2009年04月17日 社説
[調書漏えい有罪]
取材源守れず重いツケ
奈良県の医師宅放火殺人の調書漏えい事件で、医師の長男(19)を鑑定し、供述調書を漏らしたとして刑法の秘密漏示罪に問われた精神科医の崎浜盛三被告に対し、奈良地裁は有罪判決(懲役4月、執行猶予3年)を言い渡した。
調書の内容は、フリージャーナリストの草薙厚子さんが出版した著書で多くの人の知るところとなったが、崎浜被告は出版に関与していない。あくまで調書を見せただけである。取材に応じて情報を提供したことで逮捕・起訴され、有罪となった。
メディアの取材源を秘密漏示罪で逮捕、起訴すること自体、極めて異例だ。
刑法134条は、医師、弁護士などが業務で知り得た秘密を正当な理由なく外部に漏らすことを禁じている。
判決は、秘密が公表された直接の原因を草薙さんの著書と認定。「被告の行為は長男の利益を図るものとはいえず、(調書を見せたことが)取材に対する協力だとしても、正当な理由はない」と結論づけている。
国民の「知る権利」は、取材協力者や情報提供者の存在によって担保されている。情報提供したことによって公権力が介入し、司法の場で裁かれるようなことが日常化すれば、情報提供者は萎縮し、必要な情報が開示されない結果を招きかねない。
プライバシー保護に留意するのは当然だとしても、軽々に秘密漏示罪という「宝刀」を抜いた捜査当局の対応にはあらためて危惧の念を表明せざるを得ない。
今回の事件が「特異なケース」であることも指摘しなければならない。
草薙さんは著書の出版理由について、共同通信社のインタビューで「医師宅放火殺人のような事件が起こることを防ぎたかった」と説明。広汎性発達障害と診断された今回の事例を読者に知ってもらう意義を強調したという。
だが、取材源の秘匿など取材手法には大きな問題が残る。出版した講談社の第三者調査委員会が「(著書は)供述調書の引用方法などに出版倫理にもとる重大な問題があり、取材源秘匿の重要性について理解がなかった」と報告するように、草薙さんの取材の未熟さと、講談社のチェック体制の甘さは厳しく指摘されて当然だ。
結果的に、取材に協力して調書を提供した崎浜被告が逮捕、起訴されるなど公権力の介入を招いた。責任は重大だ。
「知る権利」が情報提供者や取材協力者によって支えられていることは前に触れた。取材源を最後まで守り抜き保護することは、メディアに課せられた最も重要な職業倫理である。
取材源の秘匿なくしてメディアは存在し得ない、と言ってもいい。
メディアと情報提供者の信頼関係は、究極的には取材源の秘匿・保護という一点で成り立っており、情報提供者から「見せた相手が悪かった」といわれるようでは、おしまいだ。同業者として取材源秘匿の重要性を自戒を込めて再確認したい。
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