九州「独立」論:東国原英夫(宮崎県知事)、江口克彦(民間シンクタンク・PHP総合研究所社長)(3)

Voice2009年4月13日(月)18:00
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「オール九州」から生まれるアイデア


東国原 九州というレベルで考えれば、「九州中心の行政」はけっして無理な話ではありません。九州は歴史的、民族的に見て、1つにまとまりやすい地域です。

江口 かつて7世紀、律令制の時代に、九州は西海道という1つの行政単位でした。その後、戦国時代から九州が分散し、現在は7つに分かれていますが、本を辿れば1つのルーツ、DNAがあります。

東国原 住民にとっても、鉄道会社や電力会社は「JR九州」や「九州電力」という名称で、「九州」というイメージに馴染みがあります。たとえば宮崎県の人が東京で出身地を聞かれて「宮崎です」と答えると、一昔前は宮城県と間違われてましたが(笑)、「九州の宮崎ですよ」というと、「ああ、九州からお越しですか」といって話が通じる。

江口 「九州」として自立するためのポイントはいくつかありますが、課税権の問題はとくに重要です。現在、道州制ビジョン懇談会で議論されているのは、自主課税権と税率決定権、徴税権を道州に移し、代わりに交付金、補助金制度を全面廃止するというものです。道州の人々が税の使い道を考え、自立できる経済基盤を構築しなければいけない。

東国原 もちろん、道州間の財政力格差の水平的調整制度は考えられなければなりませんが、税源の移譲を通じて、住民に自治体行政への関心をもっていただくのは、地域にとって幸せなことです。行政にとって最大の敵は「無関心」です。地域に住む人々がタックスペイヤーとしての義務を果たし、その代わりに医療や福祉、教育などについて、税金が有効な目的に使われるよう行政に求めていく。この関係がベストでしょう。

江口 現在、日本の法人税率は39.54%で、世界一高い水準です。そこで「九州は法人税を25%にします」と宣言すれば、国内のみならず、世界中から企業と投資が集まります。「法人税を下げたら税収が減ってしまう」という意見もありますが、多くの企業が集まるようになれば、収支はプラスに転換するでしょう。相続税も「わが州はゼロにする」というところがあれば、全国の富裕層がその土地に家やマンションを買い、移り住むようになる。州単位で考えれば、自立のアイデアは無数に出てきます。

東国原 おっしゃった課税権に加えて、私は行政権、さらには立法権も地域に委ねるべきだと考えています。条例の「上書き権」を地域に与えるという議論もありますが、私の理想は立法権の移譲です。究極の目標は「完全自治体」で、いわば九州独立です。

江口 ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカならぬ、各地域が独立した「ユナイテッド・ステーツ・オブ・ジャパン」の姿を考えると、語順として「ステーツ(州)」が先にあり、その先に「ジャパン(国)」があるという点が重要だと思います。つまり各州の豊富なアイデアと活発な議論、実践があって初めて日本が元気になるということです。

東国原 たとえばヨーロッパには、EU(欧州連合)という枠組みがありますね。一般には経済の共同体だと思われていますが、私はあれこそ地方分権の最たるものと思っているんです。

EU内の、自立し、特性や比較優位を生かした活動があり、それが総体としてヨーロッパ全体を活性化している。アジアでも同じ構想が成り立つ可能性があり、その場合、アジアと地理的に近い九州は、大きな役割を担うことができると思います。

江口 道州制が実現すれば、九州がアジア各国と独自にFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を結ぶことも可能でしょう。県のレベルでシンガポールやインドネシアと対等に協定を結ぶのは難しいけれども、「オール九州」であれば考えられます。

さらに、韓国の仁川空港のような巨大なハブ空港をつくり、九州と日本各地を1時間で結ぶ放射状の航空路線を引けば、アジア1のハブ空港に成長するかもしれない。観光という点でも、オール九州で考えれば、発想がもっと広がります。島原・熊本間の有明海に橋を架け、九州を気軽に一周できるインフラ整備に取り組むことで、「ビジット九州」「アラウンド九州」というアピールができるようになります。

大分の観光客が宮崎を訪れ、宮崎の観光客が福岡に向かうという流れが生まれれば、現在のように、福岡県だけが経済的にリードするという状況から、他の地域にも富が還流するようになるはずです。海外からも多くの観光客が訪れ、人、モノ、お金の面で九州全土の繁栄につながります。

ところが現在は、この流れが県境で堰き止められている。たとえば観光で九州を一周しようとしても、効率的に回るルートがない。四国も同様で、お遍路さん巡りは4県にまたがっていて、現状では88カ所行くのが大変です。こうした例がいくつもあって、早急に広域行政の仕組みを整備すべきでしょう。

日本も「CHANGE」の時だ

東国原 それにしても、このようなダイナミックな話をしていると、何か元気が出てきませんか? 九州全体で見るならば、1332万人もの人口、45兆円規模(世界17位)のGDPという大きなパワーが眠っています。この力を活用し、課税と住民サービスのバランスを考えながら、州の一体的発展をめざすときです。

江口 九州というのは温泉が多く、風光明媚で空気もよい。マンゴーのような特産品も豊富で、オール九州という視点で見れば、たいへん有望です。そのなかで各地域が役割分担を考えて、鹿児島は観光、福岡は経済という独自性を打ち出すことが大切でしょう。

私は、「州都に選ばれたい」という発想は愚の骨頂だと考えています。州都争いよりも重要なのは「拠点の多様化」です。たとえばカリフォルニアの州都はサクラメントですが、知っている人はほとんどいません。一方で、サンフランシスコ、ロサンゼルスといった街が個性を発揮し、世界中に認知されています。

大事なのは歴史や伝統、気候風土などの持ち味を生かすことで、たとえば宮崎でいえば「シニアの街」という特徴があってもよい。気候温暖なカリフォルニアでは、高齢者用の「リタイアメント・シティ」がつくられ、人々を集めています。宮崎もお年寄りが住みよい街をつくれば、お金をもった老夫婦が来るようになるでしょう。地域が高齢化して活気がなくなるという意見がありますが、そうはならない。シニアビジネスに関わる若者が増え、娘や息子、孫が訪れるわけですから。

東国原 私が宮崎を「太陽と緑の国」と名付けて太陽光発電に力を入れているのも、全国有数の日照率という「強み」があるからです。21世紀の激動の世界を生き抜くには、地域の資源をフル活用しなければならない。さらに伝統を守りつつ、人を育むことです。そのためには新しい仕組みが求められます。

江口 私は、東国原知事のご活躍を見ながら「もったいない」と思うことがあるんです。知事ほどの力量があれば、宮崎県だけでなく、九州の州知事として行政をなさったほうが、生き生きと仕事ができるのではないでしょうか。九州全体の発展を考えることが、ひいては宮崎の発展につながる。県という狭い範囲で考えていると、ビジョンが描きにくい時代になっています。

東国原 現在の都道府県行政は、法的にも制度的にもがんじがらめになっており、地域からどれほど優秀なリーダーが出たとしても、実力を存分に発揮できません。中央集権体制という仕組みが、知事の力を抑え込む状態にしているのです。

江口 これまで鳥取県の片山善博さん、三重県の北川正恭さん、宮城県の浅野史郎さん、岩手県の増田寛也さんなど数々の「改革派知事」が名を馳せました。しかし、それらの知事がお辞めになったあと、地域はどうなったかといえば、必ずしも発展していない。東国原知事が務められているあいだは宮崎県も改革が進み、宮崎ブランドが全国に認知されていくでしょう。しかし東国原知事の任期後、宮崎県の存在感が再び希薄になるという可能性は否定できません。知事個人の努力や力量に頼るだけではなく、住民から自発的にアイデアが生まれるようにするには、国のかたちを変える道州制が不可欠です。

東国原 われわれはこの国の5年後、10年後、子々孫々の未来を見詰めて議論をしなければいけない。終戦直後のアメリカは、日本を統制支配しやすいかたちとして中央集権体制を残したのでしょう。アメリカ自身が地方分権でありながら、日本に対しては分権を勧めなかったことを考えると、おのずと答えが見えてきます。

オバマ大統領は「CHANGE」と訴えましたが、日本もまた、変わらなければいけない。微力ながら私も、力を尽くしたいと考えております。

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