北朝鮮外務省がまるで脅迫状のような声明を発表した。「人工衛星打ち上げ」と主張する弾道ミサイル発射を国連安全保障理事会の議長声明で非難され、これに逆襲した形だ。
声明が、北朝鮮の核問題を扱う6カ国協議に「二度と、絶対に参加しない」と強調表現を重ねて断言したこと自体は驚くにあたらない。発射前から、この問題を安保理で扱えば「6カ国協議の破綻(はたん)を意味する」と公言していたからだ。
それにしても特に日本を名指しした批判が激しい。同協議不参加の理由として「日本が今回の衛星打ち上げに言いがかりをつけて」この協議の存在意義を失わせた、などと主張している。日本に責任転嫁し、他の協議参加国との間に亀裂を生じさせようという意図が透けて見える。
これを含めて、声明の内容はいかにも北朝鮮らしい瀬戸際外交の典型そのものだ。特に日米韓3国は北朝鮮の揺さぶりに動じることなく、一致団結して確実な対処を進めることが何より肝要である。
やや懸念されるのは、米オバマ政権の対北朝鮮政策が、その戦略にせよスタッフの陣容にせよ、しっかり固まっていないことだ。北朝鮮が6カ国協議を拒否しながら、米朝直接交渉を望むのは目に見えている。米国は速やかに態勢を整え、中国とも緊密に協力して北朝鮮を6カ国協議へと導く工夫をしてほしい。
声明には、一見穏やかな表現を用いた脅しともとれる部分がいくつもある。「自主的な宇宙利用の権利を引き続き行使していく」とは、人工衛星打ち上げを装った長距離弾道ミサイルの発射実験を重ねる構えを示唆したものと読める。「自衛的核抑止力の強化」や「使用済み燃料棒の再処理」に言及した部分は、6カ国協議の合意に従って進んできた寧辺(ニョンビョン)の核関連施設の無能力化措置を逆戻りさせ、おそらく原爆数個分にあたるプルトニウムを新たに確保する狙い、と解釈せねばなるまい。
もちろん、これらは直ちに実現できることではない。だが北朝鮮は放射能に対する作業員の安全を軽視してでも核施設の再稼働を急ぎかねない。しかも数十年にわたる核開発、ミサイル開発の歴史を見れば、最終的に核兵器を搭載できるミサイルの保有により自らの安全を確保しようと願っている可能性を否定できない。そんなことになれば大変だ。
北朝鮮も破局は望んでいまい。声明の末尾にある「非核化のプロセスが破綻しても朝鮮半島の平和と安全は守る」という言葉が、そのシグナルであろう。甘い妥協を排しつつ交渉を通じて問題解決への道を探ることは可能なはずである。関係国の粘り強い努力に期待する。
毎日新聞 2009年4月15日 東京朝刊