きょうの社説 2009年4月15日

◎コマツ小松工場閉鎖 和田市政の船出に重い宿題
 コマツの「企業城下町」に激震が走った。小松駅前の一等地にあり、四百七十人の従業 員を抱える小松工場の閉鎖である。小松工場で生産している大型プレス機械などは金沢工場に集約され、人員削減はしないというから、石川県全体の影響は少ないかもしれないが、創業の地の小松にとっては衝撃だろう。

 折しも閉鎖の発表は、同社出身の和田慎司市長が初登庁で、企業誘致への意気込みを示 した翌日だった。和田市政は、小松工場閉鎖という重い宿題を背負っての船出を余儀なくされる。

 世界的な経済危機で、建設機械の市況は著しく悪化している。自動車産業を主な顧客と している産業機械は、その建設機械以上に業況が厳しく、金沢、小松工場で生産する自動車向け大型プレス機械の受注は今年二月の段階で、完全にストップしていた。

 大型プレス機械などは、受注から納入までの期間が一年以上と長いこともあり、このま までは二〇〇九年度後半から生産面で大きな影響が出てくるのは確実だった。コマツ首脳陣は来年度後半の生産体制を早急に再構築する必要に迫られ、生産体制の効率化に踏み切ったのだろう。

 そもそも最新設備をそろえ、金沢港に隣接する地の利を有する金沢工場に比べると、小 松工場は敷地の拡張余地に乏しく、輸送コストの面で不利だった。金沢工場への集約はコマツが描いていた長期目標だった可能性が強く、想定外の不況でその時期が早まったとも考えられる。小松市はコマツの企業戦略をどこまで理解し、どんな手を打ってきたのか、胸に手を当てて考える必要もあるのではないか。

 和田市長は、図らずもこの時期に市政の舵取りを任された。選挙中から民間手法を生か した市政刷新を訴え、就任あいさつで本社を訪れた際には、企業誘致などを積極的に行う「営業部」(仮称)の設置構想を披歴した。コマツ出身の市長らしさを出そうとしたのだろうが、企業誘致どころか、いきなり小松市の屋台骨が揺らぐ事態に直面した。真価が問われる厳しい船出だが、「天命」を知り手腕を存分にふるう機会でもある。

◎対北朝鮮声明 米中は提案国の責任を
 北朝鮮のミサイル発射を非難する国連安全保障理事会の議長声明は、日本の主張がほぼ 盛り込まれ、評価できる内容といえる。議長声明は決議と違って拘束力はないとされるが、国連安保理が全会一致で採択した公式文書であり、加盟各国は声明に従う義務があろう。とりわけ安保理協議を主導した米国と中国は、議長声明の提案国としての責任を果たしてもらいたい。

 次の課題は、対北朝鮮制裁を取り扱う安保理の制裁委員会を機能させることである。議 長声明は、北朝鮮の核実験に対する安保理決議一七一八の制裁履行を加盟国に要請し、制裁委員会には核・ミサイル開発に関連する団体・個人の資産凍結リストの作成などを求めている。が、対北朝鮮制裁委員会は決議一七一八採択後に設置されながら、各国の思惑の違いで現在は活動しておらず、有名無実化しているのが実情である。

 制裁委員会の活動再開の最大の鍵を握るのは中国である。中国は今回の議長声明を評価 する一方、六カ国協議の議長国として「冷静さと自制」を強調し、既定の制裁措置の徹底で実質的な制裁強化を狙う日米をけん制している。

 日本や米国がこれまで経済制裁を課しても、主要貿易国の中国と前政権時代の韓国が北 朝鮮の後ろ盾となってきたため、制裁の効果が十分に上がらなかった。現在の中朝関係は「経熱政冷」ともいわれ、北朝鮮に対する中国の政治・外交的影響力は限られているが、経済的な影響力は大きい。

 北朝鮮は議長声明に対して「六カ国協議は必要なくなった」と反発し、緊張をエスカレ ートさせる構えを見せている。しかし、ここは声明に基づいて国際社会が厳しく対処すべき局面である。中国やロシアが従来通り制裁に消極的であれば、議長声明は単なる記録にとどまる恐れがある。

 議長声明に実効性を持たせられるかどうか、オバマ米政権にとって対北朝鮮外交の真価 が試されるのはこれからである。日本政府は引き続き米韓両国などと協力し、安保理制裁委員会を動かす外交努力を強める必要がある。