Numeri
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9/9 パイオツ 「オッパイ」のことを「パイオツ」と呼びたい。何が何でも呼びたい。親が死んでも呼びたい。とにかく呼びたい。もう「パイオツ」のことしか考えられない。 そんなもん勝手に呼べばいいじゃねえかとお思いの方も多いと思いますが、ちょっと落ち着いてください。落ち着いて聞いてください。言葉ってのはあなた方が思っている以上に重いものでありまして、気軽に発する言葉ほど危なっかしくて脆いものはないんですよ。 それこそ「言霊」なんて言葉があるように、言葉にはある種の神秘めいた力がある。それ故に、どんな言葉でも気軽に発して言い訳ではない、逆を言えば言葉がその人を選ぶという現象が確かにあるんです。つまり、その言葉を発して良い人間と悪い人間、二通りの存在が確かにあるんです。 こんな話があります。ウチの職場では毎年夏になると河原でバーベキューをするという、ちょっと面倒くさいっていうか、ちょっとどころじゃない面倒くささというか、とにかくできることなら参加したくないイベントがあるんですね。 そこでは偉そうにレジャシートに横たわる上司に対して若手がこんがり焼けた肉を持っていったりね、綺麗どころの女の子が「いやーん」とか言いながら上司のセクハラに耐えたりね、挙句の果てには酔っ払った上司に「この給料泥棒!」とか罵られちゃったりする1ミリも楽しさを見出せないアウトドアイベントなんですよ。ホント、全員ゲリラ豪雨で増水した濁流に流されればいいのに。 そんな事情もあってか、ここ2年ほどは参加していない、むしろ誘われない状態になっているのですが、あれはこの職場に来て1年目の夏だったでしょうか、やはり最初なので職場の面々と打ち解けなければならない!という強烈な使命感に燃えていた僕は、意気揚々と、それこそ、僕はボーイスカウトに入っていたのでアウトドアとかマジ得意っすよ!などと言わなくてもいいお得情報まで付与して参戦したのです。 さて、初めての職場バーベキュー大会、ほとんどの同僚の顔と名前が全然一致しないのですがそれでも頑張りましたよ。偉そうにふんぞり返っている上司に酒を勧めたり、野菜が切れなくて困っている女子社員の代わりに刻んだりと大ハッスル。 こりゃあ間違いなく打ち解けちまったな、明日から職場の人気者だぜ、ちょっとしたオフィスラブも、ムフフ、みたいな感じで僕自身も自画自賛。そんな折、とんでもない事件が起こったのです。 「あー、油がないや、油ってどこにあったっけ」 「確か「にゅうとう」さんが知ってるよ」 「あ、そうだったね。「にゅうとう」さんが買ってきたんだった」 今まさに肉を焼こうかというその時ですよ。なぜだか油がないとかなんとか、バーベキュー用の網に思いっきり油を塗りたくって焼くつもりだったらしいんですけど、その油が見当たらない。で、その油を「にゅうとう」さんが持ってるって言うじゃないですか。 そういえば、「にゅうとう」さんって、バスから降りたときに幹事っぽい人に話しかけられてた人がいたなー、「にゅうとうさん」て呼ばれて満面の笑みで返事してたから印象的に覚えていたんですよ。ちょっとオッパイでかかったですし。 「じゃあ僕がちょっと聞いてきますわ」 まあ、言うたら僕は新参者じゃないですか、そういった雑用を引き受ける度量の大きさを見せ付ける必要がありますし、なにより「にゅうとう」さんなら顔と名前が一致している、もう覚えてるんだぜって部分を存分にアッピールする必要があったんですよ。おまけに僕はボーイスカウトの経験もありますし。 それにしても「にゅうとう」さんって変わった名前だな、入湯とかそういった漢字で名前を書くんだろうか、って思いつつも河原で作業していた「にゅとう」さんを発見。 「にゅうとうさーん、なんか皆が油を必要としてるみたいです」 って、すっごい爽やかな感じで話しかけたんですよ。 そしたらアンタ、「にゅうとう」さん泣き出しちゃいましてね、それはそれは物凄い勢いで泣き出すんですわ。ハッキリ言って意味わかんないんですけど、もうとにかく大泣き。それも「えーんえーん」って感じじゃなくて「オッオッオッ!」ってな感じの本気泣き、加藤イーグル師匠にねちっこく責められて喘いでるAV女優みたいな声出しやがるんですわ。 さすがの僕も困惑しちゃいましてね、もうどしていいのかもわからず、こりゃあ河原の小石でも積み重ねるしかないと思ったんですけど賽の河原みたいになるのでやめておき、呆然と泣き叫ぶ「にゅうとう」さんを眺めていました。 そしたらお局さんみたいな人がとんでもない鬼の形相でやってきましてね、賽の河原で言うところの奪衣婆みたいなもんなんですけど、その婆が言うわけですよ。 「ちょっと!斉藤さんになにしたの!」 みたいなね。おいおい、「にゅうとうさん」は本名じゃなくて斉藤さんが本名なのかよってなもんですよ。こりゃあ何らかの禍々しいスイッチをおしてしまったのかもしれないと思いつつ、良く分からないけど謝っておきました。 結局、斉藤さんの「にゅうとう」という呼び名はそのまま乳頭のことを差しており、詳しくは教えてもらえなかったのですが、過去に斉藤さんが引き起こした乳首的な何らかの事件によってその呼び名が定着したとのこと。まあ、たぶん、乳首がポロリとなったとか、その乳首がマキシシングルぐらいの大きさがあったとかそんな事件でしょう。 で、「乳頭」という呼び名が定着したものの、斉藤さんは心のどこかでその呼び名を嫌っていた。そりゃあ誰だって嫌に決まってる。楽しく愉快な職場の同僚にそう呼ばれるのは百歩譲って我慢しよう、けれどもなぜ新参者にそう呼ばれなければならないのか。なぜあんな小汚い男に言われなければならないのか。なぜあんな顔がブサイクで鼻毛とか出ている男に言われなければならないのか、おまけに足も臭いくせに、とまあ、そんなところですよ。 結局、言葉ってのはある種の資格みたいなものでして、例えばある言葉を発するにあたっては、その人に資格があるかどうか判定されるわけなのです。「おっぱい揉ませろよ」とかなんて、彼氏とかに言われたら「まあいいか」みたいになりますけど、訳分からない男に言われたら通報レベル。そういうことなのです。 つまり、僕にはまだ斉藤さんを「乳頭さん」と呼ぶには資格がなかった。資格もないのに平然とそのセリフを発したものだから途方もない大惨事を招いたのです。ホント、なんとなく気まずくて肉食べずにモヤシばっかり食う羽目になったもの。 とにかく、どんな言葉を発するにしてもそれ相応の資格というものが存在する。そこで冒頭の「オッパイ」を「パイオツ」と呼びたいという話に戻るんですけど、これってね、呼びたいから呼べばいいじゃんって話じゃないでしょ。明らかに僕は「パイオツ」と呼ぶには資格が足りない、そう思うのです。 では、どんな人間が「オッパイ」のことを「パイオツ」と呼ぶ資格があるのか、それを論じるには少年時代に遡ってなぜ「パイオツ」に憧れるのか、そこから話をしなければなりません。 あれは90年代初めのことでした、中学生だった僕は友人から来た年賀状を眺めていた。当時は年賀状テロという誰も得しない遊びが流行っており、猥褻なイラストを渾身の力で書き上げて友人に送るという遊びが大ブレイクしていたのだ。 僕も正月からクラスメイトを徹底的に辱めてやろうと渾身の力で女性器のイラストを書き、その横に「あけましておめでとう!今年もヨロシクね!」と、あたかも女性器が喋ってるようなコミカルなイラストを描きあげ、今考えると、何をどう間違ったら女性器から「今年もヨロシク」などと言われる身分になるのか皆目検討もつきませんけど、とにかく書き上げたけど出す勇気がなくてそのまま出さなかったてことがあったんですよ。 当然、友人たちは思いっきり下々の者たちみたいな猥褻なイラストを書き上げて僕の元に送ってくるわけですよ。やつらには躊躇ってもんが全くない。ウチの母さんをモデルにしたエロイラスト年賀状とか平気で送りつけてきやがる。 で、そういった猥褻年賀状を最初に見るのがウチの両親なわけで、正月ということもあって若干テンションの上がってる両親に思いっきり見られて徹底的に辱められるのです。 でもまあ、そういった悪ノリ的な年賀状テロにあっても、やっぱ中学生じゃないですか。中学生男子って不思議な生き物でして、それこそ発電できるんじゃねえかってくらいにエロには興味あるんですけど、とんと女性器に興味がない。いや、興味はあるんですけど、そういうのって結構未知の領域というかアウターゾーンですから、あまり手出しができないんですよね。結果、エロというとダイレクトにオッパイになっちゃうわけで、同級生たちのテロ年賀状も大半がオッパイを描くところまでで止まってました。 逆説的に言えば、中学生レベルで女性器まで描ききってしまうってのは末恐ろしいというか将来が未知数というか、末は博士か大臣か性犯罪者かってレベルでして、やっぱ健全なる中学生ってオッパイ止まりなんですよ。 そんな感じで、どいつもこいつもオッパイばかり、キラリと光る逸材はいないものかって感じでテロ年賀状どもを眺めていたんです。深いため息とかついていたかもしれない。 「いいパイオツだな」 そこにやってきたのが親戚のオジさんですよ。正月ということでやってきたんですけど、まあ、なんていうか根っからの遊び人でしてね、方々で借金を繰り返し、全国各地を放浪しているみたいなオジさんで、親戚中からは嫌われてましたけど僕はヒッソリとその生き方に感銘を覚えていたんです。 でまあ、そのオジさん、普通の親戚なら正月にやってくるなんてお年玉を標準装備してるものなんですけど、やはりウチの両親に借金をしにきたみたいで金なんて持ってない、正月における親戚の最低ランクに位置されるべき人間でした。しかも第一声が「いいパイオツだな」ですからね、ここまでのクズと血が繋がってるかと思うと逆にゾクゾクしてくるわ。 「なにしにきたんですか」 このオジさんの場合、本気で子供の小遣いすらも狙いかねないので僕の心もざわめき、いたずらに警戒心が増していきます。 「ちょっとお前のクラスの写真見せろや」 非常に冷淡に対応する僕なんか微塵も気にしないといった様子でズカズカと部屋に入り込んでくるオジさん、物凄い素早さで机の上にあったクラスの集合写真を手に取るんです。 「あ、やめてよ」 ビックリしてそう叫ぶ僕を気にもしない様子でマジマジと写真を眺めるオジさん、そして右手を顎にあてがいながらしたり顔でいいました。 「コイツはパイオツがイマイチだな」 え、なんなの、この大人は何を言ってるの。普通、親戚の子供のクラス写真とか見たら、もっと僕の凛々しさとか利発そうな感じとか、そういうのを第一声で指摘するべきではないの。そうまで言わなくても、やっぱオジさんだって男ですから女の子とかに目が行くのも分かります。それでもやっぱり顔がカワイイとかそういう部分から入るのが礼儀じゃないですか。なのになんでオッパイの良し悪しから入るんですか。なんでオッパイのことパイオツって言うんですか。 もう混乱しちゃいましてね、ハッキリ言ってそういった性的なことって血縁者と喋りたくないじゃないですか。そういった恥ずかしさもあってマゴマゴしていたんですけど、オジさんは微動だにしない賢者の様相で次々と 「このパイオツは良い」 「このパイオツにはガッカリだ」 とか次々に言ってるんですよ。見るとクラスの女子全員を右端から次々と判定してるんですよ。それもオッパイだけで判定してやがる。 「え、でもこの子はカワイイよ」 僕もまあ、好きな子とかいるじゃないっすか。やっぱクラスにいるじゃないですか。カワイイ子じゃないですか。そのへんの部分について反論するんですけど、オジさんは鬼監督みたいな表情になって 「いいや、この子はダメなパイオツだ、こっちの子にしなさい、この子はいいパイオツだ」 などと、クラス一のブサイクフェイスで、男子の間からリュックサックっていうあだ名をつけられたブスを指差してました。リュックサックって物ですからね、荷物入れるカバンですからね。僕もまあブサイクフェイスには自信というか自負がありますけど、この子も負けず劣らずブサイクフェイス、その子を差して「GOOD!」とかいってるんですからね。 「いいか、顔や性格なんてオマケに過ぎない。女ってのは全てがパイオツに集約されるんだ。まあ、まだお前らの年頃じゃわからないだろうけどな」 ニヤリと笑いながらそういうオジさん。もう世間的に見たら明らかにダメな大人なんだろうけど、なんだかその時はこのオジさん、異常にカッコイイと思ってしまった。 世の中には綺麗事なんていくらでも転がっています。恋人にするなら性格が、恋人にするなら顔が好みで、そんなことはいくらだって言えます。でもね、アナタの周りにいますか、女はパイオツが全てだ、そう子供に言い切れる大人がどれだけいますか。その良し悪しは別として、そう言い切れることが素直にカッコイイと思った。 僕もオジさんのようになりたい。彼のように平然と思ってることを言ってのける、自らの信念を譲らない大人になりたいと思った。そして、何のためらいもなくオッパイのことをパイオツと呼びたい、憧れと希望はまるでアドバルーンのように膨らんでいった。 とまあ、そういった経緯で「パイオツ」に憧れているわけなんですが、何度も言うように僕にはその資格はない。 では、パイオツと呼ぶ資格があるのはどんな男なのか。もちろん、オッパイのことに熟知していなくてはいけない。パイオツという響きにはオッパイのことを知り尽くした熟達者のような情感すらある。オッパイのこと全然分かってないのにパイオツなんて呼ぼうものなら、この若造が!などと一喝されてしまうことだろう。 そして、そう呼ぶには何か軽やかな軽薄さが必要な気がする。業界人だとか遊び人だとか、ある種の軽やかな人だけがパイオツと呼ぶ資格を手にしているかのように思う。 それを踏まえて思い返してみると、軽やかという部分では僕自身もクリアしているのではないか。確かに業界人だとか遊び人ではないのだけど、こう、仕事場での立場の軽さとか、仕事に対する姿勢だとか、思いつめるものが全くないという立場は明らかに軽やかだ。 しかしながらもう一方の方、オッパイについて熟知しているかというとそうではない。いや、むしろ僕はオッパイのことを全然分かってない。オッパイの右も左も分からない。こんな僕にそれをパイオツと呼ぶ資格なんてないのだ。 例えばね、アンタら、オッパイって聞いたら何を想像しますか。柔らかい、揉みたい、吸いたい、いやいや、確かにそうですけど、それって全然おっぱいのこと分かってないと思うんですよね。 もっとこう、オッパイのイデアっていうんですか、オッパイの真実というか定義というか、そういうのに迫らないとダメだと思うんです。そもそも、アンタらそんなにオッパイが好きじゃないでしょ。本質的にはオッパイが装備されてる女が好きであって、オッパイそのものにそんなに興味はない。そんな状態でオッパイ好きとか聞いて呆れるわ、ふざけるなと言いたい。ふざけるな。 そもそも、真のオッパイ好きってヤツは、もうフワフワとオッパイだけが浮いてる状態でもオッパイを愛せないとダメだと思うんです。そんなね、アンタ、オッパイだけが堤防の土手を彷徨ってたら怖いですよ。気味悪いですよ。でもね、真のオッパイ好きはそれでもむしゃぶりつく。舐めまわす。家に持って帰る。そこまで出来る男こそがパイオツと呼ぶに値すると思うんです。 そんなこんなで僕はさすがにそこまでやりきる自信がありませんから、自分自身の未熟さを痛感しながら、まだまだ「パイオツ」と呼ぶ資格はない、と痛感していたんです。 そんな思いが渦巻く先日のことでした。 ウチの職場にはジュースの自動販売機が置いてある休憩所みたいな場所があるのですが、まあ、そこでコーラを飲みつつ仕事をサボるのが僕の日課みたいなものなんですよね。そこでまあ、いつものようにデカいコーラを買って椅子に座ってくつろいでいた時のことでした。 キャイキャイだかヤイノヤイノだか知りませんが、女性社員が数名、束になって休憩所にやってきた様子で、なんか一気に良い匂いがしました。でまあ、女の子たちもジュースとか買いますわな、ここでガツンとコーラでも買ってくれたら涎が出るほどいい女なんですけど、女の子ですからお茶とか買うんですよ。ヘルニア緑茶だか何だか知りませんけどそういった極めてソフトな飲み物を買うんですよ。 で、向かい側のベンチに座ってキャイキャイと話し始めましてね、やれ美味しいランチだとか、やれ注目ドラマだとか、やれ占いだとか、そんなことよりインキンの話とかしようぜ、生々しい話しようぜ!って言ったら阿鼻叫喚の生き地獄になりそうな女の子らしい会話が展開しておったんです。 まあ、僕はそういった会話を聞きながら黙ってコーラを飲み、今テロリストがやってきて職場を制圧、横暴なテロリストどもは女子社員全員に服を脱ぐように要求し……的なことを考えて独りでニタニタしてました。 でまあ、普段ならここで「何あの人キモチワルイ」的な流れになるんですけど、どうやら最近僕はモテてるみたいで、何か知らないけど、すごくj好意的に話しかけられちゃったんですね。確か女性たちが映画の話をしてたんですけど、その中で集団の中でも一番おセックスに積極的そうな女性が僕に言うんですよ。 「ねえpatoさん、最近オススメの映画とかありますか?」 おいおい、俺と寝たいのか、ってなもんですよ。まあ、僕も急に話しかけられても対応できませんからドギマギしつつ何か無難な返答をしていたんです。 するとまあ、女の子って会話の移り変わりが激しいんですね、僕が「オススメの映画……」って考えている間にも話題が変わってまして、何か最近ブラジャーがキツイ的な話題が展開していたんです。 「なんかきつくってさー」 「それってサイズあってないんじゃないの」 「マジ、大きくなったんじゃない?揉んじゃうぞー、ええーい」 「きゃー」 みたいな、何らかの謝肉祭みたいな様相を呈してきたんです。もう、こう、ワサワサと揺れるっていうんですか、女の子同士でじゃれあっているんですけど、そうなってくるとオッパイのことしか考えられなくなるじゃないですか。 よくよく考えてみると、今この休憩所には6人の女性がいるわけで、単純計算で12個のオッパイ。これは数学ではなく算数の世界です。で、12個のオッパイをピラミッドにした場合、3段のピラミッドが2組できる計算になります。ここからがちょっと難しいのですが、そのピラミッドを無数に並べてピラミッドの形状に並べたとしたらどうなりますか。そうですね、オッパイのフラクタルです。そうなってくるとオッパイ自身もピラミッドの形状に相似であると考えると無限の宇宙が広がるわけです。マクロで見てもミクロで見てもオッパイになるという何とも不思議な図形が存在するのです。 まあ、そんなことはどうでもいいんですけど、普通に考えて僕はやっぱりオッパイが好きだ的な考えに至ってしまいましてね、オッパイが存在しない彼女たち6人と、オッパイだけが6組12個、双方が崖から落ちようとしているとします。おいおい、崖の上に柔らかいオッパイがあるから崖の上のポニョだって?そんなベタなことは書かないよ、絶対にだ。そんなベタなこと書くやつの人間性を疑うわ。 でまあ、どっちかしか助けられないって状況になったらどうするか。これはね、本気で悩みますよ。やっぱ落ちかけてる6人ってのは尻軽ですし、多分陰で僕の悪口とか言ってますから、迷うことなくオッパイ12個を助ける、と言いたいところですが、やはり人命って尊いものでしょ。6人にだって生きてきた軌跡ってのがあって、失恋して悲しんだり人間関係に思い悩んだり、部活を頑張ったり、そういった僕なんかじゃ想像に及ばないことを沢山経験してきて今の彼女たちがあるんです。その彼女たち6人の命の灯火が消えてしまう。それはオッパイ12個よりも確実に重い。やはり彼女たちを助けるのが人間ってものでしょ。 でもね、やっぱり僕はその状況になったら12個の悩めるオッパイたちを助けちゃうんだと思います。だってオッパイって柔らかいやん。神秘やん。なんか揉むとポニョポニョしてて崖の上のポニョやん。 うんうん、やっぱ僕は12個のオッパイを助けるわ、と独りで納得していたその瞬間、脳髄に稲妻が走ったのです。 僕、オッパイだけを愛しているのかも。 多分きっと、オジさんだったらオッパイを助けると思う。そして僕だってオッパイを助けるだろう。これはもうオッパイだけでも愛せてしまうということなんじゃないだろうか。へへ、やっぱり血は争えないものだな。 これすなわち、オッパイのことをパイオツと呼ぶ資格を手に入れたに他なりません。ついに言える、言ってしまえるのだ。あの遠き日の憧れ、パイオツと魅惑の言葉を口にする事ができるのだ。あの日のオジさんのように、優しかったあのオジさんのように言うことができるのだ。空を見上げると青い空にオジさんの笑顔が浮かんでいた。 次話題を振られたら言うぞ、僕は言ってしまうぞ。オジさん、僕はついにあの言葉を口にするよ、オジさんも草葉の陰で見守っていてくれ。まだ全然生きてるけど見守っててくれ。 「そうそうpatoさん、私、この間花火大会でpatoさん見かけたんですけど、イカ焼き屋台の前で。来てました?」 「パイオツ」 まあ、色々と終わりですわな。阿鼻叫喚の生き地獄。ここでギャーヘンタイ!とかギャーセクハラ!とかギャーカオガブサイク!とでも騒いでくれたら良かったんですけど、まるで何事もなかったように彼女たちは去っていき、沈痛な雰囲気だけがその場に残されました。やはりお前らは助けてやんない。 結局、僕の言葉が彼女たちに受け入れられなかったのは、やはりまだまだ僕にはパイオツと呼ぶ資格がなかったということだろう。もっとオッパイのことを勉強し、熟知しなければならないのだ。 言葉とは資格だ。カッコイイことを言うのだって、偉そうなことを言うのだって、説教臭いことを言うのだってどれも簡単だ。それっぽいことを言えばいいのだ。けれども、そういった言葉を発する資格を手に入れるのはなんとも難しいものなのだ。 ちなみに、その場では何もなかったけど、その女性6人の中に「乳頭さん」がいて、またオッパイ的なことを言われた、親しくもないアイツに言われた、と乳頭さんは職場に戻って泣いていたらしい。非常に申し訳ないと思うのだけど、もう何年も一緒に仕事しているのに僕はまだ親しくなくてその資格がないのか。ちょっとひどくないか。 8/28 恋のハイオクは満タンで 皆さんはお気づきのことかと思いますが、我がNumeriのトップページ左上には燦然とメールアドレスが明記されているわけで、何も隠すことなく、普通は「@」の部分を別の記号に置き換えてスパムメール対策をするなどの策を講じる場合がほとんどなのですが、それこそ堂々と何も小細工することなく明記しているわけなのです。 別にNumeriにはメールフォームがあるわけで、そこから日記の感想など送れるわけで、それこそ「今日の日記面白かったです!」「patoさん抱いて!」「早く後編書け!」的な桃源郷メールがガンガン送れるわけで、別にメールアドレスを記載する必要はないわけなんですね。現に、メールフォームだけで返信できないくらいメールを頂いて大変ありがたい状態になっておりますし、鳥取在住の主婦さんから毎日のように頭のおかしいメールが来たりします。 では、なぜメールフォームとは別にメールアドレスが記載されているのか。メールが欲しいならメールフォームだけでいいじゃん、となるわけなのですが、今日はそのへんの謎を解明してみたいと思います。 まず、なぜメールフォームだけではダメなのか。これを説明するのに一番手っ取り早い方法は、実際に使ってみることです。さあ、このページ左側にあるメールフォームを使って実際にpatoにメッセージを送ってみましょう。今日あったこと、普段からNumeriに対して思っていること、なんでもいいのです。とにかく送ってみましょう。メールアドレスとかもきちんと記入してみるとたまに返信があったりしてオススメです。 さて、送ってみて気がついた事がありませんか。そう、確かにメールフォームは万能で、「抱いて」などと電子化されて即座に僕のメールボックスに送ってくれるのですが、逆にそれまでと言ったらそれまでなのです。そう、メールフォームでは文字しか送れない。 ここで、Numeriの文章にドキドキし、ああん、patoさん、などと胸を痛めている21歳女子大生が存在すると想像してみてください。21歳女子大生は豊満に実ったたわわなFカップだけが自慢で乳首だってピンクです。そんな彼女が僕に対して思いを伝えるのにメールフォームだけじゃあ物足りない。そりゃあ文字だけで「わたしFカップです」なんて男でも書けますからね。そうなるとどうするか。そりゃあFカップの画像を添付してメール送ってくるに決まってます。 そうなるとですね、メールフォームからじゃあ画像は添付できないんですよ。Fカップ送れないんですよ。その豊満な胸の内に秘められた思いの丈を伝えられないんですよ。これはもう笑っている場合じゃないですよ、重大な死活問題です。 そういったわけで、我がNumeriは21歳Fカップの画像が添付できるよう、メールフォームとは別にしかとメールアドレスが記載されているわけなのですが、なんとも世知辛いものですね、今まで6年以上もNumeriやっていてFカップ画像が届いたことなんてありませんし、むしろEカップも、Dカップも届いたことがありません。どうなってんですか、これ。 そういった魅惑のメールが全く持って届かないのに、ページ上部に思いっきりアドレスを記載してるもんだから悪辣な業者によるスパムメールが届く届く。もうこれでもかってくらいに詐欺的情報商材やエロスな出会い系サイトのスパムが届くんですよ。 「今日こそお時間頂けませんか?」 これはまあ、アクセスすると異常な料金を請求されちゃう悪質出会い系サイトの誘引メールですが、こうやってメールの件名で魅惑的に誘うことによりなんとかアクセスさせようとしているわけですね。 「リッチなお姉さんと魅惑の時間」 これも素晴らしい誘いメールです。リッチなお姉さんというのがポイントで、獣のようにまぐわってくれるのと同時に、リッチですからホテル代とかまで出してくれそうです。気を抜いたらアクセスしちゃいそう! 「フェラチオだけしかとりあえがありませんが…」 あんたね、それは反則だろ、反則。こうなんていうか、男を喜ばせることしか考えてないみたいな魅惑の女性が電脳世界の向こう側に居そうで危うくアクセスしそうになるじゃないですか。 「わたし、どうなっちゃうの…!」 こっちが知りたいです。 「過激!アナルをペロス!」 意味が分かりません。 もうこんなメールが日に何百通と届いて、ズラーッと受信メール一覧に表示されるわけですよ。向こうだって商売ですから、とにかく勝手にメール送ってきて、とにかく読んでもらえるような件名をつけまくっとるわけなんですよ。 あんたね、これどう思いますか。このカオスなメールがいっぱい詰まったメールボックスをどう思いますか。例えば、僕が恋をするじゃないですか、まあ、色々とデートしたり変な棒出したり入れたりしますわな。そうこうしているうちに僕だってもう32歳ですから色々と考えるじゃないですか。で、あれよあれよという間に相手の家に行ってご両親に挨拶するみたいな、考えただけで酸素が薄くて死にそうになる状況になるじゃないですか。そんな場面で向こうの親父さんが「娘はやらん!」みたいに憤慨しちゃってね。まあ、お父さんは娘がいなくなるのが寂しくて言ってるだけで、僕の誠実さとか伝わるんですけど、お互いに緊張も解けてきて雰囲気的に和やかになり、親父さんも「娘のことをよろしく頼むよ」みたいな雰囲気になるじゃないですか。そこで親父さんが「pato君、ちょっと申し訳ないが君のメールボックスを見せてくれ、娘をやるかどうかの判断はそれからだ」なんて言われたらどうしますか。フェラチオとかの単語が踊り狂ってるメールボックス見られたらどうしますか。一発アウトっすよ。哀れ僕らは親の手によって引き離されるロミオとジュリエット、最後は心中とかします。 そんなこんなで、こういったカオスなメールボックスってのはいかがなものとかと思い、さすがの僕も心中とかマジ勘弁なので、いつ見せろと言われても良いように最近はこまめに削除するようにしているのですが、そうやって削除している中、一件の魅惑的なメールが。 「ボーイズラブ小説の書き方」 いやね、いやね、落ち着いてください、落ち着いてください。なんなんですか、これは。ボーイズラブ小説ってアレでしょ、なんか今流行の男と男の恋愛を描いたっていう、いわゆる腐女子というか、髪型がナチュラルにミーシャみたいになってらっしゃる女性の方に熱烈に支持されていて、どんなドラマやマンガでも男が2人いたらすぐカップリングしちゃって性描写をはじめちゃうような邪悪なる創作カテゴリじゃないですか。 そういうのは一つの文化だと思うし、別に勝手にやっててくださいって感じなんですけど、それをスパムメールにして送付しちゃう業者の意図が分からない。どんなエロスなスパムメールでもその先には金儲けの匂いっていうか、曲がりなりにもビジネスモデルってやつが存在するじゃないですか、各請求だったり詐欺だったり、その先には金の匂いがプンプンしてやがる。 けどね、「ボーイズラブ小説の書き方」ですよ。ホモの話描いてどこから金が生み出されるのか全く分からない。どうしていいのか分からない。わたし、どうなっちゃうの…!知るか。 とにかく、こりゃあどんな詐欺が潜んでいようとも、いや、むしろどんな詐欺なのか知りたい、とにかくアクセスしてみねば!といった感じで思いっきりメールを開いて見ました。 するとまあ、中にはとんでもないことが描いてありまして、「世の中の20代女性の8割がホモが好き」みたいな田嶋先生が聞いたら怒り狂いそうなことが書いてありました。とんでもない。マジ、本当にそうなの? それからなんか、だから今ボーイズラブ小説が熱い、みたいなこと書いてあって、自分でボーイズラブ小説を書いてサイトに投稿しよう!みたいなことになってました。見てみると、その投稿するサイトが思いっきり悪質出会い系サイトみたいなヤツで、たぶん投稿したら「小説読みました、なんだか子宮がジンジンしちゃった」みたいなメッセージが来て、やり取りしてウチに法外な利用料金を請求される、みたいなシステムになってました。 いやー、ほんと、最近ってこういった悪質な出会い系サイトって引っかかる人が少なくなっちゃって、業者の方も手を変え品を変えなんですけど、まさかボーイズラブにまで手を出してるとは思わなかった。 とにかく、このメールによると、ボーイズラブ小説の書き方ってのが、「男らしさを前面に」「艶かしい性描写」らしく、これで書いていれば大抵の女はイチコロ、ボーイズラブの巨匠は女の子にモテモテですよ、みたいな事書いてあったので、なるほど、メールアドレスを明記しているのにFカップ画像が来ないのはボーイズラブ成分が足りなかったからと納得、書いてみることにしました。 --------------------------------- -恋のハイオクは満タンで- 「うおりゃああああああ!」 バシーン! 畳の音が武道場内に響き渡る。夏の暑い日差しが畳を焦がし、ムワンとした湿気と汗の匂いがあたりを曇らせる。高志はこの匂いがたまらなく好きだった。 「わりいわりい、ついつい本気出しちまったよ、大会が近いからな!」 畳の上で大の字に転がる高志に笑顔で手を差し伸べたのは吉雄だった。褐色の肌に白い歯が眩しい男だ。 「おいおい、本気出すななよ」 高志は吉雄の手を握りながらフラフラと立ち上がる。色白で華奢な体型の高志は誰がどう見ても柔道といったタイプではない。しかし、柔道部キャプテンでもある吉雄に熱烈に誘われ、嫌々ながら柔道部に入部することになったのだ。 話に聞いていたのとは違っていた。この高校の柔道部は名門で、部員数も多く、体育部の中でも代表的な存在であるはずだった。しかし、入部してみると部員は吉雄一人しかおらず、必然的に2人っきりになる格好だ。なんでも厳しい練習についていけずほとんどの部員が逃げ出したらしい。 「さあ、もう1本乱取りをやろう」 正直言うと、高志は吉雄に憧れていた。自分とは違って体格も良く男らしい吉雄、ナヨナヨした高志の中にある理想の自分とは、まさに吉雄だった。いや、憧れ以上のものを抱いていたのかもしれない。初めて道場に行って吉雄と2人っきりだって分かった時のあの胸の高鳴り、今でもあれはなんだったのだろうと思うほどだ。 吉雄はどうして自分のようなナヨナヨした男を柔道部に誘ったのだろうか。まさか自分のような男を戦力と見込んでいるわけではあるまい。それに、部員一人といえども吉雄だけの力で個人戦なら優勝することだって簡単だ。何も無理して誘う必要などないのだ。一体どうしてなのだろう。 「おりゃああああ!」 また蒸し暑い道場内で乱取り稽古がはじまる。吉雄はその真っ黒な逞しい腕で高志の奥襟を掴んだ。 「どうしたどうした、組み手争いは大切だぞ」 「お、おう」 言われるままに吉雄の胸元に手を伸ばす。ハラリと柔道着がはだけ、逞しい胸板が高志の目に飛び込んできた。 ドキン……! この気持ちは一体なんだろう。自分は柔道をやりたいんじゃない。吉雄と柔道技を磨きたいんじゃない。そう、今すぐにでもこの逞しい胸板に抱きつきたいのだ。もう誤魔化すことなんてできやしない。今すぐにでもこの黒々しい吉雄の乳首に吸い付いてめちゃくちゃにしてしまいたいのだ。 「おりゃあああああああ」 バシーン! 乾いた音がまた道場内に響き渡る。それと同時に高志の景色もひっくり返り、あっという間に汚い武道場の天井が目の前に広がった。そして、にゅっと視界の横から汗だらけの吉雄の笑顔が覗き込んだ。 「大丈夫か?まったく、ボーっとしやがって、今のは完全に一本だぞ」 「……別に、一本でもいいよ……」 吉雄の顔を見ていたらなんだか涙が溢れてきた。こんなところで泣いたってどうしようもないのに抑えることの出来ない感情。薄々勘付いていたこととはいえ、意図的にその気持ちを抑え込んでいた。でも、もう限界だ。誤魔化すことなんてできない、自分は吉雄の事が好きなんだと気がついてしまったのだ。 「おい、大丈夫か?どこか痛めたのか?」 心配そうな眼差しの吉雄の顔が、もう息がかかりそうなくらい至近距離に近付いてくる。このままキスしてしまえるのならどんなに楽だろうか。吉雄の唇を吸えるのならどんなに楽だろうか。けれどもできない。吉雄は柔道のことしか考えていない、それに男同士でそんなことになるなんて嫌に決まっている。この想いを伝えてしまってはいけないのだ。また、高志の顔がクシャっと崩れる。 「どうして……」 言ってしまってはダメだ。けれども、もう高志の口は止まらなかった。 「どうして、柔道部に誘ったんだよ!俺なんかを!」 シーンと静まり返った武道場。遠くで吹奏楽部のトランペットが聞こえるだけだった。 「俺は、俺は柔道部を潰したくなくて……」 吉雄は困ったように答える。なんだかその返答が柔道さえできればどうでもいいように聞こえて、まるで自分をないがしろにされたように感じた。 「吉雄は柔道ばっかりだもんな!俺なんかに柔道やらせたってどうしようもないだろ、こんなにやってたって一度も吉雄から一本取れないんだ!」 「いや、最初は誰だって下手さ、これから練習して……」 「だったらもっと素質のあるやつにやらせればいいだろ!4組の山本とか!俺なんて誘ってどうするんだよ!俺の気持ちも知らないくせに!」 「…お前の…気持ち…?」 言ってしまった。もう後戻りはできない。高志は自分でもずっと誤魔化し続けていた言葉を言ってしまった達成感と、言ってしまった後悔とが入り混じり、今すぐにでもこの場を逃げ出したい気持ちに駆られた。 「俺、吉雄のことが好きだ。柔道バカで他人の気持ちになんて全然気がつかない鈍感なヤツ、そんなお前が好きだ」 また静寂が武道場内を包む。トランペットの音が嫌味なくらいに透き通って聴こえた。 「俺…俺…」 吉雄は答えに困っているようだった。そりゃそうだ、いきなり告白されても困るだろう、それも同級生、しかも男からだ。言ってしまったものの、なんだか答えを聞くのが急に怖くなってしまった。 「ごめん…今のは忘れてくれ。じゃあ、俺、バイトあるから」 はだけた道着を直し、呆然とする吉雄を尻目にそそくさと道場を後にした。 ------------ 「いらっしゃいませー!」 アルバイトのタモツ君の元気な声がスタンド内に響く。タモツ君はいつだって元気だ。反面、高志は昼間のことを思い出してボーっと突っ立っているだけだった。 なんであんなことを言ってしまったのだろう。きっと吉雄だってビックリしたはずだ。もう武道場にはいけないな、いったってどんな顔して吉雄に会えばいいのかいいのか分からない。こんな想いをするくらいなら言わない方が良かった。モヤモヤと走馬灯のように様々な想いが駆け巡る、まるで夢の向こうで何かが叫んでいるかのようにフィルーターのかかった遠い声でタモツ君の声が聞こえた。 「いらっしゃいませー!えええー!?」 素っ頓狂なタモツ君の声に球に現実に引き戻された。見ると、タモツ君は目を丸くしてやってきた客を凝視している。ガソリンスタンドでバイトしていると変な客がやってくるものでバイト仲間の間で語り草になる客が居ることもある。普通に給油しにやってきたのに運転席では全裸とか、おじさんがセラー服を着ているとかザラだ。逆に言えばそういった客には慣れているはずなのに。タモツ君は大きく取り乱していた。その視線の先にどんな変わった客が居るのか、高志は恐る恐るスタンドの入り口に視線を向けた。 「よう、高志!」 そこには満面の笑顔の吉雄の姿があった。なぜか吉雄は柔道着姿で自転車、颯爽とスタンドに乗り付けていた。そしてスイーッと軽やかに自転車を漕ぐと、高志の横にやってきた。 「昼間はごめんな、俺、あれから考えたんだけど……」 なんだか照れくさくて帽子を深く被りなおす。それでも吉雄の声は届いていた。その心地良い周波数は高志の胸の奥をギュッと締め付けた。 「俺さ、なんで高志のことを柔道部に誘ったのか考えたんだ。そしたら自分でも気付かなかったけど……やっぱり高志と2人っきりで汗だくになって練習したかったんだと思う、ずっと2人でいたかったんだと思う。変だよな、男同士でそんな。だからずっとその気持ちを誤魔化していた」 「吉雄……」 「今日、お前の気持ちを聞いて気付いたんだ。男同士だっていい、俺は高志、お前の事が愛おしい」 「俺も……、俺もずっと吉雄のことが好きだった。寝技の練習なんてドキドキものだったよ、こんな俺でよかったら…」 そこまで言ったところで吉雄はスイーッと自転車を漕ぎ、給油機の前に止まった。そしてこちらを振り返ると真っ白な歯を見せてこう言った。 「ハイオク、満タンで」 満タンも何も吉雄は自転車だ。そもそもガソリンなんて必要ない。急いで駆け寄って吉雄に告げる。 「いや、ハイオク満タンって、入れる場所が……」 すると吉雄はまた白い歯をキラリと覗かせ、スルスルと道着のズボンを脱いでプリプリしたお尻をペロンと突き出した。 「頼むよ、ハイオク、満タン」 高志は全てを察した。それと同時になんだか嬉しい気持ちになった。 「ああ、わかったよ」 おもむろに給油ノズルを手に取る。給油準備が始まり、ウィーンと給油機が唸りをあげる。その振動がなんだか心地良かった。高志は慎重にその野太いノズルを吉雄のアナルにあてがった。 「優しく頼むぜ」 「ああ」 一気に吉雄のアナルに突き立てる。前の客が給油した油が残っていたのだろう、ノズルは恐ろしいほどアッサリと、それでいてズブズブと音を立てて吉雄のアナルに飲み込まれた。 「あひいいいいいいいいい」 悶える吉雄。まるで解剖したてのカエルのようにお尻を突き出した状態でピクピクと痙攣しだした。 「ゆっくりな、ゆっくり頼むな!」 柔道をしている時はあんなに強くて逞しい吉雄なのに、今はまるで捨てられた子犬のように不安そうな瞳でこちらを見ている。サディスティックな感情が芽生えた高志はいたずらに笑うと拳銃のようになっているノズルの引き金を一気に引いた。 ウィイイイイイイイイン 「あっぷん!」 給油機が唸りを上げ、リッター189円のハイオクがノズルを通して吉雄のアナルに注入されていく感触が手の平に広がった。それと同時に吉雄は生娘のような悲鳴を上げた。 ボタボタとアナルのシワに沿って入りきらなかったリッター189円のハイオクが滴り落ちてくる。それと同時にムワッと油の匂いが立ち込めた。 「おいおい、吉雄、まだ0.5リッターも入ってないぞ」 「も、もう勘弁してくれ!」 高志はニヤリと笑うと給油ノズルを一気に引き抜いた。 「アップン!」 もう吉雄のアナルはリッター189円のハイオクでヌルヌルだ。ポタポタと厭らしくリッター189円のハイオクが溢れ出してくる。間髪入れずにそそり立った高志の肉棒を油まみれのアナルに突き刺した。 「あぴいいいいいいいい!」 悲痛な吉雄の叫びがスタンド内にこだまする。リッター189円のハイオクで満たされた吉雄のアナルは驚くほどアッサリと高志の肉棒を受け入れた。 「もう勘弁してくれ、高志、フヒン!」 「まだまだだ」 スタンド内には有線放送でケツメイシの歌が流れていた。高志はそのリズムに合わせて腰を打ち付けていく。道着ははだけ、黒帯が吉雄の腰に引っかかっている状態だった。 「バヒン!バヒン!」 曲が変わり、最近流行の音楽に変わる。増したビートはさらに2人を熱く燃え上がらせた。 「もうダメだ。一本だ!お前の肉棒に一本だ!あひいいいいいい」 「いくぞ、いくぞ!俺のハイオクで満タンにしてやる!」 吉雄は一気に絶頂へと達した。同時に高志も絶頂に達し、濃厚な精液を油まみれのアナルへ放出した。 ------------ 「やっとお前から一本取れたな」 「ああ、柔道弱いくせに、あっちのほうはすごいんだな」 吉雄は愛おしそうに高志の肉棒を撫で回している。もう下半身は油まみれだ。急いで道着を直す吉雄。 「じゃあ、明日、道場で。寝技の練習するから」 「ああ、じゃあハイオク持って行くよ」 吉雄は笑顔で自転車を漕ぎ、スタンドを後にした。これからは柔道の練習が楽しくなりそうだ。 つづく ------------------------------------ まあ、これで世の中の女性の8割はホモ好きらしいですから、発奮した女性からFカップ画像とか送られてくること請け合い!是非とも送る際はメールフォームじゃなく上部にあるメールアドレスから送ってください。間違っても逞しい男根画像とか送ってこないでください。 8/20 15分トライアル日記5 どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う。これは至極当たり前の生きるスタイルだ。これらが一つでもズレると途端に生きる意味をなくしてしまう。 どうでもいいことで道徳に従っても仕方ないし、道徳に従った芸術なんてつまらない。重大なことで流行に流されたって意味ないし、自分に従うのは独りよがりにすぎないからだ。 思い返すと、僕らの生活はこの中でも9割方がどうでもいいことで構成されている。仕事でこんなことがあった、相手先が怒り狂っていた、とんでもない損失を出した、そんなことは突き詰めればどうでもいいことだ。そんなもんに道徳観を持ち出しても意味ないし、一生懸命がんばるっす!と自分に従っても壮大なオナニーでしかない。適当に流行に流されていればいいのだ。 しかし、僕らはその多くの場面で道徳に従ってしまう。あるいは自分に従ってしまう。どうでもいい事柄であればあるほど、意味ないって心のどこかで分かってるくせに流行に流されることができないのだ。 先日、職場で強制的に受けさせられた社会人スキルアップセミナーみたいなものにいってきた。何でもこの高度情報化社会に対応すべく、様々なIT技術的な何かをご教授いただけるらしい。正直どうでもよくていきたくなかったのだけど、強制らしく、社会人なったら自らスキルアップ!とか鼻息を荒くしている同僚と受けてくることになった。 行ってみると、まあ、それはそれは無残で、きったねえプレハブ小屋みたいな教室でしかも半分しか使わせてもらってないという体たらく、残り半分は花屋らしく、干し柿みたいなオバハンが元気良く菊の花を売っていた。長机の上に並んでいる数台のパソコンも、そっかのメーカーのなんだろうけど見たこともないような、なんかマッキントッシュのパクリみたいな胡散臭いパソコンだった。 で、出てきた講師がこれまたすごくて、将来の夢はネットカフェ経営です!みたいな胡散臭いヒゲ面の男が出てきた。本当にこんなのでスキルアップできるのかよ。 でまあ、講義の内容がこれまたすごくて、エクセルとかワードの使い方講座から始まって、なんか実際に作業してみましょう、みたいなこと言われて「青い空」みたいな単語を各々のパソコンで延々と打ち込む、何か写経みたいな単純作業を強いられ、それ自体は別にいいんだけど、どうもエクセルとかワードとか金払って購入したヤツじゃないみたいで、「オンライン登録してください」みたいなのがガンガン出てた。それこどろかWindows自体も不正コピーな代物らしく、10分に1回くらい右下に「不正コピーの疑いが」みたいなファンキーである意味ロックなメッセージが出てた。大丈夫かよ。そんなんなら不正コピーの仕方教えてくれたほうがいくらかスキルアップになるわ。 そんなこんなで、なんか「スキルアップして転職!」みたいなことを血気盛んに語る、Mixiの広告に出てきそうな暑苦しい同僚と一緒にその怪しげなセミナーを毎週受けていて、マジ苦痛だったのですけど、まあ、こんなのはどうでもいいこと、例えるならば童貞がコンドームを買ってきて装着してより実戦に近いオナニーしてるんですけど、あまりに動きが激しすぎてコンドームが破けちゃうのね、亀頭のあたりからメリメリっと、で、童貞がそれを見て、おいおい、本番で破れたらこまるぞー、子供できちゃうぞーってニターっと苦笑いするような、全くその他の事象に影響を及ぼさない惨事くらいどうでもいいことだったんですけど、まあスキルアップとか流行ってるみたいだし流行に流されてみるかって感じで受け続けていたんです。まあ、会社が金出してくれるから無料だしね。 しかしながら、何回目だったかな、5回目くらいの授業の時に異変が起こったんです。その回は情報発信の重要性みたいな授業で、インターネット社会によって情報発信が容易になったことにより、それをいかにビジネスに活用していくか、みたいな講義でした。 何例か、どっかの商店街とか町工場みたいな青色吐息な企業がインターネットによる独創的な情報発信によって息を吹き返したみたいな事例が紹介されてました。で、それらの事例を胡散臭い講師が紹介するんですけど、なぜかそのホームページを紙にプリントアウトして配布するんですよ。 いやいや、目の前にパソコンがあるんだから実際にアクセスして説明とかすればいいじゃんって思うんですけど、多分、これらのパソコンがインターネットに繋がってなかったんでしょうね、ブラウザとか立ち上げようとすると烈火のごとく怒ってたし。 そんなこんなで、なぜか紙にプリントアウトされた、それもプリンタのインクなくなってきてて黒色が緑っぽい色で表示されちゃってる紙を見て説明を聞いていたんですけど、どうにもこうにも、本当に成功したのかしらと思いたくなるような事例がてんこもり。 そんないつものようにどんよりとした雰囲気の中講義が進んでいくのですが、話題は個人的な情報発信の重要性みたいな話になり、あまりビジネスとは関係ないですが、と前置した上でインターネットの世界に慣れるという意味ではブログなどを利用して個人レベルで情報発信することも大切です、みたいな話になりました。で、そういったブログでも大成功すればビジネスに繋がるみたいな話もしてました。 そいでもって、またもやプリントが登場して、講師の人が「こういうブログが成功例です」って言いながら配ったんですよね、そしたらアンタ、並みいるブログの中に思いっきり見たことあるデザインのページが紛れ込んでるじゃないですか。確かに他のサイトはそれこそ一線級のブログなんですけど、そんな中に思いっきりNumeriですよ。なんだこれ罰ゲームか。 で、講師がこれまた胡散臭く解説しましてね、最初は何かのニュース系ブログだったかな、このブログは上手に情報を収集してナントカカントカとか、その次のブログはユーザーの手によって作られるから運営人は何もせずにビジネスが成立するウンタラカンタラみたいなことを丁寧に説明してました。 で、いよいよNumeriが解説される番になって、僕もまあ、ちょっとドキドキしながら聞いてたんですけど、そしたらまあ、「このブログは適当に文章を書いてるだけで多くの人に読んでもらえ」みたいなとんでもないこと言ってました。まあ、適当に書いてるのは間違いないんですけど、そもそもNumeriはブログじゃないですから。 この運営人の考え方は、身近な話題を分かりやすく読者に伝え、みたいな勝手に僕の考えを代弁してくれてたみたいなんですけど、あいにくと、僕もはじめて聞く考え方の連続で大変新鮮でした。 この胡散臭い授業のあと、暑苦しい同僚がプリントを手に僕の元にやってきて、 「見てください、このブログ、なんか精液とか平気で書いてあるんですけど!なんか許せなくないですか!」 みたいなことを拳をプルプル震わせながら憤ってました。もちろん、それはいつの日記か知りませんがプリントアウトされたNumeriのトップ日記でした。 「うん、良くないね。でもそれはたぶんブログじゃないと思うよ」 みたいなことを返答してお茶を濁すことしかできませんでした。 きっと彼にはブログの情報発信ってのは重大なことだったのだろう、それだけに彼は道徳に従い、精液という言葉が踊る日記に怒りを覚えたのだ。彼はきっといいブロガーになる。しかし、僕にとってNumeriはそんなに重大なことではない。かといってどうでもいいことでもない。少なくともそんなレベルに達していなくとも、Numeriは僕にとって芸術なのだ。だから僕は自分に従い、これからも精液という言葉を書き続けていくだろう。 そのセミナーはその1ヵ月後ぐらいに思いっきり潰れていた。金払えとか今時あるのかって言う張り紙いっぱいされてた。Windowsとかちゃんと購入するのは重大なことだろう、ちゃんと道徳に従って払えよと思うことしかできなかった。あと全然スキルアップしなかった。 12分08秒 8/20 15分トライアル日記3 高速道路って現代の罠だな。ブービートラップだ。 我々日本人は古くから農耕民族であり、狩猟民族とは違って狩りという習慣があまりなかった。歴史的に見ても日本においては農耕器具の発達は凄まじかったが、逆に狩猟器具はあまり発達してこなかった。そういった背景が現代の保守的で守り体制な日本人の特質に受け継がれているのかもしれない。 それだけに、狩猟でよく用いられる罠というものにあまりゆかりがない。せいぜい落とし穴だとか足をガチンと挟むものだとかそれくらいのレベル。海外の映画やドラマに出てくるテクニカルな罠を見てもピンと来ない、それが日本人なのだ。 しかしながら、少数ながら日本人であっても罠を使ってイノシシなどを捕っていた狩猟民族はいたわけで、少なからず罠というものは存在していた。しかし、狩りとは最も効率が悪く不安定なもの、それらは日本が近代化していく中で不必要となり消えていった。同様に罠という器具も今ではほとんど見ることはなくなった。 ところがどっこい、恐ろしい罠はキチンと現代にも残されていた。それも形を変え、今では日本全国どこでも見るようになった。そう、高速道路こそがこの現代に蘇った罠なのだ。 わが国日本は高速道路整備計画のもと、この恐ろしい罠を日本全国に張り巡らせた。日本全国全ての市町村から1時間以内で高速道路に、という目標があることを我々はあまり知らされていない。そう、我々のガソリン税を使って着々と網の目のように罠が張り巡らされているのだ。 高速道路の恐ろしいところは、普段はその裏の顔を見せない部分にある。高速道路に乗ると目的地まで早く到着するよー、便利だよー、信号とかないよー、サービスエリアでラーメンとか食べられるよー、80キロぐらいスピード出して窓から手を出すとオッパイ揉んでるのと同じ感触だよー、ETCもあるでよー、と我々を罠へと誘っていく。 確かに便利だ。何時間もかかる道のりも数時間で到着できてしまう。信号とかもないから同じ距離を走っても疲労度が段違いに低い。サービスエリアのラーメンも美味い。おっぱいの感触だって最高だ。快適で便利な高速道路しかし、ある条件が揃うと途端にその恐ろしい牙を剥き出すことになる。 それがウンコだ。 高速道路に乗ってウンコをしたくなった時、それは途端に便利なハイウェイから地獄のブービートラップに変貌する。高速道路でウンコ、最高じゃん、パーキングエリアとかサービスエリアとかあってすぐにトイレ行けるし、なんていいだす土人はウンコのこと全然分かってない。ウンコの持つ本当の恐ろしさを分かっていない。ウンコでも食ってろ、話はそれからだ。 確かに、高速道路は数キロとか数十キロのスパンでパーキングエリアなりサービスエリアなりが存在する。ほどよい感じでウンコがしたくなる、具体的に言うと、「ああ、ウンコしたいかも」→「ウンコしたいな」→「そろそろやばいかも」→「あ、出ちゃうね」こういう人は全然大丈夫。高速道路が恐怖じゃない。最初の段階でパーキングまでの距離を意識し、程よいタイミングでトイレに駆け込めばいい。 しかし、僕のように劇場型のウンコを持つ男はそうは行かない。まず最初の「ああ、ウンコしたいかも」とかの段階がなく、いきなり「あ、出ちゃうね」から始まるからね。 もうそうなると完全に緊急を要するわけで、「○○パーキングエリア 20キロ」とか見たってあと20キロも我慢できない。ぶっ飛ばして時速200キロで走ったら6分で着くかもとか考えてるうちにブラザーが肛門からコンニチワ!しちゃってるからね。 でね、そうなると本当に恐ろしいんですけど、高速道路って隠れる場所ないじゃないですか。どんなに訓練された忍びの者でも絶対に隠れられない、それが高速道路ですよ。 これが一般道路なら、その辺の物陰とか、民家の庭先でできるじゃないですか。あまり褒められたことじゃないですけど、思いっきりノグソと洒落込むことができるじゃないですか。でも、高速道路の路肩でウンコとか丸見えですからね。 ファミリーがキャンプ帰りに高速道路走ってて息子は初めてのアウトドアに大興奮、手際よくテントを立てるお父さんを見直しちゃったりなんかして、「お父さん、キャンプ楽しかったね」「ホント、大自然っていいわー、お母さんもリフレッシュできたし」「ハハハハ、でもタダシはまだ夏休みの宿題残ってるだろ!」「あと半分だもん!」「嘘よ、毎年ギリギリなんだから」「間に合わなくてもお父さん手伝わないぞー、ハハハハハ」なんて平和な会話をしつつイプサムか何かで高速道路をドライビン。お父さんもこれが家庭を持つ幸せなんだーってホクホク顔でフッと路肩見たら32歳の野武士みたいな男が路肩にしゃがみこんでるんですよ。しかも尻から何かでてるし。そりゃもう、何かの妖怪とかそんなんじゃないかって思いますわ。 とにかく、高速道路ってのは初めからノグソっていう最後の緊急手段が封じられてる状態ですからね。そりゃもう焦る焦る。 そんなこんなで、この間、高速道路を優雅に走っていたんですけど、そしたらまあ、当然の如くいきなりクライマックスでウンコしたくなったわけですよ。その瞬間思いましたね、うわーまた罠にかかってしまった、と。 なんとか案内看板を見ると、最寄のパーキングまで20キロという死刑宣告としか思えない残酷な距離表示が。200キロで走れば6分、400キロ出せば3分、とか計算しましたけど、とてもじゃないが3分持たないかもしれない緊急事態。というか400キロも出せる訳がない。車がバラバラになるわ。 パーキングは遠い、ノグソも出来ない、こりゃあいよいよ車内で漏らしちゃうかもしれない、誕生日を迎えて32歳となった今このとき漏らすのか、ちくしょう、はるか昔、罠にかかったイノシシとかはこんなにも悔しかったんだろうな、悔しかったろうに、悔しかったろうに。こうやって涙が出てくるのは明らかに漏らす前兆です。 その時でした。 まるで神々が舞い降りてきたかのような天啓が僕の頭の中に。そう、僕の視線の先には「○○インター500m先」という看板が見えたのです。 いける、インターで高速を降りて一般道に出てしまえばノグソだっていける。これは神が与えたもうた大チャンスだ。急いでウィンカーを出し、物凄い速さで高速道路出口へと向かったのでした。 闇夜に浮かぶ料金所がどんどんと近付いてきます。早く早く、この哀れな僕を高速道路という罠から脱出させてくれ。くぅーまだまだ時間がかかりそうだ、料金とか払ってる間にモリモリと出てしまうかもしれない。やばい、やばすぎる。 ついに料金所に到着。なんか生理のあがったようなオバちゃんが満面の笑みで迎えてくれました。その瞬間ですよ。そのオバちゃんの顔を見ていたらある考えが浮かんだのです。以下、僕の頭の中の思考の道筋。 オバちゃんは生理が上がったのだろうか→上がったとするならばその時の心境はどうだったのだろうか→もしかしたらあがってないかもしれない→まだまだ女ということですな!→では、もし料金所で勤務中にきてしまったら?→もちろんトイレにいくよね→じゃあ、もしかしたら料金所ってトイレあるんじゃね?→まさか料金所の中でブリブリするわけにもいくまい、きっとトイレあるさ。 そんな感じで、オバちゃんに「生理上がりました?」って聞くわけにはいきませんから、普通に「トイレありますか?」ってきいてました。すると、 「ああ、ありますよ。料金所抜けた先に脇道あるからそこに車停めてください。そこに事務所があるからそこでトイレ借りてください」 もうね、自分で自分の事が怖くなった。機転が利きすぎて怖くなった。もう田舎な場所のインターでしたから、例え高速を降りたとしてもコンビニとかなくてノグソも辞さない構えだったのですけど、料金所でトイレを借りるというハットトリックによりそれを回避。もう自分がすごすぎてウンコ漏らしても良いくらいに思ってしまった。 本当になんかダンジョンとかで隠し空箱見つけるときみたいな隠れ通路を通ると小さな駐車場がありましてね、その横には本当に小さな事務所的建物が。急いで車停めてその建物に走ります。 ああ、罠にかかったりしたけどなんとか最悪の事態を回避できた。これでウンコできる、神様ありがとう。と事務所のドアに手をかけたその瞬間ですよ。 思いっきりロックされてやがんの。 もうどんな罠だよって思うんですけど、扉が思いっきりロックされてるの。しかも普通の鍵とかそんなんじゃなくて明らかに電子ロックみたいな類のゴージャスな、浜崎あゆみに憧れている女の子みたいなゴージャスな鍵がついてるの。 もうこりゃやばい、出る!ってなもんで扉をドンドンと叩くと中からショボくれたオッサンがノソノソと出てきましてね、すっげえダルそうにガラス扉越しにこっちを見てるんですよ。 声が届いてるかどうか知りませんが、とにかくウンコしたいからトイレ貸してくれって意思表示を身振り手振りでするんですけど、さっぱり要領を得ない。たぶん高速道路の職員なんでしょうけど、全然高速じゃない。 もうこのままコイツが見てる前でモリモリウンコしてガラス扉に塗りたくってやろうかと思ったんですけど、いっぱしの社会人としてそれはしてはいけないと身悶えていたんですけど、すると必死さが伝わったみたいでオッサンが電子ロックを解除しようと何やらピコピコやってくれたんです。 でも、明らかにオッサンが暗証番号的なものを間違えているみたいでピポパポパ、ピー!みたいなエラー音が。もうどうしていいのかわからない。コイツは俺を殺す気か。 8回くらいピポパポパ、ピー!繰り返したところでやっとガチャリコとドアが開きましてね、戦国時代に敵の城門を突破する時でもこんなに勢いないぞってくらいの勢いで中に入って「トイレ貸してください!」とか言ってました。 「ああ、あの奥にあるよ」 とやっとこさ、トイレに到達と思って、もう1秒も待てない、限界、早く早く とドア開けると、家族でくつろげる12畳の広々リビングみたいなトイレがズドドーンですよ。その一番奥に便器がポツンって置いてありました。どんなトイレだよ。とんでもない罠だ。 もう肛門というか、尻肉の力だけでウンコを制圧しながら便器に向かい、物凄い勢いでズボンとパンツを下しながら便器に座ったら、便座が上がってたみたいで、すごい勢いでトイレの底まで尻をついた。まさに尻もち。どんな罠だよ。その衝撃で出たわ。思いっきりウンコの感触が、便器の底と尻の間の空間に広がるウンコの感覚が分かったわ。 そんなこんなで罠だらけの高速道路。行楽や帰省の際に利用する時は十分ご注意ください。 ちなみに、その4日後は本気でパーキングもインターもない絶望的状態で本気でウンコ漏らしました。高速降りて、泣きながらウンコだらけのパンツを道路脇の畑に捨てました。多分、肥料とかになっていいんちゃうの、僕ら農耕民族だし。 15分00秒 8/20 15分トライアル日記-2 テンション。 僕らが普通に生きていくうえでテンションとは大切だ。人間とはその持てる力を100%発揮できるわけではない。時には80%だったり、20%だったり、場合によっては120%だったりする。思ったように実力を発揮できない、実力以上の力を発揮する、今開催中の北京オリンピックでも良く聞く言葉だ。 そういった持っている実力をどれだけ出し切れるのかってのは本人が持つテンションに大きく関わっているのではないかと思う。これはモチベーションだとかそういったのとは全く別個のもので、言うなればノリというか、巡り会わせというか、とにかく自分の力でなんとかできるものとは一線を画していると思う。 モチベーションや気合みたいなものは自分の力でなんとかなる。試合前なんかに「俺は出来る!俺は出来る!」とか言い聞かせていればいい。半病人のように言い聞かせていればいい。それだけで気合はいるしモチベーションもあがるだろう。しかしテンションは違う。 なんだか知らないけど上がるのがテンション。なんだか知らないけど下がるのがテンション。言うなれば自分の力ではどうしようもない、神の領域とも言えるものがテンションではないか、そう思う。 たまに、ウザったいくらい騒がしい人なんかがいて、まあウチの職場の話なんですけど、朝っぱらから職場の前に観光バスが停まっていてね、どうやら職場のメンツで海水浴に行く様子。みんなはしゃいじゃってね、こう普段見せないような明るい表情してるわけですよ。女の子なんてのぼせあがちゃってそりゃ下着だろみたいなファッションでバスに乗り込んでるわけ。 こういうのって普段はお堅い職場のメンツがテンション上がってるって感じで、僕も書きながら何度か「テンション上がってる」って書きそうになったけど、実はそれって違うんですよね。そりゃ皆が大騒ぎなのも女の子が下着なのも海に行くからであってちゃんと理由が分かってる。理由が分かってて大騒ぎってのはテンション上がってるんじゃなくて上機嫌なだけなんですよ。 それよりも意味不明なのが課長で、ちょっと遅れて集合場所にやってきたみたいなんですけど、思いっきり膨らました浮き輪とか持って集合場所にやってきてね、麦わら帽子とかかぶっちゃってて見てらんない、あと、意味不明に集合場所でおニューのiPhoneをカチカチやって見せびらかしてた。こりゃあいくら海が楽しいからってやんちゃすぎるだろ。こういうのをテンションがあがちゃってる、神の領域に手が届いたっていうんだなーって思いながらバスを見送りました。 まあ、その海水浴にすら誘われてなくて、「お前なんで来ないの?」「仕事が忙しくてさ」みたいなこと言ってた僕はあきらかにテンションだだ下がりなんですけど、去り行く観光バスのテールランプを眺めながら、あの点滅は「ア・イ・シ・テ・ル」のサイン、とかテンション下がりまくりなのですけど、これも、海に誘われなかったっていう明確な理由があるからテンションな訳じゃない、普通にションボリしてるだけ。 とにかく、理由は良く分からない、それでもって自分ではどうしようもできない、なのに上下する、そういう神の頂に立っているもの、それがテンションなんじゃないかと思うのです。 しかしながら、このテンションには大きな誤解がありまして、たとえばスポーツの試合なんかで実力以上の力を出すってのはテンションが高い状態だと思いがちじゃないですか。でもね、それはモチベーションが高い状態であって、必ずしもテンションではない。 テンションってのは逆に高いと大きな失敗に繋がることがほとんど。前述の課長なんかまさにそれですしね。何あの格好、キモイとか、iPhoneの画面タッチしすぎて油でギトギトになっとるやん、みたいに陰口叩かれてましたからね。明らかにテンションの高さが生んだ悲劇ですよ。 僕も先日、こんなことがありました。 まあ、大阪っていう早く滅んでしまえばいい町に、ユニバーサルスタジオジャパンっていうメリケンかぶれの遊技場があるじゃないですか。まあ、そこに女の子と行ったわけですよ。まあ俗に言うおデートっていうんですか、そういったニュアンスのものなんですけど、やっぱり僕も男の子じゃないですか、そういうおデート的な場面ではかっこつけたいじゃないですか。 まあ、ブサイクがなにいってんのって感じなんですけど、そうやってかっこつけてユニバーサルスタジオジャパンデートを楽しんでいたわけなんです。 でまあ、ああいったテーマパーク的場所に行くとテンション上がるじゃないですか。僕は特にバックドラフトのアトラクションが大好きで、空いてれば4回くらい連続で行きたいくらいに好きなんですけど、こう普段とは違う高いテンションで行きますよね。それもかっこつけつつ行くじゃないですか。でもね、これってテンションが高いんじゃないんですよ。女の子とユニバーサルスタジオジャパンなんて上機嫌になるに決まってるじゃないですか、そんなのテンション高いとは言わない。上機嫌なだけ。 そんなこんなで上機嫌になりつつ、いよいよジュラシックパークというアトラクションに行ったんですけど、これはまあ、行ったことある人なら分かると思いますけど、なんか船みたいな物に乗って進んでいってゴーとなってバーっとなってプワーンプワーンドババンギャーってなるんですけど、それに乗った瞬間ですよ、なんていうんだろう、意味不明な高テンションが僕を襲ったんです。 僕はまあ、普段はニヒルな人間ですよ。別に海水浴に誘われなくたって顔色一つ変えない。言うなれば大人のバーが似合うダンディですから、いくらユニバーサルスタジオジャパンで上機嫌だって言ってもそれには限度があるじゃないですか。そんなね、見るからにはしゃいだりしないですよ。 しかしね、ジュラシックパークの船に乗った瞬間に何かが弾けた。意味不明な神の領域、高テンションが僕を襲い、なんか知らないけど手を振っていた。何に手を振ったかってジュラシックパークのコントロールルームみたいな場所にいたスタッフのお兄さんですよ。 いやね、なんか出発の勢いで、ワーって手を振っちゃったんですよ。僕は普段政治経済の話しかしないニヒルな男ですから、そういうのってマジ考えられない。でもね、なんかテンションが上がってしまったんです。 でね、ああいうメリケン的なテーマパークの人ってプロじゃないですか。そうやって手を振ったら笑顔で手を振り返してくれたりなんかしてね、それで和気藹々のままアトラクションスタートってなるかと思ったんです。そんな感じで普段の僕からは考えられないハイテンションで手を振ったんですよ。 そしたらアンタ、スタッフのお兄さんガン無視ですよ、ガン無視。大造じいさんとガン。 あのね、ハイテンションで振った手だけが悲しく宙を舞ってね、そのままアトラクションスタートですよ。僕にどうしろっていうんですか。もうかっこつけてたのに死ぬほど恥ずかしいやらなんやらでね、やっぱハイテンションっていいことねーなって思うしかありませんでした。 海から帰ってきた同僚メンツはこんがり日焼けして 15分00秒 時間ぎれ 8/20 15分トライアル日記-1 いやー、メンゴメンゴ、更新が止まっちゃってたね。実はこの期間、サマーホリデーを利用してまた海外に行っておりまして、また自費出版本を持ってモンゴルに行ったとか、どこそこの国に観光に行ったとか、どこぞの国に行って合同結婚式を挙げてきたと、そういうのは全然なくて、普通にカンボジアに行ってました。 皆さんもご存知のことと思いますが、カンボジアは実に深刻な貧困に苦しんでいます。内戦などによってもたらされた不発弾や地雷によって多くの国民が苦しめられているのは周知の事実ですが、それ以上に深刻なのが貧困です。 国民全体の4割が貧困ラインを下回る生活水準であり、農村部にいたっては8割超の国民が苦しい生活を強いられています。DAC(経済開発協力機構内の開発援助委員会)が定める貧困の基準には、「極端な貧困」というランクがあり、これが年間所得370ドルの水準なのですが、カンボジアではほとんどの世帯がこれを大きく下回っています。 当然そうなると食うにも困る生活、病気や怪我でも満足に治療を受けられる状態ではありません。首都プノンペンあたりではまだマシなのですが、農村部に入るとそれはそれは酷いものでした。僕が訪れたのはカンボジアでも外れになるストゥントレン州という所になるのですが、閑散とした町の通りに病人が溢れ、ガリガリに痩せこけた子供たちが虚ろな瞳でこちらを見ていました。 そこに当Numeriの広告費収入や夏のボーナスを握り締めていった僕は、栄養価の高いビスケットや医薬品、日本国内のバザーなどで買い漁った衣料品などを提供しました。村の人々からは遠き日本から救世主(メシア)がやってきた!と大騒ぎでしてね、まあ、僕も人間ですからまんざら悪い気はしないじゃないですか。 でもね、そういった支援って実は全く何もためにならないんですよね。確かに貧しい人たちに食料や物資を与えれば感謝されるでしょうよ。でもね、それって深刻な性病にオロナインとか塗るようなものですから。確かにこう、生殖器に塗ってる時はヌルヌルしてて気持ちいいですけど、問題は中ですから、ほらもう、中から膿とかでてるじゃないですか、そんなのオロナインじゃ治せないじゃないですか。それと一緒ですよ、全然違うけど。 僕はモンゴルの砂漠地帯を放浪した経験があるんですけど、日本や韓国を初め、多くのアジア諸国がモンゴルに支援しているんですよね。何を支援してるかっていうと、貧しい奥地の村に水を汲み上げるポンプなんかを設置してあげてる。でもね、貧しい村人は貧しすぎてそのポンプを外して売っちゃうんですよ。そんなの全然支援になってない。 とにかく、そういった一時的な援助って、援助する側のオナニズム以外の何物でもない。物あげりゃあいいってのは根本的な解決になっていない。もっとこう長期的で根本的な展望で支援しなきゃいけないんです。 そこで、僕が考えたのが地雷および不発弾の処理です。内戦の影響が色濃く残るこの地域では、いまだ多くの地雷や不発弾が村の周りに埋まっている状態です。村の周りにはロープが張られ、その内側だけを安全に歩ける状態。この信じられない状態が多くの村人の働く気力を奪っているのです。 確かに政治も悪いでしょう、国家的な経済状態も最悪です。しかし、その中にあって村人さえ気力を持って生きていれば何とかなるんじゃないか。そう思って僕はたった一人で村の周りの地雷除去を始めました。 最初こそは、そんなの無理に決まってると冷ややかな眼差しだった村人でしたが、余計なことをするなと罵る村人もいました、作業中に石を投げられることもしばしば。しかしながら、一人、また一人と僕の地雷除去を手伝ってくれるようになりました。「自分の住む場所は自分で守らなきゃな、よそ者のアンタに頼りっきりじゃ」そういってくれた村の若者の言葉が今でも忘れられません。 確かに、村人が手伝ってくれたとはいえ、人力での地雷除去には限界があります。そんなに処理できなくて根本的な解決にはなっていなかったけど、あの生気を取り戻した村人たちの瞳は、決して無駄じゃなかったと思わせてくれた。 「ありがとう、日本から来た友よ。我々はもう大丈夫だ。きっと全ての地雷を除去してあの緑の大地を取り戻してみせる。そうしたらまた来てくれ、一緒にサッカーでもしよう」 村を出るとき、村長が僕に贈ってくれた言葉です。まあ、そりゃあ僕だって年頃の男の子ですから、村一番の美人とねんごろになっちゃってね、こうまあ、惚れた腫れたっていうか、おセックス的なアレもなかったとはいいませんけど、とにかく、非常に充実したサマーホリデーでした。全部嘘です。普通にクーラー効いた部屋でカレー食いながらDVD見てたわ。 そんなこんなで、しばらくの間日記を書いていなかったので今日はリハビリ的な意味も含めて「15分トライアル日記」を久々にやります。これは1つの文章を15分で書くと決めて書くもので、15分でどれだけ書けるのかという試みです。15分経過したら完結してなくても普通にアップするという投げっぱなしジャーマンみたいな企画。果たして何本書けるのか。日記と同様に仕事もサボっていたので、微妙に仕事がたまっており、合間合間に書くことになると思いますが、リハビリ的感覚でお付き合いください。 14分11秒 8/4 駒からヒョウタン ヒョウタンから駒が出てくると嬉しいが、駒からヒョウタンが出てきても大して嬉しくない。 そもそも、「ヒョウタンから駒」というのは、意外なところから意外なものが出てくるという意味だ。往々にして、予想外のラッキー的な意味合いで使われる事が多い。じゃあ、なぜヒョウタンから駒が出てくるとラッキーなのか。「駒」ってのは何も王将とか香車みたいな将棋ゴマから出てくるわけじゃない。そんなの無理矢理ヒョウタンに入れればいくらでも出てくるわ。 「駒」ってのは馬のことを表しており、語源を当たってみると一日に数万里を走るとんでもない白馬だったらしい。分かりやすく言うと、ヒョウタンからディープインパクトとかナリタブライアンが出てくるようなものだろう。 あまり野暮なことは言いたくないですけど、ヒョウタンから馬が出てくるって正直あり得ないじゃないですか。物理的に無理じゃないですか。なのにニュって出てきてその馬がムチャクチャ走っちゃう。そりゃあ僕だって嬉しいですよ。 実は、人間ってのはこの「ヒョウタンから駒」的な意外性にめっぽう弱い。何の期待もせずにヒョウタンを振ってみたら中からナリタブライアンが出てくる。これはもう腰が抜けるほど嬉しい。ナリタブライアンで一稼ぎできると小躍りして喜ぶくらいだ。 しかしながら、普通に馬運車とか厩舎からナリタブライアンが出てきても、うん、まあ、そうね、くらいにしか思わない。そりゃそうだ、くらいにしか思わない。確かに出てくるのは嬉しいけど、ヒョウタンから出てきたくらいの興奮は味わえないのだ。 これと同じ事で、例えば女性なんかは特にそういった意外性に弱い。まあ、女性なんてのはクリトリスが第一の脳で、頭の中に詰まってるのが第二の脳でって感じで大抵がアッパーパーなんですけど、なんていうか、不良が子猫助けるとかそういうのに弱いじゃないですか。 なんか不良が汚い子猫抱いて登校とかしてくるでしょ、そすると女子なんかは「やだ、大谷君って見かけは怖いけど優しい……」とか言いますからね。大谷君、シンナーで歯とかボロボロですよ。モモンガみたいなズボンはいて大変なことになってますよ。それなのに、「乱暴な不良が」「捨て猫を拾ってくる」という意外性にとにかく弱い。あのですね、猫拾ってきて女学生が落ちるなら僕なんて500匹くらい拾ってきますわ。ボケてる老人とか拾ってくるわ。 でもね、僕が猫を拾ってきたってきっとダメなんですよ。いやいや、僕が猫を拾ってきても意外性がない、結構優しい感じの人間ってわけじゃなくて、確かに意外なんでしょうけど、そこには意外なだけでは満たされない何かが存在するんです。 つまり「ヒョウタンから駒」は嬉しいのだけど、「駒からヒョウタン」は嬉しくない、そういうことなのです。ヒョウタンから馬が出てくる、馬からヒョウタンが出てくる、どちらも意外なところから意外なものが出てくる意外性なんですけど、後者はどうもあまり嬉しくない。馬がムリムリとウンコして、その中にヒョウタンが入ってたとしても、まあ、意外なんだけど別に喜ばない。むしろ変なものでも食って体調悪くしたかと心配するほどだ。 それと同じ事で、不良が子猫を拾ってくるとその意外性にメロメロかもしれないけど、逆に子猫が不良を拾ってきたら大変、もう化け猫レベル。でっかい物の怪が不良の大谷君を咥えて登校してきてね、大谷君とかもう死んでてダラーンとしてるの。そりゃ女学生も泣きますよ。阿鼻叫喚の生き地獄ですよ。大谷君、首吊りみたいな感じで死んでるから失禁とかしてますしね。 結局、人間なんてのは意外性に弱いといいつつも、そこには計算に裏打ちされた打算ってヤツが存在して、あくまでも自分に都合の良い意外性だけを受け入れるのだ。意外なところから良く走る馬が手に入れば嬉しいし、不良の大谷君にしたって、心の中でちょっと大谷君のことを良いなって思ってるから意外な良いところを発見してメロメロになる。むしろ好きになる理由探しに過ぎない。僕のようなブサイクフェイスが猫を拾ってきたって、確かに意外なのだけど別にフーンって感じ、焼いて食べるつもりなのかしら、くらいのものなのだ。 もうずいぶん前の話になるのだけど、確か1年位前のこの時期だった。職場の野球大会という訳の分からない行事があり、炎天下の中訳もわからず野球をやらされた我が職場の面々は疲労し、熱中症患者を6人も出すという未曾有の大災害が巻き起こった。 しかも優勝した部署は温泉旅行にご招待というこれまた暑苦しい賞品で、これを企画したやつらは僕らを焦熱地獄に叩き込むつもりなのかと怒ったのだけど、なぜかウチの部署は異常に燃えて優勝を狙っており、大会1週間前から朝練とかやっていた。 そんな本気モードのチームで臨んだ1回戦、相手はお堅い部署チームで、明らかに運動不足の中年ばかり。正直楽勝だと思っていた。しかしながら、なぜかピッチャーをやらされていた僕は一球目で先頭打者のけっこう偉い人の頭にデッドボールを喰らわせてしまい、たった一球で危険球退場となった。職場のレクリエーション野球で退場させられるヤツもそうそういない。職場からも退場させられるかと気が気じゃなかった。 まあ、早々に退場になって仕方ないんでフェンスの向こうから体育座りで試合を見ていたんですけど、なんていうかですね、いつも根暗で何を考えているのか分からない、あの人は絶対にストーカーに豹変する、みたいなとんでもないことをいつも女子社員に言われてる林田君が大ハッスルしとるんですよ。 どうやら彼は野球部出身か何かだったらしく、もう玉さばきとか全然違うのね。もうバシュッと取ってシュッと投げて女どもがキャーって言うね、とんでもない状態になっとるんですわ。仕方ないので僕も女どもと一緒にキャーキャー言ってたんですけど、「あの人頭おかしいって。普通、重役の頭にボールぶつけないって。カウンセリングとか勧めるわ」みたいなこと言われて気持ち悪がられました。 結局ね、意外性に弱いんですよ。あの根暗な林田君が実は野球が上手かった。もうその意外性にメロメロですよ。スノーボードが上手なブスが夢を乗せてラップを歌いだすくらいメロメロだった。 まあ、これも明らかに計算しつくされた意外性で、ただ根暗で無口なだけでイケメンだった林田君だから演出できたに過ぎない。「野球が上手い」という自分らが納得するだけの良い面を探していただけに過ぎないのです。 例えば僕が危険球退場にならず、なぜかイチローばりに大ハッスルして活躍したとしても、「なにあいつ一人で燃えてるの」「職場の野球大会で本気出しちゃって空気読めないわー」「顔が気持ち悪い」って言われるに決まってます。そう、意外性で良い印象をもたれる人間ってのは、元々ポテンシャルが高いだけなんです。そんなの意外性でも何でもないわ。 というわけで、今日はホントの意外性という話をしてあげましょう。前述の林田君ですが、野球大会以後も女子社員の間では結構人気の高まりを見せていましてね、色々な女子に誘われていたんですよ。まあ、僕がこれだけ女子社員に人気だったら「しゃぶれや」くらいは言ってるんでしょうが、林田君は乗ってこない。どんな女子社員の誘いにも乗ってこなかった。 そこでまた意外性ですよ、少し無口だけど野球も上手でイケメンな林田さん、なのに誰が誘っても乗ってこない。あーん、すごい真面目で彼女を大切にするタイプだわ、ってなもんですよ。 そしてそれから数ヶ月経ったある日、その無口な林田君から突如として結婚報告が成されます。お相手は職場の女子なんか全く関係ない普通の女性。なんでも趣味で通っていた将棋クラブで知り合ったそうなのです。 そこでまた女子社員ですよ。あーん、真面目でスポーツも出来るイケメンなのに将棋なんて知的過ぎる!意外すぎる!とまたもやメロラップですよ。いやいや、こういっちゃなんですけど、根暗な林田君に将棋って結構あってるじゃないですか。意外性でも何でもないじゃないですか。なのにもう意外性の虜になっちゃってますから、そんなことにも気がつかないんですね。 そんなこんなで、ジューンブライドって言うんですか、6月くらいに挙式が執り行われたんですけど、何故か僕が披露宴の司会って言うか、友人関係が余興をしたりするお楽しみタイムの司会にされちゃったんですね。 呼ばれてた職場の女子社員などは林田君を取られたショックで「なによあのブス!」とか嫁の悪口言ってて、こいつら性格悪いから意外でも何でもねーなー酔い潰れて片乳でもだせねーかなーって眺めながら司会業をこなしてました。 さて、職場の連中の余興というか、職場内のひょうきんな連中が今時そりゃないだろうっていうレイザーラモンHGのモノマネをして会場を凍りつかせるという、僕も司会者として全くフォローしない異常な余興が終わり、いよいよ新郎と新婦が出あった将棋クラブの面々が出てきました。 まず、将棋クラブの偉い人が出てきて、長々と「夫婦というものは香車と同じです。あの駒は2つで一組なのです。お2人も香車のように真っ直ぐに力を合わせて……」みたいな挨拶をしてました。僕は司会者として、将棋の駒って結構二つ一組だと思います、あと、香車同士ってあまり力を合わせない、みたいなフォローを入れておきました。 その後は会場の来賓を巻き込んで、積み上げた将棋の駒を崩さないようにそっと抜き取るというスリリングな、司会者として全くフォローできないゲームが始まりました。プレイしているテーブルしか盛り上がらない、その盛り上がりもイマイチというとんでもない余興だった。 そんなこんなで披露宴も終わり、二次会へと突入するのですが、そこでの林田君が意外性の塊だった。 二次会の席では司会の重責から解放され、なんか新婦の友人だった大塚愛似の女の子に、僕が普段から説いている首重要説を延々と説いてました。これはまあ、人間の体ってのは頭と手と足が大切なんだという話で、その他の部位はそれらを繋ぐ役割しか担っていないというもっともらしい話です。 「人間なんてのはね、頭と手と足があればいいんだよ。それだけあれば事足りる」 こう言うと知的な感じがしてきて意外性が演出できるじゃないですか。あの人、今日の披露宴の司会でバカなことばっかり言っていたけど、こんな知的な一面もあっただなんて!ってなもんですよ。 「でね、その頭手足の重要な部位にはある共通点があるんだ。何だか分かるかい?」 もう気分はインテリジェンスですよ。大塚愛似の子も真剣に考えつつ「うーん、なんだろう」とか指先を唇というか口唇にあてて考え込んでます。 「頭手足、それぞれを支えているものはなんだい?そうだろ、首だろ。頭には首が、手には手首が、足には足首が、重要な部位を支えるところにだけ首って名称がつくんだよ」 「あ、ほんとだ、すごーい」 もう落ちたと思いましたね。こいつはもう僕の意外性に落ちたと思った。一気に攻勢をかけて畳み掛けます。 「人間の体ってのは重要な何かを支えてる部位にしか首はつかないんだよ。じゃあさ、もういっこ首があるでしょ、それは何だと思う?」 「えー、もう1個首?どこだろー」 「乳首さ!」 まあ、今コレをお読みの皆さんならこの辺から旗色が悪くなるのが十分に分かっていただけると思います。 「でもおかしいだろ、乳首ってのは何も支えてないのに首という名称がついている。何でだと思う?」 もうこうなると大塚愛似の女の子は下を向いて真っ赤な顔してますよ。心の奥底がトクンといって早まる動悸を抑えるのに必死、僕に恋しているに違いありません。 「そう、乳首は重要な部位を支えてるわけじゃあない。でもね、女の子の乳首の先には僕らの夢や希望が詰まってる。頭蓋骨より重いそれらを支えてる乳首はやっぱり首なんだ」 「だから何も恥ずかしがることない。その夢や希望を、僕らの熱い想いを支えている乳首を見せてくれないか?不純な動機とかじゃなくて、その労をねぎらいたいんだ」 みたいなこといったら、その子帰っちゃいました。 なんだかなーって思いながら誰も近付いてこないで一人でチビチビと酒を飲んでると、なにやら会場が騒がしいじゃないですか。見ると、なんか新郎の林田君がベロベロに酔っ払ってるんですよ。もう、その酔っ払い方たるや物凄くて、あんな林田君見たことないってレベル。 同僚とか将棋クラブのメンツとかに絡みまくってですね、俗に言う悪いお酒ですよ。もうこれには林田君に憧れまくってた女子社員どももドン引き。でもね、あんたらが言ってる意外性ってのは野球が上手いことでも将棋が上手いことでもない、こういうのこそが意外性なんだ。 プラスに感じる意外性なんて、結局、心のどこかで期待している事象の延長に過ぎないのだ。本当に真に意外なものなんて、好青年が酔い潰れて大変なことになるとか、新郎の友人にいきなり乳首のことを熱く語られるとか、そういったドン引きするレベルのものなのだ。 もうヘベレケに酔っ払って、余興に使った将棋駒をアナルに入れるという暴挙に出た林田君。新婦は泣いていた。あんな角があるものを入れたら痛いに決まってる、「いてていてて」と言いながら入りきらずにボロボロと林田の尻から 落ちてくる林田君を見て、こいつがこんな状態になるとは、ヒョウタンから駒ならぬ林田から駒だな、と思ったのだった。皮肉にも、その駒は香車だった。 もちろん、意外性には、本気で予想だにしていない嬉しいサプライズだってある。宝くじに当たるとか、友人が内緒で誕生パーティーを企画してくれてるとか。本気で心の隅ですら計算していない意外性、それこそ、ヒョウタンからすごい馬が出てくる喜びだ。しかし、それらは裏打ちされた打算の産物である意外性とは根本的に異なるものなのだ。計算された喜ばしいヒョウタンから駒なんて意外性でも何でもない、計算できない不幸な駒からヒョウタンの方が意外性なのだ。 今日、1年前にデッドボールをぶつけた重役に、なぜか個人的に呼び出されている。きっと昇進とか給料アップとかそういう類の話なのだろうけど、それを予想していると本来のヒョウタンから駒にはならない。だから意識せずに重役との会談に臨みたいと思う。出来ることならば、大切な首だけは守りたいものだ。 7/26 ぬめぱと変態レィディオ2008-君といた夏スペシャル- ぬめぱと変態レィディオ2008-君といた夏スペシャル- いつのまにやら4000万ヒットをしてしまい、メールボックスには「4000万ヒットおめでとうございます!」のお祝いのメールがどっさり、ということは全然なく、「早く後編書けやカス」「死ねや」などのソウルフルなメッセージがもっさり。 しかしまあ、4000万ヒットというとそれはそれは途方もない数字でございまして、ただのオッサンがたまに文章を書くだけのページでこんなことになってしまうとは思いもしませんでした。今日は何だかページ上部のデリヘルの広告の人も心なしか微笑んでいるように思えます。 さて、そんなこんなで4000万ヒットを記念して今回も閲覧者様大感謝企画をやっちゃいます! ぬめぱと変態レィディオ2008-君といた夏スペシャル- 7月26日夜9時からカックラキン大放送。今回のメインテーマは「童貞テレフォンりんりんりん」です。Numeriをご覧の童貞男子に電話番号を送っていただき、かたっぱしからpatoが電話をかけて童貞談義に華を咲かせていきます。トークを膨らませるため、参加希望の童貞の方は以下のような話題を準備していただいていると助かります。 ・童貞でよかったなあって思ったこと 応募はこちらから。ハンドルネームと年齢、お住まいの地域、電話番号、自己アピールなどを書いて送ってください。高年齢童貞から優先して電話をかけていきます。 しかも、今回は、なんと、いつもプレゼント告知ってのは嘘っぱちばかりなのですけど、今回は本当に出演者の中からリスナーさんの反応が最も良かった方に使わなくなったPlayStation3 40GB(SIREN NewTranslation ダウンロード済)をプレゼント致します。次点の方にNumeri自費出版本「ぬめり1&2」をセットで。さらに次点の方に引っ越しで出たゴミをプレゼントいたします。マジで。 もちろん、いつものようにくだらない話なども盛りだくさんでお送りいたします。親父が海上保安庁に拿捕された話とかします。暑苦しい夏をぬめぱと変態レィディオと共に乗り切りましょう。それでは、放送で! 7/23 デビュー この間、テレビを見ていたらなんか頭の中にオガクズでも詰まってそうなアッパーパーなアイドルが出ていて、良く分からないスケベそうなオッサンのインタビューに答えていました。僕はその様子を「ああー、オガクズの中ってカブトムシの幼虫とかいるんだよねー」って感じで見ていると、そのアイドルがとんでもないことを言い出したのです。 「聞いてくださいよー!私この間、デビューしたんです!」 いやね、なんのことかわからないじゃないですか。というか、こんな見たことないアイドル最近デビューしたに決まってます。そんなこといわれなくても分かってる。インタビューしていたスケベなオッサンもそれは感じ取ったらしく、 「そうなんです、この○○ちゃん、先月デビューいたしまして!」 みたいな感じでデビュー写真集の紹介を始めたんですね。なんかオッパイがこぼれ落ちそうな、戦時中だったらそれだけ憲兵に逮捕されそうな過激な表紙の写真集でした。まあ、色々な番組でよく見るアイドルの宣伝活動ですわな。駆け出しのアイドルにしたらプロデューサーの肉便器になってでもテレビで宣伝したいものです。そんな感じでまんじりと見ていると、ニコニコしていたアイドルが突然口を開いたのです。 「違うんです!私は確かに先月デビューしたんですけど、それとは違うデビューをしたんです!」 いきなり何を言い出すかと思ったんですけど、それは画面の向こうの面々も同じようで、どうも予定になかった発言のようでスタジオ内は騒然、このアイドルが何を言い出すのかと固唾を飲んで見守っている感じでした。 もしかしたら、この頭の弱そうなアイドルのことだ、いきなり「アナルファックデビューしちゃいました!」とか言い出すのかもしれない、くぅーカワイイ顔してやるじゃねえか、みたいに僕も僕で気が気がない状態で次の彼女の発言を見守ります。一体、彼女は芸能界デビュー以外に何にデビューしたんだ。是非ともアナルファックデビューか浣腸デビューであって欲しい!もっと過激でもいい、ワンパクでもいい逞しく育って欲しい。 「実は私、先日、コインランドリーデビューしたんです!」 いやいや、なんですかこれ。え、なんですか。安いシャブでもやってんの?いやね、こうなんていうか、コインランドリーのドラム内でアナルファックするとかじゃないでしょ。どっかの客が忘れていったパンツかぶっておセックスとかそういった類のものじゃないでしょ。なんか普通にコインランドリーで洗濯した、すごい感激した、みたいな話をしてるんですよ。 別にそういった類の話をするのは悪いことじゃないですよ。初めてコインランドリーに行ってコインランドリーデビューした、いいじゃない、とてもいいじゃない。そういったことにいちいち感動できる、そういう女の子はカワイイですよ。でもね、それを公共の電波を使って言うことか。 「すっごいんですよ!大きな洗濯機がグルグル回ってて!」 いやいや、そんなのどうでもいいですから。そんなの喋ってる暇があるのなら片乳の一つでも出せと。平日の昼下がりにテレビを見ながら激しい憤りを感じたのでした。 しかしここで立ち止まって考えてみて欲しい。どうしてあのアイドルは公共の電波であのようなことを口走ったのか。極論を言ってしまえば、彼女は自分の芸能界デビューを宣伝するよりもコインランドリーデビューをした興奮を全国民に知らせたかったということなのだろう。最初こそは、このジャリタレントが!オッパイ揉ませろ!くらいに憤っていたけど、よくよく考えると彼女の発言は思っていた以上に重くて深い。 世の中には数多くの事象がある。たぶん、今ここを見ている人の目の前にはパソコンがあるし、横を見ればエロ本があると思う。エロいDVDもあるだろう。その裏側には盗んできた女物の下着とかが、匂いとか嗅ぎすぎて変色した形で存在していると思う。その横の棚には修学旅行で買ってきた意味わからない土産物が置いてある。そして君の部屋の前にはお盆に乗せられた夕食が置いてあって、たぶん君の大好物の生姜焼きだ。で、下の階では母親が「正夫ちゃん、早く就職して」と泣いている。早くお母さんを安心させてあげなさい。 ちょっと考えただけでも多くの物が存在し消費されていくことがわかる。そして、日本は古来より、それら全ての物に魂や霊魂、何らかの意思が宿っているというアニミズム的考え方を定着させてきた。八百万の神々やら九十九神などその代表例とも言えるだろう。 長年頑張ってきた針を豆腐やらの柔らかいものに差して労をねぎらってあげる針供養やなんかそういった考えの現れなわけなんですね。昔の人は万物全てに神が宿っていると考え、それはそれは大切に大切に扱ってきたのです。大切に扱わなかった時、その思いは怨念に変わり妖怪化する、そうやって様々な妖怪が作られていったのです。 それが今やどうですか。あらゆる物が溢れ、いらなくなったら簡単に捨てられ消費されていく社会。恵まれた豊かな日本において万物に魂が宿っているという考えは忘却の彼方に消え去ってしまった。僕も僕で、家の水道が止められてて洗濯できない!って時に、毎日コンビニで新しいTシャツを買っては汚れたら捨てるというライフスタイルを繰り返しており、Tシャツの神は毎日怒っていたと思う。コインランドリー行けよって怒って妖怪化していたと思う。 そうやって万物を大切にすることを忘れた現代、そこで物を大切にするってどういうことだと思いますか。大切に扱う、大事に使う、そんなの当たり前ですが、実はもっと重要なことがあるのです。下の例を見てみましょう。 「ねえねえ高志、今日は何の日だか知ってる?」 「うーん、海の日は終わったし、原爆の日とかはもっと先だし・・・なんだろ」 「もう!忘れたの!」 「メンゴメンゴ!」 「もう知らない!」 「芳江、そんなに怒るなよ。ごめん、何の日だか教えてよ」 「ほんとに覚えてないの?」 「うん、ごめん、全く」 「もうバカバカ!」 芳江はぷーっと膨れてベッドの布団に包まってしまった。なんだかなあって思いつつも何の日だっけ、文房具屋が勝手に決めた三角定規の日とかだったら絶対に分からないぞと思いつつタバコを吸おうとベランダに出た。 「あ、いけね、タバコ切れたや」 いつも買い置きのタバコを置いてある棚まで取りに行く。まだ布団に包まってふてくされている芳江の横を静かに通り過ぎて棚まで辿りつくと、そこには何かピンク色の小さな手紙が置いてあった。 「高志へ。なんだか照れくさいから手紙に書くね。こんな私と付き合ってくれてありがとう。覚えてる?私が元カレのことで悩んでいたら高志は言ってくれたよね、お前が元カレとしたキスの回数なんて1日で追い抜いてやる、1年後には100万回キスしてやる、だから付き合おう、って、すごく嬉しかった。私のこと気遣っていつもベランダでタバコ吸うよね、そうやって大切にしてくれるところが嬉しい、大好き。今日は付き合い始めて1年目の記念日です。芳江」 そうか、今日は1年目の記念日だったのか。高志はそっと手紙をポケットにしまいこむと芳江の所に駆け寄った。ふてくされて布団に包まったまま眠ってしまった芳江にそっと100万回目のキスをした。まるで二人を祝福するかのようにどこか遠くで花火の音がした。 なんていうね、もう世の中の女が全部山本モナになって男が全部ニ岡になって五反田のラブホテルに行けばいいのにって感じざるを得ないんですけど、こういうのってあるじゃないですか。こういう女ってホントうざったいんですけど、そうやって「初めての日」「始まりの日」を大切にする、いうなればデビューを大切にするって風潮があるじゃないですか。 それこそ、恋人同士がその関係を大切に思うあまり始まりを大切にするんでしょう、もちろん、その過程や内容なんかは当たり前に重要なんですが、それでもデビューが大切である、そういうことなんだと思うんです。 じゃあ、最初の話に戻りますけど、万物を大切にする場合どうするか。そりゃああらゆる物を大切に扱うのはモチロンなんですけど、それと同時に始めてのデビューを大切に思っていなきゃいけないんです。 アナタは自分が始めてエロ本を読んだ時のことを覚えてますか。初めてコーラを飲んだ日のことを覚えてますか。初めてブラジャーをした日のことを覚えてますか。初めて携帯電話を持った日のことを覚えてますか。初めてインターネットをした日のことを覚えてますか。初めてNumeriを読んだ日のことを覚えていますか。そう、アナタにとって大切なものほど始めての日、初めての時、デビューのこと覚えているのです。逆を言うと、デビューのことを覚えてないものってのは大して大切じゃないんだ。 それを踏まえて冒頭のアイドルの話を考えると、おそらく彼女はこの物が溢れる物欲社会に警鐘を鳴らしたのだと思う。恵まれすぎた僕たちは便利であることに感動しなくなってしまった。でも実際にはそこにある物が存在するのも、アナタが存在するのも全てが有難いことなのだ。だから私は何でもデビューと称して覚えていようと思う。コインランドリーに初めて行ったこともコインランドリーデビューとして記憶に残し、ずっと大切に思い続けていきたい。そういう意思の表れだと感じ取った。 世の中で重宝されるデビューなんてAV女優のデビュー作くらいだ。それすらもデビュー作はソフトな内容が多く、女優の男性経験などをイチャイチャしながら聞きだすインタビューが多く、抜ける内容でないことが多いので僕は嫌いなのだけど、もっとずっとあらゆる物に対してデビューを意識する、そんな社会でもいいんじゃないだろうか。 先日のことだった。 職場の飲み会というか食事会というか、まあ、今まで生きてきた中で13番目くらいに退屈な時間を過ごしていた時に、ひょんなことからキャバクラの話題になった。どうも同僚の仲にキャバクラ帝王の異名をとる豪傑がおり、その彼のキャバクラ談義に華が咲いていた。 僕は恥ずかしながら31歳のこの歳、今度8月に32歳になりますけど、この歳になるまでキャバクラというものに行ったことがなかった。話に聞くところによると綺麗で高級感溢れる店内で綺麗なお姉さんがこれまた綺麗なドレスを着て、楽しく、時にちょっとエッチな会話をしながら美味しいお酒を飲ませてくれるところらしい。 帝王曰く、上手く事が運べばキャバクラのお姉さんと仲良くなることができ、そこでまあ、いわゆるおセックスというスポーツに勤しむこともできるし、そのまま仲良くなって2人で愛の短歌を詠みあげることも可能らしい。なんとも素敵な桃源郷であると聞き及んでいる。 そういった帝王のキャバクラワンダーランド論を興味津々で聞いていた僕にある種の想いが去来した。今日、僕はキャバクラデビューしよう、この飲み会の後にキャバクラデビューをしよう、と。今日のこの日は記念すべきキャバクラデビューの日、この日のことをずっと覚えていよう、そしてキャバクラをずっと大切に思っていこう、そう決意した。 キャバクラデビューにあたり、キャバクラ帝王についていって色々とご教授していただくのが手っ取り早いのだけど、それはいささか危険な気がした。なにぶん、彼は途方もないキャバクラ帝王だ、いきなり上級者向けのハイレベルなキャバクラなどに連れて行かれたら何も出来ないうちに終わってしまうだろう。それでは悲しきデビュー戦になってしまう。免許取立てのAT限定の女子大生がいきなりパリダカールラリーに出場するようなもんだ。最初はもっとソフトな展開がいい。 僕は、同じく同僚でキャバクラに行った事がないという男に狙いを定めた。彼もキャバクラに興味津々らしく、帝王の話を口を半開きにさせて聞き入っていた。 「なあ、この後キャバクラにいかねえか」 彼にコッソリと耳打ちする。彼はしばらく考えた後、無言で親指をグッと立てた。新しい友情が始まった記念すべきデビューの瞬間だった。 さて、飲み会も終わり、繁華街に2人で佇む僕と同僚。煌びやかなネオンが眩しい風景に活気ある呼び込み達。僕らの胸は期待で破裂しそうだったのだけど、実はここからがかなり難しい。なにせキャバクラ素人の僕達だ、どの店に行っていいのか全く分からない。下手な店を選ぼうものならそれこそ大切なデビュー戦が台無しになってしまう。 「どの店にしようか」 「呼び込みの人に案内してもらった方がいいんじゃないだろうか」 とにかく、いきなりダイレクトに店に行くのは怖いので街角に立っている呼び込みの人に紹介してもらおう、ということに。この繁華街は普通に歩いているだけで「キャバクラどう?」と怪しげな人間が話しかけてくる場所なのでそんなに苦労はしない。僕らは信頼できそうな呼び込みを探した。 「あの人にしよう、あの人なら良い店を紹介してくれそう」 と同僚が何を根拠に言ってるのか全然分からなかったのだけど、彼が指差す方向を見てみるとそこには見るからに怪しげな男が。ほら、詐欺師とかっているじゃないですか。たまに詐欺師がテレビの取材か何かで詐欺の手口を得意気に語ってることとかあるじゃないですか。もちろんモザイクとかかかってて顔は分からないんですけど、特殊な処理でモザイクを外したらきっとこんな顔してるんだろうなーって感じのオッサンが佇んでいるんですよ。 いやね、コイツのどこが信用できるんですか。どこに絆があるんですか。コイツについていっても不幸な結末しか見えない。けれどもまあ、同僚が何かに憑依されたかのようにそのオッサンを推すので仕方なく紹介してもらうことに。 自分達はキャバクラデビューであること。そのデビューを大切に思っていること。そして何より素晴らしい店を紹介して欲しいこと。包み隠さずにオッサンに話しました。するとオッサンは僕らの熱い思いに感化されたのか、 「よっしゃ!とびっきりの店を紹介したるわ!」 と案内してくるじゃないですか。ああ、この人に話しかけてよかった、人間、魂で話しかければ分かってくれるものだ。この人のおかげで僕らは最高のキャバクラデビューを飾れそうだ。僕はこのデビューを一生大切に思い続けるよ。感動のあまりオッサンの後ろを歩いているうちにウルッとくる場面も。 「このビルの4階だ。店のほうにはもう連絡してあるから」 移動中、どっかに携帯電話かけてると思ったら店に連絡していたのか。なんという手際の良さ、なんという思いやり。僕ら2人はオッサンにお礼を言うと、二人で小汚いエレベーターに乗り込んで4階へと向かった。 エレベーターの中で様々な想いが交錯する。帝王のアドバイスによると、どうもキャバクラでは会話が重要らしい。キャバクラ嬢を喜ばせる極上の面白エピソード、それでいてほのかにエロい会話がベストらしい。そこでグッと掴みつつ、その後のエロスな会話にシフトチェンジする。言うなればローギアからシフトアップしていくイメージ、キャバクラの会話とはマニュアル車の運転だと豪語していた。 どのような会話でキャバクラ嬢を喜ばせるか。エレベーターの中で考え抜いた僕はイカ釣り漁船の話をしよう、と思い立った。子供の頃、イカ釣り漁船に乗せてもらった面白エピソードを話そう。そこでウチの親父が船に酔ってゲロ吐いた話とか、それでも船に酔ってない、酒に酔ったと言い張っていた話とかしよう。これで女の子は大喜びのはずだ。 そして、このイカ釣り漁船の話は実にオールマイティで、イカ→イカ臭い→精子といった感じでエロスな会話に持っていきやすい。昨日、シコっちゃった!とか極めてナチュラルにそっち方面の話に持って行きやすい。こうなればこっちのもんで、キャバクラ嬢もすぐにその気に。子宮がジンジンしちゃうとか言い出すに決まってる、よし、イカ釣り漁船の話で勝負を賭けよう。 チーンという音と共にエレベーターのドアが開く。エレベーターの目の前がすぐに店の入り口になってるみたいで赤い絨毯と重厚なドアが目の前に飛び込んできた。 ここがキャバクラ。この中では落ち着いた雰囲気の中で女の子と会話を楽しみ、酒も楽しむ、そんな重厚な時間が流れているのだ。学生なんかが居酒屋で大騒ぎして飲むのとは違うアダルトで落ち着いた時間がそこにあるのだ。シックな音楽が流れる店内、女の子はそっとグラスを傾ける、どうやら僕のイカ釣り漁船の話に聞き入ってるようだ。カランカラン、グラスの中の氷が崩れる音がする、もう言葉は要らない。どんな高級酒よりも君に酔ってしまいそうだ。 そんな世界が待っているキャバクラ、いよいよデビューの時、僕と同僚は顔を見合わせ、いよいよ重厚なドアを開いた。 「イラッシャイマセー!」 入店と同時にサンバのリズムが鳴り響き、本当に鳥みたいな格好した女の子数人にもみくちゃにされた。意味が分からない。 「いや、あの、ちょっと・・・」 と僕も同僚も焦るのだけど、サンバのリズムは止まらない。なんか違う、この店は違う。こんなのキャバクラじゃない。 「デアエタコトニカンシャー!」 見ると鳥みたいな衣装を着た女性達は日本人じゃないようで物凄い片言の言葉を話しながら僕と同僚をもみくちゃにした。 なんか、店内には他にも客がいるのだけど、僕と同僚がもみくちゃにされる様子をヒートアップしながら見守っていた。 「いや、あの、ちょっと、イカ釣り漁船が・・・」 とか何とか抵抗するものの全く意に介さない女たち。同僚なんかドラクエの話をするつもりだったらしく、「ロトの勇者」とか訳の分からないことを言ってた。 いつのまにかあれよあれよという間に店内なステージみたいな場所に連れて行かれてしまい、スポットライトが異常に眩しいわけの分からない環境におかれる2人。ボス格の鳥みたいな外人がなんかマイクでアナウンスしていた。何語なのかも全く分からないのだけど、どうやら僕らを祝福してくれている様子。それを受けて他の鳥とか観客もヒートアップしていた。ってか観客も東南アジア系の外人ばっかりだった。 で、何故か、僕の方にマイクを向けて何か喋りかけてくる。何語なのかも全く分からず、そもそも、なんでこんな状態になってるのか検討もつかず、チラリと同僚の方を見ると泣きそうな顔をしていた。 「ツギハ イツ キマスカ?」 言葉が分からないのを察したのかボス格の鳥が片言の日本語で話しかけてくる。ああ、もしかしてこれはこういった店にデビューした僕らを祝ってくれてるのか、それで、気を良くして今度はいつ来てくれるのか聞いているのか。 もう二度とこんな店に来るのは御免こうむりたいのだけど、そこはステージにまで上げられてしまったんだ、外人並みのリップサービスですぐ来るよ、と言いたいのだけど、さすがに明日来る、とか言ったらすごい言い過ぎなので月曜日くらいに来ます、と言おうと決意。 しかし、気が動転してしまい、何か英語を話さなくてはいけない!と見当違いなことを思いつめてしまい、月曜日ならいいよ的な感じでマンデーとか言おうとしたら緊張で噛んでしまい、 「マンモグラフィ!」 とか訳のわからないこと言ってました。乳がん検診してどうする。女性の方は定期的な検診をオススメします。 しかしながら、何がどうなったのか、その乳がん検診の言葉を受けて店内がヒートアップですよ。ウオーッて感じにヒートアップ。毎年死者が出る激しい祭みたいにヒートアップ。次々にステージによってきて僕ら2人に酒をぶっ掛け始めるんです。まるでセリーグに優勝したみたいな状態になってた。 もう揉みくちゃにされながら酒ぶっ掛けられて、それでもなおキャバクラでの上質な会話を諦めていなかった僕は「イカ釣り漁船が・・・」とか言ってた。 こうして嵐のような1時間が終わり、終始会話することすら許されない雰囲気で酒まみれの格好で鳥達のダンスを眺めていた僕と同僚。帰り際にはぶっ掛けられた酒の代金や、何故か「出演料」とかいうものまで計上されており、一人2万円くらい徴収されました。 酒まみれで嫌な匂いをプンプンさせながら繁華街に佇む僕と同僚。 「ぼったくられちゃったね」 「うん、俺、もう二度とキャバクラには行かないよ」 このデビューの日を一生忘れることなく大切にいきていこうと決意したのでした。 デビューとはスタートのことです。どんなことでもデビューがなければ始まりません。そのデビューを大切に心に刻み付ける事こそが、その事象を大切に思うことなのかもしれません。どんなことでもいい、今日は○○デビューした日、そうやってあらゆることを大切に思い、多くのことを大切に思う、そういう生き方も悪くないんじゃないでしょうか。 タクシーに乗って帰ろうとした僕と同僚、酒臭い、服が酒だらけでシートが汚れる、という理由で初めて乗車拒否されました。えへっ、今日が乗車拒否デビューの日だね、と笑いながら、二人でコインランドリーに行き、上半身裸になって酒だらけの服を洗濯したのでした。 この日が僕と同僚2人でのコインランドリーデビューの日です。 7/15 作者多忙のため 本日はNumeri作者のpato氏が多忙のため日記掲載はお休みです。そこで、幼少の頃からマンガを書いていたこと以外一切プロフィール不明の謎の天才漫画家Ota.P氏の名作マンガをお楽しみください。それではどうぞ。
Ota.P先生のマンガが読めるのはNumeriだけ! 7/7 コカコーラ万能説 patoさん質問です。コカコーラで火を起こすことはできるでしょうか?(愛知県メダカさん23歳) 大変良い質問です。いや、大変頭のおかしい質問です。何を食って育ったらこんな発想に行き着くのか。コカコーラと火が結びつくのか。果たしてこの質問が解決して誰が得するのか。許可さえ取れて刑法に抵触しないのならば是非とも頭の中を覗いてみたいものです。 さて、生まれてこの方コカコーラばかりを飲んで暮らし、いつぞやはコーラのみで1ヶ月間を生き抜くという偉業を達成、モンゴルの蛮族とコーラを巡る激しい略奪戦争を経験した自他共に認めるコーラ親善大使の僕ですが、稀にこのようなコーラに関する質問を頂戴することがあります。 それこそ、コーラを飲むとキチガイになるんですか?コーラを飲むと骨が溶けるんですか?膣をコーラで洗えば妊娠しませんか?などなど、みなさんコーラに興味津々、特に最後のはこっちが知りたいくらいです。 さて、それでは質問の回答ですが、単刀直入に答えだけ言ってしまうと、コカコーラで火を起こすことは「可能」です。どのようにして可能なのか、順を追って説明していきましょう。 この現象を理解するには、はじめにコカコーラの持つ万能性について理解しなくてはなりません。ハッキリ言ってしまうと、コカコーラという飲み物はすでに飲料の域を飛び出し、何でも出来る物体になっています。コカコーラを利用すればこの世の中の大半の現象が説明できる、大半の問題が解決すると言っても過言ではありません。それを考えれば火を起こすなんてちょろいちょろい。 このような「コカコーラ万能説」は古くは欧州の哲学者の間で有名であり、度々議論されてきましたが、その万能性を危惧した石油メジャーの手によって封殺されてしまいました。同時にコカコーラで骨が溶ける、頭がおかしくなる、といった皆さんご存知のネガティブキャンペーンも行われ、それが今日まで続いているのです。 日本においても、古くは万葉集の時代からコーラの万能性が説かれ、「伊香保嶺に神な鳴りそね わが上には故はなけども コーラによりてぞ(万葉集3440)」と歌われています。これは現代語に訳すと「伊香保の山の雷さま、どうぞ鳴らないで下さい。私はなんともない、コーラを飲んでいるから」という意味で、神々の怒りである雷の恐怖すらもコーラを飲んでいれば大丈夫という意味、当時からコーラは万能な飲み物として重宝されていたことが伺えます。まあ、分かってると思うけど全部嘘です。 とにかくコカコーラは万能、そんなことを知らしめる事件がありました。上司と一緒に仕事上の得意先のお偉い人と焼肉を食べに行った時のお話です。運転手として駆り出されていた僕はビールも飲まずコーラを飲んで肉を食べていたのですが、そこで隣のテーブルに目がいってしまったのです。 「イッキしようぜ!イッキ!」 「えーマジで!」 「やっちゃえやっちゃえ!」 隣のテーブルでは血気盛んな若者たちが騒いでおりました。年の頃は20才前後でしょうか、最近ではダルダルのズボンを着るのが流行ってるらしく、ちょっとだらしない、なんかパンツとかはみ出しちゃってるファッションに身を包んだ若者たちでした。 男の子たちは何やら「イッキ」がどうのこうのと騒いでおり、僕としてはあの不死身の男がまたもや地獄より蘇るのかと期待したのですが、どうやらそうではなく、なんかお酒を一気飲みする様子でした。 沸き立つ男性陣の対面には女性が3人座しており、それこそそういう仏像なんじゃなかろうかというほどに微動だにせず、凛として鎮座しておられました。 つまりはこういうことなのだと思います。先ほどから男女間で交わされている会話から推察するに、どうやらバイト先か何かの関係がある男女が互いの友人を招いて食事会を催したようなのです。つまり、参加者のほとんどが初対面という、聞くだけで胃が痛くなる状況。 そうそう、そういえば全然関係ないですけど、コーラってムチャクチャ胃に良いんですよ。皆さんも朝起きた時に胃がムカムカする、などの諸症状に悩まされたことがあるかと思います。そんな時は起きた時にチョロっとコーラを飲む。するとコーラの刺激で胃が活発に動き出して気分爽快、というわけです。我々専門家の間ではこの行為を「コーラで胃を起こす」といってます。これもコーラの万能性を示す一つの事例ですね。 さてさて、話を隣のお食事会の男女に戻しますが、もう見るも無残というか何というか。おそらくお互いに期待していた何かと違っていて全く盛り上がらない焼肉会になってた。お通夜みたいな雰囲気に焼肉のジュージューって音が響いててシュールだった。こういった場合、男と女では対応が全く違ってくる。 初対面の男の子数人と焼肉に行く。こうなった場合、女の子は色々と想像する。超絶イケメンがきて口説かれたらどうしよう、勝負下着つけていかなきゃ、ブラとパンティは同じ色のを着ていかなきゃ、などと妄想に華が咲くことだろう。しかし、待ち合わせにやってきたのはイケメンじゃなくてコミックバンドレベル。こうなった場合、女ってのは思いっきり不快感を顕にしやがる。下手すると目の前のコミックバンドをガン無視して携帯メールに興じる始末だ。 逆に男の方はどうだろうか。やはり、初対面の女の子数人と焼肉に行くとなると同じように妄想する。下半身を洗っていかないといけない、皮を剥いておかねばならない、チンポコに香水かけておこう、チンポコにトリックアートを施して大きく見せたい、くらい考えるかもしれない。しかし、待ち合わせに現れたのはコミックバンチレベルの女たち。あんまり売れていない漫画雑誌レベルのお粗末さ。こうなった場合、まあ、男の方の性格にもよるだろうけど男ってのはそこまで不快感を顕にしない。むしろ盛り上げようと奮起するはずだ。 隣りのテーブルにはそんな構図が思いっきり凝縮されて存在していた。ジュージューと肉が焼けるサウンドのテンションの高さに反比例して明らかにブスどものテンションが低い。それをなんとか盛り立てようと頑張る男性陣。男尊女卑なんてウソだろ、と言いたくなるほど必死なサムライたちの姿がそこにあった。 「イッキしようぜ!」 もう何をやっても盛り上がらない。メガネをかけたガリガリな男(みんなにはシャムって呼ばれてた)の海釣りに行って海に落ちた話も全くウケなかった。もう残された道はイッキしかなかった。彼は苦しみのあまり禁断の領域に手を出すしかなかったのだ。イッキなんてとても危険だし、あまり褒められたものではない、けれども、そうするしかないほどに追い詰められた彼の心情も慮ってやってほしい。 「お!いいね!いいね!」 「やっちゃえやっちゃえ!」 霜降りロースよりも重厚な空気が流れる中、男性陣は同様に窒息しそうなほどの重苦しい空気を感じ取っていた。ガリガリメガネ(シャム)のイッキ立候補は彼らにとっても助け舟だったのだろう。一斉に囃し立てて盛り立てた。 「がんばれ!」 こんな雰囲気、イッキ一つで変わるとも思えない。死に行くと分かっていても行かねばならない男たち、たぶん戦時の特攻隊なんかもこんな気持ちだったのだろう。なんでこうも死地に向かう男たちってのは熱いんだ。僕は上司の話そっちのけで心の中でエールを贈った。 いよいよ生ビールジョッキが運ばれてくる。ここはもうシャムのステージだ。シャムオンステージ。焼肉の煙も彼のためにあつらえたスモークのように見える。 「イッキいきます!」 シャムの宣言に携帯電話に夢中だった女性陣の注目も集まる。その瞬間だった。女性陣の中でも特段のブス、いうなれば100円ショップで100円ルアーを買い漁ってそうなブスが急に立ち上がって叫んだのだ。 「ちょっと!イッキ飲みとか何考えてるの!急性アルコールとかで死んじゃうんだよ!」 正論だ、正論。確かにイッキ飲みなんてやるものじゃない。ブスの言うとおり急性アルコール中毒の危険もあるし、そんな危険な飲み方したって誰も得しない。それを注意するのなんて全くの正論だ。しかし、今、その正論が必要だろうか。果たして本当にその正論が必要だったのだろうか。 「いや、あの、その…」 悲しく宙を舞う生ビールジョッキ。シャムの右手に握られたそれからはイヤミなくらいに元気良く泡が立ち上っていた。おめえどうすんだよこれ、盛り上げようと頑張ったシャム涙目じゃん。シャムの立場はどうなるんだよ。お前らが携帯電話ばっか見て牛タンしかくわねえからシャムが追い詰められたんだろうが。ブス、バカ、アホ、ボケ、ウンコ、コーン。 ハッキリ言って隣のテーブルの雰囲気は最悪。いざ鎌倉へと意気込んだところを止められたシャムなんか意気消沈しちゃってイッキするはずだった生ビールをチビチビやりだした。そして、女性陣は相変わらず携帯電話に夢中、女性陣同士で着メロの自慢大会とかやりだしてた。参加していた男性陣全員、その様子を見ていた僕、誰もがもうダメかと思ったその瞬間だった。 「じゃあ俺、コーラでイッキするわ」 奇跡が起きた。シャムはまだ死んではいなかった。おもむろに大ジョッキのコカコーラをオーダーすると、あっという間に運ばれてきたそれをイッキに飲み干していた。 この安定感。この万能感。窮地に陥ったシャムや男性陣を救ったコカコーラ。急性アル中で止められようと関係ない抜群のレスポンス。飲んだ後のゲップ連発、全てがコカコーラに秘められた希望という名の宝石だった。コカコーラが彼らを救ったのだ。まあ、女性陣はガン無視で携帯のデコレーションとか始めてたけど。 とまあ、あらゆる面で大活躍のコカコーラ。質問の内容に戻るのだけど、気まずい合コンの場面を救ってくれる位だ、当然のことながら火を起こすなんて造作もないこと。ここはいっちょ軽快にコカコーラで火を起こして質問主にその模様を見せ付けてやる。そうすることでまた悩める質問主を救うことができるのだ。何たる万能さ、コカコーラ。 まず初めに、コカコーラで火を起こすことを考える場合、当然ながらコカコーラが液体であるという部分に着目しなければならない。液体と火ってのは相反するものでなかなか繋がらない、これらを身近な品物で繋げてこそ悩んでしまって自殺しそうな質問主を救うことになる。 では、液体と火という難題は置いておいて、コカコーラ自身が持つポテンシャルに注目してみよう。巷ではどうやら「コカコーラメントス」という児戯が流行しているらしく、特にアメリカ人どもはコカコーラにメントスをぶっこんで「クール!」とか叫んでるらしい。そりゃ日本も戦争に負けるわ。 これはまあ、簡単に言ってしまうと単純にコカコーラが泡立つってのはコーラ内の二酸化炭素が出てくるって部分に着目し、メントスがその二酸化炭素の発生を促すというもの。沢山のメントスをドコドコっとコーラの中に入れると爆発的に二酸化炭素が発生してコーラが噴出するらしい。ドラッグきめてるアメリカンはそれで大喜びっすよ。 そんなこんなでこの爆発力はコーラの発火に使えるぞってことで実際にやってみました。
コーラ(500ml)
メントス(グレープ味)
これを思いっきりコーラの中にぶち込みます。
なんですかコレ。 え、なにこれ、アメリカ人とかこんなんで喜んでるの?バカなの?っていうか飲み物で遊ぶなよ。そりゃサブプライムローンも破綻するわ。あのですね、あまりこういうこと言いたかないですけどこんなんで刺激的とかいってるんなら、エポック社の野球盤に透明の屋根がついてドーム球場が出た!って時のほうがなんぼか刺激的ですよ。ありゃあ興奮したもん。 とにかく、こんなクソじゃあとてもじゃないけど発火には至らないと判断。早速メントスを改良します。それも身近な品物を使って改良します。
これがなんだか分かりますか。詳細を書くとマネするバカが出てきて当Numeriが有害サイト指定とかされちゃいますから書きませんが、非常に身近にある品物です。たぶん、今コレを読んでる人の半数くらいの人の半径1メートル以内に複数存在します。 これの中身が欲しいのでこれをノコギリで真っ二つに切断し、中身を取り出してXXXXXをXXXXXXXXXXします。XXXXXだと味気ないので、「中身を取り出してチョメチョメをチョメチョメします」と書き改めます。これで爆発力が向上したハイパーメントスは完成です。 次にコーラの方も改質するという意味でチョメチョメ(一般家庭の台所にあります)を少し入れます。 さて、それではどうなったか。
うおおおお、見事に火が出たぞ、火が出た。火が出やがった。あまりの噴出力にハイパーメントスが噴出して外で火が出ちゃってるのが残念ですが、それでも身近な品物を使ってコーラで火を起こすことに成功した。
ということで、また迷えるコーラ好きの魂を救済することに成功した、と意気揚々と返信メールを書き、件のコーラで発火している動画をつけて返答しましたところ、こんな返事が返ってきました。
こんな酷い仕打ちを受けてもコーラを飲んでいればノープロブレム。やはりコーラは万能な飲み物だ。 6/27 出会い系サイトと対決する-ファイナル- 訴えられました。 いやいやいや、いきなりそんなこと言ってもどうしようもないですね、どうしようもないですね、まずは色々と整理して順序だててお話して行きましょう。 あれはアンニュイな午後のことでした、いきなり配達証明郵便だったか特別送達だったか、何だかで物々しい感じで一通の郵便が届きました。ちなみに届けてくれた郵便局員さんはダライラマに似ていたことも書き添えておきます。 おお、この禍々しき郵便は何事だ!とオナニーの手を休めて郵便物を手にすると、封書には「福岡簡易裁判所」の文字。以前にも画像だけ紹介したのですけど、思いっきりオーラを感じる封書を受け取ってしまったのです。封書から熱量を感じるほどだった。 中を開けると思いっきり「訴状」が入ってまして、まあ、色々とパニックに陥ること放射能漏れの如しなんですけど、とにかく簡単に言うと僕が訴えられてしまったみたいなんです。
いやー、まいったね、ホント、来るとこまできちまったなーってある意味感慨深かったよ。僕も色々な債権回収業者と血で血を洗う抗争を繰り広げてきましたよ。ある時は「テレホンセックス代未納」とデカデカと書かれたハガキが家に舞い込んできたり、職場にまで架空請求業者から嫌がらせの電話がかかってきたり、実家の親父にまで「息子さんがエロサイトの料金を払ってくれない」なんて連絡が行ったり、親父がジャパネットTAKATAでパソコンを買ったり、と最後は関係ないですけどとんでもないことになってました。 こういった悪徳業者と対決をする時、最初はステルス戦闘機の如く自らの氏名や住所を隠して闘っていたのですが、なんていうか匿名で応戦って卑怯な感じがするじゃないですか、もっと剥き出しで魂と魂のぶつかり合いみたいな熱い闘いをしたいじゃないですか。俺より強いやつを探しに行きたいじゃないですか。そんなこんなで住所氏名電話番号を曝け出して戦うようにしていたんですね。 「いいから金払え!」 「殺すぞ!」 「親戚全員に連絡するぞ!」 不思議なもので、こちらは全て曝け出して闘っている、つまりは「住所氏名も教えてるんだから早く訴えろよ」という無言のメッセージを送っているというのに訴えてこない悪徳業者ばかり。上記のような脅しの文言を電話口で怒鳴る業者ばかり。そういや「右腕売れ!」とかも言われた。内臓売れとかなら分かるけど右腕を持っていってどうする気なのか、ちゃんとくっつくのか、その辺が疑問です。 まるで倦怠期のマンネリカップルのごとくそういった業者との脅し文句の応酬に嫌気が差し、早く次なるステージに移りたい、新しい世界に発展したい、カップルで言うところの長い交際の果てに「結婚」を意識しだすような感覚を覚えだしていたのです。 そこにきてこの訴状ですよ。もう、なんていうか、ここまでやってくれる業者が現れたか、やってくれるじゃねえか、オラ、ワクワクしてきたぞ!といった抑えられない衝動というかなんというか、とにかく面倒くさいなって気持ちもありましたけどその反面で心ときめかせている自分がいたのです。 何故かニヤニヤしてしまう自分がいたのですけど、とにかく訴状を開きます。するとまあ、中には思いっきり訴状が入ってるんですけど、その訴状がまたすごい。 なんでも、ある会社の有料コンテンツ(出会い系サイト)の利用料金を支払え、その金額は380,000円だ!というもので、ちょっと0の数が多くて目が眩みそうなので字面で表しますけど、38万円と訴訟費用を支払え!というものでした。ビックリした。 あのですね、言いたかないですけど、どこの世界に38万円も出会い系サイトを利用するバカがいますか。38万円ですよ、38万円、ドルに直すと3400ドルくらい、ハイパーインフレに悩むジンバブエのジンバブエドルに直すと2兆6000億ZWDくらいですよ。そんなにやってたら大きい病院に入れられます。 しかしながら、訴状の文面って物凄いもので、今回の場合は謂れのない38万円という金額を請求されているわけなんですけど、訴状の書き出しってもうすごいですよ。 「被告(以下「甲」)は○○○サービス利用料金38万円を原告(以下「乙」)に支払え。」 ですからね。支払え、ですよ、支払え。普通お手紙ってもっとこうジャブ程度の時候の挨拶とかから入るんじゃないんですか。4月だったら「春の日差しが心地よい毎日でございますが…」とかなんとか、そいでもって徐々に核心に迫っていって「38万円の支払いを…」ってくるもんじゃないですか。そういうのがあるとこっちも心安らぐのに、いきなり「支払え」ですからね。むちゃくちゃ恐ろしいわ。もっと言い方ってもんがあるだろ。 僕はですね、自慢じゃないですけど家賃とか電気代とか滞納しまくりですよ。これって払わなきゃいけないお金で、滞納している僕の方が100%悪いのは当たり前なんですけど、それでも支払えって督促は時候の挨拶から入ってますよ。それなのに、何の謂れもない、支払う必要すらない架空請求に基づく請求でコレですよ。盗人猛々しいとはよく言ったものです。 とにかく、訴状の文面ってどっかのテキストサイトかって思うほどに長くてですね、その支払えの続きには延々と、いかにして僕が38万円支払わなかったか、どんだけ迷惑しているか、みたいな恨み辛みがぐおーって書いてあるんですよ。これ読んでたらなんだか僕のことすごい悪者に思えてきましたからね。とんでもないことです。で、その後には添付資料として全く身に覚えのないアクセスログとか書いた覚えのない契約書みたいなのがくっついてました。なかなか香ばしいことしてくれるじゃないか。 どれどれ、こんなファンキーなことしてくれる詐欺業者ってのはどこですかいな、って感じで原告というか、訴えた会社の名前を見てみますと、そこには○○○サービスという名前が。ああ、あの業者かと思い出したのでした。 確か4ヶ月くらい前の出来事だったと思います。ちょうどその日はたまたま大きな書店にいきましたね、レジのバイト店員が清楚なお嬢様風でしてね、発奮した僕は一番エグそうな表紙のエロ本を購入して大満足で家に帰ったんです。清楚な店員さんがオドオドしていてかわいかった。 でまあ、カワイイ店員を辱めて大興奮できるし、家に帰ってから読んで大興奮だしで一粒で二度美味しいですな、ガハハハハ、と大威張りで読んでたんですわ。丁度その日買ったのがいわゆる漫画系のエロ本でして、エロいイラストが溢れていて大変興奮するかと思われたのですが、なぜか全編に渡って「ふたなり」物のエロマンガという異常事態。 ふたなり-半陰陽や両性具有といった言葉の婉曲表現として「ふたなり」という表現が使用されることが多く、登場人物の特性としてもジャンルそのものとしても用いられる。漫画やゲームの世界では、両方の性器が正常に機能する、完全な両性具有として描かれることが多い。また、その性器の配置に関しては作家によって差異はあるものの、男性もしくは女性のどちらとも言えない形にすることが多い。ただし、性格は女性であることが非常に多い。さらに体質として、絶倫、巨根(極端なケースではオートフェラチオなどができるほどの大きさの場合も)、稀に性器自体が柔軟、性器が複数ある(複根)、精液の量が異様に多いというケースもある。(Wikipediaより) つまりまあ、何故か男性器も女性器も両方持っている男の子か女の子みたいなのがエロいことされてしまうというとんでもないジャンルのエロマンガです。このジャンルを使うと、女の子みたいな顔してカワイイのに途方もない巨根の持ち主で、あらあら、カワイイ顔してビンビンにしちゃってとかなじられたり、入れられながらしごかれる、みたいなアクロバティックなことが可能になるのです。 知らなかったとはいえとんでもないジャンルのエロマンガを買ってきてしまった、と気が動転すること風の如しなのですが、よくよく見ると結構興奮するんですよね。「ふたなり」って性的に倒錯した世界じゃないですか。最初はうわーって思ったんですけど、次第にそういった異常さが良くなってきて、大好きな大塚愛さんも「ふたなり」で、逞しい男根が!とか次第にその世界へと引き込まれていったんです。 そこに着信ですよ。まるで異常な世界へ堕ちていかんとする僕を呼び戻すかのように携帯電話が鳴りました。ハッと我に帰った僕は携帯電話の画面を見ます。見ると、そこには見たこともない番号が表示されていました。 「もしもし」 「もしもし、○○さんですか?」 おそるおそる出ると聞いたことない声で僕の名前を言ってました。 「あ、はい、そうですけど」 「こちらは出会い系サイト○○を運営する○○○サービスの物ですけど、○○様がご利用になった利用料金が支払われておりません」 「そうでっか」 みたいなやり取りがあったんですよ。まあ、この辺は手馴れたもので普通にノラリクラリとかわしていたんですけど、どうやら相手はいつになく本気の様子。 「支払われていただけないならご実家の方に連絡させていただきますけど、○○様(親父の名前)はお父様でしょうか?」 と親父の名前も掴んでるんだぜ!ポケモンゲットだぜ!って感じで自信満々に言ってくるじゃないですか。早くも脅しとはなかなかやるじゃない。 「はあ、じゃあそっちに連絡してください」 僕としては実家に連絡されてもキチガイ親父が発奮するだけで痛くも痒くもないですから是非ともやって欲しいのですが、ここでなんか色々と倒錯してしまいましてね、早い話がさっきまで見ていたエロ本とこの電話対応が混ざってしまったんです。 「連絡してもらってもいいですけど、その○○(親父の名前)って人、正確にはウチの親父じゃないかもしれませんよ」 「は?どういうことですか?血が繋がってないとかですか?」 「いいえ、血は確実に繋がってますけど、父親と言ってもいいものかどうか」 「どういうことでしょう?」 「ウチの親父、ふたなりなんですよ」 どこの世界に自分の肉親を「ふたなり」呼ばわりするヤツがいるかって話なんですけど、もし「ふあたなり」なら父親なのか母親なのか微妙ですからね。とにかくこの時はコレが正しいんだって確信があった。そう、譲ることの出来ない確固たる信念がっっっ! 冷静に考えて親父が「ふたなり」ってありえないじゃないですか。冷静じゃなくてもありえないじゃないですか。これで業者も真面目に相手されてないことが分かってさぞかし怒り狂うかと思ったのですが 「すいません、失礼ですが「ふたなり」とはどのようなものなのでしょうか?」 と異常に丁寧に聞き返される始末。多分知らないんでしょうね、そりゃあさすがにチンコとマンコが両方ある生物とは夢にも思うまいて。あまりに純粋な返しに逆にこっちが恥ずかしくなったわ。「ふたなり」とか言っちゃう自分の人生を恥じ入った。本当に恥じ入った。 「それはデリケートな問題なので父に直接聞いてください」 たぶん、業者的には「ふたなり」ってのが本当に分からなかったんでしょうね。で、興味あるのは僕と父の関係。もし、「ふたなり」ってのが複雑な親子関係を表す単語であるならば、親父に請求しても払ってもらえない可能性がある。というか請求するぞという脅し自体があまり効果のないものになってしまう可能性がある。それだけに関係を明らかにするキーワード「ふたなり」が気になってしょうがない、そんな感じでした。 その日はそんな感じで請求電話を適当にあしらったのですが、問題は数日後に発生しました。当然の如く親父から電話がかかってきました。 「おい!ふたなりってなんだ!?」 聞いた瞬間思いましたね。ああ、業者のヤツ、本当に親父に電話したんだ。そして「ふたなり」について問いただしたんだ、と。でまあ、ウチの親父も掛け値なしのキチガイですから、良く分かっていないながらも 「お、おう、ふたなりだが」 みたいに返答したみたいなのです。翻訳すると「お、おう、チンコとマンコ両方あるが」ってことです。まあ、頭おかしいですわな。分からないのに肯定するな。で、そんな感じでやりとりがあって、結局、払わないの一点張りだったようなのですが、そのやり取りを終えて「ふたなり」ってのが妙に気になって僕に電話してきたようなのです。 「ふたなりってのはね、エロマンガに出てくるキャラで、チンコとマンコが両方あるんだよ」 と優しく諭すように教えてあげたところ、親父は妙に気に入ったらしく 「ワシ、今日からふたなりになるわ」 とか訳の分からないこと言ってました。 そんな「ふたなり」を交えた熾烈なやり取りを行った業者、あのまま諦めてくれたかと思ったのですが4ヶ月という時を経て訴訟を起こすという作戦にでたようです。なかなかやるじゃないか。 さて、こういった架空請求で訴状を送りつけられてしまった場合、どのように対処したら良いでしょうか。普通の架空請求なら無視しておけば相手がそのうち諦めます。暇ならばからかって遊ぶのも良いでしょう。しかし、訴訟まで起こされるとそういうわけにはいきません。 これは訴訟ですので、完全に無視を決め込んでいると相手、つまり業者側の言い分どおりに判決が出てしまいます。つまり、身に覚えもないのに38万円支払えってことになるのです。それでも払わないでいると業者側は強制執行をする権利を得ますので、給料を差し押さえられたりとか大変なことになってしまいます。 さて、ということで給料を差し押さえられてはかないませんので何かしらの対応をしなければならないのですが、そこで落ち着いて封書の中身を見てみると、そこには期日を記した呼び出し状みたいなのが入ってます。つまり訴えに対して話し合うからこの日に裁判所に来てください、というお誘いです。そこで相手方業者と対決するわけですね。 しかし、その期日も当たり前ですが思いっきり平日でしたし、場所も福岡簡易裁判所ということで当たり前に福岡です。仕事を休んで行っても良かったのですが、さすがに福岡まで車で5時間くらいかかりますんで、どうしたもんかなーなどと思っていたのです。 すると、封書の中には「答弁書」と書かれた書類が入っています。これが遠くて行けない人とかのために用意された物でして、「この訴えはおかしい」などと反論するための書類なのです。これを指定された期日までに裁判所に送付すれば一応は異議を唱えたことになるのです。まあ、書き方もそんなに難しくないし、素人でも普通に書けます。 本当は自分としましても颯爽と福岡まで行って、業者とか裁判所の人を目の前にして熱く「ふたなり」について熱く語りたかったのですが、面倒なので答弁書を郵送で送ってやろう、と考えていたのです。 さて、それから数週間、日記にテレビゲームにと忙しい日々を送る僕はフッとカレンダーを見たのです。おお、もう○月○日か、月日が流れるのは早いものだ、とか思いながらボーっと見てると、○月○日という日付が妙に気になる、なんか物凄い気になって仕方ない。絶対に何かあったはず。何かあったはず。そこで思い出したんですよ。 答弁書の提出期限、今日までだった。 うおおおお、間に合わねええええ、絶対に間に合わない。今日急いで答弁書を作成して速達で郵送したとしても到着は明日になります。明らかに間に合わない。急いで裁判所に電話します。 「すいません、答弁書出すの忘れてました」 もうね、小学生ですか。算数のドリル忘れた小学生ですか。でも、こんな僕にも裁判所の人は優しく対応してくださいましてね、とにかく相手の業者と話し合ってみてはいかがでしょうか、みたいに提案してくださったんですよ。 そこで、まっこと不本意ですが、訴状に書かれた相手の業者に電話して話し合いを試みてみます。 「すいません、オタクに訴訟を起こされている○○ですが」 みたいな感じで妙に強気になって電話してみました。 「はい、担当に変わります」 大抵、こういう場合は担当に変わるとランチ代わりに人でも殺してそうな恐ろしい声をしたオッサンが出てくるのですが、何故か優しい色男風の爽やかな声をした担当が出てきました。 「あのですね、オタクの訴状に対して意義があるわけなんですよ」 この辺は使った使わないの水掛け論になるのは不毛ですので、単純に意義があるとだけ伝えます。 「ということは、法廷で争うということでしょうか?」 「いやー、争うも何も、平日に福岡まで行くのはキツイですって」 みたいなやりとり。いやー相手が怖い声じゃないって素晴らしい。伸び伸びと交渉できる。なんて晴れやかな気持ちなんだ。 「ということは答弁書で異議申し立てということでしょうか」 さあ、いよいよ核心に迫ってまいりました。ここは何も隠すことなく正直に伝えましょう。 「でも、答弁書の締切りって今日までじゃないですか。出すの忘れていたんですよ」 これには相手も絶句。っていうかちょっと笑ってた。そりゃそうですよ、だって裁判の期日に裁判所まで行けない、答弁書も出していない、これはもう自分らの架空請求に沿って判決が出るのが確定的ですからね。こっちの負け確定。業者大儲けですよ。 まあ、本当はまだ色々と手段はあって、完全に負けてるわけじゃない、っていうか普通に支払わなくて済むんですけど、その辺はまあ、すっごい焦った方が面白いじゃないですか。業者の対応が面白そうじゃないですか。なんとかしてくれないかと懇願してみます。 と、ここまで書いたところで、キリがいいので後編につづく。 後編予告 6/19 戦争の日々 「これはもう戦争だ」 軽やかなJ-POPが流れ、ウザイくらいに元気のいい店員の「お弁当温めますか!?」怒号が飛び交うコンビニ店内。その喧騒とは裏腹に齢31歳10ヶ月の男は静かに静かに決意した。 「戦争」という言葉は軽々しく使うべきものではない。ウチの爺さんは半分ボケていて、晩年はそりゃもう酷いものだったけど、元気だった時は太平洋戦争の話をよくしてくれた。あの戦争に明け暮れた日本という国を生き抜き、おそらく何度となく人に命を奪ったこともあるだろう、奪われそうになったこともあっただろう、子供の頃は鼻水垂らしながら聞いていたけど、今考えるとすごく貴重な話だったように思う。 爺さんの口から語られる戦争の話は、どんなコメンテーターの言葉よりも、どんな運動家の言葉よりも、どんな政治家の言葉よりも重かった。戦争の是非だとか戦争責任だとか、あの戦争の功罪だとか、そういった話になると人それぞれ、立場によっても様々な考え方があって然るべきなので詳細は述べないけれども、確かに言えること、それは爺さんの言葉にはエンターテイメントではない戦争のリアルがあったということだ。 そして、爺さんはいつも敗戦時のショックを語る。日本という国が諸外国に敗れてしまった悔しさを語るのだ。決して忘れてはならない日本の一日、そう語っていた。 いつのまにかこの国において「戦争」とはエンターテイメントの道具になっていた。映画の題材、ゲームの題材、遠い国の悲しい悲しいお話、それらはエンターテイメント技術の向上で極度にリアルに描かれていく一方で、リアルからかけ離れつつあるエンターテイメントとしての戦争があった。 本来、戦争なんて言う言葉は軽々しく口にしてはいけないのかもしれない。いや、していいのかもしれない。どちらにせよ、口にする場合、空爆なんてされたことない僕らの中で「戦争」とはエンターテイメント的ものでしかないことをしっかり認識し、その上で発言しなければならないのだ。 それを踏まえてあえて「戦争」という言葉を口にさせてもらうけど、とある日、とあるコンビニの片隅で「これはもう戦争だ」と決意するしかない事態が僕の身に巻き起こっていた。 事の顛末はこうだ。普段は来ないこのコンビニ、何故か急にエロ本が読みたくなった僕は意気揚々とエロ本コーナーへと趣き、何か極度に興奮する、それこそ長き未来に渡ってバイブルとして重宝されるような素晴らしきエロ本はないものかと吟味していた。 しかしながら、最近は青少年保護だかなんだか知らないけど、全てのエロ本が中身を見えないように強固にビニール封印がしてあり、とてもじゃないが中身を吟味して購入することが不可能になっている。これは由々しき問題で、例えるならば全てのCDでジャケ買いを要求されてるようなもので、何の前情報もないまま表紙だけをみて購入しなければならない。表紙に発奮して購入したエロ本がホモ系のエロ本だったりした日には一生モンのトラウマだ。 こちらのエロ本は絵柄が好みっぽいけど内容がヌルそうだ。こちらは過激そうだが絵柄が好みではない、などお真剣に吟味すること20分、すると、まるで心のワクワク感が腹部に伝染したかのように衝撃的な腹痛に襲われた。 「ぐおおおおお、腹が痛い」 浮浪者みたいな格好をした野武士がいきなり店内に入ってきて20分もエロ本を吟味、かと思ったらいきなり腹が痛いとか独り言を発し始める、これはもう僕が店主だったら迷わず通報するレベルです。 焦るな焦るな、いつもならば急激な腹痛に、30代にして脱糞という決して繰り返してはならない悲劇を思い出して狼狽するのだけど、幸いにもここはコンビニエンスストアではないか。開いててよかったセブンイレブン、ではないか。ならば何も焦ることはない、ちゃんとほら、このエロ本コーナーの横にトイレがあるではないか。 下腹部を押さえながら真横のトイレへと駆け込む。全く脱糞レベルの腹痛ってヤツは恐ろしい。何の前触れもなくやってきやがるなんて天災レベルだ。これが何もない山奥とかだったらと思うとゾッとするぜ、とか思いながらトイレに駆け込んだんです。 でまあ、緊急事態ですからウンコとか出ますわな。あまりこういうこと書くと、ショック!patoさんはウンコしないと思ってたのに!この世に舞い落ちた堕天使、いずれ私と一つになって一緒に天の扉を開くの、その時に響き渡る福音は世界中の人々を幸せにするわ!って信じてる女の子が卒倒……ってそんな人いませんね。じゃあ何も遠慮せずに書かせてもらいます。 あまりに緊急事態だったものですから、ズボンとパンツをズリ下すと同時に出るじゃないですか、むしろその前にもちょっと出てるじゃないですか。音で表すとズリブリブリブリブリルビュウって感じですよ。こうやって生きていて至極至福のひと時、ウンコの出来る幸せを噛み締めていたのです。 ウンコってのは2種類ありまして、すぐ出るウンコとなかなか出ないウンコに大別されるんですけど、この時は先にすぐ出るウンコが充填されていて、その後に出ないウンコが充填されていたみたいで、逆だと地獄なんですけど、最初にドバーっていうかブリブリブリブリブリって出た後にちょっと悪戦苦闘していたんですね。 ウンコをした後もウンコを出すべく闘わなければいけない、神様、一体僕らはいつまで戦い続ければいいのですか!?とか思いながら奮闘というか文字通り糞闘していたその時ですよ。 ガチャ! ウンコをしている時に決して聞こえてきてはいけないサウンドが聴こえるじゃないですか。何かの幻かと思ったのですけど、急いでドアの方見ると、思いっきり浜崎あゆみとか崇拝してそうなギャルがドアのところに立ってるんですよ。 ギャー、鍵閉め忘れた、とか、お尻見られたー、とか、ウンコ見られたー、とか考える以前に何か色々と気が動転してしまい 「うわー!ゴメンナサイ!」 とか何故かギャルに謝ってました、思いっきり踏ん張った状態で。ボケが、謝って欲しいのはこっちだわ。 とまあ、ここまでは日常の一コマじゃないですか。焦るあまりトイレの鍵を閉め忘れてギャルに尻の穴まで見られてしまう、なんて30年生きてれば8回くらいあると思います。でもね、ここからが異常だった。 もう見られちゃったし恥ずかしいしで出ないウンコをするのは諦め、かなりバツの悪い感じでトイレから出たんですよ。すると、さっきのギャルがコスメのコーナーのところにいたんですけど、その横に悪そうなやつは大体友達みたいな彼氏がいたんですね。で、なんかこっち見ながらヒソヒソと話してやがるんですよ。たぶん、 「ちょー、ビックリ、トイレあけたらあのブサイクがウンコしてた!」 「マジで!」 「いっぱいウンコ出てた」 「マジで!」 「コーンとか混ざってた」 「マジで!チェケラ!」 とか会話しているに違いありません。なんかこっち見ながらゲラゲラ笑ってるし、携帯電話とか操作してるんですよ。多分友達に「オッサンのウンコ見ちゃった!」とかメール送ってるか、Mixiとかに書いてコメント欄でみんな「さすがにウンコはきついねwwww」とか書いて僕を肴に楽しんでいるに違いありません。 そこでね、僕はあまりの恥ずかしさにドリンクとか手にとって誤魔化そうとしたんですけど、それでもギャルと彼氏は盛り上がっていてですね、たぶん僕の脱糞に触発されちゃって「今度脱糞プレイしようよ」「マジで!」とか会話しているに違いありません。そこで思ったわけですよ。 「これはもう戦争だ」 ウンコを見られ、しかもトイレから出たところを笑われ、Mixiにアップされてそのうち「30代のオッサンの脱糞を目撃したギャル集合!」とかコミュニティを作られるに決まってます。これはもう国家レベルで考えると他国の原子力潜水艦が領海侵犯してきたくらいの国辱。いつ宣戦布告したっておかしくないのです。 決して軽々しくなく、ブラウン管の向こうの戦争でもなんでもない俺たちのリアル、脱糞を巡る戦争が今始まったのです。 まず、あまりの恥ずかしさに赤面していた僕はスゴスゴとコンビニを後にし、颯爽と職場に出勤したのでした。 「きいてくれよ、さっきコンビニでギャルにウンコしてるとこみられた!」 職場にて僕の良き理解者である後輩にカミングアウトしましたところ、 「やったじゃないすか、普段からギャルに見せたい、合法的にやれないものかって言ってたじゃないですか」 という冷ややかな反応。もうコイツ、全然分かってない。何が問題なのか全然分かっていない。その証拠に、全然話も聞かずにまじめに仕事していやがる始末。 「問題はそういうことじゃない」 そこからはもう何が悲しかったのか切々と語りましたよ。トイレを開けられてしまい、動転して年端もいかないギャルに謝ってしまったこと、その後もアベックによって徹底的に辱められたこと、これはもう遊びじゃない、戦争だとも伝えた。 「なるほど、それでどうしたいわけですか」 熱い思いが伝わったのか深刻な眼差しに変わる後輩。僕は一呼吸おいてソッと彼に伝えたのです。 「ウンコを見られても動揺しない強いハートが欲しい」 「じゃあ練習ですね」 こうして僕と後輩の血の滲むような特訓が始まった。強いハートを手に入れるには実際にそのようなシチュエーションで練習するのが手っ取り早い。すかさず職場のトイレに赴き、二人で練習を始める。 ガチャ! 「あ、失礼」 「あのさー、トイレのドア開けて人がウンコしてたらもっと驚くでしょ、演技力が足りないよ」 練習ですから実際にウンコしているわけではないですけど、それを考慮しても後輩の演技には臨場感が足りない。 ガチャ! 「うわ!ウンコ!」 「あのさー、それはいささかオーバーだろ」 ガチャ! 「うわ!くさっ!」 「それはちょっと失礼すぎるだろ」 こうして、たまたまウンコしにやってきた上司に見つかって怒られるまで練習は続き、僕はウンコを見られても動じない鉄のハートを手に入れたのでした。 それからの僕は違ったよ。南方攻略作戦で快進撃を続けた日本軍のようにあらゆる場面で勝ち続けた。コンビニ、定食屋、本屋、居酒屋、あらゆる場面のトイレで鍵をかけずにウンコをし、不意に開けられるたびに勝利を収めた。 主にサラリーマン風の人々がふいにトイレのドアを開けてくるんですけど、もう生まれる瞬間とかでも微動だにしませんからね。まるっきり普通にウンコをし、一呼吸おいて悠然と振り返る。そこで「なんだね?騒々しい」みたいな余裕のジェントルマンでサラリーマンの顔を一瞥、すると向こうのほうから「うわっ、すいません」って謝りますからね。 圧倒的戦勝、圧倒的戦勝国、しかしまあ、ここで勝利者の驕りというか、いくら勝ったからといって相手に対して横暴な手段に出るのはジュネーブ条約で禁止されていますから、悠然と 「いやいや、気にしないで。鍵かけてなかったこっちも悪いし」 あとは尻でも拭いて悠然とトイレを後にするだけですよ。トイレの前でさっきの相手が申し訳なさそうにしていたら満面の笑顔を振りまいてやればいい。もう連戦連勝。鍵かけずにウンコしててもあまり開けられないんですけど、3回くらい開けられて勝利の美酒に酔いしれた。さらに、開けられたらどうしよう!という布袋のアニキが出てきそうなスリルも味わうこともでき、最高の時間を過ごしていたのでした。 そんな連戦連勝に沸くpato国でしたが、戦局が悪化する事件が起こりました。 珍しく職場の飲み会に呼ばれ、行ったはいいのですが誰も喋る人がいなかったので主に件の後輩と喋っていたのですが、 「特訓の成果だ、今や開けられても動じることはない」 「いやー、俺には真似できないっすよ!」 みたいな会話を交わしていたらですね、ウンコしたくなってきたんですよ。ちょうど後輩のやつ、ねんごろになってる女子社員に呼ばれて席を移っちゃいましたし、僕一人だけで魚の骨を並べてるのも飽きたしで、こりゃあトイレに行くしかないなってトイレに向かったんです。 そりゃあもちろん、ここでも鍵かけませんよ。鍵かけずに思いっきりウンコ。さあこい!ほらほら開けてみやがれ、歴史的敗戦ってやつを味わせてやるぜ!とウンコしてました。 ガチャ! やっぱり居酒屋のトイレって使用頻度が高いじゃないですか。もうすぐに開けられちゃいましてね、きたきたきた!と悠然と振り返りましたよ、歴史的敗戦ってやつを味あわせてやる!覚悟しろ!ってね。 いやね、奥さん。アンタね、どういうことですか。振り返ったらムチャクチャ黒人が立ってるじゃないですか。黒人も黒人、超黒人。エディーマーフィーみたいな黒人がこっち見てニッって笑ってやがるんですよ。白い歯が眩しかった。なんかいでたちもスラムとかにいそうなヤンチャな黒人っぽくて、今にも3on3とかはじめそうなファッション。 しかも外国人ばりのオーバーリアクションで「オゥーーー!」とか「オマイガ!」とか驚いてくれるなら救いがあるんですけど、まるで何事もなかったかのように仁王立ちですよ。早くしてくれんかのーみたいな貫禄を感じるほどの立ちっぷり。 尻丸出しでしゃがんだ体勢の日本人VS黒人 これ自体は別にいいんですよ、なんでこんな居酒屋に黒人がいるんだよとかこの際言わないですよ。尻の穴とか見られてもいいですよ。でもな、頼むからドアを閉めて欲しい。ここ、通路に面してるトイレだからさっきから通る人に丸見えなんですけど。 「あのーすいません、閉めてもらえませんか」 ってウンコしてる体勢で言うんですけど、黒人は二カッとしていて要領を得ない。日本語が通じないのかと思って英語で伝えようとすんですけど、もういきなりの黒人とか、通路を通る女子大生風お姉さんに丸見えとかで気が動転しちゃってましてね。 「シャットダウン!シャットダウン!」(コンピューターを使用した後に、システムを停止する操作のこと。物理的に電源を切ることとは異なる。) とかわめいてました。それでも通じなくてもうパニックになっちゃいましてね 「Noウンコ!Noウンコ!」 とか言ってました。当然通じるはずもなく、恥ずかしいやら何やらで、もうさっきから20人くらいに見られてる、っていうか、さっき通ったのウチの女子社員じゃないかとか焦っちゃいましてね、飲んでいたお酒の酔いも手伝って、何か英語を言わないといけない、アメリカっぽいことを言わないといけない!と勘違いしちゃったみたいで 「NO NEW YORK!」(BOΦWYの名曲) 「You are not alone」(あなたは一人ではありません) とか訳の分からないことをのたまってました。なんじゃそりゃ。で、全く通じないというか通じるわけがない、そもそも通じても意味が分からないので諦めてウンコして、尻も拭かずにトイレから出たのですが、その間、ずっと黒人はドア開けて仁王立ちしてた。すっごいシュールな光景。あれか、アメリカ人は人のウンコを干渉する文化でもあるのか。 命からが飲み会の席に戻った僕は、すぐさま後輩の近くに行き、事の顛末を話しながらワンワン泣いたのでした。異人による圧倒的侵略、敗北、敗戦とはこういうものなのか、ウチの爺さんも終戦の日、さぞや悔しかっただろうなあ、と噛み締めながら。後輩は「今度顔を真っ黒に塗って練習しましょう」って言ってた。 この国において「戦争」とはエンターテイメントでしかない。どんなに綺麗に言葉で飾ってみても、それはもう遠い国の出来事か大昔の出来事か、画面の中の出来事でしかない。 声を大にして反戦を叫ぶのもいいだろう。声を大にして平和を叫ぶのもいいだろう。日本の戦争責任を叫ぶのもいいだろう。ただ、それらが僕らにとっては全くリアルでないことを叫ぶほうも叫ばれるほうも認識していなければ、それらは大きく歪んでしまうだろう。 ただ一つだけ言えること。僕は結果的に僕らの未来のために戦い、復興のために努力した先人たち、ウチの爺さんを誇りに思う。こうやって黒人と「これはもう戦争だ!」といってウンコ見られただの何だの騒げる平和な世界を築いてくれたのだから。 6/12 トランペットは鳴らない トランペットは鳴らない。人生の重要な決断が迫ってきても…それは静かにやってくる。(Agnes De Mill) 決断することは大切だ。人生の重要な局面において、決断を迫られる場面でトランペットも、ましてやファンファーレも鳴らない。あるのは日常と変わりない静かな水面と決断しなければならない歴然たる事実だけだ。 社会全体、個人を取り巻くコミュニティ、個人、マクロな視点でもミクロな視点においても転換期とはそれと分かるように派手ないでたちでやってきたりはしない。過ぎ去って変わってみて初めて「ああ、あそこが転換期だったね」と感じるものなのだ。間違っても「今が転換期!」と感じることなどない。例え感じたとしてもそれは多分勘違いだ。 それと同じように、重要な決断もまた、終わってみて初めて重要な決断だったと気がつく。誰が見ても明らかな決断の時など大したことなくて、実は何気なくやってくる決断の時こそ重要で何よりも意味深なのだ。そう考えると、人生なんかに直結する決断なんてあり得なくて、小さな小さな決断の積み重ねが人生という流れを作る、それこそ、右折するか左折するか、そんな小さな決断が重要なのかもしれない。 2008年6月某日、patoは一つの決断をした。それは小さく何気ない決断だったのかもしれない。けれどもそれが何より大きな流れを作り出そうとは知る由もなかった。 patoは住んで5年目になるオンボロアパートに住んでいる。雨の日に洗濯物が干せないので祭のような勢いでカーテンレールに洗濯物を干していたらカーテンレールがバキッと折れた。それ以来、我が家は隣りのアパートから丸見えだ。ゴミが散乱し、クローゼットの扉などとうに朽ち果てた。ワイドショーなどでゴミ屋敷の主人が特集されるたび、モザイクの向こうに自分の顔を重ね合わせて自問自答するだけだった。 住めば都、なんて言葉は本当で、こんな崩壊直前のローマ帝国みたいな部屋でも心安らぐ。この部屋で多くの日記を書き、幾多のオナニーをしてきたことを考えると感慨深いキモチにすらなってくる。一生とは言わないまでも長らくここに住むだろう、家賃も3万円と格安だ、そう自分に言い聞かせ安らいでいた。 しかし事態は急変する。賢明な読者の方ならご存知かと思うけど、我が部屋はゴキブリの楽園だ。最初こそはゴキブリが出現するたびに「キャ!ゴキブリ!」などとバルコニーでフルートを吹くお嬢様みたいに狼狽していたのだけど、あまりに出るもんだから慣れてしまった。もはやゴキブリが自分に向かってフライングしてきても微動だにしないレベルまで登りつめてしまった。怖いものなど何もなかった。 けれども、最近はどうだ。僕の部屋のどこかで放射能漏れでも起こって突然変異でも起こしたのか、チェルノブイリの悲劇がこんなアパートにまで!と思わざるを得ないビッグサイズのゴキブリが出没しやがる。ワラジ大とかそんなサイズ、さすがにそれは言いすぎだけど、乳幼児の手の平くらいありそうなヌシが平然と出てきやがる。 しかも登場の仕方が、ゴキブリのそれではなく、コソコソっとしていない。ある種貫禄すら感じるような、親戚中で嫌われている叔父さんが、ウチの両親に金の無心に来る時みたいな、堂々たる振る舞いで登場するのだ。卒業したくせに新天地に馴染めず、いつまでたっても部活にやってくるOBみたいな貫禄すら感じるほどだ。これはもはやどちらが部屋の主なのか分かったものじゃない。 「引っ越そう!」 patoは決断した。もうこの部屋は限界だ。このままではいつか巨大化したゴキブリに寝込みを襲われてしまう、こんな部屋は捨てて新しい部屋にユートピアを見出そう。31歳独身の小さな小さな決断だった。 まず、引っ越すにあたって様々な条件を決定した。まず、なにより大切なのが職場から近いことだ。現在は通勤に片道1時間半とか異常な距離に住んでおり、空前の原油高である昨今ではガソリン代もバカにはならない。これだけはどうしても守らねばならない必須事項だ。 次に、同じアパート内に頭のおかしい人間が住んでいないという点も重要だ。現在は、アパートの表札に何のためらいもなく「アラー」などと書いている神々が住んでいるアパートで、とてもじゃないが生きた心地がしない。もっと平穏で心安らぐアパートを選択する必要がある。 次に大切なのが家賃の安さだ。現在の部屋は家賃3万円、下手する都市部の駐車場代より安い。どうやってもこのラインだけは譲れない。高くとも3万円、それ以下ならもっと良い。そんな様々な思惑と決断を胸に僕は不動産屋へと向かった。 さて、いざ不動産屋に行くとなると、これがなかなかどうして、思いの他難しい。コンビニや定食屋、怪しげなエロDVDを売ってる店などは、通りがかりなどに「あ、コンビニだね」などと記憶しているのだけど、不動産屋だけは記憶の片隅にすらありゃしない。 仕方ないので、その辺を歩いているお婆ちゃんに「この辺に不動産屋ってないっすかね?」などと、怪しげな地上げ屋みたいな風情で聞き込み。なんとか通りの向こうに不動産屋があるという情報をゲットし、急いで向かった。 不動産屋といえば物件のプロであるわけで、もちろん、そんなプロが自社を取り扱う場合、プロらしい仕事を見せるはずだ。つまり、不動産会社の社屋というか店舗なんてのは素晴らしい立地だったり、素晴らしい建物だったりするはず、それがその会社の実力になるのだから当たり前だ。 しかしながら、目の前におわすのは、そんな勝手な想像を全て根底から覆す異常なオンボロ家屋。汚い壁に「たばこ」という文字がつけられていた痕跡が残っており、どう好意的に解釈しても潰れたタバコ屋を不動産屋に使っているとしか思えない。 しかも、僕の記憶の中の不動産屋ってガラス戸にこれでもかって物件情報みたいなのが貼ってあって、「南向きのお部屋です!」とか煽り文句が勇ましいのだけど、そんなのが全くない。いや、あった、1枚だけ申し訳なさそうに貼ってあった。貸事務所の案内だけがポツンって貼ってあった。 大丈夫かいなと思いつつ他に不動産屋を知らないので仕方なくこの店の世話になることを決断し、ドアを開けて入店する。 「すいませーん」 中にはアブラギッシュなハゲ親父と、更年期みたいな事務員のババアが忙しそうに書類と睨めっこしていた。 「すいませーん、アパート探してるんですけど!」 普通に和気藹々というか、むしろ意気揚々、前途洋々な感じで語りかけたのですけど、オッサンと事務員さん、完全無視。意味が分からない。 「あのー、すいません」 それでも無視。 僕ね、客商売でここまで客を無視する店って経験したことないっすよ。なんだろう、ここまで他人に無視された経験ってそんなになくて、今でも思い出すんですけど、僕が小学生の時周りの友人がみんな学習塾に通ってましてね、ウチは貧乏なんで通わせてもらえなかったんですけど、なんていうか友人がみんな塾の話とかしてると疎外感を味わうじゃないですか。で、ある時、友人が「今日は塾の先生がステーキ奢ってくれるからみんなで行く」みたいなこと言い出しましてね、決してステーキが食べたかったわけじゃないんですけど、もう疎外感を味わいたくなくて塾生でもないのに一緒についていったんですよ。決してステーキ目当てとかじゃないですよ。友人も「一人くらい大丈夫だよ!優しい先生だし!」とか誘ってくれたし行ったんですよ。そしたら、ステーキ3枚も平らげた僕に塾の先生はご立腹でね、僕がなに話しかけても無視ですよ。そりゃ僕も3枚も食ってよくなかったなーって思いますけど、いくらなんでも小学生相手にそりゃないっすよ、大人げないっすよ。意図的に分かるように無視ってならまだしも、まるで存在しないかのようなフィーリングで無視ですからね。泣いたね、泣いた、4枚目食べながら泣いた。 そんなトラウマが思い起こされちゃいましてね、なんでこんな場末の不動産屋のカウンターでセンチメンタルジャーニーな気分になってるのか分からないんですけど、なんかもう疎外感で泣きそうになってた。 もしこれが、救急医療の現場で僕が待ち望まれている医師とかなら絶対に無視されないですよ。例えば、このババア事務員が急な発作で倒れちゃったりしてね、店主のオヤジが物件の書類とか放り出して介抱するんですけど、ババアは息も絶え絶え。 「だ、だれかー!妻を助けてくれ!」 世の中とは不条理で冷たいもの、誰も助けてくれる通行人はいなかった。 「くっ、不動産に携わって40年、多くの物件を人に紹介してきた。なのに、なのに!たった一人の妻も救ってやれないなんて!」 「どうしましたかな」 そこに登場するのが僕ですよ。 「あ、あなたは!?」 「なあに、アパートを探しに来たただの医師ですよ。それより奥さんの容態を、む、これはいかん」 「つ、妻は助かるんでしょうか?助かるならアパートでも何でも、家賃だって値引きします!」 「絶対に助かるとは言い切れない。おまえさん次第だな」 「私、次第…!?」 「ああ、助けるには手術が必要だ。最も私じゃないとできない手術だがね」 「手術…ですか…?」 「手術代は5000万円だ、払えるかね」 「どんなことをしても払います、お願いします!妻を助けてください!」 「その言葉が聞きたかった」 まあこれで相手もしてもらえるし5000万円もゲットって感じですよ。5000万円あったらIH炊飯器買いたい。 とにかく、そんな妄想していても僕は医師でもなんでもないので全く現状を打破できないので、なんとかしつこく食い下がって呼びかけ続けます。 すると、ババア事務員の方が大変面倒くさそうというか、明らかに旦那のパンツを箸でつまむ時みたいな顔してやってきてくれました。 「なにか御用ですか?」 いや、さっきからアパート探してるって言ってるやん、死ね、7回死ね、お前が発作起こしても手術してやらん!と思うんですけど、どう考えても下手に出るのが得策なので、 「いやー、引っ越ししようと思ってアパートを探してるんですよ」 とか満面の笑みっていうか、おいおい惚れるなよーくらいのスマイルで言ってました。しかしながら、ババア事務員の対応はひどいもので 「うちは個人向けのアパートはあまり扱ってないのよねー」 とか何とか言ってるじゃないですか。それでもそこを何とかみたいな勢いで食い下がってると奥でふんぞり返っていたアブラギッシュなオッサンが出てきましてね、3枚の書類を見せてくるんですわ。 「うちのあるのはこれくらい、選んで」 さあ、ここは大切な決断の時ですよ!今から選ぶ物件いかんによっては、華のアパートライフを営むことが出来るかもしれないし、下手な物件選んだら「はいっ!引っ越し!引っ越し!」とかツェッペリンみたいな勢いで嫌がらせされる可能性もある。この決断は大切だぞ、っておい、違うだろ、普通、部屋選びってもっと胸がときめくものじゃないんか。 数ある物件から、これにしようかな、でもこっちも捨てがたいな、ロフトも欲しいな、実際に物件見せてくれます?すいません、なかなか決まらなくて、いえいえ、こちらも仕事ですから、さあ、次の物件に案内しますよ、みたいな慎重かつ、選り取りみどりな状態があるんじゃないんですか。それなのになんか、雰囲気的にこの3つの中から1つだけを絶対に選ばなきゃいけないみたいな雰囲気というか鉄の掟がムンムンに伝わってくるんですよ。 見ると3つの物件とも家族で住む2LDKいたいな重量級の物件で家賃も軽々と予算オーバー。こんな場所に住んだら確実に家賃で死ぬといった硫化水素物件。こいつはどうしたもんか、決断するべきか。悶々と悩みましたよ。そして導き出した結論がコレ。 「すいません。もっと安いのないっすか」 3つだけしかないって言われてるのに堂々たる振る舞い。見ててくれたかい、あの日の友人たち、ステーキ食いすぎて塾長に無視されて泣いていた少年はこんなにも立派になったよ。これしかないって言われてるのに平然と安いのを要求する立派な大人になったよ。増本君、山本君、加治君、僕はこんなに立派になったよ。加治君、30歳にもなって万引きで捕まったんだってな。それもパチンコ雑誌万引きしたんだって? とにかく、加治君に何があったかも気になりますが、問題は物件です。頑として譲らない気構えを見せていると、なにやら事務員とオヤジがゴソゴソと相談し始めましてね、そして一枚の書類を見せてくれたのです。 「2LDK 1.8万円 コンビニ近く優良物件」 おいおい山ちゃん(オヤジの名札には山本って書いてあった)、やればできるじゃないの、こんな秘蔵の物件隠してるとか何やってるの。この辺の相場って結構安いっぽいんですけど、それでも2LDKなら6,7万円くらいはしますよ、それが1.8万円って、ここだけ戦後に戻ってるとしか思えない。 もう迷うことなく決断しましたよ。っていうか予算内に収まるのここしかないですからね、即断即決、もう「ここにします!」とか言ってた。 「実際に物件とか見ます?」 「はあ」 僕はあまり事前に下見とか興味ないんですけど、今の部屋に越してきた時に部屋も何も見ず、しかも電話だけで即決したってエピソードを日記に書いたら、読者の方に「下見くらいしろカス」みたいなこと言われちゃいましてね、じゃあしておくかって感じで今回は行ってみることにしました。 「お願いします」 「はい、これが鍵、あとこれが地図」 は?案内とかしてくれるんじゃないの。懇切丁寧に案内してくれて物件の説明とかしてくれて、「うーん、やっぱり他の物件も見てみたい」って僕のワガママを聞いて次に案内してくれるんじゃないの。なんかおかしいよ、この不動産屋。 とにかく、文句を言っても始まらないので、渋々鍵と地図を受け取って一人で物件に向かいます。するとまあ、もう、ほとんどの人が気付いていると思いますけど、1.8万円の格安家賃で何もないわけないじゃないですか。僕も薄々分かってましたけど、安さに惹かれて気付かないフリしてた。 もう到着したらアパートの横、見事に墓場っすよ。しかも隣が墓場ってだけならまだしも、その墓場が明らかに不自然なところで途切れてる。前はもっと広い墓場だったんだろうけど、無理矢理狭くしたみたいな感じになってる。で、圧迫するように立ってるのがアパートですよ。どんな物理学者呼んできたって、墓場を一部潰してアパート建てましたって応えるような立地条件。 恐れ戦きながらも物件の中に入ると、まあ、さすが1.8万円、ボロいボロい、鍵とかガチャガチャやっても開かないもん。かなり力強くやってはじめてガチャとか開きやがった。で、ドアがお決まりのようにギーとか言いやがってね、そいでもって何か変な匂いがするんですよ。 「こりゃまずいだろ」 悪い気というか瘴気というんですか、僕はそういうの全然分からないんですけど、それでも感じざるを得ないというか、この部屋にいるだけで不安になってくるというか、具体的に言うとトヘロスが必要な気分になってくるのですが、それでも落ち着いて押入れとか開けて収納部分をチェック。窓の外を見ると壮大にそびえ立つ墓石と卒塔婆が見える絶好のオーシャンビュー。天井に変なシミがあるんですけど見なかったことにして、もう帰ろうと出口に向かいました。 するとね、ドアが閉まってるんですよ。あまりの怖さに絶対に開けたまま部屋の中に入ったのに。思いっきりドア閉まってるんですよ。この部屋は頭おかしい。 勝手に閉まったんだって自分を納得させ、勝手に閉まったならギーって音がするはず何だけどって考えは無視して、いち早く部屋から出ました。あまりオカルトチックなことは信じず、全部プラズマの仕業って思ってるんですけど、それでも部屋から出た瞬間に呼吸が楽になった感覚がしてホッとした。 とにかく、墓場が近いってのが全部悪い。でも、実際には墓場が近いだけでなにも起きないんじゃないの。墓場の迫力に圧倒されて一人でブルってるだけじゃないの。実際には何も起きやしないよって思って、気だるそうに出てきたアパートの住人に話しかけてみました。 「すいません、今度ここに住もうかと思ってるんですけど」 「はあ」 「その、なんていうか、墓場とかあるじゃないですか。実際のところ、不可解な現象とかないですか?」 こんなこと聞いてる時点で明らかに怪しい人物、お前こそが不可解だよって言われそうなんですけど、それでも真剣に訊ねると。 「あー、特にないですね。あ、でも夏になると若者が肝試しとかに来てちょっとうるさいかな。それさえ我慢すれば住みやすいし、家賃も安いし絶好ですよ」 やっぱりね。そりゃ墓場の横ってのはあれだけど、そうそう出るもんですか。逆に言うと、何もないのに格安物件、滅茶苦茶お得な物件じゃないですか。 「そうですよね、家賃1.8万円でこの広さ、この立地ならお得ですもんね」 「いや、ウチの家賃は4.5万円ですけど」 あの部屋だけ家賃が1.8万円=あの部屋だけ何かある=でる もう無理無理、ムリムリ、むりむり、MuriMuri、絶対に無理。墓場が横ってだけでも無理なのに、入ろうとしてる部屋だけ家賃が半分以下とかありえない。イチローだけでもすげえのに、そのイチローがドーピングしたくらいありえない。微妙に良く分からんけど。 とにかく、いくら安いからってこんな物件は真っ平御免だ!毅然と断わってやる!怒りに打ち震え、そう決断した僕は携帯電話で不動産会社に電話しました。 「あ、先ほどのも者です。あのですね、今物件を見させてもらったんですけど……」 その瞬間、僕の横をゴミ袋を持ったナオミキャンベルみたいな女性が通り過ぎましてね、なんていうんですか顔はイマイチなんですけどオッパイって言うんですか、胸元辺りの肉っていうんですか、あの辺が非常に隆起した、そいでもって半裸みたいなタンクトップで、おいおい、こぼれちゃうよ!みたいな女性がケツをプリンプリンさせながらゴミ捨て場に向かっていきました。 で、ゴミを置いて、ナオミキャンベル似の女性が歩いているのかオッパイが歩いているのか、はたまた乳首は何色なのかって勢いで歩いてきて僕に向かって 「こんばんわー」 とか、絶対に語尾にハートマークついてたって確信せざるを得ない挨拶をして、1.8万円の部屋の隣りの部屋に入っていきました。いい匂いした。 「もしもし?」 呆気に取られていた僕は不動産屋の言葉で正気を取り戻し、言葉を続けました。 「物件を見させてもらったんですけど……ここに決めます」 引っ越しの関係ですぐには越さないけど、1.8万円の格安2LDKでの愉快な生活の始まりだった。 この社会生活の流れは多くの決断の末成り立っている。何度も分岐するアフラージュのような流れの一つを選択しているに過ぎない。そして、その分岐の大本は過ぎ去ってみて始めてわかるのだ。何の気なしに引っ越そうと決断したこと自体が重要であり、間違いだったと。 トランペットは鳴らない。人生の重要な決断が迫ってきても…それは静かにやってくる。(Agnes De Mill) 霊が出てくるっぽい音楽は鳴らない。隣りにセクシーな女が住んでいても…霊は静かにやってくる。たぶん。(pato) 6/5 人類の進歩と調和 便利になったがゆえに不便になることが山ほどある。 級数的に進歩していく人類の技術は凄まじく、「今まで手作業でやってたものを機械でやるようにしました!便利!」と湧き上がっていたのがほんの200年ほど前、人を乗せた飛行機が空を飛んだのがほんの100年前、信じがたい加速度で信じがたい発展を遂げたといえる。このままいくと10年後はどんな技術が生まれているのか想像だにできない。 ふっと辺りを見回して目につく便利なもの全てが技術の粋であり、その技術すらも十数年前からは想像もつかないほど発展している。例えば、10年前なんてテレビはブラウン管だったし、携帯電話なんて通信機かと思うほどの重量級だったし、パソコンなんてハードディスクが700Mとかそんなのがモンスターマシン、インターネットなんて海外のサイトか首相官邸HPくらいしか見るものがなく、エロ画像のダウンロードだけで四苦八苦していた。それから考えるとここ十数年で爆発的に進歩したものが多すぎる。 便利なことは豊かなこと、という考えの下、技術を発展させてきた先人たちの多大なる功績には頭が下がる思いで、大変感謝するのだけど、その、あまりこういったことを言えた義理じゃないのだけど便利すぎて逆に不便に感じることもある。 その最たる例がテレビの高画質化だろう。最近ではハイビジョンやら地デジやらがもてはやされ、家庭で観るテレビ画面が明らかに高画質になった。そりゃあ画面が汚いより綺麗ってのは良いことで、確かに素晴らしく便利なのだけどそこに大きな落とし穴がある。 僕は毎日、夕方のローカルニュースに出てくる地方アナウンサーに恋していて、こうなんていうんですか、ローカル局のアナウンサーって下手したら手が届きそうな存在じゃないですか。アイドルとかと違って同じブラウン管の向こうでも、コンビニでシール破ってエロ本立ち読みしていたら隣にいた、なんてことが普通にありえそうじゃないですか。 その辺の部分が異様に興奮しますし、このアナウンサーが告白してきたらどうしよう、平日夕方はずっとニュースだからデートもままならない!とか考えていると胸がパチパチしてくるじゃないですか。そんな感じで夕方のローカルニュースを見ていたんですよね。 で、ある日のことですよ。我が職場に、地デジ対応のプラズマテレビが納入されまして、ウチは安月給ですから同僚どももみんな貧乏で地デジとか見たことなくてですね、高画質の地デジを一目見ようと色めきだって昔の街頭テレビみたいな勢いで人々が集っていたんですよ。 僕もそのプラズマテレビの導入に心中穏やかじゃない部分がありまして、今は皆が集ってお昼のワイドショーとか見てるんですけど、夕方になって誰もいなくなったらコッソリとローカルニュースを見よう、と企んでいたんですよ。高画質で見るローカルアナウンサー、きっと普段のボロテレビで見ているより綺麗に違いない、そう確信していたんです。 で、いよいよローカルニュースの時間。興奮で弾けそうになっている心の臓を抑えつつテレビのある部屋にいきましたよ。いよいよ高画質で彼女を見ることができる。美しく可憐な彼女の姿を見ることができる。ドキドキしながら電源をオンにしました。 そしたらアンタ、むちゃくちゃ肌が汚いのな。いや、別に肌が汚いのは良くて、僕なんて肌どころか顔そのものが汚物っていうかデビルですから言えた義理じゃないんですけど、なんかもう、女子アナの顔が大変なことになっとるんですよ。 月のクレーターっていうんですか、あんな感じで、顔がボコボコしてやがるんですよ。月のクレーターは隕石の衝突とかが原因なんですけど、どんだけ隕石が落ちたんだ、メテオかって感じの肌なんですよ。分かりやすくいうと、子供の頃に親父にモデルガンのプラモデルを作ってもらったんですけど、ウチの親父、説明書を見ずに作るもんですから、どうしても組み上がらない部分が出てきましてね、発狂した親父が接着剤で無理矢理くっつけたんですけど、そもそも組み方が違いますからポロッポロ取れるんですよね。何度も接着剤塗ってを繰り返してると銃の表面が固まった接着剤でボコボコになるんですけど、そんな感じで女子アナの肌が汚いんですよ。ごめん、あんまり分かりやすくなかった。 とにかく、これまでオンボロテレビではハッキリと映らずに、彼女の肌は絹のように綺麗だ、とか思ってたんですけど、地デジで高画質になって毛穴まで見えるようになっちゃってクレーターが大出現、もう幻滅したっていうね、確かに技術革新で便利になったんだけど、便利になりすぎるのも考えものってやつですよ。 他にも、昔は人の噂って明らかに伝聞じゃないですか。職場で広まる噂だって人から人に伝わっていくものですから、その感染力はさして問題じゃなかったんですよ。部署が違うと全然知らないとか普通にありましたし。けれどもね、最近は悪い噂もメールでポンッですよ。patoさんがウンコ漏らして得意先との打ち合わせに遅れたらしい、それが原因で減給になったらしい、2万円くらい減ったらしい、なんて噂が次の日には全員に伝わってますよ。メールって本当に怖い、感染力が半端じゃない。 これも、コミュニケーションツールの便利さが招く悲劇であって、出会い系サイトを巡る諸問題や、学校裏サイトによるイジメ問題などなど、あまりの便利さ故に不便というか問題が発生しているといえる。そういった側面で考えると、あまり急激に発達する技術に人類が追いついていないような、いくらテクノロジーが発達しても、それを使う人間がスカスカじゃ意味がない、みたいな感じすらしてくるのです。 先日のことでした、我が職場には労働者の権利を守る労働組合、みたいなのがありましてね、なんか「労働者の権利を守れー!」とか「残業代をだせー!」とか「賃金アップ!」とかシュプレヒコールをしてるのをたまに見るんですよ。 普通の会社がどんなもんか知りませんけど、まあ、大体は同じ会社の人間でも組合に入る人と入らない人がいますわな。半々くらいとかそんなもんでしょうか。しかしながら、我が職場は管理職以外の98%の人が組合に入ってるという状態でして、ほとんど全ての人が組合に属しているわけなんですよ。 で、冷静に考えると、組合に入ってない人ってのは2%ほどで、ほぼ数人くらいのレベルなんですけど、実は僕その中の1人でして、入ってないんですよね。 これは何も別に「僕は組合活動に反対でね」とか「労働者の権利云々言うけどそもそも労働者とは……」みたいな立派な信念があるわけじゃなくて、普通に誘われなかっただけです。 大体は、会社に入った瞬間に熱心な組合員の熱烈な勧誘に遭ってしまい、それでほとんどの人が入ってしまうんですけど、何故か僕だけ勧誘すらされないというイリュージョン。なんかもう、栗拾いツアーに誘われないとかそういうの超越してますからね。労働者の権利を守る闘いに参加すらさせてもらえない。 で、どうも、組合側で手違いがあったみたいで、僕が入社した時に、僕だけ勧誘し忘れていたみたいで、そのまま幾年もの歳月が流れていたんですけど、つい先日、ついに組合に誘われましてね、晴れて組合員になったわけなんです。 組合員になって最初の仕事がイラストを描くことでした。組合ではなんか組合員に向けて社内報みたいな、まあ学級新聞みたいな手作りの機関紙を毎月発行していたんですよ。まあ、手作りですからペラペラの紙にどうでもいい内容、「組合員の○○さんにお子さんが生まれました」みたいな、誰が得するのか全く分からない情報てんこ盛りのヤツなんですけど、その機関紙のイラストを担当していた山賀さんが退職されてしまったんですね。 さあ困った、味のあるイラストを描いていた山賀さんがいない、これでは機関紙に彩りがなくなってしまう、組合の上層部は困り果てました。どうせ大した情報を載せてるわけじゃないんだから廃刊にしたらいい、とは新入りの僕には言えませんでした。 そこで、組合員の中からイラストを描ける人を探そうって感じになり、全員が何のイラストでもいいから描いて提出することになったんです。まあ、賢明な読者の方ならご存知だとは思いますが僕の画力って相当なものでしてね、トップページの下のほうに僕の描いたマンガが載ってますけど相当なものなんですよ。昔、職場の求人案内みたいなのに鳳凰の絵を描いて、あまりの下手さにとんでもない騒ぎになったレベルの画力です。 けれども、不得意だからってチャレンジしないのは良くないことですから、ここは果敢にチャレンジして組合イラスト担当の座をもぎ取ってやろう!と発奮したわけなんです。 でまあ、発奮したのはいいんですけど、締切日をすっかり忘れてましてね、全く手付かずのままXデーを迎えてしまい、うわ!しまった!もう今から描いても間に合わない!と焦った僕は、インターネットで検索して出てきたイラストを適当にプリントアウトして提出しておきました。人のイラストを提出してしまうのにいささか葛藤があったのですけど、まあ、間に合わないよりはマシだと思い提出、最近は本当に便利な世の中になりましたね、こんなに簡単にイラストが手に入るなんて本当に素晴らしいことです。 たしか、提出したイラストが、男の子なんでしょうけど目の色が左右違って赤と紫になっちゃってる男の子がすごい勢いで精子ぶっかけられてるイラストで、何の目的で描かれたものか全然分からないし、ちょっと倫理的にどうかなって思いましたけど、本当に間に合わないのでそれで提出しました。 そしたらアンタ、その絵が組合の中で評判じゃないですか。イラスト担当自体はミッフィーみたいな和やかな絵を描く女性に決まってしまい落選だったんですけど、それでも「patoさんってイラスト上手なんだね!」とか多くの人に言われる始末、年配の方になんか「牛乳絞りの少年の絵は実に良かった!」とか言われる始末。それ精子だと思います、僕が描いたんじゃないんで分からないですけど、とは言えなかった。 結局、イラスト担当にはできなかったけど、その絵心とセンスを発揮して組合のポスターを作製してくれって話になったんですよ。こう、なんていうか、職場内のいたる場所に掲示して「我が組合、ここにあり!」みたいな強烈な存在感をアッピールする目的でポスターを作ってくれって言われたんですよ。 ここが便利さの怖いところ、技術発展の怖いところですよ。あのですね、組合側が求めてるポスターってのが機関紙とは違って本当に立派なポスターでしてね、それこそ駅とかに掲示してあるレベルのヤツなんですよ。ちゃんとした印刷屋とかで刷った、なんか綺麗なポスターを作れって言うんです。 でもですよ、印刷屋に頼むとやっぱプロですから立派なポスターはできるんですけど、デザイン料とか付加されて結構高くつくんですよね。だからデザインは僕がやって、印刷の部分だけ印刷屋にやってもらうって形になっちゃったんです。 これが技術発展の怖いところ。こんなのね、デザインなんてちょっと前なら素人にやれませんよ。ちゃんとしたプロが立派にデザインして印刷する、それが当たり前じゃないですか。でも、今はパソコンを使ってイラストレートするソフトが簡単に手に入るわけで、素人にも結構やれちゃう、じゃあ、予算節約のためにやろうよって流れになるんです。ホント、そういった技術さえ進歩しなければプロに任せられたものを、絶妙に進歩してやがるからやらされるハメになる。便利すぎて不便だわ。 そんなこんなで、予算の15万円を頂いて早速デザイン開始。「目立つような色使い」「闘う姿勢」「静かな中に秘めたる闘志」という、お前はかぐや姫かって言いたくなる組合の無理難題を受けて作成を開始しました。 完成したポスターがこんな感じです。
いやー、ホント、最近は、技術が、進歩して、ソフトを、使えば、誰でも、それなりに、デザイン、できる。 とにかく解説すると、間違いなく「目立つような色使い」という点では完全に合格でしょう。そして、左側でメラメラしているのは炎です。これは職場に貼るものですからあまりダイレクトに「闘う姿勢」っていうのを前面に出すわけにはいきませんから、色々と頭をひねって考えた結果、燃え盛る灼熱の炎で表現してみました。そして右側にいる人物は、そうですね、もう皆さんご存知ですね、綾波レイです。エヴァンゲリオンに登場する彼女こそが「静かな中に秘めたる闘志」というイメージにピッタリ、このポスターに使用するにあたってガイナックスおよびスタジオカラーに許可を取らなくていいのか迷いましたが取りませんでした。そして、この綾波の姿勢がどう見ても戦闘体勢ですので、ここでも間接的に「闘う姿勢」をアピールしているわけです。ホント、技術なんて進歩しなければ良かったのに。 で、このデーターを、データサイズが24KBしかなくて微妙に不安だったんですがUSBメモリに入れて印刷会社に持っていたんです。そして、そこでも技術が進歩して便利になった故の悲劇に見舞われるのです。 皆さんは印刷会社ってどういうイメージですか。なんか紙とかいっぱいあって、大きな機械がドッカンドッカン印刷してて、作業服を着たオジサマが暑い中働いていらっしゃるイメージがあるかもしれません。僕もそんな感じのイメージを抱いて組合の偉い人に指定された印刷会社に趣いたんです。 そしたらアンタ、社名はオシャレな横文字だわ、オフィスみたいになってるわ、それもしゃらくさい美容院みたいなオシャレさだわ、働いてるスタッフがみんな女性だわの全くイメージと違う印刷会社じゃないですか。スタッフ全員が「仕事の出来る女」「仕事が生きがい」「キャリアウーマン」みたいなしゃらくさい顔して働いてやがるんですよ。 もう、きったない格好に寝ぐせバリバリ伝説で来ちゃった僕は焦りましてね、もう帰ろうかと思ったんですけどポスターを印刷しないと怒られますから、一番近くにいた、盆正月の長期休暇になるとすぐにサイパンに行っちゃいそうなキャリアウーマンに話しかけたんです。 「すいません、ポスターを印刷したいんですけど」 それを受けてキャリアウーマンは 「ああ、デザインは持ち込みで印刷だけですね」 とか言ってて、あとなんかレイヤーがどうとかポストスクリプトがとかトゥルータイプフォントがどうとか訳の分からないことを言ってました。あまりの訳分からなさに、そんなんどうだっていいから冬のせいにして暖めあおうって言いそうになりましたが、本気で通報されそうな雰囲気だったのでやめておきました。いま梅雨だし。 「じゃあデーターもらえますか?チェックしますんで」 と言われて、心の中で「ほほう、そんなに麻呂のものが欲しいか、ならばお願いするんだな、ほれ、ほれ。助平な女よのう」とか思いながら素直にUSBメモリを渡したのですが、渡しながら本当に便利な世の中になったと痛感したのです。 このUSBメモリは100円ライターくらいの大きさのくせに2GBも入る代物で、僕が始めて買ってもらったパソコンのハードディスクって800MBですよ。あのパソコンがこんなちっちゃなものにダブルススコア以上の差をつけて負けている。おまけに簡単にデーターのやり取りが出来る。昔だったらデーターのやり取りってフロッピーが主流で、フロッピー10枚組とか鬼みたいなエロゲーをシコシコとダウンロードしてシコシコしてたんですよ。それを思うと便利になったものだ。 「形式はなにでもってきました?」 「JPEGです」 そう答えるとキャリアウーマンは微妙に困り顔。JPEGはまずかったか。 「はい、まあ、じゃあチェックしますんで、あちらにお座りになってお待ちください」 彼女がパソコンに座ってチェックする、僕はその近くのこれまたオシャレな椅子に座って待つ、暇なんで会社のパンフレットみたいなの読んで待つ、みたいなスタイルになっちゃったんですよ。 「たくさんフォルダがありますね、画像ってフォルダでいいですか?」 ああ、そういえば不親切だった、こうやってUSBメモリごと、渡すんだからメモリ内の余分なデーターは全部消しておくべきだった、あんなにゴチャゴチャ色々なファイルが入ってたら分かりづらいよな、って思いつつ、 「あ、はい、そうです」 みたいに返事しておきました。その瞬間、妙な違和感が心の中を横切りました。まてよ、「画像」なんてフォルダにポスターのファイルを入れた覚えがない、そのままぶっこんだだけだ。まてまて、じゃあ、なんで「画像」なんてフォルダがメモリ内にあるんだ。 「なんか沢山画像ファイルがありますけど」 「ちょっとどれか分からないんで全部開いてみてください」 パンフレットを見ながら適当にそう答えた瞬間、頭の中にフラッシュバックのように全ての思い出が蘇ったのです。そうだそうだ、上司が僕のパソコンを貸してくれって言うから中に入ってるエロ画像を全部USBメモリ内に避難させたんだった。簡単に避難させれてマジ便利、と思いながらメモリ内に「画像」フォルダを作って入れておいたんだ。いかん、そのファイルどもを開いてはいかん!神の怒りに触れるぞ! 「ま、まって!」 って声を出した時には既に遅く、彼女がフォルダ内の全部のファイルを選択して一気に開いてました。 たぶん、イラスト屋独自のそういった便利ソフトがあるんでしょうね、選んだ画像ファイルが一気にババババババババババババって感じでまるで弾けるように画面に次々と表示されましてね、女の子がウンコ食べてるとことか、なぜかすごい場所に請求書突っ込まれて身悶えてる女の子の画像とか意味の分からないエロ画像がそういった類のブラクラみたいに一気に表示されちゃったんです。 「きゃーーー!」 みたいな悲鳴がオフィス内に響き渡り、周りのキャリアウーマンとか大騒ぎ、営業に来ていた下請け会社の社員みたいな体育会系の男が、変質者が出たか!みたいな勢いで発奮してたのが怖かった。 「すいません、すいません、わざとじゃないんです」 とか、すげー謝ってる僕の横で、そういった便利ソフトなんでしょうね、今度はそれらのエロ画像どもがスライドショーになってパッ、パッと2秒ごとに切り替わってました。いいから大人しくしてろ。平謝りしてる僕の横で脱肛してる女性のエロ画像とか出てくるんだぜ、シュールすぎるわ。 なんでこんな画像保存しちゃったんだろう、なんで持ってきちゃったんだろう。本当に自分がわからない。中学の時の修学旅行で奈良に行って、何を血迷ったのか小遣い全部注ぎ込んで般若の面買った時くらい自分のことがわからなかった。あの時の僕は何を考えていたのか、何で般若なのか。あれ、夜になると動き出しそうで怖いんだよ。と後悔することしかできませんでした。エロ画像公開して後悔とはね。 おまけに、誤解を解こうと「こっちが本当のポスターの絵です!」って出てくる画像がアレですよ。もう法廷で争うレベル。 結局、これも技術が進歩して便利になった故の悲劇で、パソコンが進歩していなくて不便なままならあんなにいっぺんに画像を開けないわけですよ。開こうとしてもガリガリガリとかいってパソコンがすげー頑張っちゃって、ムリムリとちょっとずつ画像が表示されるレベル。そうなったらパソコンを叩き壊すなりなんなりして最悪の事態だけは回避できるじゃないですか。でも、マシンパワーがあるが故にそれらが一気に表示されちゃう。ホント、便利すぎて不便だと思うしかありません。 もっと便利に、もっと便利に、その一心で人類の技術は進歩してきました。それは誰もが予想だにしない加速度で目まぐるしい発展を遂げてきたのです。産業革命以降発展してきた技術は人類と共にありました。それは1970年に開催された大阪万博のテーマである「人類の進歩と調和」からも読み取れるのです。30年以上も前の人々は進歩への調和に地球の未来を思い描いたのです。 しかしここにきて加速度的に進む進歩のスピードに人類が追いつけなくなり、調和が取れなくなってしまった。それこそが便利すぎて不便という部分に現れているのではないか。こういった小さな歪が何よりの証左で、調和なんてできてないんじゃないだろうか。ボタン一つで地球を何度も破壊できるレベルの技術は調和と呼べるのだろうか。今の人類は進歩した技術を正しく使えているのだろうか、そう思えてならないのです。 とにかく、せっかく進歩したインターネットとパソコンを使ってウンコ食ってる画像を集めるってのはゼッタイに調和じゃないよなと思いつつ、今日は消火器とかすごいことに使ってる女の子の画像を集めてました。 次の日、なんか印刷会社の女の子とウチの職場の子が友人関係だったらしく、メールで「patoさんが印刷会社で画像テロしたらしい。女の子がみんな泣いていたらしい」みたいな噂が広がり、お前らは陰口ばかり叩きやがって調和が取れてない!と一人で怒り狂ってました。あとはこれは職場の雰囲気に調和しない、と200枚も刷ったのに組合の偉い人にボツにされたこのポスターをどうするかが問題だ。 5/29 美術館で抱きしめて 意外なことかもしれないが、我が国日本は世界に誇る美術館大国だ。2007年11月に手狭となった沖縄県立博物館の那覇新都心移転と共に美術館がオープンし、47都道府県全てが公立の美術館を持つことになった。これは世界的に見ても例のない事態、その他の美術館も合わせると列島各地が美術館だらけともいえる。 そもそも、なぜ日本がこんなにも美術館大好き国家になってしまったのか、詳細な理由は勉強不足で分からないのだけど、そもそも日本人の国民性という観点から、偉大なる美術品の蓄積・保存を目的とした美術館・博物館という存在が受け入れやすい背景があったのではないかと思われる。簡単に言うと、日本人は収集癖がある。会社の同僚、大内君はセロハンテープの芯を収集するという癖があるのだけど、集めた芯を並べて恍惚の表情にある彼の顔をみると、やはり日本人は収集というかコレクションが得意で好きなんだなあと思わざるを得ない。 さらに、日本は西洋より美術館という概念が入ってくるずっとまえから、神社仏閣が価値の高い仏像などを所蔵するという習慣があり、価値ある美術品を収集・保存し、次世代へと受け継いでいく根本的考えが成り立っていた。そうした土壌があって、外国から入ってきた美術館という考えとマッチし、今日のように爆発的に広がったのではないかと考える。 このように平和で文化的な暮らしの象徴ともとれる美術館が日本各地に点在している現状は大変素晴らしいものだと思うのだけれども、ちょっと立ち止まって考えてみると、実は自分の日常生活の中に全く持って関わっていこないことに軽い驚きを覚える。 自分自身が休日は美術館巡りでノンビリしてますよハハハハ、なんていう爽やかボーイではないし、周りの人間も美術館に行ったなんて話は聞かない。せいぜいキャバクラに行ったとかそんなレベルの話を聞かされるくらいだ。行った話を聞かないってだけならまだしも、そもそもどこに美術館があるのか分からない。英語の教科書みたいにナンシーとかいうパツキンが「美術館はどこですか?」とか聞いてきても全く分からない。いくらパツキン相手といえども案内しようがないのだ。 行く機会がない、行ったという人がいない、そもそもどこにあるか分からない、これはもう存在すら疑わしいレベルで、戦後の日本が文化的に豊かになったと思わせるためにGHQ主導で存在しない美術館をさも日本各地にあるように触れ回り、その名残として存在の噂だけが日本各地に残っていると言われても信じてしまいそうなレベル。それだけ美術館との接点がなさ過ぎる。 先日のことだった。職場で上司の使うゴルフボールに会社の名前を書くという、リストラを見越したイジメレベルの仕事をやらされていた時のことだった。普段あまり言葉を交わしたことのない同僚の大槻君がやってきて、優しい口調で語り始めた。 大槻君、彼はNo.2の男だ。何がNo.2かというと、別に職場での権力レベルがNo.2だとか、2番目に仕事の出来る男だとかそういう意味でのNo.2ではない。これは僕自身が秘かに心の中でジャッジメントしているエロ動画占い、においてNo.2であるという意味だ。 エロ動画占いとは、例えばエロ動画を求めて源平合戦に破れた平家の落人みたいな趣でモリモリとネットサーフィンをしていたとする。すると、ナントカファイルホストとかいう至極ご機嫌なURLを目にするはずだ。しないやつは人間じゃない。 大抵の場合、そのナントカファイルホストのエロ動画URLは5から7個くらいのファイルに分割して置かれている。5個に分割されている場合を考えてみよう。 http://ナントカファイルホスト/eroero01.wmv このようにURLが列記されていることが多いはずだ。この場合、エロ動画初心者は01のファイルをクリックする。少し慣れてくると、大抵の場合01ファイルは女優が登場するシーン、またはどうでもいいインタビューシーンだと小宇宙(コスモ)を感じ取るかのように理解するようになる。すると、01を飛ばして他のファイルから鑑賞することになるのだが、どこをクリックするかでその人の性格や生い立ち、思考回路まで分析することが出来る。これがpato式エロ動画占いだ。 まず、最初に03をクリックする人はフェラ好きだ。03ファイルは中盤にあたり、フェラシーンが収録されている確率が7割強、ここを選択する人は無意識にフェラシーンを閲覧することを望んでおり、全体的に受身で消極的な傾向が見られる。 最初に04をクリックする人。ここがもっとも一般的で、普通のエロスとも言える。たいていの場合は04から挿入シーンだ、それも冒頭から挿入が行われることが多く、カメラアングル的にも騎乗位などの絵的に興奮するシーンが収録されていることが多い。最も効率を重視した平均的傾向が見られる。何事も普通で平均であることを望むタイプだ。 最初に05をクリックする人は野獣だ。ファイルも05ともなると最もクライマックスで男優の動きが早いわ、女優も大変なことになってるわ、おまけにフィニッシュだわで大騒ぎ。再生した瞬間に激しい立ちバックなんて日常茶飯事。エロ動画はこの部分だけ存在すれば良しとする、ある意味合理的であり、ある意味満月を見た悟空のような野獣。理性と感情が同居し、それらがバランスを崩した時、何をしですかわかったもんじゃないタイプ。 01にエロい部分はないと分かっていても最初に01をクリックする人もいる。これは2つのパターンに分かれており、これからエロいことをする女性の普通の部分をあえて鑑賞し、後の04、05ファイルでの興奮度を加速度的に上げようと考える人。または、慎重派であり、間違ってブスのエロい部分を見てトラウマにならないように01ファイルでチェックしようと考える人だ。前者は日本的わびさびを重んじる傾向にあり、実際の女性に対しても紳士的な傾向にある。後者は単純に臆病であり、ここ一番の場面で今一歩踏み出せずにいて大きなチャンスを逃す傾向にある。 では、02を最初に選択する人はどうだろうか。02ファイルといえば、ほとんどが女優が脱ぎ始めたり、男優とイチャイチャしたり、男優がパンツの上からイタズラしたりするシーンだ。日常というにはあまりにかけ離れているし、エロシーンというにはあまりに湧き上がってくる物が少ない。慎重ともエロともいえないエアポケットのような02ファイルを選択する人間は最も卑怯であり、エロい部分は見たいんだけど、リスクを犯さず慎重に吟味したい、なんていう卑劣な人間性が垣間見える。慎重にもエロにもなれず、美味しいとこだけ取ろうとして結局失敗する。もしくは02ファイルだけを見てその動画全てを理解した気分になる犬畜生が多い。 まとめると、 01ファイル わびさびを重んじる派(通)/慎重派 となる。そして、この話しかけてきた大槻君、間違いなく02ファイルを最初にクリックするであろう卑怯さが垣間見える男で、そういう意味でNo.2の男だ。エロと慎重が同居し、リスクは犯したくないが効率の悪いことはしたくないなんていう卑怯さが日常生活の中にも滲み出る、最も忌むべき存在だ。そんな彼が話しかけてきて僕は少なからず気分が重かった。 「なあなあ、今度のグループデートどうする?」 意味が、分から、ない。 頭の中のマイ辞書を必死で検索するのだけど、どうにもこうにも「グ」の項目にグループデートがない。グライシンガーの次がグレープになってた。グライシンガーは巨人の投手でヤクルトから移籍、とか頭の中の辞書に書いてあった。全く関連がありそうにない。 「グループデート?」 あまりに突拍子もない問いかけにマゴマゴしていると、大槻君は説明を始めた。なんでも、ウチの職場のイケメングループみたいなのが、他の職場のヤリマングループみたいなのと定期的にデートを重ねているらしいのだ。なるほど、グループでデートするからグループデートか。で、何故だか知らないけど、今回の参加はどうする?みたいなことを僕に言ってきたのだ。 今回の参加も何も、今まで一度たりとも参加したことない。それどころか誘われたことすらない。そんな密会があったことすら知らない。それよりなにより、僕は職場のイケメングループに属しておらず、いっつも食堂でポツンと1人飯を食ってる勢いだ。どういった経緯で声をかけられたのか全く分からない。 「いや、参加も何も……」 あまりの動揺に、ゴルフボールに書いていた社名の字が荒れる。 「いやね、前々から誘おう誘おうと思ってたんだけど、なかなか人数が合わなくてね。で、今回は向こうが6人来るみたいだから、こっちも人数増やそうかと」 ここで、ついにこういった行事に誘われるようになったか!と喜んではいけない。職場においてこういった行事に誘われることは大変嬉しく、以前に職場の栗拾いツアーの案内のプリントが僕だけ配布されなかったことや、スノボーツアーのバス代だけを徴収されて音沙汰がなかったとか、誘われて飲み会に行ったら誰も来ず、1人でモロキュウ食って帰ったとかの経験に思いを馳せると両手離しで喜んではいけない状況だ。それよりなにより、誘ってきているのが犬畜生の如く卑怯で、何の迷いもなく02ファイルをクリックするような大槻だ。絶対に何か裏があるに決まってる。 「で、会費なんだけど、9000円徴収ってことで」 ほうらおいでなすった。このパターンはあれですよ、あれ。誘われて会費を徴収されるんだけど、当日に音沙汰がないスノボーツアーパターンですよ。 「ずいぶん高いなー」 もうあんな思いは沢山だ。ウキウキと、いつスノボーに行くんだろう、上手に滑れるかな、バスの中でカラオケとか唄わされるかもしれない、練習しておかないと、などと1人で興奮していたら、もう既にスノボーツアーは終わっていたという、あの悔しい思いは沢山だ。そんな思いから僕は非常に反応の悪い、明らかに不快感を顕にした対応をしていた。 「うーん、女の子のほうに全部奢るからさー、男の会費が高くなっちゃうんだよねー」 「さすがに9000円はちょっと高いよ、ムリムリ」 もう諦めろ、僕から金を取ることはできない。会費だけ奪って当日は誘わず、ウシャシャシャって算段だったんだろうけど、あいにく僕は鉄壁でね、もうその手法は通じない。頑として断わるよ。 「向こうの女の子で1人、pato君に会いたいって子がいてさ、ほら、この子なんだけど(シャメを見せてくる)。面白いヤツがいるってpato君の話したら興味持っちゃって」 そこには、なんかこう、挨拶代わりにセックス、みたいな、全身クリトリスみたいな性的に軽やかなギャルっぽい女の子がべーって感じでイタズラに舌を出して写っていた。 「9000円だっけ?1万円でオツリある?」 かくして、グループデート参戦が決まったのだった。 「デートってどこいくの?」 「ああ、バーベキューにしようかなって思ってたけど、今回はみんなで美術館に行くよ」 あまりに自分の生活に接点がなさ過ぎる美術館、存在するかどうかも疑わしい美術館、そこにグループデートとはいえ僕に興味を持っている女の子と行く、一気に美術館という存在がディズニーランドの如く輝き始めた。 「そういえば美術館って行ったことな……」 そう言いかけた時、僕はハッと思い出した。まるでフラッシュバックするかのごとく忌々しい記憶が蘇ったのだった。人間の持つ最大の防衛本能は「忘れる」ということだ。この能力があるからこそ、僕らは恥ずかしい事実を封印して生きていける。日ごとに風化していく事象をなかったことにして涼しい顔して生きていけるのだ。 そう、僕は美術館と接点がなかったんじゃない。あえて接点を持たないように無意識下で行動していたのだ。あの忌々しい記憶を封印するために。 あれは僕が高校生の頃だった。高校に入学したてで周り中が知らない人ばかりで、僕は一つの決意を胸に秘めていた。 「高校デビューしてやろう」 中学時代までの僕は全く奮わなかった。女子たちに嫌われ、キッスだとか付き合うだとか、そんなのとは無縁の世界。毎日、スチュワーデス物語の再放送を見るためだけに生きていた。その傍らではイケメングループが女子どもと惚れた腫れたを繰り返し、青春時代を謳歌していた。 高校になったら積極的にイケメングループに属してやろう。僕には確かな決意があった。中学時代のイケメングループを眺めると、確かに中心人物は見紛うことなくイケメンなのだけど、その周囲を見るとそうともいえない人物もいた。言い過ぎかもしれないが、僕らスチュワーデス物語再放送組とそんなに外見的に変わらない男がイケメングループ、というだけで青春時代を謳歌する権利を手に入れていたのだ。ずるいずるい。 つまり、ジャニーズのグループの中心人物は結構カッコイイけど、その脇にいるのは必ずしもそうでなく、ジャニーズに属しているということだけがモテの秘訣になっているということだ。それと同じで、高校に入ったのをきっかけになんとかイケメングループに属してしまいさえすれば、あとの高校生活は約束されたも同然、そんな野心が僕にはあった。 積極的にイケメングループに話しかけ、さも自分がイケメンであるかのように振舞う。まるでイケメングループに属するのが当然であるかのように行動する。だいたい、イケメングループってのは話していても詰まらないわ、自分をかっこよく見せることしか考えてないわで退屈なのだけど、それでも我慢してイケメングループに話しかけた。 その甲斐あってか、何週目かの週末、イケメングループと、クラスの積極的な女子グループとでグループデートするところまでこぎつけたのだ。おお、ここでグループデートを経験していた。なのに、頭の中の辞書に入ってないってことは、皆さんのご想像通り、美術館とグループデートを封印したくなる出来事があったはずだ。 さて、当日、何を着ていっていいのか分からずに記が動転した僕は、親父の服を着ていってしまい、裏地に竜虎が舞ってるようなとんでもない服飾で、その時点で大失敗なのだけど、そんなの児戯に等しいわ、と笑うしかないそれ以上の異常事態が発生した。 待ち合わせ場所に集まり、皆で電車じゃなくて汽車に乗って移動するのだけど、その車内においても、やはり全員が余所余所しい。同じクラスになったばかりであまりお互いのことがわからず、どこか探り合っているイメージだった。 業を煮やしたのか、リーダー格のイケメンがペアに分かれて好きに行動しようぜ、と言い出した。それはまだ心の準備が出来ていない!と焦ったのだけど、流れ的にそうなることになり、皆が各々選んだパートナーと一緒に街に消えていった。 もちろん、僕は夕方のスーパーで「半額」とかシール貼られまくってるイカリングみたいに余っていたのだけど、同様に余っていたちょっとブス、みたいな女の子と行動することになった。まあ、僕自身も偽りというかかりそめのイケメングループですからどうこう言えないんですけど、とにかくそんな状態になった。正直言ってテンション下がった。 しかし、一緒に行動しつつ話してみると、最初は「なんだこのブス」くらいに思っていたのだけど、なんとなく彼女自身も「高校になったら頑張って積極的な女子グループに入ろうと頑張った」みたいなオーラが感じ取れた。 そう感じると何だか急に彼女のことが愛おしくなってしまい、早い話がもう好きになっていて、よくよく見るとそんなにブスじゃないじゃんって気持ちが昂ぶってきた。 「どこにいこうか?」 「うーん、どこでもいいよ?」 みたいな会話を交わしつつ、どこでもいいって言いつつ、敵をかわして領地を奪っていき、奪った領地の部分から下のエロ画像が見えるゲームが置いてあるゲーセンとか行ったら死ぬほど怒るだろうな、とか考えていると、彼女が切り出した。 「美術館行きたいな」 当時、地元の美術館では二科展か何かが来ていて、工藤静香の絵が展示されるとテレビでしきりに宣伝されていた。どうやら彼女は工藤静香の絵が見たいらしく、美術館に行くことを熱望しだした。 デートで女の子と美術館にいくとは、僕も偉くなったもんだ、と中学時代では考えられない事態に興奮し、徒歩で美術館へと向かった。 受付みたいな場所でチケットを買い、なんか受付の女の人が鉄仮面伝説みたいな無表情な顔していて怖い、とか考えつつ美術館の中に入る。初めて入った美術館はキーンって音がするくらい静かで、少し暗めの照明にゆったりとした空間がなんとも大人な雰囲気だった。で、その中でもうちょっとで死ぬみたいな老夫婦とかが仲睦まじく静かに絵画を鑑賞していた。 「わー、これ綺麗だね」 嬉しそうに絵画を鑑賞する彼女。正直、僕は何が面白いのか全然分からず、絵を見ながらどさくさに紛れておっぱいとか揉めないだろうか、とか考えていた。 そうやって見当違いのことを考えながら次々と絵を見ていくと、何故だか知らないけど異様に鼻がむずむずしてきて、威勢の良い漁師みたいな勢いでブエックショーン!ってクシャミをしてしまった。 その瞬間、周りにいた係員みたいな人や、死にかけの老夫婦みたいなのにギロリと睨まれる。どうやら静かにしないといけないらしい。それどころか、一緒にいた女の子が「恥ずかしい!近くに来ないで!」みたいな軽蔑の視線を投げつけてきたのが心に染みた。 美術館に入館してから十数分、さらにのっぴきならぬ異常事態が発生。なんとか心を入れ替えて、「素晴らしい色使いだね」だとか絵画を見ながら心にもないことを言っていて、彼女も「私もこういう寂しい感じなのが好き」みたいな良い雰囲気になっていたのに、急にオナラをしたくなる。 オナラってのは気体なんで、ウンコみたいにちょっと顔出してきていてコンニチワ!っていうのはないはずなんだけど、もう出そうで出そうっていうか出てるって状態で気泡みたいになってかろうじて尻の穴にくっついていそうなアンバランス。もう気を抜いたら確実に出る。この静かな美術館内に響き渡るほどに出るって状態。 ダメ、ダメ、オナラだしちゃダメ。絶対にダメ、ダメ、ゼッタイ。俺はイケメングループ、俺はイケメングループ、デートでオナラとかとんでもない、必死に言い聞かせながら絵を見て回る。 「わー、すごい綺麗な絵だね!」 彼女が話しかけてくる。黙れ、こっちはそれどころじゃねえんだ。オナラがしたいんだよ、オナラが!ハクサイみたいな顔しやがってからに。今の俺に話しかけるんじゃねえ。死ね。 これはなんとかしないといけない、なんとかオナラを引っ込めないといけない、俺はイケメングループ、俺はイケメングループ、なんとかオナラのことを忘れようと絵画を見て気を紛らわせようとする。角を曲がったところに絵画があるはずだ、それを見て心を落ち着かせよう。ちょっと尻に力を入れながら角を曲がった。 バーーーン! そこには、明らかにマンコマークを描いたとしか思えない絵画が。マンコマークがオレンジ色だった。これだから芸術ってヤツは恐ろしい。こんなもん公然と行われるセクハラじゃないか。 ああ、ダメだ、オナラなキモチを絵画で紛らわせようとしたら、マンコマークをみてしまった。それからはもう全部の絵画がマンコマークに見えて仕方がない。もうダメだ、出る、出る、僕のオナラが爆発しちゃうよ。 「あ、向こうにあるのが工藤静香の絵だって、いこう!」 興奮した彼女が何故か僕の手を握って導いてくる。普段ならその彼女の柔らかい手を通して伝わってくる体温にドキドキし、有頂天ともいえるほど舞い上がるのだけど、あいにくオナラとマンコマークのことしか考えられない。 そしてついに工藤静香が描いた絵画に到達した。 ブハハハハハハハハ その絵は良く覚えてなのだけど、確か果物っぽいものを描いた作品だったと思う。全然そんなことなかったのだけど、もうマンコマークにしか見えなかった僕は、その絵画を見た瞬間に妙にツボに入ってしまい、大笑いしていた。 その瞬間、全ての力が抜けたらしく、ガハハハハハハと笑い終わった後にプヒュルルルルルルルルってオナラ出た。音だけで現すとガハハハハハハピュルルルルルルって感じ。大音量で、阪神ファンが7回に飛ばす風船みたいな音が出た。もちろん、美術館内に響き渡り、それどころか工藤静香の絵画は目玉作品だったので多くの人が集まっており、その絵画を見ていた全員が僕の方を向き直るという状態だった。 「こんなイケメンいねーよ」 何故か彼女も手を離し、逃げ惑う小動物のように僕から距離をとり、赤い絨毯の上で一人ぼっちになった僕はそう呟いた。この恋終わった。 そうか、あれからか、僕が美術館とグループデートという存在を頭の中から消去したのは。この忌々しき思い出を思い出して鬱というかT.UTUにならないように自己防衛本能が働いたのだ。 そして、今まさにグループデートと美術館という2つの大きな壁が僕の前に立ちはだかっている。普通に考えると、また恥ずかしい思いをすることを恐れて慎重になるところなのだけど、あいにく僕はエロ動画占いで01ファイルを最初にクリックする慎重派ではない、かといって03のフェラ好きでも04のノーマルでもない、もちろん02の犬畜生でもない。そう、僕は何も迷わず05ファイルをクリックする野獣なのだ。この平凡な世界に放たれたエロ動画ジェノサイド、05ファイルなのだ。何を恐れる必要がある。過去のトラウマに恐れることなく、グループデートに行けば良い、美術館に行けばいい、そして05ファイルのようにいきなり立ちバックから初めてやればいいのだ。 もう僕はなにも恐れない。これを機に職場のイケメングループに属してやる。そう決意した僕は散髪をし、ユニクロで服を買い、良く分からないけど気が動転してイケメンはブリーフだろ、と勝手に思い込みブリーフも購入した。そして、来るべきグループデートに備えたのだった。そして、ついに決戦の土曜日ガやってきたのだ。そして…… 連絡来ませんでした。 いやいや、約束の日時が近付いてきているというのに連絡が来なくて心配になったというか、心配すぎて心肺機能が衰えるくらいになったのだけど、あ、いま微妙にうまいこと言えたね、とにかくどうなってんのか問いただしたかったのだけど、そういうのってがっついてるみたいでみっともないじゃないですか、pato必死だな、とか笑われたらイケメングループに昇格するどころのはなしじゃありませんよ。 で、遅くとも前日くらいには連絡が来て集合場所とか教えてくれるだろーって思ってたら、前日も来なくて、もしかしたら当日の朝に連絡来るのかなって思って、いつ連絡が来てもすぐ駆けつけられるように新しい服を着てブリーフもはいて玄関前で仁王立ち。そうやって待ってたんですけど、携帯電話がピクリともしやがらねえの。 さすがにこれはショックでね、あまりに落胆した僕は、急に空いた休日を利用して1日かけてエロ動画の05ファイルだけをダウンロードするという野獣的行動に出て、8GB分を一日で落としきってDVD-Rに焼くという作業をして、あとプレステ2で終わったFFXのレベル上げをしていたら休日が終わりました。 後日、どの女とやった、あいつとあいつとやった、みたいな会話を食堂でしているイケメングループの話をヒッソリと1人で食事しながら聞きつつ、日本人ってのは本当に収集に向いてる民族だ。女を沢山落としてやった数を競うのも、エロ動画の05ファイルを収集しまくるのも本質的には変わらない。だから日本には美術館が沢山あるんだ、と妙に納得するのでした。 将来は、エロ動画の05ファイルだけ集めた美術館を作りたいと希望を燃やしながら。 5/22 ワキワキマイフレンド 郷ひろみのサインが怖い。 世の中には色々な人がいるもので、性的嗜好など個人間の好みが色濃く反映される分野においてはそれこそ多種多様な「好み」が存在する。女性のつむじを見るだけで異様に興奮する男性や、女性の鼻毛に興奮する男性、自ら女装して町を練り歩くことに性的興奮を覚える男性など色とりどりの装いだ。 僕の同僚に山本君という人がいる。彼はハンサムで仕事もできるし、なんか爽やかだし、いい匂いがするし、金の匂いをプンプンさせているという大変なカーニバル状態。女子社員なんかにも大人気でなんか子宮がドキドキするとか訳の分からないことを言って大興奮するぐらいのナイスガイなんです。そんな彼と会社のトイレで一緒になったんです。 小便器で隣り合いながら、「最近どうよ」「ああ、なんか上手くいかない、残業ばっかだよ」とか用を足しながら会話していたんです。僕は笑顔で会話しつつもイケメン死ね、僕よりイケメン全員死ね、イケメンにだけ感染する出血熱が大流行しろ、とか考えていたんですけど、そうするとね、なんか見ちゃうじゃないですか、チロッと隣りの山本君の大砲はいかがなものかって感じで覗き見るじゃないですか。それこそパトリオット級のすごいものが装備されていたら、イケメンで仕事もできてパトリオットかよって凹むのは目に見えてるんですが、それでも気になって見るじゃないですか。 するとね、山本君、ツルッツルッなの、本来なら密林かジャングルかamazon.co.jpかってほどに茂ってるであろう場所が見事にツルッツルなの。陰毛全くナッシング。中学の時に陰毛が全く生えてないことを苦に自殺をしかねない勢いだった田村君という子男がいて、その彼が思いつめちゃって、ハゲ親父の育毛剤だかなんだか、サクセスみたいなのを陰部に噴霧して、「焼け死ぬ」と悶絶してた時に見たような、そんなツルッツルの陰部が意気揚々と存在しとるんですよ。 僕はそれを見て思いましたね、ああ、山本君は陰部を剃ったりするのに異常な快感を覚えるんだ、おそらく女性にそういった無垢な陰部を魅せつけて恥ずかしい気持ちになるのもプレイの一環ですし、こうやって同僚にそれとなく見せ付けるのもプレイの一環なんだと、だって山本君、こっちみてニヤリと笑っていたもの。 あんな完全無欠ナイスガイの山本君がツルツルチンコを好むなんて、ほんと人ってのは分からないもので、嗜好ってのはトリッキーで分からないもの、本当に「好み」っていうのは人それぞれなんだなあと思ったのです。 それと同様にして「恐怖」という分野でも人によって様々な傾向が存在します。皆が共通して怖れるもの以外にも、その人だけが特別怖れるもの、他の人にとっては何てことない物なのに、その人だけは異様に恐怖する、そんな事象があるのだ。 例えば尖ったものを異様に怖がる先端恐怖症、例えば狭い場所を異様に怖がる閉所恐怖症、ちょっとメジャーな高所恐怖症、対人恐怖症なんてのもあるくらいだ。恐怖という分野においても趣味や嗜好のように激しい個人間格差があることは容易に想像できる。 かくいう僕も、普通の人ならなんてことないのに異様に恐怖を感じるものがあって、先端恐怖症の人が先が尖った物を恐怖に感じるようにとにかく恐ろしい、それが郷ひろみのサインだ。あえていうならば郷ひろみサイン恐怖症だ。 もう郷ひろみのサインが怖くて怖くて仕方がない。泣きたくなる。これはなにも誇張だとかブラフとかそういったレベルのお話ではなく、本当に怖いのだから仕方がない。 有名な落語の噺の一つに「まんじゅう怖い」というものがある。怖いものはないという若者が「まんじゅう怖い」と言い出し、あいつを怖がらせてやろうと周りの仲間が金を出しあって饅頭を買ってくる。若者は「旨すぎて怖い」と言いながら饅頭をペロリと食べてしまうというお話だ。怖い怖いといいつつそれを望むブラフでもない。郷ひろみのサインが欲しくて怖いって言ってるなら立派な精神病だ。あと、全然関係ないけど、この「まんじゅう怖い」にならって大学生の時に同級生の女の子に「おっぱい怖い」って言ったら工事現場においてあるコーンで殴られた。 とにかく、なぜ僕は郷ひろみのサインが怖いのか。これをよくよく考えてみると、どうやら幼少期の体験が少なからず影響しているのではないかと思い至った。 子供の頃、ウチの近所には誰もが怖れる廃屋があった。鬱蒼とした木々に囲まれ今にも朽ち果てそうな木造二階建て。全ての窓は頑丈に雨戸が閉めてあったが、それすらも朽ち果てており、その先には全てを飲み込むかのような闇が広がっていた。 もちろん、何も娯楽がない田舎町にそんなものがあると話題になるもので、いつしかその廃屋は「幽霊屋敷」だとか「一家心中があった屋敷」だとか「一家惨殺の館」などと真偽不明な噂話が飛び交うようになっていた。 そんなワンダーなスポットが近所にあると、当然ながら子供たちの間では話題騒然で、街の外れにあった怪しげなラブホテル、ホテル白鳥と並んで2大ワクワクスポットだった。いや、ワクワクを通り越してワキワキくらいだった。 「おい、幽霊屋敷いこうぜ!」 近所の公園でサッカーボールを使った野球、それもキックベースとかじゃなくて本気でサッカーボールを投げて金属バットで打つという頭が沸いてるとしか思えないスポーツをやっていると、ガキ大将的立ち位置の友人が提案した。 「やべえよ、あんな怖いとこいけないよ」 そうやって弱音を吐くことは仲間内での負けを意味する。アイツは弱虫だぜみたいなことになって一気にメンツを失い、ことあるごとにバカにされて発言権を失う。最終的にはジュース買いに行かされるパシリとかになって次第に疎遠になり、いつの間にかあまり一緒に遊ばなくなって、気付いたら仲間達はみんなブスのヤンキーとかと付き合ってるのに自分だけ1人、みんなどんどん童貞とか捨てていっちゃって、久しぶりに会ったら「なに、お前まだ童貞なの?」とか言われちゃって「守ってんだよ!」と苦しい言い訳、で、いつの間にか同窓会にも呼ばれないという事態になることは目に見えています。クソッ! とにかく、ガキ大将以外の全員が本当は怖いし行きたくないんだけど弱虫と思われたくないから言い出せない、みたいな感じで渋々と廃屋探検に乗り出すことになった。真夏の暑い中、自転車を駆けて問題の廃屋を目指す。照りつける太陽が眩しくセミの声がうるさかった。 廃屋に到着すると廃屋を取り囲む雑草たちは夏の日差しを受けて青々と茂っていた。まるで怪奇な建物を覆い隠すかのごとく、僕らの背丈ほどありそうな名も知らない雑草が天に向かって伸びていた。 自転車を降りて一歩踏み出す。夏真っ盛りだというのにこの周囲だけ少し薄暗く、温度すらも下がったように感じた。 「よし、いくぞ」 ガキ大将が血気盛んに歩き出す。僕らはその後ろをついて歩いた。雑草を掻き分け、青臭い草の匂いに囲まれながら歩くとものの数分で廃屋に到着した。 「これが噂の幽霊屋敷・・・」 いつも噂していた廃屋だったけどこんなにも間近で見るのは初めてだった。おそらくガキ大将も他の友人もそうだったのだろう、廃屋の持つ禍々しき迫力に圧倒され、しばし沈黙することしかできなかった。 「と、とにかくいくぞ」 ここまで来て怖いからやめよう、なんて言いだすことは仲間内での敗北を意味する。できることならブルってるところなど見せたくない。全員が同じ気持ちだった。心の中で逃げ出したいと切望しながらも友人に弱ってるところを見られたくないという想いだけがなんとかその場に留まらせていた。 しかし、そんな中にあって生粋の怖がりで夜一人でトイレに行けなくて、あまりに怖いもんだから誰かについてきて欲しくて、親父や母さんを起こそうとしたんだけど起きなくて、弟も起きなくてで仕方なく半分ボケた爺さんについてきてもらって、ボケてた爺さんは僕がウンコしている間に深夜徘徊っていうんですか、フラフラと外に出ちゃって軽トラに轢かれかけて大変な騒ぎになったっていう経験があるほど怖がりな僕ですよ、僕だけは思いっきり「怖い」という気持ちが勝ってしまい、もうなんでこんな場所にいるんだか分からなくなっちゃいましてね、それどころか腹が立ってきて 「人の家に勝手に入るのはよくない!」 と、よくよく考えたらすごく当たり前のことを言って怒り出してました。まあ、怒りにかまけて事実を有耶無耶にし、自分が弱虫であることをなかったことにしようという浅ましい考えでした。 「なにいってんの。あんな幽霊屋敷に人が住んでるわけないだろ」 しかし、僕らはあまりに幼すぎた。この日本においては全ての場所、全ての建造物に所有者や権利者が存在する。誰のものでもない場所なんて存在しなく、例え幽霊屋敷であっても廃屋であっても必ずや所有者が存在するのだ。しかし、僕らにそれは理解できなかった。幽霊屋敷なんだから勝手に入っていいだろう、そんなガキ大将の提案により選択の余地なく足を踏み入れることになった。 まず、幽霊屋敷の周囲をグルリと回る。さすが幽霊屋敷と呼ばれるだけあってその貫禄は十分。なんか裏手のほうにアヒルのオマルが朽ち果てた格好で捨ててあり、普段の僕らなら「オマル!オマル!」とクラスの尾丸君を古代の人々が生贄を捧げる儀式みたいにもてはやしたりするのだけど、そんな余裕すらなかった。アヒルのオマルのオーラすら禍々しく、まるで魔界の鳥のような悪辣な表情にすら見えた。 「やっぱやばいって、やめようよ」 もう弱虫だって思われてもいい、早く家に帰りたい、僕はそんな一心で集団の一番後ろを歩きながら何度も呟いていた。しかし、こうなってしまった少年集団ってのは恐ろしい、いくら僕がやめようと言っても耳を貸さなかった。 「あそこから入れるぞ」 一つだけ朽ち果てた雨戸が外れている部分があり、そこから易々と幽霊屋敷内部に入れそうだった。その先には深い闇が広がっており、間違いなくホラー映画などでは入ってはいけないという警告っぽいBGMが流れるレベル、もう我慢ならないってレベルで怖かった。 「俺は入らないから」 とは言ったものの、他の面々はズカズカと土足で上がっていく。そうするとこの怪しげな場所に自分ひとりだけが残されてしまうという事実だけが浮き彫りになり、そんなの耐えられない!と仕方なく友人の後に続くことにした。 中に入ると、まずヒンヤリとした湿った空気を感じた。多分廊下みたいな場所なんだろうけど床板かが腐っていて所々穴が開いていた。 「もうやめようよー、帰ろうよー」 僕は1人だけ弱虫全快で意見するのだけど、皆は床を踏み外さないように注意して先に進んでいく。しばらくすると、廊下の正面に障子張りの襖が姿を見せた。障子張りといっても、その障子は全てがベリベリに破れており、まるで家庭内暴力をする荒んだ息子が破った、みたいな状態になっていた。 「マジヤバイって、何か出たら責任取れないって!」 この時の僕は何をどう責任取るつもりだったのか定かではない、それだけ家に帰りたかった。一刻も早くこの場所から離れたかった。 「いいか、開けるぞ!」 そんなのお構い無しにガキ大将が襖を開ける。どうやらその先は居間みたいな場所になっているらしく、朽ち果てた机の上に物が散乱し、さらには床にも散乱、その全てが前の住人の生活感が感じられる物だった。 今思うと、おそらく前の住人が何も持ち出す余裕もなくこの、家を逃げ出した夜逃げ同然の状態を思い浮かべる、特に怖くも何ともないのだけど、当時の僕らは違った。その残された生活感が、この現場で一家惨殺があったという噂話とリンクしてしまい、もう恐怖でどうにかなりそうだった。 「もう無理だって、やばいって、きっとここで人が殺されたんだよ」 ビビりまくっている僕がそう言うと、仲間達の表情が強張った。 「とにかく周囲を探せ、死体とかあるかもしれない」 ガキ大将がそう提案する。んなもん出てくるわけないのだけど、至って真剣な僕らはビビりながらも必死で散乱している毛布だとかを捜索する。戸棚を空けたりとかタンスを開けたり押入れを開けたりと、やってることは中国人窃盗団みたいなもんだ。 「もうやめようよ、これって泥棒だよ、帰ろうよ」 すごう乗り気じゃない僕は至極真っ当なことを言いながらあちこちを漁る仲間達を見守っていた。ふと視線をやると、押入れの隅にあるダンボール箱が目に止まった。 もう年月が経過しすぎて風化しかかっているダンボール箱が散乱しているゴミゴミとした物体の中にあって燦然と輝いているように見えた。なんであんなに気になったのか分からない、とにかく、あのダンボールの中身を見なくてはならない、そんな義務感を感じた。 ビクビクしながらもユックリと近付いてみる。ダンボールにはマジックで「たいせつなもの」と手書きされていた。何が大切なんだろう、不思議に思った僕はダンボールを手に取ろうとする。風化してベロベロになった隙間からはダンボールの中身がちょっとだけ見えるようになっていて、何か写真の切れはしのような、おそらく何か人物が写ってる写真のような肌色の何かが見えた。いよいよ箱を開けてみようとダンボールに手をかけた瞬間だった。 「ギャーーーーー!」 ガキ大将が大声で叫ぶ。それも尋常じゃないレベルの悲鳴だ。それを合図に僕らは蜂の子を散らすように逃げ出した。今短距離走のタイムを測定したらとんでもないタイムが出るんじゃなかろうかって勢いで、転げるようにして廃屋を飛び出した。 もう廃屋が見えなくなるくらいのところまで全速力で逃げ、息を切らせながらガキ大将に尋ねる。 「何か見たの?」 「手が、手だけが宙に浮いていた」 ガキ大将は顔面蒼白だ。やはり禍々しき何かが出たのだろうか、手だけが宙に浮いてるなんて信じられない怪奇現象だ。僕らは恐怖に震えるのだけど、他の友人の証言ですぐにそれは勘違いだったと分かる。 「ああ、もしかして手袋が干してあったやつじゃない?俺もアレ見て一瞬驚いたけど・・・」 それを受けてガキ大将も 「そういえば母ちゃんが便所掃除に使う時につけてるやつみたいだった」 という始末。結局、内心かなりビビッていたガキ大将が見間違えて悲鳴を上げたんだろうという結末に落ち着いた。それに怒ったのは僕だった。 「冗談じゃない、手袋の見間違え如きで悲鳴上げやがって、このクソ弱虫が!おかげで逃げ出してきちゃったじゃないか!幽霊なんているわけないだろ、もう一回戻るぞ!」 僕には確信があった。逃げ出す前、僕が手にしていたダンボール、少しだけ中身が見えたダンボール、あの一部だけ見えた肌の色に「大切なもの」と書かれた注意書き、そして押入れに隠す周到さ、全てを総合するとあの中身はエロ写真に違いないと確信したのだ。エロ写真、エロ本、そんな類のインタレスティングな物品があのダンボールに入っているに違いない。そう確信していた僕は一刻も早くあの屋敷に戻りたくて仕方なかった。 「早く戻ろうぜ!」 少年時代の僕らにとって、エロ本やエロ写真の類は何よりの宝物だった。親兄弟より大切で掛け替えのない物だった。それだけに早く戻りたくて仕方がなかったのだけど、すっかりブルってしまったガキ大将をはじめとする友人たちは 「いや、やめようよ、もうあそこには戻りたくない」 と弱音を吐く始末。どうしようもないもやしっ子どもだ。 「いいよ、じゃあ俺1人でいってくるわ」 と屋敷に向かって行こうとすると、頼むからやめてくれと必死の形相で止められた。 その日はそれで終わり、手袋を幽霊と見間違えたガキ大将の弱虫伝説だけが後世に語り継がれることとなったのだけど、僕の頭の中はあのダンボールに入ったエロ写真のことばかりだった。今のように子供だって簡単にエロ画像や何かをインターネットで見られるなんて時代じゃなかったし、もうあのダンボールだけが最後のエロ玉手箱だった。絶対に行って入手してやる。僕の決意は相当のものだった。 しかしながら、それから数日すると、どうやら保護者会か何かで「子供たちが廃屋に近付いて危険」という話が持ち上がり、子供たちが近付かないよう暇な老人が見張っていよう、ということになった。何度か1人で廃屋に向かうものの、老人に見つかって追い返される、そんな状態がしばらく続いた後、僕は決意した。 「夜に行こう」 見張りの老人達の夜は早い。周囲が暗くなれば見張りなんて誰もいなかった。夜になったらこっそり家を抜け出し廃屋に侵入、そこでエロ写真を回収する、もちろん1人で任務遂行する、そんな計画を立てたのだ。 いよいよ実行の日。親父が酒を飲んで寝静まるのを待つ。あらかじめ物置から持ってきておいた懐中電灯を手に二階の窓から屋根伝いに家を抜け出し、夜の街をヒタヒタと歩きながら廃屋に向かった。見張りもおらず、満月に照らされた雑草を掻き分けて廃屋に到達した。 夜に見る廃屋は昼間の7倍くらい不気味で恐ろしく、本気で何か出てもおかしくない貫禄を身に纏っていた。しかし、そんな恐怖もエロ写真の前には霞んでしまう。裸の女性がアッハーンとなっている写真が待っているはずだ、僕は身震いする気持ちを抑えて朽ち果てた雨戸のところから廃屋内に侵入した。 ギィ・・・ 一歩、また一歩と歩くたびに朽ち果てた板が軋む音がする。真っ暗な闇の中を手探りで歩く。普通の精神状態なら恐怖でどうにかなりそうだったけど、なぜかエロ写真のことを思うとギンギンに勃起していた。廊下を進み、襖の近くまで来た時、僕は異変に気がついた。 人の話し声がする。 数人の人間が楽しそうに語らっている声が聞こえるのだ。それでも聞こえないフリをして先に進むと、破れた障子の所に到達する、すると、その破れた穴から光が漏れているではないか。 「やばい、本気で幽霊だ!引き返さないとマズイ!」 恐怖でオシッコちびりそうだったのだけど、「幽霊」と「エロ写真」を真剣に頭の中で天秤にかけた時、僅差でエロ本が勝った。慎重に慎重に、声の主に気付かれないように進んでいき、障子の隙間から中を覗き込んだ。そして僕は、そこでとんでもない光景を目撃することになる。 そこには不良達がいた。幽霊だったほうがまだマシだったんじゃないかと思える奇抜な髪型にファッションをしたお兄さん達が4人ほど廃屋の居間に陣取り、ビニール袋を口に当ててシンナーを吸っていた。 「あわわわわわ」 とんでもないものを見てしまった。もう現代で言うチーマーどころの騒ぎじゃないワルです、チーメストですよ。チーメスト。チーム、チーマー、チーメスト、もう最上級、最上級のワル。そのワルがシンナー吸ってるんですよ。 普通なら一目散に逃げ出して何も見なかったことにしてしまうんですが、この時はどうしようもないくらい腹が立ちましてね。そこにエロ写真があるということは幼い僕にとって聖域、サンクチュアリなわけです。その聖なる場所でシンナーを吸うお兄さん達が許せなかった。僕の聖なる場所を汚されたような気にすらなった。 「お兄さん、僕と一緒に遊んでよ、ウフフフ」 身を隠し、お兄さん達に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で何度も話しかける。さあ、驚いたのはお兄さん達ですよ。深夜に廃屋でシンナー吸ってたら子供の声が聞こえてくるんですから。 最初は、1人の人が僕の声に気がついたみたいで、仲間に向かってシッ!と促します。そこで全員が気付いたみたいで凍り付いてました。で、1人のお兄さんが「うわーー!」と悲鳴を上げて逃げ出すと、それを合図に全員が物凄い勢いで走って逃げていきました。なんか、モヒカンみたいな頭したお兄さんはラリっていたのか逃げる時に8回くらい転んでた。 よし、これでシンナー不良たちも追い払った、深夜の廃屋の恐怖にも打ち勝った、まるで一仕事終えた充実感に包まれながら居間に入る。散乱しているゴミに注意しながら歩を進め、問題の物置に到達する。 「大切なもの」 そう書かれたダンボールはやはりそこにあった。よかった、不良どもに荒らされているかもと心配したが大丈夫なようだ。まるでビックリマンチョコを開ける時のようなワクワク感というかワキワキ感を感じながら蓋に手をかける。 ついにエロ写真を入手する時が来た。エロ写真が手に入ったらどこに隠すかが問題だ。生半可な場所じゃあすぐに親父に見つかってしまう、よし、エロ写真が手に入ったら洗濯機の裏側に隠そう、そこならそうそう見つかるまい、でもダンボールいっぱいのエロ写真を隠せるかなあ、全部は無理だからおっぱいが写ってるやつだけ持ち帰るのもありかも!などと様々な想いが交錯する中、ついにダンボールの蓋を開けた。 郷ひろみのサイン そこには威風堂々と郷ひろみのサインが鎮座しておられた。ご丁寧にもサインの横には物凄い決め決めの表情で写る郷ひろみさんのプロマイドも添えられており、どうやらそれが箱の隙間から見えていたようだった。 確かに「大切なもの」だろう。郷ひろみさんのファンだったと推察される前の住人の方にとっては大切なものだったのだろう。でもな、さすがにこの仕打ちはあんまりだ。 エロという原動力で恐怖に打ち勝ってここまできた僕だったが、そのエロが郷ひろみのサインに置き換わった今、この真っ暗な恐怖の廃屋を1人で突き進んで家に帰らなくてはならない自分の状況に、死ぬほどの恐怖を感じ泣きだしたのだった。 この時の体験がトラウマとなり、まあ、日常生活を営んでいてそうそう郷ひろみのサインに出くわすことなどないのだけど、未だに彼のサインを見るとあの時の落胆と恐怖が思い起こされ、ついでに命からがら家に帰ったら抜け出したことがばれていて親父に殴られたことを思い出す。それだけに郷ひろみのサインが怖い郷ひろみサイン恐怖症だ。 ホント、人の好みと恐怖ってのは色々あって、その原因も様々だよなあ、などと呆然と思い出しながら小便をしていると、冒頭の山本君が話しかけてきて 「なんでツルツルかって思ってるでしょ?」 「いや、郷ひろみのこと思い出してた」 などと噛みあわないトークを展開、すると山本君が 「こうやって剃るとジョリジョリして気持ちいいんだって、陰毛って剛毛だろ、ヒゲなんて目じゃないくらいジョリジョリするんだって」 「いや、ジョリジョリしても嬉しくないし」 「いいから触ってみろって、ホラッ!」 「わー、やめろって!おまえ、小便したばっかだろ!いや、してなくたって触りたくない!」 「いいからいいから、ほれほれ!」 と、イケメンなだけじゃなく腕力まで素晴らしい山本君によって陰毛の辺りのジョリジョリを8分21秒に渡って触らされたのでした。同僚に触ってもらって気持ちよくなるとかどんなプレイだよ、ホント、好みと恐怖だけは人それぞれだぜ、そしてその原因なんて突き詰めればなんてことないんだ、と思ったのでした。男性のツルツルの陰部が怖くて怖くて仕方ない。 ちなみに、あの廃屋のその後だけど、さらに「子供の声が聞こえる」「遊んでー、遊んでーって子供が出てくる」という恐ろしい噂が追加され、地域住民の恐怖の的だったのだけど、その原因もよくよく考えたらどうしようもないことが原因なのだった。 5/13 お詫び。 本日(5月13日)午前10時より午後3時までNumeriに接続できない状態が続いておりました。「おい、Numeriが見れないぞ!」という問い合わせのメールが多数来ており、いつもご愛顧頂いている閲覧者の方々にいらぬ心配をかけてしまいました。深くお詫び致します。 今回の接続障害は、レンタルサーバー代5000円未払いが原因であり、財布の中に800円、銀行口座には569円しかなかった僕は途方に暮れることとなったわけですが、なんとか復旧することができました。これもひとえに普段からご愛顧くださってる閲覧者の皆様のおかげ、ということは全然なく、我が最愛の弟からシーフしたクレジットカード番号のおかげです。 今回の接続傷害は、Numeriサーバー代を滞納していた僕に責任があるわけなのですが、しかしながらレンタルサーバー提供会社である、つまりこのNumeriのデータが置いてある「さくらインターネット」さんにも一言いいたい。 料金未払いを受けてデータ提供を停めるのは当たり前のことですが、そのやり方が実に汚い。その悪辣なやり口の数々を事の顛末と共に紹介していきたいと思う。 まず、Numeriサーバー停止期間中、Numeriにアクセスすると強制的に「さくらインターネット」さんの広告ページが表示されるようになってました。 「ご都合によりアクセスできません」 だったかなんか。別にこれ自体は至極真っ当で、それを読んだ閲覧者の皆様も「またpatoのやつ!料金未納かよ!」とソバのCMで「また山田のヤツ!」というフィーリングで思ったことでしょう。しかし、それ以外の広告部分がまるで悪魔の所業と言わざるを得ないほどに残忍なものだった。 「お手軽レンタルサーバー!」 「2週間お試し即利用!」 などと小気味良い宣伝文句が踊っておりました。それ自体は別に構わないのですけど、問題はその後に続く宣伝文句でした。 「ジュース1本分のリーズナブル価格」 さくらのレンタルサーバー代は月額換算にするとジュース1本分から始められるよ!そんな煽り文句が勇ましく掲載されているのです。確かに「さくらインターネット」さんにはリーズナブルな価格で素晴らしいサービスを提供して頂いております。しかしながら、この文言をサービス停止中のページに載せるのはいかがなものか。 昼間の時間帯でしたので、主に課長のセクハラに悩む25歳OLなどが仕事の合間を縫ってNumeriにアクセスしたと思うのです。今日もNumeri見ちゃうわ、patoさんったら素敵、私、patoさんとだったらデートしてもいいわ!そんな気持ちでアクセスした可能性もあります。下手したらしゃぶりたいくらい思っていたかもしれません。下手したら股間を触りながらアクセスしていたかもしれません。 しかし、アクセスしてみると容赦ないほどにサービス停止中。さくらインターネットさんの広告ページに飛ばされます。ここまではまだいい。25歳OL芳江さんも「あら、patoさんったらサーバーのお金払ってないのかしら、心配だわ、いつもお金ないって言ってるし…、きっとサーバー料金って高価なのね、そりゃそうよ、高価に決まってるわ、私がpatoさんを助けてあげたい!しゃぶりたい!あふん!」このような同情を得られる可能性もあるでしょう。 心配で心配で、仕事もそっちのけでNumeriにアクセスしまくる芳江、しかし何度やっても「さくらインターネット」さんの広告ページに飛ばされてしまいます。そこで芳江はある一文に気がついてしまうのです。 「ジュース1本分のリーズナブル価格」 なんだよ、ジュース1本の金も払えないカスなのかよ、死ねよ。 こうなるのです。 これはもう、独裁政治などの恐怖支配にありがちな見せしめ行為です。サーバー代を払えないなら徹底的に辱める、これが「さくらインターネット」のやり方です。その陰湿なやり口に身震いがするほどです。誤解ないように言っておきますが、僕が未納だったのは5000円です。決してジュース1本分ではありません。 とにかく、ここまでの文章に他人事とは思えないデジャヴを感じてしまい、ちょうど1年前に似たような文章を書いた気がしなくもないのですが、たぶん気のせいでしょう。 Numeriサーバーが止まった、財布の中に財布の中に800円、銀行口座には569円しかない、払わなきゃいけないサーバー代は5000円だ!パニックに陥った僕はとにかく気が動転して「さくらインターネット」のサポートの方に電話を致しました。 で、もちろん、復旧するにはいち早く5000円を払う必要があることを非常に優しく、まるで子供をあやす保母さんのような慈愛に満ちた口調で教えてもらったのですが、残念ながらお金がないものは払えません。 「お金がない場合はどうしたらいいですかね?」 こんなもん、ハッキリ言ってサポートの範囲外です。電話の向こうのサポートの人も絶句しておりました。僕がサポートだったらこの時点で電話を叩き切っとる。 しかしながら、さくらインターネットのサポートの方は神とも呼べるほど慈愛に満ちた人で、こんな親切な人っているのかしら?いや、いない!と自問自答してしまうほどの親切っぷり。 「手元に現金がないのならクレジットカードでお支払いできますが」 まさに天啓。もうこれしかないと思ったね。クレジットカード、なんて便利なんだろうと感動すら覚えたね。そこで「ありがとうございます、ありがとうございます、早速クレジットカードで支払います」とお礼を言って電話を切り、すぐさま親父に電話をしました。 なんでここで自分のクレジットカードを使って支払わないんだ、と思われるかもしれませんが、あいにく僕のカードは絶賛利用停止中でございまして、ただのプラスチックのカード、何の利用価値もないゴミに成り下がってます。ですので、冒頭でも述べたように弟のクレジットカードを使ってなんとか支払おうと画策、あいにく現在は弟に絶交されてて電話番号まで変えられてしまい、連絡が取れない状態なので親父に電話して弟の番号を聞きます。 「弟の番号教えて欲しいんだけど」 「ワシもしらん。かかってくる時は非通知でかかってくる」 どんな親子、どんな兄弟だよ、と思うのですが、仕方ないので弟の親友である田代君に電話して番号を聞きます。田代君はよくウチに遊びに来ていた子で、今は地元で老人を騙してソーラー発電システムを取り付ける仕事をしている子です。 「あ、田代君、久しぶり、弟の番号知りたいんだけど」 「お兄さんには教えるなって言われてるんですけど」 「いやあ、ちょっと身内に不幸があってね。弟と早急に連絡を取らないといけないんだ」 身内の不幸、とは紛れもなくNumeriサーバーの停止なわけですが、もっともらしい理由をつけて番号を聞き出します。なんで実の兄弟の番号を知るのにこんなに苦労しなくちゃいけないんだ。 「オレオレ、優しいお兄ちゃんだよ」 出だしからオレオレ詐欺満開ですが、やっとこさ弟と感動の通話。弟もすごい感動していた。ここでまあ、詳細は書きませんが色々と感動的な話をして弟の感情を揺さぶり、なんとかクレジットカード番号を聞き出すことに成功。これで支払いが出来る。 しかし、ここでまたしても問題発生。意気揚々とクレジットカードで支払おうとするのですが、肝心の会員メニューに進めない。さくらインターネットの場合、振込みなどで料金を支払う場合は普通に振り込めばいいのですが、クレジットカードで支払う場合は「さくらインターネット会員メニュー」にログインしないといけないんですね。でも、パスワードを思いっきり忘れてしまって全然ログインできない。このままではNumeriが復旧できない、弟の熱い思いが無駄になってしまう。 そこでまたサポートセンターに電話ですよ。 「パスワードを忘れてしまって会員メニューに入れないんですけど」 僕がサポートの人だったら間違いなく電話を叩っ切ります。このような、バカなんじゃないのって感じの問い合わせにも懇切丁寧に対応していただけましてね、なんでもパスワードを忘れた人用に、パスワードリマインダーっていうハイテク装備があるっていうじゃないですか。 これはまあ、パスワードを忘れてしまったおマヌケさんのために、いくつかの質問に答えて本人確認ができたらパスワード教えてあげるよ、っていう凄腕のプログラムでしてね、入会する時に入力していた個人情報を質問してくるんですよ。 「お名前は?」 「住所は?」 「生年月日は?」 みたいなノリで。そんなもんバンバン答えますがな、もう楽勝って感じで答えますよ、だって自分の個人情報だもん、答えられないほうがどうかしてる。次あたりの質問がラストクエスチョンだろう、これさえ答えたらパスワードを教えてもらえる、そうすればクレジットカードで料金も払える。そうすればNumeriも復活してエロい女の子から抱いてください!とかメールが来るかもしれない。ワクワクしながら最後の質問を読みました。 「母親の旧姓は?」 知らんがな。 いやいや、母親の旧姓くらいは知ってますけど、なんでこのプログラムが聞いてくるんですかって話ですよ。名前や住所知りたいってのなら納得できますけど、母親の旧姓まで知ってどうしようっていうんですか。僕の母親に何するつもりですか。 まあ、入会した時に、こういったリマインダー用の質問項目があって、僕がそれを入力、今はプログラムがそれと合致するか調べているのでしょうけど、とりあえず母親の本当の旧姓を入力してみました。 「エラー:質問の回答が違います」 ぐわっ、やっちまった。どうやら入会時に適当に入力してしまったようです。「パスワード忘れるヤツとかどこの部族だよ、こんなリマインダー用の質問なんて適当でいいよ、だって忘れないからな!」っって意気揚々と適当な旧姓を打ち込んでいる在りし日の僕の姿が容易に想像できます。 仕方ないので、何度か「山田」「田中」とか適当に入力するっぽい苗字をガンガン入力してみます。しかしながら、何度やっても入力エラー。またもや泣きながらサポートセンターに電話します。 「すいません、お母さんの旧姓がわからないんですけど」 僕がサポートの人だったら間違いなく子供電話相談室などに転送します。こんな知力レベルを疑う質問にも懇切丁寧に答えていただき、なんとかリマインダーを使わずにメールで本人確認をしてパスワードを教えてもらう裏技を聞き出しました。 そいでもって、会員メニューにログインし、各種登録情報を変更(弟名義のクレジットカードを使えるようにするため)、そいでもってなんとかクレジットカードを駆使して料金5000円を支払ったのでした。決してジュース1本分の値段ではありません、5000円という大金です。 なんとかNumeriも復旧し、落ち着いて会員メニューの登録情報を確認。あれだけやって当たらなかった母親の旧姓、入会時の僕はなんと入力していたのだろうと興味津々で設定画面で確認してみると 「ゴンザレス」 になってました。こんなもん当たるわけねー。入会した時の僕は何考えてるんだ。頭おかしい。 というわけで、弟のカードで復旧したNumeri、毎年5月になると止められますが、来年こそは止められることないように頑張りたいと思います。 5/8 パワー閲覧者 最近、異常なほどにチンコが痒い。 いやいやいや、いやね、いくら僕でも、いつも下劣なる文章を書き綴っている僕でも自らが運営するウェッブサイトに「チンコ」とか書きたくないですよ。できることならもっと高尚なお話、ブラックホール理論とか欧州原子核研究機構CERNの加速器LHC((Large Hadron Collider)を用いた極小型ブラックホール生成実験の話とかしたいですよ。ブラックホール作るとか超すごくない? でもね、ここってNumeriじゃないですか、下劣過ぎてついに自分の職場からもアクセスブロックされたNumeriじゃないですか、誰もブラックホール生成実験の話なんて聞きたくないでしょうし、「やだ、Numeriに下ネタが載ってる!信じられない!」って幻滅する女の子なんていませんし、信じられないですけどそういった「チンコ」的な話で逆に狂喜乱舞する下世話な読者の方が何名かおられるんですよ。今日から日記下部に途方もない広告ついてることですし、もはやそういうもんだと割り切って読んでいただくしかないとないと思われます。諦めろ。 だからまあ、で何も気にすることなくチンコが痒い話させてもらいますけど、とにかく尋常じゃないレベルで痒いんですよね。それも局所的とかそういった生っちょろいものじゃなくて、もう、なんていうかエリア全体が痒い、死ぬほど痒い、それはそれは我慢できないレベルの痒さなんですよ。 でまあ、こういうことを勇気を出してカミングアウトすると、すぐに「patoってインキンじゃね?」みたいなことを言い出す輩がいるんですけど、そういうのってちょっと浅はか過ぎるんじゃないですか。僕はね、この部分はハッキリと憤りたい。 チンコ痒い→インキンだね これはもう、すぐに空爆しちゃうアメリカ軍ぐらい浅はか。信じられない。バカ丸出し。そういう短絡的な閲覧者の方ってどうかと思うよ。もっとこうひとつの事実から千のことを読みとれるパワー閲覧者が理想だよね。例えば、 「最近、異常なほどにチンコが痒い。」 という名文からNumeri日記が始まったとします。そこで次の文を読み進める前に「フゥ」と一息つきます。これがパワー閲覧者。そこで様々なことに思いを馳せるのです。 きっとpatoはインキンでチンコが痒いんじゃない。なぜなら、インキンでチンコが痒いのは当たり前だ。痒くなかったらインキンじゃなかろうに。そう、インキンで痒いのは当然のことなのだ。当然のことをウェッブサイトの日記に載せるなど、今日は六本木でスイーツを食べましたって写メまで載せている24歳OLのブログと変わらないじゃないか。俺たちがpatoに求めているのはそんなことじゃない。きっとなにか納得できるだけの理由があるはずだ。 ここでパワー閲覧者はパソコンの電源を落とします。すぐに続きを読まない。謎を謎としてあえて残す、そうすることで森羅万象が見えてくるのです。この姿勢がパワー読者。 そして部屋の掃除を始めるでしょう。風呂にも入るでしょう。自分の体と身の回りを清めることからはじめます。湯船の中で自らの仮性包茎気味のチンコを見たとき、また先ほどの名文を思い出すのです。なぜpatoはチンコが痒いのか。 patoという人間は日記を通じてこれまでに様々な問題提起をしてきた。日本中がバブル経済に乱舞するころ、pato氏は物質的豊かさより精神的豊かさの重要性を日記上で訴えていた。彼はそういう人間だ。アホみたいな文章を書いていつつも、そこにはグサリと心の奥深くに突き刺さる言葉たちがあったはずだ。きっと今回の日記にも「チンコ痒い」を隠れ蓑にした強烈な社会批判が存在するはずだ。 私はいつもNumeri日記を読むたびに思う。日記上の彼はいつも「君はそのままでいいのかい?」と強烈に問いかけてくる。しかしそれは皮肉めいた嫌味でもなんでもなく、何かを強制するものでもなかった。ただまっすぐに私自身を激励してくれる、まるで古くからの友人のような軽々しさで「ほらっ、がんばれよ」と尻を叩いてくれる。そんなメッセージがあるのだ。 なぜpatoはチンコが痒いのだろう。インキンでないのならなぜ痒いのだろう。 高志はふと自分のチンコを見る。男なら誰だって一度や二度は痒くなった経験があるはずだ。痒くもないのにそっと掻いてみるだろう。すると、まるでフラッシュバックするかのように昔の思い出が走馬灯のように思い出された。 4年前の冬だった。当時私は彼女と同棲していた。同い年の芳江という女性だ。高校時代からの付き合いで、まだ若かった私たちの同棲生活はまるでオママゴトのような暮らしだった。 「ねえ、またpatoさんがNumeriでバカなこと書いてるよ」 「アハハハ、ホントだ。チン毛剃ろうとして出血したのか、バカな人だなー」 「すごいバカだよね、この人。高志はこんなのにならないでね」 「アハハハ」 収入の少なかった二人の楽しみといえば、週一度近くのファミレスで食事することと、一緒にNumeriを読むことだった。あの日、あの時、あの場所で、当たり前のように存在していた幸せ、湯船に半分顔を漬けブクブクと泡を吹き出す高志、いつのまにか芳江のことばかり思い出していた。 小さなベッドの上で毎日のようにセックスをした思い出、ことが済むと芳江はいつも物珍しそうにちんこを弄ってたっけなあ。湯船で自分のチンコを弄る高志はいつのまにかその思い出の中の芳江の手つきを真似ていた。 「なんであんなこと言っちゃったんだろうなあ」 些細な行き違いからあっという間に芳江との生活は終わりを告げた。いつもの軽い喧嘩では終わりそうにない壮絶な口論、売り言葉に買い言葉、次第にエスカレートした私は思ってもいない辛辣な言葉を芳江に投げつけた。そして、芳江は出て行ったっきり二度と戻らなかった。 何度か連絡を取ろうと思った。芳江に謝ろうとも思った。けれども、あんなひどい言葉を浴びせた自分がいまさら何を言えばいいのだろう、そうやって迷っているうちに4年の歳月が過ぎた。そこで突如として高志の頭の中に言葉が鳴り響く。 「最近、異常なほどにチンコが痒い」 名文中の名文として後世に残るであろうpatoの文章だ。 そうだ、チンコが痒いんだ。そこには何の打算もない。ただチンコが痒いという事実しかないのだ。インキンなのか、それとも不潔にしてるからなのかなんて関係ない。ただ事実を装飾する色付けに過ぎず、さしたる問題ではない。問題なのは痒いという事実のみ。それだけが大切なのだ、そうpatoに教えられた気がした。 いまさらどんな理由で芳江に連絡すればいいのだろうか、連絡が取れたとしてどんな話をすればいいのだろうか、なんてウジウジ悩むなんて本質から目を背けているに過ぎない。そんな装飾的な理由なんてほっといて、チンコが痒いなら理由なんて考えずに痒いと言い切る、それと同じように自分はまだ芳江のことを愛しているという事実だけが大切なんだ。 「また教えられたよ、patoさん」 また一つNumeri日記に救われた気がした高志は急いで湯船から飛び出し、びしょ濡れのままリビングの携帯電話を手にした。湯上りの熱気で携帯電話の画面が曇る。 もし電話番号を変えられていたら?メールアドレスも変えられていたら?芳江に新しい男ができていたら?芳江の中で自分が過去に成り下がっていることを知るのが怖くなる高志。携帯電話を操作する手が止まる。 「びびってんじゃねーよ、いっちゃいっちゃえ」 小栗旬、いやpatoさん。まだ会ったこともないpatoの顔が浮かんだ。そして、なぜか妙に心強い気がした。一呼吸おいて携帯電話を操作する。ずっと消せなかった芳江の電話番号だ。 プルルルルル 呼び出し音が鳴る。番号は変わってないのかもしれない。しばらく呼び出し音が続いた後、4年前に何度も聞いた女性の声が聞こえてきた。 「もしもし?高志?」 「ああ、ごめんな、突然電話して」 「ううん。気にしないで、私も高志に電話しようとしてたところなの」 「え?なんで?」 「今日、Numeri読んでたの、そしたら急に高志のこと思い出して」 「うん」 高志は俺もという言葉をぐっと飲み込んだ。 「でも急に連絡して高志が迷惑しないかな、もう時間も遅いかなって色々迷ってたんだけど、なんか、チンコが痒いなら痒いって言い切っちゃうpatoさん見てたら・・・」 「色々悩むのがアホらしくなったんだろ」 「そうそう、それで電話しようとしたらかかってきたんだもん、びっくりたよう」 あの日のようにNumeriで笑いあう二人、同じ思いを抱えた二人、なんだか急に裸のままで濡れネズミのようにして携帯電話を持っている自分に笑えてきた。 あれから数ヶ月。私はあいも変わらずNumeriを読んでいる、とんでもない広告がついていても読んでいる。今日も何かバカな話の中に勇気付けられるメッセージが隠されていた。そして今日はいつも素通りしているNumeri-FORM を使ってpato氏に感謝のメールを送りたいと考えた。 あなたの日記を楽しみにしていること。あなたの日記に励まされたこと。そうそう、あなたの日記に発奮して素っ裸のまま電話した笑い話も書かなきゃね。それこそNumeriの日記と同じくらい長文になりそう。だけどメールの書き出しはもう決まっている。 「今度、彼女と結婚することになりました」 チンコをボリボリ掻きながら高志はパソコンに向かっていた。こんなメールをもらってもpatoさんは何のことかわからないだろう。困惑するだろう。それでも私は満足だ。 っていうね、これくらいの熱いエモーションが欲しいわけですよ。チンコ痒いという一文を受けてこれくらいの考えを巡らし、思いを燃やすパワー閲覧者が理想的。「patoインキンだろw」とかそんなんで片付ける人は心の底から反省してほしい。 でまあ、ここまで書いておいてまっこと言い出しにくいのですけど、どうやらインキンで痒いみたいでしてね、もうインキンの教科書みたいな典型的インキンに悩まされてるんですよ。イケメンならまだしもインキンっすよ、インキン。 インキンの痒さってほんっとどうしようもなくて、仕事中だろうがラーメン食ってようがお構いなし、この世の終わりみたいな、育児ノイローゼのママみたいな痒みがやってくるんですよ。 これが耳とか腕とかが痒いならいいですよ、それこそ、痒いなら掻いちゃえばいい、掻き毟っちゃえばいいわけですからね。でもね、インキンの極悪さってのは痒さだけじゃなくてその部位にあるわけなんですよ。人間の体の中で最もセックスアピールの強い部位周辺が猛烈に痒い、これがもうブービートラップかってほどに熱烈に極悪。インキンってのは本当に悪魔以外の何者でもない。 これがまあ、一人のプライベートタイムとかなら全然構わない、むしろ痒いところを思いっきり掻き毟る快楽に身を委ねるんですけど、時と場合を間違えるとさあ大変。とたんに大変なことになるのです。 この間、職場の中庭でアリを捕まえていたんですね。天気のいい日でしたし、燦々と照りつける太陽を浴びながら必死にアリを捕まえていたんです。こうやってアリを捕まえる体勢ってのはインキンを掻き毟るには絶好のポジショニングでしてね、もう夢中になりながらアリを捕まえてるんだかチンコかいてるんだか分からない状態になってたんです。 「えーマジでー」 「それはないわー」 そうこうしてると女子社員の声が聞こえてきましてね、なんか旧社屋と新社屋を繋ぐ渡り廊下をキャピキャピと話しながら歩いとるんですよ。それが中庭にいる僕に丸聞こえなわけ。 「でもさ、森岡さんってカッコイイじゃん」 「私は高田さんがイケメンだと思う」 とかなんとか、社員の中で誰がカッコイイかみたいな話題に花が咲いてましてね、ホント、突如武装強盗が職場にやってきて全員レイプされねーかなーって感じで盗み聞きしていたんです。すると、 「私はpatoさんがいいと思うけどー」 みたいな、え、なに、幻聴?みたいなセリフが聞こえてきましてね、そりゃ僕だって分かってますよ、そういうのはわかってますよ。僕のようなイケメンランキングブービー賞みたいな男がそういったレースに加わること自体許されないって分かってますよ。たぶんその発言をした彼女も安全パイ的な意味合いで僕を名指ししたんだと思います。 例えばここで、本当にイケメン大本命みたいな社員の名前を出すとするじゃないですか。すると、当然、そのイケメンのことを気に入ってる女性はいるわけで、あっという間に噂が広まります。女性のそういった色恋沙汰に関する怨念ってものすごいものがありますから、知らず知らずのうちに恋敵、異常に敵視される事態にもなるんですよね。 そういうのって人間関係的にも得策ではありませんから、あえて無難な、それこそ絶対にバッティングしないであろう人間を、少し変わり者の自分というアピールと共に名指しする。世知辛い世の中を生き抜くテクニックですよ。 僕もまあ、職場で「芸能人で誰が好き?」とか聞かれて、「大塚愛さん」って即答すると、熱狂的なファンに敵視されるかもしれないじゃないですか、しかも人間って他人が欲しいものは自分も欲しいってなりますから、僕のカミングアウトを受けて「大塚愛いいかも」みたいな魅力に気づいちゃうかもしれないじゃないですか。そういうのって望ましくないですから、僕はいつもバッティングしないであろう「谷亮子さん」とか答えてます。多分、それと同じなんだろうと思います。 でもまあ、分かっていても嬉しいもので、その発言を聞いたときは自分のホッペをつねってました。夢じゃないかしらって感じで呆然としてました。 はい、ここまで読んだら懸命なパワー閲覧者の方ならご理解いただけますね。そうです、いつものヤツです。もう分かってると思うので端折りますけど、いつものようにその「私はpatoさんがいいと思うけどー」って発言した女の子の前で異様にインキンが痒くなるんですね。 考えても見てくださいよ、僕はその女の子が安全パイとかそんなんじゃなくて本気で告白してきたらどうしよう、とか、新婚旅行は熱海にしよう、とかそんなこと考えてるんですよ。そしたら、そこにその女の子が書類を持ってやってくる。ちょっと照れちゃってまともに目を見れないですよね。 「うんうん、この承認は先月もらってるからさ」 みたいな真面目な話をしつつ、こいつは俺に気があるのかも、それにしてもいい匂いがしやがるぜ、とか考えてて、彼女も 「そっかあ、なるほど。さすがですね」 みたいに、これは今晩空いてますよっていう遠まわしなアピールかもしれない言動をするんですよ。そこにズガーンとインキンですよ。 痒い、もう死ぬほど痒い。なんかちっちゃい悪魔みたいなのが性器周辺で五穀豊穣の祭りでもやってんじゃねえのって痒さが襲ってくるわけなんですよ。 もう考えることはインキンのことばかり、許されるならベロンと出して彼女に掻き毟らせたいくらいなんですけど、そうなるとNumeri日記じゃなくて獄中手記を書く羽目になりますからできません。なにより、僕のことを愛している彼女の前でそんなことできないじゃないですか。 「だから、ここは他の業者との兼ね合いもあるから、事前に連絡をしなきゃだめだよ。仕事してご飯食べていかなきゃいけないのはウチの会社だけじゃないんだから」 とか、微妙に真面目なこと言いながらも痒い痒い。っていうか、お前はやくどっかいけよ、お前がいるから掻き毟れないんだろうが、みたいな状態ですよ。 「ありがとうございました」 笑顔で去っていく彼女。もうその瞬間に手を突っ込んで掻き毟ってましたからね。なぜか「出力全快!」とか言いながらものすごい勢いで掻き毟ってた。 そしたらさあ、掻きすぎて出血しちゃってさ、それでも痒いから掻いてたらさらに出血するわ痛いわで大変でね、へへっ、それでも掻くのはやめられない、もはやインキンってのは麻薬だな、ってニヒルなアロマに酔いしれていたんです。すると、 「あのー、聞き忘れたんですけど・・・」 彼女が戻ってくるじゃないですか。うわっ、やばいっ、って光のごとき速さでパンツに突っ込んでた手を抜き取るんですけど、指先にインキンから出血した血がついてるんですよ。 「どうしたんですか!血がついてるじゃないですか!」 ビックリして駆け寄る彼女。 だめだ、インキンを掻き毟ったら皮膚がはがれて血が出たなんて言えない。僕と結婚したいとまで思ってくれている彼女の気持ちを裏切るわけにはいかない。ヒーローは子供たちの夢でいつまでもヒーローでなくてはいけないように、僕も彼女を失望させてはいけないのだ。 多分きっと、彼女は難しい話をする僕の姿を好いてくれているんだと思います。何か難しい話をしなくてはいけない、でもチンコが痒いというか痛い、この出血をどうやって隠すか、色々な事象がミラーボールのように頭の中で回転しちゃいましてね、なんか気が動転して 「欧州原子核研究機構CERNの加速器LHCを用いた極小型ブラックホール生成実験ってのがあってね、地球上でブラックホールを作ろうという実験なんだ。LHCってのはおっきな加速器でね、スイス−フランス国境にあって、ここで加速した陽子をぶつけてブラックホールを作ろうってわけ。でも、多分無理だけどね。これは、そもそも超ひも理論っていうのがあって・・・」 訳のわかんない話をしてました。 結局、死ぬほど心配して 「どうしたんですか?狂ったんですか?なんで血が出てるんですか?」 とか詰め寄ってくる彼女に対処できず、 「インキンかいてたら血が出た」 とカミングアウトしたら、彼女は怒って帰っちゃいました。帰ってくれて大満足。これで心置きなくインキンを掻き毟れる。 結局、今日の日記はいつものごとくインキンで大変なことになったというバカ話ですが、パワー閲覧者の方はここに隠された深いメッセージを読み取って欲しい。今日、みんなに伝えたかったのは 「インキンを掻くのも日記を書くのも同じだ」 ということ。微妙に深いことが言えて満足なので、今日はチンコをかいて寝ようと思う。それにしてもすげえ広告だな、おい。 5/1 思い出の優しさ 「思い出は優しいから甘えちゃダメなの」 ゲーム界最高の名作と名高いファイナルファンタジー10のリュックのセリフだ。思うに、いつだって思い出は優しすぎる。優しすぎるからこそ甘えてはダメなのだ。良い思い出は鮮烈なる記憶と共に美しきものとして脳裏に残る。悪い思い出も、本当に悪いことは忘却の彼方に消え去り、セピア色に色褪せた瞬間に美しきものに変わる。 結果、一つの思い出というパッケージに包まれた過去の出来事たちは都合の悪いことを包み隠し、嫌なことも良かったことに変換され、半ば偽装されて美しく振舞う。思い出はいつだって優しいのだ。 例えば、美しき思い出として今も僕の心の中に燦然と輝いている事実がある。それは「ウチの弟がなんとも素敵な恋をしている」というものだ。中学時代、思い出の中の弟はピュアで、心が張り裂けるような切ない恋愛をしていた。ひょんなことからそれを知った僕と親父は何とか協力できないものかと四苦八苦する。弟のために、弟の恋のために、家族が一つになった切ない思いで、今でも僕の中で家族愛と誇りに満ち溢れたエピソードとして燦然と輝いている。 しかし、こんな美しき思い出も蓋を開けてみると本当に酷い。思い出というラッピングを施されたセピア色の包装紙をバリバリと破り捨てて実態を覗いてみるととにかく酷い。上記の美しい思い出が実際にはこうだった。 中学時代のある日、確か土曜日の昼下がりだったと思う。当時、人気絶頂だった宮沢りえがヘアヌード写真集「サンタフェ」を出すって衝撃発表があり、エロの権化だった僕はどうしてもお金が必要だった。別に宮沢りえはそんなに好きじゃなかったけどヘアヌードとなるなら話は別、とにかく写真集代を手に入れるしかなかった。 小遣いなどとうに使い果たした僕にとって、確か5千円くらいだった思うんだけど、それだけの値段の写真集は手の届かない存在だった。なんとか家捜しし、家内に散見される小銭をかき集めたのだけど80円くらいしか集まらなかった。郵便ハガキくらいしか買えない。 このままではサンタフェを買えない。焦った僕は弟の部屋へと突入した。どうやらウチの弟は根本的に頭がおかしいらしく、「貯金」などという意味の分からない行為を趣味として地道に生きていた。お小遣いやお年玉などを盛んに貯蓄して楽しむというキチガイだった。 過去に何度となく、その弟の貯金を盗んだのだけど、その度に怒ったり泣いたりするものの、それでもしばらく経つとまた金を貯めているという、兄としてちょっと心配になるくらい堅実な生き方をしていた。 ヤツならきっと貯めこんでいるに違いない。 最近はそんなに盗まなかった。きっとサンタフェを買えるくらいの貯蓄額はいってるはずだ。弟の不在を突いて徹底的な家捜しが始まった。過去、何度となく盗む度に弟は貯蓄場所を変えていたのだけど、そんなの関係ない。徹底的に探せば必ず見つかった。それこそ、警察の家宅捜索かって勢いでペンペン草1本生えない勢いで徹底的に探した。 すると、やはり貯金箱みたいなのが出てきて、中には夏目漱石様が7体ほど鎮座しておられた。貯金箱の前面にはノートの切れ端に手書きで「このお金はスーパーファミコンのカセットを買うための大切なお金です。盗まないでください」と赤のサインペンで書かれていた。 「あいつ、カセットが欲しくて金貯めてたんだな」 欲しいものを買うために貯金をする。そんな弟が随分と大人に思えた。随分と成長したもんだと感慨深かった。 幼かった頃、遊ぶ友達もいなくていつも僕について回っていていた弟。いつも鼻を垂らしながらついてきた弟。一緒に捨て猫を見つけて、大雨の中連れて帰ったっけ。弟は猫が濡れると可哀想っていって着ていたシャツを脱いで包んでいた。僕もシャツを脱いで2人で抱きかかえて帰ったよな。子供2人が上半身裸で猫抱えてずぶ濡れで帰ってきたものだから母さんが烈火の如く怒ったっけ。 ずっとずっと幼き日のままだって思ってた弟がいつの間にか随分と大人になっていた。その事実が嬉しくもあり、少し寂しくもあった。 「大人になったならカセットよりサンタフェのほうが必要なはずだ」 僕は何の迷いもなく注意書きを破り捨て、中にあった7千円を盗んだ。この時の僕は見紛うことなくシーフだった。 さてさて、金も盗んだことだし、しかも思いもがけず7千円、サンタフェ買ってもいくらか余る、ここは中野ショップ(地域の駄菓子屋)にいって豪遊でもするか。そう考えながら証拠隠滅作業に没頭していると、ハラリと一枚の写真が僕の目の前に落ちてきた。 その時の貯金箱の隠し場所ってのが、畳の下とかそんなレベルのあり得ない場所で、普通に考えるとそんな場所に写真があるとは考えにくい。となると、子の写真は貯金箱と同じように隠す必要があった物で、かなりの秘匿性を持つ必要があったものだと推察される。簡単に言っちゃうと、隠し財産と同じレベルで隠さなきゃならないもの、ということだ。 僕の胸は躍った。サンバカーニバルのように踊った。7千円という大金を手に入れただけでなく、なんとなく秘密めいた写真まで見つけてしまった。高鳴る鼓動を抑えて床に落ちた写真をめくった。 そこには女の子が写っていた。おそらく弟のクラスメイトだろう。遠足か何かの時のスナップのようで、学校指定のジャージを着た女の子が単独の被写体として写っていた。 「あいつ、こんな写真を隠し持って、恋してるんだな」 とにかく弟は写真の子に恋してるんだろうと思った。なんとか応援してあげたいと思った。僕は兄として何が出来るんだろうか。何も出来ないんじゃないか。無力な自分を呪った。 と、まあ、美しき思い出はここまで。この後は家族総出で弟の恋を応援したはずだ、と思い込んでいる。そいういった記憶が美しき思い出として脳裏に焼きついており、僕の姿が「弟の恋を応援したい兄」として涙無しでは語れないものとして燦然と輝いている。そして、こういった美しい姿に比べれば金を盗もうとしたことなんてご愛嬌だ。 しかし、実際にはそうではなかった。よくよく記憶を紐解いてみるとどうにもこうにも様子がおかしい。実際に細部まで入念に思い出したこの後の展開をなぞってみよう。 写真をめくった僕は驚愕した。 とんでもねーブスが写真の中央に鎮座しておられた。 なにこれ?ペロの毛布?それが正直な感想だった。ウチの隣の家ではペロっていう雑種の犬を飼っていたのだけど、何をトチ狂ったのか隣の家の人が美人画みたいなのが描かれた異様に趣味の悪い毛布をペロに与えていたのだけど、ペロだってやっぱ犬ですから毛布を汚く使ったり噛んだりするじゃないですか、一気に美人画が破れて汚れてグロテスクなものになっちゃいましてね、もう見るも無残な状態になっちゃってたんですよ。 で、その無残なペロの毛布みたいな女が写真に写っている。しかも弟はそのペロの毛布の単独写真を秘密裏に入手し、さらに隠すように所持している。もしかしたらその写真でオナニーくらいしていたかもしれない。 「た、た、たいへんだー!」 実は、こうやって僕が弟の恋路を暴くのは一度や二度じゃないのだけど、とにかくこの時のインパクトは相当のもんだった。写真を手に転げるようにして階段を降り、家族に報告しようとする。しかし、家には半分ボケた爺さんしかおらず、 「大変だ!弟がとんでもないブスに恋してる!」 「んあ?」 とラチがあかない。仕方ないので写真片手に自転車に乗って親父の仕事場まで報告に行った。 「た、大変だ!弟がブスに恋してる!」 「なんだと!」 親父は仕事の手を止めて乗り気だった。 「とにかく、この写真はコピーしよう、お前は写真を元の場所に戻して来い」 証拠隠滅作業もはかどり、弟包囲網は完成した。 夕食の席、事情を聞いた母さんがそれとなく弟に話を振る。 「お母さんはね、美人で性格の悪い嫁が来るよりブスでも性格の良い嫁が来て欲しいわ」 あまりにもド直球過ぎてひどい。 「ワシもブスでいいと思う」 親父のフォローも重ねてひどい。 弟は何のことやら分からずにマゴマゴしていたのだけど、夕食が終わった後に親父が動き出す。 「よっしゃ、久々に家族でトランプしよう」 脈略がなさすぎてビックリする。どっから持ってきたか知らないけどトランプを取り出す親父。手際よくシャキシャキとトランプをきるのだけど、なんと、そのトランプの中にはあのブスの写真をトランプサイズに切り取った物体が。ひでー、ひどすぎるよ。しかも、なんか普通にそのブスの写真がハートのQとして流通してた。地獄のファミリーババ抜き。ジョーカーじゃないところに親父の良心を感じたよ。 最終的には僕と親父が異様に盛り上がってしまい、弟のクラスメイトに電話してブスの名前を聞きだし、そこから電話番号を調べだして、弟と仲良くしてやってくださいって電話で頼もうぜ、とか、弟の声色をモノマネ(僕も親父も得意)して告白しようぜ、とか盛り上がってるところで弟が発狂して終わった。あれからだっけかな、弟があまり家族と会話しなくなったの。 このように、漠然と良い思い出として心の中にあるものでも、よくよく詳細に思い出してみるととんでもない思い出であることが多々ある。本当に人間の脳ミソってやつは都合よく出来ているもんだと感心する。 この春、定年退職した職場の先輩から手紙が届いた。新しい生活を満喫しているという内容の手紙だった。インターネットや電子メールが隆盛を極めるこの電脳社会において封書の手紙とはレトロで趣があっていい。そういえば最近、手紙を貰う機会って減った、変なダイレクトメールばかり貰って、心の篭った人と人とのやり取りとしても手紙を受け取らなくなった。 ふと、手紙という存在に思いを馳せると、僕自身にも手紙にまつわる美しくも素晴らしい思い出があるのを思い出した。 確か、中学校の時だと思う、記憶の断片に残っているのは、クラスで一番カワイイ女の子に恋をしていたということ、そしてその子が劇の練習か何かで我が家にやってくるというエキサイティングな事件があったことだ。で、確かにテンヤワンヤだったのだけど、その子たちが帰った後に手紙を貰ってしまい、そこには「アナタのことが好きです」って書かれていた。死ぬほど美しい思い出だ。美しすぎる、楽しすぎる。 ハッキリ言って、この思い出があるからこそ今の僕はかろうじて生きている。あの日あの時、あの子に貰った「好きです」という手紙、それが心の支えになってるからこそ、今みたいにうだつが上がらなくて職場で女子社員に蛇蝎の如く嫌われていて、「早く死ねよ、いつ死ぬんだよ」とか陰口じゃなくて限りなくダイレクトに言われている現状も我慢できる。あの日、あの時、カワイイ子に手紙貰ったんだぜ、と心の中で誇ることができる。そうじゃなかったらとっくに硫化水素っちゃってるところだ。美しい思い出はこうやって心の支えというか礎にすらなるのだから有難い。 「クラスで一番カワイイ子」「劇の練習でうちに来る」「好きですという手紙」このキーワードが断片的に染み込んでいる美しき思い出なのだけど、これも良く考えたら勝手に書き換えて良い思い出にしている可能性がある。少し怖いのだけどキチンと順序だてて思い出を紐解いてみよう。 「アンタ、同じ班になったから」 「ちゃんとやってよね、怒られるの私たちなんだから」 クラスの中でブスランキングをつけるのならば燦然と1位2位のワンツーフィニッシュを決めるであろうツートップのブスが、彼女たち2人のスナップを撮影したとするならばどんな戦場カメラマンでも勝てない残酷な状況を伝えることになるだろうブス2人が、その顔を不機嫌に歪めながら話しかけてきた。僕も歴然たるブサイクであるので、言うなればブサイクの三重奏だ。 何かの出し物でクラスで劇をやることになり、その中で班分けが行われ、この圧倒的な戦力を誇るブスのツートップと組むことになったのだ。我ながら恐ろしい引きをしてるもんだと思う。 「そうそう、ケイ子も同じ班だから」 呆然とし、半分魂が抜けかかっている僕の前に天使が舞い降りた。クラスで一番かわいいケイ子ちゃん。透き通るような白い肌が眩しく、物静かな性格がなんともカワイイ子だった。 「じゃあ、今度の日曜日、アンタの家で練習するから」 右のブスだったか左のブスだったかが言い放つ。こういった劇の練習ってのは班の誰かの家でやるっていうのが不文律になっていて、皆で相談して誰の家でやるとかそういったのをすっ飛ばして僕の家でやることに決まったようだった。 「大変だ、ケイ子ちゃんが我が家にやってくる!」 ブス2人のオマケがついているとはいえ、憧れの彼女が我が家にやってくる、こんな汚い我が家を見せるわけには行かない。その日から僕の戦いが始まった。 まず、ケイ子ちゃんが我が家にやってくるにあたって、絶対に我が家から排除しなければならない人間がいる。親父だ。ヤツがいたらどんな惨劇が繰り広げられるか分かったもんじゃない。なんとかして排除しなければならない。 母さんに必死で頼み込んで、それこそ土下座する勢いで頼み込んで当日、親父をどこかに連れ出してもらうことにした。ついでに、入念に掃除をしてもらい、品の良いお菓子なども出してもらう算段を整えた。 ふう、これでなんとかケイ子ちゃんに見せても恥ずかしくない我が家になるぜ、親父とかいたら最悪だからな、と一息つくと、我が家の玄関には燦然と鹿のペニスが飾ってあった。 「だー、なんでウチは玄関に鹿のペニス飾ってんだよ!頭おかしいんじゃないか!」 いきなりクラスメイトの家に訪ねていったら玄関に鹿のペニス、そりゃケイ子ちゃん、泣いちゃいます。なんとか鹿のペニスは弟の部屋に隠匿する。コレで大丈夫なはずだ。 必死に下準備を整える僕の姿を見て母は悟ったようだ。今度の日曜日、やってくる女の子は息子が好意を寄せている女の子だ。そんな噂が家族間を駆け巡り、母も親父も弟もニヤニヤ、爺さんは半分ボケてて魂が抜けかかっていた。 さて、いよいよ当日、僕はもうヤキモキしながら玄関で待っていると、何故か親父と母さんと弟が居間から覗いていた。爺さんは天使が迎えにきてた。おかしい、あれだけ親父を連れ出すように頼んでおいたのになんでいるんだ。とにかく、今はそれどころじゃない、ケイ子ちゃんがやってくるんだ。鹿のペニスも隠した、ええい、こうなったらケイ子ちゃんがいかにカワイイかその目ん玉ひんむいてしかと見やがれ家族ども! 「おじゃましまーす」 やってきた。ついにやってきた。我が家の玄関を開けてやってきた。ついにやってきた。ブス2人が。 「あれ、ケイ子ちゃんは?」 お前らに用はないと言わんばかりに問いかけると、右のブスだったか左のブスだったかが口を開く。 「ケイ子は体調不良でお休みだって」 意味が、わから、ない。 ケイ子ちゃんが来れなくなったのは至極残念なのだけど、もっと残念なのは家族達。ウチのファミリーどもは、今日は僕が好意を寄せてる女の子がやってくると思い込んでますから、イースター島みたいな2人を見てニヤニヤしてるんですよ。親父なんか「どっちだ、どっちだ、っていうかどっちでもやばくねえか?」みたいな顔してやがる。 ちがう、ちがうんだー、と釈明したい気分なんですけど、まさか声に出して言うわけにもいかないじゃないですか。鹿のペニスを隠してまで出迎えたかったのはこいつらじゃないんだ!こいつらなら逆に鹿のペニス突っ込んでるわ。 とにかく、どうしようもないので部屋まで上がってもらって劇の練習を始めます。確か、 「卵の色が何色だっていうんだ!」 っていう、意味が分からないセリフを情熱的に言わなくてはいけないシーンで、左右ブスに「やりなおしー」って言われて何度も「卵の色が何色だっていうんだ!」って言わされた気がする。もう何色でもいい。 その様子を親父がニヤニヤと天井裏から覗いてましてね、母さんが精一杯奮発したお菓子を持ってやってきたんですけど、たぶん親父に演技指導されたんでしょうね、弟がやってきて「お菓子僕も食べたいよ、昨日もご飯食べてないし」とひもじい子供を熱演してました。死んだらいい。 風神雷神みたいにそびえ立つブス2人、妙に芝居がかった弟、それを覗いて嬉しそうな親父と散々でしてね、僕もパニックになっちゃって「卵の色が何色だっていうんだ!」って怒ってた。 最終的に劇の練習が終わってホッとしていると、帰り際に親父がブスの片割れを捕まえましてね、「ウチの息子がアナタのこと好きらしい、情けない息子ですがよろしくお願いします」と何故かスーツに着替えて挨拶したらしい。親殺しが5年くらいの刑なら確実に殺ってた。 結局、ブスには「pato君、あまりタイプじゃないですし」みたいなニュアンスの返事を貰ったらしく、なんか途方もなく大いなる勘違いでいつの間にかフラれてしまったらしく、その日の夕食の席では 「兄ちゃん、人間はフラれることで大きくなると思うよ」 と親父に入れ知恵されたんでしょうね、弟が言ってました。いいから黙って貯金を差し出せ。親父も親父で 「フラれたのは悲しいけど、あのブスはないと思う。ワシ、腰が抜けるかと思った。フラれてよかったよ、あのブスには」 と、何故かフラれた長男を気遣う展開になってました。卵の色は何色だ。 思い返すととんでもないひどい思い出で、なんでこれが美化されていたのか全く分からない。「クラスで一番カワイイ子」「劇の練習でうちに来る」「好きですという手紙」のキーワードのうち「クラスで一番カワイイ子」「劇の練習でうちに来る」の二つが消え去ってて「ブス」ですからね、とんでもない真実だ。 じゃあ「好きですという手紙」はなんだったのか。この思い出は何だったのか思い返してみると、何故かブスにふられたことになっていた長男を気遣う沈痛な夕食が終わった後、母さんにそっと手紙を渡されました。 「今回はお父さんが暴れて振られちゃったけど、お母さんはアナタのことが一番好きです。だから元気出して」 すごい感動もんで、「母さん」とか泣く場面なんだろうけど、違うから、違う、あのブスじゃないから。フラれてないから。 とにかく、思い出の美化ってのは恐ろしい、貰った手紙すら実は母さんから貰った手紙だったとは。これから何を支えに生きていったらいいんだ。 人間は辛いこと悲しいことを忘れ、そして美化して生きていく生き物です。そうしないと辛くて生きていけないから。でも思い返して美化した思い出の真実を知ってしまうと、何ともやりきれない気持ちになるものです。 「思い出は優しいから甘えちゃダメなの」 いいや、思い出には甘えなくちゃダメだ。じゃないと心の支えをなくして硫化水素っちゃう事態になりかねない。絶対に甘えるべきなのだ。 この間、31歳にもなってウンコ漏らしてしまった思い出も、ウンコを漏らした美女をかばうために颯爽と登場し、美女がウンコしたってことで注目する観衆を前に、「彼女はウンコしたんじゃありません!卵を産んだだけです!卵の色は何色だ?そう、茶色だ!」とかばって感謝された思い出に書き換えて甘えることにしよう。 4/23 新説カルネアデスの板 カルネアデスの板というお話があります。ある船が荒天に巻き込まれて難破し、乗組員全員は海に投げ出されてしまいます。命からがら波間を漂う船板にしがみつきます。そこにもう一人の乗組員がやってきて同じ板にしがみつこうとしました。まずい、この板は一人を支えるのがやっとだ、2人も掴まったら沈んでしまい二人とも死ぬだろう。 苦悩した男は板にしがみつきながらもう一人の男を突き飛ばし溺れさせます。結果、男は助かりもう一人の男は死亡します。生還した男は裁判にかけられることになりますが罪には問われなかった。 これは古代ギリシアの哲学者カルネアデスによって提唱された有名すぎる問題で、2人とも死ぬくらいなら1人を殺しても罪にはならない、もっとくだけていうと、やむを得ない場合は人を殺しても構わないということを言っているのです。 日本における法律においてもこの種の問題は定義されており、刑法においては刑法37条の「緊急避難」がそれに当たり、危機を回避するために何らかの法を犯したとしても一定の条件下でそれを免除する、というものです。 ここで大切なのは、もちろん他に手段がない場合に限るという条件付ですが、危機によって生じる損害と、回避するために生じる損害との大きさの比較です。上記のカルネアデスの板の場合、他に手段もなく、危機によって2名の命が失われようとしています。それを回避するために1名の命を消し去ったとしても、それは回避行動の方が損失が少ないので正当、ということなのです。 こういったお話は、そんなに社会生活の中で遭遇するものではなく、そりゃあ命の危機に直面することもないでしょうし、二人とも死ぬくらいならいっそ一人を殺して、などと苦悩する場面もそうそうありません。けれども、ミステリーの世界なんかでは結構あって、連続殺人の真犯人が 「5年前のあの海難事故の日、愛する芳江の命を奪ったあいつらに復讐してやったのさ」 「そんな高志君……」 「助けを求める芳江の手を振り払ったあいつらを法律では裁けない、緊急避難とかいって裁けない、だからおれが裁いてやったのさ!」 「天国の芳江さんはそんなこと望んじゃいないぞ!」 「遅いのさ、もう何もかも遅いのさ。俺はやっと芳江のところに行くことができる。じゃあな、名探偵!」 「まて!」 ズガーン 「なんで自殺なんか、なんで殺人なんか、それが芳江さんが望むことなのかよ!答えてくれよ高志君!」 「ハジメちゃん……」 ってな感じで殺人の動機に関わるコアな部分として結構な頻度で登場しますが、ふつうにに日常生活を営んでる分にはそうそう遭遇し得ないシチュエーションです。そりゃあ、助かるために人を殺すべきか、なんて苦悩する日常なんていや過ぎる。 数年前、車を運転していた僕は異常な脱糞衝動に駆られました。普通のウンコしたいって感覚を10とするならば、その時は4000万くらいだったんじゃないかっていう異常な脱糞衝動、漏らしてはかんわん、といち早くコンビニに駆け込もうとアクセルを踏みしめました。すごい普通の農道なのに100キロくらい出してたわ。それくらい危険が危ない状態だった。 まあ、そういう時って大抵間が悪いもので、思いっきりスピード違反取締りに引っかかっちゃいましてね、途方もない速度違反だぞって警察の人に怒られちゃいました。確かにスピード違反は良くないけどやっぱ何か釈然としないじゃないですか。そこで反論したんです。 「もうウンコが漏れそうだったのでついついスピードを出しすぎてしまいました」 「そう、よかったねー」 警察官の方には全く取り合ってもらえず、思いっきり違反切符をもらいました。見逃してくれるかもしれない、とか淡い期待を抱いた自分がバカだった。そのうち事情聴取みたいなの受けながら本気で漏れそうに、ってかちょっと漏れちゃいましてね、大変な騒ぎでした。 これも緊急避難に当たるんじゃないかとも思うのですが、スピード違反ってのは死亡事故などに直結します。自分が死ぬならまだいいですが、人を轢き殺すことだってある危険な行為です。ウンコを漏らすという損失よりも、そちらの方が損失が大きい、だから緊急避難にはあたらないと自分の中で納得したものです。 このように、日常生活でカルネアデスがあったとしてもせいぜいウンコレベル。そこまで深刻な場面に直面することなど今日の平和な日本社会ではありえないのです。けれども先日、そんな前提を覆す重大事件が起こったのです。 あれは週末のホットなひと時のことでした。明日は仕事も休みだし今日は夜更かししちゃうぞーとネットサーフィンに勤しんでいた時のことでした。 女性のアナルの中にウズラの卵を入れるっていう途方もない、文化大革命みたいなエロ動画を繰り返し見てたんですけど、そこでね、思ったんですよ。ほら、Numeriって下品って言うか下劣なるものじゃないですか。どっかの会社からは「下品」という理由でNumeriにアクセスできないようになってるらしいですしね。 そういう下品なNumeriであっても「アナル」って単語は良くないと思うんですよ。今やインターネットって普通に当たり前で青少年とかも読んでしまう可能性がありますから、「アナル」って直接的表現はあまり良くない。できれば包み隠したオブラート的な表現はないかと模索し始めたんです。 で、色々と考えた結果、今度からはアナルのことをエイナルと呼ぼう、それだと語感もあまり失わないし、未来的でなんだかカッコイイ。そもそも英語の発音に近い。それに映画の題名になりそうな単語、浜崎あゆみの歌のタイトルになりそうな単語だ。うん、これからアナルのことはエイナルって言っちゃうよーって決意したんですよ。で、それが浸透していってYahoo!とかで「エイナル」で検索したら下のほうに「 アナル ではありませんか?」って出てくるくらいにならないかなーって夢想したその時ですよ。 「絶対にセックスできる出会いサイトです!」 衝撃的な謳い文句の宣伝が目に飛び込んできましてね、絶対にセックスできるとはまた豪気な、まあ、こんなもん今更驚くも何もない、絶対にセックスできずに架空請求とかされまくる詐欺サイトだと思うんですが、その時はアナルのことをエイナルって呼ぶって決めて興奮してたんでしょうね、女の子とエロいメールそつつサラッと「エイナル」って言ってみたい衝動に駆られてしまったんです。 早速、件のサイトにアクセスし、登録、掲示板の書き込みを見てエロそうな女を物色したんです。 ------------------------- ハッキリ言ってこれは反則ですよ、反則。僕ぐらいの魔王になるとこの書き込みから1000の真実を読み取ることができるのですが、「エッチしか取り得ない」なんてすごい強烈な破壊力じゃないですか。なんとなくドジでボーっとしてる天然系の女の子で、でもエロいことになると豹変して貪欲に求める、みたいなイメージがあるじゃないですか。この書き込みにはそれだけ深い意味がある。 ケロッグもう我慢できないって感じですぐさまメール出しましたよ。送る際のニックネームを「pato」にするか「タダシ」とか普通の名前にするか、それともエキセントリックに「色狂中年卍」とかにするか悩んだんですけど、天然系の人見知りする子だろうから、ちょっと控えめに「ネコ」とか訳の分からない名前で送っておきました。31歳の中年が「ネコ」もクソもないんですけど、とにかく送っておいた。 ------------------------- まあどうせ、こんなインチキ出会い系サイトですよ、会うとかそういうの絶対にあり得ませんからエロい話でもしてサラッとエイナルって言えたらいいやくらいの気持ちでメール出したんです。そしたら鬼のような速さで返信が届いてきましてね。 ------------------------- おいおい、アユムちゃん積極的だな。ほんと、貞操観念とかどうなってんだ、けしからん!って憤るんですけど、どうせサクラが会話を引っ張ってポイントをせしめようとしてるんでしょう。ここは乗ってあげるのが大人のマナーってもんです。 ------------------------- まあ、正直言うとこの時点で半分くらい面倒になっちゃいましてね、もうどうでもいいやって感じだったんですけど、それでもエイナルって言いたい!っていう欲求だけが僕を衝き動かしていました。 ------------------------- なんだよ普通のエッチって!と思うのですが、これはもう大チャンスで、ここで一気に決めてしまいましょう。 ------------------------- よっしゃあ、いったああああ。もう満足、大満足。もうこれでおしまいでいい。って思ったんですけど、またもやアユムちゃんから鬼の速さで返事が来ましてね。 ------------------------- そうだよ、そりゃそうだよ。これが極めて普通の反応。ここでエイナルって言葉を脳裏に叩き込んでおいてですね、実はそれはアナルのことだよ、って教えることでウブな子なんかは赤面もんですよ。それを想像するだけでご飯3杯はいける。 ------------------------- これでもうアユムちゃんはドン引き。顔真っ赤にして携帯電話握り締めてるに違いありません。そうではないかもしれないけどそうであると考えるだけで興奮する。もう最高だぜ。しかし、アユムちゃんの返事は予想外のもので ------------------------- おいおい、どうなってんだ。すごい乗り気じゃないか。昨今の若い娘の貞操観念はどうなってんだ、けしからんな!などと思いつつも、アユムちゃんから得体の知れぬ本物のオーラを感じてしまい、省略しますが色々とメールのやり取りをしました。 するとまあ、アユムちゃんは会ってエロスなことをするのにたいそう乗り気でしてね、本気で待ち合わせ場所とか待ち合わせ時間とか指定してくるんですよ。こりゃもう、美人局か本当にエロスな女子が存在しているとしか思えない具体性でしてね、もしかして大変なことになるかもしれない、とこっちがドキドキしてきたんです。 ------------------------- もうね、ここまで言われたら行くしかないじゃないですか、行かないやつがいるのならばお目にかかりたい。行ってエイナルをペロリだぜ。ポケモンゲットだぜ! 早く行かねばならない。1分でも1秒でも早く到着しなければいけない。走れ!エロス!ってこれは前回の日記だった。とにかく、セブンイレブンの前では内気で人見知りをするアユムちゃんがドキドキしながら待ってるに違いない。こういうサイトで出会うのって怖いよぅ、殺されちゃったりする事件もあるし怖いよぅ、でも……エイナルをペロリされたい。恐怖とエロへの好奇心を天秤にかけるアユムちゃんの姿がそこにあった。そんな彼女を待たせてはいけない。急いでいかなければならない。 もう、緊急避難でも通用するんじゃないかって状況ですので、アクセルをブリバリに踏みしめてスピードを出します。もうアクセルペダル取れるんじゃないのって勢いで待ち合わせ場所に向かいましたよ。 するとね、まあ、予想はしていましたけど待ち合わせ場所に女の子はいないんですよ。微妙に寂しい場所にあるコンビニだったんですけど、アユムちゃんと思わしき女の子がカケラも存在しないの。あーあ、また釣られちゃったよ、すぐに釣られるダボハゼみたいな性質をなんとかしなきゃいけないなーとガックリと肩を落として帰ろうとしたその瞬間ですよ。 なんかポッチャリとしたっていうかデブな男性、年の頃は30歳前後でしょうか、品の良いザンギエフみたいな顔した男性がセブンイレブン前に佇みながらソワソワして腕時計見たり携帯見たりしてるんです。オッサンが普通にセブンイレブンの前に立ってるの。 いやいやいや、そんなね、品の良いザンギエフみたいなデブって点は愉快ですけど、そういう人がいたって何らおかしくないじゃないですか。普通にコンビニですし、人がいるのは当たり前。特段興味を惹く存在ではないはずです。けれどもね、そのザンギエフ、普通にジーンズはいて白いトレーナー着てるの。うん、アユムちゃんが言ってた服装そのままなの。 まてまてまて、落ち着け、落ち着くんだ。どういうことか分からないけどとにかく落ち着くんだ。もう冷や汗とかドカドカ出てくるんですけど、落ち着いて店内に戻って頭の中を整理します。そして一つの悲劇的仮説が。 もしかして、お互いがメール相手を女だと勘違いしてないか? メール履歴を見て受け取ったメール、送ったメールを確認してみます。ふむ、僕はすっかりアユムちゃんのことエッチに興味津々な女の子だと思ってたけど別に男が送ってきていてもおかしくない内容だ。逆にこっちが送ったメールも女の子が送ってきていてもおかしくない内容だ。こりゃあ、本気でお互いに勘違いしていた公算が高いぞ。 ------------------------- ここでジャブ的メールを送信。すると時間を置いてザンギエフの携帯が光りだします。やっぱこのオッサンがアユムだ。で、ピコピコと返信を打つザンギエフ。すぐに僕の携帯にメールが来ます。 ------------------------- 完全に勘違いしとる。 おいおい、男同士で身の毛のよだつエロ会話してたのかよーと腰が抜けるどころか砕ける思いをし、さすがにアユム君のエイナルを舐めるわけにはいかない、と落胆。たぶんアユム君はアユム君で舐められたくないと思う。 もう相手が男なら会うもクソもないじゃないですか、ここでサッと帰ってしまおうかと思ったのですが、去り際にチラッとアユム君の姿を見たら物凄いウキウキしてて楽しそうでしてね、ほっぺとかちょっと赤くなってんの、多分すげえ勢いで風呂とか入ってきたんだと思うよ。その姿を見ていたら心の奥底がギュッと締め付けられる思いがしましてね、 「あのーすいません……。メールのアユムさんですか……?」 って普通に話しかけてました。 アナルを舐めてくれる積極的なメール相手の女の子、おいおい最近の女の子は過激だなーって思っててやってきたのが31歳の野武士だった。そりゃもう、アユム君の方の落胆もとんでもないものでしてね、 「どういうことですか!男には興味ありません!」 みたいなこと汗かきながらいってました。こっちも興味ないわボケ。 普通なら逆上したアユム君に殺されかねないシチュエーションなのですが、何故だか意気投合し2人で近くの喫茶店に行って飯を食うことに。そこで色々と事情を聞くと、どうやらアユム君は間違って女性が男性を募集するコーナーに書き込みをしてしまったようでした。その顔で「エッチしか取り得ないけど」とかかわいらしく書き込みしてんじゃねえよカス。 「トントン拍子で話が進むんでおかしいと思ってました」 とはアユム君の弁。こっちもおかしいと思ってたわ。 だいたい、アユムなんて名前だから勘違いするんだ、いやいや、ネコって名前の方が極めて悪質、女の子だと信じて疑わなかった、みたいな会話をしていたところ、そもそも本当に出会い系サイトで女性に出会えるのかっていう話になったんです。 「一度だけ会えたことあるんですけど、すぐにヤクザみたいな男が出てきて4万円取られました」 とはアユムの弁。そりゃねーよアユム、いくらなんでも不憫すぎる。1度目が美人局で二度目に男がやってきたなんて可哀想で目も当てられない。 「こりゃあいっちょ女を召還するしかないな!」 2人で召還魔法でも唱えて召還できるならいいのですが、現実世界ってそう甘くないですから、なんとか携帯電話を駆使して女性と出会おうと努力する2人。目の前にはエビピラフが運ばれてきていたけど手をつけなかった。 僕とアユムが出会ってしまうキッカケとなったサイトにアクセスし、2人で片っ端からメッセージを送りまくります。こいうメッセージのほうがいいんじゃないか、いやいやこっちのほうが好感をもたれるはず、そんな議論をしながら女性が引っかかってくるのを神妙に待ちます。すると、僕の携帯のほうにメールが! ------------------------- もうメッセージ送りまくってて誰に何て送ったのか分からないんで何が「いいよ!」なのか分からないんですけどとにかくエロスな提案に対する快諾だと判断。アユムと2人で興奮しながら返事を書きます。もちろん、「女だよね」とキチンと確認もした。 「マジで来たらすげーな」 「ドキドキしてきた」 やっとこさエビピラフに手をつけ始めた2人。そこでアユムのヤロウがとんでもないことを言い出すのです。 「今回は勘違いがあったといえ、女性が来ると思っていた僕のところに君が来た。いわば僕は被害者だ。これから来る女性がかわいかったら僕が貰うよ」 テメーは頭の中にニューカレドニアでもつまってんのか。ガックリきたのはこっちも一緒だわ。ザンギエフみたいな顔しやがってからに。 「ちなみにブスだったら…?」 そう質問してゴクリと唾を飲むと 「君にあげる」 こんな自分勝手なヤツみたことねー。なんなんだコイツ。太りすぎて死んだらいいのに。 もう圧巻としか言いようのないアユムの自分勝手さに触れつつ、早く来ないかなと喫茶店に置かれていた古いジャンプなんかを読みながら待っておりました。あまりにも遅いのでやっぱりすっぽかされたか、そもそもそうそう出会い系サイトで会えるもんじゃないよな、と思いつつトイレに行くと、携帯に着信があったのです。 ------------------------- これはチャンスだ。トイレのために席を立った僕。この場には僕しかいない。アユムに気付かれる前にやってきた女性を確認すべきではないか。恐る恐る入り口近くに行き、窓から女性の姿を確認します。 ありえねー。 ホラ、ブスとかいるじゃないですか。男の子ってどうしても「アイツブス」とかそう言葉にしちゃう困ったちゃんじゃないですか。でもね、それってあくまでも人間を前提としたブスでしょ。「アイツブス」の枕詞として「人類として」ってついてるんですよ。稀に「ゴリラブス」みたいなのもありますけど、それでも生き物としてブスってのが前提じゃないですか。 でも、店の前にいるのが、暗くて明確には分からないんですけど、それでも人間の、いや生き物としての範疇を軽々とK点越えしたブスなんですよ。言ったら、無機物としてのブス。椅子とかあるじゃないっすか。椅子にもいろいろあって、捨てるしかないボロ椅子とか新品の高級椅子とか、そんな価値観の中での椅子としてのブス、みたいなのがソワソワと店の前にたっとるんですよ。椅子ブスがたっとるんですよ。 さあ、迷いましたよ。なんかブスなだけならいいんですけど、明らかに性に関して貪欲そうなブスがゲルルルルルルルって感じで店の前にいる。このままでは二人まとめて相手してあげるとか言われて僕もアユムも死ぬより辛い思い出をプレゼントされるかもしれません。 「なんて禍々しきオーラだ」 店の小窓から覗いて震えるしかない僕。こんなブスみたことない。づするべきかどうするべきか。 そこでカルネアデスの板ですよ。このままいったら発奮した椅子ブスに僕もアユムもやられてしまう。二人ともやられるくらいならいっそのことアユムを陥れて僕1人でも助かったほうがいいに決まってる。危機による損失が回避行動による損失を上回った瞬間でした。 ------------------------- って送ってレジでエビピラフ代だけ払って帰りました。帰り際に椅子ブスとすれ違ったんですけど、やっぱり椅子ブスだった。店の中にあった木製の椅子のほうがかわいかった。 悲しい選択だった。仕方ないとはいえ、アユム君という尊い犠牲を出すに至った。それでも誰も僕を責めることなどできやしない。それこそがカルネアデスの板なのだから。 本来のカルネアデスであるところの、助かるために人を殺す選択とはどういうものなのだろう。それは僕には分からない。けれども、きっと苦しい選択であるはずだし、罪に問われないとはいえその後も本人を苦しめるであろうことは容易に想像できる。 そういった選択をしなくていい平和な日常をありがたいと思いつつ、さらに今回の椅子ブスの擦り付け合いみたいに自分を誤魔化して納得するためにカルネアデスを使えることに感謝しなければならない。 さあ、家に帰ろう。今頃きっとアユム君は椅子ブスにエイナルを舐められている。僕も家に帰って自分のエイナルにウズラの卵を入れて満足しよう。 4/16 走れエロス2 エロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の上司を除かなければならぬ。エロスには仕事がわからぬ。エロスは、31歳であり今年32歳、仕事をサボり、給料泥棒と罵られようとも全ての物事を曖昧に濁して面白おかしく暮してきた。仕事のやり方などとうの昔に忘れた。 エロスには癖があった。年齢を聞かれた時、必ず「28歳です」と何の得にもならぬ嘘をつくことだ。若く見せよう、などという邪(よこしま)な気持ちはない、キャバ嬢が皺(しわ)だらけの顔で「19歳です」などと言い張るトリックでもない。ただ単純に28という数字の響きが好きなのだ。 エロスの会社にも4月となり新入社員がやってきた。フレッシュなスーツに身を包んだ新入社員を見るに、情熱と希望に包まれた若き日の自分を思い起こし、エロスは少し寂しくなった。 新入社員の中に異端の者がいた。名はセリヌンティウス(仮名)という。セリヌンティウスは学生時代に諸外国をリュック一つで回り、気付けば28歳だったという。大学も中退だ。28歳で新卒採用、異例中の異例であった。エロスはその若者の情熱、型から外れることを怖れない勇気にいたく関心を持ち、さらにそんな異端の若者を採用する我が社を誇らしく思った。早速、入社直後、彼に接触を持った。 「はじめまして、patoっていいます。仕事で分からないことあったら何でも聞いてね」 「あ、どうも。ところで先輩、何歳っすか?」 「俺?28歳だけど」 何の得にもならぬ嘘をつく。エロスはそんな自分を誇りに思った。 「なんだー、タメじゃん、マジでー。なんかこの会社ってダルくね?社長キモくね?お前、28にしてはフケてね?」 セリヌンティウスはエロスを同い年と勘違いし、いきなりタメ口であった。全ての言葉の語尾に「w」がついていそうな勢いであった。新入社員にいきなりタメ口を叩かれてしまうエロス、31歳、ただ呆然とするしかなかった。そして、彼が何故28歳になるまで一切合切働いていなかったのか、その理由の一端が垣間見えた気がした。 数日後、エロスは寝坊して昼前に職場にやってきた。遅刻をした時は堂々とすることだ。遅刻しまして、などと恐縮してしまっては遅刻自体が大罪のように扱われてしまう。堂々と、今来ましたけど文句ある?といった顔つきで職場の廊下を歩けばいい。エロスには譲れない誇りと信念があった。 眠いのにわざわざ職場に来てやったのだ。先ず、各部署に趣いて時間つぶし、お茶でも飲もう。それから職場のメイン廊下をぶらぶら歩いた。歩いているうちにエロスは、職場の様子を怪しく思った。ひっそりしている。 節電だか省エネだかで不必要な電気が落とされ、廊下が暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、節電のせいばかりでは無く、職場全体がやけに寂しい。のんきなエロスもだんだん不安になって来た。 路で逢った若い同僚を捕まえて何かあったのか、職場はクズどもが唄い踊り賑やかであった筈だが、と質問した。若い同僚は首を振って答えなかった。 しばらく歩いてベテラン社員に逢い、こんどはもっと語勢を強くして質問した。ベテラン社員は答えなかった。エロスは両手でベテラン社員の体を揺すぶって質問を重ねた。すると、ベテラン社員は、あたりを憚(はばか)る低声でわずかに答えた。 「上司は人をクビにします」 「なぜクビにするのだ」 「業績不振によるリストラ、というのですが、業績不振は今に始まったことではございませぬ」 「たくさんの人をクビにしたのか」 「はい、はじめは無断欠勤が多かった中堅社員を。それから、派遣の女子社員を一掃いたしました。それから、出世コースから外れ定年間近のご老人たちを。新しく来た上司は鬼でございます」 「おどろいた。上司は乱心か」 「いいえ、乱心ではございませぬ。業績不振の打開策として他社より引き抜かれ、4月よりやってきた新上司、やる気に満ち溢れているのです」 聞いて、エロスは激怒した。 「呆れた上司だ。生かして置けぬ。」 エロスは単純な男であった。直接的にクビには出来ぬものの、あらゆる手段を駆使してクビに追い込む新上司、その手腕に怖れはなかった。なにより、社内中のダメ社員の代表であるという自負がエロスにはあった。 「許せぬ、喫煙所で悪口とか言ってやる」 正義に厚いエロスであってもクビは困る。頑張って仕事するのもそれ以上に困る。あまり目立たぬよう、喫煙所でヒッソリと上司の悪口を言うことしかできなかった。 しかし、そのような話は知らず知らずのうちに広がるもの、あっという間に悪口が上司の耳に届いてしまい、騒ぎが大きくなってしまった。エロスは上司の前に引き出された。 「私のことが気に食わないなら直接言え!」 暴君ディオニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その上司の顔は蒼白で、眉間の皺は刻み込まれたように深かった。 「何も文句はございません」 とエロスは悪びれずに答えた。あなたの忠実な犬ですとまで言おうと思ったがやめておいた。 「ほんとうか?」 上司は、憫笑(びんしょう)した。 「はい、それでは仕事がありますので」 エロスは上司の部屋をあとにしようとした。すると上司が憮然と話しかけてくるではないか。 「まあ待て。どうせ暇なのだろう。ならば新入社員の教育係を任せてやろう」 見事教育できたのなら上司も考えを改めるだろう、教育できたら自分のクビを守ることもできるだろう、エロスはそう思った。 「ほう、教育係とな。して、その新人とはどこに?」 「分からぬ。人事にいけ、一人扱いづらい新人が余っていたはずだ」 エロスは颯爽と人事へと向かった。 「教育係だった人が断わってしまいましてね、彼だけ教育係がいないんですよ」 人事の言葉が胸に突き刺さる。教育係に教育を断わられるとは余程のことだ。エロスの記憶が確かならば、エロスが入社した時に1件起こったきりだ。それだけに異例中の異例、新人がかなりの傾奇者でない限り断わられたりはしないはずだ。エロスは自分が新人だった時に教育係がいなくて一人ぼっちだったことを思い出した。 「彼です」 人事が資料を差し出す。名前と写真を見てエロスは絶句した。 「これはセリヌンティウスではないか!」 「はい、そうです。どうも彼、扱いづらいみたいで」 人事は申し訳なさそうに笑った。あのタメ口の若者だ。扱いづらいのも頷ける、教育係が教育を放棄したのも頷ける。エロスは与えられた使命の重さに身震いした。 「して、このセリヌンティウスは今どこに?」 早く彼と会わねばならぬ、会って教育をしなければならぬ。はやる気持ちがエロスの語気を強くした。 「無断欠勤中です」 おのれセリヌンティウス。入社4日目で無断欠勤とは豪気よのう。呆れるを通り越して感心してしまった。いいや、感心している場合ではない。拍手喝采している場合ではない。あの暴虐の上司は無断欠勤したセリヌンティウスをクビにするだろう。ゆくゆくは教育係のエロスにまでその毒牙は及ぶだろう。それだけは避けねばならぬ。 エロスは資料を見て早速セリヌンティウスに電話をかけた。呼び出し音の変わりに人を小バカにした様な音楽が鳴り、セリヌンティウスが電話に出た。 「だれー?」 「あ、エロスっていいますけど、今度君の教育係になってね、ほら、1度会ったじゃん」 「ああ、あの人か。なにか用事?」 エロスはくじけそうだった。電話の向こうの男は人種が違う。言葉が通じぬ。彼には無断欠勤したという負い目が微塵も感じられないのだ。 「いや、今日、会社休んだでしょ?ダメじゃない、休むにしても連絡しないと」 セリヌンティウスは無言だった。電話の向こうから聞こえてくるのは賑やかでアップテンポな音楽とジャラジャラという喧騒、間違いなくこいつはパチンコを打ってやがる。エロスは彼からとてつもない大物のオーラを感じた。 「パチンコ、打ってるよね……?」 「はあ、まあ、ぼちぼち」 何がボチボチなのか、エロスには全く分からなかった。 「とにかくさ、会社が終わる5時までに来て。それまでに来たらあらゆる力を駆使して遅刻扱いにするから。なあに、そういうの得意なんだ」 エロスがそう言い終わるか終わらないかのタイミングで電話が切れた。電源を落とされたようで何度かけなおしても繋がらない。おそらく拒絶、というやつだろう。エロスは決意した。 彼はこのまま来ないだろう、おそらく仕事を辞めたいのだろう。辞めるのは自由だ、辞めたいのなら辞めればいい。けれども、何も言わずに無断欠勤をしてフェードアウトするような大人にだけはなって欲しくない。ケジメだけはつけるべきだ。彼の教育係としての保身がなかったと言えば嘘になるだろう。けれども、必ずや無断欠勤だけはさせない、辞めるにしても会社に来させようと決意した。 インターネットでパチンコ屋を調べ、彼と同期の新人に話を聞き、彼が行きそうなパチンコ屋を調べ上げた。何軒も何軒もパチンコ屋を周り、全部の台を見て回って彼の顔を捜す。4軒目だっただろうか、郊外の大型パチンコ店で彼を見つけた。 セリヌンティウスは半分口を開け、エヴァンゲリオンのパチンコ台に座っていた。丁度アスカが出てくるリーチが外れたのだろう、「クソッ!」と台の上皿を殴っていた。見紛うことなき人間のクズ、そのお手本がそこにあった。 「見つけた」 「なんだよ、うぜー」 「さあ、会社に行こう。5時までにいけば遅刻扱いにできる、してみせる」 「いいよ、もう辞めるしさ」 エロスの予想通りであった。セリヌンティウスは悪態をついて1万円札を千円札に両替する。彼はこのまま無断欠勤してフェードアウトするつもり。そうやって今までも嫌なことから逃げてきたのだろう。 「辞めるなら勝手に辞めればいい。でもな、そうやって誤魔化しながら生きていくのは止めろ。俺だって仕事できない、ゴミだ、クズだ、でもな、自分を誤魔化すことだけはしない。辞めるなちゃんとケジメつけて辞めろ」 今このシーンをなぜ職場のヤリマンとかが見ていないのか、エロスはそればかりが悔やまれた。いや、それどころかセリヌンティウスすら聞いていなかった。彼はまたエヴァンゲリオンのパチンコ台に座り、咥えタバコで台に向かっていた。またアスカのリーチが外れたようで悔しそうに台を叩いていた。 「お前は間違ってる!」 エロスの言葉にセリヌンティウスは体を震わせた。 「お前は間違ってるぞ」 再度念を押す。どうやらセリヌンティウスは話を聞く気になってくれたようだ。近くの定食屋に行き話をしながら飯を食うことになった。 「いいか、お前は間違ってるぞ」 「何が?」 オムライスを食べながらセリヌンティウスは憮然としている。これから始まる説教にウンザリしているのが読み取れた。 「いいか、アスカリーチはお前が思ってるほどアツくない。どんなにアツい予告が絡んでもまあ外れる。つまり外れて当たり前。お前は悔しがるポイントが間違ってるんだよ。三機迎撃リーチとか外してから悔しがれ、その辺の認識からして間違ってるんだよ」 セリヌンティウスの表情が和らいだ。打ち溶け合えた気がした。それからはまあ、セリヌンティウスの喋ること喋ること。パチンコの話、世界を回っていたと時の話、日本に戻って風俗にはまったこと、どうでもいい話のオンパレードであった。 「いやね、日本に帰って風俗にハマったんだよ。日本各地の風俗街を巡ってね!札幌とか大阪とか!もうヘルスとか最高!」 屈託のない笑顔でそう言うセリヌンティウス、心のどこかで彼が仕事を辞めないように引き止めようと考えていたが、なんだか辞めてもいいやって考えるようになった。それと同時に今は亡きヘルス大好き鈴木君、略してヘルスズキ君に苦しめられた思い出が走馬灯のように流れた。彼、元気にしてるかな。 「それでね、博多にすっごくいいヘルスがあるんだよ。こっちが攻めるとすごい感じちゃう女の子がいてもうビンビン!」 わかった、わかったからもっと声のトーンを落としてくれ。他の客が鯖の味噌煮定食食いながらこっち見てるだろ、恥ずかしいだろ。 「で、すっげえ攻めてたら感じすぎちゃってブシューー!って潮吹いちゃった!聞いてる?潮だよ!潮!ブシューって!」 やっぱ君は辞めた方がいいよ、エロスはそう思った。 「博多のヘルスで潮吹く風俗嬢、これが本当のはっ!かっ!たっ!の!潮ー!ってね!」 もうダメだコイツ、本当に辞めて欲しい。会社からその存在を抹消して欲しい。死んだらいい。しかし、それで打ち解けたのかセリヌンティウスは切々と悩みを語り始めた。希望に燃えて入社して、いきなり○○という部署に配属され、それで心底落胆した、そんな話だった。 ○○という部署は、ハッキリ言ってリストラ予備軍みたいな人が配属される部署で、朝から晩までずっと資料のコピーアンドペーストをし続けるという恐ろしい部署、別名コピペ部とも言われている。しかも、そのコピペが仕事になるのならまだやりがいがありそうだが、大半がやってもやらなくても関係ないコピペばかりやらされるという、発狂物の部署だ。 そこに配属された人はガンガン辞めていく、今回やってきた暴虐の上司も辞めさせたい人員をガンガンそこに配属させるという妙手を使っていた。入社してすぐ、それも表向きは研修期間だ。その期間でいきなりそんな墓場みたいな部署に行かされるとは、セリヌンティウスは一体何をやらかしたんだ、怖くて聞けなかった。 「もうちょっとがんばってみようかな」 セリヌンティウスがポツリと漏らす。 「いや、辞めたほうがいいかもしれない。もっといい仕事いっぱいあるって」 なんとか思い留まるよう説得するエロス。 「今日、patoさんと話してたらなんだかやってみようかなって気がしてきました。来てくれてありがとうございます」 セリヌンティウスはいつの間にか先輩に対する口調に代わっていた。 「人生なんてアスカリーチみたいなもんだ。仰々しいだけで大抵は外れる。でも、たまに当たる。だから外れたからって悔しがることないさ」 良く分からないまとめ方をして会社に向かうことに。セリヌンティウスが辞めない気になったのならば欠勤はまずい、やる気になっていても欠勤などしたら暴虐の上司にクビにされてしまう。なんとか5時までに会社にいかなければならないのだ。時計を見ると4時45分、あと15分、日没までに会社に戻らねばならぬのだ。 路行く人を押しのけ、跳ねとばし、エロスは黒い風のように走った。実際には車を運転して落ち着いて走った。助手席ではセリヌンティウスが神戸のソープランドの話をしていた。ウザかった。 渋滞にひっかかる。田舎なくせにいっちょ前に渋滞しやがる。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。 裏道を抜けて渋滞を回避、なんとか職場の駐車場に着いたとき、時間は4時59分であった。あと1分、間に合う、間に合うぞ。ダメかと思われたがわずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。 わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。5時までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。たぶんいないけど。 私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ!エロス。あと、もっと早く走れ、セリヌンティウス。 到着した時、時計は5時3分であった。このままタイムカードを押せばセリヌンティウスは欠勤として扱われてしまう。5時前だったならば9時間遅刻なだけだと珍妙な良い訳もできるが、欠勤はどうしようもない。 「間に合わなかったんですか?」 「すまん!」 「そんなことないっすよ、嬉しかったです」 息を切らす2人。そこに暴虐の上司がやってきた。最悪だ。このままではせっかくやる気になったセリヌンティウスがクビになってしまう。コピペ部というリストラリーチの部署でも頑張ってやっていくと決めたセリヌンティウスがクビにされてしまう。セリヌンティウスは覚悟し、エロスは目を瞑った。 暴君ディオニスはタイムカード前で息を切らすエロスとセリヌンティウスを見て全てを悟った。そしてそっと口を開く。 「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい」 とは言わなかった。断じて言わなかった。けれども、上司は鍵を使ってタイムカードを開け、無言で時計を5時前に移動させた。我々は間に合ったのだ。 どっと群衆の間に歓声が起った。実際にはみんな黙々と仕事をしていた。 「万歳、上司万歳」 誰も言わなかったが、弛緩した空気が流れるのが分かった。そしてセリヌンティウスとエロスは顔を見合わせる。 「よかったな、コピペ部でも頑張れよ、セリヌンティウス」 お前はコピペ部だ、リストラ要因だ!エロスにはセリヌンティウスを見下す気持ちが確かに存在した。上司がそっとエロスに近付きエロスに紙を渡す。その紙には 「エロス コピペ部に配属」 とんでもないことが書かれていた。セリヌンティウスを見下していたら自分までコピペ部になっていた。リストラ要因になっていた。死ぬほど恥ずかしい! エロスはひどく赤面した。 4/8 1ポンドの福音 絶対に負けてはいけない。負けてはいけないのだ。ワンルームのアパートに据え付けられたキッチンとは呼べない粗末な流し台の前に佇み、蛇口をひねる。程なくしてカラカラと耳障りが良く、それでいて聴きなれないサウンドが聞こえる。その異様な音に耳を傾けながらpatoは決意した。 勝ち負けにこだわることは人生を面白くするが、勝ち負けだけにこだわることは人生をつまらなくする。patoはその言葉はひどく当たり前だと常々思っている。人生は勝ち負けがあり、いつも負けてばかりでたまに勝つから面白いのだと自らを鼓舞する際に言い聞かせていた。 全てをこだわるのは愚かなことだけど、ここだけはこだわってやろう、ここだけは勝敗にこだわってみよう、patoは心に決めていた。蛇口の前で自分自身に向けてそう決意表明するのだった。 patoはもう31歳だ。今年の夏に32歳になる。そろそろ職場にやってくるヤクルトのオバちゃんに「28歳です」と何の得にもならない嘘をつくのが苦しくなってきた年齢だ。かつての同級生達が家庭を持ち、出世をしていき、それなりに温かい家庭を築いていく中、歴然たる敗北を痛感していた。気分は敗残兵だ。 きっかけは古い友人からの連絡だった。突如アパートに届いた古い友人からの便りには、笑顔で佇む友人とその奥さん、生意気そうな子供が2人写っていた。その写真の下にはボールペンで小さく、「ブログ始めました」とURLが記載されていた。 アイツが家庭を……!?それもこんな幸せそうな家庭を……!? 様々な想いが脳裏を駆け巡る。この幸せそうな写真に心霊の一つでも写っていないかと目を凝らしたが、当たり前にそういったものも存在しなく、正真正銘、見紛うことなく幸せファミリーの写真だった。 焦る気持ち、震える指先を抑えてパソコンに向かい、ハガキに記載されたURLにアクセスする。「○○のキモチ」と思いっきり友人の本名が記載された冠番組ならぬ冠ブログが目に飛び込んできた。何がキモチだ、七回死ね。そして、思いっきり行間を空けて書かれたスカスカの文章は、明らかに僕の心の中のコアな部分を侵食していった。 親からの支援があったものの一戸建てを建てたこと。将来はこの部屋を区切ってマサシとコウヘイの子供部屋にしますとも書いてあった。職場で出世し、責任ある立場になったという緊張と共に決意ともとれる文章。子供が生まれた際の涙の感動回顧録。休日は家族でドライブに行く、この間、同級生とバーベキューしました。そこには「Numeriつまんない」とか掲示板に書かれるより心臓に悪い文章たちが所狭しと踊っていた。 こいつは悪質なインターネットだ。どんな闇サイトより詐欺サイトより違法サイトより学校裏サイトより、こういった同級生のブログこそ悪質だ。政府は本腰入れて取り締まるべきだ。patoは誰に聞かせるでもなくひっそりと呟いた。 そんなpatoの周囲を見回すと、うず高く積まれたゴミの山、家族のように常に寄り添うエロ本の山、エロ本の一戸建てだ。休日は寝たりパチンコしたりしているうちに一日が終わる。どうしようもない、丸っきり負け組みの姿がそこにあった。 「負けちゃったね、pato」 どこからかそんな声が聞こえる。幼き日、想像した自分はどうだったろうか。ただ漠然と何らかの素敵な未来を想像していたに違いない。21世紀の未来は車が宙を飛んでいて人々が透明なチューブの中を移動しているに違いない、そう思うと同時に漠然と未来の自分を思い描いていたはずだ。今、自分はその場所に立てているのだろうか。過去の自分が今のpatoを見たらムチャクチャ怒るんじゃないだろうか。考えれば考えるほど呼吸が苦しくなり、なんだか喉がカラカラと音を立てそうなほどに渇いてきた。 急いで流し台に走り、コップを手に蛇口をひねる。水でも飲んで気を落ち着かせないとやってられない。気を落ち着かせないとあまりのストレスに小学生チャットを荒らしにいってしまいそうだ。patoはありったけの力をこめて蛇口をひねった。 カラカラ 多くの人はご存知ないだろう。いや知りたいとも思わないだろう。水道を停められた状態で蛇口をひねると、もちろん水なんてこれっぽっちも出ないのだけど代わりにカラカラと音がする。それはそれは心地良い音がするのだ。水道管の奥深くから蠢くような乾いたサウンドが聞こえる。本当に空だから乾いたカラカラサウンドを聞かせる、水道局もなかなかトンチが効いてやがる。 「バカな、水道まで停められたというのか……?」 ハッキリ言って水道を停められるというのは余程の事態だ。電気、ガス、電話、ネットを停められるってのはほんの序の口、スキーでいうボーゲンみたいなものだ。しかし、最後のライフラインであるところの水道は違う。水道停めたら死ぬかもしれんなという仏心が働くのか、本当に本当、どうしようもない事態に陥らない限りなかなか給水停止とはいかない。スキーでいうと美女と遭難して山小屋で裸になって抱き合うくらいのレベル、水道停止にはそれだけの価値がある。 いくらひねっても水は出てこない。急いでゴミの山を確認すると「給水を停止します」という水道局からの脅迫文が紛れ込んでいた。そんな絶望的、四面楚歌の状態でpatoはニヤリと笑った。 「面白くなってきたじゃないの。絶対に負けてなるものか」 人生の勝ち組となった同級生の写真ハガキ、その幸せを綴ったブログ、かたや水道を停められるレベルの負け組みの自分に、アホなことばかりを綴ったNumeriというテキストサイト。全てが圧倒的に負けている中でpatoは勝負魂を燃やしていた。負けてなるものかと自らを鼓舞したのだ。 「負けてなるものか、水道局め!」 その相手は同級生にでも、人生についてでもなかった。ましてや巨大な何かでもなかった。ただ見当違いに水道局に向かって闘志を燃やしたのだ。明らかに何かを大きく逸脱している。 水道料金を滞納し、それが許せないレベルまで達したので停められるのは仕方のないことだ。停められるのなんて人間のカスだし、わざわざ停めに来た水道局の人を思って平身低頭謝らなければならないと常々思っている。しかし、そこで絶対に譲ってはいけない勝負のアヤが存在するのだ。 「水道を停められたからといって急いで水道料金を払ってはいけない」 多くの人は水道を停められると焦る。本当に焦る。なんとか水道を出してもらおうと急いで料金を支払い、頼む、早く復活してくれ!と蛇口の前で祈るはずだ。しかし、それは水道局の手の平で踊らされているに過ぎない。もう、圧倒的な負け組みと言わざるを得ない。水道を停められるだけでも負け組みなのに、それ以下の負け組みと言わざるを得ない。 逆に停める側、水道局サイドの人はどう思うだろうか。水道を停めたらいきなり水道料金が払い込まれた。「やりい、やっぱ水道停められるのはきつかったか!すぐに払いおったぞあのクズめ!ベロベロバー」くらいに思うかもしれない。これはもう負けを認めるようなものだ。停められたからといってすぐに払ってはいけない、それはもう負けを認め平伏したに等しいのだ。 もちろん、人道的、道徳的、社会的体裁、全てを加味してあらゆる面から見てもすぐに払う、申し訳ないと謝るのが普通なのだけどどうしても譲れない勝負がそこにあった。人生には負けた。同級生にも負けた、後輩のほうが先に出世したし、ついでにパチンコにも負けた、けれどもここだけは負けちゃならねえ、こうなったら勝負だ、どっちが根負けするか勝負だ!水道局!こうして、patoのアパートの水道を使わない孤独な勝負が始まったのだった。 水道停止から1週間。 大した問題はなかった。どうせ飲料水なんてコーラで代用できる。洗濯はコインランドリーでできる。風呂なんて健康ランドに行けば死ぬほど入れる。もしかして家に水道なんていらないんじゃないの?そんな余裕すら感じられた。 水道停止から半月。 そろそろ限界に近い。飲料水、洗濯水、風呂水、その辺は全く問題がないのだけど問題はトイレの水だ。もちろん、水道を停められると水洗トイレの水も流れない。基本的に垂れ流し、これを読んでる人で食事中の人がいたら本当に本当に、不快な気持ちにさせてしまって愉快なのだけど、茶色い水がモンマリと便器に溜まった状態になる。匂いが凄い。明らかに管理されていない公衆便所の匂いがする。 水道停止から1ヵ月。 トイレの匂いが最強レベル。トイレだけに止まらず、部屋の中にまで漂ってくる始末。部屋全体が公衆便所。寝ていても公衆便所、飯食っていても公衆便所。心が折れそうになるも、負けてなるものかと固く決意する。これ以上のトイレ使用はやばそうなのでペットボトルにし始める。 水道停止から1ヵ月半。 匂い、ついに部屋の外へ。通路を歩いているだけで漂ってくる公衆便所スメル。不審に思ったアパートの管理会社がついに「アパート全体に異臭がしています。入居者各自でトイレ等の点検をしてください」などと異例の張り紙がされる事態に。そろそろマズいと思いつつも、負けてなるものかと唇を噛み締める。 水道停止から2ヶ月。 匂いに慣れる。周りの住人的にはたまったものじゃないだろうけど、もう慣れてしまったので全然楽勝。公衆便所臭い?ふーん、って感じ。水道なんてなくても2ヶ月も生きていける。これはもう勝利だろうと確信する。洗濯も風呂も無理なのでいつものようにコインランドリーに行って健康ランドに行くことに。 このまま2年くらい水道出なくても全然困らないよ、大勝利じゃん、などと鼻歌混じりに健康ランドの湯船に浸かる。いつもは体洗って湯船に浸かったらすぐに帰るのだけど、今日は2ヶ月も水道無しで生きられて気分が良い、いっちょサウナでも楽しむかと湯船を上がって意気揚々とサウナへ。 サウナの中には20人くらい人がいて、主にオッサンを中心に修行僧みたいになってダラダラ汗を流している。僕はこのサウナの息苦しさっていうか、ムーンと肺に来るプレッシャーみたいなのが苦手で5分といられない。それどころかサウナの何が楽しいのかサッパリ分からない。入ってみるもののやっぱりダメみたいですぐにギブアップ、もう帰ろうかと支度をする。するとサウナの横にあったある看板が目に留まった。 「蒸気風呂」 蒸気によって発汗を促します。サウナが苦手な人でも大丈夫。そう書いてあった。これならいけるかもしれない、サウナはダメだったけどこれならいける、意気揚々と蒸気風呂へ。 入ってみると、やはり蒸気風呂と銘打つだけあって蒸気がものすごい。入った瞬間にムーンと蒸気が押し寄せてきて部屋全体が暑い。中には先客が2人いるみたいで、一人はバーコードハゲのオッサンが汗をダラダラ流し、もう一人はボクサーみたいな若者が瞑想をしていた。 中は本当に蒸気だけ出るようになっていて、そこに4つ石の椅子が置かれている。それ以外に何もなく照明も暗い。テレビやなんかが置かれて人も多いサウナに比べるとあまりにも暗くて寂しい。けれども、息苦しさもさほどでもなく、確かに蒸し暑いけどこれなら我慢できると睨んだ僕はちょうど先客の間に置かれた椅子に腰かけた。 これならある程度我慢できるだろう。よし、勝負だ。僕は先客2人より長い間この蒸気風呂を我慢してみせる。絶対に負けない。心の中でそう決意し、勝手に勝負魂を燃やす。 30分経過。 バーコードもボクサーも微動だにしない。僕はもう限界に近くて汗をダラダラ流して大変な状態だった。はやく出ろよコノヤロウ、などと心の中で唱えていた。そこには負けられない戦いがあった。 45分経過。 ついにバーコード動く。「うひゃあ、暑い暑い」とか言いながらチンチンをブラブラさせて蒸気風呂から出て行った。ついに勝利。残すはボクサーを倒すだけだ。 50分経過。 異常発生。なにやらボクサーの動きがおかしい。 いや、ボクサーは動いてなくて、相変わらず下を向いて微動だにしていないのだけど、明らかに何かがおかしい。何か変だと思いながらよくよく見てると、ジリジリとこっちに動いてきていた。意味が分からない。 55分経過。 とんでもないことを発見する。1分間に数ミリくらいのオーダーで僕に近づいてくるボクサーをチラチラと見ていたのだけど、その股間が明らかに大変なことになってる。フルチャージで勃起してやがる。フェイスタオルで股間を隠していたのだけど、そんなの意味ないぜって言わんばかりダイナマイトしていた。その立ちっぷりや、そびえ立つソビエトみたいな感じ。意味分からんけど。 とにかく大変なことになった。今やこの狭くて仄かに暗い蒸気風呂の中で僕とボクサーは2人っきり、しかも相手は勃起してやがる。ジリジリと僕に近づいてきやがる。ここは大事をとって逃げ出したいのだけど、彼より先に蒸気風呂から出ることは敗北を意味する。徹底的に勝負にこだわっている僕はこんなところで負けるわけにはいかない。 もしかしてこの蒸気風呂だけ目立たない場所にあって暗いのは理由があるんじゃなかろうか。じつはここはホモのハッテン場とかになっていて、それがユーザーの間では暗黙の了解。だからさっきのバーコードも妙にソワソワしていたんじゃなかろうか。そんなところにやってきた僕、これはもう貫かれてしまうんじゃないだろうか。逃げ出したい、今すぐ逃げ出したい。でも勝負に負けるわけにはいかない。 ビクビクしているとボクサーが動いた。 「ふぃー!」 安堵の呼吸をしておもむろに立ち上がる。あまりの事態に驚いた僕は 「ヒィ!」 と意味の分からない悲鳴を上げていた。相変わらずボクサーはギンギンだ。まるで僕に見せびらかすように己のマグナムを見せ付けている。それを見た僕がウットリするとか思ってるのかもしれない。 しかも恐ろしいのは、立ち上がったボクサーが蒸気風呂から出て行くわけでもなく、その場でスクワットを始めたからさあ大変。フンッフンッ!とか上下に動くボクサー、おまけにギンギンですよ、歩く電動こけしみたいな状態になっとった。これはもう盆と正月が一片に来て、ついでにお婆ちゃんにも生理が来たみたいな状態ですよ。 これは不器用なボクサーの愛情表現!求愛行動!そうとしか思えない僕は恐怖に震え、もうボクサーの方を見ることも出来ず、俯きながら「ごめんなさいごめんなさい、許してください、水道料金もちゃんと払います、弟のお金も返します、本もちゃんと送ります」神様に向かって必死の懇願。蒸気の中でスクワットするボクサーに体育座りみたいな状態でブツブツ呟く僕と、まあ知らない人が見たらすごいシュールな光景ですよ。おまけにボクサービンビンですからね。 結局、あまりに激しいスクワットのためにフェイスタオルがハラリとめくれて僕の眼前に落ち、それをボクサーが「おっとっと」とか言いながら照れくさそうに拾いに来た時点であらゆる意味で限界と感じ、そそくさと逃げるように蒸気風呂から出たのでした。歴然たる敗北。 寒さではない、恐怖でブルブルと震える僕は、圧倒的な敗北感を胸に家路へとつき、大人しくコンビニで水道料金を払ったのでした。もうこんな何の意味もない無益な勝負に熱中しない、そんな意思表示でした。間違った勝負だけはしちゃいけねえ、部屋は臭いわ怖い思いするわ何も得るものがねえ。 人生とは勝負の連続です。勝つこともあるでしょう。負けることだってあるでしょう。その勝敗にこだわることは人生という退屈なクソゲーを面白くしてくれます。僕のように勝負どころを間違わず、もっと有益な部分で勝敗にこだわってみる、それこそが極上のスパイスなのです。負けたっていい、勝てる部分で勝てばいいのです。 件の同級生のブログ、人生レースの敗北という辛酸を味わされた悪魔のブログですが、人生では負けたけどインターネットでは負けないぜ!俺、インターネットは得意なんだ!負けないぞ!とそのブログに 「久しぶり!高校の時同級生だった○○だよ!この間健康ランド行ったらボクサーみたいなホモにギンギンのチンコを見せつけられたよ!怖かった!」 と全てのエントリーにコメントにしまくってたら、「このブログは子供もみるのでそういう書き込みはご遠慮ください」とひどく他人行儀なメッセージと共にアクセス禁止にされました。インターネットでも負けた。その横でトイレ代わりに使っていたペットボトルが腐臭を放ち始めていた。 4/1 山が動く日 山が動いていた。 人間とはワガママな生き物だ。もし神という全知全能の存在がいて人類のことを見守っているとしたら、さぞかし腹立たしいと思うことだろう。人類ムカつく!ワガママすぎる!くらい思ってるかもしれない。それほどに人間はワガママだし、相反する考えを矛盾という入れ物に内包して生きている。 例えばこうだ。多くの人は毎日変わることない平凡な繰り返しに飽き飽きとするだろう。刺激を求め、変化を欲する。祭囃子に耳を傾け、突然訪れる恋に胸躍らされる、見たこともないような想像したこともないような華やかな世界に身を置く夢を見る、ハラハラドキドキの刺激を求める、そんな一面がかならずあるのだ。より新しいものを、新しいものを、現状よりも新しい何かに変化を求めて、まだ新しいものにまで変化を求める。それは決して逃げられない人間の性なのだ。 その反面、変わることない平凡な日常に安堵を覚えることもある。どうしようもない日常でありながらも、その安定と繰り替えしにどこか心が安らぐ気持ちを抱いている。毎日がジェットコースターじゃ身が持たない。ゆったりとしたメリーゴーランドのような日々こそが大切なんだ、古く変わらないものに何より安堵する。これもまた人間の持つ性だ。 刺激を求めつつ安定を求める、古きを懐かしみつつ新しさを求める。極端に言い換えてしまうとリアルとドリームの狭間で揺れ動いている。人類とは何ともワガママなものだと思わずにはいられない。 朝、職場へと向かう通勤経路、いつもの如くハンドルを握って車を走らせていた。もうウンザリするくらい繰り返される朝の風景。まるでビデオを再生したかのように同じ景色がフロントガラスを流れていく。その退屈なリピートにウンザリしながらもどこか安心している自分がいた。 これが毎日同じ風景だからいいのだ。下手に刺激があって、例えば巨石が落ちてくるとかだったらおちおち通勤していられない。畑にでも向かうのだろうか、毎日7時45分にこの交差点で見かける老人だって、いつもと同じ作業着姿で半分口が開いてるから安心するのだ。下手に刺激があってある日いきなり全裸で現れたりしたら、ついにボケたかと身悶えて通勤どころの騒ぎじゃない。変わることない日常だからこそ安心できるのだ。 けれども、やはりこの退屈さはいかんともしがたい。ワガママだとは分かっている、変わらない日常だからこそ安心であることもわかっている、それがどんなに罪深いことかも分かっている。それでも、何か刺激的な変化があってもいいんじゃなかろうか、そう考えながらハンドルを切ると、そこには何か得体の知れない違和感が待ち構えていた。 「あれ、なんかおかしいな」 確かに普段とは何かが違っていた。山道の一本道。その手前で年度末調整か何かだろう、まだ綺麗だった道路を無理矢理掘り返す工事が始まり、片側交互通行になっていた。けれでも、そんな変化とは違うような、何か途方もない違和感が悶々と心の中に取り付いていた。 何かがおかしいはずなのに考えても分からない。何かが絶対に違う。何かが明らかに変わっている。けれどもそれが何なのか分からない。何かとてつもないことが起こってるに違いない、そう考えてハラハラしていたら職場に到着してしまった。 次の日の朝。また同じように通勤して同じ景色を見る。いつも見かける老人も相変わらず健在だ。けれども、また工事現場を過ぎた辺りから異常な違和感に襲われる。どうも、高台の電柱のあたりに途方もない違和感を感じるのだ。 工事現場を過ぎて坂道を登りきったあたりは高台のようになっていて眺めが良い。1年位前のある日、この絶景ポイントに電柱が立てられた。絶景ポイントが台無しじゃんかと思いつつも毎日その横を通っていたのだけど、ある日、異様な便意に襲われたことがあった。 山道で周囲には何もなく、とてもじゃないが我慢できるレベルの便意じゃなかった。そこで僕は本当にどうしようもなく、周囲に人もいなかったし、その、ゴニョゴニョした。隠さず言うとノグソした。まだ真新しかった電柱に隠れるようにして、ホント、電柱の影に隠れてするのって大変だぜ、と思いながらゴニョゴニョした。 それからこの高台の電柱は僕の戦友となり、毎朝見る度に不甲斐なくゴニョゴニョした思い出が蘇っていたのだけど、どうもその電柱辺りから異様な違和感を感じずに入られない。何かがおかしい、何かが絶対に違う、そう考えながらも答えには至らなかった。 次の日、相変わらず通勤風景は同じで、いつもの老人もご健在、というかこの人はロボットなんじゃなかろうかと思うほどに同じすぎる、そしてまた問題の違和感ポイントに差しかかった時、ついに車を停車して電柱の横に立ってみた。 「やはり何かおかしい。何かが違いすぎる」 ユックリと電柱の周りを周りながら検証する。ノグソに関係あるのかとも思い、あの日のようにその体勢にスタンバイしてみた。そして、途方もない事実に気がついたのだ。 「山が動いてる」 明らかに山が動いていた。この高台の向こうに見える壮大な山、名前なんて知らないけどそこそこの高さはありそうな山が明らかに動いていた。確かに覚えている、この電柱の陰になるようノグソをした位置で向こうの山々を見ると、丁度正面に2つの山が見え、その先端近くに鉄塔が誇らしく建っていた。その光景がおっぱいみたいで、山がおっぱいに見えるとはね、俺もそろそろお迎えが近いかもな、ヘヘッとか感慨に浸りながらノグソしたもんだった。 それが今やどうだ、確かに高台の向こうには2つのオッパイ山脈が見える、鉄塔も興奮しきった乳首のように鎮座しておられる、それ自体に何も変化はない。けれどもその位置が明らかにおかしい。絶対にノグソポジションから正面にあったはずなのに、もう今や右前方40度くらいの位置に変わってるのだ。山が動いたとしか考えられない。 「まずい、とてつもない事態になったかもしれない」 僕は急いで車に乗り込み、まるで逃げるかのようにその場を離れた。別に安いシャブをやってるわけではない。理論的に考えても山が動くはずがないことも分かっている。地殻変動の類で動いたとしても、そんなの年に数ミリ数センチのオーダーだってのも理解している。けれどもあの山々は明らかに、それもとてつもない規模で動いているのだ。それは覆しようなのない事実だった。目を背けてはいけない僕達のリアルだった。 僕は驚きより何より恐怖を覚えた。山が動くということはそれだけの想像を絶する何かが起きてるということだ。とてつもないことが起こっているのだ。そして、ふと、ある有名な民話が頭をよぎったのだ。 ベルギー南部ワロン地域に居住するワロン民族の間には以下のような民話が伝わっている。時代は産業革命華やかりし頃、工業化が盛んに叫ばれるヨーロッパにおいてワロン地域も同様に多くの工場が立ち並び始めていた。これまで川と共に生きてきたワロン民族も、便利さをもたらす工業化に心奪われ、古くから自然と共にあった生活様式を捨て始めていた。 ムーズ川のほとりで一人の羊飼いが仕事をサボって昼寝をしていた。この羊飼いはある時、川の形状が変わっていることに気がつく。始めは些細な変化であったが、日ごとにその変化量は増大していた。 アマゾンなどでは大雨の影響で一夜にして川の場所が激変することもあるらしいが、ムーズ川のように穏やかな川では考えれないことだった。驚いた羊飼いは村の大人たちにそのことを伝えるが誰にも理解してもらえなかった。羊飼いだけが川の変化に気付いていたのだ。 そして、川は日に日に形を変え、意思を持った生命体のように、まるで村を飲まん勢いで姿を変えた。いつしか穏やかだった川が濁流に姿を変え、村の隣りまで及んでいた。恐怖に駆り立てられた羊飼いは避難するよう村中を大声で駆け回る。しかし、工業化に没頭し、そもそも川に興味がない村人は、ついに羊飼いが狂ったかと思い、羊飼いを縛り付けて閉じ込めてしまう。そして、その夜、大きな洪水が村を襲う。工場も村人も羊飼いも、全てが濁流に押し流されてしまい、後には何も残らなかったという話だ。 これはワロン民族の間で、川と共に生きてきた民族が川を軽視したために戒められた、として今でも語り継がれている。そして、自然の変化に目を配ることの大切さを次世代へと伝えているのだ。それ以降、ワロン民族は頑なに近代化を避けている。 これはもう、便利さを追求した上での環境汚染、それに伴う異常気象に通じる大変な問題提起だと思う。ホント、感心するばかり、僕らは地球環境や大自然にもっと目を向けるべきだ、ガソリンが25円下がるとかそんなことより大切な問題があるはずだ、そう思うのです。とにかくこの民話は感心するばかりだ、現代社会が抱える問題や病理をこんなにも的確に現した民話があるだろうか、と感嘆するばかりなんだけど全部嘘です。なんだよ、ワロン民族って。バカじゃないの。 とにかく、そんなウソ民話はどうでもいいとして、問題はあのオッパイ山脈だ。あれが動いてしまったのは紛れもない事実。もしかしたら日本沈没とか大地震とかそういったレベルの大異変の前兆かもしれない。どうしていいか分からず気が動転した僕は職場の喫煙室で後輩に相談した。 「なあ、今から言うことを驚かず聞いてくれ」 「なんすか!またパチンコで負けた話スか?」 「違うんだ。もっと真剣な話。本気の話。すごいことが起こってるかもしれない」 「なんすか!なんすか!」 後輩は目を爛々と輝かせていた。彼もまた、退屈な日常を重んじつつ、新しい刺激を求めている人類そのものなのだ。そこまで期待されると言っていいものか迷うのだけど、それでも意を決して相談してみた。 「実はな、毎朝通勤の時に見る山が動いてるんだよ。それもちょっとじゃない、信じられないくらい動いてるんだ」 それから切々と、どんなレベルで山が動いているのか、なぜそれに気付いたのか、迷ったけど包み隠さずノグソの話もした。もしかしたら日本列島の、いや地球の終わりの始まりかもしれないと話をした、ワロン民族のウソ民話の話もした。それを受けて後輩は一息ついてこう言った。 「patoさん、疲れてるんスよ。一緒に大きい病院行きましょう。大丈夫、俺、そういうのに偏見とかないっスから」 すごい勘違いされてる!なんかすごい上から目線で憐れみを持たれてる! 「いやいやいや、本当に本当だって。どう理論的、物理的に考えても山が動いてるんだって!」 「別にそんなのどうでもいいっすよ!」 信じてもらえない僕は羊飼いだった。 「いや、ホントにホント、さっきのワロン民族の民話はウソだけど山が動いたのはホントなんだって」 「どっちでもいいっすよ」 「マジだって。よーし、そこまでいうなら今度の休み検証しに行こう。山が動いた痕跡とかあるかもしれないし」 「えー、やですよ。面倒くさい」 こうして、山が動いたという事実に驚愕する僕と、興味津々、もう抑えられないといった知的好奇心溢れるミステリーハンター後輩は、動いたオッパイ山脈の謎を検証すべく立ち上がったのだった。 休日の朝、問題のオッパイ山脈が見える高台で待ち合わせた二人は、もう辛抱たまらないといった按配で検証を始めた。 「前はこの電柱から正面にオッパイが見えていたんだ。それが今は、こっち、角度にして40度は動いてる。どうだ、驚いただろう」 「そんなことより眠いっすよ。休日なのに早起きなんて……」 半信半疑だった後輩も壮大なる謎を目の前にして興奮気味だ。若いってのは良いことだ。それだけでこちらも元気になってくる。とにかく、この高台で話していても埒があかないので実際に山のふもとまで行って検証することにした。 「いやー、でも山が動くとか本当にワクワクしてくるよな。日常っていう安堵感に包まれながらこういう刺激を受けることが大切なんだよ」 「そうっすか?俺は日常でいいっすよ」 「日常を望むってのは古いものを大切にする心、でも新しいものも欲しいだろ?そして、新しいものを持っていてもさらに新しいものも欲しくなる。それが刺激なんだよ。人間とはつくづく業が深い。カルマの塊だ」 「はあ」 僕のありがたい話に後輩も涙、といったところでしょうか。とにかく、山道をワイルドに運転しながらオッパイ山の麓を目指します。 「それにしてもなぜ山が動いたのだろうか、火山活動の前兆?それにしてもダイナミックすぎる。どう思う?」 「それより、なんでウォーズマンってマスク取るとカニの中身みたいなんっすかね」 知るか、バカ。 微妙に噛みあわない会話をしつつも、ついに車でいける限界ポイントに到達、なんかショボいキャンプ地みたいになってた。都会派の人ってあまりピンとこないかもしれませんけど、有名な山、地域を代表するような山ってちゃんと登山道みたいなのが整備されていたりするじゃないですか。ちゃんと山まで続く道路もあって人とかも住んでいたりね、でも、正式名称も知らないような雑魚レベルの山々って道路が繋がってないとか普通にあるんですよ。 もちろん、オッパイ山脈も道路が繋がってなくて、どうやって乳首にあたる鉄塔を建てたのか謎なんですけど、とにかく山まで行く手段がないっぽいんですよね。で、仕方なくここからは歩くことに。 「なんで歩いてまで行くんですかー、帰りましょうよー」 「山が動いた痕跡とかあるかもしれないだろ」 「ないですよー、それより週明けに大きい病院いきましょうって、一緒に行きますから」 草木をかき分け、とんでもない段差の岩とか登りながらついにオッパイ山の麓に到達。 「よし!ついに到達したぞ!早く山が動いた痕跡を探すんだ!」 と振り返ると後輩の姿が見えない。あの野郎逃げやがったか、とか思うのだけどどこからともなくか細い声が聞こえる。 「たすけてくださいー」 見ると、後輩はなんか前は川だったみたいな溝に思いっきり落ちていた。深さ2メートルくらいあったかもしれない。足を踏み外して落ちていた。横幅は狭いわりに深さのある不自然な溝だった。とてもじゃないが自力では登れないような禍々しき溝に愛すべき後輩が今まさに飲み込まれようとしていた。 「くっ、これが謎に近づいた我々に対する山の神々の仕打ちか。なるほど、どうやら我々は知りすぎてしまったようだな。しかし、それだけ真実に近付いているということだ」 「そういうのはいいんで早く引き上げてください。殺しますよ」 のれない後輩なんて助けたくなかったのだけど、さすがに人道的にまずいのでなんとかして引き上げようと思案します。 「まってろ!今助けてやる!」 と言ったはいいものの、なんか引き上げる道具とかないし、かといって自分が溝の中に助けに行ったら昇れなくなって携帯も繋がらなくて2人ともお陀仏だし、で困ってしまいましてね、しょうがないから 「まて!この溝はもしかしたら山が動いた痕跡じゃないか?だっておかしいだろ、こんな溝があるなんて。きっと山が動いた時にできた歪がこうして溝になって表れたんだよ!そうに違いない!」 と誤魔化してたら、なんか後輩が黙っちゃっててシャレにならない雰囲気がムンムンしてきたので本気でなんとかしようと画策します。 「ロープとかないと難しいかもしれない」 「ああ、それなら僕の車の中に仕事で使うロープありますから、取ってきてください」 ええー、車まで戻るの、それでもう一度ここに?ないわー、ジョークきついわーって思ったのだけど、さすがにそれってまずいじゃないですか。仕方ないので後輩を置いて嫌々車まで戻ることに。 で、またもや過酷な草木ロードを超えてなんとか車まで戻ったのですが、なんていうんでしょうか、後輩の車の中にロープなんてないんですよね。なんか後部座席にYesNo枕みたいなカワイイクッションが置いてありましたけど、「助けに来たぞー」ってこのファニーなクッション持っていったら死ぬほど怒られると思います。 しょうがないので車を運転して高台ポイントまで戻り、そこからさらに街まで車を走らせることに。高台ポイントのところに工事現場があってロープくらいありそうだったけど、さすがにそういうのって盗人というかシーフじゃないですか。だからちゃんと街まで戻ってホームセンターでロープ買いましたよ。ついでに腹が空いてたのでCoCo壱番屋でチーズカレー400g辛さ普通を食って戻った。 「すまんすまん、ロープがなくて街まで戻ってた!今助けるぞ!」 「逃げたかと思いましたよ」 その冷徹なセリフが逆に新鮮だったね。普段の朗らかな後輩からは想像できない新しい変化、これこそが俺たちのリアルだった。 早速、近くにあった木にロープを結びつけて溝の中に渡します。後輩もそのロープを手がかりに全体重をかけて溝を登ろうとします。 メキメキメキメキ 細っそい木でしてね、なんか笑っちゃうくらい豪快に木が折れちゃいましてね、なんか後輩も溝の中でスッテコロリン。 「見ろ!植物がこんなにも弱っている、これはきっと山が動いた影響に……」 「いい加減にしてください」 すごい冷淡な、こんなのってあるのって感じで冷たく言われて、すごい怖かったので太い木にロープを結んで後輩を助け出したのでした。 「さあ、まだ日は高い、急いで山が動いた痕跡を探そう」 「帰りますよ」 「この謎を解明するんだ!」 「帰りますよ」 「はい」 有無を言わさぬ迫力ってこういうのを言うんですね。ホント、新しいわー。普段の日常生活を営んでいたらこんな後輩絶対に見れない。 「patoさん、なんかカレーの匂いしますけど、まさかロープ買いにいった時に食ってませんよね」 「食ってないよ」 まさか400グラムも食べたとか口が裂けてもいえなかった。結局、集合した高台に戻り、そこで後輩とはお別れ。 「もうpatoさんとは二度と遊びません」 と、照れ隠しなのか、余程楽しかったのか、自分の想いとは裏腹なことを言ってました。こう言ってますけど、やはり彼だって今日のような非日常の大冒険は楽しかったはずなのです。 僕らの日常は、安堵を覚える変化のない繰り返しです。けれども、実際には新しい刺激に溢れている。実は変化に溢れている。そうやって溢れていてもさらに新しい刺激を求め生き続ける、そんな業の深いところが人間の魅力なんじゃないでしょうか。ちょっと目を凝らせば至る所に新しい何かは落ちている。そうやって日々を生き抜くべきなのだ。 「それにしてもなんで山が動いたかなあ」 また一人になってノグソポイントでオッパイ山脈を眺める。電柱を見上げ、そこにあったプレートを見て自然と笑みがこぼれたのでした。なるほど、だから山が動いたか、新しいものなのにさらに新しいものが欲しいとは、つくづく人間は業が深い、その真実に新しい刺激を覚えながら家路につくのだった。 3/29 ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負完結編- ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負完結編- テレクラ100番勝負もついに佳境!笑いあり涙ありの名勝負をカックラキン大放送いたします!暇だったら聞いてあげてください。放送中のお便りなどは左側にあるメールフォームから頂けるとありがたいです。 放送開始 3/29 20:35〜 聞き方が分からないなどはスレで聞いてみてください。 放送内容 3/24 秒速5センチメートル 「ねえ、秒速5センチメートルだって、知ってる?」 「桜の花びらが落ちるスピード」 東京や静岡などに桜の開花宣言が出され、めっきり春らしく、そして温かくなった昨今、ピンク色に彩られた日本人独特な感傷的な気持ちに浸る機会が多くなるかと思います。 常日頃から思うことなのですが、桜というものは、その美しさ、雄大さ、豪快さ、数日で散ってしまう儚さも確かに素晴らしいのですが、その咲き誇る時期が反則に近いんだと思う。誰しもが感傷的にならざるを得ない説得力を持つ大きな要因になっている。 桜の時期といえば、言うなれば卒業入学シーズン、社会人になっても転勤や新入社員の登場などで何かと出会いと別れが多いシーズンだ。この時期ってのはやはり特別で心の奥底に影響を与えやすい。そんな時期に咲き誇る桜だからこそ何か特別な感情と共に記憶に刻まれる。 例えばこうだ。田舎の大学で女子大生としてキャンパスライフを楽しんでいた芳江は、同じ大学に通う高志とサークルを通じて知り合う。他に何の娯楽もない大学、2人が惹かれあうのに時間はいらなかった。 「実は、入学してすぐ芳江のこと気になってたんだ」 「またまたあ」 「いや、ホントだって。大学の入り口のところに桜の木があるだろ。舞い散る桜の花びらの下に芳江がいた。それからずっと好きだった」 「私も……高志のこと……ずっと好きだったよ……」 でまあ、田舎町ですし、お互いに大学近くのアパートで一人暮らしですよ。やることっていったらおセックスくらいしかないですわな。もう朝から晩までおセックスおセックス。そうこうしているうちに高志が留年してしまうんですね。セックスに夢中になるあまり留年とかかっこわりい、とか高志の自虐ギャグも冴え渡ります。 それから数年、桜の花が咲き、芳江は卒業を迎えます。一流企業に内定を貰い、正に門出といった表現が適切なほど誇らしい卒業を迎えた芳江、反面、留年グセがついた高志はまだ2年生でした。最近ではめっきり大学にも行かなくなり、夜ごと歓楽街に繰り出すか、止められた仕送りを補填するためにアルバイトに精を出す毎日。 「いいよな、いいよな、エリート様は」 それが高志が芳江に対する時の口癖でした。その言葉を聞くたび芳江は悲しい気持ちになり、自分は高志のためにならない女だったんだろうかと涙する。それでも芳江は頑張って 「ねえねえ、聞いてよ、高志。今日、ゲシュタポ教授の授業でさ」 と話を振るものの、高志の返答は冷淡なものだった。もう2人の関係は冷え切っていて、ただ惰性で同じアパートに暮らすだけでした。 卒業式。同期の友達は艶やかな衣装に身を包んでいます。晴れ着だったり袴姿だったり、けれども、どうしても気乗りしない芳江はいつもの服装のままでした。奇しくもそれは入学時に着ていた、普段着ではあるけど少しかしこまったワンピース。 「きっと高志は来ないんだろうな……」 桜の木の下で佇む芳江、そこには信じられない光景が。なんと、そこにはスーツ姿の高志が花束を持って立っていたのだ。 「卒業おめでとう、芳江」 「高志、どうして……?」 「おれ、自分が不甲斐ないのを全部芳江のせいにしてた。芳江のせいで進級できなくてってずっと恨んでいた。でも、それは間違いなんだよな。不甲斐ないのは全部自分の責任。桜を眺めていたらそう思ったんだ」 「高志……私のほうこそ、ごめんね」 「謝るなよ、芳江はなにも悪くない」 少し強めの風が吹き、散るには早すぎる桜の花びらが何枚か2人に降り注ぐ。 「あの日、芳江を始めてみた日みたいに戻れるかな。この花びらみたいにユックリでいい、少しづつ少しづつ失った時間を取り戻せるかな」 「わたし、ずっと高志のこと待ってるから」 桃色に彩られた桜の木は、まるで相合傘のように2人を覆っていた。 ていうね、まあ、遠距離恋愛になって3ヶ月ぐらいで高志はパチスロにハマってまた留年、飲み屋で知り合った女とくっつくんですけど、芳江も芳江で入社した大企業のやり手の先輩社員と同棲し始めるんですけど、そいつがとんでもないDV男だったっていう結末を迎えるんですけど、それはまた別の話。とにかく、こういった思い出と重なりやすい時期に存在する桜、そこには否応無しに印象付けられる力が存在するのです。 みなさんも親しい人と別れた記憶がありませんか。別れとはなんともあっけないものだろうと心を痛め、それでも気にしていない素振りで日常生活を営まなければならなかった経験はありませんか。その傍らには冬を抜けて温かくなりつつあった気候と、桜の木がありませんでしたか。 逆に、大切な人や、自分の人生において脇役ではないキーマンと出会った時、その傍らには桜の木がありませんでしたか。その時の風景を思い返すと桜の木があったりしませんでしたか。人と人との出会いと別れを司る桜の木、だからこそこんなにも愛されてるんだと思います。 かくいう僕にもありました。満開に咲き乱れた桜の花びらを見る度に思い出す、胸がキュッと締め付けられてどうしようもない思いに駆られるセピア色で桃色の思い出が。 あれは僕が小学校の時でした。ウチの小学校はイチョウの木と桜の木が自慢の小学校で、その植物群に沢山の野鳥が集まってくるのどかな学校でした。春には校庭に満開の桜が咲き誇り、秋にはイチョウの木から落ちた異臭を放つ銀杏を投げあう銀杏大戦争などが楽しめたものです。 何年生だったか忘れましたけど、4月になって学年が上がり、なんか担任の先生もヒステリックなババアから普通のババアに変わってワクワクドキドキ、これから始まる新学年に期待を膨らませていました。窓際の席だった僕はボンヤリと校庭を眺め、その綺麗な桜の木々を眺めながら何か別の世界にトリップしていました。 「転入生を…」 担任の声がどこか遠くに聞こえつつ、転入生という言葉に敏感に反応、もうすでにニューカマーは登場していて黒板に名前書かれて自己紹介していました。転入生といえばなぜかロクなのが来ないってのがウチの学校の伝統でして、盗みグセのある岩田君とかとんでもない人々を輩出してきた経緯があるので、またとんでもないヤツが来たんだぜ、と今まさに紹介されている転入生を見ると、そこには可憐な女の子が立っていました。 スカートをはいたその子は途方もなく魅力的でした。田舎の小学校でしたので、女の子なんてほとんどジャージとかでしたし、ゴリラみたいな怪力勝る女子が多い中で、どこか都会的で洗練されたイメージを受ける女の子でした。 「はじめまして、○○さくらといいます。よろしくおねがいします」 サクラちゃんか。なんてカワイイ女子だろうか。窓の外に見える桜の木のように艶やかで可憐だ。僕はこの刹那、一瞬で恋に落ちてしまったのです。 しかしまあ、ガキどもなんてどうしようもないもので、ちょっとカワイイ娘っ子がいると皆好きになっちゃうもので、クラスの男子のほとんどがサクラちゃんのことが好きだっていう異常な状態になっちゃいましてね、彼女に親切にして好意をアピールする男子、逆に意地悪するくらいしか愛情表現できない男子と様々、それに嫉妬するゴリラみたいな女子たち、と異常な状態で1年間が過ぎていったのです。 もちろん、ありえないくらい奥手でトゥーシャイシャイボーイだった僕はサクラちゃんと会話することもなく、それどころか近寄ることも出来ず、まんじりともしない想いを抱えて1年間を過したのでした。 そんな折、途方もないニュースが舞い込んできました。もう2月も終わりに近付き、この学年も終わり近付いたその時に、担任のババアから衝撃のニュースが告げられたのです。 「3月下旬に桜満開運動会が開催されます」 ウチの学校は、父兄たちで構成される子供会のトップあたりに運動会キチガイがいたみたいで、なぜか学校主催の運動会と子供会主催の運動会、と年2回の運動会が当たり前でした。普通は5月ごろに「こいのぼり運動会」と題して5月の連休に開催されていたのだけど、それが雨で中止、予備日も雨で中止と呪われているとしか思えない不運続きで開催できないでいた。 その代替案として、気候も温暖になり、それでもってまだ現学年である3月下旬に開催しよう、それならば学校も春休みで開催しやすい、3月下旬に「こいのぼり運動会」はまずいだろう、「桜満開運動会にしよう」と相成ったわけでした。春休みに運動会とか頭おかしい。 さて、運動会当日。桜の花がチラホラ咲いているとはいえ、まだまだ肌寒い中で運動会をさせられる児童たち。全然満開じゃないですからね、どこが「桜満開運動会」だ。しかし、父兄の方はといいますと一緒にお花見もできてこりゃええわい、といった趣で大変賑わっていました。春一番というんでしょうか、強風が吹き荒れる中での開催で、テントなどが紙くずのように吹っ飛ばされていましたが、それでも滞りなく徒競争、リレー、綱引きなどが消化されていきました。 子供会主催運動会の大きな特徴といえば、学校主催とは違い、父兄たち保護者が一緒に参加する競技が多かったのです。どの競技にもうざったいくらい保護者が絡んできてですね、親子の絆、みたいなのをしきりにアピールしてくるんです。 そんな中、うちはクソ貧乏だったので親父は休みなく働いてましたし、母親は体が弱くてそれどころじゃないって状況でして、運動会に両親がやってきたことなかったんですね。今でこそ、ハンディカムのCMとかで子煩悩なお父さんとかが運動会を撮影したりしてますけど、そういうのって現実味がないくらい運動会と両親が繋がらないんです。 昼休憩になると、どこの地域の運動会でもそうだと思いますが、やってきた保護者とシートでもひいて一緒にお弁当を食べる楽しい時間があると思います。「お父さん、僕1着だったよ!」「偉いぞ!」「あなたにて運動神経がいいのよ」「がはははは」みたいな心温まる会話が展開されるのですが、これがもう、両親が来ない児童にとっては途方もない苦痛で仕方がない。 あちこっちで家族団らんが展開されている中で、一人ポツンとシートに座ってですね、たまに担任の先生なんかと一緒に弁当を食べるんですよ。見ると一クラスに数人くらいそういった子がいましてね、悲しきランチが展開される孤独の旅、横見るとウチの弟がいて、毛むくじゃらの体育教師みたいなのとひっそりと弁当食ってて孤児みたいになってた。 でまあ、今年も担任と昼飯食うのか、微妙に気使って嫌なんだよなーって思いつつ用意されたシートに向かうと、そこにはサクラちゃんの姿が。 「ウチは両親とも仕事で忙しいから……」 とかいって寂しそうに弁当を食べてました。ホントね、これは興奮したよ。大興奮だよ。盆と正月が一緒にやってきて、ついでに見たこともない浮浪者風のオッサンが「叔父だよ、元気してたかい」ってやってきてウチの親父に追い払われてたみたいなもんですよ。あのオッサンはそうやって他人の家に上がりこんでは飯食ったりしてるみたい。 そんなことはどうでもいいとして、恋をしていたサクラちゃんとシートの上でお弁当ですよ。もう喋ったことすらほとんどないのにいきなり一緒にランチとかランクアップにも程がある。まあ、担任のババアがいて2人っきりってわけにはいかなかったんですけど、「2人の邪魔するな、心臓発作で死ね」とか思ってたら、本当に父兄に呼ばれたみたいでイソイソとどこかに消え、マジで2人っきりになってしまったのです。 「なんかさあ、春休みに運動会とか頭おかしいよね」 何を喋っていいのか分からず、そんな会話を展開したのを覚えています。するとサクラちゃんはフッと寂しい表情に変わり、こう言いました。 「私は嬉しいけどな」 僕はその意味が分からず、サクラちゃんがかわいすぎて目線すら合わせられないのでシート脇に佇む桜の花を眺めていました。 「そっか、pato君は休んでたから知らないのね、実は私ね、新学年からは千葉に転校することになったの」 たぶん、春休み前の登校最終日なんだろうけど、僕は飼ってた猫が車に轢かれて死んだという理由でショックを受けて学校を休んでいたのです。どうもその時にサクラちゃんの転校が発表されたらしい。なんで人が休んでる時にそんな重大な話をするかな。 「そう、なんだ……」 どうしていいのか分からなかった。それ以上にショックだった。サクラちゃんがどこかにいってしまう。その事実を受け止められないでいた。 「だからね、こうやって最後に運動会ができてよかった。ちょっと寒いけどね」 重苦しい沈黙がシートを包む。周りの喧騒が恨めしかった。もちろん、何も出来ない自分に腹が立ってどうしようもなかった。初めて交わした会話がそんな内容だなんてそりゃないよ。その空気を察したのか察しなかったのか、サクラちゃんは切り出した。 「私は親の都合で転校は慣れてるから。それよりpato君のお父さんお母さんはどうしてこないの?」 パニック状態の僕は、それでもなんとかサクラちゃんと会話を交わす。 「親父は仕事が忙しいから」 「そうなんだ。うちと一緒だね」 サクラちゃんの口ぶりから、彼女の両親はバリバリの商社マン的な感じだった。それは彼女の裕福な感じからも存分に感じ取れた。それとウチの親父が同じ?違う、大きな勘違いをしている。ウチの親父は見紛う事なきキチガイだ。 「これから午後の競技を始めます」という放送と共にやかましい音楽が流れる。それは僕とサクラちゃんが交わす最初で最後の会話、それが終わることを意味していた。 「じゃ、午後からも頑張ろうね」 その時だった。また、サクラちゃんの笑顔が眩しすぎて目を合わせられなかった僕は、フッとグラウンドの隅のほう、道路からの入り口へと目線を逸らした。その瞬間、信じがたいものが視界に飛び込んできた。 「あれは……!?」 強風がグラウンドの砂を舞い上げ、砂煙のようになっている先に薄っすらと人影が見えた。午後の競技の開始を告げるユーロビートみたいな音楽に乗って人影は颯爽と入場してきた。 「あれは……親父!」 なんと、何をトチ狂ったのか、何の気まぐれか、親父は仕事を切り上げて運動会にやってきていた。見ると思いっきり作業着姿で、ガニ股で、この世の全ての不幸を背負ったようなオーラを身に纏って入場してくる。そんな表現を全て超越して簡単にいうと「悪夢の始まり」だった。 僕の姿を見つけた親父は少し早歩きで近付いてくる。そして開口一番こう言い放った。 「おう、来てやったぞ」 来てやったもクソもない。もう来るなよ、ホント。サクラちゃんと感傷的な会話をしてたのになんでやってくるんだ。 「pato君の……お父さん?」 サクラちゃんは明らかに驚いている。ウチの親父はそんな他人の動揺を見逃さない。すぐさまサクラちゃんにロックオンし、逃がさないぜといった体勢で話しかける。 「なんだ、このかわいこちゃんは」 お前はルパンか。かわいこちゃんとか言うな。早くこの場を逃げなくては、そう思うのだけど時既に遅く、なんか親父は僕がオシッコ漏らして泣いた話とかを大変エンターテイメント性豊かな感じで話していた。皆さんも想像して欲しい、自分の大好きな子が、自分の親と話をしているだけでもドキドキ物なのに、その親がキチガイだった時の惨状を想像して欲しい。 「親子で参加、大玉転がし競技を始めます、出場希望者は親子で入場門まで集まってください」 やかましい放送が鳴り響く。このままではマズイ、公園で拾ってきたエロ本を大量に洗濯機の裏に隠してたエピソードとか暴露されてしまう、危機を感じた僕は親父を黙らせるために大玉転がしに一緒に出場しようと持ちかけた。 正直、ここまで悪態をついたけど、本当は嬉しかった。親父が来てくれたことが嬉しかった。やはりいつもいつも担任や知らないオッサンと競技に出るのは嫌だった。一緒に出てくれる人も親切でやってるんだろうからそういうこと言っちゃいけないんだろうけど、それでもその親切が僕の心を苦しめていた。だから、親父と競技に出られることが本当に嬉しく、照れくさくって言えないけど「ありがとう」って気持ちだった。 「大玉転がし出ようよ」 恥ずかしくもあり、それでいて嬉しくもある、そんなくすぐったい感情が入り混じった純真無垢でピュアな気持ちで親父を誘ったところ、 「うるさい、ワシはこのかわいこちゃんと参加する。女の子の方がいいもん。なんて名前?サクラちゃん?おじさんと一緒に出ようか」 とか言ってた。もう死んだらいい。 結局、親父の気概に押されたのか、サクラちゃんも出場してみたかったのか知らないけど、なぜだか恋心を抱いている女の子とキチガイ親父が一緒に大玉を転がすという訳のわからない展開に。 もうね、見るも無残だった。はっきり言って正視に耐えなかった。本当にもう顔が真っ赤になるくらい恥ずかしくて振り返りたくないくらいなのだけど、それでは日記にならないので落ち着いて振り返ってみる。 まず、スタート時から妙にハッスルしていた親父はスタート地点でなんかラジオ体操みたいな動きをしていた。その時点でサクラちゃん苦笑い。 スタートの号砲と共に力いっぱい大玉を押す親父、けれども力が強すぎて紙と張りぼてで構成されていた大玉をいとも簡単に突き破る。赤い玉から親父の下半身が生えていた。サクラちゃん青い顔。もうやめて欲しい。 気を取り直して大玉が破れた状態でスタートする。ちなみに、この時点で他のチームはゴールしていた。逆転とか関係ない。なんか放送で「頑張ってください」とかしきりに言われていた。 ほぼサクラちゃん置き去りでぐおおおおおおと玉を転がし、鬼神の如き勢いで走る親父。逆転すらないのに本気の玉転がし。しかし破れた大玉が災いしてイレギュラー、本部席にダイレクトイン。親父も一緒にダイレクトイン。すごい音がしてた。ガシャーンとか鳴って放送が中断する。行き場のないサクラちゃんがコース上で泣きそうになってた。 ボロボロの親父が玉を転がして本部席からヨロヨロと出てくる。それ、足折れてるんじゃないのって感じで右足がプラプラしてた。笑ってた観衆、一気に沈黙。右足プラプラさせながらゴールに向かう親父、サクラちゃん泣いてた。 まあ、ざっとダイジェストで振り返ったわけなのですが、一言に集約すると「この恋終わったな」って感じで、親父は骨こそは折れてませんでしたがそのまま右足を引きずって帰っちゃいました。 「すげえな、サクラちゃんの親父。ガッツあるぜ!」 それを見ていたクラスメイトが、サクラちゃんの父親だと思って必死のフォローというか、そういう感じで話しかけてましたが、それを受けてサクラちゃんが 「ウチのお父さんはあんなんじゃない!あれはpato君のお父さんだよ!」 と修羅のような形相で必死に弁明しており、それを見て、本気でこの恋終わったな、と痛感した次第であります。 それから数日、最悪の思い出を胸にサクラちゃんは旅立っていったことだと思います。桜の季節にやってきて桜の季節に去っていったサクラちゃん。あれがトラウマになってなければいいが、と今でも願うばかりです。 満開の桜を見ると多くの人が切ない出会いと別れを思い出すと思います。いうなればそれが桜の仕事なのかもしれません。僕もそうで、あの最初で最後だった桜の季節の運動会、桜満開運動会を思い出し、ほろ苦い思い出がギュッと僕の心を締め付けるのです。それは秒速5センチメートルで舞い落ちる桜の花びらのように、ユックリと、それでいて確実に心の中に鬱積しているのです。 ちなみに、足をプラプラさせて大玉を転がす親父も、秒速5センチメートルくらいでした。 3/16 デリヘル詐欺と対決する 架空請求業者、怪しげな債権回収業者そして雑多に存在する多種多様の詐欺と戦っていることは多くの方々が知ってくださってることと思います。しかしながら、そういった類の文章を読んでるうちはいいかもしれません、大変面白いなどとお褒めの言葉を頂くこともあります。これは単純にとても嬉しいのですが、問題はそれだけでは終わりません。 実はこういった対決ものは文章に書かれない部分、往々にしてその後日に大変面倒くさいことに巻き込まれることが多々あります。いつぞやは実家まで調べ上げられて、うちの親父に「オタクの息子さんがテレホンセックス代を払ってくれない」と、時代が時代だったら20代という若さなのに親の手によって姥捨て山に捨てられてもおかしくない請求を賜ったこともありました。それも一度や二度じゃない。 それだけなら別にどうってことはないのですけど、時には住所やら実名まで晒して戦うこともある、というか名簿屋やなんかから流出した個人情報を握られた状態で戦うこともありますから、すごく大変なことになることもあるんですね。そのうち激怒した業者などから着払いで猫の死骸とか送られてくるかもしれない。まあ、僕は生粋のマゾですので、そういった状態に陥るほど不安と恐怖でゾクゾクしてきて快楽に身を委ねることになるのですが、まあそんなのはどうでもいいですね。 たとえばこんなのとかね。最近の悪徳業者も知恵がついてきたみたいで、何も悪いことしてないのにいきなり簡易裁判所から訴状が届くとかザラですよ、ザラ。こんなことされちゃったら放置プレイかますわけにもいかないし、ほんと面倒くさいことこの上ない。
よく言われることなのですが、「もっと悪徳業者と対決してください!」「悪い業者をこらしめてください!」「ウンコ食べてください!」などなど、僕をなにか気が狂った正義の使者か何かと勘違いしているメールを多数頂くのです。ウンコ食べてだけはメール送ったやつのほうが狂ってるけど。 しかし、冷静になって考えてみてください。例えば、自分が騙されそうになったとか、自分から何もアクションを起こしていないのに、わざわざ詐欺行為を行っていそうな人に自ら乗り込んで接触し、そこで戦って「どうだまいったか!」とか、すげー正義でカッコイイって思うかもしれませんが、冷静に考えると頭のおかしい人ですよ、イカレポンチですよ。主食がシャブとかそんなレベルのお話です。 こういうので大切なのは、自分は正しいことをしてるだとか、自分は正義だとか、そういう考えを起こしてはいけないということです。俺が世直ししてやる!とか自ら見境なく飛び込んでいくなんてとんでもない。ちょっと業者相手に申し訳ないな程度に思ってるのが丁度いいのです。さもなくば自分を見誤ってとんでもない失態を演じてしまうことになりかねない。正義は正義で、そんなもんは警察の方とかそういった素晴らしい方々に任せておけばいいのです。 では、何を基準に詐欺業者と戦うか。これが非常に難しいところなのですが、やはり本質としては「面白そう」という好奇心に尽きるわけなのです。詐欺の常套手段の一つに、ターゲットを正常でない精神状態に追い込む、というものがあります。詐欺の基本理念なんてそうそう変わりませんから、多くの詐欺がこの戦法を用いてくる。こっちもこっちでなるものか、と正常な状態を保ちつつ異常な状態で応戦する。それがこのうえなく面白いのです。面白くなりそうにないのなら最初から応戦すべきではないのです。 さて、悪徳業者間や電脳世界で僕の個人情報がどのように扱われているのか恐ろしくて考えたくないのですが、これまでの戦いにおいて相手した業者などが至極エネルギッシュな逆恨みでガンガンと僕の個人情報を売りさばいているらしく、僕の携帯電話には数多くのスパムやら詐欺的電話がかかってきます。 そんな僕から言わせると、もう出会い系サイトの架空請求やら何やらっていう詐欺は古いですね。とっくに流行が終わってしまった。僕ら一般市民の間にも「あんなものは相手しなくていい」「別に怖くない」という考えが蔓延したことにより業者も本気で騙そうとしてこなくなった。数をこなしてそのうち数人がひっかかればいいや的な考えが台頭し始め、結果としてこちらが応戦しても面白いことにはなりえない。業者からしたら頭がおかしいヤツ相手にするよりも次の人を狙ったほうが効率がいいからだ。 そうなるとアクションを起こしても面白い結果には成り得ず、次第に僕の中での興味も薄れていく。ちょっと前までは架空請求の類が来るたびに「どうやって応戦してやろう」とワクワクと胸躍らせたものだけど、今じゃあまったく心が動かない。いつの間に僕の心はこんなにも冷めてしまったんだ、本当は頼子のこと愛してるのに!と結婚前夜に本当の自分の気持ちに気づいてしまう花婿のような心境です。 面白い展開にもならずに、心も躍らない、それなのに面倒くさい後処理までしなくてはならない。そうなってくると相手にしないのも当然で、ドコドコと届く架空請求のメールを見事なまでにスルーし続けていました。 そうなってくると世間の流れというのでしょうか、詐欺界ってのがあるのかないのか知りませんが、そういった詐欺の世界でも「架空請求はもう古い」って思うのか知りませんが、段々と詐欺の文言も様変わりしてきます。出会い系サイトを代表とする架空請求から情報商材の販売へと変遷していったのです。 これはまあ、なんかパソコンの前に座ってるだけで月収93万円とかマンションが買えちゃいましたとか、そういう儲かる情報を買えってメールがドコドコ届くんです。でも、こんなもん明らかに詐欺じゃないですか。本当に儲かる情報なら売らずにひっそりと自分でやりますよ。もうやる前から最後までの展開が見えていて心がまったく動かない。 そんなこんなで、そういったニューフェイスの詐欺メールも思いっきりスルーして日々の生活をエンジョイ。職場の会議の席で2000万の発注ミスを公然と指摘され、皆の前で徹底的に嬲られるという大変エキサイティングな日々を過ごしておりました。そんな折、僕の携帯に以下のような文言のメールが届いたのです。 「会社役員や政財界のVIPが利用する秘密クラブです」 なんだか胸がワクワクするメールじゃないですか。僕なんか会社役員でも、もちろん政財界のVIPでもなくて、むしろ底辺で、一時期お金がなさすぎてスーパーの試食で食いつなぎ、あまりに派手に試食してたもんだから裏の事務所みたいなとこに連れて行かれて「あんたのは試食じゃなくて本気の食事じゃないか」とか名言を吐かれた男ですよ。明らかにVIPとは無縁すぎる。 おいおい、こんなメールが届くなんて、それも秘密のクラブとか書いてある、いったいどういうことだ!と心弾ませてメールを読みますよ。ええ、そいでもってメールに記載された怪しげなアドレスも思いっきり踏みますよ。 するとそこにはね、なんてことはない、これももう使い古された詐欺なんですけど、見紛う事なきデリヘル詐欺が展開されていたのです。秘密クラブとかワクワクさせやがって、ただのデリヘル詐欺じゃねえか。 これはまあ、馴染みの浅い人向けに説明をしておきますと、デリバリーヘルスと呼ばれる、きちんと認可された合法的な性風俗サービスと、インターネットを組み合わせて発展させたような詐欺でして、以前にもどこかで書いた文章で熱烈に戦った経緯があります。 そのデリヘル詐欺のサイトにアクセスすると、異常なほどにカワイイ娘たちの写真がドコドコと表示されましてね、それこそアンタ、あなたの職場や学校にいるマドンナなんて目じゃないカワイイ女の子が目白押しですよ。 うおっ!カワイイ!とか思ってサイトを読み進めていくと、どうやら金を払えばこの娘っ子どもが家にやってきてあんなことやこんなこと、早い話がおセックス以外なら大抵のエロいことをしてくれるらしいのです。 まあ、そうなると呼ぼうかなって気にもなってきますわな。呼ぼう呼ぼう、この生意気そうでFカップの娘を呼ぼうとサイトを読み進めていくと、どうやら呼ぶには3万円ほどを必要とするらしい。おまけに料金先払いで、指定口座に3万円振り込み、確認が取れ次第女の子が派遣されてくるらしい。こりゃいてもたってもいられない!と急いで振り込むと、当然のことながら女の子なんて微塵もやってこない、お金も返ってこない、っていうね、そういう詐欺ですよ。 あーあ、せっかく心が躍ってココロオドルみたいな状態になったのに、なんてことはないただのデリヘル詐欺かよ、もうちょっと進歩しろよな、こんな詐欺とはもう既に対決済み面白くもなんともない、とそのVIP秘密クラブのサイトを読んでいきました。 「当店は料金先払い制ではありません」 すると、魅惑的な文字が真っ赤なフォントで書いてあるではありませんか。相撲取りみたいなフォントで書かれているではありませんか。完全に先払いを利用したスーパー詐欺だと信じきっていた僕はド肝を抜かれましたよ。やばいやばい、胸が高鳴ってきやがった。 何が高鳴るって、実際にこのカワイイ娘っ子がウチにやってきてチンポコをチュッパチャップスってのは間違いなくありえなくて詐欺なのは確定事項(普通に真っ当に営業しているデリヘルはスパムメール広告はできません)なわけなのですが、料金先払いでもないのにどうやって金を騙し取ろうとするのか、大変興味が湧き上がってきたのです。 とりあえず利用してみないとどんな詐欺なのかもわからないですから、適当に女の子を見繕ってメールをしてみます。ごめん、嘘ついた。どうせ来ないって分かっているのに適当どころか真剣に写真を見て女の子をチョイスしていた。熟考に熟考を重ねて21歳Fカップ、「お客様とニャンニャンしたいニャン♪」ってバカそうっていうか多分バカなんだろうけどそんなこと書いてたアズサちゃんを選んでた。 「女の子を1人前お願いしたい。No.61のアズサちゃんとニャンニャンしたいニャン」 とか書いてメールしたと思う。いったいどんな詐欺が展開されるのだろう!と胸を高鳴らせていると、しばらくして返信メールが。 「秘密クラブ、ドキドキアイランド代表の橋本です。ご利用ありがとうございます。当店では女の子の身の安全を守るため、一度お客様に電話をかけて頂くことになっております。お手数ですが、指定する時間に090-XXXX-XXXXにお電話ください。その際に詳細な利用方法をお知らせいたします。受付時間(本日21時〜21時5分まで)(悪戯が多いため非通知および公衆電話からはかかりません)」 ふうむ、なるほどそうきたか。電話をかけさせることと女の子の身の安全に何の関連性があるのか全く分かりませんが、まずは詐欺の第一歩である個人情報の収集でしょう。電話をかけさせて発信者番号から僕の番号をゲットするつもりのようです。まあ電話番号くらい何てことはないかけてやるか、なになに、指定時間に電話しろ、って指定時間が5分しかないじゃねえか。この5分間の間に電話しろってことか。無茶振りにも程がある。頭おかしいんじゃないか。 とにかく、指定されたら守るしかないわけで、きっかり9時に指定の番号に電話をしました。なんかププッとか鳴ったので、「あっソフトバンクだね」とか一人で叫んでたら電話口に快活そうな男の声が。 「はい!もしもし!秘密クラブドキドキアイランドです!」 正直その店名はいかがなものかと思ったのですが、こちらもすかさず応戦します。 「あ、ドキドキアイランドさんですか」 「はい!そうです!」 相手があまりに元気良すぎて眩しい。スーパーで試食の桃を占拠してる時に未来ある子供を見てしまったような、その輝きに自らの暗黒な部分が焦がされる思いのような、そんな複雑な何かが胸中を去来しました。 「あの、メールしたんですけど、利用したくてですね」 まさか、アンタらどんな詐欺してんの?と聞くわけにはいかないですから最初は相手のペースに乗って出方を伺います。 「メールアドレスを教えてください」 「はい、XXXX@ezweb.ne.jpです」 「あ、はいはい。61番のアズサちゃんご希望のお客様ですね」 「はい、そうです。アズサちゃんとニャンニャンしたくて」 まあ、誰かに聞かれたら国辱物の会話を展開しつつ、詳しい利用方法を聞きます。 「利用料金は2万円になります。これからお客様の自宅にアズサちゃんが伺いますので、アズサちゃんにお渡しください。その後、プレイ開始となります。くれぐれも女の子の嫌がる行為、暴力、本番行為などはしないでくださいね」 本番行為ってのはまあ、おセックスのことなわけで、変な棒を出したり入れたりする行為なわけですが、これをしてしまうと売春行為になるわけで、全ての制風俗店では建前上は禁止されています。そんな注意事項を興味深く聞きつつ会話を交わします。 「それではお客様の確認が取れましたので今からアズサちゃんを派遣いたします。お客様のフルネームと住所をお教えください」 ここで一瞬躊躇しました。どうせ相手は歴戦の猛者で、見紛う事なき詐欺ってのは分かってます。僕も僕で、相手がどんな詐欺を展開するのか知りたいだけですから、本当の名前と住所まで教える必要はないのです。っていうか、教えちゃったら後々面倒なことになってきます、できれば教えたくない。嘘の名前と住所を言っちゃおう、そう心に決めた瞬間でした。 「本当に詐欺じゃない普通のデリヘルだったらどうするの?」 僕の心の中の天使とでもいいましょうか、主に心の中の良心とかを担当している憎いやつです。そいつが優しい声で囁くわけですよ。 「君とのプレイを楽しみにやってきたアズサちゃんが嘘の住所だって知ったらどう思うかな?」 「悲しんじゃうよね」 「そうだよ、アズサちゃんを悲しませちゃいけないよ!」 「でも、詐欺なのは確定だし……」 「人を信じる気持ちを忘れないで!人を信じられないのは悲しいことよ!」 「天使君……」 ここでまあ、僕の悪の心を司っている悪魔が出てきて天使と論戦を交わすのですが、悪魔は悪と同時にエロの心も司ってますので 「そうだよそうだよ、アズサが本当にやってきたらラッキーじゃん!本当の住所教えちまえよ!やっちゃえやっちゃえ!」 ともう、天使と悪魔が満場一致。いつも酷いこといってごめんね、僕のほうも悪かったよと仲直りの握手までしてた。長年いがみ合っていた天使と悪魔がついに手を組んだ。もう無敵だ、これはもう迷う余地がない。 「○○市○○○○○○○○のXXXXXです」 思いっきり正直に、何も飾らない、何も偽らないって感じで住所と名前を答えてました。 「それでは30分ほどでいけると思います。しばらくお待ちください」 と電話は切れてしまいました。電話を切った僕は大変ですよ。1000%詐欺でアズサちゃんは来ない。ニャンニャンだってできないって分かっているのに、本当に来たらどうしよう!と七転八倒、異常な速度で部屋の片付けとかしてた。何を血迷ったのかエロ本とか見られたら恥ずかしい!と流し台の下の収納スペースに隠したりとかしてた。 そしてついに30分、いよいよこの時が来たか、来たらすぐドアを開けてやろうと玄関で仁王立ち。今か今かと待ち構えていたのですが一向にやってこない。なんたることだと痺れを切らしていたらそこに着信が来ました。見ると、それはドキドキアイランドの番号でして、何事かと電話に出ます。 「どういうことですか!アズサちゃんが来ないんですけど!」 「もうしわけありません、アズサが急に体調不良となりまして……」 「じゃあこの24歳Eカップ、エッチなことに興味津々のピーターパン、ユカリちゃんでいいですよ!むしろユカリちゃんがいい!」 「あいにく他の子も全て出払っておりまして……」 ドキドキアイランドの人はすごい申し訳なさそうに言うわけですよ。また次回ご利用ください、とかすごく丁寧に言われてキャンセルされてしまいました。 ワタクシ、アズサちゃん来襲の可能性に我を見失って冷静さを見失ってました。当初の予定ではどんな詐欺か見極めるだけの予定だったのにおかしいものです。しかしながら、そうなるとどうしても見えないことがあります。業者の狙いは何だったのか。僕の電話番号と住所氏名を聞いて向こうからキャンセル扱い。正直、アズサちゃんの変わりに似ても似つかない老婆がやってきて金を騙し取られるくらいは覚悟していたのですが、騙し取るアクションすらなかったのです。 これはいったいどういったことだろう。 詐欺であるはずなのにその詐欺が見えてこない。得体の知れない何かに恐怖を感じつつ、そんな事実もアズサちゃんのことも忘れ、またいつもどおりの日常、今度は重要書類をシュレッダーにかけてしまい、泣く泣く再生させられるみたいな日常に戻ったのでした。 それから3日後だったでしょうか。携帯電話に着信が。見ると見覚えのあるようなないような番号からの着信です。しばらく携帯電話の液晶を見つめて何の番号だったっけなーと思い返すと、紛れもない、これはあの謎のデリヘル詐欺ドキドキアイランドの番号じゃないか!と思い出したのです。 まさか、あの日体調不良でキャンセルだったアズサちゃんが回復し、「アタイ、あのお客さんに会いたい!お金なんていらない!」って言い出したのかもしれません。そう考えると、この電話だって、反対する店の人を振り切ってアズサちゃん本人がかけてきている可能性もあります。これは出なくてはならない、そしてあの日キャンセルされたことを怒ってなんかいないよ、と優しく伝えてあげたい。僕は迷わず通話ボタンを押しました。 「もしもし」 優しく語りかけると 「もしもし、ドキドキアイランドの山本です」 そこにはアズサとか無限の彼方に感じるような、お前、5,6人は殺してるだろって感じの怖い声したオッサンが大登場してました。 「○○さん?」 「あ、はい、そうです」 こんな怖い声したオッサンが僕の本名を言ってるってだけで恐ろしくて小便ちびりそうになるのですが、なにやら暗雲たちこめるこの状況から逃げるわけにはいきません。 「君ねー、3日前にウチのお店利用してアズサって子を呼んだでしょ」 「あ、はあ、まあ、呼ぶには呼びましたけど」 実際には来なかったんですけど、まあ呼んだことは呼んだんだし間違いないよなと思い返答しました。 「今日、アズサから泣きながら相談されましてね。アナタに無理やり本番行為をされた。もう仕事辞めるって泣いてるんですよ」 意味が、わから、ない。 ちょっとまってくれよー、呼んだけどアズサは来なかったじゃないか。それなのに無理やり変な棒出したり入れたりしたみたいなことになってんだ。これにはさすがに大黒摩季が出てきて「ちょっと待ってよ」と言わざるを得ない。それよりなにより、3日後に泣きながら相談ってどれだけ反応遅いんだよ、恐竜か。 「いや、確かに呼びましたよ。アズサちゃんとニャンニャンしようと思って呼びましたよ。でも、体調不良でキャンセルされたんです。店の人にも聞いてください」 「こちらとしてもあなたの名前と住所付きで記録が残ってますし、アズサ本人がそう言ってる以上ね」 「アズサちゃんがニャンニャンしたって言ってるんですか?」 「ニャンニャンしたって言ってます」 うおー、怖いオッサンがニャンニャンとか言ってるよーとか喜んでる場合ではありません。いつのまにかとんでもないことになってやがる。 「こちらもなんとかアズサを説得して休養を取らせるという形にしたのですが、やはりこうなると警察に被害届けを出さないわけにはいかないわけでして」 「はあ」 「強姦罪と傷害罪になるでしょうね」 強姦罪-刑法177条、3年以上の有期懲役 うおー、来るところまできちまったな、なんか相手に住所氏名握られた状態で大変なことになってるよ。いつの間にか強姦罪と傷害罪の疑いかけられてるよ、こえー。 こうなっては自分一人の力では対処できませんので、早速心の中の天使と悪魔を呼び出して「君らのせいだぞ、どうするんだ」って問い詰めたのですが、天使君に「この強姦魔!」とか罵られてしまいました。役にたたねえ。 「ただ、私らも犯罪者を作りたいわけではありません。今回の件の慰謝料とアズサが休業する間の損害を補償してくれれば被害届は出さないようにアズサを説得します」 なるほど、犯罪者になりたくなければ金を出せってことでしょう。 「ちなみにおいくら万円でしょうか?」 「アズサに100万、店側に100万、合計200万でなんとかしましょう」 「ちょっと高くないですか?」 「いいですよ。払われなかったら被害届を出すだけです。そうすればすぐにアナタは逮捕されるでしょう」 やれれたーって感じですよ。つまりこういう詐欺だったわけですね。デリヘルを謳ってターゲットの住所氏名を手に入れる。で、実際にカワイイ女とか雇う余裕はないので直前でキャンセルする。そしてほとぼりが冷めた頃に「本番した!強姦だ!」と難癖をつけて慰謝料を毟り取る算段なのです。 こんなもん、本当に逮捕されて徹底的に調べられたほうが、痴漢冤罪や何かとは違いますので簡単に身の潔白は証明されるのですが、残念ながら今の日本社会は「逮捕=社会生活の終わり」を意味します。潔白であっても逮捕された時点で色々なことが破綻するのです。そして、なによりそういった如何わしいサービスを利用しようとした負い目がある。誰もが潔白であっても警察のご厄介になるのを嫌って慰謝料を払ってしまうのかもしれません。 まあ、実際には向こう側も本当に被害届を出す訳にはいかない(虚偽告訴罪、刑法第172条)ので完全にブラフなんですけど、多くの人はそこでブルってしまうでしょう。 「3日待ちます。それまでにお金を工面してください。3日後に払う意思が見られない場合、被害届を提出しますので」 「わかりました、お金は何とかします……」 ここはなるべく下手に出て気弱な感じを演出しましょう。そんなこんなで青天の霹靂とも言える突然の強姦電話が終わったわけなのですが、僕の気持ちは晴れ晴れ、ずっと詐欺の正体が見えなくて悶々としていたのですが、蓋を開けてみればこんな詐欺だったのか、そんなもんで金を脅し取れるとでも思ったか、と行動を開始します。 ここでポイントとなるのは、「多くの被害者が逮捕を恐れるもしくは社会的体裁を気にして被害届を出されないように慰謝料を払う」という点です。これが事実でない強姦を事実にしようとしている。どうせ向こうは被害届なんて出せません無視するのも適当にからかうのもいいのですが、どうせならいつ逮捕されてもいいように自ら警察に出向いてみましょう。 ということで、車を盗難された時にお世話になった警察署に自ら赴いて相談をしてきました。担当してくれた方は優しそうな刑事の方でした。 「実はですね、デリヘル業者から無理やり本番した、強姦罪で訴えられたくなかったら慰謝料を払えって言われてるんですよ」 汚ったない取調室みたいなところで相談したのですが、それを聞いた刑事さんはふうっと溜息をつくと、子供を諭すように言いました。 「正直言ってですね、こういったことは多いんですよ。デリヘルの経営者なんかが女の子に無理やり本番された逮捕しろ!って凄い剣幕で怒鳴りこんできたりですね」 「へえ、そんなに多いんですか」 「我々もすぐに逮捕ってするわけではありませんし、密室でのやり取りでしょ、色々と困ってるんですよ」 「はあ、大変ですね。で、僕は強姦罪で逮捕されるんですか?するなら今してください、今日から3日間は有給とりましたんで逮捕されても大丈夫です」 ここで刑事さんがちょっと怖い表情に変わりましてね、諭すように言うわけですよ。 「すぐに逮捕ってのはありえません。おそらく逮捕はないでしょう。ただ、アナタにも非はある。気持ちは分かりますが、そういった怪しげな性風俗をなるべく利用しないことを心がけてください。それだけで弱みを握られるんですから」 みたいな、お前も自重しろよ、そんなエロい店使うから悪いんだ、みたいなこと言われました。何か勘違いされてる! 「いやー、心がけるも何も、利用してないんですよ。電話だけしてキャンセルされちゃいましてね、そしたらいきなり強姦魔!って電話かかってきてビックリですよ。とりあえずそれで逮捕されるなら早いほうがいいかなって自分から来たんですけど」 すると刑事さん大変驚いてですね、店の電話番号やら男の声の特徴、サイトのURLまでものすごい長時間にわたってきかれちゃいました。向こうが警察行くぞって脅すなら、こっちから警察に行っちゃえばいいんです。 さて三日後。予定調和のごとく地獄のボイスを持つドキドキアイランドの山本から電話がかかってきました。店名どおりドキドキしながら通話ボタンを押すと。 「ドキドキアイランド山本です。お金は用意できました?」 てめーその声でドキドキアイランドはないだろって思うのですが、ここは毅然と言ってあげましょう。 「払うつもりはまったくありません」 すると、少し沈黙の後、山本が口を開きます。 「そうですか。ならばこちらも訴えるだけです」 「そうですか。どうぞどうぞ」 しかしまあ、このままではあまり面白くありません。もうちょっと感情剥き出しで怒るなり何なりして欲しい。 「でもまあ、最初は結構手の込んだ詐欺かなとは思ったんですけど、やってることは架空請求以下ですよね。サルでもできる。もうちょっと頭を使ってくれないと」 「は?なにいってんの?」 「やってもいないことをでっち上げ、社会的体裁を気にした被害者からお金を騙し取るのは犯罪ですよ」 「いいでしょう、アナタがそんな態度でお金も払わないのならこちらは強姦罪で訴えるだけです。詐欺なんてそんなことありませんから」 「あ、訴えるって言ったね、言ったね。訴えもしないのに訴えるって言って何かを要求した場合、恐喝罪(刑法第222条)か強要罪(刑法223条)になるよ。大丈夫?ちゃんと訴えてくれるのかな?かな?」 自分で言っててすげームカツク口調で言っておきました。 「テメー、ホントに逮捕させるからな!警察なんていくらでも動かせるんだぞ!」 やっと怒りの導火線に火がついたみたいで、口調が大変なことになってますが、ここらでタネを明かしてあげましょう。 「実はね、もう逮捕してくれって自分から警察にいってるのよ。全部説明したら興味深そうに君らのサイトや電話番号とか聞いてきたよ、刑事さんが。大丈夫?なんか沢山書類に署名とかしちゃったけど、君らの身が心配だよ、君らのほうこそ逮捕とかされない?大変なことになってもアズサちゃんだけは守ってよ!」 そしたら何を焦ったのかガチャリコって電話切られちゃいました。彼らがどうなっても知りませんが、密かに僕のことを思い続けるアズサちゃんだけは守ってあげて欲しい、そしていつの日かニャンニャンできる日が来たらいいなあって思うのでした。 一瞬は胸が高鳴り、本当に逮捕とかされてガチャリコとかなったらエキサイティングだったんですが、そんな盛り上がりもなく、やっぱ詐欺を相手にしてもあまり胸が高鳴らないなって思ったのでした。胸がスカッとするわけでもなく、楽しいわけでもない、おまけに面倒なことになったりするんだよな、やっぱり詐欺なんて相手にするもんじゃないよ。 「もしもし、○○署のXXです。その後、業者から脅しなどはないでしょうか?」 日本の警察の方ってのは本当に親切で素晴らしい。僕のことを気遣って毎日刑事さんが電話をかけて様子を伺ってくれ、大変感謝するのですが、さすがに2週間も毎日続くと面倒にもなってくる。ホント、刑事さんは親切で素晴らしく、こういうこと言っちゃいけないってのは分かってるんですが、やっぱり、詐欺を相手にするとあとの処理が面倒なことになる。相手にするもんじゃないと言わざるを得ない。 3/8 アパリグラハ 「いやー、良いお付き合いをさせていただいて嬉しく思っております」 「なんのなんの!こちらのほうこそ!」 「いやいや正直本当に苦しいところでして大変助かったというか百人力というか」 「それにしてもそちらのお若い方、なんとも頼もしいですな、是非とも我が社に欲しいものですな、ガハハハハ」 この浮世と呼ばれる現代に不必要なものなどそうそうない。どんな取るに足らない事象であっても、それが存在することに必ずや意味があるしその必要性が存在する。例えば、今これを読んでるアナタだって自分の存在する意味を考えたことがあるだろう。自分の存在は何なんだろう。自分はなんてちっぽけなんだろう。自分は不必要な人間なんじゃ。必ず一度はそう考えたことがあるはずだ。 しかしよく考えてみてほしい、アナタがそこに存在するだけでアナタを取り巻く環境はアナタが存在することを前提に成り立っている。単純にその前提となる範囲が広いか狭いかの違いだけであって、例え数センチでも数ミリでもその前提範囲が存在するのだから、アナタがそこにいる意味は十分にある。やはり不必要なものなどそうそうないのだ。 この世にたった二つだけ不必要なものが存在するのならば、その一つは心のない言葉だろう。本意ではない言葉とは違う、形式ばった、半ば大局的なシナリオに沿った言葉達だ。大いなる何かに従って発せられた言葉は空しく中空を舞って消えていく。自分の何かを他者に伝えるコミュニケーション手段として発達した言葉たち、その存在意義を否定するものだ。 例えば、思いを馳せる女性に告白したとしよう。相手を思う気持ちが爆発してしまい、どうしようもなくなって告白する。しかし、相手の女性は浮かない表情。それそころか迷惑そうで困り果てた表情だ。そして重い唇を開いてやっと言葉を発する。 「ごめんなさい、いい友達でいましょう」 ホント、この言葉の存在意義が分からない。心がこもってないにもほどがある。時代が時代だったこれだけ磔にされて河原に晒されてもおかしくない言葉だ。あのな、こっちは必死で告白してんだよ。それがなんだ、「お友達でいましょう」とか、ここまでやっといて友達でいられるわけないだろ。逆に考えると、高校時代の友人でゲーセンで一緒に脱衣マージャンに燃えてた藤井君っていう友達がいるんだけど、そいつがイキナリ僕に告白してくるようなもんだぞ。アナルを付け狙われるようなもんだぞ。アナルまで狙われて友達でいわれるわけねーじゃん。 告白を断る上での形式的なシナリオ通りの言葉。そこには本当に友達でいたいなんて気持ちはこれっぽちもないし、それどころか相手を一人の人間として見ていない。それだったら「ごめん、pato君はブサイクだから付き合えない。その代わり片乳見せてあげるからこれでオナニーしてね」とペロンと乳でも見せてくれたほうが何ぼか健全だ。むしろ付き合うとかどうでもいいからオッパイ見たい。 とにかく、その心がこもっていないシナリオに沿った言葉なんていうのは本当に存在意義がなくて不必要で、むしろ言わないほうが良いんじゃないかって思うことが多々ある。そして、これらの大いなるシナリオ言葉はビジネスや仕事の世界では数々酌み交わされることになる。 ここは仕事の大口取引先である社長の自宅。どうやっても悪い事でもしてないと建てられそうにない豪邸に僕と上司は招かれていた。この社長というのがとんでもないワンマン社長らしく、機嫌を損ねると大変な事態になるという、なんともそんな重大なお招きに僕を同行させること自体何かが間違ってるのだけど、滞りなく仕事の話も終わり、あとはワンマン社長のゴルフでいくらのスコアが出ただとか、海外で釣りをしただとか、そういった松方弘樹みたいな自慢話を、何の比喩もなくウンザリという表現が適切な体勢で聞いていた。そしてそこで交わされたのが冒頭の言葉だ。 「いやー、良いお付き合いをさせていただいて嬉しく思っております」 「なんのなんの!こちらのほうこそ!」 「いやいや正直本当に苦しいところでして大変助かったというか百人力というか」 「それにしてもそちらのお若い方、なんとも頼もしいですな、是非とも我が社に欲しいものですな、ガハハハハ」 そこには、ある種慣例化された規定どおりの言葉が交わされる。もちろん僕も上司もこのワンマン社長に対しては「良いお付き合いを」なんて思ってるはずもなく、「死ね」だとか「脱税で逮捕されろ」とか思っているのだけど、そんなことはおくびにもださずに極めて笑顔でシナリオ通りの言葉を発する。 向こうも向こうで、僕のような上下合わせて8000円くらいで安物なんて目じゃないスーツを着て、しかもサイズも微妙に合ってないツンツルテンのペーペーがやってきたのに「なんとも頼もしいですな」とか言っている。心のこもらない言葉の応酬、琴欧州かと思うほどの熾烈でありペラッペラのコミュニケーションに何の意味があるというのだろうか。 「おやおや、これは素晴らしい甲冑で」 とかウチの上司が言うわけなんですよ。普段はすげえ威張りくさってて、僕が職場でコーラ飲んでたら、コーラなんて子供が飲むもの、大人ならコーヒーを飲め、とか理不尽というか何かアメリカのドラマに出てきくる悪徳ボスみたいなわけの分からない怒り方を上司の癖に、ものすごい媚びへつらって言うわけなんですよ。 見ると応接室の片隅にペガサスの聖闘衣みたいな汚ったない甲冑がありましてね、僕なんか何の価値があるのか全然わからず、それどころかHARD-OFFとかのリサイクルショップの片隅に誰も買わねーだろって感じで16万とか破格の高額商品が置いてあることがありますけど、なんかそこに置いてあってもおかしくないような雰囲気しか感じられないんですよ。 「いやいや、分かるかね。これは由緒正しきウンタラカンタラ」 結局はすごい高価な品物であるってことを社長は自慢してて、上司も「大変羨ましい」みたいなこと言ってましたけど、本当に羨ましいのかその場で問い詰めたかった。あんなもんが家にあったら夜に動き出しそうで本当に怖くてたまらないぞ。 そんなこんなで全く心のこもってない規定どおりの言葉を交わす上司とワンマン社長、僕はその光景を「賞金女王上田桃子なら全然抱ける、あの傲慢そうな感じがソソル」とか全然見当違いというか、そもそも仕事に生きる社会人としてどうなのって感じのことを考えてました。 「まあまあ、夕飯でも食べていってくださいや」 「いやいや、そんな!もうそろそろ失礼しますので」 「そう言わずに!家内が腕によりをかけて作ったんですから」 みたいな、圧倒的に早く家に帰ってプレステやりたいなんて言い出してはいけない、言い出そうものなら甲冑に付属している剣で突き刺されそうな雰囲気でした。で、えびす顔のワンマン社長と上司と共にこれまでの人生でもトップ近くにランクインするであろうつまらない晩餐に突入するのでした。 まあ、いざ夕食が始まると和食っていうんですかね、老人の食事療法みたいな薄っすい料理が次々と運ばれてきまして、正直あまりに味がしなくて酷かったんですが、上司なんかは「こんな美味しいもの!眩暈がしそうです!」とか言ってんの。こっちが眩暈しそうだわ。 おまけに飯食ってるところにドーベルマンみたいな犬が入ってきましてね、何故か知らないけど入ってきた段階でトップレベルの警戒態勢。アメリカの空港かって勢いで警戒してウーとか唸ってました。 「なんて利口な犬なんだ!」 もう上司の言葉は心がこもってなさ過ぎて英語の教科書とかに出てくるサムのセリフをそのまま和訳したみたいな状態になってるんですが、さすがの僕も「おいおい、食事中に犬入れんなよ」とか思うのですが、「これは立派な犬です」とトムになりきってました。 そんなこんなで空っぽな言葉を交わしつつ厳かに晩餐が進行していったのですが、ここでのっぴきならない大惨事が。食事全体は薄味といえどもまあまあ食べられるレベルで大丈夫、これが食べられないレベルのものだと大いに苦しめられるんですけど、なんとか食べられる、一安心、と胸を撫で下ろしていると、そこに意外な伏兵が紛れ込んでいたのです。 「さあさあ、これが自慢の納豆でね」 品の良さそうな模様に彩られた小鉢に鎮座される納豆様。自慢じゃないですけど、僕は大抵のものは食べられる好き嫌いの少ない人間なんですけど、納豆だけは話が別。この世で二つだけ不必要なものが存在するならば、その一つは前述した心のこもらない言葉たち、そしてもう一つは納豆だ。 まず、糸を引いてる食品ってのがありえない。世界中どこを探してもあんなグロテスクな食べ物ないよ。もう見た目で無理。腐ってるやん。さらに臭いをかぐととても食物とは思えない、ウチの親父の靴みたいな臭いがしてくるじゃないですか。ありえないありえない。もう臭いだけでオエってなる。 こういうこと書くと、頭のおかしい読者の人から「そんなことないですよ、納豆美味しいですよ」とかメールが来るんですけど、もうすっこんでろと言いたい。こっちがチンコ痒いって言ってんのに「そんなことない、痒くないですよ」って言ってるようなもんだ。痒いものは痒いんだよ。分かりやすくなるように例えを出したら余計分かりにくくなった。 さすがに納豆だけは食べられないので、折角出していただいて申し訳ないのですが、丁重にお断りしようと上司のほうを一瞥してからワンマン社長に向き直ると、そこでバカ社長が言うわけですよ。 「実はこれは自家製の納豆でね、市販のものとは味が違うんだよ、ガハハハ」 納豆を自宅で作るとか頭おかしい。安っすいシャブでもやってんじゃねえか。核廃棄物を自宅で製造するようなものじゃないか。とにかくこのご自慢の様子から鑑みるに、どう考えても納豆を辞退することなんでできない雰囲気。かといって食べたら食べたで絶対に吐く。これまで食べた薄味の和食すらドロドロと連鎖的に吐く。虐待されて育った人が我が子を虐待するような悲劇の連鎖が起こってしまう。 なんとか上司に助けを求めようとチラリと上司に目線で合図すると、 「どうりで!市販の納豆にはない深い味わいが!」 ダメだこいつ。自分の力で何とかしなければならない。食べられないものを食べるまで開放されない、一種の食という名の監獄。不気味に糸を引く納豆を見て僕は在りし日の堀田君を思い出すのだった。 堀田君はどうしようもない子だった。小学校の入学式、友達百人できるかな、とこれから始まる小学校生活に胸を弾ませる僕の横でいきなりションベンを漏らしテロを起こしてくれたのが堀田君だった。 堀田君は豆が嫌いだった。確か小学校3年生くらいのころだったか、僕は堀田君と同じ班で、コイツ小便漏らしたんだぜ、僕にも少しかかったし、このスカトロめ!と心の中で思いつつも表面上は仲良くやっていた。 給食の時間になると班ごとに机を寄せ合って仲良く食事をすることになっていた。大好物の海草サラダがメニューに組み込まれているとあって心躍るというかココロオドルくらいの状態になっていた僕の隣で堀田君は固まっていた。 見ると、小鉢というか、無機質な銀色の容器の中には豆がぎっしりと詰まった食品が鎮座しておられた。確かに豆を煮て味付けしたんであろう食品で、中に昆布みたいな物も入っており、とてもじゃないが小学生が喜んで食べるようなものじゃない。どちらかというとシブイ食品だ。けれども僕ら見たら決して食べられないものじゃない。 しかし堀田君は違った。彼は本当に豆が嫌いだったのだ。食べられなかったのだ。今でこそアレルギーだ、食べられないだ、と子供の食に対して大らかな風潮があるが、当時は給食を残す、なんていうのは人殺しレベルの大罪だった。 堀田君は言いはしなかったけど、豆の小皿を見て固まってる姿を見たら容易に想像できた。あの日、入学式でオシッコ漏らした時のように堀田君が固まっている。助けてあげようにも担任の鬼ババアが目を光らせているのでどうすることもできない。 「残してはいけませんよ!」 刑務所の食事かと思うほどに担任はヒステリックに叫ぶ。この人は鬼だ。きっと堀田君を許さないだろう。豆が食べられない彼を叱責し、午後の授業はおろか放課後まで執拗に責め続けるだろう。食べるまで帰さないと守護神のように堀田君を見張り続けるだろう。それが彼女の教育方針なのだ。 「目を瞑って口に入れちゃえよ、あとは牛乳で流し込めばいけるよ」 「う、うん……」 見るに見かねてそっと堀田君にアドバイスする。そんな深刻さとは別に。教室の前方では男子たちによる欠席者の冷凍みかん争奪戦のジャンケンが大盛り上がりで行われていた。 「でも……」 それでも堀田君の表情は浮かない。 「でも?」 代わりに食べてやろうかとも思ったが、そんなことをして鬼ババアに見つかりでもしたら強制的に吐き出させられてそれを堀田君に食わせるかもしれない。彼女はそれぐらい頭がおかしかった。 「実は、牛乳もけっこう苦手なんだ。豆を牛乳で押し流すのも無理だと思う」 もうこりゃダメだ。豆も牛乳もダメ、そんな堀田君が豆乳なんか飲んだらどうなるんだって感じなのですが、これ以上は僕にしてやれることはない。あとは彼自身が自分の力でなんとかしなければならない。そうやって理不尽に耐えることこそが教育なのかもしれない。 「そうか、がんばれ」 そこには空虚でない言葉があった。口から発せられ中空で消えることのない。明らかに堀田君に届いて欲しいと思う言葉があった。 「うん、やってみる!」 言葉が届いたのかどうかは分からないけど、発奮した堀田君はスプーンに2,3粒の豆を乗せ、ゆっくりと口に運んだ。 「やっぱりダメだ!」 しかしそう簡単にはいかない。そもそもそんなに軽々しいなら最初から苦労はしない。堀田君はそういった類の置物みたいに何度も何度も口の近くまで運んで戻す動作を続けていた。 そろそろ給食の時間が終わってしまう。その後は昼休憩だ。そうなると堀田君の豆残しも白日の下に晒されてしまい、鬼ババアから執拗な責め苦を受けることになるだろう。このままではまた困り果てた堀田君が固まってオシッコを漏らしてしまう。何とかしてあげられないものか。無力な自分が憎い。彼を助けてあげることができない無力な自分が憎い。自分の給食を完食し、牛乳の三角パックを折り畳んでいた僕は心底歯がゆかった。どうにもならない状況に牛乳パックを押しつぶしそうだった。しかしその瞬間、ありえないイリュージョンが起こる。 なんと、あれだけ堀田君を苦しめていた豆たちが綺麗さっぱりいなくなってしまったのだ。スプーンの上にも、小皿の中にもない、一粒たりとも存在しないのだ。マジシャンでも来たのかと思う忽然っぷりだった。 「まさか、堀田君……」 「ん?全部食べちゃったよ。楽勝だね」 そう言う堀田君の半ズボンのポケットは豆の形に膨らみ、何らかの煮汁と思わしき汁が染み出してきていた。どう考えても豆がはいっとる。 こ、こいつ、やりやがった。食べられないのなら隠してしまえばいい、なんという発想の転換。禁煙してタバコが吸えなくて苦しんでいる人がマリファナに手を出すみたいなパラダイムシフトがそこにあった。 しかし、事態はそんな楽観できるものじゃない。このまま家に帰れば堀田君のお母さんが豆を残したことに気がつくだろう。そこでウチの子供がこんなことをと担任に相談したら犯行が露呈してしまう。それどころか、無事に学校から戻れるかも怪しい。なにせ午後は音楽の事業だ。歌のテストの日で、一人一人ピアノを弾く鬼ババアの前に出て歌を歌うことになっている。そこで豆の形に膨らんだポケットに目をつけられるのは確実だ。なんとか午後の授業までに証拠を隠滅しないと危ないぞ、堀田君。 僕の心配を他所に堀田君の行動は素早かった。今、こうして食器などの片づけを行っている教室で喧騒に紛れて動かざる証拠である豆を処分しようと考えたのだ。教卓付近の給食セットに向かうクラスメイトとは逆に窓のほうににじり寄る堀田君。空気の入れ替えのためか何なのか半分ほど開いた窓に極めて不自然な形で近づいた。そして、おもむろにポケットに手を突っ込むと豆を握り、一気に窓の外に投げたのだ。 その小さい手では全部の豆を掴みきれなかったのかポロポロとこぼれた豆が窓際のストーンテーブルを染める。こんなの鬼ババアに見られたら一発でバレるんだろうけど、それでも堀田君はやり遂げたのだ。ついに豆という鉄壁の城壁を、その重圧を自らの機転で乗り切り、証拠隠滅までもっていったのだ。 「やったな!」 一部始終を見ていた僕はそう言葉をかけようと堀田君に近づいた。しかし悲劇の神様はさらに堀田君を苦しめるべく奔走した。 バサッバサッ!クルックー! 堀田君が捨てた豆にひかれて鳩が集まってきやがった。ウチの学校は野生の鳩や鳥なんかに餌をあげて手懐けるという近所迷惑な行事を平然とやっていて、常に学校の周りには鳥がいて「鳥のいる小学校」とか頭おかしいことになってたのだけど、その鳥どもが餌をもらったと勘違いして教室の窓を襲った。グワーッと一斉に鳥が集まり、ヒッチコックの鳥みたいな光景に僕も堀田君も腰を抜かした。 それだけならまだ良かったのだけど、発奮した鳩だか鳥だかは、教室内に少量落ちていた豆にも目をつけついに教室侵入。決して侵してはいけない領域を汚し始めた。 給食食い終わって満腹満腹ってなっていた級友どもは突如鳥たちが教室に入ってくるもんだから大騒ぎ。女の子とか泣いてた。逆に鳥のほうもその悲鳴に驚いてバッサバッサとやるもんだからもう滅茶苦茶。まさに阿鼻叫喚の生き地獄だった。 結局、堀田君の犯行はばれてしまい、給食を残したこととセットで鬼ババアに叱責されていた。なぜか僕も共犯として裁かれ、ホント、堀田に近づくとロクなことがないと思わざるを得ない事件だった。 あれからもう20年以上の時が経ったのだろう。今でもあの小学校は鳥が集まる小学校なのだろうか。堀田君は元気でやっているのだろうか。豆は食べられるようになったかな。もうオシッコ漏らしてないかな。そんな思いが巡る中、納豆を前にあの日の堀田君のように固まる僕。 大丈夫。僕はあの日の君に教わったはずだ。自分の道を切り拓くのは他でもない自分自身だ。この納豆という巨大な壁を見事に打ち破ってみせる。あの日の君のように誤魔化してみせる。 「いやー、ホント、この粘りけとか最高!ヌメリとしてて美味しそう!」 箸で混ぜながら、その糸をひく様子にウエーってなりそうになる。なんでこんな怪我したところが膿んだみたいなのが食品としてまかり通ってるんだ、と憤慨しつつも一口サイズを箸に取り口に運ぶ。もうその臭いや感触だけでもヤバイのだけど、なんとかいったん口に入れ、それを絶妙に手の中に出す。この際に不自然ではないように口元に手を運ぶのがコツだ。 手の中にさえ移ってしまえばこっちのもので、あとはクチャクチャと食ってる振りをしてテーブルの下で頂いたお手拭みたいな布の中に納豆を隠す。これを数回繰り返して見事に納豆を食いきったように見せかけた。 「いやー、やっぱコクが違いますね、この自家製納豆は」 とか適当なことをいいつつ夕食を完食。あとは証拠を隠滅させるだけだ。 「すいません、トイレをお借りしていいですか?」 ここで極めてナチュラルに納豆入りの布を手にトイレに向かう。後はトイレに流してしまえば完全に証拠隠滅だ。やったよ堀田君、僕は見事やりきったよ。 変なライオンみたいな置物がある趣味の悪いトイレの個室に入り、証拠を隠滅しようと布を開く。 「うわー」 そこには何か得体の知れない生物が産卵したみたいな糸地獄が。これ外国人に見せても絶対に食べ物とは思わないだろ。おまけに手からも糸が出ていてスパイダーマンみたいな状態に。 あとはこれをトイレに流せば終了だ、そう思った刹那、ある一つの疑惑が巻き起こった。 「納豆はちゃんと流れてくれるのだろうか?」 普通に考えればあんな大物のウンコでも問題なく流れるトイレだ。納豆であろうとも問題なく流れてくれるだろうと推察できる。しかしながら、ここは他人様の家、まかり間違ってトイレが詰まるような事態になってしまっては全てが露呈する。あの日の堀田君のように、全てが取り返しのつかないことになってしまう。トイレに納豆流したことないからどうなるか予想もつかない。やばいやばい、危険が危ない。 いまだ動かぬ証拠を手にしてトイレから出てくる僕。どうしたものか。さすがにこの布を丸ごと持って帰るわけにはいかない。この布だってこの家のものだ。どうしたものか。凶器を隠しきれない殺人犯のように困り果てて廊下で固まっていると、そこにあのドーベルマン風の犬がやってきた。 「そうだ……こいつに!」 あの日の堀田君は、処理した豆を鳩に食われることで犯罪が露呈した。しかしもう僕はあの日のようにか弱く、無知な子供ではない。逆に動物を証拠隠滅の糧とするべきなのだ。 「ほら、食え食え」 犬が納豆食うかどうか知らないけど、思いっきり納豆つきの布を近づける。ウーとか唸って警戒レベルも最高潮。噛み殺されてもおかしくないのだけど、納豆に我を見失った僕はどうかしていた。 犬は言葉を喋れないのだけど、明らかに遺憾の意を表明します、みたいな表情してた。外国で日の丸を燃やされた時の日本政府みたいな対応してた。 明らかにやめたほうがいいのだけど、早く納豆を消滅させねばと冷静さを失っている僕は、ドーベルマンみたいな犬にさらに納豆を食わせようとする。するともう、大変なことになっちゃって、犬の口の周りが糸だらけ。見るも無残なことになってた。 「わー、やばいやばい」 と思った時には時既に遅く、新手のオシャレみたいに口の周りが納豆の糸だらけになったドーベルマンは、いざ鎌倉へ!といった勢いで飼い主のもとへ。1192作ろうといった勢いでワンマン社長の下へ。 「うわあ!ベス!なんだこれは!」 廊下に明かり落とすドア明かりの向こうからその声が聞こえた時、色々なことが終わったなと思いました。 「社長!これは病気かもしれませんよ!」 「これは納豆だろう。なんで納豆なんか」 「クゥーン」 みたいな会話が交わされ、後はもう思い出したくもないのですが、困り果てた僕は、「これは納豆が好きな犬です」とまたトムになるしかありませんでした。 まあ、多分バレバレだったんでしょうけど、ワンマン社長の表情は引きつり、それに呼応して青ざめる上司、とまあ、阿鼻叫喚の生き地獄でしてね、堀田君も草葉の陰で大変喜んでると思います。 帰り際、真っ青になってる上司が。 「社長、これからもよろしくおねがいします」 とすごい真剣に、シナリオにない感じで決死の感じで言っていました。それにワンマン社長は笑顔で答え、 「もちろんだよ、これからもよろしく頼むよ」 と、この日聞いた言葉の中で一番心のこもってない言葉を発したのでした。納豆のように粘り気のある視線でジットリと僕を睨みながら。 2/29 コスモナウト ほら、僕ってむちゃくちゃチンコでかいじゃないですか。 まあ、あなたたちは所詮は他人ですから僕のことなんて全然分かってないでしょうし、むしろ分かってて多くの人が「ああ、patoね、あいつチンコでかいよ」とか周知の事実になっていたら赤面してしまうのですが、まあ、とにかくデカイんですよ。これだけは譲れないね。 もうホントでかくてですね、例えば仕事帰りにオシャレなバーとか行くじゃないですか。そうすると色々なことに疲れた妙齢の女性がカウンターに一人。「ねえマスター、恋ってなんなんだろうね」とかため息交じりに言うわけですよ。僕は少し離れた場所に座るわけなんですけど、その愚痴を聞きながらついつい口を挟んじゃうわけなんですよね。 「人は誰かに寄りかかってないと生きていけない。孤独な宇宙を一人旅しているわけじゃないんだ。この世界は寄りかかりの連鎖だよ。恋をするってそれの顕著な表れじゃないのかな」 「素敵」 マルガリータをクイッとやりながら語らうわけなんですが、まあ、そうなるとおセックス的流れになりますわな。「出会ったその日に…なんて…信じられない…」とか言いますよ。で、いよいよいたそうかって時にジャンボリーなブツをお披露目ですよ。モロンとお披露目ですよ。そうなると「ムリムリ、こんなの絶対入らない!」そうなると思うんですよね。あまりのビックコックに彼女も怖気づいてしまう。それだけ罪作りなチンポコだと思うんです。まあ、僕、童貞ですけど。 とにかく、これが目下のところ悩みでしてね、「あまりにチンポコがでかくて困ってる」っていうね、たまに引きずって歩くこととかもありますから、困ってるんですよ。いやいや、別にそういったおセックス的な意味合いで「あまりにもデカいと相手の女性が怖気づいてしまうのでは?」とか悩んでるわけじゃないですよ。僕は40歳まで童貞を貫いて春秋褒章を天皇陛下から親授されるのが人生の目標ですからね、そんな下賎なことでは悩まない。もっと別次元で高尚なことで悩んでるんです。 まあ、その悩みをズバリと書いてしまうと、「あまりにチンポコがでかいためにその体積増加が無視できない」という部分なんですが、これじゃあちょっと皆さんには何のことやら分かりにくいですよね。ということで、順を追って丁寧に説明していきましょう。 仕事場での昼休憩のことでした、僕は女性が物を食べてる姿を見ることに途方もないエロスを感じるタイプの人間ですので、昼飯時を狙って女子社員が多いフロアに用もないのに行くんですよね。それこそデカイチンポコがズボンの裾からはみ出してズルズル引きずる感じでフロアに行ったんです。 すろとまあ、いるわいるわ、お弁当箱を開けてモシャモシャ食べてる女子社員がいるんですよね。おいおい、子猫でももうちょっと食べるだろ、そんなんで足りるのかよって言いたくなるような、オッパイで言うとAカップくらいの小さい小さいお弁当箱広げて食ってるんですよ。 でまあ、最近の女の子ってのはみんなお行儀悪いですね、みんなパソコンと睨めっこしながら食ってるんですよね。食事中までパソコンに向かって仕事かよ、どんだけ熱心なんだと見てみますとね、どうやら仕事ではなくて各々が好きなブログだとかそういうのを見ている様子。中にはNumeriを読んでる子とかいて肝を冷やすのですが、そういうのを華麗にスルーしてある女の子のパソコンの画面を注視します。 「なにしてんのこれ?」 彼女はまあ、大人しそうな顔して実はセックス依存症なんだろって個人的に睨んでるんですけど、それは今関係ないですね、なんかそのセックス依存症の彼女が大変訝しげなサイトを開いてるんですよ。 「ああ、これですか。有名な占い師がメールで悩み相談に答えてくれるんですよ」 ホント、女の子って悩み相談とか占いとか大好きじゃないですか。女の子なんて基本クルクルパーですからこの二つかチンポコが好きって相場が決まってるんですけど、そのうちの二つを抑えてくるとはなかなかやるなって感じなんですよ。 「でも占いとかって非科学的でナンセンスだよ」 まあ、この辺が僕が嫌われる最たる理由なんでしょうけど、そうやって否定すると彼女が烈火の如く反論してくるんです。 「そんなことない!すごく当たるんですよ!メール出しただけで私が悩みを抱えてるって当ててくれたし、内容は言いませんけど悩んでる内容まで当たったんですから!」 そんなの悩み相談を実施しているサイトにメールして来た時点で悩みがあるなんてちょっと賢いチンパンジーくらいなら当てますよ。そしてその内容だってどうせ惚れた腫れたの内容だってのは僕だって分かります。そんなことのたまってる暇があるなら片乳の一つでも出しやがれとでも言いたいのですが、まあここはあえて言わぬが花というものですよ。 「ふーん、そんなに凄いんだ」 「悩んでることも的確にアドバイスしてもらえてすごいんですよ!」 まあ、占いとかって占いにかこつけて悩み相談をしたいって部分もあるでしょうし、それで円滑に回っているならばあえて何も言わないのですが、そんなに凄いのならば自分も相談してみようじゃないかって気分になってくるじゃないですか。 「そこのアドレス教えてくれる?僕も相談してみるよ」 このスケも自分の携帯アドレスとかは「えーストーカーされそう」とか何とか言って絶対に教えてくれないのですが、他人のアドレスならホイホイ教えるみたいで、その凄い悩み相談をしてくれる占い師のアドレスを教えてくれたのです。 さて、そうなってくると、いよいよ占い師に相談するわけなのですが、いきなり初対面メールに「チンコがでかくて悩んでます」はやっぱり社会的体裁とかの面で問題あるんじゃなかろうかって考えますよね。逆に自分のところにそんなメールが来たら恐怖で発狂しますよ。 ですので、いきなり本題に入るのではなくてジャブ程度の話題から入って本題につなげてやろう、それに、チンコがでかいって正直カッコワルイ相談じゃないですか、その分導入部分はカッコイイ感じにしたい。そんな色々な思いが交錯してできた文章が以下のものです。
まあ、言うたらキチガイですよ。上品な言葉で言ったら少々頭のおかしい人ですよ。もっと言うなら昇進を決める会議の日に寝坊してきて昇進がなくなった31歳ですよ。クソッ! とにかくまあ、こういった悩み相談のメールを送ったわけなんですが、正直、返事が来るとは思っていませんでした。いくらカッコイイ冒頭をどっかから引っ張ってきたとは言っても相談内容が内容です。完全スルーで見事に透かされるか「バカじゃないの」とか辛辣な言葉でも言われると思ってましたよ。っていうか、僕がこんなメールもらったら絶対に「バカじゃないの」って返信する。けれどもね、やっぱ心優しき占い師ですよ。その返信は予想以上に心優しき菩薩的なもの。
みたいな感じの返事が返ってきたんですよ。いやいやいや、っていうか、アンタ、相談メール読んでないだろ。全然読んでないだろ。何をどう勘違いしたら「チンポコがデカイ」という悩み相談の返事が「進むべき道」とかになってるんですか。これだったらまだ「バカじゃないの」の方が随分と印象がいいわ。ちゃんと読んでるってことだからな。 とにかくまあ、職場のセックス依存症の女子社員が良く当たると太鼓判を押す占い師が言うことですから、まあ、信じてやってみようかな、自分の好きなことをやってみよう、と思いを馳せるわけなのですが、そうやって考えるとやはりどうしてもコーラが好きってことになるんですよね。 賢明な読者の皆様ならご存知だと思いますが、僕は無類のコーラ好き。コーラだけで1ヶ月過したこともあれば、モンゴルに行ってまでもコーラを追い求めていたという経緯があります。やはり「好きなこと」って大塚愛さんと動物園デートするかコーラ関連の何かになってしまうんですよね。 ……そうだ!コーラ風呂をしよう! 大長編ドラえもんのび太と小宇宙戦争(リトルスターウォーズ)では、スモールライトで小さくなったシズカちゃんが牛乳風呂に入るシーンがあります。幼かった僕などは何度となくあのシーンで興奮したものです。やはり、僕らの世代でのエロスへの目覚めはシズカちゃんに他なりません。ドラえもんという夢いっぱいの物語の中にありながらほのかにエロスを感じさせる、あれこそが性の登竜門であるべきなのです。あの微妙にチョビッとというかポチッというか、そんな感じで表現された乳首、それが本来あるべき姿なのです。あれが真っ黒の乳首とかだったら僕は今頃グレて檻の中にいます。あの乳首だったからこそこうしてギリギリながらも真っ当な社会生活を営めているのです。それが今やどうですか。性の登竜門にあるべき年代の子供たちがインターネットを駆使して無修正のエロ動画を見ることができる。潮吹きの動画とか見てますよ。バイブを突っ込んだ女にネットカフェを徘徊させる動画とか見てますよ。これはもう入門編から完成系、自動車学校でF1マシンに乗せるようなものです。ひどいケースになるとその年代で初体験を済ませることもあるというのですから、なんともはや、どうなってるのかと声を大にして言いたい。僕はこの事象に何度となく警鐘を鳴らしてきたはずです。性の入り口はシズカちゃんの乳首であるべき。それからの逸脱は凶悪事件や青少年犯罪の増加を引き起こすだろう、そう警告してきたはずだ。そして実際にその通りになっているではないか。このままでは日本はどうなってしまうんだろうか。教育再生だとかヤンキー先生だとか、そんなのをやる前にもっとやるべきことがあるだろう。子供たちにシズカちゃんの入浴シーンをみせなさい、と声を大にして言いたい。で、何の話をしてたんだっけ? あ、そうそう、牛乳風呂の話ね。シズカちゃんの乳首で5時間語れる僕にとっては牛乳風呂なんてどうでも良い話なんですけど、日記の流れ上、仕方無しに続きを論じますね。 あの牛乳風呂のシズカちゃんのように憧れの液体で風呂に入るってのは人類皆が共通で抱いている願望なんだと思うんです。クレオパトラは牛乳風呂に入った、エリザベート・バートリーは若い女性の生き血を風呂に使った、メアリー女王はワイン風呂に浸かった。ずっと太古から色々な液体が風呂に使われていたのです。 では、無類のコーラ好きの僕はどうか。これはもうコーラ風呂しかないでしょう。疑うまでもない当然の選択です。ということで、早速コーラ風呂をするべく準備にとりかかりました。
まず、これがウチの風呂です。汚いですね、狭いですね。余談になりますが、ガスが停められてて水しか出ません。しかしまあ、コーラ風呂です、お湯なんかでなくても関係ありません。 まずどれだけのコーラを準備するべきか、この風呂の体積を測定する必要があります。測定したところ0.5立方メートルほどありました。リットルに換算すると500リットルです。1.5Lペットボトルを333本買ってくれば済む話です。 しかしながらここでちょっと考えてみてほしい。あなたは満杯に溜まったお風呂に浸かってザバーとか水が溢れてもったいないと思ったことはないですか。お風呂でオナラしたらボワッと泡が出て、その泡が目の前で弾けて濃縮された異様な臭さに気を失いそうになったことはありませんか。後者は全然関係なさ過ぎて自分でビックリしましたが、前者はそういうわけにはいきません。溢れる分を計算しなくては、溢れるのが水道水ならいいですけどコーラとなると話は別、もったいなくていけません。 お風呂にはいった時に流れ出るお湯の体積は、水に浸かる部分の自分の体積になるわけです。人間の体の比重は標準で1と考えることができますので、体重90キロある僕の体積は90リットルとなります。しかし、頭全部まで風呂に浸かるわけではありませんので、概算で85リットルとしましょう。これだけの量は浸かった時に溢れ出るものですから初めから準備しなくていいはずです。 そうなると415リットルのコーラを準備するわけで、1.5Lを277本。もうちょっと現実的にして風呂満杯までいかなくとも浸かった状態で8割あればいいと考えると221本になります。随分と現実的な数字になってきました。 しかしですね、ここで思い出してほしい。当初から僕が悩んでると公言しているチンポコのでかさを考慮する必要が出てくるのです。序盤で述べた、「あまりにチンポコがでかいためにその体積増加が無視できない」というのがグキグキと効いてくるわけなんです。 アナタたちのように標準サイズ、もしくは極小サイズ、または仮性包茎なチンポコを有す者たちは別にいいでしょうよ。さっきの計算のように体重90キロなら体積も90リットルで計算すればいいでしょうよ。ぶっちゃけるとあまりに小さすぎて誤差として無視できるレベルですよ。けれどもね、僕ほどの巨根になるとはそうはいかない。明らかに事前にチンポコの大きさを推定してコーラを準備する必要がある。緻密に計算したのにチンポコ分コーラが溢れました、じゃ笑い話にもならないですよ。 でもね、そうなってくると通常状態かビンラディン状態かでも話が変わってくるじゃないですか。ビンラディンだったら競輪選手の太ももくらいになるかもしれないっすよ。そしたらもう、足が3本あるようなものですから、絶対に排除すべき体積も増加するんですよね。 もうこうなってくるとどうしていいのか分からなくてですね、チンコが大きいのが悩みで占い師にメール出したらコーラ風呂に入れって言われて、入ろうとしたらまたチンコのでかさに悩まされる。時代を超えて何度我々の前に立ちはだかるのですか、ノストラダムス!って感じなのですか、とにかく悩んでいても始まらないので適当に計算します。 普通に満杯にすると500リットル、そこから引くことの90キロの標準人間の体積が90リットル、デカチンポコが35リットルはあるだろーってことで35引く、すると375リットルになるわけです。で、同じように8割にすると300リットル。1.5リットルペットボトルに換算すると200本です。 で、これを購入するお金をどこから捻出するかというと、このサイトの上のほうに広告がついてますね。あれのお金がずいぶん貯まってきたのでここから捻出します。本来、サイトの広告費はこういう使い方をするべきだね。すごく有意義だ。 というわけで、
購入してきました。1.5リットルコーラ200本。300リットル。近所中の店のコーラを買い占めてやったワイ。ちなみに1箱で8本入ってますから25箱。途中からは箱で買えなくなって剥き出しのまま買ってきました。ちなみにこの画像に写ってる分でまだ半分だっていうんだから恐ろしい。 これをさっそくドコドコと風呂に充填していきます。
当たり前ですが、風呂場からシュワーというコーラ独特のあのサウンドが聞こえてくるのは少々気味が悪いものがあります。
これが1本、1.5リットルのコーラを入れた状態。なんかこぼしちゃったみたいな状態になっとります。気にせずどんどん入れていきましょう。
10本、15リットル入った状態。ここまでくるとやはり大量のコーラって感じがして、あちこちからシュワシュワシュワ、と禍々しき生物が誕生したみたいな音がしてきます。あと、風呂場の中が甘ったるい匂いで充満して吐きそうになってくる。気にせずどんどんいきましょう。
ここで約半分。慣れてきたもので泡立たない入れ方をマスターしてきました。
けっこう入れるの面倒になってきた。風呂場でコソコソ作業してると死体処理でもしてる気分になってくる。
ついに完成。買ってきたコーラ全部入れてやった。きっちり計算どおりだったみたいで予想通りの位置に水面、じゃないやコーラ面がきています。これ全部コーラだっていうんだから豪気にも程がある。なんかどす黒いものが風呂に溜まってる光景は異様で、なんか醤油か!ってツッコミ入れたくなる。シュワシュワ変な音がしてるし、これに入るのはなんかちょっと怖い。
ついに入浴。ちなみに買ってきたそのまんまなんでコーラの温度は10℃くらいだと思う。むちゃくちゃ冷たい。あまりの冷たさに身悶えながら肩までつかると、きっちり風呂桶の8割くらいの高さにコーラ面が。あまりの計算どおりさに自分でも驚いた。きっちりチンポコ分の排除体積を計算した甲斐があった。 浸かってみて分かったのだけど、まず、冷たい。飲むには最適な温度、むしろやや温いくらいなのだけど、これが風呂になると途端に地獄のような冷たさに変わる。そして感触としてはヌチャヌチャと粘りっこい感触が全身を包むと共に、なにか針で刺されるような刺激がチクチクとしてくる。
いやー、大好きなコーラに囲まれて入浴って最高ですね。寒いし、ネチャネチャして気持ち悪いけど。入浴中ってのはとかく喉が渇いたりすることがあると思うんですけど、そうなってもズズズズーって目の前のもの飲んだらコーラですからね、もう最高。
画像では分からないけど、思ったほど泡立ったりはしない。おそらく、入れる段階で結構泡立ってしまって炭酸が抜けてる状態だと思う。つまり、全身を刺激しているものは炭酸によるシュワシュワではなくて、何か別のものが作用しているのではないかと思う。なんかチクチクを通り越してヒリヒリ痛くなってきた。骨が解ける感じだ。 真っ黒なコーラの中に浸かっていると、なんか宇宙空間に放り出されたように感じて、色々な悩みとか、チンコの大きさの悩みとかちっぽけなことに感じられてどうでもよくなってくる。僕は今コーラの宇宙の中にいる。 全身がヒリヒリしてきていて何かきな臭い感じがするので、コーラでシャンプーすることに。
画像では分かりにくいですけど、シャンプーも普通に泡立つ。心なしか泡が茶色いけど泡立つ。これで思いっきり洗髪することに。 うおー、普通に洗えるぞ。っていうか何か刺激があってすごい洗えてる気がする。こいつはすごい、すごいぞコーラシャンプー!
なんじゃこりゃー! なんか、むちゃくちゃ毛が抜けたんですけど。いつもの10倍くらいの勢いで毛が抜けて拳の中に納まってるんですけど。明らかに頭髪に悪いのは分かってるんですけど、シャンプーの泡を流すのもコーラしかないわけで、思いっきりコーラで流しました・こんなもん毎日やったら絶対に禿げるぞ。 とにかく、色々と危ないので風呂から上がることに。撮影に使ったコーラはスタッフが美味しくいただきました。何でかしらないけど髪がごっそり抜けるわ、なぜか全身が真っ赤になってヒリヒリするわ、おまけに異様な寒さで確実に風邪ひきました。でも、悩みとか結構どうでもよくなって、占い師が言ったことも満更間違いでもない、コーラ風呂やったら結構前向きになれたよ、と感動したのでした。チンコの大きさに悩んでる時はやってみるもんだぜ、コーラ風呂。
2/22 過去ログサルベージ 死!亡!遊!戯! あまり仕事が忙しくない僕なのですが、なんと、あまりの忙しさにここ数日家に帰ってないというマリオがスター取ったような状態に陥っておりまして、風呂にすら入ってなくて異様に臭く、ついでにバレンタインチョコも貰えなかったわけでして、まあ、なんていうんでしょうね、誰でもいいからチョコくれ。気分はそんなフィーリングです。 そんなこんなであまりの忙しさに日記を書く暇すらなく、正確には書くことくらいはできるのですけどぶっちゃけ面倒というか、31歳にもなって一生懸命日記を書く人って正直どうなのって感じ、ハッキリ言って職場にそんなヤツとかいたら友達にはなりたくないですよ。なので、本当に申し訳ないのですが今日はサクッと過去日記をサルベージ。 これはまあ、日記を書けない、書く気力がない、親が死んだ、そういった時に過去の日記からサクッとコピペしてくる手法でして、テキストサイト管理人の強い味方。僕的には使えたとしても1年に2回までが限度だよなと自分の中で戒めているのですが、その1回を早くも2月の段階で使うという大暴挙。 とにかく、そんな事情で今日はサルベージですので、サクッと2年ほど前にコーラのみで1ヶ月間過ごした時の記録をコピーアンドペーストしてお茶を濁したいと思います。 ついでに、このコーラ生活はブロマガという今は亡き色々な意味で伝説だったサイトで執筆したものです。それではどうぞ。 ---------------------------------------- 1/11 コーラ生活vol.1 ---------------------------------------- 1/18 コーラ生活vol.2 夜食にコーラ2本飲んで寝る。
「鶏肉のコーラ煮込みシェフのきまぐれ風」 まず鍋にコーラを入れ、煮立たせます。 そこに鶏モモ肉を豪快に入れ、彩りを考えて刻んだ人参を投入します。 加熱が進むとキッチン中に甘ったるい匂いが立ち込め、コーラも煮立って地獄絵図みたいになりますが気にしない。とにかく煮込みます。 塩・こしょうで味を調え、完全に人参が柔らかくなったら完成です。 どうです、美味しそうでしょう。 で、公式ルールでは「コーラ以外は口にできない」と厳格に書いてありますので、よく煮込まれた鶏肉と人参を豪快に捨てます。こんなもんいらねえ。 コレで完成! 「鶏肉のコーラ煮込みシェフのきまぐれ風」 実際に味わってみると、これが案外美味いのだから驚き!みんなもやってみるといい。鶏肉と人参の味がコーラに染み出すまで徹底的に煮込むのがコツですが、すると品の良い紅茶みたいな味がするのだから驚きです。蒸気がムワンとコーラなのは気にしないことです。温かいコーラってのも新鮮で、炭酸は煮込んでるうちに物凄い勢いで抜けていくので問題ありません。本当にイギリス貴族もビックリの紅茶の味わい。これならロンドンでも人気が出る。 コーラ表面に浮かんだ油みたいなのが気味悪いですが、栄養面でもおそらく完璧。たぶん、不足している栄養分が染み出しているだろうと思うことにします。これはもうこのチャレンジ中の定番メニューになるかもしれない。 消費コーラ ということで、早くも暗雲たちこめる1ヶ月コーラ生活。コーラを見るのも嫌になる、口内炎ができる、気力がなくなる、下痢が止まらない、46時中オナラが出る、何か満たされない気持ちはあるのにコーラで空腹ではないという不気味な状態、などと不安要素たっぷりですが、一番不安なのは来週は職場の飲み会という一大イベントが控えていることです。果たして僕は飲み会をコーラだけで乗り切れるのか、こうご期待! 1週間で消費したコーラの空きペット&空き缶でコーラタワー。 ---------------------------------------- 1/25 コーラ生活vol.3
そしてゼラチン粉投入。 すると、ついに固形コーラが我々の目の前に! な、なんか汚い!どぶ川の端っこみたいな状態になってる! 分量を間違ったのか思ったより固まらないもので、小動物みたいにプルプルしてるんですけど、なんか思ってたのとちょっと違う。しかしまあ、食ってみることに。 味は、コーラなんですが、それに混じって生姜みたいな味がしてました。 なんにせよ、久々の固形物に大満足。満面の笑みで眠りについたのでした。 前日作った固形コーラにならい、余ってたゼラチンを使ってコーラを固形化。それを包丁で刻んで麺状にする。 スープはもちろん、煮たコーラ。塩ラーメンが好きなので大量に塩を入れてコーラを煮ます。 完成!コーラーメン 全然分からない!そりゃそうだ、麺もスープもコーラなんだからな! とにかく、念願のラーメンを作ることに成功したので、見た目とか気にしないで食ってみることに。食ってみるともちろんのことながら、美味しくなかった。コーラの味しかしない。てか、全然ラーメンじゃない。
---------------------------------------- コーラ生活vol.4 色々吟味した結果、そもそも何の栄養素を購入したらよいのか分からないので適当に購入。 まずは「にんにく」。これは何か良く分からないけど効きそうだ。 次にビタミン。これも体に良さそうでたまらない。 そして、「つるるんサプリ」。お肌を綺麗にしてどうする。つるるんしてどうする。もっと必要な栄養っぽいの採れよ、と自分に言いたい。狂ってる。狂ってやがる。 複数の栄養を手に入れ、下痢にも慣れた、口内炎はいつの間にかなくなった、鬱はどうしようもない、肩こりは大丈夫そう。さあ、フィナーレまで一気に行くぜ!と意気込んで後半戦のスタートです。
体の諸データの移り変わり
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一ヶ月コーラのみで過ごす人の生活の記録。 「エッチなサイト使って支払いがないんですがねー」 とヤクザみたいな声で携帯電話に入電。どうみても架空請求だ。 「コーラ」 「はあ?」 「コーラ」 「なにいってんの?バカにしてると大変な目にあうぞ」 「うるせえ、コーラしか飲んでない俺の気持ちが分かるか!」 ガチャ あれほど熱い戦いをした架空請求業者もコーラのセリフに一目散。真性のキチガイだと思ったに違いない。これは今度から使えそうだ。 消費コーラ 肩が外れそうに痛いのでピップエレキバンを買って来る。もうコーラを見たくないとか鬱だとかそういったのを超越していて、なんだか悟りを開いたかのように清々しい気分。コーラとは命の水だ。それが100円くらいで買える今の日本に感謝しなければならない。 1ヶ月で飲んだコーラの総量がもう少しで100リットルになるので何とか頑張って100リットルに届かせたい。あと10リットルちょっと。 体の諸データの移り変わり
コーラタワー4 ---------------------------------------- 2/14 コーラ生活ファイナル コーラのみで1ヶ月生活した頭が可哀想な人の記録。ついに完結。
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2/14 ストーカー 逃げきれぬ愛 「ストーカーよ!絶対ストーカーだわ!」 朝出勤すると、例の如く職場のブスが発狂してました。その勢いや凄まじく2005年にアメリカ合衆国に甚大な被害をもたらしたカトリーナなんて目じゃないくらいに猛威を奮っておりました。カテゴリー5くらいだった。 発狂しスパークするブスというのはそれだけで趣き深いものでいとよろし、暖かい陽だまりのような優しい目つきでそのブスを眺めていたのです。彼女はなぜブスに生まれてきてしまったのだろうか。それは一体誰の責任なのだろうか。彼女の親を責めることはできない。もちろん彼女自身を責めることなどできやしない。もしかしたら誰も悪くないんじゃないだろうか。彼女がブスであることに誰も責任なんてないんじゃないだろうか。 そう考えると彼女はなんと罪な存在なんだろうか。誰にも責任の所在がないのに、彼女という悪は確実にそこに存在する。今ここでユックリと呼吸をし、ブスという悪を振りまいている。これはもう、例えるならば殺意なき殺人と同じだ。 殺人自体は決して肯定されるべきじゃないけど、誰かが誰かを殺した場合、そこには殺すなりの理由がある。怨恨や愛情関係のもつれ、金銭トラブル、殺すだけの理由と殺されるだけの理由がそこに存在する。しかしながら、殺意のない殺人ほど恐ろしいものはない。理由がないのだ。殺されるだけの理由がないのに殺人という悲劇だけは確かに存在する。言い換えればいつ自分が殺されてもおかしくないし、自分じゃなくとも大切な人が殺されてもおかしくない。そんな恐怖がそこにある。 彼女は罪な存在だ、そう思いながら猛威を奮うブスを見ておりましたところですね、どうやらブスが「ストーカーよ!」と叫んでおりまして、恐ろしい勢いで職場中の人に話しかけてました。死ぬ間際の蛾が必死で燐粉を撒き散らすかのような諸行無常の切なさがそこにあった。 どうにもこうにも「ブス」と「ストーカー」っていうのが上手に頭の中で繋がらなくてですね、漠然と「ああ、ブスがどっかのイケメンにストーカー行為を働いてるんだ、ダメだよ、そんなことしちゃ」などと考えていたのですが、どうやらそのブス自身がストーカー被害に遭っている様子。なんと、彼女が被害者だとは思いもしなかった。 「早く警察に行った方がいいよ」 などと、ウチの職場のメンツは優しい人々が多いですので引きつった顔をしながらもブスに対応するんですよ。非常に心にもない感じで言うわけなんですよ。 「でもー、警察とか結局何も動いてくれないしー」 こう、なんていうんですか、ブスがストーカー行為をされてしまう魅力的な自分ってやつに酔いしれてるんですよ。 「それでも何かあってからじゃ遅いよ」 優しき同僚も負けてないもので、本当に心の底からどうでもいいのはありありと伺えるんですけど、なんかブスの安全を気遣っていうんですよね。この気遣いってのが社会で行きぬく上でどうしても必要なものなんだと思います。ブスはブスで大したもので、その気遣いに対してキチガイですから、 「もし私が死んだらそのストーカーが犯人だと思って!」 と、ジョークでもなく、そういった類のブラフでもなく、いたって本気といった真剣な面持ちで言っておりました。殺意はないけど殺してやろうかと思った。 まあ、こういったコミカルな朝の一コマなんてのは金を払ってもそうそう見られるものではありませんし、自分に実害さえなければ温かい紅茶花伝でも飲みながらゆったりと眺め、後々思い出しては傑作だったと振り返ることができるのですが、これが自分に身に降りかかってくると笑えないものがあります。 どうにもこうにもブスの中でストーカー事件に対する同僚達の反応がイマイチだと悟ったのか、入り口のところで立っている僕めがけて猪突猛進の勢いで駆け寄ってきましてね、口の中から見たこともない生物が出てくるんじゃないかって勢いで言うわけなんですよ。 「patoさん!わたしストーカーに狙われてるんです!」 僕も僕で、そんなこと言われても返答に困りますからね。さすがに「ふーん」としか思わないんですけど、そう答えたら円滑な職場コミュニケーションに支障が生じるじゃないですか。ストーカーはどうか知らないけど、インドにはカーストという厳しい身分制度があってね、今でもインド社会に根強い差別感情を残してるんだ、僕はクシャトリア、君はスードラだね、とか答えても良く分からないことになってしまいます。もう答えに窮してどうしていいものか分からず、 「そいつはめでたい」 と訳の分からない反応を返していました。そしたら、ブスはなんか脳ミソのシワみたいな顔になっちゃいましてね。 「どうしてそういうこというんですか!」 とか大号泣ですよ。それだけならまだ許せるんですけど、なんかブスの脳髄で色々なことが間違った方向に大回転したらしく、何故か 「もしかしてpatoさんがストーカーなんじゃないですか!やめてください!」 とか、僕が「サタンが襲ってくる!」と訳の分からないことを呟きながら夜の街を徘徊しては若い女ばかり拉致して殺害し、壁の中に死体を埋め込んで何食わぬ顔で日常生活を営み、家を解体したら20体以上の死体が出てきたっていうアリゾナ州を中心に全米を震撼させた殺人鬼だったとしたら間違いなく殺ってるようなこと言うんですよ。 こうなってくると良く分からない展開になってくるのはいつものことで、職場のメンツも狂言師みたいになってるブスが心の奥底ではウザったいですから、体良く僕に押し付けて平穏な職場環境を取り戻そうと 「patoさんにストーカー捕まえてもらえばいいじゃん」 みたいな訳の分からない機運が高まってくるんですよ。 「いや、僕喧嘩弱いし格闘とかになったら負けちゃうよ」 とか何とか回避しようと画策するのですが、どうにもこうにもヒートアップして台湾の国会みたいな状態になってますから 「部屋の近くで張り込んでてストーカーが来たら捕まえればいい」 「そんな!若い女性の部屋に張り込むなんて!」 と一進一退のやりとりがあったのですが、結局、僕がブスをストーキングしている犯人じゃないことを証明するために真犯人を捕まえなければならないって状態になってましてね、物凄く不本意ですがブスのアパートを張り込むことになったんです。 寒い夜でした。TRFが出てきてもおかしくないレベルで寒い夜。サムとオカメみたいな女が踊りだしてもおかしくないほどに寒い夜。凍えながら車の中でアパートを見守る僕。ブスには似つかわしくないピンク色のブリブリな外観をしたアパートをじっとりと見守っていました。 「じゃあ、夜7時に私の家に来てください」 とかブスが言うので行ったんですけど、行ったら行ったでインターホン越しに 「なんで私の家教えてないのに知ってるんですか!やっぱりストーカーなんでしょ!」 とかインターホンぶっ壊しそうになること言い出しやがりましてね、そんなの、職場の飲み会でベロベロに酔っ払ったブスがスーパーブスになって、ゲロとか吐いてたからタクシーとオンブを駆使して送ってやったからじゃないか、とは言えず、同僚の渡辺君に聞いた、と至極無難なことを答えておきました。さすがに、僕はよく60キロの荷物を担いで移動することがあるんですけど、君はそれより重かったよ、とは口が裂けても言えなかった。 それにしてもブスの部屋の前にゴミ袋が鬼のように投げ出してありまして、部屋が汚いことで定評のある僕ですけれども、さすがにゴミくらいちゃんと捨てようやって思いました。まあ、口が裂けても言えないですけど。 「部屋にはあげられません!離れたところから見張っててください!」 インターホン越しにブスが発狂してるのがありありと分かったのですが、まあ、別に部屋に入りたいわけじゃないですし、飲み会の時に運んできてベッドに投げつけて帰ってきたわけで、その際に床に転がるロケットランチャーみたいなブラジャーとか見てますからね、今更部屋に上げれないもクソもないのですが、とにかく言われたとおりに離れた場所に車を停めて見張ることに。 ブスの話によると、毎日夜になるとサラリーマン風の男がジッと窓から見える位置で私の部屋を見つめているとのこと、それだけならワタシも我慢できたのだけど、ついには部屋の前までやってくるようになって怖くなった。ストーカーにそこまでさせてしまう自分の魅力が怖い、ってなことを、僕が手榴弾を持ってたら間違いなく部屋に投げ込むようなことを言ってましたので、怪しい人影が来ないかジッと見張ってました。何やってんだろう、僕。 しかしまあ、時給6000円貰ってもやらないってくらいブスを見張るのは嫌だったんですけど、やはり僕の名誉を守るためには仕方ないって自分で自分に言い聞かせながらやってるんですけど、やっぱり何か解せない部分があるんですよね。 で、よくよく考えると、どこの部族があのブスをストーキングするんだって考えに至るんですけど、あまりにも暇なもんですから色々と考えてるうちにストーカー行為ってそんなに悪いものなのかなって思い始めてきちゃったんです。 例えば、精神を蝕まれるほどのストーキング被害ってのは忌々しき事態ですし、決して許してはいけない卑劣なる犯行だと思うんです。もちろん、ストーカーの方にも「相手を困らせてやろう」っていう思惑があった場合、これはもう逮捕されてしかるべき行為だと思うんです。決して許してはいけない。 けれども、殺意のない殺人じゃないですけど悪意のないストーキングだったらどうですか。悪意がないほうが性質が悪い、怖いって話もあるんですけど、それ以前の状態だったら単純に好意を寄せて好きな人をバリバリ意識するくらいのもんですよ。それくらいほとんどの人がやってんじゃねえかなって思うんです。 僕が中学生の時でした。 その当時、僕は好きな子がいましてね、その好きな子の家が本屋の前にあったんですよ。そうするとね、用もなくその本屋に行くようになるじゃないですか。本買う金なんてないんですけど、立ち読みしに足繁く通うようになるじゃないですか。こう、偶然を装って彼女に会ったりして、キッスとかできるかもしれないじゃないですか。 当時はストーカーなんて言葉はなかったんですけど、これだって今考えると立派なストーカー行為ですからね。ストーカー規制法で思いっきり裁かれますよ。こんなウブでピュアな僕の恋模様がストーカーなんて言葉で片付けられるはずがない。まあ、 「気持ち悪いからあの本屋に来ないで!」 って相手に言われて僕の恋も儚く散ったわけなんですが、それでも何か負けてはいけない!って気持ちが前面に出ちゃいましてね、 「ゲヘヘヘヘ」 と自分でも気持ち悪くなるようなことを言ってました。あの子、あまりの気持ち悪さに泣いてたからね。 まあ、それからが大変でしたよ。「もうあの本屋には来ないで!」って言われたのはいいんですけど、死ぬほどの田舎町ですから、ある程度立派な本屋ってそこしかなかったんです。この本屋はレンタルビデオショップも併設していたんですけど、レンタルビデオショップもそこくらいしかなかったんです。本買いたくてフラリと行った、ビデオ借りたくてフラリといった、マンガを立ち読みしたくてフラリと行った、それだけで彼女を付け狙ったストーカーですよ。いつのまにか悪意のないストーカーですよ。 そしたら困り果てた彼女が「気持ち悪い男に付きまとわれてる」と学校でも札付きの不良に頼んだらしく、僕が件の本屋で「海の闇、月の影」っていう少女マンガを立ち読みしていたら不良がやってきましてね、そこからが修羅場ですよ。 「お前、○○さんに付きまとってるそうじゃん」 「誰も俺の愛を邪魔することはできない!」 なみいる不良どもをちぎっては投げちぎっては投げ、2人くらい骨が折れてた。その姿を見ていた彼女が素敵!とかなってですね、まあ、その、キッスとかね、まあ、それ以上もありましたけど、こう抱き合ったりね、恥ずかしがりながら2人で手を繋いでコンドームを買いに行ったりね、暗くして…とか言われましたよ、下着がかわいいやつでね、驚くほど柔肌っていうんですか、すごい良い匂いがしたね、まあ、全部嘘ですけど。普通に不良に謝って二度と本屋に近付かないことを誓わされました。マジ、不良って怖い。不良を利用するあの女が怖い。 けれどもね、確かにこの場合の僕はやりすぎ家庭教師で、僕ってば結構女性を震撼させるストーカーになる素質があるなって思うんですけど、結構多くの人が似たようなことやるじゃないですか。好きな子と偶然一緒に帰れるように時間を調節したりとか、偶然会えるように策略を立てたりとか、飲み会で隣の席になれるように頑張るとか全部そうですよ。そういうのまでストーカーストーカー囃し立てるのもいかがなものかって思うんですよ。 「もしかしたら、あのブスを思うあまりの行動かもしれない」 ブスの部屋をジッと眺め、部屋の前までやってくるというサラリーマン風の男。ブスはこいつをストーカーだと騒ぎ立ててるけど、実はそれは好きという感情の爆発なのかもしれない。それを誰がストーカーだと裁くことが出来るだろうか。 夜の闇が包み、ブスの部屋の明かりがアスファルトにこぼれる。本当にそんなブスに好意を寄せる男が存在するのだろうか、またブスの狂言なんじゃないだろうか、死ぬほど家に帰りたい、様々な想いが渦巻く中、ジッと部屋の明かりだけを見つめる。 スッと黒い影が動いた。まさか、本当に来たのか。本当にストーカーが、ブスに好意を寄せる男が来たのか。半信半疑になりながらもアパート横の道路に注目する。 確かにそこにはスーツとコートに身を包んだサラリーマン風の男が立っており、ジッと見上げる形でブスの部屋の明かりを睨んでいた。本当にストーカーがきやがった。まさか来ないだろうと思ってたら本当にきやがった。 こちらもユックリと車を降りてストーカーから見えない位置に陣取る。ストーカーはしばらくブスの部屋を眺めるとユックリとアパート入り口に向かい、ブスの部屋へと続く階段を上り始めた。 このアパートは通路が外から見えるようになっているのだけど、そこから覗いてみると確かにブスの部屋の前をウロウロしている。間違いない、確実に彼女が言っていたストーカーだ。恐ろしい、本当にあんなブスをストーキングするサムライがいたとは。 しかしながら、ここで僕は途方もない事実に気がついてしまった。ストーカーが出ると睨んで半信半疑ながらブスの部屋を見張っていた。そして、期待通りにストーカーが出てしまった。さて、僕はここでどうするつもりだったのだろうか。 まさか、「ストーカー覚悟!」と戦って成敗するつもりだったのだろうか。いくらなんでもそこまでブスに義理立てする必要はないし、そこまで正義感が強いわけでもない。むしろ、ストーカーがナイフなどを忍ばせていたらこちらが危険だ。この命を賭けるならばできれば大塚愛さんのためにとか、そういった場面でありたい。 それよりなにより、彼を断罪する意義が見出せない。これがネコの死骸を郵便ポストに入れるだとか、精子をドアノブにぶっかけるだとか、そういった嫌がらせならば困ったものだけど、家の前まで行くのはやりすぎだけど好きな人の家の近くをウロウロするのは普通にやることなんじゃないだろうか。 様々な想いが渦巻く。中学時代に好きだったあの子、立ち読みした「海の闇、月の影」、あの子の家の立派な門構え、チェーンのついた豹柄のサイフとかもっていた不良たち、ブスの家に転がっていたロケットランチャーブラジャー、様々な想いが渦巻いて気が動転してしまった僕は、 「あのすいません」 とストーカーに話しかけてました。何やってんだ僕。 「あ、はい、なんですか?」 ストーカーはストーカーとは思えないほど穏やかに礼儀正しく反応していただき、僕もそうなると困ってしまい核心に迫るじゃないですか。 「ストーカーですか?」 もう、カクシンニセマラナイデって感じで、他にアプローチの方法とかあるだろうにいきなり剛速球ですよ。そう告げるとストーカーも非常に困惑顔。 「あなたがウロウロしている部屋の女性が怯えてまして、それで張り込んでいたわけなんですが」 みたいに丁寧に説明。彼が彼女に好意を持ってストーキングしているならば、そう言った僕の身も危ないので 「いや、別に僕と彼女が良い仲とかそういうのじゃなくて、僕が彼女をストーキングしてるってあらぬ疑いをかけられて、その無実を証明するために!全然良い仲とかじゃないですから!」 と弁明することも忘れない。凶悪なストーカーと対峙するpato!もうハラハラドキドキの展開!今これを読んでる読者様の中には「やだ!patoさんどうなっちゃうの!死んじゃいや!」と泣きそうになっている女の子とかいるはずです。いないですね、普通に続きを書きます。 「いやー、私の親がこのアパートのオーナーなんですよ」 ストーカーの衝撃の一言。 「会社帰りにアパートの様子を見てるんですけど、あの部屋の女性に困ってましてね、部屋の前にゴミためたり、酔って大声だしたり、周りから苦情が来てるんですよ」 「はあ」 「それでいつか文句言ってやろうって思ってるんですけど、なかなか言えなくてですね……」 もうね、恥ずかしくて恥ずかしくてね、顔真っ赤だったわ。何が「ストーカーですか?」だ。何かとっちめてやるって少し勢い良くいった自分を心の底から恥じ入るわ。 「すいません、ゴミは捨てるように僕の方からも言っておきます……」 結局、ストーカーと好意の境界線は分かりにくい、それだけにストーカーを断罪することなど誰が出来ようかって論じてきたのに、ブスにつきまとっていたのは好意ですらなくてアパートのオーナーだったとわ。さすがに脱力するわ。 その日はそのまま帰ったのですが、次の日、朝っぱらからブスタイフーンが吹き荒れており 「昨日はストーカーでました?」 と目を爛々と輝かせて聞いてくるブスに対して「アパートのオーナーだよ」とは口が裂けても言えず。 「昨日は出なかったよ。たぶん僕が張り込んでるのバレたからだよ」 というと、ブスはなんだか残念そうな顔をしていました。それどころか、 「patoさんが張り込んでる日だけストーカーが出ない、私の家も知っていたし、もしかしてpatoさんがストーカーなんじゃないの?」 と少し上目遣いで言ってました。ホント、殺そうと思った。思いっきり殺意を抱いて、無期懲役くらいなら覚悟するんで殺そうと思った。 月の影が落ちる夜のアスファルト、何故か今夜もブスの家に張り込みに行かなければならず、絶対に出ないと分かっているストーカーを待つ僕の方が、ブスに付きまとうストーカーになっていた。 2/6 石に布団は着せられない 人の不安に付け込んで騙しを働き搾取する、それは最も軽蔑するべき人間がやることです。また、騙さないまでも不安に付け込んで横暴な振る舞いをする、これも同様に同種のクズがやる行為です。 「なんか面白いこと言えよ」 先日、仕事の得意先の人にこのようなセリフを言われました。 この得意先の人に会いに行って、その人の機嫌を損ねないように持ち上げ、とてもビッグな契約を取り付けてこなければならないという勅命を頂いたのです。僕はこういうのが大変苦手でして、人の機嫌を損ねるのなら大得意なのですが、損ねないとか好印象を与えるとか、そういうのは多分無理なんですよ。 で、得意先に何度か電話をかけても目当ての方は不在、いたとしても多忙につき会う時間がないなどと言われてしまい、早くも試練というか何というか、正直に言うとむかっ腹がたってしまい契約とかマジどうでもいいかんじになってたんですよ。 そしたら、時間ないけどゴルフの時間だったら会える、とか言われちゃいましてね、その扱いの軽さに心底激怒したんですけど、「会ってもらえるだけで大きな進歩だ、私も行こうじゃないか」とか上司に言われちゃいまして、嫌々ながら上司と2人でゴルフ練習場へと赴いたのです。 得意先の偉い人は、金曜日の夜はいつも打ちっぱなし練習場でゴルフの練習らしく、バシュバシュとゴルフ練習しているところに僕と上司が行ったわけなんですが、やっぱこう、仕事の相手を立場を利用してこういう場所に呼び出す人って横暴ですよね、会う前から薄々勘付いてはいたんですけど、やっぱ会ってみるとすごい嫌なやつだったんですよ。 こっちはやっと会ってもらえたってことで、上司なんか可哀想なくらい必死になって仕事の説明とかしてるんですけど、相手は全然聞いてない。それどころかゴルフ練習にご熱心で目すらも合わせない。それでも文句一つ言わずに必死で説明する上司を見て、ホント、いつもは毛虫の如く毛嫌いしている上司だけどアナタは偉いよ、サラリーマンの鏡だ、などと尊敬したのでした。サラリーマンの悲哀と同時に大人の男としての立派さがそこにあった。 僕は僕で、コイツはクズだ、契約が取れなかったらどうしようっていう相手の不安に付け込んで横暴な振る舞いをするコイツはクズだ。コイツが崖から落ちそうになってても助けない!とか思いながらボーっとクズがゴルフ練習する様を眺めていたのですけど、そしたらその得意先のクズが言うわけなんですよ。 「こんなゴルフ練習場まで来て仕事の話とは、君たちは心底つまらない男達だな」 もうね、これには腹が立って腹が立って、さすがに温厚な僕も心底怒り狂いましたよ。ゴルフ練習場でなら会ってやるって言ったのはそっちじゃないですか。こっちも好きでやってるわけじゃない、僕らとしてはゴルフ練習場で仕事の話をするしか道がないんですから。 しかしですね、ここで怒るってのも大人気ないじゃないですか。それにジッと耐え忍んでいるサラリーマンの鏡上司にも悪いじゃないですか。僕もジッと耐え忍びましたよ。 「何か面白いこと言えよ」 クズの横暴止まるところを知らず。パシュ!とかナイスショットを放ちながら言うわけですよ。それを受けてウチの上司が言うんです。 「ホントすいません、今面白い話しますんで!」 僕が女子社員とかでしたら「今日の部長謝りすぎです。でもカッコよかったです」とでも言うんですけど、あいにく僕は男ですからね。それはともかく、とにかく大きな心配が僕の心の中に充満してきたんです。何せ、上司の話って1ミリも面白くないですからね、面白さのカケラすら見いだせないですからね。そんな彼がこれから面白い話をするっていうんですから、こりゃ心配するなって言う方が無理ですよ。 「先日、家内とファミリーレストランに行きまして……」 やばい!上司のあの話だ!ファミリーレストランに行ったら高倉健に似ている人がいて、その人がパフェ食ってた話だ。あのヤマもオチもイミもないとんでもない話だ。あれ、死ぬほどつまらない。ほんの数ヶ月前に上司が面白小話として社内中に話まくり、あまりのつまらなさに愛想笑い地獄を展開させた恐怖の小噺だ。あんな死ぬほどつまらない話をこんな場所でしちゃいかん! 「ちょっと待ってください!面白い話なら僕がしましょう」 あまりのつまらなさに卒倒しかけたあの話をされるくらいなら僕が話したほうがいいに決まってる。それにこう見えてもね面白い話ならちょっと自信があるんですよ。そりゃ何年もこういった日記サイトやってればいくらかは面白いエピソードはいくらでもありますよ。それらを適当に見繕って面白おかしく話せばいいんですから軽いものです。 「では、愉快な話を一つ……」 って話し始めたんですけど、そうするとなんか、クズみたいな得意先相手にゴルフ練習場で面白い話をしようとしてるって自分にハマっちゃいましてね、なんか自分に酔っちゃったんですよね。しかも、迷っちゃいましてね、ボッタクリ風俗に行った話にするか、いやいやココはウチのキチガイ親父が埋蔵金を探しに行ってとんでもない目に遭った話でも、とか悶々と考えちゃったんですよ。 さらには本当にこのクズを大爆笑のるつぼに誘わなければならないというプレッシャーが襲い掛かり、なんだか様々な気持ちが入り乱れてパニック状態に陥ってしまったんですよ。それで気が動転しちゃいましてね、なんか面白い話をしよう!しよう!って思ってるのとは裏腹に、 「えー、布団が吹っ飛びまして」 て話し始める始末。自分のことながら何をどうしたのかサッパリ分からない。何がしたいんだお前は。多分、「布団が吹っ飛んだ」っていうハイパボリックなシャレ、まあ、それ自体もどうかと思うんですけど、そのシャレを言おうとして大いなる失敗してるんですよね。この語調ではシャレにすらなっていない。何が布団が吹っ飛びましてだ。 さらにどう話をつなげていいかもいいかもわからず、そもそも僕は何を話したかったのか皆目分からず、なんか吹っ飛んだ布団を探しに行くルーマニアの幼い姉妹のネバーエンディングストーリーを話してました。姉妹は吹っ飛んだ布団さえ見つければ幸せになれると信じていた。2人での辛い旅路、旅先での出会い、裏切り、狡猾な詐欺、幼い姉妹のピュアな心は次第に蝕まれていく。最後は寒さに震えるメイ(妹の方、勝気だけど甘えん坊)が「お姉ちゃん、寒いよ……」って震えるんですけど、サマンサ(姉の方、大人しいけど責任感が強い)が「大丈夫よ、きっと大丈夫」って励ます、で2人で震えながら天に召されていくんですよね、雪の振る寒い日でした。そこに神様がそっと天使の羽でできた羽毛布団をかけてくれて…姉妹は初めて幸せに包まれた、って壮大なストーリーを話してました。うん、契約とれなかった。 とにかく、ゴルフ練習場まで行ったのにダメだったことに上司はえらくご立腹というか失望しましてね、皆さんも社会に飛び出して仕事とかするようになると理解できると思いますけど、こういうのって激怒されるよりも失望されるほうが心にクルんですよ。心の奥深い部分に結構クルんですよ。で、さすがに堪えたのか僕も失意のまま家に帰宅。泣きながらシャワーを浴びたりとかしちゃったんです。 しかしまあ、確かに面白い話と称して「布団が吹っ飛びまして」って話し始めた僕も悪かったですけど、そうやって「契約が取れなかったら」っていう不安に付け込んで「面白いこと言え」って狼藉を働くのもどうかと思うんです。そういうのって本当に許せない。 不安に付け込むといえば数多くの詐欺事件が挙げられます。今でこそ様々な詐欺が暗躍する世の中ですけど、それらの詐欺というのは全て突き詰めれば誰かの不安に付け込む行為に他ならないのです。 老後の不安などを煽って行われる出資の類の詐欺。社会的立場を不安にさせる出会い系サイトなどの架空請求詐欺、ダイレクトに脅して不安を煽るオレオレ詐欺などもそうです。どれも誰かが誰かの不安に侵入して金品を巻き上げるのです。 では、不安さえなければ詐欺に引っかからないんじゃないか。逆説的に言えばそうなると思います。実はコレが正解でして、世の中のあらゆることに対して不安を捨て去り、ドーンと構えていれば人に騙されることなどそうそうない。不安とは多くの場合が己自身の虚栄と繋がっています。そういった飾る気持ちさえ捨ててしまえば騙されることなどそうそうないのです。 先日のことでした。 仕事を終えて疲れてアパートに帰宅。そうするとどこかで見張って帰ってくるのを待っていたんでしょうね、帰宅とほぼ同時にピンポーンとインターホンが鳴ったのです。 まあ、このタイミングでインターホンが鳴るのは保険の勧誘とか何らかの訪問販売と相場が決まってます。多くのアパートが密集する我が地区なんかはそれはそれは数多くの訪問販売がやってくるんですよね。 まあ、もう疲れてるし居留守を決め込んでオナニーに興じるってのも手なのですが、やっぱ相手してあげるじゃないですか。こいつらがいかに人の不安につけこんで営業を仕掛けてくるのか興味あるじゃないですか。まるで新婚夫妻で嫁が裸エプロンで旦那の帰宅を出迎えるかの如き勢いで玄関ドアを開きましたよ。 「あ、こんにちは、私、京都西川からやってきたのですが」 京都西川といえばとても有名な布団会社です。あまりに有名すぎるためか、布団の点検と称して家に上がりこみ、この布団では骨盤がおかしくなる!ダニが!などと不安を煽って高額な羽毛布団を売りつける詐欺に名前を騙られることが多いようです。京都西川本社のHPにはそういった業者にご注意ください、と書かれているほど、よほどこれらの布団点検詐欺に迷惑しているのでしょう。 「ああ、その有名な京都西川さんが何の用で?」 もう名前を名乗った時点で京都西川の名前を騙った布団点検詐欺だと分かったのですが、それでもぶっきらぼうに話を聞いてあげます。 「いや、いま布団の点検でここら辺を回ってまして。お客様は京都西川って知ってます?」 「知ってますよ。有名ですもんね」 「ありがとうございます」 まあ、疲れていたってのもありますし、こういった詐欺の相手をするのも結構疲れる。もう部屋に上げるのは止めにして早めに帰ってもらおうとかなり冷酷な対応をしていました。まるで多くの人に騙されるあまり他人を信じられなくなった可哀想な人みたいな感じで警戒心バリバリで対応していました。 「しかし、このアパートは学生アパートかなんですかね?ほとんどの部屋が留守ばかりなんですけど」 あまりに僕の対応がぶっきらぼうだったのか雑談を振ってきて頑なな心を揉み解そうとする自称京都西川のお兄さん。玄関先で展開される男と男の熱きバトル。ふん、なんと言われようと今日の俺は違うぜ。いつもは引っかかったフリして部屋に上げてやって翻弄するんだけど、今日の俺は何があろうと部屋には上げないぜ!若い姉ちゃんならともかく、こんな兄ちゃんを部屋に上げるわけにはいかない。 「ああ、留守とか多いかもしれませんね。あと、悪徳な業者がよく訪問販売に来るので居留守の人とか多いと思いますよ」 冷淡な対応の中にも皮肉をピリリと効かせることを忘れない。それでも引き下がらずに自称京都西川のお兄さんは話を続けます。 「お布団とか干されたりとかします?」 「自慢じゃないけど、布団干したことない。今まで一度もだ!」 この辺はぶっきらぼうな対応、というわけでなく、何も飾らない本当の自分を曝けだしておきました。 「そうですか。最近疲れが取れないとかそういったことはないですか?」 「うーん、ないかなあ」 なんとかして布団の点検をしたいお兄さん。点検をして不安を煽って新しい布団を買わせたい、その想いが透けて見えます。それでも部屋に入れてなるものかと鉄壁の城塞を展開する僕。男と男の闘いがそこにありました。 「いやー、それにしてもお若いですね。まだ学生さんですか?」 急に訳の分からないことを言い出すお兄さん。意味が分からない。 「いや、僕もう31歳ですけど」 「うそっ!てっきり学生さんかと思ってた!本当にお若い!」 「いやいやいやいや、もう加齢臭とかてんこもりっすよ」 「そんなことないですよ、大学生かと思いましたもん。だから学生アパートですか?とか聞いたんですけど」 「いやー、ホント、31歳、今年で32ですから」 「ホントお若い」 ほんとまいっちゃうよなー見え透いたお世辞とか言っちゃって、ホント参る。そこまで布団の点検がしたいか。そんなチャチな手に引っかかる僕ではありませんよ。まあ、話を聞いてみるとまんざら悪い人でもなさそうなので、 「ああ、部屋に上がります?布団の点検します?」 ものすごい思いっきり部屋に招き入れてました。 さて、ここから怒涛の詐欺が展開され、布団に対する不安を決定的に煽って市場価格よりクソ高い羽毛布団などを買わされるのですが、ここで今回の本題、詐欺に騙されないためには不安を煽られないこと、というのが活きてきます。 「どうぞどうぞ、点検してください」 ゴミ屋敷みたいな部屋に招き入れ、いつも引きっぱなしにしている布団を点検してもらうのですが、これがもう不安とかそういったものを超越している。 普通、毎日寝る場所って綺麗にしておきたいものじゃないですか。安らかに眠る場所ですし、女の子とか連れ込んだ場合、おセックスなどをするコロシアムになるわけですよ。そりゃあ誰だって布団が綺麗な方がいいに決まってる。この種の詐欺はその布団が実はダニだらけだとかそういった不安に付け込んでくるのがポイントなんです。では、その布団に不安もクソもなかったら。 「じゃあ、点検お願いします」 「こ、これは……」 自慢じゃないですけど、ウチの布団ってそれはそれはすごいんですよ。まず、前は布団カバーみたいなのついてましたけど、あまりの汚さに外してどっかいってしまいました。で、布団の地肌モロなんですけど、さらに地肌が擦り切れてきて綿とか出てる場所ありますからね。で、その布団の上でラーメンとか食べるから始末が悪い。汁とかこぼれて布団のいたる場所がどす黒い。なんか端っこの方からは訳の分からない植物が自生してきている始末。ハッキリ言いますけど、その辺のホームレスの方が何倍もマシな布団で寝てますからね。 この間、ウチのキチガイ親父が我が家にやってきた時に、僕の布団使って寝ていいよ、とこの布団を紹介したら、彼は布団と思わなかったのか、おいおいゴミは捨てろよ、と言い放ったほどですからどれだけ酷い布団か伺える。 「えっと、これは、その」 狼狽するお兄さん。さすがにここまで酷い布団は見たことないって顔してました。絶句してた。僕はこの時のお兄さんの顔を一生忘れない。もはやこれは、綺麗に見える布団でも調べてみるとダニがいっぱい!っていう世界を超越してますからね。ダニ以前にもっと色々となんとかしないといけない。ダニも住まねーよっていう劣悪な環境。 「いつもこの布団で寝てるんですか?」 「ええ、毎日」 「そうですか……」 あまりに衝撃を受けたのか、何もセールストークすることなく、何か怪しげなカタログだけ置いて帰っていったお兄さん。その瞳からは生気のカケラも見当たりませんでした。 つまり、何が言いたかったのかと言いますと、不安にさえ思わなければ詐欺に引っかかることもない、ということなのです。布団が汚くても平然としていればいい、もう見るも無残な布団だって胸を張っていればいい、そうすれば付け込まれることなどない。もう一回言う、不安に思わないことだ。 でもまあ、さすがに布団詐欺のプロが絶句するほどの布団で毎日寝るのもアレですし、たまには布団でも干してやるかと次の日の朝からベランダに布団を干したところ、折からの強風に煽られて見事に布団がテイクオフしてしまいました。 「わー!本当に布団がふっとんだ!」 とか訳の分からないことを叫びながら階下に下りて布団を取りにいったんですけど、アパート隣の民家まで布団が飛んでましたね、ここは獰猛な犬を飼ってるんであまり入りたくないんですけど、それでもインターホン押して 「すいません、ウチの布団がふっとんでお宅の庭に入ったみたいなんですけど」 と死ぬほど恥ずかしいこと言いながら庭に行くと、ラーメンとかのいい匂いがしたのか獰猛な犬が僕の布団を食いちぎってました。真っ二つくらいの勢いで食いちぎられてた。 「いやね、この間布団干してたら本当に布団がふっとびましてね、焦って取りに行ったら獰猛な犬がウチの布団を食いちぎってたんですよ。そこには若い娘さんもいて「こら!ベス!」とか怒ってましてね、あんな犬がベスもクソもないんですけど、あまりにも布団が汚いから恥ずかしくなっちゃいましてね、ああ!ウチの愛犬フランソワの布団が!とかとっさに見栄張って嘘ついちゃったんですよ。さすがに僕自身が寝てる布団だとは言えずに。まあ、布団が吹っ飛んでみるのもいいもんですね、そこの娘さんが結構美人で」 といった感じで冒頭の嫌な取引先相手にまたゴルフ練習場で話したんですけど、もう面倒だから契約とか取れなくてもいいやって感じで自暴自棄気味に話したんですけど、なんか大そう気に入ってもらえたみたいで契約してもらえました。 「いやー、たまには布団も吹っ飛んでみるもんだな」 珍しく上司に褒められてご満悦な僕は、布団がなくなったので床に丸くなって寝ていたのですが、こうやって地べたで寝てると異様に不安な気持ちになってくる、あの自称京都西川のお兄さん来ないかな、今なら布団買うのに、と悶々と冷たい床で思うのだった。 1/30 断食芸人 「patoさん、いつ死ぬんですか?」 気の知れた仲間同士、友人同士など、少しばかりブラック混じりにそう言うことがある。「お前もう死ねよ」とダイレクトに言っても面白くないので少しばかり遠まわしに「いつ死ぬんですか?」などと軽口的感覚で言う。「バカ、何言ってんだ」って向こうも言い返してきて笑いが絶えない、そんな面白く楽しい仲間たちだ。 しかしながら、この上記の「いつ死ぬんですか?」これを全然親しくもなんともない、それも職場の女子社員から真顔で言われたらどうだろうか。ジョークでも何でもなく、いたって真剣に言われてしまったとしたら、これはもう笑い事では済まない深刻な問題だ。本当に死にたくなる。訴訟も辞さない。実際にそんなシチュエーションで言われてしまったpatoと、死について今日はちょっと考えてみよう。 「死」というのは一つの壮大なパフォーマンスな気がする。こうやって死をパフォーマンスとして考える場合、「自殺」という言葉がすぐに思い浮かぶ。自殺する理由は様々あるかもしれないし、その是非をここでどうこう言うつもりはないけど、そのうちのいくつかは何らかのパフォーマンスを目的としている場合がある。最近はあまり聞かなくなったけど抗議の焼身自殺など明らかにパフォーマンスとしての「死」の最たるものだ。 我々が生きていく上で「生」と「死」は切り離せない。普段そんなに意識していないけど、心の奥底、いや本能として感じ取らざるを得ないインパクト大の言葉だ。どんなキャッチコピーだって「死」という言葉にはかなわない。 抗議の焼身自殺など、「死」を最高のキャッチコピーとして使うことに他ならない。その「死」をもって何らかのメッセージを伝えるパフォーマンスは多くの人々の記憶に残る。それだけ「死」というのはインパクトが大きすぎるのだ。 しかしながら、全くその気がない、そんなつもりは全くないのに大きなインパクトを発揮することがある。言うなれば結果論としての死のインパクトだ。多くの人は死人に鞭打つ行為を嫌うし、人が死ぬことで何か多くのことを美化する傾向があるような気がする。数々の疑惑がある政治家が自殺しただか消されただか知らないけど死んだ場合、その追及の手が一気に弱まる、それどころかなかったことにさえなりかねないなんてのは顕著な例だ。 僕が小学校の頃、吉田君という男の子がいた。吉田君は勉強もそこそこできたし、身なりも綺麗だったし性格もそんなに悪くなかった。けれども、こんなことってあるかしらと言いたくなるぐらいにクラス中から嫌われていた。 普通、クラスメイトから嫌われる子供ってのはそれなりに問題があって、例えば幼き日の僕のように貧しさからいつも同じジャージを着ている子供だとか、借りたファミコンのカセットを片っ端から中古屋に売り飛ばしていた岩田君とか、何日も風呂に入らなかった松井君だとか、そういった本人由来の「理由」ののようなものが存在する。 けれども吉田君の場合は違った。吉田君自身には何の問題もないのに嫌われ者のスターダムにのし上がっていたのだ。それもこれもある一つの事件に由来する。 小学生くらいになるとプールでの水泳というと完全に競技としての水泳だけでなく、水と戯れることを目的とした遊びの時間がある。体育の先生から「飛びこみ禁止」「危険なこと禁止」などと注意だけを受けてあとは時間いっぱい好きに遊んでいい、そんなフリーダムなプールの時間が存在した。 水の中で遊ぶというのは思いのほか楽しく、クラスの面々は楽しく鬼ごっこや潜水時間を競ったりと思い思いの時間を過していた。プールから湧き上がる水の音に楽しげな歓声、今でも忘れることができない楽しい思い出だ。 しかしまあ、こんなクソガキに自由なんてものを与えると大抵が悪乗りするもので、次第に鬼ごっこや潜水なんかじゃ飽きてしまった児童たちは水泳パンツ脱がしに傾倒し始める。これはまあ、背後から近付いていって思いっきり水泳パンツを脱がしチンポコ丸出しにしてやるという、驚きと屈辱のコラボレーションを狙った悪魔の遊戯で、当時は陸上、つまり本当に日常生活を営んでいる教室の中などでやる遊びだった。 この遊びが当時大ブレイクしていて、もちろん僕もハマっていたのだけど、ハマリすぎるあまり近所のスーパーで母親相手にやってしまい、修羅と化した母親に4回くらい地獄の門をノックさせられる事態に陥り、さらには学校でも「人のパンツを脱がせてはいけません」という道徳以前の禁止令が発令され、急速に衰退していくことになった。 ブームなんてのは終わってみるとあっけないもので、何であんなものに夢中になってたんだろうって思うことばかりなのだけど、今ココに、戦場をプールへと移してパンツ脱がしが再ブレイク兆しを見せた。 あちらこちらで脱がされる水泳パンツ。やられたものが「おまえやめろよなー!」と赤面する一方で、俺も誰かにこの辱めを受けさせたいと誰かのパンツを脱がす。まさしく負の連鎖、悪意の連鎖だ。こうして極悪なマルチ商法より猛烈な勢いでパンツ脱がしは伝染していった。 しかしながらやってみるとすぐ分かるのだけど、プールの中でのパンツ脱がしなんて全く面白くない。むしろつまらない。10年位前に僕はNIFTY-SERVEっていうパソコン通信にはまっていたのだけど、そこで夢中になって書き込みしていたフォーラム「漢字の成り立ち」よりもつまらない。ここは漢字の成り立ちを皆で議論するという訳のわからないフォーラムで、僕は「休」という漢字と「死」という漢字の成り立ちについて熱弁を奮っていた。そこに「サタン」と名乗る男が反論してきて、僕とサタンで熾烈な論戦、たかが漢字の成り立ちなのに「お前殺すぞ」とか酷いこと言い合ってた。今思うと死ぬほど退屈なフォーラムだったのになんであんなに夢中だったんだろうって思うくらい熱中していた。サタン君元気してますか。 とにかく、プールの中でパンツを脱がしたって何も面白いことなんてなかった。パンツ脱がしは日常的な教室の中でベロンとチンポコが丸出しになる非日常性、圧倒的な屈辱感が競技の肝だ。決して透明とはいえない濁ったプールの水はそれらを奪い去っていた。 急速な広まりを見せたパンツ脱がしは同様の急速さで一気に衰退していく。しかしながら「こんなはずじゃない」と思ったのかどうかは知らないけどガキ大将的位置だった大田君は違っていた。彼はパンツ脱がしに命を懸けていた。そして再ブームの兆しを見せていたことを心から喜んでいた。焦った彼はプールの隅で所在無く佇んでいた吉田君に照準を定める。 「ここで俺が見事に吉田のパンツを脱がせてやる!」 そう思ったかどうかは知らないけど、大田君は吉田君めがけて魚雷のように泳いでいった。その動向を感じ取った我々クラスメイトは、また大田のヤツが何かやってるぜ、吉田もかわいそうにといった面持ちで2人に注目した。 潜水で近付いていった大田君の影が吉田君に近付く。忍び寄るという表現が適切なほど音もなく黒い影が迫り来る。それは水中の黒ヒョウ、シャチのようだった。そしてついに吉田君のオレンジ色の水泳パンツが脱がされた。その瞬間だった。 プカア 数個の茶色い物体が吉田君の周りを浮かぶ。海に浮かぶブイのようにその茶色い物体は圧倒的存在感で浮かんでいた。そのうちの何個かは波立つプールに耐え切れず、脆くも崩れ去って分裂していた。間違いない、ウンコだ。 吉田君を太陽として、ポカーンとする大田君を木星とすると、ちょうど水星くらいの位置関係で浮かび、そして公転をするウンコたち。一気に水から逃げ惑うクラスメイトたちに波立つプール、さらにウンコは分裂を繰り返す生き地獄。僕はその光景を「すげえ、ウンコって水に浮くんだ」と眺めていた。 水に浮くウンコというのは繊維質が多く、主に野菜中心の食生活を営んでいる場合に多い。逆に肉食中心の欧米的食生活の場合、ウンコは水に沈む。皆さんはたかがウンコと思っているかもしれないが、浮き沈みを見るだけでもその多くを知ることができる、ウンコとは偉大だ、つまり吉田君は野菜中心の食生活ということだ!とかそんな話じゃなくて、もっと大きな問題があるじゃないか。 つまり、吉田君は不本意にもプールで脱糞してしまい、なんとか神々の力が解放されるのを今や格納庫と名前を変えた水泳パンツで抑えていた。そこに大田がやってきて開けてはならない箱を開けたため、多くの災厄が飛び出した。ウンコだ。パンドラの箱は災厄が飛び出した後に最後に希望が残っていたけど、こちらの吉田パンドラは最後に可哀想な吉田君だけが残った。そこに夢や希望なんて存在しなかった。 その日以来、吉田君はプールで脱糞した男として圧倒的な嫌われ者スターダムにのし上がった。皆が吉田君と一緒の班になることも拒んだし、水泳の授業でバディになることすら拒んだ。ウンコ漏らしと仲良くするとそいつもウンコ漏らし、日本人特有の陰湿な村社会がそこにあった。 運動会のフォークダンスで吉田君とペアになった女の子があまりの嫌さに泣き出してしまうという大惨事。僕も同様に相手に泣かれるようなタイプだったのだけど、その時は女子の数が足りなくてワンパク相撲で横綱張ってるような男の子が相手だったので圧倒的な勝ち組だった。 とにかく、見ていて可哀想になるくらいの嫌われっぷり。たかがプールでウンコ漏らしただけじゃないですか。そりゃ、そのウンコも水に浮いていて衝撃でしたよ。でもね、それだけで吉田君の全てを全否定っていささかやりすぎな気がするんです。 そんなこんなで、圧倒的、そして非人道的に嫌われていた吉田君だったのだけど、そんな折にさらに大きな事件が起こる。これはまあ、あまり詳しく書くのもどうかなって感じなので端的に結果だけ書きますけど、休み明けのある日、吉田君が死んだ。 旅行先だったか帰省先だったか、どこか遠くの街に行った時に交通事故であっけなく死んでしまったらしい。確か、全校集会でも校長が沈痛な表情で報告していたし、担任の先生も泣きながら僕らに報告してくれたと思う。吉田君の席に花は置いてなかったように思う。 僕は吉田君のこと結構好きでしたし、ファミコンのカセットも貸してくれたことがあった。その吉田君が死んだことは確かに悲しかったのは事実だし、あの当時の僕には「死」というものの現実感がなさすぎてピンとこなかったのも事実。それを踏まえて吉田君との思い出や、悲しみ、そんなのを一旦置いておいて単純にクラスメイトの反応だけを見ると、「気持ち悪い」の一言しか出てこなかった。 吉田君の死の報告にクラス中が絶句する。すすり泣く女子だっていたくらいだ。道徳の時間だかを利用して吉田君を偲ぶ会みたいになって、皆が思い思いに書いた吉田君との思い出作文を朗読する。途中、涙で声を詰まらせる子もいたくらいだ。 確かにその行為は大切なものかもしれないし、いなくなった吉田君のことを思うことは悪いことじゃない。けれども、アナタたちは生前の吉田君をあれほど激烈に嫌っていたんじゃないのか。たかがプールでウンコを漏らしただけで、彼の人権を奪いかねないほどに嫌っていたんじゃないのか。 「フォークダンスで吉田君とペアになったのが今でも忘れられません」 女の子が涙ながらに朗読する。あの日、アナタは別の涙を流していたはずだ。ウンコを漏らした吉田君とペアになるのが嫌だと泣いて嫌がっていたじゃないか。それがなぜ美談になって美しき思い出になっているのか。 「吉田君と一緒の班になれて良かったです」 などとのたまうヤツもいる。言葉で言わないまでも物凄く嫌がっていたじゃないか。こういった反応全てが気持ち悪くて仕方がなかった。大嫌いだった。 死というのは強烈なパフォーマンスだ。故人にそのつもりがあるなしに関わらず残された人々には強烈な印象を残す。そして、どんなに酷い思い出でもそれらが美談にすりかわってしまう。それは後味の悪い思いをしたくないという各個人の防衛本能に過ぎない。死んでしまった人に自分はこんな酷いことをした、そう思いたくないから手のひら返したように美談にする。それら全てを踏まえて、やはりそう手のひらを返させてしまう死とは強烈なパフォーマンスなのだ。 さて、これを自分に置き換えてみると、もし今僕が死んだとして、職場で忌み嫌われている僕はどんな美談にすり替わってしまうのか考えてみた。栗拾いツアーに誘われない、スキー旅行に誘われない、そもそも飲み会に誘われない、とんでもない陰口を言われてしまっている、これらはまあ、別に僕にも原因があるので構わないのだけど、これがいつの間にか美談に変わっていたら結構嫌だ。 「死んでしまったpatoさんだけど、飲み会や栗拾いに誘っても全然来なかったよね、たぶんクールな人だったのよ。もしくはシャイな人だったのかな」 とかなってたら僕はあの世で発狂する。化けて出てくる。夜な夜な女子トイレとかに出て汚物入れを漁る妖怪になる。妖怪「汚物舐め」だ。 とにかく、そういったことを踏まえて最近の職場での動向を考えてみると、いささか気持ち悪いような、吉田君の時に感じたような気持ち悪さが垣間見えてきている。 以前はまあ、特に女子社員なんかは僕に話しかけることすらしなかったのだけど、最近妙に話しかけられる。 「patoさんおはようございます」 「あ、おはよう」 「あ、今日は髪形違うんですね、カッコイイ」 「いや、これ寝ぐせだけど」 「かっこいいですよー」 とかこんな調子だ。寝ぐせバリバリ伝説の頭でポカーンとするしかない。他にもなんかあまり親しくない女子社員から 「あのー、今日の夜飲み会があるんですけど」 「え、マジで?」 「女の子ばっかりなんでpatoさんも来ませんか?」 と誘われる大変な事態に陥っている。おいおい、女の子だけの飲み会とか都市伝説じゃなかったのか。これは一世一代の大チャンスじゃないのか。しかし、この場合の僕の切り返しが酷いもんで 「なに、それはエロい展開とかあるの?」 だから酷い。剛速球すぎる。普段ならこの切り返しだけでキャーセクハラとかキャーヘンタイとかキャーカオガブサイクとか女の子が泣き出しちゃって数人のブスが慰めたりしてね、キッと僕を睨むわけですよ。そのうちセクハラ相談室みたいなのに駆け込まれて次に会うのは法廷ですよ。なのに最近では、 「またまたー、patoさんってホント面白い!」 ですからね。こりゃあ、さすがの僕も色々と勘違いするじゃないですか。僕の時代が来た、これは今まさにモテ期がやってきた!と勘違いし、職場の女子を裸で会議室の長机に並べて酒池肉林、大狂乱!性のディスカッション4時間勝負とか妄想するじゃないですか。 そんな感じで気持ち悪いくらいみんなが優しいんですよ。まるで手の平返したかのように皆が優しいんです。 で、この間、遅くまで残って一人で作業してたんですけど、そこに一人の女子社員がやってきたんですね。まあ、結構カワイイ子でしてね、あまり親しくはないんですけど何やら僕のそばに来て話しかけてくるんですよ。 「大変そうですねー」 「うん、なんかこれ全部明日までにやらないといけないらしくて」 「わあー、大変だ」 「もう死にそう」 「じゃあ、わたし暇だから手伝いますよ」 「え、いいよ、大変だし」 「大丈夫ですよー、暇だから手伝います」 とかなっちゃってるんですよ。おかしい、皆が優しすぎる。普段なら「あの人一人で残って作業してて気持ち悪い」とか謂れのない差別を受けてますから、手伝うとかマジおかしい。 で、黙々と作業してたら遅い時間になっちゃってね、外も暗くなってきてこう淫靡な感じになってくるんですよ。 「もう時間も遅いし帰ったほうがいいよ、彼氏に怒られちゃうよ」 「彼氏なんていませんよー」 「またまたー、いるでしょ」 「いませんってば」 「絶対いるわー、絶対コスプレセックスとかしてるわー、セーラー服とかナース服とか」 まあ、言うなればここでダウトです。ここで彼女も悲鳴を上げて脱兎の如く逃げ出し、明日には一気に噂が広まって大変なことになってるはずです。しかしながら、彼女の反応は意外なもので 「そんなことないですよ、フフフ」 え、なに、意味わかんない。なんで脱兎の如く逃げ出さないの。すごい猥褻なこと言ったよ、僕。すごい裁かれても文句ないこと言ったよ。なんでそんな普通の反応なの。 全く動じないといった様子で黙々と作業を続ける彼女。混乱する僕。沈黙だけが支配する世界が展開され、時計の針のカチコチという音だけが響き渡ります。もう気が動転しちゃいましてね、目の前にいる彼女が何なのか分からない、どうしていいのか分からない、だから聞いてやったんですよ。 「あのさ、僕のこと好きなの?」 もう剛速球過ぎる。もっとこう遠まわしに聞けと言いたい。すると彼女は「はぁ?」みたいな顔をしてしばし沈黙、それから彼女は困惑顔で言い出したわけなんですよ。 「patoさん、いつ死ぬんですか?」 今度は僕が「はぁ?」ですよ。なんだコイツ、安いシャブでもやってんじゃないか。カワイイ顔してよくやるぜ。ってなもんですよ。でもね、この瞬間に全てが氷解したんですよ。ああ、わかった、こいつら僕がもうすぐ死ぬと思ってるんだ。 何個か前の日記に職場全員から年賀状が来たとか書いたじゃないですか。あそこで冗談交じりにたぶん僕がもうすぐ死ぬからみんな年賀状くれたんだって書いたんですけど、本当にみんなそう思っていたとは。そう考えると皆がやけに優しいこととか彼女の態度とかすべてが説明がつく。 たぶんですね、数ヶ月前に職場の喫煙所で後輩と 「腹が痛いわー」 「patoさん体調悪いんですか?」 「うん、実はガンでね、先が長くないんだ」 って冗談で言ったのが原因だ。ガンでも何でもないんですけど、ものすごいジョークで言ったのに後輩が結構深刻な表情になっちゃって引っ込みがつかなくなってね。 「もう転移とかしまくっててね、医者には止められてるんだけど、やっぱ俺には仕事しかないからって無理言って仕事してるんだ」 ってすごい男前の顔して言ったのが原因だ。 「誰にも言うなよ」 「誰にも言わないッス!」 ってお前ムチャクチャ言ってるじゃねえか。言いまくってるじゃねえか。ムチャクチャ噂になって皆がすごい優しいじゃないか。どうなってんだ、これ。 死というのはやはり強烈なパフォーマンスだ。あの日の吉田君のように多くの人に手の平を返させてしまう。そして今の僕のように職場のメンツの多くが手の平を返して優しく接してくれる。たぶん美談にしたいんだろう。 僕としてはそういうのは大嫌いなのだけど、皆が優しいのもまんざらでもないし、ここで死なないとか言ったら大変なことになってしまうので、「patoさん、いつ死ぬんですか?」と問いかけてきた彼女に対して、深刻で沈痛な面持ち十分に間を置いた上で 「桜の花が散る頃かな…」 って答えておきました。 この職場に来てから8連続泊まり勤務とか、熾烈なスケジュールの出張とか、結構無理難題を吹っかけられて悩んだことありましたけど、さすがに「春までに死ななければならない」ってのはとんでもない無理難題だよなと頭を抱えるのでした。 できれば、死という強烈なパフォーマンスを魅せるよりも、生きてパフォーマンスを続けていきたい。桜の花が散る頃、どうするかが問題だ。 1/22 モンゴル放浪記2007vol.5 前回までのあらすじ 間隔が空きすぎて忘れた。 大体ですね、もう2008年ですよ、2008年。なのに2007年に行ったモンゴルの話なんて書きたくもないのですが、モンゴルの続きを書かないとリストカットも辞さないっていう薄幸の美少女からメールが来たので嫌々書くことにします。 今回、続きを執筆するにあたって過去ログを覗いてみましたところ、どうやら昨年の僕は自費出版本をモンゴル人に売りつけようと蒙古の国に飛 び、そこで肝心の自費出版本を日本に忘れてきてしまうという狼藉を働き、何をトチ狂ったのか持っていたアカギ20巻をロシアの国境警備兵(すぐ発砲してく る)に売りつけようと決意したようです。頭おかしいよこの人、何考えてるの。 で、金にものを言わせて雇ったチンギスハーンにソックリな現地人ドライバーと共に国境を目指す珍道中、昼は灼熱、夜は極寒、そんな状況に死にそうになり、ガス爆発などを経て死神と何度もコンタクトを取りながらも着実に国境へと近づいていく、しかし事件はそこで起こった。 何もない大平原でまさかのガス欠、とてもじゃないが次の村までたどり着けそうにないガソリン残量。ここでドライバーチンギスは鬼とも思える非情な選択をする。 「お前、降りて歩け、俺は村まで戻ってガソリンを入れてくる。なあに、すぐ追いつくさ」 まさかの徒歩によるモンゴル大旅行。歩けど歩けど一向に景色が変わらない。もう歩けないよと何度も挫けそうになる。けれどもアカギ20巻を 読んで微笑むロシア国境警備兵の人の笑顔が見たい、このアカギを待っている人がいるんだ、僕がやらなきゃ誰がやるんだ、その想いが僕を前へ前へと進ませ た。 チンギスさえガソリン満タンで追いついてくれればいいんだ。なあに、それまでの辛抱さ。その思いも空しくチンギスは来なかった。いくら歩いても歩いてもチンギスどころか人間にすら、人間が住んでいた痕跡すら見つけられなかった。 人間には出会えなかったけど群れをなす野良犬には出会えた。水辺で死んでいる牛の生肉をモシャモシャと食すバイオレンスな野良犬に感嘆し、 あんなもんが襲ってきたらひとたまりもないぞ、と思っていたらその夜本当に襲ってきた。ホント、野生の動物はシャレが通じないから困る。日も暮れたのでテ ントを張って寝ようとしていたら獣特有の唸り声、揺さぶられるポンコツテント、このままでは食われてしまう!辺りには誰も居ない完全なる独りぼっち!どう するpato!?といったところで続きです。
------------------------------------------------ 「絶対に殺される・・・!」 野犬からしたら僕など格好のカモだろう、餌だろう。乗り物に乗ってるわけでもなく何故かこの大平原を徒歩で縦断、おまけに疲れてかなり弱っ ている。一気に喉笛を噛み切って殺してしまえば当分の食料には困らない。いや、それよりは縄張りを荒らした外敵などと思っているのかもしれない。とにかく 野犬どもがテントに体当たりしてるみたいで、その度に小さなテントは揺れ、天井に吊るしていた懐中電灯が瞬いた。 「こんな貧弱なテントすぐに破られてしまうだろう。それならば外に出て果敢に戦った方がいいのでは?」 なんでそんな勇者ヘラクレスのような勇敢な考えに至ったのか分からないのだけど、このままジリ貧で終わるよりは戦って死にたい、前のめりに倒れたい、そう思っている自分がいた。 とにかく戦える武器を探さなくては、と思いリュックの中を漁ってみるのだけど、どうにもこうにもロクなものがありゃしない。着替えのパンツ とニンテンドーDSくらいしかなかった。敗戦を覚悟した太平洋戦争末期の日本兵でももうちょっとマシな武器で戦ってたぞって思わざるを得ないラインナップ だ。 テントの中に動きがあったのを察したのか野犬のアタックが止まる。しかしながら、相変わらずその気配はすぐそこにあって明らかに距離をとってこちらを窺っているようだった。チャンスは今しかない。テントを出て戦うのだ!ヘラクレスよ! 動物は炎を怖がるはずというマル特情報を思い出し、右手にはライターを、左手には何か気が動転していたんでしょう、ニンテンドーDS Liteを持ってテントを飛び出す僕。たぶん「カカッテコイヤー」とか叫んでたと思う。暗澹とした闇の中で対峙する僕と野犬。対峙してさらに分かったこと だが、その数は最低でも5匹はいそうな、そんな気配が感じ取れた。 というか、僕はニンテンドーDS Lite(クリスタルホワイト)で、何をどうやって野犬を退治しようとしていたのか皆目分からない。犬とネット対戦でもしようとしてたのか。むしろニンテ ンドーDSは邪魔なんじゃないだろうか。とにかく、気が動転してしまい、ライターの炎を揺らめかせながらDSで威嚇し、ジリジリと野犬たちからの距離を引 き離しにかかった。 この時、皆さんは日本で、恋人と語らったり、ゴールデンタイムのドラマなんかを観ていたのでしょう。大好きな音楽を聴いて手元にはカフェ オレ、至福の時を味わっていたのかもしれませんね。もしかしたらおセックスとかいう破廉恥な行為をしていた方もいたかもしれません。「どうしようワタシす ごい幸せ」「俺もだよ、芳江」とかピロートークに華が咲き乱れていたかもしれない、それでもどうか忘れないで欲しい。その時、アナタが幸せだったその時に 遠くはなれた異国の地でニンテンドーDS片手に野犬の群れと戦っていた男がいたことを。どうか忘れないで。 幸いなことに、炎にビビってるのか未知のDSに恐れをなしているのか野犬たちは警戒して襲ってこない。ウーッとか唸ってるだけ。こんなも ん一気に喉笛噛み切りにこられたらDSじゃ防ぎようがないのに、それでも彼らは襲ってこない。このまま少しづつ離れていってある程度の距離までいったら一 気に逃げる。そのまま逃げて川の向こうに行けば大丈夫だろうし、向こう側には背の高い木があった、それに登ってしまえば殺されることはないだろう。とにか く間合いを広げなくてはならない。 ジリジリ、ジリジリ、と少しづつ後ろに下がっていく。シャブ打ちまくったマイケルジャクソンのムーンウォークみたいに後退していく。そしてついにその距離が安全圏といえるレベルまで広がった。いける! 神々の如き素早さで踵を返し、暗闇なので分からないのだけど川があったであろう方角に逃げる。脱兎の如くとはまさにこのことだ。あまりの素 早さに野犬どもも呆気に取られているに違いない。いける、このまま走れば逃げ切れる。きっと生きて日本に帰れるはずだ。やれる、ぜったいにやれる!自らを 鼓舞し、思いっきり走り出した。 スッテンコロリン いやね、そんな音が聞こえてきてもおかしくないほどに見事に転びましてね、テントを固定するために杭を地面にぶっ刺していたんですけど、その固定ロープに思いっきり蹴躓いて転んじゃったんですよ。 終わったー!絶対死んだ、絶対に犬の餌になる! 「私のお墓の前で 泣かないでください そこに私はいません 眠ってなんかいません 犬の餌に 犬の餌になって」 とか言ってる場合じゃない。物の見事にズデーンとなってる僕に野犬の1匹が近づいてくる音が聞こえます。なんかグルルルルルルとか魔王みたいな音がしてた。来る、喉笛来る!ああ、モンゴルなんて来るんじゃなかった、色々と覚悟したその時でした。 まあ、普通に、これがありがちな冒険記とかそういった類のものならば、ここでズギューンという銃声と共に僕を置き去りにしたチンギスが颯爽 と現れてですね、「待たせたな!ボーイ!」とさらに猟銃をズギュンズギュン!野犬どももキャンキャンと逃亡、「ありがとうチンギス、ナイスタイミングだっ たぜ」ってなもんですよ。安心して車に乗り込むと後部座席にはなぜか謎のモンゴル美女が。「へい、チンギス、このエキゾチックな美女は誰だい」「さっきの 村で拾ったのさ、なんでも惚れちまったみたいでな」「おいおい、人が死にかけてたっていうのにお前は美女と愛のランデブーかい?やれやれだぜ」「なにを いってるんだ、惚れたのはお前にだってよ。お前の話をしたら会いたいってさ」「フフフフ、日本から来た火の玉ボーイ、神秘的な瞳だわ」「俺に惚れると火傷 するぜ、なにせ火の玉だからな!」「素敵」ってこういう展開があってもいい、むしろそうあるべきだと思うんですよ。 しかし現実ってのはとことん無慈悲で残酷なものですね、チンギスが来る気配なんて毛ほどもなく、ヤツが逃げたのは疑いようのない事実。そ こに存在するのは圧倒的な闇とにじり寄る野犬のみ。地面にうつ伏せになる僕は間違いなくメインディッシュ。そろそろ辞世の句でも詠むしかない。 もうこれしかない! うつ伏せの状態のままクルッと体を廻してですね、足のところにあったロープを掴みます。先ほど足を引っ掛けて転んでしまった忌々しきロープを。で、それを思いっきり引っ張って地面にぶっ刺さっていた杭を引き抜きます。もう一方の方の杭も引き抜いてテントの杭二刃流に。 「カカッテコイヤー!」 なぜ僕はこんな異国の地の平原のど真ん中、明かり一つない暗闇の中で野犬相手に凄んでるのか分かりませんが、襲い掛かってきたらこの2本の杭で2匹までは刺し違えてやると覚悟して野犬の群れに対峙していました。 すると、そんな気迫が圧倒したのか、野犬の群れは全く襲ってこない。グルルルルルという唸り声は聞こえるのだけど、どれだけの数がどれだけの距離にいるのかもいまいち掴めない。キンキンと二本の杭を打ちつけて金属音を出し、野犬どもを牽制します。 にげるなら今しかない。この隙に川まで逃げて川を渡りきる、そいでもって木に登るしかない。しかし、犬は逃げるものを追いかけるハンター的 本能があると聞く、もし逃げ出したら彼らの闘争心に火をつけてしまうんじゃないだろうか。いいや、考えてたって埒が明かない、それに戦ったって勝てるはず がないんだ。もう逃げるしか生き残る道は残されていない。 走りましたよ。ええ、走りました。川があるであろう方向に向かって全力ダッシュ、両手でテントの杭をキンキン鳴らしながら本気ダッシュ。 小学校の時にリレーのアンカーに選ばれましてね、アンカーになるって大変名誉なことなんですよ。で、発奮した僕は本気で走ってやろうと靴を脱ぎましてね、 裸足で走ると本気で速く走れると信じてたんですよ。で、裸足になってバトンを貰う場所に歩いていったら尖った石を踏んじゃいましてね、物凄い血が出てる の。もうありえない出血。走れないだろうってことであえなくアンカーから外されましてね。悔しかったなあ、あれは。すごい悔しい思いで大盛り上がりするリ レーを救護テントから眺めてた。そんな在りし日の走りたかいと切望した思い、それをぶつけるかのように思いっきり走りましたよ。まるで人生のアンカーのよ うに・・・。 まあ、人生のアンカーってことはもうすぐ死ぬってことですからね、最終走者ですからね。よく分からない例えだ。無理矢理まとめようとしす ぎだ。とにかく、野犬どもは追ってきてるのかどうかも分からないとにかく無我夢中で走りましたよ。しばらく走るとやはり記憶していた通りの場所に川があっ て、何のためらいもなく水に入りました。 浅い川で渡るのは楽勝だろうって思ってたんですけど、真ん中くらいが何かのトラップかと思うほどに急激に深くなってましてね、一気に胸ぐ らいの深さですよ。もう、DSを濡らさないようにするので精一杯だった。おまけに水が死ぬほど冷たくてですね、ただでさえ寒いモンゴルの夜に追い討ちをか ける冷たさ。引き返そうかなって思ったんですけど、そこで闇の中から野犬の遠吠えが聞こえたので歯を食いしばりながら渡りきりました。 川を渡ると、ちょっと背の高い木が数本生えてましてね、その中でも枝振りが良くて昇りやすそうな木をチョイスしてなるべく高い場所にいきました。これで犬畜生どもは昇ってこれまい。助かった、助かったぞー!と高らかに勝利の雄叫びを上げたのでした。 その数分後、川の水で冷やされた衣服が容赦なく体の体温を奪い、ただでさえ寒いモンゴルの夜なのに恐ろしいほどの極限状態に。鏡なかったから分かりませんけど、絶対に唇とか紫色だったと思う。 降りたら犬に食われて死ぬ、寝たら寒さで死ぬ、と震えながらブツブツ言いながら木の上で過したあの夜、忘れやしません。
さて、死という単語をリアルで実感しながら迎えた朝。どうやら野犬の気配も感じられないようですし服も乾いたしで地面に降り立ちます。ま あ、荷物を取りにもう一度川を渡らないといけないのですが、今度は犬に追い立てられてるわけじゃありませんので普通に裸になって渡ります。 戻ってみるとテントは見るも無残に荒らされてたというべきか、杭を二本引っこ抜いたのが良くなかったのか風に煽られてムチャクチャな状態になってました。なんとか荷物だけは無事でしたのでテキパキと片付けてまた歩き出します。 チンギスのヤロウさえ追いついていればあんな目に遭うことはなかった。野犬に追い立てられもしなければ、極寒の大河を渡ることも、木の上で震えながら一夜を過すこともなかったはずだ。ホント、あのヤロウ、今度会ったらヒゲを毟り取ってやる。 それにしても、早く次の街に辿りつかなければ本気で死んでしまう。持っていた水もやばくなったし、なにより食料がやばい、それよりなにより歩きすぎて足がパンパン、死にそうだ。次の街に、次の街にさえ到着すればなんとかなるはず、死ぬことはないはずだ。 もう考えることは次の街のことばかり。ハンディGPSと地図を駆使すると、どうもあと40キロぐらい歩けば立派な街に到達するらしい。なん とかここまで歩くしかない。そして僅かばかりの希望ながら、そこまでの道中でチンギスが追いついてくることを期待したい。っていうかアイツ、もうウラン バートルに逃げ帰ってるんだろうな。 とんでもない大平原をトボトボと歩いていると、なにやら怪しげな看板が。
なにが書いてあるのか全然分かりませんが、なんか「98KM」とか書いているのを見なかったことにし、さらにトボトボ歩くことに。 何時間歩いたでしょうか、もう喉も腹も足も限界、おまけに燦々と照りつける太陽光にやられたらしく、真っ直ぐ歩けないくらいフラフラ、倒れる寸前という満身創痍の状態になったその時、奇跡は起こったのでした。
街だ!街が見えるぞ! 目の前には近代的、マンションのような建造物がそびえ立っているのです。ハッキリ言いまして、モンゴル奥地の建造物なんて皆さんご存知の 「ゲル」と呼ばれるテント風家屋か、牛のクソを塗り固めて作ったようなアバラ小屋しかないんですよ。こんな鉄筋コンクリートの建造物があるなんてさぞかし 大都会に違いない。 すげーよな、人間ってやればできるよな。まさかあんな置き去りにされた場所からココまで歩いてこられるなんて思いもしなかった。木の上で震えた甲斐があたよ。 これだけの大都会なら人も沢山居るだろう。幸い金だけは持ってる、新しいドライバーを雇うことだってできる。それに大きな商店もあるだろ う。飲み物買って食い物買って大満足、、ホテルだってあるかもしれない。もうあのゴミみたいなテントで闇に怯えて眠らなくてもいいかもしれない。とにかく 色々と極楽だ、最後の力を振り絞って歩けpato!負けるなpato!
しかしですね、近づいてみると何やら怪しげな雰囲気が。確かにマンションみたいな建造物はあるんですけど、その横には何か見るも無残に崩壊したビルディングが。どうやったらこんな風に壊れるんだって勢いで佇んでいます。 おまけに無事な方のマンションも近づいてみてみると外壁だけでしてね、中身は空っぽ、入居者がいないとかそんなレベルじゃなくて、向こうが透けて見える勢いで中身がスカスカなんですよ。たぶん、しばらくしたら支えきれなくなって崩れるんだと思う。 とにかく全く人がいないので、何か急に寂しい気分になってしまい、疲れも忘れてフラフラと街の奥へ。
マンションほどじゃないですけど結構立派な建物が並ぶ街の中へ。
こうして見ると結構な街並みなんですけど、不安になるほどの静寂、全く音が聞こえてこないんですよ。それどころか、人間がいるという気配が感じられない。
こんな風に崩れている民家も多々ありましてね、明らかに人が住んでいない。言うなれば死の街、誰もいない街なんですよ。おいおい、嘘だろ、死ぬ思いして辿りついた街が無人の街とか、モンゴルは僕を殺す気か。どこまで僕を殺す気なんだ。 これがドラクエでしたら、謎の少女が出てきて村の人は北のほこらのモンスターに捕らわれてるとか、お願い!お母さんを助けて!とか言われて僕も剣を握り、魔法使いと戦士と踊り子と共に北のほこらへ、って、もうそんなことを妄想する元気もないほどに疲れ果てた。 色々と死の街を見回った結果、残されていた道具などから推察するにどうやらここは捨てられた街のようでして、ちょっと昔は鉱山というか、何か有益な鉱石が取れたんでしょうね。そこで働く人々でたいそう賑わった大都会だったようなのです。 しかしながら、鉱石が取れなくなったのか何なのか、とにかく今までのように栄えることができなくなった。働き口もなくなり徐々に人が減って いった。街を捨てて逃げ出す人々。空っぽになった建物だけが残って長い時を経る、そして風雨に耐えかねてああやって瓦礫になっていくのでしょう。 「死んだ街か・・・へへっ、なんだかこの物悲しさが妙に俺の心に響きやがる」 とか、かっこつけてる場合じゃないですからね。計算ではここで水や食料を入手、ついでにドライバーも入手するはずでしたからね。なのに街が無人。僕もまあ、色々と予定とか計画とか立ててそれを守れない人間ですけど、ここまで豪快に予定が狂うとは思わなかった。 とにかく、こんな場所にいたって何も救いはありません。ただただ死んでいくだけでしょうから、とにかく気力を振り絞って歩き、次の街を目指すしかありません。
鉱石採取で栄えた街ということはその鉱石を運ぶ鉄道があったっということです。案の定、街の外れから伸びる線路を見つけた僕はこの線路の上を歩いて次の街を目指すのでした。スタンドバイミー、いつまでも。 つづく
といきたいところですが、じつはもう少しだけ続きがありまして、歩くことを決意して線路の上を歩き出して2分、ブルルルルンという排気音と共に草原を駆る1台の車が見えました。 「チンギスの車だ!」 ぐおおおおおお!チンギス!殴る!絶対殴る!と走って追いかけるのですが、全然追いつかない。向こうも向こうで僕を探しているみたいでゆっ くり走ってるんですけど、さすが車、全然追いつかない。こっちもこっちでここで置き去りにされたら今度こそ完全なる死ですので、その辺に落ちてた石とか車 に投げつけて対抗します。するとやっとこさ気付いたみたいで車が停車。 怒りにまかせて車に駆け寄り、運転席の窓に向かって怒り狂います。 「オイヒゲ!テメーどんだけ時間かかってんだよ!死ぬかと思っただろ!」 僕はまあ、普段そんなに声を荒げるタイプの人間ではないのですが、やはりよほどきつかったんでしょうね、ムチャクチャ怒ってました。しかし ながら、チンギスは全く悪びれる様子もなく、それどころか死ねばよかったのにといった表情で平然としてました。これだけ怒り狂ってるというのに1/3も伝 わらない。 とにかく、もう歩かなくてもいい、早く人が住んでる街へ行ってくれと告げて助手席に乗り込むと、チンギスが凄い不思議そうな表情で 「お前、そんな顔だったっけ?もっとハンサムじゃなかったか?」 とか言うもんですから、おいおい、たった二日会わなかっただけでもう僕の顔を忘れたのかよと落胆。本当にこいつと旅を続けてもいいのだろう かと不安になったのでした。ちょっと間隔が空いたくらいで忘れたとか、人間のクズとしか思えない。とにかく僕とこのクズはまた手を取り合って国境を目指す のだった。 本当につづく-次回、いよいよVS国境警備兵編- 1/15 軽蔑していた愛情 ホント、あなたたちは大した釣り師だ。こと僕を騙すことにかけては最高の技量を発揮する、そう言わざるを得ない。 釣りというのは紳士なスポーツ、紳士な趣味と捉われがちだが実際には違う。エサやルアーを使っていかに魚を騙すか、それだけに命を懸けて執念を燃やす卑劣極まりない行為だ。おまけに多くの場合で釣り上げた魚を殺すって言うんだから、もはやこれは殺戮のレベル、とてもじゃないが許されるべきものじゃあない。釣られた魚の身にもなってみろ。白身魚って美味しいよね。 なにをこんなに怒り狂ってるのかといいますとね、間違いなく僕が釣られてしまった、それも大多数の人間に無下に扱われてとんでもないことになったって話なんですけど、とにかくまあ、聞いてやってください。 まあ、僕もこういうNumeriとかいうサイトをやってますとね、それでも多くの閲覧者様から色々と誘いを受けることがあるんですよ。何をトチ狂っているのか知りませんけど、「patoさん一緒に遊ぼうよ」「一緒に飲みに行きましょう」とかですね、なかには妙齢の女性なんかから「patoさんとだったら私……」みたいなのもあるんですよ。ホント、頭おかしい。 でもね、そうなってくると僕だって嬉しいじゃないですか。やっぱこう、友達もいない、職場でも僕だけ栗拾いツアーに誘われないとか、それだけならまだしも、今度バスを借り上げて泊りがけでスキー&スノボツアーってのを職場でやるらしいんですけど、バス代1200円だけ徴収されてそれ以来音沙汰がない、風の噂によると1月の3連休に行くらしいという、ってもう3連休終わってるじゃないのって感じの僕からしたらすごく嬉しいんですよ。やっぱり人の温もりって何より温かいじゃないですか。 というわけで僕もまんざらじゃないというか、やぶさかではない感じで「飲みに行きましょうよー」ってねメッセージなんかを眺めていたわけなんですよ。やっぱり悪い気はしない。こりゃ楽しいなって思って東京に行ってやろうと決意したんです。 「patoさん!東京きたら一緒に飲みましょう!奢りますよ!」 「patoさん!東京来たら一緒に遊びましょう!案内しますよ!」 「patoさんが東京来るなら……アタイ……夜を共にしてもいいよ……」 やっぱ東京って大都会ですから人数も多いじゃないですか。色々と積極的な人も多いじゃないですか。僕も僕でそういった文言に誘われて東京に行くことにしたんですよ。人と人との温もりが欲しかった。あわよくばおセックス的展開もなんて期待してなかったと言ったら嘘になる。 でまあ、この3連休を利用して東京に行ってきたんです。途中大阪に行ってしまうとか、新幹線に乗った瞬間に切符を落としてしまうといったハプニングもあったわけなんですけど、とにかく皆さんが「patoさん!patoさん!」と誘ってくれるがままに、たまに名前間違えていて「petoさん!petoさん!」とか言う人がいるんですけど、とにかくそういうのに誘われるがままに東京上陸ですよ。 そしたらアンタ、あれだけ「patoさん!patoさん!」言ってたメンツが総スカンですよ、総スカン。間違って「petoさん!petoさん!」とか言ってる人も総スカンだった。「えー、いきなり来られてもね……」「まさか本当に来るとはさあ」「文章読んでる分にはいいけど会うのはやっぱり嫌、キチガイだもん」「会うとpato菌がうつる!」「pato死ね」とか、全員すごいテンションダウンなんですよ。あれだけ熱心に誘ってくれた人とは別人みたいになっとるんですよ。 つまりあれでしょ、そういう釣りなんでしょ、フィッシングなんでしょ。一緒に飲もう、遊ぼうという餌、挙句にはおセックスもありえるかも?みたいな極上の餌をつけて僕を誘い出し、やってきたら「残念でしたベロベロバー」みたいな状態なんでしょ。 ホント、あなた達は一流の釣り名人だよ。昔、深夜に「ワクワク釣り名人」っていう正気を疑うネーミングセンスの番組を見てたら伝説の釣り名人ってオッサンが磯に登場して、リポーターとかが伝説名人の釣りがついに見れます!とか散々煽っていたのにイキナリ名人がタモで魚を取り出した時みたいな事件を思い出すほどの釣り名人っぷりだ。 そうなるとですね、ワクワクしながら東京駅に降り立った僕がピエロですやん。大きなリュック持ってルンペンみたいな格好して東京駅に仁王立ちしている僕がピエロですやん。多くの人が行き交う東京駅で寂しく仁王立ち、かつてこれほどまでに悲しい東京駅があっただろうか、いや、ない。 とにかく、そうなってくると田舎者がわざわざ東京にやってきた理由が皆無じゃないですか。通りがかりの全然知らない人に「あんた何しに東京来たの?」とか言われても素で「すいません」って謝ってしまいそうなくらいに来た意味が皆無じゃないですか。ここはなんとかして東京に来た意味を見出さなくては、そう考えてAKB48を観にいこうと決めたのです。 AKB48とは秋元康氏のプロデュースにより2005年に誕生したアイドルを目指す女の子達48人のグループで、目下のところ話題沸騰中の女の子達なんです。そのコンセプトは「劇場に足を運べば毎日会えるアイドル」で、秋葉原にあるAKB48劇場に行けば毎日公演をしているのでいつだって会えるんですよ。 前々からAKB48には注目していたのですが、やっぱ秋葉原の劇場まで行くのって怖いじゃないですか。秋葉原といえばオタクのお兄さんが闊歩し、そのオタクお兄さんを狙ったオタク狩りが蔓延、オタクのお兄さんも自己防衛ってなもんでバタフライナイフを懐に忍ばせてね、抗争という名の血で血を洗う殺戮の殺し合いが連日連夜行われている、その傍らではメイド服着たお姉さんが微笑んでいるというね、何かピントのずれたカオスな世界なイメージがあるんですよ。水森亜土に地獄絵図を描かせたみたいなそんな世界観があるじゃないですか。 そんなもんで独りで秋葉原に行くのは非常にためらわれたのですが、とにかくここまできて何もせずに帰るってのは釣り上げられたボラみたいなもんですから、とにかく意味があって有意義な上京物語にしなければならない、そう決意して電車に飛び乗り、一路秋葉原へと向かったのでした。 秋葉原駅に降り立ち電気街口を抜けるといきなりカオスな光景が飛び込んできましてね、なんかメイドの格好をした女の子がビラとか配っててそこにワラワラと男が集まってるんですよ。まあ、別にコレくらいは秋葉原では普通、良くある光景なんでして、ウチの地元の駅とかでやったら一発で逮捕されるだろうけどとにかく当たり前の光景なんですよ。 で、そのある意味秋葉原らしい光景を眺めていたら、さすがにそりゃないだろーっていう絵に描いたような酔っ払い親父がワンカップ持って登場、メイドに向かって「こんなスカートじゃ腹が冷えるぞ」「やめてください」とスカートをめくったりして大車輪の勢いでセクハラしてました。周りの民衆は「そんな横暴を許さない!」といいたげな表情ではなく「あ、俺もやりたい」みたな顔してました。 でまあ、僕はルンペンみたいな格好ですし、でかいリュック背負ってて明らかに田舎からのおのぼりさん、このままではオタク狩りのターゲットにされることは明白ですので目の前の自由通路とかいう場所にあったコインロッカーにリュックを預けます。 で、秋葉原の町をフラフラと散策しながらAKB48劇場の場所を探します。しかしながら全然下調べが足りなかったんでしょうね、そういった計画性とか皆無な人間ですから、全然場所が分からない。フラフラ歩いてるとメイドカフェとか山のようにあるんですけどサッパリ分からない。なんか「武器屋」とか書かれた店があるんですけどその需要が分からない。 そこでね、僕を釣り上げた人達、つまり東京に来たら飲もうとか言ってて実際に言ったらシカトするという極悪非道な鬼、鬼の子達の言葉を思い出したんです。「AKB48劇場はドンキホーテがどうちゃらこうちゃら」、ああ、下劣なる鬼といえどもたまには役に立つじゃないか、ドンキホーテを目指せばAKB48劇場があるんだな、と探索を開始したのです。 でまあ、なんとか無事にドンキホーテを発見し、なにやら色々と見てみるとこの8階建てのビルの最上階にAKB48劇場があるみたいでしてね、気分的には雑居ビルの様相を呈しているんですよ。地下と1階がパチンコ屋で2階から5階くらいまでがドンキホーテ、6,7階が空いていて8階が劇場と、そんな感じになっていたんです。 で、いよいよ乗り込むぞって思ってたんですけど、なんかエレベーターがないんですよね。1階のパチンコ屋に入る入り口と2階のドンキホーテ店内に入るエスカレーターしかないの。後でわかったんですけど、AKB48劇場にはムリムリとエスカレーターを上がってドンキホーテ店内を抜けて行かなければならないらしいんですけど、僕のイメージ的には劇場まで直通のエレベーターみたいなのがあると思ってたんですよ。必死で探すんですけどそんなのが全然ない、どうやっていくんだよ、って途方に暮れてしまいました。 しかしですね、色々と探してみるとビルの裏口、まあパチンコ屋の裏入り口みたいな場所にひっそりとエレベーターがあるんですよ。なんか小汚いエレベーターなんですけど、しっかりと扉のところに注意書きがしてあって、 「このエレベーターはドンキホーテ店内および6階、7階には停止しません」 とか書いてあるんですよ。このビルは2階から5階までドンキホーテですから、つまりは2から7階までは停まらないぜって書いてあるわけ、直訳すると8階にだけ停まりますってことで、8階はAKB劇場ですから劇場専用エレベーターじゃないですか。これに乗ってみんな劇場に押し寄せるんだな、それにしては殺風景なエレベータだーだって思いながらスーッと乗ったんです。 いや、ホント、もっとこう専用エレベーターなんだからポスターとか貼ってAKBオタを煽った方がいいじゃないですか、会場に昇るまでのワクワク感を煽った方が良いに決まってるじゃないですか。なのに殺風景過ぎるエレベーター、なんだかなあって思いながら「閉」ボタンを押したんです。 「すいませーん!」 そしたらキャピキャピとうら若き声が聞こえてきましてね、同時にドタドタと走る音が聞こえてきたんです。ああ、誰か乗りたいんだなって思って「開」を押しましたよ。で、息を切らして乗ってきたのか2人の女の子。よくよく見ると結構カワイイんですよ。なんか訳の分からないメガネかけてるんですけど、落ち着いてみるとカワイイ。ああ、こんなカワイイ娘も夢中になってAKB48見ちゃうんだな、っていうかこれくらいのレベルならAKB48に入れるんじゃないか、決して負けてないと思うよ、頑張れよ!などと訳の分からない激励を心の中でしていたんです。 「ありがとうございます」 とか言いながら乗り込んでくる2人、微妙に良い匂いがして、今大地震がきてエレベーターが停まったら大変なことになる!アタイ!もう我慢できない!ブリブリブリブリブリブリとかになるに決まってる!と独りで良く分からない世界にトリップしてました。 「おつかれさまですー」 オンボロエレベーターがムリムリと8階めがけて上がっていくんですけど、娘2人がそうやって僕に話しかけてくるんです。おいおい、こりゃあ逆ナンかー、かーっさすが東京の娘は積極的だなーって思うんですけど、下手したら「キモい男が釣れた」とか後で酒の肴にされる壮大な釣りの可能性もあるじゃないですか。それよりなにより、もしかしたらAKB48ファンの間では劇場で出会った人には「おつかれさまです」って挨拶をするとかそういうルールがある可能性があるじゃないですか。挨拶されたくらいでウカレポンチになってはいけない。 「あ、おつかれさまです」 かなりぶっきらぼうに、目線も合わせずに階数表示だけを眺めてました。無言のエレベーター内、オンボロすぎてガコガコと異様な音がするんですが、なんとか8階に到着、いよいよAKB48劇場に到着、そこは華やかな別世界で夢のような世界、そして開場を待ちわびるAKB48オタの皆さん、そんなのがひしめきあう桃源郷に違いない、期待と緊張で心臓がドキドキするんですが、固唾を飲んでドアが開くのを待ちました。そして、そこには衝撃の事実が! 「よし!いくぞ!」 なんかドアが開くとちょっとガリガリのお兄さんがドアの目の前で物凄い気合を入れてるんですよ、で、手にはどう見てもプロ仕様としか思えないカメラを持ってるの。その傍らには助手みたいな小僧がいて、なんか2人で気合入れてるの。 一瞬、すげえ気合の入ったAKB48オタだな、プロ仕様のカメラ持ってるぜって思ったんですけど、よくよく考えたらこういったアイドル系の劇場て絶対に撮影禁止じゃないですか。そもそもカメラ持ってる人がいるのがおかしい。それよりなにより、その光景が酷い。 もっとこう華やいだ世界を想像していたのに、エレベーターの前に広がるのは乱雑な世界。コンクリート打ちっぱなしの汚い通路に乱雑に段ボール箱積み上げられてましてね、狭い通路を忙しそうに多くの人が行き交ってんの。 おかしい、何か変だ。 そう思ってるとエレベータに乗ってた女の子2人が 「おつかれさまですー」 とか、そのカメラ持ってる人にも挨拶しながらズイズイと中に入っていくんですよ。その瞬間に全てが繋がった。本気で全てを理解した。客を煽る気が全くないエレベーター、女の子2人の奇妙な挨拶、この乱雑なフロア、全てが氷解したね、ここは関係者以外立ち入り禁止の通用口なんだと。この先には楽屋とかあってAKB48のメンバーがキャー!とかワー!とかブリブリブリブリとか準備に余念がないんだと。そして中に入っていった2人はたぶんAKB48の誰かなんだと。恥ずかしい、心底恥ずかしい、AKB48のメンバーを指して「AKB48にも入れるよ、がんばれ」とか励ましてた自分が心底恥ずかしい。 とにかく、早くここから撤退しなければならない。分からなかったからとはいえこんな関係者以外立ち入り禁止の場所に入ったらすごい怒られるに決まってる。下手したらテロリストですからね、耳にした情報によると、紅白にも出て人気の出てきたAKB48なんですけど、今度はチケットの入手問題やメンバーへのストーキングなどなど、様々な問題が起こってきてるんですよね。そういうのに事務所サイドなんかは公演への出入り禁止措置などで毅然と対応しているらしいんです。そんな折にルンペンが裏口まで入ってきたことがバレたら大変なことになってしまう。 とにかく何事もなかったような冷静な顔でそのままエレベータのドアを閉めましてね、そのまま物凄い勢いで1階まで降りました。 「ふう、危なかったぜ、っていうか入っちゃダメならそう書いておけよなー」 とか思いながら1階に下りると、何かスーツ着た人がエレベーターの前で仁王立ち。むちゃくちゃ怒ってました。 「あのー、このエレベーター立ち入り禁止なんですけど」 「あ、すいません、間違えちゃって、今日はじめてきたんで分からなかったんです」 「あのですねー、分からないわけないでしょ」 「いやー、分からなかったですよ、入っちゃダメって書いてなかったし」 「書いてあります、ここに!」 とか見ると、エレベーターのかなり手前、外の道路から裏口に入ってきた時に見える位置にコーンが立ててありましてね、「このエレベーターは関係者以外使用禁止です」ってかいてありました。そんなの分かるわけないって、だって僕、パチンコ屋の方から出てきたんですもん。そのルートだとコーンが全く見えない位置なんですよ。 でまあ、色々とすったもんだ、いかに僕が気付かなかったかを身振り手振りで説明したんですけど、分かってもらえず。 「出入り禁止ですね」 という無情なるお言葉。いやね、色々と悪質なファンっていると思うんですよ。それこそAKB48を困らせて多大なる迷惑をかけてる人とかいると思うんです。そういう人がガンガン出入り禁止になればいいと思うんです。でもね、いずれもそういう人って劇場で何か悪いことをして出入り禁止になってると思うんです。さすがに一度も劇場に足を踏み入れてないのに出入り禁止になった人間はそうそういないはず、これは大変な騒ぎですよ。 この「出入り禁止」っていう言葉を宣告された瞬間に気が動転しちゃいましてね、なんかオタクっぽく喋らなきゃいけないとか訳の分からないこと考えちゃって、ここは最後の意地を見せるべきとかすごい執念に燃えて 「え、ミーが出入り禁止ザンスか?」 とか、どういうキャラなのか、どういう立ち位置なのか、そもそもそれはオタクらしいのか全く分からない喋り方をしてました。自分自身で思うよ、なんなんだ、コイツは。 まあでも、正真正銘の出入り禁止ってわけではなくて、住所氏名を聞かれませんでしたし、写真とかも撮られてないので本気本気じゃないんでしょう。なんかお兄さんも優しい感じがしたので、事情を話して今日は遠くから東京まで出てきてAKB48を観に来たんです、公演を見せろとはいいませんが8階の様子だけ見てもいいですか?って聞いたら「オッケー」的な感じだったので意気揚々と今度はちゃんとエスカレーターを使って8階へ。 そしたらいるわいるわ、AKB48ファンの皆さんがワラワラと劇場前のカフェみたいな場所にいましてね、もう、はやる気持ちを抑えられないといった感じでひしめき合ってました。見ると本日分のチケットは完全ソールドアウトで、どうせ出入り禁止にならなくても見れなかったやと妙に納得。なんか、戦国時代に生まれたらひとかどの武士になっていたであろう重厚なメンツがバインダーに入ったAKB48の写真を嬉しそうに整理してました。 その横を見ると金色のネームプレートが100個くらい飾ってありましてね、なんでも来場100回を超えると殿堂入りするらしく、なんか「ぷりりん」とかそんな正気を疑う名前で多くの猛者が登録されてました。さすがにこりゃすげーや。 とにかく、ひどい釣りだよなー、あんな分かりにくい場所で「8階まで行けますよ」って書いてて昇ったら関係者以外立ち入り禁止で怒られて出入り禁止っすよ、本当に東京は恐ろしい釣りが溢れている。ちょっと気を抜くとすぐこれだ。 失意のまま帰ろうとエスカレーターを降りると、その途中で横のメイドカフェから「萌え萌えじゃんけん!」とメイドさんのカワイイ声と野太い男性の声がハーモニーをしているのを聞きつつ、もう帰ろう、下のパチンコ屋でパチンコ打って帰ろうと、心底落胆したのでした。 パチンコも手痛いくらい負けてしまいましてね、ホント、秋葉原では全くいいことなかった、そもそも東京に来るんじゃなかったと失意のどん底で秋葉原駅へ。もう荷物持ってここではないどこかに行ってしまおうとコインロッカーを開けて預けたリュックを取り出したんです。すると、何か異変が。 荷物を入れた時は気付かなかったんですけど、ロッカーの中にキャリーバッグって言うんでしょうか、荷車のついたバッグがあるじゃないですか、あれの荷車部分だけが僕の荷物と一緒に入ってたんですよ。単純に前使った人が忘れてたんでしょうね、ゴロンと荷車だけがあって心底困惑した。 忘れた人も困ってるでしょうし、僕も僕でこんなのネコババしたって何の得にもなりませんし、とにかく届けなくてはならない、と近くにいた駅員さんに持っていったんです。 「すいません、これ忘れ物みたいなんですけど」 そしたら駅員さんは何か忙しかったみたいで 「落し物?じゃあ交番に届けて」 とかすごいぶっきらぼうに言われましてね、そんなもん交番がどこにあるかも分からないじゃないですか、いきなり言われても困るじゃないですか 「その交番はどこですか?」 とか訊ねるとさらに面倒そうな顔されましてね。 「あそこにみえるでしょ、ほら」 とか、指差す遥か先に交番のものと思われる赤いランプが。ムチャクチャ遠い。行くの面倒くさい。できれば行きたくないんですけどゴロゴロと荷車を転がして行きましたよ。途中ビラを配り終えたメイドさんがダルーって顔して車に乗り込むのを目撃しつつ交番へ、なんかオッサンの警察官の人が憮然とした表情で机に座ってました。 「すいません、駅のロッカーに忘れ物があったんですけど……」 そしたらギロリとか睨まれちゃいましてね、全く意味が分からないんですけど 「は?」 とか聞かれました。聞こえなかったのかなって思って少し大きな声で 「駅のロッカーにこれが忘れられてたんです」 っていったら警察官の人がゲハゲハ笑い出すんですよ。何が何やら意味が分からず呆然としてると 「あのね、駅の忘れ物は駅に届けなくちゃダメじゃない」 と小学生に言ってきかせるような口調で言うんですよ。僕、31歳なんですけど。 「いや、でも駅では交番に持っていけって言われたんですけど」 「そんなの知らないよ、駅の忘れ物でしょ?駅だよ」 微妙に釈然としないまま、それでも警察官が言うんだからそうなんだろうとまた駅まで舞い戻ることに。クソッ、こんなことなら見た瞬間に捨てておけばよかった。とにかく、また駅に向かったんですけど、その瞬間、事件は起きたのでした。 なんかですね、微妙に怖そうなアウトローっていうんですか、明らかに喧嘩強そうなお兄さんがこっちこっちって感じで手招きしてるんですよ。うわっやべえ、これって噂に聞くオタク狩りってやつじゃないのか。なんとか気付かないフリしてスルーしようと思ったんですけど、そうは問屋が下ろさないらしく、エグザイルの右側みたいな感じでたむろしている3人組に話しかけられました。 「あのさー、電車賃なくなったから金貸して」 とか凄まれないまでも軽やかに言われちゃいましてね、マジかよー31歳にもなってカツアゲされかけてるよーって情けなくなっちゃいましてね、「これは参考書買うお金だから」とか言い訳しようにも参考書買う歳じゃないじゃないですか。おまけにパチンコに負けてお金持ってないわ、懐にバタフライナイフは潜ませてないわで八方塞り。どうしたもんかなーって思ってたら気が動転しちゃいましてね。 「オッサン、いくら持ってんの?」 っていう問いに、なんかオタクっぽく答えなければならない!と妙な使命感を燃やしてしまい。 「お金ザンスか?」 とか、どういうキャラなのか、どういう立ち位置なのか、そもそもそれはオタクらしいのか全く分からない喋り方をしてました。自分自身で思うよ、なんなんだ、コイツは。 まあ僕は喧嘩100段ですからこんなエグザイルくらいちぎっては投げちぎっては投げ、二度とオタクを狩れないように懲らしめるんですが、僕の強さに惚れこんだエグザイルたちが弟子にしてくださいとか言ってあっという間に僕の組織が膨れ上がりましてね、チーマーなどを束ねて秋葉原を統一、秋葉原の王と呼ばれるまでになって今度は組織的にオタク狩りをさせるんですけど、そうする以前にさっきの警官が追いかけてきて 「やっぱりさっきの落し物預かるよー」 って走って来たんでエグザイルたちは脱兎の如く逃げていきました。口ほどにもないやつらだぜ。死ぬほど怖かった。 とにかく、東京はとんでもない釣りに溢れている。誘われてノコノコ行ってはいけない、エレベーターにノコノコ乗ってはいけない、落し物を見つけても届けてはいけない、それらは全て釣りなのだ。 「釣り竿とは一方の端に釣り針を、他方の端に、馬鹿者をつけた棒である」 イギリスの古いことわざにこんな言葉がある。釣り好きを自虐的に扱った言葉であるのだけど、しかし、これにはさらに「釣れるのもまた馬鹿者なのだ」と続くのではないか。 東京は狂った街、その狂った街に釣られてAKB48は観れないわ、観てもないのに出入り禁止になるわ、齢31にしてカツアゲされそうになるわ、ホント、とんでもないわと思いつつ、二度とアナタたち閲覧者様の誘いには乗らないと固く心に誓い、東京を後にした。 1/7 日曜日よりの使者 仕事に行きたくない仕事に行きたくない仕事に行きたくない。 年末年始休暇が終わる日曜日の夜、僕は心の底から湧き上がる声に耳を傾けていた。社会的体裁や社会人としての信念、そんなもので蓋をしても決して誤魔化すことのできない本当の声に。心の叫びとでも言った方が適切だろうか。 「明日から仕事か……面倒くさいな」 お気に入りのダージリンティーを飲み、そっとロッキングチェアを傾ける。タバコの煙が所在無く舞い上がる部屋の中にはこれまたお気に入りのクラシックが流れていた。決して外すことのできない心安らぐ時間、せわしない世間にあって唯一落ち着ける時間。それでも心の中に鬱積した思いが晴れることはなかった。 「本当に仕事行きたくない……」 僕は数年前に本当に仕事に行きたくなくて瀬戸内海に浮かぶ島まで逃げたことを思い出した。まさかあんなに逃げるとは自分でも思わなかった。あの時は海が綺麗で砂浜が綺麗で、一人で2時間くらい砂の城を作っていたら島の駐在さんみたいなのがやってきたんだった。 憂鬱な月曜日と仕事始めが重なる1月7日、鬱陶しい要因がダブルパンチで攻め立ててくるこの日を前にして、僕はあまりの行きたくなさに身悶えていた。休みが終わるというのもその要因であるが、昨年末に仕事を放り出し、「良いお年をー!」などとランナウェイした事実を思い出すとますます仕事に行き気力が失せる。 ちなみに余談になるけど1月7日はウチの親父の誕生日だ。けれどもそんなことは別にどうでもいい。むしろ忘れたいくらいだ。僕が子供だった頃に純度100%のピュアさで「お父さんの誕生日を祝わないといけない!」とかわいさ満点のキッズとしか言いようのないキューティクルハートで手作りのお酒ホルダーみたいな紙製のチャチな物をプレゼントしたら、泥酔していた親父に「ワシの誕生日を祝おうとは10年早いわー!この小僧がー!」と完膚なきまでにズタボロにされて以来、彼の誕生日は寒い冬の中の一日と思うことにしている。祝うのに10年早いとかムチャクチャだ。余談過ぎて自分でもビックリした。 「ああ、どうしよう、本当に行きたくないよ」 中空に向かって独り言を発し、ロッキングチェアーを揺らす。するとどこからともなく声が聞こえた。 「そんなに行きたくないなら行かなくていいよ」 音というのは波だ。声が伝わってくる時は空気が振動して耳に届く。しかしその声はその種の振動とは違うような、まるで直接頭の中に響いているように感じた。 「だ、誰だ……!?」 キョロキョロと辺りを見回す。けれども、そこにはロココ調に揃えた家具類と優雅にクラシックを奏でるレコードしか存在しなかった。 「なんだ空耳か……」 あまりの行きたくなさに空耳まで聞こえるようになったか、こりゃあいよいよ末期だな。いい加減諦めてもう寝てしまおうか、そう思っているとまた頭の中にあの声が響いた。 「行きたくないなら行かなくていいのに、うふふふふ」 イタズラに笑う頭の中の声は途絶えることがなかった。僕は何度も「これは空耳だ、仕事を嫌がる僕が作り出した幻聴に違いない!」と言い聞かせ、眠る準備をし、仕事という憂鬱な明日への入り口となる寝床へと入った。その間にも相変わらず幻聴は聞こえていて、 「行きたくないなら左に行って!いつもは右のところを左に行って!」 と、相変わらずの調子で頭の中に鳴り響いている。とんでもない幻聴だ、これはもう仕事に行ってる場合じゃないかもしれない、でも行っちゃうんだろうなあ、と自分に言い聞かせ深い眠りに着いた。 翌朝。目が覚めるとやはり憂鬱だった。これが休みの日なら好きなだけ寝ていられる、寝すぎて疲れたなんて芸当もできるのだけど仕事が始まるとそうはいかない。あまりの憂鬱さに昨晩の幻聴のことなどすっかり忘れて出勤の準備を始めていた。 憂鬱なワインディングロード、職場へと続く道。せわしなく動く街の人々はそれが社会に属していて世間は動いていることを実感させてくれた。それと同時にやはり自分も社会に属して今から仕事なのだとひどく憂鬱な気分になった。 信号で停車する。ここを右に曲がればもう職場だ。時間もピッタリ、遅刻じゃない。そこで急に昨晩の幻聴のことを思い出した。 「行きたくないなら左に行って!いつもは右のところを左に行って!」 あの声はこの場所のことを指していたのかもしれない。いつも右に曲がって職場へと向かうこの交差点、仕事に行きたくないならここを左に曲がれと言うのだろうか。まさかそんなことはないだろう。左に曲がったって何かがあるはずがない、普通に街並みがあって遠回りすることになって仕事に遅刻する、それが関の山だ。 「けど……もしかしたら……」 なにかあるのかもしれない。そう思わなかったと言えば嘘になるだろう。それよりなにより、仕事に行きたくなかった。こんな職場の直前まで来て駄々っ子のようなのだけど、それでも行きたくない気持ち、何かを期待する気持ちがハンドルを左に切らせた。 いつも右に曲がる道を左に曲がる、ああ、ここはこんな景色だったのか、見慣れない景色がサイドミラーを流れていく。その景色がなんとも新鮮で、季節を感じさせる街路樹がどこか手招いているように見えた。 「でも、やっぱりなにもないな」 少しだけ何かを期待していた自分を恥ずかしく思いながら、バカやってる場合じゃない、仕事しなきゃ、と車をUターンさせようとしたその時、ざっと車の周りを深い霧が取り囲んだ。 「わ、わ、わ!」 あっという間に周囲が見えなくなり、何か別の場所に運ばれるような、言い換えると霧に掴まれて車ごと運ばれているような奇妙な感覚だった。どうすることもできずオロオロと霧を眺めていると、これまた奇妙なことにまるで意思を持ったかのようにサッと霧が晴れたのだ。 そして、目の前には大きな湖があり、どこか懐かしくなるような、それでいて本当に心安らぐような何ともいえない景色が広がっていた。朝もやに包まれた湖は穏やかで、波がたつわけでもなく、風で水面が揺れるわけでもなく、文字通り水を打ったかのように静まりかえった光景が広がっていた。 「おかしいな、ここにこんな湖はなかったはずだが……」 車を停め、湖のほとりに降り立つ。さすがに来たことない道とはいえ、いつもの交差点からそんなに移動したわけじゃない。いくらなんでも職場の近くにこんな大きな湖があるならば気付くはずだ。それにこの雰囲気、まるで時間がゆっくり流れているようにすら感じる弛緩した空気、全てがおかしくて奇妙なものだった。湖に近づき、しゃがみこんでそっと水面に手を入れる。冷たい感覚が右手を包むのと同時にサッと波紋が広がった。やはり本物の湖のようだ。なのにこの静けさはなんだ。 「いらっしゃい、やっと会えたね」 聞き覚えのある声が耳に届く。そうだ、昨晩聞こえたあの幻聴だ。昨晩聞いたあの声が今度は頭の中じゃなく本当に耳に届いた。 「だ、誰だ……!?」 辺りを見回すが誰もいない。ただ水面だけがこちらを見ていた。 「ここだよ、ここ、ここだってば」 それでもさらに近くなって問題の声が聞こえる。そう、まるで自分の右肩辺りから聞こえるような、いや、確かに右肩から聞こえていた、僕の右肩には見たこともない小さな人間が、ボンヤリとした光に包まれて微笑みながらこちらを覗きこんでいた。 「はじめまして、私は妖精のメルル、この癒しの湖の案内人よ」 「よ……妖精!?」 普通なら面食らって腰でも抜けてしまうところだろうが、確信的でないにしろ、そういった不思議な存在を許容してしまうような、許容せざるを得ないような圧倒的な違和感がこの湖にはあった。早い話が、何が起きてもおかしくないくらい奇妙な場所だったのだ。現に僕の右肩には手のひらほどのサイズの妖精が腰を据えている、みるとその小さな顔はアイドルのようにカワイイ、背中には蝶のような羽が生えている。メルルは少しかしこまりながら話し始めた。 「私は「働きたくない」「仕事嫌だ」「遊んで暮らしたい」そんな気持ちが産み出した精霊よ」 「ずいぶん堕落した気持ちが産み出した精霊だなあ」 普通、精霊と言えば山の精霊とか森の精霊とか、もっとこう神々しさすら感じる存在だと思うのだが、目の前には仕事したくない気持ちの精霊が。 「仕事をしたくないって気持ちは堕落じゃないわ。人間ならば誰しもが持ってるものなの」 「まあ、そりゃそうだけど」 妖精にそう言われると妙に納得というか安心してしまう。そりゃそうだ、誰だって心のどこかで仕事をしたくないと思っているに決まっている。 「その気持ちが限界になった時、人々はこの癒しの湖に導かれるわ。ここでは仕事しなくていい、時間も流れない、皆が好きなようにゆっくり流れる時間を楽しんでいるの」 「僕以外にも人がいるんだ」 「もちろん、大勢いるわ、ほら、見て見て」 その瞬間、周囲を包んでいた霧のようなモヤのようなものがサッと晴れ渡った。目を凝らして見てみると、湖周辺の岩の上で寝そべる人、湖畔に腰かけて釣竿を垂れる人、アベックで土を掘りながら愛を語らう人々など、数多くの人が好き好きに過していた。 「これ、みんな……」 「そう、仕事に疲れてこの湖に導かれて来た人々、あなたと同じようにね」 メルルは腰かけていた僕の肩から立ち上がると、背中のハネを優雅に動かしながら空を飛び、楽しそうに右へ左へと飛んでいた。 「とにかく、ここでは仕事なんてしなくていいわ、好きなだけいていいのよ。そして好きなように過していいの」 メルルの言葉を聞くか聞かないかのタイミングで一番近くにいたアベックに話しかけた。 「こんにちはー」 「あ、こんにちはー」 彼女の方は警戒しているのか、それとも彼氏の前で別な男と話をするつもりがないのか、僕の挨拶に対して微妙に視線を逸らした。答えたのは彼氏の方だった。 「お二人でこの湖にやってきたんですか?」 「ええ、実は彼女とあっちの世界ではこの彼女と結婚するつもりでしてね、家を建てるために二人で必死になって働いていたんですよ」 「へえ、そりゃおめでとうございます」 僕の祝福の言葉に彼氏は微妙にはにかんだ。 「ただ、お互い仕事ばかりになってすれ違いが多くなっちゃいましてね、喧嘩ばかりするようになったんです。で、二人のために仕事してるのに何なんだろう、もう仕事したくないや、って思い始めた時、二人してこの湖にいたんです」 彼女は面白くなかったのか、ツンっと指で彼氏に合図をし、目線で何かを訴えかけた。それを察したのか彼氏は申し訳なさそうに僕の方を見ると、 「じゃあ、僕らはこれで。ここは本当に楽園ですよ、ゆっくりしていってくださいね」 と言い残して二人で森の奥へと歩いていった。 「なあメルル、本当にココでは何もしなくていいのか?」 二人の後姿を眺めながら右側を飛んでいたメルルに訊ねる。 「そう、ここでは何もしなくていいわ、曜日もなければ昼も夜も来ない、ただ漠然とした時間が流れるだけなの」 「じゃあもしさ、ここである程度過した後、急に仕事をする気になったとしたらあっちの世界には帰れるの?」 「あっ、ほら、ここのリーダーよ」 メルルは急によそよそしくなり、まるで聞いてはいけないことを聞いてしまったような雰囲気だった。そして、大きな巨石の上に腰かけた中年の男を紹介される。 「お、新入りか。WaTのウェンツじゃないほうみたいな顔したヤツだな。ここでリーダーをさせてもらってる高本というもんだ。まあ、一番古株だからってのが理由なんだけどな。そして、ここでは仕事なんてしないからリーダーって言っても名前だけだけどな!ガハハハ」 「よろしくおねがいします。patoといいます。えっと、高本さんはどれくらいここにおられるんですか?」 「まあ、あっちの世界でいうところの12年はここにいるよ、ガハハハハ!これでも向こうの世界では証券マンでな、けっこうやり手だったんだぞ」 「はあ、そうなんですか」 あまりに豪放な高本の勢いに押される僕、いつの間にかメルルはクスクスと笑いながらどこかへと飛んでいった。完全に高本にマンツーマンでロックオンされた形だ。 「じゃあ、僕はこれで……」 「まあまて、仕事もないんだからゆっくり話を聞いていけよ、あれはバブル絶頂の時だったな、毎日が仕事漬けだった俺は証券マンとして……」 高本の話は終わらない。そのうち朝飯を食っていなかったためか空腹で我慢できなくなった。それにさっきから喉が渇いて仕方がない。 「すいません、お腹減ったんですけどご飯食べるところは……? それに喉も渇いて、できればコーラの自販機とかあると嬉しいんですけど」 高本の話を遮って質問する。高本は深く溜息をつくとニヤリと笑ってこちらを一瞥。そして隣の岩に座るように促した。 「まあ聞け。あのな、昔から言うだろ、働かざるもの食うべからずって。ここでは働かなくてもいい代わりに何もない。何もないんだ。なあに、望みさえしなければいいんだ、すぐに慣れるよ」 働かなくてもいい、その代わり何も望まない、そういうものなのだろうか。何か奇妙な違和感を感じると同時に、ここに来た時に感じた無気力な雰囲気、その正体が分かった気がした。そしてあの異常な静けさの意味も。 「でもそれって……」 僕が口を開きかけた瞬間だった。 カンカンカン 森の高台に据え付けられた鐘が鳴り響き、怒号が響き渡った。 「鬼だ! 鬼が来たぞー!」 それを聞いた高本はスッと立ち上がった。 「ちっ、鬼がきやがったか、おい、新入り、逃げるぞ」 高本は余程急いでいるのか僕の返事を待たずに森の奥へと消えていった。どうしていいのか分からず所在無くウロウロしているとメルルが大急ぎで飛んできた。 「大変大変! 鬼が来たわ! アナタも早く逃げて!」 「おいおい、鬼ってなんだよ」 「文字通り仕事の鬼よ! 私たちを捕まえて死ぬまで無理矢理働かせるの!」 「鬼とかメチャクチャだな!」 「私が「仕事をしたくない」という気持ちが生んだ精霊だって説明したでしょ、あの鬼は結婚7年目で子供も4歳になったんだけど家庭を顧みない夫に主婦として暇を持て余す妻、その妻が怒り爆発してリビングで夫に詰め寄るの「仕事と家庭どっちがたいせつなの?」「股その話かよ」「真面目に答えて」「はいはい、家庭です家庭」その様子を子供はハラハラしながら覗いてるわ。たまの休みも夫は接待ゴルフ、仕事仕事、もうついていけない、私離婚しようかと思うの、もうあの人とはやっていけない。結局ねー釣った魚に餌はあげないのよ、男ってヤツは。もちろん健二は私が育てるつもりよ、って高校時代の同級生に電話で相談する時の妻のような、そんな妻の夫を、いや、仕事を憎む怨念が産み出した悪霊なのよ!」 「ずいぶん限定的な怨念だな!」 「とにかく仕事の鬼よ! 捕まったら大変! 早く逃げて!」 ズシーン、ズシーン。重厚な足音が響き渡る。湖の中央を腰まで水に浸りながら真っ直ぐにこちらに向かってくる鬼の姿が見えた。山のように大きく、その表情は文字通り鬼の形相であることがここからも伺える。 「危険よ! 早く逃げて!」 「フハハハハハ! 聞こえるか、働かないゴミ蟲ども!」 「くっ! なんて禍々しきオーラだ」 「一人残らず強制労働送りにしてくれるわ! くらえ!」 鬼はこちらに向かって右手を大きく振りかぶった。 「有給休暇は与えるけどオフィスの雰囲気で死んでも取らせない衝撃波!」 ドゥーーーン! 「きゃあ!」 右前方で爆音が轟き大きなキノコ雲が見えた。その衝撃で森の木々が炎をあげてメキメキと倒れる。メルルが僕の周りを飛び回りながら逃げるように促す。 「早く逃げて、ここは長くは持たないわ!」 「いくぞ! ゴミ蟲ども!」 「終業時間になっても誰一人帰らない、っていうか帰る雰囲気すらないから当たり前のように残業豪衝波!」 ドゥーーーン!ドゥーーーン! 「くそっ! なんて悪辣な攻撃だ!」 大きく地面が抉れ木々を揺らす。崩れた岩たちがボチャボチャと音を立てて湖へと飲みこまれていった。 「さあ仕上げだ! 給料は微々たる金額上がってるんだけどそれ以上に税金が上がってるからどうしようもない、そのまえに給与明細によると毎月3000円も引かれているデータ費ってのが良く分からない衝撃波!」 ドゥーーーーーーーーン! 「鬼や、まさに鬼や。こんな悪辣な攻撃見たことない」 周囲は爆撃でもあったかのように煙が立ち上り、傷ついた人々がそこかしこにうずくまっていった。 「pato、早く逃げて、捕まったら最後よ!」 メルルが僕の鼻先で真剣な表情で叫ぶ。そこに大きな悲鳴が聞こえてきた。 「きゃああああ!」 「はなせ! 芳江をはなせ!」 「高志! 助けて! 助けて!」 「フハハハハハハ! この娘はもらっていくぞ」 「いやーーーー!」 先ほどのアベックの女性の方が鬼に捕まってた。 「くっ……!」 彼女を助けようと一歩前に身を乗り出す。 「ダメ! 助けに行ったらpatoまで捕まってしまう!」 「しかしいかないわけには……」 メルルを振り切って救出に向かおうとしたその時だった。 「まちな、WaTの実写ゲゲゲの鬼太郎を演じてないほうみたいな顔した若いの」 「高本さん……」 「ここじゃあ何も望んじゃいけねえ、望まない代わりに働かなくていい。彼女を助けたいという思いはお前の望みだ。働きたくないのなら望みは捨てる、それがここのルールだ」 高本はボロボロの帽子を被りなおしながら寂しそうに言った。 「ここでは何も望んじゃいけねえ……ああやって仕事の鬼に捕まりさえしなければ一生働かなくていいんだ、何が起きても望んじゃいけねえ……」 「そうよ、望んじゃいけないわ。望むことはエゴなの、エゴのぶつかり合いは不幸しかもたらさない」 「そんなエゴに疲れたから俺たちはこの世界にいるんだ、理解しろ、若いの」 「高本さん……メルル……」 ズシーン、ズシーン! 仕事の鬼は高笑いしながら来た方向を歩いて帰っていく。捕らわれた芳江の悲鳴はもうここまで聞こえない。湖畔で叫ぶ高志の声が聞こえるだけだった。 「さあ、また第二波の攻撃がないとも限らない。森の奥に逃げましょう」 「逃げるぞ! 若いの!」 メルルと高本さんが僕を急かす。けれども僕の足は一歩も動かなかった。 「……間違ってる」 「どうした、若いの!」 「急いで!」 「間違ってる!」 僕は声を大にして叫んだ。 「望むことはエゴなんかじゃない。僕らは望むからこそ生きていけるんだ。その望みはお金を稼ぎたいとかそういうのじゃない、平穏で楽しい毎日、そうやって生きていくことを望んでいる」 「若いの……」 「ここに来た時、奇妙な違和感に気付いたよ。こんなに綺麗な湖畔なのに動物の気配が全くしない。水の生き物のも森の生き物も皆無だ。動物は働きたくないなんて思わないからこの世界には来ない、みんなただ生きるために餌をとったり働くって分かってるから」 「pato……」 「そりゃあ確かに仕事が嫌で嫌で仕方ないこともある、行きたくないことだってある、でも、そうやって嫌がりつつも仕事をして平穏に生きていく事を望むから毎日が楽しんじゃないかな、よくわかんないけどきっとそうだよ」 高本さんもメルルも珍しい物でも見るかのような視線で僕を眺めていた。 「さあメルル、仕事の鬼の居場所を教えてくれ。俺は俺の望むままに彼女を助けるという仕事をすることを望む」 僕の決意に根負けしたのかメルルは仕方ないといった表情で話し始めた。 「仕事の鬼は湖の向こうの鉱山にいるわ。捕まった人たちもそこで強制的に働かされている鉄壁の城砦ともいえる鉱山よ」 「湖の向こうか……ならぐるっと周っていけば辿りつけるな」 「じょ、冗談じゃねえ! 俺はいかねえぞ、12年もここで平穏に暮らしてきたんだ。俺はここで同じように過すことを望む、絶対に行かないぞ!」 「高本さん、アナタはもうその時点で望んでしまっている。結局人は望まずには生きてはいけないんですよ」 高本さんは帽子を深くかぶりなおして言い放った。 「知った風な口聞きやがって! お前なんか鬼にでも何でも食われちまえ!」 捨てゼリフのように言い残してそそくさと森の奥へと消えていく高本さんに一礼し、僕は湖畔で呆然とする高志に声をかけた。 「これから君の彼女を救出に行く。鬼の根城に行くんだ。君も来るか?」 しかし、高志はプルプルと首を左右に振るだけだった。 「ダメか……じゃあ一人で行く。メルル、来たばっかりで申し訳ないけどお別れだ。ありがとう」 僕は湖畔に沿って走り始めた。目指すは鬼のいる鉄壁の鉱山、そこに捕らわれた人々を救うため僕は走る。 「アナタみたいな人はじめて」 30分ほど走っただろうか、急に右肩辺りから声が聞こえてきた。もちろんメルルだ。 「逃げなくていいのか? メルル」 「私はこの世界の案内人よ、アナタが迷わないように案内する義務がある。それが私の仕事だもん」 「そうか、メルルは仕事があるんだな」 走りながら会話を交わす。少し黙った後、メルルが切り出した。 「アナタにだけは教えておくわ、大切なことだから」 「大切なこと?」 「この世界は働かなくていい理想郷だって説明したと思うけど……」 「実際は違うんだろ」 「そう、実際は監獄なの。働きたくない、そんな無気力な人間を誘い込んで捕らえ、懲らしめるための監獄。ここでは何も望むことは許されずただ無為に時間が過ぎていくだけ。仕事の鬼の襲撃に怯えながらね。だから元の世界に帰る手段はないわ」 「それでも俺は望み続ける。この世界で仕事と呼べるものをして生き続けるさ」 「何十年ぶりかなあ、こんなにワクワクするのって……私、アナタに会えてよかった……」 「メルル……」 「着いたわ、あそこが仕事の鬼の鉱山よ」 そこには雷雲立ち込める禍々しき鉱山がそびえ立っていた。 「ようこそ! 我が根城へ! まさかこの世界の人間がここまで来るとは思わなかったぞ!」 「出たな仕事の鬼! 捕まえた人達を返せ!」 「クククク、返すわけにはいかんな! これは罰なのだよ。働かず生きていこうとする生命体としてあるまじき思想に対する罰なのだよ!」 高笑いをする仕事の鬼、懐に隠れていたメルルが飛び出して反論した。 「違うわ。人は誰も弱いの。色々な要因で働きたくない気持ちが強くなることがある。でも……それでも……人は望むのをやめない……嫌な気持ちを抱えつつ働く、それが人間の幸せなのよ!」 「メルル……」 「ええい黙れ! 妖精ごときが! 喰らえ! 職場の忘年会に行ったら上司の前の席になってしまい2時間丸まるお前は給料泥棒だと叱咤され料理も酒も手が出せないどころか全然忘年できなかった衝撃波!」 ドゥーーーン! 「きゃあ!」 「メルル!」 鬼の攻撃を受けて紙くずのように吹っ飛ぶメルル。僕は慌ててメルルに駆け寄った。両の手に収まる大きさのメルルはボロボロで、今にも消え入りそうなほど弱っているのが分かった。 「pato……もうダメみたい……最後に聞いて欲しいの……」 「もういい喋るな、メルル!」 「いいの聞いて。わたし、アナタに会えてよかった。こんな世界で案内人をしていた私だから、自分の望みのために働く人なんて見たことなかった。でも、今日アナタを見て始めて気づいたの。エゴなんかじゃない自分の望みのために働くアナタの姿を見て眩しいと思った」 「メルル……メルル……」 「気付いたの。仕事って英語でwork、これはね、望みを叶えるためにワクワクしてる人のことを指すんじゃないかって……私、patoのことす……」 「メルルーー!」 僕の手の中で輝きを失い、そのまま粉になってボロボロと崩れていくメルル。その質量は悲しくなるくらいに感じられなかった。 「おのれ仕事の鬼! 許さん!」 「ほう、人間ごときがこの私に勝てるとでも? この悪意の塊である私に! それもこの世界に捕らわれたほどの無気力人間がな!」 ゆっくりと両の手を広げる仕事の鬼。周囲を覆っていた雷雲が鬼の下へと集まった。 「喰らえ! 我が最強奥義! 朝職場に行ったら自分のデスクがなくなっていた爆裂翔!」 「ぐはあああああああああああああ!」 ダメだ、やはり勝てない。勝てっこない。人間は所詮無力なものだ。この悪意の塊である仕事の鬼に勝てるはずがない。僕は仕事に打ち勝つことはできないのか。 「さあ、とどめだ! あの世でメルルが待っておるぞ!」 いよいよダメかと覚悟を決めた時だった。 「待たせたな! 若いの!」 「高本さん!」 「芳江を返せ!」 「高志くん!」 「俺たちはもう、働くことを怖れない!」 「それにみんな!」 あれほど無気力だった人々が群集となって鬼の鉱山へと押し寄せた。あるものは鬼に向かって石を投げつけ、あるものは牢から捕らわれの人々を救出する、百姓一揆さながらの暴動、皆はそれぞれワクワクするような冒険心に満ちた表情をしていた。 「12年ぶりだ、こうやって何かをやってワクワクするってのはな! 大口の投資を引き受けた気分だぜ! 若いの!」 高本さんがハツラツとした表情で駆け寄ってくる。 「やっちまえ! 若いの!」 「はい! くらえ!仕事の鬼! 仕事をしていたら全然知らない人に感謝されたりして、明日も頑張ってみようかなって思うスーパーソニックジェットボーイ!!!!!」 「そんなまさか! 人間ごときにいいいいい!!! ぐはあああああ!!!」 ---------------------------------- 「メルル……」 あれが現実だったとしたならば、こっちの世界に帰ってこれたということなのだろうか。捕らわれ、一生抜け出ることのできない無気力の世界から帰ることができたのだろうか。そうなると他の人々はどうなったのだろうか。 ふと横を見ると、見覚えのあるアベックが通りを歩いていた。男はスーツを着用し、女は何か事務服のような制服を着ている。 「ほら高志、一戸建て買うんだからもっと働かないと!」 「う、うん、でもたまには休んでデートしようよ」 その奥には、アタッシュケースを持ったサラリーマンが忙しそうに携帯で話をしながら歩いている。 「はい、先ほど投資信託の件でお電話いただいた。はい、そうです。今から伺いますので」 僕はその光景を見ながら笑顔でハンドルを切りUターンした。さあ仕事に行こう。街路樹が僕らを激励するかのように優しく揺れ動いていた。 おわり とにかくですね、正月休み明けの月曜日、仕事に行きたくないって気持ちが猛烈に昂ぶってしまいましてね、もう書かずにはいられない、書かなきゃいけないって訳の分からないことになっちゃいましてね、早く寝ればいいのに書いちゃったわけなんですよ。 もう面倒じゃないですか。ただでさえ月曜日って面倒でしょ、憂鬱でしょ。土曜日、日曜日とパラダイスのような休暇が無情に流れて仕事の始まる月曜日、いっそのこと月曜日なんてなくして日曜日の次は火曜日にすればいいと何度思ったことか。そして、そうなったら今度は火曜日が憂鬱になるんだぜ、と何度思い留まったことか。 とにかく、その憂鬱な月曜日と仕事始めが重なる魔のブラックマンデー1月7日、ダブルパンチ、家に帰って電気停められたー!って落胆してるところに水でも飲んで落ち着こうと蛇口をひねったら水道まで停められてたみたいな状態ですよ。よくわからんけど。とにかく、この日が本当に嫌でしてね、メルルとか書いちゃう暴挙に出ちゃったわけなんですよ。何がメルルだ、死ね。 でもまあ、上の文章のように仕事が嫌、年末に仕事で大失敗をやらかした失敗マンだっていうのも確かに大きな要因なんですけど、それ以上に仕事に行きたくない、いや、職場に行きたくない要因ってのがあってひどく憂鬱なんですよ。 ほら、年賀状ってあるじゃないですか。正月にドコドコ届くヤツ。あの年賀状ってヤツが嫌いでしてね、子供の頃はお年玉に並ぶ正月の一大スペクタクルとして楽しみにしていた節があるんですけど、どうも大人に、いや社会人になると面倒くさくてしょうがない悪習としか感じられないんですよね。 年賀状ってあまり良い思い出ないですし、昔、このサイトで閲覧者の方に年賀状出します!と宣言しててあまりの面倒くささに4通出して力尽きたとかそういう悲劇しか思い出せないんですよ。で、今の職場でも最初の方は数人の同僚から年賀状来てたんですけど丸っきり無視してたんですよね。 全然返事出さないのも社会人としてどうかと思うんだけど、仕事始めで会ったりしても何も言わないですからね。お礼も言わない。まるでそんな年賀状など存在しなかった、郵便局のバイトが配達するの面倒で側溝に速攻で捨てたのかもよって振る舞いだったんですよ。あ、今、微妙に上手いこと言えたね。 で、そうなってくると来なくなるじゃないですか、誰もそんなゴミに年賀状送らないじゃないですか。年賀ハガキって結構高いんですよ。それにそんなゴミに自分の出したハガキで「ふるさと小包」とか当てられたら嫌でしょ、だからもう職場メンツからは来なくなってましてね、去年なんかメガネ屋とピザ屋からしか来なかった。メガネ屋のなんて「その後メガネの調子はいかがでしょう?」とか書いてやがって、そんなもんとっくに壊れて捨てたつーの。 ともかく全然来なくて清々したわ!とか思いながら過してたんですけど、なんと今年、ネズミ年である今年2008年の年賀状、とんでもないことになってた。なんかですね、職場の同僚全員で示し合わせたのか知りませんけど、なんと、同僚全員から年賀状が着やがったんですよ。初めて知った、沢山年賀状が来ると輪ゴムで止めてあるんだな。 これは新手の嫌がらせの部類に入ると思うんですけど、たぶんアイツ返事出さないから皆で出して嫌がらせしようぜ的な謀略があったんだと思います。そうじゃないなら、実は僕は肛門ガンか何かで先が長くなくて、それを知らないのは僕だけで職場の皆は知っている、あいつには優しくしようぜってことになっちゃったりしてね、マミちゃんとか泣いちゃうの。 とにかく、全員で年賀状送ってくるという暴挙に新年からあったまきましてね、一人で憤慨していたわけなんですよ。望んでないのに勝手に送ってくんな。 色々と見てみますとね、やっぱ年賀状って頭に来るんですよ。なんか家族の写真とか載せやがりましてね、「今年もよろしくお願いします」とか書いてあるんですけど、僕はそんな家族までヨロシクされる筋合いはないですからね。おまけに下のほうに全員の名前が書いてあるの。祐樹(5歳)美紀(2歳)とかね、その横に手書きで「やっと一人で立てるようになりました」とか書いてあるとオメーは正月から何をトチ狂ってるんだって気分になるってなもんですよ。そんなお前の家庭のマル特情報なんか知りたくねーよ、頭の中に正月から餅を喉に詰まらせて旅立ったお爺ちゃんでも詰まってんじゃねえか。 「お正月いかがお過ごしですか?」とか書いてるのまでありましてね。そんなの知ってどうするんだよ、知ってどうするんだよ、本気で知りたいのかと、お前本気で正月のpato情報が知りたいのかと、あのな、お前の年賀状受け取った日、「全裸で日本舞踊」っていうエキサイティングなエロ動画をダウンロードしてウィルスに感染して大変なことになっとったわ。Windowsが立ち上がらなくなってな、え、満足か、コレで満足か。 まあ、こんなのはまだ良いほうで、酷いのになると干支の絵とか描いてあんの、今年ならネズミなんですけど、なんかファッショナブルにデザインしてね、正月からとんだアーティスト気取りですよ。中にはネズミってことでミッキーマウスとか書いてる土人がいるの。おいおい、正月から版権大丈夫かよってこっちが心配になる。 で、干支の絵までなら、ネズミの絵までなら正月ですし僕も耐え忍びますよ。やっぱ正月ってウカレポンチになりますからね、悪乗りして年賀状書いちゃう暴挙も許す、ネズミの絵も描いて良い、でもねその横のメッセージに 「今年もよろしくおねがいしまちゅ〜」 とか書いてあんの。ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、むかつくうううううううううううううううううううう、正月からムカつくうううううう。もう発狂するかと思ったね。意味不明に革ベルト持って暴れるくらいムカついちゃってね、この差出人は僕が猟銃の許可とか持ってなかったのを感謝すべきだってもんですよ。 で、中には裏面だけじゃ飽き足らず表面、なんか差出人の住所とか書くところにまで「正月飲みすぎチューい!」とか書いてるエテ公までいる始末。もう日本の行く末が心配だよ。アメリカだったらこんなの撃ち殺されても文句言えないよ。 とにかくまあ、同僚全員に返事出さないのってマジヤバイじゃないですか、社会的体裁とかあるんですけど、それ以上に村八分とかにされたら繊細な僕は傷つくじゃないですか。で、なんとか返事を出そうと思ったんですけど、わざわざ年賀状買ってきて書くのって面倒じゃないですか、ウィルスに感染したパソコンも直さないといけないしそんな暇ないですよ。 でもね、今は文明の利器ってやつがあるじゃないですか。そ、このパソコンですよ。このパソコン使って年賀メールってヤツを送ってやればいい、これならば面倒でもないし年賀状を出したという既成事実だけが残る、もう最高だよな、インターネット、全然関係ないのにヤマダ電機に電話してパソコン直した甲斐があったよ。ダウンロードしたファイルの名前まで言わなくていいですって女の店員さんに言われた甲斐があったよ。 そんなこんなで、先ほどシコシコと年賀メールを送信、日付にして1月6日、仕事始めの一日前、どう好意的に解釈しても駆け込み年賀メールです。とにかくこれで一安心だぜー、こりゃ新年から大快挙だな、って思ったんですけど、なんか一通出し忘れていたんですよね。 それがアパートの集合郵便ポストじゃなくて、僕の部屋のポストにダイレクトで届いていた年賀状だったんですけど、同僚の野上君がくれた年賀状に返事を出すの忘れていたんですよね。 でまあ、見ると野上君の年賀状には「飛翔」とか安いシャブでもやってんじゃねえかってことがデカデカと書いてあったんですけど、こいつにも返事出さないといけなかったんですよね。 でまあ、メールソフトを立ち上げて野上君のアドレスは年賀状に書いてありましたからそれを入力して「今年もよろしくお願いします」みたいなみんなに送った無難なメッセージをコピペしてポンポンッと送ってやった訳ですよ。もう60人くらいにやった作業ですから手馴れたもんですよ。 そしたらアンタ、上の文面マルっすよ、マル。妖精に出会って仕事の鬼と戦うファンタジーマルっすよ。更新に使うからコピペしなきゃなって入れておいたのがそのままペタアアアって貼られてやがるんですよ。正月から頭おかしい。 前にもコピペミスで女子大生にとんでもないメール送ったことあるんですけど、これはその比じゃねーでゲスよ。落ち着いてもう一度最初から読んでごらんなさい、クソ長いけどこれが職場の同僚から突如送られてきたと思いを馳せて読んで御覧なさい。色々ととんでもないことになるよ。野上君だって「飛翔」なんて書いて年賀状送ったらとんでもない方向に飛翔しちゃったなーって思うはずですよ。 とにかく、そんな事情もあってか、初春から思いっきり仕事に行きたくないわけなんですが、とにかく、出勤して挨拶して野上君に「あけましておめでとう、メルル」とか言われたらまた働かなくて良い世界に逃避しようかと思います。 こんな僕ですが、2008年もNumeri共々なにとぞよろしくお願いしまちゅ〜。 12/31 ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008 ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008 放送内容 メールテーマ 聞き方 http://spill.jp/ 年末年始のテレビ番組を見ながらマッタリとカックラキン大放送。あと、昨年同様親父がうちにやってくるという不穏な噂を聞きつけたのでその場合は放送中止となります。 12/29 ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008 ヤンバルクイナのおじちゃんはすげえかっこよかった。 年末年始といいますと普段はあまり会わない人と会う機会ができるものです。遠くの親戚だったり古い友人だったり、とにかく懐かしい人だったり、どこか忙しない世間の流れにあって逆流する時間の流れがある、それが年末年始なのかもしれません。 「お、高志君大きくなったな!」 「おじちゃんあけましておめでとう!」 「なんだあ、お年玉目当てか?」 「うん!」 こんな光景が見られる年末年始、僕らが大切にするべきものなのかもしれません。未来へと行き急いでいる感じのする昨今、時間を巻き戻す年末年始こそが必要なのです。 僕が子供の頃、年末年始になると必ず我が家にやってくるおじさんがいました。親父の友人だったか知り合いだったかって感じの人で、我が家に来るたびに自分で撮ったのかヤンバルクイナの写真を見せてくれる人でした。僕はヤンバルクイナのおじさんと呼んでいたのですが、その人がすげえ大人でかっこよかった。 クソガキだった僕から見たら、落ち着いた感じのするヤンバルクイナのおじさんはすげえアダルティーで渋かった。気が狂ったっていうか気が触れた親父しかいなかったものですから、とにかく落ち着き払った大人の男性っていうのがとにかく新鮮だった。 僕も大人になったらヤンバルクイナのおじさんのように渋い大人になりたい、そう誓った8歳の時の年末年始、ヤンバルクイナのおじさんの年齢は31歳だった。 さて、あの時のヤンバルクイナのおじさんと同じ31歳となったこの僕、ここ最近は何をしていたかと言いますと、まあ、クリスマスイブにお届けした「ぬめぱとクリスマスレィディオ」ですかね。 聖夜にお送りする年に一度のノンストップ泥酔ラジオ、飲みすぎてヘベレケ、大声で歌ったりしたものですから後日アパートの管理会社の人に怒られました。それあいいんですけど、これだけでも31歳にもなってなにやってんだって思うんですけど事態はもっと深刻で、最後まで放送聞いてくださっていた方なら分かると思いますけど、途方もない事態が巻き起こってしまったのです。 泥酔しすぎてまともにトークできない僕、それでもラジオは続けるのですが、お酒のせいなのか何のか、ものすごくお腹痛くなって下痢しちゃったんですよね。ラジオ放送中といえども平気でトイレに行く僕ですからそのこと自体は別にいいんですけど、問題はその後です。 下痢が一通り治まると今度はオナラ連発タイムに突入してしまいましてね、で、そのオナラサウンドをネットラジオに乗せて世界中に配信するという行為にいたくハマってしまったんですよ。で、ブーとかピーとか音をマイクに拾わせて悦に入っていたんですけど、そこでラジオを聴いていた人からある指摘が、 「おい、音がどんどん水っぽくなってるぞ、危ない」 しかし、そんな忠告も泥酔している僕には届きません。調子にのってさらにヒートアップしてオナラを連発していると ニュル! っと禍々しい何かがゴールデンゲートを通過。僕の大好きだったテレビ番組でアメリカ横断ウルトラクイズってのがあって、ハワイだったかグアムだったかに向かう機内の中でクイズを解かせるんですよね。で、それに合格すれば上陸できるし、不合格だったら東京にトンボ帰りって過酷なクイズがあったんですよ。で、その合否を判定するのに飛行機のタラップのとこにゲートがあるんです。合格ならピンポンピンポーンとかいって南国美女が花輪かけてくれるの。いやー、その合格者みたいな勢いで禍々しき何かが通過してきたんですよ。 いやね、イブになにやってんだとか2000人近くの人が聞いてる前で何やってるんだって言いたくなりますけど、それ以前に31歳にもなってなにやってるんだって言うべきでしょ。ホント、色々な意味で終わってる。終わってるとしか思えない。 僕も、イブの夜に酒を飲みつつ軽やかにラジオって思ってたんですけど、まさかそれが人間としての尊厳を問われる事態になろうとは夢にも思わないですよ。誰にでもできる軽いマッサージだからって聞かされて働き始めた孝子が、思いっきり性風俗店で働くはめになった、みたいなもんですよ、よくわからんけど。 ということで、ヤンバルクイナのおじさんみたいなアダルトダンディーには程遠いですけど、そんな人間失格31歳がお送りする毎年恒例の年越しラジオの告知。今年のテーマは「時間を巻き戻す」です。 ぬめぱと年越しレィディオ2007-2008 放送日時 12/31 18:45
です。年末年始お暇な方は是非是非お聞きください。今度はウンコ漏らしません。 12/24 Numerry Christmas さてさて、異様にむさ苦しいトップページですが、クリスマスを彩る男臭い画像はまだまだ募集中!ただし、ネットで拾ってきたおもしろ画像を送ってくるのはやめてください。応募作品の9割は拾ってきた画像でゲンナリしました。まだ全部貼り切れてないのでちょくちょく貼っていきます。応募はこちら(終了しました) そしてそして「ぬめぱとクリスマスレィディオ2007」の告知。 ぬめぱとクリスマスレィディオ2007-やれんのか!- 放送内容 もちろん女子供はすっこんでろで泥酔しながら放送いたします。いつもは控えめにしているお酒をリミットなしで摂取のカックラキン大放送!お一人で寂しい方はぜひぜひお聞きください! 12/18 Numeri男祭りのお知らせ さてさて、今年もクリスマスが近づき、ウチの近所のコンビニでは毎年恒例なんですけど、店員がサンタの衣装で接客するという大暴挙に乗り出しました。バタフライナイフでも忍ばせてそうなオタク店員やら、どう見てもヤンキーあがりとしか思えない店員がサンタ衣装に身を包んでオデンとかかき混ぜてるのを見ますと、蛾のような色彩をしたファッションのオバサンが愛犬に服を着させてホクホクしてるのを見たような、そんななんとも言えないやるせなさが湧き上がってきます。 コンビニ店の暴虐はそれだけに止まらず、前々から死のそうな老婆がパートとして働いていて危なっかしさを感じると同時に、こんなお年寄りが深夜まで働かないといけない日本社会は狂ってる、と歪んだ経済大国に憤りを感じていたのですけど、なんと、その老婆にすらサンタ衣装を着せるというコンビニ店の迷走ぶり。しかも赤じゃなくて白を基調としたサンタ衣装なもんだから恐ろしい。まるで死に装束じゃないか。 もうね、クリスマスは人を狂わせるよ。狂わせる。僕はどんなにクリスマスが近づこうとも、どんなに街が華やかなイルミネーションに包まれようとも、どんなに山下達郎が出てこようとも老婆に死に装束を着せようとは思わない。決して来るべきクリスマスにウカレポンチになったりしない。 でもですね、世の中ってのは往々にしてウカレポンチでしてね、クリスマスともなると大抵が浮かれるんですよ。カップルが浮かれて「お前の鼻はなぜ赤い」とか唄いながら「あれー、ミユミユのここも赤いぞー、うりうり」「やだぁー、もう変なところばっかり!」とベッドで大ハッスルするのはモチロンで、僕がミキサー大帝ならば抜け殻になるまでミキサーを回すのですが、それ以外でも許してはならないウカレポンチが存在するのです。 例えば、彼氏のいない女の子が4人いたとしましょう。4人は仲良しで、今年も寂しいねなんて言いながらクリスマスを迎えます。クリスマスイブは女4人で集まってパーティとかしちゃうわけです。 「あーあ、結局今年も彼氏できなかったな」 「ホント、女ばかりで寂しいクリスマスイブ」 「どっかにいい男落ちてないかなー」 「でもわたし、まだ彼氏とかいいから、皆といるほうが楽しいし」 「またまたー、芳江はいい子ちゃんぶっちゃって」 「ホント、こんないい女の私たちに彼氏がいないなんておかしいよ」 「なにいってんの!朝子はモテるくせに理想が高すぎるんじゃん」 「そうそう理想が高すぎるのよ」 「なによ、満子だってワガママすぎて男がついてこれないだけじゃない」 「あー、ひっどーい」 「その点、芳江は彼氏できないのが不思議だよねー、かわいいし料理上手だし性格もいいし満子とは大違い」 「そんな、私は彼氏とかは別にまだいいし……」 「なにいってんの!私知ってるんだから、最近芳江が高志君といい感じなの!」 「えー、高志君ってあの爽やかボーイ?」 「違うよ!朝子何いってんの!そんなんじゃないってば!」 「芳江、顔真っ赤だよ」 「あれあれー、これはもう高志君呼んじゃうしかないんじゃないかなー」 「いいねー、呼んじゃおうよ」 「ダメだって!迷惑だよ!クリスマスイブに!」 「おー、メアド発見!芳江っぽく「寂しいから今すぐ来て!」って送っちゃおう!」 「ダメ!やめて!携帯返して!」 「あっ!すぐに返信きたよー、高志君も暇なんだねー」 こうして訳もわからぬうちに女の子だけのパーティーに呼ばれることとなった高志。女の子の家なんて初めてだよ、とドキドキしながらインターフォンを鳴らします。 「おーきたねー!」 「ひゅーひゅー!」 「芳江がどうしても高志君に会いたいっていうからさー」 「そんな!アタシは別に!」 「まあまあ!二人とも飲んで飲んで!」 借りてきた猫のように大人しくしている高志を尻目に朝子たちは酒池肉林の宴を繰り広げる。そのうち酔いつぶれて寝てしまい、酒の空缶が転がり焦土と化した部屋で高志と芳江が二人っきりになってしまう。 「ごめんね、朝子が急に高志君を呼ぶって言うから」 「うん、でも楽しかったよ」 「クリスマスイブなのに……高志君も忙しかったでしょ?」 「一人で暇してたよ。パソコンの前でキチガイのネットラジオ聞いたりしてね、ははははは」 「そうなんだ」 妙にお互いを意識してしまう二人、静寂だけが二人を包んだかに思えたが、朝子のいびきが異様にうるさい。芳江は決意する、この気持ちを高志君に伝えよう、今しかチャンスはない、勇気を出して伝えるんだ。心臓の鼓動が高鳴り口から飛び出しそうな感覚を覚える。 「あの……!」 「あの……!」 二人同時だった。二人とも同時にお互いに向き直り、何かを決意したかのように話を切り出したのだった。 「あ、どうぞ」 「ううん、高志君からどうぞ」 「いやいやどうぞどうぞ」 先ほどまでの緊張が嘘のように場の空気が弛緩するのを感じた。なんだかお互いにバツが悪い思いをしながらドギマギしてるいるのが無性におかしかった。 「クスクス……」 「な、なにかおかしかったかな?」 「だって、高志君いっつもそうなんだもん。初めて会った時もほら」 「ああ、大学の事務室で」 「そう、履修届けを出すのに、私と高志君が一緒のタイミングで、お互いに譲り合ったじゃない」 「そうだったねえ」 「わたし、田舎から出てきたばかりで東京の大学って怖かったから、こんなに腰の低い人がいるんだーって安心したんだよ」 「それって褒めてるのかな?」 「そうそう、それに社会学のゲシュタポ教授が怒った時あったじゃない」 いつも無口な芳江が饒舌に口を開く。きっとサンタさんが一握りの勇気をプレゼントしてくれたんだ。 「あ、みてみて、雪!」 窓の外を見ると静かに雪が舞い降りてきている。大喜びでベランダへと出る高志と芳江、雪を背景に都会の街明かりがクリスマスイルミネーションのように瞬いていた。 「ホワイトクリスマスだね、綺麗……」 「うん、本当に綺麗だ」 しばらく雪を眺める二人、また静寂が訪れた。音もなく降り続ける粉雪をただただジッと眺めていた。 「小さい頃、サンタさんにスーパーファミコンをお願いしたんだ。でも、その年のクリスマスプレゼントは百科事典だった」 「えー、そっちの方が高価じゃない?」 「うん、それ以来、サンタはいない、サンタは親父だ、サンタにプレゼントのお願いなんかしないって決めてた」 「高志は頑固だから(笑)」 「でも、今はサンタにお願いしたい。十数年ぶりにサンタにお願いしたい気分なんだ」 「へえー、何をお願いしたいの?」 高志は黙って雪を見つめると、何かを決意したように切り出した。 「勇気をくださいってね」 「勇気?」 「うん、自分の思いを伝える勇気。ほんの一握りの勇気でいいんだ」 「…………」 吐く息が白くなるほどの寒さなのに、芳江の顔はカーッと赤くなった。 「芳江ちゃん、初めて会ったときからずっと好きだったんだ」 芳江は手のひらで降り積もる雪を受け取るとそれをギュッと握り締めた。 「この一粒の雪ほどでいい。だから私にも勇気をください。高志君、ずっとあなたのことが好きでした」 「芳江ちゃん……」 「高志君……」 「メリークリスマス」 薄っすらと地面に積もっていた雪、部屋からの明かりに照らされて二人の影を映し出す、その2つの影が重なる。朝子のイビキがクリスマスキャロルのように鳴り響き、まるで二人を祝福しているかのようだった。 クリスマスは全ての人に優しい。クリスマスにほんの一握りの勇気を。 おわり っていうね、こういうウカレポンチというかウカレチンポな物語があらゆるところで展開されてるわけですよ。なーにが「一握りの勇気を」だ。言ってて恥ずかしくないのか。ホントね、僕がウナギの養殖業者だったら間違いなくイブにウナギを撒きまくるよ。ピチピチんぽ活きのいいウナギをクリスマスツリーとかにかけまくるよ。それくらいね、昨今のウカレポンチなクリスマスに憤りを覚えてる。 ということで、今年も毎年恒例の「ぬめぱとクリスマスレィディオ」と「Numeri男祭り」をクリスマスイブに決行致します。で、今日は男祭りの告知です。 これはまあ、皆様から画像を送っていただいて、それをイブの日にNumeriトップに貼りまくるという企画なのですが、是非ともウカレポンチな女子供がページを開いた瞬間に悲鳴を上げるような強烈な画像を送っていただきたい。詳しくは募集要項を見て頂くとして、とにかく画像を送って欲しい。 昨年は男性のネットアイドル風プロマイドがツボでして、約80枚ほどのむさくるしい画像が所狭しとNumeriトップに貼られておりました。ちなみに、あまりの熱気にNumeriサーバーがダウンするという前代未聞の異常事態まで勃発しました。今年も是非ともNumeriサーバーを落として欲しい。ということで募集要項。 Numeri男祭り2007 募集要項 開催日 あて先 注意事項 ということでお待ちしております。クリスマスは全ての人に優しい。クリスマスにほんの一握りの勇気を。勇気を出して画像を送ろう。 12/13 甘き死よ来たれ いやー、車盗まれましてね。 とまあ、軽やかに季節の挨拶の如く導入してますけど事態は深刻でしてね、なにせ車ですよ、車、キティちゃんのシャーペンを盗まれるのとは訳が違います。あまりの動揺に取り急ぎ1行更新だけして皆様と悲しみを分ち合おうとしたのが一つ前の日記なんですけど、その、あれですよ、いくらなんでも一行日記はないと思うんですよ、一行日記は。そういうのって自分で書きながら頭腐ってるとしか思えない。もっとどういう状況で盗まれたのか、どうして盗まれたのか、それは社会のせいだ!みたいな文章を切々と書かないといけないと思うんですよ。1行日記、ダメ!ゼッタイ! でもまあ、どこにでもいると思うんですけど、妙に不幸自慢するパッパラパーな女性とかいるじゃないですか。ウチの職場にもいかに男に騙されて象牙の印鑑を買わされたとかラッセンの絵とかそういった類の不幸話を切々と語る女性がいるんですけど、そういうのって結構、可哀想な自分を見て!そして慰めて!的な素養をふんだんに含んだ感じで一行日記を更新した僕の気持ちも汲み取って欲しい。 そういった26歳OL的なフィーリングで「コンビニで車盗まれた」とサイト上で力強く一行カミングアウト、それを見て心配した閲覧者の方々から「大丈夫ですか?」「元気出してください」「僕のポルシェあげます!」といったメールがドコドコ来ることを期待していたんですよ。うん、期待してなかったって言ったら嘘になるからね。マジ期待していた。 でまあ数日後に、よしよし、今日はみんなに慰められちゃうぞー、メールボックスがパンクしてたらどうしよう!もしかしたら体で慰めてあげるとか書いてる女の子がいたりして、むふふ、と喜び勇んでメールチェックをしたんですよ。そしたらアンタ。 「ざまあみろ!」 「盗人ナイス!」 「patoしね!」 「pato生まれてくるな!」 「はやく本送れ!」 といった正視に耐えないメールがドコドコやってきましてね。僕の心の非常にデリケートな部分を揺さぶったんですよ。生まれてくるな!ってもう生まれてしまって31年も生きてしまってますがな。 ホント、皆さんが何を考えてるのか分からない。どうしてそこまで非道な鬼になれてしまうのか、どうしてそんな悪辣な言葉を吐けるのか、人の心に巣食う修羅を見た気分にすらなってきます。アナタたちは根本的に間違っている。なんでもっとこう犯罪被害者をいたわれないのか。 アメリカのドラマとか映画とか観てますと、犯人が逃げる時とか犯人を追いかける刑事みたいな人とか、よく道端に停めてある車を盗むじゃないですか。それはそれは鮮やかに、中国人窃盗団も真っ青のお手並みで盗みますよね。まあ、物語の進行上必要なんでしょうけど、以前は「よしいったれ!」とエキサイトして見ていた僕も、いまやそのシーンを見るだけで腹が立ちますからね。お前らはそうやってタクシー気分でホイホイと人の車盗むけど、もっと盗まれた人の気持ちを考えろ!って言いたくなっちゃいますからね。ホント、盗まれた立場になって初めて気持ちがわかったよ。 世の中ってのは往々にしてこういった構図になっているもので、人は人が痛んでいてもその心は痛まない。なぜなら自分は痛くないからだ。自分が痛む段になって初めてその痛みを知る。人の痛みを知ろうとしないのに、前述の同僚女性のように自分の痛みは他人に死って欲しい、人間とはかくも矛盾を含んだ面白い生物なのです。 アメリカのジャーナリストであり広島市の名誉市民でもあるノーマン・カズンズは「人間の選択」の中でこのような言葉を述べています。 「人間の傷や痛みに無頓着な態度は、教育失敗のこの上なく明白なしるしである。それは、また自由社会の終わりの始まりである」 傷や痛みを知らないということは言うまでもなく他者へのいたわりを失うことを示しています。自由社会とは完全なるフリーダムではなく、人が他者をいたわることを前提に絶妙なバランスで成り立っている。他者の傷や痛みを知らずに好き勝手、多くの人がそれをやり始めると自由社会は崩壊してしまうのです。 勝ち組だ負け組みだともてはやし、未曾有の平成大不況を通り抜けた日本社会にアメリカ式のドライなビジネス哲学が導入されました。それに伴ってなんだか人の痛みに無頓着な方向に傾いている感覚すら感じ、日本特有の「情」という言葉が前世紀の遺物に成り果てた気さえします。あらゆるニュース、あらゆる現象、そこに確実にいるであろう痛んでいる人の痛みが聞こえてこないのです。このまま日本という自由社会は終焉に向かっていくのではないか、漠然とそう思うことがあるのです。 とにかく、皆さんが「ざまあみろ」とか口汚い罵りを口にするのは別に構わず、僕はまあ生粋のマゾ気質ですから、そのような罵倒を頂く度に「アヒィ!」などと快楽に身悶えるのですが、もっと他人をいたわってもいいのではないか、顔の見えないインターネットだからこそ、バーチャルの世界だからこそ、希薄な他者という存在をいたわる必要があるんじゃないか。過激で攻撃的なインターネットの時代は終わった、これからは優しいインターネットの時代だよ、ってことで今日は事件の顛末を皆さんにお話したいと思います。そうすることで少しは僕の痛みを分かってもらえると思うから。 ------------------------------------ 「本当にあの日の僕はどうかしていた……」 今回、車両窃盗という未曾有の凶悪犯罪、その被害に遭ったP氏は我々の取材に対し深刻な面持ちで重い口を開き、当時の状況を語り始めた。 「犯人に人の心があるなら、少しでも悪いと思うなら返して欲しい……僕の車を……」 事件当時の心情が蘇ったのか、P氏は俯きながら弱々しく言い放った。頬を伝い膝の上に落ちる涙が記者の目からも確認できた。 「あの日は寝坊したんです。大切な仕事に寝坊したんです。今思うとそれが終わりの始まりでした」 P氏はまるで心の中に溜めていたモヤを吐き出すかのように、忘れたい過去を搾り出すかのようにその日の状況を語り始めた。 P氏は今年31歳、田舎町に生まれ、普通に進学して普通に就職をした。就職先は生まれ故郷から遠く離れた町、同じように田舎だった。インターネットなどで自身の文章を発表するのが趣味のようで、暇を見つけては文章を書く、そんな日々を繰り返していたようだ。 職場での評価は低く、我々の取材によっても「仕事をしない」「セクハラ」「死んで欲しい」「飲み会には誘わない」などの辛辣な意見が多く聞かれた。そんな彼が寝坊し、仕事に遅刻しそうになったのが今回の事件の発端のようだ。 「いやー2時間くらい寝坊したら諦めもつくんですけど、5分寝坊って結構微妙じゃないっすか、急いだら全然取り戻せるじゃないっすか」 悪びれずこう発言するP氏、その後も楽しそうに状況を語り続ける。普段は無口だが話し始めると止まらないタイプのようだ。職場で嫌われているというのも頷ける。 焦ったP氏は急いで身支度を整え、車を走らせて職場へと向かう。職場までの通勤時間は1時間。いつもより速度を出して5分の寝坊を挽回しようと必死だったようだ。この時は自慢の愛車も元気だった、まるで跳ね馬のようだったとP氏は語る。 急いだ甲斐もあって彼は規定の時間に職場へと到着する。朝の挨拶と共に元気に職場へと入る、そこで彼は衝撃の光景を目撃する。 「いやね、何か大切な行事があったらしくて、同僚全員がギッシリスーツ着て偉い人の話を聞いてるんですよ。僕は偉い人が来るってのすっかり忘れちゃってましてね、思いっきりジャージ姿で普段の仕事スタイルですよ、笑っちゃうでしょ」 彼の表情からは反省の色は読み取れない。自分で話をしながらドンドン盛り上がってくるタイプのようで、笑いながら話し続ける。記者はそんな彼を心底気持ち悪いと思った。 「上司にもう帰っていいよとか冷酷に言われちゃってね、そうなると困るじゃないですか、さすがの僕も困るじゃないですか」 確かに、上司にそんなセリフを言われたら社会人として困り果ててしまう。何が何でも謝罪してその場を凌ぐしかないだろう。上司の機嫌を損なうことだけはしてはいけない、帰るわけにはいかないと石にかじりついてでも仕事をするべきだ。 「だって、こんなに早く帰ってもすることないじゃないですか」 ケタケタと笑うP氏、記者はそんな彼を心底クズだと思った。 「とにかく、思いもがけず仕事が早く終わっちゃいましてね、しょうがないから車を走らせてパチンコ屋に行ったんですよ」 クズのフルコース、仕事をサボってパチンコ三昧、ここまでクズだと清々しさすら感じてしまう。彼はそのままフラリとパチンコ屋に立ち寄り、最近は色々なパチンコ台があるんだなー、アニメオタをターゲットにした台やアイドルオタクをターゲットにした台などなど様々だ、そんな中にあって一体どの層を狙ったのかサッパリ分からないCRアン・ルイスという台を打ったそうだ。 「CRアン・ルイス打ってたらパスタ食いたくなったんですよ、パスタ」 あまりに突拍子のない発言に記者から声が漏れる。 「パスタですか……?」 「そういうことないですか?僕はCRアン・ルイスを打っていたら無性にパスタ食べたくなる。普段は全然食べないんですけどね」 でまあ、いい加減記者とP氏って語り口に疲れてきたので普通に書かせてもらいますけど、何でか知らないけど無性にパスタを食べたくなったんですよね。 でも、パスタってアレじゃないですか、オシャレの必須アイテムじゃないですか。パスタを出す店ってオシャレのコロシアムみたいな状態になってるでしょ、とてもじゃないが僕のようながジャージ姿の野武士一人で食べにいっちゃったりしたら絶妙な営業妨害になると思ったんですよ。 で、誰かと食べに行くべきだ、それも女がいい、と色々な思案を巡らせた結果、そうだ!とびっきりのキチガイ女とパスタを食べに行こう!と決断してしまったんです。 なんでそんな考えに至ったのか分かりませんが、多分ムシャクシャしてたんでしょうね、パチンコ台の中で咆哮するアン・ルイスを尻目にとにかくキチガイとパスタを食べたいと渇望してしまったんです。 そうなるとキチガイ女を調達しないといけないんですけど、それにはうってつけの場所がありましてね、キチガイ女が巣食う禁断の花園と評判の掲示板があったんですよ。ここはツウの間では評判の場所で、とにかく途方もないクリーチャーやキチガイが量産されると大評判、アン・ルイスにシャブ打ちまくったみたいな女がナタ持って待ち合わせ場所に来た、なんてクレイジーな逸話が残るくらいのとんでもない場所なんですよ。 で、早速携帯電話でアクセス。まあ、するといるわいるわ、とんでもない女性どもが「10万で私の体を買って!」「ラッセンの絵を買って!」みたいなとんでもないスパイシーな書き込みをしてるんですよ。結構活発でそういった女性がモサモサといましてね、まるで戦国武将のような群雄割拠の様相を呈しているのですが、そんな中にキラリと光る書き込みが。 「ひまー、ごはん食べにいこー」 ぐおおおおおお、これだ、これにいくしかない!とんでもないクリーチャーを10万とかそんな場合じゃないよ、なんとパスタを食べに行きたいという僕の欲求を完璧に満たす書き込みじゃないですか。こいつを逃してはならん、と早速メールを送ります。 「パスタ食いに行こうぜ!」 イメージとしてはドラゴンボールを掴もうぜ!みたいなノリで送信しました。するとすぐに返事が返ってきて、 「いいよー、奢ってねー」 みたいな感じに。コイツはトントン拍子過ぎて怖いですな!あわよくばパスタからおセックスもあり得るかもしれん、と半ば猪突猛進気味に車を走らせて待ち合わせ場所に向かったんです。もうCRアン・ルイスなんて打ってる場合じゃねえよ。 なぜか相手の女性が指定した待ち合わせ場所がコインランドリーなんですけど、普通待ち合わせにコインランドリーはないだろ、ちょっと頭おかしい子なのかな?とか思うじゃないですか、でもそれってキチガイとパスタ食いたいっていう僕の欲求に近づいてるわけですから結構歓迎すべき事象だったんですよ。 「ついたよ!」 みたいなメールが来てキョロキョロと辺りを見回す、といってもコインランドリーですからでっかい洗濯機とどっかのオッサンが忘れたパンツくらいしか見当たらないんですけど、ふと入り口付近に女性が立ってるんですよね。 ここですごいカワイイ娘とかそういった高ポテンシャルな娘が来ると僕としてもネタになるしカワイイしで一粒で二度美味しいんですが、世の中ってそう上手くはできてないですよね。 ウチの職場は旧社屋と新社屋に分かれてまして、3階にそれらの社屋を繋ぐ連絡通路みたいなのがあるんですよ。で、もう2年位前からずっと気になってたんですけど、なぜか通路の真ん中にモップが置いてあるんですよね。なんでこんな場所にモップが?って思いつつベテラン社員の人に聞いてみたら、なんか深刻な顔になっちゃいましてね、俺も別にこういうの信じるわけじゃないんだけどと前置して話してくれたんです。実は、あの通路、出るんだよ、とか言い出しまして、なんでも雨が降るとあの通路の屋根のところにボヤーッと女の顔みたいなシミが浮かび上がるみたいなんんですよ。で、それがオフィスラブで失恋した女子社員の怨霊だとか言われてまして、僕もあまりの怖さにON!RYO!と微妙にラップ調に唄って誤魔化すことしかできなかったんですけど、とにかく気味が悪いっていうんで定期的にモップで消してるらしいんですよ。でもまあ、そんなのって結構見間違えとか多いじゃないですか。まさか、そんなわけあるはずない、って実際に注意して見ていたら、本当に女の顔みたいなシミが通路の屋根のところに浮かび上がってるんですよ。もう震えたね、心底震えた。 と、とにかく、やってきた女がそのシミみたいな顔してたんですよ。屋根に出る怨霊のシミみたいな顔してやがんの。危うくモップで消しそうになった。 まあ僕は心底落胆してるわけなんですけど、そういうのが相手に伝わるとなんか悪い気がするじゃないですか、で、文字通りカラ元気なんですけど 元気いっぱいに 「さあ!パスタ食いに行こうぜ!」 みたいなノリで言ったんです。しかし、シミ、じゃないや彼女の反応は冷ややかで 「パスタ…ですか…」 みたいな、お前、本当に怨霊なんじゃないかって消え入りそうなトーンなんですよ。でももう僕も元気キャラでいっちゃってますから 「そうだよ!何か行きたい店とかある!?パスタ!」 みたいな、いつの間にこんなウザったいキャラになったんだろうって自分でも不思議に思うテンションで切り返すと、 「どこでもいいです…ただ、大切な相談があるから静かな店がいいかな…」 とか、怨霊が妙に気になること言うんですよ。まあ、そんなこと気にしたって始まりませんし、とにかくパスタ食いたいって勢いで車走らせてパスタ屋にいったんです。 もう何頼んだか忘れたんですけど、とにかく二人でパスタ頼みましてね、ものすごい沈黙が襲ってきて何か喋らないといけないって妙に気を使っちゃって、いやーパスタって最高!みたいな訳の分からない会話を切り出したんですけど、すると怨霊が言うわけですよ。 「50万円貸してくれませんか?」 いやーぶっ飛んだね、まさにぶっ飛んだ。まさかパスタ食いにいって50万貸してて言われるとは思わなかった。あまりの出来事に僕も動揺してしまい、 「ご、50万!?」 とか素っ頓狂な声出してテーブルの上に置かれたメニューをウチワ代わりにすることしかできなかった。それでも聞いたからにはどういう事情があるのか掘り進めていかないといけないので、 「50万円も何に使うの?」 と聞くと、 「私、失明寸前なんです。目の病気で……」 とかとんでもないこと言うじゃないですか。なんかパスタ屋とかいうと語感的にもポップな感じがするじゃない。なんかウキウキみたいな。なのに店内のこのテーブルだけ大好きなおじいちゃんが死んだ時のお通夜みたいな深刻さになっとるんですよ。 「もう今もほとんど見えなくて……1週間以内に手術しないと完全に失明するんです……」 こりゃとんでもない暗黒ゾーンに踏み込んでしまったなーって思いつつ、それでも会話を進めます。 「1週間って!なんでそこまで放置してたの!」 ここにきてもまだ元気キャラを止めない僕って結構すごい、と思うんですけど、彼女はもう演技派女優も真っ青な感じで言うんです。 「放置していたわけじゃありません。貯めてたんです。手術代を。手術代の50万円をやっと貯めて喜んでいたんです。これで目が治るって、でも……」 「でも?」 「その手術代が入ったカバンを盗まれたんです。手術代だけじゃなく携帯電話や家の鍵まで盗まれて私どうしたら……!」 あのね、アンタ、さっきまで僕と携帯電話でメールしてたじゃない、おもっくそ携帯電話使ってたじゃない、って思うんですけどとても言い出せる雰囲気ではないので黙ってグラスに注がれた水を飲み干します。 「お願いします!50万円貸してください!絶対に返しますから!」 とか懇願されるんですけど、思いっきり嘘8000じゃないですか、絶対に騙されるじゃないですか。だって携帯電話の件もそうですけど、失明寸前で 目が見えないって自分で言ってたのに、さっきメニュー見ながら思いっきり「シェフの気まぐれ秋風パスタ」注文してましたからね。っていうかそもそも50万円も持ってない。 「50万円もないから無理だよ、5千円だって厳しいし」 まあ、CRアン・ルイスにやられましたからね、そんな金ありませんよ。で、ピシャリと断わったんですけど、彼女も諦めない。 「じゃあ、あの車売って50万円作ってください!」 とか、とんでもないこと言い出しやがるんですよ。もうこの時には注文したパスタが運ばれてきてたんですけど、食ってたパスタ噴出しそうになったからね。なんでそこまで考えが飛躍するんだ。ホント、望みどおりすげえキチガイとパスタ食ってる、僕、キチガイとパスタ食ってるよ! 「いや、車がないと仕事にもいけないし」 と絶妙に断わるんですけど 「私が失明してもいいんですか!」 とか、ぶっちゃけると、本気の本気でぶっちゃけると僕が失明するわけではないですから「いい」という答えしかないんですけど、それを言ったら人間お終いじゃないですか。色々と終わってるじゃないですか。 「そりゃあ失明しない方がいいと思うけど」 「じゃあ50万」 こんな感じで物凄い不毛なやり取りを1時間ですよ。とっくの昔にパスタなんか食い終わってましてね、なのに帰ろうとか言い出せない重苦しい雰囲気。もうどうしていいのか分からないんですけど、そうすると怨霊が言い出すんです。 「私だって借りたくないよ……でも……でも……」 とか泣き出すじゃない。傍目にはなんか僕がDVかなんかで泣かせてるみたいじゃないですか。 「カバンさえ盗まれなかったら私だってこんなこと言わないよ」 とか泣くんですけど、「でも盗んだのは僕じゃないからねえ」と言いたいんですけど言ったら結構人間として終わってるじゃないですか。っていうか、彼女明らかに目が見えていて、50万円盗まれたってのも壮大なるペテンなんでしょうけど、それでも聞いてみるじゃないですか。 「だいたい、なんで50万も入ったカバンを盗まれたの?」 すると彼女は一瞬困った表情を見せた後に言いました。 「身長2mくらいの外国人風の男にひったくられた。本当に怖かった」 僕水飲んでたんですけどブホッってなりましたからね。2mはねーよ、とか、外国人風て、とか色々言いたいことはあるんですけど、その前に目が見えないんじゃなかったのか。 「盗まれたのは災難だけど、やっぱ貸せないよ、ごめんね」 まあ、僕が盗まれたわけでも何でもないので痛くも痒くもないんですけど、とにかくそう告げるとやっと彼女も諦めてくれたみたいで、それどころか凄い方向に開き直っちゃったみたいでカバンから携帯出してメールをピコピコ、目が見えないのにあんな小さい携帯の画面を・・・!その前に携帯は50万円と一緒に盗まれたのでは・・・!とか思うんですけど、そんなことはお構い無しに憮然としてました。 やれやれ、とんでもないキチガイだったぜ、50万円のために車売れって言われた時はあまりの事態に血湧き肉踊ったけど、それにしても2時間も拘束されるとは思わなかった。望みどおりキチガイとパスタ食えたけど精神的にかなりつかれちゃったぜ、と家に帰ってホッと一息。 で、ここまで書いて気がついたんですけど、ここまで長々と書いたことが車を盗まれたことに全く関係がなかった。盗まれた日の出来事を書き綴ったけど、あまり事件に関係なくて本気でビビッた。戦慄すら覚えた。とにかく、無関係な日常部分をやっと終えて事件の核心に迫りますけど、家に帰ってホッと一息、腹減ったなーオデンでも食うか、と近所のコンビニに車で行ったんです。で、 コンビニで車盗まれた。 結局一行日記と変わらないじゃないか!pato死ね!とかお怒りはごもっともですけど、そういった怒りのメールは送ってこないでください。それは僕の痛みに無頓着ということで自由社会の終わりの始まりですから。 とにかく、車盗まれて大変なので誰か僕に50万円貸してください。 12/9 いつもそばに コンビニで車盗まれた。 12/7 ジュウテツ 従兄弟の娘ってなんて呼ぶんだろうって急激に気になってしまい方々手を尽くして調べてみたところ途方もない衝撃の事実が僕の目に飛び込んできたのです。自分の兄弟の娘とかだと姪(めい)と呼ぶわけで、なんとも響きがかわいらしく、その音からロリの匂いすら漂ってきていたく興奮するのですが、なんと、従兄弟の娘となると従姪(じゅうてつ)と呼ぶそうです。一気に何か岩石的な堅い呼びに変化、鉄道マニアの気品すら漂ってきます。 兄弟の娘ならばメイ、従兄弟の娘ならばジュウテツ、同じロリっ子であるに違いないのにこのクラスチェンジは大変解せないものがあります。ちなみにその従兄弟の娘の娘ともともなると従姪孫(じゅうてっそん)と呼ぶらしく、何か中国の偉い人のような、三国志に出てきても何らおかしくない呼び名に変化します。同じロリっ子なのに血の関係が遠くなるほど呼び名がお堅くなっていく、こりゃあ従兄弟の娘の娘の娘とかになったら国家公務員とかそんなお堅い呼び名になってるのかもしれません。 さて、なぜ従姪の、いや従兄弟の娘の話題から入ったかといいますとね、最近僕の中で異常に従兄弟の娘が熱いんですよ。言ったかどうかわかりませんけど、僕には同じ年の従兄弟がいましてね、まあ、小さい頃からイケメンのナイスガイ、高校時代はバンドとかやってて女の子にキャーキャーってな感じのとても僕と血が繋がってるとは思えない従兄弟がいたんですよ。 まあ、幼い頃から彼は親戚中のスターダムで、中学時代だけ同じ学校に通ったんですけど、従兄弟は女の子に大人気、すげえカッコイイ!とか女子の話題の的でしてね、僕は僕でとんでもアニマルなわけで別な意味で女子の話題の的、それが従兄弟的にNGだったのかいつだったかの法事の時に「お前、恥ずかしいから学校で話しかけるなよ」って言われちゃいましてね、どうも従兄弟だと思われたくなかったみたいでして、その事実に微妙にブルーになったのを今でも覚えています。 そんな従兄弟ですが、この間帰省した時に会いましてね、実家で何をトチ狂ったのか食用カエルの刺身を食わせようと奮闘している親父の魔の手をかいくぐり、命からがら従兄弟に会いに行ったわけなんですよ。 もう何年会ってないかも分からない、彼が今どうしているかも分からない、それでもやっぱ従兄弟として幼き日を一緒に過した仲じゃないですか、話しかけるなとか言われたりもしたけど、やっぱり微妙に血の繋がった従兄弟じゃないですか。というわけで会いに行ったんです。 いやー、行ったらビックリしたね。やはりまあ、従兄弟は僕と同じ歳ですからやはり彼も31歳となってるわけなんですよ。かっこよかった彼もさぞかしオッサンになってるだろうな、なんて思ってたら普通にカッコイイじゃない。それどころか齢31にして家とか建てちゃったりする奮闘ぶり。奥さん美人だしリビングのテレビでかいし庭にゴルフの練習セット置いてあるしでもうコイツに勝てる気がしない。 あのですね、田舎とはいえ31歳にして家ですよ、家。僕なんか近所のスーパーに夜8時に行って惣菜に半額シールが貼られるの待ってるんですよ。31歳にして住宅ローンに子供の習い事にとか悩んでるんですよ。僕なんか近所のコンビニの深夜枠にヤンキーのバイトが入りましてね、お弁当買って「温めっすか」とかぶっきらぼうに聞かれて「はい」って答えたら「チッ」ってヤンキーがあからさまに不快感を顕にしてですね、妙に気を使った僕が「あっ、やっぱいいです」って引き下がる始末。毎日冷たい弁当食ってるのが悩みなんですよ。 まあ、そんな人生の勝ち組とか負け組みとかそういったことはこの際忘れて今日も楽しい楽しい日記の続きを書こう、例え涙が溢れようとも書き続けようって思うんですが、その従兄弟の娘っ子、つまり従姪(じゅうてつ)がもうカワイイんですよ。かわいくてどうしようかってくらいにもうたまらんのですよ。 いやいやいや、決してロリ的要素で言ってるわけじゃなくて、宮崎美子さんとか岡江久美子さんとか熟女も好きなんで決して生粋のロリってわけじゃないですよ。ただ、こんなカワイイ幼女が従姪(じゅうてつ)とはいえ自分と血が繋がってるってのが凄い妙な気分で愛おしいんですよ。 なんか従兄弟の家で嫁のマズイ手料理食わされててですね、元がなんだったのか分からない複雑怪奇な茶色い物体を食べるんですけど、そこでも幼女はお手伝いとかしててね、フリフリの服を着て目をクリクリさせてるんですよ。何か知らないけどすごい楽しそう。 そういえば僕が子供の時も家に客が来ると何か妙に楽しかったな。なんであんなに楽しかったんだろう。結局いつもと違う非日常が嬉しかったんだなって感じたんです。 でまあ、僕と従兄弟は酒まで飲んでしまって大変な状態、でもなんか従兄弟は住宅ローンのために休みの日も仕事に行かなければならないらしく、「仕事いってくるけどゆっくりしてってよ」と言い残して颯爽と出かけてしまいました。 そうなると、残された奥さんと、あの料理が超絶的にまずい奥さんと淫らな行為に走るかと思いがち、「あの人とは全然ご無沙汰、ああああああ、久しぶりよー!」ぶしゅーってなるかとも思ったのですが、全然そんなことなくて奥さんは普通に大忙しな感じで家事してました。 そうなると僕と幼女、まあリサちゃんっていうんですけど、二人で遊ぶことになりましてね、なんか一緒にプリキュアを見ようってことになって大画面テレビでプリキュア見ましたよ。なんかいつの間にかプリキュアが5人に増殖していてセーラームーンみたいになってるんですけどリサちゃんは大喜び。さらにその横で僕が「メップル」っていう初代プリキュアに出ていた奇妙な小動物のモノマネをするもんですからリサちゃん大喜びですよ。 いやー、こんなに喜んでもらえるとやりがいがあるってもんですよ。会社の忘年会で同じモノマネした時なんて誰も微動だにしなかったからね。それどころかその後、誰も話しかけてくれなかった。忘年どころか色々と忘れ去りたい過去だけど、リサちゃんは大喜びっすよ。 その後もWiiとかいう未来から来たゲーム機で楽しんだりと大変有意義な時間を過しましてね、あっという間に長居してしまったので帰ることにしたんですよ。そしたらリサちゃんが泣いちゃってね。玄関まで見送りに来てちっちゃい手を振ってるんですよ。もうカワイイったらありゃしない。 そんなこんなで涙涙のお別れを経て、実家に戻ったら親父がまだ食用カエルの刺身作ってて食え食え言ってきましてね、もうどうしようもないんですけど逃げるように実家からも逃亡してまたいつもの日常へと戻ったわけなんです。 で、いつものように仕事しつつ、リサちゃんは本当にかわいかったなあ、あの嫌な従兄弟の娘とは思えないくらいかわいくていい子だった。あんな幼い子も時間の経過と共に成長していき、どこの馬の骨か分からない男と付き合ったりするんだろうな。切ない恋に身を焦がれアユの歌を聞きながら夜空を見上げて涙したりするんだろうな。そんなリサも結婚、相手は職場の先輩、結婚式では暴走する友人たちの横で僕は泣いちゃうかもしれんぞ。で、リサちゃんもお母さんの血を受け継いで料理へたでね。 とか悶々とリサちゃんの将来を考えながらパソコンに向かっていたら目頭が熱くなってきちゃいましてね、時間の経過ってのは儚く美しい、だから時に優しく時に残酷だ、なんて悟りを開いていたんです。そしたら携帯電話に着信が。 見ると従兄弟からの着信でして、なんかやばいことしたかな、お前俺がいない間に嫁の尻を触っただろ嫁が泣きながら告白してきた、とか言われたらどうしよう、そんなことしてないけど干してある嫁の下着を興味深く見つめていたのは事実だ、それを指摘されたら言い逃れできない。と戦々恐々としつつ電話に出たんです。 「なんか娘がお前と話をしたいらしくて、ちょっと変わるわ」 と従兄弟がぶっきらぼうに言うじゃないですか、で、娘のリサちゃんに変わるんですけど、あんまり電話ってしないんでしょうね、すごい緊張しながら話をするんですよ。内容は他愛もないもので、今日プリキュアに出てきた敵が強くてとかそんな話、職場のブスがそんな話してたら間違いなく脳みそ煮るんですけど、リサちゃんなら話は別ですよ。 「へえー、すごいねー」 とか僕も満面の笑みですよ。 それからというもの、どうも従兄弟に簡単な電話のかけ方を習ったみたいで、多分ボタン押したらかかるみたいな設定にしたんでしょうけど、結構な頻度でリサちゃんからダイレクトに電話がかかってくるようになったんですよ。で、たぶんお母さんか何かに「patoおじさんはお仕事してるんだからあまりかけちゃダメよ」とか怒られたんでしょうね、かかってくるたびに 「リサです。おしごとおわりましたかー?」 とかかかってくるんですよ。舌ったらずな感じでかかってくるんですよ。もうカワイイ。そんなもん仕事していられるか。 「全然大丈夫だよー、今日はどうしたの?」 とか、思いっきり職場で打ち合わせとかしてるのにリサちゃんと戯れるわけなんですよ。結局、話の内容はプリキュアとかなんですけど、そうなるとリサちゃんを喜ばせるためにまたメップルのモノマネしなきゃいけないじゃないですか。 「今度はいつ来ますかー?」 みたいなこと言ってるリサちゃんに 「リサちゃんがいい子にしてたらまた行くメポー」 とか職場のデスクでメップル発言する僕の身にもなって欲しい。打ち合わせしていた同僚が目を丸くして「ああ、この人ついに狂うたか」って顔してるじゃないか。 そんな折、またいつものようにリサちゃんから電話がかかってきたんですけど、なんでもリサちゃんはもう少しで誕生日らしい。そうなると僕も 「リサちゃんは誕生日なにが欲しいメポ?」 とか、職場で顔を真っ赤にしながら聞くんですけど、そうすると遠慮がちにいうわけですよ。たぶん子供心に僕の財布を案じて言うわけですよ。 「リサは小熊ちゃんが欲しい」 ニンテンドーDSとかPS3とか言われたらどうしようかと思ったのですが、どうも小さな子が欲しがる安い物っぽいです。これならいくらでも買ってあげられるので 「いい子にしてたらプレゼントするメポー!」 と自分、職場で何やってるんだろうって思いながら返答ですよ。しかしまあ、その小熊ちゃんってのが何なのか全く分からないので色々聞くんですけど、どうやら何か本か絵本のたぐいなんですよ。 あとから分かったんですけど、このカワイイ表紙の本がリサちゃんの欲している絵本みたいで、ちょっとリサちゃんより低年齢向けっぽいんですけど、なんかこのシリーズを集めてるみたいなんですよ。こういった絵本で「こぐま」が出てくる話の絵本がいっぱいあるみたいなんです。こんなもん800円くらいですからね、そんならリサちゃんのために何冊でも買ったるわって思うじゃないですか。 しかしですね、今はこうして欲しいものがわかってるんですけど、その時はリサちゃんの話が全く要領を得ないものですからサッパリ意味不明だったんですよ。「小熊」「本」「シリーズ物」この3つのキーワードしか分からないんです。 もうどうやってもリサちゃんが望むものを買える気がしないんですけど、それでもやっぱ喜ばせてあげたいじゃないですか。なんとかしてプレゼントしてあげたいじゃないですか。そこは従兄弟に電話して何が欲しいのか正確に聞くのが一番なんでしょうけど、そうなると絶対に遠慮して「いらない」とか言うに決まってます。ここはなんとか「小熊」「本」「シリーズ物」の3つのキーワードから探し当てないといけません。 まずは、どう考えても本には間違いないので颯爽と本屋に赴きます。本のプロである店員ならば多分わかるだろうと思い、カウンターに行って尋ねます。 「あのすいません、幼い子が読むような本で、熊が出てくる本ってありますかね。なんかシリーズものらしいんですけど」 すると店員のメガネお姉さんは難しそうな顔しましてね、何やらパソコンに向かったり台帳みたいなものをパラパラめくって困惑顔。それでも見つかったみたいで、「これかな……」とポツリ。で少々お待ちくださいと言い残して店の奥に消えていきました。 しばらくして何やら本を抱えて帰ってきたメガネお姉さん。颯爽とカウンタに本を置きます。 そこにはこんな感じの熊が表紙になってる本が。 いやね、僕もこんなこと言いたかないですよ。そこまで責め立てたかないですよ。でも普通に考えて欲しい。何も特別なこといってない、普通に考えて欲しい。プリキュアに夢中になる年代の女の子が、こんな熊が猛り狂ってる表紙の本を読むと思うか。ホント、脳みそ煮るぞ。 「これはちょっと違うような……」 「でも熊ですし、シリーズ物ですよ、色々な動物の生態というか写真集という感じで出されてまして……」 いやいやいやいや、熊とシリーズ物はあってるけど幼い子は読まないだろ、これ。って思うんですけど店員めがねっ子お姉さんのスパークは止まらない。ヒートアップしてきて同じシリーズのアライグマ編とか出してきやがった。ホント、いい加減にしないと、メアド交換してドキドキのメール交換、ワクワクの初デート、でもなかなか手は出さないで私って大切にされてるのねって思わせて、夜景の綺麗なレストランで給料3か月分の指輪を渡してプロポーズ「絶対に幸せにするから」新婚旅行はアメリカ西海岸で、平穏だけどどこか安心できる結婚生活を過して子供も育てて、何不自由ない幸せな結婚生活、毎年の結婚記念日にはバラの花束をプレゼント、たまには家族で温泉に行ったりしてね、で、20年後の結婚記念日に「グハハ、バカめ!最初からお前とはブラフで結婚したんだよ、全然愛してないよ、幸せだったかい?」ってカミングアウトしてやるぞ、ホント。 とにかく、色々な本屋に行くんですけど全然見つからなくてですね、そりゃ「熊」っていうヒントだけじゃあ難しいんですけど、どうしよう、このままじゃリサちゃんの喜ぶ顔が見れないよって心底落胆したんです。 でもね、こういう探し物って大体がそうじゃないですか。ここにはあるだろうって大型店舗なんかに探しに行っても見つからない。で、諦めたくらいに適当にブラッと、それこそこんな店にあるのっていうマイナーな店に行ったら発見したりするじゃないですか。 ということは最初からマイナーな本屋を探せばいいじゃないかってことで、国道の脇にある怪しげな本屋に行ったんですよ。皆さんがお住まいの街にも多分あると思うんですけど、なんか「アダルト」「DVD」「高価買取」とかの文字が躍ってる怪しげな本屋がないですか。微妙にマイナー臭のする怪しげな店舗がひっそりと建っていませんか。こんなところに幼子が好む本があるとはとても思えないんですけど、とにかくヒョッコリとあるんじゃないかって期待して店内に足を踏み入れたんです。 入ってみると普通の店舗で、普通に名探偵コナンの最新刊とか置いてあるんですけど、やっぱりよくよく観察するとどこかおかしい。「同人誌高価買取中」とか勇ましい謳い文句の張り紙が平然と貼ってあるんですよ。で、その奥にはズラーッとエロマンガや同人誌が大名行列ですよ。 しかも店員もすごくて、メガネで長髪のヒョロい感じ、別にオタクテイスト漂う外観はいいんですけど、そのレジの奥にオタ仲間みたいな、どう見ても店員じゃない人間が複数いるんですよ。で、客そっちのけでアニメ見ながらみんなで熱心に議論してるの。客商売を舐めてるとしか思えない。何言ってるんだか言語が理解できないんで分からないんでアレなんですけど、とにかく「今期のアニメは……」とかオタク談義に華を咲かせてるんですよ。 で、非常に遺憾だったんですけど、おずおずとレジに近づいてヒョロい店員に話しかけたんですよね。 「あの……本を探してるんですけど……」 そしたらヒョロいのが中指でクイッとメガネを直しながら 「どういったのをお探しで?」 とか言うてるんですよ。で、その奥ではオタ仲間がアニメ見てゲハゲハ笑ってるの。何か知らないけど無性にムカムカする。 「熊が出てくるヤツでシリーズ物らしいんですけど……」 「ふむ……」 とかヒョロ店員が腕組みで考えてるんですよ。でもやっぱり彼のデーターベースの中に該当する本はないみたいで 「せめてジャンルがわからないとね、フフン」 みたいな、なぜか自信たっぷりに言いやがるんですよ。で、それを聞いていた奥のオタ仲間が 「違いない!」 とか言い出して大騒ぎ、別に彼らは全く悪くないんですけど異常にムカついちゃいましてね。さらに創作がどうのとか二次創作がとかサークルとか訳の分からないこと言い出しましてね、僕も僕で少し挑発的になっちゃって 「そうですか、この店なら見つかると思ったのに……」 的なガッカリしたぜって感じを醸し出してみたら、ヒョロ店員とオタ仲間たち(Tシャツにラッキーストライクって書いてあった)が何故か発奮しましてね。 「そういうことなら探しましょう!」 と店員と僕とオタ仲間総出で店内を捜索ですよ。なんとか熊っぽい本はないかと大捜索。まあ、この、店マンガの最新刊とエロ同人誌とエロ本しか置いてないんで、どう考えても幼女向けの本があるわけないんですけど、こうまで探してもらえるとなんか気持ちいいじゃないですか。 「ないなあ」 「ないねえ」 多分、彼らは熊が出てくるエロ本的なのを探してるんでしょうけど、なかなかそういったものがない様子。 「そういえば、熊じゃなくて小熊って言ってました。小熊ちゃんって」 と、ここで僕が最も重要な情報をカミングアウト。するとオタの一人が何か天啓を受けたかのように閃いたみたいなんです。 「そういえば確か……」 オタが持ってきたのが見紛う事なきエロ本ていうかエロマンガで、表紙にドバーッといかがわしい液体をぶっかけられてる女の子が書いてあるんですけど、この主人公の名前が「こぐま」らしいんです。 「まさに「こぐまちゃん」じゃん!」 と思うんですけど、そこで僕が 「探してるのはシリーズ物らしいんだけど……」 と言うとオタが得意気な顔で何冊か出してくるじゃないですか。 「これ、シリーズ物だよ」 ホントにシリーズになってるみたいで主人公こぐまちゃんのエロ本が3冊くらい出てくるんですよ。本気でシリーズ物なんですよ。あの時のオタの得意気な顔を僕は一生忘れないよ。 もうエロマンガって時点で明らかにリサちゃんが望んだものとは違うんですけど、こぐまちゃんだしシリーズものだしっていうんでこれにするしかなく、というか、ぶっちゃけると探すの面倒になっちゃいましてね、もうこれでいいやって買って帰っちゃったんですよ。 家に帰って、さあリサちゃんに送るぞって買ってきた本をめくるんですけど、さすがにこれはひどい、と思いましてね、内容は何か主人公の「こぐまちゃん」アルバイトマニアで色々な場所でバイトするって話なんですけど、そこでオムニバス形式で様々な陵辱を受けるんですよ。メイド喫茶で客に過度の奉仕をさせられたり、フライドチキン店でゴキブリは揚げてませんでしたけど3ピースくらい入れられたりしてね。「こぐま変になっちゃうー!」とかいってんの。こんなの幼女に見せるわけにはいかない。 仕方ないんでね、エロいページは全部マジックで修正しましたよ。200ページくらい。その結果、内容はまっくろくろすけになっちゃって何が何やらわからないんですけど、とにかくこれでOK。早速リサちゃんに宅配便で送っておきました。リサちゃん喜んでくれるに違いないで。 それから数日して従兄弟の番号から着信があり、おお、プレゼントが届いたリサちゃんからお礼の電話かな?と意気揚々と電話に出て 「リサちゃん、プレゼント届いたメポ?」 「ふざけんじゃねー!娘になんてもの送りつけるんだ!殺すぞ!」 と電話の向こうには修羅と化した従兄弟が。あまりの怒りっぷりに僕ももうどうしていいのか分からず 「こ、小熊の本、メポ……」 とか言うと 「メポじゃねえよ!ふざけんな!死ね!二度と娘に近づくな!」 とんでもなく怒られました。 従姪(じゅうてつ)であるリサちゃんを愛するあまり僕の行為がエスカレートし、こぐまちゃんのエロ漫画を送りつけるという暴挙に発展、怒り狂った従兄弟によって僕とリサちゃんの仲は引き裂かれてしまったのです。 愛する対象を自らの愚かな行為で失った人の痛みがわかりますか。愛するリサちゃんを、愛する従姪を。何かポッカリと心に穴が開いて、それなのに心が重い、まるで心に重い重い鉄が詰まってしまったようだ。重い鉄だけに重鉄とか。いつになく酷いオチだメポ。 11/29 訪問販売 おしりかじり虫は元気のない人々のお尻を噛んで元気にする虫で、何かと元気のない日本に渇を入れるという大沢親分も真っ青のありがた迷惑な虫です。得体の知れない虫に尻を噛み付かれて平然としていられるわけなく、元気になって感謝するなんて持ってのほか、怒りに打ち震えてその虫を殺しかねない。余計なお世話だって殺虫剤を散布するかもしれない。 そもそもお尻を噛まれて元気になるってのがナンセンスで夢物語、同じ元気になるのならクリトリスでも噛んだ方がまだ元気になるってもんだ。寂しい女性のクリトリスを噛んで元気にするクリトリスかじり虫。こっちのほうが何倍も許せる。 「クリトリスかじり虫ー」 と誰も見ていないと思って職場の休憩室で身振り手振りで唄っていたら、その光景を同僚の山本さん(24歳OL、控えめな性格なのであまり目立たないが隠れ美人)に見られてしまい、もうどうしていいか分からない絶妙な空気が二人の間を流れた。 重苦しい沈黙、この休憩室だけ重力が2倍になったかのように感じる。その沈黙に耐え切れなくなった僕は、もうひっこみがつかなくなったということもあり続けてクリトリスかじり虫の歌を唄い続けた。まるで不治の病に侵されて大切なアノ人に届けるものがなにもない、自分の歌しかない薄幸の美少女のように。ただあの人に安らいで欲しい、少女は力の限り唄った。 職場の同僚がいきなり狂ったかのようにクリトリスとか言っている、いや唄っている。どうしていいのか分からないのは山本さんも同じのようで、しかも彼女は「やだー!」とか「それってセクハラ!めっ!」ってやるような砕けた性格ではなく、どちらかといえば内に秘めて悶々と恨むような性格なので、ただただ黙って気が狂うてしまった同僚を見つめていた。 微動だにしない山本さんに、拳を振り上げてクリトリスかじり虫を唄う僕、ここに他の同僚が来たらなんだと思うくらい衝撃的にシュールな光景なのだけど、もうどちらも引き下がるわけにはいかない。先に自分のスタイルを崩した方が負けだ。 いよいよ根負けしたのは山本さんの方で、シドロモドロしながらも口を開いた。ここで「セクハラですよ!」と軽やかに言ってくれれば僕も「メンゴメンゴ、てへっ」とでも言って軽く自分で自分にゲンコツ、舌でも出していたずらに笑うことができるのだけど、山本さんの言葉はそんな想像とは全く異次元に存在する、驚愕するしかないものだった。 「だから女子社員全員から嫌われるんですよ」 あのですね、世の中には言って良いことと悪いことがあるじゃないですか。間違いなくこれは言ってはいけないことですよ。そりゃね、僕だってそれくらいは薄々勘付いてますよ。なんとなくそうなんだろうなーって微妙に感じていましたよ。でもね、いくらなんでもそれを公然と指摘するってのは大人気ないと思うんですよ。ハゲな人にハゲって言うもんですよ。シャレにならない。 「そ、そうだよね……ギヒヒヒヒ」 もう引っ込みがつかなくなっちゃいましてね、それでもクリトリスかじり虫の歌を唄い続ける僕。これはもうテロですよ、テロ。そうこうしていたら山本さんがマジになっちゃいまして、 「どうしてそんなことばかりするんですか!ワタシ、patoさんがそうやって悪口言われたり除け者にされて飲み会に誘われないのとか見てられない。どうして仲良くしようとしないんですか!」 とまあ、山本さんは真面目ですから目に涙を溜めて訴えてくるんですよ。本気と書いてマジと読むみたいな状態になって、そんなに本気になられても困るってもんですよ。それはそうと薄々勘付いていたけどやっぱり僕は飲み会に誘われないとかとんでもないことになっていたのか。知らなくてもいいマルトク情報をわざわざ教えてくれてありがとう、山本さん。 とにかく、突如現れた山本さんのピュア心に触れてしまい、クリトリスかじり虫とか歌っていた自分が汚らわしい存在に思えてきましてね、中学生の時にカッコイイ言葉を使ってみたい衝動に駆られて「汚らわしい!」と言おうとしたら「毛皮らしい」と言ってしまい、「は?何が毛皮なの?何の毛皮?温かいの?ねえ?ねえ?」などと真顔で1時間くらい問い詰められて陵辱されたことを思い出したほどでした。 世の中には「よけいなお世話」が蔓延しています。多くの場合が相手を思いやる故の余計なお世話であり、それ故によけいなお世話、と断罪するのが心苦しい。この山本さんの例にしたって泣くくらいの僕の身を案じているわけで、その心中を思うと「余計なお世話だ、クリトリスかじるぞ!」とは口が裂けても言えない。 けれどもね、これが全く知らない相手だったらどうしますか。全く知らず、しかも余計なお世話なんですけどその裏に僕を騙してやろうというとんでもない邪な心を持っている相手だったらどうしますか。 あれは何もすることがない日曜日のことでした。あまりにも暇だった僕はパソコンに向かいフリーセルに没頭、ゲームを開始して「Ctrl」と「Shift」と「F10」を押して「中止」をセ選択、カードを1枚動かすと一瞬で勝利を収めることが出来るのですが、それを何度も繰り返して一人でケタケタ笑ってました。 ピンポーン! 不意に鳴るインターホン。休日の午後になるインターホンなんて恐ろしいくらいに予定調和で、明らかに何か悪意が在る来訪者、具体的に言えば訪問販売や宗教勧誘、家賃の督促など、隙あらば取って食ってやろうと企む邪悪な存在しかありえないのです。「きちゃった」とか言ってカワイイ、具体的に言うと白いコートが似合う女の子が肉じゃがもって来たりしないんですよ。 めんどくせーなーと思いつつ、それでも暇すぎるのでパンツ一丁でドア開けるのですが、そこには何か小汚い作業服を着た男が。けれども顔は色男で爽やか好青年、僕がゲイだったらほっとかないタイプの青年が立っておりました。 「こんにちは!今日はこのアパートの管理会社からの依頼を受けて水道の水質調査に参りました。無料ですのでお時間よろしいですか?」 はて、ウチのアパートの管理会社は親切に水質調査してくれるような慈悲深い人達だったか。家賃払えないなら実家に連絡します、契約を解除します、鍵を変えます、出て行ってください、パンツ姿で通路を歩かないでください、冷酷な鬼であるという印象しかない。 まあ、これは歴然とした詐欺で、水質調査して適当な薬品なんか混ぜてね、見る見る色が変わる水道水、この水は汚れている、見てくださいこんなの飲んでたら死にますよ、とか言いながら高価な浄水器を売りつける類の悪徳商法です。目の前で水道水が真っ赤に変わるのを見た主婦なんかは不安になっちゃってね、家族のために良かれと思って購入しちゃうわけなんですよ。 こういった詐欺師は絶対に家に入れない、「検査なんていりません」と毅然と断わりましょう。しつこく「検査してないのはお宅だけですよ」とか粘るかもしれませんが、場合によってはおしりをかじったら検査させてやるとペロンと尻でも出して追い返しましょう。 まあ、お尻見せないまでもここで身分証を見せてくださいとか、管理会社が水質調査を委託をしたのか確認しますのでそれからお願いしますとか毅然と断わることもできるのですが、まあ暇ですし、ここはどんな詐欺っぷりが見られるかお手並み拝見といこうじゃないですか。少なくともフリーセルやってるよりは面白そうだ。 「どうぞどうぞ」 笑顔で招き入れると、青年はいたずらな小僧のような満面の笑みで入ってきた。僕がゲイだったら食ってるところだ。それにしても爽やかで一片の毛皮らしさもない無垢な青年だ。こんな良さそうな青年が浄水器詐欺か、一体何があったのだろう。 僕は詐欺をする人間を認めません。どんな理由があるにしろ、止むに止まれぬ事情があったにせよ、そこで誰かを騙してご飯を食べていくという道を選択した人間を絶対に認めません。人間として最底辺だと思っています。この青年だって爽やかな笑顔の下は醜い笑顔で満ち溢れているに違いありません。 「で、どうするんですか?」 「はい、水質検査をしますので台所をお借りしてもよろしいでしょうか?」 「どうぞどうぞ」 なにやら黒いカバンを開けてガチャガチャと準備を始める青年、その光景を見守っていたのですが、いざ準備が出来て台所の流し台を見た青年が絶句ですよ。おもいっきりゴミダメですからね。なぜか流し台に乾電池とか捨ててある大暴挙、これにはさすがの青年も絶句していたね。 なにやら異臭とかする流し台におそるおそる近づいて水道水を採取する青年。で、なんかガチャガチャと機械使ったり怪しげな正体不明の薬品を入れたりとしてるわけなんですよ。で、得意気な顔でこっちにやってきてですね、 「見てください、この水が赤色に変わったら危険サインです」 とか言うんです。で、見てると徐々に徐々に水の色が赤に変わっていくんですよ。ワオ! 「これは発癌性物質が含まれてますね。このアパート全体がそうでしたから貯水タンクの関係だと思いますが……」 そんな!この水飲んでたら僕ガンになっちゃうの!?死んじゃうの!?そんなのやだよ!速く浄水器つけてよ!いくらでも払うから!と思うはずもなく、こりゃとんでもねーなーと思うことしかできませんでした。 発癌性物質ってなんて名前ですか?構造式はどうなってますか?その物質が何と反応すると赤くなるんですか?そのメカニズムは?とか色々と質問することもできますし、何か薬品を入れて水が赤くなるなんてチャチな手品レベルだぜ、俺なら薬品入れた瞬間に大爆発するような水を作ってやる、と豪語することも出来るのですが、ここはまあ、面白くないので真剣に聞き入ることにします。 「な、なんてことだ……まさかこんな……」 僕も結構な演技派ですから凄い深刻な表情でマジマジと紅に染まった水を見つめます。もう不安で不安でどうしようもないといった表情をします。 「実は今ちょうど浄水器を持ってきていまして……」 どうせ全部シナリオどおりなんでしょうけど、さも偶然良い物を持っていたみたいな顔してちゃちな箱みたいな浄水器とパンフレットを取り出すわけなんですよ。 「今ならお安くしておきますし、すぐに取り付けできますよ。工事費もサービスしておきます」 もう売ったった!みたいな何か一つの仕事をやり遂げたみたいな顔している青年。さらに畳み掛けてきます。 「流しを見ると荒んだ生活を送ってるようですね……荒んだ生活に汚れた水、これじゃあ早死にしますよ……」 これぞまさに余計なお世話と言わんばかりの状態でしてね、冒頭の山本さんのように僕を思いやる故のお世話ならいいんですけど、見ず知らずの人間の余計なお世話、しかも騙そうとしてる人間ですからね、そりゃ温厚な僕でも「余計なお世話だ」って言いたくなりますよ。 しかしまあ、ここはグッと堪えて 「ちなみにいくらなんですか?」 と訊ねると、青年は万面の笑みで 「26万円です!」 とか言うじゃないですか。お前、26万がどういう額のお金なのか分かってんのか。 あのですね、言いたかないですけど、それなりに大きな金額なんですよ、26万円って。今僕のアパートの家賃が3万6千円なんですけど、ざっと考えて家賃7.2か月分ですよ。半年までならなんとか督促から逃げることも出来ますけど、7ヶ月ともなると深刻です。いつ鍵を変えられるか、いつ追い出されるか、そうなったら中の荷物はどうなってしまうんだろう、法律的に追い詰められたらどうしよう、という心臓に悪いハラハラドキドキを7ヶ月、それを経てやっと滞納できる金額、それが26万なんですよ、彼はその金額の重みが全く分かってない。 「いやー、浄水器に26万円はちょっと……」 と買いたいんだけどお金がない風味をムンムンと醸し出すと、 「大丈夫ですよ、ローンもできますし。月々1万5千円の24回払いです!」 と準備万端、いつでもいけるぜ!って感じで契約書みたいなのをペラペラ出してくるんですよ。1万5千の24回払いって微妙に金利がえらいことになってるなって思うんですが、彼は悪びれるでもなく、恐縮するでもなく、 「月1万5千円くらいならタバコを我慢すればすぐですよ。タバコお吸いになるんでしょ?健康に悪いからやめたほうがいいですよ」 と、まさに余計なお世話というしかないこと言いやがるんですよ。でまあ、ここからは契約するまで帰らない、もう箱から出しちゃったんで設置するしかない、契約書書いてください、と非常に面倒なことになる、まさに悪徳商法の教科書みたいな展開が待っており、あまり面白味がないのですが、ここからが凄かった。 「この値段で帰るなんてもうないですよ、これはチャンスです。ぜひ美味しい水を!」 「でも水道水ってあんま飲まないし……別に水が汚くてもいいよ」 と僕が核心に迫った時、異変が起こったのです。 ピンポーン! またもや玄関のインターホンが鳴ります。またもや来客です。大抵こういう場合は、離れた場所に控えていた詐欺仲間がやってきていて、その仲間を交えてツインカムで責められることになるのです。で、まあ、このお仲間ってのがとてもカタギには見えないとんでもない強面だったりするんですよ。 いよいよご本尊登場か、どんな凶悪顔がどんな脅しを駆使してくるか、こんな爽やか兄ちゃんの詐欺じゃ生ぬるいんだよ、とワクワクしながらドアを開けると、そこには綺麗な女性が立っていました。キリッとしたスーツ姿にまとめた黒髪がなんとも凛々しくてですね、おお、コワモテの仲間じゃなくて女とは珍しい!とマジマジと見つめていると 「お時間よろしいでしょうか?じつはこちらアパートの管理会社様のご依頼で水道水の水質調査に」 ってさっきの兄ちゃんと同じこと言うんですよ。 「ああ、それならもう来てますよ、同じ会社の人ですか?」 と、ああ、仲間ねという手馴れた感じの対応をすると、 「え!?」 とお姉さんは困惑顔。 「ですから、水質調査して水が赤くなって26万円の浄水器をローンでもいいからって売りつけるんですよね?余計お世話な感じで」 と、僕も、もう分かってるよって感じで洗いざらいぶちまけるんですけど、お姉さんは要領を得ない様子。 「良く分かりませんが、水質調査を……」 「先客がいるけど構わないならどうぞ」 「ええ、失礼します」 とにかく良く分かりませんが、お姉さんを部屋に招き入れます。で、爽やか兄ちゃんとお姉ちゃんの話を色々と聞いて、名刺とかもらって判断したんですけど、どうやら全く別の詐欺会社がたまたまウチをターゲットに選んでかち合ってしまった様子。2つの詐欺が同時に我が家を急襲、こりゃあ盆と正月がいっぺんに来て、ついでにこの間痴漢で捕まって会社をクビになったらしい神奈川のおじさんがまで金を無心にやってきたみたいな状態ですよ。あの人結構ろくでもないんだよな。 で、2つの詐欺人どもはお互いにお互いの存在を認識していたっぽいんですけどかち合うのは始めてみたいで、なんか当人達が一番驚いてました。 まあ、ここで、あれれー、おかしいよ!どうしたのコナン君!だって、アパートの管理会社が依頼したのに2社が調査に来るって絶対におかしいよ!バーローって感じにもできるんですが、まあ、それを言ったら野暮なので一応黙っておきます。 「では調査させてもらってよろしいでしょうか」 僕も青年も「さっきやったよ、赤くなるんでしょ」って顔してたんですが、まあ、言っても無駄なので好きなようにやってもらいます。 それにしてもこんな綺麗なお姉さんが詐欺をやってるなんて信じられない。見ると結構おっぱいもでかくて性格も良さそう、清楚な感じなのに。きっと何か理由があるに違いない。たぶん、病気のお父さんか何かがいて、日本では未承認の薬が必要になる。それは高額でとても二十代の小娘が買えるようなものではなかった。悩みぬいた彼女はインターネットで知り合ったスナフキンという男に相談をします。こいつがまた悪い男でしてね、彼女は騙されて逆に多額の借金を背負わされることになるんです。で、嫌々ながらスナフキンが経営するこの詐欺グループで働くことになったんですが、そこのセクハラ部長に体の関係を強要されて……冗談じゃない、こんなことあってたまるか!僕が彼女を救ってやる!って妄想を書き始めると異常に長くなり、脱線するにもほどがあるって感じなので続きはこちらで楽しんでいただくとして本題に戻ります。 「ほら、赤くなりました」 「な、なんてことだ!」 とまるで台本のあるコントのようなセリフを交わしていよいよ商談です。やっぱりお姉さんも、青年とは違ったタイプの浄水器を持っていて、これが29万円だって言うんですからたいしたものですよ。青年より3万円も高い。29万円って家賃8ヶ月分超えますからね。 でまあ、どちらも電気屋いけば1万円くらいで買えそうな浄水器で、それを高値で売ろう、不安を煽って売ろうって言うんですからタチの悪い詐欺なんですけど、そこで僕はこうすることにしたんです。 「でもさあ、さすがに2つも浄水器はいらないよね。どちらか一方を買うよ」 さあ、これに火がついたお二人、火のようなセールストークが始まります。 「我が社の製品の方が性能が上ですから!」 「たしかにこちらの方が値段は高いですがその分高性能ですよ」 爽やか青年と綺麗なお姉さん、美男美女が必死にセールストーク、それを見ていた僕もドラマの6話くらいから急に出てこなくなる脇役みたいな感じで「もうお前ら付き合っちまえよ」みたいなこと言おうと思ったのですが、それこそ当人達には「余計なお世話」と言われるでしょう。 で、必死になる二人ってのを見て楽しんでるってのもあまり趣味がよろしくありませんですし、どうせどちらかを選んでも選ばれなかった方が契約するまで帰らないといった意固地な姿勢を見せるに決まってる、お姉さんのほうが帰らない!って言い出したら喜ばしい限りなんですが、とにかく、相手は騙して契約させるプロです、いくら抵抗したってムダですから、その際は普通に契約してあげましょう。 「じゃあ両方買います」 その瞬間、二人が「えっ?」って顔したのを見逃さなかったね。そりゃそうだ、浄水器を二つも買ってもしょうがない。買う人はいるかもしれないけど、二つ合わせて55万円ですよ。まあ、それでも比較的面倒なのでここは素直に買ってあげましょう。 「もう面倒なんで二つ直列に繋いでつけておいてください」 とだけ指示して僕は契約書にサイン、なんか美男美女の二人は仲睦まじく二人で設置作業してました。 見ると、とんでもなく無理矢理つけたみたいな浄水器がゴテンゴテンとついていて水道周りが合体ロボみたいになってるんですが、ツインカムで処理したのに出てきた水は、まあ美味いとは思えず、普通に水道水でした。 満面の笑みで「これで水が美味しくなりました!」と二人を送り出し、まあ、美男美女ですから意気投合した二人はこの後飲みに行ったりして「あの客バカだったね」とか会話してセックスと相成るのでしょうが、僕は僕で忙しい。この契約をなかったことにしないといけない。 とにかくこういった訪問販売っていうのは一度セールスを開始するとなかなか諦めません。ですから僕もとっとと諦めてツインカムで浄水器をつけてもらい、合計55万円の契約を結んだのですが、そんなもの払ってられないので思いっきりクーリングオフしましょう。 クーリングオフとは訪問販売やキャッチセールにおいて、契約したものは8日以内なら無条件で解約できるといった大変便利な法律なのですが、きちんと文書に「契約を解除する」「浄水器はいらんから引取りに来てくれ」と明記して会社所在地に送付してあげましょう。 こういった訪問販売ってのは違法で、特定商取引法の第六条で規定されているように販売目的を告げずに勧誘することを禁止しています。つまり、水質調査といって家に上がりこんで浄水器を売るってのはそれだけで違法行為、きちんと法律でもそんなものはダメだよって規定されてるものなんです。 このクーリングオフは業者側が妨害することもできませんので、数日したらちゃんと業者が浄水器を引き取りにきます。また綺麗なお姉ちゃんに会えるかなって期待してたら小汚いオッサンが取り外しに来ました。もう一社の方はあの爽やか青年が死んだ魚のような目をして引き取りに来たのですが、その際に 「大丈夫ですか?水質調査と偽って浄水器を売るのは特定商取引法第六条違反ですよ。それにこういう訪問販売ってガンガンとクーリングオフされますよね、皆がつけてもらってクーリングオフしたら儲からない、手間賃ばっかりかかるんじゃないですか?」 と心配して言ったら、青年はすごい元気ない様子で「余計なお世話です」って言ってました。そりゃそうだ。ごもっとも。とにかくあまりに元気なかったのでおしりをかじって元気にしてあげたい、そう思ったのでした。 11/21 恋空 ほら、ブスって言葉あるじゃないですか。 いやいやいやいや、まるで軽やかな挨拶の如くこんな出だしで始めると「ああ、またpatoのブス叩きか、いい加減にしろよ」なんて思う方がおられるかもしれませんが、どうか冷静になって考えて欲しい。この世知辛い世の中に蔓延する不安や欲望、それらが絶妙に入り混じった複雑怪奇な支配構造、マスメディアの横暴、それら全てを取り去って考えてみて欲しい。 僕はですね、女の人を指して「ブス」って言う時に二種類のブスがあると思うんですよ。一つは悪意あるブスという言葉、もう一つは悪意のない単純な能力値としてのブスという言葉です。前者は確かに許せない。人を貶め、傷つける目的で「ブス」と言葉を発する。これはもう言葉の暴力です。言葉のレイプです。絶対にあってはならないことだと思います。 しかしながら、後者の能力値としての「ブス」これはもうそこまで責められるものじゃないと思うんです。例えば、田村君は算数が得意だとするじゃないですか。おまけに足が速くてリレーではいつもアンカー、勉強もスポーツも出来て女子達の憧れの的、でも国語は苦手だったりするんです。 その際に「田村君は算数もできるしスポーツもできる、でも国語は苦手だよね」と指摘することに何の悪意があるでしょうか。そこには田村君の能力値としての評価しかありえません。そう、他人の能力値を客観的に評価することはそこまで悪いことじゃないのです。 ブスであるブサイクである、美人であるイケメンである、これらを能力値として捉えた場合、あくまでも算数ができるできないレベルでの評価とした場合、それはそこまで悪いことじゃあない。単純に能力を評価しているだけ、それだけに過ぎないのだ。悟空がサイヤ人に出会った時、「すげえ気だ」とまだ見ぬ強敵にワクワクしながら客観的な評価を下した、それと同じでブスの気を感じて「すげえブスだ」とワクワクして何が悪いのだろうか。 僕はまあそういう考えですから、職場の給湯室の前を通った時にブランド物バッグに命すら賭けかねない若手OLがワイワイキャキャッと談笑してる声が聞こえましてね、「えー、patoさん?あの人生理的に受け付けないー」なんて陰口が聞こえてきても凹むわけでもなく、へっへっ生理的ときたか、まいったな、なんて鼻の下を人差し指でこすったりするわけですよ。それは悪口でも何でもなくて能力値を評価してるに過ぎないのですから。 とにかく、決してブスという言葉にそこまで悪意があるわけではないということを前置きして本題に入るわけなんですが、ウチの職場にすっごいブスがいるんですよね。例えるならば映画ジュラシックパークに出てくる博士みたいな顔したブスなんですけど、爽やかな朝に出勤するとそのブスが発狂してるわけなんですよ。 キチガイしかいないこの職場で何が起ころうともそんなに驚かないんですけど、さすがに朝っぱらから発狂してる様は異様でしてね、何事かと事の推移を見守っておったんです。そしたらアンタ、そのブスが映画観にいきたいとか異様なまでの情熱をパッションさせてるじゃないですか。 いやいや、映画観るのは自由っすよ、ブスが映画観ても全然かまわないっすよ。でもね、いくら観たいからって職場で大興奮、大車輪の如き勢いで言わなくてもいいじゃなっすか。頭おかしい。そんなの言われたって僕らとしては「じゃ、いけば?」くらいにしか思わないですよ。 職場の面々は大変不愉快な思いをしてるのがありありと分かったのですが、僕としてはその光景が面白いというか興味深いというか、スパークしたブスは秋茄子より趣き深いと思ってますので満面の笑みでその光景を見守っておったのです。 そしたらアンタ、誰も相手にしてくれなくて寂しかったのかそのブスがデロデロとこっちにやってくるではないですか。アメリカのバスケット選手って突破する時にすごいフェイントとかかけるじゃない、そういった感じで真っ直ぐこっちに来るんじゃなくてフェイント入れつつ近づいてくるんですよ。ありゃ一流のNBA選手だよ。 あ、やばい、逃げなきゃて思った時は既に遅く、彼女の領域(テリトリー)内に取り込まれてしまって一歩も動けない、身動きできない状況に。もうどうしていいか分からなかったんですけどゴクリと生唾飲み込んで色々な覚悟を決めていると、 「映画観にいきましょうよ」 正直言ってレイプくらいは覚悟していたのですが、やはりさっきから騒いでいるとおり映画を観に行きたい様子。まあ、一般的で気遣いのある同僚なんかは妙に気を使って顔を引きつらせつつ「そうだね、いきたいね」なんて無難な答え方をするんでしょうが、僕は違いますよ、誰もが心の中で思っていつつも言えない言葉をガツンと言ってやりますよ。 「1人で行けばいいじゃん」 その瞬間、職場の空気が凍てつくのを感じ、ブス以外のメンツ全員が「いっちゃった!」的な表情をしたのを見逃さなかったのですが、それでもブスは引き下がりませんよ。 「バカじゃない!1人で映画なんて考えられない!」 どうもブス理論では1人で映画ってのはあるまじき非国民であり、売国行為であるような口ぶりなんですよ。そんなこと言うならポルノ映画館に行ってみろ、みんな1人で淫乱人妻シリーズ3本立てとか地獄のような上映スケジュールをこなしてるから、と言いたかったのですが、色々な意味でセクハラになりそうなんでやめておきました。 「恋愛映画を1人で観るなんてナンセンスよ」 みたいな、僕が全能の神ならば裁きのイカヅチを落としまくる、いや、そもそもコイツをこの世に生まれさせない、と思わざるを得ないことをのたまいましてね、僕ももうどうしていいかわかんなくなっちゃいましてね、ちょっと意地もあったんでしょうが 「そう?でも僕いつも1人で観にいくよ、ヱヴァンゲリヲン新劇場版とか行ったし」 と精一杯の抵抗をするのですが、やれオタクだの気持ち悪いだの寂しいロンリーウルフだの、それだけならいんですけど、いつもいやらしい目つきで私の胸元を見てる、それてセクハラですよ、みたいな関係ないことまで言い出すブス、大スパークですよ。 「もしかして、patoさんって女の子と映画観たことないんですか?」 ホント、この世で許せないことってけっこうあるじゃないですか。税金の無駄遣いとか無駄な公共事業、福祉を食い物にするとんでもない人たちとか。そういうのを一切合切超越してブスの挑発的な目線ってのはなんでこんなにムカつくんだろうって勢いでムカついたんですよ。 「み、み、観たことあるわ!」 僕だってそりゃ女の子と映画とか観ますよ、劇場が暗くなってる時に彼女の手を握って感動的な場面でスッと指輪をはめたりしてね。驚く彼女、キラキラと眩い光を放つ左手薬指の指輪、それを見た見ず知らずの子供が「スイートテンダイヤモンドだ!」とかいうんですけど、まあ嘘ですけど、とにかく、いつも独りで観るわけじゃないってことを顔を真っ赤にして反論したんです。 「何を観たんですかあ?」 「ゴジラVSメカゴジラ」 このやり取りを自分のデスクで聞いていたマミちゃんがお茶を噴出したのを僕は見逃さなかったね。ブスもブスで、生類憐みの令みたいな憐れみの視線で、外国人が困った時にやるみたいな両手を広げたジェスチャーするんですよ。 「しょうがない、私が連れて行ってあげます。きっと楽しいですよ」 とブスがすごい不本意な感じで言うんですが、僕もそこまで言われたら、ああ、なんて親切な人なんだ、僕に映画の楽しさを教えてくれるなんて、と感謝の念すら湧いてきましてね、 「おねがいします」 となり、晴れて貴重な休みの日に早起きしてブスと映画を観にいくというとんでもない、親に連れられて聞いたこともない遠い親戚の法事に連れて行かれたくらい不本意な休日を過すことになったのでした。 「ちなみに、何を観にいくの?」 「恋空だよ」 今話題の大人気携帯小説が映画化された「恋空」、1200万人が泣いたという暴れん坊なキャッチコピー、これを全く興味ないのに観にいくのでした。こんなに興味ないのに劇場に行くなんて「デビルマン」以来だよ。 さて、当日、待ち合わせの時間にシネコンの前で仁王立ちして待っている僕、頭が寝ぐせバリバリ伝説なのが微妙に僕のやる気度合いを示しています。しかしながら、今や遅しと待ち構えているのですが、時間になってもブスが全然来ない。待ち合わせの相手が大塚愛さんとかなら僕もヤキモキし、まさか急なレコーディングが入ったのでは?それとも途中で暴漢に襲われたのでは?と右往左往するのですが、この日の僕は実に堂々としていた。全く動じない不動明王の如き力強さだった。 30分くらい経っても全然来なくて、もうこの日の第一回目の上映が始まったんですけど、それでも僕は動じない。こっちから電話とかメールとかで連絡取ると、まるでこの日を一日千秋の思いで楽しみにしてたかのような錯覚に捉われかねないので何も連絡することなく不動明王ですよ。っていうか、シネコンの隣りのゲーセンでマリオカートしてた。 2時間くらいしてブスから「今ついたよ、どこ?」ってメールが着たんですが、2時間遅れて今ついたのもクソもないだろって思いつつ待ち合わせ場所へ。 「ごめんごめん、上映時間に遅れそうだったからさ、次の回でもいいかなって思って」 確かに、上映時間に遅れそうなら次の回を観ればいい、非常に合理的な考えだ。その合理性は賞賛に値する。しかし、2時間遅れるとか連絡くらいしろ、勝手に次の回にするな、2時間もマリオカートして見知らぬ小学生とかと対戦したんだぞ。 とにかく、休日のブスはやっぱりブスでホリデーブス、そんな人と興味ない映画を観るとか何やってるんだ。休日前日に夜更かししすぎて、目が覚めたら日曜の夕方だった、くらい切ないものがあるのですが、とにかく映画を観なくては始まりません。 「じゃあ、券買いにいこうか」 とか僕が言うんですけど、今度はブスが不動明王なんですよ。 「こういう時は男が買うものなのよ」 とか、僕が5州をまたいだ連続殺人犯でアリゾナを恐怖に震え上がらせた絞殺魔だったら間違いなく殺ってるようなセリフを言うんですよ。で、トボトボと券を売ってるとこに行くんですけど、危うく 「次の回の恋空、大人一枚、ブス一枚」 って言いそうになりました。危ない危ない。 そんなこんなでいよいよ上映開始と相成ったわけなんですが、まあ、あまりストーリーをネタバレしちゃうと本気で怒り出す人がいるので軽く流しますけど、良くも悪くも恋愛映画といったところでしょうか。半分くらい寝ていたのでアレなんですけど、それでもストーリーが分かってしまう親切設計になってました。 まあ、内容はおセックスてんこもりっていうか、僕がよく読むエロマンガに、テストで100点取ったら家庭教師が性器を見せてくれるってやつがあって、生徒が虫眼鏡で性器を見ていたら先生に火がついちゃってっていう、いくらなんでもそりゃねーだろ、なんでもセックスにもっていきすぎだってのがあるんですけど、それ以上にセックスてんこ盛りです。淫乱人妻シリーズ3本立ても真っ青。まあ、ザラッとあらすじを紹介すると オープニング→セックス→レイプ→セックス→セックス→セックス→セックス→エンディング とこんな感じです。非常に面白かった。しかもこれだけセックスが溢れているにもかかわらず、主演の新垣さんは柔肌一つ見せないという徹底ぶり。エロビデオに、いかにモザイクを回避するかって目的の作品があって、性器とかその辺が見えると強制的にモザイクを入れないといけないんですけど、それを徹底回避、ちっちゃこい紙みたいなのをギリギリの形で貼り付けてエロいことをいたすって涙ぐましい努力をしてるやつがあるんですけど、それに近いものを感じました。 でまあ、なんか金髪の人が死んでしまうんですけど、劇場からはすすり泣く声が。横見たらブスも泣いてました。目からビーム出しそうな感じで、劇場内をサーチライトのように照らしそうな勢いで泣いてました。 これで泣けるのってある意味才能だよなって思うんですけど、これならばハッキリ言って全財産の4万5千円をスロットで負けて魂が抜け出した時の僕の方が全然泣けるからね。失意のままパチンコ屋から出ようとしたら、魂が抜け出しすぎて人間として判定されなかったらしく自動ドアが開かなかったからね。これで泣けない人は本当に心が冷たい人だと思う。 とにかく、非常にステレオタイプというか、ある意味王道な恋愛映画でして、恋をする、セックスをする、相手がガンで死ぬ、泣ける、という、本気で書いたら2行くらい終わりかねない、セックスコンボくらいしか目新しさがない作品なんですけど、そこで僕はあることに気がついてしまったのです。 映画の前半、主人公の新垣さんがヤンキー崩れみたいな金髪と付き合うんですけど、そこでヤンキー崩れの昔の恋人が嫉妬のあまり新垣さんをレイプするよう男に命令するのです。哀れ、幸せの絶頂にありながら男たちにレイプされていく新垣さん、まあ、生々しさなんて全然なくて僕の大好きなエロビデオ「レイプレイプレイプ」っていう懲役10年物のエロビデオのほうがよっぽど迫力あるんですが、とにかくここは結構悲しい場面です。 恋愛には障害がつきもの、障害があるからこそ燃えるものだってのは誰が言った言葉か知りませんが、新垣さんとヤンキーはレイプという悲劇を乗り越えてそれでも愛を育んでいきます。その後も昔の恋人の嫌がらせなど続きますが、それでも愛を貫く二人、その健気な二人の愛に観客は心奪われ、その後に訪れるヤンキーのガンというさらなる悲劇に涙するのです。 しかしですね、ここでちょっと考えてみて欲しい。少し立ち止まって、この映画に隠された裏の意味を考えてみて欲しい。僕らはきっと試されているんだと思う。 この問題のレイプシーンは、ヤンキーの昔の恋人であるプリズンブレイクのマイケルみたいな顔した人が嫉妬に狂ってレイプを仕向けたことが分かるんですけど、そこで思うんです。果たしていくら嫉妬に狂ったといえどもあんなにカワイイ新垣さんにレイプを仕向けるほど人は鬼になれるのだろうか、ということに。 この元カノレイプ主犯説に疑問を持つと様々なことが不思議と怪しくなってきます。様々な点が線で繋がるとでもいいましょうか。ある一つの答えが導き出されるのです。 レイプされた新垣さんは失意の状態にいます。そこになぜか彼氏であるヤンキーが現れます。「愛がウンタラカンタラ」とか言ってますが、拉致されてレイプされた犯行現場に何故ヤンキーが現れることができたのか。僕はこのシーンを見たときにコイツが黒幕だ!って思いましたからね。 では、なぜヤンキーは自分の彼女をわざわざレイプさせたのでしょうか。世の中には色々と酔狂なアベックがいますが、自分の彼女をレイプさせるなんてなかなかできないことです。となると、最初から全て仕組まれていたと考えるのが妥当でしょう。 新垣さんとヤンキーの恋は、新垣さんが携帯電話を落としてしまったところから始まります。なぜか携帯を拾ったヤンキーは携帯のデーターを全て消去、全く不可解な行動に出ます。頭おかしいんじゃねえかって思うんですが、実はコレが絶妙な伏線だった。 つまり、ヤンキーは最初から新垣さんの携帯のデーターが目的だったのです。おそらく、新垣さんの両親の関係でしょう。特に父親(トラブリューの人)は怪しかったですから、たぶんですが、武器商人かなにかだったのでしょう。 日本政府は、中東に展開するアメリカに国際貢献を迫られていた。しかしながら、日本国憲法第9条がが邪魔して武力行使に繋がるような活動はできない。今現在でもインド洋における給油活動なんかで揉めてますね。国内からの反発とアメリカからの圧力、特にアメリカは中東へ展開したのは間違いだったという国内世論の高まりもあってどうしても日本に国際貢献させたかった。給油活動以外の、そう、武力行使に近い活動をさせたかった。 そこで苦肉の策として政府が目をつけたのが新垣さんの父親だった。闇の武器商人として活動していた父親を頼り、秘密裏に武器を供給、アメリカ軍へと貢献させる。表向きは給油活動であっても、中東で使われる兵器の9割が親父ルートで調達されたものだった。これにはアメリカ政府も満足し、日本政府も胸を撫で下ろすこととなる。 しかしながら、親父が欲を出して日本政府を脅迫し始めたものだから物語は急展開する。親父に全てを話されたら政権が倒れるどころか野党からの追求で与党すら危ない。与党が下野する最悪の展開すらありえる。焦った政府は口封じにかかります。しかし身の危険を察した親父は娘の携帯に極秘のデーター、日本政府が関与して中東に兵器を輸出していた証拠を潜ませます。「俺が死んだらあのデーターが出回ることになるぜ」。 問題のデーターが娘の携帯にあることを突き止めた政府は秘密裏にそのデーターを消去しようと企みます。こういった表舞台にでない汚い仕事を担当する内閣特別室所属のヤンキーがその任にあたることになりました。携帯内のデーターを消去せよ、そして娘に接触して手中に収めること、政府は娘を通じて親父をコントロールしようと企てたのです。 そして、新垣さんに接触することに成功し、おまけに携帯内のデーターを消去することに成功したヤンキー、完全に娘を掌握しますが、それでも親父は強気なまま、莫大な口止め料を政府に要求します。 「総理、このままでは・・・」 「ふん、あくまで強気、というわけか・・・枯れても武器商人よのう」 「いかがいたしましょうか」 「少し分からせてやる必要があるようだ」 日本政府の毒牙は娘の新垣さんに向かいます。 「最愛の娘が悲しい悲しい悲劇に遭う、それでヤツも大人しくなるだろう、くっくっくっ」 こうして、政府主導で娘の新垣さんはレイプされます。この計画に最後まで反対したのはヤンキーでした。最初は任務のはずだった、政府の飼い犬として与えられた使命を全うするだけだった。けれども、いつしか純粋な新垣さんの心に彼自身が惹かれていたのです。任務なんて抜きにしてただ彼女のことを好きになっている自分がいた。だからレイプ後に彼女に駆け寄った、命令を無視して駆け寄った。 「ふふふ、ヤツも人の親、すっかり大人しくなったようだ、相当堪えたようだな」 「しかし、なにもあそこまで・・・」 「黙れ小僧!貴様には分からんのだよ!この日本国という歪な国の実態がな!」 「しかし・・・」 「それより、きちんと任務を遂行して欲しいものだな。また命令違反となったら・・・どうなるかわかってるな?」 自分が憎い、自分の体に染み付いた汚い色、幼い頃からエリート官僚の父に英才教育を仕込まれ、政府のために働くべく染み付いてしまった自分が憎い。政府のためを免罪符に様々な汚い仕事もやった、殺しだってやったし、政府に批判的だった学者を痴漢冤罪においやったこともあった。真っ黒に血で汚れてしまった自分の両腕、この澄みきった青い空のように純粋に彼女を愛することなんてできないんだろうか。苦悩するヤンキー。 迷いを断ち切れないヤンキーは、それでも新垣さんとデートします。今デートしているのは政府の犬として任務を遂行しようとする自分なのだろうか、それとも純粋に彼女を愛するだけの一人の人間なのだろうか。ふと視線を上げると、怪しげな人物が二人を尾行していることに気がつきます。 「あれは・・・モサド!(イスラエル総理府諜報特務局)」 呆然と立ち尽くすヤンキー。 「どうして・・・モサドがここに・・・」 ここで場面が変わって星条旗はためくアメリカになります。国務長官が執務室で極秘資料に向き合っています。 「つまり、こういうことかね、この男はまだ生きてると」 「はい、日本国内に・・・」 「何故日本に・・・」 「イスラエルが嗅ぎつけて狙っているようです。モサドが動いているという情報も」 アメリカで情報開示された極秘文書によると、ケネディ大統領暗殺に関与した男が日本へと逃げ延び、その息子が日本国内で生存している、そして中東において反アメリカを貫くイスラエルが交渉材料としてその存在を狙っているというものだった。 そして視点は再び日本へ。 「残念ながら君には表向きは消えてもらうことになる。日本国民がケネディ大統領暗殺に関与していたと公にするわけにはいかないし、イスラエルに協力するわけにもいかない」 不敵な笑みを浮かべる総理大臣(石坂浩二:友情出演)。ヤンキーはキッと総理を見据えて言い放った。 「分かっています」 「出来るだけ自然な形で消えてもらうよ、アメリカもイスラエルも欺かなければならないのだから・・・」 こうしてヤンキーは表向きはガンによって死亡したと偽装することになりました。映画を観た方なら分かると思いますが、物語後半のヤンキーはガンにしては元気すぎると思いませんでしたか。それは偽装死だからっていう監督からのメッセージが込められていたのです。 人は自分が愛する人が悲しむことこそ苦しいはずです。自分が傷つき、悲しみ、涙に暮れる、それは幾ばくか我慢できようとも、最愛の人がそんな目に遭うことだけは我慢できません。国のため、最愛の人を欺いて偽装死をしなければならなかったヤンキーの気持ちが分かりますか。最愛の人どころか自分の気持ちすら欺いて。 「モサドのやつらは彼女にすら危害を加えかねない、自分が消えるのが一番だ」 ヤンキーは決意します。そして、彼女の前から死という形で姿を消すのです。誰も幸せになんかならない、もし許されるならば、次はみんなが幸せになれるような恋がしたいね。このシーンがムチャクチャ泣ける。 純粋に悲しむ新垣さんの姿をビルの屋上から見つめるヤンキー。彼女は悲しみのあまり自殺しようとしますが、抑え切れなくなったヤンキーがなんとか思い留まらせます。そうして表向きの物語は終わり、エンドロールとなるのですが、実はこの話には続きがあります。 相変わらず武器商人を続けていた親父が商談で中東のとある国に向かいます。小さな農村で散歩をする親父、部下が「気をつけてください、まだ治安が安定してませんから」と言い添えます。フラフラと街を歩いていると、米軍の攻撃で傷ついた人々が目に飛び込んできます。そして、脇にある小屋からこんな最果ての地で聞こえてくるはずのない日本語が聞こえてきます。 その日本人と思わしき男は、傷ついた村人を一生懸命看護しています。こんなところにまで日本人ボランティアが・・・親父は少し興味を持ち、小屋を覗きます。 「世界中どこだって空は繋がっている」 「お兄ちゃんは好きな人いるの?私も恋したいよ!」 「ああ、この国が本当に平和になったらできるさ、この空のように澄んだ恋がな、恋空が・・・」 小さい子供の頭を撫でながら、少し汚れた金髪をなびかせる日本人青年がいたのでした。何かから解き放たれたような満面の笑みで。 おわり 表面的には恋してレイプされてセックスして相手が死んじゃうエーンって感じのストーリーなんですが、実は裏にはこれだけの事実が隠されている。それが読み取れるかどうか僕らは試されていたんですよ。 とまあこんな感じのことを、恋空の裏に隠された悲恋ストーリーって感じで観終わった後にブスに話してやったんですよ。回転寿司食いながら話してやったんですよ。そしたらブスが大激怒しましてね、アワビ食いながら大激怒しましてね、あんな綺麗な話をそんなムチャクチャにしないで!って寿司代も払わずに帰っちゃいました。アワビみたいな顔しやがってからに。 それだけならまだいいんですけど、休み明けに職場に行ったら、映画の後にしつこく誘われた、恋空に感化されちゃったのかしらとか、私の胸元を見る目がいやらしかった、とか訳の分からないファンタジーが風説の流布されてり、本当に心の底からブス死ねって思ったのでした。すごい悪意のある感じで。 11/16 過去ログサルベージ いやー、まいったまいった。なんかですね、各地の遊園地に行くっていう訳の分からない仕事をやらされてまして、僕なんか絶叫マシンに乗るくらいなら舌噛んで死ぬくらいの意気込みなんですけど、全く楽しくないのに遊園地に朝から晩までいないといけないんですよ。 ハッキリ言って平日の遊園地なんえ周り中カップルだらけですからね、そのへんの植え込みでいつハメ撮りが始まってもおかしくない、そんな雰囲気がモンモンしてやがるんですよ。 そんな中にあって僕だけ仕事でスーツ姿、そんな孤独の中で恋人たち御用達し みたいなラブリーな園内のカフェで昼飯食って御覧なさい。しかも外から持ち込んだカツ丼っすよ。この世の中のありとあらゆることがどうでもよくないりますから。 そんなこんなで孤独と言う名の悪魔と絶叫マシーンという名の見えない闇と戦いつつ日本全国を転々としておりますので、とてもじゃないが日記が書けないくらい忙しい。いやいや、別に書く時間くらいはありますけど、出張費を浮かせようとネカフェ難民していて名探偵コナンを全巻読破したとかそんなのはどうでもよくて、とにかく日記が書けませんので半年に一回くらいは皆も許してくれるだろうと勝手に認識している過去ログサルベージを行います。 主にめんどうだとかそういった理由のときに過去に書いた日記をモサッとコピペしてきて事なきを得るこの過去ログサルベージもいよいよ定着してきた感があり、そろそろ3ヶ月に1回くらいの頻度でもいいかもしれないって思ってるのですが、とにかくコピペします。 もう何をサルベージしたんだかすら覚えてないので適当にやっちゃいますけど、とにかく適当に読んでやってください。それではどうぞ。 --------------------------------- 2002年12月02日 男性用トイレ問題 とある清掃員さんとお話した際のこと、その人はトイレなどを専門に清掃している人で、いわゆる「トイレクリーナー」なのだ。 どんな職業にも悩みがあるもので、トイレクリーナーさんの目下の悩みは、男性便所の尿らしい。 なんでも、最近の若者たちは、便器から離れて排尿をするらしいのだ。小便器からかなりの距離をあけて排尿をする。 自分の飛距離やコントロールに自信があるのか、自分のイチモツに自信があるのか。昔の人なんかは小便器に下半身が入り込むぐらいの勢いで排泄したものだ。隣の人に見られたくないから。 小便器から距離を開けて排尿をする人が多くなると、便器周りに飛び散る尿もすさまじい量になってくるらしい。自分では、ど真ん中ストライクと思っていても、尿というのは意外と飛び散るものなのだ。 掃除する側としては、飛び散った尿は非常に厄介らしく、こすってもこすってもなかなか落ちないそうだ。清掃員さん、困ってた。 そういえば、よく行く立体駐車場のトイレに、 「尿が飛びますので、便器に近づいてください」 と注意書きされているのを見たことがある。手書きの紙に赤と黒のマジックで書かれた紙が、便器の上に貼ってあった。多分、駐車場の管理人さんが掃除しているのだろう。飛び散った尿に頭を悩ませているのが伺える。 それでも、距離をおいて排尿をする人は絶えないらしく、しばらくすると 「1歩前に出てやれ!」 と喧嘩のような口調に変わっていた。よほど怒っているのだろう。 それでも聞き分けのない駐車場ユーザーたち、ロングディスタンスで小便をするのをやめない。すると、張り紙による注意書きは 「前進しろ!」 に変わっていた。もはや意味が分からない。それを読んだ僕は、なんだか妙に励まされたような気がした。頑張って前進していこう。 --------------------------------------- いやいやいや、いくらなんでも短すぎるだろ。しかも芸風が違うし、テンションがおかしい。しかもこれNumeriに書いた文章じゃないですからね。ということでちゃんとサルベージ。 --------------------------------------- 2003/8/2 合コン事変 合コン、それは男と女の出会いの社交場。そこで繰り広げられる骨肉の争いは目を覆うばかりである。あるものは同じ女を取り合い、あるものは実りがないと嘆き、あるものは割り勘要員として呼ばれた自分を恥ずかしく思う。 連夜盛り場で繰り広げられる合コンと言う名のドラマ。それ故、ネタになりやすいのも確かである。今日は、またもや合コンにまつわるお話です。 大学三年生の頃、合コンに誘われました。懇意にしていた4年生の先輩に「人数足りないから合コンに出てくれない?」などと誘われたんです。ハッキリ言って合コンには良い思い出がありません。ブランカのような女性に追いかけられたり(1月の日記参照)、プレデターみたいな女性を押し付けられたり(3月の日記参照)、と自殺物の思い出ばかりをプレゼントされています。ハッキリ言って行きたくない。 けれども、親切にしてくれている先輩の頼みです。誰がこの誘いを断れようか。僕は、仕方なく参加することを決意しました。その瞬間から背筋に悪寒が走り、言い知れぬ不安が僕を包んだのは言うまでもありません。 先輩は笑顔で 「カワイイ女の子ばっかり来るから!お互いに美味しい思いしようぜ!」 ってな感じで、満面のスマイルで親指たてながらジョニーのように言ってました。僕はただただ元気なく「はぁ」などと気のない返事をするのみに留まったのです。 さて、いよいよ合コン当日。待ち合わせ場所に向う僕の足取りも重い。様々な合コンにまつわる忌々しき思い出がフラッシュバックするのです。もうね、待ち合わせ場所に行ってブランカやプレデター級の女性がいたら大暴れしたかった。狂ったように暴れて合コンをぶち壊したかった。でもね、そういうのって先輩の顔を潰す行為ではないですか。どんな状況でも黙ってジッと耐えるしかないのです。なんて過酷な合コンなんだろうか。 とか思うのですけど、さすがに何度もメジャー級の選手が出てくるとは考えにくいんですよね。街を歩いてる女性ってのは皆かわいくて、かわいくない人でもそこまで濃い感じはしないのです。つまりブランカ級の女性ってそうそういるものではないんですよ。あの体験はかなり特異な体験に違いない。運悪く凄いのを引いてしまっただけだと思うんですよ。そう考えると、まさか今回の合コンまでブランカ級の選手が参戦してくるとは思えない。カワイイ子でなくても、せめて普通の子が来て、楽しく過ごせるに違いない。そう思うとなんだか足取りも軽くなってきました。もしかしたら今日の合コンは楽しいかも!うひょひょひょ などと思いながら、ちょっと遅れ気味に待ち合わせ場所へ。見ると、先輩達男性陣は既に到着してるらしく、皆で談笑しながらタバコを吸ってました。そしてその横には5人の女性がオドオドしつつ立っていたのです。なるほど、もう全員集合してるんだな。 僕は先輩に「遅れちゃいました、すいません」と話しかけます。先輩も「お!来たな。コレで全員集合だ。ちょっと紹介しとくわ」などと僕にとっては初対面となる先輩の友人を紹介してもらいました。今日の合コンの戦友であり敵でもある男たちです。ココだけの話、ドイツもコイツも冴えないツラしてらっしゃいます。こりゃあ今日の合コンは俺の1人勝ちか?などと高笑いですよ。 さらに先輩は続けて女性陣を紹介します。「こちらが○○女子大学の方々」などと紹介され、初めて彼女達5人の顔を眺めました。 ・・・・・・なんですかこれ? ホントに素で先輩に聞きそうになりました。彼女達を指差して「なんですかこれ?」って言いそうになりましたもん。もうすごいの。なんていうか、全員がブランカクラスの一流の方々なんですよ。アレですか?あなた達は、夜は墓場で運動会ですか? いやね、ここまで読むと「うわっ!patoのやつ見た目で女を判断してやがる、サイテー」とか思う人がいるかもしれません。でもな、ちょっと腹割って話そうや。綺麗事は捨て去って話そうや。いくらな「見た目は気にしない、中身重視」とか言ったってなソレは机上の空論でしかないんだよ。みんなある程度の「これ以上は勘弁」っていう最低ラインを持って生きてるはずなんだよ。確かにな、いくら一目で見てホラーお面つけてるような婦女子の集まりだからって、妖怪の集まりだからって嫌がるのは良くないよ。でもな、彼女達は僕のボーダーラインをはるかに超えてるわけ。洒落にならないほど突破しちゃってるの。そうだったらさ、もう綺麗事はやめてさ「性格が良いなら」とか言うのやめようや。ダメなもんはダメなんだからさ。 で、僕もブランカやプレデターの悪夢がフラッシュバックしだして、足がガクガク震えてきちゃって、先輩にも「先輩、僕だめっす。だめっす」とかヒッソリと懇願するかのように訴えかけてました。でも、先輩は 「ガハハ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、さあいこうか!」 などと僕を引っ張るかのようにして会場である居酒屋に連れて行くんです。もう泣きそう。 で、移動する際に、「何かの見間違いかもしれない・・・もう一度見ればそこまで妖怪ってってこともないんじゃ・・・・」などと彼女達を見るんですが、やっぱり妖怪なんです。 しかも、妖怪どもは女の子同士で手を繋ぎながらベタベタして移動してるんです。なんていうか、「私たちは男に興味がないのー」っていうアピールのように女同士でベタベタして歩いてるの。死ね妖怪どもめ。お前らが男に興味あろうがなかろが関係ねぇんだよ。俺は早く帰りてぇぇぇぇんだよ。 居酒屋に到着し、各々の席に座る面々。そこで先輩が提案します。「男女で交互に座ろうよ」とか言うんです。アホかコイツは。オマエはそんなに妖怪と混ざって座りたいのか。両手を妖怪に挟まれて酒を飲みたいのか。俺なんか妖怪に挟まれたら裏返って妖怪になるんじゃないかって心配だよ。 でもやっぱ、先輩の言うことだから逆らえないんですよ。もう座るしかないじゃないですか。妖怪と妖怪の狭間に座るしかないじゃないですか。大人しく座りましたよ。これでもう右を見ても左を見ても、前を見ても妖怪です。ここは妖怪アイランド。早めに酒に酔ってしまうしかない。 乾杯もソコソコに酒を飲みましたよ。もう肝試しみたいなものだって割り切ってグイグイ飲みました。なんておぞましい合コンなんだって思いながら飲んでました。 でもね、見ると先輩も、その友人もみんな楽しそうに飲んで妖怪と談笑してるんですよ。それはそれはジョイフルに談笑ですよ。なんかね、そうなってくると、妖怪妖怪って気にして楽しめないのが自分だけみたいな気分になってくるんですよ。そもそも、彼女達はさほど妖怪ではないのかもしれません。そう見えるのは僕だけ。 大体ね、僕はいつからそんなに偉くなったんだと。いつから合コン相手が妖怪だからって嫌がるほど偉くなったんだと。向こうに取ったら僕だって妖怪みたいなものですよ。それをね、自分だけ不機嫌に飲んでて何様のつもりなんだと。なにが肝試しだ。オマエはいつからそんな大口叩けるようになったんだよ。なんかね、僕はこの妖怪どもと楽しい一時を過ごす必要があるんじゃないかって思い始めましたよ。それがあるべき大人の姿だって思いました。 見た目で異性を判断したっていい。見た目で判断して洒落になってない人を認定しても良い。それは人として仕方のないことだから。でもね、その感情を表に出してムスッとしてるのはよくないんですよ。笑顔で妖怪に接してればいいんです。 それからの僕は違ったね。妖怪に対してもスマイル満点で接した。最高にジョイフルな会話で妖怪を楽しませつつ、気配りを忘れない。そんな最高の合コン戦士としての姿を披露してた。 そいでもって、場が盛り上がってくると、なんか妖怪5人衆が連れ立ってトイレに行くんですよ。きっとトイレで「ねえねえ、誰がいい?」とか妖怪なりに会話してるんだと思います。座席に残されたのは男性陣5人だけですよ。その瞬間でした。 先輩の友人の人が怒り出すんです。先輩に向って憤怒してるんです 「てめー!なんだあの女どもは!何がカワイイ子だー!」 とかあらん限りの勢いで怒ってるんです。もう殴りかかりそうな勢い。さっきまで笑顔で妖怪と談笑してた人が、妖怪が席を外した瞬間に怒りだすんですよ。 しかも、それに触発された他の友人達、俺も俺もとばかりに先輩に怒りをぶつけます。 「なんだアレは、核兵器級じゃねえか」 「俺は待ち合わせ場所で我が目を疑ったぞ」 「俺たちを殺す気か!!」 などと、僕が思ってた以上に罵詈雑言の嵐です。さっきまで笑顔だったのに、あんなに楽しそうだったのに。きっと先輩の友人たちも我慢してたんだろうな思いました。 で、皆に罵声を浴び去られ半泣き状態の先輩。精一杯の言い訳をします。 「だってよ、俺だって彼女達に頼まれて仕方なくさあ・・・かわいくない子が来るって言ったってお前ら来ないだろ」 とか弱々しく言うんです。アレか、俺らは生贄か。と思ったのは僕だけではないようで、友人達は「ふざけるなっ!」「俺はもう帰るっ!」などとツバでも吐き捨てそうな勢いで帰っていきました。 残されたのは僕と先輩のみ。先輩はすっかりしおらしくなっちゃって 「ごめんなぁ・・・・こんな合コンに呼んじゃって・・・・すまんなぁ・・・」 とか言ってました。そこまで言われると僕も悪い気がするではないですか、だから 「いえいえ、楽しいですよ。いい人達ばかりで」 なんて心にもないこと言ってしまいました。それが失敗だった。 それを聞いた先輩は急に笑顔になり 「マジで!?じゃあ後はおまえに任せていいかな?実は俺も帰りたくって帰りたくって、彼女達の相手するのはマジでしんどいよ」 とか狂ったこと言ってるんです。 「ちょちょちょちょ、任せるってどういうことですか!?」 焦って僕が聞くと 「ん・・・・俺は帰る」 「かえる?」とか素っ頓狂に繰り返してしまいました。冗談じゃない、なんでお前ら俺を残して帰るんだよ!とか思うんですが、時既に遅く、先輩は笑顔で帰っていきました。明らかに妖怪どもを押し付けられたようです。 その数分後、妖怪御一行様がトイレよりご生還。 「およよ?他のみんなは?」 などと、ぶりっ子に聞いてきます。黙れ妖怪め!なにが「およよ?」だ。俺はなお前らの飼育を押し付けられたんだ。皆逃げちゃったんだよ!とか思いながらも気の弱い僕は 「ちょっと事件が起こっちゃって・・・・みんな帰っちゃいました」 とか訳の分からない弁明をしてました。事件があったから帰るってなんだよ。みんな刑事でもあるまいに事件があったからって。 「そっか・・・帰っちゃったんだ」 妖怪のうちの一匹が呟きます。このまま妖怪どもがトーンダウンし、「帰ろうっか?」となったらベスト。僕も解放されるというものです。 とか思ったら、 「しょうがないね、じゃあ6人で飲もうよ」 ろくにん!? どうやら、「妖怪五匹+僕=六人」のようです。もうね、やってらんない 結局、僕は泣きそうになりながら、妖怪五匹に囲まれて深夜まで酒を飲むのでした。死。 もう妖怪とか酔っ払ってさらに醜くなるわ、服とかはだけてるわ。乳をすりつけてくるわ。僕の箸を勝手に使うわで、何度か殺したい衝動に駆られました。殺意の波動が出てたね。 さすがに、居酒屋を出て、妖怪の一匹が「もう、朝まで飲んじゃおうよ!雅子の部屋で朝まで飲もうよ!」とか狂ったこと言い出したときは走って逃げました。死ぬかと思った。 兎にも角にも、合コンとは恐ろしいものです。下手したら生命すらも危険なこともありますので、これから合コン初体験という方は十分に注意して臨んでくださいね。あと、逃げる時は思い切って逃げる決断力も必要ですよ。 僕はこの合コン妖怪事件を契機に、二度と合コンに参加しないことを誓うのでした。 おしまい --------------------------------------- というわけで、一人でお化け屋敷はいったらあまりの怖さに泣いてしまい、もうどうしていいか分からないままコナンの続き読みます。 11/8 都市伝説をぶっとばせ 口裂け女、トイレの花子さん、人面犬に死体洗いのアルバイト、はたまた宇宙人の存在をアメリカはひた隠しにしている、30歳まで童貞だと魔法を使えるようになる、などなど、最近では何かとこれらの「都市伝説」と呼ばれる出所不明な噂話を耳にする機会が増えたように思います。そういった関係の書籍がいくつか出版され、結構な売れ行きを誇っているなど静かなブームと言えるかもしれません。 僕はこういった都市伝説的な噂話ってのが大好きでしてね、大学時代に物理学の課題で電磁コイルに関するレポートを出されましてね、何を書いていいのかさっぱり分からなかった僕は思いっきり都市伝説に関することばかりを書いて提出、思いっきり単位を落としたなんて逸話を持ってるほどなんですよ。で、常々思うんですが、こういった都市伝説、今でこそはけっこう怪しげな噂話的な扱いを受ける感じがするんですが、実はこれってけっこう大切なことなんじゃないかって思うんです。 人から人へ語り継がれる都市伝説、それも多くの場合が誰かを戒めるような内容を含んでいたり、勧善懲悪だったりしています。冷静に考えるとありえないことばかりなのですが絶妙にその当時の世相というか生活様式を反映していたりするもので、よくよく考えるとこれは昔話や民話はては神話なに通じるものがあるんじゃないかって思うんです。 ですから、何十年後、何百年後の日本では、さらに形態を変えた口裂け女が当たり前の昔話として語り継がれているかもしれません。人面犬が鬼を倒しにいく話とかになってるかもしれません。きっと桃太郎や浦島太郎なんかも最初は都市伝説的な与太話が形態を変えて行ったのではないかと思うのです。 ちなみに、全然関係ないですが僕は国語の教科書に載っていたアカ太郎という話が大好きです。何年も風呂に入ってない老夫婦が風呂に入ったら垢が出まくって人間ができちゃったっていうとんでもない話で、確かそのアカ太郎が鬼を倒しに行く話です。当時の僕は、老夫婦なのに一緒に風呂に入るとか仲睦まじいなってニンマリしたのを覚えています。 そんなことはどうでもいいとしまして都市伝説ですが、問題は今の僕らが未来の日本昔話を作っているという事実です。都市伝説を語り継いでいく上でいつしか自然と桃太郎、浦島太郎と肩を並べる日本昔話になる。そうなった場合、あまり恥ずかしいエピソードを残してはいけないんじゃないかって思うんです。 例えば、桃太郎を考えましょう。おそらく日本昔話で一番有名なこの話の冒頭は、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯にではじまります。この話を聞くたびに、ああ、当時は電化製品が何もなかったんだな、川に行かないと洗濯もできないし、柴刈りに行って薪を取らないと料理も作れないし暖房にもならない、当時の人達は自然と共に生きていたんだな、って生活様式に思いを馳せることになります。 それと同じで、現代の都市伝説が遠い未来に昔話となった場合、今現在の様子を想像する材料として使われることになると思うのです。その時に口裂け女やら人面犬やら、そういったエピソードなら別に恥ずかしくはないですけど、例えば熱烈にオナニーして性器を擦ってる青年がいて、あまりに毎日やってるもんだから右腕の筋力だけ異常に発達してしまってですね、あまりの高速ピストンに性器から煙が噴出、その煙の中からランプの精ならぬ性器の精が出てきて願いを何でも叶えてくれる。青年は性器の精を狙う悪者と対決し、見事勝利、姫を救出して性器の精と共に宮殿で幸せにくらしましたっていう都市伝説だったらどうしますか。僕、恥ずかしくて未来の人に顔向けできないっすよ。 とにかく、語り継いでも恥ずかしくない、未来の人が聞いて「昭和・平成時代の人間はなにやってんだ」と思うことがない堂々たる都市伝説を残していかないといけないと思うのです。 さて、そんな「都市伝説」ですが、僕はこの名称に大きく異論を唱えたい。何も疑うことなく純粋に噛み砕くと「都市」で伝承されていく「伝説」となるわけなのですが、その大半は実際には「都市」でブレイクしないと思うんです。そりゃいくらか都市部でも流行するんでしょうけど、他に娯楽のない田舎、人と人の繋がりが濃厚なうら寂れた農村なんか噂の伝承パワーが違いますからね。もうとにかく、この手の噂なんてのは田舎ほど盛んなんじゃないかって思うんです。だから「都市伝説」って名称は微妙にシックリこない。 僕が育った街はそれこそ牛車とか走ってる本気の田舎で、うら寂れた漁村って雰囲気がモンモンとしている掛け値なしの田舎だったわけですが、やはり噂の伝達力ってのは恐ろしく、こういった都市伝説的な話は子供たちの間で一番の感心ごとでした。 大人たちってのは都市伝説とはいえないようなもっと生々しいスキャンダラスな噂で盛り上がっていたのですが、やはり子供たちはありえないような都市伝説に夢中、やはり子供ですもんね、そりゃあ30歳くらいのニートお兄さんが本気で口裂け女の存在を信じて部屋でプルプルしてたらそれ自体が都市伝説ですからね、やはり子供が噂の中心になると思います。 やはり田舎ゆえに情報伝達に大きな障壁があったんでしょう、今みたいにインターネット全盛というわけにはいきませんから、口裂け女、人面犬なんてメジャーレーベルな、それこそ全国規模の都市伝説ってのはそんなに盛り上がらなかったんですよ。その代わり、もっと地域的な言い換えるとローカルで局地的な都市伝説が大ブレイクしていました。 中でも、以下の3つの都市伝説が根強い人気で、しかもけっこう身近な話題だから信憑性があって生々しい。地域の子供たちはみんなこの噂を信じ込んでいたのです。 一つが、3丁目の廃屋近くで大声を出すと猟銃を持ったキチガイ爺さんが追いかけてくる、というもの。これは妻に先立たれた爺さんが気が狂ってしまい、おまけに子供たちまで爺さんを見放し、爺さんは子供たちを憎んでいるというもっともらしい理由がついてました。4年前に田中君のお兄さんが3丁目の公園でサッカーをしていたらいきなり猟銃で狙撃されて死んだ、なんてとんでもないエピソードまで伝わってました。 二つ目が、松山商店の周りには四つんばいで歩く化け物オッサンが出て、四つんばいのまま恐ろしい速さで追いかけてくる、というもの。これはウチの地域で駄菓子などの子供騙しな商品を売ってる商店があって、そこは酒屋も併設していたんですよね。で、そこで夜遅くまで買い食いしていると四つんばいの化け物オッサンがでてくるというもの。しかも鬼のような速度で追いかけてくるらしい。この話はいくらか信憑性があって、ウチの学年でもけっこう人気のあった、僕も秘かに恋心を抱いていた友子ちゃんという子が実際に目撃して追いかけられたという生々しい体験を語っていました。 三つ目が、タバコの灰は売れる、という噂。これは真実なのか嘘なのか良く分からない、調べてもよく分からなかったんですが、タバコを吸うと灰が出ますよね。吸殻を除いてその灰だけを一升瓶に満タンに貯めると、それを農家が1本5万円で買い取ってくれるという話。なんでもタバコの灰は栄養価が高く、畑などの土壌に撒くと野菜が成長する、だから農家が高値で買い取ってくれる、なんてことも伝わってました。 僕ら子供たちはこの3つの都市伝説を本気で心の底から信じ、3丁目に近づく時は静かにしていましたし、夜遅くなったら松山商店には近づきませんでした。ウチのキチガイ親父がタバコの灰を捨てるのをMOTTAINAI!とか本気で思っていたものです。 そんな都市伝説も成長していくに従ってそんなの本気であるわけないと大体分かってきます。そりゃあ、子供を猟銃で撃ち殺した爺さんがいたら今頃塀の中です、四つんばいで子供を追いかけるオッサンがいたら鉄格子のついた病院の中です。タバコの灰だってきっと売れないでしょう。なんとなく大人たちが恣意的に流した噂なんじゃないかなって思うんです。 3丁目の公園は住宅街の真ん中にあって子供たちが大騒ぎしていた。それを静かにさせるために大人たちが猟銃爺さんの噂を流した。松山商店で夜遅くまで買い食いしていると危ない。あそこは酒屋も併設しているから危ない大人だって来るかもしれない。じゃあ近づかないようにしようと噂を流した。タバコの灰はよくわかりませんが、きっとこんなことだと思うのです。 そういうことが大体分かり始めてきた高校生くらいの時、結構なろくでなしブルースだった僕は同級生の家にたむろし、まあ一種の溜まり場ですね、そこで悪ぶってタバコなどをスパスパ吸っていたんです。 仲間達とタバコを吸いつつワルな自分に酔いしれていたのですが、そこで子供の時に本気で信じていた都市伝説の話になりました。そういや、タバコの灰が農家に5万円で売れるって信じてたよなーから始まり、3丁目のキチガイ爺さん、松山商店に出没する四つんばいの化け物オッサンと昔話に華を咲かせる感じで大変盛り上がったのです。そして、仲間の一人が言い出しました。 「でもさ、タバコの灰は売れるんじゃない?」 確かに、キチガイ爺さん、四つんばいオッサンってのは明らかにあり得ないじゃないですか、でもね、タバコの灰はなんか一刀両断してはいけないような絶妙な信憑性があるんですよ。なんとなく、もしかしたら売れるんじゃないかって思うところがあるんです。 それにまあ、高校生といえばお金がない時期ですよ。お金はないけど遊びたいでも働きたくないなんていう生物的に見ると最下級なんですけど、やっぱお金が欲しいじゃないですか。エロ本とか買いたいじゃないですか。タバコの灰が1本5万円で売れる、これはもう驚くほど魅力的だったわけなんですよ。 「俺たちで灰を貯めて売りに行こうぜ!」 誰が言い出すでもなく、僕達は一致団結しました。とにかくこの溜まり場で吸うタバコの灰を貯める、一升瓶1本貯めて農家に売りに行こう。売れた金は皆で山分けだってことになったんです。 そこからは凄かったですね、みんな狂ったようにタバコ吸うのはもちろんのこと、各々の家庭で出た灰までこっそり持ってきましてね、どこにこんな情熱があるんだろうと思うほど熱心に灰を集めたんです。で、ついに決起から2ヶ月経ったある日、一升瓶満杯のタバコの灰が僕らの目の前に現れたのです。僕らのようなクズだって目標を持って頑張れできるんだ、よくわからない感動が身を包んだことを今でも覚えています。 しかしながら感動に打ち震えているわけにはいきません。すぐに次なる問題が浮上します。これをどこに売ればいいのか。普通に考えると、本当にタバコの灰が売れるならば買い取ってくれる機関があってそこに売ればいいわけなんですが、僕らはれっきとした高校生なわけなんです。高校生が我が物顔でタバコの灰を売りに来る、これはどう考えてもマズいわけなんです。 「そうだ!農家に直接売りに行こうぜ!」 これが飛びぬけた発送でした。もし農家が本当にタバコの灰を欲しているのならば、難しいこと考えずに直接売りにいけばいい。急に光明が差した僕ら4人、いてもたってもいられず早速一升瓶を持って近くの農家へと赴きました。 この辺では結構広大な畑を所有しているという農家のことを山本君が知っていました。そこになら売れるんじゃないかってことで山本君が案内するままその人の家へ。実際に行ってみると本当に大農場主なんだろうかという貧相な家で、今にも崩れそうな廃屋でした。 「こんにちはー、すいませんー」 土間みたいになっている玄関で大声を出して呼びかけます。しかし、一向に反応がありません。 「すいませーん、タバコの灰を売りに来たんですけどー」 僕ら四人で大声を出して呼びかけるのですが反応なし。磨かれた板間に反射した光と、玄関から襖の隙間に見える居間、その奥にある立派な仏壇だけが妙に印象的でした。 「どうする?だれもいないんじゃ?」 誰も居ないのに玄関に鍵すらかかっていない、これは田舎では割とよくあることです。もう諦めて帰るか別の農家に売りに行くか相談していたところ、異変が起こりました。 ガチャリ 何か不振な物音が家屋の奥から聞こえてくるのです。他の連中は相談に夢中で気付いていないみたいでしたが、僕は確かにその物音を聞きました。何かいる。この家には何かいる。逃げなくてはいけない、動物的な直感が背筋を伝いました。その刹那、とんでもない事態が捲き起こったのです。 「テメーら!泥棒か!」 長い長い廊下、あまりに長すぎてその奥は暗がりになっていたのですが、その闇の中から何やら奇声を発した生物が猛然と突っ込んでくるのです。何が起こったのか分からずにマゴマゴしている僕達、よく見ると老人が手に猟銃を持ってこちらに突進してくるではないですか。 「銃持ってる!逃げろ!」 何故か殺されると思った僕らは脱兎の如く逃げます。しかし、猟銃を持った老人はなにやら奇声とも雄叫びとも思える大声を出しながら追ってきます。なんか僕らは逃げる時に玄関の戸を閉めて逃げたのですが、その戸を蹴破って追いかけてきた。 なんで追いかけられててしかも生命の危機に瀕しているのか全く分からないのですが、僕らは家の前の畑を横切って本気で逃げます。それでもキチガイが追ってくるものですから自然と4方向に分かれて逃げました。 こうなるとキチガイ爺さんは一人しかいませんから殺されるのは1人で済みます。すると、一番足の遅かった山本君が獲物として狙われることになったのです。 「hckすえふえvlヴぇwv」 猟銃片手に奇声を上げる爺さん。 「助けて!助けて!」 泣き叫びつつも必死で逃げる山本君。 僕らはもう追いかけられることがないので物陰に隠れてそのシュールな光景を見守っていました。最終的には、道路まで逃げた山本君が、手に持っていた一升瓶を地面に叩きつけ、モワーッとタバコの灰が爺さんを包み、その隙に逃げることに成功していました。 それぞれがそれぞれの方法で逃げおおせ、なんで追いかけられたのか、なんで殺されかけたのか分からないまま溜まり場に再集合します。 「なんで俺だけ置いて逃げるんだよ!」 「置いて逃げてねえよ!物陰から見てたよ」 「よけい悪いわ!」 なんていうハートウォーミングな会話を交わし、まだ激しく荒れている呼吸を整えながら冷静に議論します。 「あれは僕らが悪いことしたとかじゃなくて、単純にあの爺さんがキチガイだったんだな」 「キチガイに猟銃持たせるなよ」 「なんで俺だけ置いて逃げるんだよ!」 活発な議論が進む中、2ヵ月間必死の思いで貯めた灰を煙幕代わりに使った山本君の弾劾裁判が始まります。 「お前のせいでタバコの灰がなくなった」 「どうしてくれる」 「だいたい、あのキチガイ農家を案内したのはお前だろ」 必死で責め立てる僕ら、 「なんで俺だけ置いて逃げるんだよ!」 山本君はもう涙目でした。そして僕はあることに気がついてしまったのです。 「なあ、あの農家って何丁目?」 「3丁目だよ」 一同が沈黙します。 「おい、それって3丁目の猟銃爺さんじゃないのか」 なんてことだろうか、子供の頃に信じていた都市伝説、そんなのはどうせ嘘だろうと思っていたのに、まさか本当に実在したとは。きっとあの爺さんがあの調子で子供を追い回したんだと思う、それが噂になって都市伝説として語り継がれることになった。そういうことなのかもしれません。 「ということは・・・」 都市伝説は嘘でもデマでも誇張でもなくて本物だった。3丁目には本当に猟銃を持ったキチガイ爺さんがいた。つまり他の都市伝説も本物である可能性が高い、ということは・・・ 「タバコの灰も売れる可能性が高いってことだな」 山本君が言う。違う、そっちじゃない。だいたいタバコの灰はお前が煙幕に使ったじゃないか。 「松山商店の四つんばいオッサンもいるかもしれないってことだろ」 「その謎を解き明かすしかないな!」 いつの間にか目的が変わっていた僕達、我が町に伝わる都市伝説の謎を解明しなければならないという使命感に燃えてしまい、最大の謎である「松山商店の四つんばいオッサン」の謎に迫ることになったのだった。 子供の時に聞いた内容などから考えると、ほとんどの場合で四つんばいオッサンは夜に出没している。暗闇の怖さや、その周辺に街灯が未整備だったことが四つんばいオッサンのミステリアスさを演出していた。 早速、僕ら四人は松山商店の近くで張り込みを開始する。高校生にもなってなにやってるんだって思うんだけど、僕らは至って真剣だった。猟銃爺さんもいたんだから四つんばいオッサンもいるはずだ。ウチの学年のアイドルだった友子ちゃんだって襲われたんだ、あの子は嘘つくような子じゃない、きっと本当にいるんだ。 どうせ溜まり場にたむろするくらいしかすることなかった僕らでしたから、その溜まり場が松山商店近くの物陰に変わっただけで、僕らはそこで何日も張り込みをしました。張り込んでいて分かったのですが、松山商店は駄菓子屋と酒屋を併設している商店で、それと同時に立ち飲みやって言うんでしょうから、酒買ってその場で飲むこともできるシステムになっていたんです。 で、ですね、夜もそこそこに深まってくると、けっこう酔っ払いの親父どもがフラフラと通りを歩くんです。ウエーイとか叫ぶダメな大人もいましたし、道端でゲロ吐いているダメな大人もいました。こりゃあ、これだけ酔っ払いがいるならば四つんばいオッサンがいてもおかしくない。きっと酔っ払いなんだろう、と心のどこかで思っていましたし、あんな大人にはなるまいと心に誓ったりしていました。 何日経ったでしょうか、その日もいつものように張り込みを続けており、暗がりの中でトランプなどをして暇を潰している時でした。松山商店の前の通りから普段は感じないような異様な熱気というか殺気というか、とにかく触れてはいけないような異常な思念を感じ取ったのです。 「なにかくる・・・」 僕らの手は止まり、トランプそっちのけで通りを注視します。見ると暗がりの中に一つの影がありました。しかしながら、それは人間のものとするにはあまりに低い、まるで地面に這うような物体。 「でやがった!」 色めき立つ僕たち。やはりこの都市伝説も真実だった。あまりのことに狼狽する面々、そんなものはお構いなしに謎の物体はなにやら呻き声を発している。 「ウェーイ」 どでかいエリマキトカゲのようにノシノシと通りを四つんばいで歩く黒い影。しかしながら呻き声はオッサンのそのもの。間違いない、都市伝説どおりの四つんばいオッサンだ。 「どうするんだよ!」 「捕まえるしかないだろ」 「どうやって!」 できればそんな恐ろしいものには触れたくない。しかしこの目で真実を見なくてはならない。お前が行けよ、お前が行けよと言い争った結果、多数決で山本君がいくことに。それでも渋る山本君を半ば投げ出すような形で道路に押しやりました。 「うわ!」 情けない声を上げる山本君、その声に反応して黒い影がこちらを向きます。 「なんかこっちみたぞ!」 ビビる山本君、こちらを向いて微動だにしない黒い影。物陰に隠れていた僕らは息を呑みました。静寂、緊張、興奮、永遠と思われるほど時が止まる。ジッと対峙したまま山本君と黒い影。ゴクリと生唾を飲む音が聞こえてしまうんじゃないかと思うほど。 次の瞬間。黒い影が山本君に向かって動いた。動いたかと思ったらありえない速さ。ワサワサワサとあっという間に間合いをつめる。 「山本!逃げろ!」 何かが危ない!危険が危ないと思った僕は叫んでいました。しかしながら、あっという間に間合いを詰めた黒い影はもうすぐそこまできています。ああ、山本君が殺されてしまう。 大切な大切な親友が危険な目にあっている。いてもたってもいられなくなった僕らは誰が言い出すでもなく物陰から飛び出しました。 「おい!捕まえろ!」 「そっちいったぞ!」 「抑えろ!抑えろ!」 「何で僕ばかりこんな目に遭うんだよ!」 闇の中を四つんばいですばしっこく動き回る黒い影。しかしこちらは4人がかりです。さあ観念しろ!とばかりに捕まえます。 「やった!捕まえたぞ!コイツ!」 誰かの叫び声が高らかに響き渡ります。ついに捕まえた。ついに都市伝説の正体を掴んだ。全く、俺たちの永遠のアイドル友子ちゃんを怖がらせるとはふてえやろうだ。この酔っ払いめ!と四つんばいオッサンの正体を確認すると、 うちの親父でした ムチャクチャ酔っ払ってて「よう!」とかハニカミながら言ってました。オッサンなにやってますのん。 つまりはこういうことです。松山商店の立ち飲みブースで酩酊するまで飲む親父、これはもうライフワークでほぼ毎日と言っていいくらい通っていたそうです。なぜか酔うと四つんばいで歩きたくなるらしく、そのまま這うようにして家路へ。その光景を友子ちゃんや誰かに目撃されて大騒ぎ、といった按配のようなのです。どおりで、酔って帰ってくる親父の膝とかが汚いと思ったわ。おいおい、この地域の子供たちが本気で恐れている都市伝説の一つがウチの親父かよ。 都市伝説の正体がウチの親父だったということが判明してしまい、最初は「コイツ!暴れるな!」とか血気盛んだった友人たちも「あ、おじさん、こんばんは」とか何故か礼儀正しくなってる始末。酔っ払って前後不覚なの親父はご機嫌でウェーイとかなってました。 「じゃあ俺、親父連れて帰るから・・・」 「うん、おやすみ・・・」 「また明日ね・・・」 微妙に気まずい気持ちを抱えつつそれぞれの家路へと着く僕たち。 なんてことだろう、この街の都市伝説は本物だった。しかもそのうち一つがウチの親父だったとは。その瞬間、友子ちゃんを襲う四つんばいウチの親父という非常にシュールで嫌な絵図が浮かんでしまい、僕はただただ涙するのでした。 都市伝説はその全てが完全なるでっち上げというわけではない。噂の発生源には必ず何かしらの原因、元となる事件事故や事実、それに加えて誰かの意図が入っているのだ。なんにせよ未来へと語り継がれて昔話となるだろう都市伝説。それだけに、現代人として恥ずかしい話だけは語り継いではいけない。決して、ウチの親父が松山商店の近くで四つんばいになって徘徊するなんて噂は語り継いではならないのだ。 酔っ払って歩けない親父を引きずりながら月夜の帰り道、この都市伝説をどうやって打ち消すか思案に暮れるのでした。 ちなみに今現在、ウチの地元ではどうも友人の誰かがウチの親父が発生源だとばらしたらしく、それが形を変えて間違って伝わってしまい、松山商店の近くに四つんばいの親子が出るという意味の分からないものに形態を変えています。これだから都市伝説はおそろしい。そのうち親子でやって都市伝説を真実にしてやろう。 10/31 光と影 光ってのはものすごい。ただただ驚愕するしかない。 真空中における光の速度は秒速30万キロメートルで地球を7周半。波動の性質と粒子の性質の両方を備えた二重性を持っている。そんな理科チックな話しはどうでもいいとして、とにかく光ってヤツは途方もなくすごい。アツい、ヤバい、間違いない。 小学生くらいの時、僕らクソガキの間では光ってヤツは圧倒的な速さの象徴だった。理科の時間に聞いたかなんか知らないけど、光の何たるかななんて全然知らず、とにかくすごい速いもんだと認識し、様々な場面で活用していた。 中でも、足が速い琢磨君って男の子がいて、彼は頭がバカでどうしようもなかったんだけど足だけは一級品に速かった。いつもいつも運動会の主役で、クラスの女子にもモテモテだった。そんな琢磨君が「俺は光より速い」と途方もないことを言い出すもんだから僕らは色めき立った。 早速、四区の児童公園に集まった僕らは懐中電灯片手に琢磨君と光どちらが速いか試した。カチッと懐中電灯を照らすと同時に裸足の琢磨君が走り出す。僕らはどちらが先にゴールにたどり着くか真剣に判定をした。そう、あの頃、確かに僕らはバカだった。 当たり前の話だけど、光ってのは琢磨君より全然速くて、いくら彼が顔を真っ赤に染め上げて走っても全く敵わなかった。それくらい光ってのは凄いものだったし、絶対的な領域だと思っていた。 僕が20歳くらいだった時。大学の関係で名古屋のとある工場に送り込まれ、そこで2週間くらい監禁されるという研修という名の地獄の日々を過ごしていた。そこではクソ暑い工場のど真ん中に座り、落ちてるゴミみたいな綿毛を5分ごとに拾って重さを量るという、正常な精神の持ち主なら発狂しかねない単純作業に従事していた。 2時間もやってると測定数も20を超えて綿毛の重さとか心底どうでもよく思えてき始めてきて、記録紙に適当な重さとか記入し始めるのだけど、ふと工場の隅が気になった。そこでは何か半透明なチューブのようなものがウネウネと蠢き、その傍らにはうず高く積み上げられたチューブタワーがそびえ立っていた。夏だね!と言い出しかねないくらいのチューブっぷりだった。 「あれはなんですか?」 この工場ではゴミのような綿毛しか作ってないはずだ。あんなチューブが存在するのがそもそもおかしい。不審に思った僕は通りがかった社員の人に尋ねた。 「ああ、あれね、光ファイバーだよ」 光ファイバーという言葉が出てきた。その言葉を聞いてもクリスマスなどに街角に並ぶあのインチキ臭いイルミネーションしか浮かばず、 「へえ、確かに綺麗ですもんね、光ファイバーのツリーとか」 とか雑談に花を咲かせると社員の人は鼻で笑った。 「いやいや、そんなんじゃないよ。インターネットなんかの通信に使う光ファイバーの開発をしてるんだよ」 当時はまさにインターネット初期で、みんなゴリゴリとモデムと電話回線を使ってムリムリとインターネットに繋いでいた。24時間繋ぎ放題なんて素敵なプランもなく、テレホーダイなんてキチガイじみたサービスがあるだけ、回線速度だってムチャクチャ遅くて画像でもヒイコラ、動画なんてダウンロードしようものなら一日仕事だった。けれども、それが普通であって特に不便とも感じずに皆がシコシコと繋いでいたんです。 そんな事情もあってか、「光ファイバーでインターネット」ってのがどうもピンとこず、あんな綺麗なだけのインテリアがインターネットに使えるもんか、だいたいファイバーってなんだよサガットが変なビーム出す時の掛け声か、などと思ってました。 あれから10年余り、インターネットを取り巻く通信環境は激変しました。電話回線ダイヤルアップからISDN、ケーブル、ADSL、そして時代はついに光ファイバー(FTTH:Fiber To The Home)へと移行したのです。あの日、あの工場で見たファイバーの山たち、あれが普通に実用レベルで普及したと考えると感慨深いものです。 さて、今や多くの人がADSLやケーブル、光でインターネットに接続し、高速通信、常時接続などが当たり前のように展開されています。そして、それらの中でも頂点に君臨するのがやはり光ファイバーではないかと思います。 その実態や構造は良く分かりませんが、やはり「光」というネーミングが秀逸すぎます。前述したとおり、僕らの多くは「光」に対してこう考えるはずです、速度に関しては絶対的な存在であり、これ以上速いものは存在しない、と。 東海道・山陽新幹線で考えると分かりやすい、開業当初、新幹線は「こだま」と「ひかり」の2種類が存在し、「ひかり」は速度が速く、「こだま」はその下位的な扱いだった。つまり、音である「こだま」よりも光のほうが速いというネーミングセンスだ。そして、1992年に、当時熾烈な料金値下げ競争によって利用者数を伸ばしていた航空機路線に対抗する形で新型車両を開発、さらに上位の新幹線として「のぞみ」が導入された。これはもう、光より速いものは人間の精神世界くらいしかないだろうという、光の絶対的速さに対する諦めともとれるネーミングだった。よけい分かりにくくなった。 とにかく、それほど絶対強者として存在する「光」、それをインターネットに使うんですよ、とした「光インターネット」は名前の勝利だと思う。誰もが鬼のようにクソ速いインターネットを連想する。それほどに「光」の存在は強烈だ。 しかしながら、ことインターネット回線に関しては、僕個人はあまり恵まれているとは言えない歴史を辿ってきた。なにせ、数年前のADSL花盛りの時代においてもシコシコとダイヤルアップで繋いでいて、調子に乗ってインターネットやりすぎて電話代に卒倒したこともある。 やっと、ADSLを導入した数年前においても、立地条件が悪かったのか速度が死ぬほど遅かった。そして、度々の利用料金延滞により幾度となくネット回線を停められ、酷い時はエロ動画をダウンロードしている途中でやられたこともあった。「舐められたらでちゃう01.zip」をダウンロードして調子悪かったので再起動して続きをやろうとしたら停められてて「舐められたらでちゃう02.zip」「舐められたらでちゃう03.zip」「舐められたらでちゃう04.zip」とダウンロードできなかった。01には絡み前のインタビューしか入ってなかった。こんなので抜けるか。 さらには賢明なヌメラーの皆さんなら記憶に新しいことかと思うけど、
こんな意味分からない利用料金の請求が来たこともあった。なんだよ、35円って。 とにかく、あまり良い思い出のなかったADSL、これも度重なる料金延滞により契約解除、同時に電話回線もなくなるという悲劇に遭い、あっという間にか我が家からインターネット回線が消えた。 別にインターネットなくてもいいや、職場でやるし、って感じで数ヶ月、ネット無し我が家を堪能していたのだけど、さすがにそういうわけにもいかないのでそろそろ何とかしようと職場からネットを徘徊、そこで「ADSLより安い光インターネット」「今なら工事費無料!」という魅惑的な言葉が踊るサービスを見つけてしまったのです。 なんと、あの確固たる絶対強者、最強で孤高の存在である「光」、それを利用した最強のインターネット回線が我が家にやってくるというのか。それもADSLよりも低料金で工事費も無料、こりゃもう、申し込むしかない!もうね、光の速さで申し込みしましたよ。 それからまあ、妙齢のお兄さんが我が家に工事下見にやってきてエロ本の山を見られたり、工事の日をすっかり忘れてて、ゴミだらけのカオスな部屋で工事してもらって、工事の人が嫌な顔してたり、という悲劇を経てついに9月中旬、我が家に光インターネットがやってきたのです。 あの光が我が家にやってきた。思えば長い道のりだった。ダイヤルアップモデムの接続音や、ADSLを停められた時の無慈悲なエラー画面「リダイヤルしますか?」という画面などが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。僕はこの日、ついに世界を制する力を手に入れたのだ。 まずはエロ動画のダウンロード。 鬼のように速い!光インターネットすげえ! 次にこのNumeriファイルのアップロード。 一瞬!光インターネットすげえ! メールチェック、普段、一日にスパムを含めて500通くらいメールが来るのですが。 500通が数秒で!光インターネットすげえ! もう感動しすぎて10Mくらいのファイルを意味もなく何回もアップロードしてはダウンロード、感動に打ち震えていたのでした。 さて、そんな素敵過ぎるインターネットライフを満喫し、やっぱ光はすげえやって思ってたのですが、そんな平和で平穏な日々を送る僕の元に1通の手紙が届きました。
頼もしすぎる赤い文字、光インターネット会社からのハガキでそこには請求書と書かれていた。 あれれ、おかしいな、確か工事費は無料で利用料金も最初の1ヶ月は無料のはずなのに。何かの間違いかしら。でもまあ、あまりに素晴らしい光インターネットだ、ちょっとくらいの料金なら払ってもいいんじゃないか。あんな素晴らしいサービスを提供してもらってるんだ、それくらいしたってバチはあたらないはずだよ。そう考え、シールみたいになってるハガキを開き、いくら払えばいいのかしら、なんて軽い気持ちで確認したのでした。そして、そこには驚愕の事実が。
初期費用142万6800円 高額!光インターネットすげえ! ありえねーだろ、おかしすぎるだろ。なんか10万くらい値引きされてるみたいなんですけど微々たるもの、もうとんでもないことですよ。払えるわけがない。 いやいやいやいや、落ち着け、ちょっと落ち着け。冷静に考えろ。これは何かの間違いだ。架空請求とかでもここまでの高額は要求しない。っていうか光インターネットの導入にこれだけかかってたら石油王くらいしか導入できない。きっと何かの間違いだ。 まあ、そもそも消費税の額が142万にしちゃ少なすぎるので明らかに何らかの壮大なミスだったんでしょう、予想通り後日にはきちんとした7000円くらいの請求書が届いたので一安心したのですが、何も謝罪とか説明もなく、なんかイライラしましてね、もしこれで本当に払う人がいたらどうするんだよ、何もしらないお婆ちゃんとか払っちゃうかもだろって怒りに打ち震えてしまったんですよ。 というわけで、この140万あまりの請求書、実際に窓口まで行って払ってみることにしました。このミス請求書片手に払いに行って嫌味っぽく払おうとして窓口の人困らせてやる。
142万円。どこにこんな金があったのかって?これだけのためにプのつくところとアのつくところのサラ金から借りてきました。早く返さないと金利が恐ろしいことになる。
ちょー分厚い。とにかく、現金ちらつかせながら払う気マンマンって感じもプンプン匂わせてみたいと思います。 さて、光インターネット提供会社を調べて現金片手に赴きます。なんか受付っぽいカワイイ、大塚愛さんに少し似ているお姉さんがいたので札束をチラチラとのぞかせつつ話しかけてみました。 「あのー、すいません、この料金を支払いにきたんですけど」(札束をチラッ) そう言って頂戴したあのとんでもない金額の請求書を渡します。これでこの受付の姉ちゃんも驚愕するに違いない。 「ああ、私どもの手違いでなんて酷い請求額を!」 「いえ、いいですよ、気にしないで。間違いは誰にでもある」 「気にします!私にできる償いならどんなことでもさせてください!」 「いえいえ、いいですから、気にしないで。それにはした金ですよ、こんなもん」(また札束をチラッと) 「私の気が済みませんから!どんなことでもします!」 「うむ、しゃぶってくれい」 もう、こうなるに決まってます。そうに決まってる。ああ、サラ金まで行ってきて良かった。 しかしながら、お姉ちゃんは請求のハガキに一瞥もくれず、まるで僕のことを鼻で笑うような蔑んだ視線を投げかけてくると一閃ですよ。 「申し訳ありませんが当社は窓口での支払い業務はやっておりません。このハガキを持ってコンビニなどで支払っていただけますでしょうか?」 なんか、最近、NTTをはじめとするほとんどのネットワーク関連の会社がそうみたいなんですけど、窓口での直接的な接客ってやらないみたいなんですよね、まあ、人件費かかりますし、で、やってないからと一蹴ですよ。もう恥ずかしくなっちゃいましてね。 「いや、あの、その142万・・・」 とか訳の分からないことを口走りつつ逃げ惑う僕。もう顔真っ赤、耳まで真っ赤にして命からがら逃げ出し、僕はなにやってんだ、ととんでもない自己嫌悪に陥るのでした。で、コンビニ窓口で払ったら本気で全額取られかねないので、後から来た正規の請求書のほうで7000円くらいを払い、大金もサラ金に返済しておきました。金利は700円くらいだった。 僕は受付で味わったあの恥ずかしさを一生忘れない。あの逃げ足の速さと顔の赤さは遠きかの日の琢磨君よりも速く赤く、もしかしたら光すらも超えていたのかもしれなかった。 10/28 時計じかけのオレンジ 人を見かけで判断するなって話があるじゃないですか。 いくらかの規律が守られた整然とした社会生活の中で、僕らは公然と人を見かけで判断することをしません。いくら心中でそのようなビジュアルによる選別を行っていようとも、それを前面に出すことはほとんどないはず。それが美徳とされているのです。あの人見てくれが悪いからきっと性格も悪いぜ、そんなことを公然と口にする人がいたとしたら、それは社会通念上あまり好ましくないのが現状です。 あれは僕が小学生の時でした。あれは母親がやけにハッスルしている時のことでした。学校を終えて家に帰るとなんか母親がスパークしていて、何をどう考えたらそういう思考に至るのか皆目理解できないのだけど、 「おソバ食べに行くわよ!」 と大車輪のごとき勢いを見せる母、幼かった僕は母のその熱い想いを受け止めきれずただただ狼狽することしかできなかった。 なんでも、少し遠い山の裾野に美味しいおソバ屋さんがあるという情報をキャッチした母はなんとしてでも食べたい、そう思ったそうだ。しかしながら、変にアクティブで変にアクティブじゃない母は一人で行くのは嫌らしく、僕を誘ったようだった。 「友達も連れて行っていい?」 こういったアクティブモードに入ってしまった母は、「仕事と私どっちが大切なの?」とか言い出す妙齢の女性くらいにウザったいことは分かりきってましたので、友達を誘ってなんとか友達のほうに逃げようと画策したわけです。 「車に乗れるのはあと3人だよ」 母のセリフはあと3人誘っても良いと暗に示すものでした。あまり乗り気ではないようでしたが、早速電話をかけて近所の友人を誘います。みんな暇だったようですぐに2名の友人が捕まりました。きんじょということもあって鼻垂らしながら走ってやってきたわけで、タダでソバが食える、しかもドライブにまでいけると大はしゃぎ。すぐにでも行こう行こうって感じになったのですが、そこで一人が言い出したわけなんです。 「あと一人誘えるんじゃない?」 もうこの友人もずうずうしいにも程がある。彼は後に人の家に勝手に上がりこんで勝手に冷蔵庫開けて「たいしたもん入ってねえなー」と口にする豪胆な男へと成長を遂げるわけですが、そんなことはどうでもいいとしてあと一人です。あと3人まで誘えるという母の言葉を受けて誘ったのは2人だけ、単純な算数でもう一人誘えるというわけです。 「おい、だれ誘う?」 早速、僕と友人2人であと1人を誰にするか話し合います。塾とかがなくて暇そうにしている近所の友人、それでいてあまりずうずうしくないやつがいい。この人選によってはソバ屋までドライブが楽しくないものになってしまいますから重要です。真剣に、真剣に話し合う僕たち。母はその光景を微笑ましく見守っていました。 「なあ、山本を呼ぼうぜ!」 友人の一人が言い出します。しかしながら、僕は正直、山本君のことはあまり好ましいとは思っていませんでしたので少し複雑な気分。いやいや、山本君自身の中身は大好きですよ。たまに公園でエロ本とか拾ってきますし、何より喋る内容が本当に面白い。中身だけ見たのならば本当に好きな部類なんです。 でもね、山本君、なんか顔がオッシコ漏らした時みたいな切ないことになってんですよ。常に「あー漏らしちゃったー」的な哀愁すら感じる表情をしておられるんです。まあ、そういった顔だから山本君が嫌いだとか、仲間外れにしようってことは全然なくて、僕だって途方もないブサイクフェイスですから言わないですよ、ただ、その山本君はドライブに向かないんじゃないかなって思ったんです。 考ええもみてください。少し遠めのソバ屋までルンルン気分でドライブですよ。そんな中にあってオシッコ漏らしたみたいな顔した山本君がいたらどうなりますか。もしかして山本君漏らしちゃったんじゃ、と気が気ではありません。山本君の顔を見る度にハラハラしてしまい、とてもじゃないがドライブ、そしてその先にあるソバ屋が楽しめるとは思えません。本当に漏らされたらそれこそたまったものじゃありません。 「山本君はやめておこう」 冷静に言い放つ僕。その言葉に友人たちは動揺しました。 「なんで、山本君と仲良いじゃん」 これはもう、僕が危惧している本当の理由を告げねば納得しない勢いです。山本君はいつもオシッコ漏らしたみたいな顔してるから我々もハラハラして色々と大変だと思う、そう伝えようと思ったのです。 「山本君は顔がさ・・・」 さあ、そう言った瞬間ですよ。これまでニコニコと僕らの話し合いを見ていた母が、見る見ると怒りの表情に。そこには母の優しさも穏やかさも弱々しさも欠片も存在しない勢いで修羅がおわした。 「アンタ!人を見た目で判断するような子に育てた覚えないよ!」 ズカズカと歩み寄ってきて殴る蹴る。あの優しい母が殴る蹴る。友人たちもその光景をポカーンと見ることしかできず、とんでもなくシュールな絵図。薄れ行く意識の中で見た母の顔は涙でグチャグチャでした。母の荒ぶる呼吸と、怒りから声にならない声が出ているのか、ヒョーヒョーと言いながら僕を殴る姿はバルログそのもので、そのうち金網にへばりついて飛んでくるんじゃないかってほどでした。 結局、怒り狂った母によってソバ屋行きは取りやめになり、友人たちもなんとも気まずい思いを抱えながら帰宅。その日の僕はソバ屋どころか夕飯も抜きで正座させられて説教されるという。事情を知らない人が見たら「なに?彼この後自殺するの?」って言い出しかねないほどの怒られっぷりでした。 僕が他人を見た目で判断したことが許せなかった。それだけを伝えたいようだった。ここまでヒステリックブルーな例は極端ですが、往々にしてそういうもんじゃないかと思います。やはり大っぴらに人を見た目で判断するってのはあまり良くない。僕らはそうやって育てられてきたし、今尚そういったモラルの中で過ごしているはずだ。 けれども、ちょっと待って欲しい。ちょっとだけ立ち止まって考えてみて欲しい。そもそも、人を見た目で判断するってのはそんなに悪いことなのだろうが。バルログに突付かれるくらい悪いことなのだろうか。 ここで一つの例を挙げるので考えてみて欲しい。 僕は先日、2027という名前の極悪なスロット台に歴史的に金を巻き上げられるという大失態を演じてしまい、給料日までの30日間を600円で過ごさなければならないという地獄の一丁目に到達した。もちろん、その600円すら光の速さで使ってしまい、もうここまで絶望的だと意味もなく部屋の掃除とか始めてしまうのだけど、そこで一つの考えに至った。 「この電子レンジ、売っちまったら金になるんじゃ?」 だいたい、なんでウチに電子レンジがあるのかすら分からないくらい使用しない。ずいぶん前にガスがとまってしまい、カップラーメンを作ろうと容器ごと中に入れてチンしたらアルミの部分が放電して火を吹いた。それ以来使ってない。こんなもんなくなっても大して困らないじゃないか。 もうすぐに電子レンジ担いでリサイクルショップに行きましたよ。電子レンジっていったらアンタ、むちゃくちゃハイテクな家電製品ですよ。22世紀からやってきた家電製品ですよ。なんでも温めることができる。下手したら飯だって炊けますからね。いくら買い叩かれたとしても1万円は固いと睨んで行きましたよ。 そしたら、外見の油汚れが酷いという理由で2500円ですよ。買い取り価格2500円ですよ。スーパーハイテク家電が2500円、悪い夢でも見てるかと思いました。 結局、こういった場では見た目が全てなんですよね。リサイクルショップにとっては見た目が綺麗かどうか、それだけが大切なんです。こう見えてもこいつは結構いい温め方する、だとか、優しい温め方をする気のイイヤツ、なんてのは全く関係ないんですよ。見た目汚い、2500円。これですよ。世の中ってだいたいこうなんですよね。 そりゃ僕だって人間と電子レンジを混同するつもりはありませんよ。でもね、やっぱそういうことなんですよ。よく知りもしない電子レンジを買い取る時、やはり見た目で判断するしかないわけなんです。この「よく知らない」ってのが実はポイントで唯一見た目で判断しても許されるポイントなんじゃないかなって思うんです。 前方からナイフ持った正体不明の亀田家みたいなのが歩いてきたとしましょう。アナタはその亀田家をよく知らない。するとどうすると思いますか。そう、完全に見た目で判断して、チンピラじゃねーかと警戒するはずです。それは至極当然で誰にも非難されるべきものではありません。多くの場合において見かけってのは一番最初に手に入る情報ですから、よく知りもしないものを判断するのに必要不可欠なんですよ。 問題はある程度知ってる人を見かけで判断することです。その人の内面やその他のことを知っているにも関わらず、それでいて見た目で判断する。これはあまり褒められたものではありません。 実際にはそんなに匂うわけじゃないのに外見が匂いそうだからと職場で噂する人。 実際には逮捕歴もないのに、いつか性犯罪やりそう、あれはやる顔よ、とか職場で噂する人。 職場のロビーにウンコのついたパンツが捨てられているというテロ事件があった時に、あの一ブリーフはいてそうな顔よね、犯人よ、と噂する人。 これらは決して許すことのできないモラル違反なのです。そして癒えることのない心の傷なのです。クソッ!僕はトランクス派だよ! とにかく、こういったネガティブイメージでの見た目判断はってのは悲しいことで、決して繰り返してはいけない重大な過ちなわけですが、実はその反対もあるのです。 この間のことなんですが、まあブラブラと、仕事するでもなく完全にサボるでもなく、まるで次元の狭間にでもいるような曖昧でファジーな感じで職場の廊下をプラプラ歩いていたんですよ。もう暇すぎて仕方ない、ウンコ付きパンツをロビーに投げ込んで平和な職場を恐怖のズンドコに叩き落してやろうか、とか考えていた時ですよ。 「おーい!」 まるで飼い犬を呼び止めるかのごとく声をかけられましてね、職場では空気みたいな存在で、僕といたしましても気配を殺して歩いているものですからなかなか声をかけられる機会って少ないんですよね。 「はい、なんですか」 僕もやぶさかでない感じで呼び止められた方を振り向いてみますと、そこには先輩の姿が。まあ、僕はこの人がウンコパンツテロの犯人じゃないかって疑ってる、だってブリーフはきそうな顔してるもの、って人を外見で判断してはいけません。とにかく先輩にそんなことは言えません。そこはかとなくどうでもいい雑談に花を咲かせます。すると、先輩がとんでもないこと言い出したんです。 「今日の夜7時から、近くの中学校の体育館で練習するから」 何の説明もせずいきなりですからね。何の練習かもさっぱり分からない。頭おかしい。 「え?練習?聞いてませんけど?」 そもそも話の繋がりがさっぱり分からないんですが、色々と聞いてみると何やらおかしな方向に話が展開してるんです。 ウチの職場の近くには○○工業というモロ体育会系みたいな会社がるんですが、どうもウチとそことは結構犬猿の仲らしいんですね。ことあるごとにいがみあってるというか互いに互いを意識し合ってるというか。近くなんだから仲良くすればいいじゃんって思うんですけど、大人の世界って結構複雑みたいなんです。 で、そのギクシャクした関係が一気に表層化するのが、毎年恒例の親善バレーボール大会らしいんです。これは先輩に言わせると親善の名を借りた戦争で、お互いの名誉を賭けて本気で戦うらしいんです。で、ここ3年ばかりウチの職場は負けているという体たらく。さらにメンバーも足りてないって言うじゃないですか。 「はあ、大変ですね」 僕はすっかり他人事で聞いていたんですが、そこで先輩がとんでもないこと言い出すんです。 「お前、メンバーだから」 もうね、意味が、わから、ない。 何を食って育ったらこんな思考に至るのか皆目分からないんですけど、僕が職場対抗バレーボール大会のメンバーになってるんです。 「いや、何で僕なんですか。僕バレーボール下手ですよ」 何とか食い下がるのですが先輩は譲らない。 「お前、背が高いしバレーうまそうじゃん、頼んだよ、7時からだから」 これですよ、これ。確かに僕はなぜか身長だけは高いのですが、背が高いからバレーも上手いだろう、この短絡思考ですよ。これこそが見かけ判断と言わずに何を見かけ判断と言うのか。世の中にはですね身長が高くてもバレーがド下手な人間がいるんですよ。ハッキリ言って僕なんか身長が5メートルあっても満足にできない自信があるからね。 「無理ですってば!」 なんとか勘弁してもらえないかと食い下がる僕。 「大丈夫、大丈夫、レクリエーションのノリだから気楽にきてよ」 実は、「あの人悪そう」「あの人バカそう」「臭そう」「死んだらいい」なんていうネガティブな見た目判断ってのはそんなに困らないんですよ。そうだけど何か?的な大いなる心で受け止めていればそんな偏見の目で見られてもそう痛くはない。問題はポジティブな、良い方向での見た目判断ですよ。 背が高いからバレーボールが上手なはずだ。 これはエリッククラプトンとプランクトンくらい違いがあります。もう本当に困る。困りすぎる。そんな見た目だけで判断されて過剰に期待だけ膨らまされる。実力が伴っているならそれも良いんでしょうが、問題はその見た目に内容が追いついてない場合です。 とにかく、なぜか見た目でバレー上手いと過度の期待をされています。もうどうしようもないので「レクリエーションのノリだから」という先輩の言葉を信じて仕事終わりに体育館に行ってみます。最近運動不足気味だし、まあ軽いノリならいいかなって感じで気軽に体育館へ。 「オラァ!立て!立て!そんなんじゃまた○○工業に負けるぞ!」 そこには修羅と化した先輩の姿が。いつもの朗らかな姿からは想像できない鬼のような先輩の姿が。なんか倒れてる後輩にバシバシとボールぶつけてました。全然レクリエーションじゃない。 「なにやってんだ!早く練習に入れ!」 烈火の如く怒られましてね、朗らかな先輩を信じてやってきたら地獄の鉄火場ですよ。 まあ、そこから狂ったように練習させられましてね。しかも僕が期待してたほど上手じゃないもんですから先輩さらに怒っちゃってね、大変だった。 「おいおい、なんだあ、ずいぶん期待はずれだな!」 とか、苦行のような練習の合間に何度も嫌味を言われるんですよ。そんなん、見た目で判断して勝手に期待してたのはそっちですからね。それで期待外れとか嫌味言われてもどうしようもない。これだから見た目判断は困る。 とにかく、地獄のような練習が何回か続き、相変わらず先輩に「この期待はずれ!」と罵られる毎日、そしていよいよ○○工業との親善バレーボール大会の日がやってきました。 「みんな今日まで辛い練習に良くぞ耐えてくれた」 試合前、メンバーを集めて神妙な顔で話し出す先輩。 「俺はこんな性格だからみんなには迷惑かけたと思う。でも今日の試合に勝つことだけを考えて練習してきた。ついてきてくれてありがとう」 先輩・・・。 心なしか声が涙声になってくる先輩。他のメンバーも何かグッときてるようだった。最初こそは先輩に騙されてメンバーにさせられ、練習にいきたくないばかりに仕事を辞めることも考えた。チャンスがあれば先輩を暗殺しようかとも考えた。でも今ならハッキリ言える。今日、僕らは勝つ、先輩のために勝つんだ。 「さあ、○○工業のメンバーがきたぞ!」 ゾロゾロとやってくる○○工業メンバー、コイツらが今日の僕らの相手。コイツらを倒すために苦しい練習に耐えてきたんだ。キッと○○工業のメンバーを睨みつけます。いよいよ決戦の時、僕らの苦しみの集大成が試される時です。 「さあ、いくぞ!」 再度チームメンバーで円陣を組んで気合を入れなおします。そして、試合前練習をしている○○工業のメンバーを睨みつけます。どんなやつらが来たって俺たちは負けない! って見るんですけど、何やら様子がおかしい。いや、様子というかなんというか、○○工業のメンバーが根本的におかしい。 いやね、他のメンバーから、やけにバレーが上手いオッサンがいるとか、高校時代に全国大会に出た経験のあるメンバーがいるとか色々と伝え聞いており、かなり強力なメンバーを想定していたのですが、そえらを遥かに凌駕する強力メンバーがいるじゃないですか。 和気藹々と練習している○○工業のメンバーなんですけど、ユニフォームこそ○○工業って名前の入ったやつ着てるんですけど、その中身が根本的におかしい。明らかにおかしい。 いやね、全員黒人なの。6人全員黒人なの。 もう黒人も黒人、超黒人。黒人がヒャッホーとか言いながら陽気にバレーボールしてやがるんですよ。パニック物の映画で一番最初に死にそうな黒人がウジャウジャいるの。タイソンゲイみたいな黒人がバシバシスパイク打ってんの。これにはYujiOdaも大喜びだよ。 「冗談じゃねえ!全員助っ人外人じゃねえか!」 メンバーに一人とかなら分かるけど全員助っ人とか頭おかしいんじゃないか、と僕らも○○工業の監督に抗議するんですけど、なんでも研修でブラジルかどっかからやってきている人々らしく、日本での親善の一環として出てもらうことにしたとか何とか。この試合は我が職場と○○工業との戦争だと言いましたけど、建前上は親善試合です。そう言われちゃあ何も言えない。 とにかく、黒人の身体能力ってのは桁外れですから、どうやっても勝てる光明が見出せず、僕らは試合前から意気消沈ムード。 「黒人チームと試合するんだけどどんな気持ち?」 「別に」 って感じでした。ほとんど諦めてた。 だってジャンプ力とかパワーとか桁違いですよ。スパイクするとバレーボールがピンポン玉みたいな勢いで飛んでいくんですよ、おまけに筋肉ムキムキですよ。卑猥なくらいにムキムキですよ。その反面、こっちのメンバーなんてスターダストレビューのメンバーみたいなもんですからね。勝てるわけがない。ていうか、スポーツにおいて黒人が相手ってだけで見た目の時点で勝てる気がしない。 けれどもね、いざ試合を始めてみると黒人たちがルールを分かってなくて大騒ぎ。サーブ2回打とうとしたり、ネットに手をかけてスパイク打ったり。しかもベンチにいたもう一人の補欠黒人がいてもたってもいられず勝手に出てきてましたからね、いつの間にか7人とかになってた。もう黒人の面白さは異常と言うしかない展開に。 結局、25−4とか圧倒的な点差で勝利を収めてしまい。僕らの至上命題だった勝利を手に入れたのでした。 僕らは多くの場合において見た目のみで判断を下します。背が高いからバレーが上手いだろう、黒人だからスポーツが上手いだろう。僕ら人間は何をどうやっても心と心で通じ合えるはずがない。自分のことは自分にしか分からないのだ。ならば人を判断するときどうするか。これはもう、電子レンジを売るときと同じで外観で判断するしかないのだ。 外見で人を判断するのは決して悪じゃない。問題はそこで思考停止してしまうことで、いつまでも外見からだけ受ける印象に左右されてしまうのが最も愚かで残念な行為なのだ。見た目が悪そうでも話してみるといいやつ、見た目がいやなやつっぽくても話してみるといいやつ、見た目が黒人で勝てる気がしない、でもやってみると練習の成果で勝てたじゃないか。そうやって外観の情報を受け止めつつ、その先に進むことが大切なのだ。 試合後の打ち上げの居酒屋。黒人チームを倒して俺たちのバレーは世界レベルだ、と検討違いも甚だしい話題で盛り上がっていると、いつの間にかあの職場ウンコパンツテロ事件に話題が及んだ。 「誰があんなテロ行為を・・・」 「小学生くらいのときは、ウンコ漏らした子が処理に困ってパンツごと捨てるとかあったけどさあ」 「社会人にもなってするやついるのかよ」 と大盛り上がり、自然と誰が犯人だろうかという話題になったのですが、そうすると満場一致に近い感じで皆が僕を見るじゃないですか。なんで僕なんだよ、なんでそんな満場一致でそうなるんだよと反論したのですが、皆が口々に言います。 「だって、やりそうだもん」 「ブリーフはいてそうだもん」 「なんかいっつもウンコ漏らしたみたいな顔してるじゃん」 と見た目で判断して好き放題ですよ。なんだよ、漏らしたみたいな顔って。 とにかく、見た目で人を判断するのはそんなに悪いことじゃない。そこで思考停止せずに先に進むことこそが大切なのだと思ったのでした。 それにしてもたまたまブリーフはいた日にあんな悲劇が起こるなんて。金がなくて水ばかり飲んでたら下痢したんだよな。しかし、ちゃんとゴミ箱に捨てたはずなのになんでロビーなんかに、と冷や汗をかきながら勝利の美酒に酔いしれるのでした。 10/22 ハロウィーン 10月31日はハロウィンという良く分からないお祭りみたいなのがあるらしく、街には繰り抜いたカボチャの仮面などが溢れ、魔女っ子のコスプレをした女の子がエッチなことをされるエロビデオがリリースされるなど、微妙な盛り上がりを見せるものです。でも、そこはかとなくぶっちゃけますけど、実は僕、このハロウィンってやつを22歳くらいまで知らなかったんですよ。 確かに当時は、今ですら微妙な盛り上がりであるハロウィンがさらにマイナーな盛り上がりを見せてる時期で、知ってる人のほうが少ないというか外国かぶれというか、とにかく知らないことは罪ではなかったんですよ。 大学生だった僕は、学生食堂で卵かけご飯を食べつつ、友人に「卵かけご飯は世界一、いや宇宙一美味しいと思う、21世紀に残したい料理だね」みたいなことを話していました。時はまさに世紀末、殺伐とした世の中にあって卵かけご飯に一服の幸福を求める、そんな大学生でした。 「ねえねえ!きいてきいて!」 そこに駆け寄ってきたのは同期の女の子で、異常なほどにブスな満子でした。僕も人の容姿をどうこう言えるほどのもんじゃない、むしろ言ってはならない、泥棒が泥棒を批判するのに近い構図があるのですが、それでもあえて言わざるを得ないくらいブスでした。例えるならば、普通レベルの「あ、ブスだね」って感じの人が皆既日食などの天体ショーとするならば、満子さんはグランドクロス、太陽系の全ての惑星が十字型に配置される世紀の天体ショー、その中心に位置する地球が重力の影響を受けて粉々に砕け散る、それくらいのブスといっても過言ではありませんでした。 で、このブス、じゃないや満子さんが何を発狂していたかと言いますと、何でも10月も後半に近づいてきてハロウィンが近づいてきた、同期のみんなでハロウィンパーティーをやろうよ、と持ちかけてきたのです。 僕がいた学部ってのが特性上すごい女の子が少ないところでしてね、華のキャンパスライフとは程遠い少しグレーがかったキャンパスライフでして、しかも山奥過ぎて稀にマムシとかが出没するとんでもない大学だったんですけど、学部内で女の子に遭遇する確率とマムシに遭遇する確率がイコールに近いという、花ざかりの君たちへブサメンパラダイスだったんですよ。 そうなると、やっぱ女の子が少ないから希少価値な訳ですよ、世の中の価値あるものって宝石でも何でも稀少であるってのが大前提なんですよね、金にしてもダイヤにしてもその辺にゴロゴロしてたら全く価値がない。で、満子さん、学部内ではかなりの希少種である女の子ですから、それはそれはモテたんですよ。ありえないくらいモテてた。 メンズノンノって感じの同期のイケメン男たちを次々と食い散らかしてですね、季節ごとに彼氏が変わるっていうんでしょうか、とにかく花から花へ華麗に舞う蝶のようにイケメンたちを食い物にしていったんです。もう、同期のイケメンはそこそこいかれてたんじゃないかな。 もちろん、ブサイクフェイスグループに属していた僕などは全くお目に留まることもなく、ブス満子から「あんなダサいのと付き合うのなんてまっぴらごめんよ」といった差別的な視線を投げかけられてたのですが、なぜかハロウィンパーティなる怪しげな催しに誘われてしまったんです。 実はこの満子さん、けっこうアツい人でして、何がアツいって「せっかく同じ大学の同期になったんだから仲良くしようよ!」とやけに同期の団結を煽るというか、これが高校生くらいだとクラスの団結とかあるんでしょうけど、大学生にもなると結構ドライじゃないですか。なのにことあるごとにイベントごとを企画して団結を深めようとしていたんですよ。 男ばかり30人くらいいる中に満子さん一人女性で飲み会したりとかキャンプに行ったりとか、満子さんはその度にイケメンを引っ掛けて満足気だったんですが、ブサメンな僕らとしては1ミリも楽しくなく、ただ河原に行ってカレー食べてテントで寝るだけですからね、桃鉄でもしていたほうがいくらかマシ、けどやっぱ同期の付き合いって大切ですから嫌々参加してたんですよ。 「今度さ、みんなでハロウィンパーティやろうよ!」 ブサイクタイフーンこと満子さんがハロウィンパーティっていう、当時まだそんなに馴染みがなかったイベント事を持ち出してきたんです。カボチャの仮面みたいなか顔しやがってからに、すごいやる気十分の顔で誘ってきたんです。正直、すごい面倒で行きたくなかったんですけど嫌々参加せざるを得ない状況でした。 そしてハロウィンパーティ当日、同期の面々が大学近くのパーティルームみたいな場所に集結しましてね、僕も友人たちと早めに切り上げて桃鉄しようぜ、今日は99年するぜ、寝かさないぞーとか話しながら会場のドアを叩いたんです。 中に入るといきなり魔女のコスプレをした満子が猛り狂ってましてね、変なステッキ持って右へ左へ大暴れですよ。誰か麻酔銃持って来い!というしかない見事な暴れっぷりだった。魔女と言うよりはゴキブリみたいだった。しかも集結している同期の面々ってほとんどが満子に食い散らかされているいわゆる元カレですから、なんとまあ、表現し難い微妙な空気が蔓延しているんですよ。お通夜みたいな沈痛な雰囲気の中、お互いがお互いを牽制しつつ厳かに飲み食い、そこにコスプレ満子が一騎当千の大暴れ。えいっ!とか言われてステッキで魔法かけられたりしたからね。どうリアクションしていいかわかんなかったよ。 こ、これがハロウィン! ハロウィンについて全然知識がなかった僕はもう何が何やら。何が楽しいのか全然分からなかった。後から調べて分かったことですが、ハロウィンとはケルト人の収穫感謝祭が起源になっているとか何とか。ケルト人が何者なのか全然知りませんけど、とにかく収穫感謝祭が形を変えて英語圏を中心に広まっていった。 ではこの感謝祭とは何なのかといいますと、ケルト人にとって10月31日が一年の終わりの日に当たり、そこで死者や精霊、魔女などが訊ねてくると考えたそうです。全然関連性が分かりませんけど。で、それらの化け物から身を守るために仮面をかぶったり魔除けの焚き火をしたりするそうです。日本のお盆に近い感覚かもしれません。それがいつしか形を変え、クリスマスと同じノリみたいになったんでしょう。 僕のハロウィン初体験は全く楽しくなく、ある意味化け物がやってくるって部分だけ共通していたのですが、そこで「成敗!」とかやって焚き火で満子を燻せばよかったと思うことくらいしかできませんでした。ハロウィン、全然楽しくない。 ちなみに、ハロウィンパーティの直後、ついにイケメンだけでは飽き足らずブサメンにまで手を出し始めた満子に、図書館の準備室で「私、寂しい」と迫られ焦る僕、さらにそれを聞いた元カレイケメンが嫉妬に狂い、満子までもが「patoのゲスにしつこく言い寄られて困ってたの」とシャブでもしゃぶってシャブシャブしてんじゃねえのってことを言い出し、山奥のキャンパスを舞台に骨肉の愛憎劇が展開したのですが、この話は本論から外れるので続きはWebで!とにかく本論に戻ります。 そんなこともあってか、僕はこれまでハロウィンってヤツに非常に懐疑的な思いを抱いていたんですよ。何も楽しくないしパーティをやってなんになるのか。それに僕らはケルト人じゃないですからね。だいたい、欧米のものを無理矢理日本でやるってのが無茶な話なんですよ。 10月に入るとコンビニなどにハロウィングッズが売られたりするじゃないですか。それも年々ド派手になってきていて、年を増すごとにカボチャのお面がクローズアップ。アベックなんかが深夜のコンビニに仲睦まじくやってきてですね、ハロウィンコーナーで言うわけですよ。 「あ、もうすぐハロウィンだねーみてみてーこれかわいいー」 「そういえば、俺たち、付き合い始めてもう1年になるのか」 「去年のハロウィンパーティーだよね・・・」 「そこで俺と芳江が出会った」 「うん」 「芳江は魔女の格好してたんだよな、かわいくて一目惚れだったよ」 「高志はカボチャかぶってたよね。ずっとかぶってるから変な人って思っちゃった」 「照れちゃって取れなかったんだよ…」 「高志カワイイ!」 「バカにすんなよ!」 「そうやってすぐに照れるところが大好き!」 「ったく!」 「ねえ、来年も再来年も何十年後も、ずっとずっと高志と一緒にハロウィンできるかな?」 「知ってるから?ハロウィンってのは死者が復活してくるってのが起源なんだよ」 「うん」 「もし俺が先に死んだとしても、ハロウィンにはきっと復活して芳江に会いに行く。ずっと一緒にハロウィンを迎えよう」 「高志……私も…私も死んだら高志に会いに行くよ…魔女の服着て」 「バカ!芳江が死ぬなんて耐えられない!そうなったら俺も死ぬよ」 「もう!」 「アハハハハハ」 「ウフフフフフ」 とまあ、コンドームをダースで買っていく、それもベネトンのやつをゴッソリ買って行きプレイがエスカレートしてカボチャとか入れるんでしょうが、なんていうか久々に言わずにはいられない。カップルは死ね!7回死ね!っていう感じなんですよ。いかんせん、日本人ってのはイベントごとに対して悪乗りが過ぎる。クリスマスだけじゃ飽き足らず、西洋の祭りかこつけてセックスしようって風潮がハロウィンにまで蔓延してるような気がするんですよ。 そういった理由と、学生時代の満子さんのハロウィンパーティーの悪夢があってかずっと心の中でハロウィンをスルーしてきたのですが、先日というか今年、決して避けることの出来ないハロウィンが我が家にやってきたのです。10月に合わせて家に化け物がやってくるハロウィンそのものが巻き起こったのです。 異変は10月に入った頃合に始まりました。もう10月だというのに異常に暑い、なんとかならないものかと思いながら釣り番組を見ていたんです。釣りなんて最近ではビタイチやらないんで興味もないんですが、磯釣りに夢中になるその辺のオッサンとかを公共の電波に乗せてどうするんだろうって視点で見るとけっこう面白いんですよ。 「引いてる!引いてる!」 とテレビの中のオッサンが大興奮になった時、なにやら右後方で異様な物音がしました。 ガサガサ その瞬間に思いましたね、ああ、ゴキブリかと。こういっちゃなんですけど、僕ってばゴキブリとか全然平気なんですよね。だてにゴミ屋敷みたいな部屋に住んでませんから、ちょっとやそっとゴキブリが出たくらいでは全然動じない。動かざること山の如しってなもんですよ。 どうもコンビニのビニール袋に触れたゴキブリがガサガサと音を立ててるみたいなんですが、それがまあ、結構大きい音なんですよね。なんか比較的洒落にならないサイズっぽい音声が聞こえてくるんですよ。 そうなるとね、やっぱ気になるじゃないですか。動じないといってもどれほどの大物ゴキブリなのか知的好奇心から拝見したくなるじゃないですか。で、仕方ないからその音がしているビニール袋を取り去ってみたんですよ。 そしたらアンタ、ムチャクチャ大物、マグロで言うと近海物みたいな極上のゴキブリが燦然と鎮座しておられるじゃないですか。これにはさすがの僕も唸るしかなかったね。「すげえ、大物だ…」とゴクリと唾を飲んだ瞬間、テレビ内でも大物が釣れたらしく「大物だ!」とオッサンが大はしゃぎしていました。 まあ、気の弱い人、潔癖な人、ゴキブリ大嫌いな人、なんてのはこの時点で卒倒もの、この文章を読むことすら苦しいかと思いますが、あいにく僕は平気、平然いたって冷静。ただジーッとゴキブリを見つめ、先に動いた方が負け、みたいな意地っ張り勝負を展開していました。こんなのはまあ、取り留めのない日常の1コマ、別に特別あげつらうほどのイベントではないんですが、ここからが異常だった。 普通、皆さんの庶民感覚で一日にどれくらいの頻度でゴキブリを目撃したら「ゴキブリ多いなあ」って思いますか。まあ、人によって様々でしょうが、中には1度目撃しただけで発狂するような感じの人もいるかと思います。少し豪胆な人でもさすがに3回ほど目撃したらもう家中がゴキブリだらけみたいなイメージを持つかもしれません。 しかしまあ、僕なんかは明らかに平気な部類ですから5回くらい目撃しようがなんてことはない。お、活発だね、って思うくらいなんですけど、ここでそんな僕すらも驚愕させる異常事態が巻き起こったのです。 いやね、1日に15回くらい部屋でゴキブリ目撃したら驚きもしますよ。しかも1日中家に居るとかじゃなくて、仕事を終えて帰宅して寝るまでの間とかでそんな数値ですからね。同じ1匹を何回も目撃とかじゃなくて確実にシリーズが違いますからね、明らかに異常すぎる。 普通、ゴキブリを見つけたらその30倍はいると思え、家中ゴキブリだらけだぞ!って言いますけど、ウチの場合、背後に控える30倍のゴキブリを考えなくても普通にゴキブリだらけ、30倍なんて想像したら恐ろしいことになります。闇に蠢くゴキブリの背後組織、もう想像したくありません。 さすがにゴキブリは平気だと言っても大量に存在するってのは勘弁で、実は僕、ゴキブリに限らず大量の虫ってすごい苦手なんですよ。単体や少数なら別になんてことはない、普通に平気なんですが、それが大量になるともう恐ろしい。幼少期に家に入ってくるアリの大群を見て卒倒して以来、大量の虫ってやつがどうも苦手なんですよ。 ゴキブリは平気、っていってもやっぱ大量にいるとなると例外なく苦手でしてね、明らかにおかしい、こんなに大量にいるなんて何かがおかしい、と珍しく取り乱してしまったんです。 いやいや、皆さんは普通に考えて部屋を汚くしてるからゴキブリがでるんじゃん、とか考えるかもしれませんが、ちょっと立ち止まって考えてみて欲しい。いやね、部屋が汚いのは今に始まったことじゃないんですよ。冷静に考えると部屋なんて常に汚いもんじゃないですか。 僕は今の部屋に住むようになってから3年半になりますけども、その間、一度として部屋が綺麗だったことがない。常にゴミだらけ、僕が何か異常な犯罪を犯してワイドショーの取材なんかが部屋に踏み込んだとしても、たぶんレポーターが嘔吐する、とんでもないブツがゴロゴロ出てくる、それくらいカオスな部屋なんですよ。別に部屋が汚いのは今に始まったことじゃない。汚いのが原因ならばとうにゴキブリ王国になってるはずだ。 じゃあ、なぜ今になってゴキブリが大量発生するに至ったか。これはもう、僕の政敵か何かが部屋にゴキブリを投げ込んでるとしか考えられないのだけど、あいにく僕は政治をやってないので政敵はいない。となると、やはり10月になってから大量発生したことと付き合わせてハロウィンの化け物ってのがゴキブリだった、そう考えるしかないんです。 ハロウィンになると化け物が家にやってくる、それを必死で迎え撃つ住人達。本来、ハロウィンとはそう殺伐としているべきなんです。ウカレポンチでパーティとかやってる場合じゃない。ブスが魔女の格好してる場合じゃない。セックスしている場合じゃない。この大量のゴキブリどもを撃退することが俺たちのハロウィンだ。こうして僕の戦いは始まったのでした。 まず、ハロウィンの祭りから考えてどうやって撃退すべきか。前述したとおり、あのハロウィン的なカボチャの仮面をかぶって自分の身を守るのが先決でしょう。ということで、早速ハロウィンに浮かれる町に繰り出してカボチャの仮面を買いにいったのですが、人気過ぎて売り切れてるのか、そもそも仮面をかぶってまでハロウィンを楽しむ人がいないのか、雑貨屋とかに行っても全然売ってませんでした。仕方ないので代用品として天狗のお面を購入、これを装備してゴキブリに挑みます。 まあ、カサカサと壁を伝って動くゴキブリに天狗のお面をつけた僕が対峙しているわけですが、それだけですからね。ゴキブリの黒に天狗の赤、赤と黒のエクスタシー、そこで時が止まったかのように両者が制止してますからね。傍目に見たらムチャクチャシュール、現代美術とかになりそうなくらいにシュール。天狗のお面全然役に立たない。 仕方ないので、無益な殺生はしたくないのですが、ゴキブリを根こそぎ駆除してやろう、それも叩いて殺すとかはやめてなるべく苦しまないような方法で駆除してやろう、と思いましてね、薬局に行きましたよ。 ほら、あるじゃないですか、置くだけでゴキブリを根こそぎ退治!とか、なんかゴキブリを誘い込んで毒を持たせるか何かして、巣に帰ったところを根こそぎ退治!みたいな、コンバットっていうんですか、CM見てるとホントにコロコロとゴキブリが死ぬじゃないですか。あれを期待して買いにいったんですよ。 で、4個パックのやつを4つ買いましてね、計16個を部屋の至る場所に、それこそヒステリー的に置いてやったんですよ。これでもう、次から次へとゴキブリが死んでいくに違いない。「ひー!お助けー!」とゴキブリが大変なことになってるのを想像して独りでムフフとか笑ってたんですよ。 しかしアンタ、何日経ってもゴキブリが全く減らないじゃないですか。それどころか増えてるような気さえしてくる始末。もう、ふっとみたら壁に3匹くらいゴキブリがいて冬の大三角形みたいな配置を取ってる始末。そのうちもっと増えてオリオン座とかになったらと思うと背筋が冷たくなってきます。 決定的だったのが、家に帰って「ふいー今日もゴキブリ多いなー」って見回した時ですよ。普通にコンバットの上でゴキブリがくつろいでましたからね。なんか移動に疲れたからコンバットの上で休憩、みたいな哀愁すら漂わせてました。完全に舐められとる。全然効きやしねえ。 こうなったらもうアレしかない、ほら、なんか部屋の中にモワーッと煙が出て根こそぎ殺しちゃうやつあるじゃないですか。バルサンとかいう文明の利器、ゴキブリに対峙して退治する我々人類の最終兵器があるじゃないですか。もはやあれを使うしかないって思ったんですよ。ちょうどバルサンを焚く様子がハロウィンでの焚き火に似てるってのもあってこりゃあベストだって思ったんです。 で、今度は近所のホームセンターに買いに行ったのですが、今度はどこにそういったゴキブリ駆除関連の商品を売っているのか分からない。色々と店内を探すのですが、どうもこういう広い店内で探すのって苦手でしてね、いくら探しても見つからないんですよ。 こりゃしょうがない、店員さんに聞くか、って思うんですけど、僕は異常に対人スキルが低いので店員さんってのが大の苦手。吉野家でお茶のお代わりくださいって言えませんからね。服屋で服を選んでるところに店員さんが話しかけてきたら買わずに逃げますからね。唐揚げ定食美味しいなーって連日のごとく通ってる定食屋にいつものように行ったら、顔を覚えられてしまって「お疲れさん!今日も唐揚げ定食かい?」とかフレンドリーに話しかけられたらもう二度とその店にはいきませんからね。 そんな事情もあって店員さんに話しかけるのをためらったのですが、それでもあのゴキブリ王国に帰りたくない!もう限界だ!という思いが強かったのか、勇気を振り絞って尋ねることに。しかしながら、緊張して気が動転してしまったもんですから 「あの、シュワーッてなるやつありますよね?」 と、半ばキチガイみたいなことを言い出す始末。なんだそのシュワーってのは。もっとマシな言葉があるだろうに。 「あ、はいはい、ありますよ」 とか間違って伝わったみたいで入浴剤コーナーに案内されちゃってね、もうどうしていいか分からなかったんですけど、さらに勇気を振り絞って 「いや、そうじゃなくて、ほら、シュワーッとしてゴキブリを殺人するヤツ」 ですからね、微妙に頭がかわいそうというか、頭の中でバルサン焚いた方がいいというか、ゴキブリを殺「人」ですよ。頭おかしい。 やっとこさ僕の言葉が通じたみたいで、ついにバルサンを購入。これでゴキブリどもが死に絶える狂気の沙汰が見れるぜと軽い足取りで帰宅しました。 で、説明書もロクに読まずに試行錯誤でやってみると、ブシューっと煙が出てきましてね、これぞハロウィン、部屋に現れた化け物を煙で撃退する、これぞハロウィン。煙に襲われて「ひえーお助けー」ってなってるゴキブリを想像してたら煙に巻き込まれて死ぬかと思った。 数時間後。さて、これで部屋に現れた化け物も退治できただろう。ハロウィン的に煙を焚いて退治できた。図らずも今年は本来のハロウィンの趣旨に近い過し方ができたようですな!まだハロウィンには早いけど!と、満足気な表情で部屋に戻るとそこには地獄の光景が待っていたのです。 いやね、何がどうなったのか分からない。僕としては部屋のそこら中に煙にやられたゴキブリの死骸が転がってるのを想像したんですよ。あちこちに転がっていてそれを掃除すればいい、なんて考えていたわけ。ところが全く見ないんですよ。死骸も見なければ生きてるゴキブリも見ない。まるでこの部屋には最初からゴキブリなんていなかった的な平和な光景が広がってるんです。 おかしなこともあるもんだと、ゴキブリが好みそうな隙間とか、ゴミの山の辺りとか探索するんですけど、やっぱり死骸も姿も見えない。もしかしてバルサンってゴキブリを駆除するものじゃなくて、どっか別の場所に移動させるものなんかなーって思ったんです。 まあ、とにかくゴキブリがいなくなってよかった、やっと安息の日々が訪れた、ってエロ本読んだり風呂はいったりと普通の日常を過していたんです。で、さてそろそろ寝ましょうかなって感じで電灯を消そうと天井を見上げたその時ですよ。 天井にビッシリとゴキブリの死骸が。 天井と壁の間に段になった部分があるんですけど、渋滞中の首都高速みたいに色々な色のゴキブリがウワーっているんですよ。見た瞬間に吹き出したもん。 どうも、考えるに、僕のやり方が不味かったのか、多分バルサンの煙が弱かったんだと思うんですよ。で、普通なら瞬殺だったゴキブリたちも微妙に生き延びた。で、弱々しい力で皆が天井に上って言ったんだと思います。上ならば煙が薄い、あそこを目指すんだ。あそこに行くんだ。そして辿りついて息絶えた、というわけなんじゃないかと思います。 もうその光景が気持ち悪くて気持ち悪くて。遠足の時に隣りの堀田君がゲロ吐いて、もらいゲロしそうになった時以上の気持ち悪さだった。堀田君はバスに乗った時から様子がおかしくて終始無言。で、僕が後ろの席のヤツと普通にミニ四駆とかの話をしていたら、どうも堀田君も何か話していた方が気が紛れると思ったのか、話題に入ってきたんですよ。「そうそう、僕のファイヤードラゴゲボゲボゲボー」なぜか車種名を言いながら吐いた堀田君。話しかけられていた僕なんか直に浴びましたからね。堀田君、元気にしてますか。 とにかく、堀田君の話の続きはWebで!今はゴキブリです。もう部屋の真ん中で震えながら「ひえーお助けー」って言うしかなかったんですけど、ここで壁を蹴ったりしたらどんなことが巻き起こるんだろう、そんな邪悪な考えが浮かんできてしまったんですよ。 ガッシ!ボカッ! 思いっきり壁に振動を与えたんですよ。そうですよね、そうですよね、そんなの分かりきってますよね。そうですそうです。ゴキブリの雨ですよ。死骸の雨。 「ギャ!グッワ!」 と叫ぶことしかできず、ゴキブリの雨の中狂喜乱舞する。で、泣きながら掃除する。もうコリゴリなんですけど、それでも僕はハロウィンはこうでなくちゃいけない、なんて思ったんです。 化け物を煙で撃退するハロウィン。 そして、使者が復活するハロウィン。バルサンで退治したはずのゴキブリが次の日には普通に部屋の中を闊歩していました。 随分とポピュラーになったとはいえまだまだマイナーなイベントであるハロウィン。良い機会ですのでこのイベントが恋人達の、とか変な枕詞が付いて定着してしまう前に、もう一度原点に立ち返り、ゴキブリどもをバルサンで退治するイベント、にしてしまいましょう。さあみんな、10月31日は部屋でバルサンだ。 ちなみに、このまえ職場でハロウィンにちなんだ飲み会という訳のわからないイベントがあったのですが、意気込んで天狗のお面かぶっていったら誰にも相手にされませんでした。そこで職場のブスが黒い服来て魔女よとか言ってて、そいつが死ぬほど酔っ払ってしまい、僕が家まで送る羽目になったのですが、まあこの話の続きはWebで! 10/20 ぬめぱと変態レィディオ6周年記念スペシャル 放送開始 10月20日PM10:22 さてさて、今年も開設記念日が近づいてまいりました。6年前の10月22日、このNumeriが産声を上げたわけなのですが思えば長かったような短かったような、思い返してみるとオナニーギネスにチャレンジとかモンゴルの大平原とか日本一週とかロクなことやってないのですが、まあ、それなりに感慨深いものです。 6年という歳月は短いようで長いものでして、1歳の赤子も7歳になって小学生やってる計算、14歳のロリっ子も20歳になって女ざかり、25歳だった僕も31歳になって加齢臭、80歳だった老人も今頃は天国から見守ってくれているはずです。 そんなこんなで、もう高齢じゃないや恒例のようになってきましたが、6周年を記念してラジオ放送をやったりしたいと思います。曜日の関係で開設記念日より2日早い20日夜に6周年記念放送をカックラキン大放送。 昨年から始まった開設記念ラジオの屋外生放送。いつものスタジオを飛び出して屋外から公開生放送。昨年は屋久島より放送し、暖かい島の人々に囲まれて鍋などつつきつつ心温まるハートフルな放送をいたしました。もちろん、今年もやっちゃいます。いったい今年はどこからの放送になるのか。お近くにお住まいの方はぜひぜひ駆けつけてください。 放送内容 と盛り沢山でお送りいたします。メッセージなどはバンバンと左側のNumeri-FORMからお送りください。聞き方が分からない方は放送スレで質問すれば怖いお兄さんたちが優しく教えてくれます。 10/12 ダービーキング 「過って改めざる、これを過ちという」 これは孔子の言葉だったでしょうか。まさにその通りだと思います。人は失敗や間違いを犯す生き物です。そして、その失敗を悔い改めることによって成長できる生き物であると思います。何か失敗した時、間違いを犯した時、失敗しただけではそれは過ちと言えないのです。その失敗を悔い改めないことこそが最大の過ちなのです。逆に言うのならば、例え失敗したとしても、その行為を悔い改めることでそれは過ちではなくなるのです。 実は僕にもどうしても悔い改めなければならない過ちがあります。この失敗を悔い改めない限り、このまま放置している限り最低のクズ人間と言われてもおかしくない。そんな過ちがあるのです。今日はそんな失敗をこの場で吐露し、懺悔して少しでも昇華することができればと書いてみます。 ウチには爺さんがいて、生まれた時からいつも同じ居間の同じ場所に即身仏のように座っていた。右半身だったか左半身だったかが麻痺していて体が不自由で歩くことができず、飯を食うのも億劫な感じだったのだけど、それでも人の世話になるのが嫌いらしく、悪戦苦闘しながらボロボロ飯をこぼして食べていた。 それを知ってるウチの飼い猫が、飯の時、爺さんの近くにいればご飯が落ちてくると妙な悪知恵をつけてしまい、ひとたびご飯タイムともなると爺さんの膝の上にガッチリ待機していた。そのうち猫もどんどんエスカレートしてきて、落ちてくる飯だけでは物足りずに、爺さんが口に運ぼうとするフォークから煮魚などをダイレクトに盗むようになっていた。とんだシーフキャットだ。 煮魚を取られた爺さんは怒るでもなく、ただニコニコと笑っていた。むしろ、猫に対して怒ろうとしていた親父や母さんを制し、美味しそうに煮魚を食べる猫の頭を撫でていた。 少年だった僕は子供心におの爺さんという存在自体が謎で、たぶんバカだったから老いるという概念が理解できなかったんだろうけど、爺さんはなんで動かないんだろう、なんで活発に活動しないんだろう、四六時中同じ場所に座っていて楽しいんだろうか、とか考えていた。 そんな、本当に即身仏だった爺さんもすごく活発に動いたことがあった。あれは今でも忘れない、家に親父も母さんもいなくて僕と弟と爺さんしかいない時のことだった。 ちょうどその時、テレビかなんかでとんでもない悪者が主人公の彼女か何かのムチムチした女性を誘拐して廃工場で戦うっていう番組をやっていて、なんか女の人が天井から吊るされて「お願い!私のことはいいから逃げて!」とか文字通りの茶番を展開していた。 その「天井から吊るす」という行為に妙にハマってしまった僕は、親父も母さんも家にいない、これはチャンスだ!と弟を天井から吊るそうと企んでいた。嫌がる弟を捕まえて荒縄でグルグル巻きにし、本当は2階の部屋など人目につかない場所がベストなのだけど、吊るすための変なフックみたいなのがついてる居間で吊るしてやろうと画策していた。居間には爺さんがいるんだけど、なあに即身仏だ動くわけがない、ともうやりたい放題で弟を縛っていた。 いよいよ縛りも終わって泣き叫ぶ弟の声も弱々しくなってきた時、天井に吊るすぞーって意気込んでいると、ビューっと顔の横を何かが飛んでいった。それも物凄い速度で。とんでもない何かが顔をかすめていった。 その何かは仏壇の下のほうに当たり、ガシャーンと轟音を奏でて粉々に砕け散った。見るとそれは極大のガラス製灰皿で、いつも居間のテーブル中央に偉そうに鎮座している代物だった。 はて、なぜこの灰皿が飛んできて砕けちるんだ?と振り返ってみると、そこには修羅と化した爺さんがいた。立ち上がった爺さんは即身仏とは思えない禍々しきオーラを身に纏っており、今なら瞬殺されてもおかしくないとさえ思えた。大地が震えておった。 「弟をいじめるな!」 荒ぶる神々の怒りに触れてしまった。僕はとんでもないことをしてしまったんだ。幼い僕は未曾有の恐怖にただ震えることしかできなかった。とにかく、あれはとんでもない恐怖だった。 この爺さん激怒事件の他にも、完全なる無邪気、圧倒的無邪気、全く悪気がない状態、本当に純真無垢に疑問に思って爺さんに、 「お爺ちゃんはいつ死ぬの?」 と真顔で聞くとんでもねーガキだったんですけど、それらの発言や激怒事件なんか軽々と凌駕する、百万光年彼方に置き去りにするとんでもない失敗をやらかしてしまったんですよ。 高校時代のことだったんですけど、この頃になると子供の頃から即身仏だった爺さんはさらに即身仏に拍車がかかてましてね、ほとんど動かなかったんですよ。当時の僕は、まあ今でもそうなんですけど、どうしようもないチンカスでして、エロビデオとパチンコに夢中、なんていう途方もないろくでなしブルースだったんですよ。ホント、高校生でパチンコとか斬首刑でもおかしくない。 さらに最悪なのは、そのパチンコに猛烈にハマっちゃいましてね、ウチの近所にNASAっていう名前の、宇宙的な要素皆無なパチンコ屋があったんですけど、その店に足繁く通うようになっちゃったんです。もうクズですよね。 あくまで僕の名誉のために言っておきますが、当時はパチンコの持つギャンブル性に魅せられたとか、高校生でパチンコとかワルじゃん、とかそういうシャドーな自分に酔っていてわけでなく、単純に店員の女の子のことが好きだったんですよ。ホント、それだけだった。 まあ、別に好みだとかカワイイとかそういうのじゃなくて、なんかすげえ金髪でエロい感じで、口紅もピンクで、こうテクニシャンっぽかったんですよ。うごいエロスなんじゃって感じずにはいられなかった。とんでもない技を持ってるんじゃねえかって部分が高ポイントで、青き高校生だった僕には大変刺激が強かったんです。 でまあ、そのエロいお姉さん目当てでパチンコNASAに行くじゃないですか。全然宇宙的要素のないNASAにいくじゃないですか。この店は年貢を納める時の悪代官くらい慈悲のないボッタクリ店でしたから全然勝てないんですけど、それでもこう、色々な展開を夢見て通うじゃないですか。 「あら、今日も来たんですか?」 「ええ、他にすることないですし」 「またまたー、ウチ来たって勝てないでしょ」 「ええ、まあ、でも近いですし」 「あっ、わかった。お目当ての女の子がいるとか?」 「・・・・・・」 「え?ホントにそうなの!?誰?誰?ウチの店員なら紹介してあげるよ!」 「あなたです」 「え・・・」(トクン) 「あなたのことが好きでこの店に通ってます」 「え・・・やだ・・・年上の女をからかってるだけでしょ・・・バカにして!承知しないよ!」 「僕は真剣です」 「実は・・・私も、前からあなたのこと・・・」 鳴り響く軍艦マーチ、頬を染めるヤンキーお姉さん。あとはまあ、店のトイレでおセックスとかするじゃないですか。オッサン風に言うと彼女のチューリップが全台解放やな、玉じゃなくて別のものが出てきよるわ、じゃないですか。 まあ、実際には、僕はウブなトゥーシャイシャイボーイでしたから、話しかけることもできず、ただただ台に向かって金を消費し、彼女の姿をチラチラと横目で追うことしかできませんでした。 しかしながら、ここで大きな問題が。ハッキリ言っちゃいますとパチンコって儲かるようにはできてないじゃないですか。明らかに搾取されるしかない、一方的に奪われるのみ。そんな遊戯じゃないですか。じゃないとこれだけド派手にパチンコ店が乱立しませんし、ガンガンテレビでCM流さないですよ。そんな圧倒的不利なギャンブルに、アルバイトをしていたとはいえ金のない高校生が足を突っ込んで無事で済むわけないじゃないですか。 もう、あっという間に金がなくなるんですよ。4千円とかそれくらいの金しか持っていかないもんですから、店に入ってすぐに全財産が溶けちゃうんです。ホント、30分ももたなかった。 台に座って少しでも彼女の姿を見ていたい。けれども金がない。青年特有のジレンマとでもいいましょうか、青き青春時代の苦悩とでも言いましょうか。とにかく悩みぬいたんです。そんな悩める時、まるで救いの神のように出会ったのがダービーキングというパチンコ台でした。 これはまあ、今までNASA店内の端っこのほうにヒッソリと設置してあって見向きもしなかったんですけど、打ってみると非常においしい。いわゆる羽根物機種ってヤツで、まあ全然やらない人には分からないでしょうけど非常に遊べる機種だったんですよ。 なんていうか、あまり勝ちもしないけど、手痛く負けることもない、それでいて小額の金で長時間遊べる。少しでも長い時間ヤンキー店員を眺めていたい僕にはうってつけの台でした。 この台は中央に馬の置物が鎮座している珍しい台でして、チューリップに玉が入るとヒヒーン!パカッパカッ!という効果音と共にその置物が口を開くというシュールな台でして、その馬の口を狙って玉を入れるんです。でまあ、このヒヒーン!がとにかくうるさい。頭にくるくらいうるさい。チューリップに入れるたび、だいたい30秒に1回は入るんですけど、その度に馬がいななくんですよ。 しかも、このダービーキングのコーナーが死ぬほど不人気で、いつ行っても僕しかいない。誰もいないコーナーってムチャクチャ静かなんですけど、その中でキングのヒヒーンって声だけが響いてるんです。ムチャクチャシュールだった。 でまあ、やっぱりいくらかは遊べるとは言っても勝てないもので、アッサリ負けはしないものの、やはり金はなくなっていくんですよね。おまけに、僕の好きなヤンキー女店員は別のコーナーの担当で全然姿が見えない。この店はコーナーごとに店員が担当につくスタイルだったんですけど、いつ行っても毎晩幽体離脱してそうなオッサン店員がやる気なさそうにダービーキングのコーナーにいたんです。 来る日も来る日も少ない金を握り締めてNASAに通う毎日。ダービーキングのコーナーでヒヒーンと馬を鳴かせる毎日。しかも愛しの彼女は別のコーナー担当で少ししか姿が見えない。まあ、女性読者の方に「健気なpatoさん!抱いて!」と言って欲しくて書いてますが、それでも彼女のために通ったんです。それだけで幸せだったんですよ。 そしていよいよアルバイトの金も小遣いも、参考書を買うと嘘ついて親から貰った金も、弟がひっそりと貯金していた金も、あいつ貯金するとか頭おかしいんじゃねえかって思うんですけど、その全てが底をつきかけた時、祭りは起こったのでした。 確か最後の6千円くらいを握り締めてNASAに行ったと思います。いつものように彼女の姿を探しつつ足はダービーキングのコーナーへ。しかしながら、彼女の姿が見えない。いつもはフィーバーパワフルという当時大人気だった台のコーナーに燦然と咲き乱れる花のように立っているのにその姿が見えない。 まさか辞めてしまった? 一番怖いのはこれでした。こう言っちゃなんですが、パチンコ屋の店員さんって結構回転が速いんですよね。すぐに辞めちゃっていなくなるとかザラで、僕もいつ彼女が辞めていなくなっちゃんだろうってすごく怖かったんです。 ああ、もう彼女に会えないのか・・・そんなバカな・・・ガックリと肩を落としながらダービーキングのコーナーに行くと、そこに彼女の姿が。神々しい後光すら感じる可憐な彼女の姿が。もう盆と正月がいっぺんに来て、ついでにいつも小遣いくれる叔父が山梨からやってきたようなもんですよ。 単純に考えて今日のダービーキングコーナーは彼女が担当。前述したとおり、ダービーキングコーナーなんて客がいませんから僕と彼女二人っきりですよ。これはいける、いけるかもしれない。下手したらダービーキングコーナーでおセックスとかできるんじゃないか。ヒヒーンとか彼女がいっちゃうんじゃないか。期待と興奮でどうにかなっちゃいそうでした。 震える手で6千円全てを500円玉に両替、彼女から見て近からず遠からずな位置のダービーキングに座って馬を鳴かせ始めます。コーナー内に響くヒヒーンがいつもは哀愁すら感じるんですけど、彼女がいるというだけで結婚行進曲にも聞こえるんですから不思議なものです。 彼女はすごいダルそうに立ってるだけで、早く仕事おわんねーかなーみたいな顔してて僕のことなんて眼中にない感じなんですけど、多分照れてるんでしょう。心中は穏やかじゃなくて、やだ、アタイ、なんでこんなにドキドキしてるんだろう!とか思ってるに違いありません。 話しかけたりしてみたほうがいいんだろうか。 何かきっかけがあったほうがいいかな。 いきなり話しかけて驚かないかな。 それより手紙でも書いて渡したほうがいいかもしれない。 乳首の上にパチンコ玉のせるプレイしたい。 とまあ、純情な想いが駆け巡ったんですけど、こういう時って本当に間が悪いというかタイミングが悪いというか、あっという間に6千円がなくなろうとしていたんです。ああ、持ち金が尽きてしまう、彼女と二人っきりの時間を過ごすためのチケットがなくなってしまう、心の中は喜びと同時に悲しみに支配されていました。 しかし、神様ってのは本当に粋な計らいをするものです。最後の500円玉を投入した時、ドラマは起こったのです。 なんと、台の下部の穴、外れたパチンコ玉が回収されていく穴があるんですけど、台が古すぎたのかなんなのか、その穴の奥のほうで玉が詰まり始めたんです。打つ玉なんてほとんどハズレですから、どんどん回収穴にいくんですけど、そこが詰まってるもんですからどんどんと貯まっていくんですよ。 普通はそうなったら店員さんを呼んで詰まりを直してもらうんですけど、僕は逆にこれをチャンスと捉えました。回収穴が詰まる→玉が貯まる→ハズレ穴が塞がれる→アタリ穴にしか入らない→玉がたくさん出る→素敵と彼女がしなだれかかってくる→おセックス→両の乳首にパチンコ玉。コレですよ、コレ。 もう彼女と大金を同時に手に入れる大チャンスと考えたんです。よし、もっと打ってどんどんハズレ穴に玉を蓄積させていくしかない。 そう決意したのはいいんですが、あいにくもう金がない。弟の貯金まで全て盗んだシーフな僕でもさすがにもう先立つものがなかったんです。幸いにして穴の詰まりはまだ目立たない程度、普通なら巡回する店員に見つかってすぐに直されるのだろうけど、彼女はやる気がない様子。こりゃあみつからないはずだ。よし、家に金を取りに帰ろう。 そこからはもう、クレイジーホースのごとく家に帰りまして金を探しましたよ。洗濯機の中からテレビの裏、ありとあらゆる場所を探しました。弟が隠し財産を築いていないかも入念に調べました。しかしながら、全然金が出てこない。 金を求めて家捜ししている様を、唯一家にいた爺さんが即身仏のように見ていたんですけどそんなの関係ありません、徹底的に居間の中も探します。それでもお金は見つからなくて、どうしよう、その気になってる彼女を抱けないなんて、女に恥をかかせるつもり?とか悲しませちゃう、とか何かが根本的に間違っている見当違いな絶望に身を委ねていると、ポロッと預金通帳が出てきたんです。 爺さんは居間の隅のほうに自分の昔の写真とか置いていたんですけど、そこにモモヒキがありましてね、そのモモヒキに包まれるように預金通帳が入ってたんです。中を見るとそこには12万円という天文学的金額の貯金が。 たぶん、爺さんが貯めていた貯金なんでしょうけど、これは神が与えたもうたチャンスだと思いましたね。ホント、当時の僕は最低でミジンコ以下なんですけど、盗んでやろうと思ったんですよ。もうシーフ過ぎて自分でも泣けてくる。 しかしまあ、いくらなんでも爺さんの目の前で盗むわけにはいかないじゃないですか。眼前で盗むとか強盗じゃないですか。ですから、あえてワザとらしく爺さんにアッピールしましてね。 「僕は今、貯金通帳を見つけたけど盗まないよ!ほら、ちゃんと元の場所に戻すから!」 と、爺さんに対して聞かれてもないのに答える始末。ほっかむりつけて風呂敷担いだドロボウくらい怪しいアッピールですよ。で、貯金通帳を元のモモヒキの場所に戻すと同時に同封されていたキャッシュカードだけマジシャンのごとく盗んだんです。 ホント、最低で、今でも職場の女の子とかに「最低!死んで!」とか言われますけど、それすら軽いアメリカンジョークに聞こえるくらいの最低っぷり。 でもまあ、さすがに心が痛んだのか、12万も盗まないよ、1万だけ、1万借りるだけだから、ちゃんと返すよ!とか、爺さんが持ってるより僕が使ったほうがいい、とか訳の分からないことを呟きながら金を下ろしにいきましたよ。どうせ暗証番号は爺さんの誕生日だろうってやったらビンゴでした。あの歓喜は今でも忘れないね。 魂の1万円を握り締めてNASAのダービーキングへ再飛来。やはりさっきと同じ状態で愛しの彼女はやる気ないそぶり。問題の台もそのまま玉が詰まった状態で放置されていました。 早速両替して打ち始めます。もう面白いくらいに台の下部のほうに玉が貯まっていきましてね、見てて笑えてくるんですが、モモモモモモモって感じで台の下半分全部がパチンコ玉で覆いつくされたんですよ。 ビクトリーロードは作られた。もう打つ玉全部がアタリのチューリップに吸い込まれていくんです。その度に馬がヒヒーンって鳴くんですけど、あまりにもボコボコ連続で入るもんですから鳴きすぎてヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒーンとかDJみたいになってるんですよ。ダメ!そんなに鳴いちゃダメ!バレちゃう! さあ、その異常な音声に気がついたのが彼女ですよ。愛しの彼女ですよ。そりゃあ、そんな異音がしてたらすぐに気がつきます。で怪訝な顔で近づいてきて僕の台を見るじゃないですか。そしたらアンタ、台の下半分が全部パチンコ玉ですよ。ムチャクチャ銀色ですよ。 「ぎゃ!」 って悲鳴上げて走ってどっかいっちゃいましたからね。で、すぐに怖そうなパンチパーマ引き連れてやってきましてね。 「はーい、ストップ!打つのやめてー」 とか、とても接客業とは思えないパンチパーマが逆に怖くなる優しい口調で言うんですよ。 「ダメじゃない、僕。こういうことしちゃさあ」 「こういうのゴトっていって犯罪なんだよ?」 「それに君、高校生でしょ?」 とか、すげえドスがピリリと効いた声で言われましてね、その間もなんか一番良い大当たりの場所に玉が入ったみたいで、タービーキングの馬が勝手に「ヒヒーン!頑張るぞ!」とか騒いでました。頑張るぞじゃねえよ。 この犯罪者が!みたいな蔑んだ、汚物を見るような視線で彼女に睨まれ、出玉も全て没収されて二度と来ないように、と言われたんですけど、その瞬間に思いましたね、ああ、この恋終わったな、と。失意のままNASAを後にし、泣きながら家路に着いたのでした。 さて、それから数ヶ月、口座に残ってた金は裏ビデオ通販に騙されたり、ナショナル会館っていうパチンコ屋の店員に恋してそこでもダービーキングを連日打ったりして綺麗になくなったわけなんですが、まあ、正直に言ってしまうと、弟の貯金を盗むなら分かるけど爺さんの貯金を盗んだのは良くなかったよなー、ってちょっと反省していたんです。けど、ミジンコ以下ですから全然事の重大さを分かってなかったんです。 さらにそれから数ヶ月、大学進学が決まり、これから一人暮らしをするぞっていう最後の春休みに爺さんは亡くなりました。最後に立ち会うことができなかったのですが、病院で安らかに息を引き取ったそうです。 入学の準備、一人暮らしの準備に重なって葬儀やらなにやらで大変だったんですが、やっとそれらが落ち着いた時、母さんから預金通帳を手渡されました。それは、見紛う事なきあの、あのダービーキングの日に手をつけた預金通帳なんですよ。 「これは?」 「お爺さんがお前のために貯めてたお金だよ」 ウチの地方は敬老の日に老人に敬老祝い金とか称して1万円が支給されるとかそんな訳の分からない制度があったみたいなんですけど、爺さんはそのお金を12年間ずっと貯めていたんです。1年1年、何ににも金を使わず即身仏のように過ごしてお金を貯めていたんです。 「お爺さんは、お前が小さい時に灰皿を投げつけたことを過ちだとずっと悔やんでた。だからお前が大学に入る時に少しでも足しになるようにって貯めてたんだよ」 そう言って手渡された預金通帳は、これホントに預金通帳かよと思うほどに重かった。もうどうしていいかわからなかった。 通帳を開くと、何で気付かなかったんだろう、1年ごと敬老の日の前後に1万円が入金されている。そして、印字された文字はあの盗んだ時から変わらず12万円で止まっていた。当然と言うか、その後僕がド派手に引き出していたことは記帳されていなかった。 なんかその12万円の印字を見てたらすごい泣けてきましてね、爺さんがコツコツ貯めてそれを大切にモモヒキに包んで保管してたことと思い出しちゃって、なんかギュウッと心が締め付けられたんです。ここまで気付かない方がおかしいんですけど、恥ずかしながらやっとこさ自分の行った行為の愚かさを痛感したんです。 「大切に使いなさいよ」 そう言った母さんの言葉がまた痛くて、使うも何ももう盗んで使ってしまったがな、とは言えず、ただただ泣くことしかできなかった。そして誰にも言うことができず今まで過ごしてきた。 「お爺ちゃんはいつ死ぬの?」 少年の無邪気さで聞いたあの日、爺さんは 「お前が大学に入るまでは生きてるよ」 と笑いながら答えた。けれども、入学前の春休みに爺さんは逝ってしまった。何で死ぬんだよ。僕、爺さんの金盗んだままだよ。それもとんでもないバカな使い方しちゃったよ。 人間とは愚かな間違いを犯す生き物です。別に間違いを正当化するとか開き直るとかそんなつもりはないのだけど、せめて間違いを犯した時くらいはその事実を悔い改めて昇華したい。そうしないことこそが最も深刻な過ちなのだから。 そんな僕が先日、寂れたゲームセンターに行くと、そこには妙にくたびれたパチンコ台が置いてあった。レトロコーナーと銘打たれたそのコーナーには懐かしのパチンコ台が置かれていて、少し浅黒く汚れたあのダービーキングがポツンと置かれていた。 試しに100円入れて打ってみると、これまた静かなゲームセンター内に、あの日のままのヒヒーンという泣き声が少し疲れた感じで響いていて、なんだかすげえ泣けてきた。 悔いるだけではダメなんだ、悔いてその先に改めなくてはいけない、さもなくば一生後悔することになる、それは犯した罪以上に罪深いことなんだ。僕は改めなければいけないんだ。 あの日、あの時、僕は言い訳しようがないほどに最低だった。潔いほどにシーフだった。これからは改めなければならない。もう30歳も超えてるんだ弟の貯金を盗もうと画策するのはやめよう、今日から僕は生まれ変わるんだ。僕は改めるんだ。もう絶対に帰省した際に弟の金を盗まない。鳴り響く馬の鳴き声にそう誓う。 いつまでもいつまでも寂れたゲームセンター内にダービーキングの鳴き声が響いていた。 10/8 first-letter お姉さん系と言えばいいのでしょうか、今風とでも言うのでしょうか、妙に大人っぽい、それもかなりの美人さんがコンビニにツカツカと入ってきたのでした。いつも思うのですが、こういう「いい女」てヤツは何故かおかしいくらいに尻を振りながら歩いているものです。 なんていうか、フリッフリッとシリを振ってですね、それこそ脱腸するんじゃないかってこっちが心配になるほど左右にケツ振って歩いているわけですよ。いやいや、おかしいじゃないですか。どう考えてもおかしいじゃないですか。 ニヒルに笑うハードボイルドな紳士が集う社交場みたいな場所で尻を振るなら分かりますよ。そりゃあこんだけ美人ならば、いくらでも金持ちをゲットできます。でもね、ここは夜明け前のコンビニなんですよ。店内には大塚愛さんが表紙のnadesicoを立ち読みするブサメンパラダイス31歳しかいないんですよ。僕のような野武士が女性ファッション誌nadesicoを手に取るのはちょっと恥ずかしいんですよ。 ーーーーーーーーー!と声にならない驚きとはまさにこのこと。明らかに驚きすぎて尻こ玉が抜け落ちるかと思いましたよ。だって考えてみてくださいよ。蛍ってのはなんで尻が光るのか。あれは幻想的な光で異性を引き付けて交尾するためなんですよ。幻想的で綺麗、なんていう人いますけど、要はセックスしたいだけですからね。 しかしながら、人間はどう頑張っても尻は光らないわけなんですよ。むしろ光ってたら交尾どころの騒ぎじゃないんですけど、とにかく光らない。そうなった場合、やっぱ尻を左右に振るしかないわけなんですよね。尻を左右に振って熱烈にセックスアピールをしている、ここはそう見るのが正解でしょう。 ていうか、ここはもうnadesicoを立ち読みしている場合ではない、早く彼女の想いを受け止めてあげなければいけないっておもうんですけど、いきなり抱きつきにいったりなんかしたらダメじゃないですか。レベルとしては小学校の下校時に出没する露出狂となんら変わりがないやないですか。ここは冷静に彼女のほうからアプローチしてくるのを待つしかありません。なんとかnadesicoを読みつつ彼女のプリプリの尻を横目で追うんです。しかし、視線に気づいた彼女がキッとこっちを見たりなんかしてね。 るるるるるー。 とか、何故か鼻歌を歌って誤魔化すんですけど、今時音声に出して「るるるー」もありませんよ。どこの不審者ですか。 こうなってくると非常に怪しいのですが、それでも彼女の尻は諦めきれない。そう簡単に諦めてたら奇跡なんて起きないよ!と自分を奮い立たせてですね、さらに彼女の尻を目で追ったんです。 ローマは一日にして成らず、という格言が示すとおり何事も積み重ねが大切。こうやって目で追うことによって彼女の淫靡な想いを受け止める準備があることをアッピールしなければならないのです。 上気する息遣い、高鳴る鼓動、もうちょっとクーラーを効かせてくれよ思うほどに体温が高鳴るのを感じます。もう我慢できない!と彼女が襲い掛かってきたらどうしよう。いくら明け方のコンビニで人がいないと言えども店員はいるんだよ、それはさすがにまずいよ、大胆すぎるよ、もっと人がいないところで。 司法の場ってのは本当に容赦ないですから、公然猥褻などの性的犯罪には容赦ない判決が下されているものです。つまり、いくら相手が誘ったからといてコンビニで行為に及んでしまっては間違いなく有罪なのです。この尻に誘われて襲い掛かってしまってはいけない。絶対にいけない。 にも関わらず、やっぱ目が離せないものでコンビニ内で踊り狂う美女の尻を眺めていたんですよ。左右左右とまあ素晴らしい振幅で振られてるんですが、そうなるとね、不思議な現象が起こるんですよ。 みなさんは催眠術ってご存知でしょうか。インチキ臭い外国人が出てきてキンタマみたいな金属の玉を左右に揺さぶるじゃないですか。あなたはだんだん眠くなるーとか言われて左右に揺れる玉を見てたらコテッと寝ちゃったりしてね。 つまり、この美女の左右に揺れる尻が極上の催眠効果をもたらしましてね、徹夜明けということも手伝ってかウツラウツラと眠くなってきちゃったんですよ。nadesicoを立ち読みしながら船を漕いでる状態、まあ、色々と危ないですよ。 かなりヤバイ状態になってしまい、うわっ、これは家に帰って寝たほうがいいかなって一瞬考えたんですけど、やはりケツ振り美女は捨てがたい。このまま立ち読みを続けていたら彼女のほうから誘ってくるかもしれない。あら、nadesicoなんて男の人が読んでるの?なんて話しかけられて、いやーえへへとか受け答え、その間も彼女は尻をプリップリッ振ってるわけですよ。私、nadesicoとか読んでる男性好きなの、抱いて、そこからはもう、コンビニ内ではまずいですからいかがわしいモーテルなんか行って濃厚プレイですよ。もうプレイ中も尻振ってね、そりゃ凄いんですから。 リラックス状態とでも言いましょうか。そんな理想的展開を妄想していたら気持ち良くなてきちゃって、本当に眠くなっちゃいましてね、実は、そこで記憶が途切れてるんですよ。そこからゴッソリと記憶がないんです。 まあ、眠かったんでしょうね、徹夜明けの明け方ってのは特別に眠いですから。そこにきて尻の催眠術ですから思いっきり眠っちゃいましてね、ホント信じられないんですけどコンビニで本気寝ですよ。 しかも、立ち読み状態で静かに眠るという即身仏状態ならまだいいんですけど、何を間違ったのかその場で倒れこむように眠ったらしいんです。眠るというよりは卒倒に近い状態だったのかもしれません。 ただでさえ怪しい汚い男がnadesico読んでたんですよ。見るからに怪しいのに、そいつが女性客の尻を見てたと思ったらいきなり倒れる。これは店員さんとしては大変ビックリな状態ですよ。次の瞬間気がついたら、なんかアニメとか好きそうな店員さんが「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」とか僕の体を揺さぶっていた。「救急車呼びましょうか?」とか言われたんですけど、まさか「美女の尻を見てたら催眠術にかかって」とは言うことができず、存分にお礼を言ってエロ本買って帰りました。もうあのコンビニには行けない。 週末ってやつは恐ろしいもので様々なドラマが待っています。一週間、仕事に学校に頑張って週末を迎える。そこで開放的な気分になるわけなんですよ。抑圧された色々な何かが解き放たれるわけなんです。 明日から休みだ!って時と明日は月曜日だと思いながらサザエさん見てると時では明らかにテンションが違うでしょう。そんなテンションで日常と違う日々を過ごす週末、こいつはどんなトラップよりも恐ろしい罠なんです。週末ってのはどんな時よりもテンションが高すぎる。それ故に尻を見て卒倒なんて悲劇が起こる。 けれども、例えば休みであるはずの週末に思いっきり仕事だったらどうでしょう。それも重要な会議が催され、職場の人間多くが休日出勤となった場合、どうなってしまうんでしょう。誰もが体に染み込んだ週末ハイテンションで仕事場に来てしまったら。そこには想像だにしない悲劇が待ち構えているのです。 ニックネーム「綺麗なジャイアン」、彼はうちの職場の同僚で、すっげえ真面目で熱血漢、綺麗なジャイアンに似てるんでそう呼んでるんですけど、彼なんかすごいですよ。普段は結構真面目にスーツでビシッと決めてるんですけど、休日出勤で発奮したのかトチ狂ったのか、とんでもない格好できやがったんですよ。 会った瞬間に尻こ玉が抜け落ちるくらい驚いたんですけど、テレビ番組で正月とかにハワイ行く番組があるじゃないですか。二流くらいの芸能人がレポートするんですけど、絶対に日本では着ないようなド派手なアロハ着てるじゃないですか。それを綺麗なジャイアンが思いっきり着てるんですよ。むちゃくちゃ似合ってない。 議題は結構真面目で、それこそシリアスで深刻なことを皆が難しい顔して話し合ってるんですけど、右斜め前にアロハがいるんですよ、アロハが。スーツの中にアロハ。地味な色合いの中に咲き乱れる一輪の花。そのアロハが難しい顔しやがってからに発言とかするんですよ。笑い殺す気ですか。ホント、恐るべし週末ハイテンションですよ。 にも関わらず会議は粛々と進行していくんですけど、さらに週末ハイテンションの被害者が。僕の隣に座っていた後輩なんですけど、まあ、佐竹君なんですけど、彼がもう週末ハイテンションすぎて本当にやばかった。 かれはまあ、掛け値なしにバカなんですけど、それでもまあ会議の席では真面目でしてね。最近流行の要領のいい若者って奴で、お偉方とか権力者がいる時はいい子ちゃん、僕のようなカスな先輩の前だと悪い子ちゃんとまあ、分かりやすいくらいに舐められちゃってるんですけど、やっぱ偉い人が多い会議の席では神妙な顔してるんですよね。 けれども、この週末ハイテンションでの彼は違った。もう週末ってことで何を発奮しちゃったのかわかりませんけど、僕の隣の席でなんかコソコソ隠れて雑誌を読んでるんですよ。高校生くらいの時にちょっと不良が授業中にコソコソとマンガ読んだりするじゃないですか。あんな体勢で思いっきり何かを熟読してるんですよ。会議中に何をそんなに夢中になってんだよって思ってチラッと見てみるんですけど らくらくナンパ術 レジャー情報これで決まり!とか頼もしいばかりの文字が躍ってるんですよ。で、アホそうな女の子が水着で表紙に写ってました。 まあ、おおよそ会議とは関係ないんですけど、どうもタウン情報誌っていうんですか、地方ごとのローカルな話題を扱う極めて田舎臭い雑誌を読んでるんですよ。 すでにこの時点で週末ハイテンション過ぎる。神妙な会議中にタウン情報誌を読むなんてありえない。普段の彼から考えたら逸脱しすぎている。と思うんですけど、問題はそこだけで終わらなかった。 人が一生懸命発言とかしてるわけじゃないですか、みんな週末に会議とか死ぬほどダルいとか思いながら、それでも最低限の理性で思い留まって普通に会議を進行させているわけですよ。 生活がかかてるってわけではないでしょうけど、それでもみんな仕事を成立させようと頑張っている。それなのにアロハとかタウン情報誌とか許されていい問題じゃない。週末ハイテンションだからって見過ごしていい問題じゃない。だから言ってやったんですよ、会議の支障にならないように、極めて小声で言ってやったんですよ。「おい、そういうのはやめろ」って極めて男前な感じで言ったんです。 終ってから読めばいいだろ、とも言いました。しかしですね、佐竹君はバカというかキチガイというか、聞く耳持たないというか、僕の注意が聞こえてないのか満面の笑みで言うわけですよ。 わかってますってー、ちょっとまってくださいよー って言いながらそれでも読み続けるわけなんですよ。全く聞いていない。全く分かってない。もう頭おかしい、週末ハイテンション過ぎる。 ただでさえ週末会議で憂鬱なのに、こんなに週末ハイテンションな後輩が横にいると陰鬱になってくる。でもまあ、頭ごなしに怒るってのもどうかと思うので、少しフレンドリーに接して、やんわりと注意するのが得策だと思いましてね、「何をそんなに夢中で読んでるんだい?」とピロートークみたいな優しさで話しかけたんですよ。 死ね!ホントに死ね!とか思いながらも優しく話しかけると佐竹君は嬉しそうな顔しましてね、なんか満面の笑みであるページを見せてくるんですよ。「いやーちょっとここ読んでくださいよー」とタウン情報誌のあるページをこちらに押し付けてくるんです。 にじり寄るように雑誌を押し付けてくるんですけど、おいおい、そんなに情熱的にやったらバレちゃうだろうが、今は会議中だぞと思いながら見てみると、なんか読者投稿のページなんですよ。雑誌の読者が雑誌に投稿して、今日は片思いの人と目が合っちゃってドキドキしちゃった、とか死ぬほどどうでもいい、インクと紙の無駄遣いみたいなことを書いてるページなんですよ。 ただの読者投稿ページじゃん、こんなの何が面白いのか全然分からないよ。頭おかしいんじゃない?みたいなニュアンスのことを佐竹君に伝えたんですけど、すると彼が続けるわけですよ。「そのペンネーム赤丸花子さん(21)の投稿を読んでみてください」とか、気持ち悪い笑顔で言ってくるんです。 いやいや、赤丸花子さん(21)の投稿なんて普通じゃない、近所に美味しいケーキ屋さん見つけて犬の散歩が楽しくなった、みたいな至極どうでもいい、むしろ腹立たしさすら覚える内容じゃないですか。 会ってすぐにハメて!ハメ狂って!とか赤丸花子さん(21)が書いてたら会議そっちのけで夢中になるのもわかりますよ。それなのにケーキ屋とか微塵も夢中になる要素がない。頭おかしい。週末ハイテンションってこういうものなのか。 社長みたいな偉いっぽい人が会議で発言しています。そんな重要な場面を無視して夢中になるほどのポテンシャルがないんですよ。赤丸花子の投稿には。 やっぱさあ、こういうの会議中に読むのは良くないよ。いくら週末会議で面倒だからってさ、ちゃんとやろうよ、みたいなニュアンスのこと言いながら彼に雑誌を返すと、彼がカッと目を見開いて言うわけなんですよ。「ちょっと待ってください!もっとちゃんと読んでください!」どんな時でもこんな彼の真剣な顔を見たことがない。こりゃ、何かあるに違いない。 めんどくせーなって思いながら再度読んでみると、やっぱり普通の投稿だ。赤丸花子さん(21)の投稿におかしいところはない。それでも熟読してると 佐竹が言ってくるんですよ。「赤丸花子さんの投稿の最初の一文字目を続けて読んでみてください」とかなんとか。赤丸花子さん(21)はどうでもいい文章を複数行に渡って書いてるんですけど、その頭の文章を繋げて読んでみるんですけど、なんと、驚くことに「おまんこ」になってるじゃないですか!頭の文字だけを読んでいくとしっかり「おまんこ」になってるじゃないですか。エロい!エロすぎるぞ! ただもんじゃねえよ佐竹!よくこんなの見つけたな!ケーキ屋とか犬の散歩とかお嬢様風味の投稿に「おまんこ」を見出すとはな!とマジで尊敬しました。そんなわけありません。 いやいや、頭おかしいじゃないですか。投稿の頭文字だけ読んで「おまんこ」とかどうでもいいじゃないですか。赤丸花子(21)とかどうでもいいじゃないですか。そういう読み方して喜ぶなんて中学生でもしないですよ。週末ハイテンション過ぎる。週末ハイテンション過ぎてどうしようもない。とか思ってると「こら!さっきから何をやってるんだ!」とか偉いっぽい人に怒られちゃいましてね、満場の会議室で僕が立たされてやり玉に挙げられる始末。佐竹が悪いのに立たされて怒られた僕は狼狽しちゃいましてね、「いや、佐竹君が赤丸花子・・・投稿がおまんこで・・・」、と狼狽し、職場の面々の失笑をかったのでした。しかも綺麗なジャイアンが、アロハジャイアンのやつが「週末だからうかれてるんですよ」とか言いやがって、お前が言うなって感じなんですけど、とにかくやり玉に挙げられて、僕が一番週末ハイテンションだったってことになったのでした。一人だけ立たされて、恥ずかしいやら何やらで、尻を見た時とは別の意味で卒倒しそうになったのでした。 。 10/6 ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負スペシャル:破- 放送開始 終了しました 放送URL 終了しました 放送スレ 終了しました 聞き方 適当に調べてください。わからなければ放送スレで聞いてください。 放送内容 ・テレクラにかける ・軽やかに雑談 ・トイレが詰まってしまい1ヶ月くらい放置していたら・・・ ・初恋の人がMixiに・・・ 前回までの戦跡(簡易版) No.01 マキ 24歳 変態トークにひかれて終了 No.02 タエコ38歳 繋がった瞬間にイク男 No.03 練馬のエミ 19歳 本気で口説く No.04 ユリ 24歳 エヴァオタMAX No.05 マナミ 26歳 ウンコでスゴロクプレイ No.06 美穂 28歳 モノマネ対決 No.07 サキ 25歳 江戸プレイ No.08 ユリ 25歳 ねっとりした会話 No.09 女王様 ちょっといいかしら? あなた気持ち悪いわ No.10 ユカリ 28歳 ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ No.11 マナミ 23歳 惑星プレイ No.12 タカコ 52歳 心が折れる No.13 ツカサ 24歳 それはペテンです!!! No.14 ユウコ 大塚愛さんと魔王を倒しに行く話 No.15 女王様2 オナニーしてみてごらピッ! No.16 女王様3 サンヨーじゃなくてセンズリヨーでしょう! No.17 マミ 19歳 渋谷のDJ No.18 カナコ 28歳 宅配便プレイ No.19 クミコ 26歳 女王様に逆らうM男 No.20 ユウコ いくら? No.21 ケイコ エキサイトバイクプレイ 番外編 リスナー ユカ♀27歳&シゲ♂32歳 シゲとガチホモ 9/29 駐車場クライシス 最近、駐車場が熱い。 いやいや、いきなり熱いって言っても何のことやら分かりません。もちろん、駐車場だけが亜熱帯の如く独自に熱を発してるわけでもありませんし、何故だか知らないけど灼熱の炎に包まれているわけでもありません。あくまでも僕の中の個人的熱量として駐車場が熱いのです。「アツい」と書き換えた方がこの熱量を理解しやすいかもしれません。とにかく、駐車場がアツい。 ではなぜそんなにも駐車場がアツいのか、それを説明する前に駐車場について語らねば話が始まりません。そもそも駐車場とは何なのか。まず、これは読んで字の如く「車を駐車する場所」と理解することができます。しかしながら、問題の駐車場がただ駐車するだけの場所だと認識していると手痛いしっぺ返しを喰らうことがあるのです。 僕の大好きなエロマンガにこのようなものがあります。深夜、繁華街近くの駐車場に特に目的があるわけでもなく駐車し、カーオーディオなどを聞きつつマッタリと過している男がいたのです。男は鼻歌交じりで上機嫌、マイカーの中というプライベート空間を心から楽しんでいました。 ふとサイドミラーに目をやると、何やら怪しげな影が車の後部に。おいおい、もしかして車上荒らしか、と怪訝な表情でサイドミラーを注視しました。しかし、そこには妙齢の、いやピチピチと若さ弾ける黒髪の女性がいたのです。女性はソワソワと落ち着きがなく、車を探すでもなく周囲を伺っています。 ミニスカートにブーツ姿という今風ファッションで決めた女性をサイドミラー越しに眺める主人公、こんな時間になにやってるんだろうか、そう、もう時間は深夜、それもかなり深い時間なのです。そして、そこで信じられない出来事が起こりました。 なんと、女性はガバッとその場でかがむと下着を脱いで小便をし始めたのです。これには主人公もビックリ。サイドミラー越しではなく運転席から振り返って女性の姿を確認します。まさか小便を見られているとは思わない女性はホッと安どの表情。なんか、出し切ってフー、危なかったとか言ってます。で、視線を上にやると、マジマジと覗き込んでいる主人公と目が合ってしまうのです。 「きゃー!」 「いや、ごめんなさい!」 ま、この辺のやり取りはどうでもいいとして、問題はこの後の展開です。何故か小便をしていた彼女を助手席に乗せて話し込む主人公。普通なら小便見られた女性なんて脱兎の如く逃げそうなものですがこのマンガはそうはいきません。 「もう!恥ずかしい!」 「いやいや、こっちだってビックリしたよ!」 近くで見ると女性はかなりカワイイ顔をしています。妙に胸が高鳴る主人公、そこで信じられない出来事が起こります。 「飲み会帰りなんだけどどうしても我慢できなくて」 「へえ、そうなんだ。俺もビックリしたよ」 「ねえ、私の恥ずかしいところ見たんだから、お兄さんの恥ずかしいところも見たいな」 「なななななな、なんだって!?」 こっちが「なんだって!?」と聞きたい展開ですが淡々とエロスな物語が展開されていきます。もう、車内でジュルジュルピッチャ!しかもその後ラブホテルに移動してジョルダルバッジャ!とまあ、物凄い有様でしてね、なんか道具とか使い出してるし僕なんか読みながら胸の高鳴りを抑えられない状態になってしまったんですよ。 まあ、こんなアメリカンドリームならぬ駐車場ドリームなんてのはありえないことで、僕だって現実とエロマンガの区別くらいはつきますから、そういうエロスな展開ってのはないって分かってるんですよ。バカにしないでいただきたい、それくらい区別つきます。いくあなんでも分別ある大人ですよ。 でもね、ここまでは行かなくても小便くらいは目撃できるんじゃないかって少しだけ期待してるんですよ。駐車場に居れば若い娘の小便をアリーナ席で観戦できるかもしれない、駐車場にはそのような無限の可能性があるんですよ。だから僕の中で一番アツい。 と、書くとまた「小便」とかの文字が小躍りしている話を書きますと、純真無垢な女性などから「patoさん死んで」「一生のお願いです、死んでください」などとソウルフルなメッセージが記載されたメールを頂くことになりますから、ホント、そんなの送るくらいなら小便の一つでも送って来いよ、まっ黄色のヤツをな!って思うんですが、さすがにアレなので真面目に書きます。 駐車場の面白さとは何か。それはひとえに単体で成立しうる物ではないということにあるのではないかと思います。単体で存在できない付随的な代物、それを単体として捉えた時に面白さを発揮するのです。例えば小便と大便ってのはセットの物ですが、小便を単体で捉えた場合、うん、やめておきますね。 恋人同士でディズニーランドに行くのでもいいでしょう、どこかにショッピングでもいいでしょう。そこには広大な駐車場が存在します。高速道路を通ればパーキングエリアがあって、家に帰れば所定の駐車場に車を停めます。ディズニーランドに付随したもの、商業施設に付随したもの、高速道路に付随したもの、家庭に付随したもの、と全ての駐車場が何かに寄生して存在しているのです。世界中に存在する全ての駐車場が何かに付随した形でのみ存在を許されているのです。 「今日は3丁目の駐車場に行こう!」 「やったね父さん!」 「アナタ、いいの・・・?」 「仕事仕事で寂しい思いさせたからな、たまには家族サービスさ」 「父さん!三丁目の駐車場って白線が綺麗だよね!」 「ああ、それにコインパーキングだ!」 「アナタ・・・素敵・・・」 「芳江・・・」 「父さん、母さん、なんだったら僕、ちょっと散歩してこようか?」 「バカ!何気を使ってるんだ!」 「もう!この子ったら!」 「えへへへへへ」 とまあ、こんなことはありえないわけなんです。目的地として単体では存在し得ない、あくまでも通過点でしかない駐車場、そこに注目すると今まで見えなかったものが見えてくるのです。 ウチのアパートの駐車場は、まあ田舎ですから車無しの生活なんてありえないといった事情から結構広めな敷地を有しているんですね。だいたい20台くらいの車が停められるように、よくよく考えたらアパート部分の土地よりも駐車場部分の土地の方が広いじゃんってくらいに威風堂々と存在しているんです。 ある日の朝、さあ出勤するぞーと思ってアパートの入り口から自分の車まで駐車場を横切ってたんです。ウチのアパートは朝遅い人々が住んでるみたいで僕が出勤する時は満員御礼フル状態で車が停止してましてね、ギュウギュウに詰まってるもんですから車と車の間を抜けるようにしてマイカーまで行かないといけないんですよ。 もう毎朝のことですから慣れたものでして、体を横にしながらスルスルと抜けていったんです。で、あることに気がついてしまったんです。 「駐車場にタバコの吸殻を捨てているキチガイがいる」 もうモッサリと白線の上にタバコの吸殻が山のように捨ててあるんですよ。いやいや、僕が圧倒的マナーでそういうことはけしからん!だとか、僕らの地球を汚さないで!とか言うつもりはないんですけど、それを見て、ああ、こんなのアリなのか、と気がついてしまったんです。 僕はこれまで駐車場というのは車を停めるだけの場所だと思っていた。それ以外に許されないと思っていた。何も考えることなく毎朝通過するこの駐車場も深く観察することなく通り過ぎていた。これはある意味盲目で非常に勿体ないことじゃないだろうか。現に、目の前にはゴミ捨て場としての駐車場が存在している。僕が思ってる以上に駐車場ってのは何でもありなんじゃないだろうか。 よくよく周囲の駐車場を見てみると、みんな結構何でもありみたいで様々な物を駐車スペースに置いたりしている。車のタイヤだとか何か部品みたいなものとか、それはまだ分かるとして理解できないけど植木鉢なんか置いて駐車場でガーデニングしてるおばさんまでいる始末。今までスルーしてたけど注意深く観察すると結構何でもありだぞ、駐車場。 それからはもう日々、駐車場を通過するのが楽しくてですね、あ、また荷物が増えてるだとか、植木鉢が増えてやがる、またゴミ捨てやがったなと、日々変わる駐車場が楽しくなってきたんですよ。 しかも、僕も負けじと駐車場に何か置いてやろう、皆がやってるように駐車場を駐車以外の事にも使ってやろう、って決意しましてね、とりあえず何も置くもの考え付かなかったので古いジャンプを山盛りに入れたダンボール箱を置いておいたんですよ。 駐車スペースの端っこにダンボールを置くと車を出し入れするのが難しくなって微妙にスリリングなんですが、これで僕も駐車場は駐車場であるべきという固定概念から解き放たれた新人類だ!と少し誇らしい気分になったんです。 そしたらまあ、同じように「え?駐車場に荷物置くのってありなの?」と気付いてしまった他の住人が荷物を置き始めちゃってですね、あっという間に我がアパートの駐車場が何でもアリのカオスな状態になってしまったんですよ。 サーフィンの板っていうんですか、ああいう女にモテそうなアイテムを置く住人が出だしたり、何に使うのか全く分からないんですけど動物の死体を安置するような小さな台とか置かれ始めてさあ大変。多くの住人が気にも留めていなかった駐車場の存在意義に気がついてしまったんです。 それからはアツかったですね、もう毎日がアドベンチャーの連続。仕事を終えて家に帰ってくると変に対抗意識を燃やしたガーデニング婆さんの鉢植えとかが増えてるんですよ。それどころかプチトマトみたいなのを植えだす始末。そんなことして本来の駐車という目的が満足できるのか甚だ疑問ですが、とにかく日々刻々と我がアパートの駐車場が変化していったんです。もうアツいアツい。 しかしながら、それと同時にあまりよろしくない現象も垣間見えるようになりました。皆さんは割れ窓理論(ブロークン・ウィンドウ理論)というものをご存知でしょうか。一台の車が空き地に放置されているとします。その車がきちんとした車であるならば荒れるのに時間がかかります。しかしながら窓ガラスを割った状態で放置するとあっという間に荒れ果て、他の場所壊されるわ部品盗まれるわの大騒ぎ、雪崩式に事態が悪化するのです。 同じように街中において、建物の窓ガラスが割れていたりすると、それが「この周辺は誰も気を配ってない」というサインになり、ゴミのポイ捨てなどが増加、軽犯罪が増加、挙句には重大な凶悪犯罪を引き起こしてしまう。どんな些細な事でも見逃さないのが大切だ、という理論です。 我が駐車場も見事にこの割れ窓理論を辿ってしまいましてね、最初はタバコの吸殻捨ててあるだけだったのに、それに触発されたキチガイがダンボール箱を置き始めた、それにさらに触発された住人達が一気に荷物を置き始め、さらに誰がやったか知りませんけどアスファルトにスプレーで落書きとかされるようになっちゃったんですよ。 さすがに住人ではなく、外部から来たクソガキだとは思いますが、荷物とか置かれまくってて荒れてる駐車場を見て落書きしてもいいじゃん、とか思ったんでしょうね、アスファルトにデカデカとマンコマークみたいなの書かれてるんですよ。落書きとかされちゃうとさらに荒廃した雰囲気がムンムンになるもので、一気にスラム街みたいな雰囲気が漂ってくるものです。 恐ろしいもので、割れ窓理論はここで止まらない。さらに放置を続けると落書きの数も増え、さらにはアパートの壁にまで芸術的な落書きが施される始末、なんかチーム名っていうんですか、最強連合っぽい文言と何とか連合とかデカデカと書かれるようになったんですよ。 おまけに、週末の夜ともなると何やら駐車場が騒がしくてですね、ウチのアパートは住宅街のど真ん中にあるんですけど、近くの住宅のご子息が暴走族に興味を持っているようで、なんか族どもがその彼を迎えに来るんですよ。これまでもそういうことはあって迎えに来た時とかバリバリとバイクの音がうるさかったんですけど普通にアパートの前を通り過ぎるだけだったんですよね。でも、今はスラムのように荒廃した我がアパートの駐車場がありますから、こりゃちょうどいいってなもんでそこでご子息を待ったりしてるみたいなんですよ。 恐るべし割れ窓理論。ただ、いつも通過してるだけの駐車場に注目し、駐車以外の使用方法に気がついてしまった。そこから一気に積み木が崩れて暴走族の待合所ですよ。もう殺人事件とか起こっちゃうのは時間の問題です。 日々荒廃していくマイアパート駐車場を眺め、なんだかなーとか思う日々、しまいにはその暴走族どもがハンバーガーのゴミとか平気で捨てていくようになっちゃいましてね、ソウルフルな落書きと共に掛け値なしでスラムな雰囲気がムンムンしてきたんですよ。そんなある日、事件は起きました。 ある金曜日。明日からは休みで週末をエンジョイしちゃうぞって勢いで帰宅したんですよ。ちょうどその日は仕事が微妙に忙しくてですね、珍しく遅い時間の帰宅、まあ、明日休みだからいいかってコンビニで夜食を買い込んでアパートに帰ったんです。 アパートの駐車場はやはり荒れ果てて入り口のところにゴミとか捨ててある始末。それも一部分だけゴミ屋敷みたいになてるもんですから、こりゃあ酷いなって思いながら所定の場所に車を走らせたんです。 僕に与えられた駐車スペースは駐車場の端っこで、どっかのガキが描いたマンコマークみたいなピースフルな落書きの近くだったんですけど、もう夜ですよ、灯りもないし真っ暗な駐車場ですよ、ガッと曲がるとヘッドライトに照らされたマンコマークがデーンと大登場ですよ。もう慣れてしまったから別にいいんですけど、それにしても荒れすぎだろ、と思いながら駐車しようと所定の場所でハンドルを切ったんです。 そしたらアンタ、僕の駐車スペースに暴走族がいるじゃないですか。見るからに悪そうって言うか、ヒップホップ育ちというか、悪そうなやつは大体友達って言うか、とにかくそんな輩がまるで我が家のように僕の駐車スペースでくつろいでるんですよ。エビフライみたいななった下品なバイクも3台くらい泊ってて北斗の拳みたいな状態になってはるんですよ。 これだから駐車場は恐ろしい。駐車場を単体と捉えて駐車以外の使用用途を模索し始めた時、そこは荒れ果て、また暴走族たちも待合所としての活用を始めるのです。普通に生活してて自分の駐車スペースが暴走族で溢れかえってるなんてそうそうありませんよ。 薄々は勘付いてました。あの荒れようや落書きの数々、捨てられたゴミたち、暴走族が使ってるだろうなってのは前述した通りなのですが、まさかリアルタイムでその場面に遭遇してしまうことになるとは。 で、暴走族たちは僕の車のヘッドライトが眩しいって感じの顔して不快感を顕にしてるんですよ。これはね、ハッキリ言ってマズイですよ。非常にマズイですよ。このままそこは俺のスペースだ、どけとか言っちゃって彼らの逆鱗に触れ、ああーん、ハードラックとダンスってみるかとかボコボコニされたら目も当てられません。明日の朝刊あたりに「駐車場を巡るトラブル、31歳会社員撲殺、狂った果実」とか書かれてブログとかでも「バカなオッサンがいたものです」とかネタにされるかもしれない。ワイドショーがきてアパートの住人にインタビュー、「ああ、死んだ○○さん(僕)は気持ち悪い人でね、よくパンツ姿で出歩いていたよ、迷惑だった」とか言われちゃうかもしれません。 とにかく、ここで彼らと衝突してしまっては生命の危機ですので、何事もなかったような顔でバックし、全然違う駐車スペース、空いていたのでガーデニング婆さんの場所に車を停めました。後で婆さんに怒られるかもしれないけど生命には代えられない、早く安全なマイルームに帰らねば。 なんとか車を降りようとするんですけど、婆さんの置いた鉢植えがむちゃくちゃ邪魔すぎる。くそっ、駐車場にこんなもの置くなよ、邪魔すぎるじゃねえか。と、マゴマゴしてるとこの憐れな子羊に暴走族のリーダ格みたいな奴が話しかけてくるんですよ。 「あれえ、おじさん、もしかしてココの人?」 ココってのは紛れもなく彼らが占拠している駐車スペースのことなのですが、それ以前に「おじさん」は酷い、酷すぎるよ、と半ばブロークンハート、こりゃあ下手に返答を間違えたら死ぬぞ、とビクビクしながら答えました。 「う、うん・・・」 31歳にもなって今度会社の決まりで無理やり人間ドッグに入るようになった僕、いわば熟年の域に達した僕ですよ。加齢臭立てだってでています。そんな僕が10代そこらのガキどもにブルッちゃってるわけで本当に情けないのですが、この荒れ果てた駐車場ではいつ惨殺事件が起きてもおかしくありません、なるべく彼らを刺激しないようにしなければなりません。 「なんだあ、早く言ってよ、ごめんね、今場所空けさせるから。おじさん遠慮なく停めてよ」 暴走族どもは結構フレンドリーでエビフライみたいになったバイクを移動させるではないですか。ここで無視とかしたら本気でリンチ遺体になるので僕も早く部屋に逃げ込みたいんですけどもう一度車に乗って所定の位置に駐車します。 なぜか両脇で暴走族どもが腕組みして見守り壁みたいになってる中で駐車ですよ。意味がわからない。っていうかハンドル操作を間違えて彼らを轢こうものなら間違いなくリンチに遭う。生きては帰れない。自動車学校の卒業検定より緊張したよ。 なんとか命からがらの駐車も終わり、ヘコヘコと部屋に帰ろうとしたんですけど、やけにフレンドリーな暴走族はさらに話しかけてくるんですよ。もう勘弁してください。 「あれ、それおじさんの夕ご飯?」 とか僕が手に持ってるコンビニの袋とか指していうわけですよ。 「うん、まあね」 とか人生の中でベスト10くらいに入りそうなどうでもいい会話を交わすんですけど、彼らの会話は終わらない。その暴走族の中にもヤンキーな女の子がいましてね、多分、メンバーから肉便器的扱いを受けてるんでしょうけど、こういうワルの中にいる女の子ってカワイイこと多いじゃないですか、カワイイしたぶんツンデレでしょうし、頭も尻も軽い、けっこう付加価値があるんですよ、ヤンキー少女って奴は。で、その少女が僕を少し小バカにした感じで話しかけてくるんですよ。 「おじさん年いくつ?」 「28歳だけど」 なぜ暴走族相手にサバ読んでるか僕の心理状態が分からない、何を狙ってるのか分からないって状態なんですけど、人生でベスト5くらいに入りそうな死ぬほどどうでもいい雑談が続くわけなんですよ。で、そんな中、その肉便器少女が問いかけてくるんですよ。 「おじさん、KYって知ってる?」 え、AM11:00とか歌ってた人?今も活動してるの?とか、君の小便を夜まで飲みたいの略、とか答えようかと思ったのですけど、返答を間違えるとマジで死ぬので、 「空気読めない?だよね」 と恐る恐る答えたんです。すると暴走族たちもたいそう喜んでくれたみたいで、「ほらみろ、やっぱ知ってんじゃん」「やるじゃんオッサン」みたいな機運が高まってきたんですよ。さすがにそこまで褒められると僕も悪い気がしないもので、なんでも答えちゃうぞってちょっと調子に乗ってしまったんですよ。 そしたらまた肉便器、じゃないやヤンキー少女が聞いてくるわけなんですよ。 「じゃあさ、ZAって分かる?」 これがね、ほんとにわかんなかった。この後もインターネットなどを駆使して調べたんですけど全然分からなかった。多分、彼ら穴兄弟の中でブレイクしている言葉なんでしょうけど、ホントに意味が分からなかった。で、答えられなくて困っちゃいましてね、苦し紛れに発した言葉が、 「えっと、ざんぎり頭の略?」 文明開化してどうする。明治時代か。同じ間違うにしてももっと色々あるだろうに。 「ちげーよ、もういいよ、早く行けよ」 あまりに微妙な返答にエビフライのボス格もちょっと不機嫌な感じになっちゃいましてね、呼び止めたのはお前らだろ、それより人の駐車場にいるのはお前らのほうじゃないか、と思いつつもスゴスゴとマイルームに戻ったんです。 戻ってからも大変でしたよ。僕の部屋は3階なんですけど、ベランダから覗いてみるとあいつらまだまだ帰らずに僕の駐車スペースでたむろしてるんですよ。駐車場は暗くて彼らの姿は見えないんですけど何やら音声だけは聞こえるんですよね。そのうちエロいことで始まって肉便器少女のエロボイスだけでも聞けるんじゃないかってワクワクしながら覗いてたんです。 いくら若者の性が乱れてるとは言ってもさすがに駐車場で乱交とかはないと思うんですよ、でもね、これだけ長時間たむろしていたら、「あーん、もう我慢できない」「もうそのへんでしちまえよ妙子」「あーん」っていう小便的な、ってそろそろやめておきますね。 とにかくそういった展開を期待してコソコソと盗み聞きしてたんです。そしたらアンタ、 「やっちゃえやっちゃえ」 「マジいっちゃう?」 的な不穏な音声と共にプシューっていう小便にしてはやけに情熱的な音が聞こえてくるんですよ。どうもスプレーが噴霧しているサウンドらしく、あいつら落書きしてやがる、それも僕の駐車スペースで思い切り落書きしてやがる。おいおいやめてくれよーと泣きそうになっちゃったんですよ。 考えても見てください。僕の車にマンコマークとか落書きされてですね、それで職場のマミちゃんとデートとかするじゃないですか。待ち合わせ場所に颯爽と現れる僕の愛車。それにデデーンとマンコマークっすよ。いくら「イカしてる!」を「イカレてる」と本気で「この秋はマフラーがイカレてる!」とか本気で言ってたマミちゃんでも引きますよ。 おいおい、車にマンコマークとか本気でやめてくれよなー、さすがに警察に通報したほうがいいのかしら、でも逆恨みされたりしたら嫌だなーと、闇夜に響くスプレー音を聞きながらベランダでオロオロしてました。 さて、翌朝、まあ車にマンコマークくらい書かれても別にいいかと諦めの境地に達してしまって眠りについたのですが、目が覚めるとやはり気になるものです。もし、マンコマークカーになってたら休日を使って消しきらねばならない、と意気込んで駐車場へと降りました。 やはり駐車場は荒れ果てていて、暴走族どもが食い散らかした食物のゴミなどが散乱して目を覆いたくなる状況。小走りに車まで駆け寄って念入りに確かめます。 よかった、車に落書きはされていない。 やはり暴走族といえども人の子、いくらなんでも人の車に落書きするほど外道ではなかったか。うんうん、昨日話してみてそんなに悪い奴らじゃないとは思ってたんだよな。僕は最初から彼らを信じていたよ。信じていた。 しかし、あのスプレー音はなんだったんだろうか。あの音は間違いなく僕の駐車スペースで落書きが施されていたサウンドだ。車じゃないとするとどこに落書きをされたんだろか。注意深く周囲を観察します。壁やアスファルトの落書きは増えていない。では一体どこに・・・。 そして見つけましたよ。僕が駐車場を荷物置き場代わりにして置いていたダンボール箱に思いっきり青のスプレーで落書きが施されていましたよ。それを見た瞬間、僕は目ん玉を見開いて驚き、尻こ玉が抜け落ちる想いがしたのです。
BOX 意味が、わから、ない。 いやいやいや、箱に「BOX」って書いてどうするんですか。そんなの書かれるもなく百も承知、千も承知なわけですよ。これを書いて彼らが何をしたかったのか分からない。理解できない。アイツら頭おかしいんじゃねーか。ざんぎり頭なんじゃねえか。ZAだ、ZAだよ。 とにかくどうしていいものか分からず、荒れ果てた駐車場を眺めていたのですが、そこで彼らの仕組んだ巧妙なレトリックに気がついてしまったのです。 箱は箱であって、BOXなんだよ、それ以外の使い方はない、あくまでも箱だ。この世の万物には全て決められた役割がある。それを曲げたって何もいいことはない。君らはどうだい?駐車場を駐車場以外の使い方してるんじゃないかい?その結果がこの惨状だ。君らは間違ってるよ。そう警鐘を鳴らしてくれたのです。 なんだかね、偉い先生に怒られたような気がしたよ。僕間違ってた。駐車場は駐車場であって荷物置き場じゃない。与えられた使命ってもんがあるんだ。この「BOX」を見てそう思ったね。 休日を利用して駐車場を片付ける僕。駐車場は駐車場でなくてはならないんだ。「BOX」と書かれたダンボールも片付けようとそっと手に持つと、ほんのりと濡れていて猛烈な臭いがした。あいつら箱に小便しやがった。駐車場は駐車場であってトイレじゃないぞ、と思いつつも、あのヤンキー少女の小便だったらいいなって思いながら、そっとBOXを片付けた。 そして青い空はいつまでも青い空だった。 9/23 ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負スペシャル:序- 放送開始 (終了しました) 放送URL (終了しました) 放送スレ (終了しました) 聞き方 適当に調べてください。わからなければ放送スレで聞いてください。 放送内容 ・テレクラにかける ・軽やかに雑談 ・小文字を多用したギャルから殺害予告メールが来た話 ・パソコンの部品を買いにコアなパーツショップにいったら・・・ ぬめぱと変態レィディオ-テレクラ100番勝負スペシャル:破-に続く 9/18 God Knows... 僕らは知ることに対してあまりに無防備だ。 落ちついて身の回りを見回してみると様々な「知る」が溢れていることに気づく。テレビをつければニュースに情報番組にバラエティに、流れ出る洪水のように情報が溢れている。僕らはそれを視聴して「知る」ことができる。 コンビニに行けば山のように雑誌を売っている。それらから適当に1冊手にし、パラパラと流し読みしただけで余程の情報が詰まってることが分かる。数多くの「知る」が印刷されて綴られている。 インターネットにアクセスすればリアルタイムで数多くの「知る」が流れている。ゴミのような「知る」から高尚な「知る」まで様々、その中をマウスで泳いでいるようなもんだ。 現代社会はあまりにも「知る」が多すぎる。とめどなく溢れる情報は僕らが望む望まないを関係なく否応なく「知る」ことを強いる。その圧倒的な量の「知る」が僕らから「考える」を奪ってるのではないだろうか。 例えば、一人の囚人がいたとしよう。その囚人には情報を一切与えない。何日も何日もあらゆるメディア、人との接触を奪って完全なる無の中に置く。何もない真っ白い部屋に入れておくといい。そして1冊の文庫本を与えたらどうだろうか。 おそらく囚人はその本を貪り読むだろう。例えそれが死ぬほど退屈な本であろうとも、死ぬほどクソな本でも、何度も何度も繰り返し読む。その本に書かれている情報を「知る」ために深く深く読み込むだろう。 「知る」が終わると次は「考える」だろう。ほかに情報のインプットがない、与えられた「知る」はこれだけなのだから、その本の内容を「考える」だろう。この作品を通して著者は何を言いたかったのか。ここでの主人公の心情はどんなものだっただろう。こんな展開ではなくこういった展開のほうがいいのではないだろか。「知る」の次に「考える」が現れるのだ。 しかしながら、現状の僕らのようにあまりにその「知る」が多すぎたらどうだろうか。次々と工場の生産ラインのように押し寄せる「知る」は僕らから「考える」を奪ってしまう。あまりにインプットが多すぎてそれを吟味する暇などない、結果、「知る」だけが僕らの中に蓄積されていく。 先日、100本あまりのエロ動画をダウンロードした時、僕はこの溢れる「知る」に気がついてしまい愕然としてしまった。元々僕はインターネットを利用したお手軽エロ動画ダウンロードに興味がなかった。いや、むしろ軽い憎しみすら抱いていた。許しがたい行為だとすら感じていた。 エロビデオってのは、まるで家に帰るまでが遠足だという有名すぎる格言のごとく、エロビデオコーナーで多くの同胞と戦って幾多の死線を乗り越え、カウンターで大学ではテニスサークルに入ってるんだろうなって感じの爽やか女店員の凍てつく視線をかいくぐり、ここで事故を起こしたら死んでもしに切れんとハラハラする思いで家路へ。鑑賞して、返却日に気だるい思いをして返しに行くまで全てをひっくるめてエロビデオだと思っている。だからおウチのパソコンでダウンロードポンッ!なんていうエロ動画が本当に許せなかった。 しかし、やはり僕も年頃の男の子。どうしても今すぐにエロいやつが見たい!という欲望には打ち勝てず、満月を見たゴクウみたいになってエロ動画をダウンロードしまくったことがあった。 エロ動画はものすごい。その量は圧倒的だ。いくら僕が頑張ってもやはり社会的体裁というか色々あるからエロビデオを借りたとしても7本くらいが限度だ。いや、むしろ旧作を7本借りると安くなるので7本しか借りない。それ以上でもそれ以下でもない、7本だ。しかしインターネットの世界には7本どころでは済まない大量のエロ動画が溢れている。 メイドのお姉さんが酷いことされてる動画だとか、ナースのお姉さんが性の回診をしてる動画だとかとにかく雑多なエロスが溢れている。欧米人が見たらビックリするかもしれない。それらの気になる動画をダウンロードしてしまくってやり、気づいたら100個近いファイルをダウンロードしていた。それらを興奮気味に鑑賞しながら上記の考えに至ったのだ。 とにかくエロ動画は興奮する。もう数々のエロい女がファイルごとに登場し、それぞれ違った趣を見せる。言うなれば雅だ。エロの雅がここにある。しかし、それらは何かが違うのだ。 無限大に近いほどにネット世界に溢れているエロ動画、それらはさして考えるまでもなくダウンロードするだろう。ダメな動画だったら消去してしまえばいいのだ。深く考えることなくどんどんダウンロード。どうせ山ほどあるんだ、さして考える必要はない。 そうやって手に入れた動画には思い入れも何もない。あれ、こんなのダウンロードしたっけと思うこともあるはずだ。そして、適当にゲージを動かして絡みの部分をチョイチョイ見る、そんな楽しみ方しかできない。 逆にエロビデオを考えてみよう。エロビデオを7本、7泊8日でレンタルする。旧作だ。新作はすぐ返却しないといけないし値段も高いので旧作だ。旧作を7本レンタルセット料金で少しお得だ。そうなるとどのような布陣で行くべきか考えるはずだ。3本は企画物で、2本は手堅く女優物でいこう。1本はインディーズに走って最後の1本は脱糞で攻めよう。おいおい脱糞いっちゃうかー!とニンマリ。他にも、このメーカーの作品は外れが多い。このシリーズは手堅い。この監督とは趣味が合わない。考えることは山のようにあるはずだ。パッケージに書いてあるエロビデオ情報を「知る」では収まらない、「考える」という行為が確かに存在する。 エロビデオに限らず、多くの場合でそうだ。あふれ出る雑多な情報は僕らを「知る」で留まらせている。「考える」を奪ってる。何も分かりにくいエロ動画の話しなくてももっといい例があった。ニュースだ。マスメディアが報じるニュースは毎日新しい事件が山盛りだけど、事件自体を振り返ることはそんなに多くない。それは「知る」で留まってるに他ならないのだ。 この「知る」のみで留まってしまってる行為、よくよく観察してみるとやっぱり身の回りに多い。嫌になるくらいに溢れている。例えば仕事場でこんなことがあった。 僕の職場は結構年代的区分がしっかりしてまして、団塊の世代、団塊ジュニア世代、松坂世代みたいな感じで歴然とした区分けがあるんですよ。で、僕が所属する20代後半から30代前半くらいの年齢群をなぜかビックリマンシール世代という訳の分からない呼び方してるんですけど、まあ、年齢的に見ても若手の1個上くらい、一番下っ端じゃないけど中堅でもないっていう微妙な立ち位置なんですよ。 でまあ、我が職場には一番下っ端の世代がプロジェクトを企画立案しプレゼンテーションするっていう行事があるんですよ。そのプレゼンでは若手の案やプレゼンに望む姿勢を一個上の世代、つまり僕らビックリマン世代が強烈に批判しなければならないっていう暗黙のルールがありましてね、それこそ自殺者がでるんじゃねえのってくらいに若手が徹底的に凹まされ、決して逆らうことの出来ない力関係を叩き込まれるんですよ。 多分まあ、上の世代の偉大さみたいなのを「知る」だけじゃなくて、凹まされることで実感させる、「考える」行為に通じるものがあり、非常に性格悪い行事なんですけどそのプレゼンに参加したんですよ。 僕らビックリマン世代と何か偉い感じの人が会議室のテーブルに座り、オドオドした若手が次々とプレゼンしていくんです。で、同世代の同僚達や偉い人達が次々とダメだししていくんですよね。見通しが甘いとか、分かりにくい、そんなのしてなんになるんだね、みたいな感じでガンガン行こうぜ!なんですよ。 僕はそれを見ながら、やばい、この若手どもの方が仕事ができる!とあまりの出来の良さに恐れ戦いてしまい、批判することもできず、誰かが批判した後に「そうだそうだ!」とか付け加えることしかできませんでした。とんでもない雑魚っぷりを発揮してやがる。 で、次々と血気盛んな若人たちがあたら若い命を散らしていたんですけど、そんな中にあって一人のヒョロッとした若手が壇上に立ったんですよね。おいおい大丈夫かよとハラハラしながら彼のプレゼンを聞いていたんですけど、彼が言い出すわけですよ。 「この件に関しましては徹底的に調査してまいりました。こちらの資料をご覧ください」 ヒョロっちい子が自信満々に言うわけですよ。逆に頼もしくなるくらい自信満々、血気盛ん、魑魅魍魎って感じで言うんですよ。 で、聞いてる我々に分厚い、それこそ夏休み前に貰う算数のドリルを思わせるような重量感のある資料を手渡してくるんです。こりゃあすごい、まるで彼の熱量が伝わってくるようだ、とペラペラと資料をめくるんですけど、僕はそれを見た瞬間に言ってやったんですよ。このまま雑魚では終わらない、村人Aでは終わらないぜって勢いで言ってやったんです。 「あのさ、調べるのは大変良いことだと思うし、よくこれだけ調べたなって思うんだけどさ、残念ながらこれは「知る」で終わっちゃってるんだよね」 まあ、職場でしょっちゅうファミスタやってる僕が言うセリフじゃないんですけどとにかく言ってやったんです。彼の資料は本当にテーマに沿ってよく調べてあったんですよ。それこそここまでやるかってくらいに調べてあった。でもね、その内容があまりにもあれだったんです。 テーマに関連した事柄が記載された書籍のコピー、関連した内容が記載されたインターネットサイトをプリントアウトしただけのもの、そんなものがただ綴じられているだけなんですよ。プレゼンの方を聞いてみても、この調べてる事柄に関してほとんど触れないんですよ。 「たぶん調べることで満足してしまったんじゃないかな。こんなの調べましたって結果だけポーンと渡されてもこっちは興味ないわけ。本当はその先が重要だなんだよ。調べたことによって君は何を思ったか、どのような結論を導き出したか、それがどう関連してくるか、それがないと何の意味もない」 彼もまた「知る」ことのみで満足してしまったのです。今の時代、ある事柄を調査しようと思えば本当に簡単です。検索ワードに入れてポンッとやればいくらでも関連するページが出てくる。それをプリントアウトして綴ってしまえば資料の出来上がりだ。あまりに簡単に大量の「知る」を手に入れられある程度の形になってしまう。だからその先にある「考える」を忘れてしまうのだ。 結局、そこからヒョロい子に対する総攻撃みたいなのが始まってしまいましてね、あれもダメ、コレもダメ、全部ダメ、もうダメ、みたいな感じになっちゃいましてね、終いには多分一番偉い人なんでしょうけど老師みたいな人が出てきて「君は明日やり直し」と告げるという地獄の展開。こうして嵐のようだったこの魔女裁判は終わったのでした。 その後、いやー、仕事してないのに偉そうに先輩面するのは疲れるぜーと肩の荷が下りた感じで職場のジュース販売機がある休憩所みたいな場所に行ってですね、ガコンとコーラを買って飲んでたんですけど、そうしたら何かメソメソとすすり泣く声が聞こえてくるんですよ。 なんだなんだ、ここにはタチの悪い自爆霊でもいるのか!と驚いて辺りを見回すとですね、さっきのヒョロい子がすすり泣いてるんですよ。うわー嫌なもん見ちゃったなーってのが正直なところだったんですけど、彼がすすり泣いているっていう事実を知ったからには考えて行動しなければなりません。 「どうしたのかな?」 僕を含むビックリマン世代があれだけ攻め立てておいてどうしたもクソもないんですが、やはり彼は先ほどのプレゼンにいたくショックを受けた様子。オマケに明日までに作り直してやり直すなんて無理だ、みたいなこと言うんですよ。 僕もコーラを飲みながらどうしたもんかなーって困り果てちゃったんですけど、まあ、僕が「そうだそうだ!」の雑魚キャラじゃあ体裁が悪いから彼の時だけ悪いところを指摘した、それが火種になって大爆発したっていう経緯がありますから、手伝ってあげることにしたんですよ。 「諦めんなって、手伝ってやるよ!」 クソッ!なんでこのシーンを普段は僕を毛虫の如く嫌っている女子社員どもが見てないんだと口惜しい思いをしつつ、二人はその師弟関係を育み、それと同時に休憩所に差し込んでいた夕陽が夜の闇へと変わっていったのでした。 「でも今日は夜遅いから明日の早朝からやろう、6時に集合だ!」 正直疲れ果ててましたので、明日の朝からやることを堅く約束し、それぞれの家路へと着いたのでした。 さて翌朝、手伝うと言った手前「眠いでちゅー」なんて言って行かなかったらマジで後味の悪い結末が待ってそうなので行きましたよ。約束の6時より早い5時半に到着し、共同作業場みたいな部屋でヒョロい子の到着を今や遅しと待ち構えていたんです。 まあ、仁王立ちで待ってるって訳にもいかないですから普通にデスクに座ってネットサーフィンなぞに勤しんでいたわけなんですけど、まあ、その、ほら、やっぱ、ほら、なんていうかエロっぽいページを見るじゃないですか。男の子ですし、そういうの見るじゃないですか。 でもさすがに職場からエロ動画をガッツリダウンロード!とか色々な意味で終わってると言うか先祖まで遡って頭の構造を疑われかねないと言うか、まあ、こう書いてますけど本当のところは本気で職場ダウンロードしててエドガーみたいな管理者に怒られたからなんですけど、やっぱ信じられない行為じゃないですか。 だから、動画も画像も我慢して主にエロい文章のみで楽しんでいたんです。エロい話題で盛り上がる掲示板を閲覧し、歴戦の猛者たちの書き込みを見てその滾る血潮をさらに沸騰させていたんです。で、そこで見つけた衝撃的な書き込みが僕の脳髄をズシンと揺さぶったのです。 投稿者:俊哉 この間、彼女にアナル舐めてもらったけどすげー良かったよ!もう舐めてもらわないといけない体に(笑) (笑)じゃねーよ俊哉。ふざけんじゃねーよ俊哉。あのな、あまり言いたかないけどここは生々しい体験談を交えて皆で興奮を共有する掲示板なの。こうもっとどういった経緯で舐めることに至ったのかとか詳細がないと全然興奮できないじゃねえか。もっと考えろよな。 とまあ、俊哉がやけにムカつくのはいいとして、有益な情報を知ることが出来ました。アナルをペロリされると気持ち良い。これは貴重な情報ですよ。何度かアナルを舐められたという男性側の体験談は聞いたことありましたが、それらは全て征服感を満たすだけの行為だと認識しておりました。こんな汚いところを舐めさせちゃう俺、ワイルド?みたいな。気持ち良い、というユーザーの生の声を聞けたのは初めてかもしれません。 「アナルをペロリされると気持ちいいかもしれない」新たな情報を知ることができたのですが、ここで止まってしまってはダメです。その先にある「考える」に至らなければならないのです。 アナルをペロリされると気持ちいい、ということは女性にアナルを見せなければならないシチュエーションがやってくるということか。ペロリされる時はどうしても見せなければならない。どうしよう!恥ずかしい!見せるなんて恥ずかしい! いやいや、その辺のアバズレにならいくらでも見せますがな。名刺に印刷して配ってもいいくらいですがな。でもね、もう大塚愛さんにだけは恥ずかしくて見せられない。顔が真っ赤になってしまって見せられない。大塚愛さんがペロリしてあげるよ、とか言っても恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。 ここここここここうしちゃいられない!どんな状態かも分からないアナルを大塚愛さんに見せるなんて考えられない、あってはならない。ホント、早朝って人を狂わせますね、今まで自分でもほとんど確認したことなかった自らのアナルを確認しなきゃって義務感に襲われたんです。 早朝すぎて誰も居ないから大丈夫。ヒョロッ子が来るまでまだ時間もある。ホント考えるって大事だよな。考えるに至らず、ふーん、アナペロ気持ちいいんだって知るのみに留まっていたら見たこともない大自然のアナルを大塚愛さんに差し出すところだった。客人になんたる失礼なものを見せるんだってなるとこだった。考えたからこそシッカリ確認したアナルを差し出すことができる。 ええ、手鏡を使って確認しましたよ。そのポーズはとてもじゃないがマトリックス的だったとか言ってはいけないレベル。街中に張り出されたら自殺物、国辱物のポーズでしたが、なんとか確認したんですよ。 まあ、こういうことを書くと僕のことを天から落ちてきたエンジェルだと本気で信じていてpatoさんはウンコなんてしない!って幻想を狂信している女性読者の方は卒倒・・・ってそんな人いないですよね、普通に書きます。いやね、アナルモジャモジャだったわ。モジャモジャ、モジャモジャ、超モジャモジャ、略してアナモジャ。まるで密林の如くビッシリと茂ってるんすよ。密林ですよ、アマゾンですよ、amazon.co.jpっすよ。 うわーやっちゃったなー、そう思いましたね。いくらなんでもこんな海の端っこみたいな汚いアナルをペロリするのは大塚愛さんといえども難しいはず。どうしたものかどうしたものか。 新たに自分のアナル周辺が密林であったことを知ってしまった僕はそれだけで終わりません。知るだけで終わることが愚かなことだと分かってます。その先の考えるに突入しなければならないのです。 「うわービッシリだ、いくら愛でもこれは無理だよ」 「ダメかな?アナモジャだめかな?」 「愛の愛を持ってしてもダメね」 ダメだ!微妙に上手いこと言われて拒絶されてしまう。 もう剃ろう。剃ってしまおう。 ホント、朝方って人を狂わせますよね。僕の性格からいって思い立った時にやらないといつまでもアナモジャ、大塚愛さんが驚くことになりますので人として礼儀として剃らねばならないのです。 カミソリは、ある。僕は面倒なので最近はいつも職場でヒゲを剃るので立派なT字カミソリがある。時間は、ある。5時45分、約束の6時まで充分だ。いける、いくしかない。いける、やれるはずだ。 とりあえず、剃ってる現場を目撃されたら末代までの恥、というか末代の存在すら許されない状況になるのは明白。最悪の事態を回避するために職場のドア鍵を堅牢に閉めます。っていうか、アナル観察してる時に鍵閉めろよな。 シェービングクリームみたいなのもあったんですけど、そんなのアナル周辺に塗ったら別のプレイみたいなのでやめておきました。完全に素で剃ることを決意。鋭利なT字カミソリをアナルに近づけます。 いやね、やってみたことある人なら分かると思うけど、これが結構難しいんですよ。T字カミソリって読んで字のごとくT字じゃないですか。でまあ、お尻って谷みたいな構造になってますよね。これがもう、とにかく剃りにくい。T字の部分が谷間に入っていかんのですよ。とにかくこのままでは大塚愛さんがビックリしてしまうので何とか強引に谷間を広げて刃を谷間へ・・・。もう下半身裸で片足椅子に乗っけた状態ですよ。親が見たら一瞬で天涯孤独にされかねない体勢ですよ。とにかく・・・なんとかして・・・剃らないと・・・。 ズシャアアアアアアアア アナル切れたー!いやいやいやいやいや、正確にはアナルの横の婆さんの肌みたいになってる部分ですけど、アナルから見て3時の方向にザッシュリと切り傷が。男性の方なら分かると思いますけど、カミソリで切った傷って物凄い血が出るんですよね。ひいいいいいい、ポタポタ血が出てるー!血がしたたたたたたたたってるー! コンコン! そこにドアをノックする音ですよ。あまりに狼狽した僕は 「誰だ!」 「○○です」(ヒョロッ子) 「何しにきた!」 「いや、今日の準備に・・・」 自分で呼んどいて誰だ何しに来たもないんですけど、とにかくこの現場だけは隠滅しなければなりません。出血を何とかしないといけないのでティッシュを棒状にして尻の谷間に押し込み、神々の如き素早さでズボンをはく、そしてカミソリの処理と、床に滴った血を掃除、同時に床に落ちたモジャ毛も処理します。 「おはよう。さあやろうか」 ドアを開けて、まるでアナルなんか剃ってなかったっていうサワヤカ顔で彼を招き入れます。で、二人でPCの前に座ってプレゼンの準備ですよ。 「言ったろ、知るだけじゃダメなんだ。この知った資料をどう活かすかが大切なわけだ。考えるんだ。」 って凄い男前の、カクテル飲む時みたいな顔で言ってるんですけど、尻からはドクッドクッって心臓の鼓動に同調して血が出てるのが分かるんですよ。 「だから、この資料を丸でポイッて渡されても困るだろ。誰も読まないよ。自分なりに何が読み取れるかまとめて解説すればいい。都合の良いとこだけつまみ食いでいいんだよ」 ってすごい男前の顔で、娘さんをくださいって言う時みたいな顔して言ってるんですけど、尻のほうは臨界点。谷間に詰めたティッシュでは吸いきれないくらい血が出てるのが分かるんですよ。クソッ、ナプキンが欲しい。 結局、なんとかプレゼン資料の方も目処がつきましてね、発表時間までには間に合いそうな様子。安心したヒョロッ子が言うんですよ。 「ほんとありがとうございました。patoさんが先輩で俺、俺、よかったっすよ!マジ尊敬してます!」 フフフフフ、その尊敬する先輩は今まさにアナルから血を出してるけどな。それもかなりの量をな! 「じゃあ自分の持ち場に戻るから」 椅子から立ち上がるとティッシュに吸収されなかった血が椅子に染み出してそうで、それを見たヒョロッ子はその血液の理由を知ろうとするに違いない。そして心を入れ替えた彼は知った先を考えるだろう。何故そうなったかを考えるだろう。そうなってしまっては先輩の尊厳台無し。アナルっ子などと呼ばれて石を投げつけられるかもしれない。 椅子についた車輪を利用して滑るように部屋から出て行こうとする僕。 「椅子のままいくんですか!?」 「その理由は知らなくていい」 颯爽と長い長い廊下を朝日を浴びて椅子のまま滑る僕、出勤してきた多くの人とすれ違って怪訝な目で見られたけど、その理由を知るものはいない。知られてはいけない。 多くの「知る」は「考える」ことを停止させる。しかし、いくら「知る」が沢山あろうとも、「考える」に至らないそれは何の意味もない。 「知識」という言葉を国語辞典で引いてみると「知ること。認識・理解すること」としっかり書かれている。知っただけでは知識に成り得ないのだ、知って考えて理解してこそ初めて知識になる。雑多な情報に触れて知っただけで知識が増えたような顔をするのは大間違いなのだ。 情報過多なこの時代、僕らは「知る」ことに対してあまりに無防備すぎる。そして、僕らの「尻」もあまりに無防備すぎる。ちょっと剃っただけで切れるなんて。 9/12 モンゴル放浪記2007vol.4 前回までのあらすじ さて、地獄の現地人ドライバーチンギスが巻き起こした予想外のガス爆発により1日を無駄に過してしまった。早く国境に辿りつかねばならない。アカギ20巻をロシアの国境警備兵に売りつけなければならない。それよりなにより、一刻も早くこんなクソみたいなサバイバルツアーを終わらせなければならない。 「こりゃあ、ひと雨来るかもしれねえなあ」 テントを片付けて出発の準備をしながらモンゴルの空を見つめ、ハードボイルドに言い放つ僕。実は僕は雨が降るかどうか高確率で予測できるという、別にそれが出来たからって大して得をしない特技がある。 まあ、単純に言ってしまうと雨が降る前になると右肩が物凄く痛くなる、というものなんだけど、これがなかなかバカにできない。雨が来る前に「くる!」と右肩がジンジン痛むと何かと助かることが多い。しかしこれ、生まれつき持ってる能力というわけではなく、ある事件をキッカケに手に入れた能力だった。 きっかけは14年くらい前のことだったと思う。当時、北朝鮮の工作員が拉致に来るくらいの田舎町で高校生をやっていた僕は、その田舎町に大きな商業施設ができたことに大変興奮していた。 駅前にそびえ立つその商業施設はソビエトのように巨大で、まあ言ってしまえばサティなんですけど、その未来的で先進的な外観は田舎青年の心を鷲掴みにして離さなかった。 オープン初日、我先にと並んでサティに行きましたよ。やはり田舎町には刺激的過ぎる物らしく、開店前から黒山の人だかり。ローカル局のニュース取材までもが来る始末。ハッキリ言って胸の高鳴りが抑えられなかった。 いよいよオープン。津波のように押し寄せる人、人、人。人の流れに翻弄されながら店内を歩く。ファッション系のフロアや雑貨インテリア系などよく分からなかったけど都会的匂いを感じるには充分だった。 圧巻だったのは最上階だった。そこは夢のような世界が広がっていたのだ。広大なフロア面積を誇るゲームセンターに県内最大級のオモチャ売り場。そして映画館が威風堂々と鎮座していた。田舎町には似つかわしくない5スクリーンくらいを備えた、今で言うシネマコンプレックスのはしりみたいなものだった。 そのおとぎ話のような夢の世界に心奪われた僕は、金もないのに大喜びで一日中そのフロアにいた。そして、見落としていたもう一つ事実に気がつくことになる。 映画館にゲームセンター、オモチャ売り場が立ち並ぶこのフロア、確かに想像を絶する広さなのは確かなのだけど、他のフロアに比べていささか狭い気がする。一つ下の階は子供服売り場や紳士服売り場が鬼のような広さで存在しているというのに、このフロアは少しだけ狭い。その狭い分だけのスペースはどこに消えてしまったんだろうか。 検証するかのように最上階フロアを歩き回る。すると、隅っこのほうにヒッソリと、まるで人目を避けるように入り口ドアが存在していた。 「フィットネスジム」 燦然と輝くその文字を見た時、得体の知れない恐怖が僕を襲った。あわわわわ、こ、こんなところにジムができてやがる。こんな駅前のビルで運動させようというのか!怖くて怖くて膝から下がガクガクと震えた。 言うまでもなく、田舎人が運動する場所と言えば市民体育館かその辺の公園だと相場が決まっている。しかしながら、今日まさにオープンしたこのフィットネスジムは街に出て運動しろと申しているのだ。なぜわざわざ中心市街地まで出てきて運動しなければならないのか、これが都会というものなのだろうか、それを理解にするには当時の僕はあまりにも若すぎた。 ビクビクと怖れながら、それでも興味津々といったフィーリングでそのフィットネスジムに近づいてみる。入り口には手書きのポスターで何やら勇ましい煽り文句が書かれていた。 「オープン記念!お試し会員無料!」 つまりこういうことらしい。本来ならば入会金と月謝みたいなのが必要で、それこそ莫大な資産を奪われてしまうのだけど、オープンから1ヶ月間は無料で使ってもいいよというこことらしい。何も知らない田舎者を無料でおびき寄せ、まんまと入会させて骨の髄までしゃぶろうという算段だ。 しかし、無料とは何とも魅力的だ。是非とも都会的なジムってヤツをこの機会に体感してみたい。入ってみようかとチラリと中を覗いてみると、タダとバーゲンという言葉に目がないおばさまどもがカウンターにひしめき合っていた。すでに、カウンターの段階で相当な運動になっているんじゃ?と見紛う程にひしめきあっていた。 その日はジムに行くのを諦め、まあ、無料期間は1ヶ月あるんだからと出直すことにした。それから数日して、キチンと運動するためのウェアも持参して再度都会的なジムの扉を叩いたのだった。 「無料体験のお客様ですね。こちらに住所氏名をご記入ください」 カウンターのお姉さんもやっぱり都会的で、セックスすらもスポーツとして捉えそうなハツラツとした何かがあった。で、言われるがままに記入し、ロッカーの鍵を貰って更衣室に赴いた。 さて、なんとか無料体験にこぎつけたはいいものの何をやっていいのか皆目分からない。渡された案内を見ると、運動器具が置いてあるジムフロアにフィットネスフロア、なんと温水プールまであるという。さすがに水着がないですし、フルチンってわけにはいきませんので温水プールはなしとして、やっぱ無難に運動器具を使ったほうがいいのかなって、ジムフロアに行ったんですよ。 そこはまあ、色々な器具がおいてありましてね、まるで幼稚園の遊具みたいに色々なマシーンが並んでるわけなんですよ。もう色々な場所を鍛えるために複雑な形状のものがアホみたいに並んでるんですけど、どうにもこうにも使い方が分からない。仕方ないんで唯一使い方が分かるダンベルを両の手に持ってうおーと運動していたんです。 こんな重い物持つだけの運動なら家でもできるのでは?などということには気がつかないフリをして黙々とダンベルを持ち上げる運動、都会的運動とは何とも空しいものだと考えながら淡々とやっていました。 「お手伝いしましょうか?」 そこにハツラツとやってきたのが一人の男。日本人なんだろうけど使い込んだチンポコみたいに真っ黒に日焼けしたその男は、嫌味なくらいに満面の笑みで白い歯を輝かせていた。名札を見ると「インストラクター」とか書かれていて、このジム所属の指導員みたいなものだと理解した。なるほど、さすがプロフェッショナルらしく、タンクトップの隙間から覗く肉体も使い込んだチンポコみたいにムキムキしてやがる。 「どういった場所を鍛えたいのかな?」 このインストラクターがホモなんじゃないかってくらいに物凄く顔を近づけて、それこそ接吻間近みたいな勢いで質問してくるんですよ。で、僕は別に鍛えたい場所とかなくて、ただ都会的ジムってやつを経験したかっただけなんですけど、なんか鍛えたい場所を言わなければならない!という強烈な義務感に駆られてしまいましてね、必死で頭を回転させて考えましたよ。 「ちょっと肩の辺りの筋肉を・・・」 別に肩の筋肉なんてどうでもいいんですけど、ダンベル持ってたんで腕か肩だろって感じで答えたんです。 「なるほど・・・」 インストラクターは自身の肩の筋肉をピクピクと動かしながら答えるわけなんですよ。なんていうか気持ち悪い。 「確かに君はヒョロヒョロだ!肩を鍛えたほうがいい!」 とか、至極失礼なことを物凄く爽やかに言われましてね、挙句の果てには 「肩がムキムキだと女の子にモテるよ!」 と脳ミソまで筋肉みたいなこと言われちゃったわけなんですよ。でもまあ、やっぱこの人バカなんでしょうけど、こういったトレーニングに関してはプロフェッショナルなわけじゃないですか、プロの言うことなら間違いないだろうってことで彼の指示通り肩を鍛えることにしたんです。 「ダンベルはただ持ち上げればいいってもんじゃないんだよ!」 「効果的に負荷をかける!じゃないとやる意味がないよ!」 ホモかってくらいに近くに寄り添ってるくせにムチャクチャ声がでかくてですね、手取り足取り教えてくるんですよ。で、そんな彼が教えてくれた、最も効率の良い肩ムキムキ法をやってみたんです。 これがまた凄くてですね、鳥みたいなポーズをさせられたんですよ。手を後ろに回して羽ばたく鳥みたいなポーズ。それで翼とも言える両の手にダンベルを持たされたんです。素人目に見ても何かがおかしいと思わざるを得ない。 「ダンベルを持ち上げるんじゃない!」 「もっと意識して肩に負荷をかけるんだ!」 「羽ばたくように!飛び立つように!」 もう訳のわかんないこと大声で言われちゃってて、羽ばたくってなんだよ、と思わざるを得ないのですが、やっぱプロの言うことですから、言われたとおり羽ばたくイメージで思いっきりダンベルの負荷を肩にかけたんです。 ゴキゴキゴキゴキゴキ どう好意的に解釈しても肩が鍛えられたというよりは壊れたみたいな音がしましてね、何かとてつもないことが巻き起こってるとしか思えない激痛が走ったんですよ。何か肩の骨的なものがズレたとしか思えないフィーリングなんですよ。 まあ、その場は痛みもすぐに治まり見かけ上何も変わってないような感じでしたので、マッスルインストラクターにお礼を言って帰ったんですけど、それからどうも調子がおかしい。なんか、何日かに一度信じられないくらいに右肩が痛むようになったんですよ。 で、その激痛は雨が降る前になると決まってやってくると気付くのにそう時間はかかりませんでしたね。たぶん、マッスルの指導で鳥のポーズをやって右肩の何かがズレたんでしょうけど、それは大した痛みを伴うものじゃなかったのでしょう。しかし、雨が降る直前になると、気圧か湿度の関係か知りませんけど、そのズレた右肩が痛みを伴うようになる。こうしてこのスキルを手に入れられたのだと思います。ほんと、変な方向に羽ばたいちゃったよ。 肩を鍛えれば女の子にモテる。そう言っていたマッスルの言葉が今でも脳裏に焼きついています。「そろそろ雨がくるなあ、魔の刻印を押された右肩が痛みやがる」ハードボイルドに言い放つ僕。「素敵(ジュン!)」彼女は濡れた瞳で僕を見つめていた。なんてことは絶対にありえませんから、ほんと、どうでもいい特技と言わざるを得ない。マッスル死ね。 っと、何の話でしたっけ?ああ、そうそう、モンゴルね、モンゴル。恐ろしいことに今日はモンゴル放浪記だってことをすっかり忘れていた。長々と脱線しすぎ、しかも冒頭から脱線しすぎだ。 「なあ、チンギス、今日は雨がくるかもしれんぞ」 出発前から激痛が走るを右肩を押さえながら忠告します。いや、2年前もモンゴルの雨に遭遇しましてね。こっちのほうの雨ってのは「雨だね」「ああ、まるで君のようだ」「素敵(ジュン!)」なんて感じの叙情的なものとは程遠い雨でしてね、降ったが最後、一瞬にして周囲が大河のようになって車が孤立、下手したら命すら取られかねない恐ろしい気象現象なんですよ。それが怖くて怖くて仕方なかった。 「大丈夫だろ」 チンギスのその言葉は降らないから大丈夫という意味なのか、降ったとしても大丈夫という意味なのか良く分からないんですけど、あまり気にしないようにして車に乗り込みます。 「なんだそれは?」 車に乗り込んだチンギスが怪訝な顔をして僕の方を見ます。実はこの右肩の痛みなんですが、それこそ10代、20代の血気盛んなお年頃はなんてことなくてですね、確かに死ぬほど痛くて、ほっとくとそれが頭痛に移行して嘔吐しちゃうくらいだったんですけど、それでも平然と日々の生活を営んでいたんですよね。 けれどもね、30歳というK点を超えてしまった僕にそこまでの元気はない。もう右肩が痛いだけで全てのことがどうでもよくなってしまうくらい覇気がない。痛さにのたうちまわって仕事を休んじゃうくらいの体たらくなんですよ。 そうなると、やっぱ薬とか文明の利器に頼りたくなるんじゃないですか。で、このモンゴルにも肩が痛くなった時用に「アンメルツヨコヨコ」をバッグに入れておいたんですよ。それをジンジン痛む右肩に塗布してですね、グオーッと熱くなってくる感覚を味わいながら効くぜーとかやってたんです。それがチンギスにとってすごく不思議な光景だったらしい。 「これは、肩こりとかに効くんだぜ。アナルに塗ったら大変なことになるぜ」 みたいなことを説明したらチンギスも興味津々なご様子で、 「俺にも塗ってくれ!」 と言うんですけど、じゃあ塗ってやろうとアンメルツヨコヨコを近づけると 「何だこの匂いは!悪魔の匂いだ!」 と、離婚する時のアメリカ人女性みたいにヒステリックに拒絶ですよ。こういう肩こり系のやつって湿布っぽい匂いがするじゃないですか、で、その匂いがチンギスにとっては悪魔の匂いらしく凄く不快な様子。 「我慢ならない、それを使うのはやめてくれ」 右肩といわず全身に塗りたくって嫌がらせしてやろうかとも思ったのですけど、ヘソ曲げられても困るのでやめておきました。
やはり右肩の予言は当たりそうで雲行きが怪しい感じに。 「やっぱ降りそうだよチンギス」 「降らねえよ、俺はハンターだぞ」 ハンターとしての嗅覚が勝つか、僕の右肩の予言が勝つか非常にスリリングな展開でしたがモンゴルの天気って変わりやすいんですね、普通に走ってたらすぐに晴天に戻りました。あの恐ろしい雨が降らなくて良かったけど、常勝だった右肩の予言が外れてしまうという微妙に悔しい展開に。 さて、この国境を目指したモンゴルの旅路だけれども、他にすることもなく風景を眺めながらガコガコと車で移動していく。その様はどこかドラクエに似ている。 例えば、日本の場合、国内を移動すると大抵は人が住んでる場所を通りながら移動することになる。こんなとこに人住んでねーだろっていう山間部の国道を通っていてもヒョコッと民家があったりするからかなりのものだ。 日本の人口密度は平成17年時点で343人/km2、1キロ平方あたりに平均して343人住んでいる計算になる。その反面、モンゴルの人口密度は1.7人/km2だ。どれだけスカスカか想像に易い。 つまり、モンゴル国内を旅しているとほとんどが人の居ない平原もしくは砂漠で、その中にポツポツと小さい村が点在する。それが100キロくらいのスパンで繰り返される。長距離を移動する際は闇雲に異動するわけに行かないのでその村々を目的地に移動する。次は○○という村だ、そこから△△という村に行こう、といった感じ。 そのフィーリングが物凄くドラクエに似ている。フィールドを移動しながら敵と戦い次の村を目指す。村に到着するとホッと安堵だ。そしてその村で準備を整えてレベル上げなりイベントをクリアしたり、次の村を目指したりするのだ。敵も出ないしイベントもないけど、この形式が凄くドラクエに似ている。
こんな爆撃受けたみたいなショボイ村でも到着すると安堵する。ここで食料や飲料水を補給したり、車に燃料を入れたりするのだ。 こうやって誰も居ない草原を5時間くらいひた走り、しょぼい村に到着する。そしてまた5時間くらいかけて草原をひた走り、夜になったらテントで寝る。それを繰り返して徐々に国境へと近づいた時だった。 ある村に到着した時、やけにチンギスが興奮状態に。それこそシャブでもやってんじゃないかと疑うほどの異様な高揚感。ハンドルを握りながらウホーとか叫んでた。もう不安でしょうがない。こんなやつに身を委ねて旅をすることが不安でしょうがない。 ウホウホと大興奮で村の中をグルグル周るチンギスを見て狂っとると思うのですが、さすがにキチガイと旅するのは勘弁なので問いかけます。 「何をそんなに興奮してるんだい?」 するとチンギスはウホウホと要領を得ない、アナルにアンメルツ塗ってやろうかと思うのですが、なんとかなだめすかして事情を聞きます。 「ここはチンギスハーンの生まれ故郷なんだ!」 なるほど、モンゴルの英雄チンギスハーンが生まれた場所か。モンゴル人なら誰もが尊敬するチンギスハーン、その生まれ故郷に来たとなると興奮するのも頷ける。しかしいくらなんでもキチガイすぎだ。
村にはチンギスハーンの巨大な石碑みたいなのがあり、小さな村なのにこれ目当てで訪れる人が後を立たない。ドライバーなほうのチンギスもこの石碑の前で頭を地面にこすりつけて敬愛のポーズをしていた。 「気持ちは分かるがもう少し落ち着いてくれ」 「これが興奮せずにいられるか!ずっとこの村にいたいくらいさ!」 「それは困る」 村を離れたがらない興奮状態のチンギスをなんとか説得し、次の村を目指すことに。途中、村の中にガソリンスタンドがあった。ちなみにモンゴルでもハイオクみたいなのとレギュラーのガソリン、軽油があるけど、実は軽油が一番高い。
こんなショボイスタンドでも次の村までの命綱、シッカリ入れておかないと大変なことになるというのに 「おいおい、燃料を入れないのか」 「大丈夫だ!俺たちには英雄がついてる!」 もう狂っちゃってて何言ってるのかわかりませんが、彼が大丈夫と言うなら大丈夫でしょう。華麗にスタンドをスルーして次の村を目指します。 「最高の旅だ!」 「また来たい!」 「アサショーリュー!」 と、1時間くらい草原を爆走したんですけど興奮さめやらない様子。というか、コイツ、キャラが変わってる。変わりすぎている。 しかしまあ、例えキチガイでも隣にいる人間が大喜びしてるってのは何だかピースフルなもんで、こっちまで嬉しい気持ちになってくるから不思議なものです。なんだか嬉しくなってきちゃって 「おいおい、喜ぶのはいいけど安全運転で頼むぜ!」 と冗談交じりで言って車内も和やかムード、そうなったところでなにやら異音が聞こえてきたんです。 ブシュ! それと同時に冷たい感覚が僕の下半身を襲いました。 いやね、冒頭で出てきたアンメルツヨコヨコですよ。これを僕はズボンのポケットに入れてたんですけど、足を組んだ時に押しつぶされるような形になっちゃいましてね、容器が潰れてブシュッと中身が出てきちゃったんですよ。 もう、凄くてですね、ズボンのポケットの中がアンメルツヨコヨコだらけ、染み出したヨコヨコが股間の敏感な部分で情熱的に効力を発揮しましてね、燃えるような激痛とはこのことですよ。 「ぐおおおおおおおおおおおお」 と車の助手席で一人身悶えていたわけで、チンギスは「このキチガイと旅していて大丈夫だろうか?」と思ったかもしれませんが、それより深刻な事態が。 「悪魔の匂いだ!」 なにせアンメルツヨコヨコが1本丸まる漏れ出してますからね。もう車内中がアンメルツ臭でいっぱいに。その匂いが大嫌いなチンギスが大激怒ですよ。 「降りろ!」 軽快に移動していた車を停車させて無理矢理下車させられました。アンメルツ臭が消えるまで車に乗ることは許さんといった厳しい措置です。しかし、悲劇はそれだけでは終わらなかった。 匂いが消えるまで木陰で休憩していたんですけど、そこに車の整備をしていたチンギスがやってきて言うんですよ。 「どうしよう、燃料がない。もう空っぽに近い」 ほらみろ!だから言わんこっちゃない。だからさっきの村で入れようっていったんじゃないか。何考えてるんだこの。人はアンメルツアナルに塗るぞ。 でまあ、そこでチンギスと話し合ったのですけど、次の村までは地図によると100キロあまり、とてもじゃないが神風が吹いても今の残燃料では辿りつけない。それよりなにより、次の村にガソリンスタンドがあるという保障はどこにもない。ならばロスを承知でさっきの村に戻って燃料を入れたらどうだろうか。 なるほど、名案だ。ここで先に突き進んでも絶望しか待っていないだろう。それならば戻った方がより安定だろう。闇雲に前進するだけが良策とは言えない。 「いい案だ、そうしよう」 僕が同意すると、チンギスはニッコリと笑って地図とハンディGPS、テントと僕のリュックを手渡し車に乗り込みました。 「おいおい、どういうことだよ」 発進しようとするチンギスに駆け寄ると、チンギスはさも当然といった顔で、 「お前は悪魔の匂いがするからダメだ。それに今の燃料でさっきの村まで戻れるかも怪しい。少しでも車を軽くしたいからお前は歩いていけ。なあにすぐに追いつくさ。2時間も歩いたら燃料満タンの車でピックアップしてやる!」 と言い残して、ものすごい爆走で一瞬にして視界から消えていきました。 おいていかれたー! 右も左も分からないモンゴルの地、誰も居ない草原のど真ん中。この炎天下の中を一人ぼっちで歩いていかないといけないという死の淵。
車に乗ってる時は「壮大な景色だね!」と思っていたけど、ここを歩いていかないといけないと思うと絶望に近い感覚すら覚える。 ジリジリと照りつける太陽、帽子を持っていなかったのでカンカンに頭部を照らされて倒れそうになる。このままでは熱射病で死ぬと思ったので、急遽Tシャツを引き裂いてバンダナ代わりにすることに。 「歩いて次の街を目指すとかいよいよドラクエだな、敵が出なければいいが」 「っていうか、歩く意味ないんじゃ?言われたから歩いて次の街目指してるけど、そもそも追いつくならあの場所で待ってても、ちょっとばかり徒歩で進んでも大差ないんじゃ?」 独り言をずっと言ってないと倒れそうなくらいフラフラになってた。 2時間歩いた。チンギスはこない。 まさか僕は置いていかれたのでは、いくらなんでも遅すぎる。チンギスが急に面倒になって、バカなイエローモンキーと国境なんて目指してらんねえよ!アンメルツ臭いし!とウランバートルに帰ってしまったのでは・・・。 不安なことを考えると本当に不安になって泣きそうなので、とにかく完全に日が暮れてしまっては危険が危ないので、車の通り道に近い場所でテントを張ることに。ここならチンギスが通ってもすぐわかるはずだ。 しかもちょうど近くに川があったので、顔でも洗おうかと川にいくとそこには衝撃の光景が
これ、なんだか分かりますか。分かりやすいように拡大してみましょう。
僕も最初は良くわかんなかったんですけど、川の向こう岸で犬が牛か馬を食べてるんですよ。水飲み場で死んでしまった牛か馬を野犬が貪り食ってるんです。こえー、超弱肉強食。 モンゴルの野犬ってムチャクチャ怖くて、ロシアの犬みたいなもんですから、どれもオオカミかと思うほどにデカい、そして好戦的。そんな凶悪な野犬が死骸に集まってきてるんですよ。普段なら猟銃持ったチンギスもいますし、何かあれば車の中に居れば安全なんですけど、今は裸一貫一人ぼっちです。 「あんなもんに襲われたらひとたまりもないな」 とにかく恐ろしいので完全に日が落ちて真っ暗になるのと同時にテントに入って寝ました。チンギス、まさか裏切ってないよな・・・と願いながら。 どれくらい眠ったでしょうか。チンギスが通ったら分かるように照明だけはつけて寝ていたのですが、ただならぬ不穏な空気を感じて目が覚めました。何か不吉な気がする、そう思ってテントの中で気配を感じ取っていると バサッ!グルルルルル! 野犬きた!小さな小さなテントが大きく揺れた。 やばい!死ぬ!もうテントがシースルーですから覆いかぶさるようにテントにアタックしてきてる野犬が丸見えなんですよ。敵が出てくるとはいよいよドラクエだな!とか言ってる場合じゃない、コイツらは本気で殺りにきている。何とかしなければ、何か武器を! 「鳥のように羽ばたくんだ!」 なぜか脳裏に在りし日のマッスルインストラクターが。出てくんな。 こんなシースルーテントなんて5分と持たない。やばい、やばすぎる!といつの間にか一人ぼっち、徒歩、野犬、と色々な面で大ピンチになったところで次回に続く。 9/5 Over the rainbow 「すいません、Sありますか?」 僕らは日常生活を営む上で様々な非日常に接することがある。事故にあったり、財布を落としたり、古い友人が訪ねてきたり、古いレンタルビデオショップで「もののけ奥さん100連発!!」というタイトル中の2つのビックリマークが何とも勇ましいエロビデオを借り、半ばスキップ気味というかスマップ気味に鼻歌交じりに家に帰って興奮気味に再生、中身が「ドラえもんのび太の海底鬼岩城」だったり。僕らの日常には予想だにしない非日常が散りばめられている。バギーちゃんに涙している場合ではない。 この突如訪れる非日常をアクシデントと捕らえるならば、それは必ずしも喜ばしいものではない。誰だってトラブル的ハプニングは嫌だし、できることなら平穏で穏やかな日々を過ごしたいと考えている。誰だってエロビデオを借りてドラえもんなんて見たくない。しかしながら、これらの非日常が僕らの望む日常と表裏一体と考えると途端に異なる側面を見せ始める。 日常も非日常も繋がっている物語だ。言い換えると、日常が存在するからこそ非日常がありえるわけだし、非日常が存在するからこそ日常がありえる。極端な例で言うと祭りだ。祭りはたまにあるから衝撃で楽しいビックイベントだったりする。言うまでもなく退屈な日常に舞い降りた非日常的イベント、それが祭りだ。 けれども、その祭りが毎日催されたとしたらどうだろうか。連日家の前でてんやわんや、文字通りのお祭り騒ぎが起こっていたらどうだろうか。楽しいどころか精神を病む事態になりかねない。警察に通報するかもしれない。祭りという非日常はあくまで平穏な日常があるからこそ非日常でエキサイティングなのだ。 逆に、日常だけ、何のイベントもない淡々とした日々が続いたらどうだろうか。人間はそこまで平穏が続くと途端に退屈に感じ、その気持ちはもはや平穏な日常を楽しむどころではなくなってしまう。刺激を求め、日常を抜け出して突飛な行動を取る人も少なくないはずだ。そう、稀に非日常があるからこそ、人々は日常をありがたがることが出来るのだ。心が安らぐこの瞬間がなんと有難いのだろうと実感するのだ。この構図は、戦争を知らない世代が平和のありがたみを知らないのによく似ている。 さて、連綿と、まるでメビウスの輪のように繋がる日常と非日常、誰もどちらか極端に偏ることを望まないはずだ。最も理想的なのは穏やかな日常を過しつつ、それでいて適度にスパイス的な非日常が降りかかる、その程度の混在を望む人が多いと思う。台風が来るとなんかワクワクする、なんてのはそれに違いない。 つまり、何が言いたいかというと「非日常こそ大切にしなければならない」ということ。祭りやイベントごとの非日常は大歓迎だけど、事故を起こしたり病気になったり、借りたエロビデオが海底鬼岩城だったりなんてハプニングは誰も望まない。できることなら起こって欲しくないと思っているはずだ。「なんで僕が?」なんて思うかもしれない。けれども、落ち着いてその不幸と地続きになってる日常を見据えるべきなのだ。 今あなたに起こっている不幸やハプニングなどの非日常は、たぶん大したことはない。こんなこと言うと怒られるかもしれないけれど、そうそう深刻な事態じゃないはずだ。命を取るまでの事態なんてそんなに転がってない。気に病むことも落ち込むことも、ましてや死を選ぶことなんてあってはならない。この非日常があるからこそ日常がありがたい、そうやって先を見るべきだ。歯が痛いからこそ歯の痛みから解放されたあの素晴らしいビューティフルワールドを認識できるんだ。そんなに気に病むことはない。気にするなよ青年。 とまあ、長々と「非日常」の大切さを、それに対する気構えを語ったわけなんだけど、やはりハプニング的非日常なんてのはそんなに喜ばしいものじゃない。特に、そのハプニングに見舞われている最中はネガティブな感情でいっぱいだ。けれども、その先には何があるんだろうか。この非日常を超えた先には何があるんだろうか、今日はそんなお話。 先日のことでした。土曜日の午前中ってのは、果たしてこれは誰が視聴するのだろう?と疑問に思うしかない番組を多々やってるのだけど、それらの存在意義の見えない番組たちをいかに面白楽しく視聴するかという点に重点を置き、このグルメレポーターは、不味いものを食べた時は「美味い!お父さん、これ新鮮で美味いね」と言いながらも若干左肩が開いている、などと分析して遊んでいた、まあ早い話、死ぬほど暇だった。死ぬほど退屈な日常にどっぷり浸かっていた。 それをぶち破るように携帯電話が鳴る。メール着信を告げる着信音だ。 「ああ、どうせまた出会い系サイトのスパムか」 僕ら無辜なる男性を騙して金を毟り取ってやろうと画策する詐欺メールの数々。もう僕の携帯メールアドレスは電脳世界でどんな扱いを受けてるのか考えたくもないんですけど、とにかくドコドコとエロいメールがやってくるんですよね。 「未亡人になり莫大な遺産だけが残りました、お願い抱いてください。お金は好きなだけ持っていってください。詳しくはこちらでhttp://...」 「会社社長やってます。こういう仕事ってストレス溜まるのよねえ。良かったら体だけの関係で付き合わない?アタシ、乱れちゃうかもhttp://...」 「もう20歳なのに中学生に見られちゃうの!プンプン!お兄ちゃんって呼んでいいですか?マイのことお兄ちゃんの好きにしていいよhttp://...」 とまあ、女体と金をプンプン臭わせるメールが来るんですよ。で、巧みに詐欺サイトに誘導して金を騙し取ってやろうという気概が画面越しに伝わってくるんですよ。 最初こそはこの降って湧いたようなエロメールに大変興奮し、退屈な日常に舞い降りたエンジェルだと興奮、受信するたびに一人であらぬ妄想をしてビンラディンだったんですけど、やっぱ飽きてくるんですよ。それがしょっちゅう続くと、またかよ、って感じで興奮すらしない。早い話、非日常だったエロメールが日常の一部に取り込まれてしまうんですよね。。そりゃ日に50通もこんなのきてたらいちいち興奮してられない。 「うざいなー、メール削除するのって面倒なんだよなー」 とアンニュイになりつつ、それでもまあ、またどんな退屈なスパムが来たもんかとメールを開いてみたんです。 「すいません、Sありますか?」 全身の毛が逆立つかと思ったね。何か得体の知れない高揚感と言うか胸の高鳴りというか、とにかく普段のメールとは違う何かを感じ取ってしまった。 Sありますか? どういうことだろう。確かに僕はSかMかなら、どちらもと答えるしかない中性的な立場だけど、やはりSな側面も隠せない。僕の夢は女性を裸で天井から吊るしてバケツいっぱいの卵の白身をぶっかけることだ。白身だらけになって泣き叫ぶ女性、それでも僕はニヤリと笑って卵を割って白身だけをバケツに溜めていく。 「お願い!もうやめて!どうして白身だけなの!」 「フハハハハ!泣け!叫べ!」 「ああ・・・許して・・・」 「そんなことではお父さんの借金を返せないぞ」 彼女は白身だらけの体で何かを覚悟したかのように天井を見上げる。怪しい仮面をつけた僕はバケツいっぱいの白身を持ってニヤリと笑った。 これはもうSに違いない。見紛う事なきSだ。しかし、なんでそれをわざわざメールで指摘されないといけないのだろうか。見ると、送信主は全く見たことのないアドレス。掛け値なしに赤の他人。なんでそんな人間に僕の性癖を指摘されなければならないのか。 「どちらかといえばSだと思います」 震える手で返信メールを打つ。僕の心は高鳴っていた。この振って湧いた謎の怪奇メール。これは見紛うことなく非日常だ。日常に舞い降りた非日常だ。落ち着いて取り逃さないように非日常にダイブしなければならない。 送信を終えてドキドキしながら返信を待ったんですよ。もしかしたら、どこかで僕のアドレスを入手した女性(20歳大塚愛似)がいて、その子が生粋のMだった、で、顔を真っ赤にしながら勇気を出して僕にメール、Sですか?と。そしたら返事が帰ってきたもんだから、こりゃもう会ってSMプレイに花咲かせましょう、卵の白身かけてもいいですよってなるかもしれない、いや、そうなるに決まってる。 しかしですね、そんな返信メールを待つまでもなく希望を打ち砕くメールが届き始めたんです。 「おねがいできますか?」 「いくらですか?」 「Sありますか?」 みたいなメールが、最初のアドレスとは違う、全く見たことないアドレスからドコドコやってくるんですよ。それも全部違うアドレスから。そんなにMっ子がいるとは思えませんので、こりゃあ何か違うことが起こってるんだな、と推理を始めました。 不特定多数からメールが来る。これはどこかにアドレスが晒されているからに違いない。そいでもって「Sありますか?」という文面、僕はサド・マゾのSだと思って一人でドキドキしていたけど、文面から行ってこれは何らかの物体、それもお金を介在してやり取りされることから何らかの商品じゃないだろうか。そして、何か皆コソコソしながらメールしてるような印象を受ける、こりゃあ違法な何かを総称して「S」と呼んでるんじゃないだろうか。 それで調べましたよ。必死で調べましたよ。その間もドコドコとはいきませんがある程度の間隔で「Sありますか?」って感じのメールが届いてました。 そして辿りついた結論が「覚醒剤」。覚醒剤やめますか人間やめますかの、あの覚醒剤だ。持ってるだけで違法になるアレだ。覚醒剤ってヤツはシャブ、speedと呼ぶこともあり、speedから「S」と呼ぶこともあるらしい。間違いない、こいつらは覚醒剤を求めて僕にメールを出している。 たぶんこういうことでしょう。僕はまあ、色々な対決シリーズからも分かるように、様々な悪徳業者を相手に戦っています。それこそアドレスや電話番号、時には住所氏名すら剥き出しで戦うことも少なくなくないんですよね。で、相手から相当の恨みを買ったまま闘いが終結することが多々あるんですよ。 相手としてはどうでしょう。詐欺の邪魔しやがって、この小僧!憎たらしい!何か復讐をしてやりたい!そう考えるのかもしれません。腹いせに僕の個人情報を売り飛ばすくらいは普通にやってるでしょうが、中にはそれでは気が治まらないらしく、非常に陰険な報復に出る人も少なくないんですよね。 エロい掲示板に「セックスフレンド募集中です!20歳でマルシアに似てるって言われます!」とか、マルシアって微妙なんですけど、そういった類のことを僕のアドレスで書き込まれ、猛り狂った志士たちから色々な液が滴ってきそうなメールを数百通単位で頂戴つかまつったり、いきなり犬の死骸みたいなグロい写真が添付されたメールが送られてきたり、真夜中に無言電話が鳴り止まなかったり、勝手に僕のアドレスで子供相談室みたいなところに相談メールを送ったみたいで、「虹の原理」について延々と説明している偉い先生のメールが届いたり、とまあ、大変なことになっとるんです。 それにすらも慣れて、僕の中で嫌がらせすらも日常になりつつあった昨今、今ここで事態は新しい展開を迎えたのです。 「シャブの売人に仕立て上げられる」 こりゃあかなりの非日常ですよ。確認してないので定かではありませんが、たぶんアンダーグラウンドな、それこそ子供は見ちゃいけないような掲示板か何かに書き込まれたんでしょう。「Sあるよー、安いよー」みたいな風情で、何者かが僕のアドレスを使って書き込んだのでしょう、で、それを読んだシャブ中、もしくはちょっとシャブに興味ある人がメールを送ってきたに違いありません。 恥ずかしい!それを考えると最初の返信メールが死ぬほど恥ずかしい!向こうはシャブが欲しくて僕に「Sありますか?」ってメールしてるのに、僕はSMだと思って「どちらかといえばSです」とか返答している。もう顔から火が出るくらい恥ずかしい。相手もさぞかし困惑しただろう。 いやいや、その前にいつの間に僕がシャブの売人ってことになってんだよ。その書き込みを見た警察とかがウチに踏み込んできたらどうするんだよ。調べられたら最近モンゴルに行ってることがばれる、貴様!覚醒剤を密輸したな!ってことになるかもしれないじゃないですか。普通に土曜日を過していてまさかシャブの売人にされるとは思わなかった。 アンニュイな土曜に降って湧いた「シャブの売人疑惑」という非日常に一瞬怯むんですが、まあ、別にいいか、本当にシャブ持ってるわけじゃないし、と、この非日常を楽しむことにしたのです。 とりあえず、魑魅魍魎の如く送られてきたメールをざっと一瞥し、その中から女の子っぽいアドレスに返信します。 「Sあるよー」 ここでのポイントは、僕は一言も「覚醒剤があるよ」などとは言ってないことです。相手がどう取るか知りませんが、俺はサドだぜ!卵の白身とかかけちゃうぞーという意味で返信をします。 「本当!?○○市なんだけど、分けてもらえないかな・・・」 たぶん、最初のイタズラ犯が地方別の掲示板か何かに書き込んだんでしょうね、相手が指定した住所は割と近い場所でした。 「分けるのは構わないけど・・・」 このサドっ気を分けて欲しいとは、こりゃあ白身だけじゃなくて黄身もかけちゃう!殻もつけちゃう!プリンタもデジカメもつけちゃう!分割金利手数料もジャパネットが負担!そんな気持ちで返信しました。 「いくらですか?」 こっちがびびるくらい、神の如き速さで返信が来るのですが、まいったシャブの相場なんて分からない。いやいや、サドっ気に値段なんてつけられない。 「お金なんていらないよ」 下手な値段言ってしまっては台無しですので、ここはお金は要らないとアッピール、あまりよくない返答だなーと自分でも反省したのですが、相手はラリってるのか、はたまたもう既にシャブを決めておられるのか、とんでもないメールが帰ってきます。 「タダでくれるの?じゃあエッチする?」 何食って育ったらこんな思考に至るのか分からない。「くれる」と「エッチ」が頭の中で繋がらない。あまりの展開に信じられなくて携帯電話を逆さにしたり、一回電源を切ってみたりして読んでみるのだけど、やっぱり「エッチする?」って書いてあった。 あのですね、もっとこう女性にとっておセックスって厳かで尊いものじゃないんですか。僕が高校生の時にクラスで一番エロいと噂の女の子に「6月だしセックスしようぜ!」って言ったらぶん殴られて担任に密告されましたよ。それくらい軽やかに許してはいけない最後の砦じゃないんですか。 それがこの子はどうだ。Sと引き換えにエッチする?まるで部活に誘うかのように言ってますからね。こりゃ日本も来るとこまできちまったなーと嘆かずにはいられませんでした。 「いやー、実は・・・」 ここで僕は怯んだんですよ。正直に言うと心が痛かった。相手がどんな女性か知りませんが、間違いなく僕のことをシャブの売人と勘違いしている。しかも、シャブのためなら体を差し出すとまで言っているのです。シャブなんてのは決して褒められたものじゃないのですが、そのシャブに賭ける情熱だけは物凄い。けれども、実際の僕はシャブどころか頭痛薬すら持ってないからっきしの一般人。なんだか騙してるみたいで心の中の一番柔らかい部分がギュッと締め付けられたのです。 「やはり君にSは譲れない」 これ以上彼女を騙してはいけない。僕はSなんて、覚醒剤なんて持ってないんだ。そんな気持ちが先行してしまい、彼女を傷つけたくない一心でメールを送りました。 「なんで?どうして?お願い!譲って!」 しかし切実なる彼女の懇願。どうやって断わろうかと思案していると、次々と、怒涛の如く彼女からメールが届きます。 「お願い!エッチしていいから!」 「いじわるしないで!」 「どうして譲ってくれないの?」 「お金払うので譲ってください」 とまあ、連打連打さらに連打ですよ。もう許してって感じでメール着信するたびに「ヒィ!」とか一人で叫んでた。そんな最中にも、 「旦那とは1年セックスがありません。それも私の性癖のせいかもしれません。言いにくいんですが・・・ホッチキスで責められたいんです。私って変態ですかね?是非ともお願いできませんか?ホッチキスは私がもって行きます。http://...」 とかエロスパムが届くから始末が悪い。なんだよ、ホッチキスで責めるって針は入ってるのか?入ってるのか?ええい、興味深いが今はすっこんでろ! そんなことはどうでもいいとして、この純粋にシャブを求める彼女の始末をつけなければなりません。冷静に考えると純真無垢に違法なシャブを求めるってのが極めてアンバランスなんですが、それが逆に危なっかしい。下手なこと言ったら大変なことになりそうだ。クソッ!非日常にダイブなんかするんじゃなかった。とんでもなく面倒じゃないか。 とにかく、彼女を刺激しないようにシャブを分けてあげられない理由を説明せねばなりません。売人なんて嘘でしたー!ベロベロバー!なんて送ったら大変な事態になりかねない。なんとか彼女にも納得していただける理由を考えねばなりません。そして、携帯電話片手に考えに考え抜いて導き出した返信がこれ。 「うん、最近、マッポがうるさいからさ。危ないじゃん」 マッポですよ、マッポ。シャブの売人っぽさを出さなければならない、と訳の分からない使命感に襲われた僕が導き出した答えがマッポですよ。色々と救いようがない。そのマッポが色々と警戒してるかもしれないからシャブは譲れないよ、と返信したのです。マッポはともかく返信内容としては合格点でしょう。 「そうだよね・・・色々と危ないよね・・・」 彼女の返信も少し落ち着いてきて何だかご納得いただけた様子。僕もホッと胸を撫で下ろすのですが、そこで畳み掛けるかのように彼女から返信が。 「やっぱり警戒するよね・・・当然だよ、Sだもんね」 不穏な動きを見せる彼女にハラハラしていると、やはりまたメールがやってきて、そこには衝撃的な文言が。 「あれでしょ、私が警察のおとり捜査じゃないかって疑ってるんでしょ?」 1ミリも疑っておりません。ホント、なんだこの女は。考えが突拍子もなさ過ぎる。シャブでも食ってんじゃねえか。いや、食おうとしてるのか。しかしまあ、ハイパボリックな彼女の思考は別として、そう考えてくれたのなら好都合。うまく乗っていって納得させるに限ります。 「まあね、マッポはえげつないからね」 またマッポとか言ってるし、いい加減にして欲しい。何を知った風な口きいてるんだ僕は。ホント、どうにかして欲しい。こんな売人いるはずがない。 「だよねえ」 彼女の返信もすっかり落ち着いた様子。いつの間にかシャブの売人になってしまうという非日常に焦ったりしたけど何とかなった、これでまた日常が戻ってくる、と安心していると、彼女から更なるメールが。 「じゃあさ、Sとか抜きで会ってみようよ。会ってみて私のこと信用できるようなら次からS売ってくれればいいし」 このシャブっ子は何を考えてるんでしょうか。信用も何も、僕はシャブの売人でも何でもない、会って話しなんかしたらボロがボロボロ出るに決まってる。ダメだ、会っちゃダメだ!と返信メールを送りました。 「今からゲーセン行くから会えないよ」 世界中どこを探してもこんな売人いませんよ。何だよゲーセンって。もっとこう、他にも色々あただろうに。 「じゃあ、どこのゲーセンか教えて、私もそこにいくから!」 しかしシャブっ子も引き下がらないご様子。すっかり困り果ててしまいましてね、どうしていいのか散々迷ったのですが 「来てもいいけどSは譲らないよ。○○ってゲーセン」 「はい!それでもいいです!」 とまあ、譲る約束さえしなきゃ別にいいかって良く分からないうちに会うことになったのです。何だか良く分からないうちに、シャブなんて全然関係ないのにシャブの売人のフリして女の子と会うためにゲーセンにいく、っていう訳の分からない状態になってしまいましてね、死ぬほど面倒だったんですけど、言ってしまった手前行くしかないので準備して出かけましたよ。 いつの間にかあんなに晴れていたのにすごい大雨が降っていて本当に面倒だったんですけど、車を運転してゲームセンターへ。比較的大きなゲーセンでしたから客も結構いましてね、どっからどう考えてもシャブの売人が取引に使うような場所じゃないんですよ。普通、港の倉庫とかじゃないのかな。 まだシャブっ子は到着してない様子だったので脱衣麻雀ゲームなんかをやって時間を潰してたんですが、そこに携帯メールが。 「つきました」 いよいよ来たか。ついにシャブっ子がきやがったか。あれだけシャブを欲する女、どんな女か見極めてやる!と周囲を見回すと女の子がポツンと壁際に立ってるんですよ。 普通ですね、ゲーセンってリュックにポスターぶっさした大きいお友達か頭にヘリウムガスでも詰まってそうなカップルくらいしかいないんですよ。単独女性って結構異様なんですよね。 「もしかして壁際に立ってる?」 早速メールを送ると壁際の彼女が携帯電話を見るじゃないですか。その様子を見てると彼女も僕に気付いたみたいでニッコリと笑い、携帯電話をバッグにしまいながらこちらに歩いてきたんですよ。 「こんにちは、メールの者ですけど」 近づいて見てビックリです。ムチャクチャカワイイのな。シャブ中ってことで目が血走った、見るからに危なそうな婆さんが出刃包丁でも持ってくるかと思ってたんですけど、普通の女の子、いやむしろ清楚な感じすらするお嬢様なんですよ。なんか、卒業旅行にセブ島とか行きそうな感じだった。これがシャブ関連の出会いじゃなかったら小躍りして喜んでるところだよ。 「あ、どうも、メールの者です」 極めて対人スキルが低く、特に女性とは目を見て会話できないんですけど、なんとか会話を続けます。そんな僕を見て彼女はどう思ったのか、ニッコリ笑いながら 「どうです?信頼してくれました?私にS譲ってくれます?」 と、こっちが怖くなるくらいの笑顔で。やめてやめて、そんないきなりシャブの話を持ち出さないで。カクシンニセマラナイデ。 「しっ!どこでマッポが聞いてるか分からない!外に出よう!」 マッポ! そんなもんマッポが聞いてるはずないんですけど、何とかしなければならないと彼女をゲーセンの外に連れ出します。で、雨をしのげる縁石みたいな場所に座って話を聞いてみます。 まあ、昼間っからこんな場所に座って会話するシャブの売人もないんですけど、色々話を聞いてみると、彼女はシャブってのは未経験で興味はあったとのこと。出会い系サイトをボーっと見てたらシャブ譲りますという書き込みがアドレスと共に書かれていてメールしたとのこと。 なるほどね、書き込みを見て玄人がメールしてくるはずはないとは思っていたけど、まさか出会い系サイトに書き込まれていたとは。じゃあ、メール送ってきた人はみんな興味ある人って感じなのかな。そうだよな、この子だってシャブに溺れてるようには全く見えないもの。 「で、譲ってくれますか?」 屈託のない笑顔でそう述べるシャブっ子。譲るも何も僕は売人じゃないからとは言えず、なんとか世界陸上の話とかして話題を逸らすのですが 「でも、Sってどういうルートで入手できるんですかー?」 とまあ、シャブに興味津々なご様子。そんなもんこっちが知りたいわ。 「た・・台湾ルート?」 なんで疑問系やねん。台湾ルートってなんやねん、と僕の返答が色々とギリギリになった時、もうこれ以上は無理という判断からついに切り出しました。 「実はシャブの売人でも何でもないんだ。誰かのイタズラで・・・」 さあ、それを聞いた彼女は豹変しましたよ。 「譲れないなら譲れないって最初から言え、ボケカス死ね」 みたいなことをえらい剣幕でまくしたてましてね、清楚な感じから想像もつかない豹変ぶりですよ。シャブでもやってんじゃねえか。 っていうか、最初から譲れないって言ってるじゃないかと思いつつ、ジッと耐え忍んで聞いていたのですが、「オッサンキモイ」とか言われて泣きそうになった。でもカワイイ子に罵倒されて興奮しつつある自分もいて、SなんだかMなんだか自分でも分からない状態に陥っていた。 彼女はいたくご立腹な様子で、プンプンと帰っていったわけなんですが、いやー、すごい怖かった。とんでもない非日常だったな、非日常にダイブなんかするんじゃなかった。やっぱ日常が最高だよ、と雨も上がり、いつの間にかできていた虹に向かって車を走らせ家路に着くのでした。帰ったら海底鬼岩城を観よう、それが僕の愛すべき日常だ。 日常は退屈でどうしようもない。きっと彼女だって同じように繰り返される日常に嫌気が差して、シャブという非日常に手を出すつもりだったんだろう。でもね、シャブより刺激的な非日常はきっとあるよ。安易に手を出す必要なんてないよ。日常と非日常は繋がっている。非日常を大切にするからこそ穏やかな日常を過せるし、日常を大切にするからこそ非日常にエキサイトできるんだ。彼女がシャブに手を出さずに平穏な日常を過せるといいなあ。 などと考えながら運転していたら、スピード違反でマッポに捕まりました。とんでもない非日常だ。売人のフリして出かけるんじゃなかった。2度目の免停、免停60日が来るぞ!とんでもない非日常の日々が来るぞ!と震えることしかできませんでした。やっぱ非日常いらない。 8/28 モンゴル放浪記2007vol.3 前回までのあらすじ それにしてもモンゴルは暑い、死ぬほど暑い。日本より北にあるんで幾分は涼しいのではないだろうかといつも期待しているのだけど、それを裏切るかのように激烈に暑い。温度計がなかったので正確には分からないのだけど楽勝で40℃オーバーという情熱的暑さ。おまけにチンギスの車にはクーラーが付いていないという体たらく。いや、正確にはついていたのだけど、スイッチオンすると気温以上の熱風が吹き荒れるとんでもない仕様のクーラーだった。 そんな暑さも燦燦と輝く太陽が沈んでしまえば一段落する。この時期のモンゴルは夜9時くらいに日没となるのだけど、その瞬間にあの暑さはなんだったんだろうというくらいにガクッと気温が低下する。涼しいを通り越して肌寒いくらいだ。 ハンターの血を取り戻したチンギスのハンティングも失敗に終わり、やっとこさ車を停めて宿泊することになった一行。まあ、宿泊と言っても宿に止まるとかそんな高貴なものじゃなくて、良さそうな草原でテントおったてて寝るだけ、そのテントすらウランバートールのスーパーで日本円にして3000円くらいで買ったというチープなものだった。 しかもよく現物を見ずに買ったものだから、テントの布地の5割くらいがメッシュで形成されているというシースルー仕様、熱帯夜とかには涼しくて最高なんだろうけど、ここモンゴルの夜は昼間とは真逆に寒い。下手したら凍死に誘ってくれそうなテントだ。 「へい、お前はそんなテントで寝るのか?」 テントで寝るのは僕だけで、チンギスは車の中で座席を倒して寝るので、僕がグリグリとテントをおったてる様子をタバコ吸いながら余裕で眺めていたんですけど、あまりに無謀だと思ったのか、いたたまれなくなって話しかけてきました。 「間違ってものすごいシースルーテント買っちまったぜ」 僕はまあ、海外すらも青いリュック一つでインザスカイ、下手したら上野駅をうろつく家出少年と変わりがない状態ですので、防寒具というか暖かい御召し物がない状態、ぶっちゃけるとローソンで買ったTシャツしかないもんですから、本気で凍死するかもしれないって思ったんですよね。昼は熱射病の危機で夜は凍死の危機とか、ほんとモンゴルはおかしい。 「モンゴルの夜をなめるな、死ぬぞ」 チンギスが物凄い険しい表情で言いましてね、そんなこと言われてもどうしようもなく、むしろハンターの血が騒いだお前の運転の方が死にそうだったとは言えず、 「まあ、なんとかなるよ」 と曖昧にお茶を濁したんです。するとチンギスが何やら車の後部座席をゴソゴソし始めるじゃないですか。 「これ、使え」 差し出されたのは1枚の毛布。これがもう、見るからに汚い。ウチのアパートの隣りの民家に誰にでも吼える雑種の犬が居るんですけど、その犬が犬小屋に毛布を隠してるんですよね。もう何年も置かれてる毛布で、風雨によってボロボロ、おまけに犬が使ってるんでムチャクチャ汚いんですけど、それよりも汚いっぽい毛布が出てくるんですよ。元々ピンク色の毛布なのにところどころドス黒くなってるとか酷すぎる。 「ありがとう、助かったよ」 でもね、チンギスは良かれと思ってやってるわけなんですよ。イキナリ僕が凍死とかしたら死体の処理が面倒くさいとか考えてるかもしれませんけど、とにかく僕を気遣ってくれたのは間違いないんですよ。それを汚いだの何だの言うのって間違ってると思うんですよ。僕は喜んで使わせていただきますよ。 「その毛布は子供たちが小さい頃に使ってたやつでな…」 何でか知らないけど急に感傷的になるチンギス。なんか切々と昔の思い出話みたいなこと語ってましたが、英語なので半分くらいしか意味分かりませんでした。とにかく、この汚い毛布はチンギス思い出の品っぽいことだけはわかった。 さて、シースルーテントも張れたし後は飯食って寝るだけなんですけど、今回の僕は偉いね、2年前の前回、怖れる物なんて何もないと言った勢いで現地の水に現地の食い物を摂取してたもんですから思いっきり腹を壊しましてね、トイレなんてないモンゴルの大平原、三桁回にのぼるノグソをかますという大失態。クラスに野口君という苗字の子が30人ぐらいいたとしても、その彼らを抑えて僕が「ノグソ」っていうニックネームを頂戴してもおかしくない事態に陥っていました。 で、今回は大いなる自衛手段としまして街から安全そうな食料を購入してきたんですよ。カップラーメンとかそういった類の物なんですけど、それらを大量に備蓄、おまけにカセットコンロって言うんでしょうか、ポータブルにお湯を沸かすことのできる設備を購入したんです。もちろん、ガスボンベだって買いましたよ。 で、そのカセットコンロを使って水を徹底的に煮沸ですよ。いささか時間がかかりますけどお腹の平穏には代えがたい、もうあんな原色に近い色の下痢が出るのなんて御免ですから、とにかく徹底的に煮沸。真っ暗闇の草原のど真ん中でガスコンロのゴーゴーという音だけが響いてました。 そのお湯を使って思いっきりカップラーメンを作るんですけど、これがまた韓国製のカップラーメンらしくすごい。汁とか真っ赤ですからね。おまけにどんなサービスか知りませんけど、カップラーメンの中にプラスティック製のフォークが折り畳まれた状態で入ってるんですよ。そこまでする意味があまり分からない。 そんなこんなで異常に辛いラーメンを食して就寝。シースルーテントの中で獣みたいな匂いがする毛布に包まれて眠るのでした。早く日本に帰りたい。 翌朝。日の出と共に目が覚めるという健康的な目覚め。というか、本当は疲れていてもっと眠っていたかったのですけど、なにせテントがシースルーなもんで強烈な朝日が差し込んでくる。丸焼きにされてる夢とか見たくらいですからよほどのもんです。 で、起きた瞬間にアレほど注意していたにも関わらず下痢になってしまいましてね、こりゃいいかんってことでノグソしたんですよ。2年前にも書きましたけど、360度地平線、遮蔽物も何もない場所でノグソするって極めて爽快でしてね、ボリボリと貪るようにノグソしましたよ。
ノグソしながら撮影した風景。何の遮蔽物もない。こんなところでノグソすると、日本で「トイレ行きたい!コンビニ探さなきゃ!」とか焦ってる自分がちっぽけな存在に思えてきます。 早朝ノグソを終えて晴れがましい気持ちでテントの場所に戻ると、チンギスのヤロウはまだ車の中で熟睡の様子。もう太陽も随分と昇ってきてチリチリと僕らを焦がし、車内もパチンコ屋で放置される幼児が出てもおかしくない状態になってるというのに安らかな顔で寝てました。たぶんモンゴル人は体の作りがおかしい。 チンギスが起きないとどうしようもないので朝飯でも作ろうとまたもやカセットコンロをセッティング。昨晩は韓国ラーメンで死ぬ思いをしたので今日はもっとソフトまのにしよう、ととっておきの秘蔵っ子を調理することにしました。それがまあ、日本から持ってきたカップ味噌汁なんですけど、これがとにかくナイスプレー。こういった日本の味を持ってくることを忘れなかった僕のファインプレーと言わざるを得ない。 草原のど真ん中腰かけてまたもやグツグツと水を煮沸。朝っぱらから何やってるんだろうと思うこと山の如しですが、どうやら起きてきたチンギスもそう思ったらしく 「なにやってるんだ?」 と寝ぼけ眼で問いかけてきました。っていうか、ヒゲに寝ぐせついてた。ヒゲが寝ぐせバリバリ伝説だった。 「日本のトラディショナルなスープを飲もうと思ってね」 「なら日本で飲めばいいのに、変わったやつだ」 あれだけ無口だったチンギスが随分と軽口叩くようになったなと思いつつもお湯が沸いたのでカップ味噌汁を作成しました。 「火を使う時は充分注意しろ、乾燥してるから山火事になるぞ」 というチンギスのお言葉。なるほど、僕なんか無知なもんですから、草原で何も燃えるものないから大丈夫!と安心して火を使ってましたけど、この草原では思いっきり草が乾燥してましてね、簡単に火が燃え移ってあっという間に燃え広がるみたいなんですよ。また一つ勉強になった。今度からは気をつけよう。チンギスは自然に生きるハンターとしてそれを忠告すると、出発の準備のために車に戻ってしまいました。 「うまい!」 いやね、日本に居る時ってカップのヤツを買ってまでして味噌汁を飲もうとは思わないじゃないですか。それどころか自分で作るとか論外。定食屋とかでついてくる味噌汁を何の気なしに飲むくらいなんですが、まさかこんな異国の地、それも草原のど真ん中で飲む味噌汁がこんなに美味いとは思わなかった。 あまりにも美味いもんで、車を点検していたチンギスにも「飲んでみろ」と渡したところ、随分と好評だった様子。「このスープはなんていう料理なんだ?」「味噌汁さ」みたいなハートウォーミングな会話が展開されたのでした。 最初はどうなることかと思ったけど、なんとかチンギスと打ち解けることもでき、いよいよ草原の旅2日目の出発。テントやらなにやらを片付けて車に積み込みます。ついでに昨晩借りた臭い毛布をチンギスに返し 「ありがとう、助かったよ」 とお礼を言うとチンギスは 「先はまだ長いんだ、今夜も冷える、お前が持ってろ」 「いや、思い出が詰まった大切な毛布なんだろ、今夜は今夜でまた借りるさ、でも自分で持っておいたほうがいい」 まあ、ぶっちゃけるとどっちが持っていても大差ない話なんですが、なんていうか気持ちの問題でしょうか、とにかく毛布をチンギスに返したんです。で、いよいよ出発だーと助手席に乗り込んだんですけど、それを見た瞬間あれほど朗らかだったチンギスの表情が険しいものに変わったんです。 「なんだそれは?」 どうも、僕が右手に持っていたゴミ袋を指している様子。 「いや、ゴミだけど?」 昨日のカップラーメンのカスやら、味噌汁のカス、ついでにタバコの吸殻や何故かポケットに入っていた家賃の振込み証なんかがゴミ袋に詰まっていたんですけど、それが気に入らない様子。 「お前、ゴミなんか集めてどうするんだ?コレクションしてるのか?」 どうもこの辺がカルチャーの違いなのかもしれませんが、僕はこの大自然を汚してはいけないとゴミを持ち帰ろうとしてたんですけど、チンギスは「大自然だからこそゴミを捨てるべきだ」という主張。そういや、モンゴルは草原の至る場所にゴミが捨てられてて、
とんでもない状態に。ゴミの分別とかそんなレベルのお話じゃなく、とにかくその辺に捨てる。途中で通った小さな村も、村の隣りが村以上の広い面積でゴミ捨て場になってたりとか大変な状態でした。 「俺の車にゴミを乗せることは許さん、燃やせ」 まあ、モンゴルの人がそういう文化なら仕方がないじゃないですか。郷に入ってはなんとやらと言いますし、ここはもう言われたとおり燃やしてやる!と車を降りましたよ。 で、このまま燃やしてしまっては明らかに草に燃え移って草原が大火事、四国と同じくらいの面積を燃やし尽くすとんでもない規模の山火事になって、「日本人、モンゴルで山火事!狂った果実!」とかの見出しが躍ること明白です。それだけは避けねばなりませんので地面に穴を掘ってそこでゴミを燃やします。 もう太陽も昇りきっててクソ暑いのに何が悲しくて焚き火をしなきゃならないのかわからないんですけど、そこにチンギスがやってきて言うんです。 「なんでコレは燃やさないんだ?」 ほら、明らかに燃やしちゃいけない物ってあるじゃないですか。発泡スチロールみたいなのとかプラスチックのフォークとか、あとペットボトルなんかもそうなんですけど、燃やすと有害な煙が出るものって何となく燃やしにくい。それで、そういった物を穴の横に分けて置いてたんですけど、チンギスはそれすら気に入らない様子。 「これも燃やしちまえばいいんだよ!」 と、それら「燃えないゴミ」まで思いっきり穴の中に放り込むじゃないですか。その瞬間に真っ黒な煙がモアーっと上がりましてね、どう好意的に解釈しても体に悪いとしか思えない状態になったんですよ。 いやね、ここまでは許せますよ。まあ、僕もエコだの地球環境だのと口を酸っぱくして言うつもりもないですし、それがモンゴルの流儀なら多少環境に悪そうでも従いますよ、けれどもね、ここからがどうにも理解できない。 「ついでにこれも燃やしてくれや」 そう言ってチンギスが車の中から両手一杯に抱えて持ってきたのが、酒の瓶やらジュースの缶、あとなんか缶詰の残骸とかあった。 それは、どう、考えても、燃え、ない。 プラスチックやペットボトルって、あんなもん元は石油ですから燃やせば燃えますよ。良くなさそうな煙は出るものの燃えます。けどね、さすがにビンや缶は燃えない。ビンカンは燃えないことくらい僕だって敏感に分かる。思いもかけず上手いこと言えた。 「でも、それは燃えないよ」 そう言ったんですけど、チンギスのヤロウは聞く耳など持たんといった勢いでガラガラと燃え盛る炎の中に投げ込むんですよ。 ほらみろ、やっぱり燃えない。当たり前だけど燃えるわけがない。ただ、ビンや缶のラベルを黒く焦がすのが精一杯。 「燃えないじゃん」 「燃えなくたっていいんだよ」 みたいな会話を交わしつつユラユラと揺れる炎を二人で眺めていたんですけど、ここからのチンギスがさらに許せなかった。 「ここにも缶があるじゃないか、燃やさないと」 置いてあった缶を拾い上げて炎の中に投げ込んだんです。もう燃えないんだから「燃やさないと」ってのは不正解、もはや何のために缶を燃やしてるのか分からないのですが、チンギスが燃やしたいと言うなら仕方がありません。それにしても缶なんてあったかなー、チンギスが持ってきたゴミ以外で缶なんてなかったはずだけどなーと思いながら投げ込まれる缶を見つめていると、そこにはとんでもない表記が。 「iwatani GAS」 「GAS」だけ嫌味なくらいデカい字で書いてありました。あー、ウランバートルのスーパーで買ったカセットガスだけど、すげえなiwataniは、こんな異国の地でも支持されて使われているよ。こんな遠く離れた場所でも普通に使われてるよ。やっぱ日本の技術力って凄いよな。 ここモンゴルでは日本車がこよなく愛され、一昔前の日本車がアホみたいに走ってます。さらに、日本では使われなくなったバスなどが路線バスとして現役で活動しており、大きなスーパーに行けば日本製の電気製品が大々的に売られているのです。日本製品は信頼できる、それはもはや語るまでもない世界共通の合言葉なのです。 僕はそうやって遠くの国でも支持される日本の技術力を誇りに思います。なにかとマネーゲームやら株式やらが騒がれる現代の日本ですが、戦後ずっと積み重ねてきた技術力こそ、誇るべき日本の国力だと思います。所詮僕らに欧米人の猿真似なんて似合わないんですからドライなマネーゲームからは脱却すべき。技術開発と製造分野に力を注ぐべきだと思います。安いからって何でも海外で製造すりゃいいってもんじゃない。 マネーゲームは何も産み出さない、誇れる物を無理矢理作る必要はない。偉大なる僕らの先輩達が積み上げてきたものを守り発展させていく、それこそが重要なんじゃないでしょうか。日本はダメだって言うだけが能じゃないですよ。 と、揺らめく炎の中に佇むイワタニのカセットガスを眺めながら、少し日本国の行く末を案じておセンチな気分に、ってそんな場合じゃない。バカッ、お前それガスじゃねえか!味噌汁作るのに使ったガスじゃねえか!まだ半分くらいガスが入ってるんだぞ!と思った瞬間ですよ。 ドオオオオオオオオオオォォォォォォン! バスガス爆発。いや、バスじゃないから単純にガス爆発。穴から火柱が4メートルくらい上がったの見た。これ、穴掘ってなかったら爆発が拡散してもっと大変なことになってたと思う。 爆発の衝撃は凄まじく、鼓膜が破れるかと思うほどの轟音。爆風で半分燃えたゴミが舞い上がっていた。「赤だし」とか書かれた味噌汁のカップが舞い上がっていた。 チンギスは何が起こったんだって感じで口をポカーンとあけて突っ立ってましてね、怪我もなく無事な様子。僕もガス缶が投げ込まれたのを確認した瞬間に一人だけ逃げましたので無事、でも「iwatani」に気づくの遅れてたら間違いなくモロに爆発喰らってた。 ガスの爆発ってのはまあ、その瞬間は物凄くて死ぬかと思ったんですけど、燃えるガスさえなくなってしまえば大したことない、現に爆発が終わった今は、最初からあったゴミがバラバラに吹き飛んで燻ってるだけでした。しかしながら、このバラバラになったゴミが厄介だった。 前述したとおり、乾燥した草原ってのは異常なほどに山火事の危険が危ない。案の定すぐにゴミから草に燃え移りましてね、あっという間にそこかしこが燃え始めたんですよ。これがまた笑っちゃうくらいワーッて炎が広がるの。 「やばいチンギス!燃えてる!」 「早く消せ!」 二人であっちこっちの草を踏みつけて消火にあたるんですが、いかんせん同時多発過ぎて追いつかない。 「こりゃもう無理だ、逃げよう」 「fふいうぃptんぼkんヴぇr」 もうチンギスのヤツ興奮しちゃってて何言ってるんだか分かりませんが、とにかく狂ったように消火にあたってました。なんか「ソウル」って単語だけ聞き取れたから、たぶん「諦めるな、魂を賭けて消すんだ」みたいな根性論を言ってたんだと思います。 もう踏みつけるのが追いつかなくなっちゃって、ゴロゴロと覆いかぶさるようにして火種を揉み消すチンギス。なるほど、大したソウルだ。コレには僕も「ウルトラソウル!」と唸るしかない。 そんなチンギスに触発されて僕も必死の消火活動。貴重な飲料水を口に含んで毒霧みたいに噴射してました。それでは埒が明かないと思ったのか、車に戻って何かを持ってくるチンギス、見ると朝渡した毛布を思いっきり炎にかぶせて消化してました。 いや、それは子供たちの思い出が詰まった毛布だろ、と思う暇もなく、そういった祭りかと思うほど狂ったかのように、いや、狂った状態で毛布を翻すチンギスを見て、ウルトラソウル!と思わずにいられなかった。思ってる場合じゃない。 とにかく、どれくらい消火活動していたか定かではありませんが、やっとこさ鎮火し、二人とも息も切れ切れ、真っ黒になって毛布もボロボロ、なんとこの日はまだ1メートルも目的地に近づいていないという大惨事。それでも二人とも気力がありません、さらに本当に鎮火したのか疑わしいのでしばらくこの場で様子を見なくてはならない。 「日が落ちるまで木陰で昼寝、日が落ちたらテント張って寝よう」 と、この日は1メートルも先に進まないという事態になったのでした。
夜になり、爆発によりガスがないのでお湯も沸かせない。カップラーメンは沢山あるのに食べられないという悲しいことになり、さらに毛布も焼け落ちてしまったのでシースルーテントの中で「寒い、死ぬ」と泣きながら眠るのでした。ちなみにチンギスはまた小鹿を追いかけていた。ウルトラソウルにも程がある。 シースルーの網目から見えた星空がやけに綺麗だった。 国境までまだ遠い。
次回予告 8/22 金融腐蝕列島 お金がない。 子供の頃から何度も聞かされてきた言葉だった。ウチの家は掛け値なしの貧乏で、給食費もろくに払えないような家庭環境だったのでまるで口癖のようにその言葉を聞いていた。 そんな貧乏な少年時代にあって中でも印象的なエピソードが、前にも書いたのだけどステーキ屋での話。ウチの弟が両親がステーキ屋を営んでいる同級生の女の子を好きになった。その事実を知った僕は早速両親に垂れ込み、両親もいたく盛り上がった。 よし、弟の恋を叶えるため今からそのステーキ屋で食事をしよう。お金はないけどなあに心配するな、少し無理をすればなんとかなる、親父は高らかに笑っていた。ほとんど外食なんてしたことなかった僕は、弟の恋なんてのとは別次元で胸が高鳴った。外で食事が出来る、それもステーキ。連日の如く魚料理ばかりだった僕には魅惑的過ぎるものばかりだった。 貧乏ながら精一杯のオシャレをして件のステーキ屋に行った我が家族たち、そこに待ち受けていたのは「お金が足りない」という圧倒的事実だった。親父と母さんは狼狽し、ステーキセットだかディナーセットだか、高価な品物を注文しようとする僕を一蹴した。 結局、ステーキ屋に行って家族4人でモソモソとカレーライスを食べるという辱めを受け、数年に一度の外食タイムは終わったのだった。妙に高級感溢れる容器にルートライスが別々に入れられているのを眺めながら、貧乏とは悲しいものだと泣いたのだった。また、弟も好きな子にキチガイ親父を見られてしまい、別の意味で泣いていた。 「お金がなくたって幸せだよ」 「幸せはお金では買えない」 甘ったるいドラマやなんかがそんなセリフを呪文のように唱えるけど、そんなの嘘っぱちだと思っていた。お金がなきゃ幸せになれない、逆を言えばお金さえあれば幸せになれる、お金のことで喧嘩ばかりしている両親を見てそう信じていた。 「日本の経済は狂ってる」 それが親父の口癖だった。金がないという事実に直面した時、まるで吐き捨てるかのように責任転嫁していた。日本の経済は狂っていない、狂っているのはアナタだよ、そう心の中で復唱しながら、「僕は大人になったら金持ちになってやる」そう誓うのだった。 僕は未だに思い出すことがある。小学生の時に月に1回、給食費袋なる茶封筒に給食費三千円くらいを入れて登校しなければならなかった。最近では親の方が非常識で給食費を滞納しつつ海外旅行とか普通らしい、おまけに振込みとからしいけど、当時はおもいっきり手渡しの集金、給食費を払わないなんて考えられないことだった。 「お母さん、給食費」 給食費袋を手に母さんのところにいくと、母さんは深い溜息をついた。子供心に、ああ、給食費が払えないんだなってのは何となく分かった。 「ちょっとまってなさい、明日までには何とかするから」 給食費袋を母さんに預け、僕はなんだか悪いことをしたような、何かバツの悪い思いを胸に抱えた。そんなに払うのが大変なら僕、給食食べなくても平気だよ、その言葉がさらに母さんの心を苦しめたに違いない。 次の日、学校に行こうと玄関に行くと、玄関のタヌキの置物の横に給食費袋が置かれていた。給食食べてもいいんだ、と安心して手に取ると何やら様子がおかしい。とてもじゃないが尋常じゃないレベルで給食費袋がズシリと重い。開けてみると小銭がギッシリつまっていた。たぶん、どこかからかき集めてきたんだと思う。1円玉から5円玉、稀に10円玉がパンパンになる勢いで入っていた。 それを持っていって先生に提出するのが死ぬほど恥ずかしくて、できることなら学校に行きたくない、行ったとしても給食なんて食べたくないって思った。おまけにあまりの重みに給食費袋がどんどん破れてきてさ、もう正視に耐えない状態になってた。 やはり貧乏は罪だ、大人になったら金持ちになってやる。少年時代の僕の心に熱く刻まれるのだった。 そしてあれから二十年近く経った現在。晴れて31歳となった僕の手元には55円しかないという途方もない状態が展開されていた。 いやいやいや、そんなこと言って銀行口座にはたんまりと金が入ってるんだろ、善い歳した大人がお金持ってないとかありえないよ、という皆さんの声が聞こえてくるようですが、ホント、正真正銘55円しか持ってない状態に陥ってしまったんですよ。 そりゃあ、銀行口座に金は入ってますけど、それだって245円とか、ATMでは引き下ろせない微妙な金額ですからね。マジで本気で55円しかない、そんなペレストロイカみたいな状態になったんですよ。31歳にして。 ホント、情けないったらありゃしないんですけど、今日食う飯にも困り果てる状態でしてね、空腹だわ水道止まってるわで大騒ぎ。一旦冷静になってこの55円で何ができるか考えてみたんですけど、どんだけ硬貨を眺めてみても、50円玉と5円玉、両方穴が開いてる、けっこうエロい、くらいしか思いつきませんでした。今時55円じゃ何もできない。 ホント、少年時代に誓った言葉はなんだったんでしょうってくらいに意味が分からない。お金持ちになるどころか標準以下、55円しかなくて飯食うのにも困るとか刑務所の罪人以下ですからね。 お金がないってのがどんだけ罪深いことか例をあげてみますと、例えば僕が洗濯物とか干してるじゃないですか。で、強風に煽られて洗濯物が飛んでいくんです。 「あらら、大変」 急いで下の階まで降りて洗濯物を拾うんですけど、世の中ってのは親切な人が多いもので、何人かの通行人が手伝ってくれるんですよね。 「ほんとすいません、ありがとうございます」 通行人から洗濯物を受け取り深々と頭を下げる僕。最後に一人の少女が恥ずかしそうに僕の前に立った。 「あの・・・これ・・・」 彼女が手に持っていたのは僕のパンツ。彼女は顔を真っ赤にしながらクシャクシャに丸めた僕のパンツを握り締めていた。よくよくみると大塚愛さんに似ていてかわいい。 「ありがとうございます。ごめんね、パンツなんて触らせちゃって」 「いえ、そんなこと・・・」 彼女は顔を真っ赤にして俯いた。 「あの・・・よかったらお願いがあるんですけど」 俯きながら蚊の鳴くような声で言う彼女。 「ん?なにかな?僕にできることなら御礼になんでもしますよ」 「よかったらその・・・」 あまりに彼女の仕草がかわいくて表情が緩んでしまう。彼女はモジモジしていたが何かを決意したようにそのクリクリした瞳で僕を見つめ、口を開いた。 「パンツの匂い嗅がせてください!」 興奮した彼女は僕の返事を待たずにハフハフとパンツの匂いを嗅ぐ。まるでシンナーを吸うように鼻と口にパンツを押さえつけ荒く呼吸した。 「ごめんなさい!わたし、男の人のパンツの匂いが好きで!ハフッ!クラクラしちゃう!」 そうなってくると僕も盛り上がってくるじゃないですか。こりゃたまらんですバイって感じで興奮のるつぼ。 「そんな洗濯してるパンツより、今はいてるパンツの匂いはいかがですか?」 「そ、そんな・・・いいんですか?」 「もちろんですよ。3日もはいてるんですごい臭いしますよ」 「クラクラしちゃう!」 そこで問題になるのがお金です。さすがに嫁入り前の若い娘を部屋に入れるわけにはいきませんので、いくらパンツを嗅ぎたいといっても愛さんも抵抗があると思うんですよ。そうなると必然的にラブホテル的ないかがわしい場所に行こうって機運が高まってくるんですけど、所持金は55円ですよ。 「ラブホテルに誘っておいて55円しか持ってないとか最低!死ね!」 これでは百年の恋も醒めるってなもんです。55円しかないために大きな恋のチャンス、おセックスのチャンスを逃す、これはもう後悔してもしきれない、そんな罪深いことなのです。 まあ、そんな行数稼ぎの妄想はいいとして、問題は食料です。やっぱ僕ら人間、っていうか生物全ては食料を食べないと生きていけないわけですから、当然ながらそれなりの食料摂取が必要不可欠なんです。 これが農村とか、物々交換が盛んな時代とかならなんとかなるかもしれませんが、残念ながら現代の日本は全てがお金によって補完される金銭至上主義社会なわけなんです。お金がなければ何も食料を手に入れることができない。で、当然ながら55円じゃ何も買えない、そういうわけなんです。 もう空腹すぎてクラクラしちゃう!って感じなのですが、なんとか食えるものはないかと悪あがきをしてみます。いっそのこと罠でも作って外を飛んでる鳥を捕まえたい気分なのですが、たぶん捕まえられずに余計腹が減るけっかになりそうなので断念、部屋の中をくまなく捜索します。 僕の部屋の中って結構宝の山でしてね、色々とゴミの山を捜索していたら思いも寄らぬお宝とか、古いジャンプとかエロ本が出てきてついつい読み耽っちゃうとかあるんですよね。で、松坂牛でも落ちてねーかな、と隅から隅まで探してみたんです。 そしたらとんでもないものが出てきましたよ。何でこんなものがあるんだ、と目を疑いたくなるような逸品が出てきたんです。
なぜかビニール袋に入れられた1円玉の山。
数えてみたらちょうど千枚ありました。つまり、これは千円分のお金ということです。 なんでこんなものがるんだろうなーって考えてみるんですけど、そういえば全国を回って自費出版本を売ってる時に、どっかの地方だったんですけど、全部1円玉で購入した頭の可哀想な人がいましてね、それが丸々残ってたんじゃないかなって思うんです。 とにかく、今、55円しかない僕にとってはこの千円は貴重な財産だ。千円あれば弁当も買えるし飲み物だって買えちゃう。下手したらエロ本まで買えちゃいますからね、こりゃ、天からの恵み、天恵に違いないと小躍りして喜んだのです。 しかしちょっと待って欲しい。それこそ、弁当などを買うのはいいんですけど、レジで払う時にこの1円玉の山をこんもりと支払うのか。よくよく考えたらムチャクチャ恥ずかしいじゃないか。 それにね、実は大量の硬貨ってお金として通用しないんですよね。これは「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第7条に「貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する」って書かれているんですよね。つまり、同一硬貨、1円なら20円までしか使っちゃダメ、10円玉なら200円までしか使っちゃダメ、ゼッタイ!ってなってるんですよ。まあ、使っちゃダメってことはないですけど、これ以上の枚数を出したらお店側が断わる権利があるんですよね。 これは硬貨の場合は紙幣と違って、あくまで紙幣を補助するための臨時のお金ですよって定められていた背景がありまして、紙幣の場合は何枚で払おうといいんですけど、硬貨いっぱいはダメってなってるんですよね。 20枚しかダメなのに1000枚とか圧倒的ド迫力で支払ったら大変なことになるかもしれない、数える店員さんもかわいそうだ、それよりなにより、個人的に幼き日の給食費みたいな思いはもう沢山ですので、なんとかこれらを回避して食事にありつけないかとトンチを働かせたわけなんです。 そうだ!銀行で両替してもらおう! 銀行ならばきっとこれらの1円玉をバリっと両替してくれるに違いない。なにせ銀に行くですからね、よく分からんけどお金のことなら何でも解決してくれるに決まってます。 さて、そうと決まれば思い立ったが吉日、早速千枚の1円玉をビニール袋にパンパンに詰めて銀行に行きます。ビニール袋ってところがやけに貧乏臭くて恥ずかしいのですが、本当に貧乏なので仕方ありません。 銀行に到着すると、何をトチ狂って勘違いしてるのか、それとも暑さで脳髄がやられてしまったのか、銀行員全員がアロハシャツで業務にあたるという大暴挙に遭遇しました。 あのですね、涼しげにアロハで勤務してます、とか、銀行もクールビズ!とか大変結構なことだと思いますけど、銀行って結構悲劇の場になりうるじゃないですか。融資してくれないと倒産する!だとか不渡りを出した!とかそういった悲喜こもごもの場面が多々あるんですよ。ウチの親父がよく言ってたので間違いありません。 景気が回復したといっても庶民にはまだまだ実感が湧かない昨今、経済苦による自殺者は年々増加してるんですよ。もう、融資してくれなきゃ自殺するしかない、もう顔面蒼白、そんなヘビーな場面で銀行員がアロハシャツですよ。そりゃ銀行強盗のひとつでもしたくなりますよ。女子行員をレイプしたくなりますよ。 そんなことはどうでもいいとして、なんとか1円玉を両替しないといけないんですけど、なぜか満員御礼に近いくらい客がおりましてね、どいつもこいつも金、金、金、と金の亡者みたいな顔つきしてました。で、待ち人数22人という気が遠くなる待ち時間を経てついに僕の順番に。颯爽とビニール袋を提出して威風堂々と主張します。 「両替していただきたい」 ここで、1円玉千枚とか恥ずかしい、とか小さくなってはいけません。堂々と、それを誇りに思ってるくらいの気概で当たらねばなりません。 「両替ですね、手数料がかかりますがよろしいですか?」 「うむ、かまわん」 正直、手数料がかかるとは予想外でしたが、ここで「じゃあやめます」となったら末代までの恥くらい恥ずかしいので、全く動じる様子などないといった勢いで受け答えします。ちょっと偉そう、くらいが丁度良いと思います。 これさえ乗り切れば千円札が手に入るのです。まあ、手数料なんて微々たるもんでしょうし、多少目減りするとはいえ、弁当と飲み物を購入するくらいの金はあまるはず。というか、恥ずかしくてかなわない、早く処理して欲しい。 そんなこんなで、なんか住所とか名前とか書かされて、いよいよ僕の魂の1円玉は行員のお姉さんに回収され、両替作業に入ったのでした。 待たされること十数分、ソファに座りながら、金が入ったらいかに効率よく食料を摂取するか、ちょっと贅沢してエロ本とか買っちゃおうかしら、と考えていると、名前を呼ばれました。 「お待たせしました」 なんか水色の箱に入れられた千円札を差し出されました。やった!ついに手に入れた!僕の最後の希望、最後の財産、最後の果実。なんとかこれで生き長らえることができる。ありがとう、本当にありがとう。千円札を握り締めながら感激に打ち震えていると、 「手数料はこちらになります」
「両替手数料1050円になります」 意味が、わから、ない。 慌てふためいてカウンターの横にあった小冊子みたいなのに目をやると
800枚以上の硬貨の両替は手数料1050円。1円玉1000枚は手数料1050円。 流れる涙をジッと堪えながら、手にしたばかりの千円札に、元々持っていた50円玉をそっと添えて支払いました。 1円玉千枚を銀行で両替してもらうと50円損をする。新たな教訓を得てしまい、日本の経済は狂ってると口にするしかありませんでした。 帰り道、所持金5円となった僕は、5円玉を眺め、「5円玉、穴が開いててエロい」と5円玉が悪党にレイプされる妄想で大変興奮するのでした。お金がなくたって僕は幸せだよ。 8/14 モンゴル放浪記2007vol.2 前回までのあらすじ --------------------------------- いやですね、僕だってモンゴルは二度目ですよ。2年前に放浪の旅をし、今回も放浪している。少しばかりモンゴル人ってヤツが分かってきたつもりで、これは全世界共通なのかもしれないですけど、外国の人って結構無表情っていうか無愛想なんですよね。日本人みたいにヘラヘラ愛想笑いしない。 僕なんか、レンタルビデオ店で、「セックス中に彼氏に電話させる」っていう最高にエキサイティングなエロビデオを借りようとしてカウンターで「お客様、まだ34歳あかね浣腸地獄が返却されてませんが」とか言われても愛想笑いしちゃうくらいなんですけど、外国の人、それもモンゴル人ってムチャクチャ無愛想なの。鬱病の力士とか見てたら分かるでしょ。 で、そんな無愛想な、それこそ怒ってんのかなって思うくらいに皆無愛想なのだけど、その中でも特段に無愛想なのがこのチンギスハンみたいなドライバー。もうピクリとも表情を変えやがらねえ。 こっちがこれからの長旅を少しでもジョイフルで楽しいものにしようと、精一杯の笑みで「やあやあ、よろしく」みたいに話しかけてるのに微動だにしやがらない。マジで三親等くらいの親族が死んだレベルの無愛想さなんですよ。 とにかく泣いても笑ってもこいつがドライバーなのは確定なのでグダグダ文句を言っても始まりません。彫刻の如く表情を変えないドライバーを尻目にサッサとテントやらなにやらの荷物を積み込みます。で、なんとか予定時間に出発、国境へ向けて旅立ったのでした。 ここで、車内では僕とドライバーのミーティングが。一口にロシア国境に行くといってもそこには様々な国境が存在するわけなんですよ。皆さんもモンゴルの地図などをお持ちでしたらご確認ください。 実は首都ウランバートルから北に百数十キロもいけば簡単にロシア国境に辿りついてしまうんですよね。ここまでの道のりは、古くからロシアと交流する大切な道だったらしく、舗装もされていて鉄道も通っている。下手したら1日で国境まで辿りつけちゃうんですよ。おまけに、聞いた話によると、この辺は国境と言えども警備兵はフレンドリーで非常に緩やかな雰囲気、物々しい警備とは程遠いって話なんですよ。やっぱそうですよね、多くの人が行き来する国境なんてそんなものだと思います。 しかしながら、地図を見て欲しい、モンゴル国の北側は全てロシアに面している。ということは、メインの国境以外にももっと寂れた、それこそ人なんて居なくて寂しい国境もあるんじゃないか。で、そこでは密入国とか盛んでロシア兵も殺気立った感じで警備に当たっているんじゃないか。そんな場所でアカギ20巻を売りつけないとダメだよな。 あーでもない、こーでもない、無愛想なチンギスと車内でやりあうこと20分、執拗に行きたがらないチンギスをなんとか説き伏せ(言葉は通じない)て、目的地はモンゴルの右上の国境、ロシア、中国との国境というデンジャラスな地帯に行くことになりました。 さて、ウランバートル市内を走りぬけ、車は何故かダウンタウンの貧民街みたいな場所へ。おいおい、国境目指すんじゃなかったのかよ、とか思うのですが、ハンドルを握るチンギスの顔がムチャクチャ怖かったので文句一つ言えませんでした。 で、勝手に建てたんだろうなっていう、掘っ立て小屋みたいな家々が立ち並ぶエリアに侵入し、その中でも一際ボロい家に停まります。ほんと、クシャミとかしたらコントみたいにバラバラになるんじゃなかろうかというレベルの家。 そこでチンギスが何やらモンゴル語で「ウォーイ」みたいな言葉を叫ぶと、中からワラワラと子供が出てくるじゃないですか。みんなすっげえ汚い服着てて、ウチのアパートの隣りの民家に誰にでも吼える雑種の犬が居るんですけど、その犬が犬小屋に毛布を隠してるんですよね。もう何年も置かれてる毛布で、風雨によってボロボロ、おまけに犬が使ってるんでムチャクチャ汚いんですけど、その毛布よりボロをまとった子供たちがワラワラと小屋から出てくるんですよ。 よくよく見るとその子供たちがみんなコピーしたみたいな同じ顔で、なんか車から降りたチンギスと抱き合ってるんですよ。そのうち小屋の中から関取みたいな女性も出てきて、これまたサヨナラ勝ちしたみたいな勢いで抱き合ってんの。 それを見て思いましたね、ああ、これはチンギスの家族なんだと、で、これから長い長い旅に出るにあたって家族とお別れをしてるんだと。そんなもん先に済ませとけよと思いつつ、その美しい家 族愛の光景を眺めてました。きっと、 「お父さんはこれからバカな日本人と国境まで行く」 「お父さん気をつけてね!あの日本人死んだらいい」 「なあに日本人は金持ちだ、隙あらば殺して」 「草原に埋めれば死体も出ないわ」 「チャンスがあったら殺るよ、俺は。見ろよ、バカそうな顔してるぜ」 「お父さん頑張って!」 そんな会話をしているに違いません。 そんなこんなで涙涙のお別れ劇を終えてチンギスの家族達が見守る中、いよいよ本当に旅立ちの時。もちろん僕のお金で思いっきりガソリンを給油して車はウランバートル市を抜けます。 これは2年前にも言ったのですけど、皆さんは日常生活においてアスファルトの道路ってのが普通に存在するじゃないですか。日本中、どこに行っても道路が存在し、駐車場までも綺麗なアスファルト、そういうのが普通だと思います。しかしながら、実はそれって非常にありがたいことなんですよね。 モンゴルのような発展していない国になると、舗装されている道路なんてごく一部。大半が砂の道路か、酷いところになると獣道ですからね。しかもその獣道がシッカリと道路として地図に記載されているいんだからおかしなものです。
現に、ウランバートル市を抜けると、最初こそはこんな素晴らしい道路ですが、
すぐにこんなになって
最終的にはこんなのに。これをかきわけて進まないといけない状況になるんです。奥地になればなるほど荒んだ道路事情なんですよね。このような道では1時間に30キロも進めれば御の字なんですよ。 市内を抜けて道なき道をひた走ること数十分。前方になにやら異様な物体が。
どうもこれは建設中らしく、モンゴルの観光地化を目論む政府が観光の目玉として建設を進めている巨大チンギスハン像のようです。こんな像を作るくらいならちゃんと道路を作って欲しいと思いつつも、なかなかに好評らしく、横では韓国人ツアーの家族連れが大喜びで写真撮影していました。
さらに進むと、今度は大きな川にぶちあたりました。
どうも橋を建設中らしく、完成するまでは古い橋を渡らねばならない感じなんですけど、その古い橋ってのが物凄くて
意味が、わから、ない。 こんなんもはや橋でも何でもないですからね。ただの柱ですからね。あ、橋と柱で微妙に上手いこと言えたね。とにかく、モンゴル奥地では「川を渡るのに橋」という概念はあまりなく、浅い場所を見つけて一気に渡るという行為が正等です。川にぶち当たるたびに車が止まるんじゃないかと肝を冷やしていました。
いくつか小さな村を抜け、その村で子供がトラクターを運転しているという衝撃の光景を目撃。ちなみに子供が舐めてるのは僕が日本から持ってきたチュッパチャップスです。微妙にエロい。 村人たちと交流しつつさらに車は奥地へ。今度はちょっとやそっとじゃ渡れないんじゃないかっていう大きな川に直面しました。
「おいチンギス、この川を車で渡るのは危険じゃないか、遠回りしようよ」 と言うのですが、当然言葉が通じるわけもなく、思いっきり川に突っ込むチンギス。何度か深みにはまって止まりそうになるのですが、持ちこたえてくれ!と助手席でブルブル震えることしかできませんでした。 なんとか命からがら渡りきって休憩していると、そこにバイクに乗った青年二人組とジープの隊列が。 「俺たちはこれから川を渡る、その前にタバコ1本くれ」 みたいなニュアンスのことを言われてタバコをたかられました。しかし僕は彼らの言葉に耳を疑ったのです。ジープならまだしも、バイクで川渡るのは無理だろう。 「バイクは無理なんじゃ…」 という僕の言葉が彼らに通じるわけもなく、異様にハイテンションな彼らは川に向かって突入します。ヒャッホーとか叫んでた。
バイクに続いてジープも川に突入。
もう深すぎてバイクの方はタンクぐらいまで水に浸かってます。
ジープの方はらくらくクリア。しかし、バイクは
川の真ん中で止まってた。そりゃそうだ。普通にエンジンまで水に浸かってるもの。
溺れそうになりながらもバイクを引き上げ、逆さにしてエンジンから水を追い出すモンゴル人。水さえ出せばノープロブレム、そんなわけないだろ。こりゃ日本人は相撲で勝てないはずだわ、精神構造が違いすぎる、と妙に納得したのでした。 さて、激闘の大河を後にし、いよいよ日が暮れてまいりました。
日が暮れるくらいになるとドライバーが適当な草原を見つけて食事の準備、テントをおっ立ててと書くと微妙にエロいですが、普通にテントを立てて就寝とあいなるわけなんですが、このチンギスが頑なにドライビングをやめない。この時期のモンゴルは日没が夜の9時ぐらいなんですけど、完全に日が落ちても執拗に前へと進むんですよ。 「そろそろ寝た方がいいんじゃないかしら?」 みたいな、微妙にホモの誘いみたいになってますが、そういったニュアンスのことを伝えるんですが、もちろんながら意思の疎通などできません。というか、最初にウランバートルで行き先を決めて以来、彼と会話らしい会話をしたことがありません。 これまでずっと車内に重苦しくて沈痛なムードが流れているのですが、日が暮れるとさらに沈痛に。というか、前述のように舗装された道路なんかじゃなく、それどころか道なんかじゃない、天使なんかじゃないといった状態、アップダウンの激しい平原をライトだけで走るのって非常に危険なわけなんですよ。 「あのそろそろ眠りたいな…」 いよいよ、ハッテン場にてホモがホモを誘ってるような状況なのですが、なんとか、そろそろ今日は終わりにしようよと伝えるのですが、やっぱり伝わらない。コミュニケーション断絶状態となった二人に予想外の事態が巻き起こったのです。 「おまえ、こんなことして仕事は何してるんだ?」 みたいなことをチンギスが英語で話しかけてくるんですよ。 「なんだよ、お前英語できるじゃん」 みたいな会話を交わし、お互いに片言の英語でやっとこさコミュニケーション。なんでも雇われドライバーってのは全員最低でも英語が出来ないといけないらしく、そういった国家試験をパスしないと外国人を案内するドライバーにはなれないそうです。 「俺は日本で窓際族やってるぜ」 「なんだそれは」 「イジメだよ」 みたいな会話を英語で交わしつつ、いい加減そろそろ車を止めてキャンプしようよと意思表示すると、 「俺は今はドライバーやってるけど、本当はハンターなんだ」 と、英語で会話できるようになったのに相変わらず意思の疎通が図れない。というか、コイツ、人の話を全然聞いてない。 「ただ、ハンターだけじゃ食っていけないから外国人相手にドライバーしてる」 「家族を食わせるために必死さ」 「この車だってやっとの思いで買ったんだぜ」 「外国人相手のドライバーは信じられないほど儲かるからな」 急に饒舌になって喋りだすチンギス。そんな身の上話はいいから早く寝ようよ、と思った瞬間、事件は起こったのです。 キキーーーーーッ! 草原の真ん中で急ブレーキを踏むチンギス。何事かと前を見るとヘッドライトに照らされた小鹿みたいなのが暗闇にポツンと立っていました。 「うおービックリした。野生の鹿かな。危うく轢き殺すところだったな!ちょうど止まったことだしここらでキャンプでも…」 と安堵しつつチンギスのほうを見ると、そこには野生を取り戻した一人のハンターの姿が。 「フオオオオオオオオオオオ!」 だか何だか知りませんが、アフリカ奥地の民族が村長に成人として認められるための儀式みたいな猛り声を上げるチンギス。その刹那、ガクンと車が揺れてホイルスピンをするほどの急発進。 「おい、どうし…」 と言ったんだか言わなかったんだか分からないくらいの短い時間。急発進して小鹿を追走する僕らの車。 「おい、鹿なんてどうでもいいって!はやくキャンプしようよ!」 と叫ぶんですけど、もちろんチンギスには聞こえない。もうハンターの血が沸騰しちゃってますから、ピョンピョンと器用に逃げる小鹿を自慢のドラテクで追いかけてるんですよ。 小鹿が左右に逃げるたびにドリフト気味に追いかけるもんですから積んでた荷物は後ろでゴロゴロ音を立てて崩れるわ、僕自身も左右に振られて車から落ちそうになるわで大騒ぎ。 最終的には目が血走ってて人を2,3人殺したみたいな状態になってるチンギスが運転しながら後部座席から火縄銃みたいなの取り出しましてね、それを僕に渡して 「お前撃て」 みたいなニュアンスのこと言ってくるんですよ。さすがハンター、とか言ってる場合じゃない。もうムチャクチャ。撃ても何も撃ち方がわからない。 熱烈に断わって、鹿じゃなくて僕をハントされたら目も当てられない、それこそ死体も出ない状態になりますので、なんとか彼を刺激しないように車から身を乗り出して鹿を狙う格好するんですけど、当然撃てるわけがない。 「撃て!」(多分そう言ってる) 「撃て!」(多分そう言ってる) と鹿を追い詰めてチャンスが来るたびに叫んでるんですけど 「無理です!」 「撃て!」(多分そう言ってる) 「無理です!」 「ええい貸せ、俺が撃つ。お前ハンドルやれ」(多分そう言ってる) 「あー!岩にぶつかる!」 と訳の分からない二人のハンティングは終わったのでした。僕がハンドル操作をミスって鹿を見失うという結果にチンギスはご立腹。微妙にギクシャクしながら初日のキャンプとなったのでした。 もう帰りたい、アカギ20巻とか本気でどうでもいい。早く日本に帰って「セックス中に彼氏に電話させる」エロビデオを借りたい。満天の星空を眺めながら泣いたのでした。まだ、目的の国境は遠い。 つづく 8/7 モンゴル放浪記2007 vol.1 2年前の2005年、モンゴル国ウランバートルでオフ会を開催するとの大号令を行った。市内中心部に位置するナムラーダイル公園を待ち合わせ場所に指定し、Numeriという変態テキストアワーの主催者patoはモンゴルへと飛んだ。
結果は散々たるものであり、参加者0名という大惨事。発行したてだった「ぬめり本」を手にガックリとうなだれたものだった。しかし、落ち込んでばかりはいられない、私は元気です。せっかくここまで来たのだから何か足跡を残したい。決意したpatoは現地人に「ぬめり本」を売りつけるという暴挙に出ます。 現地人ドライバーを雇い、死にそうになりながらモンゴル南部灼熱のゴビ砂漠へ。全く文明の進んでいない奥地の村々で本をセールスする毎日、360度地平線の暗闇の中一人ぼっちでテントに泊る日々。あまりの寒さに「ぬめり本」を燃やして暖を取った夜。
意味不明な「ぬめり本」を買わされた人々は一様に不思議な笑顔でした。2週間に及ぶ地獄のモンゴル旅行は下痢と体重8キロ減という結果を伴い、すべての本を消化して幕を閉じたのだった。 あれから2年、奇しくも2年前と同じ時期となるこの2007年7月に「抽選で選んだ場所でオフ会します!」と声高らかに宣言した。宣言した瞬間から何となく「またモンゴルになったらどうしよう」と少しモヤモヤした何かがあったのだけど、悪い予感ってのはズバリと的中するもので、実際に抽選を行ってみるとガツンと、 「モンゴル ウランバートル」 という確固たる抽選結果が僕の目の前に飛び込んできた。ということで、
飛行機を乗り継ぐこと待ち時間を含めて12時間。はるばるモンゴルへと2年ぶりにやってきました。 さて、空港に到着すると時間は夜の10時過ぎ、さすがに周囲は真っ暗です。日本の空港のように空港から電車に乗ってとか、地下鉄に乗ってとか、そんなアクセスの良さなんて概念は二人組の歌手の如くありませんから、どうやって首都ウランバートルに行ったものかと途方に暮れます。 空港を出た瞬間から地獄の餓鬼の如く小汚い格好をしたオッサンどもが「タクシー、タクシーあるよ」みたいなニュアンスでワラワラと近づいてきます。僕はリュック一つという、とても海外に行くとは思えない少ない荷物だったのですが、そのリュックを掴んで引っ張ってまで客を獲得しようとする地獄の餓鬼たち。そのうち身包みはがされて素っ裸にされそうな勢いでしたので、その中でも一番ショボそうな運転手に狙いを定めて話しかけます。 「ウランバートル市まで頼みます」 モンゴルまできて思いっきり日本語で話しかけている僕もどうかと思うのですが、なんとか「ウランバートル」という部分だけ伝わったようで、「OK」と満面の笑みで車まで案内してくれました。 ここモンゴルでのタクシーは2種類ありまして、一つはイエローキャブと言われるまっ黄色のタクシー。結構ボロボロなのですが、料金メーターもついていてタクシーとしての体裁は整えています。 もう一つが、どっからどう見ても普通の乗用車なのにタクシーとして営業しているもの。詳しいことは分かりませんが、こりゃあ勝手にタクシーを名乗ってやがるなと思わざるを得ない代物です。 で、僕が選んだショボいオッサンのタクシーも当然ながら後者の「こりゃタクシーじゃないだろ」といったもの。それどころかボロボロで走るかどうか分かったもんじゃありませんでした。ボロすぎて左側のドアしか開かないらしく右側から乗ろうとしたら怒られました。 車に乗り込みいよいよ走り出すのですが、何やら話しかけてくる運転手の言葉がどうにも分からない。流暢なモンゴル語なんでしょうけど、お経を読んでるようにしか聞こえない。それでも表情と身振り手振りから彼の意思を読み取ろうとするのですが、どうにもこうにも、なんとなく「どこに行ったらいいんだ?」と聞いてる様子。 さっきも言ったじゃんか、ウランバートル市まで行ってくれよ、ウランバートル、わかる?お前らの国の首都だよ、と伝えるのですが、そうではない様子。なんかウンコ踏んづけたみたいな渋い顔して首を横に振ってます。何がそんなに気に食わないんだろう。 全身全霊を賭けて彼が何を言わんとしてるのか読み取ろうとするのですが、どうも「ウランバートルは置いといて」みたいなジェスチャーが読み取れる。そこで思いましたね、ああ、なるほど、ウランバートルはウランバートルでもウランバートルのどこに行ったらいいのかってことか、と。 そりゃあ漠然とウランバートルに行ってくれって言われても困るわな。いきなりタクシーに乗って「俺んち行ってくれ」って言うようなものです。そりゃあ運転手さんも渋い顔になる。 「ウランバートルホテルまで行ってくれ」 今回の僕が偉かったところは、事前にホテルを予約していたところです。色々と調べた結果、ウランバートルホテルってのが良いらしく、なんでも市内の中心部にあるホテルで、モンゴルでは高級ホテルの部類、ビリヤードや各種フィットネスなど充実しており、お世辞にも文化的とはいえないモンゴルの生活様式の中でも格段に良い設備と評判のホテルらしいです。英語メールを駆使して何とか予約しました。 「OK」 この運転手は英語と言えば「OK」しか知らないみたいなんですが、やっと行き先が決まって嬉しいのか満面の笑みで鼻歌交じりに運転してました。ああ、意思の疎通が出来るって素晴らしいことだなと思うのですが、この運転手の運転が、お前免許取りたてじゃないのかと疑いたくなるほどに危険極まりなく、もっと安全に運転してくれと伝えたかったのですが、どうせ通じないのでブルブルと後部座席で震えてました。
さて、2年前と比べてかなり近代的に発展したウランバートル市を通り抜け、ウランバートルホテルに到着します。意気揚々とロビーに乗り込み、カウンターに居た八反安未果をモンゴル人にしたみたいなお姉ちゃんに話しかけます。 「予約していた者だが」 みたいな感じで流暢に英語で話したのですが、ここでもまた八反安未果がウンコ踏んだみたいな顔ですよ。 「パスポートを見せてくれ」 「いつ予約した?」 「どうやって予約した?」 みたいなことを矢継ぎ早に質問してきましてね、何やら押し問答を繰り広げて雲行きが怪しい様子。結果だけを簡潔に書くと、予約はできてなくて、そして今夜は満室だという無慈悲なるお言葉でした。僕も中学生の時から英語を習い始めて、初めて実場面で「レアリィ?」とか「パードゥン?」とか使ったのですが泊れない様子。 これには温厚な僕もさすがに怒り狂いましてね、「じゃあお前に泊らせろ」と甘い言葉を囁いて八反安未果をレイプしてもよかったのですが、さすがに国際問題に発展しかねないのでやめておきました。 さて、真夜中にホテルの予約もなく異国の地に放り出された格好になった僕。ホテル前の道路では暴走族みたいな若者が音楽鳴らして踊り狂ってます。こりゃどうしたものかと街を徘徊します。 なんとか泊る場所を見つけないといけない、なんて思いながら裏通りの方を歩いておりますと、どう好意的に解釈しても外国人が泊るような安全ホテルではないなといった趣きの、自信を持って危険ホテルです!と紹介できそうなホテルが目の前に飛び込んできました。
夜だったので撮影できず、画像は昼間に再撮影したものですが、これを夜に見るとムチャクチャ怖い。なんかB級映画の冒頭で人が殺されそうなホテルじゃないですか。入り口に「SWEET」とかたわけたこと書いてありますが、全然SWEETじゃない。どうにもこうにもご遠慮したいのですが、泊るところがないので仕方ない、ビクビクしながら「SWEET」の看板をくぐるのでした。 中に入ると、どうみても寝てましたって感じのオバちゃんが寝巻き姿で出てきて、さらにその後ろからうだつの上がらなさそうなオッサンが出てくるという夫婦漫才。「泊りたい」みたいなことを伝えるとアッサリとルームキーを差し出してくれました。 部屋に入って分かったのですが、まあ、部屋が監獄かと思うほどの状態ってのは別にいいんですけど、部屋に鍵がない。何のためにルームキーを渡されたのか分からないほどに部屋に鍵がない。おまけにドアがきっちり閉まらない。トイレに前の人のウンコが残っている、とまあ凄いと舌鼓を打つしかない途方もない状態でしてね、なくなくお金とパスポートだけはパンツの中に入れて寝ました。 モンゴル2日目 さて、汚いシーツのベッドで目覚めた翌朝。朝からアンニュイにシャワーでも浴びようと思ったのですが、これがまた酷い。これまでにモンゴルのホテルでお湯が出ないとか水が汚いとか色々と体験してきましたけど、それら全てを超越して水が出ない。水そのものが出ない。おいおい、水道止められてるんじゃないのか、水道止められるなんて人間のクズだぜ!と呟きながらシャワーを諦めました。 さて、ホテルがガラクタ寸前なのはいいとして、ベッドの上に腰かけて今回の旅の目的について思案します。 当初は、オフ会をやる!と宣言し、2年前に参加者0人だった衝撃の事実を覆すリベンジを果たすつもりだったのですが、よくよく思案を巡らせるとこれはおかしい。だって考えてみてくださいよ。2年前は参加者いませんでしたけど、もし、今年、参加者がいたらどうしますか。 「いやー、patoさんを追って日本から来ましたよ!」 そな色々な意味で頭の可哀想な人がいたらどうしますか。大金をはたいてモンゴルまで来る、僕はそんな人をモンゴルで満足にもてなすほどのスキルを持ち合わせておりません。モンゴルの路上で売ってる牛乳の腐ったのみたいなのを一緒に飲んでお腹を壊すのが関の山、そんな事態はあまり好ましくありません。 というわけで、頭のおかしい人が本当に来たら困るのでオフ会としての告知は一切せず、最初から「ぬめり2」を現地人に売りつけることを目的にしようと決意したのです。2年前はオフ会参加者がいないので現地人に本を売りつけた、今回は現地人に売りつけるのを目標にしよう、と。 よーし、2年前は「ぬめり」を売ったけど今回は「ぬめり2」売っちゃうぞー!と軽やかに決意し、ベッドの上でリュックを開きます。 この「ぬめり2」をモンゴル人に!日本語も読めないモンゴル人に自費出版本を売りつけてやる!とリュックを漁るのですが、ここで衝撃の事実が発覚。 ぬめり2忘れてきた。 もう何しにモンゴルくんだりまで来たのかわかりゃしない。オフ会もしない、売りつける本もない。ないない尽くしとはこのことですよ。これじゃあ頭のおかしい30歳が自分探しの旅に来たと思われても仕方ありません。そんなの課長との不倫に終止符を打った24歳OLで充分だ。 とにかく、何か探さないと本当に自分探しの旅になってしまう。そんなもの1ミリも探したくありませんので、何かないものかとリュックを漁ると、ありました。
「アカギ20巻」 相変わらず鷲巣がいい顔してます。竹書房さんいつもお世話になってます。とにかく、今回の旅はオフ会でもなく、ぬめり本を売りつけるでもなく飛行機の待ち時間などに暇なので読んでいたアカギ20巻を売りつける旅に変更。なんのこっちゃわかりませんがこれを現地人に売りつけることにしました。 それも、なるべく奥地の未開の現地人に売りつけたい。2年前はモンゴル南部のゴビ砂漠に行きましたけど今回は北部、ロシア-モンゴル国境の国境警備兵とかに売りつけたい、發など出るものか!とか言って売りつけたい、そう決意し街へと繰り出すのでした。
2年前は工事中だったスフバートル広場も綺麗に完成してました。 そして2年前と同じくツーリストインフォメーションみたいな場所に行って、国境まで行きたいんだがドライバーを雇いたい、最低でも英語、できれば日本語が通じるドライバーがいい、紹介してくれと手続きをし、なんやかんやで手配を済ませました。 あとはまあ、国境まで何日ももかかりそうなので、簡易的なテントを買ったり食料を買ったりと充実した時間を過し、時間が余ったので街を徘徊なんぞしてみました。
適当に歩いていると衝撃的な光景が目の前に。デパートの前なんですけど、子供が遊べるように色々な遊具が置いてあったんですよね、それを見てたんですけど、
明らかに虐待されてるとしか思えない。これだからモンゴルは恐ろしい。 さらに歩いていると、
白鵬の看板がデカデカとやはり彼はモンゴルでは英雄のようです。 その通りを抜けてあまりの暑さにクラクラしながら徘徊していると、
何やら看板が。何か見覚えのある文字にマジマジと見てみると、
Wi-Fiと書いてあるではありませんか。しかも「HotSpot」と書かれています。ぼくも詳しくは知りませんが、確か「Wi-Fi」と言えばニンテンドーDSでネット対戦とかするやつじゃなかったっけ。おいおい、もしかしてここはその回線が開放されてて誰でもニンテンドーDSで対戦とかできちゃったりするんじゃないか。すげーな、来るとこまで来ちゃったなモンゴル!まさかモンゴルでネット対戦できるとはな!と意気揚々と試したのですが
できませんでした。あたりまえだ、できるわけない。頭おかしい。 そんなこんなでモンゴル2日目は終わり、適当に入ったレストランでポークステーキを注文。
食えるわけねーよと叫ぶしかない肉を食し、これがまたゴムのように堅い。なんとか殺人事件が起こりそうなホテルに舞い戻り、またパスポートと金だけはパンツの中に入れて眠るのでした。 モンゴル3日目 さて、国境に向かって旅立つ朝。ホテルまでドライバーが迎えに来るって話になってたので、ホテルの前で孤児みたいに座りながら待ちます。2年前は言葉の通じないアシュラマンの家庭教師みたいなのが来たよなー、今回こそは言葉が通じるドライバーがいいな、あわよくば女性ドライバーで巨乳とか最高!ムフフとか童貞中学生みたいに都合の良い妄想の世界に逃避していると ガー! と爆音を立てて小汚いジープがホテル前にご到着。コレだったら嫌だなーとか思ってたら本当にこのジープがドライバーだったらしく、依頼主を探してキョロキョロしている様子。 恐る恐る近づいてみるとモンゴルの英雄チンギスハーンみたいなヒゲ面のオッサンでした。 女性とかそういうのを超越してムチャクチャ怖そうなオッサンじゃねえか、二の腕にイカリの刺青とか入ってるじゃねえか、ムチャクチャ怖いよ。しかしまあ、あれだけ念を押して言葉が通じるドライバーを依頼したんだ、ここは言葉が通じるだけ良しとするか!と 「ナイストゥーミーチュー!」 みたいな中学生英語で話しかけると、チンギスは物凄いウンコ踏んだみたいなしかめっ面で首を傾げてました。言葉が通じてねええええ。 ドライバーはムチャクチャ怖いし、言葉は通じない、ぬめり本は忘れるし、とにかく大丈夫だろうかとジープに乗り込み、心の中で「チンギスHaaan!!」と叫びながらロシア国境に向けて旅立つのでした。アカギ20巻を手に。 つづく 7/26 旅立ちの時 いやー、ホント、インターネットって怖い、怖すぎる。親切な人が集う掲示板で「カワイイ歯科衛生士さんがいる歯医者はどこですか?」と丁寧に聞いたら、ハリウッド映画版バイオハザードでドアを開けたときに無数のゾンビが溢れてくるようなフィーリングに近い歯医者を紹介されるし、出会い系サイトで知り合った「安藤美姫に似てるっていわれるかなー?」とか言ってた小娘にラブホテル代を握り締めて喜び勇んで会いに行ったら、ガラクタのアンドロイドみたいな女が待ち合わせ場所でおすまし顔、配線とか飛び出してた。とにかく、インターネットってのは怖い。 大阪教育大学の鈴木明准教授の研究によりますと、パソコンから発生する電磁波が人体の脳機能に影響を与え、インターネットを介することで電気パルスがその種の効果を増幅させるといった傾向があるそうです。これが一体どういった効果をもたらすか、ラットを使った実験によりますと、インターネットを使っていないラットに比べて30%も攻撃性が強くなるという驚くべき研究結果が報告されています。まだ憶測の段階ですけど、と前置して准教授は続けます。「インターネットが普及するようになって民衆の声が広がりやすくなった。年金問題で暴動一つ起こらない大人しい国民性である日本人にとって、インターネットの攻撃性は心地良いのではないか?しかし、電脳世界の暴徒となる危険性もはらんでいる」。今後、准教授は、インターネットにおけるブスと「誰々に似ている」という自己申告の関係性について研究を進めるという。全部嘘です。 さて、そんな恐ろしいインターネットの最たるものがオフ会になるわけですが、全く分からない人のためにオフ会というものがどんなものか説明しますと、早い話がセックスの祭典です。同じインターネットメディア、例えば、Numeriを閲覧してるネットオタクがいるとしましょう。 そんなネットオタクはアナタ一人ではありません、全国のどこかに同じようにネットオタクを患っている人が居ます。その人達が一同に会し、「patoってキモくない?」「patoってやばくない?」「死ねばいいのに」「どうせ死ぬなら紛争地帯で地雷撤去してくればいいのに」とビール片手に和やかに談笑するのがオフ会です。もちろん、中にはNumeriを読んでいるという頭がかわいそうな女の子もいます。 「ねえ、この後、抜き出さない?」 「えっとお名前は?」 「あ、おれ、チョチョリーナ高志っていうハンドルなんだけど、Numeriは3年くらい前から見てるかな」 「長いですねー、私は、うーん、ハンドルネームってないから…芳江でいいです。1年くらいNumeri見てます」 「そうなんだー、でさー、抜け出しちゃわない?芳江ちゃん」 「でも、私まだpatoさんとお話してないし」 「いいっていいって、さっき話したけど、あいつ口臭かったよ」 「じゃあ、ぬけだしちゃおっかなあ…」 「そうこなくっちゃ!どっかいきたいところある?」 「んー、お任せします」 「じゃあ、休めるところ知ってるんだ、酔っちゃったしカラオケしながら休もうよ」 「はい!」 ジュバジュバ!アヒイイイイイ!チョチョリーーーーナアアア!!! そういって歌舞伎町の看板の所に滝が流れてるラブホテルに行ってですね、潮吹いたりとか大変な騒ぎ、これがオフ会です。ホント、インターネットって怖い。オフ会怖い。まんじゅう怖い。 そんな阿鼻叫喚のオフ会、酒池肉林のオフ会、諸行無常のオフ会ですが、実はこの数年前にも熱心に行っていた時期がありましてね。オフ会したらおセックスにありつけるという神話を信じていたのですが、まあ、散々足るものですからやめちゃいました。 で、もうNumeriでオフ会をしなくなってから数年経ち、前回行ったオフ会が、モンゴルオフで参加者0人という圧倒的な敗北、現地の人々にぬめり本を売りつけて帰ってきました。でまあ、このまま負けっぱなしも良くないですし、そろそろやろうかなーっていうか、そろそろ世論的にもセックスに傾いてきた時期では?などと大いなる勘違いをしましてね、2年ぶりに、モンゴルオフ以来となるオフ会を開催しようと思い立ったわけなんです。 本当は、モンゴルの次はインドでオフ会します!と公言していましたので、バリッとインドでオフ会をしたいのですが、どっかのアンポンタンが本のネタのために出版社の金でインドに行ってサムライの格好をして入国審査を通過しようとして捕まったっていう夢物語を執筆していましたので、それはやめにして、今までオフ会をやったことある場所から抽選で選んでオフ会をしよう!と思い立ったのです。 まあ、早い話、一度やったことある場所で開催した方が、内気な女の子とが勇気を出しやすいと思ったんですよ。「前にpatoさんが来たときは恥ずかしくていえなかったけど…好き!クンニして!」とか、リベンジ開催するからこそやれると思うんですよ。 そんなこんなで、ちょっと長くなりますが、今までオフ会を行った開催候補地を一覧でズラリと、この中から抽選で選ぶことになるのです。 --------------------------- これだけよくもまあやったなあと思うのですが、この中から抽選で選ぶ、さらにミクシで開催希望地のアンケートを採りまして、希望の多い場所は抽選で選ばれやすいように当たりくじを増やしました。 そんなこんなで、先日行われたラジオ中に抽選ソフトを駆使して抽選を行ったわけなのですが、たった一人で「パジェロ!パジェロ!」と盛り上がって抽選を行った僕の身に降りかかった当たりクジは! モンゴル ウランバートル ということで行ってきます! ロシア国境近くに行くと国境警備兵が警告無しに発砲してくるそうなので、その警備兵に「ぬめり2」を売りつけてきます。 行ってる間は過去ログサルベージでお楽しみください。 7/20 歯医者クライシス 右頬に激痛を覚えた僕はいよいよ我慢ならなくなり、命からがら歯医者のドアを叩いた。清潔に白で統一されたロビーが広がり、奥からは歯医者特有の薬品の臭いが漂ってくる。人影は見当たらない。 「すいませーん」 口を開くだけで振動が患部に伝わり叫びそうな痛みに襲われる。医院の奥からはバタバタと一人の歯科衛生士が駆けてきた。 「あのー、急に奥歯が痛み出しちゃって」 「あらあら、大変ですねー」 「できれば診て欲しいんですが…」 「すいません、あいにく診察時間は終わってしまいまして…今、私しかいないんですよー」 「そうなんですか、弱ったなあ…」 ピンク色の診察服に身を包んだ歯科衛生士は申し訳なさそうに下を向いた。長い髪を後ろで束ね、厚すぎるでもなく薄すぎるでもない程良い化粧をほどこした彼女。溢れんばかりの清潔感だ。それに大きな目がクリクリとしていて若く見える。何ともカワイイ人だな、そう思った。 「そんなに痛みますかー?」 診察時間外でもう彼女の勤務時間も終わったのだろう。少し気が抜けたのか、まるで友人に話しかけるような軽やかな口調で僕の顔を覗き込んだ。 「ええ、もう痛いやら何やら大変な騒ぎで…」 「でももう、先生も帰ってしまいまして…」 こりゃあ仕方がない、もう我慢できないくらい痛いのだけど諦めて他所の歯医者を探すしかない。そう思った時、目の前の彼女が歯の痛みも忘れるくらい衝撃的な言葉を口にした。 「私でよろしかったらなんとかしますけど…」 「え!?」 彼女の突然の申し出に狼狽する僕。そもそも歯科衛生士じゃあ治療することはできないんじゃ…。困惑しつつ促されるままに診察室へと通された。 「はい、ではこちらの診察台に座ってください」 彼女が指し示す先にはコックピットのようなテクニカルな椅子が圧倒的な存在感で佇んでいた。この椅子、怖いんだよな…。幼い頃から歯医者で死ぬほどの目に遭ってきた僕は正直この椅子にあまり良い思い出はない。けれども、この激痛だけは我慢しがたい、まるで電気椅子に座らされるように覚悟して診察台に座った。 「はい、じゃあちょっと口の中見ますねー」 そう言いながら歯科助手は椅子を倒す。僕はまるでバカの子のように大口を開けていた。 「あー、これは痛いですねー」 子供に話しかけるように優しい口調で口を開く歯科衛生士さん。 「はい、もう痛くて痛くて…」 説明しながら目を開けると、歯科衛生士さんのクリクリした瞳と目が合った。彼女は頬を赤らめる。 「やだ、ごめんなさい、忘れてた!」 彼女は慌てて小さなタオルを三角形にして僕の顔の上に置く。これで目が合わないってようにするんだろう。ただ大口を開けている僕は暗闇に包まれた。 「はい、じゃあちょっとよくみせてくださいねー」 歯科衛生士さんは身を乗り出して奥歯を覗き込んでいるようだった。彼女が動くたびに豊満な乳房が僕の頬の辺りを刺激した。 ゆさゆさゆさゆさ たわわに実ったその両の乳房の感触は、しばし激痛を忘れさせてくれた。できることならこの乳房を揉みたい、このあカワイイ歯科衛生士さんとあんなことやこんなことをしてみたい。悶々と良からぬ考えが頭の中を支配する。 「はい、じゃあ舌を出してください」 え?歯の治療で舌を出す?ハッキリ言って聞いたことがない。なぜ歯の治療で舌を出さなきゃならないのだろうか。奥歯の方だから治療しにくく、舌を突き出させてから治療するのだろうか。変わった治療法だなあ、と納得できないまま遠慮がちに舌を突き出した。 「もっと出してくださいねー」 もっとですか?と訊ねようと思ったが、大口を開けて舌を出している状態では言葉にならない。言われるがままに精一杯舌を突き出した。 「はい、もっと出してください」 「もっとです。もっと」 舌がつりそうになりながら懸命に突き出す。その瞬間、何か温かくて柔らかいものが僕の舌を包んだ。 「はむっ」 「んぐ!?」 顔にかぶせられたタオルを剥ぎ取り目を開く。目の前には歯科衛生士さんのカワイイ顔が間近にあり、彼女はむしゃぶるように僕の舌に舐めついていた。そのままディープキスが始まる。いつのまにか彼女は上半身裸になっており、そのまま椅子の上で熱く交わった。 「あああああああ!」 ジュルジャプディップピチャピチャ! いつもは歯を削るドリルの無機質な機械音が鳴り響く診察室に、いつまでもいつまでも、互いの粘膜が淫靡に絡み合う卑猥な音が鳴り響いていた…。これが彼女なりの治療…。 っていうエロビデオをこの間借りましてね、まあ、あまりこういうこと言いたくないんですけど赤裸々に白状してしまうと、物凄く興奮して何度も見てしまった、7泊8日レンタルなのに延滞するほどの体たらく。まあ、久々にスマッシュヒットするエロビデオだったわけなんですよ。 そうなるとね、やっぱ僕も歯科衛生士さんのことが気になるじゃないですか。そりゃ僕だって今年で31歳になる立派な大人ですからね、上記のような話はエロビデオの中だけのお話、現実にはありえない御伽噺だってのはわかってますよ、でもね、そこまではいかなくても、こう、ささやかなる庶民の夢を叶える程度にヴィクトリーが存在すると思ってるんですよ。歯科衛生士さんにおけるヴィクトリー。恋のヴィクトリー。 「よろしくおねがいします」 「はい、じゃあ口を開けてくださいね」(まあ!素敵な殿方!) 「はい」 「あー、けっこう虫歯ですねー痛かったら右手を上げてください」 ツンツンと痛い場所を突いてくる歯科衛生士さん。しかし僕は激痛に悶えながらも頑なに右手を挙げない。 「痛かったら遠慮なくあげてくださいね」(あーん、素敵な殿方が耐え忍んでる姿ってセクシーだわ、濡れちゃう!) さらに患部を突く歯科衛生士さん。しかし、僕は弱いところを見せるべきではないと思ってるので絶対に右手を上げない。 「ホントに痛かったら上げてくださいね!ホントに!」 それでも僕は右手を挙げない。頑なに上げない。 「痛かったら上げてください!」 あまりに上げない僕に腹が立ったのか、彼女はムキになりはじめた。 「もう!痛くなくても上げてみてください!」 なんだそりゃ、と心の中で思いつつも、少し意地悪したくなった僕は右手を上げなかった。 「意地悪!あげてよ!」 あまりの彼女の反応が可愛く、僕は大口を開けたままクスクスと笑った。 「もう、じゃあ…」 彼女は少しためらい、まるで何かを決意したかのように言った。 「じゃあ…私のこと好きなら右手を上げてください」 顔を真っ赤にする彼女。僕はユックリと右手を上げた。 「バカ…もう!バカ!」 「いつまで右手を上げておけばいいのかな?」 「あ、ごめん、下ろしていいですよ。それと、口も閉じてください」 「口を?もう診察しないの?」 「うん、だってそのままじゃキスできないでしょ、それともそのままがお望みかしら?」 「芳江…」 清潔に磨かれた真っ白な床に落ちる2つの影が重なる。二人の心が虫歯のように欠けてしまわないように、彼女を幸せにすると堅く決意するのだった。 もうね、これくらいのことを望んだってバチは当たらないよ。こっから盛り上がって、診察台の上でジュルジャプディップピチャピチャ!唾液吸うヤツでクリトリス吸ったりとか大騒ぎ!エスカレートしてドリルとか入れちゃう!とか、それくらい庶民のささやかな夢として胸に抱きしめてもいいと思うんですよね。 でまあ、最近の僕はもっぱら歯科衛生士さんをモノにすることしか考えてないわけで、いち早くあの唾液を吸うヤツでクリトリスを吸いたい!と思ってるわけなんですが、ここでね一つの大きな問題点が巻き起こってくるわけなんですよ。普通に考えて歯科衛生士さんと知り合う可能性が皆無という大いなる大問題が。 これは由々しき問題ですよ。歯科衛生士さんと知り合ってクリトリス吸いたいのに知り合う機会がない。お父さんが蒸発してしまって、お母さんの細腕だけで立派に育てられていた細川君が、七夕のお願いで「お父さんのチンゲを見たいです」とか願ってた時くらい不可能な話ですよ。 でまあ、歯科衛生士さんと知り合うなら直球勝負で歯医者に行けばいいじゃんって思うんですけど、そんなもん、歯が痛くもないのに歯医者に行くなんてバカの子じゃないですか。骨も折れてないのに折れましたーとか病院行ったら別の鉄格子つきの病院に入れられます。 世の中には、歯が痛くもないのに歯医者に行って歯石除去とかやる人がいると風の噂で伝え聞いたのですけど、そういうのはセレブがやること、僕のような、給料明細を見るたびに支給額に0を付け足して一人で満足しているような人間には縁のないお話なんですよ。 とにかく、合法的に歯科衛生士さんと知り合うには虫歯になるしかない。苦しいけどそれしか道は残されてないんですよね。でまあ、なんとか熱烈に虫歯にならないかと、普段は食べない甘いものを食べたりして日々の生活を営んでおったわけなんです。 しかしながら、虫歯ってホントうざったいんですけど、望んでる時に痛まなくて望んでない時に熱烈に痛むんですよね。僕、昔、好きだった女の子と初デートの時に熱烈に虫歯が痛み、もう痛くて痛くてデートどころの騒ぎじゃない。その時は水族館に行ったんですけど、もう、ラッコとか見てても楽しめませんでしたからね。ジンベイザメとか見てるだけでムカついてきますからね。で、そのうち酒を飲んで酔っ払えば痛みが麻痺するに違いない、さすれば虫歯を気にせずおセックスまで持ち込めるに違いない、と確信して真昼間からビールがぶ飲みですよ。 あのね、あんたが女性だとしようじゃないですか。で、初デート、相手はブサイクだけどしつこいからデートするじゃないですか。で、その相手が真昼間からビールがぶのみですよ。それも嗜む程度じゃなくて、明らかにヘベレケ。そのうち吐いてくるとか言ってトイレに行って1時間くらい帰ってこないんですよ。そりゃ百年の恋も覚めるわ。夕方4時の段階で潰れるとか終わってる。 とにかく、虫歯ってのはホントに空気読めないヤツですから、とにかくタイミングが悪い。痛んで欲しい時に全然痛んでくれない。で、なんとか努力したんですけど全然痛む様子がないある日、事件は起こったのでした。 その日は、市内の中心地にあるゲームセンターでとある麻雀ゲームに没頭していたのですけど、非常に調子が悪く、ガッツリと負けがこんでいました。最近ではゲームセンターといえども世知辛いものでして、そこには圧倒的勝者と敗者しか存在しません。勝者は人々から勝算を得、敗者はお金を失い消え去るのみ、小泉内閣が進めた圧倒的格差社会がゲームセンターにも存在するのです。 もう負けまくってしまった僕は気分悪いので帰ろうかと思いましてね、その前に小便して帰ろう、腹いせにゲームセンターのトイレを徹底的に汚してやる!などと見当違いに意気込んでトイレに向かったんです。 いやいや、ゲームセンターってとにかく頭がおかしい人多いんですよね。ぶっちゃけるとキチガイしかいない。この間なんてサッカーのゲームを野球のユニフォーム着てやってる人がいましたからね。ツッコミどころが多すぎて何をどうしたらいいか困り果ててしまう場面に多々遭遇するんですよ。 で、トイレ汚してやる!とか意気込んでますから全然紳士的じゃないんですけど「ジェントルマン」とか書かれた男子トイレのドアをくぐります。ここのトイレは少し変わった構造になっていて、入ると正面が洗面台、そこからL字型になった構造で、左に2回曲がらないと小便器に到達しないんですよね。 で、左に1回曲がる、すると少し柱の影に隠れた形で小便器コーナーが見えるんですけど、なにやらそこに先客がいる。だれかが熱烈に小便をしてるんですよね。いやいや、別に先客ぐらいいても何てことないんですけど、とにかくその先客が凄かった。何が凄いかって、何か知らないけど小便しながら両手を高々と上げてるんですよ。 ズボンを半分くらい下ろして下半身丸々小便器に飲み込まれてるんじゃないかって勢いで密着させましてね、で、両手を高々と上げてるんですよ。まるでアラーの神々でも呼び出さん勢いで高々と両の手を上げておるんです。ジュディオングかって勢いで。頭狂ってるとしか思えない。 いやいや、いくらなんでもおかしいんですけど、さすがにその事実だけを切り取って彼のことをキチガイと断罪するのはいかがなものか。もしかしたら彼の脳内では大いなる宇宙の意思を受信していて、その大宇宙からの指令で「頭が痛かったら両手を挙げてください」と歯医者のノリで言われてるのかもしれない。うん、もしそうだとしてもキチガイには変わりない。 とにかく、頭がおかしい人とはあまり関わりたくないんですけど、ここで引き返すのも変なので歩を進めて小便器へと向かいます。するとまあ、狭いトイレでしたからね、間が悪いことに小便器が二個しかないんですよ。どう好意的に解釈しても、あの頭のおかしいアラーの横で小便するしか選択肢がないんですよ。 おそるおそる彼の隣りに陣取りましてね、横目で彼を観察しつつ小便を致します。さっきから小刻みに震えていて恐怖なんですけど、とにかくビクビクしながら用を足す。すると、小便もクライマックスかという最中に彼が動いたんです。 突き上げていた両の手で拳をギュッと握り、まるで大宇宙に何かを伝えるかのように言葉を発したのです。何言ってるか良く分からなかったんですけど、「ニフラム」っぽいこと言ってた。で、一通り儀式が終わると、「どーよ?」と得意気な顔でこちらをチラリと見るんです。やべームチャクチャ意識されてるよ。ムチャクチャこっち意識してやがるよ。 とにかく、脱兎の如く逃げたいのですが、あいにく小便がクライマックスなのでそういうわけにもいきません。しかし、このまま彼と視線を合わせたままでいるのも危険極まりない。危険が危ない。視線を合わせてるうちに彼に取り込まれてしまい、僕も大宇宙の意思を受信してアラーの神を呼び起こそうとしてるかもしれない。 これは視線を逸らすしかない! それも、相手が傷つかないようにそれとなく視線を逸らすのではなく、絶対的にノゥという意思表示を明確にするする必要がある。どんなキチガイにも僕が拒絶してることが分かるよう、首ごと反対を向いて視線を逸らすしかない。今だ、彼とは反対を向いて拒絶の意思表示をするんだ。 グキッ! いやね、反対を向いて拒絶したのはいいんですけど、あまりに激しく首を回したからでしょうか、思いっきりの首の筋を痛めちゃいましてね、小便しながら首を押さえてぐおおおおとか身悶えてました。 そこにイケメン風というかホスト風の、二言目にはドンペリとしか言わないような男が登場ですよ。彼も小便小便といった感じでせわしなく入ってきたのですが、そこで目に飛び込んでくるのはアラーを呼び出そうとしているキチガイと首を両手で押さえて身悶えてるキチガイですよ。さぞかし怖かったと思います。怖すぎて小便ちびちゃったんじゃないだろうか。 とにかく、大宇宙の意思を受信することなくトイレからは脱出できたのですが、首の筋がジンジン痛みましてね、あー首痛いとか思いながら商店街を歩いていたんです。そしたらアンタ、首に合わせて右側の奥歯がジンジン痛むじゃないですか。 これ幸い! 不思議なんですけど、首の筋と歯って密接な関係があるらしく、首を痛めると歯が痛む、歯が痛むと首が痛む、という持ちつ持たれつの間柄なんですよね。で、キチガイのせいで首を痛めた、そいでもって歯も痛むようになったという理想的な展開が巻き起こったのです。キチガイもなかなか役に立つじゃないか。 さて、これで歯が痛くなるという第一段階は突破。次はカワイイ歯科衛生士さんがいる歯医者を探さねばなりません。しかしまあ、これはさしたる問題ではありません。最近ではインターネットが隆盛を極め、庶民レベルで情報の交換が行われています。おまえに、「良い医者は自分で選ぶ」といった意識が固定されたためか、色々な医院の情報を交換するサイトがかなり活発に活動しています。 早速、歯医者の情報について意見交換がなされている掲示板にアクセスし、地方ごとに検索してどの歯医者が良いのか調べます。 「○○歯科は丁寧な治療で痛みもありませんでした」 「治療前に充分に治療方針を説明してくれるため安心して治療を受けられました」 「夜遅くまで診察してるので社会人も安心」 「歯医者さんって怖いイメージあるけど、○○歯科は優しい先生でした」 よくよく読んでみるんですけど、みんな頭おかしい。治療がどうだとか、治療方針がどうだとか、そういうことばっかり話してるんですよ。歯科衛生士さんがカワイイとか、歯科衛生士さんが巨乳とか、そういったマル特情報が皆無なんですよ。頭おかしい。みんな何を求めて歯医者に行ってるのか、皆目理解できません。 とにかく、情報がないなら自分で得ないといけないので、早速掲示板で質問しましたよ。 「投稿者:pato お邪魔します。かわいい歯科衛生士さんがいる歯医者ってどこですかね?できるなら巨乳であると嬉しいです」 「治療方針が…」「保険適用の治療が…」「なるべく痛みのない…」そんな真面目な話が盛り上がってる中でこの質問ですからね、場違いというか何と言うか、最初に「お邪魔します」とことわってますけど本当にお邪魔ですからね。 いやーホント、インターネットって怖いですね。この僕の真摯な質問に対して「場違いだ消えろ」「死ね」「虫歯が脳にとどいて死ね」と罵詈雑言の雨あられ、本当にインターネット怖い、まんじゅう怖い、パソコンの前でちょっと泣いてしまいました。 しかしながら、どんな地獄でも救いがあるもの、どんなに暴力が支配するマッドシティでも弱者に救いの手を差し伸べる牧師はいるもの、大炎上を展開する僕を助ける書き込みがあったのです。 「そんなに叩くなよ。教えてやるよ、○○歯科にいってみな。歯科衛生士がみんなモデル級だ」 もうね、優しすぎて神かと思った。彼が望むなら僕はアラーの神を呼び出してもいい、そう思った。とにかく感謝感激雨あられ。早速掲示板にお礼を書いて、もう飛び出さんばかりの勢いで指定された歯医者へと向かいました。 いやー、ほんっっっっっっとインターネットって怖いですね。神の情報を元にモデル級の歯科衛生士との濡れ場を妄想しながら、主にこの日記の冒頭みたいなことを夢想して行ったんですけど、見事に騙された。完膚なきまでに騙された。 いやね、見事にブスばっかりですからね。僕もまあ、人のこととやかく言えるような容姿ではないですけど、それを差っ引いても言わずにはいられない、そんなジュラシックパークみたいな状態になってるんですよ。おやおや、夜は墓場で運動会ですかな?と言わずにはいられない。思いっきり騙された。 あまりに落胆しながら失意のまま診察台に座ったんですけど、僕についた歯科衛生士さんがジャガー横田を女にしたみたいな感じの方でさらに落胆。 「どうされましたー?」 とか言われたんですけど 「歯科衛生士がみんなブスで」 とはさすがに言えず、 「いや、ちょっと奥歯が痛くて」 「あらら、じゃあちょっと見てみますねー」 とか診てくれたんですよ。そうすると人間ってのは不思議なもんですね、かの有名な心理学者であるフロイトによると、口の中を見せるという行為は性行為に等しいものらしいです。本当にそうなんだろうかと思うんですけど、なんか口の中を熱心に見られてるうちにムラムラしてくるというか、ジャガー横田であってもものにしたいというか、そういう邪悪な考えが浮かんでくるんですよ。下手したら少し勃起してたかもしれないってくらいに興奮してきたんです。 ジャガー横田が手とか突っ込んでくるんですけど、不慮の事故を装ってベロリと手を舐めてやろうかと思うくらいに興奮しましてね、こりゃもう、当初の予定通り彼女を落とすしかない、熱烈に歯科衛生士プレイをしたいと切望するまでになってました。 そこからは超色男ですよ。自分の中で考えられる最高の男前スマイルでですね、患部をツンツンとかされると殺してやろうかってくらいに痛いんですけど、そんな弱々しいところは見せずにグッと我慢。 レントゲンを撮ったんですけど、奥歯すぎて上手に撮影できなかったらしく、レントゲン室から一旦診察台に戻ったにも関わらず 「申し訳ありません、上手に撮影できなくて…」 というジャガー横田の申し出にもスーパー男前スマイルで 「いえいえ、難しいですもんね、レントゲン」 と僕が女なら抱かれてもいい!っていう優しさですよ。レントゲンの難しさなんてわかんないけど、そうやって彼女の心に猛烈アピールですよ。 撮りなおしのレントゲンなんて、なんかレントゲンの前で両手を上げてアラーを呼び出すみたいな格好をさせられたけど、そこでも男前スマイル。レントゲンにも写るんじゃねえのってレベルの男前スマイル。 それから、本番の治療になるんですけど、医師が手一杯でなかなか僕の所に来てくれなくてですね、ジャガーが申し訳なさそうに 「すいません、もう少しお待ちください」 とか言うんですけど、 「明日まででも待ちますよ」 と男前。 待ってる間、ジャガーは何か僕の横で作業しててんですけど、僕を気遣って雑談を振ってくれたんですよね。趣味の話になって、「趣味は何ですか」みたいな質問を投げかけられましたね、まさか「ゲハハ!インターネットです!」「グハハ!ゲーセンで麻雀ゲームです!」と答えるわけにもいかず「うーん、ピアノかな」とかなんとも中途半端な嘘ついてました。 「じゃあ待ってる間、歯垢除去しましょうか?」 と彼女が椅子を倒して口の中に手を突っ込んでくるので、キスとかされたらどうしよう!とすごく興奮してました。 治療も終わり、帰る段になって、次回の診察予約とか取るんですけど、こりゃあ完全にジャガーは俺に惚れたなと思いましてね、今回は普通に次回の予約を取っただけですけど、もう数回通えば、 「次回の予約ですけど、いつが空いてますか?あと…デートの予約ですけど、わたし、土曜の夜ならあいてます」 と彼女は頬を赤らめた。って状態なると確信したんですよ。 なんだか妙に嬉しくなっちゃいましてね、俺は勝った!勝ったに違いない!歯科衛生士をモノにしてやったぞ!と勝利を確信。冒頭のような歯科衛生士プレイを夢見つつ、嬉しさのあまり両手を挙げてアラーの神を呼び出さん勢いで凱旋!と歩いていたら、思いっきりズボンのチャックが開いてました。 いやー、診察台で寝転がった時とか思いっきり勃起してましたからね、たぶんちょっとはみ出してたに違いないよ。そりゃ、社会の窓が全開だったら百年の恋も覚めるわ、ホント、アラーは使えねえ神だな、それよりなにより、次回行くの恥ずかしい、と失意のままトボトボと帰る僕は、圧倒的に敗者でした。
7/13 ぬめぱと変態レィディオ-夏祭りスペシャル- ぬめぱと変態レィディオ-夏祭りスペシャル- 放送開始 7月15日22:05〜 泊り勤務と休日出勤の狭間にお送りする、夏の夜の一大スペクタクル!しかも、NTTという名の血も涙もない悪魔から料金未納により回線契約を解除しましたという赤紙が来ていたので、ななななんと我が家にネットがない状態でのカックラキン大放送!果たしてどうなってしまうのか!? 放送URL (終了しました)
気になる放送内容はこちら! ・Numeri-OFFダーツ ネット環境が確保できない場合放送中止となります。 7/10 ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 さてさて、いよいよ公開が近づいてきた「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」ですが、毎度のことながら公開が近づくと一部の方の間である期待が高まってくるかと思われます。 ハリーポッター見てもないのにレビュー ハリーポッターを全く見たことない僕が、勝手にあらすじ紹介、レビューなどをやってしまうこの企画です。毎度毎度、新作の公開に合わせて「賢者の石」「秘密の部屋」「アズカバンの囚人」「炎のゴブレット」とやってまいりました。特に前回の「炎のゴブレット」の反響は凄まじく 「面白かったです!」 と、諸手を挙げて絶賛してくれた方が約2名。 「つまらない、死ね」 と、忌憚のない意見を下さった方が約10名。 「もうこのシリーズやめてください」 と、何か重い十字架を背負ってるような方が約3名。 「ハリーポッターをバカにしてるんですか?」 と、お怒りのハリポタファンが約4名。 「ハーマイオニーたんのアナル舐めたい!」 と、頭が狂ってらっしゃる方が約1名。 とまあ、合計20通もの大反響の嵐!あまりの反響に僕のメールボックスがパンクするかと思いました。 そんなこんなで、2名の方が面白いといってくださる、回を重ねるごとにその数も減っていますが、そう言ってくれるなら書かねばしょうがない、ということで今回の「不死鳥の騎士団」もやってしまいます。 あまり詳細にやると、ネタバレになる!と配給会社に怒られるかもしれないので、ほんと、ちょっと触り程度にしたいと思いますが。ということで、2名の方はお楽しみください!それではどうぞ!
見てもないのに映画レビュー5 灰色の地下室、剥き出しの配管、その継ぎ目からポタポタと水が滴り落ちる。その滴が落ちる先の排水溝からは時折蒸気が噴出する。おどろおどろしい音楽と共に落書きだらけの壁に映った二つの影が動く。 「いや!やめて!」 「ヒッヒッヒッ!大人しくしろ!」 「ああ、どうして…ママ…パパ…たすけて…」 「さあ、はじめよう!フェニックス騎士団の名の下に!」 「やめて!命だけは助けてオマイガお願い!」 大きな影が女性の影に襲い掛かる。それと同時に女性の断末魔の悲鳴が響き渡り、影から血が噴出する。その後ドロドロと画面が赤く染まり、ドデーンと安っぽいフォントで「ハリー&ポッターと不死鳥の騎士団」とタイトル。この辺のB級テイスト満載な雰囲気がこのシリーズの魅力だ。 場面は変わり、ニューヨークのハンバーガーショップが映される。太っちょのコック帽をかぶった男がぶっきらぼうに肉を刻む。これが後に起こる残虐事件への微妙な複線だと気がついたのは僕だけじゃないはずだ。このシーンでは日常的なハンバーガーショップの風景を描きながら、ちょっと凝った字幕でキャストの紹介が行われる。 カランカラン! キャスト紹介が終わるとけたたましくドアが開き、そこにポッターが駆け込んでくる。 「マスター!いつもの!」 カウンター越しに声をかけるが、小太りなマスターはきょとんとした表情だ。 「悪い、悪い、そういえば息子さんに変わったんだったな。テリヤキバーガー2つ、マスタードたっぷりで!」 「まいど!」 ついつい15年前の癖が出てしまう。15年前、まだ学生だったハリーとポッターはニューヨークにいた。そして、学校が終わるといつもこのバーガー屋に立ち寄って、時にはテスト勉強をしたり、時には熱い法律論を議論したり、そして恋の相談もしたものだった。 「この店もかわらねえなあ」 注文を済ませたポッターは店内をキョロキョロと見渡す。店内には沢山の客がおり、みな思い思いに会話している。大学生だろうか、ノートを広げて熱く議論している。若者のカップルも映画でも見たのだろう、満足気に感想を言い合っている。女同士の客は、ダウンタウンにある奇妙な占い師の話で持ちきりだ。 「ここだ、ポッター」 店の奥にはハリーが腰掛け、学生時代のあの時のようにお米バーガーをほおばっていた。 「しかし懐かしいな、15年ぶりだもんな」 「ああ」 「こうやってお互い、サンフランシスコ市警からニューヨーク市警に移動できてよかったな」 「ああ」 「やっぱさ、シスコに比べて事件が多くて嫌になるよな、忙しいっていうか」 「ああ」 ポッターが何を話しかけてもハリーはそっけない返事。一瞬、ポッターが不快感を顕にするが、すぐに吹き出すように笑った。 「やっぱり変わらないな!俺たち!」 その光景は15年前のあの日のままだった。 シーンが回想に切り替わり、1992年と字幕に表示される。町を歩く人のファッションも心なしか少し古い。大雨の中、同じハンバーガー屋が映し出される。 「どうして…」 テーブルに座る美女が涙を流している。 「どうしてもだ」 その対面に座っているのは若かりし頃のハリー。黙々とお米バーガーを食べている。 「どうしてもサンフランシスコに行ってしまうの?」 「ああ」 「私を置いて?結婚しようって言ったじゃない!」 「すまない、ミッシェル…」 流れ落ちる涙をナプキンで拭いたミッシェルは指輪を外すと大雨の中店を飛び出していってしまった。 「ミッシェル!」 席を立ち上がるだけで追わないハリー、それを見た先代のマスターがハリーに話しかける。 「追わないのかい?」 「いいんです…俺には…彼女を幸せになんてできない…」 呆然と立ち尽くすハリーの前にお米バーガー差し出される。 「マスター…」 「奢りだよ」 そこにけたたましい音を立ててポッターが入ってくる。 「マスター、いつもの!」 テリヤキバーガー2つと大量のマスタードを持った若きポッターがハリーに近寄る。 「で、ミッシェルちゃんとは別れたのかい?」 「ああ」 「もったいないぜ、あんないい娘」 「ああ」 「でも、彼女の親父さんが刑事と結婚するの反対してるっていうんじゃな」 「ああ」 「俺たち、やっと念願の刑事になれたわけだし。春からサンフランシスコで刑事だぜ!ワクワクするよな!」 「ああ」 ハリーはミッシェルが残した指輪を握り締めていた。 またシーンが変わり、現代のハンバーガー屋を映し出す。ポッターが口の周りに沢山のマスタードをつけながら話し始める。 「そういえば、ミッシェル、結婚するらしいぜ…」 「…」 ハリーは返事をしない。ポッターは構わず続ける。 「昨日、偶然吉田に会ってさ、ほら、クラスメイトだった。あの土建屋の次男坊。で、何でもマンハッタンにいくつもビル持ってる大変な資産家と結婚するらしいってさ。玉の輿ってやつだよな」 「そうか…」 「やっぱいい娘だったもんなあ、やっぱり未練とかあったんだろ?」 ポッターがマスタードをグチャグチャ飛ばしながらぶっきらぼうに言う。 「いや、未練はないよ。俺たちはあの日終わったんだ」 「またまたあ、未練たらしく別れた後も彼女のこと追いかけていたくせに!」 「はあ?」 話がかみ合わない。ハリーはあの日、彼女と別れた後はバーに行って浴びるように酒を飲んだ。そして次の日にはサンフランシスコへと旅立った。彼女を追いかけたことなど一度たりともないのだ。ポッターの勘違いを訂正しようと、食べかけのお米バーガーをテーブルに置いたその瞬間だった。 ピリリリリリリリ 携帯電話が鳴る。急いで出る。 「はい、ハリーです」 「お楽しみのところを悪いがダウンタウンで殺人事件発生だ、現場に急行してくれ!」 「了解しました!」 電話を切る。 「なんだ、事件か?」 「ああ、殺しだ、いくぞポッター」 パトカーに飛び乗るハリー&ポッター。渋滞をすり抜け高層ビル群の中をひた走る。マンハッタンの青空は呆れるほど綺麗だった。 --------------------------- 「ひどい殺し方するねえ」 死体を前にしてポッターは楽しそうに笑った。鑑識がパシャパシャと写真を撮影する横でハリーは青い顔をしていた。事件好き死体好きのポッターとは逆で、ハリーは死体を見れないのだ。 「おい、ハリー見てみろよ」 「俺が死体を見れないのは知ってるだろ」 「いいから!」 恐る恐る布をめくり死体を見る。被害者は20代の女性、眩いブロンドが赤い血で染まっていた。青い目を見開き、このままポロッと取れそうなくらい首が切られていた。おそらく即死だっただろう。しかし、それ以上に異様だったのが、死体の胸元に刻まれた傷だった。おそらく、鋭利な刃物で刻まれたのだろう、胸元には文字が書かれていた。 -フェニックスは何度でも蘇る- 「こいつは…いったいどういうことだ?」 「普通に考えて犯人からのメッセージだろうねえ」 死体に刻まれた謎のメッセージを覗き込むハリーとポッターの二人。そこにもう一人の刑事が加わった。 「こいつは不死鳥の騎士団の仕業だな」 ベレー帽がトレードマークの初老の刑事、ヤマさんだった。 「ヤマさん、不死鳥の騎士団とは一体?」 ハリーが詰め寄る。ヤマさんはクシャクシャになったマルボロを咥えながら答えた。 「なあに、古い話でよ。もう15年前になるかな。同じように首を切り裂いて女を殺す事件が連続してな、摩天楼を震え上がらせたのさ。俺が事件の担当だった。犯人は殺害現場か拉致現場に「不死鳥の騎士団」と書かれた紙を残していたんだ。結局、犯人は捕まらず仕舞いだったがな。忘れられやしねえ」 ヤマさんは死体に刻まれた傷跡見て続ける。 「当時は全ての死体に「不死鳥の騎士団の名の下に」と刻まれていた。それから犯人を不死鳥の騎士団と名づけ市警は必死で追ったよ。しかし驚くほど証拠が挙がらない。目撃情報も、赤い布をかぶった不審な男を見たってヤツだけだ」 「赤い布…」 「ハリー、ポッター、ワシももうすぐで定年だ。退職時に貰う金時計だけを楽しみに生きてる老いぼれだよ、でもな、この不死鳥の騎士団だけは絶対に許せねえ、なんとしてもこの手で捕まえたい。定年までにな!」 ヤマさんはベレー帽を深々とかぶりなおした。 --------------------------- 「とりあえず周辺の聞き込みだな。人の記憶は薄れ行くもの、スピードが命だ」 ヤマさんはベテランらしい機敏さでテキパキと指示をする。ハリーとポッター、それにヤマさんはそれぞれ周辺ビルを訪ねて目撃者を探すことになった。 「汚いビルだな」 ほとんど管理されていないのだろう、汚く、あちこちがひび割れし、おまけに変な匂いまでしてくるビルの入り口にハリーは立っていた。今にも崩れそうな階段を上る。木が腐っていやしないかとビクビクものだ。 2階に到着すると、廊下に並ぶこれまた古いドアを片っ端からノックしていく。しかし反応はない。単純にほとんどが空き家なのだろう。廊下に堆積した埃の量がそれを物語っている。 4階へと向かうハリー、このビルは変わった構造になっていて4階へはビル内の階段ではなく外の非常階段を通らねばならない。非常階段を上ると風に吹かれてニュヨークタイムスが飛んできた。日付は2007年7月7日、今日の日付だ。またブッシュ大統領の支持率が下がったニュースが1面だ。 4階には部屋が一つしかなかった。ハリーはその重厚なドアをノックし開ける。そこには怪しげな老婆がいた。 「殺人事件があった。目撃者を探している」 ハリーの聞き込みにも老婆は要領を得ない。水晶に向かって何やらブツブツ言っているだけだった。 「占い師ってのは何も未来を見るのが仕事じゃないんだよ。その人が抱えている過去の後悔、それを解決してやるだけさね」 「婆さん、占い師なのか」 ハリーは占い師とかそういった非科学的なものが大嫌いだ。魔法だとか超能力だとか、そんなもの全てまやかしだと思っている。訝しげに老婆を睨みつけるハリー。それでも老婆は続けた。 「アナタは何か大きな後悔を抱えている、それを解決しないと…そしてアナタは解決したがっている」 「バカいうな、奥も調べさせてもらうぞ」 老婆の言葉に耳を貸さず部屋の奥へと進むハリー。突き当たりにある奇妙なドアを一瞥し、ドアノブに手をかけた。 あまり詳しく書くとネタバレになってしまい、これから鑑賞する人に怒られてしまいますので詳しく書きませんが、部屋の中には中南米の方の儀式で使いそうな怪しげな人形が山ほど置いてありました。 いきなり部屋のドアを閉められ、部屋の中が暗闇に包まれます。銃を構えたハリーは「誰だ!」と叫びながら部屋の中央へ。するとどこからともなく祭囃子が聞こえてきます。その祭囃子に合わせるように周囲の景色が歪み、ハリーは頭を抱えて苦悶します。ここで駆使されるCGは必見。祭囃子は次第に大きくなり、ついにハリーは気を失ってしまいます。 どれくらい時間が経っただろうか。ハリーは部屋の中央で目を覚まします。あれだけあった奇妙な人形も見当たらず、ただ何もない空間が広がっていました。 「何が起こったんだ?」 フラフラになりながら部屋を出るハリー。すると、信じられないことに先ほど占い師の老婆がいた部屋すら何もなく、ガランとした空き家のような空間が広がっていました。 「一体コレは…」 夢でも見ていたのだろうか、半信半疑になりながら部屋の外に出て。下の階へと通じる非常階段へと出ます。心なしかビル全体が綺麗になっている気がするが、そんなことハリーは気づかない。非常階段には先ほどの「ブッシュ大統領の支持率がまた下がった」というニューヨークタイムスが転がっており、ハリーはやっぱり同じビルだと安心して階下へと降りていくのだった。 ここで風に煽られた新聞紙がバサッと飛んでアップになる。よく読むと、支持率が下がったのは現在のジョージ・W・ブッシュではなく、2代前の大統領ジョージ・H・W・ブッシュだった。この辺が現在のブッシュ大統領不人気を揶揄するアメリカンジョークになっていて、劇場の白人たちから失笑が漏れてました。 フラフラと街を歩くハリー、とりあえずポッターと連絡を取ろうと携帯電話を手にするが繋がらない。 「どうなってやがるんだ!」 憤慨してると道行く黒人少年にぶつかった。少年はその圧倒的無邪気さでハリーに話しかける。 「ねえねえ、ピザって10回言ってみて」 「ピザピザピザ…」 「じゃあここは?」 「ヒザ」 「ぶー!ヒジでした!」 なんてことだろう。10回クイズが流行してやがる。本当にここは現代なのか?こんなの十数年前に流行ったものだぞ。 「ヘイボーイ、今は何年だい?」 「オッサン何いってんの、今は1992年さ!」 「なんだってー!」 振り返ると、二棟のWTCビルが威風堂々と夜のマンハッタンに映えている。 「15年前にきちまったのかーーー!」 叫ぶハリー、それと同時にカメラが引いていってマンハッタンの夜景を映し出していた。 ------------------------- 「なんてことだ、俺は15年前の世界に来てしまったのか?一体どうして?ホワイ」 大雨の中を傘も差さずに歩くハリー。取り乱すハリーの前に、例のハンバーガ屋が見えた。もちろん、15年前なので心なしか店構えも綺麗だ。 「まさか…!」 あわてて窓越しに店内を伺う。なんてことだろう、そこにはあの日の、15年前のハリーとミッシェルの姿があった。そして、別れ話をしてるのだろう、ミッシェルが流れ落ちる涙をナプキンで拭いている。しばらくすると席を立って大雨の中、店の外へ走り出してしまった。 ハリーの横を駆け抜けるミッシェル、ハリーは慌てて顔を隠す。窓越しに昔の自分を見ながら、あの怪しい占い老婆の言葉がフラッシュバックした。 「アナタは何か大きな後悔を抱えている、それを解決しないと…そしてアナタは解決したがっている」 これが、俺の持つ過去の後悔…?俺はずっとこの日のことが心にひっかかっているのか?酷い別れ方をしたミッシェルに謝りたい、そういうことなのだろうか…。 意を決してミッシェルの後を追おうとするハリー。しかし、若い頃のポッターが大雨の中、パシャパシャと音を立てながら走ってくる。また慌てて顔を隠すハリー。こんなところで鉢合わせしては大変だ。ポッターは不自然なポーズで顔を隠すハリーの横を駆け抜け、ハンバーガーショップへと入っていった。やはりあの日のままだ。 とにかく、ミッシェルの後を追うことにしたハリー、雨の中、ずぶ濡れになりながら泣いているミッシェルの後を尾行した。 でまあ、ここからはタイムスリップ特有のドタバタ劇というか、ショットバーで泣いているミッシェルに話しかけようとすると、ハンバーガー屋を出た若い頃のポッターが偶然居たりしてね、結構楽しめます。 「あれ、もう帰るって言ってなかったか?」 「ん、ああ、ちょっと酒でも飲みたい気分でね」 そして店内を見回してミッシェルの姿を見つけるポッター。 「ハハーン、ああは言ってたけど、やっぱり未練があってミッシェルを追いかけてきたんだな!このこの!ってか、お前、この数分の間にちょっと老けた?」 とか、ポッターのヤツ、当時のハリーと15年後のハリーの見分けがつかないポッターもどうかと思いますが、とにかく若い頃のポッターが邪魔。ハリーがミッシェルに話しかけようとすると何度も出てきてうざったいんですよ。もう殺したいくらい邪魔。 結局、ミッシェルが家に帰るまで話しかけることが出来ず、明かりの灯った彼女の部屋を路地から眺めるしかなかったハリー。 「ミッシェル…」 そこに異変が起こります。 ガシャーン、突如何かが割れる音、そしてミッシェルの悲鳴。ハリーは慌てて部屋に踏み込みます。そこにミッシェルの姿はなく、何者かに連れ去られたのでしょう、部屋が荒らされていました。そして、机の上には「不死鳥の騎士団」の文字。 「まさか!」 15年前の不死鳥の騎士団による連続婦女殺人事件、ミッシェルはその事件に巻き込まれていたのです。 「思い出せ、思い出せ、15年前のあの事件の時、殺害現場はどこだったか、思い出すんだ」 15年前はハリーは刑事ではありませんでした。しかし、事件のことは新聞報道で知っていました。必死で記憶を掘り起こします。 「あそこだ!」 15年前も殺害場所はダウンタウンにあるビルの地下室だった。早く行かねばミッシェルの命が危ない。急いでいかなければならない。しかし、そこでドアがノックされます。 コンコン 銃を構え、警戒しながらドアに近づき、ドアノブから覗きます。そこには15年前の自分の姿が。 そう、15年前のあの日、未練がないと言った自分は嘘で、本当は未練たっぷりに彼女の部屋まで訪ねていたのだ。 「ちくしょう!あの色ボケめ!」 とにかく、今ここで自分同士が鉢合わせるのはまずい。なんとかせねば。 「だれかね?」 声色を変えてドア越しに話しかけます。 「あ、ハリーと言います。お父さんですか?」 「ああそうだが、娘に何か用かね?」 「実は…娘さんとお話したくて…こんな時間に失礼なのは分かってます、でも…」 「娘はまだ帰っておらんよ」 「じゃあここで待たせてもらいます!何時間でも!」 「ふむ、君は誠実な青年だな」 「え?ありがとうございます」 「きっと将来優秀な刑事になるに違いない、頑張れよ」 「あ、はい」 怪訝な顔をする若いハリー。まあ、この辺がアメリカ映画的な笑い場所でしょうかね。 とにかく、ドアの前で若いハリーが待ってるので出て行くわけにも行かず、窓越しに抜け出すハリー。誰かに目撃されると面倒だという理由で、部屋にあった赤い布をかぶって現場に急行します。 --------------------------- 謎の地下室、ジェイソンの仮面をつけた男が縛り上げられているミッシェルに迫ります。 「どうして?お願い!助けて!」 「フハハハハ、若い娘の血が必要なのだよ!フェニックスの力を借りてワシの娘を蘇らせるためにな!」 「狂ってる!狂ってるわ!」 「なんとでもいえ!今日は15年に一度のチャンスなのだ。太陽の黒点周期が満ちる今日、不死鳥が蘇る!その力を借りてワシの娘も!」 鋭利な刃物がミッシェルの喉下に迫ります。 「ああ、ハリー…助けて…」 「クククククク」 いよいよダメかと思った時、地下室のドアが蹴破られます。 「そこまでだ!」 そこには赤い布をかぶったハリーが。 「何者だ!貴様!」 ジェイソン面をかぶった犯人が身構えます。 「あいにく、そこの女性は守らなきゃドアの前で待ってるアイツに怒られちゃうもんでね」 「きさまあ!」 ここでお決まりの、ハリーと犯人のクンフー対決です。対決は凄まじく、いつの間にか部屋を飛び出して大雨の中での殴り合いに。そこでも決着がつかず、闘いのステージは建設中の工事現場へ。看板には教会ができるとかなんとか書いてありました。 「これは…?」 バシバシ!クンフーの応酬をしながらも、犯人の太刀筋にハリーは何かを感じます。 殴り合いの衝撃があまりにすごく、建設中の柱がアリスJAPANのオープニングみたいにガンガン倒れてきます。このシーンが凄まじく、あまりに過酷な撮影のためADが5名、メイクさんが2名死んだそうです。 決死の上段回し蹴りが犯人に炸裂、犯人は吹っ飛ばされて、尖った鉄骨が右足に刺さって動けなくなってしまいます。 ハリーは覆面をかぶったまま地下室に戻ると、ミッシェルの拘束を解いてあげます。 「ありがとう、あなたは誰?」 「通りすがりの者ですよ」 「お名前だけでも…」 「お嬢さん、今あなたは何かに悲しんでるかもしれない。でもきっと将来幸せになれるはずだ。ずっとずっとあなたの幸せを思っている人間がいることを忘れないで欲しい。ドアの前とかにね…」 「あなたは…?」 「早く逃げなさい。そして警察に保護してもらうんだ!」 何度も振り返りながら慌てて逃げ出すミッシェル。 「さあてあとは犯人の始末だ」 先ほどの建設現場に舞い戻るハリー。しかしそこに犯人の姿はありません。警戒するハリーの後頭部を木材が襲います。 「邪魔をしおって!邪魔をしおって!」 みるみると血だるまになっていくハリー。 「貴様、何が目的で…ゴフッ!」 「貴様のせいで復活の時が終わったではないか!次は15年後だ!みてろ!あの娘ごと復活の生贄にしてくれるわ!」 大きな重機に乗る犯人。重機のドリルが動けないハリーに迫ります。いよいよもうダメかと思ったその時、また周囲の景色が歪み、ハリーが身悶えます。そして眩いばかりの光が建設現場を包んだのでした。 -------------------------- 「気がついたかい?」 そこにはあの老婆の姿が。 「過去に決着はつけてきたかい?」 飛ぶように起き上がるハリー。 「ここは、2007年か?」 「ああ、そうだよ。その分だと後悔は解消してきたようだね」 老婆を押しのけてビルから飛び出すハリー。携帯電話でポッターに連絡を取ります。 「ポッターか!?」 「なんだよハリー、もう聞き込みは終わったのか?」 「そんなことはどうでもいい!それよりミッシェルの結婚式はどこでやってるんだ!」 「この近くのダウンタウンの教会だよ」 「急いでそこに行くぞ!」 -------------------------------- 場面変わって教会。華やかな衣装に身を包んだ来賓たちが談笑している。 「本当におめでたいこって」 「しってます?この教会、15年前の建設中に何者かに壊されたんですって。工事はそつなく終わったけど、縁起が悪いって言われててね…」 「まあ」 カメラは花嫁の控え室を映します。 「綺麗だ、ミッシェル…」 「お母さんにそっくりよ、お父さんもきっと天国で喜んでるわ」 どこの馬の骨か分からない新郎にミッシェルの母、そして、花嫁姿のミッシェルがそこに。しかし、ミッシェルの顔はどこか浮かない。 そして、窓からそんなミッシェルを狙う怪しい影が。よくよく見るとそれはジェイソンの仮面をかぶった男だったのです。花婿と母親が控え室を出てミッシェル一人になったその瞬間、窓をぶち破って入ろうと犯人が鈍器を振るいます。その瞬間でした。 「そこまでだ」 そこにはハリーとポッターの姿が。 慌てて逃げようとする犯人の行く手をポッターが塞ぎます。 「そろそろやめにしましょう、ヤマさん…」 ハリーの言葉に驚いた犯人は、観念して仮面を取ります。そこには、ベテラン刑事ヤマさんの姿が。 「不思議でしたよ、なんで犯人が捕まらなかったのか。それは担当刑事のアナタが証拠や目撃情報を握りつぶしていたからなんですね。赤い布を男を見た、なんて間違った目撃情報だけを残して…」 「娘を、娘を蘇らせるためには、若い女の血が必要だったんだ…不死鳥を蘇らせるために…」 「15年前もそうやって女性を殺した。しかし、失敗に終わって復活の儀式はできなかった。そして、黒点周期が復活に適した状態になる今日、また犯行を行おうとした。15年前に殺害に失敗したミッシェルを狙ってね」 「娘のため、娘のためなんだ…邪魔をするなあああ!」 クンフーで襲い掛かるヤマさん。しかし、15年前と違い、体力の衰えを感じずにはいられません、おまけにヤマさんは15年前に鉄骨で貫かれた足が不自由です。あっという間にハリーにボコボコにされます。ポッターは邪魔でした。ヤマさんを抑えつけるハリー。そして促します。 「御覧なさい。あのミッシェルの幸せそうな顔を。アナタが娘のことを思うのと同じように、あの子を思ってる人も沢山いるんです」 花婿に迎えられ満面の笑みを見せるミッシェルの姿が見えます。 「誰かが誰かを思う気持ちは永遠です。決して消えることも死に絶えることもない。それこそが不死鳥、フェニックスじゃないですか?フェニックスはみんな心の中にいる、白人も黒人も関係ない!」 感動しました。 ヤマさんは警察に引き渡され、何事もなかったように結婚式が続けられます。幸せそうな新郎新婦に米を投げつけるハリーとポッター。そこにミッシェルが駆け寄ってきます。 「きてくれたのね!」 「ああ、どうしてもハリーがいこうってね!」 「ポッター、黙ってろ!」 「本当に!うれしい!」 そう言うとミッシェルは懐から赤い布を出し、ハリーの顔に巻いたのでした。そして小さな声で一言。 「15年前はありがと」 空缶が沢山ついたオープンカーに乗ってハネムーンへと出かける新郎新婦。ハリーがその後姿をジッと眺めているとポッターが駆け寄りお米バーガーを手渡してきます。 「これは…?」 「奢りだよ」 ハリーはニヤッと笑いながらお米バーガーにかじりつくのでした。
ハリー&ポッターと不死鳥の騎士団レビュー おわり 次回のハリーポッターは、刑事課にやってきた謎の転校生に超能力。最強の刑事を決める天下一刑事武道会でハリーが見たものは!乞うご期待!
7/4 カユイタイ 痒いという感覚は柔らかく、そして優しく痛い感覚だ。 そもそも、人間の感覚の中に「痒い」というものは存在しない。頭の中に痒さを司る部分があって、そこが右腕が痒いと感じ取るから痒くなるとか、右腕を蚊に刺されたからそこから「痒い」という専用の信号が発信されるとかありえないように思う。 詳しいことは良く分からないけど、たぶん「痒い」ってのは弱い「痛い」なんじゃないかと思う。痛いほどじゃないけど何かなってんでーと知らせるための優しい信号、それが「痒い」なんだろう。痛いは言いすぎだけど、ほのかに何か刺激がある、きっとそうに違いない。 では、どこからが「痒い」でどこからが「痛い」なのか、具体的に言うと蚊に刺されたりなんかした時に、「掻いちゃダメ!」とか言われつつもその部位を掻き毟ると思う。それほど痒いと思う。掻いて掻いて掻き毟り、もうキチガイってほどにやった時、血が滲んできて「痛い」に変わる、その境界線は確実に存在する。言うなればアナログで、その曖昧な位置にいるのが「痒い」だ。 歯について考えてみて欲しい。歯というのは、一度虫歯などで痛み出すと、こんな痛さってあるか!と血の繋がった親ですら殺しかねないほど痛む部位なのだけど、「あー、かいいー!」と歯をボリボリと掻き毟ってる人はあまり見ない。そんな人いたら精神を疑う。とにかく、歯ってのは敏感な部位で痒いという曖昧な感覚を許さない。おそらく痒いのレベルでも地獄のように痛んでいるのだろう。ワンクッションのない痛いか普通かの感覚、1と0しか存在しないデジタルだ。デジタルでデンタル、思いもがけず上手いこと言えた。 とにかく、僕らの全身のほとんどはこのアナログ的な「痒い」感覚、言い換えれば 柔らかくて優しい「痛い」感覚を保持していることに感謝しなければならない。このワンクッションに感謝しなければならない。蚊に刺されて「かいー!」となる天恵とも思える神のご加護に感謝しなければならない。全身が歯のようにデジタル的な感覚だったら、蚊に刺されただけで悶絶して親でも殺しかねない。痒くてよかった僕らの体。 さてさて、「痒い」と「痛い」の関係で言いますと、先日こんなお話がございました。 あまりこういうこと書くとますます女性にモテなくなるんですけど、全然話が横道にそれますけど、この間、東京で行われたとあるサイトのオフ会に参加したんですよね。ぶっちゃけるとおセックスくらいありえるかもしれない。そうでなくても乳首くらいは転がせるのでは?という期待を胸に赴いたのですが、女の子が沢山いたのに全くモテなかった、それどころかあまり女性と話できなかった、レイプしたかった、と散々でしてね、いい加減どういうこっちゃとご立腹だったわけなんですよ。 まあ、あまりにお下劣で奇天烈なこと書くとますます嫌われるナリよー、とコロ助にならざるを得ず、もっとこうダーツバーで女のハートを射抜いた。君に胸キュン的なことを書くべきと心に誓うのですが、あえて書かせてもらいます。 いやね、僕、ウンコした後にお尻拭き忘れることがあるんですよ。 別にこれが完全なる失念、お爺ちゃんお昼はさっき食べたでしょ的な健忘症でお尻を拭き忘れるなら大したことないのですが、時には半ば確信犯的にお尻を拭かないことがあるんですよ。こうキレがいいというか、会心の一撃というか、そういった清々しい作品が誕生され、誇らしげに便器に鎮座しておられるウンコ、これはもう名のある匠が作った彫刻に等しい凛々しさ、凛とした美しさがあるんですよ。そんな素晴らしい作品を尻を拭いたティッシュで汚す、これは作品に対する冒涜ですよ。 そんなこんなで、何回かに1回尻を拭かないことがあるんですけどね、そうすると痒くなるんですよ。どういうわけかアナル周辺が猛烈に痒くて仕方なくなっちゃうんです。 いやね、腕とか腹とかが痒いならいいですよ。「かいー!」とか掻き毟ればいいんですから。でもね、アナル周辺ってのはとにかく掻きにくい。僕もモテたいから本当はこんな話書きにくい。大事な取引先と歓談しつつ、ちょっと失礼!とか言ってズボンとパンツ脱いでアナルほじくるわけにはいかんですからね。 もうアナルが痒くて痒くて仕方なくて、尻のところが妙にモジモジ、初恋の時の女子みたいになってんですが、それでも痒いという感覚に感謝しなきゃいけないと思うんですよ。 やっぱ、アナル周辺といっても「痒い」です。「痛い」ではないですから、その気になれば我慢できるんですよ。モジモジするけど別に我慢できないことじゃない。これが「痒い」を飛び越えて「痛い」に変わった時、どれだけ地獄か皆さんに教えてあげましょう。 先日のことでした。 その日は朝っぱらからギリシャ彫刻のように美しいウンコが出ましてね、便器に鎮座される雄姿を眺めながら 「う、美しい…」 などと自画自賛というか自糞自賛をしていたんです。もちろん、神の頂に届きかけているこの作品を汚すわけにはいかず、また痒くなると分かっているのに尻を拭かなかったんです。 本当ならば、ずっと一日中ウンコを眺めていたいのですが、そういうわけにも行かないので職場のデスクへと舞い戻ったんです。ほのかに尻が痒いななんて考えつつ真面目な顔して仕事をしていたフリをしていたんです。 そこで上司に呼ばれましてね、上司に呼ばれるとだいたいが怒られるものって相場が決まってまして、「お前、尻拭いてないだろ!臭いナリー!」と何故かコロ助風に怒られるんじゃないかとビクビクしながら上司の部屋へと向かったのです。 「どうかね、これ」 そこには3体ほどの彫刻っていうか粘度細工みたいな像がガラスケースに入っていましてね、明らかに造形の狂った汚い物体が机の上に置いてあったんです。 「はあ、いいですね」 こんなゴミよりさっきの僕のウンコの方が芸術的に優れている!と確信するのですが、それでもやっぱ目の前にいるのは上司ですから、当たり障りのない返事をしておきます。 「いやー力作でね、締め切りをすぎちゃったよ」 実はコレ、なんかウチの職場の面々がボランティアで参加している芸術ナンチャラというイベントの出展作品らしくて、上司のヤロウが丹精こめて作った代物なんですよね。そのイベントってのが、素人のオッサンどもがご自慢の芸術品を持ち寄って、死んだ魚みたいな目をした部下を引き連れて自慢する、みたいな誰も幸せにならないものなんですが、とにかく上司はご熱心に力作を生み出した様子。 「もう締め切り過ぎちゃってね、当日君が会場まで持ってきてくれないか」 僕もそのイベントに嫌々、会場警備としてボランティア参加することになってましたから、なんか当日直接会場に持ってこいとか言われちゃったんですよ。そんな大役、壊しちゃったりしたら大変なので一も二もなく断わりたいのですが、あいにく上司と話してるこの時点で熱烈にアナルが痒くなっちゃいましてね、早く話を切り上げたいという想いから 「わかりました」 と引き受けて、その不恰好な彫刻を預かってしまったんですよ。 さあ、ここからが大変ですよ、まかり間違って壊したら大変ですから、マイデスクに置きながらも厳重警戒、家に持って帰る時も急ブレーキとかで壊れないよう、助手席でシートベルトつけてましたからね。それで恐る恐るの安全運転をしながら帰りましたよ。 家に到着し、悪いことにこの日はアパートの駐車場のアスファルト塗り替え工事がありましてね、少し離れた場所の駐車場に車を停めたんです。ここから部屋まで細心の注意を払って彫刻を運ばねばならない。例え暴漢が襲ってこようとも守り抜かねばならない。 決意した僕は両の手でギュッとガラスケースを持ち上げます。一歩一歩、また一歩と確実に踏みしめながら歩を進める。大丈夫、いけるいけるはずだ。しかし、4歩くらい歩いたところで事態が急変、どうしようもない悲劇が巻き起こる。 いやな、アナルが痒くなった。 もうこれが、「痒い」を通り越して「痛い」になるんじゃないかってレベルの痒さ。もう「痛い」一歩手前。許されるのならばウンバとパンツを脱いで掻き毟りたい、それどころか釘抜きみたいな道具でガリガリやりたい、それほどに痒かったのです。 しかしながら、両の手は意味不明な彫刻で塞がっている。それよりなにより、天下の往来でアナルをボリボリとは、いくらなんでもありえない。悶絶しながらも一歩一歩進んでいきます。 「よーし、その調子だ!」 「君ならできる!」 「ワンモアセッ!」 なぜか頭の中でビリーが凄く励ましてくれて、臨界点に近いアナルに悶絶しながらもなんとかアパートの部屋が近づいてきます。 大丈夫、あともう少しだ。 ふと手元の彫刻を見ると、上司がつけたんでしょうね、彫刻のタイトルプレートが目に留まり「若者のキラメキ」とか書いてありました。キラメキじゃねえよ!カスが!こっちはアナル痒いんだよ! 悶絶しつつ、嫌な汗が全身から噴出しつつ、なんとかマイアパートに到着。急いで安全であろうパソコンデスクの上に彫刻を安置します。それからダッシュでトイレへと駆け込み、まるで掻き毟るかのようにティッシュでアナル周辺を擦ります。 「こんなんじゃダメだ!」 ティッシュで拭いても全然痒さが収まらない。ハッキリ言って尻を拭かずにアナルが痒くなるのって周辺が汚れてるってことでうからね、根本的にこの汚れを取り除かない限り平穏な日々は訪れないんですよ。 で、ティッシュを濡らしてゴシゴシとアナルを拭いていたんですが、ここで更なる悲劇が到来ですよ。 いやね、拭いても拭いても痒さが収まらず、それどころか「痒い」の領域を跳び越して「痛い」の領域に確実に踏み込んでいたのですが、ちくしょーちくしょー、なんでこんなに痒いんだ、なにがキラメキだー!と怒りに任せてゴシゴシやってましたらね、なんと!ティッシュに血がついてるじゃないですか!血ですよ、血!ブラッドですよ!藤井フミヤ、尚之兄弟が作ったF-BLOODってのありましたけど、そんなの関係ないくらいアナルから血ですよ。 ワタクシ、この事実にいささかショックを受けましてね。こういうこと書くとまたモテなくなるんですけど、「痔」という単語がパッションライトのように頭の中でグルグルしましてね、もうどうしていいかわからず、なんで尻から血が出るんだよ、と下半身裸でトイレの中でサメザメと泣きました。 せめて痒いレベルでいて欲しかった、血が出て痛いになったら完全なる「痔」じゃないか。などと冒頭で述べたように「痒い」のありがたさを痛感したのでした。 意気消沈しながらトイレから出ると、異様に汗をかいている自分に気がつきました。最近ですね、こういうのしたらモテるんかなとか思いまして、ウェットティッシュのエチケット版みたいなのあるじゃないですか、汗かいたらそれで拭いて汗臭さを抑える!みたいなの、あれをやってるんですよ。 「爽快クール!」 とか書いてあって、これで体を拭くとツーンとなってスーッとなってマジ爽快、おまけにいい匂いまでしてきやがる。アナルの痒さでいっぱい嫌な汗かいちゃったから、その爽快クールで体を拭いてたんですよ。 そしたら、またジンジンとアナルが痛み出しましてね。人がせっかくクールに拭いていい気分になってるのに痔のこと思い出しちゃって微妙にブルー。でも、僕がお尻拭いたりしなかったのがいけなかったんだよな…と反省したんです。 そうだ、これでアナル拭いたらどうだろう! 拭かずに汚くしてたのが痒さの原因、痔の原因ですから、これはもう、この爽快クールで拭いたらすごい清潔になって痔なんか一発で治っちゃうんじゃないか、そう考えましてね、思いっきりクールにアナルを拭いてやったんです。 もう、すごいよ。 何が凄いって、こんなのってあるのってくらいに凄い。アナルが燃えるかと思った。というか燃えたかと思った。シャレにならないレベルの痛みに悶絶、痔の部分がとんでもないことになってんですよ。部屋に一人しか居ないのに「燃えておるぞー!」と叫んでしまったくらいの痛み。途方もない痛み。どれくらいかっていうと、悶絶のあまり立っていることができず、尻丸出し状態で床を転げ、ぐおおおおおおと拳で壁とかを殴ってないと正気を保てない痛み。その際にデスクの上にあった彫刻のガラスケースを殴るくらい悶絶する痛み。 「燃えてるナリー!」ガシャーン! あーあ、どうすんだよ。上司が必死に作った若者のキラメキだぞ、見事に真っ二つになってんじゃんか。 とにかく、ウンコをした後はお尻を拭くこと!痔になってもクールタイプのやつでアナルを拭かないこと!と固く心に誓ったのでした。 壊れたた彫刻の変わりに、芸術品の如き美しい僕のウンコを乗せてやろうかと考えつつ、いまだヒリヒリと延焼する痔アナルを抱え、上司の作品壊しちゃって悪いことしたな、と心が痛いたいのでした。いや、心が痒いくらいか。 6/27 ギャバン 子供の頃、どうしてもギャバンのメモ帳が欲しかった。 ギャバンってのは、6歳くらいの時にテレビでやっていた「宇宙刑事ギャバン」のことで、ウルトラマンシリーズや仮面ライダーシリーズに続けといわんばかりに鳴り物入りで開始された宇宙刑事シリーズの第一弾。痛快なアクションが売りの戦隊物番組だった。 幼かった僕はこのギャバンにハマっちゃいましてね、あの銀色のボディがたまらない、あの宇宙的で未来的、それでいて機械的なギャバンの外観が最高だ、と光り輝くシルバーのボディに魅了されてしまったんですよ。 たしか小学1年生くらいの頃だったと思うんですけど、当時の僕は近所に住む6年生の暴力を背景にしたイジメに悩まされてましてね、6年生と1年生なんて勝てるわけないですから、イジメられる度に「助けて!ギャバン!」と心の中で唱えるような、それが癖になって困った事があるたびに「助けてギャバン!」。学校の音楽の授業で縦笛のテストがある日なのに縦笛を忘れてしまって絶体絶命のピンチ、「助けてギャバン!」とか、そんなのギャバンでもどうしようもない。宇宙刑事の出る幕じゃない。とにかく、それくらいギャバンに心惹かれていたんですよ。 当然ながら、常に鼻水たらしてるようなバカな子供ですから、やっぱギャバングッズとか欲しくなるじゃないですか。特にギャバンフィギュアが最高に欲しくて、なんか関節の部分がグイグイ動く人形が、とにかく親を殺してでも欲しかったんですよ。 けれどもね、やっぱ子供心に我が家の貧しさとか何となく分かってるじゃないですか。ウチは貧乏なんだなって漠然と理解してるじゃないですか。だからね、どうしても欲しいなんて口が裂けてもいえなかった。 お母さんと夕飯の買い物とかいくんですけど、今で言うショッピングセンターってやつでしょうか、スーパーにちょっとした服売り場とか雑貨売り場、文房具売り場、おもちゃ売り場みたいなのが併設されたチンケな店があったんですけど、そこに行く度にですね、おもちゃ売り場にギャバンの人形が飾ってあるんですよ。 ガラスケースの上に銀色に輝くギャバンが猛々しいポーズで飾ってあるんです。もう、心鷲掴み。いっそのこと盗んでやろうかと思ったくらい心惹かれてしまったんです。 でも、やっぱり「欲しい」なんて口が裂けても言えない。だってウチのお母さん、「ネギはあっちの店の方が4円安い」とか言ってるんですよ。ギャバンが欲しいなんて言えるわけないじゃないですか。 ガラスケースの上に鎮座する銀色の雄姿を眺めながら、僕が大人になったら初任給でギャバンを2000個くらい買ってやる、そう堅く心に誓うpato少年だったのでした。 けれどもね、この時期の少年って願いが叶えられないなら叶えられないで別の願いを見つけるもんでしてね、夢の代替品とでも言うのでしょうか、例えるならば大塚愛さんとおセックスしたいんですけど、どう考えてもそれは難しい、2桁くらいの刑法を無視しないと叶えられそうにない、そうなってくると大塚愛さんに似た女性を探すようになるでしょ。で、そんな探すって言っても僕のように顔を見ただけで乳飲み子が泣き出すような歴然たるブサイクフェイスでは難しいですから、ちょっと似てる女とか、背格好が似てる女、血液型が同じ女、最終的には女であれば良いよ、オッパイだけでいいよ、ってなるじゃないですか。 こんなね、6月から住民税が跳ね上がって途方もないことになるような世知辛い世の中ですよ、僕らの願いなんてそうそう叶えられるもんじゃない、僕らの人生は常に我慢と妥協の産物だ、そうなるとね、やっぱ子供の頃からそうやって願望を代替するスキルを身につけておかないとダメだと思うんですよ。 文豪、川端康成の作品に「虹色のバッタ」というものがあります。少年達の間でまことしやかに噂される虹色のバッタの存在。康成少年は次第にその存在に惹かれていきます。日が暮れるまで野原を探しても虹色のバッタは見つからない、疲れ果てた彼はいつしか野原に転がる別な物で欲求を満たすことを覚えます。雑草をかきわけ犬の糞を見つけた少年は、親戚の家で育てられていた自分の姿に重ね、その存在に奇妙な親近感を感じるようになります。求めるものが幻のバッタであっても、犬の糞であってもそう大差はない。何かを見つけること自体が幸せなのだと。日ごと犬の糞を集め、心の中に狂気を宿していく少年のお話。 まあ、この話、清々するくらい嘘なんですけど、そんな作品存在しないですけど、とにかくそういうことなんだと思います。よく分からないけどとにかく願いが叶えられないなら叶えられそうな手頃な願いで妥協する、それが大切なんです。 で、ギャバンのフィギュアが欲しかった少年patoはどうしたか。フィギュアよりも安価で手に入り易そうな妥協の産物、ギャバンのメモ帳に目をつけたんです。おもちゃ売り場の隣りにあった文房具売り場に燦然と鎮座されるギャバンのメモ帳、表紙がなんかこっちが恥ずかしくなるくらいの決めポーズなギャバンでね、これを手に入れたいと熱望するようになったのです。 普通に考えると、メモ帳の方が安いですし、なにより「勉強に使うから」とでも言えば買ってもらえそう、フィギュアよりも手に入りやすいものと言えます。当時の僕は、やっぱり色々とラクガキとかして遊びたい年頃でして、広告の裏にガリガリと落書きして遊んでいたのですが、やはりメモ帳に落書きして遊びたい、広告の裏ってツルツルしてるヤツだと鉛筆で書きにくいんだよ、と熱望したのです。 「お母さん、ギャバンのメモ帳欲しい」 「ダメ!」 夢ってヤツは思っていたよりも簡単に敗れ去るもので、あえなく撃沈。もうしょうがないのでツルツルの広告の裏にギャバンの絵を描いて弟に「これはギャバンのメモ帳だ」と安っぽい催眠術のように信じ込ませていました。弟はバカだから「ギャバンカッコイイー!」とか言ってた。 しかし、そんな不憫な僕でも平等に希望の光ってやつが差し込んでくるもんで、予想だにしない幸運が舞い込んできたのです。 「おばちゃんな、○○にいるんやけど、欲しいものあるか?」 離れて暮すお婆ちゃんからの電話。もちろん、○○ってのは件のショッピングセンターのことです。直訳すると、今から家に行くけど何か買ってやるよ、ってことのようです。 心躍りましたね。何せお婆ちゃんは結構な確率で欲しいものを買ってくれる、いわばボーナス面みたいなものですから、とにかく何かしら期待の品を買ってもらえる。けれども同時に迷いもしました。どっちを買ってもらったらいいのか。 普通に考えたら第一希望であるギャバンフィギュアを要求するのが当然です。しかしながら、以前にもお婆ちゃんはフィギュアに対してあまり良い顔をしなかったという前例があります。お婆ちゃんは半分ボケてるので、人形には魂が宿ってると考えるそうで、あまり買いたくないようなことを漏らしていました。 つまり、ここでギャバンフィギュアをオーダーしようものなら、お婆ちゃんそんなもんかわへんわ!と全てがオジャンになる可能性が極めて高いのです。それならば、確実に買ってもらえるであろうギャバンメモ帳、こちらを要求する方がいくらか賢いといえます。ここでも夢の代替的な思想が役立つことになります。 「お婆ちゃん!僕、ギャバンのメモ帳が欲しいよ!」 純真無垢、天真爛漫、圧倒的な無邪気さでそう要求したのを今でも覚えています。 「わかった、すぐいくわ」 電話を切った僕は五里霧中といった趣でお婆ちゃんの到来を今や遅しと待ち構えます。ああ、あのギャバンのメモ帳を手に入れることが出来る。圧倒的なまでに未来的なあの銀色のボディが踊るメモ帳が手に入れられる。何を書こうか、いやいや、何も書かずに大切に保存しておこう。もう、玄関で仁王立ちしてお婆ちゃんを待っていました。 「久しぶり!ちゃんといい子してたか?」 タクシーで我が家に乗りつけたお婆ちゃんは、久々に会う孫にご満悦な様子。僕だって1ミリもいい子にしてなかったのですが、満面の笑みで 「うん!」 とか嘘8000な返事をします。で、お婆ちゃんが何やら自分で漬けた漬物だとか干物だとか、買ってきた子供服などを次々と袋から出していきます。僕はもう、気を失いそうになるくらいの胸の高鳴りを覚えながら次々と出てくる戦利品を眺めます。ああ、あそこからギャバンのメモ帳が出てくる! 「ほれ、買ってきたで」 お婆ちゃんがシワクチャの手で差し出した紙袋、間違いなくその中にメモ帳が入ってるであろう重量感がありました。震える手で受け取った僕は、まるでテキサスの荒くれ者が女性のドレスを引き千切るかのような荒々しさで紙袋を破りました。 「やったー!お婆ちゃん大好き!」 そう叫びながら剥き身となったその商品は、 「ジャポニカ学習帳」 いやいやいやいや、おかしいじゃない。むしろ面白いじゃない。 なんかジャポニカ学習帳の自由帳っていう、真っ白な紙が綴られたノートが鎮座しておられるんですよ。その時の表紙シリーズが「せかいのどうぶつ」シリーズで、ロバの偽物みたいな動物がウンモーって顔して表紙を飾ってました。 もう落胆が大きいというか、人生の全てがどうでもよくなったというか、とにかく期待が大きかっただけにその反動も大きくて、その場で泣き出しちゃいましてね。 「あんなにギャバンがいいって言ったのにー!」 って狂ったように泣くものですからお婆ちゃんもパニック。お婆ちゃんにしたら落書きできるノートなら何でも良いと思って買ってきたのに、孫がこの世の終わりみたいに泣き出すものですから、途方もなく狼狽してました。 「こら!せっかく買ってきてもらったのにその態度はなんだ!」 悪いことにそこにウチのキチガイ親父がやってきましてね、どうにもこうにもこの人がやってくるとハッピーエンドになったためしがないのですが、とにかく「ギャバンのメモ帳が良かったのに変なロバの自由帳になってしまった」という事情を涙ながらに切々と説明すると 「よし、お父さんがギャバンにしたる!」 となにやら絵の具を持ってきましてね、銀色を作ってジャポニカ学習帳の表紙に塗り始めたんですよ。しかも絵の具で銀色ってなかなか作れるもんじゃなくて、ネズミみたいな汚い灰色を塗りたくりやがりましてね、ただでさえ気持ち悪いロバがひっどいことになってました。おまけに「ぼくギャバン」とかいう、そんなのギャバン本人は絶対に言わないセリフつき。もうどうしようかと思いました。 ギャバンのフィギュアが欲しかった、けれどもそれは叶わないだろうからギャバンのメモ帳が欲しかった。でも、その願いすら叶わなかった。変な灰色の汚いロバに成り下がった。でもね、やっぱ代替って大切なんですよね、最初こそは泣き叫びましたけど、落ち着いてみてみるとこのロバもなかなか捨てたもんじゃない、それどころか、広告の裏じゃなくてれっきとした自由帳に落書きできる環境を喜ばねばならない、とさらに願望の代替を見せたのです。 結局のところ、僕らの欲望は際限を知ることがない。願いが叶うならそれ以上の願いを手に入れたがる。永遠に満たされることのない酒樽のようだ。どうせ満たされないなら膨らむのを避ければ良い、つまり満たされないまま次々と願望のランクを下げていく、それがこの世知辛い世の中を幸せに生きる手段なのかもしれない。そうやって願望の代替が出来る人こそが真に素晴らしいのかもしれない。 さて、メモ帳の話が出ましたので、極めてナチュラルに現代の話に戻しますが、最近は便利になったものですね。パソコンを使うたびに痛感します。僕は前述のように子供の頃から落書き的に何かを書けるものってのが必要なくらい、気がついたら何かを書いてることが多かったのですが、最近ではこのパソコンがその落書きを受け止める役割を果たしている。 windowsに標準で搭載されている「メモ帳」機能はまさに子供時代の「自由帳」「広告の裏」の代替といえよう、気がついたときにサッと立ち上げてサラサラっと重思いついたことを書ける。しかも保存までできてしまうという優れ物。ギャバンメモ帳ほどじゃないにしろ、かなり未来的なメモ帳を手に入れたと言えるんじゃないだろうか。 さて、そんな風に思いついたらそくメモ帳を起動させて文章を書く、で、保存して仕事に戻る、なんてことを繰り返して仕事用パソコンを自由帳の如く使い倒してるもんですから、デスクトップがえらいことになってましてね。 「hhhh.txt」「asdf.txt」「mmmnb.txt」とか、どう見ても適当にファイル名つけたとしか思えない自由帳ファイルが山のように存在するんですよ。だいたい40個くらいはありますから、画面いっぱいにドワーッとファイルが広がってるんです。 さすがにそりゃないってんで、この間、すごい久々にそれらのファイルどもを開いて読んでみたんですよ。 「祭りの話し書く、好きな子と夜祭、火を焚いて五穀豊穣を願うっぽい祭、彼女の主にセックスを司る部分が祭りの火で燃えあがればいい、いったら彼女といい感じ、ウチのキチガイ親父が火だるまになってた」 とか、何か日記のネタを書き留めたんでしょうね、なんかちょっと片言でそれっぽいことがメモしてあったんですよ。 さすがにこういうファイルはその書き留めた理由が分かるんでいいんですけど、ひどいのになると 「チンポと乳首が入れ替わってしまう悲しい男の話→精液が母乳に!」 とか、書いた人間の精神構造を疑わざる得ないファイルが飛び出るからさあ大変。何がチンポと乳首だ、それよりもそれで何を書こうとしてたんだ。もっと許せないのが矢印で指定してまで書いてる「精液が母乳!」ですよ。ホント、これ書いたやつ許せない。絶対に許さない! 他にも酷くて、 「コブクロってあれだろ、キンタマ袋みたいなもんだろ」 とか、コブクロファンが般若になってギターで殴ってきてもおかしくないこと書いてあるんですよ。というか、僕はコレをメモ帳に書き留めて何がしたかったんだ。 「こらえてつかーさい!こらえてつかーさい!」 こんなのが出てきた日には、何がしたかったんだというのを超越して、ホントにこれ僕が書いたの?スーパーハッカーがパソコンに侵入して書いたんじゃないのと思うしかありません。 半ば呆然としつつ数多くの自由帳ファイルを眺めていたのですが、その安らぎのひと時を突き破るかのように電話がかかってきました。 「もしもし、総務の山岸ですけど。頼んでおいたファイルどうなってるんですか!」 と、お怒りの電話ですよ。社内一エロいと噂の、飲み会で酔った勢いでチンポをチュッパチャップスしたと噂の、総務オブジョイトイの名を欲しいままにしているエロ女子社員山岸さんが、電話越しでも般若の形相と分かる勢いでお怒りになられてるんですよ。 なんか、昔の仕事で使ったファイルを送る約束をしていたのをすっかり忘れていた僕はバツが悪いやら何やらで 「アイヤー!」 と偽物中国人っぽく言ったのですが、許してもらえませんでした。 「今すぐ送ってください!」 「は、はい!」 と電話を叩き切ったんですけど、なんだか無性に腹が立ってきちゃいましてね、ったく山岸のヤツエロ女子社員のクセに怒るとは何事だ、同じ怒るにしてももっとこう「フェラチオするぞ!」とかほのかなエロを織り交ぜて怒れないものか、それが総務オブジョイトイの勤めだろうが!とひどく立腹してしまいましてね、怒ったのと同時に思いついてしまったのですよ。 「職場一のエロ山岸さんの乳首と僕のチンポが入れ替わる→精液が母乳に!」 これをメモ帳にまたメモして保存、よしっと一仕事終えた満足感に包まれていたのです。 いかんいかん、いつもこんなことしてるから約束を忘れるんだ、とふっと我に返ってですね、急いで社内メールソフトを立ち上げて山岸さんにメール。 「遅れて申し訳ありません、約束のファイルを添付いたします。ご確認ください」 とひどく下手に出てファイルを送ってやったんですよ。うんうん、そうそう、そうだね、きっとそうだね、ここまでかいたら分かるよね!そうだよ!そのとおりだよ! 僕は、仕事用のファイルでも、件の落書きファイルでもまともなファイル名つけて保存しませんから、山岸さんが求めてるファイルを送ったつもりになってたんですけど、どう考えても落書きファイル送ってましたからね。ご丁寧に 「コブクロってあれだろ、キンタマ袋みたいなもんだろ」 「職場一のエロ山岸さんの乳首と僕のチンポが入れ替わる→精液が母乳に!」 の2つのファイルが仕事ファイルに混じって送付されてました。 いやいやいや、落ち着いて考えてみてください。どうか落ち着いて考えてみてください。あなたが女性で、比較的エロであったとして、それでも真面目に仕事していたとします。仕事終わったらチンポ食べたいわーとか思いつつも、それでも真面目に仕事している山岸さんになって考えてみてください。 で、バカな同僚が約束のファイルを送ってこない。怒りの電話をかけたら中国人みたいになってる。この時点で危ないですが、やっとファイルが送られてきたと思ったら上記の2つですよ。そう、そんな感じで上の二つを読んでみてください。 ええ、そうですね、コブクロだろうが金玉だろうが何でもいいですね。とにかく、次は法廷で会うしかない、そう思うだけのポテンシャルが精液母乳のメモにはあります。実際の山岸さんもそう思ったに違いない。 もう仕方ないのでどうにでもなれ、とついでに 「こらえてつかーさい!こらえてつかーさい!」 の追加メモも送っておきました。 もうこの職場にいられない。そろそろ代替的な職を探す時にきているのだろうか。「住民税も高すぎるし職場変わりたい」無理っぽいから「せめて山岸さんが騒ぎ立てないで欲しい」それもありえないっぽいので「せめて騒いだとしてもセクハラで処分とかされたくない!」「されてもいいけど減給はやめて!」と徐々にランクダウンしていく願望をメモ帳に書き綴るしか出来ませんでした。 とにかく助けてギャバン!これも宇宙刑事の出る幕じゃない。 6/19 パラダイム 若いヤツってのは頭の中にチンコでも詰まってんじゃないか。 僕も30歳となり、加齢臭がプンプン漂っていることは明白、そろそろレノアしなくっちゃ、と思っているのだけど、少し若い世代、20歳くらいの新人フレッシュメンと会話していると脳天をかち割られたような衝撃を受けることがある。 まず、話が通じない。ビックリマンチョコが大流行して、金持ちのガキがシールだけ抜き取ってる横でチョコを貰って喰らう話だとか、初めてスーパーマリオブラザーズをプレイした時に面白すぎてオシッコ漏らしそうになった話、連続ドラマ「毎度おさわがせします」を見てチンポビンラディンになった話が通じないって言うんだから、これはもう人間的に種類が違う、生物学的に言っても別個の生き物と言わざるを得ない。お前、「毎度おさわがせします」の第1話のタイトルなんて「こんにちはポコチン」なんだぞ、最終話なんて「走れポコチン」、頭が狂ってるとしか思えない。 そんな話が通じないのはもちろんとして、時にその精神構造が理解できないことがある。 これは以前にいた職場での話しなんだけど、このカスである僕ですらも年功序列という恩恵に預かって、ある程度偉い立場になってしまいましてね、若い後輩を叱り付けなきゃいけなくなったんですよ。 もう悩みましたよ、悩みぬきました。どう考えても僕自身がクズで、たまにパンツにウンコとかついてますからね。そんな人間が怒るんですよ、圧倒的他者を叱りつける。もし僕が怒られる立場で、そいつがクズでパンツにウンコとかついてたら逆に怒ってやりたいっすよ。 とにかく、そんな葛藤があるもんですから、なかなか後輩を怒ることができなくてですね、怒らない人ってのは決して優しい人とかじゃなくて単に自分に自信がない人なんだって痛感してたんです。 で、何か怒るネタはないか、このままでは後輩がどんどん付け上がってしまう、もう完全に舐められてて「あー、先輩、ちょっとコーヒー買ってきてくださいよー」って舌たらずに言われた時に決意しましたよ。絶対に怒ってやると。 で、怒るネタを探した結果、その後輩が結構だらしなくて、デスクが異様に汚かったんですよね。もう書類は散乱してるわ、食いかけのクッキーとか変な色になってるわ、挙句の果てには食い終わった「どん兵衛」のカップが汁が入った状態で放置してあってスパイシーな匂いを放ってたんですよ。 これはもう怒るしかない。泣くくらい怒ってやる!と血気盛んに意気込みましてね、舐め腐った後輩がデローンと出勤してきた時に言ってやりましたよ。 「こ、こらっ!カップラーメンのカスとか捨てなきゃダメじゃないか!放置してるとみんなに迷惑だろ!」 と、少し弱気、果たしてそれで怒ってんの?というフィーリングで言ったんですよ。でも、優しい先輩、つまり僕ですが、温厚な僕が怒ったという事実に心を痛め、さぞかし後輩も心を痛めてるんだろうなって期待したんです。コレを機に彼には真っ当な人生を歩んで欲しい、そう心を鬼にして怒ったんです。そしたらアンタ、 「これはカップラーメンじゃありません!どん兵衛はカップウドンです!」 とまあ、えらい剣幕で怒ってるんですよ。名もなき強盗に両親と最愛の妹が惨殺されたくらいの勢いで怒ってるんですよ。もう意味が分からない。 「あ、うん、ごめん」 何でかしらないけど僕、謝ってましたからね。意を決して叱り付けて逆に謝っちゃう、タイムマシンでやってきた僕の子孫が見たら涙するに違いない弱々しさです。 そんな情けなさとは裏腹に、やっぱ良く分からないのが若い人の精神構造ですよ。僕なんか怒られちゃったら「カップウドン」なのに…と思いこそはすれ、それを盾に反論なんかできない。できるわけがない。なのに最近の若い人は平然としてきますから、もう皆目理解の範疇を超えてるとしか思えない。 でもね、これは何も今の若い人達がおかしいとか、狂ってるとか、キチガイだとか、ついでに若い娘はやらせろよ、とかそういうわけではないんですよ。これはね、至極当たり前のことなんです。 いつの時代も価値観ってのは移ろい行くもので、言葉が乱れていくのと同じで常識だとか考え方だとか、そういうのも年代によって変わっていって当然なんです。僕らなんかは子供の頃に公園に落ちてるエロ本を見つけて大ハッスルしたものですが、今の子供なんてインターネットでポンッ!ですからね、そりゃ色々と変わってきます。回りの環境が違ってるんですもの。 つまり、僕が「若い人の考えは理解できない」と言うのと同じように、僕より年配の人々はやっぱり僕のことを理解できないって思ってるんです。接吻だけで大興奮だった年代の人なんか、間違いなく理解しあえるわけないんです。それが当然で当たり前のことなんです。 さて、先日のことでした。 我が職場でも定年を迎えて退職なさる方がおられまして、いわゆる団塊の世代というヤツでしょうか、とにかく最近多くてまいってるんですよね。で、退職前にその人、名前は大林さんとでもしましょうか、大林さんが荷物を引き上げるのを手伝いにいったんです。 後輩の佐竹君、彼は20歳のフレッシュメンなんですけど、彼を伴って手伝いにいったんです。ここで注目して欲しいのは、定年間近の団塊大林さん、30歳加齢臭の僕、20歳フレッシュメンの佐竹君、と見事に3世代、それも互いに互いのことを全く理解してなく、「最近の若い者は…」なんて思ってるのが揃ったのです。 大林さんの部屋まで行くと、大林さんは少し感慨深げでした。たぶん40年くらい勤めてずっとこの部屋で仕事に明け暮れ、1日の大半を過ごしたのでしょう。時には悲しいことも悔しいこともあったかもしれない。息子さんが生まれたと聞いたと時は人知れず部屋の中でガッツポーズをしたかもしれない。言うなれば、この部屋に大林さんの思い出の数々が詰まっている。思い出の宝石箱や!かもしれない。 大林さんはそう言わんばかりに感慨深げ、遠い目をしてブラインドの隙間から外の景色を眺めて佇んでいました。 うんうん、分かりますぞ大林さん。思い出深い部屋なんでしょうな。「やっと退職だよ、これで苦役から開放される」なんて笑顔で毒づいてみたってそれは照れ隠し、40年もいた場所に何も感じないはずがないんですよ。 そんな大林さんを見て、僕も心中を慮って少しウルッときていた時でした。 「まあ、チャッチャッとやっちゃいましょう」 極めて軽やか、頭の中ヘリウムガス、渋谷のチーマーみたいな感じで佐竹君が言うじゃないですか。あまりの軽やかさに大林さんの想いが踏みにじられた、レイプされたくらいに感じてました。 やはり、驚いたのか大林さんも目を丸くしていたのですが、そこはやはり年配の方ですよ、手伝いに来た僕らを気遣って 「そ、そうだね。早くやっちゃおう。悪いね、手伝ってもらっちゃって」 と冷や汗混じりに言うんですよ。 「そうっすよ、今日見たいドラマあるんで早く帰りたいんで」 もう黙って!誰か佐竹君を黙らせて!どっかの魔法使いが彼の言葉を奪って欲しい、そう思ったのです。 さて、着々と大林さんの私物がダンボール箱に納められ、仕事用の書類やなんかも収納されていきます。大林さんは一つ一つ噛み締めるように作業していきます。きっと、その一つ一つの備品にもまた思い出が沢山あるんでしょう。うんうん、うんうん、思い出深いよなーとその光景を見守っていました。 ふと、僕が手にした荷物におそらく息子さんと奥さんでしょうか、幸せそうな顔した大林さんと共に映った写真立てがありました。写真の中の大林さんは若々しく、頭髪も黒々としていました。 「大林さん、この写真どうします?」 明らかにゴミという場合を除いて大林さん本人に持って帰るか捨てるか訊ねることになっていたのですが、もちろんその答えは明白で、 「ああ、持って帰るよ」 そこで僕は私物用のダンボールに写真立てを入れながらこう言ったんです。 「綺麗なとこですねー、○○山ですか?」 見れば誰でも知ってるような有名な観光地でしたから、ちょっと大林さんのセンチメンタルジャーニーな気持ちをつついてみようと掘り下げてみたんです。 「ああ、○○山だよ、この頃はまだ子供が小さくて大変でねえ…仕事も大変な時期だったし…」 また遠い目をする大林さん。どうもこの年代の人ってのは異様に感傷的というか涙もろくなってるみたいで、今にも泣き出しそうな顔するんですよ。僕もその様子をうんうん、うんうん、と眺め、僕は写真嫌いでほとんど写真撮らないんだけど、こうやって思い出に浸れるなら撮ってもいいかな、でも今撮るとデジカメとかになるからデジタルデーターで残すのかなあ、ハードディスク吹っ飛んだらそのまま写真ごとなくなりそうだ、なんて考えてたんです。 「でも、ほんと景色も綺麗だし奥さんも綺麗ですねー」 そう言うと黙々と作業していた佐竹君が食いついてきました。 「マジっすか!?ちょっと見せてくださいよ!」 こういう会話にマジもクソもないのですが、妙に食いついてくる佐竹君、全くコイツは!と思いつつ彼にも写真を手渡しました。 「うーん」 それを見て難しい顔をする佐竹君。おいおい、大林さんお前だぞ、まさか「言うほど奥さん綺麗じゃないっすよ!」とか正直なこと言い出さないだろうな、大林さんの頭髪の話とかしないだろうな、とハラハラドキドキ。そしたら佐竹のヤツ、こう写真の端のほうを指差しながら 「これって心霊写真じゃないっすかね、変な影が映ってる」 とか言うんですよ。誰か彼の息の根を止めて!早く止めて!完膚なきまでに止めてあげて! あのですね、変な影が映っていたとしよう、いるはずのない人が映っていたり、恨みがましい女性の顔が映っていたり、そんなの見てギャーギャー騒ぐのは別にいいんですけど、もっとこう時と場合を考えなきゃダメじゃない。少なくともこの写真を良い思い出として胸に秘めてる大林さんの前で言っちゃダメじゃない。それならハゲ指摘したほうがまだ救われるわ。 そんなこんなで気まずい雰囲気漂う中、なんとか荷物の運び出しも終了、ガランとした空洞みたいな何もない部屋だけが残されたのでした。しかしながら、最後の大物だけが残されていました。それは、大林さんが40年間ずっと使ったであろうデスク。年代物のなんとも重厚な雰囲気漂う逸品。お宝鑑定とかに出したら良い値段がつきそうな素敵な品物です。 「もう捨てるって言うからさ、これだけは家に持って帰ろうと思ってさ」 きっと、この部屋と同じようにデスクにも愛着があるんでしょう。思い出という名の塗料がベットリと染み込んでいるのでしょう。どっかから借りてきた軽トラで家まで運ぶというのです。 「わかりました、では運び出しましょう」 早速、僕と佐竹君が両端を持って運びます。さすが重厚な雰囲気のデスクだけあって本当に重い、両腕が千切れそうなくらいに重くて、大林さんの思いの重さを痛感しました。 「やっべ!重い!もう捨てちゃった方がいいんじゃないすか?」 佐竹のバカのセリフは聞かなかったことにしてなんとか運び出そうとするのですが、ここで大問題発生。なんと、デスクが大きすぎてドアのところを通らない。これでもかってくらいに通らない。 「うわー、通りませんね」 「ってか、このデスク買った時、どうやって部屋に入れたんですか」 大林さんが住んでいた部屋は古い建物です。木製の重厚なドアが燦然と輝いていて僕らの行く先を、大林さんの思い出を通せんぼします。 「買った時はね、こっち側も開いたんだよ…」 見ると、ドアの両側が開くような構造になってたのですが、たぶん両方開くとか面倒だったんでしょうね、片側だけ開くように使わない側に木の棒が打ちつけられてたんですよ。木の棒がシッカリとドアの片側を固定してて開かないようになってたんですよ。 「あー、こっち側のドアさえ開けば通るのにな…」 「そうだ、大林さん、この木の棒、切っちゃいましょうよ!」 僕のナイスな提案でした。この打ちつけてある木の棒さえ切ってしまえばドアの両側が開く、そうすれば簡単にデスクが通るのです。見たところ、その木の棒もショッボイものでしたから、ノコギリがあればいとも簡単に切れそうでした。 「いや、いいよ、少しでもこの部屋を傷つけるのは忍びない。もうデスクをバラバラに壊して捨てちゃおう。バラバラにしちゃえばこのままでも通るしね…」 そう言った大林さんは寂しそうでした。きっと、思い出深いこの部屋を、例えドアを固定している木の棒といえども傷つけたくなかった。思い出の詰まったデスクを持って帰りたいなんて自分のワガママだ、それならば壊してしまえばいい。 部屋の思い出を綺麗なまま守るために同じように思い出の詰まったデスクを壊す、その大林さんの決意がキュッと僕の胸を締め付けました。 「やった!まじっすか!ストレスたまってんですよ!思いっきりボコボコにして壊しちゃっていいっすか!」 まあ、佐竹はどうでもいいとして、やはり大林さんのデスクは持って帰らせてやりたい。けれども部屋を守りたいという意思も尊重したい。ここで奇想天外な脱出トリックでも思いついてデスクごと部屋の外に出せたらいいのですが、あいにくそういうわけにはいきません。悩みに悩みぬいた僕は、一つのことに気がつきました。 きっと、大林さんは僕らに遠慮してるんだ。 これからもこの職場で働いていく僕らを前にして、たとえつっかえ棒でも傷つけるなんて言えない。そりゃ大林さんだって木の棒くらい切りたいですよ。それでこの部屋が傷つくなんて言えないレベルなんですから。でも、僕らに気兼ねしてデスクを壊すなんて言ってる。 「大丈夫ですよ、こんな木の棒くらい誰も何も言いませんよ、僕らも黙ってますし。切ってデスク出しちゃいましょう。ノコギリ借りてきますね」 そう言うと大林さんは少し優しく微笑みました。 僕は急いでノコギリを借りに行き、再度大林さんの部屋へ。そこに電話がかかってきました。 なんでも、退職関連の儀式というか何かの手続きが必要らしく、至急来てくれという電話でした。 「悪いね、ちょっといってくる」 大林さんはバツが悪そうにしていそいそと出て行きました。 「大丈夫ですよ、運んでおきますんで!」 さあて、作業にかかりますか、となったのですが、悪い事ってのは重なるもんで、タイミングの悪いことにそこに来客、なんでも僕と打ち合わせをする約束をしていた他者の人がやってきたんですよ。 こりゃあ約束をしていたのはしょうがない。悪いな佐竹、すぐ戻ってくるから待っていてくれ、運ぶのは二人いないと無理だろうから、この木の棒だけ切っておいてくれないか、そう頼んだのです。 「ここだけ切っておいてくれ、すぐ戻る」 確かにそう言ってノコギリを手渡したのです。 で、不安なので少し離れた場所で他社の人と打ち合わせをしつつ、聞き耳をたてていたのですが、まさか佐竹のヤツ、一人になったからってサボらないだろうな!と思っていると、姿こそは見えませんがギコギコと木を切ってる音がするじゃないですか。うんうん、やってるやってる。 でもね、ここから様子がおかしいんですよ。悪いことに打ち合わせが長引いちゃったんですけど、その間ずっとギコギコ音が聞こえてるんですよ。 やけに長いな、思ったよりあの木が固くて切るのに時間かかってるんかな そう思いながら打ち合わせを続けます。やっとこさギコギコ音が消えたかと思うと、今度はガタンゴトンと騒々しい音が聞こえてくるんですよ。もう何が起こってるのか心中穏やかじゃないですよ。 で、やっとこさ打ち合わせも終わり、相手の人と別れて振り向いたその瞬間ですよ。そこには一人でギリギリとデスクを運ぶ佐竹君の姿が。 「いやーあまりに遅いんで一人で運んじゃいました、テヘッ!」 そうやってはにかむ佐竹君がちょっとカワイイと思いました。この、カワイイ後輩め! 「ごめんごめん、一緒に運ぼう」 そう言って用意されていた軽トラにデスクを運び込みます。そこに手続きを終えた大林さんも帰ってきて、 「ごめんねー重かったでしょ」 「いやー、ほとんど佐竹君がやったんで。あの木ってさ、むちゃくちゃ固かった?ずいぶん長いこと切ってたみたいだけど?」 「むっちゃ固かったっすよ!手が痺れましたもん!」 そんな会話をしつつ、今や何もなくなった大林さんの部屋だった場所に戻ります。最終確認も兼ねて、何もなくなった部屋で大林さんに思い出に浸ってもらおうと思ったのですが、3人で仲良く戻ってみてビックリ、そこに想像だにしない光景が広がっていたのです。 いやね、重厚な木製のドアあったでしょ、片側が開かないように棒がつけてあるから、その棒を切っちゃえって佐竹君にお願いしたドア。本来なら晴れて両開きになったドアがそこに鎮座しておられるはずだったんですよ。しかしね、見てみるとあらら不思議、大量の木屑と共に、デスクの形にくりぬかれたドアが。 モロンって感じでデスク型の空間がドアについてましてね、そこから眩いばかりの太陽光線が入り込んでるんですよ。もう、意味が、分から、ない。そりゃ手も痺れるわ。 あまりの出来事に、僕も大林さんも口をパクパクさせるしかなくなっちゃいましてね、あれだけ言ったのに何しでかしてるんだ、それより、ドアごと切るか?普通。ってか、片方は開くんだから切らなくていいだろ、と言いたいことが山ほどありすぎてもう何も言えない状態。頭の中にニューカレドニアでも詰まってんじゃなねえか。 獲物をとってきた猫みたいに誇らしげな顔している佐竹君を見て、やっぱ若い人ってのは何考えてるかわからねーわ、と思ったのでした。大林さんもそんな顔をして、我が職場から旅立っていかれました。 自分と違う世代の人のことなんて理解できなくて当たり前。育ってきた環境が違うんだから、考え方が違って当たり前なのです。僕は佐竹君の奇行が理解できない。けれども、もっと年代が進んで僕が大林さんくらいになった時、その時の若い人ってのはこのクレイジー佐竹でも理解できない奇行の持ち主ということだ、プラスチック爆弾でドアごと爆破したりするんだろうか、そう考えるとそら恐ろしいものがあります。 なんにせよ、若い世代の考えることは理解できなくて当たり前、けれども、職場で、 「えー、普通パンツにウンコつくよ、ア・リトル漏らしちゃったりするじゃん!」 と職場で言ったところ、誰にも理解できず「汚い!」「今日カレー屋さんいくつもりだったのに!」「ありえない!」「死んで!」「生まれてこないで!」と同年代にすら総スカンだった僕は、同年代の考えてることは分からん!と憤慨するのでした。 6/12 パンキッシュ☆ 職場のブスがビロビロとパンティ丸出しで、まるで蝶のように右へ左へとオフィスを舞う姿を眺め、言葉とはなんと重くて雄大なものだろうと物思いに耽るのだった。 僕らは、母国語つまり日本語については勉強しない。もちろん勉強してきた記憶もない。それは小中高と国語の勉強をしたり、文学を専攻したりといった学問としての国語はあるかもしれないけど、日常会話において国語の勉強を意識しないはずだ。 例えば、辞書を引く、現代ならインターネットでその意味を調べる、恥を忍んでその意味を尋ねてみる、そういったことを日常会話レベルの日本語で行わない。 確かに、少しインテリジェンスな同僚が、まあこいつが女性の誕生日に生まれた年のワインを贈りかねないくらいの鼻持ちならないヤツなのだけど、そいつと会話していて、 「まさに天佑神助だよね」 なんて意味不明な言葉を用いてきた時、その場はちょっと引きつった笑顔で 「ははは、そうだよね、天佑神助としか思えない!」 などと引きつりながら答えるのだけど、後になって必死で辞書を引く、なるほど、「天佑神助」は天の助けとかそういう意味か、と納得する。次からはしたり顔で使ってやるぞと決意する。そういう時くらいしか日本語を調べない。 では、これが「雨」という言葉だったらどうだろうか。とてもじゃないが、「雨」を一生懸命辞書で調べる日本人はほとんどいないだろう。では、学校で習ったのだろうか。それもない。空から降ってくる水滴は雨と言います、などと概念を習った記憶はないはずだ。そりゃあ、低学年の時に漢字を習うことはあるかもしれないが、基本的に「雨」そのものを誰かに習うことはないと思う。 では、なぜ僕らはあの水滴が「雨」であると知っているのだろうか。よくよく考えてみるとそれは偉大なる過去の積み重ねであることに気がつくはずだ。 いつ頃かは分からない。ハッキリとした日時が分かるわけでもない。それでも幼きある日、周りで誰かが会話したかもしれない。お母さんやお父さんが、空から落ちてくる水滴を眺めて「雨が降ってきた」と言ったかも知れない。あるいは、絵本やなにかで、「雨」と表現していたかもしれない。 成長していく過程で僕らはあの水滴が「雨」であると自然に知るだろう。そして、体育祭や遠足が「雨」で中止になるたび、遊園地に行く予定がダメになるたびに雨に対する認識があまり良くないもの変わり行く。 ドラマを見ると、切ない場面に雨を降らせる演出が続く。大雨の中で泣く男女、多用される陳腐な表現、それを見て「雨」に対する認識が次第に叙情的なものへと移り変わる。こうやって沢山の要素が絡み合い、「雨」という概念どころかイメージまでもが形成されていく。 では、あなたが触れ合ってきた「雨」の要素は誰が作り出したものなのか。あなたの周りの人間も、雨に関する表現をしている全ての人も、同じように誰かからイメージという要素を受け渡されている。遡っていくたびにそれはどんどんと過去の時代になっていくはずだ。 「春雨の やまず降る降る我が恋ふる 人の目すらを相見せなくに」 万葉集には上のような歌が詠まれている。春の雨が止まずに降り続いている、私の恋しい人に会わせないようにしているかのように、という意味だ。しんしんと降り続ける雨を眺めながら恋しい人を思い浮かべる姿が目に浮かぶ。 7世紀という古い万葉集の時代から雨に対する認識はそんなに違わない。少し切なくて叙情的、おセンチな気分にさせてくれる。そんなものだ。今の世も古き時代もそんなに変わらない、そのスケールの大きさに驚くばかりだ。 「雨」という単語一つにしても、別に誰かが後世に残そうとしているわけではない。けれども、その概念からイメージまでもが自然と受け渡されていく。連綿と受け渡されていくその言葉は蓄積されていき、今、この自分の中で一つの「雨」として居座っている。その偉大さや巨大さには驚嘆するばかりだ。 そして、それは「雨」という単語だけではない。日常使う全ての単語が、過去からの産物だ。連綿と受け渡されてきた概念とイメージの集合体、こうして僕らの言葉は成り立っている。そう考えるとなんと重く、なんと雄大なことかと気が遠くなる。 さて、話を戻して、我が職場、目の前におわすのは職場一のブス、というかもしかしたら東洋くらいは取れるかもしれないレベルのブス、それがパンティ丸出しで闊歩している。そんな短いスカートはいちゃったら丸見えだろうに、あろうことか彼女は少し満足気な表情で笑っていた。 同僚どもが視線を逸らし、おいおい勘弁してくれよといったヨーロッパサッカー並みのアイコンタクトが飛びかう。交錯する視線をかいくぐり、それでもブスはパンティ丸出しで花鳥風月と言わん勢いで舞っていた。 「あれはパンティなんかじゃない!」 その光景を眺め、僕は深い憤りに身を委ねていた。もう、天使なんかじゃないって勢いで言ってた。いま目の前にベロベロと舞っているものは絶対にパンティであってはならない。 僕は誰かから「パンティ」という概念を教わったことはない。「これはパンティです」とかセクシャルな女教師が教えてくれる授業があるなら是非とも受けたいのだけど、残念ながらない。 そう、パンティだって「雨」同様、これまでの人生の中で無意識に誰かから受け渡されてきたはずだ。その概念とイメージ、連綿と続く歴史の重みと共に幾多の場面で触れ合い、あるイメージが形成されていったはずだ。 高校の時、クラスの女子のスカートがめくれて水色のパンティが見えた。まるで季節ごとに行われる成年男子の勇気を試す祭、この丸太を手にしたものが今年一番の福男として崇められる、そんな祭りのような勢いで喜ぶ僕たち童貞男子。 小学生の時、修学旅行で行った先の遊園地でゲームセンターの野球拳に没頭していた僕。なけなしの小遣いから数百円使ってクリアすると、器械の下からゴロンとカプセル入りのパンティが出てきた。その瞬間、僕は命に変えてでも守るべき宝物を手に入れた。 社会人になり、1階のセクシーなお姉さんが窓際にヒョウ柄のパンティを干していた。ヒョウ柄なんて只者じゃない。寒そうに北風に揺られるパンティを見て、きっといあのヒョウはサバンナを駆け巡りたいに違いない、そう確信するのだった。 中学校の頃、身体検査の時にガキ大将の男の子が間違ってお母さんのパンティをはいてきていた。開き直ったガキ大将は、お母さんのパンティをはいて保健室で仁王立ち。前部の赤いリボンとお尻のラインの所にあしらわれたフリルが妙に印象的で、死ぬほど面白かった。 最後のはちょっと違うけど、どんなシーンにおいてもパンティとは喜ばしいもの、僕のピンク色の脳髄を刺激してくれるものだった。そう、受け継がれた歴史は間違いなくそれだった。 しかしながら、眼前にチロチロとみえるソレは、掛け値なしにパンティと思えるものの、全く喜ばしくない。脳髄を刺激しない。むしろ不愉快極まりないと述べても差し支えなかった。 「これがパンティであってはならない」 膝から下がガクガクと震える。言葉にならない言葉をグッと飲み込み、僕の胃袋を焦がす。それは歴史の否定に他ならなかった。受け継がれてきた歴史の否定、それは存在の否定だった。 「雨」の話に戻そう。僕らにとって「雨」とは、少し切なくてブルーになってしまうおセンチなものだ。それは、無意識に受け継がれてきたイメージと概念のバトンリレーの産物であることは既に述べた。しかしながら、その概念が根本的に違っていたとしたらどうだろうか。 ヨーロッパのとある農村では、時折不可思議な現象が起こることがある。急に空が曇ったかと思うと、雨と共に鮮魚が大量に降り注いでくるのだ。中にはピチピチと跳ねているものまであるらしい。 これは一説によると竜巻によって巻き上げられた海洋の魚が雨と共に降り注ぐと言われているが、その原因は完全には解明されていない。ここで注目したいのは「雨と共に魚が降ってくる」という点だ。 貧しい農村だったその村は、降雨ならぬ降魚に沸いた。これはいいと家に持ち帰り、煮魚にして食べる者もいたそうだ。そしてこの事実はその村にいた人間の「雨」に対する認識を変えてしまう。少なくとも、「煮魚が食べられる」というイメージが含まれてしまうはずだ。 「あ、雨だね」 「やだなあ、傘持ってこなかったよ」 「今夜は味噌煮だね!魚大好き!」 今日の日本においてこのような会話を交わそうものなら、即、鉄格子のついた病院に入れられるに違いない。 目の前にあるブスのパンティはまさに雨に混じった鮮魚そのものだ。完全なるイレギュラー、しかし、そのイメージすらも次の世代に受け継いでいかなければならない。これからきっと、僕はどこかで無意識のうちにパンティとは喜ばしくないもの、というイメージを誰かに与えてしまう。そしてそれが受け継がれ、いつの世か、誰もパンティを見たがらない、女たちも頑なに見せようとしない暗黒の世界が訪れるかもしれない。 冗談じゃない。 もうっとこう、パンティってのは喜ばしくて尊いものに決まってる。いがみ合う二人の青年がパンティを介して分かり合うとか、病気の少年がパンティ見せてくれたら僕、手術受けるよとか、そういう素晴らしいものでなくてはならない。こんなブスのものがパンティであっていいはずがない、こんなのちょっと汚い布だ。それ以下だ。 ということで、僕は決意したのです。今やネガティブなイメージが刷り込まれてしまったパンティのイメージ、それはもう僕の中では仕方がない。けれども、最低限、周りの人間に伝えてはいけないんじゃないか。このネガティブイメージが連綿と続くバトンリレーに組み込まれ負のスパイラルに陥ることだけは避けなければならない。 僕はもう、これから「パンティ」と発言しない。そうすることで周りにパンティのイメージを伝えない。それどころか、「パ」とすら発言しない。イメージってのは恐ろしいもので、たった一文字でも伝わりかねない、だからもう「パ」とも「パンティ」とも口にしないようにしよう、掛け替えのないパンティを守るため、そう決意したのでした。 さて、地獄のパンティオフィスをかいくぐり、誰もが少し胃もたれをしながら仕事終えて帰路へと着く。どこからともなく夕方の匂いがしてきて、落ち行く夕陽を眺めながら僕も帰り支度を整える。そこで少し仕事が残っていたのを思い出し、不本意ながら残業。 さあ、今日は家に帰ったら高校時代のあのパンティでオナニーしちゃうぞ! オナニーの予定が定まっていると心なしかウキウキしてくるから不思議だ。ハンドルを握り、我がオナニー御殿へとアクセルを踏み込んだ時にはすっかり夜になっていた。 15分くらいウキウキ気分で走った時だろうか、右前方から不可解な音が聞こえた。 パンッ! けたたましい音と同時にベロベロベロと何かがめくれる音がする。瞬時にハンドルを取られ、真っ直ぐ走るのも不可能、容赦なく車が蛇行する。 パンクだ! 危うく叫びそうになるが、そういえばパンティの悪いイメージを伝えないために「パ」は口にしない決意だった。 「タイヤの空気が何らかの理由で突如抜けてしまってベロベロになって走行不能だ!」 とっさの叫びであるはずなのに妙に長い。 急いで車を停め、見てみるとタイヤが完全にフニャフニャになってて完全なるパンク。 「あーあ、タイヤの空気が何らかの理由で突如抜けてしまってベロベロになって走行不能だな」 一人でガックリくる。 ここでうなだれていても始まらないので、ゴミ箱と化していたトランクを開けて工具とスペアタイヤを取り出す。手際良くジャッキアップして真っ暗闇の中、タイヤ交換を試みる。 「なんや、どうしたんや?」 そこに物珍しそうにワンカップを手にしたオッサンが。 「いやー、ちょっとタイヤの空気が何らかの理由で突如抜けてしまってベロベロになって走行不能になったんですよ」 「なんやパンクか」 「ええ」 真っ黒になりながら作業していると、そのオヤジはタイヤ交換を魚に酒を飲み始めた。一瞬でも手伝ってくれると期待した僕がバカだった。 「お、パトカーだ、手伝ってもらったらどうだ?俺が行ってきてやろうか?」 「いやあ、警察車両は助けてくれないでしょ、大丈夫ですよ、そろそろできます」 という会話をしつつ、 「ほれ!そこだ!」 などとオッサンの訳の分からない威勢の良い掛け声を尻目に黙々とタイヤ交換をする。やっとこさ作業を終えた時はもう1時間くらい経過していました。 「気をつけて帰れよ!」 酔いどれオッサンの言葉を聞きつつスペアタイヤを装備した僕の愛車が我が家に向けて走り出す。 パンッ! またパンク。 「うそ!またタイヤの空気が何らかの理由で突如抜けてしまってベロベロになって走行不能になった!」 今度は右後方のタイヤが先ほど以上のパンク。ゴムが張り裂けて、破れたコンドームみたいになってた。短い時間で立て続けのパンク、どっかの忍者がまきびしでも撒いたのか思って探したのだけど、そうではない。 後から分かったのだけど、どうも4本のタイヤ全部が極限状態にまで傷んでおり、いつどこがパンクしてもおかしくなかった様子。もうね脱力しましたよ。汗まみれ泥まみれになってタイヤ交換した次の瞬間にまたパンクですからね。 「どうすんだよー」 とにかく、もうスペアタイヤはありませんので、近くのスタンドまでガコガコとなりながら運転していくことに。まるでロデオみたいになりながら1キロ先のセルフスタンドへ。 もう夜中で明らかに人がいないんですけど、セルフスタンドってのは消防法の観点か何かで絶対に店員がいて監視カメラで見ているはず。スタンドの中央でパントマイムみたいになりながらアッピールしていると、奥のほうから明らかに「客が来ないので寝てました」みたいな店員が頭に寝ぐせバリバリ伝説でやってくるじゃないですか。 「すいません、なんか2連続でタイヤの空気が何らかの理由で突如抜けてしまってベロベロになって走行不能になったんですけど」 「はあ、パンクっすか」 「ええ、そうとも言います」 「ちょっと、朝になるまでタイヤ交換やってないんでー、明日の朝またきてくれますかー」 スタンドに車停めたままでいいっていうんでそのままにして徒歩で職場へと舞い戻る僕。こうなったら家に帰るのは諦めて、職場で夜を明かすしかない。トボトボと歩いて帰りましたよ。 で、40分くらい歩いてやっと戻ってきたんですけど、もう足は痛いわ疲れて眠いわで最悪でしてね、見ると何人か残業してみるみたいで職場の明かりはポツポツと灯ってるんですよ。でもね、職場の門が強固に閉まっていてなんびとたりとも外敵の侵入を許さないんですよ。 いつもだったら鍵使って門を開けて入るんですけど、あいにくその鍵を車に置いてきてしまうというミステイク。どうしたもんかとしばらく考えたんですけど、もうこりゃ仕方がない、この塀をよじのぼっちまおう、と少しおかしなチョイスをしてしまったんです。 正面の門を堂々と乗り越えたら通報されかねませんので、人通りの少ない通りのほうに回りこみましてね、ユサユサと塀をよじ登ったんですよ。2メートルくらいはあろうかという結構な塀なんですけど、なんとか乗り越えて「やあっ!」とジャンプしたんです。その瞬間ですよ。 グキッ! 地面に着地した瞬間にですね、グキッと腰に激痛が走ったんですよ。バンッと地面に両の足をつけた瞬間に、その振動が腰に伝わって何かが外れたんですよ。 ぎっくり腰というんでしょうか、腰が抜けたというんでしょうか、良く分からないんですけど、経験したことない激痛が腰を襲ったんですよ。 「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!」 真夜中の職場、裏側の駐車場脇の雑木林、落ち葉にまみれてイモ虫みたいになる30歳という素敵な光景が。立ち上がろうにも全く立ち上がれず、ただただ身悶えてました。 まずい、このままでは死ぬかもしれない。 こんなところでイモ虫になったことなどないですからどうなるか分かりませんけど、色々と危機なのは分かります。何とかして助けを呼ばないと、そうだ携帯だ、と思うんですけど、見事に充電が切れてるというデスマーチ。 そうこうしてるうちにしんしんと雨が降ってきましてね、多分、通り雨なんでしょうけど絶妙に死にそうな気配が漂ってくるんですよ。雨=死という新たなイメージが付け足され、もういよいよダメか!と思った時その時、予想だにしなかった事態が。 「なにやってんですか?」 目の前にパンティがあるじゃないですか。もうイモ虫みたいな体勢になってるんで下から丸見えなんですけど、確かにパンティが、それもあのブスノパンティがあるのです。 なんでも、死ぬほど残業をしていた彼女、やっと仕事を片付けて帰ろうと駐車場に向かった。すると、脇の茂みで何かが蠢いている。不審に思った彼女は怖いと思いつつも恐る恐る近づいてみた。すると、そこには職場で嫌われている男が雨の中イモ虫のように蠢いていた。そりゃビックリします。 「いや、あのね、帰ろうとしたら車が…」 イモ虫はそこまで言って一瞬止まった。そして続ける。 「帰ろうとしたら車がパンクしてね、それも2つも!で、帰れないから戻ってきたらこのザマでさ。誰か呼んで来てくれない?」 もう「パ」という言葉を口にしていいんだ。僕にとってこのパンティは気持ち悪いものでも何でもない、命を救ってくれた恩パンティだ。この感謝のイメージ、パンティは命すら救ってくれるというイメージを伝えていかねばならない。それが僕の使命なのだ。 駆けつけた屈強な同僚たちによって救出された僕は、命の恩人のパンティに向かって 「まさに天佑神助だよね」 そう述べるのだった。 ちなみに、そのままいったら自分の「pato」という名前すら名乗れないところだった。 6/4 最狂親父列伝-DIY編- ペンギンのカキ氷製造機が欲しかった。ただそれだけだった。 最近、我がアパートの向かいのビルが壁の塗り替え工事を始めたらしく、何やら足場を組んだりして富に騒がしい。アパートの3階に位置する僕の部屋からは向かいの工事の人が丸見えで、逆を言うと向かいの人から僕の部屋が丸見えという悲劇が巻き起こっている。 以前に、毎日雨続きで憂鬱だわー、もう洗濯物干す場所もないのよね、と、洗濯物たちをガンガンとカーテンレールにぶら下げて干していたら、ガリガリとカーテンレールが壁紙ごとめくれてきてさあ大変。それでもめげることなく干していたら、ベロベロベロと完膚なきまでにレール外れちゃってさ、面倒なのでカーテンごと床に落ちたままという体たらく。 もう丸っきりシースルーでしてね、外からの光を遮るものが完全に皆無ですから、朝日なんか眩しくてしょうがないんですけど、そうなってくると問題なのが工事の人たちなんですよ。 朝起きて、今日は天気がいいなーとか外を見ると普通に工事の人と目が合ったりしますからね。これじゃあ、おちおちオナニーもできやしない。僕の好きなエロマンガに、若奥様がビル工事の青年にオナニーを覗かれて、青年が謝りに行くんですけど「いいのよ、私を満足させて」「この奥さんエロさがハンパない!」「ああっ!」「ぐうぅ!」ってのがあるんですけど、僕の部屋がそうなる勢いの覗かれっぷりなんですよ。向かいの工事の人が謝りに来たら「いいのよ、私を満足させて」とか言わないといけない雰囲気なんですよ。 さすがにそれは困りものですので、なんとかカーテンを修復できないものかと近所のホームセンターに行ったんですよね。手ごろな値段だったらカーテンレールごと買ってしまおう、そうでなくても釘とか買って修復してやろう、そう企んだんです。 けれども、そろそろ夏なんですね、ホームセンターのメイン通路の、一番一押しの物品を売る場所には夏を先取り!みたいな商品が威風堂々と並んでいたんですよ。扇風機だとか簾だとか、それどころか浮き輪だとか花火、バーベキューセットみたいなのがてんこ盛り。その端っこの方にですね、カキ氷製造機がポツーンと置いてあったんですよ。 うわー、懐かしいなー。 最近のは家庭用でも電動とか訳の分からないことになってるんですが、従来どおりの手動でガリガリ回すやつもありましてね、そのレトロな風味にいたく感動したんですよ。ちょっと手にとってカリカリ回したりなんかしてね。 僕が小学生だった頃、近所の友達にえらい金持ちがいて、そいつの家でファミコンをやらせてもらうのが日課だったんですけど、ある暑い夏の日、僕らは夏の暑さにも負けないくらいの熱戦をファミコン版ベースボールで繰り広げていたんですけど、そこにお手伝いさんみたいな人が声をかけたんですよね。 「おやつですよー」 もう、お手伝いみたいな人がいるって時点で頭おかしいんですけど、用意されていたおやつってのが更に凄くて、何かペンギンみたいな置き物なんですよ。 いくら僕が貧しいからといっても、こんな置き物をガリガリ食べるわけにはいきません。こりゃあ貧乏だからってバカにされてるな、と思ったのですが、それは大いなる誤解だと気付いたのです。 そのペンギンの置き物はカキ氷製造機で、何やら頭の部分がパカッと開く構造になっており、冷蔵庫で作った氷をその中に入れると銀色の金具みたいなのが氷を押し付ける構造になってたんです。で、後頭部についてるレバーをガリガリ回すと押し付けられた氷が回転して削られる。見紛う事なきカキ氷がペンギンの股間から排出される仕組みになっていたのです。 「おれ、イチゴ!」 とかシロップをかけて食べる金持ち友人を見てですね、貧富の差はここまできたのか!と衝撃が脳内を駆け巡ったのです。 僕らなんかがカキ氷と接することができるのなんて、祭りの時の出店かなんかが関の山、しかもそれすらも「あんなもん、ただの水だから」と買ってもらえない。仕方なしに冷蔵庫の氷に砂糖つけて食っていた僕。そんな僕からしたら考えられない便利ツールの登場でした。 欲しい、このペンギンが欲しい。 手軽にカキ氷が食べられるということもさることながら、それ以上に僕の心を鷲掴みにしたのはデザインでした。まず、カキ氷だからペンギンという発想が天才としか思えない。妙に愛くるしい顔してるってのもありますが、それ以上にツボだったのが、脳ミソの部分がシースルーになってるというクレイジーとしか思えない部分でした。 やっぱ子供相手ですから、氷が押さえつけられてガリガリ削れてる所が見えたほうがウケが良かったんでしょうね、ちゃんと見えるように頭頂部分が半透明の物質で出来てたんですよ。頭おかしい。 氷を入れてガリガリやってる風景が非常にシュールでしてね、押さえつけられてる氷たちがペンギンの脳ミソみたいなんですよ。で、それがガリガリやられて粉みじんになった脳みそが出てくる、最高にファンキーでイカした、ロックとしか思えない代物でした。 もう心を鷲掴みにされちゃいましてね、何に代えてでもこのペンギンのカキ氷製造機が欲しい。弟くらいなら殺すことも厭わない、とかなんとか考えていたのですが、やはりウチは貧乏、とてもじゃないが「欲しい」などとは口が裂けてもいえなかったのです。 様々な情報収集をした結果、どうやら学校の近くにあったジュンテンドーというホームセンターに件のカキ氷製造機が売ってるという情報を入手しましてね、なんとか母親と買い物行った時に物欲しげな目で見るとか策を講じたのですが、全く買える勝算も見当たらず、真っ盛りの夏は過ぎ去ろうとしていました。 そんなある日、夏休みの終盤戦でした。 ラジオ体操も終わって、死ぬほどつまらないテレビなどを見ながら昼寝をし、そろそろ宿題対策を立てねばならない、夏の友なんて全然友達じゃねえよ、などと考えていた時でした。 「おい!ジュンテンドー行くぞ!」 何をトチ狂ったのか、暑苦しいくらいの勢いで親父がやってきたのです。しかも、ジュンテンドーに行くぞとのお言葉。ハッキリ言ってね、心躍りましたよ。何か得体の知れないハピネスが僕の中で弾けましたよ。 普通に考えて、親父が僕を誘って買い物に行くなどあまり考えられないことなんですよ。おまけに、僕の意中の人であるペンギンカキ氷器がおわすジュンテンドーに行くと言っている。これはもう、両親で話し合って「なんかあの子、ペンギンのカキ氷のヤツが欲しいみたいなのよ」「あいつも年頃だしな」「そろそろ買い与えてもいいかもね」「ああ、じゃあ買ってやろうか」ってなことが巻き起こったに違いないんですよ。 「やったあ!」 もう喜び勇んでですね、ちょっとスキップしてんじゃないのって勢いで親父についていきましたよ。ワクワクと高鳴る胸を抑えながら、親父の軽トラに乗っていざジュンテンドーへ。あの脳ミソだだ漏れペンギンが我が家にやってくる!ちょっとシュールなあいつがやってくる!これほどまでに嬉しかったことはないんじゃないかって勢いでした。 ジュンテンドーに到着し、もう夏も終わりだし販売終了とかなってたら嫌だ!と我先にと駆けて行きましてね、ドドーンと1台だけ鎮座しておられたペンギンを抱えましたよ。 「お父さんコレだよ!僕が欲しいのはこれだよ!ほら!そんなに高価でもないよ!」 と、満面の笑みでゆったりとやってきた親父に話しかけました。 「はぁ!?なにそれ?」 しかしながら、親父の返事は酷いもので、幼い少年の夢だとか希望だとか、そういうものを一切合切奪い去る辛辣なもの。 「そんなもんどうでもいいから、はやく手伝え!」 どうやら、僕の大いなる勘違いだったらしく、単に親父は手伝いでジュンテンドーに誘っただけという事実が発覚、意味分からないんですけど、木材を山ほど購入し、幼き僕に運ばせました。 「うう、憧れのペンギンカキ氷で涼めるはずだったのに…」 泣きながら、手に何か刺さりながらも涙涙の木材運び。こんな無骨な木材を大量に買って何をしようというのか。 答えは簡単でした。どうも最近、親父は日曜大工とかそういったものにハマってるらしく、母親に依頼された「庭に洗濯物干す台が欲しいわあ」を完遂しようと木材を購入したようなのです。というか、買ってる木材の量、大きさが日曜大工のレベルじゃない。一軒家でも建てるんじゃえかというほどです。 さて、炎天下の中、庭で日曜大工が始まりました。 何故か有無を言わさず手伝わされている僕は、訳も分からず木を切ったり釘を打ち付けたりする作業をしていました。 「これでな、お母さんが洗濯物干すのも楽になるわ」 その時は、干す場所がなかったためか、庭の木々の間に物干し竿を通してやっていたのですが、少しでも楽にしようという試みでした。 僕は子供心に、ああ、物干し竿を立てられる柱を作るんだなって思っていたのですが、作業を見ているといかんせん木材が多い、多すぎる。なんか木の板まで買ってるし、とてもじゃないが物干しレベルのお話じゃない。 「お父さん、どんなのができるの?」 ギコギコと木を切りながら訊ねると、親父は満面の笑みで答えてくれました。 「ここをこうして、こうやって、こうやるんだ!な!こうすると洗濯物も楽だろ!」 嬉しそうに親父が説明してくれたものは、どう好意的に解釈しても小屋でした。どっからどう考えても小屋でした。この人、日曜大工で小屋を作ろうとしている。あんた頭おかしいんじゃないのか。洗濯物干すのに小屋を建ててどうする。そもそも日曜大工で出来るレベルじゃねー。脳ミソシースルーなんじゃないか。 しかしまあ、反論する言葉を持ち合わせていなかった僕は、これ、小屋にするには木材が細すぎるんじゃないかという言葉をグッと飲み込み、ただただ日曜小屋が完成していくのを手伝っていました。 さて、数時間の作業時間を経て、ついに小屋が完成。もうホームレスなら3人くらい住めるんじゃないかという立派な小屋です。なんか通気性が良いように側面部には金網があり、ドアまでついている豪華さ、おまけにそのドアには鍵まで付いてました。 「これでお母さんの下着も盗まれないだろう」 キチガイは何か訳のわからないことを言ってましたが、かなりご満悦な様子。 「おい、あそこに干してあるやつ取ってこい!」 そして、かなりテンションが上がってるのか偉そうに命令しました。今なおリアルタイムで木々の間に干されている洗濯物を干そう、そう提案しやがったのです。 早速僕も物干し竿ごとゴッソリと洗濯物を持つのですが、洗濯物って結構重いんですよね、ヘロヘロになりながらなんとか小屋の中に持って行きましたよ。そしたらアンタ、ちゃんと小屋の中には物干し竿を引っ掛ける場所がありましてね、なるほどこりゃあ使い勝手がいいと唸ったもんです。 しかしまあ、屋根がついてる意味とか皆目分かりません。そもそも雨の日は家の中に干せばいいだけですからね、むしろこの屋根によって効率が悪くなるんじゃないかと思うのですが、親父はひどくご満悦の様子。 「うむうむ、これで洗濯も大丈夫だな」 とか、何を納得してるのか知りませんけど、すごく仕事をやり遂げた後みたいな顔してやがるんですよ。 「じゃあ、ちょっとお母さん呼んでくるからな!」 子供のように駆けて家へと向かう親父。これで母さんに見せて、わあ凄い!とか言われたいんだろうな、それにしても、こんな小屋にしなくても、大体、柱が細すぎるよ、と小屋の中で親父と母さんの到来を待っていたのです。 メキメキメキメキ すると、不穏な物音が聞こえてくるではありませんか。まあ、分かっていたことですよね。親父が適当に作った小屋です。そもそも柱が細すぎる、完成した時点から何かフラフラしてましたから、こうなることは分かっていたのです。 もう生まれて初めての経験だったんですけど、リアルタイムで柱に亀裂が入っていくのが見えましたからね。 メキメキメキメキ あ、やばいな、そう思ったときには既に遅くてですね、グラッと小屋全体が揺れたかと思うと、明らかに倒壊する!って感じでスローモーションに倒れていったんですよ。完成して5分で倒壊ですよ。 しかし、小屋の中にいた僕は、逃げることとか考えてなくて、このまま倒壊してしまっては親父が悲しんでしまう!と訳の分からない慈悲の心を剥き出しにしてしまいましてね、なんとか立て直そうと必死で柱を押さえてたんです。 洗濯物の重みで倒れようとする柱たち、それを必死で押さえてたらなんとかなるもんで、非常に斜めな危険な状態になりつつもなんとか持ちこたえたんです。 「ぐおおおおお、倒壊させてなるものか!」 その瞬間ですよ。 ガン! 上に乗っけただけだった天井が落ちてきましてね、もはや何の意味があるのか分からない、こういうブービートラップだったんじゃねえかって思うほどなんですけど、思いっきり木の天井が落ちてきたんですよ。 木の天井の半分は物干し竿に引っかかり、もう半分は僕が頭で支えている、天井が低くなったためか少し安定感を増しましたが、それでもまだ小屋全体が倒壊しそうだ。 いやー、人気のないキャラは、落ちてくる天井を支えて主人公を助けるんですけど、そういった気持ちになるくらい落ちてくる天井を支えてました。まるで、あのペンギンの脳ミソの中、カキ氷の氷のように押さえつけられてました。 「もう少し、もう少しで親父が母さんを連れてやってくる、それまで倒壊させてなるものか…!」 気分は正義超人だったんですけど、とにかく、親父が戻るまで倒壊させてはならない!そしたらご褒美にペンギンのカキ氷くらい買ってもらえるかもしれない!そんな純真な心で支えていたのです。 まあ、2時間くらい戻ってこなかったんですが。 なんでも、母さんを呼びに家へと向かった親父、そこで隣りのオッサンに出会ったらしいんですよ。で、美味しい塩辛があるんですが、どうかね一杯!いいですなあ!と隣の家で大盛り上がり大会、色々なことを忘れて大変楽しいひと時を過ごしたようです。ホント、この人は狂ってる。 結局、もう日も落ちかけた夕方、まだ僕は小屋を支えていて健気なんですが、当時、トイレでオシッコをするのが嫌いで庭の隅っこでオシッコをする習慣のあった弟が僕を発見。崩れ行くガレキの中から救出されたのでした。 あーあ、あの時は本当に酷い有様だったよな、素人が日曜大工するとロクなことないよ、と懐かしいカキ氷製造機を見ながらセンチメンタルジャーニーで物思いに耽るのでした。 さて、カーテンレールの修理ですが、なんとか釘とトンカチを買ってきて 修繕したのですが、カーテンレールの位置って高すぎるじゃないですか、釘を打つときに、こう、背伸びしてやってたんですけど、見事に滑っちゃいましてね、そのままガラスにダイブですよ。 粉々に割れたガラスを見ながら、日曜大工なんてするもんじゃねえな、もう外から見えないように新聞紙でも貼っておこう、と割れた方の窓に新聞紙を、途中でなくなったので割れてない方の窓にはエロマンガ、若奥様がビル工事の青年にオナニーを覗かれて、青年が謝りに行くんですけど「いいのよ、私を満足させて」「この奥さんエロさがハンパない!」「ああっ!」「ぐうぅ!」ってやつを貼っておきました。 梅雨の雨が降ると新聞紙がベロベロと溶け出し、すきま風が涼しい昨今ですが、床に散らばるガラスの破片を眺めながら、カキ氷を思い出し、夏の到来を感じずにはいられませんでした。もうすぐ夏がやってくる。 5/27 おしゃれ魔女 なんだかヨレヨレすぎてヤバイ匂いがプンプンしますが、古すぎて良く分からない臭い匂いもプンプンしてました。しかしまあ、これでオシャレ着は大丈夫!と思ったのですが、ふと思ったんですよ。 それらを絶妙にブレンドし、洗面器か何かに入れます。 この液体がどれだけファンキーかと言いますと。車の中に落ちていた高速道路の領収書レシート。これをこの液体に漬けると 一瞬で真っ赤に。こいつはかなり期待できそうです。 レシートを一瞬で真っ赤にするほどの破壊力がある液体ですので怖くなるのですが、意外なほど反応がありません。ちゃんと色落ちしてるのかなーと不安になるのですが、石を乗っけてしばらく待ちます。 10分ほど漫画でも読みながら待ってると「ボコボコ」と地獄の釜みたいな音がどこからともなく聞こえてきます。おりょりょ、いよいよ色落ち始めたかしら、と洗面器を除くと プシューと煙が。 ブシャーーーーーー! ほとんど消失してました。 ダメージ度合いで言うならば最大級のダメージではないでしょうか。 チャックらしきものも途中でなくなっているという大惨事。 ギリギリ、チンコを隠せそうで大丈夫。というか結構イケてるかもしれないな。イカス! 5/20 千の風になって 夕暮れの墓場はオレンジ色の恐怖だった。 小学生だった頃、ウチは校区のギリギリ端っこで、かなり遠距離とも言える通学路だった。仲の良かった友達と一緒に帰ったとしても確実に途中から一人で帰らなければならなかった。 完全なる孤独の通学路になってからすぐに目の前には広大な墓場がありました。この地区一帯の墓を全て引き受ける一大墓アミューズメントパークが威風堂々と存在していた。 どうしてもその中心を突っ切る道路を通って帰らねばならず、両側にそびえ立つ墓石や卒塔婆に恐れ戦きながら身をかがめて帰宅したものだった。だいたい家路に着くのは夕暮れ時が多く、夕陽でオレンジ色に染まった墓石がなんとも不気味だったのを今でも覚えている。 ある日の帰り道、相変わらず夕暮れ時で、大きくなった太陽が西に沈みかけている頃合だった。学校で「怖い話」が大ブームとなっており、あまりの恐怖に堀辺君がオシッコを漏らすという大惨事が起きたその日、やはり僕も恐怖に震えていた。 どうしよう、今日は墓場を通りたくない。今日はいつもの倍怖い。頭の中で昼間に聞いた怖い話、堀辺君の泣きじゃくる顔、縦横無尽に床を走る黄色い液体、様々なものがリフレインする。 けれども、本気でシャレにならないくらいの広大な敷地を誇る墓場なので遠回りして避けても日が暮れてしまう。容赦なく田舎なので夜になれば真っ暗だ。闇の中を帰るのも墓場と同等に怖い。 勇気を出して一歩踏み出した。この墓場を突っ切る。なあに、いつも通ってる道だ、怖くない。けれども、両脇の墓石や卒塔婆を眺めながら通過する勇気なんてなさそうだったので、その辺に落ちていた小石を蹴りながら歩き始めた。 この石を家まで蹴れたら幸せになれる。お金持ちになってアイドルと結婚できたりする! 漠然とそう信じ、コロコロと転がる石ばかりを見つめて墓場ロードを歩き始めた。こうすれば墓石も卒塔婆も見なくて済む。ただただ一心不乱に小石を蹴り続けた。 墓場も中盤に差し掛かった頃だろうか、もう360度全方位が墓場で、明らかに一番怖い場所。その忌々しい場所に差し掛かった瞬間、僕はその顔を上げた。いや、上げざるを得なかった。 「うおおーん」 遠くの方で奇っ怪な声が聞こえた。あまりの恐怖にビクンとなる。堀辺君のようにお漏らししてもおかしくなかった。ついつい顔を上げてしまうと、徹底的に磨かれた「山田家ノ墓」とか書かれた墓石と目が合ってしまう。墓石は夕陽を反射してオレンジ色に輝いていて、なんだかそれが死を象徴してるかのようで無性に怖かった。まさしくオレンジが死の色だった。 「うおおーん」 さらに奇っ怪な声がかすかに聞こえる。 今度は空耳なんかじゃない。かなり鮮明に耳に届いた。あまりにもブルってしまった僕は、さらに小石を蹴り続けた。早くこの墓場ロードを通り抜けたい、それより何より、正体不明の謎のうめき声が怖すぎる。 コツコツと小刻みに蹴っていた小石、今やあまりの恐怖から大胆に力を込めて蹴るようになった。早く抜けたい、この墓場ロードを抜ければ親父の資材置き場がある、そこまでいけばなんとかなるはずだ。 当時、この墓場の横辺りには広大な空き地があって、そこの持ち主に了解を取って親父が資材置き場に使っていた。水道も電気も来てるし大通りにも近い、資材置き場として最高だと言っていた。いつも学校帰りに資材置き場に行っては親父の仕事を眺め、一緒に家まで帰っていた。 「うおおーん」 またうめき声が聞こえる。どうやら等間隔で発せられてるようだ。心なしかだんだんと距離が近づいている。怖い、怖すぎる、もうあまりの恐怖に駆け足になっていた。石を蹴りつつ駆け足の僕、まさに夕方は墓場で運動会。 「うおおーん」 「うおおーん」 どんどんと近くなってくる叫び声、耳を塞ぎ聞こえないふりをして駆け抜けた。怖い、お父さん助けて!一気に墓場を駆け抜けた僕は、夢中で資材置き場に飛び込んだ。 「うおおーん」 叫んでたのはウチの親父だった。 いやね、何をトチ狂ったか知りませんけど、モモヒキみたいなのはいて一心不乱に水をかぶってんですよ。青いバケツにガンガン冷水をためて、ザバッと頭からかぶって「うおおーん」と身悶えてやがるんですよ。その光景が衝撃的過ぎて衝撃的過ぎて、蹴ってた小石なんて忘れるくらいにポカーンと眺めてました。 しかも、その横にはウチの従業員だった峰岸君がいましてね、切腹の介錯人みたいな潔さで「はい!」とか冷水がはいったバケツ渡してんの。意味がわからない。あまりに不気味なうめき声に近所のおばちゃんとか何事かと様子を見に出てきてましたからね。 あそこで水をかぶってる生物が、自分と色濃く血が繋がってるとは考えたくないのですが、親子の繋がりってやつだけはどうしようもないので恐る恐る近づいていきます。 「なんで水かぶってるの?」 至極純粋、少年らしいピュアな心で正直に疑問をぶつけてみました。いくら親父がキチガイだといっても理由もなく冷水をかぶるわけがない。きっと何か理由があるはずだ。何か納得のいく理由があるはずだ。親父の中に眠ってるであろうひとかけらの良心を探すように問いかけます。しかしながら、キチガイ親父の返答は散々たるもので、 「風邪ひいたからだ」 と何故か妙に偉そうで誇らしげ、意味がわかりません。 どうにもこうにも理解の範疇を超えてしまってるのですが、落ち着いて話をきいてみるとこういうことらしいのです。 朝から体調が悪かった親父、頭も痛いし寒気がする、何より喉が痛くてどうしようもない。仕事をしつつ昼ぐらいに「これは風邪だ!」と認識したようです。遅すぎる。風邪と認識するとさらに体調が悪化し、仕事をしながらフラフラ。そこで風邪にしてやられている自分に無性に腹が立ったそうです。風邪如きでフラフラするとは何たる不覚、このままではいかん! 親父は決断しました。自分は風邪などに負けん、風邪など迎え撃ってやるわ!やったるで!断固たる決意のもと、従業員の峰岸君と冷水をかぶりはじめたというわけです。どういう迎え撃ちなのかサッパリです。 いやー、バカは風邪ひかないっていうけど、キチガイが風邪ひくとこんな大変なことになるのか。「はい」と神妙な面持ちで冷水を渡す峰岸君に紫色の唇しながらかぶる親父と、大人になるのはかくも大変なことなのかと痛感するのでした。 それから我が家では、「風邪をひいた」という言葉がタブーとなり、主に僕と弟は心底怯えていた。風邪ひいたなんて言ったら冷水かけられる。死ぬまでかけられる。あのキチガイならまだしも、僕らのようなか弱い子供が受けたら間違いなく死ぬ。だから、どんなに風邪っぽい症状でも「風邪ひいた」なんて気軽に口にできなかった。 だから風邪ひいても気軽に病院なんていけなかったし、風邪薬なんて飲んだこともほとんどなく、アフリカ奥地の原住民みたいに体調不良を自分の治癒力で治していた。そうなってくるとね、自分の中で病院神話みたいなのが生まれてくるんですよ。 どんなに大変な症状でも病院にいけば絶対に治してくれる。病院でもらった薬を飲めば絶対に治る。そう信じて疑わない部分があったんですよね。どんなにヤブ医者にかかろうとも、やっぱりそう信じて疑わない部分があったんですよ。 で、ちょうど1ヶ月ほど前でしょうか、なにをどう間違ったのか知りませんけど、24時間オナニーをしまくるという、戦後間もない頃だったら憲兵に首をはねられても文句言えないような企画に挑戦したことがあったんですよ。 24時間もの間、下半身丸出し状態で体力を消耗しましてね、風邪ひかないほうがおかしいだろって状態で狂ったようにオナニーしてたんですよ。でまあ、見事に風邪ひいちゃいましてね、熱はガンガンでるわ喉は痛いわ気持ち悪いわで大騒ぎ。もう完全にフラフラになっちゃってゾンビみたいになりながら仕事に行ったんですよ。 いやね、体調悪いんだから仕事くらい休んでも良かったんですよね。別に僕が休んだところで業務に支障がでるわけじゃないですから、サクッと休んでも良かったんですよね。でもね、風邪をおして仕事行ったら職場の人なんかが優しくしてくれるかなってほのかな期待を抱いたんですよ。 「あら、patoさん、なんか体調悪そうですよ?」 「うん、ちょっと風邪ひいたみたいでさ」 「大丈夫ですか?なんだか心配…」 「仕事たまってるし休んでられないしさ」 「でも本当にきつそうですよ…私にできることあればいってください」 「うん…でも大丈夫だから…」(フラつく僕) 「だ、大丈夫ですか!?」 「だ、大丈夫…ありがとね、マミちゃん…」 「本当に私にできることなら何でも言ってくださいね」 「うむ、じゃあしゃぶってくれい」 ジュボジュボ とまあ、女子社員の母性本能的な部分を刺激して美味しい思いができるんじゃないか、ちょっとそういうのを期待した部分は否めません。 しかしですね、現実ってのは思いのほかリアルで残酷なんですよね。職場に行った瞬間にですね、「うわっ!風邪!」みたいな非国民みたいな扱いを受けてですね、「うつさないでよ!」と毛嫌いされる始末、終いには「やーい、ロボット超人」などと石を投げられそうな勢いですよ。 ほのかな夢すら破れておまけに総スカン食らっちゃってね、体調も悪いけどそれ以上に心が痛い状態になっちゃいましてね、もうどうでもいいんで早退することにしたんですよ。 「今日、体調悪いんで帰ります」 一応、職場のみんなにそう告げて帰宅準備をしていたんですけど、返事も何ももらえず完全なるアローン。B'zが出てきそうなくらいアローン。独りさびしくトボトボと帰りました。 さて、思いもよらず昼過ぎに帰れることになったのですが、いかんせん体調が悪い。本来ならウヒョーと街に繰り出して欲望の限りを尽くすのですが、もう視界が歪むくらい酷いことになってて、ハンドルを握りながら意識が遠のきそうな状態。 途中何度か意識が飛びながら車すらフラフラさせて家へと向かい、なんとか家に近くまで達したのですが、そこでもう限界。これ以上は生命に関わると感じてしまい、車を停めました。 もうこれ以上の運転は無理だ。景色が歪みすぎている。病院にいかないと死んでしまう。色々なものが限界値に達していることに気がつき、家まであと1キロといった地点で病院に行こうと決意したのです。病院ならきっとなんとかしてくれる。自分の中の病院神話を信じて決意したのです。 この近くに病院があるのか良くわからないので、カーナビを駆使してなんとか検索。するとかなり近くに○○医院とかいう個人経営くさい病院があるのを発見、もうここに行って完膚なきまでに治療してもらうしかない、そう信じ最後の力を振り絞ってカーナビに指示されるまま進みました。 到着してみると、どう見ても胡散臭いというか、朽ち果てそうというか、レンガ造りでボロボロの医院がそびえ立ってるんですよ。営業してるかどうかすら怪しい佇まい、病院に行くと常にヤブ医者を引いてしまう僕としてはかなり危険が危ないのですが、既にフラフラで一歩も歩けない状態。背に腹は変えられないとは正にこのことで、その重苦しい医院の扉を開いたのでした。 入ってみると、ドアをくぐったはずなのにもう一個目の前に木の扉があって、なんだか安っぽいトラップみたいな雰囲気がムンムン。さらにその木扉をくぐってみると、なんとか営業してるみたいで医院の体裁を保った待合室が広がってました。 そこでいきなり度肝を抜かれたんですけど、入ってすぐの場所に優雅さを演出するためか水槽がドデーンと置いてあったんですよね。40匹ぐらいの金魚が綺麗に、スイミーみたいに泳いでいたんですよね。おお、綺麗だなと眺めてたんですけど、普通に4匹くらい死んでプカプカ浮いてましたからね。見事に4匹死んでましたからね。まさか病院に行っていきなり死に直面するとは思わなかった。 で、よほど患者が来ないのか、待合室の電気は消されてましてね、日も差さない部屋なので微妙に暗くて冷たい。受付みたいな場所もあったんですけど、見事に人っ子一人いませんでしたからね。 「すいませーんー」 もう声を出す気力もなく、それどころか喉がガラガラで大きい声だせないんですけど、必死の思いで呼びかけます。すると、奥のほうからバタバタとオバハンが出てきましてね、その雰囲気から、ああ、ここの医者の嫁ハンなんだろうなって感じがしました。 「すいません、なんだか風邪ひいちゃったみたいで」 と事情を説明して、保険証がないので後から持ってくる感じで交渉、なんとか診察してもらえることになって椅子に座って待つように言われました。 こんな誰一人患者いないのに待たされる理由がわからない、もう意識が遠のきそう、なんてボヤーッと待っていると、なんか夢の向こうで誰かが喋ってるみたいな感じで声が聞こえるんですよ。 「…患者さんが…」 ハッキリとは聞き取れないんですけど、どうやらさっきのオバハンが医者に説明してるような声が聞こえてくるんです。ああ、診察室で説明してるんだなーとか思ったんですけど、なにやら様子がおかしい。 「わかっとるわ!」 「うるさい!」 医者と思わしきオッサンの声がむちゃくちゃ怒鳴ってるんですよ。えー、何も怒鳴らなくてもいいじゃん、とテンションだだ下がりですよ。それからもこっちは意識が遠のきそうなのに 「…はどこやったんだ!」 みたいにドメスティックバイオレンスも辞さない感じで怒鳴ってるんですよ。何が起こってるのかサッパリ分からない。普段よほど患者が来ないのか何のか、とにかくドタバタと怒鳴りながら準備してる感じなんですよ。 「○○さん、診察室へどうぞ」 やっとこさ呼ばれてフラフラになりながら診察室へ。布の衝立で複雑に仕切られてて迷路みたいになっている通路を抜けていきました。 見ると、これがさっき怒鳴っていた人とは思えないほど仏像みたいなにこやかな顔をした医師が、ものすごく健やかで穏やかな顔をして座ってました。結構年配の方なんですけど、それはそれは穏やかな顔でした。 「今日はどうしましたかな」 僕の中ではさっきの怒鳴り声の印象が強いので、下手なこと言ったらコイツが修羅に変わるかもしれない、とビクビクしながら症状を説明します。 「なんか熱っぽくて、喉も痛いですし、熱も…」 「インフルエンザですね」 まだ僕が症状を説明している途中なのに言い切るんですよ。そりゃちょうどインフルエンザが流行している時期でしたけど、さすがにもうちょっと診察とかしようや。 「それで頭痛もすごくして…」 「インフルエンザですね」 もう症状の説明をさせない!っていう強い意志を感じましたよ。何がそこまで彼をインフルエンザに駆り立てるのか知りませんけど、目をランランと輝かせてインフルエンザですよ。 「車の運転もできない状態で、命からがらここまできました」 「インフルエンザですね」 とにかく、インフルエンザにしたいみたいでどうしようもないんですけど、熱がどれくらいあるか測ってみようってことになったんです。 体温計をぶっさしてしばらく待つんですけど、その間もずっと 「いやー、インフルエンザは大変だよー」とか「今ニュースで盛んにやってるタミフルが…」とか、インフルエンザありきの話題をふってくるんですよ。僕も「はい、はい」としか答えることができず、どうしようもない手持ちぶさたな時間を過ごしていると ピピピピピピピ と、測定終了を告げる電子音が。こんなに死にそうなんだ、きっと40℃くらいあるに違いない!と数値を見てみると、詳しい数値は忘れましたがたいした高熱じゃない。確かに熱はあるんだけど、インフルエンザにしてはそう高くない数値。もうインフルエンザと決めてかかってるオッサンは 「おかしいな、もう一度やってみよう」 とまたもや体温測定ですよ。そんなにインフルエンザにしたいのか。 「いやー、インフルエンザじゃないかもですよ。普通に下半身裸で24時間過ごしましたから、汗もかきましたし。ただの風邪かも…」 と、再度訪れた亜空間みたいな待ち時間に話を振ったのですが、オッサンは頑として受け入れない。絶対にインフルエンザと信じて真っ直ぐに僕の瞳を見つめていた。そこまで言われるとインフルエンザでもいいかなって気持ちになってくるか不思議だ。 しかしながら、現実ってのはリアルで残酷なもので、再度測定しなおしても普通にやや高熱程度のもの、このままじゃあインフルエンザとはいえない。 「ま、インフルエンザでも熱が出ないのかも、別の検査をしましょう」 と、まだインフルエンザへの希望を捨てない医師。奥さん兼看護師のオバハンに指示してインフルエンザ検査キットみたいなものを持ってこさせました。 これがまあ、チャチなもんでしてね、なにやら棒みたいなものに紙がついたもので、妊娠検査薬みたいになってんですけど、どうやらこれを鼻の中に突っ込んで検査するらしい。 「はーい、鼻にいれますよー」 とオッサンが検査薬を入れようとするんですけど、どう見てもその手がプルプル震えてる。おいおい大丈夫かよと思うんですけど、やっぱり大丈夫じゃなくて、ズボッと信じられない奥まで挿入されてしまったんです。 いやいや、僕なんて医学素人じゃないですか。普通に奥まで突っ込みすぎ、なんて分かるわけないじゃないですか。正確な検査するためにはこれくらい入れなきゃいけないものかもしれない、そう考えるとおいそれと「突っ込みすぎ!」なんて言えないでしょ。でもね、そんな僕でも明らかにおかしいと分かるんですよ。 だって、入れすぎて取れないんだもん。その棒状の検査キットがですね、その全身を全て鼻の中に収めるほどに突っ込まれてるんですよ。むちゃくちゃ痛いの何の。取り出すときに取れなくって、オッサン焦っちゃってピンセットで取ってましたからね。おかしいおかしい、よく考えると何かがおかしい。例えるなら堂本剛君の髪型くらい、ふと立ち止まって考えてみるとおかしい。 「じゃあ、逆の鼻もいきますよ」 ズボッ! 今度はさっきよりも奥深くに侵入してきやがりましてね、もう痛いの何の。涙出てくるわ、風邪でフラフラだわで大変な騒ぎ。しかもオッサン的に位置的収まりが悪くて不快だったのか、検査棒をグリグリやってくるんですよ。 もう脳みそ掻き回されてるみたいな激痛が鼻を中心に走りましてね、我慢できずに 「うおおーん」 とか叫んでました。それくらい痛かった。なんか鼻をレイプされてる気分だった。 やっとこさ地獄の検査も終わり、地獄のレイプツールと化した検査棒をキットにセット、その結果をしんみりと見守っていたのですが、僕の両鼻は蛇口が壊れたみたいに鼻水ダラダラ。全然そんな症状なかったのですが、鼻レイプによって鼻水まで追加される事態に。 「インフルエンザならここが青に変わりますんで」 そう説明されて二人でジッと検査キットを見つめていたのですが、これがまたビタイチ青にならない。1ミリもインフルエンザの匂いすら残さないほどに無色。 「あれ、おかしいな。インフルエンザじゃない」 「じゃないみたいっすね」 二人でまんじりとしていたのですが、そこでオッサンがまた 「もう一度検査しましょうか?」 とか、あんたどんだけ僕をインフルエンザにしたいんだよと言わずにいられない提案をしてくるじゃないですか。さすがにさっきの激痛アゲインだけは勘弁なので 「それだけは許してください。きっとインフルエンザじゃないですよ」 と懇願。 「インフルエンザじゃないかなあ」 「検査結果もそうでてますし、ただの風邪ですよ」 「そうかもしれんな」 と、どっちが医者なんだかわからない状態に。で、インフルエンザじゃない僕になど興味ないと言わんばかりにそっけなくなりましてね。 「もう帰っていいですよ、十分休んでください」 と、セックスした後の男みたいな冷たさで言うんですよ。男なんてみんなそう、抱くまでは優しいのに抱いたら手のひら返して、釣った魚に餌はやらないってわけ?と言いたくなるような冷たさですよ。 「あ、でもフラフラしてるみたいだから車の運転はしないで、タクシーで帰りなさい」 みたいなことを言われました。 またもや待合室の椅子に座り、あーしんどい、でもインフルエンザじゃなかったんだー、じゃあ薬もらって飲んで休んでたら治るなー、とっとと薬もらって帰ろう、やはり医者神話、薬神話を信じて疑わない僕は、薬さえ飲めば治ると一縷の望みを託していたのでした。 「○○さーん」 と、オバハンに呼ばれるじゃないですか。僕しか患者いないんで名前呼ばなくてもいいのにとか思いながら受付みたいな場所に行くと、薬みたいな包みがドデンと置いてありました。診察は散々で鼻水も止まらなくなっちゃったけど、薬さえあれば大丈夫、これのめばシャッキリ治っちゃうんだからー、と包みを開けました。 「うがい薬」 いやね、ドデンと袋の中にうがい薬が鎮座しておられるんですよ。あーあ、ビンに「イソジン」とか書いちゃってるしよ、オレンジ色の液体がドーンと入ってるだけなんですよ。 「あの、他に薬とかは…?」 「それだけです」 いやいや、こんなうがい薬、病院でもらう必要ないじゃないですか。そういう店行ったらプレイ前に渡されたりするじゃないですか。もっとこう、僕が求めるのはメディカルな錠剤とか苦い薬じゃないですか。 だいたい、こういうのって無駄かってくらいに薬出して病院側も儲けようと画策してくるにちがいないんですけど、勇ましいほどにイソジンだけ。掛け値なしにイソジンだけ。おかしい、何かおかしい、堂本剛の髪型だ。 「あのもっとこう、薬とか…」 「それだけです」 もっとこう栄養のつく薬とか、頭痛を抑える薬とかあるじゃない、こんなイソジンだけでガラガラうがいしてて治りそうにない。 「もっとあると思うんですよ、聞いてきてくれませんか?」 もうヘロヘロですので、なんとか懇願して薬を出してくれと志願。それを受けてオバハンは明らかに嫌そうな顔しながら診察室へと消えていきました。で、またもや診察室から声が漏れ聞こえてくるんですけど 「いらん!」 「でも…」 「いらんといったらいらん!」 とか、あの朗らかな医師は二重人格なんじゃないだろうかってくらいに怒鳴り声が聞こえてくるんですよ。どうもインフルエンザじゃない僕には全く興味がないらしく、薬を出す気もおきないのか。 これ以上要求してオバハンが怒鳴られるのも心が痛いのですが、なんとか懇願して取ってつけたような薬を貰ったのですが、そんなシチュエーションで頂いた薬が効くとは到底思えず、フラフラと病院を後にするのでした。 「そういや、車は置いておいていいからタクシーで帰れ言ってたな」 タクシーを呼ぶ気力も財力もありませんでしたので、車の中で少し寝て体力回復を図り、フラフラと歩いて家に帰るのでした。 この医院から家まで約1キロ、車の中で数時間寝たのに体力回復できなかったどころかさらに悪化し、ものすごく死にそうになりながらフラフラ歩いて家路に着くのでした。普通に歩いても倒れそうなので、小石を蹴って「家まで蹴れたら生きれる」そう信じて。 時間はもう夕暮れ時、途中、墓場の横を通ると墓石がオレンジ色に輝いており、また恐怖を感じずにはいられなかった。幼い頃に感じたオレンジ色の恐怖。あの頃は単純に幽霊とか物の怪の類が怖かったけど、今は生命の危機が怖い。このまま墓場で死ぬんじゃなかろうか。これもまたオレンジ色の恐怖だ。そして手元には病院で貰ったオレンジ色のイソジンが。これもまたオレンジ色の恐怖だ。やっぱあいつヤブ医者だよなあ。 墓場の石垣に腰を下ろし、頼みの綱の医者もダメだった、こうなったら冷水をかぶって風邪を迎え撃とう、家に帰ったらそうしよう。そう堅く決意するのでした(本当にやると大きい病院に担ぎ込まれます)。 お詫び。 5/11 出会い系サイトのキチガイ女と対決する 出会い系サイトの持つキーワードはプチリセットだ。 「私のアドレスプーさんだけど、キチガイとか失礼じゃないですか!?」 という憤慨のお便りなどは、山本洋平君(ファーストキスは19歳)までお願いしたい。 5/3 美人局と対決する 4/25 フラストレーションナイト とにかくイライラが頂点に達した。 意味が、わから、ない。 こんなものが酒コーナーの横に陳列されてあったら誰だって間違いますよ。おつまみだと思うはずですよ。 4/17 アニムス 意味が、わから、ない。 4/10 ダミ夫の恋
4/4 残酷は優しさの中に 3/31 ぬめぱと変態レィディオ2007-Revenge- 24時間のオナニー回数世界記録に挑戦ラジオ 放送開始時間 3/31 20:30-(オナニーチャレンジは21時より) 放送URL 終了しました 聞き方 ここが分かりやすいです
ルール オナネタ提供 その他の放送内容
ラジオ中にかいたエロ絵 3/22 口唇期 3/15 ぬめぱと変態レィディオ2007-Revenge- 「世界の壁は厚かった・・・」 3/8 結婚式へ行こう! 3/1 紳士のススメ 2/21 未来予測図 2/14 連続更新ログサルベージ 先に行われた3000万ヒット連続更新からサルベージ。いわゆる手抜き。それではどうぞ ------------------------------------ 6.しゃぼん玉 3999万9950ポイント!(約4億円) 42.ぬめぱとai-r Jack [ぬめぱとai-r Jack] 41. キミイロオモイ さてさて超絶グダグダでお送りした3000万ヒット記念連続更新はいかがだったでしょうか。久々にこんだけ日記を書いたので途中から大変なことになってましたが、とにもかくにも終わってほっとしています。気付いてる人も気付いてない人もいるかもしれませんが、上のバーにNumeri-BBSがありますので、本日限定です、よろしかったら感想など書いてくれると嬉しいです。 人にはそれぞれの色があると思います。僕には僕の、今これを読んでいるアナタにはアナタの。それぞれの色が綺麗にひしめき合ってカラフルな世界を作ってるんじゃないでしょうか。 色というのは不思議なもので、認識されないと色ではありません。たとえその色に見えたとしてもそれはそう認識されているだけで本質ではありません。別の動物が見たら、その色には見えないのです。 個人個人のカラーも同じことで、周りが認識してくれるからこそ、そこに僕という色が存在するわけで、誰も認識してくれなかったらそれは無色透明でしかないのです。 述べ数で3000万の人が僕という色を認識してくれたことに感謝しつつ、これにて連続更新を終了したいと思います。長々とありがとうございました。 2007.2.12 Numeri pato 連続更新セットリスト
2/4 正月クライシス-後編- 1/31 コピペオオタニ いやー、まいったまいった。 1/24 ムシルダ 逆に考えるんだ。 1/18 1000の言葉 あのさ、「ぽっちゃり系」って言葉あるじゃないですか。「わたしぽっちゃり系なんですー」とか言う女性がいますけど、どうやってもこの表現が許せないんですよね。こういった細かいことで怒りを感じるのは精神衛生上大変よろしくないことだってわかってるのですが、それでも怒らずにはいられない、日々悶々としながら怒りに打ち震えてるわけなんですよ。 1/11 あなたの知らない世界 1/6 正月クライシス 12/31 ぬめぱと年越しレィディオ ガスを止めたぞ!電気止めるぞ!電話止めました!家賃払え!県税滞納により差し押さえを執行します!とまあ、年の瀬だと言うのに数多くの脅迫状が舞い込んで来まして、血も涙もないとはまさにこのこと、年の瀬だから人々が心優しくなってると思ったら大間違いだ。
12/24 Numerry Christmas さてさて、何かサイトが異様にむさ苦しいですが、気にせず続けます。ということでクリスマスイブなわけですが、もちろん今年もやります!やっちゃいます! 毎年恒例の、酒を飲んで泥酔しながらのネットラジオをライブオンエア! 「ぬめぱとクリスマスレィディオ2006」 放送開始 終了しました 放送内容 ということで、今年は嘔吐とか大人気ないことはしません!もちろん例年通り女子供は厳禁!カップルで聞くとかマジやめてください!それではヌメリークリスマス! 12/21 ハニカミジェーン 12/13 カメラの向こう側 最近ですね、カメラ付き携帯が当たり前に普及してきたのか、それとも頭が悪くなるウィルスでも蔓延したのか知りませんけど、とにかく写真付きメールを頂くことが多くなったんです。 12/10 画像バトン いや、何を書けと?
12/5 心の代数
11/30 恐怖新聞 11/27 ガングリオン再発 ガングリオンが再発した! 何故か肘にできてしまった謎の腫瘍ガングリオンですが、手術で摘出したにも関わらずあっさり再発しました。やけに痛いなーって思ってたらポッコリと、胎児か、ってくらいに腫れあがっておりました。あのヤブ医者め! 今は痛みというよりは精神的ショックがでかいため、今日も以前に書いたNIKKI SONIC'06出展作品からモリっとコピー&ペースト。 ------------------------------- インチキ占い師と対決する(NIKKISONIC'06) そのアベックは「あん、ろじぱら超好き」「俺の1UPキノコはどうだい?」って会話して、そろそろ本気で怒られますね、やめておきます。で、その話とは別に何だか女性の方が「三国志占いってあるんだよー」とか頭のサイドギャザーがぶっ壊れて脳みそだだ漏れみたいなことをのたまっていたのです。 おいおい、なんだよ三国志占いって、と驚いちゃいましてね、どうしても占いの乙女チックなイメージと無骨な三国志が繋がらないんですよ。高志は劉禅ね、とか言われても微妙にわかんないよ。 とにかくこのアベックだけの話じゃないですけど、最近の日本って異常じゃないですか、朝、テレビをつければ星座占い、雑誌をめくればさらに恋愛星占い。今日のラッキーカラーはムラサキ!そいでもって血液型占いや良く分からない四柱推命占い、ネットでは○○占いと称して何でも占い。こんなにも占いがはびこる昨今、みなさんはどう占いライフをお過ごしでしょうか。 そんな事情もあってか、とにかく僕は占いのという類のものを一切信じず、端から否定することで日常生活を営んでいたりするのです。 とにかく、亜矢ちゃんは占いとかさえ言い出さなきゃ非常にいい娘で性格もかわいらしいしで瞬く間に僕らの中でのアイドルみたいなものになってしまいまして、連日亜矢ちゃんを交えてチャット大会ですよ。もう、シール君なんてゾッコンで「亜矢ちゃんと結婚したい」と言い出すまでに至ってました。 そんな折、いつものように僕とシュガー君、シール君と亜矢ちゃんとで心のオアシスシュガーチャットにて楽しげに談笑していた日のことでした。 亜矢:みんな楽しいなあー、会ってみたいよ。会ったらもっと楽しいんだろうな 亜矢ちゃんのこのセリフにシール君が大発奮。パソコンの影になっていて姿こそは見えませんでしたが、荒ぶる息遣いがこちらに聞こえるくらいまでハッスルしていました。 シール:じゃあさ、会ってみようよ、みんな神戸に行くからさ おいおい、勝手に何を言ってるんだと思うのですが、チャット内では実際に会うことに向けて機運が高まっている様子。シュガー君もまんざらではない感じなので、何故か亜矢ちゃんに会うためだけに僕らは神戸に行く羽目に。おまけに最初についた嘘を貫き通さねばなりませんので、一緒に吉野家で夕食を食べるくらい親密な仲なのに他人のフリをしなくてはならない、というどう考えても重い雰囲気になるであろうことは想像に易い。 とにかく、シュガーチャットにおける会おうムーブメントは止まるところ知らず、もはや僕如きの力ではどうしようもない大きなうねりに。結果、死ぬほど面倒なのですが3人で神戸まで行くことになったのでした。亜矢ちゃんに会いに。 さて、出発当日。早朝に大学に集合してそのまま僕の車で神戸まで一気に行くことになっていました。高速代とガソリン代は割り勘でってことになってたのですが、どうやらシール君はその代金すら持っていなかったらしく、自宅のゲーム機を中古屋に売って金を作ってきたようです。とんだブティック経営もいたもんだぜ。 「あー、亜矢ちゃんどんな娘なんだろ、カワイイに違いない」 「シール君、占いによるとアナタと私は相性最高だわ、結婚して、とか言われたらどうしよー!むひょー!」 って一人大騒ぎするシール君の顔はブサイクで、どうしようもない不快な気持ちになりつつ一路、神戸へと向かったのでした。シュガー君はずっと寝てた。 さて、神戸に到着したのですが、ここからが問題です。設定上は僕が広島在住でシール君が東京在住、シュガー君がなんと北海道在住ということになってますから、死ぬほど離れた地区に住んでるはずの僕らが雁首揃えて待ち合わせ場所に佇むのは変です。とにかく離れて待機し、続々と後から合流する形をとったほうが自然だ、という結論に至りました。 で、設定上は一番近い所から来ることになっている僕が待ち合わせ場所に佇むことに。ボケーッと待機していると、後ろの方から 「あのーシュガーチャットの方ですか」 とか話しかけられました。どっからどう聞いてもl女性の声で、亜矢ちゃんが来たんだと瞬時に思いました。でまあ、僕もやっぱり年頃の男の子ですから、下心ありありで、生涯において3番目くらいに男前であろう満面のグッドスマイルで振り向くと、そこには驚愕の事実、真実と言う名の残酷な現実がポッカリと口を開けて待ち構えていたのです。 いやね、蛇がいるんですよ。あまり人の、それも女性の容姿をとやかく言うのは良くないと分かってるのですが、それでも言わずにいられないというか、言うしかないというか、とにかくとんでもない亜矢がそこにいるんですよ。 呪いで大蛇の姿に変えられた人っていう表現がピッタリ来る女性で、目の下なんてクマが物凄い。歌舞伎なんかでよくあるそういうメイク?みたいな感じでクッキリとしたクマがあついてるんですよ。おまけに服も凄くて、とてもじゃないが日常生活では着ないような真っ白な、入院患者みたいなの着てるんですよ。 「はじめまして、亜矢です」 という彼女の口から二又に分かれた舌がチロチロと出ていても全く驚かないのですが、そうとは知らずにシール君が近づいてきます。まるで今東京から到着したぜって雰囲気を大根役者ヨロシクで醸し出して近寄ってくるのですが 「あー、もしかして、シュガーチャットの人ですか?まいったよー新幹線が混んでて。始めまして、シールです」 とか、「新幹線が混んでた」というエッセンスまで盛り込んでくれたのですが、あいにく、面識ないのに何の疑いも持たずにどまっすぐにこちらに近づいてくる時点で怪しいです。 しかも、かなり亜矢ちゃんに期待を抱いていたのはシール君ですから、今にもチロチロと舌を出しそうなヤマタノオロチみたいな亜矢ちゃんをみて大変落胆しておりました。そりゃね、誰だって始めて会う人とかに落胆することとか落胆されることって多々あると思いますけど、そんな丸分かりなのは良くない、と思わざるを得ないほど目に見えて落胆しておりました。早い話、膝から崩れ落ちそうになってた。さすがにそれは落胆しすぎ。 「どうもはじめましてー、シュガーです」 同様にシュガー君も三文芝居でやってくるのですが、同様に落胆を隠せない様子。気持ちは分かりますが、シュガー君も落胆しすぎ。 「では、揃ったみたいですし行きましょうか」 こうして、蛇みたいな亜矢ちゃんと、落胆を隠せないズッコケ3人組、しかも3人は鬼のように仲良しグループなのに、他人のフリをするというオマケつきで異様な雰囲気の中で移動が始まりました。なんでも喫茶店みたいな場所に移動して談笑するみたいなのですが、その道中の重い空気が嫌過ぎる。 「それはオレンジですか?」 「いいえ、夏みかんですよ」 初対面であることをアピールするために意味不明な会話を交わす僕とシュガー君。その横を落胆のあまりまともに歩けないシール君と3人が列になった状態でその前を大蛇が這っていきます。もちろん、それ以外に会話はなく、待ち合わせから5分にして早くも帰りたくて仕方ありませんでした。 で、なんとか喫茶店に到着したのですが、席についてコーヒーを注文してからが凄かった。もう誰も喋らない。ただただ漠然とした沈黙。とにかく沈黙。ただただ沈黙。シュガー君はシュガーなのに砂糖入れないのか、とかそんなこと考えてしまうくらい沈黙。 誰か何か喋ればいいのにって思うかもしれませんが、大蛇がテーブルにタロットみたいなの並べてですね、シュッシュと配ったり回収したりして僕らの顔をマジマジと見る、みたいなことを繰り返したんですよ。この雰囲気の中で「神戸はいいところですなー」なんて喋る豪気さなんて僕にはないよ。 しばらく、重苦しい沈黙とタロットカードが宙を舞う音だけが喫茶店内に蔓延しており、僕ら三人の誰もが「何しに来たんだろう、僕ら」とか「チャットでのかわいく明るく快活な亜矢ちゃんを返せ!」とか「本気で家に帰りたい」とか思い始めたその瞬間でした。静寂を突き破るかのように ピピピピピピピ と電子音がなったのです。当時、携帯電話なんてあまり普及してなくて、あったとしても今みたいに洗練されたものではなく、着メロなんて皆無、無骨な着信だけだったのです。で、おそらく携帯の着信音であろう音が響き渡り、もちろん、僕ら3人は携帯電話なんて持ってなかったので、間違いなく大蛇の携帯電話なのですが、ガバッとか大蛇が携帯に出ると、とんでもない剣幕で喋り始めたのです。 「ちょっと、まだ来ないの?うん、そうそう、○○通りの喫茶店。もう揃ってるから。うん、うん、え?なに?来れない?はあ?」 とか、二又の舌をチロチロ出して怒ってるんです。オマケに何か言い争いになってるらしく、大変な剣幕。挙句の果てには 「もういいよ!テメーなんか地獄に落ちろ!」 とか怒鳴ったかと思うと、バキッとカナディアンバックブリーカーみたいにして携帯電話をヘシ折りやがったのです。いやね、そのバイオレンスさも余程ですが、そのパワーにビックリですよ。だって、当時って今みたいに二つ折りの携帯が主流じゃないですからね。普通にでかいビデオのリモコンみたいな携帯電話、それをいとも簡単にへし折りやがったのです。どんだけパワフルなんですか。まるで暴力しかコミュニケーション手段を知らない悲しき戦士のようじゃないですか。 でまあ、恥ずかしながら僕ら3人、ブルっちゃいましてね。そりゃあ、快活なお嬢さんがやってくると期待していたら、ずっとタロット触ってる大蛇、しかも何を怒ってるか知りませんけど携帯クラッシャーですよ。 とにかく怖くて怖くて、早く帰りたくて仕方なかったんですけど、帰るとか言い出したら次々と携帯電話のようにへし折られる気概がビンビンに伝わってきたので、ただただ黙ってテーブル上に配置されるタロットカードだけを見守っていました。 「やはり、良くない何かが近づいてる・・・時間がない・・・」 カードを配る手を止めてポツリと呟く大蛇。もうお腹いっぱいなのですが、これ以上何かがあるようです。 「聞いてください。今、この世界には悪しき者が近づいてきています」 そんなこと突然言われても僕らは「はぁ」としか答えられないのですが、とにかく彼女は続けます。 「4年前からその兆候に気付いた私は、急いで戦士を集めることにしました。そう、前世で一緒に私と戦った4人の戦士を探すことにしたのです」 この時点でやっと気付きましたよ。ああ、この人狂ってるんだって。モノホンに狂ってるんだって。 ということは触らぬ神に祟りなし、触らぬキチガイになんとやら、一刻も早く逃亡する手段を考えないといけませんな、などと思ってたら、大蛇はよく分からない横文字を呼びながら僕ら一人一人を指差し 「マチュペル」(僕) 「シュレット」(シュガー君) 「キュリー」(シール君) 「私たちは前世で共に戦った仲間です」 とか、一発で病院送りにされてもおかしくない事を言い出すじゃないですか。いやいや、なんでシール君だけ実在する人っぽい名前やねん。っていうか夫人じゃねえか。 「あいにく、今日来るはずだったミラッテは・・・すでに悪しき者に取り込まれてしまいました。私たち4人で戦うしかありません・・・」 ああ、さっき電話で怒鳴られてた人か、そりゃあこんなこと言われたら来る気もしないわな、と思いつつ、どうやら僕らは前世でも共に戦った戦士らしいので、頑張って悪を倒そうと決意。頑張って占い師様をお守りしますぞって思ったのでした。覚悟しろ!悪の大魔王!んなわけねえだろ、バカ。 とにかく、一刻も早く逃げねばならない。僕だけ逃げるならまだしも、シュレットとキュリーも伴って逃げねばならない。しかしながら、先ほどの激昂ぶりを見るに、どうやら普通には逃げられそうにない。 「やーん、もう、みんな酷いんだから」「そんなことないよー」「イジワル」「なんかさあ、みんなチャットと変わらないよね、イジワルばっかりするう」「アハハハハ」「さあ、焼き鳥でも食いにいこう」みたいな想像していた亜矢ちゃんとの理想的会話だけが空しく頭の中にリフレインします。それが今や前世の戦士とか言われてますからね。誰と戦うんだよ。 「あのさ、どうして僕らが前世で共に戦った戦士だってわかったわけ?」 なんとか脱出する糸口を掴もうと探りを入れてみます。 「それはこの、私の占いで探しました。脅威が迫ってると感じた私は占いを始めました。そして導かれし前世の戦士を探したのです。一人は、商売を営む東の人、一人は医療を志す北の人、そして、西で学問を志すもの、その彼らが何も知らず、小さな部屋に集って会話をしていると出たのです」 なんてこったい。もしかしてこの人は僕らが適当に言った東京在住ブティック経営、北海道在住医学生、広島在住大学生を受けてこんなこと言ってるのだろうか。で、小さな部屋で会話ってシュガーチャットのことか。 「初めてチャットであった時、この人たちだって思いました。前世であの激闘を戦い抜いた同志たちだと確信しました」 まあ、掛け値なしで狂ってるんですけど、もし本当に占いでそう出たなら僕以外のプロフィールはメチャクチャなので、たぶんきっと前世の戦士は別にいるんだと思います。 「共に戦いましょう!忌々しき悪のルシフェルを倒すためにィィィィィィ!」 誰だよ、ルシフェルって。 とにかく、大蛇が白目剥いちゃってあらゆる意味で非常に危険な状態なので、こいつはイカンと思っていたら、なんか別のテーブルに座っていたはずの屈強な男性二人が出てきやがりまして 「落ち着いてください」 みたいな感じで大蛇を落ち着かせてました。どうやら、最初から配置されていた大蛇の仲間みたいです。で、大蛇は以前興奮していてハフーハフーみたいな状態になっているのですが、屈強な男性仲間が 「おわかりいただけたでしょう?とりあえず、一緒に戦うために○○会に入会していただきませんか?」 と怪しげな団体に勧誘され始めたのでした。なんか、変な契約書みたいなのも用意されてるし、コイツはひでー勧誘だ、前世がどうとか占いがどうとかなら狂ってる人だと笑い話にもなるのですが、勧誘となると頂けません。ここは毅然と断りつつ、なおかつ相手の神経を逆撫でないようにしなくてはなりません。 「あのーせっかく、前世の戦士として選ばれ、もちろん悪のルシフェルも倒さないといけないと思うのですが、その、たぶん占い結果が間違ってますよ。僕らはもともと同じ大学の仲間です。ブティック経営とか北海道在住とか、適当についた嘘です。ですから、僕らはきっと前世の戦士ではありません。きっと、ルシフェルとの戦いの役には立ちません。すぎに殺されます」 と、相手を刺激しないように精一杯の譲歩をみせて断ると、思いっきり大蛇を刺激してしまったらしく 「キエーーーーーーーーーーーーーーー!」 とか取り乱して屈強な男2人に抑え付けられてました。おーこえー。 ここが臨界点だと判断した僕らは、日本代表ばりのアイコンタクトで通じ合うと、一目散に喫茶店から逃げ出したのでした。シール君なんて、逃げる時に大蛇に捕まりそうになってたからタロットカードを手裏剣みたいに投げてた。 なんとか逃げ切ったらしく、車に乗り込んで、「怖かったねー」「とんだインチキ占い師だ」などと会話しつつ、やっぱり占いなんか信じるもんか、と堅く誓った前世の戦士三人なのでした。 高速に乗ってカーラジオをつけると、占いをやっていて 「今日の牡牛座は大ラッキー、ラッキーカラーはホワイト、蛇を見れたら運気アップかも」 みたいなことを言ってました。それを受けてシール君が 「あ、牡牛座俺だ。全然ラッキーじゃねえよ」 と悪態をつきつつ、家路に着くのでした。 「でもさあ、俺達はプロフィールめちゃくちゃだったから前世の戦士じゃないけど、お前はプロフィール嘘じゃないから、前世の戦士だよな。頑張れよ、マチュベル」 とシュガー君が僕に言うので、車を運転しつつ、いかにして大魔王ルシフェルを倒すか闘志を燃やすのでした。本日のラッキーカラーはブルー。三国志占いは劉備です。 ------------------------------ 次回のNumeri日記は、早朝の住宅街に衝撃が走る!VS新聞拡張員!白熱の攻防戦「恐怖新聞」です。お楽しみに!
11/20 平成米泥棒 11/16 免停クライシス 押忍!免停!
11/8 灼熱の掲示板
僕などはオムツを持ち込んでどうする気だ!きさまー!などと答えてしまいそうですが、店長は冷静に答えています。他にも
とまあ、マミちゃんはどんなテクニシャンなんだ、それよりなにより、ムキムキマンの第二関節というこだわりはどこからきてるんだと妄想が募るばかりですが、店長は冷静に返答しています。
我ながら酷い書き込みで、僕が店長だったら間違いなく削除してアクセス禁止処理ですが、即座に店長からレスポンスがあり
やばい、僕はちょっと感動している。まさかこんなどうでもいい書き込みにまで丁寧にレスしてくれるだなんて。過去、大学の同級生が集う大学掲示板がありましてね、そこで「アナルから血が出たんですけどどうしたらいいんですか?」と至って真面目に、本当に困り果てて投稿したら法学部の女子学生に「通報しますよ、告訴します」と極めて冷徹にレスされたのを思い出して少し泣けてしまいました。
まあ、僕が件のみゆきちゃんだったら、「きもちわるい」の一言レスをしてしまいそうです。なんだよ乳首チョリチョリって。少なくともヒゲのオッサンが公の場に書いていい文章じゃない。ヒゲ面が顔文字かよ。しかしながら、それすらも受け入れられるのが風俗店の掲示板。ちゃんとみゆきちゃんからのレスポンスがついていて
実際にみゆきちゃんが書いてなくて、店長が書いてる臭い文章なのですが、それでもどんな気持ち悪い文章でも受け入れられている。実はこれ、結構大切なことなんじゃないかなって思うんです。
こら!ゴンザレス!オイタが過ぎるぞ!
なんとアユミちゃんには不評な様子。なんでも受け入れてくれる風俗店掲示板のはずなのに、ゴンザレスは、というか僕のサイトは受け入れられていないという衝撃の展開。どこが悪かったんだろうと傷心のあまりフランスに自分探しの旅に出てしまいそうな気分です。
10/31 言えない言葉 12/10 画像バトン いや、何を書けと?
12/5 心の代数
11/30 恐怖新聞 11/27 ガングリオン再発 ガングリオンが再発した! 何故か肘にできてしまった謎の腫瘍ガングリオンですが、手術で摘出したにも関わらずあっさり再発しました。やけに痛いなーって思ってたらポッコリと、胎児か、ってくらいに腫れあがっておりました。あのヤブ医者め! 今は痛みというよりは精神的ショックがでかいため、今日も以前に書いたNIKKI SONIC'06出展作品からモリっとコピー&ペースト。 ------------------------------- インチキ占い師と対決する(NIKKISONIC'06) そのアベックは「あん、ろじぱら超好き」「俺の1UPキノコはどうだい?」って会話して、そろそろ本気で怒られますね、やめておきます。で、その話とは別に何だか女性の方が「三国志占いってあるんだよー」とか頭のサイドギャザーがぶっ壊れて脳みそだだ漏れみたいなことをのたまっていたのです。 おいおい、なんだよ三国志占いって、と驚いちゃいましてね、どうしても占いの乙女チックなイメージと無骨な三国志が繋がらないんですよ。高志は劉禅ね、とか言われても微妙にわかんないよ。 とにかくこのアベックだけの話じゃないですけど、最近の日本って異常じゃないですか、朝、テレビをつければ星座占い、雑誌をめくればさらに恋愛星占い。今日のラッキーカラーはムラサキ!そいでもって血液型占いや良く分からない四柱推命占い、ネットでは○○占いと称して何でも占い。こんなにも占いがはびこる昨今、みなさんはどう占いライフをお過ごしでしょうか。 そんな事情もあってか、とにかく僕は占いのという類のものを一切信じず、端から否定することで日常生活を営んでいたりするのです。 とにかく、亜矢ちゃんは占いとかさえ言い出さなきゃ非常にいい娘で性格もかわいらしいしで瞬く間に僕らの中でのアイドルみたいなものになってしまいまして、連日亜矢ちゃんを交えてチャット大会ですよ。もう、シール君なんてゾッコンで「亜矢ちゃんと結婚したい」と言い出すまでに至ってました。 そんな折、いつものように僕とシュガー君、シール君と亜矢ちゃんとで心のオアシスシュガーチャットにて楽しげに談笑していた日のことでした。 亜矢:みんな楽しいなあー、会ってみたいよ。会ったらもっと楽しいんだろうな 亜矢ちゃんのこのセリフにシール君が大発奮。パソコンの影になっていて姿こそは見えませんでしたが、荒ぶる息遣いがこちらに聞こえるくらいまでハッスルしていました。 シール:じゃあさ、会ってみようよ、みんな神戸に行くからさ おいおい、勝手に何を言ってるんだと思うのですが、チャット内では実際に会うことに向けて機運が高まっている様子。シュガー君もまんざらではない感じなので、何故か亜矢ちゃんに会うためだけに僕らは神戸に行く羽目に。おまけに最初についた嘘を貫き通さねばなりませんので、一緒に吉野家で夕食を食べるくらい親密な仲なのに他人のフリをしなくてはならない、というどう考えても重い雰囲気になるであろうことは想像に易い。 とにかく、シュガーチャットにおける会おうムーブメントは止まるところ知らず、もはや僕如きの力ではどうしようもない大きなうねりに。結果、死ぬほど面倒なのですが3人で神戸まで行くことになったのでした。亜矢ちゃんに会いに。 さて、出発当日。早朝に大学に集合してそのまま僕の車で神戸まで一気に行くことになっていました。高速代とガソリン代は割り勘でってことになってたのですが、どうやらシール君はその代金すら持っていなかったらしく、自宅のゲーム機を中古屋に売って金を作ってきたようです。とんだブティック経営もいたもんだぜ。 「あー、亜矢ちゃんどんな娘なんだろ、カワイイに違いない」 「シール君、占いによるとアナタと私は相性最高だわ、結婚して、とか言われたらどうしよー!むひょー!」 って一人大騒ぎするシール君の顔はブサイクで、どうしようもない不快な気持ちになりつつ一路、神戸へと向かったのでした。シュガー君はずっと寝てた。 さて、神戸に到着したのですが、ここからが問題です。設定上は僕が広島在住でシール君が東京在住、シュガー君がなんと北海道在住ということになってますから、死ぬほど離れた地区に住んでるはずの僕らが雁首揃えて待ち合わせ場所に佇むのは変です。とにかく離れて待機し、続々と後から合流する形をとったほうが自然だ、という結論に至りました。 で、設定上は一番近い所から来ることになっている僕が待ち合わせ場所に佇むことに。ボケーッと待機していると、後ろの方から 「あのーシュガーチャットの方ですか」 とか話しかけられました。どっからどう聞いてもl女性の声で、亜矢ちゃんが来たんだと瞬時に思いました。でまあ、僕もやっぱり年頃の男の子ですから、下心ありありで、生涯において3番目くらいに男前であろう満面のグッドスマイルで振り向くと、そこには驚愕の事実、真実と言う名の残酷な現実がポッカリと口を開けて待ち構えていたのです。 いやね、蛇がいるんですよ。あまり人の、それも女性の容姿をとやかく言うのは良くないと分かってるのですが、それでも言わずにいられないというか、言うしかないというか、とにかくとんでもない亜矢がそこにいるんですよ。 呪いで大蛇の姿に変えられた人っていう表現がピッタリ来る女性で、目の下なんてクマが物凄い。歌舞伎なんかでよくあるそういうメイク?みたいな感じでクッキリとしたクマがあついてるんですよ。おまけに服も凄くて、とてもじゃないが日常生活では着ないような真っ白な、入院患者みたいなの着てるんですよ。 「はじめまして、亜矢です」 という彼女の口から二又に分かれた舌がチロチロと出ていても全く驚かないのですが、そうとは知らずにシール君が近づいてきます。まるで今東京から到着したぜって雰囲気を大根役者ヨロシクで醸し出して近寄ってくるのですが 「あー、もしかして、シュガーチャットの人ですか?まいったよー新幹線が混んでて。始めまして、シールです」 とか、「新幹線が混んでた」というエッセンスまで盛り込んでくれたのですが、あいにく、面識ないのに何の疑いも持たずにどまっすぐにこちらに近づいてくる時点で怪しいです。 しかも、かなり亜矢ちゃんに期待を抱いていたのはシール君ですから、今にもチロチロと舌を出しそうなヤマタノオロチみたいな亜矢ちゃんをみて大変落胆しておりました。そりゃね、誰だって始めて会う人とかに落胆することとか落胆されることって多々あると思いますけど、そんな丸分かりなのは良くない、と思わざるを得ないほど目に見えて落胆しておりました。早い話、膝から崩れ落ちそうになってた。さすがにそれは落胆しすぎ。 「どうもはじめましてー、シュガーです」 同様にシュガー君も三文芝居でやってくるのですが、同様に落胆を隠せない様子。気持ちは分かりますが、シュガー君も落胆しすぎ。 「では、揃ったみたいですし行きましょうか」 こうして、蛇みたいな亜矢ちゃんと、落胆を隠せないズッコケ3人組、しかも3人は鬼のように仲良しグループなのに、他人のフリをするというオマケつきで異様な雰囲気の中で移動が始まりました。なんでも喫茶店みたいな場所に移動して談笑するみたいなのですが、その道中の重い空気が嫌過ぎる。 「それはオレンジですか?」 「いいえ、夏みかんですよ」 初対面であることをアピールするために意味不明な会話を交わす僕とシュガー君。その横を落胆のあまりまともに歩けないシール君と3人が列になった状態でその前を大蛇が這っていきます。もちろん、それ以外に会話はなく、待ち合わせから5分にして早くも帰りたくて仕方ありませんでした。 で、なんとか喫茶店に到着したのですが、席についてコーヒーを注文してからが凄かった。もう誰も喋らない。ただただ漠然とした沈黙。とにかく沈黙。ただただ沈黙。シュガー君はシュガーなのに砂糖入れないのか、とかそんなこと考えてしまうくらい沈黙。 誰か何か喋ればいいのにって思うかもしれませんが、大蛇がテーブルにタロットみたいなの並べてですね、シュッシュと配ったり回収したりして僕らの顔をマジマジと見る、みたいなことを繰り返したんですよ。この雰囲気の中で「神戸はいいところですなー」なんて喋る豪気さなんて僕にはないよ。 しばらく、重苦しい沈黙とタロットカードが宙を舞う音だけが喫茶店内に蔓延しており、僕ら三人の誰もが「何しに来たんだろう、僕ら」とか「チャットでのかわいく明るく快活な亜矢ちゃんを返せ!」とか「本気で家に帰りたい」とか思い始めたその瞬間でした。静寂を突き破るかのように ピピピピピピピ と電子音がなったのです。当時、携帯電話なんてあまり普及してなくて、あったとしても今みたいに洗練されたものではなく、着メロなんて皆無、無骨な着信だけだったのです。で、おそらく携帯の着信音であろう音が響き渡り、もちろん、僕ら3人は携帯電話なんて持ってなかったので、間違いなく大蛇の携帯電話なのですが、ガバッとか大蛇が携帯に出ると、とんでもない剣幕で喋り始めたのです。 「ちょっと、まだ来ないの?うん、そうそう、○○通りの喫茶店。もう揃ってるから。うん、うん、え?なに?来れない?はあ?」 とか、二又の舌をチロチロ出して怒ってるんです。オマケに何か言い争いになってるらしく、大変な剣幕。挙句の果てには 「もういいよ!テメーなんか地獄に落ちろ!」 とか怒鳴ったかと思うと、バキッとカナディアンバックブリーカーみたいにして携帯電話をヘシ折りやがったのです。いやね、そのバイオレンスさも余程ですが、そのパワーにビックリですよ。だって、当時って今みたいに二つ折りの携帯が主流じゃないですからね。普通にでかいビデオのリモコンみたいな携帯電話、それをいとも簡単にへし折りやがったのです。どんだけパワフルなんですか。まるで暴力しかコミュニケーション手段を知らない悲しき戦士のようじゃないですか。 でまあ、恥ずかしながら僕ら3人、ブルっちゃいましてね。そりゃあ、快活なお嬢さんがやってくると期待していたら、ずっとタロット触ってる大蛇、しかも何を怒ってるか知りませんけど携帯クラッシャーですよ。 とにかく怖くて怖くて、早く帰りたくて仕方なかったんですけど、帰るとか言い出したら次々と携帯電話のようにへし折られる気概がビンビンに伝わってきたので、ただただ黙ってテーブル上に配置されるタロットカードだけを見守っていました。 「やはり、良くない何かが近づいてる・・・時間がない・・・」 カードを配る手を止めてポツリと呟く大蛇。もうお腹いっぱいなのですが、これ以上何かがあるようです。 「聞いてください。今、この世界には悪しき者が近づいてきています」 そんなこと突然言われても僕らは「はぁ」としか答えられないのですが、とにかく彼女は続けます。 「4年前からその兆候に気付いた私は、急いで戦士を集めることにしました。そう、前世で一緒に私と戦った4人の戦士を探すことにしたのです」 この時点でやっと気付きましたよ。ああ、この人狂ってるんだって。モノホンに狂ってるんだって。 ということは触らぬ神に祟りなし、触らぬキチガイになんとやら、一刻も早く逃亡する手段を考えないといけませんな、などと思ってたら、大蛇はよく分からない横文字を呼びながら僕ら一人一人を指差し 「マチュペル」(僕) 「シュレット」(シュガー君) 「キュリー」(シール君) 「私たちは前世で共に戦った仲間です」 とか、一発で病院送りにされてもおかしくない事を言い出すじゃないですか。いやいや、なんでシール君だけ実在する人っぽい名前やねん。っていうか夫人じゃねえか。 「あいにく、今日来るはずだったミラッテは・・・すでに悪しき者に取り込まれてしまいました。私たち4人で戦うしかありません・・・」 ああ、さっき電話で怒鳴られてた人か、そりゃあこんなこと言われたら来る気もしないわな、と思いつつ、どうやら僕らは前世でも共に戦った戦士らしいので、頑張って悪を倒そうと決意。頑張って占い師様をお守りしますぞって思ったのでした。覚悟しろ!悪の大魔王!んなわけねえだろ、バカ。 とにかく、一刻も早く逃げねばならない。僕だけ逃げるならまだしも、シュレットとキュリーも伴って逃げねばならない。しかしながら、先ほどの激昂ぶりを見るに、どうやら普通には逃げられそうにない。 「やーん、もう、みんな酷いんだから」「そんなことないよー」「イジワル」「なんかさあ、みんなチャットと変わらないよね、イジワルばっかりするう」「アハハハハ」「さあ、焼き鳥でも食いにいこう」みたいな想像していた亜矢ちゃんとの理想的会話だけが空しく頭の中にリフレインします。それが今や前世の戦士とか言われてますからね。誰と戦うんだよ。 「あのさ、どうして僕らが前世で共に戦った戦士だってわかったわけ?」 なんとか脱出する糸口を掴もうと探りを入れてみます。 「それはこの、私の占いで探しました。脅威が迫ってると感じた私は占いを始めました。そして導かれし前世の戦士を探したのです。一人は、商売を営む東の人、一人は医療を志す北の人、そして、西で学問を志すもの、その彼らが何も知らず、小さな部屋に集って会話をしていると出たのです」 なんてこったい。もしかしてこの人は僕らが適当に言った東京在住ブティック経営、北海道在住医学生、広島在住大学生を受けてこんなこと言ってるのだろうか。で、小さな部屋で会話ってシュガーチャットのことか。 「初めてチャットであった時、この人たちだって思いました。前世であの激闘を戦い抜いた同志たちだと確信しました」 まあ、掛け値なしで狂ってるんですけど、もし本当に占いでそう出たなら僕以外のプロフィールはメチャクチャなので、たぶんきっと前世の戦士は別にいるんだと思います。 「共に戦いましょう!忌々しき悪のルシフェルを倒すためにィィィィィィ!」 誰だよ、ルシフェルって。 とにかく、大蛇が白目剥いちゃってあらゆる意味で非常に危険な状態なので、こいつはイカンと思っていたら、なんか別のテーブルに座っていたはずの屈強な男性二人が出てきやがりまして 「落ち着いてください」 みたいな感じで大蛇を落ち着かせてました。どうやら、最初から配置されていた大蛇の仲間みたいです。で、大蛇は以前興奮していてハフーハフーみたいな状態になっているのですが、屈強な男性仲間が 「おわかりいただけたでしょう?とりあえず、一緒に戦うために○○会に入会していただきませんか?」 と怪しげな団体に勧誘され始めたのでした。なんか、変な契約書みたいなのも用意されてるし、コイツはひでー勧誘だ、前世がどうとか占いがどうとかなら狂ってる人だと笑い話にもなるのですが、勧誘となると頂けません。ここは毅然と断りつつ、なおかつ相手の神経を逆撫でないようにしなくてはなりません。 「あのーせっかく、前世の戦士として選ばれ、もちろん悪のルシフェルも倒さないといけないと思うのですが、その、たぶん占い結果が間違ってますよ。僕らはもともと同じ大学の仲間です。ブティック経営とか北海道在住とか、適当についた嘘です。ですから、僕らはきっと前世の戦士ではありません。きっと、ルシフェルとの戦いの役には立ちません。すぎに殺されます」 と、相手を刺激しないように精一杯の譲歩をみせて断ると、思いっきり大蛇を刺激してしまったらしく 「キエーーーーーーーーーーーーーーー!」 とか取り乱して屈強な男2人に抑え付けられてました。おーこえー。 ここが臨界点だと判断した僕らは、日本代表ばりのアイコンタクトで通じ合うと、一目散に喫茶店から逃げ出したのでした。シール君なんて、逃げる時に大蛇に捕まりそうになってたからタロットカードを手裏剣みたいに投げてた。 なんとか逃げ切ったらしく、車に乗り込んで、「怖かったねー」「とんだインチキ占い師だ」などと会話しつつ、やっぱり占いなんか信じるもんか、と堅く誓った前世の戦士三人なのでした。 高速に乗ってカーラジオをつけると、占いをやっていて 「今日の牡牛座は大ラッキー、ラッキーカラーはホワイト、蛇を見れたら運気アップかも」 みたいなことを言ってました。それを受けてシール君が 「あ、牡牛座俺だ。全然ラッキーじゃねえよ」 と悪態をつきつつ、家路に着くのでした。 「でもさあ、俺達はプロフィールめちゃくちゃだったから前世の戦士じゃないけど、お前はプロフィール嘘じゃないから、前世の戦士だよな。頑張れよ、マチュベル」 とシュガー君が僕に言うので、車を運転しつつ、いかにして大魔王ルシフェルを倒すか闘志を燃やすのでした。本日のラッキーカラーはブルー。三国志占いは劉備です。 ------------------------------ 次回のNumeri日記は、早朝の住宅街に衝撃が走る!VS新聞拡張員!白熱の攻防戦「恐怖新聞」です。お楽しみに!
11/20 平成米泥棒 11/16 免停クライシス 押忍!免停!
11/8 灼熱の掲示板
僕などはオムツを持ち込んでどうする気だ!きさまー!などと答えてしまいそうですが、店長は冷静に答えています。他にも
とまあ、マミちゃんはどんなテクニシャンなんだ、それよりなにより、ムキムキマンの第二関節というこだわりはどこからきてるんだと妄想が募るばかりですが、店長は冷静に返答しています。
我ながら酷い書き込みで、僕が店長だったら間違いなく削除してアクセス禁止処理ですが、即座に店長からレスポンスがあり
やばい、僕はちょっと感動している。まさかこんなどうでもいい書き込みにまで丁寧にレスしてくれるだなんて。過去、大学の同級生が集う大学掲示板がありましてね、そこで「アナルから血が出たんですけどどうしたらいいんですか?」と至って真面目に、本当に困り果てて投稿したら法学部の女子学生に「通報しますよ、告訴します」と極めて冷徹にレスされたのを思い出して少し泣けてしまいました。
まあ、僕が件のみゆきちゃんだったら、「きもちわるい」の一言レスをしてしまいそうです。なんだよ乳首チョリチョリって。少なくともヒゲのオッサンが公の場に書いていい文章じゃない。ヒゲ面が顔文字かよ。しかしながら、それすらも受け入れられるのが風俗店の掲示板。ちゃんとみゆきちゃんからのレスポンスがついていて
実際にみゆきちゃんが書いてなくて、店長が書いてる臭い文章なのですが、それでもどんな気持ち悪い文章でも受け入れられている。実はこれ、結構大切なことなんじゃないかなって思うんです。
こら!ゴンザレス!オイタが過ぎるぞ!
なんとアユミちゃんには不評な様子。なんでも受け入れてくれる風俗店掲示板のはずなのに、ゴンザレスは、というか僕のサイトは受け入れられていないという衝撃の展開。どこが悪かったんだろうと傷心のあまりフランスに自分探しの旅に出てしまいそうな気分です。
10/31 言えない言葉 |
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