史料からヤマザクラの満開日を読み取り、平安時代の気温を探る――。大阪府立大生命環境科学研究科の青野靖之准教授(農業気象学)はこんな手法で、過去約1200年間の京都の3月平均気温の移り変わりを推定した。ヤマザクラについて記された文書は京都に古くから残っており、春を喜ぶ日本人の心が現代の研究に役立った。最近200年間で気温が約3度上昇するなど、地球温暖化の影響も見て取れる。
青野准教授は92年ごろ、ヤマザクラの満開日が3月の気温の変化から予測できることを応用し、逆に開花から気温を推定することを思いついた。記録が残る過去の気温などをもとに統計的に割り出すと、満開が4月1日なら3月の平均気温は9.9度。同様に10日なら7.4度、20日なら4.3度になるという。
満開日に関する古いデータは、天皇や僧侶らが書き残した日記など100点以上の史料を探し出し、花見や観桜会、満開の花が贈られたことなどに関する記述を調べて集めた。
その結果、13世紀ごろまでは太陽の活動が活発だったことなどから7度を超える温暖な年が多く、17〜19世紀は安定的に気温が低かった。近年は約200年前に比べると3度以上も上昇しており、そのうち約1度分は温暖化の影響とみられるという。
気候変動を復元する研究は樹木の年輪などを使ったものもあるが、ヤマザクラの満開日は3月の気温によってほぼ決まる特性があるため、精度が高いという。1881年以降については気象庁の統計ともほぼ一致している。
研究成果は英国王立気象学会の論文誌に掲載されるなどして注目されている。青野准教授は「研究成果を将来の環境の予測など様々な分野で役立ててほしい」と話す。