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社説 中国経済は内需主導で底打ちできるか(4/17)

 中国国家統計局は16日、1―3月の国内総生産(GDP)が前年同期に比べ実質6.1%増えたと発表した。2008年10―12月の同6.8%をさらに下回り、07年の半分以下の伸び率。中国経済が一段と減速したことが明らかになった。

 ただ投資や消費、生産などの動きをつぶさにみると回復の兆しも一部に出ている。2年余りで総額4兆元(約58兆円)を投じる内需拡大策の効果が表れ始めており、統計局高官は「国民経済に積極的変化が表れた」と指摘した。中国経済は世界に先駆けて底を打つのだろうか。

景気対策の効果じわり

 1―3月の統計で印象的なのは設備投資や建設投資を合わせた固定資産投資の伸びが28.8%の大幅増となったこと。昨年10―12月の伸び率に比べ3ポイント以上も高まった。

 引っ張っているのは公共投資だ。08年秋から10年末までに4兆元を投じる内需拡大策で最大の柱となるのは鉄道や道路、飛行場など重要インフラの整備で、1兆5000億元を割り当てる計画。これが本格的に動き始めている。

 08年後半に急落した鉄鉱石など1次産品の相場や海運市況が今年に入り一部反発したのは、中国の公共投資に伴う需要増を先取りした面が強かった。日本の建設機械メーカーや鉄道設備メーカーなどにも商機をもたらしており、中国の景気対策は世界経済を下支えする効果も発揮しつつある。

 消費面でも変化がみられる。3月の自動車販売台数は前年同月比5%増の110万9800台と、過去最高を記録した。08年半ばからの前年割れ傾向に歯止めがかかり、販売台数では米国を抜いて世界最大の自動車市場となっている。

 好転の要因は1月から排気量1600cc以下の自動車の取得税を5%に半減した消費促進策。このクラスの乗用車の1―3月の販売台数は前年同期比22%増え、日系メーカーなども恩恵を受けている。

 農民が燃費の悪いオート三輪などから小型車に買い替えた場合に補助金を出す制度も導入した。日本の追加経済対策に先行した形である。

 もっとも、この制度が適用されるのは「主に民族系メーカーが生産している小型車で、外資にとってうまみは小さい」との指摘もある。家電製品の農村への普及を促す制度を含めて、中国政府が内外無差別の原則を徹底することを求めたい。

 代表的な株価指標の上海総合指数は昨秋の安値から4割以上上昇し、世界で先陣を切ってリーマン・ショック前の水準を上回った。工業生産の回復を裏付ける統計も出ており、中国の一部エコノミストからは「景気はすでに底を打ち回復軌道に乗った」との声が上がり始めた。

 ただ、中国国内の専門家の大勢は「景気の回復は今年後半以降だろう」とする慎重な見方。不安な要素が決して少なくないからだ。

 中国メディアによると3月の発電量は前年同月を0.7%下回った。主に工場の稼働率が低下しているためとみられ「製造業の実情は政府の統計に表れているよりも悪いのではないか」との観測を招いている。

 インフラ投資の拡大を見込み鉄鋼製品の価格は年初に上昇し、原料である鉄鉱石の輸入量も3月に過去最高となった。ところが一方で鉄鋼製品の価格は急落しており、需要回復は期待されたほどではない。

 1978年に改革・開放政策に踏み出して以来、中国が世界的な不況に直面したのは初めてだ。政策担当者も企業経営者も景気循環への対応には不慣れな面があり、景気の回復を見込んで在庫を過剰に積み増したり、老朽化した生産設備の操業を再開したりして、結果的に鉄鋼製品の市況をかく乱した可能性もある。

 雇用情勢の悪化も懸念材料だ。消費の足を引っぱるだけでなく、社会不安の火種になりかねない。特に近年数が増えている大学卒業生が就職難で、事態は深刻である。

追加対策になお余地

 もともと中国経済は外需への依存度が高く、08年の輸出のGDPに対する割合は30%を超えていた。世界不況で外需が急にしぼんだため政府はかねて唱えてきた「内需主導の成長への転換」に真剣に取り組まざるを得なくなったのが実情だ。ただ80年代の日本の経験が示すようにこの転換は容易でない。

 温家宝首相は3月に「十分な弾薬を備えている」と追加の景気対策を準備する方針を示した。仮に追加対策を実施しない場合、今年末の公債発行残高のGDP比は20%と低い水準にとどまる見込みで、150%を上回る日本に比べれば新たな財政出動の余地は大きい。

 一層の金融緩和策などの政策も使える環境にある。世界最大の外貨準備も保有している。世界経済への影響力が増した中国が、これらの政策資源を適切に活用するよう望む。

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