介護職員の労働環境について研究を行っている八戸大学人間健康学部の篠崎良勝准教授は、介護従事者の医療行為の経験率の調査を行い、「介護業界における非医療従事者が行う医療行為の現状と課題」として、この度発表した。調査結果では、違法とわかっていながら介護職員が医療行為を行っている現状が浮き彫りとなった。
調査は居宅介護(ホームヘルパー)と施設介護に分けて行い、調査項目は、排たんケア(タッピング)、褥そうのガーゼ交換、摘便、経管栄養、たんの吸引、膀胱洗浄、導尿、点滴の抜針、インシュリン注射の9項目。
在宅で行なわれているのは「褥そうのガーゼ交換」が27.6%とトップ。体位交換やおむつ交換の際に見るに見かねてガーゼを交換する様子が想像できる。次いで「排たんケア」「摘便」「経管栄養」「たんの吸引」と続く。「点滴抜針」は3.1%、「インシュリン注射」も2.5%が経験ありと回答。
施設では「たんの吸引」が29.7%でトップ、以下、「摘便」「経管栄養」「褥そうのガーゼ交換」と続く。「点滴抜針」と「インシュリン注射」がいずれも20.3%と2割の介護職員が経験ありと、在宅に比較し高率で経験していることがわかる。施設では医師や看護師の指示もとでの医療行為とはいえ、本来看護師が行うべき医療行為を、日常的に介護職員が行っている現状がうかがえる。
医療行為を行っている背景として、在宅介護では「利用者や家族からの依頼」がそれぞれ20%ともっとも多いが、なかには「ケアマネジャーの指示」(7.7%)、「医療行為とは知らなかった」(4.5%)との回答もあり、違法行為として扱われる可能性があるにもかかわらず、さまざまな理由からヘルパーが医療行為を行っている現状が示された。
介護職員の医療行為については、2005年の厚労省からの通知によってその範囲が広がった。しかしそれらの多くは家族なら普通に行っている湿布の貼付、点眼薬の点眼、耳垢除去などで、胃ろう、導尿カテーテル、たんの吸引などの医療行為を介護職が行うことは、特別な理由がない限り「違法」であるとされている。
篠崎准教授によると、「介護職員が医療行為を行うことは、業務は増えても報酬はつかず、医療事故における責任だけがついてくる環境」だといい、今後、現場での研修の義務化と、国レベルでの医療行為・介護行為の範囲の定期的が見直しが必要だと述べている。
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