まだあったの?――なんて言わないでネ。

 ネタ切れの危機を乗り越え、なんとか3発目の発射です。

 廣瀬大輔さん、レモンさん、久保田智子さん・・・お待たせしました!

 あっ、思わずキーボードが滑りました。久保田さんが待ってるってのは僕の妄想でした〜。

 それでは、さっそく脱力していただきましょう。

【ケース21 ミラクル】

 アダモ「ブルー・ジーンと皮ジャンパー/言わせておけよ」

 ああ、このマイクには何かある!

 「汚レコ その1」の【ケース5 タゴモリさん】でご紹介したレコードと同じだ。誰でもこのマイクのわずかなスペースに何かを書き込みたくなるのか。

 今回の汚レコ人は名前ではなく、入手した日付と思われる「42. 12. 26」と鉛筆で書き入れた。

 ミラクルです。

 初めて「汚レコ」を読む人はなんのこっちゃわかりません。

 福岡市東区の筥崎宮(はこざきぐう)の蚤の市で入手。前回と同じ場所で。これもミラクル。

【ケース22 目力】

 菅原昭子「若い新宿/小さな星」

 おそらく、放送局にあったレコードなのでしょう。ジャケットの左下に「S49. 10. 16 持込み」とボールペンで書き込みがある。

 誰かが「A面キズ」と書き足してオンエアされることもなくなったころ、菅原さんの怨念がその文字を消し、「キズじゃないのよ かけて下さいね」と書き込ませた――ように思えるこの目力!

 さらにレーベルにも

 「キズ 使えませんよ! ダメレス」という注意書きを消して、「キズなしよ」と書き込んでいる。変なキャラまで登場させちゃった。

 それにもかかわらず、ターンテーブルに乗ることはなかったのか、ヒットしたという話は聞かない。

 「若い新宿」の2番では、「いつも学生 集まる店の壁は 誰が書いたの 落書きいっぱい楽しいな」と明るく歌っている。

 この目はそこまで見通していた?

 福岡・天神のレコードの催事で入手。

【ケース23 目力2】

 八代亜紀「あなたと生きる/銀座海峡」

 ジャケットはこんな感じ。

 八代さんも目力の人だと思うのは僕だけ?

 この目力を借りて何かを訴えようとしたのが汚レコ人です。

 スリーヴに

 愛してるよ 滝

 と筆ペンで。

 恐らく年配の男性だと思われるのですが、愛する相手にプレゼントしたのかもしれません。

 しかし「あなたと生き」れぬまま、福岡市東区の筥崎宮の蚤の市でホコリをかぶっている現実に涙。

【ケース24 どっちやねん】

 小川知子「別れてよかった/今から始まる」

 ジャケットは物憂げな小川知子。

 紙スリーヴに書き込みが。

 A面の「別れてよかった」が収められたスリーヴには「Michiko Sanni」。

 B面の「今から始まる」が収められた「Miko Sanni」とそれぞれ書かれている。

 ミチコさんと「別れてよかった」汚レコ人は、ミコさんと「今から始まる」のか?


 どっちやねん!


 ああ、解読不能。

 福岡市東区の筥崎宮の蚤の市で入手。

【ケース25 つながり】

 アイ・ジョージ「紅子のバラード」

 ジャケットを見れば一目瞭然。

 山口城司 すぐに返せ!


 とボールペンで殴り書き。


 僕も友人に貸したCDが返ってこないことは日常茶飯事なので、山口君の気持ちは良く分かる。


 しかし、友人は度肝を抜かれたことでしょう。

 これがいわゆる「ジョージつながり」っていうもんなのでしょうか?

 北九州市小倉北区のリサイクル店で入手。山口君が売り払ったのか、それとも知人が・・・。

 ここから、福岡市中央区の中古レコード店「田口商店」の看板娘、土井みつよさんが発掘してくださった2枚が続きます。ありがとうございます!

【ケース26 まぶしすぎて】

 モンキーズ「モンキーズのテーマ/自由になりたい」


 ジャケットは中古レコード店でよくみかけるこれ。

 ジャケットの裏面のメンバー4人の似顔絵に青色のボールペンでサングラスを書き加えている。しかも形がみんな違う。

 デイビー・ジョーンズなんか、ミッシエル・ポルナレフかと思いましたよ〜。


 書き込みをしているとき、汚レコ人は半笑いだったに違いない。

【ケース27 記録】

 山田邦子「邦子のかわい子ぶりっ子」

 1982. MAR. 28 千代優勝。

 と油性ペンで書き込んだ。

 調べてみると、確かに大相撲春場所で千代の富士は優勝している。

 それをなぜ山田邦子のレコードに書きとめておいたのか?

 そういえば、当時は丸文字がはやってましたね。

 すべてに時代を感じさせるゾ。

 ここからは、東京都江東区のダウンタウンレコード(http://www.downtownrecords.jp/)の店主、土田義周さんから提供していただいた2枚が続きます。前回に引き続きありがとうございます。

【ケース28 想い出】

 ザ・フォーク・クルセダーズ「何のために/花のかおりに」

 思い出のレコードをチエコさんにプレゼントするとき、便箋を使ってジャケットを作ってみたせち子さん。

 イラスト入りのメッセージもあった。

  想い出を大切に
  この曲を聞くと想い出しちゃうね
  もう昔の事になっちゃったけど・・・・・・・涙
  なんだか想い出すだけで、涙が、出てきちゃいそう
  おかしかったような、悲しかったような
          南葛寮・・・・・・・・だったね

 イラストで、肝試しをしたときの様子なども描かれている。

 想い出は時とともに風化し、レコード店に持ち込まれる。

 想い出を大切に・・・・・・・・だったね。

【ケース29 常連】

 エルヴィス・プレスリー「フレイミング・スター」

 プレスリーはもはや汚レコードの常連。

 今回はジャケットの裏への寄せ書き。

 プレスリー好きな「ネズミ」さんの誕生日にレコードをプレゼントするとき、友人たちが7ヶ所に適当なコメントを書き加えたみたい。

 1曲目の邦題「燃える平原児」にも噛み付きます。

 職業は「さかな屋のあんちゃん」です。

 7. 20. オメデトウ 注意一秒 ケガ一生 プレスリーへ!

 「心臓マヒには気をつけて」(「汚レコ その1」【ケース7】参照)っていう予言でしょうか。

 次に名古屋市の森本俊之さんから初めて投稿していただきました。ありがとうございます。

【ケース30 ありがた迷惑】

 カシオペア「サン」

 和美さんありがとう


 好きなレコードに、ポスターカラーのような絵の具と絵筆、あるいはポスカのようなでペンでメッセージを描いた。

 うまい。汚レコにうまいもへったくれもないが。

 森本さんは
 「既に1枚持っているのですが、一瞬ジャケ違い?と見紛ってしまったレタリングの見事さに、思わず購入してしまいました。

 おそらく、というか確実に和美さんへのプレゼントとして作成されたと思われ、当初は和美さんへの感謝のほどが伺える力作と感じ入っていたのですが、帰宅後確認したところ下書き跡が一切見当たらず、もしかして作者はこの手の細工はお手の物、という手練だったのかもしれません。

 しかしいずれにせよ、カシオペアに勘亭流ってのは如何なものかと」

 さらに、次のコメントが明日への脱力というか、希望をつなぎます。

 「汚レコのストックはまだ多少ありますので、後日投稿させていただきます。どうぞよろしくお願いしまーす」

 森本さんはこのレコードを静岡県浜松市のハードオフ浜松芳川店で210円で入手。

 感謝されたのはどうやらありがた迷惑だったようで。僕はもちろん感謝してますよ!

 次は、いま最もアツいバンド「前園直樹グループ」のボーカル&ギター担当であり、「レコード手帖。」執筆者でもあり、汚レコのよき理解者でもあり、「LOVE SHOP」(http://loveshop-record.com/)店主でもある前園直樹さんから投稿していただきました。長すぎ。

 ともかく、ありがとうございます。

【ケース31 バツグン】

 ザ・ワイルド・ワンズ「若草萌える頃」

 1966年に加山雄三がバンド名を考え、デビュー。このレコードは1970年4月に発売された彼らの13枚目のシングル。

 端に赤い油性ペンで「バツグン」と書き入れるなんて。それほど良いんだね。

 紙スリーヴに

 第二期、黄金時代をめざして
 快心の作

 と黒ペンで書き入れている。

 レコードを聴いた汚レコ人の興奮が伝わってくるようだ。

 ところが、「黄金時代をめざし」たにもかかわらず、1971年に解散していて、汚レコ人の期待は見事に外れたのだった。

 しかし、1981年に再結成し、2008年9月には加山雄三とともに2枚組CD「湘南海物語 オヤジ達の伝説」を出し、いまだ現役だ。

 果たして黄金時代は訪れたのか。

 前園さんは

 「大切なのは、黄金時代が訪れたかどうか、ではない。目指したかどうか、である――すみません、最近、バンドを始めたもので、つい感情的になってしまいました。

 それにしても、1970年といえばGSブームも完全に下火。それに伴いグループ自体の人気も年々堕ちていたという状況下、復活の道を諦め切れず、時代への挑戦/グループとの共闘をここに宣誓。

 白盤と想いを鞄に詰め、特約店や放送局へ意気揚揚と向かった東芝音工、或いは渡辺プロダクションの営業スタッフが(少なくとも)1人はいた、という、このささやかな史実に最敬礼。

 ああ、これだけ妄想できた僕は幸せ、汚レコのお陰でお腹の中まで真っ黒。」

 とコメント。

 「東京都東村山市・ワイワイ市場」にて、騒がず真顔で購入したそうです。「ここの価格設定はバツグン」とのこと。

 続きまして、汚レコの常連(名誉なのか?不名誉なのか?)の「レコード手帖。」執筆者、松野肇さん(東武東上線在住)からの3枚。ありがたいです。

【ケース32 セカチュー】

 欧陽菲菲「ラブ・イズ・オーバー」

 松野さんから次のコメントです。

 「ポリドール伝統のスリーヴである世界地図。
 そのど真ん中で「ラブ イズ オーヴァー!!」と叫ぶ、この心意気に拍手です。

 世界の中心で愛が終わる。

 出来すぎた一枚だと思います」

 松野さんは2008年8月、「高円寺55レコード」にて10円で購入。

 おそらくジャケットがなくなって、中身が分かりやすいようにタイトルを油性マジックで書き入れたのだろう。

 ところが、肝心のレコードはヒート・ダメージを受けてグニャグニャ。とても聴ける状態じゃなかったらしい。

【ケース33 ブラザーズ】

 Chet Atkins/Guitar Country

 裏返すと・・・。

 チェット・アトキンスのサインが青いペンで書かれている。

 前回に引き続き、有名人のサイン・シリーズなのでしょうか?

 と思いきや、左下に俳優・長門裕之さんの印が二つも押してあるじゃないですか。

 松野さんは

 「噂によると、最近、長門さんの私物が多数売りに出されているとのこと。なんでも、古いラテンのレコードが好きで、かなりのコレクターなのだそうです。

 レコード屋さんの間では有名な話らしい。

 さらに俳優のレコード・コレクターで思い出すのは、津川雅彦さん。

 彼の私物も多数出回っているそうです」とコメント。

 2008年8月 ココナッツディスク 池袋店にて購入。

 兄・長門は南田洋子、弟・津川は朝丘雪路。

 ヨメは手放さないようで。

【ケース34 有名人】

 松平晃「トランペット25周年リサイタル」

 裏返すと・・・。

 矢野宣さんへ

  1981. 12. 5
   働く人々の
    花咲く
     文化を!
   松平晃

 おおっ!「矢野宣」といえば、松本清張原作の映画「けものみち」やテレビ「水戸黄門」「大岡越前」に出ていた俳優ではないか?

 コレじゃまるで、有名人のレコード放出シリーズだ。

 松野さんは

 「働くトランペッターとして知られる松平晃さん。

 昨年の『阪神淡路大震災 被災者追悼コンサート』で披露した哀愁たっぷりのブロウを記憶している方も多いでしょう。

 神戸の夜景が滲んだ瞬間でしたね。

 プロになるのを頑なに拒み、「働くトランペッター」として確固たる立ち位置を示している松平さん。

 メーデーや労音コンサートでは、古くから重宝されてきた人です。
 このレコードは、松平さんのキャリアを語る上で、外せない重要な一枚。

 この書き込みを見ると、本人にとっても想い出深いレコードであることが窺えます。

 これぞ美しく汚れた一枚、と言えるでしょう」

 と解説。

 なんて詳しいんだぁ〜。

 2007年2月に埼玉県川越市の「サウンドミリオン」で購入したそうです。

 今回はこれでおしまい。

 「前回より面白くないんじゃないの?」と思ったそこのアナタ!

 それは気のせいです!前回が面白すぎたのです。比較しちゃダメ。

 僕は

 井地でも、井地でも(宮史郎「女のみち」)

 井地でも、井地でも(宮史郎「沖縄のひと」)
 続けようと思ってますよ。ええ、誰がなんと言おうとも。

 「汚レコ」がブームになるか否かは、あなたのアツくてクールなボランティア精神(投稿)にかかっている!

 秋の夜長、首を長くしてお待ちしております。

 さあ、みなさんも暇を持て余しているなら、リサイクル店へ突っ走れ!

 投稿は写真にコメントを添えて、kojima-y2@asahi.comへメールでどうぞ。

 久保田さんも、インドの汚レコをぜひ(笑)。

あなたの知らない「汚レコード」の世界 その3/小島泰生(2008年10月26日)