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【社説】

『週刊新潮』誤報 雑誌報道の自殺行為だ

2009年4月17日

 朝日新聞阪神支局襲撃事件の「実行犯」という男性の手記を載せた週刊新潮が「誤報だった」と認めた。事実関係の裏付け取材が粗雑すぎる。最近の雑誌やテレビは安直な手法に陥っていないか。

 週刊新潮は二月五日号から四回にわたって手記を連載した。ところが、十六日発売の四月二十三日号で「『週刊新潮』はこうして『ニセ実行犯』に騙(だま)された」と編集長名付きの検証記事を掲載し、謝罪した。

 「最大の原因は裏付け取材の不足」という反省の弁はその通りだ。事件を指示したという元大使館職員や犯行声明文を打ったという女性から裏付け証言が得られず、捜査当局へのアプローチには触れていない。男性以外の事件関係者への裏付け取材が質、量とも貧弱だったことが分かる。

 「確たる証拠がなければ記事にしない」との方針とは裏腹に、検証記事からは男性の言葉だけをうのみにしたとしか読み取れない。

 謝罪しながらも「誤報から100%免れることは不可能」などと被害者めいた言い訳をつづるのは読者に失礼だろう。こんなタイトルで十ページも使った特ダネ級の扱いには商魂すら疑わせてしまう。

 雑誌は新聞が立ち入らない部分に切り込み、真実に迫ることでその地位を築いてきた面がある。そのなかで、権力や権威におもねらず、欲やカネといった読者の興味をそそる事件、事象をどしどし取り上げてきたのが新潮ジャーナリズムの真骨頂ではなかったか。

 それも事実の裏付けがあってこそ。「売れさえすれば」とセンセーショナリズムで雑誌をつくるとしたら、自殺行為だ。

 景気後退とともに出版業界の経営環境は厳しさを増す。月刊誌は休刊に追い込まれ、週刊誌も販売部数の低迷にあえいでいる。

 週刊誌は大相撲の八百長疑惑をめぐる訴訟で敗訴が相次ぐ。週刊現代は外部ライターの記事が「取材がずさん」とされ、週刊新潮は「社内での慎重な検討が不足」と社長の責任まで指摘された。

 編集部門でも人員整理や経費削減が進むとされるが、読者の信頼を確保していくには、逆に社内のチェック機能をより高めていくしかない。

 事実確認の作業は本来、手間と時間がかかるものだ。日本テレビの報道番組「真相報道バンキシャ!」も裏付け取材が甘く、誤報に陥った。報道に携わる者であれば「記事は足で書く」という意味をあらためて思い起こしたい。

 

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