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社説:貸金業規制 金利下げを遅らせるな

 改正貸金業法の完全施行先送り論が、貸金業界や政界などで台頭している。名目は、民間金融機関による中堅・中小企業などに対する貸し渋りへの対応や、審査の厳格化などで借りにくくなっている個人への配慮とされている。金利規制自体に問題があるとの議論も一部にはある。

 出資法の上限金利引き下げによる灰色金利撤廃や、罰則強化など貸金業規制強化は、多重債務者の救済のみならず、貸金業の正常化も狙いである。このうち、年29・2%の上限金利を利息制限法に合わせ、年20~15%にすることや、1人が借りられる上限を年収の3分の1にすることは、今年12月にも施行することで、与野党が合意していた。

 この段階での金利引き下げなどの先送りは筋違いも甚だしい。生活が苦しい人に高金利で金を貸すビジネスが好ましいはずはない。また、貸金業規制は業界の正常化の観点からみて、まだ十分とは言えないものの、望ましい効果をもたらしていることは間違いない。

 消費者向け無担保貸金業の貸出金利は低下しており、大手では年20%を切っている。金利引き下げ施行前から、効果は表れている。貸金業法に基づき設立された日本貸金業協会は自主規制団体として、無許可業者の監視などを行っている。

 多重債務問題に着目しても、5社以上から借りている人は、全国信用情報センター連合会のまとめによると、07年2月の176万人が09年2月には74万人に減少している。1人当たりの借入残高も減少している。

 この間、大手業者を中心に、借入申込時の成約率が低下しており、同協会の調査によると06年9月期の42%が、08年3月期には26%となっている。また、同調査によると、借り入れ目的の第1位は生活費補てん、第2位は借入金返済である。金利が低下しているとはいえ、年20%近い借り入れで生活を維持しながら返済していくことは容易でない。借りやすいことが良いこととはいえないのが、貸金業問題だったはずだ。

 多重債務や延滞を招かないためには、貸出時や中途での助言や相談は重要だが、決め手ではない。金利規制や借り入れの総量規制は必要不可欠だ。貸金業者から借りられない人がヤミ金融業者に駆け込み、被害が拡大するとの指摘もある。ヤミ金融業者は警察と行政が連携し、厳しく取り締まるべきで、金融規制とは別に考えることだ。

 生活状況が厳しい人や零細企業への貸し出しを商業的に行うことにはもともと問題が多い。制度金融などの役割が大だ。中小・零細企業向けでは地域金融機関が存在感を示す必要がある。

毎日新聞 2009年4月15日 東京朝刊

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