経済危機にアジアの果たす役割を話し合う予定だったタイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会議が、デモ隊の乱入で中止に追い込まれた。異常事態であり、議長国タイの国際的信頼は大きく損なわれた。
会議はタイ中部のリゾート地パタヤで開かれていたが、アピシット政権退陣を求めるタクシン元首相派のデモ隊が会議の主会場に乱入した。タイ政府は、麻生太郎首相らが出席を予定していたASEANプラス3(日中韓)首脳会議や、インド、オーストラリアなどを加えた東アジアサミットなど一連の会議を中止し、二、三カ月後に延期すると発表した。麻生首相は予定を繰り上げて帰国せざるを得なかった。
ASEAN関連の首脳会議は、台風接近を理由にフィリピン政府が延期したことがあるものの、デモでの中止は前代未聞だ。東アジアサミットなどは、首都空港占拠などの政情混乱で昨年十二月から延期され、度重なる失態である。
タイは、金融危機対策のため今月初めにロンドンで開かれた二十カ国・地域(G20)首脳会議にASEAN議長国として招かれ、主要国首脳と肩を並べて発言した。世界経済に対する影響力が認められたからだ。
今回のタイでの会議は、ロンドンでの金融サミットを受け、各国が協調した財政出動を行うほか、保護貿易主義への反対、地域経済統合の推進などで合意するはずだった。力強いメッセージを発信できなかったことは、景気回復のけん引役としてのアジアに対する国際社会の期待を裏切ったといえよう。
麻生首相が東アジアサミットで予定していた、アジア成長戦略構想の表明ができなかったことも残念だ。首相は「日本は『国境を越えて、アジア全体で成長する』という視点に立つことが大切だ」として、アジア各国のインフラ整備に協力し二〇二〇年までにアジア全体の経済規模を倍増させる目標を掲げる。
日本経済を立て直すには、世界の成長センターといわれたアジアとの連携を強化して発展を支えていく重要性は理解できる。政府は、粘り強く各国の理解と支持を得られる努力を続けていく必要がある。
タイの政局が安定するかどうかは見通せない。延期されたASEAN関連会議の開催が難しいようでは、タイだけでなくアジア全体の不況脱出も厳しくなりかねない。タイ政府は、国際的な使命についてしっかり認識してもらいたい。
朝日新聞阪神支局(兵庫県西宮市)が襲撃されて記者二人が死傷した事件などをめぐり、週刊新潮に掲載された実行犯を名乗る男性の「告白手記」の信ぴょう性が揺らいでいる。男性が証言内容を否定するような発言をしているもので、新潮側は近く誌面で掲載に至った経緯について説明するという。
二月五日号から四回連載された手記には、阪神支局襲撃は在日米国大使館の元職員から依頼されたとし、銃を撃った後に机の上にあった緑色の手帳を持ち帰ったなどと状況や背景を記している。これに対し、朝日新聞は客観的事実と異なる点が多いとして「虚報」と批判、十一項目の疑問点を示し訂正と謝罪を求めてきたが、新潮側との主張は平行線のままだ。
今回、新潮側が経緯の説明に転じたのは、他の週刊誌に男性が「自分は実行犯ではない」などと発言した記事が掲載されたためである。朝日新聞が指摘する手帳の存在の有無や、元大使館職員と新潮側の和解の真相などに加え、手記への疑問は膨らむばかりだ。新潮側は「不可解な発言」と反論しているというが、証言の裏付けをどこまで行い、掲載に踏み切った根拠は何だったのか。明確な説明を求めたい。
言論の自由は民主主義の根幹であり、テロなど暴力による封じ込めは断じて許されない。一連の襲撃事件の真相を探り報道しようとする姿勢は大切だ。しかし、あくまでも真実に基づくものでなければ意味はない。
先には虚偽証言をうのみにして放映した日本テレビの報道番組が問題となった。ずさんな取材は、報道の信頼性を自ら失墜させる由々しき事態を招く。その重さを報道に携わる者すべてが、あらためて肝に銘じなければならない。
(2009年4月14日掲載)