しかし日本は、立ち後れそうだ。現世代の太陽電池にこだわるせいで。
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《 要旨 》 |
( ※ 比喩的に言うと、ハイブリッド車が普及する時代に、ガソリンをがぶ飲みする高出力の大排気量車の開発に熱中して、倒産寸前になった、米のビッグスリーのようなもの。ビッグスリーの姿は、明日の日本の太陽電池会社だ。)
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まず、現在の政策は、次のようなものだ。
「補助金で太陽光発電を普及させよ。そうすれば大量生産効果で日本が世界トップのシェアを握れる」
しかし、こんな政策は無効なのだ。そのことを、本項では言いたい。
なるほど、その政策によって、現世代の太陽電池でトップの座を握れるかもしれない。しかし、そうできたとしても、それは意味がない。やがては時代から取り残されてしまうからだ。
なぜか? 日本はあえて、そういう方向をめざしているからだ。
日本は、現世代の太陽電池の市場で、シェアトップになることをめざしている。なるほど、それは実現するかもしれない。
しかしやがては、現世代の太陽電池の市場そのものが大幅に縮小する。そうなれば、シェアでトップであることの意義がなくなる。100のうちの半分のシェアを取って喜んでいるうちに、市場規模が縮小して、10のうちの半分を取るだけにすぎなくなる。
その一方で、次世代の太陽電池の市場が急激に伸びていく。その市場が 10から 100へと拡大していく。しかし、その新しい市場では、日本は取り残されてしまう。
将来的には、そういうシナリオが成立しそうだ。
とにかく、日本はそういう方向をめざして邁進している。対比すると、次の通り。
・ 世間の声 「太陽電池は、補助金で生産量を増やせ」
・ 私の提案 「太陽電池は、普及よりも、技術開発を狙え」
このような対比については、私はこれまで何度も述べてきた。そして、本項では、その裏付けとなることを指摘しておく。
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話の順序が逆になったかもしれない。結論を先に述べて、根拠は後回しにしたからだ。このあと、上記の結論に至った理由を述べる。
朝日新聞(朝刊 2009-04-16 )に、記事があった。ざっと紹介しよう。
《 要点 》
・ 太陽電池の特許件数では、日本は圧倒的に数が多い。
・ ただし、現世代では圧倒的に多いが、欧米を下回る。
《 詳細 》
太陽電池全体の特許を見ると、約8000件のうち、日本 68%、欧州 15%、米国11%。(00〜06年)
ただし、次世代の太陽電池と目される有機半導体系については約 700件のうち、日本 46%、米国 29%、欧州 19%で、日本は欧米の合計を下回っている。
( ※ 特許庁の「特許出願技術動向調査」による。15日発表。 → 経産省のサイト )
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ここで注釈しておこう。「それでも(特許件数は)日本の方がずっと多い」と思う人もいるだろうが、そう思うのは妥当でない。
どの分野の特許でもそうだが、日本はやたらと特許を出して、たいてい1位だ。しかし、数では1位だとしても、技術水準で1位であるわけではない。どうしてかというと、数はあっても、質がともなわないからだ。
これはどういうことか? 日本は、下らない特許でもとにかく出願するので、クズ特許が多いからだ。「とりあえず特許を取っておけ。そうすれば仕事をしたことになるからな」と。……結果的に、誰も使わない休眠特許が増える。
一方、欧米の会社は、役に立ちそうにない特許を出願しない。金になりそうにない無駄な特許を出願する手間をかけるくらいなら、有益な技術開発に専念する。
だから、単純に数の比較をもって、「日本が優れている」とは言えない。
( ※ その証拠に、いくら特許の件数が多くても、日本の太陽光発電のシェアは、現在では世界的にかなり低い。特許の数と、技術水準とは、比例しない。)
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ただし、欧米との比較は無意味でも、日本のなかでの比較ならば意味がある。次のことがわかる。
「日本は現世代の技術開発ばかりに熱中しているが、その間に、欧米は次世代の技術開発をじっくりやっている」
つまり、目先の商品開発に追われるか、長期的な戦略的視野をもつか、という違いだ。
さらに言えば、これは、欧米と日本との差であるだけでなく、私の見解と日本社会の見解の差でもある。
・ 欧米/私の見解 …… 長期的な技術開発を優先 (開発重視)
・ 日本/日本社会 …… 目先の大量生産を優先 (補助金重視)
で、その結果は? もちろん、狙った通りになる。日本は現世代の太陽光発電でどんどんシェアを増やすだろうが、それで成功したと思ったころ、市場は次世代の太陽電池に移行する。日本には現世代の太陽電池の工場が、時代遅れの廃墟と化して、巨大なゴミとして残る。
【 関連項目 】
実は、同趣旨の結論は、前にも述べている。
→ 太陽電池はゴミになる
ここでは、現世代の太陽電池生産工場がゴミとなる、と述べている。そして、次世代タイプとして、有機薄膜型や色素増感型を紹介している。
とにかく、「補助金で大量生産を」という方針と、「地道に技術開発を」という方針の、どちらが正しいか、わかるだろう。
せっかちなウサギがピョンピョン跳ねても、途中で息切れして、休むハメになる。そのころ、じっくり研究し続けた亀が、あとから追い越してしまうのだ。
目先のことばかりに とらわれるのは、ただのアホである。