きょうの社説 2009年4月17日

◎郵便制度悪用事件 福祉を食い物にする卑しさ
 障害者団体向けの割引制度を悪用した郵便法違反事件は、印刷・通販大手「ウイルコ」 (白山市)や大手家電量販店「ベスト電器」、障害者団体などにも検察の強制捜査が及び、発送を承認した郵便事業会社(日本郵便)の支店も捜索を受ける大規模な不正事件に発展した。

 悪用された制度は、障害者団体の活動支援や障害者の社会参加などに役立てるのが本来 の趣旨である。その格安料金をダイレクトメール(DM)の発送手段として目をつけ、多額の差益を得ていた事件の構図が事実であれば、「福祉」を食い物にした悪徳ビジネスと言わざるを得ない。名の知れた企業であるのに、何ともあさましく、卑しい行為である。

 不正がなぜチェックされずに横行したのか、悪用を許した郵便事業会社の責任も免れな い。大阪地検特捜部は広告、通販、郵便などが絡んだ不正ビジネスの実態解明に全力を挙げてもらいたい。

 心身障害者団体向けの低料第三種郵便物制度は、郵便事業会社の承認を受ければ定期刊 行物を低料金で郵送できる制度で、通常なら一通百二十円かかる送料が八円程度になる。

 ウイルコは大阪の広告代理店と提携し、ベスト電器のDM計約二百十万通に、障害者支 援団体「白山会」などの刊行物を同封し、顧客に発送して正規料金との差額二億四千万円を免れた疑いが持たれている。白山会は活動の実態がなかったという。

 逮捕されたウイルコの若林和芳容疑者=会長を辞任=は疑惑発覚後も「悪意はないし、 悪用したという認識もない」と説明してきた。摘発された他の会社幹部も「違法性の認識はなかった」と口をそろえている。一社だけでなく、複数の企業などが取引に介在したことで不正の認識があいまいになったのだろうか。

 それにしても疑問がぬぐえないのは郵便事業会社がなぜ不正を見抜けなかったかである 。同社は昨年、一連の問題で総務省から事業改善を命令され、チェック体制の不備を認めている。今回の事件を教訓に再発防止策を徹底してもらいたい。

◎金沢で弁護士刺傷 司法制度揺るがす凶行
 金沢弁護士会所属の男性弁護士が法律事務所で刺された事件で、殺人未遂容疑などで逮 捕された男は、警察の調べに対し、「民事上のトラブルがあり、恨みがあった」と供述した。警察は法律相談をめぐるトラブルがあったとみて追及している。弁護士の業務にかかわることが動機だとすれば、弁護士制度や司法制度の基盤を揺るがす重大な凶行である。いかなる理由があろうとも、許すわけにはいかない。

 弁護士への業務妨害は全国的に後を絶たず、巧妙化、悪質化していると言われる。嫌が らせや脅迫、ネット上の中傷にとどまらず、本人や家族、事務員などに危害を加える深刻なケースも起きている。今回の事件でも、容疑者は、事務員も働く法律事務所内に包丁を持ち込んでおり、一歩間違えれば被害が拡大しかねない状況だった。

 弁護士が暴力や示威行為などに屈し、適正な法的業務をためらうような状況になれば、 法秩序は乱れ、妨害行為を助長することにもつながる。警察は事件に至る背景や動機を徹底的に調べてほしい。

 弁護士が狙われた事件では、一九八九年の坂本堤弁護士一家殺害事件をはじめ、離婚調 停の相手方である夫が妻の代理人である弁護士を包丁で切りつけたり、同じく離婚訴訟の当事者が法律事務所に押しかけ、女性事務員二人を金づちで殴打して重軽傷を負わせる事件なども発生している。

 弁護士は職務上、逆恨みや不満を抱かれる場合があるかもしれないが、法律による解決 手段を超えて暴力に訴える風潮は何としても歯止めをかけねばならない。弁護士会は妨害対策を個人に委ねるだけでなく、組織的な対応も含めて取り組みを強化する必要がある。

 司法関係者への暴力は、五月から始まる裁判員制度にもマイナスの影響を及ぼすおそれ がある。裁判員制度に関しては、被告人やその関係者による逆恨みを心配する声があり、各種アンケート調査でもそうした不安が浮き彫りになっている。司法の現場で市民参加の取り組みが加速しているが、暴力の介入はそうした流れに水を差すことにもなりかねない。