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痴漢事件で防衛医大教授に逆転無罪 最高裁が判決

2009年4月14日19時7分

写真:無罪判決を受けての会見後、逮捕当時の様子を記者に説明する名倉正博さん=14日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ、越田省吾撮影無罪判決を受けての会見後、逮捕当時の様子を記者に説明する名倉正博さん=14日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ、越田省吾撮影

 電車内で女子高校生に痴漢をしたとして強制わいせつ罪に問われた名倉正博・防衛医大教授(63)=休職中=の上告審判決で、最高裁第三小法廷(田原睦夫裁判長)は14日、懲役1年10カ月の実刑とした一、二審判決を破棄し、無罪を言い渡した。一、二審の判断は「必要な慎重さを欠いていた」と指摘し、結論を覆した。最高裁が事実誤認を理由に自ら無罪を言い渡すのは異例。5人の裁判官が審理し、3対2の小差だった。

 判決は、満員電車内の痴漢事件について、客観的な証拠が得にくい一方、犯人と特定されると被告には有効な反論が難しいという特徴を指摘し、「特に慎重な判断が求められる」と述べた。最高裁がこう言及したことで、被害者の供述しか証拠がないような場合に起訴するかどうかや、限られた証拠に基づく検察官の立証をどう認定するかなど、捜査や裁判の実務に与える影響は大きいとみられる。警察にとっても、繊維片や体液の採取など科学的な証拠の収集をこれまで以上に求められることになりそうだ。

 検察側は、名倉教授が06年4月18日朝、東京都世田谷区内の小田急線で女子高校生(当時17)の下着に手を入れて下半身を触ったとして起訴した。目撃証言などはなく、証拠は女子高校生の「被害を受けた」という供述だけだった。名倉教授は一貫して無罪を主張したが、一審・東京地裁、二審・東京高裁はいずれも女子高校生の供述の信用性を認めて有罪とした。

 第三小法廷は、名倉教授にこうした犯行をするような性向が認められないと指摘した。そのうえで(1)女子高校生は痴漢の被害が始まってから一度電車を降りたにもかかわらず、再び同じ車両に乗って教授の隣に立った(2)痴漢行為が執拗(しつ・よう)なのに車内で積極的に避けていない――などと、女子高校生の痴漢被害に関する供述には疑いがあると判断。「名倉教授が犯行を行ったと断定するには、なお合理的な疑いが残る」と結論づけた。すでに検察官による立証が尽くされていると認め、審理を差し戻さずに無罪と判断した。

 無罪の結論は藤田宙靖、那須弘平、近藤崇晴の3裁判官による多数意見。一方、田原裁判長と堀籠幸男裁判官は「女子高校生の供述には信用性が認められる」として、それぞれ反対意見を述べた。

 弁護団によると、痴漢事件では98年以降、各地の下級審で30件以上の無罪判決が出たが、最高裁が無罪の判決を言い渡したのは初めて。(中井大助)

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