九州「独立」論:東国原英夫(宮崎県知事)、江口克彦(民間シンクタンク・PHP総合研究所社長)(2)

Voice2009年4月13日(月)18:00
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地方の「細切れ」は活力を殺ぐ


江口 これまで述べたように、現在の日本は47都道府県という制度によって、地域が「細切れ」にされ、各地の活力が失われています。そこには37万平方キロメートルの国土を細分化して自治力を弱め、官僚の意のままに操りやすくするという狙いが透けて見えます。

都道府県を47という数に分けた根拠は、人間が馬に乗って1日で移動する距離から算出したのではないか、というエピソードが残っているほどで、今日まで絶対的といえるような区分ではありません。モータリゼーションの進展と鉄道網、航空網が発達した現代において、47都道府県での細切れの行政はいかにも効率が悪い。経済、教育、医療、福祉などあらゆる面で支障を来しています。

東国原 そのような支障をなくすための議論として、「国と基礎自治体の二層制にすべき」というものがあります。民主党の小沢一郎代表は、全国を300の基礎自治体に分割する案を15年ほど前から提唱されています。「二層制」が実現すると、現在の政令指定都市を残したまま、人口30万人ほどの区割り、つまり衆院の小選挙区の区割りになります。宮崎県の場合、県北、県央、県南に分かれることになる。

しかし、はたしてそのような区分ですんなりと基礎自治体がまとまるだろうか、という疑問を感じます。それぞれの地域には歴史的な背景がいろいろありますし……。人が多すぎると議会の運営が難しいという問題は生じますが、自治体の区割りの視点でいえば、道州制のほうがベターという気がします。

江口 私は、「霞が関と基礎自治体の二層制」という発想には大きな問題があると考えています。そもそも、民主党が出した基礎自治体の300という数字はどこから来たかというと、小選挙区の数からなんです。これでは旧来の発想を変えることにならない。さらに問題なのは、「二層制案」の下敷きになっているのが、江戸時代の幕藩体制だということです。

幕藩体制というのは、徳川幕府が全国各藩の「弱体化」を意図してつくり上げたものです。その証拠に、徳川260年の治世のあいだに、全国で248もの大名家が消えています。幕府は外様の藩に隠密を放ち、藩の粗探しをしては取り潰しにする、という恐怖政治を敷きました。その幕藩体制を下敷きにして地域の独立を考える民主党の発想が、私には理解できません。幕藩体制に対する歴史的考察も思想もなく、安易に「国のかたち」を提示するのは、無責任といわざるをえない。

もう1点、300それぞれの自治体が道路や空港を求めれば、どのような事態を招くか。自治体の数だけ無駄が増えることになります。小沢代表が真剣に将来の日本の在り方を考えるなら、「二層制案」は放棄せざるをえないのではないでしょうか。

最大の問題は官僚による中央集権体制であって、「二層制」はそれを打破する起爆剤とはなりえません。小さな権限は移譲されるかもしれませんが、根本的な上下関係は変わらず、国と基礎自治体のあいだに存在していた都道府県というバッファー(緩衝)が失われることによって、むしろ現在よりも官僚支配が強まる恐れがあります。

東国原 一方で、道州制の仕組みは国と道州、基礎自治体なので、いわば「三層制」ですね。

江口 われわれは官僚支配に対して「維新」を試みているのですから、徳川幕府の幕藩体制に倣って地域の弱体化を温存するのはナンセンスです。官僚が主導する中央集権体制の「倒幕」を成し遂げるには、道州制を推し進める以外にありません。

東国原 よく「道州制が実現したら、たとえば九州なら、福岡のような活気のある地域に人、モノ、お金が集中してしまい、州内格差が生まれるのではないか」という意見が聞かれます。これは話が逆で、官僚主導の中央集権体制が続いたからこそ、現在のような都道府県間の格差が生まれたのです。道州制は、たとえば、循環型の高速交通ネットワークをつくるなど、九州が一体的に発展していくためのもので、格差をなくすために、地方分散しましょう、多元化しましょうという話なのです。

江口 また「道州制で区割りを変えると、都道府県の歴史・伝統が損なわれる」という意見も出ています。しかし道州の区分については、歴史や伝統、気候、風土、地形、さらに経済力、民意を勘案して区割りを考える作業を進めればよいので、地域の歴史や伝統が失われるということはないでしょう。現に、徳川幕府から明治政府に移行する際、全国の藩がなくなったことで、地域の習慣や伝統、祭礼が消えたかといえば、そんなことはない。博多の山笠も、京都の祇園祭も、依然として続いています。

東国原 私も、九州が一体になったとしても、宮崎の伝統と文化、スピリット(精神)は凜として残ると考えています。行政区分としての宮崎県は消失しますが、宮崎や日向という地名が消えることはありません。行政区と地域の歴史、スピリットは別物で、それらが地域の人々の心に残っていることが重要です。

さらに歴史や伝統の継承と並行して、国と地方の役割分担を変えることが大事です。国は防衛や通貨、外交など国家戦略的な仕事に特化して、地域ができることは地域に任せる。国会議員も半分で構いません。全国に約33万人いる国家公務員(一般職・非現業)も、優秀な方を20万人ほど各地にお迎えする。中央だけが豊かになり、地域が吸い上げられて衰退するという一元的な流れを「多元化」しなければいけない。

江口 道州制ビジョン懇談会でも、国の役割を限定することを第一に考えています。皇室、外交、国際協調、国家安全保障、治安、通貨の発行、金利、通商政策、資源エネルギー政策、移民政策、大規模災害対策、最低限の生活保障、国家的プロジェクト、司法、民法、商法、刑法等の基本法に関する法律や、市場競争の確保、財産権の保障、国政選挙、国の財政、統計記録という仕事に国の役割を限定し、それ以外は道州に移管するというものです。

地域に密着した消防や救急、高齢者福祉や保育所などの行政は基礎自治体が担うのがいちばんよい。さらに広域的な仕事は道州が行なう、というかたちで役割を分担し、国家の仕事と道州の仕事、基礎自治体の仕事を明確にすれば、やるべき事が見え、新しい発想が生まれてきます。東国原知事のような、優れたアイデアマンの州知事も多く輩出するのではないでしょうか。

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