海の向こうの米国で起きていたミステリーが、日本にも波及したのだろうか。農林水産省は、農作物の受粉を仲介するミツバチが二十一都県で不足しているとの緊急調査結果を発表した。
米国ではここ十年ほど、ミツバチの「謎の大量失踪(しっそう)」が問題になっている。日本でも同様の現象が見られ始めたのは昨年ごろからだ。
農水省が今月、全都道府県を対象に調べた結果、ミツバチ不足の地域と影響がある主な作物は、岡山や香川のイチゴ、山形のサクランボ、宮崎のスイカなど全国に広がっていることが確認された。
各地の名産品にハチが深くかかわっていることに、あらためて驚く。農水省は「今すぐ影響が出ることはない」と冷静な対応を呼びかけている。だが、原因は未知のウイルスや農薬の副作用などが挙げられるものの、依然、不明だ。
分子生物学者の福岡伸一さんは、米国を例にとり、特別な品種だけを選抜して均一化したハチを、便利な農具として現代農業に組み込んだことが問題を招いたとみる(三月五日付本紙「視点」)。つまり効率性の追求を最大の価値とする発想は、人間を含む環境と生命現象の対極にあるものだからだ。
異なるもの、多様なものが全体のバランスをとる自然界の仕組み。それは私たち現代社会への警告でもあろう。