騒ぎになるから「寝てた」と言う鈴木。なんというか、恋する男とその女の美学を見た気がする。

でまあ、しばらくして偉そうに上司がやってきて、いよいよ熊本へ向けて出発とばかりに新幹線へと乗り込みました。

とりあえず、熊本に行くルートとしては、新幹線で福岡は博多まで行き、そこで特急列車に乗り換えて熊本に行くといった感じになります。

新幹線は異様に混みあっており、僕らはバラバラの席に座ることを余儀なくされた状態に。こんなゴールドメンバーで固まって座席に座るとかは考えられないので、内心ホッとしながら離れた場所に座り、大好きなゴシップ誌を読みふけっているうちに博多に到着しました。ホント、早いね、新幹線ってやつは。

でまあ、博多駅で乗り換え、特急つばめとかいうヤツに乗って熊本を目指すわけなんですが、こっちはガラガラなんですよ。博多駅が始発駅ってこともあるんだろうけど、見事に車内がガラガラ。

そうなるとさ、このゴールドメンバーで固まって座るしかないじゃない。有り得ない話で、死ぬほど嫌なんだけど、離れて座るのは不自然じゃない。

しかもさ、上司のバカが「椅子をクルッとまわして座りたいな」とか言い出す暴挙に。

この列車は、二人がけの椅子が両側にズラッと同じ方向に向かって並んでいるのですが、それだと2対2で座ったりしなきゃいけないじゃないですか。固まって座ってても、そうやって2対2に分かれて座ったら心がはなれているみたいじゃないですか。

そういうのは寂しいから、片方の椅子をクルッと回してですね、ボックス席みたいにして4人で座りたいとか言い出しやがるんですよ、上司のバカが。

もうね、勘弁願いたい。「テメエが回れやー、がはははは」とか言いながら、上司が座った椅子を残像が残るほどの物凄い勢いで回したい。ホント、このゴールドメンバーでボックス席とか悪夢としか思えない。

それでもまあ、「そうっすね、こっちのほうが仲睦まじい感じが出ますね」とか言いながらガルンと椅子を回してボックス席を作るんだけどな。

それでまあ、有り得ないゴールドメンバーでボックス席。しかも僕の隣は上司で対面ではB子が微笑んでいるという四面楚歌としか思えない状態で列車は動き出す。

しかも、B子のヤツ、何気に九州マニアらしく、沿線の景色を見ながら喋る喋る。沿線の街に関する薀蓄を、九官鳥が九匹くらいいるんじゃねえというぐらい勢いで。ツバが僕に向かって飛んでるってば。

でまあ、B子の熱烈九州トークに加えて、隣では負けじと上司が九州トーク。

「鳥栖っていう街はね・・・」

「大牟田ってのは名産は・・・」

なんか、上司もB子も異様に負けず嫌いらしく、負けるもんかと「ちょっとお得、九州雑学」を僕に対して喋りかけてくるんですよ。何がそこまで彼らを九州トークに駆り立てるのか。

でもう、唇が飛んできそうな勢いで九州トークを喋るB子と上司に、すっかり生気を吸収された僕。もう死にそう、とか思って斜め前の鈴木を見ると「ヘルスいきてえ、熊本のヘルスいきてえ」って目をしてました。

そんな悲喜こもごもの、むしろ悲悲ばかりの人間模様を抱えつつ、特急ツバメは熊本へと向かっていくわけです。

一時間後、随分と熊本に近づきましたが、それでもまだまだ続く上司とB子の九州トーク。こいつらは間違いなく浮かれている。

でまあ僕も、マトモに彼らの話を聞いていては精神が崩壊しそうなので「うんうん、ほうほう」とか適当に相槌を打ちながら、頭の中では、B子と上司をトイレに行った隙にネクタイで絞め殺してトイレに放置。「特急ツバメ号殺人事件-殺されたゴーレム女に初老の男、秘められたアリバイトリック、そして死の逃避行-」で二時間ぐらいのサスペンスドラマが作れるな、などと現実逃避していました。

そうこうしているうちに、特急ツバメ号は熊本の街へと吸い込まれていき、いよいよ到着するかという雰囲気になってまいりました。そこで車内アナウンスが

「まもなく熊本です。熊本ではなんといっても熊本ラーメン、その味わい深いスープは・・・・」

などと「熊本ラーメン」をPRする放送が。

バカバカ!こんな上司が同行している場面でラーメンのPRなんかするんじゃねえ。俺を殺す気か。JR九州のヤツ、俺を殺す気か。

いやね、ウチの上司ってば不味いラーメン屋を探し当てる天才なのですよ。しかも当人は美味だと言い張るのが性質が悪い。このあまりに迷惑すぎる才能のせいで過去何度と煮え湯を飲まされたことか。

でまあ、案の定上司のヤツ。

「ほう、熊本ラーメンか。ちょうどいい、到着したら食べるか」

とか、僕にとって死の宣告ともとれる発言を。しかもB子やヘルスズキはその発言の恐ろしさを知らないものだから「あ、いいですね」とかエビス顔だしよ。「お前ら、上司が選ぶラーメンを舐めてると死ぬことになるよ、食べる前に心臓叩いておけ」と忠告したい気分だったね。

でまあ、熊本駅に到着し、タクシーで出張先の企業に向かう道すがら、上司はラーメン屋を探して行きます。その不味いラーメン屋レーダーを駆使して探していきます。

「よし、ここにしよう、なんだか美味しそうだ」

と言って上司が選んだ店は見るからに不味そうな雰囲気。

それでまあ、運ばれてくるラーメンがお決まりのように不味い。生命の危機ってほどじゃないけど、なかなかの不味さ。やっぱり上司は不味いラーメン屋見つける天才だよな、とか思って見るんだけど、当の本人はウマウマとラーメンをすすっている。しかも、B子もヘルスズキも普通に食べてるし。なんていうか、僕だけ味覚がおかしいのかな?とか疑問に思っちゃうけど、絵は出さないまでも「こんなラーメンが食えるかっ!」と三人に向かってバシャっとやりたい気分。

そんな嫌がらせとしか思えないラーメンを食べ終え、店を出ようとすると「勘定は別々で」とか上司のヤロウがレジで言ってやがります。給料たんまりもらってるんだからラーメンぐらい奢れよな、と思いながらレジに並ぶ僕達。

上司は上司でキッチリと自分のラーメン代だけを払っています。

「ただいま、サービス期間ですので、このサービス券をお渡ししています。10枚貯めると1杯サービスですから」

とか言って、チープなサービス券みたいなのを手渡そうとするレジの店員。それを受けて上司のヤロウ

「いや、いらないです。二度と来ませんから

おいおい、気持ちは分かるけどさ、言い方ってものがあるだろうに。そりゃね、僕らは出張で遠く離れた熊本の街に来てるよ。そう何度も頻繁に来れるような場所じゃないよ、熊本は。多分、このラーメン屋にも二度と来ないと思うよ。

僕らはよそ者です、だからサービス券を貰っても無駄なのでいらないですよってニュアンスを伝えたかったのだと思うんですけど、さすがに「二度と来ませんから」はないだろうに。もうちょっと言い方ってものがあるだろうに。

しかもそれに続いたB子とヘルスズキ、それぞれのラーメン代を払いながら

「ワタシももう来ませんからいいです」

「もう来ないから」

と、ぶっきらぼうにサービス券を断ってました。ここまで続くと、何か不手際があったのだろうか、よほど味が気に入らなかったのだろうか、と店員さん凹んでた。厨房にいた料理人さんも泣きそうな顔になってた。

さすがに余りにも可哀想だったので

「僕はまた来ます。美味しかったですよ」

と、明らかに嘘8000なことを言ってサービス券を頂きました。明らかに僕の口には合わないラーメンを出すラーメン屋、ゼッタイに10枚貯まらないサービス券を手に店を出るのでした。

店を出ると、

「そんなサービス券もらってどうするんよ?」

と、ヘルスズキが不適に笑いながら近づいてきました。そしてB子に隠れながらコソコソと

「やっぱサービス券ならコレだぜ」

などと僕に何やら名刺のようなものを渡してきました。

「コレ、俺の行きつけのヘルスのサービス券。プレイが終わった後に女の子から店の名刺貰うんだけど、それが次回からはサービス券になるんだぜ。それあげるから今度行ってみろよ」

とか言ってました。見ると確かに「ファッションヘルス○○ 次回2000円割引」という文字と共に、やっぱり名刺ですから「スズキさんへ、今日は来てくれてありがとう。また今度もヨロシクね、今度はすごいサービスしちゃう。待ってるから(はーと) まり」とか頭の悪そうなピンクの丸文字で書かれてました。コイツは、こんな熊本の街に来てもヘルスのことしか考えられないようです。

でまあ、その後は相手先の企業に赴き、プレゼンをしたり話を聞いたり見学したりと有意義に出張業務をこなしました。

その後は、上司は次の日も熊本で予定があるため宿泊。僕ら3人は別に予定もないので日帰りで帰宅ということになり、熊本駅で上司と別れました。

夕暮れの熊本の街に別れを告げ、朝乗ってきた特急ツバメに乗り込むと、やっとこさ上司から開放された喜びでいっぱいでございました。

しかしながら、まだまだヘルスズキとB子が残っています。しかもこのクリーチャーカップル、上司がいなくなった途端にイチャイチャイチャイチャ。特急ツバメの中で見苦しいほどの愛情表現を見せつけてくるのですよ。もう、電車の中でハメ撮りとかしちゃうんじゃねえの?ってほどにベロベロに愛の短歌を詠みあげておりました。

ボックス席の向かいで繰り広げられる見苦しいまでの愛欲劇場を見ながら「博多までの我慢、博多までの我慢」と心の中で連呼。いやいや、B子とヘルスズキのヤツは広島まで帰ることになっていたのですよ。二人で広島に帰り、4畳半の部屋かなんかで悶え狂うかのようにおセックスとかすると思うのですが、僕は広島まで帰らないことになっていたのですよ。

九州に来たついでですから、博多で降りて福岡で行われるオフ会に参加することになっていたのですよ。だから、性の虜となっている全身性器と言わんばかりの獣カップルとは博多でお別れ。

「我慢だ、我慢だぞ、あと2駅、我慢だぞ、もう少しで博多だ、頑張れ」

と自分を励ましながら博多へと向かったのです。

博多に到着し、新幹線に乗り換えるために降りた獣カップルと改札付近でお別れ。

「ヘルスとか行くなよ」

と空しくこだまするヘルスズキの声を背に受けて彼らと別れたのです。

あまりにも獣カップルの絡み合いが見ていて不快だったものですから、熊本のラーメン屋の前でヘルスズキから貰ったヘルスの割引券、「ファッションヘルス○○ 次回2000円割引」という名刺、「スズキさんへ、今日は来てくれてありがとう。また今度もヨロシクね、今度はすごいサービスしちゃう。待ってるから(はーと) まり」とか頭の悪そうなピンクの丸文字で書かれているヘルスの名刺を、隙を見てB子のヴィトンだかバトンだかいうバックの中にコッソリと忍ばせておきました。

「スズキさんへ」と名指しで書かれたヘルスの名刺。それを見てB子は烈火の如く怒るに違いない。まさに火を見るように怒るに違いない。

「さすが火の国熊本だぜ、B子も火のように燃え盛って怒るに違いない」と含み笑いをしながら熊本の街へと消えていくのでした。


3/27 東京4

というわけで、地獄の出張シリーズもこれにておしまい。明日には広島に戻りますので通常更新に復帰できるかと思います。沢山の励ましのメールやら官能的なメールをありがとうございます。とても励まされました。

本日は最後の過去ログサルベージをどうぞ。

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過去ログサルベージ(2002年リアルタイム更新より)

ちょっと前にイトコの結婚式があった。しかも同じ歳のイトコ。これは嬉しい反面、内心焦ったりもする複雑な感情だ。 そんなわけで、行ってきましたよ結婚式に。めんどくさかったけど。 だいたい、あんな山の中で結婚式をやること自体が間違っている。そりゃあさ、結婚するヤツらは、二人のラブロマンスヨロシク!ってな勢いで、

「自然に囲まれたプチホテルで結婚式なんてRomanticだわ」

とか暴走しちゃってるかもしれないけど、出席する側としてはたまったもんじゃない、勘弁して欲しい。 朝も早くから起きて正装、ご祝儀の準備をして車に乗って出発だ。まだ夜も明けてなかった。しかもこのプチホテル、非常にわかりづらい場所にある。地図を前もって渡されていたのだが、これがもう宝探しの気分なのだ。いい加減にしてほしい。 そんなわけで、予定より少し遅れて到着。受付を済ませて、カフェでコーヒーを飲む。そこに新郎の母(つまり俺の叔母)登場。開口一番とんでもない事をいいやがった

「今日はね。お式はホテル裏の湖の湖畔でやるのよ、素敵でしょ」

カフェからもみえるのだが、このホテルの裏には湖がある。屋外で式を挙げるってのはいいかもしれない。実際にこのホテルの売りもそこにあるのだろう、わざわざ湖畔に簡易のチャペルが設けられているのだ こんなとこで式をあげられたらどんなに素敵だろうか。暖かい日差しに、木々からの木洩れ日。森のリス達だって二人を祝福してくれるだろう。 しかし、今日は警報がでるくらいの暴雨風だ!!

バカも休み休みに言って欲しい。こんなタイフーンの中で結婚式をする気なのだろうか。ほら、湖だって湖とは思えないくらい波立ってるじゃん、まるで日本海のように。しかし、これは二人のたっての希望だったらしく、彼らは頑なに譲ろううとはしなかった。まったく持って迷惑な新郎新婦だ。

そいでもって、式が始まるというので俺は湖畔へと向った。すると、さっきまでの雨が嘘のように止んだのだ。まあ、雨は止んでも依然として風はゴウゴウに吹いているんだけどね。出席者が全員席に着くと、インチキくさい牧師の登場

「二人の愛が天に届き、見事、空が晴れました。天も祝福しているのですよ」

んなわけねーだろ、インチキ牧師め!! なら、その愛とやらで風も止めてくれよ。 さらにインチキ牧師は続ける

「式の神聖さを守るため、携帯電話等は電源を切ってください」

なるほど、もっともだ、神聖な式の途中で携帯が鳴ろうものならぶち壊しだ。この牧師もたまには良い事言うじゃねえか、などと思いながら俺も携帯の電源を切ろうと携帯を取り出した

バカヤロー!!山の中すぎて携帯が圏外じゃねえか!! 電源を切るもクソもないだろ、鳴らないんだから。などと心の中で牧師にツッコミをいれていたら、聖歌が鳴り響き、新婦登場。 新郎はその随分前から小高い丘の上で待たされていた。この待ってる姿がけっこうマヌケで、いいサラシ者だったのだが。

そして、ゴウゴウに風が吹く中、式がスタート。牧師がなにやら喋っているようだが、風の音でなんにも聞こえない。勘違いないで欲しいが、簡易チャペルと言ってもたいしたものではない。牧師と新郎新婦がいるエリアにだけ、簡易的な六角形のテントがはられているようなカンジである つまり、われわれ参加者はモロにテントもない屋外になるわけで、強風で森から飛ばされてくる葉っぱなんかが、ベチベチと打ち付けてくる過酷な環境だった。

何よりも心が痛んだのが、ホテルの職員に対してだ。風で簡易チャペルが吹き飛ばされないように、ホテルの職員が総出でチャペルの柱を必死に支えているのだ。この姿にはいささか涙を誘われてしまう。ヅラのオッサンとかいたら大変だろうなーなどとくだらない事を考えているうちに式も終了。新郎新婦の退場だ。なにやら小さなカゴが参加者全員に渡された。中には花びらがイッパイつまっていた。この花びらを退場する新郎新婦に投げて欲しいとの事だった。ロマンチックだね花のシャワーとは

俺も祝福する気持ちイッパイに花びらを二人に浴びせたんだけど、その花びらが強風にあおられてどっかに飛んで行っちまう。それならまだ良いが、あおられた花びらがベチベチっと新婦の顔面を直撃してたりしたから、もう最悪。悪気もないのに悪気タップリといったカンジで まあ、そんなこんなで式は終了。屋内で披露宴となりました。披露宴編に続く

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とまあ、サルベージしてみて分かったのだけど、どうやら僕はこの続きの披露宴編を書いていない。「つづく」と言いながら続きを書かないのはいかがなものか。

とにかく、出張の終わりと共に過去ログサルベージもこれにておしまい。明日より通常更新でーす。


3/25 東京3

なんなんだ、このハードスケジュールな出張は。東京都内の街から街へ重いパソコン背負って行商の日々。足にマメができたっちゅーねん。足の爪が内出血してるっちゅーねん。

なんちゅーか、今日の東京は雨だったんだけど、酸性雨の中をシトシトと歩いていたからね、そのうち雨なんだか涙なんだか分からなくなっちゃってよ、頬を伝うこの液体は何?ってなもんだったよ。ありえない。

でまあ、満員電車ももうウンザリで、キャバクラの呼び込みとかもウンザリで、自動改札をくぐるのも怖いしで、東京なんてウンザリ。高層ビルなんて見たくもない、って感じなんだけど、とにかく頑張らなきゃって感じです。よくわかんねーけど。

そんなわけで、東京砂漠に怯えつつ出張を頑張るpatoさんに励ましのお便りを。

というわけで、今日も好評なのか不評なのか分からないけど、過去ログサルベージです。これは楽すぎて病みつきになりそうです。そう、おセックスに悶え狂う新米カップルのように病みつきになりそう。もうとまらない。それではどうぞ。

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過去ログサルベージ(2002年1月リアルタイム更新より)

俺は自転車に乗れるようになったのは周りの友人たちに比べて遅かった。世間一般ではどうなのか知らないが、俺の周りでは小学校2年生ぐらいのころにはクラスのほとんどのやつが補助輪なしで乗れるようになっていた。じゃあ、なぜ俺は乗れなかったのだろうか?

簡単なことである、自転車を買ってもらえなかったからだ。うちの親には、「みんな持ってるから買ってくれ」などという戯言は通用しない。みんなはみんな、自分は自分である。だから、みんなが自転車で遊びに行く時など、俺だけ走ってついていったもんだった。この当時の俺から見れば自転車は貴族の乗り物で憧れであった。いつかは自転車を・・を合言葉に、毎日走って友人の自転車についていったもんだった。

そんな憧れの自転車も、ついに三年生の時に買ってもらう。そろそろ自転車ぐらい乗れなきゃまずいだろ、という親父の一言で買ってもらえることになったのだ。で、親父と自転車を買いにいったんだけど、とことん親父の趣味が悪い。俺は、変速とかついたスポーティーな黒い自転車がほしかったんだけど 欲しい、と言ったらシカトされた。で、親父がチョイスしたのが、フツーの婦人用自転車みたいなやつ。や、それはべつにいいんだけど、色がまずかった。なんかクリームソーダーみたいな色なんだよねぇ・・・。 まあ、いくらデザインが気に入らないとはいえ、憧れの自転車が手に入るのだ。気に入らないとは口が裂けても言えない。

そんなこんなで、自転車を購入、さっそく練習を開始するのだった。友人たちは、乗れるようになるまで、転びまくったとか言っていたが、俺は転ぶことなく一発で乗れた。おそらく俺の自転車に乗りたいという気持ちが天に届いたのだろう。これで装備は整った。やっとこさ友人たちと対等なラインで遊びにいけるのだ。これはとっても嬉しかった。

しかし、友人たちは俺が自転車を手に入れるころには既に次のステージに移っていたのだ。彼たちが夢中になっていたのは自転車によるレースである。最初は、フツーの道路を走ってそのスピードを競っていたのだが、そのうちどんどん発展していき今では障害物いっぱいのテクニカルなコースになり収集がつかなくなっていた。舞台は近所の海浜公園である。ここは最も難しいE難度のコースになっていた。

まずは日本庭園エリア、山あり谷あり川ありで、とんでもないテクニックと体力を要する。次に遊戯器具エリア、砂場やシーソー、プールなどあり最高級に難しい。そして噴水エリア、ここは噴水のヘリを走るようになっている。このコースを走りタイムアタックするのだ。

なかでも難しかったのがプールである。幼稚園児が泳ぐようなショボイプールなのだが、季節は冬でシーズンオフということもあり、水はほとんどなかった。ちょうど足首ぐらいまで水があっただろうか、しかも底にはヘドロがたまっていたため、非常に滑りやすくなっている。みんな、ここでは慎重に走るため、タイムが伸び悩んでいた。当然である、失敗すればヘドロの海へダイブだ、だれだって慎重になるだろう。

つまりは、タイム縮小の鍵はこのプールにあると言ってもよい。ここを素早く駆け抜けることができれば、最高タイムも簡単であろう。というわけで、俺のタイムアタックの順番になる。もちろん俺は、アイルトン・セナの生まれ変わりとなって、プールを駆け抜けてやろうと考えていた。そしてスタート。

無難に日本庭園エリアを走る、まずまずの調子だ そしてシーソーや砂場などを駆け抜ける。そしていよいよ問題のプールだ。俺はスピードを殺すことなくプールに突入した。

ジャバジャバァ!!

と水しぶきがあがる そんなことはお構いなしに、さらに俺はスピードアップする。なかなかのタイムだ。 しかし、あと少しでプールを抜けるといったところで、ものの見事にこけてしまった。

ズルッ、っと滑ったのだ。そして無残にもヘドロの海へダイブしてしまったのだ。もう服は泥やら水やら葉っぱやらついてベロベロ。くさい臭いもするしね。ああ、こりゃまた、かーちゃんに怒られるなぁとか思ってました。

ビショビショのまま、プールから自転車を引き上げてると、ゴールで待機していた友人たちが駆け寄ってきました。みな口々に大丈夫か!?大丈夫か!?と聞いてきます。大丈夫なわけがありません、真冬にヘドロの海へダイブしたのですから、それでも俺は強がって、「大丈夫だよ」と答えました。しかし、大丈夫ではなかったのです。

友人の一人が、表情を強ばらせながら訊いてきたのです

「おまえ、その足についてるものなに?」

えっ、と思い、自分の右足を見てビックリしました。なんと、三角錐状(ピラミッド型)の石がザックリと足に刺さっていたのです。プールの底にあった石が転んだときに刺さったのでしょう。いままでなぜ気づかなかったのでしょう。俺は強がって、動転してないふりをしてましたが、内心はかなり動転してました。友人の一人が、恐る恐る刺さっている石を抜いてくれました。その瞬間に、ブシューッ!と血が噴き出しました。そして傷口からは骨っぽいものまで見えてました。あまりにグロい惨状にビビッた友人たちは、そのまま恐れをなして逃げ出してしまいました。

けが人を置き去りにしてである、たいした友人たちだ。もう自分ひとりじゃどうしようもなく、ただただボーッと突っ立っていたのだが、その間にもドクドクと右足からは血が流れ出している。しかたなく、家に帰ることにしたのだが、 未経験である流量の出血、一人であることの不安からか、急に泣けてきた 一人でトボトボと国道脇の歩道を泣きながら自転車をひぱって帰ったのだ。転々と道路に血痕を残しながら・・・。この血痕を辿っていけば俺にたどり着くことができる、といった寸法だ。

そして、なんとか自宅に生還。玄関先で母親を呼び、怪我をしたことを伝える。すでに玄関先は血の海だ。母親は人一倍血を見るのが嫌いなタイプ。玄関先で自分の息子がおびたただしい出血をしているのを見て、ショックのあまり倒れそうになっていた。幸か不幸か、ちょうどそのとき、父親の友人のおじさん(警察官)がうちに遊びにきていた。

さすが警察官、彼は倒れそうな母親を支えながらも、応急処置などをしてくれた。これでなんとか、出血の量も減った。そしてこのおじさんに抱えられるままに自動車に乗せられた。その間にもボタボタと血は流れ出している。車の中も殺人現場のようになっていた。

そして連れてこられたのは○○医院、ここは地元でも有名なやぶ医者である。同級生たちの間でも、まことしやかにこの医院でひどい目にあったという噂がたっていた。俺はおじさんに、断固としてこの病院で治療を受けることを拒否した。しかし、すでに警察官の血がたぎりトランス状態となっている彼には何を言っても無駄だった。俺は米俵のようにかつがれ、やぶ医者へと吸い込まれていったのだ。

実はこの日は日曜日。本来なら病院は休みである。しかし、こちらとしては病院の営業日を選んで怪我をするわけには行かない、というわけで、救急外来という扱いで治療を受けることになった。看護婦さんに誘導され、診察室まで行く。そして、看護婦さんは治療の準備を、俺はベッドに横たわってるわけだが、 なぜか医師が来ない・・・。

普通は、看護婦さんの準備が終わったら、さっそうと医師が現れテキパキと治療する。そういった手順のはずだ、しかし肝心の主役ともいる医師が来ないのだ。看護婦さんは消毒だかなんだか知らないが、傷口に薬品を塗りたくった。これがやけにしみる。激痛のあまり、気が遠くなりかけていた。

この時、なぜか知らないが、病院の外から、遠巻きにカラオケの演歌の歌声が聞こえてきたのだ。あとから、母親から聞いて知ったのだが、 ここの医師は、カラオケが趣味らしい 休みの日などは、医院に隣接する自宅で、朝から晩まで歌を歌ってるらしいのだ、近所じゅうに聞こえる音量で。今思えば、この激痛の中聞いた歌声は、他でもない医師の歌声だったのだ。

つまり、ここの医師は出血と激痛で苦しんでいるいたいけない少年を尻目に、 「ホゲ〜」っとジャイアンのように演歌を歌っていたのだ。

もうどれぐらい時間がたっただろうか、しばらくして、歌声がやみ、さっそうと医師が登場。いや、さっそうとじゃなかったな。どうやら彼は、ダイスキな歌を歌いながら、酒を飲んでいたらしく やけに赤い顔をしていた。おまけに酒臭い、消毒用のエタノールも酒も、同じアルコール類だ、とかいうのはどうでもいいとして。どうやら、彼はそうとうにご機嫌な様子。

治療器具を持つ手もプルプルと振るえているのだ。どうやら、俺の傷は相当に深く、大きいものだったらしく、縫わなければいけないらしかった。冗談じゃない、そんな状態の彼に、縫いものなどできるはずがない 俺は側で付き添っている、警察官のおじちゃんにアイコンタクトで救いを求めた。

しかし、おじちゃんは「先生、おねがいします」と神妙な顔で医師にお願いしていた。おい!あんた警察官だろ!こいつを逮捕しろ!とかわけのわからんことを考えていました。

治療は、この世のものとは思えぬ激痛を伴い、無事終わりました。とちゅうで、医師が「あっ!」とか失敗をほのめかすようなセリフを吐いていましたが・・・。

何日か経って、抜糸の時が来ました スルスルと糸を抜かれました。なんか傷口がベロベロ 普通、縫ったあとって、もっと傷口が綺麗じゃないっけ? とか思います。まあ、今回の教訓は

自転車でプールに入るな
やぶ医者に行くな
冬は長ズボンをはけ

ということですな

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サルベージは楽でいいんだけど、過去の文章は恥ずかしすぎる。あさってには広島に帰るので通常更新に戻れるかと思います。それでは、また!

3/24 東京2

というわけで、引き続き東京出張です。もうね、ありえないくらいハードスケジュールで、氷室とか出てきてハーダーハーダーとか歌いそうなぐらいハードです。

とてもじゃないが日記には手がまわらないので、恒例の過去ログサルベージ。手抜きでごめんなさい手抜きでごめんなさい。今回も昨年1月のリアルタイム更新からです。

過去ログサルベージ(2002年1月リアルタイム更新より)
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子供の頃、風呂嫌いだった。風呂全般が嫌いというわけではなく、「冬の風呂」が嫌いだった。とにかく寒いからだ。フツーは冬だろうがなんだろうが、湯船にどっぷり浸かって、冷えきった体を芯から温めればそんなに寒くはないだろう。俺もそうしたいのは山々なのだが、なにせ猫舌ならぬ猫体なのだ。熱い風呂に10秒と入っていられない。

当然、そんなこっちゃ体も暖まる筈もなく 風呂から出るとムチャクチャ寒い。この世のモノとは思えないぐらいなのだ。こんな思いをするなら、いっそ風呂なんか入らないほうがいい。冬が来る度にそう考えていた。

子供の頃は、いつも弟と一緒に風呂に入っていたのだが、弟もどうやら猫体らしい。兄弟そろって、風呂に入って、体を洗い 一瞬だけ湯船に浸かって、出てくる。そいでもって、寒い寒いと震えるのだ。まったくもってどうしようもねー兄弟だ。寒いなら風呂に入らなきゃいいじゃん、とか思うけど、入らないとやっぱ汚いし、かーちゃんにも怒られるしで、風呂に入るのは確定してるわけよね。だから、冬の日に風呂に入っても寒くない方法ってのを考えなきゃならない。

で、ある日、とんでもない名案を思いつくわけです。冬の定番ともいえるストーブを使うんですが、 この当時のストーブと言えば、今みたいな電気ストーブとか ファンヒーターみたいなオシャレチックなやつじゃなくて、もろ灯油のストーブで真中で赤い奴がメラメラと熱を発してるようなやつね。で、たいがいは、上に水の入ったヤカンなんか置いてたりする、すっごい昭和なストーブなわけ。

風呂から上がって非常に凍えている体で体も拭かずに、ストーブのある居間までダッシュし、ストーブの前で温まる そこで体を拭いたりして、服を着るといった方法だ。この「風呂→居間→ストーブ」のゴールデンコースはナイスな方法で俺と弟の間で大流行した。

しかし、濡れた体でダッシュするため、居間までの廊下なんかはビショ濡れになる。かーさん的にはたまったもんじゃない。俺達が風呂に入るたびに廊下を拭かなきゃならんのだから。さらには、濡れた廊下をダッシュするというのは危険が伴う。最初にダッシュする方はいいが、次にダッシュするヤツは、確実に滑って転ぶ。ストーブダッシュは先攻をとることが必須となる。さらには、小さいストーブだったため、先に一人がストーブにあたっていると、次のやつはあたれない。凍えながら裸でストーブがあくのを待つしかないのだ。

だから、俺達の兄弟は風呂から上がってからがいつもバトルだった。こんな危険なバトルを、うちの、とかく厳しい両親が許していたのだろうか?答えはイエスである。両親的にも俺達のこのストーブダッシュを認めるしかなかった。なぜなら親父もやってたからだ。

中年男が濡れながら全裸でストーブダッシュ。あまり精神衛生上よろしくないが、親父も寒い冬の風呂が嫌いだったのだろう。親父がやってることを子供にだけ禁止することなんてできない。しかし、こんな便利なストーブダッシュも、ある日、親父も含めて全面禁止になってしまう日が来る。悲しい事件が起こったからだ。

その日も、俺達兄弟は、いつものように一緒に風呂に入っていた。チャッチャと体を洗い、ものの一瞬だけ湯船につかる。ここからが本番だ。お互いに風呂場から飛び出し、我先にとストーブまでダッシュだ。負けると、寒い思いをするのだ、場合によっては相手を押しのけてでも前に出なくてはならない。その日も、ダッシュの早い弟は俺よりも一歩早く前に出た。しかし、肉弾戦となればこっちのものだ。俺は弟につかみかかり、ヤツを転倒させた。

間違いなく俺の勝利は確実だ これで、勝利者特権であるストーブは俺のものである。居間に入ると、俺はストーブ前まで駆けて行き、ストーブの前で腰を下ろした

ジュ

なにやら鈍い音がした。続けざまに、

ジュジュジュジュ〜

と音がした。なにやら焼肉なんかで肉を焼いてるような音がするのだ。焼けてるのは他でもない、俺の尻だった。ストーブの前に座ろうと思ったら、距離感を誤ってしまい、ストーブの上に座ってしまったようなのだ。フツーはヤケドなんかしたら、「アツッ!」ってなカンジになるのだろうが、とかく尻というのは鈍感に出来てるようで俺は尻が焼けてることに気づかず、数秒間全裸でストーブの上に座っていた。何かおかしいなぁ〜などと思いつつ しばらくして、初めて自分のケツに火がついていることを認識するが、時すでに遅し、明らかに尻の皮がベロベロになっていた。

尻が焼けるように熱い・・・。

俺的にも、涙でも流して、尻が焼けたことを熱烈に親にアッピールしたかったのだが、なぜだかこのときは、

「やばい、これがばれたら怒られる」

などと不安がよぎり ケツが焼けたなんて恥ずかしくて親にも言えませんことよ、おほほ なんていう田園調布のお嬢様ばりの見栄も手伝ったのかもしれない。とにかく、親には隠しておこうと決めていた。 そうなったら、まず、何事もなかったようにパンツをはかなくてはいけない。ブリーフタイプのピッタリフィットパンツだったため、傷口にしみた。それでも俺は平静を装い、パジャマに着替え、テレビを見ていた。 ケツがリアルタイムで燃えてるかのように熱い。

テレビを見ている俺は涙目になっていた。1時間は我慢しただろうか・・。

さすがにこんなジャワ島みたいに猛り狂っているマイ尻を抱えては夜もおちおち眠れない、そう判断した俺は、親にケツが焼けた事を報告した。いわゆるカミングアウトというやつだ。案の定、怒りのアフガンと化した両親に怒られ、風呂場で尻を突き出した格好で、親父に冷水をかけられるという辱めを受け もっと寒い思いをしましたとさ。しかも、その後は、ヤブ医者に強制送還され、そこでも辱めを受けましたとさ

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もういい加減過去ログサルベージとかやめたい。恥ずかしすぎる。

あと一、二回サルベージしたら出張シリーズも終わるので通常更新に戻ります。では、また明日。


3/23 東京

というわけで、今は出張で東京にやってきています。なんかプレゼントか、上司とかB子とかが帝都にやってきていてワケが分からないのですが、とにかく出張時恒例の過去ログサルベージで手抜き更新。

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過去ログサルベージ(2002年、1月リアルタイム更新より)

学園物のマンガなどでもネタに困ると必ずといってよいほど、 次回○○は、「謎の転校生現るの巻」 などといって話を展開させ、大概とんでもない転校生がやって来て、 クラス中がおおわらわ。などといった展開があり、 次週を見なくとも話の展開が予想できてしまう場合がある。

けれども現実の世界には、至極当たり前なんだけど、僕らと同じフツーの子供がやって来て、フツーに学校生活を過ごしてい く。 別に転校生が大暴れしてクラス中ハチャメチャってわけではない。 しかし、たった一人だけ、クラス中をハチャメチャにした転校生が存在 した。

ヤツは本当に謎めいた存在で、まさしく「謎の転校生現るの巻!」とい った感じだった。ハチャメチャどころかクラス中をメチャメチャにしたやつだった。今回はそんな思い出について語っていきたいと思う。

小学三年生ぐらいだった時の話。 イキナリなんの前触れもなく転校生が我がクラスにやってきた。 普通、転校生ってのは、最初は大人しい感じで控えめな態度をとる子が多い。次第にクラスの人間に打ち解けていくうちに本来の性格を前面に出していく、こうして転校生はクラスに打ち解けていくもんだ。

しかし、ヤツは違っていた。ヤツの名は岩田とんでもないゴツイ体格と、全開バリバリの図々しさを持つ異色の転校生だった。最初は物珍しさからか、話の内容が面白かったのか分からないが、 彼はクラスの中心的存在になり一気にスターダムにのし上がった。

転校生としては異例の快挙である。 しかし、数日もすれば彼のメッキは剥がれ落ち、逆にクラス一の嫌われ者に成り下がっていた。 この激しい没落も転校生としては異例である。では、なぜ彼はここまで没落したのだろうか?原因は彼の振る舞いにあった。彼はとんでもなくスパイシーな嘘をつきまくるウソツキ野郎だったのだ。

彼が来た当初は、彼の嘘により民衆は踊らされ、舞い上がった。人気も 急上昇だ。しかし、次第に嘘はばれていく。彼は嘘を隠すため、また嘘をつく。このくり返しで一気に嫌われ者に成り下がってしまった。クラスメイト達は皮肉をこめて彼を「ウソツキイワタ」と呼ぶのだった。

もはや彼が何を言っても皆は信じなかった。相手にしなかった。 それを寂しく思ったイワタは、気を引こうとさらに魅惑的な嘘をつくこの悪循環だった。ウソツキは泥棒のはじまり、とも言う。 それだけ嘘というものは皆に嫌われる。大半のクラスメート達はイワタを忌み嫌っていた。

そんなある日、またイワタが突拍子もないことを言い始めた。

「俺、忍者ハットリ君のファミコンソフト持ってるぜ」

とんでもない嘘である。 彼がファミコンをもってるのかどうこうと言ってるわけではなく、 その当時、「忍者ハットリ君」のファミコンソフト自体が発売されてい なく、存在するものではなかったのだ。 まあ、「発売するらしい」という情報は飛び交っていて、ファミコン雑 誌などでも取り上げられていたことはあったのだが、どちらにせよイワタ が持っているはずはないのだ。 もう、140%嘘といった勢いだ。

発売前のソフトを本当に持ってたら凄いことなのだが、誰も彼の話に聞 く耳を持たない。 しかし、世の中にはとことんお人好しな人間が存在する。騙されても騙されても、イワタを信じつづけた男がいた。 クラスの委員長である。委員長という役職は桁外れにお人好しでなければ務まらないのだろうか 、と思うほどに彼は人がよかった。

無軌道に嘘をつくイワタの情報に何度となく振り回された委員長であったが、イワタを憎むでもなく、ただただ笑顔だった。 そして何度となく騙されつづけていた。 今回も委員長はイワタのハットリ君のソフトを持っているという話を、

「本当に!?スゴイ!!やらせてよ!!」

などと目を輝かせて聞き入っていた。 なんともお人好しの塊のような人だ。

「お願いだから、一回でいいからやらせてよ」

委員長はイワタに土下座でもしそうな勢いで頼みこんでいた。 僕はそんな委員長の姿があまりにも憐れだったので、 そっと近くに行き、

「委員長、そんなの嘘だから信じない方がいいよ」

と、それとなく助言をしておいた。 しかし、委員長は、

「そんんことないよ、イワタ君はハットリ君持ってるんだよ。やらせて もらおうよ!!」

などと純粋に信じているようだった。 これじゃあまるで僕が悪者みたいだ。 もはや何を言っても無駄のようだった。 それからもイワタと僕と委員長で、 ハットリ君のソフトを本当に持っているのか?云々で言い争いになった のだが、結局、放課後三人でイワタの家に検証しに行くということで落 ち着いた。

―――そして放課後。

三人は並んで歩きながらイワタの家へと向かう。 その道中もイワタは魅惑的な嘘で委員長を翻弄しつづける。 この際、ビリーバーになってしまっている委員長はほっといて、僕は何度もイワタを問い詰めた。

「なんで未発売のソフトがおまえの家にあるんだよ?手に入れられる訳 がないだろ」

子供ながらなかなか核心に迫る質問だ。 しかし、イワタは怯むわけでもなく、焦るわけでもなく。

「いや、俺のおじさんバンダイの社長でさ。未発売のソフトとか送って 来るんだよ」

などとサラッと言いやがる。 大体、ハットリ君はバンダイじゃなくてハドソンのソフトじゃねえか。 フツー人間ってのはオドオドしたり目を泳がせたりしながら嘘をつくもんだ。 現に、ウチの弟など嘘をつく際には普段の3倍ぐらいの勢いでまばたきをする。 嘘をつく後ろめたさが仕草にでるのだろう。 しかし、イワタにはまったくそれがなかった。平然と、サラッと、とんでもない嘘をつきやがる。 そこが怖いのだ。 こっちまで信じてしまいそうな雰囲気になってくる。

そんなこんなでイワタの家に到着。 こういったら失礼なのは分かっているのだが、 とてもバンダイ社長の親族が住んでいるとは思えない、小汚い長屋だっ た。 その一画にイワタの家はあった。 イワタの家は両親がちょうど留守で、誰もいなかった。 家の中は、特に何もなかった。 座布団と空の一升瓶が転がっている、そんな殺伐とした風景が広がっていた。

言い知れぬ恐怖を第六感で感じた僕は、はやく帰りたいと思った。 早くハットリ君のソフトを確認して帰らねば・・・。 そんな想いが僕を焦らせた。

「おい、ハットリ君はどこにあるんだよ、早く出せよ」

もはや脅しのような口調になっていた。 そして、僕はとんでもない事に気がついてしまったのだ。 この家には、ソフトどころかファミコンの本体がない ファミコンどころかテレビもないのだ。 これはチャンス!!と思った僕は一気に攻勢に転じた。

「おいおい、お前!ハットリ君どころかファミコンもねえじゃねえか! どういうことだ!」

もはや口調は暴力的になりつつある。 しかし、イワタは全く怯む様子もなく、サラッと

「うん、いま本体は親父が仕事に持って行ってるんだ」

おいおい・・。どこの世界に子供のファミコンを仕事に持っていく親父 がいるんだよ・・。

「テレビもねえのにどうやってファミコンやるんだよ!」

さらに攻めたてる。

「あー今日はテレビも親父が持って行っちゃってるなぁー」

などと、さも残念そうに言いやがるのだ。 イワタの親父はファミコン片手にテレビ担いで仕事に行ってるのだろう か・・・。

「ソフトはハットリ君以外、何持ってるんだよ?」

さらに攻めたてた。この時点で僕は、彼がどこまでとんでもない嘘をつくのか楽しむようになっていた。

「うん、数えたことないけど100本は押入れの中に入ってるよ」

100本!?そりゃあスゴイ!是非とも見せてもらいたいものだ。

「ほんとに持ってるのか?見せてみろよ」

それを受けたイワタ、なにやらゴソゴソと押入れの中を漁ります。 どう見ても、押入れの中は空っぽっぽいんだけどね・・・。 しばらく探したイワタ君。振り返ってさも残念そうに

「あ〜、カセットも全部親父が持って行っちゃってるなぁー

また親父かよ・・・。一体どんな親父だよ。 嘘をつくにしてももっとバラエティが欲しいものだ。 そんな僕とイワタとの骨肉の攻防戦を横目に、委員長は、

「早くお父さん帰ってこないかなぁー」

などと、もう目を輝かせながら心ときめかせてるんですよ。 彼の心の中にはソフト100本とファミコン片手にテレビを担いだイワタ親父がいることでしょう。 お人好しにも限度ってものがあります。 なおもイワタを問い詰めるのですが、彼はのらりくらりとかわしながら、台所へと消えていきました。

委員長と二人っきりになった僕は、チャンスとばかりに委員長の説得に かかりました。 あまり人を信じるものではない。 どうみてもイワタは嘘をついている。 しかし、委員長は聞く耳を持ちませんでした。 ここまで人を信じることが出来るなんて、立派を通り越してアホです。 そうこうしていると、イワタが台所から帰ってきました。 手にはよく冷えたビンビールとグラス三つを持って。

これはかなりショックでした。 だって僕達は小学三年生ですよ。 いきなりビールですもの。 どうやらイワタは嘘を誤魔化すため、酒を飲ませてうやむやにしようと いう腹づもりのようです。 とんでもない小学三年生です。

「まあ飲めよ飲めよ、美味しいからさ」

執拗に酒を勧めてきます。 僕はそんな酒を飲むなんて悪いこと絶対にしないぞ!!と頑なに決め 全く口にしなかったのですが、委員長は勧められるままにグビグビ飲んでいました。 その瞬間でした。

「ウイー、今帰ったぞー」

玄関先で声がします。 イワタ親父のご帰宅です。 委員長の期待通りに、ファミコンを持ってテレビを担いでいれば良かったのですが、無論、持っているはずがありません。 それどころか、片手に一升瓶を持ち、足取りはフラフラ。間違いなく酒 乱の親父ってヤツです。

で、帰宅するや否や、小学三年生のくせに酒盛りをしている僕達を見て 大激怒するわけですよ。

「ガキのくせに酒飲みやがってー!!3年早いわー!!」

などと見当違いな怒り方をし、僕と委員長、イワタに殴りかかりました。 イワタは殴られ慣れているらしく、平然と殴られていました。 僕なんかはもう痛くて怖くて・・・。 委員長は殴られながらも、涙ながらに

「ファミコンは持ってないんですか?仕事場に置いてきたんですか?」

などと酒乱の父に聞いておりました。 まだ信じているようである。もはやこの人についてはどうでもいい。逃げなければ殺される。そう直感した僕は、未だハットリ君を諦めることの出来ない委員長を抱え、この修羅場から逃げ出しました。 まさしく命からがらというやつです。

嘘を貫き通すために、さらに嘘をつくイワタ君。 やっぱ嘘ってのは良くない。 さらに、そんなウソツキ野郎を問い詰めるのも良くない。 彼の嘘を助長することになるのだから、 そう感じた事件でした。

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うわー、ひでえ文章だな、おい。「何考えて文章書いてるんだ?おい?」と一年前の自分を激しく叱責したい気分。

というわけで、今日はTOKIOの夜を堪能してきます。海軍仕込みのオナニーとかして眠るかもしれん。なんやねん、海軍仕込って。


3/21 ラブストーリーは突然に

ラブストーリーは突然にやってくる。

計画的に始まる恋なんて恋じゃない、いつだって恋は突然で身勝手なもの。ある日ちょっとしたキッカケで恋に落ち、そのまま恋に身を任せて彷徨いながら泳いでいく、そうやってラブストーリーは始まるんだ。そう、突然に。

というわけで、今日は僕が大学生の時代に突然やってきたラブストーリーのお話。

大学時代の僕は、それこそ酷い食生活で、金があるときはラーメン食ったり牛丼食ったり、パチンコに勝ってもっと金があるときは連日焼肉とかだったのだけど、逆に金が無い時はフリカケだけ食べて飢えをしのいだりしていました。フリカケだけだよ、フリカケだけ。ご飯にフリカケとかではなくて、素でフリカケだけをバリバリ食べる日々。

そんな風に、金があるときと無い時の差が激しいものだから、栄養のバランスがメチャクチャで太ったり痩せたりを激しく繰り返していた。

僕がまあ身長が188センチあるんだけど、太ってる時で90キロに届きそうな勢い、痩せてる時で65キロぐらい。その範囲内で太ったり痩せたりを激しく繰り返してたたからね。別に意識してダイエットしたりとかしてないのに普通に変動してた。今はまあ、78キロくらいで安定してるけど。

それでまあ、65キロとか「リエ激ヤセ!」なんか目じゃないガリガリのまま実家に帰ったりすると母親が妙に心配したり、90キロの体重で帰ったりすると母親が「アンタ!体全体が腫れてるよ!」と大騒ぎしたり。「太ってるよ」じゃなくて「腫れてるよ」だったからね。

それでまあ、激しく体重が変動するもんだから、周りの人間をいつもヒヤヒヤさせていた。太ったり痩せたりが別人のようにガンガン変わるんだもんな。そりゃあ驚くわ。

面白いもので、周りの友人ってのは僕が激ヤセしてる時は「なんか最近ガリガリに痩せてない?」とか痩せてることを指摘してくるんだけど、太ってる時って誰も指摘しないの。誰が見ても一目瞭然で「あ、太ったね」とか思うはずなのに、誰も何にも言わないの。なんとなく痩せてることよりも太っていることのほうが指摘しにくいのかな、なんて思ったりしてた。

でまあ、ある時、90キロに届きそうな勢いでマックスに太ってる時だったのだけど、夏休み明けにその体重まで太ったんだよね。夏休み前はガリガリに痩せてたのに。

でまあ、大学の友達ってのは普段から会ってるから激しく体重が変動しててもすぐには気付かないってあるじゃない。毎日見ていると変化に気が付かないじゃない。

でもね、夏休み前にガリガリで明けにマックス太りだよ。二ヶ月ぶりに会うのにそこまで太るのってさすがに気が付くじゃない。普通なら気が付くじゃない。ひと目で気が付いて「あ、太った」とか思うじゃない。

なのに、誰も指摘してきやがらねえの。太ってることは指摘しにくいのか、全然指摘してこないの。それどころか、僕と話するときなんか意味わからないんだけど妙に僕を意識して目を合わさないようにしてやがるの。どうなってるってんだ。

いやな、こっちは久々に大学の友人に会ってだな、しかも自信満々に太ってるわけで。完全に自分が太ったことを自覚して、意気揚々と大学に来てるわけ。指摘されるのを今か今かと待ってるわけなんだよ。

なのにそれを指摘されない。これはもうバッサリと散髪した次の日に、誰にも「髪切ったね」と指摘されない悔しさがあるよね。すごく腹立たしい。

なんかさ、そこまで意識して太ったことを指摘されなかったりすると、なんか太ってるのが悪いことみたいじゃない。変に意識せずにガンガン指摘すればいいのに、なんて一人で悶々と思ってた。

すると、そこにいつも同じ授業を取ってる同級生の女の子がやってきて言うんだ。

「久しぶり、なんかすごく太ったね。」

いやな、太ったことを指摘してきた女子と友達でなければ喋ったこともない。それどころか名前も知らずに、ただ単によく同じ授業を取ってる子として憶えていただけ。向こうもそんな感じで僕の名前すら知らなかったと思う。

そんな初対面の間柄で、しかも初めて交わす会話が「太ったね」だからね。濃厚に友人関係を築いていた友人達が指摘するのをためらっている中、ほぼ初対面の女の子が「太ったね」。このムチャクチャっぷり、このハチャメチャっぷり、その狂いっぷり。もうね、一瞬で恋に落ちた。フォーリンラブ。まさにラブストーリーは突然に。

それでまあ、僕のラブストーリーが始まったわけだ。

それでまあ、僕もほら、年頃の男の子じゃない。その当時は恋に心ときめかす年頃の男の子じゃない。毎日眠る前はその子とデートすることを思い浮かべながら眠りについたりとかしてたわけだよ。

でまあ、こう色々と猛然とアタックするじゃない。年頃の男だし。色々と理由をつけて一緒に遊びに行ったりとかな、理由をつけて電話したりとかな、俺はオマエのこと好いてるぜってほのかにアッピールしたりとかな。やっぱ恋ってのは人間を狂わせるもので、普段はやらないような恥ずかしいことも平然とやっちゃうんだ、これが。

そいでもって、彼女と話するときも、非常にコミカルに面白おかしく話をしてユーモアを見せつけたり、捨て猫も拾って家に連れて帰るような優しさを見せつけたりしてたわけだ。僕のようなブサイクガイってのは面白さや優しさで勝負するしかねえからな。

そういった数々の小ネタ的アタックが効いたかどうか知らないけど、僕らはいつのまにかかなり仲良くなってた。付き合ってたとかそういうんじゃないけど、一緒に遊んだりとかな。友達以上恋人未満ってやつよ。デヘヘヘ

それでも、そういった微妙な関係が続く中でも、相変わらず僕は激しく太ったり痩せたりしてたわけ。吉田栄作のドラマぐらい目まぐるしい展開で体重が変わってたわけ。

そうすると、その友達以上恋人未満の彼女も心配するじゃない。激しく体重が増えたり減ったりしてるけど大丈夫?って心配するじゃない。そうこうするうちに彼女が言うわけだ

「そんなに体重がメチャクチャなのは、食べ物が良くないからだよ。コンビニ弁当や牛丼ばかりとか、フリカケだけとかゼッタイダメだよ、自炊しなきゃ」

そんなこと言われても、僕が自炊しても台所が修羅場と化すほどエライことになるし、金が無い時はフリカケしか食べられないし、って彼女にイイワケすると、彼女が言うの。

「しょうがないな、じゃあワタシが作りに行ってあげる」

聞きましたか、奥さん!?

姉さん!事件です!

ってなもんですよ。ハッキリ言って激しく興奮した。有り得ないほど興奮した。だってさ

料理を作りに来る→部屋に来る→ウチの台所で料理→当然裸エプロン→もうOK→変な棒出したり入れたり

ってことでしょ!?さすがに裸エプロンはないにしても、もう変棒出し入れはOKみたいなもんじゃない。確定みたいなものじゃない。なんかの本にも「部屋に来るのはOKサイン」とか書いてあったし。おセックスしようよって言ってるものじゃない。

もうね、僕ちゃん張り切っちゃって張り切っちゃって、「よーし俺様の海軍仕込みのおセックスみせちゃうぞー、やっちゃうぞー」とか意気込んでた。なんやねん、海軍仕込みのおセックスて。

でまあ、狂ったように部屋を片付けたりして彼女の到着を待ったわけだ。ティンポ臭くないかな?とか自分で必死に臭いを嗅いだりして待ったわけだ。そいでもって彼女がやってきた。我がアパート、ちょっぴりイカ臭い僕の部屋に彼女がやってきた。

ドア開けると、入り口のところに彼女が立っている。買い物袋ぶら下げてやってきた。「おっす」とか言いながらやってきた。もう入り口の時点で射精する勢いなんだけど、俺様はグッと堪えたね。ここが堪え時だって真剣に思って。

部屋に彼女を招き入れ、軽い談笑の後に料理を始めてくれたんだけど、考えることはおセックスのことばかり。やっぱり部屋に来るってのはOKサインなんだよな、いいんだよな、いいんだよな、とか悶々と考えていた。

それでまあ、彼女の料理が完成して、テーブルの上に運ばれて来るんだけど、ほら、ウチのテーブルってコタツとテーブル共用だから低いわけよ。彼女はちょっとかがみながら料理をテーブルに置くわけ。その際にチラリと彼女のシャツとバディの隙間が開いちゃって、ほのかに緑色のブラが見えるわけだ。

ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!とか興奮するんだけど、それどころの騒ぎではなくて、なんか彼女も見栄を張ってかちょっと大きめのブラをしてたみたいでな、なんかブラとバディの間にも隙間が見えるわけだよ。乳首が見えるわけ。

それはもう綺麗な綺麗な乳首でのぅ、なんというか乳首が綺麗とかそういう問題ではなくて、乳首を形成する細胞の一つ一つが綺麗とかそういった趣だった。

もうね、部屋に入ったからOKサインとか、そういうみみっちい次元のお話ではないよ、これは。もう明らかに彼女は僕を誘っている。メスのカマキリのように僕を誘ってる。

興奮しすぎて、おセックスとかやりたいとかそういうんじゃなくて、乳首が目に焼きついているうちにオナニーとかしたかった。むしろ彼女にオナニーを見せつけたい衝動に駆られた。「よーし、海軍仕込みのオナニー見せちゃうぞ」といった気概だったね。なんやねん、海軍仕込みのオナニーて。

でまあ、その後の展開のことが気になって気になって、彼女の手料理が美味かったのか不味かったのかなんて憶えてなくて、それどころか何の料理だったかも覚えてなくて、考えることは変棒をインサートとかできるのかどうかといったことばかり。

料理を食べ終わった後に、二人の間に無言の時が流れるわけだ。

シーンと静まりかえった、重苦しくて沈痛で息苦しい、なんとも気まずい空気が。

まずい・・・・なんか切り出したほうがいいのかな?おセックスに持ち込めるような話題を切り出したほうがいいのかな?でも、なんて?「おセックスでもしますか?」とあたかも人生ゲームでもやろうかといった感じで切り出すのか?それとも、もっとロマンティックに詩的に「君の心の琴を僕に奏でさせてくれないか」とかいうのか?それだったら「尺八を吹くかい?」の方がストレートでいいかもな

などと悶々と考えてますとね、彼女が言うわけですよ

「ちょっと鏡を貸して欲しいな」

いやね、何で鏡を貸して欲しいのか、それが何を意図するサインなのか全然わかんねーんだけど、とにかく貸してくれって言われたものは仕方ないじゃない。

でもね、ウチに鏡ってないのよ。普通に鏡がないの。こんなブサイクなツラなんて、ガラスとかに反射して見るだけでも嫌なのに、鏡に映すなんてとんでもないじゃない。だからウチには鏡なんてないの。あるのは風呂場にバシーンと張ってある大きな鏡一枚だけ。アパートにデフォルトでついていた一枚だけ。

「いいけど、風呂場にしかないよ」

とか言うと、彼女は「それでも構わない」と駆けるようにして風呂場へと向かいます。

もしかして、これってOKサイン?ほら、ドラマとかでもあるじゃない、おセックスする時ってシャワーとか浴びるじゃない。もしかして、彼女は鏡にかこつけて風呂場に行き、それに乗じてシャワーとか浴びるつもりじゃないのかな?もしかしたら、次出てくる時はバスタオルを体に巻いちゃったりして「恥ずかしいから電気消して」とかそんな状態かもしれない。

うおおおおおおおお!!おセックスは間近じゃねえかとか思いながら興奮していると、

「キャーーーーー!!!なにコレ!!!!」

という彼女の悲鳴。

何事だ!?彼女のピンチか!?風呂場で一体何が!?と彼女の元へと駆けていきました。

すると、彼女は風呂場の隅っこで小犬のようにガクガクと震えていました。彼女とは対角の隅に置いてある物体を見てガクガクと。

一体何が・・・!?とその視線の先に目をやると、あってはならないものがソコに。

いやね、ほら、僕ってばウンコとか漏らすじゃない。漏らさないまでも、豪快なオナラをした反動でちょっと実とか出ることあるじゃない。そうするとね、ほら、パンツにナニがつくわけよ。こういうことは日記に書きたくないんだけど、やっぱりついちゃうわけよ。

そういうのっては、やっぱり洗濯しなきゃいけないんだけど、洗濯機に入れて他の洗濯物と一緒に洗っちゃったりしたら、他の健全な洗濯物にまでウンコが伝染しそうじゃない。綺麗にするために洗濯してるのに、ウンコで侵されちゃ実も蓋もないじゃない。いや、実はあるけど。

だからさ、そういったウンコチックなパンツは、洗面器に水を張ってその中に入れて風呂場に放置することにしてたんですよ。そうすることによって次第に汚染されたパンツは浄化されていき、いつしか洗濯機に入れることができるレベルまで綺麗になるわけ。

それでまあ、彼女の視線の先には、その洗面器に浸されたウンコパンツがあったわけだ。悪いことに、かなりパンツのウンコが洗面器の水に溶け出した状態で、水がまっ茶色になってた。問答無用、手加減なしにまっ茶色。その中にプカプカ浮かぶチェックのマイパンツ。もう見てらんない。

彼女が来るって言うんで、エロ本も畳の裏に完璧に隠した。エロビデオも天井裏に完全に隠した。なのになんでウンコパンツを処理し忘れるかなー。「ハハハ、海軍仕込みのウンコ付きパンツ見せちゃうぞー」とかおちゃらけても修復不可能。なんやねん、海軍仕込みのウンコ付きパンツて。

風呂場の片隅、ものすごく青い顔しながら「信じられない」といった表情で茶色い水に浸されたパンツを見つめる彼女を見て思ったね、この恋終わったと。

もちろん、その後はものすごく気まずい雰囲気で、当然ながらとても変棒出し入れとか望める感じではなく、それどころか友達以上恋人未満の関係も、いや友達の関係すら危ないんじゃないの?って感じでした。

「じゃあ、そろそろ帰るね」

予想通り、逃げるように我がアパートを後にした彼女は、その後大学でであっても話しかけることも、目を合わせることもしてくれませんでした。それどころか一緒の授業を取ってくれなくなった。

僕の儚いラブストーリー。

そう、ラブストーリーは突然に始まるのだけど、

ラブストーリーは突然に・・・終わる。

それが恋ってものなのさ。

その後失恋のショックで激ヤセした僕は、62キロと軽い体重記録を更新しました。


3/20 海の男

「海の男ってのは冷たいものなんだぞ」

船乗りだった親父はいつも僕に言って聞かせていた。ウチの親父は、遠泳漁業の船乗りをやってカメラマンをやって建設業をやってというワケの分からない経歴を有している。彼がそんな昔の話を語る時、特に船乗りの話が多かったような気がする。

愛した人も家族も全てを陸に残して何ヶ月も船に乗る船乗り達。時には「お父さん寂しいからいかないで」とすがる子供を振り払って船に乗ったりもするのだろう。

それを知っている親父はいつも言っていた。「海の男は冷たい」と。いや、あえて冷たいフリをしなければ勤まらない仕事だと言いたかったのかもしれない。

僕の生まれ育った故郷は、海以外に何も特徴のない片田舎の港町。住民の多くが漁業に携わっており、親父の言う「海の男」もそこら中に沢山いた。
そんなもんだから僕は、ウチの町は冷たい男どもが集う町なんだと子供心に思ったりしたもんだった。

冷徹漢どもが集う街に悲観するわけでもなく、港しかない田舎町に失望するわけでもなく、僕はそんな自分の故郷が大好きだった。荒れ狂う日本海に船を出す海の男達。家族も何も捨て海に繰り出す男達。そんな彼らがカッコイイと思えたし、そんな彼らが多数住む故郷が何よりも誇らしかった。、もしかしたら、冷たい男である船乗りに憧れていたのかもしれない。

第一、僕は海が大好きだった。

海を見ているだけで、よくは分からないけど雄大な気持ちになるし、心が落ち着いていた。それに、港で遊ぶのが何よりの楽しみだった。

小さな小さな港町。それも全盛期を過ぎ枯れていく一方だった港町に子供達の遊び場になるような目ぼしい娯楽施設はない。当然ながら、家から徒歩で5分もすれば行けるかという海が僕らの遊び場だった。

何も考えるわけでもなく、岸壁に腰掛けて魚を釣ったり、仲間と廃船の中を探検したり、エロ本を拾いに行ったり。もちろん、夏場なんて岸壁からドッポンドッポン飛び込んで泳いでいた。そう、少年時代の僕らにとって海や港は絶好の遊び場だった。そして、そんな港町が好きで好きで仕方がなかった。

しかし、そんな小さな街にも開発の波が押し寄せる。僕が中学生になったぐらいの頃だろうか、街にはコンビニが溢れ、ちょっとしたショッピングセンターや娯楽施設が立ち並んだ。

漁業から商業へパラダイムシフトした街は様変わりし妙に小奇麗になる。汚い港も魚の臭いもしなくなった無機質な街。そして泳げるほど綺麗だった海はあっという間に汚されていった。

小さな街の人々は、利便性や娯楽を手に入れるのと引き換えに、何か欠けがえのないものを失ったのかもしれない。

かくいう僕もメディアから流れる大都市をトレースしたかのように変貌する故郷を見て舞い上がっていた。コンビニが近くにできれば嬉しいし、ショッピングセンターがあれば便利だ。遊ぶ場所にだって困らない。他の若者だってきっとそうだったに違いない。

小さな港町の少年達は海で遊ばなくなった。

街で遊び金を使い家の中でテレビゲームをする。街の近代化と共に大人たちは妙に学歴志向になり子供達をこぞって塾に通わせた。独特で趣のある港町はどこにでもある標準の街になろうとしていた。

何かが違う・・・

利便性に身を任せながらも何か漠然とした違和感があった。便利なことは素晴らしいことだし、面白い遊び場があることもテレビゲームをすることも楽しかった。けれども、何か違うのだ。楽しいは楽しいのだけど、あの日港で遊んだ楽しさには到底及ばない。何か別のベクトルでの楽しさのような気がしてならなかった。

もう一度、港で遊ぼう

あの日のようにいつもの仲間で港に行こう。全てを忘れ空も自分も真っ黒になるまで遊んだあの日のように港で遊ぼう。そう思い立った僕は、友人達に声をかけはじめていた。

テレビゲームに興じる者、ゲームセンターに入り浸る者と様々だったが、僕らはあの日のように港に集まっていた。もちろん、僕の弟も一緒に遊んでいた。その当時はもう弟と遊ぶなんてアホらしいって年齢だったのだけど、やっぱり港で遊んでいた時代はいつも横には弟がいたから。

最初は渋々港にやってきた仲間や弟達も、次第に昔を思い出し港で遊び始めた。まるであの日のように、全てがセピア色のあの日のように僕らは遊んだ。あの日よりもずっとずっと寂れてしまった小さな小さな港で。

岸壁に腰掛けて釣りをする者

廃船探検をする者

雨でベロベロになったエロ本を拾う僕

全てがあの日のままで忘れていた何かを取り戻したような気がする。

「やっぱり港で遊ぶのは楽しいな」

楽しそうに釣りや廃船探検をする仲間や弟を眺めながら、溢れんばかりの笑顔でエロ本を拾う僕。すると、廃船のほうからこの世の物とは思えない悲鳴が。

ギャーーーー

何事かと思い廃船に向かって駆け寄ると、そこには探検をしていたはずの友人が足を押さえてうずくまっていた。

「どうしたん?」

そう声をかけると、友人は泣きそうになりながら押さえていた足を僕に見せてくれた。

見ると、彼の足の底にはピタリと小さな板切れがくっついていた。何もないはずなのに板切れがピタリと靴の裏に。そして板を伝うかのように血がポタリポタリと滴っている。

それで全てのなぞが解けた。どうして何もない足の裏に木の板がピタリと引っ付いているかというと、それは彼の足に釘が突き刺さったから。つまり、板に打ち付けられていた釘がギラリと天を向いていた。そこを彼が釘ごと踏み抜いてしまいズブリと足に釘が刺さったのだろう。

5寸はあろうかという釘が彼の足の甲を貫通し、上側から血まみれの鋭利な部分を見せつけていた。

「と・・・とにかく抜かないと・・・」

痛さで暴れる彼を仲間数人で抑え付け、板ごと彼の足に刺さった釘を抜き取る。その瞬間に血が噴出したのかソックスがみるみると真っ赤に染まっていく。

「いてえよ、いてえよ」

泣き叫ぶ彼に

「大丈夫だ、病院に行けば大丈夫だって」

と励ましの声をかけていると

「ギャーーーー」

またもや断末魔の叫びが。今度は別の友人が釣りをしていた岸壁から。

何事かと岸壁に駆け寄ると、釣りをしていた友人が竿を持ったまま目ん玉をひん剥いて驚いている。

「怪物だ・・・怪物が釣れた・・・」

怪物?と怪訝に思い、彼の持つ竿の先を見ると、確かにそこには怪物としか思えない奇怪な生物が。

なんというかヘビと魚の中間体のような細長い魚で、1メートルぐらいの長さがあった。一見すると秋刀魚とか細長い魚のようなのだけど、ヘビのようにウネウネと動いている。本当に不気味な程に釣り糸に吊るされながらウネウネと。しかもクチバシのような異様なものがついており、それが常軌を逸するほどに長い。

後で図鑑で調べたことなんだけど、どうやらこの怪物は「ダツ」とかいう魚らしい。細長い体と鋭いクチバシが特徴で、さらにはそのクチバシには何でも噛み切れそうな鋭い牙が付いている。かなり獰猛な魚らしく、実際に海の中で突進してきたダツの鋭いクチバシに刺されて死んだダイバーもいるらしい。

とまあ、とにかく危険度Aクラスの魚らしいのだけど、釣り上げたばかりの僕達はそんなことは知らない。

「新種の生物だ、新種の生物だ」

と小躍りそうな勢いで喜んでいた。そう、たったさっき足を釘で貫通させた友人のことなど忘れて大喜び。頭が悪い子供ってのは三歩ほど歩いたら都合の悪いことは忘れるからな。とにかく大喜び。

「お、おい、はやくそれ取ってみろよ」

針を加え、釣り糸にたらされてクネクネ踊るダツを間近で見たいと僕は胸躍らされた。これがあるから港遊びは楽しすぎる。海はまだ見ぬ未知の領域で僕らを心の底からワクワクさせてくれる。

「え・・・やだよ?気味悪いもん」

確かに、クネクネ踊るダツは気持ち悪い。釣り糸から外すには手で触らなければならないのだが、そんな不気味なものだれだって触りたくない。釣り糸をハサミで切ってそのまま手を触れることなくダツを海に還すこともできたのだけど、ワクワクしすぎている僕にはできない相談だった。

「バカッ、おまっ、それ新種の生物だったらどうするんだよ!早く取れって、お前が発見者で名前とかつくかもしれねえぞ」

まどと至極頭の悪いセリフで釣り上げた彼にダツを取り外すように促がす。こんな港で新種の生物が釣れてたまるか。

でまあ、「新種の生物」という響きがひどく魅力的だったらしく、釣り上げた彼は恐る恐る竿をたぐり寄せ、ウネウネと不気味に蠢くダツを手に取った。その瞬間だった。

ガブッ!

獰猛な生物の鋭利なクチバシ、その中に潜ませたさらに鋭利な牙。クチバシの中に牙があるなんて僕らは思ってもいないもんだから、友人はとにかく無防備にダツに手をかけた。その瞬間にガブリと。

いやね、すげえよ。「いてーーーー!!!!」とか友人が叫んで噛み付いたダツを振りほどこうとブンブンと手を振るんだけど、全然離れねえの。ガッシリと喰いついて離れないって感じない。もう離さないぜ、お前はずっと俺と一緒だっていうダツの気概を感じたもの。

それでまあ、もう噛まれた友人なんか気が狂ったかのようになっちゃって、近くにあったコンクリ辺でガンガンとダツのバディを叩いてるの。狂っちゃった人みたいにガンガンガンと。新種の生物の標本としては生きている方が望ましいんだけど、噛まれた当人としては痛みでどうでもよくなっちゃったんだろうな。僕らはもうその異様な光景を黙って見守るしかなかった。

でまあ、ダツのそのヘビのようなバディもコンクリに打ち付けられてベロベロになっちゃって、やっとこさ息を引き取ったみたいで友人の指から離れたんだけど、もう噛まれた指なんか見れたもんじゃなかった。

血なんかブシュブシュ出てて、指なんか取れそうになってるし、おまけに毒があるのかどうかしらないけど、噛まれた指だけじゃなくて腕全体が痺れてきたとか言うてるし。

「こりゃ、病院行き第二号だな」

とか思っていたら

「何々ー?変な物が釣れたのー?」

とか廃船探検してた弟が小走りにダツ惨劇の現場に近づいてくるの。岸壁沿いのちょっと高くなっている塀の上を器用にピョンピョン飛び跳ねながら近づいてくるの。

「あ、危ないから気をつけろよ」

とか言おうとした瞬間だったね。弟のヤツ、ゴテッとか転んでやがるの。見事に頭から転げて激しくコンクリの壁に頭を打ち付けてたからね。悲劇の連鎖、もう止まらない。

おまけに、岸壁のブロックの上で転んだ弟を助けようとして海に落ちるバカまで出てくるしよ。何かに呪われてるんじゃねえ?ってぐらいにとんでもない状態だった。

大きな釘を足で踏み抜き貫通させて大流血の友人

ダツに噛まれて指が取れそうな友人

そして転んで額を切って大流血の弟

海に落ちて寒い寒いと連呼する友人(もう秋でした)

これだけ悲惨な事件が一気に起こったのに、皆を港に誘った責任を感じるでもなく、悲劇に涙するわけでもなく、「こんなハプニングがあるから港遊びって楽しいよなー、また来よう」とか喜んでいた僕は間違いなく冷たい男だった。友人も弟のことすら思いやれずに我が楽しさのみを追求する冷徹な男。

それでもまあ、俺が冷たい男でもなんでも、さっき凍える海に落ちた友人のほうが今現在は間違いなく冷たいよな。あんなに寒がってるもの。

などとくだらないジョークまで思い浮かんでクックックッと不気味に笑う僕は、やはり間違いなく冷たい男だった。

幼い頃憧れた海の男。冷たいといわれる海の男。僕にとってカッコイイ男の代名詞、でももう今の変貌したこの街では見ることのできなくなった海の男。自分の冷たさを自覚することで、その海の男に少し近づけたような気がした。激しく見当違いだけど。

あの頃、この港で嗅いでいた潮の香り。今はもうそんな臭いはしないはずなのに少しだけ僕の鼻に届いたような気がした。

冷たい海の男、それは僕にとって永遠のクールガイなんだ。


3/19 熊本

熊本出張から帰ってまいりました。

有り得ないぐらいヘロヘロになりながらも出張の日程をこなし、さらには帰りの道中の福岡では、あるサイトのオフ会に立ち寄って楽しんできました。

まあオフ会の話は置いておきまして出張の方なのですが、今回の出張は「僕、上司、B子、ヘルスズキ」の4人という有り得ないメンバー。なんですか、このメンバーは。Numeri読者にはたまらないゴールドメンバーではないですか。ドリームチームではないですか。

というわけで、このアメリカバスケットボールのドリームチームのようなメンバーによる熊本出張レポートをコミカルに描きたいところですが、残念ながら今の僕には書き上げるだけの気力がございません。

精神的にも肉体的にも疲労しており、ちょっと日記を書けそうにはないようですので、本当に申し訳ないですが本日も日記をお休みさせていただきます。

明日には復帰し、バリバリと書くと思いますので、どうか暖かい目で見守ってやってください。ホント、ごめんなさい、ごめんなさい。

でまあ、こんな言い訳がましい日記だけではさすがに閲覧者様に申し訳ないですので、何か失われし過去ログから日記をピックアップして置いておきます。

今はもう読むことができないほど古の日記ですので、初めて見る方は楽しみ、見たことある人は懐かしい気持ちで読んでやってください。文体が違うのは気にしない方がいいです。

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過去ログサルベージ(2002年1月第一回リアルタイム更新より)

日本人って、どうして外国人の人に対して弱いのかな?一般的に見て やっぱどうしても島国ってのは異国の人に触れる機会が少ないと思う。ヨーロッパとかみたいに、県境みたいな感覚で国境があるようなところは、やっぱ外国の人に馴れてると思うよ。

たとえばさ、僕はけっこう田舎町の出身なんだけど、イナカモンなわけだから、外国人を見る機会が少ないわけよ。もう外国人が歩いてるっていうだけで、注目の的だもん。しかも、

「外国の人=みんな英語を喋る」

と思ってるからね。そんな思想自体がありえない。

で、そういった外国人に不慣れな民族性を踏まえた上で、数少ない異国の人と交流したお話です。

中学生の時の夏休み。 夏休みの中盤ぐらいになると、みんな家族旅行に行ったりバカンスに行ったりして遊ぶ友達がいなくなる。暇になる時期だ。あまりにも暇だった僕とS君は、たった二人でエロ本狩りにでかけた。

エロ本狩りとは近所の海浜公園に捨てられているエロ本を拾いに行く紳士的な遊びである。

海浜公園をぐるっと一周すると大体は5、6冊はエロ本が拾えるもんだった。 この日も収穫は上々、数冊のエロ本が見つかる。Sなんかホクホク顔だ。

ここで、もう一度、海浜公園について説明したい。この公園は僕の思い出に数多く登場するであろうから大切だ。ここは、相当大きな公園で、港沿いに1キロほど広がっている。

噴水エリア、テニスコートエリア、遊戯エリア、日本庭園エリアなど多くのエリアに別れており、なかでも日本庭園エリアは過去にも数多くエロ本がみつかった実績のある穴場的スポットだ。

その日も、期待に胸を弾ませて、日本庭園エリアに突入。エロ本探しを始めたのだ。日本庭園エリアは相当広く、緑が茂り、川あり山あり滝ありの素晴らしい庭園になっている。ここでかくれんぼとかすると非常に楽しいのだ。

そして、その中央はちょっとした広場になっているのだ。広場はとってもエロ本獲得率が高く、エロ本ハンティング仲間の間では、「エロ本広場」と呼ばれていた。

エロ本探しも、一通り終わると、 この日一日の集大成としてエロ本広場を探索しよう、ということになった。ここからエロ本広場にいくには、ちょっとした丘を越えるのが近道だ。

僕とSは丘を駆け上る。いよいよ頂上だ、ここを越えればエロ本広場。 今日はエロ本何冊落ちてるかな? いっぱい落ちてたらどうしよう、もって帰れないぞ。期待と不安で胸が高鳴る。そして頂上に到着。そこにはとんでもない光景が。

なんと!エロ本広場にワラワラと外国人が

5人や6人じゃない、30人はいる。しかも全員、上半身裸で。

彼らは、裸で歌いながら踊り狂ってるのだ。今思うとドイツ語を喋ってた気がする。ドイツ語で陽気に歌いながら裸で踊り狂うマッチョな外国人集団。やけに胸毛がモシャモシャで恐ろしかったのを今でも憶えている。

鬼や、あれは鬼や

伝承なんかで言われる鬼といわれるものは、ほとんどが外国人を見間違えた物であることが多い。

外国人なんかほとんど見たことがない昔の日本人が、色白ゆえに真っ赤に日焼けし、胸毛ムシャムシャの外国人を見て鬼と思ってしまうのは仕方がないことだ。体も大きいし目の色も違うしな。

でまあ、その当時の僕達も「鬼や、エロ本広場に鬼がおる」

などと、状況を理解できず、丘の上でボーッとたたずんでいた。

どれだけの時間がたっただろうか、踊り狂ってたうちの一人が、ボーッとたたずむ僕達を発見したのだ。そして、なにやら僕達に向かって言葉を発している。

彼らの言語は理解できないが、なにやら問いかけてるような感じだった。

僕は訳も分からず、「No!」と答えた。

その瞬間、全員の踊りと歌声が止った。ピタリと。

そして、一斉に僕達二人に向かって襲い掛かってきた。ものすごい勢いで

俺達は言い知れぬ恐怖を感じて逃げた。丘を下ったというよりは、転げ落ちたと言ったほうがいいだろう。とにかく逃げた。

逃げても逃げても彼らは追ってくる。Sなんか走りながら泣いてる始末だ。 彼らは海浜公園を出るまで僕達を追ってきた。訳の分からぬ筋肉隆々の上半身裸の異人さん30人に追いかけられるのはかなりの恐怖でした。

結局逃げ切ったけど、あれはなんだったんだろう・・・。という漠然とした疑問だけが残りましたとさ。

この出来事から学んだことは、訳も分からずに「NO」とか「Yes]とか言っちゃイカンということ。みんなも気を付けようね。

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うわー、ありえねーほど酷い文章だな。過去の文章とか恥ずかしくて見てらんない。というわけで、また明日ー。


3/17 携帯電話

またもや携帯電話が壊れました。

もうね、嫌になっちゃう。なんでこうも僕が持つ携帯電話ってのはポンポコ壊れるかな。有り得ないぐらい壊れちゃう。もしくは無くしちゃう。

「迷惑メールにまでお金払ってるなんて、有り得ない」って携帯電話のCMがあるけど、僕の場合は「すぐに携帯電話が壊れるとか、有り得ない」とかでCMに出られそうだからね。しつこいようだけど、ホント、ありえない。

まあちょっと、どれだけ僕が頻繁に携帯電話を壊して失っているか列挙してみようかと思う。あんまり過去に遡ってもアレなんで、極めて最近のだけ。

まず、一番初めにDoCoMoのiモードってヤツが出回り始めて、携帯でもメールができるんですと大騒ぎしてた頃、確か2000年だったと思うんだけど、その頃に一目散に飛びついてiモードの携帯電話を買ったわけだ。D501iだったかな。

で、この時買ったD501iの時点で既に僕の携帯電話は11代目だったんだけど、コイツはすごく長生きしてくれた。なんと6ヵ月も生きながらえていたからね。多分、iモードとか珍しい時期だったから僕も大切に扱っていたんだと思う。

でまあ、コイツは後ろのズボンポケットに入れてウンコしている時に、ズボン!とズボンから飛び出して僕のウンコに向かってダイブしていきやがった。その時点では壊れているわけでもなんでもなくて、ただウンコが付いているだけだったんだけど、さすがに使いたくないじゃない。ウンコまみれの携帯電話とか使いたくないじゃない。

それでまあ、壊れるなってのは分かってたんだけど、洗剤つけてゴシゴシと水洗いしたら息を引き取りました。それでも臭いが落ちなかったしね。

で、次に購入したのが機種名は忘れたけど、なんかiモードを使えるヤツにしたわけだ。これが第十二代めの携帯電話。コイツは三ヶ月で天に召されました。理由は忘れたけど。

13代目は確かソニー製のクルクルピッピッとかいうクルクルパーみたいな宣伝文句で売っていたソニー製のヤツを買ったんだ。

で、コイツは買ったその日に、居酒屋で友人と酒を飲みながら自慢してたら、バシャッとかレモンチューハイがこぼれちゃってな、机の上に置いていた買ったばかりの携帯に向かってレモンチュウハイがドボドボと。

でまあ、当然だけど二度と電源が入ることはなく、お陀仏。

なにくそとくじけることなく同じ機種を購入して、これが14代目。コイツが三日ばかり使ったところで意味不明に電源が入らなくなってな。初期不良と言うことで全く同じ機種に交換。それが15代目。

15代目は1ヶ月ぐらい生きてたんだけど、新幹線に乗って東京に行った時に新幹線の中に置き忘れたらしく、そのまま二度と見つかることなく行方不明。

さすがにこの辺りぐらいになると僕も非常に反省してきて、16代目はすごく安い最低限の機能ぐらいしか使えない機種を購入。これなら壊しても失くしても安いから大丈夫だぞと安心していた。

その16代目も6ヶ月という長寿を全うして天に召されました。

17代目は初の折りたたみ携帯だったと思う。今や主流となりつつある折りたたみタイプのさきがけみたいなヤツを購入。わーい折りたたみだーとか喜んでいたらバキッと逆に折りたたんでしまい、二度と画面が写ることはなく荼毘に付されました。

面倒なので列挙すると、

18代目はポケットに入れたまま洗濯して死亡

19代目は天寿を全う6ヶ月。

20代目はなくした。

21代目は落としすぎて表面がヘベレケで、ボタンとかも効かなくなったので交換。

22代目は夏辺りの日記にも書いたけどバーベキューの火の中に落としてしまって表面がヘベレケ。それでも使用し続けた。

で、23代目は早苗にプレゼントするつもりで購入して叩き返されたピンク色の携帯。しかも初のカメラつき。すげえすげえと喜んでいたら、交換した次の日にカラオケ屋で激しく地面に叩きつけてしまい死亡。

24代目が初期不良ということで無料で交換してもらった23代目と同じ機種。

とまあ、素晴らしい携帯経歴を僕は有しているわけなんです。まるで「俺の腕の中を駆け抜けていった歴代の女たち」と言わんばかりの勢いで次々と変わる携帯電話たち。俺は携帯プレイボーイか。

でまあ、昨年の年末から大切にその24代目の携帯を使っていたのですが、昨晩、その携帯すらも息を引き取りました。三ヶ月ほどの命を全うし、天へと召されていったのです。

事の顛末はこうでした。

昨晩は週末ということもあり、僕は部屋で一人ビデオを見ていたのです。エロビデオとかではなくて、普通の洋画なんかを気取って見ていたのですよ。

その洋画のワンシーンに、小洒落たバーで主人公と女性がカウンターに座って酒を飲むシーンがあったのですよ。すげえオシャレなシーンで、頭の弱い女の子ならウットリとかしちゃいそうな場面。

そこでですね、バーのバーテンがカクテルを作るとか言ってカシャカシャとシェイカーを振っていたのですよ。僕はあのシェイカーってヤツは、中に何個も人形が入ってる民芸品にしか見えなくて好きではないのですが、あの小刻みに振る姿ってのはむちゃくちゃカッコイイではないですか。

ちょっと斜めにかめて、シャカシャカシャカシャカと、ちょっと釈迦みたいに悟りを開いたような渋い顔してシャカシャカと。もう惚れるほどカッコイイちゅーねん。

で、当然、観ている映画の中にカッコイイシーンとかあったら触発されるではないですか、トランス状態になって真似したくなるではないですか。

ウチのオヤジなんかジャッキーチェンとかのカンフー映画を観てると、触発されてCMの度に「ハイッハイッホー!」とか襲い掛かってきて厄介でした。ちょうどそれと同じように僕もバーテンに触発されてしまったのですよ。

でまあ、手元にあった携帯電話を、第24代目の携帯電話を握り締めて上下にシャカシャカとやり始めてたのですよ。

で、やったらやったで結構いけてる。なんか俺のバーテン姿、様になってない?って激しい勘違いをし始めて気分が良くなり、さらにシェイクのビートが増すんです。親の仇かってほどにシャカシャカと。もうとまらない。

するとまあ、もう先の展開が読めすぎるほどに読めてしまうんですけど、スポッと手の中から携帯電話が抜け出して飛んでいくのですよ。激しいシェイクの勢いをそのまま受け継いでマイ携帯が元気に宙を舞っていくんです。第24代目の携帯が。

ガシュ!

とか壁に激しくヒットし、バサリと畳の上に落ちる第24代目の携帯。「またやっちまったー!」と後悔の念に駆られながら携帯を手に取ってみる。

「通話」ボタンを押すとスピーカーからは「ツー」という音。よかった、電話としては使えるようだ。壊れてないみたいで良かった良かった、と形態の画面を見ると

液晶が映ってないんです

いや、正確に言うと映ってはいるんだけど中途半端に部分部分しか映ってないの。分かりやすく図で説明すると

 

 

 

映ってるゾーン

 

 

映ってるゾーン2

 

 

こんな風に画面がストライプ状になってるの。映ってない部分は完全に真っ白。たぶん、壁にヒットした衝撃で一部分の液晶がぶっ壊れたのだと思う。

でもまあ、こんな状態でも普通に使えるんですよ。普通にメールとかも読み出せるし、メニュー画面にもなる。カーソルとかも動かせるしね。でもまあ、肝心の部分が見えないようになっているので使いづらいだけ。

でまあ、本日、これをDoCoMoショップに持って行って修理してもらおうとしたのですけど、悪いことに壊れる前に僕は待ち受け画面をオッパイ出したエロスなお姉さんの画像に変えていたのですよ。

 

そんなエロスな待ち受け画面で、「携帯壊れちゃって」とかDoCoMoのお姉さんに見せるわけにはいかないではないですか。そんな間接的なセクハラみたいなこと、興味あるけどできないではないですか。

だから待ち受け画面を変更して修理に出そうと思ったのだけど、肝心の部分が画面に移らないものだから、設定の変更とかできないのな。メニュー画面とか出してみても映るの「時計設定」とか関係ない部分ばかり。どこに設定メニューがあるかあるか分からないから変えられないのよ。

しかも悪いことに、待ち受け画面も一部しか表示されないのに、ピンポイントでオッパイとアンダーヘアの部分だからね。こんなセクシャルなチラリズム的画面を出したまま「壊れちゃってデヘヘ」とかDoCoMoのお姉さん言おうものなら、ワザとやってるのか?とか勘ぐられて警察呼ばれます。

でも、そんなこと言って修理に出さないのも困ります。こんな中途半端な画面のままではメールもできませんし、電話がかかってきても誰からかすらも表示されないですからね。

だから意を決して行ってきましたよ。エロスな画像がピンポイントで表示されている携帯電話を携えてDoCoMoショップに行ってまいりました。それで、何人かいるDoCoMoお姉さんの中でも一番かわいくてウブそうなお姉さんに向かってですね。

「これ、こわれちゃったんですけど」

「ほら、一部分しか表示されない」

「いやー、朝起きたら映ってなかったんです」(大嘘)

「ほらほら、オッパイと毛しか映ってないでしょ」

とか、半ば興奮気味に話してきました。ちょっとエレクトさせながら話していた。

僕は、自分で壁に打ち付けて壊したのですから、高い金を出して買いなおしをすることぐらい当然だろうと覚悟していたのですが、予想に反してウブそうなお姉さんの回答は

「初期不良のようですね、無料で新品の同機種に変更させていただきます、申し訳ございませんでした」

とのこと。

多分、衝撃を与えて壊したことぐらいお見通しなんでしょうが、あまりにも僕がショップで「オッパイしか見えない」「ヌードが中途半端」「こういうのは顔も一緒に映らないと意味ないでしょ」とか変態トークをかましてたもんですから、「ウゼェ、どうせ安い機種だし、とっとと交換して帰らせるしかねえ」とか思われたに違いありません。何事も言ってみるもんだ。

というわけで、僕の新しい25代目の携帯は23,24代目と同機種同色のサーモンピンク色のカメラ付き携帯となりました。僕のような野武士がまたピンク色の携帯かよと思うのですが、やはり新品なのは嬉しいものです。

標準で3ヶ月、酷い時は1ヶ月で壊れては姿を消していく僕の携帯。その度にメーカーやら色やら機能、操作方法までドンドンとめまぐるしく変化し、形態を変えていく。

きっと、僕にとっては携帯電話とは「携帯電話」ではなく、「形態電話」なのかもな、と諸行無常の儚さを感じながらDoCoMoショップを後にしました。

新品交換によって電話帳などのデータは新機種に移してもらったのですが、画像データまでは移せなかったらしく、集めに集めたエロ画像コレクションが綺麗さっぱりに消えていて愕然とするのはもうちょっと後の話です。


3/16 ホワイトデー

そういえば、3月14日はホワイトデーでございました。
このホワイトデーというのは大変厄介な代物でございまして、バレンタインデーに貰ったチンゲでチンケなチョコの見返りとして、婦女子に何か品物を贈り返さねばならないようです。

僕はそれこそ非モテでオタッキーで、いつもちょっとオシッコっぽい臭いがすると評判の男ですから、それはそれは暗黒の青春時代でホワイトデートとは全く無縁の生活を過ごしてきました。

バレンタインデーなんてチョコなんか殆ど貰ったことないですし、たまに貰ったとしてもお返ししないから更に貰えない、という暗黒の悪循環。バレンタインチョコのデフレスパイラルといった感じでした。

いやね、バレンタインにチョコ貰っておきながらホワイトデーにお返ししないなんて最悪だよね。間違いなくpatoは抱かれたくない男ナンバーワンだわ。とか世の女性が噂する気持ちも分かります。ええ、分かりますとも。

でもね、僕にだってちゃんとした理由があるのですよ。ホワイトデーにお返ししないに足る正当な理由があるのです。

ほら、ホワイトデーのお菓子とか買うのって恥ずかしいじゃないですか。なんていうか、ああいったホワイトデー商品をどのツラ下げて買ったら良いのかわからんのですよ。

そりゃね、女性に贈るものですから、ファンシーでキューティクルな包みに入ったお菓子とかがホワイトデーの主流商品として売られる気持ちも分かります。いかに女性の心を鷲掴みにするかがポイントですから、そりゃあカワイイ商品ばかりになるのが常と言うものです。

でもね、そんな商品を僕のような野武士が買ってたら変じゃないですか。キティちゃんだかキチガイだか知りませんが、そんなファンシーな商品買えるわけないだろ。エロ本買うより恥ずかしいわ。

しかも買うときなんてまだマシな方なんですよ。いくら恥ずかしい恥ずかしい言ってもレジの人なんて所詮は赤の他人ですし、周りにいる人もまず間違いなく他人なわけですから恥ずかしさなんて一瞬の通り雨ですから。

問題は渡す時ですよ。曲がりなりにもチョコをくれた女性に返すわけですから、かなり人間関係的にも僕と関わりがある人物に渡すわけですよ。そんな勝手知ったる間柄の女性にファンシーなお菓子。なんか「LOVE」とかカワイイフォントで書かれたパッケージのお菓子。

そりゃ、貰った女性も大爆笑だっちゅーねん。僕のような野武士がファンシーお菓子ですよ。どんなツラして買ったんだろう、あの不細工ヤロウがこんなファンシーなお菓子を・・・って想いを馳せて大爆笑確実。

だからね、そんな辱めを受けるくらいなら僕はホワイトデーのお返しをしない。次の年からチョコを貰えなくなろうとも僕は返さない。絶対に返さない。それが僕のホワイトデーにおけるポリシーなのです。

それでまあ、今年のバレンタインデーなんですけど、今年はバレンタインデーから数日遅れたものの彼女から手作りの商品を頂きました。何故か職場の皆に配っていたB子からは僕だけ貰えず終い。

そうなってくるとB子はどうでもいいとして、彼女にはやはりお返しをしないとマズイではないですか。いくら「お返しをしない」ってポリシーでも彼女にお返しをしないってのは恋に仕事にハッスルする社会人としてどうかと思うのです。いや、人としてどうかと思うのです。

ですから、何かお返ししようとは思うのですよ。バレンタインに数日遅れで貰ったものですから、こちらも数日遅れのホワイトデーにしようかと思うのですが、いかんせん何を贈ったら良いのかわからないのです。ファンシーなお菓子なんて死んでも買えませんし、他の商品も何を贈ってよいのか皆目検討もつきません。

でまあ、色々考えた結果、コアな古エロ本屋でピンクローターを購入してプレゼントすることにしました。ホワイトデーにピンクローター、こりゃもうピンクデーだなと言わんばかりのウィットに富んだ贈り物だと思います。

でまあ、彼女の方はピンクローターで解決ということで良いのですが、問題はB子です。いや、B子にはバレンタインデーに貰ってないからお返しもクソもないんですけど、なんかアイツ、勘違いしてやがるんですよ。

時は3月14日ホワイトデー。

いつもと変わらぬ調子で颯爽と職場に出勤すると、B子のヤツが得意気な顔してオフィス内を闊歩してやがりました。

B子のヤツはバレンタインデーに僕を除く同僚全員にチョコを配っていましたから、同僚全員から物凄い数のお返しが貰えると得意満面でした。

現に頭の弱い同僚どもは、朝も早くからヘコヘコとB子にファンシーなお菓子を進呈する体たらくぶり。お前らのようなメガネオタクがどのツラ下げてそんなファンシーすぎるほどにファンシーなお菓子を買ったんだと訪ねたくなるほどでした。

しかも上司(50歳)すらも、なにやらデパートで買ったような高級洋菓子をデレデレとB子に捧げてました。もう見てらんない。

でまあ、僕はB子に貰ってはおりませんから、返す必要もないぞとその光景をマジマジと見つめていたのです。するとなんだか、続々とB子にお菓子を渡しにくる同僚どもが、変な土偶かなんかにお供え物をする原住民のように見えてきたのです。雨乞いかなんかをする原住民(同僚)が、土偶(B子)に一生懸命にお供え物を。

でまあ、B子へのお菓子奉納の儀式も終わりまして、いつもどおりのワーキングタイムの時間がやってまいりました。

ちょうどその日は、僕は別室にこもって作業をすることになっており、なんだか狭苦しい場所で黙々と作業をしていたのです。

すると、

コンコン

なにやらドアをノックする音がするのです。

なんだろう?と思って、作業を一時中断してドアを開けると、そこにはB子の姿が。

いやな、ドアを開けた瞬間にB子みたいなゴーレムが立ってると驚きで死にそうになったり、危うく「チェンジ」とか言いそうになるんだけグッと堪えます。

「何か用?」

とB子に尋ねます。するとB子のヤロウ、とんでもないこと言い出すんですよ。

「わたし、patoさんにホワイトデーのお返し貰ってないんですけど」

とか言うではないですか。いやね、この発言について根本的におかしい点が二つある。

まず、普通はそんなことは言わない。社会生活を営み、人間関係を重んじるなら、貰ってないだとか声を大にして言うものではない。ましてや本人に直接言うとか考えられない。あまりに直球過ぎる。

そして二つ目。お返し云々の前に、僕はバレンタインにB子から貰っていない。貰ってないのに返せとはどういった了見か。

でまあ、あまりにも突拍子のないB子のカミングアウトに驚きを隠せずに狼狽していると

「みなさんは返してくれたのにpatoさんだけですよ」

とか言うではないですか。もうね、そこまで言われちゃ僕もあんまりそういったことは言いたくないのですけど言うしかないじゃないですか。

「いや・・・だってB子さんに貰ってないし・・・」

とか言うと、B子のヤツ修羅のような表情に豹変して怒り出すんですよ

「ちゃんた渡しました!なんで嘘つくんですか!」

いやね、「渡しました」とか断言されても、貰ってないんだからしょうがない。

「いや、マジで貰ってないよ」

とか僕も精一杯反論するんですけど、

「ちゃんと人数分買って配りましたもの、あげてないとかあり得ません。ちゃんとゴディバのチョコを渡しました」

とかキッパリと言い切るんですよ。ゴディバだかゴルバチョフだか知りませんが、僕は絶対に貰ってない。

「ちゃんと渡したんだからお返しくださいね」

とか勝ち誇った顔で言いやがるもんだから、僕も段々とご立腹してきてまいりました。気分的には、そこにある消火器の栓を抜いてB子に向かって発射しながら、「がははははは、これがお返しじゃー」とかやって、白い粉だらけになったB子に向かって「まさにホワイトデーやな」とか言ってやりたい気分。

でもまあ、僕はヘタレでチキンですから、そんなことはできるはずもなく、半泣きになりながら

「そういえば貰ったような気がする。ごめんね、今度の休日にお返しを買ってくるね。もうちょっと待ってね」

とか言ってました。貰ってないのは確かなのにB子の迫力に負けて貰ったと言ってしまう自分。もう自分で自分が情けなくなってくる。なんだ、このヘタレっぷりは。ヘタレのホームラン王じゃねえか。

いやいや、今でこそ不景気でそうではないですが、バブルの頃なんかバレンタインにチョロッとチョコを貰ったお返しが何万円もするブランド物だったりするってのが常識だったではないですか。僕はそれを聞いて「ひどい世の中だな、チョコのお返しがブランド物かよ。男性は大変だな」と思ったものですが、貰っていないのにお返しを要求されるってのはそれ以上に酷いことだなと思うのです。

とにかく、このままではB子が「お返しよこせー!ホワイトホワイト!」とか暴れ狂いそうな勢いですので、貰ってもいないのに何か買ってお返ししようかと思います。

ただ、やっぱりファンシーなお菓子とかは野武士である僕には購入できませんので、B子にもピンクローターを買ってプレゼントしようかと思います。

3月14日はホワイトデーではなくピンクデー。そう開き直ってプレゼントしてやろうかと思います。


3/15 プロジェクト山下

僕がよく行く近所のコンビニ、セブンイレムン。本当に僕はこのコンビニに洒落にならないぐらい行っております。朝出勤前に一発行き、夜中の帰宅時にも一発行く。そいでもって深夜にも行きますからね。日に三回ですよ、三回。中学生のオナニーかって勢いなんですわ。

それでですね、そのコンビニに山下さんという美人な店員さんがいるんです。もうね、これが有り得ないくらい美人なの。なんていうか、アイドルとか女優さんといった感じの明るい美人ではなくて、少々暗い感じなんですけど、やっぱり美人なんですよ。

しかも、山下さんはかなりレアな店員さんでして、僕の調査によると月曜日と木曜日と夜のシフトしか入ってないんです。それだけレアな存在ですから、会えた日なんかは凄く嬉しくなっちゃうんです。

でまあ、そのレア美人店員こと山下さんなんですが、どれほど美人かと言うと、なんというかクールな美人。セクシャルなクール美人。ボンテージなファッションに身を包んで、男の股間などをハイヒールで踏みつけてですね、「あら、汚いチンポを固くさせて・・・興奮してるのね?どうして欲しいか言って御覧なさい」とかやるのが似合いそうな美人なんですよ。

しかも何が萌えるって、今でこそ山下さんは茶髪でウェービーな今風の髪型で、お化粧なんかもいい女っぽく、都会の女って感じなんですよ。でもね、名札についている写真がモロに田舎娘。黒髪におかっぱで、化粧なんかもしてなくて純真そうな感じ。マジで田畑とか耕してそうな写真なんですよ。あの山下さんが。

今はもう豹柄とかの男を知り尽くしたような下着をはいていてもおかしくない、意味不明に股間部分に穴が開いた下着とか開いていてもおかしくないんですけど、その名札の写真の時代は熊のぷーさんの下着とかはいてそうなんです。

もうね、そのギャップがたまらない。今は都会派ぶってクールでセクシャルないい女気取ってるけど、昔は純真そうで何も汚れを知らない少女だった。少女から女への脱皮。もうね、オジサン、こういうの大好き。こういうギャップ大好き。たまらんですバイ。

とまあ、コンビニに行って山下さんを見て勃起するのは勿論なんですが、名札も見て今昔のギャップを感じてさらに股間をエレクトさせること山の如しなわけなんです。

でもまあ、名札を見て興奮を覚えるだけではなくて、実は別の感情も浮かんでくるんです。山下さんの名札の純朴そうな写真は、ものすごい満面の笑みで写ってるんですよ。この世の福を全身で感じてるような、物凄い満面の笑み。

でもね、今の山下さんは全然笑わない。笑うどころか表情一つ変えずにコンビニ業務をこなすからね。

「いらっしゃいませ」

「お弁当温めますか」

「ありがとうございました」

とかいうセリフをアンドロイドのように表情一つ変えず言うわけ。もう鉄仮面って感じ。

多分ね、バイト仲間になんかも

「山下さん、美人なんだけど冷たい感じがするよな」

「そうそう、笑いもしないもんな」

「俺なんか和ませようと洗練されたジョーク言ったら睨まれたぜ」

「こえー」

「やっぱ美人でも無表情ってのは怖いよな」

「そうそう」

なんてコンビニのバックヤードの部分で馬鹿な店員どもが話しているに違いありません。しかもそれを、偶然にも在庫を確認に来た山下さんが入り口の部分で聞いてしまうのです。

それでまあ、山下さんは深く傷つくんですけど、それでもやっぱり表情一つ変えなくて「ふ・・・・」なんて感じでその後も黙々と仕事をこなすんだと思います。なんて可哀想なんだ、山下さん。

本当は山下さんはすごく良い笑顔で笑えるのに、あの名札の笑顔みたいに満面のスマイルで笑えるのに。ただ、昔の純朴さを捨ててカッコイイ女を目指すが為に彼女は笑わなくなってしまった。クールな女を演じるあまり笑わなくなってしまった。なんてもったいないんだろう。

クールでカッコイイ女でありながら、笑う時は天使のような笑顔で満面のスマイル、これこそが最強なのに。いくら今の山下さんのように「いい女」でも、笑わなきゃ何の意味もないのに。もったいない、もったいなすぎるよ。

こういった思いから僕は立ち上がることに決めたのです。そう、失われた山下さんの笑顔を取り戻すべく、山下さんを笑わせることを最終目標として動き出したのです。失われし笑顔をみることに。

プロジェクト山下〜失われた笑顔を求めて〜

まず始めに、山下さんを笑わせると言っても、これがそう簡単なものではない。かなりの難易度であることが予想される。加えて、僕と山下さんの関係は店員と客という希薄な関係であることからさらに難易度は高い。

普通に考えて、山下さんと接触するのはレジにて清算をする時しかないのだから、その時に何か笑いを巻き起こすアクションを起こすしか方法はない。

では、一体どんな方法で彼女を笑わせればいいのか。

これまでもずっと述べてきたとおり、彼女は筋金入りの鉄仮面無表情女だ。普通の女性なら僕のウィットに富んだフレンチジョークでも聞かせれば爆笑の渦であることは間違いないのだが、山下さんの場合はそれも望めそうにない。

もっとハイパボリックで、予想だにしないアクションをレジにて見せつけるしかない。もっと気の利いたアクションを。

でね、思うわけなんですよ。客と店員の距離が最も近くなるのが「温め」という儀式の時。この時だけはどんな客と店員であっても「温めますか?」「はい」っていう会話をするからね。この部分を有効に利用してアクションを起こすしかない。

例えば、弁当を山下さんが受け持っているレジまで持っていく。そうすると当然「温めますか」って聞かれるわな。そこで「君の人肌で」と言うのはどうだろうか。

・・・ダメだ。それじゃあエロオヤジだ。笑うどころか軽蔑されてしまう。

では、こういうのはどうだろうか。
乾電池か蛍光灯なんかを購入するためにレジまで持っていく。それでもって山下さんがピッピッとバーコードを読み取ってる際に

「温めでお願いします」

と言うのはどうだろうか。

ダメだ。アホすぎる。これでは山下さんはゼッタイに笑わない。それどころか普通に表情一つ変えずに乾電池でも温めそうだ。

もっとインパクトのあるアクションで山下さんを笑いに誘いたい。何か良い方法はないものだろうか・・・。

そうだ!今現在僕の前歯がないことを利用しよう。前歯が全くないコミカルな僕の姿を利用して山下さんを爆笑の渦に誘おう。

そう、僕は今、前歯が全くありません。歯医者に行って転んで前歯を二本失い、さらには他の2本も曲がっただかバランスが悪いだかの理由で全部削られました。当然、その4本分のスペースにはニセモノの歯がバリッと入ることになっているんだけど、今は仮の固形物みたいなのが歯っぽく詰めてあるだけなんです。

一見するとちゃんと歯があるように見えるんですけど、それはニセモノですからパカッと取れるんですよ。取ったら川田みたいに前歯が四本全くない状態になるんです。この姿は自分で見ても笑っちゃうからね、きっと山下さんだって笑うに違いない。取ったら取ったでまた歯医者でつけてもらわないといけなくて面倒なんだけど、山下さんの笑いのためなら仕方がない、取ってやろうじゃねえか。

作戦はこうです。まず弁当を持って山下さんのレジへと向かいます。そいでもって「温めますか」という山下さんの事務的な問いに対し、「はい、温めで」と答える。それでもって温めを待つ間に話しかけるのです。

「温めを待つ間、僕とお話しましょうよ」

ここで山下さんは怪訝な目つきで僕を見るはずです。何?この人?キチガイなのかしら?といった表情で僕の顔をマジマジと見るはずです。

そこですかさずパカッと前歯四本の仮歯を外して

「はい、歯なし」

と言う。ニッと笑って前歯のないスペースをまざまざと見せつける。

コレだよ、コレ、コレ!もうコレで山下さん爆笑確定。悪いけど爆笑確定。鉄板だよ。もうなんというかインパクトがありながら知性を感じるアクションだよな。「話」と「歯なし」だなんて。明らかにインパク知だよ、インパク知。

これでもう山下さんもレジにてゲラゲラ笑う、それでもって次第に僕と打ち解けるはずです。

「お客さん、面白いですね」

「いやあ、転んで前歯なくなっちゃって」

「そういえば、いつもお弁当ですよね」

「え?憶えてるんですか?僕のこと?まいったなあ」

「心配してたんですよぅ。いつもコンビニのお弁当で栄養偏っちゃうんじゃないかなって。ま、店員の私が言うのも変な話なんですけど」

「確かに変な話だ。そういでもって歯なし」(ニッと笑う)

ここでまた山下さん大爆笑。

「なんなら今度、私がご飯作りに行きましょうか?」

「いやー、お願いしちゃおうかな」

そいでもって僕のアパートまで料理を作りに来る山下さん。

山下さんの作った少し味の濃い肉じゃがを食いながら

「いや、おいしいっすよ」

「ホント?よかったあ」

笑顔を取り戻した彼女は満面の笑みで笑うのだった。

次第に二人の雰囲気はムーディーになり、お互いを意識するかのように無言になる。そして山下さんは急に真剣な顔つきになり切り出す

「実は前から・・・アナタのこと・・・」

「ちょっと待った!それ以上はダメだ、言っちゃダメだ」

「え・・・?どうして?」

「僕には彼女がいる。前に一緒に君のコンビニに買い物に行ったこともある。君も見ただろ?」

「そうだよね・・・彼女いたんだよね・・・あれはショックだったなぁ」

「だから君とは付き合えない・・・でも・・・」

「でも・・・?」

「セックスフレンドならいいよ」

「うれしい!」

こういった展開が容易に想像できます。相当長い妄想でしたが、山下さんさえ笑わせればこんな展開になることは間違いありません。よーし、やったるぞー。「プロジェクト山下」やったるぞー。

と意気込んで弁当を手に山下さんのレジに並びました。

並びながらも緊張で胸はドキドキ。ドキがムネムネ。歯を外すタイミングが大切だ。神の如きタイミングで外さなければ、クリティカルな笑いは手にできない。タイミングが大切だ、大切だ。と繰り返し「プロジェクト山下」の手順を心の中で確認。

そしてついにいよいよ僕の順番が。

颯爽とレジに弁当を置き山下さんを見つめる。山下さんはピッとバーコードを読み取った後に、いつもと同じ調子で切り出す。

「温めますか」

その問いへの答えはもちろん「はい」。それを受けて山下さんは容器にテープで貼り付けられていたマヨネーズをそそくさと取り去り弁当を電子レンジへと押し込める。

さあここで切り出せ、待ってる間僕とお話しましょうと切り出すんだ。切り出しさえすればセックスフレンドが待っている。そう待ってるんだ(既に目的が変わってます)。言え、言ってしまえ。

勇気を振り絞って僕は口を開いた。

「温めを待ってる間、僕と・・・・「お待ちのお客様ー、こちらにどうぞー」

いやね、全く無視。聞いてすらもらえない。最後まで話を聞いてすらもらえない。どうやら、山下さんにとって僕は虫けらより希薄な存在で、話しかけることすら許されないようです。

話しかけられないんじゃ歯なしネタも見せられないよな・・・

プロジェクト山下の失敗に失意のどん底になりながら、敗残兵のように帰ろうとフラフラと店の出口へと向かうと、後ろから山下さんの声が

「お客様ー!お弁当忘れてます!」

そういって小走りに走り寄って弁当を届ける山下さんは、弁当を温めてもらいながらそれを忘れて帰ろうとする僕をあざ笑うかのように満面の笑みだった。そう、名札の写真のように満面の笑みだった。

当初の目的どおり、山下さんを笑わせることに成功したのだけど、なんだか嘲笑されて嫌な感じだなと思った。恥ずかしいやら腹立たしいやらで無性に山下がムカついた。山下は死ね、七回死ね。

プロジェクト山下〜失われた笑顔を求めて〜おわり


3/14 白い雲のように

雲って何であんなに不思議なんだろう。なんだか上に乗って遊べそうだよな。トランポリンのようにフワフワと跳ねる雲の上で遊んだり寝転んだりしたらどんなに気持ちいいだろうか。

飛行機に乗りながら、眼下に広がる一面の雲を眺めながらそう思った。雲って本当に不思議だな、本当に上に乗れそうだ。この一面に広がる雲の上でドラえもんやのび太が遊んでいても僕は驚かないよ。そう考えながら東京へと向かう飛行機の中の時間を過ごした。

今日は、上司と二人っきりのランデブー状態で東京出張。いや、東京と言うか川崎に出張なのだけど、この「上司と二人っきり」というのが厄介だ。普段なら出張と言えばフリーダムに好き勝手に振舞えるものなのだが、上司が一緒だと自然と品行方正であることを求められる。

現に、いつもなら広島-東京間の1時間ほどの飛行時間は、お下劣なゴシップ誌などを読んで過ごすのだけど、上司が隣に座っている状態だと読むわけには行かない。読もうものなら「そんな下劣な本ばかり読んでるからオマエは馬鹿なんだ」と手厳しく説教されるのは目に見えている。東京までのフライトの間ずっと説教だけは避けたいものだ。

お下劣な本を読むわけにも行かない、パソコンを取り出してNumeri日記を書くわけにも行かない。そうなると何もすることがないので窓の外ばかりを見つめていた。一面に広がる白い白い雲をずっとずっと見つめていた。雲って不思議だなあと半ば現実逃避をするかのように。

羽田空港に到着し、電車に乗って川崎まで移動する。普段なら好き勝手にあちこち寄り道をしたり、パチンコ屋にいったり、エロ本を立ち読みしたりするのだけど、上司とのランデブー出張ではそうもいかない。

スリップストリームかという勢いで上司の後ろにピッタリとくっついてお供をしなければならない。まさにテールトゥノーズ。

「飯でも食いに行くか」

川崎駅の前で上司が言った。そういえばもう夕食の時間だ。ハッキリ言って嫌な予感がした。だって上司はマズイ食い物屋を見つける天才だから。完全に僕とは味覚が違うから。

でまあ、「この店に入ろう、なんだか美味そうだ」といって入ったラーメン屋は明らかに不味そうな店構え。もちろん出てくるラーメンも予想通りに不味いのだけれども、上司はウマウマと食べている。

気分的には、上司に向かって

とやりたい。

ホント、上司と一緒に出張だなんて、自由はないわ飯は不味いわで最悪だよね。

でも、一つだけ上司と一緒で得する部分がある、それは上司は高級ホテルにしか泊まらないという贅沢なオッサンなので、それに伴って僕も高級なハイソなホテルに泊まれるという事。

今日もバリッと上司と共に高級ホテルに泊まったさ。しかも上司とダブルとかツインの部屋とかなら死ぬほどに嫌なんだけど、バッチリシングルの部屋だったからね。

しかも、君ら貧民どもには分からないと思うけど、高級ホテルのトイレってのはウォシュレットだからね。ウォシュレット。ウンコをした後にプシューとか水が出てきてお尻を綺麗にしてくれるんだよ。もうすごいよね、高級ホテルってのは。

だってウンコをブリッとしたらブシュだよ、ブシュ!ビックリするわ。人類のテクノロジーってのもココまで来たんだなって感心する。もうね、ドキドキでウンコしてウォシュレットを体験してみたもの。

モリモリとウンコをして、「やべ、ウンコですぎた、これじゃあ水が出るところが塞がって洗えないんじゃ」なんて不安に思いながら「洗浄」ボタンを押す。

ブシュ!!!!

最大の圧力で水が噴出。アナルに向かって吹き矢の如き勢いで水の塊が。ホント、ビックリするよ。アナルに向かってブシュだからね、アナル犯されたような気分になる。

しかも、アナルからはボタボタと水が滴ってくるから、結局は紙を使って拭かなきゃいけないしな。よくわかんねーよ、ウォシュレットって。

でまあ、夜のホテルに一人宿泊していてですね、やることがないのですよ。隣の部屋には上司が泊まっているから下手なことはできないですし、夜の街に繰り出すこともできません。

だから、持参したパソコンを取り出して色々と遊んでいたわけなんですよ。フリーセルとかソリティアとかゲームをして遊んだり、松浦亜弥のDVDを見たりと、ホテルでの無為な時間を過ごしたわけです。

で、なんか面白いアプリがあってですね、DVDなんかに入っている動画を、そのままスクリーンセーバーにできるソフトってのがあったのですよ。しばらくパソコンを動かさなかったら勝手に起動してくれるやつね。それにムービーを指定できるようになるソフトってのがあったから、色々と指定して遊んでいた。

いやね、そうなったら勿論やるじゃないですか、DVDに入っている松浦亜弥の「桃色片想い」のプロモーションビデオをスクリーンセーバーにして楽しむじゃないですか。

普通に何もパソコンを触らず起動しっぱなしにしておく。しばらくすると

「さあ!いくよ!」

とかいってあややのムービーが流れるんですよ。フル画面表示で桃色片想いのプロモが。もうね、一人で起動するたびにキャッキャと喜んでアホの子みたいでした。

こうして、川崎の高級ホテルでの夜は更けていったのです。

夜が開け、朝早くに僕と上司はホテルをチェックアウト。そいでもって某企業に向かってタクシーを走らせます。この日は、取引先企業で僕がプレゼンをやることになっていたのです。うん、そのために川崎くんだりまでやってきていたのです。危うく忘れるところだった。

でまあ、相手先の企業に到着し、上司と向こうのお偉いさんなどが歓談します。お偉方どもはワハハハハとか笑うんだけど、何が面白いのか僕には全く分からないといった無為な時間が経過します。

ただ一つの収穫としては、お茶を運んできたお姉さんが異常に可愛かったということです。相変わらずOLの制服は萌える。悶え狂うほどに萌える。あのようなOLと会議室ファックと洒落こみたいものですな、ガハハハハとか一人心の中で笑っておりました。

そしていよいよ僕がプレゼンをする時間がやってきました。

会議室みたいな場所でパソコンを使ってプレゼンです。発表用に用意した資料をパソコンを使って大画面のプロジェクターに映し出しプレゼンです。この日の為に用意したプレゼン用のファイルはCDで持ってきていたので、相手方にCDを渡しセッティングをお願いします。

しかし、ここで大問題発生。相手方のパソコンがシステムエラーとかで全然起動しないのです。

「あれ?あれ?おかしいな?」

などと向こうの若手社員が泣きそうな顔をしながら起動させるのですが、全然ダメ。椅子に座ってプレゼン開始を今や遅しと待っているお偉方の苛々も募ります。

でまあ、本当に向こうの社員が泣きそうになっているので可哀想になって

「あの、僕パソコン持ってますから、それ繋ぎますよ」

といって、カバンからいつものノートパソコンを出します。

それでまあ、それを大画面のプロジェクターに繋いで画面を映し出しました。いつも見ているマイパソコンのデスクトップがデカデカと大画面に。左側に「Numeriファイル」とか書いてあるフォルダがあるけど気にしない。

で、颯爽とプレゼンをしたわけです。もう、プレゼンの鬼、プレゼンの申し子、プレゼンの押尾学といった状態で最高のプレゼンをやってのけた僕。相手企業のお偉いさんも感動してちょっと泣いてました。ウンコ上司のヤロウも「なんて素晴らしいプレゼンなんだ」という表情を隠しきれない様子。お茶運びOLも股間とか濡れてたんじゃないかな、あれは。顔がちょっと火照って「素敵」って感じだった。

それでまあ、素晴らしいプレゼンには素晴らしいディスカッションが付き物。プレゼンが終わったあとも相手企業のお偉いさんや上司、僕を交えて激しく意見交換ですよ。

「ここはくしたほうがいいんじゃない?」

「いやいや、それは違います」

「でも、それだこうなってるから」

「それは一般的にはですね・・・」

とまあ激しく激しく意見交換をしていたわけです。

すると

「さあ!いくよ!」

何処からともなく松浦亜弥の声。

ギャーーーース!スクリーンセーバーの設定を桃色片想いにしたままだった。死ぬ、死ぬる。

いやね、長い間議論しながらパソコンを放置していたから、スクリーンセーバーが起動しちゃったわけなんですわ。それも昨晩に設定したあややのプロモが流れる設定そのままで。さらには、プロジェクターにマイマシン繋がれたまま。

そう、大画面にデカデカと松浦亜弥が桃の缶詰みたいなものと踊り狂っている絵が。ピーチ!とか言ってる場合ではないよ、コレは。

凍りつく相手企業のお偉いさん

凍りつく相手企業の若手社員

凍りつく上司

そして、凍りつく僕。

無限とも思える凍りついた時間の静寂の中、聞こえるのは松浦亜弥の「桃色片想い」だけ。

しかし、その沈黙を破ったのは僕の上司(50歳)だった。

流れ来る「あやや」のプロモを見て上司は

「あややですな、彼女はカワイイ、ガハハハ」

とか言い出すんです。それ受けて相手方のお偉いさん(推定50代後半)も

「そうですな、彼女はいいですなー、ガハハ」

とか言ってやがる。なんですか、このオッサン達は。

いやね、オッサンが松浦亜弥のファンとかでも構わないと思うんだけど、いい歳したオッサンが「あやや」はねぇだろ、「あやや」は。

もうね、僕と相手企業の若手社員は苦笑いするしかなかったね。

50歳の上司が「あやや」か・・・それに比べれば雲の不思議さなんて取るに足らない事柄だよな・・・そう思いながら、帰りの飛行機でまた一面に広がる雲を眺めていました。

3月出張シリーズ第一弾終わり。

次は来週に熊本に行きます。


3/13鬼ごろし

幼い頃、僕は酒びたりの家庭で育った。

親父はアル中一歩手前だし、母親は極度のアル中、爺さんなんて死にかけのくせにガッパンガッパンと酒を飲んでいた。全ての大人が浴びるように、水を飲むかのように酒を飲む、そんな家庭で僕は育った。

近くの空き地で遊んで家に帰ると、まだ夕暮れ時だというのに母親は酒を飲んで寝ている。親父は親父で酒を飲んで大暴れ。爺さんも酔っ払って死にそうになっている。そんな光景が普通に見られる家庭だ。

幼い頃の僕は、父や母が酒を飲むことが大嫌いだった。酒を飲んでしまうと母親も父親もグデングデンになって何もしないし、下手すると食事すら与えられないこともあった。

お腹減ったね、と言いながら弟と真っ暗な、少し温度の低い我が家の台所で食べ物を漁ったりすることも少なくなかった。

どうして大人は酒を飲むんだろう、それがいつも疑問だった。父や母にも辛いことやストレスが溜まることがあり、それを発散させようと酒を飲むことは何となく分かっていた。けれども、あんな風に何もできなくなるぐらいに、酔っ払って僕ら子供に八つ当たりするほどに飲んで何になるんだろうと疑問だった。

僕は子供だから分からない、いつか大人になれば両親のように酒に頼る気持ちも分かるのかな、と思っていたのだけど、大人になった今現在でも全く理解できない。

僕は、あんな風に酒に溺れる両親の姿を見て育ったから、今でも酒が大嫌いだ。付き合いで飲むことはあるけど、普段は一滴たりとも飲まない、飲みたいとも思わない。

僕の両親を知る人物は「あのアル中夫婦の子供が酒を飲まないなんて信じられない」と言ったりするけど、僕にはアル中の子供はアル中だという考えの方が信じられない。

あんなに酒に溺れ、あんなに情けない両親の姿を見ていれば、酒のことが嫌いになって当然だと思う。

まあ、僕の弟は中学校教師という職業からストレスが多いのか、あの日の両親のように酒を飲んでるみたいだけど、僕は一向に飲みたいと思わない。どれもこれも、幼い頃の酒に関する思い出が、忌み嫌うに足るほどの情けない事象であることに起因する。

酒に酔った親父と母親は、いつもいつも部屋の隅で眠っていた。たまに起き出して酒を飲み、また眠る。そんなサイクルを延々と繰り返していた。

しかし、いつまでもいつまでも酒は無尽蔵にあり続けるわけではない。飲んでいればいつかは尽き果て無くなってしまう。そうすると買いに走らねばならないのだけど、親父も母親もグデングデンで酒屋に行くどころではない。

そうなると、当然かどうかは知らないが、幼い僕が買いに走らされることになる。母親に渡された1,000いくらかの金を握り締め、近所の酒屋まで買いに行くのだ。

「鬼ごろし買ってきて」そう言いながら金を渡すヘロヘロの母親を、僕は悲しい気持ちで眺めていた。

鬼ごろしとは酒の銘柄の名前で、確か日本酒か何かだったのだと思うのだけど、1.8リットルぐらいの大きな紙パックでおどろおどろしい鬼の絵が描いてある酒だったと思う。

その鬼ごろしをウチの両親はたいそう気に入っていたらしく、いつも「鬼ごろし買って来い」などと言われたものだった。

いつも買いに行くのは、近所の立ち飲み屋。なにやら色っぽいママが居る酒場で、そこにママ目当ての地元の漁師たちが酒を飲みに集っている、そんな店だった。

店の三分の一が立ち飲みのカウンタが置かれた酒場で、残りは普通の酒屋と駄菓子屋がごっちゃになったような店だった。

いつも店に行くと、カウンタで酒を飲んでいる地元の漁師どもが「なんだ?また父ちゃんの酒を買いに来たのか?」と冷やかすもんだから、なんだか恥ずかしくて嫌だったのを覚えている。

でまあ、その日もいつものように鬼ごろしを買いにその酒屋に行ったのだけど、普段と違って酒屋には誰も居ない。カウンタでくだ巻いている漁師も居なければ、セクシャルな店のママも居ない。

あれれ?どうしたのかな?と思って店の中を探すのだけど、本当に誰も居ない。

とりあえず、鬼ごろしだけは買って帰らないとアル中両親に殺されるので、沢山酒が陳列されている商品の棚から鬼ごろしを取る。いつも買いに来ていたから場所ぐらいは分かるから楽勝だった。

それでもって、黙って持っていくのは悪いと思ったので、一応レジの場所に金だけを置き、店の奥にまで聞こえる大声で

「鬼ごろし、買って行きます。お金ココに置いておきます」

と告げて店を出た。

いつもそうだったのだが、鬼ごろしを買った後の帰り道はいつも過酷なものだった。まだまだチンコに毛も生えてないような幼さだった僕にとって、1.8リットルの酒というのは腕が千切れるほどに重く、それをいくら近所とは言え家まで運ぶのは苦行以外の何物でもない。

しかも、いつもはセクシャルな店のママが親切に買い物袋に入れたりとかしてくれたのだけど、今日は勝手にお金だけ置いて出てきたので袋がない。全身で抱えるようにして鬼ごろしを持っていたのでいつもの何倍も辛く苦しいものだった。

ハァハァと荒い息遣いで鬼ごろしを運び、家路へと急ぐ僕。

この酒を飲むと、よりいっそう両親が何もできないグデングデン状態になってしまう。

その原因となる酒を運ぶ僕。

漠然とした無常観を感じながらも、ハァハァと荒い息遣いで運んでいると

ハァハァ・・・

と通りに面した民家の窓から僕の息遣いとは違った息遣いが聞こえる。しかも女性の。なんだろう?と様子を見ようと窓に近づこうと思ったのだけど、重い鬼殺しを抱えたままでは窓までの距離すら移動するのが億劫。仕方ないので道路の真ん中に鬼殺しを置き去りにし、荒い息遣いが聞こえる窓まで歩いていった。

窓に近づくに連れて、聞こえる息遣いの音も大きくなる。もう分かっていた、その先には見てはいけない物があるってのは分かっていた。でも、湧き上がる好奇心を抑えることはできず、ただただ窓に向かって歩いていた。

開いていた窓を、脇からコッソリ覗いてみる。

そこには性行為をする男女の姿があった。

いや、幼すぎて僕には何が何やら分からなかったのだけど、とにかく裸の男女が布団の上で絡み合い、変な棒出したり入れたり、出したり入れたりと

な・・・なんだ・・・これは・・・。

意味不明ながらも、コレを見てはいけないという思いがあったが、僕の中の好奇心の悪魔は目を逸らすことを許さなかった。

これは神があたえたもうたチャンスだ、覗け!覗くんだ!ホルモンを爆発させて覗くんだ!

もう見ているだけで幼い僕のチンポはピンコ立ちで、さっき鬼ごろしを運んでいた時とは別の意味の荒い息遣いが僕の口から漏れていた。

ハァハァ・・・ハァハァ・・・

救いようがないほど興奮しながら、身を乗り出さん勢いで覗く僕。そこに救いようのない不幸が襲い掛かる。

「キャーーーーー!!」

僕に覗かれていることに気が付いた女性が大声をあげて叫びだしたのだ。しかも、叫び出して初めて気が付いたのだが、その叫んでいる女性、変な棒出したり入れたりされている女性は、あのセクシャルな酒屋のママだった。

「○○さんとこの息子さん!」

そう僕を名指しするママ。

「このクソがきー!」

意味不明に怒るママの変棒相手であった漁師。

やばい逃げねば・・・。

身の危険を感じ、逃げようと振り返る。さすがに逃げるにしても鬼ごろしだけは持って帰らないと両親に怒られる。道に置きっぱなしの鬼ごろしを持って逃げねば、と置いたはずの場所に目をやると・・・

車に轢かれたらしく鬼ごろしはペチャンコになっていた。

道路の染みのようにペチャンコになっている鬼ごろし、その周りは漏れ出した清酒がしっとりと道路を濡らしていた。うん、あたり一面がほのかに酒臭かった。

やっちまった・・・

エロスな現場を目撃したいばかりに鬼ごろしを道路に置き去りにした僕。さらにエロスな現場に興奮するあまり、鬼ごろしのことなど忘れて覗きに没頭していた。

とにかく、鬼ごろしはもうダメだ、諦めて逃げねば。そう考えて走り出しました。

全力疾走で家まで命からがら帰りついたのだけど、酒屋のママから「お宅の息子さんに覗かれた」という一報が両親に入っていたらしく、酔っ払っていた両親にいたく怒られました。

しかも鬼ごろしがない事に気が付いた両親に「お酒はどこにやったんだ?」と聞かれて「車に轢かれた」と言ったら、案の定両親は怒りのアフガンと化し、死ぬほどしこたま怒られたのです。そんな思い出。

結局、あの日のセクシャルママのおセックス、漁師の激しい腰使い、鬼ごろしの重さ、怒られた思い出、何もしてくれない両親の姿、そういったものが相乗効果で僕を酒嫌いにしているのだと思うのです。だから僕はこれからもゼッタイに付き合い以外で酒を飲まないと思う。どんなに辛いことや苦しいことがあっても、酒に頼らず、なにか自分らしい方法で発散させようと思う。例えばオナニーとか。

あの頃、毎日毎日買いに行かされていた「日本酒 鬼ごろし」。結局は鬼ごろしでもなんでもなく間違いなく「僕ごろし」だった。そんな酒とはこの先もずっと関わらずに生きて行きたいものだ。


3/11 オーエス

「オーエス、オーエス!ホラ、しっかり持たないか!」

上司の怒号がオフィスビルの一角、階段の吹き抜けに響く。僕は上司と共に、3メートル四方、重量50キロはあるだろうかという大きな荷物を運んでいた。

どうしてこういうことになったかというと、なにやら嫌がらせかと思われるほど大きな荷物が我が部署宛に届いたのだけど、運送会社が上階に位置する我がオフィスまで運んでくれない。

仕方ないので自分たちで運び上げようかとも思ったのだけど、あいにく同僚たちは席を外していて僕と上司しかオフィスに居ない。エレベーターで運び上げようとも思ったのだけど、大きすぎてドアを通らない。

このような様々な悪条件が重なり、僕と上司が協力して荷物を運ぶという異様な光景が完成した。上司と力を合わせて力仕事なんて、普通で考えたらありえない。

そこで冒頭の上司の叫び声だ。

上司は、久しぶりの力仕事に異様に盛り上がってしまったのか、部下である僕と共同作業をするのが嬉しかったのか、やけに張り切り満点。見ているこっちがこっぱずかしくなるほど張り切っていた。

「ホレホレ、右に曲がるぞ。オーエス!オーエス!」

階段の踊り場を右に曲がりながら、器用に荷物も傾けていく。

それにしても、さっきから上司が気合を入れるためだか何だか知らないけど多用している「オーエス」とかいう単語。コレは一体なんなんだろうか。「オーエス」なんて単語、久々に聞いた。

なんか、運動会なんかで綱引きをするときなんか、「オーエス、オーエス」と声を出して綱を引っ張ったりする。多分、力を入れるときに発する言葉なのだと思うのだけど、皆目意味が分からない。

「オーエスってなんだろう?」

そう考えながら荷物を運んでる物だから、どうも集中できない。なんだろうなんだろうと気になって気になって満足に運べない。心なしか、一緒に持っている荷物の僕サイドが沈み込んでいる。

「ホレ、ちゃんと持て。オーエス!オーエス!」そんな僕に上司の怒号が浴びせかけられる。もうやめて!頼むからそのオーエスという掛け声をやめて。集中して荷物を持てないじゃない。オーエスってなんやねん、Windowsか?なんて気になって仕方ない。やめて、やめて。

オーエス、オーエス、オーエス、オーエス

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、いや多分知らないんだろうけど、さらに悪魔の単語「オーエス」を連呼する上司。彼は僕を殺す気に違いない。

でもね気が付いたのですよ。オウムのようにバカの一つ覚えで「オーエス」を連呼する上司。その言葉を聴いて物凄いことに気が付いたのです。多分、上司がバカみたいに連呼しなきゃ気が付かなかったんじゃないかな。

このオーエスという掛け声。力を入れるときに発する気合の掛け声なんかじゃなくて、実は助けを求める情けない掛け声なんじゃないかって気が付いたのです。

オーエス、オーエス、オーエス、オーエス

続けざまに連呼されると初めて気が付くことがある。そう、言葉を切る場所を変えてみると、

オー、エスオーエス、オー、エスオーエス

と聞こえるではないですか。そう、「Oh !SOS !」とか連呼しているように聞こえるのですよ。「助けて!助けて!ああああ」とか叫んでいるように聞こえる。

上司は気合を入れて、「よーし、この荷物運んじゃうぞー!」と掛け声を発しているのに、それが実は「助けて!助けて!」という掛け声だったなんて。もう笑いが止まらない。

「オーエス!オーエス!頑張れー、もうちょいだぞー!」

やめて、笑いが止まらない。頼むからそのオーエスっていう掛け声をやめて。僕を笑い殺す気ですか。

それでまあ、上司の「オーエス」という名の「助けて」という掛け声に笑わされそうになりながらも必死で我慢して荷物を運んだのだけど、もう荷物なんかマトモに運べたもんじゃなかった。ヘロヘロになりながら運んでたもんな。で、そのヘロヘロ受けて上司が気合入れようとさらに「オーエス」と発する悪循環。もう勘弁して。

やっとこさ荷物をオフィスまで運び終えた時には、笑いを堪えすぎて腹筋が痛くなってたもん。ヘロヘロになりながら死にそうになってた。

そんな僕の必死の笑い我慢を知ってか知らずか、荷物を運び終えた上司は

「どうしたー?あんな荷物ぐらいでフラフラじゃないか。ちゃんとご飯食べてるか?」

黙れ!ウンコ上司!荷物が重くてヘロヘロじゃないわ。貴様のオーエスという掛け声が面白すぎてヘロヘロになってたんだわ。と盛大に反論したいところですが、チキンな僕は

「はい、最近ちょっといいもの食べてなくて」

と頭を掻きながら愛想笑い。ビバ!サラリーマン!ビバ!上司の犬。

でまあ、それを受けてウンコ上司

「しょうがないヤツだ。じゃあ今日は良いもの食わせちゃる」

とか言うではありませんか。コイツもたまには良いことを言います。普段良い物を食べていない僕に良い物を食べさてやる。つまりは焼肉やら高級料亭やら回っていない寿司をご馳走してくれるということです。なんて素敵な上司なんだ。

「はい!お供します!」

と一も二もなく承諾し、仕事を終えると早速上司と共にオフィスを出ました。

それでまあ、上司と共に僕の車に乗り込み移動します。

「えっと、どこに向かったらいいですかね?」ハンドルを握り、運転しながら上司に訊ねます。さあ、連れて行ってくれるのはどこ?高級料亭?高級寿司?それともカニ料理屋さんかしら?などとワクワクしながら待ち構えていると、助手席の上司は

「ワシの行きつけのラーメン屋に連れていってやる」

死ね!ウンコ上司死ね!何が「良い物食わせてやる」だ。ラーメン屋じゃねえかコノヤロウ!死ね死ね!七回死ね!と憤るのですが、そこは上司の犬である僕。

「あ、いいっすね。楽しみだなー」

なんて言っちゃったりして上司指定のラーメン屋に車を走らせます。

ラーメン屋に到着すると、そこは上司行きつけのラーメン屋です。なんとなく古めかしくて味のありそうな店構え。知る人ぞ知る名店といった趣でした。

その重厚な古めかしい引き戸を開けて店内に入ると、ムワッと熱気が襲いかかり

「へいらっしゃい!」

という威勢の良い店主の声。

コレはなかなか期待が持てるぞ、と上司と共にカウンターに座ります。

上司は、さすが行きつけだけあってかラーメン屋の店主とかなりの顔見知りのよう。

「今日はウチの部下に美味いラーメン食わせてやろうと思ってな」

「おう!兄ちゃん!うちはダシが違うよ!ダシが!」

なんていう会話を経て、いよいよラーメンが出されます。

「ヘイ!お待ち」

と出されたラーメンを上司はもうそれはそれは凄い勢いで食べていました。「うまうま」と言いたげな勢いで食べていました。

こ・・・これは・・・上司がここまで必死に食べるラーメン。さぞかし美味いのだろうと期待して僕もラーメンに箸をつけました。

ジュリュジュルジュル

・・・・・・うん、まずい!

マズイとか口に合わないとかいうのを超越していて、下手したら命に関わるんじゃねえの?というほどにマズイ。しょうゆとソースを間違えてもここまでマズくはならない。それほどにマズイ。

どどどどどどどどういうことだ、このマズさは

と疑問に思うのだけど、横で上司は必死にうまうまと食べてるし、店主は自信満々といった表情で「おいしいっすね」という僕の感想を待っている。

というか、このマズさ有り得ない。上司が美味そうにマズいってまさに気まずいなとか、店主が自信満々なのにマズいって気まずいなっていう思いを既に超越していて、こんなラーメンを食わせた上司に対して怒りすら覚えていた。

気分的には上司に向かって

とやりたい気分。

でもまあ、そんなことやりたくてもできないので、「どうだ、うまいだろ?」という上司の問いに対して

「はい!美味いっす!ダシが違いますよね!」

と満身創痍の作り笑顔で言う始末。つくづく気の弱い自分が憎い。

しかもまあ、「美味い」なんて血迷ったこと言っちゃたものだから、この悪魔のように不味いラーメンを最後まで完食しなければいけないところまで追い込まれてしまいました。許されるのならば鼻をつまんで食べたい。そんな気分。

でまあ、死にそうな思いをしながらなんとか地獄ラーメンを完食。変な脂汗とか全身から出しながらも食いきった自分自身を褒めてやりたい、そんな 気分でした。

「そろそろ帰るか」

という上司の言葉を受けて、レジへと向かいました。

死ぬほど不味いラーメンだったけど、上司もご馳走してくれようとしてくれたことには変わりありません。上司の好意なのにマズイとか言っちゃったらバチが当たるよな、うんうん、奢りだから文句言っちゃアカン。とか思ってたら上司がレジで

「勘定は別々で」

とか言ってやがります。

死ね死ね!ケチ!死ね!何が「ご馳走してやる」だ!連れてきただけじゃねえか!70回死ね!

とか怒りながらも不味いラーメンの代金を支払い店の外に出ます。

もうゼッタイにこの人と食事をするのはやめよう。命がいくつあっても足りない。それどころかもうゼッタイにこのラーメン屋には来ない。などと決意を新たに車に乗り込むと、ウンコ上司のヤツが

「また、ちょくちょくここのラーメン食べにこような」

とか言ってやがりました。有り得ない。嫌過ぎる。

おおおお、オーエス。


3/10 リゾート恋して

エメラルドグリーンの海。底抜けに青い空。そして、白い砂浜。聞こえる音は打ち寄せる波の音だけ。傍らにはハイビスカスで彩った南国フルーツのドリンクが。

幼い頃、僕はそのような南国リゾートに憧れていた。テレビから流れる南の島の優雅なホリデーは魅力的で、平凡な毎日を生きる少年をいたく刺激した。

南国リゾートに行きたい。南国の日差しを受けてビーチで寝転びたい。いつしか少年は南国リゾートに行くことを切実に願うようになっていた。

しかし、振り返ってみると貧乏な我が家。ファミコンすら買ってもらえないような貧しい我が家に南国リゾートなど無理な相談だと初めから分かっていたことだった。

親父は「アヂー」と言いながらステテコ姿で扇風機の前を占拠している。母親は僕の体育用のジャージを着て台所で そうめんを作っている。口を開けば「勉強しなさい」としか言わない。こんな家族に南国リゾートを求めるなぞ、酷というものだ。

貧しすぎる我が家を恨んだって何も始まらない。自分の貧乏さを呪っても、弁護士や医者でなかった両親を恨んでも南国リゾートが自分の所にやってくるわけではない。

欲しいなら自分で動きだして手に入れなきゃ。少年だった僕は、南国リゾートをなんとか自分の力で手に入れるべく動き出していた。人に頼らず自分の力で手に入れる、そんな自分を少しカッコイイと思っていた。

しかし、子供と呼べる年齢だった僕は、ハッキリ言って金もなければ力もない。特に貧乏な家庭の子供だったので金がなかった。そんな少年が自分の力で南国リゾートへの旅行券等を手に入れられるはずがない。

だったらもう、この我が家で南国リゾートを手に入れるしかない。豚小屋のような湿度満点の我が家に、見間違うほどの南国リゾートを手に入れるしかない。そう考えるや否や少年は行動に移していた。

少ないなけなしの小遣いをはたいて、南国リゾートっぽいドリンクとグラスを購入する。何故だか意味不明にサングラスも購入。多分、南国リゾートといえばサングラスだと思い込んでいたみたい。

二階建てだった我が家は、二階の窓を越えて屋根の上に出られるようになっていた。それを利用して屋根瓦の上で寝転ぶ僕。枕と毛布を持ち出して、瓦の上で眠る僕。勿論、意味不明にオレンジ色のスクール水着一丁で寝転んでいた。

夏の日差しはサングラス越しでも眩しく、黒い瓦に吸収される熱気は南国気分そのものだった。毛布を敷いた瓦の上に寝転びながら僕は南国気分を満喫していた。

聞こえる音は打ち寄せる波の音ではなく、土曜の昼下がりのテレビの音やら近所のオバサンが子供を叱り付ける声だったりするのだけども、それでも僕は満足だった。屋根の上で少ない小遣いで購入した南国ドリンクを飲む。もう気分は南国だった。小さな港町が僕の故郷で、屋根に上るとモワンと魚食品加工工場の生臭い臭いが漂ってきたりしたのだけど、それでも気分は南国だった。

屋根の上で水着姿で似合わぬサングラスをしながら眠る小学生。それはそれは明らかに異常な光景だったのだと思う。明らかにちょっと頭が可哀想な子供だったのだと思う。

けれども僕は、とてもとても満足だった。憧れだった南国リゾートを、ちょっと歪んだ形とは言え自分の力で再現することができた、手に入れることができた。もう、その事実が満足だった。

多分、南国リゾートとかは本質的にはどうでも良くて、重要なのは自分の欲しい物を自分の力で手に入れるという部分で、その行為自体に少年時代の僕は酔いしれていたのだと思う。

満足だった、とにかく満足だった。本来の物からは程遠いのだけど、自分の作り出した南国リゾートに満足だった。そう、我が家の屋根の上は僕だけの南国リゾート。自分だけの、自分で作り出した南国リゾート。

ご満悦な僕の南国ドリンクを飲むペースもとにかく速くなる。自分で買ってきた南国リゾートっぽいドリンクをとにかく飲む。それこそ屋根の上は日差しを浴びて灼熱の世界でとんでもない状態なので喉も渇く渇く。渇きを潤すためにドリンクを飲む飲む。とにかく有り得ないほどのペースで南国ドリンクを飲み続けていた。

そうこうしていると、途方もない尿意に襲われる。

摂取した水分はどうにかして排出するように人間の体はできている。とにかく膀胱が破裂するかというほどに小便がしたくなったのだ。

や・・・やばい・・・とにかくトイレに行かねば。

しかし、今は屋根の上でリゾート気分を満喫だ。今からトイレに行くには屋根を昇り戻り、二階の窓を乗り越えて階段を下りてトイレに到達せねばならないそれでは余りにも面倒くさすぎる。

もう・・・ここで小便しちゃっていいかな・・・?

そう、トイレに行くのが面倒すぎる僕は、この屋根の上から小便をすることを考え始める。だって、ここは屋根の上じゃない。自然たっぷりの南国リゾートなんだ。

確かに、作られた南国リゾートならばトイレも完備しているだろうし、様々な設備が充実しているだろう。けれども、大自然の中に佇む人の手が加えられていないリゾートなんかだったら、トイレだってないだろう。

そう、ここは人の手が加えられていない南国リゾート。だったらトイレじゃないと小便ができないなんて文明人ぶりを発揮している場合ではない。そんなリゾートに行ったならその辺で小便をするのは当然のことだろう。

南国風の植物が覆い茂る草むらで便をする。海の中に入ってバレないように用を足す。それが南国リゾートなんだ。おっしこがしたいからトイレ、なんて生っちょろいリゾートなんて有り得ない。

などと激しく勘違いした僕は屋根の上から小便をすることを考えます。屋根の上から、平屋建てだった隣の家の屋根の上に向かって激しく小便をしました。

もうね、飲みまくった南国ドリンクがジョルジョルと出る出る。飲んだヤツが全部出てるんじゃねえの?と思うほどに出る出る。しかも、隣の家の屋根が瓦屋根とかではなくてモダンな材質の屋根だったもんだから、照射された小便の音がボボボボボとか小気味良く響くの。その音が何とも言えずに快感でウヒャヒャヒャヒャとか上機嫌に笑いながら小便をしていた。

これぞ南国、これぞリゾート。という激しい勘違いの下に小便をしていた。たぶん、僕はちょっと頭が可哀想だったんだと思う。

それでまあ、気持ちよく小便をしていると・・・

「こらっ!クソガキ!」

という物凄い怒号が下のほうから聞こえる。見ると、小便を照射している隣の家に住むオッサン(漁師)が修羅のような表情で怒り狂っている。そりゃそうだ、家でマッタリと土曜の午後を過ごしていたら、天井からボボボボボとか小便を照射する音が聞こえるんだから。我が家に小便をかけられているんだから。コレで怒らなきゃ何で怒るんだったって感じです。

でまあ、その漁師。ゴリャアアアアとかいう勢いで怒りながら、なんか斧みたいな物を振り回しているんだけど、それでも僕の小便は止まらない。小便は
急には止められない。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

と言いながらも度胸満点で小便をし続ける僕。

「降りて来い!ぶっ殺してやる!」

と鼻息も荒く斧のような物を振り回す漁師。

それでも小便は止まらない。もう、止まらない。ノンストップ小便。

とにかく絶体絶命の大ピンチ。もはや南国リゾートとかどうでもよくて、修羅のように怒る漁師から逃げることしか考えられない。

意味不明に水着姿でサングラスをして屋根の上から小便をするクソガキに、その下で斧を振り回す漁師という異様な光景。その異常さは文章では伝わり難いけど、一つだけ分かることがある。それは、最初に思い描いていた南国リゾートとは遠くかけ離れた物だということ。

でまあ、やっとこさ小便が終わり、僕の剥けていないティンポを水着の中にしまうと、次は逃げることを考えねばならない。下では漁師が斧を振り回して待ち構えている。捕まったらどうされるか分かったもんじゃない。とにかく逃げねばならない。

ウワーーー!!

とか叫びながら、傾斜のついた屋根伝いに走って逃げる。しかし、逃げても逃げても漁師は一緒に移動してくる。西側の屋根に移動すれば漁師はその下に移動している。南側に移動すれば漁師も移動している。勿論、斧を所有して待ち構えている。

に、逃げなければ殺される。小便を家にかけただけで殺されちゃかなわん。と思いながらグルグルグルグル屋根の上を駆けて逃げる。このまま周り続けたら溶けてバターになっちゃうんじゃ?というほどにグルグルグルグル。

そうこうするうちに、とにかく走りにくい瓦屋根の上、ツルッと足を滑らせて転んでしまう僕。勿論、傾斜のついている屋根の上で転ぶもんだから、ゴロゴロと転げて下に落ちる羽目に。

ゴロゴロ転げる水着姿の少年。ゴロゴロ転げる上半身裸の少年。そしてそれを下から見つめる斧を持った漁師という異様な光景が。

全ての時が止まって見えた。斧を持った漁師も、転げる自分も。とにかく全ての時間が凍りついたように思える時間が過ぎた。瓦の上に置かれた毛布と枕、南国ドリンクが妙に悲しげだった。

幸い、二階建てでありながら極端に低かった我が家、さらには落ちた場所が隣の家の植木がある場所でそれがクッションになったためか、落ちても大して怪我もすることはなかった。

しかし、下で待ち構えていた斧を持った漁師に捕まえられ、正座させられてこっぴどく叱られた。怒りのアフガンと化した漁師に水着姿のままこっぴどく。サングラスはもうこの時は壊れていた。

やっぱり僕には南国リゾートは無理だった。怪我はしなかった物の、屋根の上から落ちて体のあちこちが痛いわ、漁師に怒られるわ、散々だった。南国リゾートなんて馬鹿なこと考えるもんじゃないな、と半泣きになりながら玄関をくぐって我が家に帰ると

「そうめんできたわよ、早く食べなさい。あら?どうして水着なの?」

と母親が言っていた。やっぱり南国リゾートは無理なんだとそうめんを食べながら泣いた。

さらに後日談。屋根の上から落ちたショックで、屋根上に出した毛布とマクラを出したままにしていた僕。それは数日発見されることなく雨ざらしにされ、発見された時には怒りのアフガンと化した両親に死ぬほど怒られました。

漁師に怒られ両親に怒られ、最悪の南国リゾートでした。人の家に向かって小便をしたという行為に良心も痛んだしね。

こんな思い出もあってか未だに南国リゾートの夢を叶えていない僕。今年こそは夢を実現させて南国リゾートに行ってみようかと思う。

行ったら行ったで南国の地元漁師に怒られているかもしれない。


3/8 ぬめぱと変態レィディオReroaded

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マイクを持っていて、ゲスト参加を望む方はBitArenaをダウンロードして待っておいてください。こちら

タイムテーブル

21:00 オープニング/フリートーク
22:00 フリートーク
23:00 ゲストトーク
24:00 心霊スポット訪問VS首なしライダー
01:00 深夜のpatoさんクッキング
02:00 エロトーク
03:00 怖い話
04:00 フリートーク
05:00 ゲストトーク
06:00 ハズカシポエム大会 
07:00 オカマタイム
08:00 フィナーレ

今回はフリートークを数多く配置してみました。「修羅場体験」「テーマトーク」「物まね」「ほのかなエロス」などのトークはフリートーク内で混在させて読みます。


酢餅DEコロッケ


というわけで、来る土曜日は久々のラジオ放送「ぬめぱと変態レィディオReroaded 12時間スペシャル」が行われます。

放送はねとらじさんを借りて行われます。聞き方が分からない人などは8月辺りの過去ログを読んでもらえば分かると思います。放送URLは放送開始30分前くらいからココのTOPページで告知致します。

気になる放送時間ですが、放送開始は3月8日午後9時です。そこから翌朝の9時まで12時間ノンストップで放送を行います。

それでもまあ、12時間ぶっ通しでトークするのはさすがにキツイので、リスナーの皆さんに様々な募集を行いたいと思います。

1.テーマトーク

なんでもいいのでトークのテーマを送ってやってください。分かる範囲で話題を膨らませてトークします。

2.私の見た修羅場

自分の体験した修羅場とか凄い体験を教えてください。基本的にそのまま読みますので、スリリングに分かりやすいように書いてくださると助かります。

3.ほのかなエロス体験

自分の体験したほのかなエロス話を教えてください。コンビニで商品を取ろうとしたミニスカートの人のパンツが見えたとか僕が興奮するようなお話をお願いします。

4.トークゲスト

突発的にリスナーさんにゲストをやってもらいますので、マイクを所有している方はビットアリーナとかいうアプリを用意してください。それを使ってゲスト出演してもらいます。

全ての送付はメールフォームからお願いします。

放送当日だけ期間限定でNumeri-BBSとNumeri-CHATを設置しますので、リスナーさん間での交流やツッコミなどにご利用ください。

それでは、放送開始をお楽しみに。

(仕事が忙しすぎてちょっと日記を書く暇がないのでラジオの告知のみで誤魔化してみました。ごめんなさい。ちょっと三月は忙しさがピークなので更新が飛び飛びになるかもしれません。ごめんなさい)


3/6 神の息吹

「patoさんは無神経過ぎます!」

この間、職場の飲み会の席でB子さんに言われた。B子は酔った勢いで大層お怒りになっており、その怒った顔の醜いこと醜いことこの上なかった。あのような醜い顔をして公の場で怒ることのできる貴様の方が無神経だ、と指摘しようかとも思ったのだが、それを言ってしまうとあらゆる意味で終わってしまいそうだったのでやめておいた。

「とにかく、下品な行為はやめてください!」

どうやらB子は、僕の下劣なる職場での振舞いにご立腹な様子だった。今まで我慢してきたけど明らかに我慢の限界。言わせてもらいます、ええ、言わせてもらいますとも、といった趣だった。

デスクの横にヌーディーなエロスカレンダー(洋物)を貼る。

生尻をボリボリ掻きながらオフィス内を闊歩する。

横にB子がいるのに、お構いなしにブーとかピーとかオナラをする。

とにかく下劣さが目に余る、なんとかして欲しいというB子の心の叫びだった。要望というより嘆願というか、とにかく涙ながらの訴えだった。本当に嫌なんだろうな。

それを受けて、飲み会に参加していた同僚メンバーも「そうそう、patoは無神経すぎる」という雰囲気になり、一気に飲み会はヒートアップ。僕をやり玉にあげて吊るし上げる会に早変わりしてしまった。

確かに僕は無神経だと思う。歯の神経も抜いたし、本当に無神経なんだと思う。普通に尻をボリボリ掻きながら歩くし、ヌードポスターも貼る。オナラだってB子が居ようが何だろうがブーブーやる。実が出るほどにブーブーやる。まあ、確かに無神経なんだと思う。

でもな、ちょっとだけ弁明させて欲しい。往生際が悪いようなんだけど弁明させて欲しい。

あのな、僕らが働く職場ってのは言うなれば戦場なんだよ。仕事に生きる人間たちが本気で自分の全てをぶつけ合う戦場。そう、仕事ってのは戦争なんだよ。妥協も手抜きも偽りも許されない、そんな過酷で生きるか死ぬかの世界なんだよ。狼は生きろ豚は死ねっていう世界なんだよ、仕事ってのは。戦場だよ、戦場。

そんな戦場でな、イチイチ体裁なんか気にしてられるか。下品だとか上品だとか言ってられるか。泥水をすすり、穴ぐらの中で眠る。時にはヘビなんかも捕まえて食べなければいけない。それが戦場なんだよ。自分の中の全てを敵にぶつける必死さってのが必要。必死だからこそイチイチ気にしてなんかいられない。

どこの世界に戦場でオナラを我慢するやつがいるってんだ。兵士が南米辺りの熱帯雨林ジャングルで匍匐前進をしている。敵がどこに潜んでいるかわからない。そんな切迫した状況でオナラがしたくなったらオナラするっちゅうねん。ブビブビするわ。尻の穴が切れるほどするわ。オナラするのは下品だから、とか言って我慢する兵士がいるか?それどころかウンコだってその辺でモリモリするわ。葉っぱで尻を拭くわ。

だからな、職場でオナラは下品だからとかモジモジしてるヤツらは覚悟が足りないということ。そんなこと言ってるうちはまだまだアマチュア。プロフェッショナルとしての仕事だと認識していないから戦場だと思えない。なあなあで馴れ合ったダルダルの仕事になるんだよ。だから下品だとかどうしようもない考えが浮かんでくるんだよ。

職場でオナラをするのは仕事に対して真摯な証拠。プロフェッショナルに徹するから下品だとかそういうのに考えが回らないんだよ。

という風に反論したのですが、同僚やB子には伝わらなかったみたいです。僕の下品行為による被害をカミングアウトする会に早変わりしていました。相変わらず人の話を聞かない人々です。

とまあ、ここまで読んで皆さんは思うでしょう、僕がどこでもいつでもブーブーピーピーとオナラをするような人間だと思うでしょう。完全無比な無神経男だとお思いでしょう。でもね、それは大きな間違い。

確かに職場や一人の時なんかお構いなしに尻がちょっと浮くぐらいオナラするよ。でもね、それはプロフェッショナルに徹するが故の事であって、普段は気になって気になってオナラなんてできないという繊細な心の持ち主なんですよ。恥ずかしくて特にオナラをできないっていうシチュエーションが存在するんです。

それが彼女といる時。

さすがにステディの前ではオナラはできない。オナラ界のダイナマイトキッドと言われるぐらい何でもアリの僕だけど、さすがに彼女の前でだけはできない。何でかわからないんだけど、ゼッタイにできない。たぶん、宇多田ヒカルの前ではできるけど彼女の前では無理。恋人の前でブーとかピーとか、考えただけで恐ろしい。

とにかくですね、彼女といる時だけはオナラをしたくなっても必死で我慢してる。いつも気さくにオナラをしていることを考えると、本当に苦しんだけどとにかく我慢している。

しかも悪いことに、彼女といる時に限ってオナラしたくなるのな。普段の30倍ぐらいの頻度でオナラしたくなるの。僕はコレを勝手に「彼女といるとオナラしたくなる症候群(シンドローム)」って呼んでる。どんな相関関係があるのか分からないんだけど、とにかく彼女といるとオナラしたくなる。

いやな、一緒に街歩いている時とか構わないよ。オナラしたくなっても街の雑踏の音に紛れてするから。彼女に気付かれさえしなかったら何でもいいから、とにかく誤魔化しつつオナラをする。

でもな、彼女の部屋とか行ってる時にオナラしたくなった日にゃ最悪。もう静かな部屋に二人っきりだからな、誤魔化しようがない。とにかく我慢するしかないわけだ。

しかも、普段の30倍ぐらいオナラがしたくなる「彼女といるとオナラしたくなる症候群(シンドローム)」なんだけど、彼女の部屋に行くとさらにその3倍ぐらいオナラしたくなるからね。普段の90倍ぐらい。これは「彼女の部屋に行くとオナラがしたくなる症候群(シンドローム)」なんだと思う。

でまあ、非常に困るわけだ。彼女の部屋で彼女と居ても考えることはオナラのことばかり。ああ、オナラがしたいオナラがしたい。思いっきり思うがままにオナラをしたい。オナラで空を飛べるほどのしたい。したいしたいしたい。

一緒にテレビを見ていてもオナラがしたい

「これ、おもしろいよね」彼女が話しかけてきても、オナラのことしか考えられない。

「あ・・・うん・・・」(オナラしたい)という返事しかできない。

彼女の手料理を食べていてもオナラがしたい。

「うん・・・すごく美味しいよ・・・」(オナラしたい)と言うことしかできない。

このように常に彼女の部屋でオナラを我慢してるのですが、思うのですよ。オナラってのはウンコ以上に我慢するのが難しい。

ウンコってのはソリッドな固体ですから、確かに臨界点なると苦しくなるのですが、我慢をするのは容易です。ちょっとやそっとでは放出されることはありません。でもね、オナラってのはエアな気体ではないですか。我慢するのはウンコほど苦しくはないですが、下手すると何かの拍子でスルッと放出される危険性をはらんでいるのです。

彼女の部屋で彼女といる時にブーとかピーとか目も当てられない。

それでまあ、彼女の前でオナラだけはするまいと必死で我慢するのですが、もうどうしようもない臨界点をむかえることがあるのですよ。もう、オナラが出口までやってきている、アナルの一歩手前までやってきているという状態が。

彼女はベッドで寝ていて、僕は机でパソコンに向かって日記を書いている時のことでした。有り得ないほどの最大級のオナラが出そうになったのです。

く・・・っ・・・オナラがしたい・・・

もう日記を書いている場合ではありません。とにかくオナラがしたい。ふと彼女の顔を見ると、布団に入って気持ち良さそうに寝ているのです。

彼女も寝ているし、オナラしても大丈夫なんじゃ・・・

そう、今は擬似的な一人っきり状態なのです。彼女は寝ている。大丈夫だ。オナラをしても大丈夫だ。ようし、やっちゃうぞ。とか思うのですが、そこで考え直すわけです。

いやいやまてよ、彼女はちょっと物音がしただけでも目を覚ます眠りが浅い人物。そこでこんな最大級のオナラをしようものなら目を覚ますに違いない。ダメダメ、やっぱ彼女が寝てようがオナラをするわけにはいかない。

でまあ、彼女が寝ている横で悶々と悶えながらオナラを我慢しているわけなんです。時折むかえるビックウェーブに「くぉ・・・っ!」とか叫びながら必死に我慢。まるで尻の穴がオナラの表面張力で少し膨らんでるように思いながら必死で我慢。

それでも、オナラビックウェーブはクライマックスをむかえ、もはや一刻の猶予も許さない状況に。地球のみんな!オラのケツの穴に元気を分けてくれ!とか思いながら必死で我慢。できることならアナルに栓とかしたいと思いながら必死で我慢。

でも、もうだめ。ああ出る。ついに出る。ついに彼女の部屋でオナラをしてしまい、僕は彼女の前で悪オナラをする正真正銘の無神経男になってしまうんだ。ああ、出てしまう。ダメ!出る出る。

プーーーーー

やっちゃった・・・。ついにやっちゃった・・・。とか思っていたら、相変わらず僕のアナルは臨界点をむかえたまま。全くオナラが出た痕跡がない。

いやね、さっきのオナラ、どうも僕じゃなくて寝てる彼女のオナラみたいなんですわ。

もうね、死ぬほど笑った。僕が必死でオナラを我慢している横で、グッドタイミングで彼女が寝ながらオナラ。寝屁ですよ、寝屁。オナラをしたいのなんか忘れて死ぬほど笑った。深夜の彼女の部屋で一人で悶えながら笑っていた。

こういう風にですね、僕だって必死でオナラを我慢する時があるのですよ。いつでもどこでも無神経にブーピーやってるわけではない。恥ずかしくて彼女の前ではオナラできないというナイーブでセンシティブな心を持っているのです。それでいつも彼女の部屋でオナラと戦っているわけ。そんな僕を無神経だとか言うことはできないと思う。

そう、僕は無神経じゃないんだ。ナイーブでセンシティブな男なんだ。職場の皆は戦場の僕しか知らないからあんなこと言うんだな。うんうん、戦場では何でもアリな男。でもプライベートでは彼女の前で必死にオナラを我慢したりとナイーブで無神経じゃない男。それが僕なんだ。

さてさて、彼女の寝屁のエピソードの続きですが、次の日の朝に目覚めた彼女に向かって

「昨日寝ながらオナラしてたよ」

と教えてあげたら、

「なんでそんなこと指摘するのよ、この無神経男」

というような、ちょっと嫌そうな顔してました。

やっぱり僕は無神経みたい。


3/5 サイト更正法

前々から何度も何度も思っていたのだけど、このサイト、「Numeri」っていうサイト名はあまりにも酷すぎる。何が酷いって意味不明なところが酷すぎる。なんだよヌメリって。

サイト開設前に「サイト名、なににしよー」とか考えていて、何か意味不明な 名前がいいなとか考えたのですよ。意味がありそうで意味がない三文字ぐらいの言葉がいいなと。

それで出てきた候補が、

「あぐり」

「おろろ」

「ぽろり」

「うんこ」

とかだったのですよ。どれもいまいちパッとせず、なんだかなーとか思いながらタバコを吸って考えていたら、脳裏にズババーンと「ぬめり」という単語が浮かんできたのです。

もうこれしかないと。このサイト名しかないと。

で、今現在恥ずかしげもなく名乗っている「Numeri」というサイト名になったのです。

でもね、こうやって1年と5ヶ月も「Numeri」という名前でサイト運営をしていると思うのですよ、果たしてこのサイト名で良かったのかと。こんなウンコみたいな意味不明な格好悪いサイト名で良かったのかと。

確かにNumeriというサイト名は浸透しており、皆さんもNumeriを読むことを「ヌメる」とか言って使ってくれています。最近では丸の内のOLなんかが会社の給湯室で

「わたしー、昨日バーで知り合った男とヌメっちゃってー」

「アンタ、また見知らぬ男とヌメったの!?」

「だってー、好みのタイプだったしー、この人とヌメったら楽しいかなーって思って」

「ホント、アンタも好きねー」

「そういうアンタも昨日誰とヌメったのよ?」

「課長とホテルで・・・」

「おー、また不倫ヌメってたんだ?」

「うん・・・」

「いい加減にしないと、課長には奥さんも子供もいるんだよ?」

「わかってるけどー」

「妻とは別れるとか言ってるかも知れないけど、ゼッタイに別れてくれないんだから」

「でも・・・課長とヌメると楽しいから・・・」

「わかるわかる。好きな人とヌメると楽しいよね」

「でも、昨日のNumeriの日記は面白くなかったよね」

「たしかに」

なんていう意味不明な会話が交わされているくらいです。それだけサイト名Numeriが浸透していて、サイト管理人としては嬉しいばかりなのですが、色々と問題もあるのですよ。

つい一ヶ月ぐらい前に、広島でNumeriのオフ会をやった際のエピソードはお話したと思います。広島国際ホテルとかいう格調高いホテルのパーティルームでオフ会をやったのですが、その際にホテル側とのやり取りの一幕。

「当日はホテルのロビーに案内表示をさせていただきますが?」

「あ、Numeri-OFF 広島でお願いします」

「ぬ・・・ぬめっ?」

「ヌメリです」

「ヌメリですね」(ちょっと含み笑い)

こんな恥ずかしすぎるやり取りがあったわけです。どれだけ恥ずかしかったか。どれだけ自分のサイト名を恥じたか。穴があったら入りたいとはこのことかと思ったよ。なんやねんヌメリって。

だからね、思うわけです。サイト名とはこういったネット上とかで出す分には恥ずかしくないのですが、現実リアルの世界で出すと恥ずかしくなるものなんです。サイト名がヌメリとか言う破廉恥な名前だから、オフ会の予約の時に恥をかく。もうこんな悲劇を繰り返してはいけない。

だったらサイト名自体を恥ずかしくないものに変えてしまえばいい。ファッショナブルでモダーンな格調高いサイト名に変えてしまえばいい。

というわけで、我がNumeri、サイト更正法に従って恥ずかしくないサイト名に変更したいと思います。恥ずかしくなく、ユーモラスでウィットに富んだサイト名に。

新しいサイト名のイメージとしましては、「意味がある名前」「日本語」「恥ずかしくない」をテーマを掲げたいと思います。

そういったテーマを吟味して新サイト名を考えると、ざっと何個かの意味深な候補が浮かんできます。

「青い三角定規」

「冬の陽だまり」

「ひまわりの種がいっぱいあるところ」

「ポケットの穴」

「新着メールはありません」

「麻呂のような眉毛の女性」

「爺さんのGジャン」

「ブレーキの壊れたダンプカー」

「デキサスロングホーン」

などなど、素晴らしいサイト名が次々と浮かんできます。恥ずかしい恥ずかしくないは別として良いサイト名たちです。なんか意味深だしな。

でも、やっぱりサイト名ってのはサイトの顔ですから、もう少しサイトの内容を表現するような名前がいいのではないかと思うわけなんです。ウチのサイトの内容を直接的ではないにしろ、ほのかに表現するサイト名。

そこで、我がサイトのイメージと言うと何なのかなと考えると、それはほのかなエロスではないかと思うわけです。エロスの中に混じった一片の狂気。変態と言う名の狂気。それに尽きるのだと思います。これを表現したサイト名を提案するしかない。

というわけで、ちょっとクレイジーな変態とエロスを融合させたサイト名を提唱したいと思います。

その新サイト名は

「ヌーディスト・メリーゴーランド」

ヌーディストは言うまでもなくエロスを表現しています。そしてメリーゴーランドは狂気。メリーゴーランドが狂気?と思う人もいるかもしれませんが、メリーゴーランドは狂気です。間違いなく狂気です。嘘だと思うなら今度遊園地に行った時などにメリーゴーランドを見て御覧なさい。

馬車だかなんだか知りませんが、明らかにイッちゃった目をした馬たちが、異様な音楽にあわせて上下運動しながらグルグルグルグル回るのですから。コレを狂気と言わずに何を狂気と言うのか。

というわけで、我がサイトNumeriは、本日から「ヌーディスト・メリーゴーランド」というサイト名に変わります。ただ、「ヌーディスト・メリーゴーランド」ではちょっと長すぎてリンクしてくださる方とかに迷惑ですので、コレを略した短い形をサイト名に採用したいと思います。

ヌーディストから「ヌ」を

メリーゴーランドから「メリ」を取って

「ヌメリ」で。どうせならファッショナブルにローマ字表記で「Numeri」これを新サイト名にして頑張っていこうと思います。

あれ?


3/4 前歯クライシス

今日も今日とて歯医者に行ってきたわけです。外回りと称したサボリングの途中で先週行った歯医者に行ってきたのです。

この間は、痛む歯の神経を抜いてもらい名実共にミスター無神経となった僕。今日は、その時に神経を抜いた歯、そこに埋めた薬を交換するためにやってきたのです。

歯医者に入り、受付に行くとやはりそこには浜崎あゆみ似の歯科助手さんが座っていて非常にハァハァ。心ウキウキ胸ワクワク。

でまあ、颯爽と西部劇のように待合室の扉をズババーンと開け、「これ、よろしく」とハードボイルドにシュワッと診察券を出そうと思ったのですよ。でもね、ここで大ピンチ到来。診察券がないの。

颯爽と診察券を出そうとしてるのに、見当たらないもんだから「あれ?あれ?」とか言いながら財布の中探ってるの。ムチャクチャカッコワルイ。それどころか探しても探しても出てこないもんだから、受付台の上に財布の中身全部出して探すのよ。すると出てくる出てくる、コンビニのレシートにクリーニングの預り証、ピンク色のビデオ会員証、マクドナルドの割引券、ぺろんちょ学園の割引券と。もうねカッコワルイとかそういった次元のお話ではなかったよ。カッコワルイを通り越して逆にカッコイイになるんじゃねえ?ってぐらいにカッコワルかった。

で、その様子を一部始終「なに?この変態?」という表情で見ていた浜崎歯科助手。

「あのー、診察券ないなら結構ですよー。名前だけ教えてください」

と優しいお言葉。

「あ、すいません。えっと、○○です。この間神経を抜いてもらった○○です」

「はい、○○さんですね」

と言いながら浜崎が出してきたカルテは、苗字が同じだけでどうみても別人のカルテ。48歳とか書いてあるじゃねえか、それ。違う違う。

「あ、違いますよ、それ」

と言ってやっとこさ僕のカルテが出てきました。

診察台に案内され、またもや治療後のチェックなどをするために浜崎に口の中を見せるという擬似セックスを楽しんでいると、

「あれ?」

とかいって浜崎が口の中に手を突っ込んでくる。どっか腫れてるとかそんなのだったろうか、とにかく奥のほうに指を突っ込んできた。

こ!これはチャンス!と思った僕は、不可抗力を装ってペロンと浜崎の指を舐めてみた。もう、これには大興奮。ただでさえ擬似セックスでエレクトしている僕のナニも大車輪。もう抑えが効かない。

うわっ!歯科助手さんの指を舐めるなんて最低!とか思う人がいるかも知れません。patoの変態!とか罵る人もいるかもしれません。でもね、黙ってろと言いたい。すっこんでろと言いたい。あのな、俺の口の中に入ってきた指だ、舐めようが噛もうが俺の自由だ。誰にも文句は言わせない。

まあ、どうせ浜崎も手袋してるからさ、へんなゴムみたいな味しかしなかったよ。コンドームみたいな味しかしなかった。ちょっと興醒め。

それでまあ、歯医者唯一の楽しみ束の間の擬似セックスタイムが終わり、いよいよ歯科医師登場。ウンコそうなオッサン医師の登場。

治療が開始して、大口開けながら先日の治療の続きをしてもらってるんだけど、医師のヤロウ

「痛かったら言ってくださいねー」

とか痛いところをコンコンやりやがるの。口開けてるのに痛いって言えるわけねえだろ、ボケが。「いひゃあ」とかになってたわ、ボケが。

でまあ、そんなこんなで治療も終了し、受付で浜崎に診察料を払い、次回の予約。

「次回は木曜日でいいですかねー?」

「あ、いいっすね」

「じゃあ木曜日の三時に」

「はい、今度はちゃんと診察券持ってきます」

「ゼッタイですよー」

とか、おいおい、これはデートの約束かい?と思うほどの薔薇色タイムを過ごしまして、帰ろうとしたんですよ。

待合室を出て、靴箱の置いてある玄関に行って帰ろうとしたんです。靴を履き替えて変えるぞーとか思ってたら、

ズルッ

とかスリッパを脱いだ拍子に滑って転んじゃってさ、転ぶだけならいいんだけど、悪いことに転んだ先に靴箱の角が。

ガシュ!

顔が靴箱の角にメガヒット。

ぐあああああ、いてえええええええ

とか思ってたら、口からダラダラと血が。

「きゃー、大丈夫ですか!?」

異様な物音を聞きつけた浜崎が奥から出てきます。うわー、転んで口から血とかメチャクチャカッコワルイー、とか思っていたら、もっとカッコワルイ事態が。

いやね、前歯がないの。

普通に前歯が二本、綺麗さっぱりないの。そっから血がドクドク出てるんだわ。ムチャクチャ痛いしな。身悶えるほどの痛みで玄関先をゴロゴロ転げてた。なんかね、転んだ拍子に靴箱の角に前歯からいっちゃったみたい。その衝撃でポッキリと前歯がいっちゃった。

鏡で見たけどすげえよ、前歯がない自分って。なんか試合中の川田みたいだもん。なんか悪魔の申し子みたいになってるもんな。

それでまあ、あとは大変大変ということで再度治療台に行かされましてね、さっき木曜日の三時に予約を入れたばかりなのに5分後には診察台に舞い戻ってました。

血を止めて、チョロッと歯茎に残ってた歯を削って、応急的な仮の歯みたいなのを入れてもらいました。これで傍目には歯抜けではありません。自分的には歯抜けなままというのも美味しそうで良かったのですが、入れてくれるというものは入れてもらうに限ります。

結局、奥歯の虫歯を治療しに歯医者に来たのに、全然関係ない前歯を二本失うという衝撃の結末に。

この失った部分には今は応急的な歯が入ってますが、本格的に差し歯を入れることにしました。どうやらこの歯医者とは長い付き合いになりそうです。

長い付き合いになって、浜崎と擬似セックスを楽しめるのは素敵なことなんですが、行く度に歯を失いそうで怖いです。治療で抜歯とかではなく転んだりしてモリモリ失いそう、そんな気がしてきた。

あの歯医者は呪われているに違いない。


3/3 最後のコトバ

「アンタ、ちゃんと神社に来るんだよ、待ってるけんね」

これが母と会話を交わした最後の言葉だった。
僕は約三年前に母親を亡くしている。23歳の時だったろうか。その当時から実家を離れて広島で過ごしていた僕は、滅多に実家に帰ることはなかった。

母親を亡くす二ヶ月前の正月に、たまたま帰省をしたのだが、実家でダラダラ過ごし広島に戻ろうとする時に上記の言葉を母と交わした。正月三が日も終わろうとしていた時のことである。

この日、いつもは普通に「じゃあ、広島に戻るわ」「あら、気をつけてかえりなさいね」と軽く言葉を交わす程度だったのに、なぜかこの時だけは母親が僕の車が停めてある場所まで見送りに来ていた。

これは本当に今でも不思議なんだけど、あの日、母に会った最後のあの日だけ母は名残惜しそうに広島へと戻る僕をいつまでも見送っていた。

実はこの正月の二ヵ月後にウチの爺さんの三回忌が控えていた。ウチの親父はチャランポランのアッパッパーなので三回忌の準備なぞ微塵もしない。長男である僕と母が中心となって準備をすることになっていた。

それであの最後のセリフだ。ウチの実家周辺は神教とかいうヤツで冠婚葬祭全てが神事になっていた。葬式も神社から神主さんがやってきてするし、墓場も神社の裏手にあった。寺や坊主ではなく、葬式は神社で神主だった。

だから、爺さんの三回忌も神社の神主さんに来てもらってやることになっていたのだが、母さん一人で神社に頼みに行くのはシンドイといこともあり、僕も一緒に神社に頼みに行こうという話になっていた。とりあえず正月に頼みに行くのはアレなので、一ヵ月後に日にちを決めて母親と神社で落ち合って頼みに行くことになっていた。

僕はこれから広島に戻らねばならないのに、その一ヵ月後にはまた神社に頼みに行くためだけに帰郷して来なければならないことに苛立ちを覚えていた。

「アンタ、ちゃんと神社に来るんだよ、待ってるけんね」

「うるせー!わかってるわー、ボケー!」

なぜだか妙にイライラしていた僕は、広島へと帰る車に乗り込みながらこう言ったのを今でも覚えている。

この当時の僕は実家に帰るたびにイライラしていた。たまに実家に帰れば母親が口うるさく叱ってくる。

「アンタ!ずいぶん痩せてるけどちゃんとご飯食べてんか?」

「なんね、その破れたズボンは!みっともない」

「アンタ!いっつも同じ服着とるけど、持ってないんか?」

「ちゃんと爪切りなさい!ほんとにもう」

「ちゃんとトイレ行ったら手を洗ってる?アンタはズボラだから。女の子に嫌われるよ!」

久々に会うからだろうか、とにかく口うるさく口うるさく、まさに親の仇というほどに口うるさく叱ってきた。いや、親が仇といった感じだった。

そんな口うるさい母親のマシンガントークに、心底イライラしていた僕。しかももう約束した一ヵ月後の神社訪問のことまで帰り際に口うるさく言われて、本当にカッとなってしまった。

それで反抗的なセリフだ。「うるせー!わかってるわー、ボケー!」と口汚い捨て台詞を残して車を走らせた。母はいつまでもいつまで姿が見えなくなるまで手を振って見送っていた。

そして約束の一ヵ月後。また帰省して母親と待ち合わせした神社に行かねばならなかったのだが、また帰ったら帰ったで口うるさく小言を言われると思い、行かなかった。帰るのが面倒だったというのもあるが、とにかく行かなかった。

そしてさらに一ヵ月の時が流れて。何の前兆もなく母は死んだ。

爺さんの三回忌は母の葬式に早変わりし、葬式に来た神主さんも、一ヶ月前に三回忌を頼みに来た人の葬式をやるなんて・・・などと驚きつつ嘆いておられた。

僕が最後に母と交わした言葉は「うるせー!わかってるわー、ボケー!」だった。口汚く母を罵ったイライラした最低最悪の親不孝息子のような救いようのないセリフが最後の言葉になってしまった。

どうして僕は、あんなにイライラしてたんだろう。

どうして僕は、あんなに口汚い言葉を吐いたんだろう。

どうして僕は、約束した神社に行かなかったのだろう。

全てが悔やまれる事柄で、心底自分のことが情けなくなった。恥ずかしさなんて忘れるほど情けなかった。できればあの日に戻して欲しいと何度も何度も思った。とにかくとにかく後悔した。多分、これからもずっとずっと後悔しながら生きていくのだろうと思う。

月並みな言い方だけど、全ての人に後悔なきように接するべきだ。何が最後のセリフになっても、何が最後のワンシーンになっても、後悔することないように人と接していく。それでもきっと大切な人を失った時は後悔することは山ほどあるだろうけど、少しは救われるんじゃないだろうか。そう思えるようになった。

もう少しで母の三回忌がやってくる。あの日の母との約束を守って、今年こそは母に会いに神社に行ってみようと思う。神社裏にある母の墓の前で、あの日の悪態を謝ってこようと思う。

そう、あの日の母との約束がある限り、僕はいつだって神社に行けば母に会える、そんな気がするんだ・・・。

3/2 思考のスイッチ

思い込みによる聞き間違いというのは本当に恐ろしい。

言葉による意思の伝達は、社会生活を営む上で最も基礎となる。これがなくては社会は成り立たない。重要だとか重要でないとかとは別次元の話で、あって当たり前のこと。普通に当たり前のように存在するのが言葉による意思の伝達だ。

けれども、人はしばしその思い込みから言葉という形でインプットした情報を錯誤してしまうことがある。自分の頭の中で、ここではこんなセリフが出るはず、ここでこんなセリフ以外のものが出てくるはずがない。そういった情報の受け手側思い込みが情報伝達の錯誤を引き起こし、コミュニケーションを破綻させる。

夕方ごろに街中を車で走っていた時のお話。
週末の夕暮れ時の街中は、若干ではあるが渋滞していて車はトロトロとしか進めない。そんな渋滞の列の中でイライラしていると、フイに空腹に襲われた。そうだ、もう夕食の時間だ、何か食べなくては・・・。

ふと前方を見ると、マクドナルドのMの看板が。なんというグッドタイミングだろうか、腹が減ったなと考えた瞬間にマクドナルドが出現するなんて。これはもう神のお告げに違いない。マクドナルドを食べよという偉大なる神の愛に違いない。

颯爽と車を走らせてマクドナルドに入店した。ちょっと時間がなくて、店の中で食べているような時間はないのでドライブスルーへと車を走らせる。ドライブスルーで何か手ごろな物を購入し、車を運転しながら食してやろうと考えた。どうせ渋滞で動かないんだし。運転しながら食べても大丈夫だろう、という甘い考えで。

「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」

ドライブスルーのカメラ越しに感情のこもっていない女性店員の声が聞こえる。

「あ、ナントカセットでお願いします」

なぜだか、こういう時って言葉の頭に「あ、」ってつけてしまう。なんでだろう。なんだろう。「あ、」って。自分で言いながら意味が分からない。

「サイドメニューをお選びください」

「あ、ポテトとコーラでいいです」

また「あ、」とか付けてるし。「あ、」を付けないと喋れないのか、僕は。

「他にご注文はございますか?」

「ないです」

これで注文は終了。オーダーを機械の向こうの女性が繰り返す。

「ナントカセット、サイドメニューはポテトとコーラ。それにナゲットでよろしいですね?

いや・・・。ナゲットなんて頼んでないんだけど。全く持って頼んでない。僕が頼んだのはナントカセット、ポテトにコーラだ。ナゲットのナの字すら言ってない。などと思うのですが、思い返してみると「他にご注文はございますか?」という質問を受けて「ないです」と答えている。

この女性店員、どうも「ないです」が「ナゲット」に聞こえてしまったみたい。いやね、普通に考えて聞き間違えるほど似ている文章ではないんですよ。「な」しか一緒じゃないし。でもね、マクドナルドの店員さんにとってはここで「ないです」と言うよりも「ナゲット」の方がナチュラルなんですよ。そういった思い込みがあるから聞き間違えたのだと思うのですよ。

それでまあ、本当なら「ナゲットなんて頼んでねえよ!このクサレアマ!調子に乗ってるとレイプするぞ。貴様のアナルをナゲットしたるわ」などと意味不明に口汚く罵ってですね、バシッとナゲットをキャンセルするべきだと思うのですよ。

でもね、極度に気の弱い僕にはそれができなかった。なんかキャンセルしたら悪いような気がして

「あ、それでお願いします」

とか敗戦国日本みたにナゲットを受け入れていた。結局、当たり前ですがナゲットの分も付加した料金を徴収されました。安く上げるつもりだったのに普通に定食を食えるぐらいの値段になってた。もう泣きそう。

商品受け渡し場所で渡されたナゲットを見て泣きそうになったもの。自分はなんて気が弱いんだろう、向こうの間違いでオーダーされたナゲット一つもキャンセルできないなんて・・・。弱いっ!弱すぎるわっ!ガハハハなどとヤケクソで自虐的に高笑いしたくなります。

でもね、思うのですよ。問題は僕の気の弱さでもなんでもないんです。最も憎むべきは「ないです」を「ナゲット」と思い込みで聞き間違えた店員です。あの、BoAを700回殴ったような顔した店員が悪いんです。そう、僕の気の弱さなんか問題じゃない。

でもまあ、こういった聞き間違いはカワイイレベルです。別に聞き間違えたところでナゲットを余分に買わされる位ですから。でもね、時にはこの聞き間違いがとんでもない悲劇を、とんでもない修羅場を引き起こすことがあるんです。

僕の思い出話なんかに度々登場する、近所に住む大金持ちのクラスメイト。彼は嫌なヤツで、出来れば友達として付き合いたくはなかったのですが、金持ちが故にファミコンは持ってるわ、お菓子を奢ってくれるわで、貧しい少年時代を過ごしていた僕は金目当てで友達づきあいをしていたんです。

性格も嫌なヤツで、意地悪なヤツ。それでもって負けず嫌いで、金に物を言わせて僕ら貧乏人を蔑んでいました。まあ、スネ夫とジャイアンを足して二で割ったようなヤツでした。金を持っているジャイアン、これほど厄介な物はない。

でも、そんな性格の悪い金持ち御曹司でしたが、一つだけ弱点がありました。金持ち故に栄養満点の物ばかり食べてるからでしょうか、彼はかなりデブだったのですよ。栄養満点のふくよかなデブ。

でまあ、人の身体的特徴をバカにするってのは良くないことなんですけど、御曹司が嫌なヤツ振りを発揮した時に僕らは「やーい、デブデブ」とか馬鹿にしてたんですよ。それが御曹司のコンプレックスになっていたのか、それだけでシュンとなってしまっていたのですよ。

特にその当時、小学生くらいの時だったのですが、僕らは「がんばれごえもん」とかいうファミコンゲームに夢中だったのですよ。御曹司の家で近所の貧乏人のクソガキどもが集まって「ごえもん」をプレイしてたわけ。

それでまあ、そのゲーム中にですね、道具屋かなんかに入った時だったと思うのですけど、道具屋の商人が「いらっしゃいませ〜」とか言いながら右に左に動くコミカルなアニメーションがあったのですよ。

そのコミカルなアニメーションが僕らの中で大ブレイクしましてね、ことあるごとにその動きを真似て「いらっしゃいませ〜」と動くのが流行したんです。でまあ、その御曹司のデブさをバカにする揶揄といつの間にか混じってしまいましてね、「デブっしゃいませ〜」とか言いながら御曹司の動きを真似る芸に発展していたのです。

御曹司が性格の嫌さを発揮するたびに「デブっしゃいませ〜」と言いながらコミカルに動く。それを見て御曹司は傷つきシュンとなってしまう。少年だったとは言え、僕ら貧乏人はかなり残酷なことをしていたと思います。

そして月日は流れ、僕らは高校生になりました。

御曹司は、ダイエットのためか自分を強くするためか知りませんが、高校に入ってから空手を始めたのです。道場に通い、自らを鍛えるために空手を。性格が悪い、おまけに金を持っている、その上空手によって武力まで身につけようとしている御曹司に恐怖を覚えたものです。

でまあ、僕らの仲間は、その当時には彼のデブさをバカにするようなことはなくなっていました。もうさすがに高校生ぐらいですから、他人の身体的特徴をバカにするのは良くないことだと分かってましたし、なにより武力を身に付けた御曹司が怖くて仕方なかった。「デブ」などと言おうものならズガンと踵落としでも食らいそうな雰囲気があったのです。

そんなある日のこと。僕らは少年時代と変わらぬメンバーで御曹司の家に集まっていました。御曹司自身は意味不明に風呂に入っていて部屋にはいなかったのですが、僕らはゲームをしたりマンガを読んだりとくつろいでいました。

そこで、ちょっと昔話になったのです。少年時代、「がんばれごえもん」とかいうゲームに燃えたよなという話題になったのです。それにともなって大ブレイクした「いらっしゃいませ〜」のコミカルな動きの話になったのです。

そこに風呂から上がってきたバスローブ姿の御曹司。デブ御曹司のバスローブ姿も突っ込みどころ満載だったのですが、それ以上に途方もない事件が待っていたのです。

御曹司が風呂を上がって部屋に行くと、少年時代の仲間たちがあれほど侮辱された「いらっしゃいませ〜」という芸をやっているのです。蘇る少年時代の思い出。蘇る屈辱の歴史。

もう、それを見て御曹司はプルプルしていました。少年時代あれほどバカにされたという事実から、僕らは昔懐かしい「いらっしゃいませ〜」という動きをしているだけなのに「デブっしゃいませ〜」とバカにされているように聞こえてしまったのです。思い込みによる激しい聞き違い。

おいおい、落ち着けって、誰もバカにしてないだろ。などといち早く御曹司の変化に気付いた僕が御曹司を抑えるのですが、もう御曹司は止まりません。いまだコミカルに「いらっしぃませ〜」などと右に左にコミカルに動いている友人に向かって

ぐおおおおおおおおおおおー

とバスローブ姿で突進していきました。もう僕には抑えられない。解き放たれた野獣。バスローブ姿の野獣。

あとはもう、空手を身に付けた御曹司です。並みいる友人をちぎっては投げちぎっては投げ。なんか白鳥のように華麗に蹴りとか入れてました。バスローブ姿で。まさしく蝶のように舞い蜂のように刺す。デブゴン御曹司大車輪の大暴れでした。

結局、僕らは昔懐かしいゲームの動きを真似ていただけなのに、幼少時代にバカにされた思い出があったためか、御曹司は自分のデブさをバカにされていると聞き間違えてしまったのです。

結局、血を流して倒れる友人数人。あとは鼻息荒く部屋の中に佇むバスローブ姿の御曹司。彼は少し泣いていました。

このようにですね、聞き間違えでナゲットが出てくるぐらいカワイイものなんです。実際に洒落にならない聞き間違えでこのような悲劇を招く事だってあるんです。デブ御曹司も僕らも傷つく惨劇が起こることだってあるのです。

何度も言うようですが、こういった聞き間違えってのは全てが思い込みの産物なのだと思います。マクドナルド店員はナゲットを頼む物だと思っているから「ないです」を「ナゲット」に聞き間違えるし。デブ御曹司はバカにされた辛い思い出があったからバカにされていると聞き間違えるのです。普通だったら聞き間違えないようなことも普通に聞き間違えてしまう、それが思い込みなのだと思うのです。

心が聴覚を超えてしまい、思考のスイッチを切ってしまう。それが聞き間違いを引き起こしてしまうという感じでしょうか。

僕だっていつも自分のこのサイト「Numeri」が職場バレするのが怖いという恐怖が常にあります。そういった思考があるから、仕事柄職場でよく「海のうねり」という単語が出てくるのですが、それが全部「海のヌメリ」に聞こえてハラハラドキドキしてしまいます。

職場バレが怖いという思いがあるから、「海のうねり」を聞いた瞬間に僕は思考のスイッチを切ってしまい、もう全てが「海のヌメリ」に聞こえてしまうのです。普通は間違えないのに思い込みがあるので間違ってしまう。それが思い込みによる聞き間違い。

だから今度、上司や同僚が「海のうねり」と言ったら、あの日の御曹司のように僕も聞き間違いをして大暴れするかもしれません。「ヌメリって言いやがって〜!!」と同僚や上司を殴る蹴る。バスローブ姿で殴る蹴る。そんな風に考えると、ますますサイトの職場バレが怖くなってしまいます。

3/1 クリフハンガー

近所のショッピングセンターみたいな場所に惣菜やらを買いに行った時のお話。なにやら幸せそうなファミリーやら枯れ果てた人妻やキュートな新妻の中に紛れて買い物をしていた時の事。

このショッピングセンターには、買い物する部分以外にも「ふれあいコーナー」みたいな、座ってテレビを見たりタバコを吸ったりジュースを飲んだりすることができる場所がある。

買い物を終えた僕は、ちょっとタバコでも吸おうとそのふれあい広場に行ったのだが、どうも普段と様子が違う。いつもは椅子が並べてあって、枯れたオッサンや無理やり買い物に付き合わされたお父さんが座ってタバコを吸ってるだけなのに、やけに人でごった返している。というか、椅子すらも撤去されていた。

椅子も撤去され、灰皿も撤去され、全ての物がなくなったふれあい広場コーナーで何をやっていたかというと、なにやらピンク色の数枚のパネルが並べられ、近くの小学校の児童が作成した版画展をやっていた。

版画を見ながら数人の主婦らが「上手ね」などと意見を述べ合ったり、自分の作品を見に来た小学生が恥ずかしそうに笑ったりと、ふれあいコーナーの名に恥じぬふれ合いぶりだった。

普段のように、タバコを吸うオッサンやらが座っているだけの「ふれあいコーナー」は実は全然ふれあっていない。好き勝手にタバコを吸っているだけ、ただの喫煙所に過ぎない。実はこういった版画の展示会などをやることこそが真の「ふれあい」なのだ。

「へぇー、最近の小学生は上手だなー」

などと、真の意味でのふれ合いを理解した僕は、買い物袋をぶら下げながらしばし展示されている版画に見入る。自分が小学生だった頃と比べてやけにテクニカルな版画たちに少し感動すら覚えた。それと同時に自分の中の版画に関する切ないメモリーが蘇った。

僕が通っていた小学校も、なぜかだか毎年3月くらいになると全校規模の版画展が催されていた。だから、ちょうど今ぐらいの時期になると版画ばかりをやっていたような記憶がある。冬=版画という思考が成立するほどこの時期は版画を彫っていた記憶がほとんどだ。

版画というのは面倒くさい物で、普通に絵を描く以上にやたらと工程が多かったような気がする。死ぬほど面倒、できればやりたくない、などと美術センス0の僕は冬が来る度に思っていた。

まず、下絵を描く。これは普通に絵を描くのと何ら変わりがないのだけど、後に版画にすることを考えて線画で描いていたような気がする。そして、その下絵をカーボン紙を使って気に写す。そいでもって、彫刻刀を使って木を彫り、最終的にはインクを木に塗って紙に写して完成だ。この最後のインクを塗って紙に写す部分だけは常に先生がやっていたと記憶している。僕らは横で見ているだけだった。傍目には彫った木にインクをローラーで塗り塗りするのが楽しそうでやってみたいと思っていた。

ある年の版画製作の時のお話。その年の版画のテーマは「スポーツ」だった。クラス中のみんなが各々得意なスポーツやら好きなスポーツのワンシーンを版画に写し出していた。

ある者は野球をしている光景を、ある者は陸上の幅跳びのダイナミックな瞬間を、水泳のワンシーンを水しぶきまで細やかに表現する者も。それぞれが静止画であるはずの版画に動きを表現し、躍動感を見事に演出していた。

そんな中で僕が描いたのは「じゃんけんをする三人のオタクっぽいお兄さん」。それぞれが三すくみで向き合い、グーチョキパーを出している絵。もう躍動感とかクソもなくて、ボケーとグーを出してるお兄さんとかだったからね。しかもスポーツですらないし。今更ながら思うけど、あの当時も僕ってバカだったんだと思う。

それでもまあ、じゃんけんの図を紙に描きまして、カーボン用紙を使って木板に絵をトレース。それに従ってサクサクと彫り進めていったわけです。皆が水泳やら野球やら陸上やらの躍動感のある絵を彫っている中で、シコシコとじゃんけんを彫っていたわけです。

しかしまあ、彫っていたといっても異常に不器用だった当時の僕。なにやら一本のラインを彫るのにも相当の時間を要していました。この版画は図工の時間を利用して彫っていたのですが、当然ながら遅すぎてその時間だけでは間に合わない。仕方なく家に帰ってからも彫るのだけど全然間に合わない。結局、僕の制作活動は遅れに遅れてしまい、周りの皆から取り残される形になりました。

図工の時間。この日は彫り終わった皆の作品をインクを使って印刷する日でした。先生がローラを使って木板にインクを塗っていき、紙を乗せてバレンだかアレンとかいう餅巾着みたいな物で擦る作業をやっていました。

次々と完成していく作品にクラスメートたいからは歓喜の声があがります。誰だって、自分が必死に彫った作品が紙に写しだされて完成形になると嬉しいものです。

「わー、○○君の凄く上手」

「どうやって彫ったらあんな綺麗な模様が出るんだろう」

「あーあ、私のちょっとインク塗るの失敗しちゃった。もう一回やって欲しいな」

などと、クラスメイトたちは躍動感あるスポーツ版画の出来を見て悲喜こもごもでした。そん中、まだ完成していない僕を含む三人は教室の隅で彫り作業。皆が熱心に印刷する影でシコシコと木板を彫っていたのです。

三人がまるで落ちこぼれのように教室の隅で彫り作業をしていたわけですが、その理由は千差万別でした。

まず、僕は異常に不器用で彫るのが遅かった為に印刷には間に合いませんでした。

松尾君は、ただ単純に面倒くさくて彫っていなかったために遅くなっていました。学校に彫刻刀を持ってこないわ、なかなか絵を描かないわで遅くなったのです。まあ、単純に怠け者だったみたいです。それでまあ、先生に怒られて嫌々彫り始めたという按配でした。

でも、後藤君は違った。彼は異常に上手すぎるために間に合わなかったのです。異常に上手で賞なんかも取れる可能性がある、そう睨んだ担任は後藤君に「とにかく遅くなってもいいから慎重に彫れ」などと命じていました。優等生だった後藤君はそれはそれは慎重に慎重に彫っていたために、ここまで遅くなったのです。上記二人とは明らかに遅れた理由が違う。

それでまあ、遅れ組三人はシコシコと教室の隅で木板を彫っていたわけです。僕の隣には怠け者松尾君が座り、その前に後藤君が座って慎重に彫っている、そんな構図でした。

僕のじゃんけんの絵も順調に進んで行き、後は手前でチョキを出すオタク兄さんの服の模様を彫るだけという所まで進んでいました。コレが完成したらやっと印刷に移れる。あっちでキャーキャーと自分の作品の出来を喜んでいるクラスメイトに混じることが出来る。それはそれは必死で彫りました。

その横で松尾君は「あー、面倒くせえ、面倒くせえ」とか呟きながらジョリジョリと彫っていました。確か彼はローラースケートをしている光GENJIみたいな絵を彫ってました。

面倒くさくて細かくシャリシャリと彫ることが嫌だったのが、シャーシャーとまるでローラースケートのように木板の上に彫刻刀を滑らせ、大胆に彫り進めていました。

そして、優等生後藤君の作品をチラリと見ると、さすがに担任が見込んだとおり上手な作品でした。棒高跳びかなんかで飛ぶ瞬間の選手を真正面から描いたような作品は、ガキの僕が見ても構図といい躍動感といい素晴らしい物でした。

「やっぱ後藤君はすごいな・・・」

自分のじゃんけんの図が急に恥ずかしく思えてきました。なんだよ、じゃんけんってと自分で自分を恥じ入るほどに蔑んで思えました。

「それでもこれが自分の作品なんだ。頑張って完成させなくては。もう少しで完成だし」

と、自分の作品が恥ずかしい物と思いつつも、なんとか必死にじゃんけんの図を彫っていました。

その間も、隣に座る怠け者松尾は、大胆に大きなストロークで彫っていました。

シャーーーーーーー

シャーーーーーーー

シャーーーーーーー

と聞いていて心地よくなるぐらい大胆に彫っていました。そして、その瞬間に事件は起こったのです。

シャーーーーーーー

シャーーーーーーー

シャーーーーーーー

ズル

ズボッ

なにやら小気味良い彫り音に混じって、異様な音が聞こえました。そして松尾君の「やべっ」という声。

何事かと思って松尾君の方を見ると、彼の手には彫刻刀がありませんでした。さっきまでこっちが気持ちよくなるほど大胆に彫っていたのに、その手には彫刻刀がないのです。

果たして彫刻刀はどこに行ったのだろう・・・と見回してみると、それは見事に松尾君の前に座る後藤君の背中に突き刺さっていました。プラーンと背中に彫刻刀が、三角刀が突き刺さっていたのです。

たぶん、あまりにダイナミックに彫りすぎたが故に、手が滑ってしまった松尾君。そのまま彫刻刀と彼の右手は宙を舞い前に座っていた後藤君にズブリと。

うわっ・・・。

と思い、突き刺した犯人である松尾君の顔を見ましたが、恐怖からか何からか知りませんがポカーンとした表情でした。故意ではないとは言え、人を突き刺した犯人の他人行儀な表情にビックリ。

でも、それ以上にビックリさせてくれたのは後藤君。いやね、彼は担任に言われたとおりに真剣に彫っていたわけではないですか。ジリジリと真剣に真剣に棒高跳びの絵を彫っていたわけです。そこにズブリと彫刻等が。

普通なら、ギャアーーという断末魔の悲鳴でも上げて痛みでのたうち回り、「短い人生だったけど、最高に楽しかったよ、ガクッ」と息を引き取ったりするものです。それを見て僕らは「ゴトーーッ」と涙ながらに・・・。で、志半ばで倒れた彼の意思を引き継いで僕が彼の版画を完成させる。そんな美談が待ち受けているはずだったのです。

ところがどっこい、彫刻刀が刺さった後藤は、普通にボリボリと真剣に彫っておりました。刺される前と何ら変わらず普通にボリボリと。背中に彫刻刀が刺さった状態で真剣に。どうやら後藤自身は全く気がついていない様子。

おいおい・・・いくらなんでも気付くだろ・・・

と思うのですが、気付いてないもんは仕方ありません。わざわざ、「後藤君、彫刻刀が背中に刺さってるよ」なんて教えるのも野暮ってもんだしな。

でまあ、刺した本人、松尾のヤロウを見てみると、相変わらず何が起こったか分からないのかボケーっとした表情。さすがにそれはマズイので松尾に話しかけます。

「おい、ヤバイんじゃない、あれ」

そうなんです、もう既に後藤君の背中に刺さった彫刻刀の周りからはジワーと血が滲み出ているのです。見るからにヤバイ。

結構な出血であるのに、それでも真剣に彫り続ける後藤君の姿はまさに鬼。版画の鬼。何が彼をそこまで版画に駆り立てるのか。

「抜いた方がいいんじゃない?」

などと松尾に忠告すると、やっとこさ我に返った松尾は、恐る恐る後藤君の背中に突き刺さった彫刻刀に手をかけます。震える手でゆっくりとゆっくりと、後藤君に気付かれないように抜きます。いや、なんで気付かれないように抜く必要があったのか分かりませんが、とにかく気付かせてはいけないといった雰囲気が漂っていたのです。

ズボッ

後藤君の背中に突き立てられた彫刻刀が抜かれました。その瞬間からピューピューと患部から血が飛び出してきます。いや、マジでマンガみたいに血が噴出してくるの。ビビったね、アレは。

背中から噴水のように血が噴出しているにも関わらず、真剣に彫り進める後藤君。その姿は異常そのもの。アンタおかしいって。君には痛みを感じる感覚がないのかい?と尋ねたくなるほど。血を噴出しながら版画て、有り得ない。

まあそんな後藤君の異常性はおいておいて、とにかくこの大量の血をなんとかせねばなりません。当の松尾なんかは「ちちちちちちちち」とかワケの分からないこと言ってる始末だし、さすがにここまで出てくる血を放置するわけにもいかないし・・・。

などと考えた僕は、ワケも分からず自分が彫っていた木板で後藤君の血を受け止めていました。「あわわわわわわ」とか言いながら必死に木板で受け止めてた。何がそうさせたのか分からないのだけど、とにかく受け止めなきゃって気持ちが一杯だった。

見る見ると血の色に染まっていく僕の木板。じゃんけんの絵が描かれた木板。それでも、血の量は相当なものでA3の木板では受け止めきれない。じゃんけんの絵を伝ってボトボトと血が滴り落ちてくる。あああああ、せっかく頑張って彫ったのに・・・とか思ってると、

キャーーーーー!!

とクラスの女子の悲鳴。教室の片隅で行われていた血みどろの惨劇をついに目撃されてしまった。

それからはもう大騒ぎで。自分の背中からリアルタイムで血が噴出している事実に気がついた後藤君は痛みで大暴れするわ、必死で皆の版画にローラーでインクを塗っていた担任は「救急車!救急車!」と大騒ぎだわ。女子はあまりの血の量に悲鳴をあげ、倒れるヤツが出る始末。朗らかに版画の印刷するクラスの風景は、一気に地獄絵図と化しました。

それでもって、刺された後藤君は担任に抱えられて教室を出て行きました。多分、救急車かなんかで運ばれたのだと思います。

そして僕の手には血みどろの「じゃんけんの絵」の木板だけが残されました。

折角なのでこの血を利用して印刷してみようと思い、そのまま騒然とする教室内を駆け抜け印刷パートへと行き、紙をあてがってバレンだかを必死にあてて印刷しました。そう、インクを付けずに後藤君の血でそのまま印刷を。

そうして出来た「じゃんけんの版画」は、赤黒い色でかなり異様でした。途中で血が固まったためか所々がかすれ、さらに血が垂れるようなデロデロとした演出のおまけ付き、格段に不気味さを引き立たせていた。朗らかなじゃんけんの場面を描いたはずなのに、血で印刷したことによってその光景は地獄絵図に。まさに死のじゃんけん、地獄のじゃんけんといった趣でした。

この版画はさすがに提出するわけにはいかず、ひっそりとゴミ箱に捨てられたのですが、僕の心に与えた印象は鮮烈なものでした。

それ以来、版画などを思い浮かべると必ずと言って良いほどあの血の版画が思い浮かびます。血のじゃんけん、死のじゃんけんが。それはそれは鮮明に思い出されるのです。

そんな気持ちでショッピングセンターのふれあい広場に並べられた小学生たちの版画を眺めていたら、後藤君の鮮血の思い出が蘇りました。並べられた作品群も黒インクであるのに血のインクに見え、朗らかに笑うファミリーも血みどろに、主婦すら血だるまに見えました。そう、ふれ合いの光景すら地獄絵図に思えてきたのです。

血みどろのふれ合い広場、オソロシやオソロシやと買い物袋片手に家路へとついたのでした。帰ってから食べたショッピングセンターの惣菜やら弁当は特に美味しかったです。特に栗ご飯が。


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